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『TOKYO決闘記』 第十三話 絶望

『TOKYO決闘記』

 私、一ノ瀬博成(いちのせひろなり)は東京連続失踪事件の謎を追っている高校二年生だ。
 圧倒的な強さを見せ付けて『ウイングス』のメンバー三人を倒した『球舞』。その中の一人、一本杉四神(いっぽんすぎしじん)と赤城勇騎(あかぎゆうき)が対戦する事になった。一本杉は彼のみが持つ特殊能力『時の奴隷(タイム・キーパー)』を使い、制限時間付きのデュエルが始まった。
 速攻デッキで攻撃を仕掛けた一本杉だったが、制限時間ギリギリまで時間を使い、相手を翻弄した勇騎が勝利を収めた。
 20XX年 一ノ瀬博成

 第十三話 絶望
「いちさん…」
 地下にある『球舞』の隠れ家。ソファの上で眠っていた四天王寺五色(してんのうじごしき)が突然目を覚まして呟いた。彼女の能力を知っている『球舞』のメンバーなら、発せられたその一言から何を意味するか判る。
「一本杉がやられたようだな。奴は我々の中でも最弱…。保持者ごときに負けるとは『球舞』の面汚しよ……」
 特に驚くわけでもなく、おどけた様子で三ツ沢二古(みつざわふたご)はそう言っていた。彼だけでなく、誰も驚いた様子を見せない。仲間が倒されたのに落ち着いている姿は不気味であった。
「相手の実力が判らない。彼の敗因はそれだったのかもしれんね。経験不足が祟ったな」
 五箇条一個(ごかじょういっこ)の言葉に三ツ沢が頷く。彼女の能力を知っているからこそ、その言葉がよく理解できるのだ。
「メンバーを失ったのは痛いが、現時点での目的は九十九(つくも)を呼び出す事だ。リスクなしで成功するとは思っていない」
 八百万八卦(やおよろずはっけ)の言う、『ウイングス』も気付いていなかった『球舞』の目的はそれだった。九重(ここのえ)九十九は彼らの前に姿を現さないのではなく、姿を現せないのである。
 『球舞』について羽山以外のメンバーも多くの事を知っている。口封じのためにも、そして、相手の戦力を減らすためにも二階堂十三階(にかいどうじゅうさんかい)の作戦は成功されなければならない。
「九十九様をお呼びする邪魔だけは…あんな薄汚れた野良犬みたいな裏切り者に邪魔だけはさせない。絶対に……!」
 七夕初七日(たなばたしょなのか)が強い口調で言って、二階堂が残していった地図を見る。その地図に示された赤い点。そこは戦えない『ウイングス』のメンバーが入院している診療所だった。

 勇騎が一本杉を打ち倒してから、数時間が経った。春とは違い、冬の昼は終わるのが早い。診療所の周りも暗くなっていて、人通りもなくなっていた。
 ヴェルデは、新宿で『球舞』と遭遇してからすぐにこの場所に来ていた。相手の行動を読んでいたわけではない。仲間として認めた『ウイングス』のメンバーが心配になったのだ。診療所の前に座り、敵を待つ。診療所の所長に中に入らないか何度か聞かれたが、『球舞』のメンバーがどこから来るかいち早く知る為にその言葉は断った。外の方が多くの情報を取り入れる事ができる。
「寒いのに、ご苦労さんだね」
 診療所の所長が帰宅してから数分後、ヴェルデに話しかける一人の青年がいた。金城豪人(かねしろごうと)だ。昼間と違い、彼は上品な大きめのバックを持っている。
「差し入れだよ。美和(みわ)が淹れてくれた」
 彼は水筒を取り出し、中の液体を紙コップに注ぐ。湯気の立つ飲み物を受け取ったヴェルデはそのまま口に運ぶ。
「温かい……」
 それはハーブティーだった。ヴェルデと同じように、豪人もそれを飲み始める。
「僕はね、嫌な気分になっているんだ。君ほど『仲間』って言葉に執着してはいないけれど、それでも知り合いがあんな事になったら不愉快だ。『球舞』のメンバーは僕らを執拗に狙ってくるだろうから、ナンパに行く事も難しくなる。羽山君との約束もある。何より美和を脅えさせた。理由としては充分過ぎる」
