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『TOKYO決闘記』 第十二話 時間

『TOKYO決闘記』

 私、一ノ瀬博成(いちのせひろなり)は立法学園高校新聞委員会のメンバーで高校二年生だ。
 デュエルを愛する者達に特殊なブレインジャッカーを寄生させ、自らの軍団として操っていた悪の幹部組織『球舞』。そして、彼らの支配から逃れ、デュエルを愛するが故に戦おうとする組織『ウイングス』。『ウイングス』のリーダー、羽山英夫(はやまひでお)を含む三人のデュエリストが『球舞』のメンバーに戦いを挑むが、結果は惨敗だった。
 『球舞』に対して、皆が恐怖を感じる中、赤城勇騎(あかぎゆうき)だけは静かに闘志を燃やしていた。
 20XX年 一ノ瀬博成

 第十二話 時間
 何かの出し物かテレビの撮影だと思っていた野次馬達も、そこにあるリアルな恐怖感に脅え始めていた。目の前にあるのは作り物ではなく、本物の殺し合いなのだ。
「一応、救急車を呼んだが……彼らはもう駄目だ」
 勇騎の次に冷静さを取り戻した豪人(ごうと)が羽山達の脈を見て言う。目の前で人が殺されたのを見て、博成も、今回だけは勇騎にも勝ち目はないのではないかと思い始めた。
「一本杉(いっぽんすぎ)、ここにいる三人の保持者の始末は任せる。我々は他にやらなければならない仕事があるからな」
 修行僧のようなリーダー格の男、八百万八卦(やおよろずはっけ)の言葉に対して、一本杉は面倒くさそうな顔をする。
「ったく、面倒な事は俺に押し付けるって事か?お前と契約した勤務時間は、もう終わっているぞ!」
「保持者一人につき、特別ボーナスを出そう。それに、保持者を放置しておくのは、お前の計画にとってもよくないのではないか?」
 一本杉は「やれやれ」と言ってため息をつく。そして、勇騎を見た。
「一人五分。予定より遅くなったとしても二十分で片付ける。『プロミネンス』『グランドクロス』『ネオウエーブ』は俺の物にしてかまわないな?」
「もちろんだ。お前が倒したのなら、それはお前の物になる」
 六儀(りくぎ)が倒れていた四天王寺(してんのうじ)を抱えて、『球舞』はその場を去り始めた。彼らには、羽山の始末の他にもやる事があるようだ。
「何だって言うの……。一体、何が……何がどうなってるのよ!」
 緊張に耐え切れなくなったのか、陽気で冷静なゆかりが恐怖したように叫ぶ。
 目の前で起こっている事はあまりにもおかしい。体中に時計をつけている人間が、長髪の青年を何らかの方法で殺した。その方法は判らない。だが、直感的に理解できる。
 時計だらけの男は邪悪な存在だ。こんな奴がいてはならない。
「ねえ、一ノ瀬ちゃん……警察!警察を呼んで!あいつはどう見ても殺人犯よ!」
「落ち着け、青海」
 一本杉と睨み合いを続けていた勇騎は、振り返ってゆかりの目を見る。
 目の前の出来事を見て、パニックになりかけていたゆかりだったが、勇騎の目の中にある落ち着きのある輝きを見て、少しだけだが冷静さを取り戻した。色で例えるのならば、青。そんな輝きを勇騎の目の中に感じる。
「そうね……」
 東京連続失踪事件を追うと言い、さらに委員全員に調査を命じたのは自分だ。事件の核心を見て、パニックになっているような人間では、一流のジャーナリストにはなれない。
「ものすごくヤバイと思うけれど、今は赤城ちゃんの言ったとおり、落ち着けるように努力するわ」
「助かる。青海は一ノ瀬と一緒にここから離れてくれ。俺はこいつを始末する」
 青から赤へ。
