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『TOKYO決闘記』 第十四話 悪夢

『TOKYO決闘記』

 私、一ノ瀬博成(いちのせひろなり)は東京連続失踪事件の謎を追っている高校二年生だ。
 残された『ウイングス』のメンバーを守る為、ヴェルデと金城豪人(かねしろごうと)は診療所に向かった。そこに、裏切り者を始末しにやってきた二階堂十三階(にかいどうじゅうさんかい)が現れる。高速で大型クリーチャーを呼び出す二階堂。そして、クリーチャーが倒される時に発動する特殊能力。
 苦戦をしたヴェルデだったが、『ウイングス』の勇気を受け継いだ彼は奇跡を起こして勝利した。
 20XX年 一ノ瀬博成

 第十四話 悪夢
 夜の散歩をしていた三ツ沢二古(みつざわふたご)は、三人の裏切り者に囲まれていた。
 一本杉(いっぽんすぎ)が敗北してから三日が経つ。彼が敗北した夜から『球舞』のメンバーに挑戦しようという裏切り者が増え始めた。その全てが『ウイングス』と関わりを持たない新たな勢力である。 『球舞』のメンバーを倒して新たにそのメンバーになろうとする者、彼らから逃れるために反旗を翻す者、他には自分達の組織を作って『球舞』より上であると主張する者。色々な裏切り者がいた。
 三ツ沢、四天王寺五色(してんのうじごしき)、五箇条一個(ごかじょういっこ)の三人がそのほとんどを始末したが、それでも裏切り者は消えない。
 六道六儀(りくどうりくぎ)、七夕初七日(たなばたしょなのか)、八百万八卦(やおよろずはっけ)の三人が対策を練っているが、三ツ沢にはその内容は教えられていなかった。
「いっぺん死んでみる?」
 三ツ沢は、三人の裏切り者を一人ずつ睨んでいく。この前戦った『ウイングス』のメンバーよりも弱い者しかいない。実力もないのに、くだらない連中が自分を舐めている。その事が許せなかった。
 一人、二人と倒していき、残った三人目を追いつめる。圧倒的な勝利。だが、つまらないものだった。三ツ沢だけが持つ特殊能力『破滅の息(ディープ・ブレス)』を使うまでもない。
「ひ、ひぃっ……!許し、許して下さい……ッ!」
 勝てると思ったら裏切り、負けると判ったら命乞いをする。調子のいい事ばかり言う目の前の男に三ツ沢はにこりと微笑み、
「ごめんねぇ……。強くてさぁ!」
と言って、クリーチャーでとどめをさした。倒された男は、『ブランク』に封印される。保持者との戦いが終わった頃に兵士として再教育されるか、それとも処刑されるのか。いずれにしても、それは三ツ沢の決める事ではなく、彼にとってもう興味がない事だった。
 デュエルをしている時からむなしさが止まらない。三ツ沢はくわえていた煙草チョコを握りつぶすと、新しい煙草チョコをくわえた。
「ただの裏切り者では『球舞』を倒せない。飼い犬に手をかまれるとは、今のような状況を言うのだろうね」
「五箇条先生っすか」
 常に白衣を身に纏った女医、五箇条一個(ごかじょういっこ)は離れた場所で三ツ沢の戦いを観察していた。勝つ事が判っている戦いも、彼女にとっては研究対象なのだ。
「うぜぇ、マジでこういう舐めてる奴らはうざいっすよ。『ウイングス』の方がまだ楽しめた」
「ならば、保持者と戦うか?」
 忌々しげに言葉を吐き出した三ツ沢に、五箇条から思わぬ提案をされた。
 『球舞』にとって倒すべき目的の一つである五人の保持者。彼らの手で計画が阻まれている事は事実だ。障害を排除すると同時に、彼らの持つデッキの力が必要である。保持者を一人でも倒せれば『球舞』の中での地位は上がるだろう。
