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『TOKYO決闘記』 第十一話 球舞

  『TOKYO決闘記』

 私、一ノ瀬博成(いちのせひろなり)は立法学園高校新聞委員会のメンバーで高校二年生だ。
 『ツナミ』を操る五人目の保持者、怪盗アルケー。彼女は、『ブランク』の力を使って美術品を盗んでいたのだ。赤城勇騎(あかぎゆうき)とアルケーの対決は、勇騎の勝利に終わり、アルケーは美しい香りを残し去っていった。
 20XX年 一ノ瀬博成

 第十一話 球舞
 『球舞(きゅうぶ)』のリーダー、九重九十九(ここのえつくも)は今から二年前に一度だけメンバー全員に姿を見せている。
 二年前、数十人の男女が違う場所でほぼ同じ時刻にとあるサイトにアクセスをした。黒い背景に青い立方体(キューブ)の中で緑色の球体が舞っているだけの地味なホームページ。そのサイトを発見した者の何人かは導かれるようにその球体をクリックした。
 クリックした直後に画面が変わり、そのサイトでは『球舞』のメンバーになるためのテストが行われた。一時間近いテストが終了した後、選ばれたのは五人だけだった。
 数日後、選ばれた五人の男女はそのホームページの言いつけに従って、とある場所に集まった。東京にあるビルの一室。その中に神父のような服装の大柄な男性、巫女服を着た少女、そして修行僧のような格好の男が立っていた。『球舞』の中でも上位の存在、六道六儀(りくどうりくぎ)七夕初七日(たなばたしょなのか)八百万八卦(やおよろずはっけ)の三人である。
 元々『球舞』だった三人と新たな『球舞』のメンバーである五人が集まった時、目が開けられないくらいの閃光が部屋の中を包み込んだ。その中で、彼らはそこにいないはずの九人目の気配を感じ、彼の声を聞いた。
「ようやく集まった……。僕の名は九重九十九。『球舞』のリーダーだ」
 神のような登場をした九重九十九の存在に五人の男女は驚いた。この場にいる八人の男女にとって、この男は間違いなく神そのものであった。
 九重九十九に強く惹き付けられた五人は、その後、苗字と名前に数字が入る新しい名を与えられ、『球舞』の一員としての活動を開始した。

「ふぅ……」
 博成は、佐倉美和(さくらみわ)を通じて得た『球舞』に関する情報を自分のパソコンに入力した。彼が追い続けている東京連続失踪事件は、核心に近づいていると言ってもいいだろう。
 数日前、勇騎と博成は美和に連れられて三人のデュエリストと出会った。本来ならばデュエリストを狩り保持者と敵対する能力を持つはずの彼らは、自らその力を克服しデュエリストを守り抜く組織『ウイングス』を結成したと言っていた。
 その話の中で登場した保持者と『ウイングス』共通の敵、『球舞』。その『球舞』という組織は、九人のデュエリストで構成された組織だ。
 だが、ただの九人ではない。東京連続失踪事件を引き起こしているデュエリストの中でも現場になかなか現れないようなトップクラスの存在なのだ。
「『球舞』は恐ろしい敵です。ですが、一人一人を相手にするのならば勝てるかもしれません」
 『ウイングス』のリーダーで長髪の青年、羽山英夫(はやまひでお)はそう言っていた。彼は、『球舞』と組織を裏切ったデュエリストを集めて、『球舞』を倒すための特訓をしていると言う。羽山が連れていた他の二人も同じように『ウイングス』のメンバーだ。
「すごい事になってきてるな」
 対立する二つの組織を見て、博成は改めて自分がとんでもない事に首を突っ込んでいると感じた。彼が勇騎と知り合っていなければ、博成はすでに東京連続失踪事件の犠牲者になっていただろう。 目的は不明だが、多くのデュエリストを拉致している組織、『球舞』。そして、『球舞』から生まれたと言ってもいい対抗組織、『ウイングス』。保持者が全員『ウイングス』の味方になるとは限らない。勇騎と対立している保持者、墨川一夜(すみかわかずや)。そして、怪盗アルケー。この二人はどちらにとっても敵となるかもしれない。
「そろそろ、時間かな」
 博成はデータを保存してからパソコンの電源を落とす。
 期末試験が終わったばかりの気持ちがいい日曜日。十二月の太陽に博成は少しうれしくなる。
 勇騎達がこの近くまで来て待っているはずだ。今日は『球舞』対策の簡単な会議を行う予定である。羽山や、他の『ウイングス』のメンバーとのデュエルもできるので、少々不謹慎だが博成はわくわくしていた。いつまでも、こういう気持ちは忘れたくないものだ。