 豪人の言葉に対して、ヴェルデは何も言わない。今『ウイングス』のメンバーを守る為に協力してくれると判っただけで充分だった。
 二人が一杯目のハーブティーを飲み終えた頃、邪悪な気配を宿したその男はゆっくりと近づいて来た。
 豪人を挑発するために美和を誘拐する計画を立てた事のある男。そして、今日『ウイングス』のメンバーを倒し、ヴェルデを怒らせた男。事あるごとに「絶望」と言い、何を考えているか判らない不気味な男、二階堂十三階は奇策を立てるわけでもなく、その身一つで彼ら二人の前に姿を現した。妙に上機嫌である。
「かつて、私を殺しに来たデュエリストが言った。人に贈り物をするのはとても気持ちがいい。その人の喜ぶ顔を見る事こそが最高の報酬だと……。そして、私には死を届けに来たらしい。私の絶望する顔を見る事こそが最高の報酬だと……。彼の内に秘めた感情など私には完全に理解できないが、相手の絶望する顔が最高の報酬というのは非常に理解できる。あれは、麻薬だ。一度味わうと抜け出せなくなる」
「くだらない……変態が」
 豪人が忌々しげな口調で呟くと、それに返すように二階堂はくっくっと静かに笑い出した。
「少し勘違いをしているようだな?金城豪人。絶望とは、全ての生物に等しく平等に訪れる機会。何よりも優しく何よりも慈悲深く、そして、何よりも残酷だ。この世界で最も美しい存在。私が永久に追い続ける伴侶。いずれ朽ち行くこの世界の担い手。理解せずに忌み嫌うのなら、お前達も本質を味わってみるのだな」
 二階堂がデッキを出すのに反応して、ヴェルデが『グランドクロス』を取り出す。二人の力に呼応して変化する世界。そこに、余計な生命はない。戦うべき者以外、存在はしない。
「次はお前か。二人目だ……。一日に二人も絶望する者を見る事ができるなんて、幸せだ!」
「黙れ。すぐに消してやる……!」
 ヴェルデの怒りが燃える。その表情を見て二階堂はさらに愉快そうに笑った。怒りと狂気のぶつかり合うデュエルが始まったのだ。

 新宿崇島デパートにある和食のレストラン。戦い終わった勇騎、そして美和と合流した博成達三人は美和の提案でそこにいた。博成は自腹では絶対行かないような場所に困惑してメニューを見ていた。
 ゆかりも高級な雰囲気に驚いていたが、それ以上に今日起こった信じられない出来事に驚いていた。東京連続失踪事件の真相をごく一部だが体験したのだ。そして、今まで博成が調査した事も教えられた。博成が行っていた怪盗アルケーの調査も保持者に関連した事柄だったというのだから驚く。
「でも、たかだかカードでねぇ……。あいつら、何するつもりなの?世界征服?」
 ゆかりは博成が持っていたカードを手に持って呟く。実際に体験した事とは言え、まだ信じられない部分があった。今回、『球舞』のメンバーのデュエルを見たのは、この中では勇騎だけなのだ。他の敵とのデュエルを知っている博成達とは違い、ゆかりは今まで敵と遭遇する事も、保持者に接近する事もなかった。デュエル・マスターズカードが関連すると言われても、すぐには信じられない。
「そう言えば、『球舞』の目的って何だろうね?羽山さん達は……知っていたのかな?」
 数時間前まで生きていた人物の名前を思い出し、博成は何とも言えない感情を味わいながら美和を見る。彼女は申し訳なさそうに首を振った。
「いいえ、羽山さん達も『球舞』のメンバーについてはご存知でしたが、その目的までは知らなかったようです。最終目的までは判りませんが、あの人達の狙いはおそらく……」
「俺の『プロミネンス』や金城の『ネオウエーブ』のように、特殊なデッキが狙いだろう」
 勇騎が美和の言葉に続く。一本杉は保持者のデッキを求めていた。そのデッキに秘められた力が目的なのかもしれない。