「冗談だよ」
 緊張した顔で見つめる三ツ沢に対して、五箇条は静かに言う。
「君が保持者と戦う事に恐怖している事くらい知っている。一本杉、二階堂と続いているから次は自分が戦う番だと考えているかもしれないが、そんな順番には何の意味もない」
 三ツ沢は自分の考えが見透かされている事に、多少の嫌悪感を覚えた。五箇条の能力がそういったものである事は知っているが、プライベートまで覗かれるのは許しがたい。
「三ツ沢、私は『箱庭(フー・インサイド)』を使って君の心を覗いたのではない。仲間の心を覗くような無粋な真似はしないよ。君のデュエルや仕草からちょっと推測してみただけさ」
「うーん、五箇条先生に完全に読まれてしまう程度の思考って事はちょっときついものがあるっすね」
「それだけの観察眼と想像力が私にあると認めたらどうだ?まあ、いいか」
 五箇条は三ツ沢の煙草チョコの箱を取り「一本もらうよ」と言って口にくわえた。
「禁煙し始めてから口元が寂しくてな……」
「おしゃぶりでもしてたらどうっすか?五箇条先生の外見なら似合うと思うっすよ」
「また貴様はそんなろくでもない事を!」
 三ツ沢の挑発に乗った五箇条は彼のネクタイに手をかけ、首を締め付ける。
「うお、マジでシャレにならないっすよ。死んでしまうっす」
 しばらくして、五箇条は手を離した。三ツ沢が苦しむ姿を見て、満足したらしい。
「次は私と五色(ごしき)が戦いに行くよ。五色の『夢幻(ユーメイダイ・インマイショウ)』は燃費が悪い能力だが、私の能力の全てを使うためには彼女の能力が必要だ。私もあの力が欲しかった」
 三ツ沢は「欲しいのは能力じゃなくて、身長じゃないっすか?」と言いかけて言葉を飲み込む。幸いな事に五箇条はセリフの後半は聞いていなかった。
「五箇条先生と四天王寺(してんのうじ)さんが戦うんすか。二人でコンビを組むとなると……どの保持者を倒すんすか?」
「一人は、『ウイングス』に関わりのない墨川一夜(すみかわかずや)だ」
「げぇっ!あ、あいつっすかぁ!?」
 三ツ沢も自分の部下達や一本杉からその保持者の危険性は聞いている。
 墨川一夜。『エクスプロード』の保持者。
 他の保持者以上に好戦的であり、赤城勇騎を倒す事にこだわり続けている。二人の間に何があったのか、それを知る者はいないし、一本杉も調査できなかった。兵士の体の中から、ブレインジャッカーだけを吸い出す奇妙な能力があり、彼を調査しようと思った部下達の多くはそれにやられている。
「彼の赤城勇騎に対する執着心を利用して、我々に引き込む。そして、もう一人」
「二人も!?」
 三ツ沢は二人で一人の保持者を倒すものだと思っていた。だが、そうではなく二人の保持者を相手にするというのだ。
「もう一人は、怪盗アルケーだ」
 怪盗アルケー。
 東京連続失踪事件と同じように、マスコミを騒がせている人物だ。一本杉が最後につかんだ情報から、保持者の可能性が高いと推測される。男か女か、年齢や容姿もまったく判っていない謎の存在。一説では、複数の人間が怪盗アルケーという名で集団を組んでいると言われているが、一本杉はその説を否定していた。
「保持者かどうかも判っていない奴じゃないっすか!そんな奴を相手にしてどうしようっていうんすか?」
「彼女は保持者だよ」
 五箇条は断言する。絶対に間違いないという自信があるのだ。
「え……?彼女って……アルケーは女?」
「そう、怪盗アルケーは若い女だ」
 淡々と発言する五箇条を見て、三ツ沢は改めて彼女の能力に恐怖した。五箇条の長所は、特殊能力『箱庭(フー・インサイド)』だけではない。磨かれた観察眼と推理力は『球舞』の中でもずば抜けている。
