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『TOKYO決闘記』 第十七話 増殖

『TOKYO決闘記』

 私、一ノ瀬博成(いちのせひろなり)は東京連続失踪事件の謎を追っている高校二年生だ。
 赤城勇騎(あかぎゆうき)と墨川一夜(すみかわかずや)が、再び激突した。怒りと憎しみをぶつけ合う彼らの戦いと時を同じくして、『ネオウエーブ』の保持者、金城豪人(かねしろごうと)と『球舞』の八百万八卦(やおよろずはっけ)の戦いが始まった。豪人は何とか八卦に勝利したが、八卦は無傷で立っていた。『ネオウエーブ』も封印された今、豪人は立ち尽くす事しかできなかった。
 20XX年 一ノ瀬博成

 第十七話 増殖
 目の前にいる八卦は幻覚でも偽者でもない。間違いなく本物の八卦だ。
「間違いなく、とどめを刺したはずだ。生きていられるはずがないんだ……」
 さすがの豪人も、こんな光景を見て冷静ではいられない。彼の目の前で起きている異常は二つある。
 一つは、『ネオウエーブ』が灰色になり、勝手に飛び去ってしまった事。これは、以前勇騎が一夜と対戦した時にデッキが能力の限界を超え、エラーを起こした時と同じ現象のように思える。だが、豪人はあの時の勇騎のように動けなくなるほどの苦痛を感じていない。エラーならば、デッキで支えきれなかった負荷が豪人の肉体に跳ね返るはずである。それがないという事は、つまり、これは別の現象だという事を現している。
 もう一つの異常は、倒したはずの八百万八卦が無傷で立っている事だ。肉体に寄生したブレインジャッカーだけを倒したのではない。勇騎が倒した一本杉四神が『球舞』のメンバーは自らの意思でブレインジャッカーと融合していると言っていた。それを切り離す事も可能だとしたら、他の『球舞』のメンバーも倒される直前にブレインジャッカーを切り離し、本体だけは無事な姿でいる事もできるはずである。だが、それを行った者はいない。八卦だけができるとは限らない。
「何故、俺が生きていられたのか教えてやろう」
 八卦はデッキを見せる。彼のデッキも光を失って、石のような灰色をしている。そして、そのまま空へ飛び去ってしまった。
「俺の能力『途切れぬ命(アライブ・ア・ライフ)』はデュエル中には効果を発揮しない能力だ。相手の直接攻撃によって倒される時、そのエネルギーを利用し、再生する能力。俺の命を守る為に、様々なデッキの機能を停止する事もできる。……俺達のデッキなのか保持者のデッキなのか識別せずに手当たり次第に強制終了させるのが難点ではあるがな」
「お前の力が想像以上だったせいか、こんな事までできて少々驚いているよ」
 目の前の八卦は口を閉じている。だが、最後のセリフは間違いなく八卦のものだった。
「こっちだ、金城豪人」
 後ろから八卦の声が聞こえる。豪人の目の前にいる八卦は間違いなく口を閉じていた。
 豪人が振り返ると、そこには姿形も変わらないもう一人の八百万八卦が立っていたのだ。豪人の前で起きている異常が一つ増えた。
「俺の『途切れぬ命(アライブ・ア・ライフ)』はあくまで俺自身を復活させるだけの能力に過ぎない。だが、保持者のエネルギーが過剰に与えられて、もう一人の俺を作り出す事に成功したようだ」
「他の保持者に倒されても同じ事ができるかもしれないな。そうなれば、俺は増え続ける事ができる」
 二人の八卦は一箇所に集まり、同じタイミングで豪人に背を向け去っていく。
「死なない。それ故、俺は無敵だ」
 同時に、同じ捨て台詞を残して。