 勇騎の目の輝き、彼の中の心はすぐに変わっていった。彼の目は、今、一本杉四神を見ている。
 「始末」という言葉が何を意味するのか、ゆかりには判らない。だが、あの一本杉という男の最期が近づいていると言う事だけは何となく理解していた。
「お前達が余計な事しゃべっているせいで、もう一分二十八秒も無駄に使っちまったぞ!誰だ!最初に俺の相手をするのは」
「一つ訂正しておく。最初で最後の相手だ」
 勇騎のデッキ『プロミネンス』が赤く輝く。『ウイングス』を簡単に倒せる相手であっても、負ける気がしない。
 勇騎と一本杉、二人のデュエリストがこの世界から消える。戦いが待つ、この世界によく似た別の世界へ一瞬で移動したのだ。
「さ、委員長」
 博成に言われて、ゆかりはその場から離れ始めた。「後の事は僕に任せておくといい」と言って、豪人と美和だけはその場に残り、他のメンバーは立ち去った。
 駅に向かう途中で、突然、ヴェルデだけが彼らから外れた。
「ヴェルデ君、どこへ行くの!」
「奴らの目的は判っている。俺は、俺でやる事がある」
 そう言って、彼は去っていく。戦う前の勇騎と同じように、決意を秘めたような熱い口調だった。
 だが、彼の事はまだよく判らない。一緒にいた方がいいのではないかと思う。
 そう思った博成が一歩ヴェルデへ近づこうとしたが、日芽が手でそれを制した。
「博成君、大丈夫。あの人も保持者だから…きっと勝てる」
 博成を安心させようとしているのか、日芽は笑顔を作って博成を見る。
 日芽もヴェルデとはあまり会った事がないはずだ。だけど、博成よりも彼の事を理解している。保持者との繋がりが深いから、よく判るのだろう。
「判った。僕は信じるよ。勇騎君達が『球舞』に勝つって…」

 世界が変わり、命を懸けたデュエルが始まる。そこまではいつもと同じだったが、一本杉とのデュエルでは一つだけ違う部分があった。
 全ての準備が終わった瞬間、勇騎の左腕に真っ黒な腕時計のようなものが取り付けられたのだ。それは腕時計のようだが、腕時計ではなかった。時計には長さの違う、動いていない二本の針がついている。文字盤もないシンプルな形をしている。
 勇騎がそれを外そうとして手をかけた瞬間、一本杉が話し始めた。
「そいつを無理に外そうとしない方が身の為だぜ、保持者。それが俺の能力『時の奴隷(タイム・キーパー)』だ。外そうとして衝撃を加えると、裏切り者と同じような死に方をする事になるぜ」
 こんな時計で羽山をどうやって殺害したのかという疑問が残ったが、危険性を理解した勇騎は手を離した。
「こんなおもちゃの時計に何の意味があるのか?お前はそう疑問に思っているだろう。意味はちゃーんとあるのさ。デュエルが始まれば判るけどな」
 よく見ると一本杉の左腕にも同じ時計がつけられている。この能力について理解も推理もできないまま、勇騎の戦いは始まった。
「マナをチャージして、ターンを終了する」
 デュエルの最初のターンは何もできない事が多い。勇騎はマナにカードを一枚置いただけでターンを終了した。
 その瞬間、時計が静かな音を立てて動き始めた。
「何っ!?」
 勇騎が文字盤を見ると、間違いなく長い針が動いている。そして、ゆっくりとした速度で短い針も動き始めていた。
「言い忘れていたが、俺の『時の奴隷(タイム・キーパー)』はデュエルが始まると起動する能力だ。時計の長い針と短い針が同時に同じ位置を指す瞬間までにデュエルの決着がつかないと、文字盤の裏から猛毒が全身に回って死ぬ。デュエルで負けても同じように死ぬ。俺もつけているわけだから、俺が負けるか時間切れになっても死ぬって事だ」