「若い女って言っても、東京にはたくさん若い女がいるっすよね?あ、もちろん、五箇条先生は三十路っすから、若い女の中には含まれないっすけど」
 余計な事を言った三ツ沢の首が再度、締め付けられる。彼の顔色が悪くなったところで、五箇条は手を離して説明を続けた。
「すでに目星はつけてある。私の予想が当たっている確率は、恐らく九十パーセントといったところだろう。それを『箱庭(フー・インサイド)』で確かめる」
「一体、アルケーは何者なんすか」
 息も絶え絶えになりながら、三ツ沢が質問する。だが、五箇条はその質問に答えなかった。
「五色が来ないな。ここで待ち合わせているんだが……。三ツ沢、五色を見なかったか?」
「四天王寺さんみたいな行き倒れが趣味の偽女子高生が通りかかって気付かない奴なんているわけないっすよ。四天王寺さんが最後に物を食べたのは、いつなんすか?」
「三時のおやつにピザを与えたが……。まさか!」
 二人は即座にその場を離れる。五分近く探すと、人通りの少ない道路でその少女、四天王寺五色はいつものように倒れていた。
「はぅ……お腹空いたれすよぅ……。おやつが冷凍ピザだけじゃ……夜まで持たないれすよぉ~」
「能力で体に負担がかかるから空腹になるというのはある程度判るが、食べた分の栄養はどこに行くんだ?」
 医者の五箇条にとっても、四天王寺の謎だけは判らなかった。五箇条と三ツ沢の二人は、四天王寺に肩を貸して食事ができるところを探して再び歩き始めた。

 金城豪人は都心にあるマンションを借りて住んでいた。それも、マンションとは名ばかりのアパートではなく、その言葉が本来持つ意味にふさわしい高級なマンションだった。普通の人間にとっては一部屋だけでも贅沢なのに、彼はそれを二部屋借りている。片方は豪人の住まいで、もう片方は連れの佐倉美和(さくらみわ)が住むのに使っているのだという。
 二部屋借りた事を疑問に思った博成に対して、彼は最後にこう言った。
「結婚するまで、美和の体に手は出さない事にしてるんだ。僕なりのけじめだよ」
 手を出す、という意味を聞こうとした博成は一緒にいたゆかりに止められる。そこで、彼はようやくその言葉の意味を理解した。
 学校帰りの勇騎(ゆうき)、博成、ゆかり、日芽(ひめ)の四人は、携帯電話のメールで豪人に呼び出された。内容は、一緒に食事をしようというもので、今までも何度かある事だった。変わっているのは、豪人の住むマンションで、という点のみである。
 豪人が食事に誘う時は、いつも高い食事なので、博成もゆかりもびくびくしながらその場所に行くのである。だが、豪人の自宅でホームパーティならば、それほど気負いする事もあるまいと思って向かった。だが、マンションの豪華さに二人は言葉を失った。勇騎はこういう時に感想をいう事が少ないのでどう思っているのか判らない。日芽は常にマイペースでこういう時も堂々としているように見える。
 そこであった会話の内容は、ほとんど他愛のない世間話だった。豪人がゆかりをナンパして「あなたには美和ちゃんがいるでしょ!」と、断られたのが始まりで、ちょっとした宴会のようになっていた。
 博成が名も知らぬような色々な料理があって、舌だけでなく目で楽しむ事もできた。尤も、勇騎は持参したカロリーメイトを頬張っていたので、一人だけいつもと変わらない食事だったのだが。
「いやー、身近なところでこんなに楽しい宴会場所があるなんて思いもしなかったわ。また呼んでよね!」
「もちろんだとも」