「『超竜バジュラ』で墨川一夜を攻撃……!」
 『バジュラ』はハンマーを振り回すと、一夜目掛けて力を込めて振り落とす。全身に突風を受けながら、一夜はそれを見ていた。
「俺は……俺はァッ!ゼロ号に勝って、奴になる存在だ!クソがァッ!!」
 一夜が吠えた瞬間、『バジュラ』を始めとするクリーチャーは全て姿を消した。そして、『プロミネンス』と『エクスプロード』は輝きを失って灰色になり、飛び去ってしまう。
「また、エラーだと!?」
 勇騎の体調は万全だった。今、力を使いすぎてデッキに負荷をかけすぎるという事はありえない。
前と違う点が一つだけあった。体が軽い。以前のように体が動かなくなるという事はなかった。
「ゼロ号ォォォッ!」
 チャンスを見つけた一夜が勇騎に飛びかかる。飛び去ったデッキに気を取られた勇騎は、一夜への対応が遅れた。
「くっ!」
 勇騎が急いで両腕で一夜の攻撃を受け止められる体勢を作った時、一夜は何者かに突き飛ばされた。勇騎が右横を見ると、隣にヴェルデが立っている。
「失敗作が!邪魔するなら、テメェからぶっ壊す!」
 ヴェルデに突き飛ばされた一夜は、乱入者を睨みつけながら立ち上がった。しかし、すぐにその場へ倒れる。
「がっ……!クソッ、何がどうなって……!」
「行くぞ」
 ヴェルデが勇騎の腕をつかむが、彼はそれを振り払った。
「邪魔をするな。デッキが使えないなら、素手で奴を解体してやればいい。お前には、俺と奴の間に何があったのか判ら……」
 勇騎が話している途中で、ヴェルデは彼の横顔を殴りつけた。不意を取られて倒れた勇騎だが、すぐに立ち上がる。
「いつものお前のように冷静になれ。金城が『球舞』の八百万八卦を倒した。だが、特殊能力で今、全てのデッキが動かなくなっている」
「何……?」
 勇騎は、携帯電話を取り出して豪人に電話をかける。豪人からはすぐに応答があった。
『あ、勇騎君か。八百万八卦は倒した。だけど、復活したよ』
「どういう事だ?」
 豪人は、八卦が能力によって復活した事、それによってデッキが強制的に停止してしまった事、そして、八卦が二人に増えた事を伝えた。
『今後の対策を練りたい。これから集まれるかな?』
「問題ない。場所は?」
 豪人と場所に関するやり取りがあってから通話は終わった。通話を終えた勇騎が一夜を見ると、彼は這いずりながら近くに止めてあったバイクにまたがっていた。
「待て!」
 勇騎が追いかけるが、一瞬早くバイクは動き出す。いくら保持者でも、走るバイクに追いつく事はできない。勇騎は、再び一夜に逃げられた。
「金城が言っていた場所に行くぞ」
 勇騎は諦めたような声色でヴェルデに言う。ヴェルデも勇騎に対して静かに頷いた。そして、暗闇の中を見る。
 勇騎は、前に逃げられた時も「次こそ一夜を倒す」と誓った。そして、今も見えない力に邪魔されて一夜を倒せずにいる。初めて一夜の存在を知った時から、彼を倒そうという明確な意思はあっても、実行はできていない。
(奴を倒せないのが、真実なのか……)
 勇騎は、心の中に迷いを感じたままその場を去った。

 一夜は、真っ直ぐ歩こうとしている。だが、目の前の景色が歪んで見えるため、まともに歩く事ができない。
「ぐおォッ!」
 勢いよくつまずき、地面の上に倒れる。そこは、彼が住む廃屋の目の前だった。
「何故だ……!何故……体、が……」
 体を動かす事ができない。指一本動かすだけでも、ひどく面倒に感じる。
 額を垂れるどろりとした熱い液体の流れが不愉快だ。それを拭いたかったが、拭う事すらできなかった。
「俺は……死ぬのか…」
 いつものように吠える力も残っていない。バイクで廃屋に戻る途中に、目眩(めまい)を感じて暗い山道でバイクごと倒れた。その後、ここまで歩いてきたのだ。両脚はもう、感覚すらなくなっている。
「くすくすくす……!」
 誰もいないはずの場所で、若い女性の笑い声が聞こえる。一夜は目でその方向を見ようとしたが、目に血が入って何も見えなくなった。
「失敗作のまま、ライバルのゼロ号に知られる事もなく死んでいくのね。失敗作にはお似合いの末路だわ。このゴミ虫がっ!」
 一夜は頭に強い衝撃と、重さを感じた。一瞬遅れて、女性が強く頭を踏みつけた事を理解した。
ひどく、不愉快だ。一夜の心の中で強い殺意が生まれたが、動けない体では何もできない。
「興味深いわ。失敗作で、今の今まで生きていられた事自体が奇跡的なのに、デュエルをして、ブレインジャッカーを吸い込んで……。ここで死んでくれてもかまわないんだけど、生かしておいた方がおもしろそうだし、『球舞』を倒す手駒として使えそうね……」
 いくつかの足音が聞こえる。軍隊や警察などの、統率された足音だ。一夜は、複数の男に取り囲まれたのが判った。
「連れて行きなさい」
 女の足が離れる。その瞬間、一夜の意識は闇に包まれた。

