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『TOKYO決闘記』 第十六話 王手

『TOKYO決闘記』

 私、一ノ瀬博成(いちのせひろなり)は東京連続失踪事件の謎を追っている高校二年生だ。
 四天王寺五色(してんのうじごしき)、五箇条一個(ごかじょういっこ)によって夢の世界へ閉じ込められ、それぞれと対戦する墨川一夜(すみかわかずや)と青海(おうみ)ゆかり。ゆかりの中に眠っていた怪盗アルケーが目を覚まし、五箇条と戦うが、相手の隙をついて相手の隠された情報を読み取る『箱庭(フー・インサイド)』に苦戦しつつも、勇騎の行動を真似て心を静かにする事で勝利した。一方、四天王寺の『夢幻(ユーメイダイ・インマイショウ)』によって最も苦手な景色を見ながら戦っていた一夜も切り札を使い、彼女を倒した。
 その頃、金城豪人(かねしろごうと)と八百万八卦(やおよろずはっけ)の二人は、夜の新宿で待ち合わせていた。戦いを終わらせるため、豪人の挑戦が始まる。
 20XX年 一ノ瀬博成

 第十六話 王手
 夜の九時を過ぎた頃だった。
 二階の自室で様々な情報を調べていた勇騎(ゆうき)は、犬の鳴き声を聞いて一階に降りてきた。普段は、大人しいチョコとミントが唸ったり吠えたりしている。傍(そば)で、日芽(ひめ)が二匹のラブラドールレトリーバーを撫でているが、落ち着く素振りすら見せない。
「ゼロ、チョコとミントが……」
「様子がおかしいな。何かに脅えているのか」
 動物は、保持者以上に敏感だ。特に犬の耳の良さは侮れないものがある。奇妙な気配を感じて吠えたとしても不思議ではない。
「俺が外に出てみよう。何もないと思うが、念のためだ」
「判ったよ。お母さんには、何て言っておく?」
 お母さんとは、二人の保護者である赤城博士の事である。赤城博士は未婚であり、二人の本当の母ではない。だが、博士は二人の母として振る舞い、二人もそうやって過ごしている。
 今の時間は、まだ大学で研究をしているのかもしれない。最近、解析が忙しいと言っていた。
「もし、帰ってきたら、俺はコンビニに行ったと言っておけ。十分もかからないだろう」
 一度着替えてからコートを羽織った勇騎は、家を出て歩く。注意して気配を辿ると、少しだが殺気を感じた。その殺気を追って歩いて行くと、どんどんその殺気は強くなっていき、勇騎は公園に着いた。 そこには、戦いを終えたばかりの一人の保持者がいた。
「殺しに来たぜ、ゼロ号……」
「そうだったな。『球舞』より先にお前を倒すべきだった」
 二人の手の中で輝く『プロミネンス』と『エクスプロード』。変化する世界。
 因縁で結ばれた男達が、ぶつかり合う時が来たのだ。
(金城は、今頃『球舞』の八百万八卦と戦っているところか……。『球舞』は奴に任せて、俺はこいつとの決着をつける!)