 豪人との面識がほとんどなかったゆかりも、彼と親しくなっていた。親交を深めるために豪人が考えたのだとしたら、大成功である。
 四人が帰る時には、辺りはすっかり暗くなっていた。勇騎達三人とゆかりは帰る方向が別なので、博成が送っていこうか提案をしたが、それは却下された。
「大丈夫よ。人通りの少ない道を通るわけじゃないんだし」
「いや、送っていこう」
 その言葉を発したのは、豪人でも博成でもなく、勇騎だった。思わぬ言葉に一番驚いたのはゆかりだったらしい。
「いいっていいって!ここから駅まですぐだし!気にしないで!じゃ、明日また学校でね!」
 そう言ってゆかりはすぐに立ち去ってしまう。動作に少しおかしな部分があったが、三人は特に気にしなかった。
「ほぅ、そういう事かな……」
 豪人だけが納得したように微笑んでいたが、勇騎達三人には聞こえていない。
「金城」
 博成と日芽が立ち去ってからしばらくした後、勇騎は豪人に話しかける。
「何故、突然こんな意味のない宴会を開いた?」
「思い出作り、かな?美和の提案だよ」
「思い出……?」
「そう。僕達はいつ『球舞』との戦いでやられるか判らない。もちろん、全ての戦いに勝つつもりだけど、絶対に勝てるという保障はない。いつ負けてもいいように、色々な思い出を作ろうと思ったんだ」
「それは、無駄な事だ」
 余計なお世話だ、とでも言うように、勇騎は豪人を睨みつける。
「俺は『球舞』のどのメンバーにも負けるつもりはない」
「まだ姿を現していない九重九十九にも……?」
 勇騎は言葉に詰まる。博成達の前では必ず勝利すると言ったが、未知なる敵の実力は判らない。
「奴らの目的は判らない。だけど、まだ姿を現していない九重九十九にヒントがあるんじゃないかな?」
「九重九十九は姿を現していないんじゃなく、現せないという事か」
「その通りさ」
 自分の考えがすぐに通じたので、豪人は喜んでにこりと微笑む。
「九重九十九が出てくる前に、彼らを仕切っている八百万八卦を倒せれば『球舞』は終わりだと思う」
「金城、お前……」
「ま、そういう事だから高校生は勉強してなよ。この時期だとテストも近いだろう?」
「勇騎くーん、早くー!」
 博成が勇騎を呼ぶ声が聞こえる。
「僕は、勝つよ」
 豪人は断言した。敵将を討ち取って戦いを終わらせようとしているのだ。何も言わずに勇騎は立ち去る。豪人は今日にでも戦いに行くだろう。
 世間を騒がせていた東京連続失踪事件が終わろうとしていた。

「はぁー……はぁーっ……!」
 寝苦しさを感じて、墨川一夜は目を覚ます。体が苦しくてたまらない。これが収まるのは、最大のライバルである赤城勇騎と戦っている時だけだ。彼を倒せば、この苦しみは全て消える気がする。
「なんだ……うるせぇっ!」
 廃屋の外から奇妙な音楽が聞こえる。それはまるで遊園地のパレードのような曲だ。
 ドアを蹴破った一夜がそこで見たのは、見慣れた風景とは違う光と音の演出だった。いつもは黒いはずの道路が、黄色や赤の鮮やかな道に変わっている。黒い夜空をかき消すようにライトの光が照らし、色とりどりの風船が空を舞う。そして、楽しそうなリズムの曲と共に、兎や猫のような可愛らしい動物を模したキャラクターが練り歩いていた。遠くには、観覧車やメリーゴーランドなどの乗り物もあった。
 一夜は一度も見た事はないが、そこが遊園地だと理解した。
「な……!」
 さすがの彼もこれには言葉を失う。彼が寝床にしていた廃屋の周りには何もなかった。だからこそ、彼はこの場所を選んだのだ。
「遊園地とは、人々の楽しみのために存在する。お前も笑え」