 その日、勇騎と博成は一緒に下校した。今日は球技大会だけで、午後からは何も予定がない。新聞委員会の集まりもなく、そのまま帰る事になったのだ。
「そっか……。ホームパーティの後で、金城さんは八百万八卦と戦ったんだね」
 博成は、昨晩に起きた話を勇騎から聞いた。墨川一夜との戦い、八卦の能力によってデッキの機能が封じられた事、そして、増殖した八卦。
「死なないって事は、倒せないんじゃないの?しかも、強力な攻撃をしたら二人に増えちゃうんじゃ、戦いようがないよ!」
「一ノ瀬、相手の攻撃エネルギーを変換して復活するなどという事が、本当に何度もできると思うか?」
 勇騎の言葉に、博成は言葉を詰まらせる。
 八百万八卦の特殊能力は何度でも使用できると思っていた。死なない、という事は何度でも戦えるという事だ。ゲームオーバーが存在しないゲームのように、負けがキャンセルされる。勝つ事には直結しないが、負けない事に関してはどの能力よりも長けている能力、それが八卦の『途切れぬ命(アライブ・ア・ライフ)』だ。
 だが、それが何度もできない能力だとしたら。
「攻撃エネルギーを復活のためのエネルギーに変換するのは並大抵の労力ではない。奴はそれ以外に、デッキの機能も停止させる能力を発動させた。その二つの事を同時にやるのに、どれだけのエネルギーがかかるのか……そして、それが全て攻撃エネルギーの変換で行われているのか……」
 そこまで話すと、勇騎は口を閉じる。彼は博成を見ていない。今までの説明も自問自答のようだった。
「勇騎君、調子でも悪いの?今日の球技大会も不調みたいだったし……」
「八卦の謎が気になるだけだ。奴を倒すのは、最優先事項になった。墨川一夜を倒すのはいつでもできる」
「そうなんだ。勇騎君でも、判らない事はあるんだね」
博成は、勇騎ならどんな謎でも簡単に解いてしまうものだと思っていた。だが、彼でも悩むような難しい事があるのだ。
「デッキはまだ動かないの?」
「今朝、元の状態に戻った。機能を止められる時間は約十二時間だ。増える能力や復活する能力よりも、これが一番厄介だな」
「うん、そうだね……」
 勇騎の話では、ヴェルデと豪人が八卦を探しているようだった。何度でも復活するのなら、何度でも倒せばいい、という結論になったのだ。強引にも思えるが、他に対策がないのだから仕方がない。
「一本杉四神と二階堂十三階を簡単に倒せたから、『球舞』の奴らなんかみんなすぐにやっつけられると思ったのになー。やっぱり、そんな簡単には行かないんだね」
「現時点で倒せたのは二人だけだ。姿を現していない九重九十九を除けば、まだ六人も残っている」
「六人か……」
 博成は自分で呟いてから考える。勇騎、ヴェルデ、豪人の三人は、今までに数え切れないほどの敵を倒してきたはずだ。あと六人の敵を倒せば、東京連続失踪事件は終わるのである。豪人が八卦を倒せていれば、昨日の時点で終わっていたのかもしれない。
 博成がぼんやりと頭の中で思考していると、ポケットで携帯電話が激しく振動した。画面を見ると、ゆかりから着信があったのが確認できた。
「もしもし、委員長?今日は委員会休みだよね?」
『一ノ瀬ちゃん、そんな事を言っている場合じゃないのよ!八百万八卦っていう奴が、いくつかのサイトの掲示板に書き込みをしているのよ。「ドナルド・マックイーンの絵を持っている。奪いに来い」って!』
「八百万八卦が!?」
 博成が大声で驚くと、勇騎も注意をそちらに向ける。
『そうなのよ。これは、怪盗アルケーへの挑戦状なんじゃないかしら?』
 博成には、ゆかりの言おうとしている事が判る。
 怪盗アルケーは保持者だ。そして、ドナルド・マックイーンの絵を好んでいる。もし、八卦がドナルド・マックイーンの絵を持っていたら、アルケーはそれを盗みに行くだろう。八卦も簡単には取られないように、何か策があるに違いない。博成には、アルケーと八卦の戦う様子が目に浮かんだ。