 瞬く間に現れるシールド。そして、周囲の空気すら焼き尽くしそうな闘志。二人がカードを手に取った瞬間、それは爆発した。
「けーっけっけっけ!死ね死ね!死にやがれえェェッ、ゼロ号ォォォッ!!」
「中途半端では終わらせない。細胞一つ残さず、お前をこの世から消してやる!」
 抹殺。目の前にいる自分と酷似した者を、完全に抹殺する。その一つの目的のためだけに、二人は動いていた。
「『フェアリー・ライフ』!マナを増やす!」
「『リップ・ウォッピー』、召喚!」
「『コッコ・ルピア』を召喚する」
「『黒神龍ギランド』ォォッ!そして、『リップ・ウォッピー』の効果でドロー!」
 互いに動きが止まらない。余計な思考をする時間も、相手にかける言葉もない。一秒でも早く、相手を消し去りたい。
 鏡に映したような奇妙な一体感を持ってデュエルは続く。
「くたばれ、ゼロ号ォォォッ!『暗黒王デス・フェニックス』召喚ッ!!」
 『リップ・ウォッピー』と『ギランド』を進化元にして一夜の切り札、『デス・フェニックス』が場に降臨する。勇騎も一夜もまだシールドには攻撃していないため、互いにシールドは五枚だ。その均衡を一夜が圧倒的な暴力と共に破る。
「『デス・フェニックス』!邪魔なシールドをかき消せェッ!」
 一夜の内面を象徴するかのようなどす黒い炎の渦が、勇騎のシールド二枚を焼き尽くした。その二枚は、『サイバー・ブレイン』と『ナチュラル・トラップ』。どちらも、シールド・トリガーであり、その内の一枚は使えば相手クリーチャーを場から消す事も可能なカードだった。
 冷静でデュエル中に感情を表さない勇騎だが、今回は不快そうな表情を隠さない。だが、彼が不満に思っているのはシールドを直接墓地に送られた事ではなかった。
「フェニックスだと……?どこまで、俺の真似を……。お前は、もう一人の俺じゃない!」
 勇騎の場には、すでに『グレガリゴン』と『コッコ・ルピア』が揃っていた。彼も切り札の召喚が可能である。
「進化、『太陽王ソウル・フェニックス』!」
 勇騎が出した切り札も一夜と同じようにフェニックスだった。二体のフェニックスが場に並び、威嚇(いかく)しあうように互いに吠える。
「くくく、けーけっけっけ!ゼロ号が、フェニックスだと……?」
 一夜は顔の右半分を覆う包帯に手をかけると、そのままかきむしり始めた。
「てめえェェッ!どこまで同じなんだゼロ号ォォッ!貴様がいつもいる!俺の邪魔をしやがって!かゆいかゆいかゆいかゆい、うがあああッ!かゆいんだよォォッ!!邪魔者がァッ!!」
「邪魔なのは貴様だ。『ソウル・フェニックス』で『デス・フェニックス』を攻撃!」
 凶悪な特殊能力を持つ『デス・フェニックス』だが、パワーでは『ソウル・フェニックス』の方が勝っている。『ソウル・フェニックス』は持っていた二本の剣を『デス・フェニックス』の体に深く突き刺し、地面に叩きつけた。
「ぐおおッ……。呪え、『デス・フェニックス』!!」
 『デス・フェニックス』の断末魔と共に、勇騎の手札が全て風化し崩れ落ちる。
 『デス・フェニックス』は場を離れた時にも特殊能力を発動させる。それは、相手の手札を全て破壊するという邪悪な能力だ。
(手札はない。だが、『ソウル・フェニックス』はT・ブレイカーを持つ俺の切り札。このまま、押し切る事は可能だ)
 勇騎は冷静な判断をしているが、いつもの彼とは心理状態が違っていた。彼は、一夜の前でいつも冷静さを失う。自分の中にある強烈な殺意に支配されるのだ。
「何故、いつも俺の前に現れる……?何故、俺に戦いを挑む……?何故、俺に似た姿をしているんだ!!」
「てめえが俺で、俺がてめえだからだ、ゼロ号!お前を殺せば、俺がお前になり、全てが安定するんだよォォッ!!」