 同日、同時刻、東京駅丸の内口。
 既に待ち合わせ場所に来ていた七夕初七日を見て、一本杉四神(いっぽんすぎしじん)は駆け寄りながら苦い顔をしていた。
「遅刻、って事か」
「そう?まだ待ち合わせの時間じゃないけど?大体、今来ているのあたしだけよ?」
「俺は常に十分前行動を心がけている。集合時間の十分前には目的地に着いていないと気がすまないんだが……くそ、一分三十一秒の遅刻だ」
 苛立ちながら呟く一本杉を見て初七日はため息をつく。
「早く来るのはいいけど、裏切り者の場所は判ったの?」
 口調は変えずに、だが目つきが少々鋭くなる初七日。一本杉も口調は変えずに
「場所くらい余裕だ。他に、今日の奴らのスケジュールも押さえてある」
と、答えた。彼の目にも獲物を追い詰める獣のような険しさが宿った。
「裏切り者達はチームを組んでいる。そして、その中のリーダー格の三人が保持者と接触した」
「保持者と!?」
 初七日は驚いで一本杉を見る。彼は、懐中時計の鎖を指でいじりながら続けた。
「保持者の内、赤城勇騎、ヴェルデ、金城豪人の三人が奴らに力を貸している。もう一人、墨川一夜とかいう保持者は誰とも組む気がないようだ。奴らの味方じゃないが、もちろん俺達の味方でもない」
「保持者は五人のはずでしょ?最後の保持者は?」
 疑問を感じた初七日が一本杉を見ると、彼は軽く息を吐いてから答えた。
「見つけられなかった。怪盗アルケーが保持者らしい、という情報はつかんだが、怪盗アルケーの詳細な情報が手に入っていない。奴を保持者と特定できるレベルの情報がないんだ」
「裏の世界の情報屋にしては、詰めが甘いわね」
「そう言うな。怪盗アルケーの情報自体が少ないんだ。その中から本物と偽物を選り分けなくちゃならない。残った本物の情報は微々たるものだ」
 一本杉が持っている情報を話し終えた頃、他のメンバーも集合し始めた。まず、八卦と六儀。そして、その後に三ツ沢と白衣を着た小柄な女性が待ち合わせ場所に到着した。
 その女性の身長はその中にいるメンバーの中で最も低く、中学生くらいの体格だった。だが、その目つきと表情から、それなりの人生経験をしている事が判る。
 彼女の名は、五箇条一個(ごかじょういっこ)。『球舞』の中では最年長である。
「久しぶりだな、女医センセイ。四天王寺(してんのうじ)は一緒じゃないのか?」
 腕時計をちらりと見た後、一本杉が五箇条に話しかける。待ち合わせ時間まで残り約二分だ。
「私がいつも彼女と一緒にいるわけではない。大体、あいつを隣に連れて歩いていたら、私が妹に見られて非常に不愉快だ」
「そりゃ、五箇条先生がチビだからっすよ」
「チビ?」
 三ツ沢がその単語を発した途端、五箇条は彼のネクタイを掴んで引っ張った。
「うお!首絞める気っすか?」
「三ツ沢、医学に精通しているという事は、同時にどうやったら人体に効率よくダメージを与えるかも知っているという事だと判らんか?」
「いや……あの、ネクタイでおれっちの首を絞めながら言うのはやめて欲しいっす。マジで殺されそうだから」
「ふん、冗談に決まっている」
 五箇条は心底つまらなさそうな顔で三ツ沢のネクタイから手を離した。
「一つ言っておく。お前は私の事をチビと言ったが、三ツ沢、お前の方が私よりも三センチ低いという事を忘れるな!身長百四十センチ代のお前が人をチビと言うなど十年早い!」
「はあ……そっすか。あと、おれっちの身長は今、百五十代っすけど」
 三ツ沢の口から出た「百五十」という数字を聞いた五箇条の顔が恐怖で歪む。三ツ沢より身長が低くなる事に恐ろしさを感じている証拠だ。
 五箇条は再び三ツ沢のネクタイに手をかけ、
「口の利き方を知らんガキだな、お前は!」
と言って、彼の首を強く絞め始めた。
「女医先生、落ち着けって。あと、三ツ沢もくだらない事を言うな」
 一本杉が止めに入り、二人を引き離す。五箇条は不満そうな顔で
「冗談だと言っているだろう。本気で殺すつもりなら、人気のない場所でやっている」
「げほげほ……。背中に注意しろって事っすね」
「おもしろい漫才だったな」
 二人の争いが終わった頃、二階堂がやってきてそう言った。一本杉はげんなりした顔で二階堂を見て言った。
「見てたんだったら、お前も止めろ!また遅刻しやがって!」
「予定の時刻には間に合っている。まだ十秒余裕があるぞ」
「ったく……。お前が最後だぞ。遅刻魔」
「私が最後?違うのではないか」
 二階堂がくくっと笑うのを見て、一本杉は周りを見た。自分を含めて、ここには七人しかいない。九重九十九が姿を見せないのはいつもの事だが、それでも『球舞』のメンバーは八人いるはずだ。
「おい、女の子が倒れてるぞ!」
 近くでそんな声が聞こえて一本杉は何があったのか理解した。
「四天王寺も来ていたようだな」
 八卦を先頭に、『球舞』のメンバーはその声がした方に歩き出した。休日の道は混んでいたが、奇抜な格好をした七人の男女を見た多くの人が奇怪に思い、道を明けたため、スムーズに移動ができた。
 声がした辺りには数人の野次馬がいたが、彼らも『球舞』の姿を見て道を明けた。そこでうつぶせに倒れていたのは、紺色のセーターにスカートといったどこにでもいる制服を着た女子高生だった。目を閉じているが、意識はあるようだ。
「五色(ごしき)!また行き倒れか……」
 最初に彼女に近づいたのは、女医の五箇条だった。心配するわけでもなく、呆れた表情で彼女に近づく。
「う、うぅ~。ごぉさん、お腹すいたれすよぉ~」
 五箇条の声を聞いて女子高生風の少女は反応する。彼女も『球舞』のメンバーの一人、四天王寺五色だ。こんな女子高生のような姿をしているが、彼女は二十歳である。何故、こんな姿をしているのかは不明で、メンバーの中でもよく話題になる事だった。
「ここに来る前にカロリーメイトを渡していただろう。あれはどうした?」
「あれじゃ、味気ないですよぅ。おにぎりが食べたいですよぉ~」
 腹を空かせた犬のような声で四天王寺は言う。だが、それはいつもの事なので五箇条は慣れていた。
 その姿を見て六儀が一歩前に出た。どこから取り出したのか、彼は右手にバナナを持っている。それを見て、力のなかった四天王寺の目が輝きを取り戻した。六儀がバナナの皮をむくと、四天王寺の瞳の輝きは増していった。食べられるように皮がむかれる頃になると、四天王寺は自分の力で立ち上がれるようになっていた。
「はわぁ~、ろくさん、あたしにバナナくれるんですかぁ?いい人~」
 だが、六儀は無常にもそのバナナを自分で食べ始めた。その姿を見て、四天王寺の目は再び輝きを失った。
「あぅぅ、ろくさん、ひどい人~」
「補給完了」
 再び、倒れた四天王寺に目もくれる事なく六儀はそう言った。
「やれやれ、しょうがないっすね。腹が減ってるなら、食わせてやればいいだけの話っすよ」
 そう言って、三ツ沢が四天王寺に近づく。彼女の瞳はもう一度光を取り戻した。
「うわぁ~、やっぱり最後に頼れるのはみっちゃんだね。時間にうるさいだけのいちさんとか、何考えてるか判らないにぃさんとか、あたしよりも年下なのにあたしよりスタイルがいいななちゃんとか、お坊さんの服着てるのに優しさが足りないはちさんとは大違いだよぉ~」
「へいへい、もっと褒めて欲しいっす。食べられるなら、おにぎりじゃなくてもいいっすね?」
「もちろんだよぉ~。カロリーメイトみたいに味気ないものじゃなければ何でも食べるよぉ~。好き嫌いないのがあたしの長所だもの~」
「へへっ、了解っす」
 三ツ沢は、四天王寺に肩を貸すと『球舞』のメンバーに対して
「こいつにスパゲッティを食わしてやりたいんですがかまいませんね!!」
と聞いた。九十九がいない状況でのリーダー代理である八卦は
「好きにするといい。立ったまま何かを話すよりはどこかで話をした方がいいからな。近くの店に行くとしよう」
と、決めた。メンバー八人が揃った異様な集団は、食事ができる店を探してその場を動き始めた。

