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『TOKYO決闘記』 第十八話 不死

『TOKYO決闘記』

 私、一ノ瀬博成(いちのせひろなり)は東京連続失踪事件の謎を追っている高校二年生だ。
 八百万八卦(やおよろずはっけ)の能力『途切れぬ命(アライブ・ア・ライフ)』によって、保持者のデッキは停止し、彼は二人に増えてしまった。その翌日、何を思ったのか八卦はドナルド・マックイーンの絵をえさに怪盗アルケーをおびき出そうと企む。その場所へ行こうと考えた私達だが、指定された場所は複数存在していた。
 八卦の能力に関する謎は解けないまま、私達は彼を倒す為に行動を開始した。
 20XX年 一ノ瀬博成

 第十八話 不死
 勇騎、豪人、ヴェルデの三人と博成にリストを渡してから、ゆかりはもう一度八卦が指定した場所の確認を行った。彼が指定した場所は十箇所。その内の九箇所には何もない。
「さてと……」
 一度リストを見ただけで、彼女にはダミーではない本物の場所が判った。
 今、そこにいるのは、青海ゆかりではない。怪盗アルケーは一目で本物を見分ける事ができたのだ。
 邪魔になりそうな保持者は、八卦の場所を探すのに手間取っているだろう。その隙に八卦と接触し、ドナルド・マックイーンの絵を回収する。
 これがただの罠で、八卦が絵を用意していない場合、八卦を倒す。増殖した二体が、両方ともいるのならば、一人ずつ倒せばいい。
 ドナルド・マックイーンの絵があった場合、回収を優先する。戦闘は可能であれば回避したい。優先順位の確認をしたアルケーはコンピュータ室の中で、一人ほくそ笑む。
 『仕事』で使う黒の上下と紺色の仮面は、自分にしか判らない場所に隠してある。あの服に着替える事が重要なのだ。自分の体から溢れそうな絵画への欲望を押さえ、仕事を成功させるためのエネルギーへと還元する。科学的な意味はない。着替える事は、精神的な意味でのスイッチとして機能する。
「さて……。楽しませてもらおうか」

 改装工事中のビルの一室。八卦が指定した場所の一つだ。
 そこに二人の八卦と一枚の絵があった。彼が、偶然手に入れたドナルド・マックイーンの絵だ。
 怪盗アルケーがドナルド・マックイーンの絵を特に好んでいるというのは、一本杉(いっぽんすぎ)の推理だった。不確かな情報と言いながらも、彼が用意してくれた情報のお陰で八卦はある程度怪盗アルケーという人物を理解していた。
 アルケーが保持者であるかどうかは、五箇条(ごかじょう)が身をもって証明してくれた。彼女は、三ツ沢(みつざわ)に「怪盗アルケーと戦いに行く」という言葉を残していたのだ。五箇条が帰ってこなかったため、八卦は、彼女がアルケーと戦って破れたと判断した。
 偽の場所を含めて十件の情報を流したのは、保持者を混乱させるのと共に、アルケーだけをこの場所におびき寄せるためでもあった。
「八卦!」
 肩で息をしながら階段からやってきたのは、アルケーではない。七夕初七日(たなばたしょなのか)。八卦と同じ『球舞』のメンバーだ。
 初七日を見ても、八卦達は何も言わない。巫女服の少女は攻撃的な表情で二人の八卦に近づくと、一人ずつ頬を思い切り叩いた。
「いきなり、何を……」
「勝手な真似をして!何であんたが何も言わずに戦いに出てるのよ!」
 初七日は、もう一度八卦の頬を叩き、胸ぐらをつかむ。もう一人の八卦は、この場所の唯一の出入り口である階段を見張っていた。
「四天王寺も五箇条もいなくなったっていうのに……それなのに……何で戦いに出てるのよ!金城豪人の挑戦なんか無視して良かったじゃないの!それに、怪盗アルケーを誘い出す意味なんかあるの!?判ってる!?あんたがいなかったら、九十九様は……!」
「お前は九十九しか見ていないんじゃないか?」
 怒りで暴れている初七日を押さえつけるように、八卦が右手をつかんで彼女を見る。怒りの目で八卦を睨んだ初七日だったが、八卦の目に映る感情を嗅ぎ取って何も言えなくなった。
 怒り。九十九の名を出した事で、八卦は怒りの感情を表し始めた。
「お前、九十九と他の雑兵だったらどっちを選ぶ?」