 咆哮と共に、一夜の『神滅竜騎ガルザーク』が現れる。単体でも攻撃されないパワー6000のW・ブレイカーという恐ろしい能力を持っているドラゴンだが、このクリーチャーの特殊能力はそれで終わりではない。場に他のドラゴンがいれば、パワーアタッカーが追加され、T・ブレイカーを得る。
「『ソウル・フェニックス』に倒されない切り札が出た。ゼロ号……覚悟しやがれェェェッ!!」

「『電脳封魔マクスヴァル』を召喚。ターン終了だ」
 八卦が最初に召喚したのは闇文明のクリーチャーのコストを軽減するブロッカーだった。
「後続の大型クリーチャーに注意、って事だね。まずは様子見だ」
 豪人は『パルピィ・ゴービー』を召喚して山札の上を確認する。そして、満足した表情でカードを戻した。
「君を倒す準備はできた。命乞いはもう聞かないよ」
 豪人が静かに微笑み、それに対して八卦も微笑み返す。静かな、張り詰めた緊張感。その空気を先に壊したのは八卦だった。
「『甲魔戦攻ギリメギス』召喚!『マクスヴァル』の効果で1ターン早く召喚ができる」
「へぇ……やるね」
 4ターン目に登場した大型クリーチャーを見ても、豪人の静かな微笑みは消えない。例え、どんなピンチに陥ったとしても彼は余裕の表情を消さないのだ。
「『電脳聖霊グラリス』を召喚。終わりだよ」
 この後に続くカードは『パルピィ・ゴービー』で操作している。現時点でできる最高のドローが可能なのだ。
 豪人は、八卦の動きとマナのカードから相手の戦略を予想しようと試みた。
 『ギリメギス』は召喚に闇、水、自然の三つの文明のマナを必要とするクリーチャーだ。特殊な能力はないが、5マナでパワー9000という破格のパワーに加えてW・ブレイカーまで持っている。同じコストのクリーチャーに比べて戦闘における能力はずば抜けていると断言できるカードだ。
「何を狙っているかっていうのかが問題だね……。それに『球舞』のリーダー格ならば、特殊能力も持っているんだろう?」
 『球舞』のメンバーが持つ特殊能力はデュエルの妨害として使用される。一本杉四神(いっぽんすぎしじん)の『時の奴隷(タイム・キーパー)』は最初から起動している事を相手に判らせ、プレイミスを誘わせる能力。二階堂十三階(にかいどうじゅうさんかい)の『堕ちていく必殺(ゲットダウン・メイクラヴ)』は自分のクリーチャーを破壊された時に発動する能力で、対戦相手の選択肢を奪う能力だ。
「君はどっちのタイプの能力かな?『時の奴隷(タイム・キーパー)』のようにデュエルが始まってから終わるまで能力が続くタイプか、それとも『堕ちていく必殺(ゲットダウン・メイクラヴ)』みたいに何かのきっかけで発動するタイプかな」
「お前が強ければ、俺の能力を見る機会があるだろう」
 八卦は挑発的な言葉を豪人にかけると、『アクアン』を召喚して手札を補充した。五枚めくった内の三枚が手札に入り、二枚が墓地に行った。
「そして、『ギリメギス』でシールドをブレイク!」
 先に攻撃を仕掛けたのは八卦だった。八卦の行動に、豪人は感嘆のため息をもらす。
「なるほど。シールド・トリガーは恐れないタイプか。ブロックはしないよ。これで、手札が増えた」
 4ターン目でデメリットのないW・ブレイカーが召喚され、それが暴れる事は脅威だ。放っておけば、シールドはすぐになくなってしまう。
だが、豪人には策がある。だからこそ、八卦の攻撃を受けたのだ。
「ドロー。そして、僕の切り札、行くよ!『聖霊王エルフェウス』!」
 豪人が『グラリス』の上に重ねたのは、エンジェル・コマンドの進化クリーチャーだ。『エルフェウス』の特殊能力によって、次のターンから八卦が召喚するクリーチャーはタップされた状態で場に出る事になる。
「『エルフェウス』のパワーは9500。この500が効くんだよね」
 笑っていた豪人は、目だけ真剣になって『ギリメギス』を見据えた。
「『エルフェウス』で『ギリメギス』を攻撃!」