「このデッキを取られたら、大変な事になっちゃうよ!『プロミネンス』一個だけでも……それはすごい事に……」
「そうだな。東京が地図から消えるくらいは簡単にできるだろう」
 途中で口を閉ざした日芽の後に、勇騎は『プロミネンス』単体でもどれほどのエネルギーになるかを淡々とした口調で説明した。予想以上の答えに驚いたのは、博成と美和だった。自分の知り合いが制御していた力の大きさを知り、愕然とする。
「一ノ瀬、俺はまだ『プロミネンス』の力を完全に使いこなしてはいない。保持者の使うデッキが全て揃ったとしたら……世界征服など朝飯前だろう。その力を使いこなせる奴がいたら、という話だが」
「そんなすごい人、いるの……?」
 それほどの人物が実在したら、世界が終わってしまうかもしれない。不安に思った博成は、震える声で聞く。その問いに対して、勇騎も日芽も美和も首を横に振った。
「そうだよね。そんな人がいたら、それは勇騎君よりも強いって事になるよね。だったら、絶対に大丈夫……。あ……!」
「どうしたの、一ノ瀬ちゃん」
 博成の異変にそこにいたメンバー全員が反応する。気付いてしまった。まだ知らぬ人物だが、一人だけ未知数の実力を持っている者がいる。
「九重九十九だ……」
 『球舞』を統べる者、九重九十九。今は姿を現していないが、もしかしたらその力は勇騎を凌ぐかもしれない。
「何言ってんのよ!赤城ちゃんは一本杉とか言うのをさっさとやっつけちゃったんでしょ!?そいつらのボスなんか、きっとそんなに強くないわよ!」
 ゆかりが明るい口調で言うが、博成の頭に生まれた疑惑は消えない。今まで、自分を信じて東京連続失踪事件を追ってきたが、倒れる羽山達を見て信念が揺らぎ始めていた。初めて博成は、勇騎の事件から手を引くようにという助言を無視してここまで来た事を後悔した。
「その通りだ」
 敵と戦う前と同じように、勇騎は厳かな口調で博成に告げる。絶対の真実を見てきた後のように、確実に自分の勝利を信じている顔で。
「俺は『球舞』に負けない。『プロミネンス』も渡さないし、奴らの好きなようにもさせない」
 有言実行。彼は何度も宣言した通りに勝利を収めてきた。それが『球舞』のボスであっても変わる事はないはずだ。
「ごめん、勇騎君。僕は君の強さを信じていたはずなのに、君が勝てないんじゃないかって一瞬疑った。ごめんよ」
 自分の中に生まれた疑いの気持ちが恥ずかしくなった博成は、勇騎に頭を下げる。
「頭を上げろ、一ノ瀬。不安や心配を抱く事は誰にでもある事だ。それによって真実が疑念に侵蝕されていく事もな。だが、お前の中にある真実がその疑念に打ち勝つ事でその気持ちは消える。自分自身を信じろ。俺はそうやって強くなっていった」
「そうだね。僕も強くならないと……。この事件の真相を追っている新聞委員なんだもの」
 博成は顔を上げる。そして、赤城勇騎という人物の知り合いだった事を改めてうれしく思うのだった。
 タイミングよく、そこで料理が運ばれてくる。湯気が立つおいしそうな料理に、そこにいるメンバーは目を奪われた。
「さ、気分を明るくして食べましょ!それにこんな時はお酒で盛り上がらないと!」
「委員長!僕らは未成年だよ!」
「大丈夫!委員長権限よ!」
「法律を変えられる権限なんか、新聞委員会の委員長にはないよ!」
 博成とゆかりのやり取りによって、そこにいる全員に笑い出す。心の中がほっとした美和は、寒空が広がる窓を見た。
 ヴェルデが一人でどこかへ向かったと聞いた時、豪人は心配していた。勇騎も日芽も大丈夫だと言っていたが、豪人にはヴェルデと羽山が重なって見えたのだ。冷静な素振りをしている豪人だったが、美和だけはその焦りを見抜いていた。彼のために今、できる事はした。後は無事に帰ってきてくれる事を祈るだけだ。

「『モビル・フォレスト』をジェネレート。私のターンを終了する」