「決まってるじゃない!当然、九十九様よ」
「なら、『球舞』のメンバーで……そうだな。もう存在しないが、二階堂十三階と九十九だったらどっちを選ぶ?」
「九十九様よ。九十九様は『球舞』にとって誰よりも大切な存在。九十九様さえいれば……他のメンバーなんて……!」
「だったら、四天王寺五色と九十九を天秤にかける事はできたか?」
「それは……!」
 できる、と即答しようとして初七日は言葉に詰まる。四天王寺は、『球舞』のメンバーであるのと同時に、初七日にとって仲の良い友人でもあった。犬のように自分になつく四天王寺を嫌いに思った事は一度もない。
「……九十九様を優先するわ。四天王寺だって『球舞』のメンバーだからそれくらい判るはずよ。アタシだってそう!九十九様をお呼びするためなら、この身が裂かれたっていい!」
 迷いながらも、初七日は八卦の問いに答えた。それを見て、八卦は満足そうに笑うと冷徹な声で言う。
「お前は、『球舞』のメンバーという言葉で誤魔化していないか?お前のそれは、九十九への絶対の忠誠ではない。お前の感情は……」
「やめて!!」
 初七日は、八卦から離れると耳を塞いで叫ぶ。しばらく、放心したようにその場に立ち尽くしていたが、八卦を睨んで言った。
「好きで悪い!?アタシが九十九様を愛している事に何か不都合でもあるの!?答えなさいよ!八卦!!」
「不都合ではない。だが、俺はお前がそう思っている事が気に入らない」
 そう言い放つと、八卦は階段を見た。今までその場所を監視していた八卦も、そこを注視する。
 八卦に何か言おうとしていた初七日だったが、急に黙る。何かが近づいている事を、彼女も察したのだ。
「この足音、獣らしさを感じるな」
 その場にいる全員の視線が集中したその時、階段を昇った一人の男の姿が見えた。ヴェルデだ。予想外の来客に、八卦達は驚く。
「ヴェルデか。お前が来るとは思わなかった。それも、アルケーよりも先に来るとはな……」
「赤城の言っていた推測は当たりだった。あいつの頭脳には感謝している」
 あの後、勇騎はそれぞれの場所から、本物を見つけるために頭脳を働かせていた。そして、この場所だけがドナルド・マックイーンとの関連がある事に気付いたのである。
「ここは、来年からドナルド・マックイーンのアトリエの一つとして使われる予定の場所だ。だから、お前はこの場所を選んだ」
 ヴェルデは種明かしをすると『グランドクロス』を取り出す。「死なない」という能力に脅えるよりも、倒されていった友を思う怒りが勝っていた。
「なるほど。やはり、『プロミネンス』の保持者か。瞬発力のある思考だな。敵には回したくない」
 ヴェルデから少し遅れて怪盗アルケーも部屋の中へ入る。アルケーはちらりと横目でヴェルデを見ると、絵に近づいた。
「絵を渡してもらおう。力づくというのは、スマートでないから好きではない。好きではないが…」
 アルケーも懐から『ツナミ』を取り出して光らせる。戦闘に入る準備はすでに出来ているという事なのだ。
「アルケー、ドナルド・マックイーンの絵は俺を倒せたら渡そう」
「そして、ヴェルデ。お前の目的は俺の命だな?」
 二人の八卦は、それぞれ灰色の光るデッキを取り出した。そして、初七日に視線を送る。「ここから出て行け」と。
 意味を悟った初七日はその場から急いで退散する。ヴェルデもアルケーも逃げる初七日を追うつもりはない。目の前にいる八卦の方が、初七日の何倍も厄介な相手なのだ。注意を別のところへ向ける事などできない。
「保持者は、俺には勝てない。死なない能力を持った俺を倒せる者などいない」
 八卦達が同時にその言葉を告げた瞬間、世界が変わり、戦いが始まった。

 勇騎は、コンピュータ室の椅子に座って一人考えていた。博成は、豪人と共に八卦のいる場所に向かっている。デュエルが終わる頃には着くだろう。
「妙だな……」
 彼の頭の中で、奇妙な点の分析が始まった。八卦の行動、そして能力には奇妙な部分が多すぎる。