 この場所に現れたのは、遊園地には似つかわしくない、戦うために生きる少年だった。混乱していた一夜はその少年を見て、にやりと笑う。
「楽しむためだァ?だったら、俺も楽しめるじゃねぇかァッ!そうだろ、ゼロ号ッ!!」
 一夜の『エクスプロード』が輝き、雄叫びが空を揺るがす。勇騎も『プロミネンス』を赤く輝かせると、一枚のカードをそこから抜き出した。
「『タイラーのライター』を召喚する」
 すると、カードから抜け出た『タイラーのライター』が一夜に向かって突進してきた。避ける間もなく、一夜はクリーチャーに突き飛ばされ、後ろにあった大木に激突する。
「かはっ……な、何がどうなって……」
 背後には、廃屋があったはずだ。その廃屋も、それが立っていた場所も消えている。
「所詮、お前は俺を真似て作られただけの失敗作」
 前から勇騎が近づいてくる。横から同じような気配を感じた一夜がそちらを向くと、そこからも勇騎が歩いて来た。逆の方向を見ると、そこからもやってくる。
「お前を見ているだけで不愉快だ」
「だから、俺はお前を壊す」
「消えて無くなれ!」
 ありえない事が連続して起こっている。普通の人間なら混乱してしまうところだが、一夜は逆に冷静さを取り戻し、笑っていた。
「不愉快……?壊す…?くくく、けーけっけっけ!!奇遇だな、ゼロ号ォ!!俺もお前が嫌いだ!そして、消えて無くなるのはお前だけなんだよォォォッ!!」
 一夜は胸の包帯を引きちぎり、口のような傷跡をさらす。その傷跡は口のように開き、周りにいた三人の勇騎を吸い込み始めた。
「食らって!食らってェ!食らって食い尽くしてやるぜ、ゼロ号ォォォッ!!」
 三人の勇騎を吸い込み終わっても、一夜の暴走は止まらない。綺麗な光も鮮やかな風船も可愛らしいマスコットも遊具も、全てを飲み込んでしまった。
 ふと気付くと、彼は妙な部屋に立っていた。白いタイル張りの床と壁。上にある大きなライト。銀色に輝くいくつもの特殊な機械。そして、部屋全体に流れる薬の匂い。
「ゼロ号ォォ!どこだァァッ!!何故、お前が俺の産まれた場所を知ってやがるッ!?」
「手術する場所みたい……。ごぉさんが喜びそうな場所ですねぇ、ここって」
 タイル張りの壁をすり抜けて一人の少女が現れる。紺色のセーターにスカートといった女子高生のような服装。『球舞』の一人、四天王寺五色だ。
「てめぇェェ……てめぇかァ!」
 一夜は瞬時に『エクスプロード』を取り出す。目の前にいる四天王寺が幻覚のような空間を作っている事を本能的に理解した。そして、そうと判ったらやるべき事は一つ。目の前の敵を倒して脱出するだけだ。
「はーいっ、あたし、四天王寺五色。『球舞』で働く二十歳です!」
 一夜に対して元気に自己紹介をする四天王寺。食事を終えたため、空腹を気にする事はなかった。
「てめぇ、ここはどこだァ!」
吠える一夜に対して、四天王寺は妖しげに微笑む。その目に、思わず一夜もぞくりとするほどだった。
「夢、ですよぉ……。こんなにふわふわしてて、気持ちいいでしょ?」
 そう言うと、四天王寺は狭い部屋の中を、踊っているかのようにくるくると回り始めた。
「夢って、いいですよ~。あたし、おっきなケーキを独り占めする夢が一番好き。みっちゃんもごぉさんもななちゃんも羨ましそうに見てるのを一人で食べるの。でも、ケーキにナイフを入れて食べやすいように切って、イチゴにフォークを刺した瞬間にいつも目が覚めちゃうんですよ~。ケーキ食べてから目が覚めて欲しいのに~」
 のんびりした口調で、四天王寺はまだまだ言葉を続ける。