 二階堂のターンが終わった。3ターン終了時点で、彼の場にはクリーチャーがない。だが、『フェアリー・ライフ』や『モビル・フォレスト』の使用から、大型クリーチャーの出現が予想できる。
「『青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)』召喚。『怒髪の豪腕(レイジ・アーム)』で攻撃!」
 ヴェルデのデッキは小型クリーチャーによる速攻と自然文明特有のマナブーストを活かしたデッキだ。相手の大型クリーチャーが出る前に決着をつければいい。
「速攻か……。私のデッキに少し似ているな」
「何……!?」
 大型クリーチャーデッキだと思っていたヴェルデも後ろで二人のデュエルを見ていた豪人も、二階堂の言葉に耳を疑う。
「この手札で、貴様を絶望へ誘うとしよう。『幻緑の双月(ドリーミング・ムーンナイフ)』召喚!」
 2マナ必要な軽量ビーストフォークが1マナで場に出る。モビル・フォレストの効果でクリーチャーの召喚コストが1マナ減るという効果は、デュエルが長引けば長引くほど得をする事になる。
「ターンの最初のチャージ。そして、特殊効果でのマナチャージを加えて6マナ。まだ私には5マナも余裕があるぞ」
 予想以上の高速展開に驚くヴェルデを尻目に、二階堂は自分の力を見せ付ける
「『青銅の鎧』召喚!効果でさらにマナブースト!そして、『封魔バルゾー』だ!」
 『バルゾー』の効果でヴェルデの『怒髪の豪腕』が手札に戻される。4ターン目で二階堂のマナは7マナになっていた。
「マナブーストはお前だけの特権ではない。『鳴動するギガ・ホーン』召喚!」
 ヴェルデも『青銅の鎧』の効果でマナを増やしている。4ターン目に5マナ。そのマナを全て使ってクリーチャーをサーチできる『ギガ・ホーン』を召喚した。
「なるほど。持ってきたのは『大勇者「ふたつ牙」(デュアル・ファング)』か。次のターンで『青銅の鎧』から進化して、マナブーストもできるね」
 豪人が感心するのを見て、ヴェルデはターンを終了する。『青銅の鎧』で攻撃して進化元を失う事態は避けたい。
「手札が必要だな。もっとたくさんの手札が欲しい」
 二階堂はマナをチャージした後、二体の『アクア・ハルカス』を召喚する。そして、『サイバー・ブレイン』を使用した。マナだけでなく手札も増やすデッキ。水と自然の長所を最大限に活かしたデッキだ。
 さらに、彼が呼び出した小型クリーチャーがシールドをブレイクする。
「くっ……『ナチュラル・トラップ』だ」
 ヴェルデはシールド・トリガーを使って最後の一体、『青銅の鎧』をマナに置いた。
 相手の爆発的なマナブーストとコスト削減によって追い詰められている。今は、進化をしている場合ではない。
「『無頼聖者スカイソード』召喚」
 シールドを回復し、同時にマナも増える。今は防御に徹するしかない。
「『青銅の鎧』でお前の『バルゾー』を攻撃する!」
 相撃ちして同時に破壊されるクリーチャー。それを見た瞬間、ヴェルデは嫌な予感を感じ、素早く横へ移動した。
「ぐっ……!何が……!」
 ヴェルデの右腕に刃物で切られたような傷が現れる。痛みも感じ、血も流れる。
 ヴェルデにも豪人にも刃物が見えなかった。二階堂が動いたようには見えない。彼とは三メートル近く離れている。
「『ギガ・ホーン』で『幻緑の双月』を攻撃!」
 痛みに耐えながらヴェルデはクリーチャーへの攻撃を宣言する。相手のビーストフォークが破壊された瞬間、今度は背中に痛みが走った。過去に何度も彼が味わった、負傷して血が流れ出す感覚。今、長い時間を経て再びそれが思い出される。
「ヴェルデ君、診療所は近い!負傷など気にせず、全力で戦え!」
 豪人の声が遠のく。ヴェルデの中で記憶の中の映像と今の状況がフラッシュバックし、恐怖と混乱が体を支配する。
「あ……うぁ……」