 今日の豪人は珍しい事に美和と一緒ではなかった。彼が運転する車の助手席に座っているのはヴェルデである。美和は勇騎と博成と落ち合い、『ウイングス』のメンバーが待つ場所に案内する事になっている。豪人とヴェルデは、途中で寄り道をしてから別のルートでそこへ向かっているのだ。
「お前、俺が攻撃するとは思っていないのか?」
 助手席のヴェルデが豪人に聞く。豪人は「ああ、起きてたのか」と呟いてから質問に答えた。
「君が、自分の体を治すために五つのデッキの力を使う。目的を達成するためには、僕のデッキを奪う必要がある。だけど、今の君はそれをしない。僕はそれを知っている」
 豪人の答えを聞いたヴェルデは、何も言わずに前を向いている。豪人はさらに言葉を続けた。
「今の君は優先すべき事柄が判っている。自分を頼ってくれた彼らを『仲間』だと感じ、彼らを『球舞』から守る事が最優先事項だと感じている。そのための戦力になるから、僕を倒そうとしない。故郷で君を守ってくれた『仲間』と『ウイングス』のメンバーが同じように見えるんだね」
 車は目的地に着いたらしく減速する。駐車のための操作をしながら豪人は最後に言った。
「尤も、君が攻撃してきても僕は負けるつもりはない」
 笑顔だった。
 自惚れではなく、自分の能力に絶対の自信を持っている。それはヴェルデも勇騎も同じ事だった。保持者ならば、皆同じかもしれない。
 豪人の車が止まったのは、小さな診療所の前だ。ここには、戦う事ができない『ウイングス』のメンバーが入院している。羽山のように戦う事のできるメンバーは少数で、ほとんどのメンバーは体が蝕まれてまともに戦う事ができない。中には日常生活にすら支障をきたす者もいる。彼らも『球舞』に出会う事がなければ、普通の人生を過ごしていたのだろう。
 豪人は車から降りると大きく伸びをする。
「いい天気だよ。出てこないのかい?」
と、ヴェルデに聞いたが、彼は答えなかった。
 二人はここで羽山と落ち合ってから待ち合わせの場所に向かう事になっている。ここにいる仲間を見舞う事で、気持ちを引き締めようと考えているのだ。
 暖かい日の光を浴びながら、豪人は妙だと感じ始めた。今まで待ち合わせに遅れなかった羽山が今日は来ていない。時間に遅れているのではなく、彼が意図的にこの場所に来なかったように感じる。
 豪人がそう感じた時、ヴェルデが車外へ出た。そして、診療所のドアが開き、三十歳くらいの男が出てくる。彼も『ウイングス』のメンバーでこの診療所の所長なのだ。
「金城君、待っていたよ。羽山君がね、『球舞』の集会を知ってそこに乗り込もうとしているんだ!」
「なるほどね……。置いてけぼりか」
 豪人は険しい顔をした。ヴェルデも表情はあまり変えないが、考えている事はほとんど同じだろう。羽山は常に彼の『ウイングス』のナンバー2とナンバー3を連れているが、それでも『球舞』全員と戦うのは無謀だ。いや、豪人が心配しているのはそうではない。羽山の実力では『球舞』のメンバー一人にすら勝つ事ができないかもしれないのだ。敵の実力は未知数。勇み足は危険である。
「金城君、ヴェルデ君、すぐに羽山君を……」
「いや、『すぐに』は無理みたいだよ」
 豪人が『ネオウエーブ』を取り出し、ヴェルデが『グランドクロス』を手に周りを見る。そこには灰色のデッキを持った十人の敵が立っていた。
「どうやら『ウイングス』に入りに来たってわけじゃなさそうだね。敵対的な目をしている」
 豪人とヴェルデはアイコンタクトを交わすと、彼らに向かっていった。倒す事自体は簡単な事だろう。だが、羽山の勇み足を止められるかどうか。
「間に合え」
 ヴェルデはそう呟き、目の前の敵と対峙した。