「なるほど。羽山の顔が青ざめていたのは、それが原因か」
「その通り。ちなみに、針が重なるのは五分だ」
「五分以内に決着がつかなければ、お前も死ぬようなリスクを伴う能力を何故使う?」
「ああ、答えは簡単だ。俺が無駄な事に時間を使わないようにするための戒めだよ」
 そう言って、一本杉は『ブレイズ・クロー』を召喚する。最軽量の速攻向きクリーチャーの登場で、一本杉のデッキタイプが完全に把握できた。
「速攻デッキか」
「ああ、人生は短いんだ。無駄な時間も無駄なターンも俺には一生無縁なものでなくてはならない!」
 一本杉の目は険しい。『球舞』のメンバーの中で、最も険しい目をしていた。それだけ時間に対する執着が大きいのだろう。
「俺は、『エマージェンシー・タイフーン』を使ってターンを終了する」
 勇騎は手札一枚を捨てるというリスクを持った軽量ドロー呪文を使ってターンを終了した。
「ブロッカーも、殴り返しのためのクリーチャーも出せないってわけか。寂しいデッキだな。俺の勝ちは決まったようなもんだ!」
 一本杉は『光線人形ストリウム』を召喚した。スピードと共に、パワーもある戦略だ。先を読むセンスと最良の一手を見つける判断力が必要なこのデッキを、彼は完全に使いこなしていた。
「さて、このまま5ターンで決着をつけてやるよ」
「そんな余裕、お前にはない」
 序盤でクリーチャー二体という差がありながら、勇騎の余裕は崩れない。例え、相手が『球舞』のメンバーであっても、彼の余裕を崩すほどの器ではないという事だ。
 だが、その余裕が一本杉にはおもしろくない。
「なめてんじゃねぇ!『ブレイズ・クロー』でシールドをブレイク!」
 一本杉がシールドをブレイクした瞬間、勇騎の場に一体のクリーチャーが現れた。その勢いで『ストリウム』がかき消される。
「シールド・トリガー、『アクア・サーファー』だ。言い忘れていた事があったのはお前だけではない。俺も言い忘れていた事がある。俺のデッキには大量にシールド・トリガーが入っている。攻撃はそれ相応の覚悟をしておくんだな」
 勇騎は『オチャッピィ』を召喚して、使用した『エマージェンシー・タイフーン』をマナに置いた。そして、『アクア・サーファー』が攻撃後の『ブレイズ・クロー』を攻撃する。
「5ターンで、と言っていたがそれは無理だ。お前は何ターンかかっても俺に勝つ事はできない」
「対した余裕じゃねぇか。俺はお前みたいな奴が大嫌いなんだよ!」
 一本杉は火と闇の多色クリーチャー『封魔魂具バジル』を召喚した。破壊された時、相手にデメリットを与えるクリーチャーの登場に勇騎は戸惑う。
「邪魔者を蹴散らし、相手の邪魔をして敵を叩き潰す!俺の時間を邪魔する野郎は誰であってもこの方法で消してやる……!」
 怒りをむき出しにする一本杉に対して、勇騎はあくまで冷静だ。静かに、確実に相手を追い詰める。
「お前のデッキは、今から自由に動けなくなる。俺のカードの効果によって」
「あ?何を言ってやがる。そんな強力なカードが……」
 一本杉の表情が硬直する。勇騎が場に出したのは、小型クリーチャーの攻撃を封じるクロスギア『ノーブル・エンフォーサー』だったのだ。
「パワーとスピードを兼ねたお前のデッキならば、ある程度しか攻撃を封じる事ができないだろう。だが、ある程度でいい。お前の速度が鈍れば、俺に勝機がある。それともう一つ。お前の能力『時の奴隷(タイム・キーパー)』ははったりのための道具に過ぎない。時間切れになると死亡するという恐怖から、お前の能力を受けたデュエリストは必要以上に早くプレイしようとするだろう。制限時間への脅えから思考が鈍り、1ターンに使う時間が減るから精度も落ちる。さらに畳み掛けるような速攻で相手の恐怖心を倍増させる。結果、相手は戦うまでもなく自滅するというわけだ」