「ターンは終了か?絶望はまだ始まったばかりだ。階段を降りるようにゆっくりと……ゆっくりとだ。急いで絶望に近づきすぎるのはよくない。それは階段を落ちるようなものだ。ゆっくりと……ゆっくりと……」
 二階堂は一枚のカードを出す。それによって彼の『アクア・ハルカス』二体は場から手札に戻って行く。
「私の切り札。『エクストリーム・クロウラー』だ。クリーチャーの特殊能力はこれで何度も使いまわす。さらに、『ストーム・クロウラー』を使う」
 これで、二階堂はマナからカードを手札に戻した。残ったマナですぐにその呪文を使う。
「『母なる大地』。『ストーム・クロウラー』をマナに戻し、もう一枚の切り札『ドルゲーザ』を呼び出す。『エクストリーム・クロウラー』はアースイーターなので『ドルゲーザ』の効果で合計三枚ドローするよ」
 W・ブレイカーを持つ大型のクリーチャーが二体も登場する。今のヴェルデのクリーチャーでは、二階堂の切り札を倒す事はできない。
「ターン終了だ。まだ絶望に抱かれるには早いだろう?もっと味わいたまえ」
 ヴェルデの目から光が消えている。相手の能力によって深いダメージを負っているという事なのだ。
 豪人の目には、その傷は『ウイングス』のメンバーが負っていたものと同じものに見える。だが、ヴェルデの傷よりも彼が負っていた傷の方が多い。ヴェルデは、途中で完全に萎縮してしまっているのだ。
「二階堂十三階。お前、一体何をした!」
 珍しく声を荒げる豪人に、二階堂は前髪をいじりながら答える。
「私の能力『堕ちていく必殺(ゲットダウン・メイクラヴ)』。ゆっくりとだ……。ゆっくりと堕ちていった時、 絶望は深い愛をくれる。保持者よ、覚えておくがいい」
二階堂は、聖書を読むように厳かな口調で告げる。それは、『真実』という言葉について語る勇騎と同じように絶対の自信に満ち溢れていた。
「絶望は甘い。絶望は深い。そして、絶望こそが真実だ」
 勇ましく戦い始めたヴェルデは戦闘不能。そして、二階堂十三階の能力は解読不能。絶望という言葉にふさわしい状況で、豪人は何も出来ずに立ち尽くしていた。
「ヴェルデ君……」
 『グランドクロス』の保持者は棒立ちしたままだ。豪人からでは彼の目は見えないが、目に何も映っていない事は判る。
「ターンを終了するのか、しないのか?まず、最初のドローくらいはしたまえよ。三ツ沢がここにいたら、相当怒っているだろう。くっくっく……別に何もしなくてもいいが、何もしないというだけでもかなりの体力を消耗するぞ?」
 傷からは今も鮮血が流れている。鮮やかな色の血液が流れ続けるのは危険だ。早く攻撃を再開しなければ、何もしないうちにヴェルデは死ぬ。
 何を言っても無駄だと思ったが、豪人は冷静になってゆっくり口を開いた。
「この世には二種類の人間がいる」
 豪人の口癖のようなセリフ。それを聞いて、ヴェルデの耳が反応する。
「敵の攻撃に怯んで自分より弱い敵にも全力を出せずに負けてしまう者。もう一つは敵の攻撃を受けているにも関わらず、自分より強い敵に立ち向かって負ける者。どちらも同じ結末を迎えてしまうが、自分に胸を張れるのはどちらの人間だろうか?そして、君はどちらの人間だ!?『グランドクロス』も持たず、二階堂十三階という敵に立ち向かっていった彼はどちらの人間だ!?答えを出すのは簡単ではない。だが、本当に強いのは一つ!保持者ならば、どちらを選ぶべきだ!!自分の行動で答えろ!ヴェルデ!!」
 ヴェルデはカードを引く。
 恐怖は心の奥底から消えたわけではない。邪悪な顔をして、何度でも顔を出すだろう。
 だが、ここには仲間がいる。だから、安心できる。安心して戦える。
「『母なる大地』だ……」
 ヴェルデは、『母なる大地』を使って『スカイソード』をマナに戻し、再召喚する。さらに、『母なる大地』をもう一度使い、それを二回繰り返した。それによって、彼のシールドが五枚になる。