「ねぇねぇ、美和さんの携帯のストラップってかわいいね!」
「ありがとうございます。これは豪人様が買って下さったものなんですよ」
 勇騎と博成、そして日芽と美和の四人は新宿駅付近のスターバックスにいた。外で日光を浴びながらのお茶会は素敵なもので、『球舞』や『ウイングス』に関する情報交換が行われた後は和やかな空気がその場を包んでいた。
 日芽と美和は女の子同士、気が合うのか話題がつきなかった。美和の話題のほとんどが豪人に関する事で、二人が幸せなカップルである事を感じさせる。
 博成は話に入っていけずに勇騎を見るが、彼は興味がないのか目を閉じていた。自分から関わる事も、周りから話しかけられる事も拒否しているらしい。
「わぁお!誰かと思ったら一ノ瀬ちゃんじゃない!」
 常にテンションの高そうな声が聞こえて、博成は周りを見る。もちろん、こんな事を言うのは一人しかいない。青海(おうみ)ゆかりだ。
「委員長、こんなところで何してるの?」
「それはあたしのセリフよ!こんな可愛い子と知り合いだったの!?まさか、一ノ瀬ちゃんって隠れモテモテキャラ!?というよりも、へぇ~、一ノ瀬ちゃんも朝野ちゃんと同じで大和撫子萌えだったんだ~」
 ものすごい勢いで話し始めるゆかりに対して、美和は笑顔で挨拶をする。それはゆかりも同じで、彼女に名刺を渡していた。
「久しぶりだな、青海」
 勇騎が目を開けていた。意外な事に彼らは面識があったのだ。
「久しぶり、ゆかりさん!」
「なんだ、赤城ちゃんも日芽ちゃんも一ノ瀬ちゃんと知り合いだったの?何ていうか、世間って狭いのね。ま、これも運命って奴?」
「勇騎君、委員長を知ってるの?」
 驚く博成に、勇騎は「何度か世話になった事がある」と答えた。
「とりあえず、美和ちゃんが一ノ瀬ちゃんの彼女じゃないのだけは判ったわ。釣り合わないもん」
「委員長、さりげなく言う事がひどいよ……」
「そんな事はともかく、今日は何かの集まり?」
 博成はそれに対してどう答えようか一瞬戸惑った。迷った時点でどう答えてもゆかりはこの裏にある『球舞』の存在を追う事になるだろう。東京連続失踪事件の核となるものを追えるのだ。間違いなく、着いてくる。だが、どんな事をしてでもゆかりを止めなければならないのだ。
 博成がどう答えようか考えている間に、美和の携帯が鳴った。どうやら、かけてきたのは豪人らしく声が弾んでいる。
「ねえ、ダブルデートって奴?一ノ瀬ちゃん、日芽ちゃん狙い?だったら、赤城ちゃんの事を『お義兄さん』って呼ぶ事になるわよ」
「どうしてそういう風に解釈するのさ!」
「その方がおもしろいからに決まってるじゃない!」
「何ですって!羽山さん達が!?」
 普段の美和に比べて幾分険しい声が聞こえた。羽山達に何かあったという事なのだ。美和は通話を終えると勇騎を見た。
「羽山達は?」
「アルタ前です」
 それを聞くと勇騎はその場を離れた。美和と日芽もゆかりに挨拶して追う。
「え?何?何かあったの?」
「ごめん、委員長!詳しい事は明日、学校で話すから!」
 それだけ言い残して、博成もその場を去った。博成は、何が起きたのか判らなかった。だが、羽山達が危ない目に合っている事だけは本能的に理解できる。
 不安を感じながら、彼は新宿の道を走った。