 「死なない」という単純に考えれば最強とも言える能力を持ちながら、何故八卦は自分から戦いを挑まず、一本杉や二階堂などの部下に戦わせたのか。負けても死ぬ事がないのでならば、自分から戦いに行く方がいいはずである。そうすれば、負ける事があったとしても、『球舞』のメンバーが減る事はないのだ。つまり、『途切れぬ命(アライブ・ア・ライフ)』は必ず復活できる能力ではないのだ。
 次に、何故八卦が今になって戦い始めたのか。これは、保持者が『球舞』のメンバーを倒し、彼らに損害を与えたためでと考えられる。リーダー格の存在が動き出したという事は、『球舞』のダメージが大きく、保持者は彼らにとって一秒でも早く消さなければならない存在になったという事に違いない。
 そして、二人に増えた八卦。豪人の攻撃エネルギーが強かったから、復活に使えるエネルギーが強くなり、二人に増える事ができたなどという論理は信じられない。二人に増える事もあらかじめ能力として組み込まれていたのではないか、と勇騎は考えている。
 そこまで考えた勇騎は、ある仮説に辿り着いた。そして、彼は八卦の『途切れぬ命(アライブ・ア・ライフ)』が恐れる必要のない能力だと気付いたのだ。
「あと一つ……」
 八卦の能力以外に、もう一つの謎が勇騎の中に浮上していた。勇騎達がコンピュータ室に戻ってきた時に姿を消していたゆかりがどこに行ったのか、という疑問だ。
 博成は「ヴェルデ君と八卦の戦いを見に行ったんじゃないのかな?取材、とか言って」と言っていた。その可能性もあるのだが、勇騎は別の理由でいなくなったのではないかと考えていた。
「考えすぎか……。一ノ瀬の言うように、おもしろそうなネタに食いついただけかもしれんな」
 勇騎はそう呟くと、『途切れぬ命(アライブ・ア・ライフ)』を破る方法について検証し始めた。

「『電脳封魔マクスヴァル』を召喚!」
 二人の八卦は、同時に同じクリーチャーを召喚する。豪人から八卦とのデュエルを聞いていたヴェルデは、そのカードを見て一瞬、目を見開いた。アルケーもその少しの変化を見逃さない。
「『バロム』を使うのか」
「金城豪人との戦いでは使ったな。今の俺が使うとは限らない」
 ヴェルデの言葉はアルケーにとって考えるヒントになった。もちろん、それが判るからこそヴェルデも自分の疑問を口に出したのだ。ヴェルデはアルケーを味方だと思っていないが、今、八卦を倒すために一時的に協力する事はできる。
「闇文明の切り札がある事に変わりはない。なら、使う前に勝てばいい!」
 アルケーもヴェルデの言いたい事は判った。情報が得られるのならば、利用するまでだ。
「『弾丸透魂スケルハンター』を召喚」
「『青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)』召喚!そして、マナを増やす」
 ブロッカーでもある『マクスヴァル』に対して、ブロックも攻撃もされない『スケルハンター』を召喚するアルケー。そして、ヴェルデは八卦のマナコスト削減に対して、マナブーストで挑んだ。
「ならば、こちらは……」
「長期戦の準備だ。『ブレイン・チャージャー』!」
 またしても、二人の八卦は同じカードを使う。これによってマナと手札の両方が増えていった。マクスヴァルによるマナコスト削減に加えてマナブースト。大型の闇クリーチャーが出る可能性が高い。
「『ミスト・リエス』を召喚」
 アルケーが八卦の場を観察している時に、ヴェルデはドローのためのクリーチャーを召喚する。クリーチャーのマナコスト削減を考えているデッキならば、デッキの中にクリーチャーが大量に入っているはずである。それ故、『ミスト・リエス』でドローできるチャンスも多い。
「ならば、こちらもコストを減らそう。『深魂炎霊ロミュナス』を召喚!水文明のクリーチャーのコストを1減らし、『鎧兵機サーボルト』を召喚!」
 アルケーが召喚したのは、『マクスヴァル』と同じように特定の文明のクリーチャーのコストを下げられる『ロミュナス』だ。これで、デッキの動きは良くなっていくだろう。
「そして、『スケルハンター』でシールドをブレイクする」
 『マクスヴァル』のブロックを恐れる必要のない『スケルハンター』を使ってアルケーはシールドをブレイクした。相手の手札は増えるが、彼女には勝てるという自信があった。
「手札が増えたぞ、アルケー」