「ここでは、まだ攻撃しない。ターンを終了する」
 ヴェルデには希望が舞い降りるのと共に、アイディアが舞い降りた。これで、二階堂十三階を倒す事ができる。
「絶望から逃げてどうする。最後に行き着く場所は同じ。一気に堕ちるより、少しずつ堕ちていった方がいいと判らんのか?」
 ヴェルデを責めるような口調で言う二階堂だったが、彼の顔は笑っていた。自分自身の手で相手を絶望に落とすのがたまらないと、彼の表情が語っている。
「『アクア・ハルカス』を三体召喚!三枚も手札が増えた。さらに、『エクストリーム・クロウラー』でシールドをW・ブレイク!さらに、『ドルゲーザ』でW・ブレイク!」
 増やしたヴェルデのシールドがどんどん失われていく。だが、最後の一枚は今の彼にとって追い風となる一枚だった。
「シールド・トリガー、『アクテリオン・フォース』。これを『スカイソード』にクロスする」
 T・ブレイカーとパワーアタッカーを追加する強力なクロスギアが場に出た。完全復活したヴェルデを見て、二階堂の顔から一瞬表情が消える。
「『幻緑の双月』を召喚。そして、『大勇者「ふたつ牙」』に進化」
 『ギガ・ホーン』で手札に入れていた進化クリーチャーがここで登場する。さらに、残ったマナでブロッカーの『サンフィスト』も召喚した。
「T・ブレイカーにW・ブレイカーが一体ずつ。さらに、『ギガ・ホーン』が一体。だが、私のシールドは4枚。シールド・トリガーが一枚でも出れば、クリーチャーの動きは止められる」
 ヴェルデの狙いは最初からシールドではない。彼はクリーチャーを見ている。
「本気か!?私の『堕ちていく必殺(ゲットダウン・メイクラヴ)』が怖くないのか!?」
「脅しのつもりか……」
 今は、ヴェルデが二階堂を圧倒している。この時点でどちらが有利なのかは明白だ。
「『スカイソード』で『ドルゲーザ』を攻撃!」
 攻撃を宣言した瞬間、見えない何かがヴェルデの左腕に迫る。だが、彼はそれを避けずに左腕で受け止めた。その瞬間、今までその場にいた者が聞いた事のないような金属音が響いた。
「ヴェルデ君、その腕は…。それは、君が嫌っていたはずの……」
 ヴェルデの左肩から下は、金色の鎧のような物で覆われている。彼と何度も話をした豪人は知っている。それは、彼にかけられた呪い。いずれ、彼は全身を鎧で覆われて自分自身を失ってしまうのだ。
 自ら制御し、封じていたはずの力を使う。そうする事で二階堂の能力を防いだのだ。
 ヴェルデは『「ふたつ牙」』を使って『エクストリーム・クロウラー』へ攻撃した。再び見えない何かが彼に迫ってきたが、彼はタイミングよくそれを左腕の鎧で弾いた。
「君の能力『堕ちていく必殺(ゲットダウン・メイクラヴ)』は自分のクリーチャーが破壊された時に発動する能力。不可視の刃物のような物で敵の体を切り裂き、負傷によるダメージと恐怖で相手の戦意を鈍らせる。途中までは成功したようだけど、今のヴェルデ君にはもう通じないよ?諦めたら?」
 豪人の解説によって、能力は完全に解明された。だが、二階堂は笑っている。まだ、勝つつもりなのだ。
「私の能力を見破るとは……。そして、それを完全に防ぎきるとは……。忌々しい。だが、それでこそ絶望に抱かれる資格があるというものだ!」
 ヴェルデには攻撃できるクリーチャーが『ギガ・ホーン』一体残っている。『ギガ・ホーン』がシールドをブレイクし終えて彼のターンが終了した。
「『サンフィスト』一体とシールド一枚……。脆弱な防御だ。『グランドクロス』の保持者は私の能力を防げるようだが、『ネオウエーブ』の保持者に同じ事はできない。どちらのデッキも私が頂く。そして、裏切り者は全て始末する!」
 二階堂が召喚した『バルゾー』によってヴェルデの『サンフィスト』が消える。それは、ヴェルデの守りがシールド一枚になったという事だ。