 新宿の街は眠らない。誰かがそんな事を言っていた。昼も夜も平日も休日も関係なく、人通りが激しいのである。
 流れる人ごみの中で、八人の男女と三人の青年が対峙していた。街を歩く人々はそこにある不穏な空気を感じ取って避けて歩いている。関わらないのが無難なのだ。
「この時だ。僕はこの時を待っていたんだ……。『球舞』を……お前達を倒すこの時を!」
 感情が高ぶった羽山は目の前にいる八人を睨みつける。だが、彼らはその程度の事は何とも思っていないのか表情を変えなかった。だが、ただ一人だけものすごく不快そうな顔をして一歩前に出る男がいた。一本杉四神だ。
「裏切り者が、余計な時間を取らせるな」
 彼の威圧的な視線にも、羽山は負けない。灰色のデッキケースを取り出し、彼に視線をぶつけた。
「お前らのせいで、どれだけの時間を無駄にしたか……。考えるだけでイライラする。だが、それももう終わりだ。お前達のために三分だけ時間を使ってやる。来い」
 一本杉の怒りに満ちた言葉を受け、羽山の隣にいた二人もデッキを取り出す。それを見て二階堂も動いた。三ツ沢も興味を示したらしく、ネクタイをゆるめながら挑発的な視線で「やらないか」と聞いた。
 羽山がもう一度強く一本杉を睨みつけた瞬間、彼は一瞬だけ気を失ったような錯覚を覚えた。その瞬間、彼らのいた世界は別の世界へと変わった。それは新宿によく似た別の世界。自分と敵だけしかいない世界だ。
「冥土の土産だ。俺の『時の奴隷(タイム・キーパー)』を使ってお前を殺す」
「その能力、見極めて必ず勝ってみせる!」
 仲間の苦しむ姿を思い出し、そして、苦しめられた自分の過去を思い出した羽山の怒りは最高潮に達していた。