 序盤で召喚された大型クリーチャーが、豪人の切り札によって破壊される。『エルフェウス』の能力によって相手の動きは封じたも同然である。豪人に有利な条件ばかりが揃っている。
 だが、豪人はどこか不機嫌そうに笑っていた。
「その顔は、何か企んでいるって感じだね。掌の上で転がされているみたいで、何か好きになれないなぁ……。好きになる必要もないけどね」
「『ギリメギス』を倒した事を喜ばないのか。なかなかいい思考だ」
 『マクスヴァル』はブロックが可能だった。あえてブロックせずに『ギリメギス』を犠牲にしたのには、理由があるとしか思えない。
「お前のような人材が欲しかった。判断力に優れた強いデュエリストが……」
「残念だけど、僕は自由が好きなんだ。組織に飼いならされるなんて御免だね。……まあ、かわいい女の子のためならば、組織の中にいるのも悪くはないけれど」
「ふん」
 八卦は愉快そうに鼻で笑うと、一枚の呪文を使った。それによって、墓地からクリーチャーが蘇ってくる。
「『インフェルノ・ゲート』だ。これで、『ドルゲーザ』を召喚し二枚ドローする」
「なるほど。さっき『アクアン』を使った時に墓地に送ったのか……。考えられた戦術だ」
 『ドルゲーザ』もパワー9000の大型クリーチャーだが、タップされた状態でしか場に出る事が許されない。八卦のクリーチャーの中で、安全なのは『アクアン』と『マクスヴァル』だけだった。
「やれやれ。早く何とかしないとね」
 豪人は頭を振って場を見る。『エルフェウス』の効果でタップしたまま場に出るとはいっても、毎ターン大型クリーチャーを召喚されるのは危険である。今はまだ対処できるが、二体同時で召喚されたら対処する事は難しい。
「『アクアン』で手札補充。そして、『ドルゲーザ』を攻撃さ」
 八卦はブロックをしなかった。何を企んでいるのかは判らないが、豪人には一つだけ判る事があった。
(八百万八卦の切り札は、闇文明のクリーチャーだ)
 光と水で構成された豪人のデッキに手札破壊のカードは入っていない。八卦が粘り続けて切り札を召喚したら、戦況は大きく変わる。
(それに、彼はまだ特殊能力を使っていない。用心しつつ、一気に攻め落とす!)

「『ガルザーク』!シールド三枚をぶち壊しやがれェェッ!!」
 『ガルザーク』は、一夜が召喚した『黒神龍バグラザード』が場にいる事によって強化されていた。先にシールドを全て失ったのは、勇騎だ。
「シールドなど必要ない。俺が欲しいのは、お前の最期だ!」
 勇騎の最後のシールドは、『フェアリー・ライフ』だった。マナが増える事で、次のターン以降の選択肢が増える。
 一夜の場にいるクリーチャーは、『バグラザード』と『ガルザーク』。そして、残るシールドは二枚だ。対する勇騎の場には、『太陽王ソウル・フェニックス』だけがいた。
 この状況は、まだ一夜の方が有利と言えるかもしれない。だが、互いに手札は尽きている。
 今、彼らが勝つのに必要なのは、修羅場を潜り抜けた経験でも敵を打ち負かす圧倒的な実力でもない。運なのだ。同じような者が出会った場合、運命に気に入られた方が生き残り、嫌われた者は淘汰される。残酷な法則に、勝負が支配されていた。
「俺は勝ちに行く!『ナチュラル・トラップ』で『ガルザーク』をマナに!」
 『ガルザーク』がマナに封じ込められる。これで、勇騎を攻撃できるクリーチャーはいなくなった。
「『ソウル・フェニックス』で残り二枚のシールドをブレイク!」
 『ソウル・フェニックス』が一枚目をブレイクし、二枚目のシールドに触れた瞬間、それが黒く輝き始めた。それを見て、勇騎は驚き、一夜は歯をむき出しにして高らかに笑った。
「消えろ、カスが……!」
 静かに一夜が言うと、『ソウル・フェニックス』の肉体は黒い粉のようになって崩れ落ち、周囲には緑色の羽が舞い落ちた。