「『アクア・ハルカス』でシールドをブレイクする!一体除去したところで無駄!攻撃可能な私のクリーチャーは三体いるのだから!」
 ヴェルデの最後のシールドが割れた瞬間、金色の輝きがその世界を満たした。最後のシールドは『バリアント・スパーク』だったのだ。
「これで、二階堂十三階のクリーチャーは全てタップ。ヴェルデ君のターンだね」
 ヴェルデはカードを引き、二階堂を見据える。ヴェルデは、自分が持っているカードに倒されていった『ウイングス』のメンバーの魂が重なっていくように感じた。
「最後に『バリアント・スパーク』だと……?判らないな。何故、最後まで絶望から逃れようとするのだ。私のシールドからもシールド・トリガーが出る可能性はあるのに」
 二階堂はまだ笑っていた。だが、彼の口調は普段と少し違っていた。内なる恐怖を気取られないために無理をしているようだが、二人の保持者はそれくらい気付いていた。
「辞書を引け、と言いたいところだが、もう辞書を引く事もないだろうから、僕が解説してやる。『バリアント・スパーク』のバリアントとは『勇敢な』という意味だ。『ウイングス』の勇気、ヴェルデ君の勇気が君を倒す力になった。奇跡なんてのは、それがほんの少し見える形になっただけのものだ。本物の勇気は心の中にあって、繋がっている」
 ヴェルデは『サンフィスト』を召喚し、そこから『「ふたつ牙」』に進化する。『スカイソード』のT・ブレイクで二階堂のシールドは全てなくなった。
「俺は絶望しない。お前達を倒すまで……絶対に!」
 力強く言うヴェルデに呼応して、『「ふたつ牙」』が緑色に輝く。『「ふたつ牙」』の巨大な剣が振り下ろされる瞬間、爆発したかのように二階堂が笑い出した。
「そうか!そうだったのか!次は私の番だったのだ!絶望!絶望!絶望!!今度は、私があなたに抱かれる番だったのか!嬉しいぞ!私の番になるのをずっと待っていた!人を絶望させるのもいいが、自分が絶望するのも素敵ではないか!いいぞ!!絶望よ、私はずっとあなたを離さな……」
 最後まで彼の言葉が続く前に、剣は叩きつけられた。ヴェルデは、彼に『ブランク』を投げつけて封印する。
 仇討ちをする事で、ヴェルデの中にある嫌な気持ちが少しだけ消えていった。残った気持ちは『球舞』を倒すための力にしよう。そう決意して、ヴェルデは『ブランク』を『グランドクロス』にしまう。
「もしもし、美和。……終わったよ。僕もヴェルデ君も無事だ。少ししたら、僕らもそっちに行くよ」
 携帯電話で豪人は美和に連絡する。彼もすがすがしい顔をしていた。
「怪我の手当をして、ここを去ろう。祝勝会だ」
 世界が戦いの場から通常の世界に戻っていく。ヴェルデの腕の鎧も普通の腕へ戻っていった。
 内なる恐怖に勝つのは、勇気。そして、巨大な邪悪に打ち勝つのも勇気。受け継いだ勇気が、彼らを加速させていく。

 薄暗い廃屋。
 生命が存在しないような暗闇の中で、狂気を秘めた赤い光が輝いている。それは彼の赤い瞳。普段は包帯に隠れている狂気の眼だ。
「ゼロ号ォ……。派手にやってやがるじゃねぇかァッ!!くくく……ぶっ殺してやるよ、ゼロ号も。他に暴れてる新手のザコもォ!他の保持者もなァッ!!」
 墨川一夜(すみかわかずや)。狂気の黒が動き出す時は近い。

 第十三話 終

 第十四話予告
 一本杉に続き、二階堂まで失った事は『球舞』にとって大きな損失だった。保持者の実力を計り、絶対に勝利するため、五箇条は四天王寺と共にある罠を仕掛ける。彼女の策略が一夜、そしてゆかりに向けられる。
「夢、ですよぉ……。こんなにふわふわしてて、気持ちいいでしょ?」
 襲い掛かる二つの能力『夢幻(ユーメイダイ・インマイショウ)』と『箱庭(フー・インサイド)』が脱出不可能の牢獄を作り上げる。
 第十四話 悪夢
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