 その頃、勇騎達は豪人と合流し、新宿の街を走っていた。
「勝算はあるのか?」
 勇騎は羽山達の実力を詳しく知らない。彼らの暴走とも言える行為が、それなりの勝算があっての事なのかどうかが気になっていた。
「ないね」
 即答する豪人。羽山の実力ならば、『球舞』以外のメンバーは簡単に倒す事ができるだろう。だが、『球舞』が相手だと頭に血が昇っているかもしれないし、敵の実力が計り知れない。勝てる保障はどこにもないのだ。
「ちょっとー!新宿の街でマラソン大会!?大体、途中で合流してきた白いスーツの人とベージュのコートの人は誰なのー!?」
 結局、後ろからゆかりも着いて来ている。彼女を巻き込まない事も大事だったが、それよりも今は羽山を救う事の方が優先される。
 アルタ前に近づく。そこには五人の男女がいた。一人も知っている顔がいるわけではない。だが、勇騎は彼らが『球舞』であると悟った。
「げげっ!何、あの人達!?ファッションセンス最悪よ!というか、坊さんと巫女と神父の組み合わせって何なの?というか、白衣着たまま外歩く医者っている?それよりも、あの子倒れてるじゃない!何で見て見ぬ振りしてるのよ!都会の男はみんな冷たいわね!」
 一人だけ空気から浮いているゆかりが早口でまくし立てる。走ってきたのに、あまり息が切れていないようだ。
「保持者か……。俺は『球舞』を仕切っている八百万八卦だ」
「お前が?『球舞』のリーダーは九重九十九だと聞いていた」
「九十九は簡単に姿を現さないんでね。今は代理として俺が『球舞』のリーダーをやっている。それはともかく、そろそろ終わる頃だろう」
 煙と共に、そこに三人の男の姿が現れる。一本杉四神、二階堂十三階、そして三ツ沢二古だ。彼らは無傷であり、苦戦したような素振りすら見せない。
「下の下、以下ですね」
と三ツ沢が言った瞬間、勇騎達の目の前に倒れている羽山達の姿が現れた。一人は全身、切り傷だらけで、もう一人は首を押さえている。そして、羽山は顔が真っ青になっていた。
 その様子を見て、豪人は美和の目を隠し、日芽は青ざめた顔で一歩後ろに下がった。好奇心旺盛なゆかりですら、ただ事でない様子に気付き、言葉をなくしている。
「けっ、時間泥棒が……。で、次は保持者か」
 そう言った一本杉に対して、勇騎が近づいていく。
「俺はこいつらとの面識はない。だが、こいつらの真実は感じた。この場に残された、行く当てのない真実は俺が継ぐ。俺が、未来へ持って行く」
 勇騎は『プロミネンス』を取り出す。静かに、熱く、彼の内なる炎が燃え上がっていた。

 第十一話 終

 第十二話予告
 謎の能力『時の奴隷(タイム・キーパー)』を使って勇騎に挑む一本杉。倒された羽山達の思いを噛み締めた勇騎と、一本杉の戦いがその場を揺るがす。
「俺だけが、時間と対等の関係を築ける唯一の存在になる」
 理想を抱いた一本杉に対し、真実を追い求める勇騎の技が炸裂する。
 第十二話 時間


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