「『デーモン・ハンド』か……」
 『ソウル・フェニックス』自体は破壊されたが、進化元にしていた『コッコ・ルピア』と『グレガリゴン』は場に残っている。この二体のどちらかで攻撃すれば、一夜を倒す事ができる。
「勝つつもりか?甘い、甘いぜ、ゼロ号ォォッ!!」
 『ノーブル・エンフォーサー』と『黒神龍ギランド』が一夜の場に出る。これによって、パワー2000以下のクリーチャーは攻撃ができなくなった。つまり、勇騎は『コッコ・ルピア』を使って一夜を倒す事ができなくなったのだ。
「『バグラザード』!『グレガリゴン』を潰せェ!」
 そして、攻撃可能だった『グレガリゴン』も一夜の『バグラザード』によって破壊されてしまった。絶体絶命の追い詰められた状況だった。
「終わりだ、ゼロ号……。お前は消えて、俺は本物になる!」
「ああ、終わりだな……」
 死が目前に迫っていても、勇騎の闘志は消えていない。まだ、彼には勝つための牙がある。
「終わるのは、お前だがな!」
 勇騎が一枚のカードを場に出し、それが一夜にかつてない威圧感を与える。その一体に逆転の可能性が秘められているのだ。
「『無双竜機ボルグレス・バーズ』。場に出た時、マナにあるドラゴンを好きなだけ手札に加えられるドラゴンだ」
「今さらドラゴンを手札に戻しても意味はねェッ!やけになったか、ゼロ号!」
 見ると、勇騎のマナは五枚残っている。その意味を悟って一夜は恐怖した。
「あの時、『フェアリー・ライフ』を使ったのも……まさか……!」
「そう……。俺は回収するつもりでマナに切り札を仕込んでおいた。コッコ・ルピアの効果で2マナ削減!出ろ、『超竜バジュラ』!!」
 『ボルグレス・バーズ』は最強クラスの進化ドラゴンへと肉体を変化させる。
 もう一夜を守る壁は何もない。この時点で勇騎の勝利が確定した。
「『超竜バジュラ』で墨川一夜を攻撃……!」
 『バジュラ』が持っていた鎖の先にある巨大なハンマーが一夜を目掛けて振り下ろされた。巨大な鉄の球体は、どんどん速度を上げていき、そして……。

 『球舞』のメンバーは名前と苗字に数字が入っているが、その数字が同じ者は上位クラスの存在とされている。九重九十九、八百万八卦、七夕初七日、六道六儀の四人だ。
 九重九十九は『球舞』のメンバーの前にも姿を見せる事が少ない為、『球舞』はそれ以外の三人が仕切っていたと言える。その中で、八百万八卦は実質的なリーダーとしてここまで活動を進めてきた。
 東京連続失踪事件は、彼が多くの部下を得るために考案した一大プロジェクトだったのだ。
「さてと……君を倒す前に教えてもらわなければならない事がいくつかあるな」
 豪人と八卦のデュエルは終盤に突入していた。
 豪人の場には、『エルフェウス』と『アクアン』。そして大量のブロッカーと三枚のシールドが彼を守っている。
 八卦の場には、『ヴァシュナ』が二体と『マクスヴァル』が一体。シールドは一枚も残っていない。
「命を助けてやるから情報を提供しろという事か?」
「違うね。君は倒す。そして、僕の質問にも答えてもらう」
「割に合わないな」
 八卦は苦笑している。完全に追い詰められた状況でも、笑みを絶やさないのだ。普通の人間ではない。
「九重九十九は何故、姿を見せないのかな?」
 豪人がその質問をした瞬間、八卦の顔から全ての表情が消えた。無表情な彼の顔を見て、豪人も微笑むのをやめる。八卦の表情の変化によって、周囲の空気が変わった事に気付いたからだ。
「お前もか、金城豪人。お前もそんなに九十九の事が知りたいか」
 八卦は淡々とした口調で言い、一枚のカードを引いた。それは黒く輝き、豪人に危険を知らせている。
「俺はここにいる。どいつもこいつも九十九九十九と……!」
 八卦は目を見開いた。その奥に潜む得体の知れない何かを見て、豪人は初めて恐怖した。
