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『TOKYO決闘記』 第十九話 意地

『TOKYO決闘記』

 私、一ノ瀬博成(いちのせひろなり)は東京連続失踪事件の謎を追っている高校二年生だ。
 赤城勇騎(あかぎゆうき)の推測で、死なない能力『途切れぬ命(アライブ・ア・ライフ)』を持った八百万八卦(やおよろずはっけ)の場所を突き止めたヴェルデと、八卦のメッセージを嗅ぎ取った怪盗アルケーがドナルド・マックイーンの絵を置いてある場所に辿り着いた。
 途中、苦戦しつつも八卦達を撃破した二人の保持者。そこに、勇騎から八卦の能力の謎を解いたという電話が来るのだった。
 20XX年 一ノ瀬博成

 第十九話 意地
 都内にある雑居ビルの付近で八卦は空を眺めていた。時刻は夜から朝に変わろうとし始めている。 そんな空を何も考えずに眺めているのだ。
「静寂を乱して、何か用か?いや、聞かなくても判る」
 八卦の傍には勇騎が立っていた。手には赤く輝くデッキ『プロミネンス』を持って、静かに八卦を見ている。
「俺の能力『途切れぬ命(アライブ・ア・ライフ)』は……」
「不死など、この世にはありえない」
 八卦の言葉にかぶせるようにして、勇騎が言い放つ。周囲の静寂を乱さぬような静けさのなかに、冷徹さを秘めた口調で。
 断言する勇騎を見た八卦は、笑って言葉を続ける。
「俺は死なない。三人の保持者に敗れても、こうして生きているじゃないか」
「推理小説で双子が出てきた時、お前ならどう考える?」
「何?」
 突然、何も関係ない話が始まり、八卦は困惑する。勇騎はそんな様子を見ながら解説を続けた。
「謎を解き明かそうと考えている多くの人間なら、入れ替えトリックを考えるだろう。だが、俺ならそこで、双子ではなく三つ子ではないかと考える」
 勇騎が発した一言に八卦は目を見開く。その言葉で勇騎が八卦の能力の秘密を見抜いている事に気付いたのだ。
「お前の特殊能力は、相手の攻撃エネルギーを復活のためのエネルギーに変換して復活する能力のようだが、それはお前が言っているだけの事だ。俺達はそれが嘘であるという可能性に気付くまでに時間がかかった。死なない能力である、という固定概念に縛られているせいで、発想を広げる事ができなかった。金城が騙されるのも無理はない。倒したはずの相手が無傷の状態で立っていたら、どんな保持者でも驚く。その状態で死なない能力を持っていると言われたら、疑う事を忘れるだろう」
「その言い方だと、僕が間抜けみたいじゃないか」
 勇騎の後ろには、豪人が立っていた。彼だけでなく、ヴェルデ、博成、ゆかり、美和、そして日芽もいる。
「俺の嘘にいつ気がついた?」
「最初からその可能性を疑っていた。死なない能力なら、何故積極的に戦いを仕掛けてこないのか、と。死なない能力ではなく、別の能力なのではないかと俺は考えた。そう……」
 勇騎はゆっくりと腕を上げ、右手で八卦を指す。
「対戦に敗北した時、二人ではなく三人に分かれる能力!それがお前の『途切れぬ命(アライブ・ア・ライフ)』だ!時間が立てば能力に必要なエネルギーが集まって、もう一度同じ事ができるようになるのだろう。三人に分かれるのは、エネルギーを集めるまでに敵から逃げ切るための時間稼ぎだ」
「そうか……。全て判っているのか」
 無表情、そして、声にも感情がない。だが、八卦の目にあるのは静かな怒りだ。触れた者を切り裂きそうな鋭い怒りが彼の体内から放出されている。
「ならば、ここでお前を倒すしかないな、赤城勇騎。これで、俺を追い詰めたと思うな!」
 八卦の恫喝と共に、世界が戦うための世界へと変わって行く。保持者もギャラリーも飲み込み、戦いが始まった。
「終わらせてやる。真実の前に跪け!」
「その力……そのデッキ、両方とも乗り越えてみせる!」