「青海からだな」
 勇騎に聞かれて博成は頷き、会話の内容を話した。
「八卦本人とは限らないだろう……。だが、八百万八卦という名前を知っている人間が大量にいるとは思えない。この書き込みを行った人間が『球舞』の関係者である可能性は高いだろう。……怪盗アルケーが保持者だと知っていたら、奴をおびき寄せるために八卦が用意した罠だと考えられる」
「じゃあ、急いで行こう!委員長、場所は?」
『オッケー!場所は……えっ?』
 受話器から困惑したようなゆかりの声が聞こえる。その後も、しばらく混乱したような声で『ちょっと何なのよ、これ!』とか『ええっ!ここも!』と言った言葉が聞こえてきた。
「委員長、落ち着いて。何があったの?」
『一件だけじゃないわ。十件よ。八百万八卦が指定した場所は十件もあるのよ!』
「そんな……どういう事?」
「そういう事か……」
 勇騎は博成の手から彼の携帯電話をひったくるように取った。
「青海。今、学校のコンピュータ室か?」
 ゆかりは、通話口からいきなり聞こえてきた勇騎に驚き『あ、赤城ちゃんなの!?』と驚いたように聞き返していたが、すぐに彼の問いかけに反応する。
『ええ、そうよ。八卦が指定した場所のリストは今、印刷しているわ』
「判った。すぐに行く。三部ずつ用意していてくれ」
 勇騎は通話を終えるとそれを博成に渡す。そして、その動作をしながら彼は自分の携帯電話を取り出し、どこかへかけた。
「金城、今いる場所から立法高校まで何分かかる?」
『お、現役女子高生ナンパのお誘いかい?……と言いたいところだけど、君がそんな事で僕を呼ぶはずがない。十分あれば着くだろうね。『球舞』に関連する事だろう?』
「ああ、八百万八卦が怪盗アルケーに挑戦状を出した。奴はドナルド・マックイーンの絵を持っている。奴がアルケーに対して奪いに来いと指定した場所は複数。青海が調べた情報では十件となっていたが、まだ増えている可能性もある」
『判った……。ヴェルデ君も呼ぼう。三人で手当たり次第探してみれば見つかるかもしれないね』
 車のエンジンをかける音と共に、電話は切れた。勇騎は博成の方を一度見ると、すぐに立法高校へ引き返した。博成も勇騎を追う。目を合わせただけで、彼のしようとしている事が大体判ったのだ。
 昨日は、豪人が八卦に挑戦した。だが、今日は八卦が保持者に挑戦している。自分の能力を見せた事で八卦の心に余裕ができたのか、それとも焦っているのか。
 余裕なのだとしたら、豪人に敗北する事も自分の能力を見せて保持者を牽制するという意味があったのかもしれない。もし、焦っているとしたら何のためにアルケーを挑発しているというのか。
「奴は、アルケーを呼び出す事で、アルケーが保持者だと知っている俺達も呼び出そうとしている。俺は、そう考えた」
 走りながら、息を切らさずに勇騎が語る。今、目の前にある謎を冷静に追っているのだ。
「本当に終わらない命など、この世には存在しない。八百万八卦が何度でも蘇るというのなら、何度でも倒せばいいだけの話だ」
 絶対に終わらない命なら、何度倒しても無駄になってしまう。しかし、勇騎が言うといつか終わりが来るように思えてくる。
 八卦との戦いだけでなく、この戦いにもすぐに終わりが来るように感じる。

 第十七話 終

 第十八話予告
 八卦の場所を調べる勇騎達三人。手分けをして探した結果、ヴェルデが八卦の居場所を見つけた。そこに現れた怪盗アルケー。二人の八卦を前に、二人の保持者がデッキを取る。
「保持者は、俺には勝てない。死なない能力を持った俺を倒せる者などいない」
 不死の能力と二人の保持者が火花を散らす。
 第十八話 不死
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