「慎重かつ大胆。噂通りだな」
 このターンから、二人の八卦の動きが変わる。ヴェルデとアルケー、それぞれに合った戦い方を見抜いたのだ。
「『サイバー・ブレイン』で手札補充。そして、『封魔ロノヴェル』を召喚!」
 ヴェルデ側の八卦は、ブロッカーの『ロノヴェル』を召喚する。クリーチャーの召喚に呼応して、ヴェルデの『ミスト・リエス』が手札を呼び出すが、八卦はそのリスクを恐れていない。ヴェルデのクリーチャーは特殊能力を持っているが、パワーは弱いものだけしかいない。ブロッカーで攻撃を止めて、切り札に繋げれば勝てる戦いだ。
「『封魔秘宝アバランバ』、召喚と同時にO・ドライブを使う!」
 アバランバの特殊能力によって、八卦の手札はさらに増え、山札の上に好きなカードを置く事ができた。
「闇が入っているという事は、手札破壊があってもおかしくはない。俺の切り札を捨てられるのは嫌なんで、避難させてもらったよ」
 非常に嫌な動きをする敵を前に、アルケーは再び戦い方を計算していた。何らかの方法で大型クリーチャーを呼び出すとしても、必ず正規の方法で召喚する必要はない。山札を操作して『転生プログラム』で呼ぶ方法もあるのだ。
「ならば、質より量だ」
 アルケーは『奇面王機ボーンキラー』と『髑髏怪人スピンホイール』を召喚する。どちらも小型ながら速攻に向いているクリーチャーだ。
「さらに、『スケルハンター』でシールドをブレイク!」
 何が出たとしても、『スケルハンター』のブロックと攻撃を封じる能力があれば問題はない。突き進めばいいだけだ。
 だが、八卦のシールドが赤く光り、振動と共に、『スケルハンター』は潰されて粉々に砕け散る。それだけではない。『サーボルト以外』のアルケーのクリーチャーは全て破壊されてしまった。
「シールド・トリガー、『地獄スクラッパー』。ブロックも攻撃もされないが、呪文の標的にはなるだろう?」
「運のいい男だ」
 舌打ちしてアルケーはカードを引く。小型クリーチャーを大量に召喚し続けたため、手札の消費が激しいのだ。だが、その手札も灰色になり、崩れ落ちていった。
「何だと……?」
 疑問に思ったアルケーがバトルゾーンを見ると、唯一生き残っていた『サーボルト』までもが破壊されている。
「『腐敗勇騎ガレック』。ブロッカーと手札一枚を破壊するクリーチャーだ」
 クリーチャーの数、手札、そしてマナ。この時点で八卦はアルケーを圧倒していた。
 その頃、ヴェルデと八卦のデュエルも中盤まで進んでいた。
「『封魔魂具バジル』でシールドをブレイク!」
 『マクスヴァル』の効果で軽くなった闇クリーチャーが大量に召喚され、ヴェルデは数で包囲された。今の八卦には『バジル』と二体の『メルニア』が攻撃用のクリーチャーとして場にいる。
「シールド・トリガー、『母なる大地』。これを俺の『青銅の鎧』に使う」
 だが、それでもヴェルデが不利になったわけではない。マナから呼び出されたのは、『鳴動するギガ・ホーン』だ。
「俺は、『ギガ・ホーン』で呼び出した『スカイソード』を召喚。『ミスト・リエス』の効果でドロー。そして『スカイソード』に『母なる大地』を使い、『スカイソード』を再召喚する」
 シールドが二枚回復し、マナも二枚増える。この時点でヴェルデのマナを尽きているが、彼にはまだ使えるカードがあった。
「G・0。『統率するレオパルド・ホーン』を召喚。『ミスト・リエス』の効果でドロー。そして、二体目の『レオパルド・ホーン』を召喚!」
 これで、ヴェルデと八卦のクリーチャーの数が同じ五体ずつになった。しかし、単純なクリーチャーのパワーでいえば、ヴェルデの『レオパルド・ホーン』よりも強いクリーチャーはいない。さらに、八卦のバトルゾーンには、『レオパルド・ホーン』をブロックできるクリーチャーは存在しないのだ。
「『メルニア』、『バジル』でシールドをブレイク!これで、お前のシールドは残り一枚だ」
 ブロッカーを出したとしても、『メルニア』はそれをすり抜けてくる。ならば、攻撃できるクリーチャーを倒すしかない。
「『予言者コロン』を召喚して、『マクスヴァル』をタップ……。攻撃開始だ……!」