 勇騎の推理は全て当たっていた。『時の奴隷(タイム・キーパー)』の本質は毒殺ではなく、制限時間を設ける事によって対戦相手のプレイの精度を壊滅的なまでに落とす事にあった。羽山も、それ以前に一本杉を倒そうと向かってきた者達もこの恐怖心に勝てず、自滅していった。だが、目の前にそれが通じない相手がいるのだ。小細工では絶対に勝てない存在が。
「お前、何者だ……」
 震える声で問う一本杉に対して、勇騎は神々しい口調で答える。
「赤城勇騎。真実をつかみ、お前に裁きを与える者だ!」

 『球舞』について、勇騎は色々な事を調べていた。個人であるとはいえ、警察の警備網を調べたり都内のショッピングセンターから日芽が捕らえられている場所を探し当てたりするだけの能力を持っている。
 だが、彼でも『球舞』のメンバーが隠れている場所だけは探し当てる事ができなかった。
彼らもチームである以上、全員が顔を揃える場所があるはずだ。あれだけ目立つ服装をした八人の男女が集まって目立たない場所というのはありえない。ならば、彼らは秘密の隠れ家のような場所にいるはずである。
 勇騎はそこまで考えた結果、都内とその近辺にある様々な場所を調べ上げた。しかし『球舞』が隠れた痕跡のある建物は一つも存在しなかった。
 とある雑居ビルのエレベーターに『球舞』のメンバーは入る。ぎりぎり全員が入れる構成のエレベーターだった。よく見ないと発見できないような隙間に八卦は専用のIDカードを入れてスキャンした。その後、階数のボタンを押し、暗証番号を入力する。すると、エレベーターは表向き存在しない事になっている地下室へと移動した。
 地下のフロアは普通のオフィスと変わりない普通の空間だった。唯一の違いは窓がない事である。
「羽山達、三人を処刑したわけだが、我々に刃向かうのは奴らで終わりではないはずだな?」
 八卦は、そこにいるメンバー達を見て同意を求めた。それくらい皆、判っている。
「そうっすね。あの三人だけじゃなくて、保持者もおれっち達にとっては問題っす」
「三ツ沢、君は目の前にいる敵しか敵として把握できんのか。羽山は裏切り者集団のリーダーなんだよ。二階堂がそう調査していた」
 五箇条が二階堂を見ると、彼は愉快そうな顔で頷いた。
「奴が死の間際にどんな絶望を見たのか私には判らないが、奴の言葉にできない幸福は伝わったよ。くくく、こんなに素晴らしい気持ちは久しぶりだ……!八卦、裏切り者の残りは私が始末してもかまわないかな?」
 八卦はすぐ「好きにするといい」と言った。
「そうか。ならば、彼らにも味わってもらうとしよう。極上の絶望をね……」
 二階堂は上機嫌だった。だからこそ、裏切り者達の始末という面倒な仕事も喜んで引き受けたのだ。
 気色の悪い笑みを顔に貼り付けたまま、二階堂はエレベーターに乗って地上へと上がっていった。

 勇騎と一本杉のデュエルはすでに三分が経過していた。
 クリーチャーを除去されながらも一本杉は勇騎のシールドを合計三枚ブレイクした。しかし、彼のクリーチャーは『ヴィネス』と『ストリウム』の二体。しかも、勇騎の『ノーブル・エンフォーサー』と『ストーム・クロウラー』によって攻撃が届かなくなっている。
 勇騎は除去呪文をうまく使って一本杉を妨害していた。彼の場には『ストーム・クロウラー』の他に『恵みの化身(ブレッシング・トーテム)』が一体いる。墓地のカードは効果でマナとなり、『ストーム・クロウラー』と『ミスティック・クリエーション』で回収できるのだ。