「でも~、怖い夢は嫌れすよぉ~。この前、大嫌いなブルドッグに追いかけられる夢を見たんれすよぉ~。ブルドッグが百八匹。百八匹わんちゃんれすよ~。煩悩の数なんれすよぉ。そういう時に限って目が覚めないんれすよぉ~。早く目が覚めて欲しいのに~」
「てめぇ!おちょくってやがるのかァッ!」
「別に~」
 四天王寺は舌を出して下唇を舐める。
 一夜は焦っているのだ。四天王寺ののんびりした口調に苛立っているのではない。この場所は彼にとって最も忌み嫌う場所だから、早く逃げ出したいのだ。
「あたしの能力『夢幻(ユーメイダイ・インマイショウ)』は怖い夢を見せる力なんですよぉ~。怖い夢の中で永久に閉じ込められてしまうといいですよぉ~」
 ようやく四天王寺がデッキを取り出す。一夜の動悸(どうき)が激しくなっている。汗をかく量も増えた。
 夢の中で、自分の弱点が浮き彫りにされる。どれだけ心を鍛えていても、この攻撃から逃れる術はない。
「やめろ……!俺は……俺はアアァァァッ!!」
 一夜が叫び、彼の目の前に五枚のシールドが現れる。目の前にいる悪夢を操る少女を倒さない限り、出る事はできない。
「うふふ、怖いんですか~。怖いって言っていいんですよ~」
 四天王寺も戦いの準備を終え、悪夢の中で二人のデュエルが始まった。

「ん……」
 ゆかりは目を覚ます。どうやら、電車に乗っている内に眠ってしまったらしい。冬は座席が暖かくなっているから、心地よくて眠ってしまう事があるのだ。最近、東京連続失踪事件の核心に近づいた事もあり、新聞委員会の締め切りも近づいている事もあって疲れていた。
 今、どの辺りの駅なのかを確認しようと思ってゆかりが周りを見ようとした時、彼女は自分の体の異変に気がつく。椅子に体が固定されていて動けないのだ。しかも、この椅子は自分が座っていた電車の座席ではなく、人を拘束するために作られた特殊な椅子のようだ。両手両脚、そして、腹部がベルトで固定されている。
 周りは病院の診察室のようになっている。目の前でコンピュータをいじっていた女医が、ゆかりが起きた事に気付いたのかこちらを向いた。
「おはよう、青海(おうみ)ゆかり。会えて光栄だよ」
「何で、アタシの名前を……。あっ!あなたもしかして!」
 勇騎達を追って新宿を走った時に見た『球舞』のメンバー。その中に白衣を着た小柄な女性がいた。ゆかりは、一度見た人間の顔や特徴を簡単に忘れる事はない。新聞委員会に所属して活動している内に、人の顔を覚えるスキルはどんどん成長していった。
「そう、私は『球舞』の五箇条一個。挨拶もなしに悪いが、君には退場してもらって早く出てきて欲しい人物がいるのだよ」
「何の事よ!大体、電車の中からアタシを誘拐してこんなところに閉じ込めて何のつもり!?」
 五箇条はゆかりの質問には答えない。その代わり、彼女の顔に自分の顔を近づけてこう言った。
「君に用はないと言っているんだ。もう一人の君、怪盗アルケーの姿を見たい」

 第十四話 終

 第十五話予告
 記憶の中にある最も恐怖する場所での戦いを余儀なくされる能力『夢幻(ユーメイダイ・インマイショウ)』。そして、相手が一番強く思っている事を見抜く能力『箱庭(フー・インサイド)』。体ではなく、心を攻撃する能力に苦戦する一夜。そして、ゆかりの体を使って五箇条の前に現れるアルケー。
「好奇心。それは知力の源。そして、世界を進化させる力だ」
 自分の暗い過去が無理矢理開かれる時、人はどうやって戦えばいいのか。
 第十五話 内側
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