 ヴェルデが最初に狙ったのは、二体の『メルニア』だった。『スカイソード』と『ミスト・リエス』が動き、攻撃を仕掛けたが、『ミスト・リエス』の攻撃を『ロノヴェル』で防がれてしまう。それを見て、ヴェルデは満足そうな表情を作る。
「これで、ブロッカーはいない。『マクスヴァル』を守る者もいない!」
「しまった!俺のクリーチャーを全滅させるのが目的か!」
 ヴェルデは、『ギガ・ホーン』で『メルニア』を攻撃し、『レオパルド・ホーン』で『マクスヴァル』を破壊。残った 『レオパルド・ホーン』で『バジル』を撃破した。
 そして八卦は、『バジル』の特殊効果を使い『コロン』を破壊する。これで、場に残ったクリーチャーはヴェルデの『レオパルド・ホーン』二体だけになった。
「さすがは保持者といったところか……。いきなり、大型クリーチャーが二体でるとは思わなかった」
 八卦は『エナジー・ライト』で手札を増やすと、静かな表情で『マクスヴァル』を召喚した。
「だが、それでも負ける気がしない。俺のシールドが全てブレイクされたとしても、俺の切り札が出ればお前を倒す事は容易い」
「…………」
 ヴェルデは何も答えない。八卦の言っている事は、ただのはったりではないだろう。実際に、豪人が八卦に追い詰められたのだ。この男はそれだけの実力がある。
「それでも、俺は……羽山達のためにも俺自身のためにも勝つ!」

 『球舞』の秘密基地に戻ってきた初七日は、自分の口から出た言葉にショックを受けていた。九十九を優先するとは言っても、四天王寺は簡単に切り離せる存在ではない。もうこの世にはいないとしても、四天王寺の精神を侮辱する発現をしたのが辛かった。
「ごめんね、四天王寺……。本当に、ごめんね……」
 涙が流れる。九十九が好きだったという気持ちも、口に出すつもりはなかった。だが、かっとなって胸に秘めた気持ちを言ってしまったのだ。
「今のあいつ、絶対に変よ……。それに、アタシも……」
 八卦の冷徹な目は何かを訴えていた。それに反応して、初七日も自分の思いを叫んでしまったのだ。
 八卦が何を考えているのか、判らない。だが、八卦は九十九に対して不快感や敵意を抱いているように見えた。
 九十九を復活させる方法は、三つある。一つは、八卦、初七日、六儀が保持者達のデッキの力を使い、新たな九十九の肉体を生み出し、それに九十九の精神を宿す事。もう一つは、八卦達三人が適正にあったデュエリストの肉体を使って九十九の精神を宿す方法だ。最後の一つは、八卦だけしか知らない。八卦が倒されたら、九十九は二度と復活できなくなってしまう。
「勝手な事、してるんじゃないわよ……」
 初七日は悔しかった。もし、自分の力だけで九十九を蘇らせる事ができれば、八卦に頼る必要などないのだ。自分に力がない事が許せないまま、時間は過ぎていった。

「『スケルハンター』で最後のシールドをブレイク!」
「『レオパルド・ホーン』でシールドブレイク!」
 ヴェルデとアルケーが同時に最後のシールドをブレイクした。そして、最後のシールドから出たのはどちらも『デーモン・ハンド』だった。攻撃に使った『スケルハンター』と『レオパルド・ホーン』が破壊される。
「『スケルハンター』が三体……。もう一体いるかな?」
 アルケーのデッキには、『スケルハンター』が三体しか入っていない。墓地回収のカードがないアルケーのデッキでは、『スケルハンター』を呼び出す事はできない。
 八卦の場には、『ロノヴェル』、『マクスヴァル』が一体ずついる。そして、アルケーの場には、『ロミュナス』と『サーボルト』が一体いた。アルケーのシールドは二枚ある。
「切り札の『レオパルド・ホーン』が破壊された気分はどうだ?これからもっと嫌な気分を味わわせてやる」
 ヴェルデ側の八卦の場には、『マクスヴァル』一体のみ。しかし、ヴェルデの場には『レオパルド・ホーン』が一体いて、シールドが一枚あった。
「では、見せてやろう。圧倒的な切り札を……」
「最も暴力的なこの一枚を……」
 二人の八卦は『マクスヴァル』に一枚のカードを重ねる。そのクリーチャーの巨大さとオーラにその場にいた二人の保持者の心が凍りついた。