 勇騎はまだシールドを攻撃していない。そのため、一本杉のシールドは無傷だった。このままでは時間切れになってしまう。
「保持者!お前、時間切れになれば相撃ちで俺を倒せるとか思っているんじゃねえだろうな!ふざけんなよ!相撃ちで倒されるなんて、俺は嫌だ!」
 吠える一本杉に対して、勇騎は静かに息を吐く。
「いや、相撃ちなど最初から狙ってなどいない。俺は今までお前が倒してきたデュエリストとは違う。五分ならば、五分以内に倒す事だけを考えるのではなく、与えられた五分を全て使い切って確実にお前を倒す方法を選ぶ。今までの行動はそのための準備だ。宣言する。俺はお前を残り3ターンで倒す」
 勝利を宣言した勇騎は大量に溜まったマナを使って一体のクリーチャーを召喚した。赤く輝く切り札が場に降臨する。
「『ボルメテウス・レッド・ドラグーン』。お前には逆転の希望すら与えない」
 勇騎のターンが終わり、一本杉のターンになるが彼には何もできない。召喚できるのはパワー2000以下のクリーチャー。『ストリウム』のような大型クリーチャーを出したとしても、『地獄万力』や『サウザンド・スピア』のような除去呪文で破壊されてしまう。打つ手がなかった。
「俺は……ターンを終える」
 一本杉のターンが終わってからすぐに勇騎は二体目の『ボルメテウス・レッド・ドラグーン』を召喚。そして、彼のシールド二枚が焼き尽くされた。
「あと、2ターンだ。一本杉四神。貴様の罪を噛み締めろ」
「ぐ……くそっ!」
 カードを引こうとする一本杉の手が震える。今まで、手が震えるのは彼の対戦相手だった。今は、彼が追い詰められて震えているのだ。立場が逆転していた。
(『ボーン・スライム』なら、時間稼ぎに……。駄目だ!『ノーブル・エンフォーサー』の効果でブロックもできない!『デーモン・ハンド』なら『ボルメテウス・レッド・ドラグーン』を破壊できるが、それでも俺が不利な事に変わりはない。残り時間は一分。時間切れで死ぬのは嫌だ。せめて、あのカードが来てくれれば……!)
 一本杉は目を閉じてカードを引く。恐る恐る目を開けて見ると、それは彼が求めていた切り札だった。
「ははは、こんな事ってあるもんだ。やっぱり、俺は……俺だけは時間に守られている」
 一本杉の様子が変わった事に気付き、勇騎が緊張する。彼にはまだ、反撃する力が残っているのだ。
「俺が『球舞』に入る前の話だがな。その頃も、俺は時間を守れない奴が嫌いだった。俺の時間を勝手に削っていく奴らが許せなくてしょうがない。ある日、付き合っていた彼女が遅れてきたのに謝らなかったんだ。それくらい待つのは男として当然でしょ、って言ったんだぜ、あいつ。俺はキレたね。むかついたから、そいつを殺して近くの山に埋めたよ。だけど、だんだん怖くなってきたんだ。ただ奴と別れるだけならば、それで終わる。だが、警察に捕まったら大量の時間を浪費する。キレてた俺はその程度の簡単な計算ができなかった。落ち着きを取り戻すために、でかすぎるリスクを背負っちまったんだ。恐怖した俺は偶然『球舞』のホームページにアクセスした。そして、九重九十九に出会い、生まれ変わった。俺を追う奴は『時の奴隷(タイム・キーパー)』で全て始末できる。時間を大切にし、時間も俺を大切にする。全ての人間は時間の奴隷。それも奴隷である事すら気付かない悲しい奴隷だ。だがな……」
 一本杉が引いたカードは妙な光を放っている。あれには、状況を変えられるだけの力があるのだ。
「俺だけが、時間と対等の関係を築ける唯一の存在になる」