 その瞬間、世界は漆黒に変わり、豪人のクリーチャーが全て消え去った。
「そうか……。『悪魔神バロム』が切り札だったんだね」
 八卦が『ヴァシュナ』に重ねた切り札、『悪魔神バロム』。この効果によって闇ではない豪人のクリーチャーは全て破壊されてしまったのだ。
 だが、『エルフェウス』の効果が残っていたため、『バロム』はタップされた状態になっている。攻撃できるのは『ヴァシュナ』だけだ。
「『ヴァシュナ』でシールドを二枚ブレイク。九十九を探す奴は、全て消してやる……!」
 静かな口調だが、八卦の言葉からは狂気を感じる。九十九について知ろうとする豪人を生きては帰さないという殺気を感じる。それは、今までの彼が放っていた殺気とは毛色が違っていた。
「だが、残念だったね。シールド・トリガー、『バリアント・スパーク』だ!」
 これによって、八卦のクリーチャーは全てタップされる。しかし、八卦の場には攻撃できるクリーチャーはもういないのだ。
「何をやっている、金城豪人……?死が目前に迫っているのを見て、恐怖でおかしくなったのか?」
 勝利を確信しているためか、八卦の口調や気配がいつもの彼のものに戻る。それを見て、豪人も肩の力を抜いて微笑んだ。
「負けられないからね。この選択が最高なのさ」
 いや、豪人の表情は微笑んだなどというレベルではない。笑っているのだ。
「負けられない、か……。その言葉は胸に秘めておくものだ」
「胸に秘めておくのは、少女の可憐な初恋だけで充分。好きな女の子への思いは口に出さないと……。あと、勝つっていう誓いもね!」
 愉快そうに笑っている豪人は、裏向きのまま二枚のカードを八卦に見せると
「僕はこの二枚で勝つ」
と宣言した。
「何を言っている。切り札の『エルフェウス』を召喚するつもりか?最も軽い『エンジェル・コマンド』でも4マナ。そして、『エルフェウス』は5マナだ。7マナしかないお前が、『エルフェウス』を召喚など」
「誰が『エルフェウス』を召喚するって言った?」
 満面の笑顔で豪人は二枚のカードを場に出した。
「『鎮圧の使徒サリエス』を、『聖天使カイザル・バジキューラ』に進化!攻撃できるクリーチャーが少ないから、念のために入れておいて良かったよ」
「そうか……。別の進化クリーチャーか。あの場で『バリアント・スパーク』を使ったのも、攻撃を通すため……」
 八卦は豪人の行動を完全に理解したようだった。だが、もう遅い。
「『カイザル・バジキューラ』で八百万八卦を攻撃!これで、『球舞』は終わりだ!」
 『カイザル・バジキューラ』が目にも留まらぬスピードで八卦を目掛けて飛行する。巨大な爆発と共に、戦いは終了した。
「頭を潰せば組織は弱まる。後始末が必要かもしれないけれど、これで戦いは終わったな」
 豪人は、『ブランク』を出す為に『ネオウエーブ』に手をかける。だが、その瞬間、今まで金色に輝いていた『ネオウエーブ』は灰色になり、飛び去ってしまった。
「何だ……?何が起きたんだ……!?」
「まだ俺の能力の説明をしてなかったな」
 今、その声が聞こえる事などあるはずがない。保持者に倒されて無傷でいられるわけがないのだ。
 『球舞』のメンバーはブレインジャッカーと完全に融合しているため、間違いなくダメージを負うはずである。
「何で……?何で生きているんだ!?」
 混乱する豪人の目の前で、無傷の八百万八卦が立っていた。

 第十六話 終

 第十七話予告
 八百万八卦は特殊能力『途切れぬ命(アライブ・ア・ライフ)』によって蘇った。しかも、その能力によって彼は二人に増えてしまったのだ。
「死なない。それ故、俺は無敵だ」
 二人に増えた八卦。無敵の能力に保持者はどう立ち向かうのか。
 第十七話 増殖

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