「『極仙龍バイオレンス・サンダー』。パワー、T・ブレイカー、さらにブロックされなかった時の特殊能力もある俺の切り札だ」
 ヴェルデのバトルゾーンにブロッカーはいない。アルケーの場には『サーボルト』がいるが、『サーボルト』はドラゴンと進化クリーチャーをブロックする事ができない。
「『バイオレンス・サンダー』で攻撃!そして、特殊能力発動!」
 黒い手が保持者達の手札に伸び、三枚のカードを破り捨てていく。そして、流れる水に乗って三枚のカードが八卦の手元に入る。最後に燃え盛る炎が『ヴェルデのレオパルド・ホーン』とアルケーの『ロミュナス』を焼き尽くした。
 立っていられなくなるような強い風と共に、保持者達のシールドは全てブレイクされてしまった。その中にシールド・トリガーはない。
「これでいい」
「このまま、他の保持者も倒し、全てのデッキを俺の手に収める」
 攻撃できるクリーチャーがいない二人の保持者に対して、八卦の場は最高の切り札が君臨している。
「他の保持者も、と言ったな?だが、私はお前ごときに倒されない。絵は必ず持ち帰る」
 アルケーは仮面の下で余裕の表情を作った。まだ負けていないのだ。彼女は勝てると信じている。
「俺は、羽山達の仇を討つ。二階堂十三階だけじゃない。お前達を全員倒して、初めてあいつらの仇討ちが終わる!」
 諦めていないのはヴェルデも同じだった。手札もシールドもない状態で、まだ勝つ事を考えているのだ。
「怪盗は、目的の物を盗むまで諦めない。邪魔する者に容赦はしない!」
「切り札よ、俺に力を貸せ!」
 ヴェルデとアルケーが山札の上から一枚のカードを引いた。そのカードはそれぞれ、緑と青の輝きを放つ。二人の切り札が来たのだ。
「『G・E(ゴッド・アース)・レオパルド』、召喚!」
「『サーボルト』を『無敵巨兵グランダイバーX』に進化!」
 ヴェルデは、『G・E・レオパルド』の能力を使い、光文明のクリーチャーを山札から手札に呼び出した。この状況で彼が選ぶクリーチャーは一体しかいない。
「『G・A(ゴッド・アポロニア)・ペガサス』、召喚!『レオパルド』と『ペガサス』をG・リンク!!」
二体のゴッドがリンクされた事で、召喚酔いは消え、すぐに攻撃ができるようになった。神々しい輝きがその場を満たす。
「『グランダイバーX』で直接攻撃!このクリーチャーは、『スケルハンター』と同じようにブロックされない!」
「『レオパルド・ペガサス』でとどめ!!」
 『グランダイバーX』の拳が八卦を捉え、『ペガサス』が投げた剣がもう一体の八卦の肉体を貫き、戦いは終わった。それと同時に、世界は戦うために構築された世界から元の世界へと戻り、デッキは機能を停止して灰色になった。
「また、いい絵が手に入った」
 『ブランク』も使えなくなっているため、アルケーはドナルド・マックイーンの絵画を脇に抱えると窓から飛び降りた。その行動にヴェルデは一瞬驚いたが、勇騎から聞いたアルケーの運動能力を思い出し、驚く必要がない事に気付いた。
「……どこだ?」
 倒したはずの八卦が復活しているはずだが、どこにもいない。二人いた八卦は、二人とも消えてしまったのだ。
「ヴェルデ君、戦いは終わったみたいだね」
 豪人と博成が部屋に入ってくる。彼も灰色のデッキを見せた。
「八百万八卦は、どこかへ消えた。もう一人は怪盗アルケーが倒したが、そっちもいない」
「妙だね。僕が倒した時は、その場で復活したんだけど……」
 豪人が考え始めたその時、博成の携帯が鳴った。相手は勇騎だ。
「もしもし、勇騎君。戦いならヴェルデ君とアルケーの勝ちで終わったよ」
『ああ、それはいい。八百万八卦の能力の秘密が判った』
「何だって!それは本当!?」
『ああ、奴の能力の秘密。それは……』

 第十八話 終

 第十九話予告
 終わらない命を持った最強の敵、八百万八卦。その能力の謎を突き止めた勇騎は、八卦に戦いを挑んだ。
「九十九など……必要ない!お前も消えてなくなれ!!」
 本性をむき出しにする八卦。そして、二人のデュエルが終わる時、何かが終わり何かが始まる。
 第十九話 意地
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