 一本杉の『ヴィネス』が『魔皇グレンベルク』に進化する。パワー7000でW・ブレイカーを持つその切り札の登場で、勇騎は彼の考えている事を察した。
「保持者!お前らのデッキは全て俺が奪い取る!そして、その時こそ俺は本当の意味で時間と対等の存在になれる!俺だけが!その特権を!手に入れる!!『魔皇グレンベルク』で攻撃!そして、メテオバーン!」
 『魔皇グレンベルク』の下にあった『ヴィネス』が一度墓地へ行き、メテオバーンによって再度呼び戻される。『ヴィネス』は攻撃できない。だが、場に出た時の能力を使う事はできる。
「『ストーム・クロウラー』を破壊!これで、シールドを守るブロッカーはいなくなったな。死ね!」
 勇騎のシールドが一枚ブレイクされる。『グレンベルク』の剣はもう一枚のシールドを突き刺した。
「これで俺の勝ちだ!『プロミネンス』も時間も、全て俺の物だ!」
 高らかに笑う一本杉は最後の攻撃をするために『ストリウム』を見る。だが、『ストリウム』の上から巨大な鉄の塊が落ちてきて潰されてしまった。
「一度言ったはずだ。俺のデッキには大量にシールド・トリガーが入っていると」
「そうか。『地獄スクラッパー』か……!」
 場に置かれたカードを見て、一本杉は何が起こったのか理解した。『地獄スクラッパー』によって、『ストリウム』が破壊されたのだ。
「さて、最後のターンだ。お前はもう、時間を気にする必要はない。永遠にな」
 二体の『ボルメテウス・レッド・ドラグーン』がシールドを全て焼き尽くす。
「残り時間は八秒。ギリギリだったな……。『恵みの化身(ブレッシング・トーテム)』でとどめだ!」
 『恵みの化身(ブレッシング・トーテム)』の拳が、一本杉を近くの木まで吹き飛ばした。その瞬間、勇騎の左腕についていた時計は黒い灰になって消えていった。
 勇騎は、『ブランク』を取り出すと一本杉に近づいていく。
「俺は……『球舞』のメンバーは他のザコと違う……。クリーチャーに憑かれているんじゃない……。自らの意思で……融合しているんだ……」
 一本杉の顔がどんどん青くなっていく。彼が多くの人を苦しめた能力によって、彼自身が苦しんでいるのだ。
「それは知っている。だから、『ブランク』の中で永久に苦しみ続けろ」
 一本杉は黒い粒子となって勇騎の持つ白いカードに取り込まれていく。彼の肉体が完全に消え去る瞬間、一本杉の声が響いた。
「偶然だ……。お前は偶然勝てただけに過ぎない。俺に力をくれた……九十九や……八卦や七夕はこんなんじゃない……」
 世界が、元に戻ろうとする瞬間、勇騎はそれに答えた。
「偶然もまた、真実の一部だ。お前に時間が味方をしていたのなら、俺には真実が味方をしている」
 同じような理想を持つ仲間を三人も失った。『球舞』は今まで以上に残虐な策略で勇騎達を追い詰めるだろう。
 だが、それでも負けるわけにはいかない。彼ら全員を倒し、戦いを終わらせるしかないのだ。
 勇騎は、誓いを新たに新宿の街を歩き始めた。

 第十二話 終

 第十三話予告
 『球舞』の刺客、二階堂十三階は『ウイングス』のメンバーが入院している診療所に向かっていた。彼の目的はそこにいる裏切り者を抹殺する事である。それを予測したヴェルデはこれ以上仲間を失わないために、二階堂と対峙する。
「絶望は甘い。絶望は深い。そして、絶望こそが真実だ」
 二階堂の能力『堕ちていく必殺(ゲットダウン・メイクラヴ)』がヴェルデを襲う。
 第十三話 絶望
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