 朝焼けを浴びる街の道路を、神父のような服装の巨漢と巫女服の少女、そして真っ黒なスーツを着た少年が急ぎ足で歩いている。六道六儀と七夕初七日、三ツ沢二古だ。
「もう!なんなんすか、六儀さん!こんな朝早くに起こされたら、きついじゃないっすか!」
 寝癖がついた髪を押さえて、服と同じ漆黒の帽子をかぶった三ツ沢が口を尖らせて抗議する。いつものように、六儀はそれに答えない。初七日は、彼の様子から異常が起こった事を察した。
「八卦が戦いに出てるのね?今、負けたら死んでしまうのに!」
 六儀は答えない。答えが判っているのなら、イエスと答える必要はないと感じているのだ。
「何言ってんすか。八卦さんの『途切れぬ命(アライブ・ア・ライフ)』は死なない能力。何度倒されても蘇るマゾっぽい能力ですよ。ね?」
 軽い口調で話しながら二人を見る三ツ沢だったが、どうやら、そうではないと悟った。
「待って下さいよ……。八卦さんは、死なない能力だって言ったんすよ!」
「そんなものがあるわけないでしょ!」
 大声を出す三ツ沢に、足を止めた初七日が激昂する。初七日が怒ったように言うのはよく見る光景だが、この時は真剣さが違う。その様子を見て、三ツ沢は呆気に取られた。
「七夕さん、そんなに八卦さんが心配なんすか?もしかして、八卦さんの事……」
「九十九」
 「好きなんすか」と聞こうとした三ツ沢の言葉を遮るように、六儀が低い声で言う。
八百万八卦、七夕初七日、六道六儀の三人がいなければ、九重九十九を復活させる事はできない。初七日の心配は、八卦ではなく九十九が復活できない事にあるのだ。
 六儀の言葉を聞いて、三ツ沢はそれを察した。
「そうか……。九十九様が復活できなくなるって事は、おれっち達の負け……?そんなの嫌っすよ! 保持者に負けるなんて、我慢できねえっす!」
「来い」
六儀は、再び元のペースで歩き始めた。後の二人もそれに続く。

「『封魔エリゴウル』!」
「『幻緑の双月(ドリーミング・ムーンナイフ)』を召喚して、手札をマナに。ターン終了だ」
 勇騎は、豪人とヴェルデから聞いた情報を基に、八卦のデッキ構成を考えていた。一回目は『悪魔神バロム』。二回目は、『極仙龍バイオレンス・サンダー』。どちらも大型の進化クリーチャーだ。今回も巨大な進化クリーチャーで攻撃を仕掛けてくる可能性は高い。
「『封魔魂具バジル』を召喚。『エリゴウル』でシールドをブレイク!」
「くっ!」
 『エリゴウル』は、種族にグランド・デビルがある『バジル』が召喚された事でパワーが上がっている。『幻緑の双月』で相撃ちを狙う事はできなくなった。
「予想はしていた事だが、グランド・デビルの連携を活かして攻撃してきたか……。だが、黙って見ている俺ではない」
 『エリゴウル』が破ったシールドが青く輝き空に飛び散る。その青い輝きが、勇騎に二枚のカードを与える。
「シールド・トリガー、『ネオ・ブレイン』だ。俺のデッキは、半分がシールド・トリガーで構成されている。そして、『サイバー・ブレイン』!」
 勇騎は、さらに手札を増やす。そして、攻撃をせずにターンを終了した。
「八百万八卦。お前のデッキは、後半で大型のクリーチャーを召喚し、圧倒的なパワーで制圧するタイプだと判断した。ならば俺は、お前よりも早く切り札を召喚し、巨大なパワーでお前をねじ伏せる」
「いい判断だ。過去二回の対戦の情報を基に、俺のデッキを推理したといったところかな?幻緑の双月で攻撃をしなかったのは、殴り返しでクリーチャーを失うのを恐れたのではなく、俺の手札を増やさないため……か」
 速攻により、八卦の手札は消耗し始めている。大量のシールド・トリガーで猛攻を防ぎ、後半に怒涛のラッシュを決めれば勇騎が逆転する事は容易だ。
「だが、情報に踊らされすぎたな。俺の切り札が大型クリーチャーとは限らない!」
 八卦が取り出した一枚のカードが黒く輝く。それを、『バジル』に重ねた時、勇騎の『幻緑の双月』が破裂した。
「何が起きたの!?」
「そうか……。その進化クリーチャーか」
 博成が混乱した直後、勇騎はその切り札の正体に気付いた。彼の記憶にある召喚と同時に相手のクリーチャーを一体破壊できる軽量な進化クリーチャーは、一体しかいない。
「『永遠のジャック・ヴァルディ』。多色ではない低コストクリーチャーか、クロスギアを破壊する俺の切り札だ」
 『ジャック・ヴァルディ』の髪が伸び、二枚のシールドを突き刺した。その内の一枚が赤く輝き、『エリゴウル』を潰した。
「ほう、『地獄スクラッパー』か。シールド・トリガーでデッキの半分が構成されているというのは嘘ではないらしい。だが、このパワーに対抗できなければ勝ち目はない」
 『ジャック・ヴァルディ』は7000という序盤から召喚が可能な進化クリーチャーの中でも破格のパワーを持っている。
「八卦のマナには、他にも多色のクリーチャーがあるね。この『ジャック・ヴァルディ』を倒しても次の『ジャック・ヴァルディ』が潜んでいる……」
「スピード、パワー、W・ブレイカー、特殊能力。何度も相手にしたいクリーチャーではない」
 豪人とヴェルデも静かにその成り行きを見守っている。その中で、日芽だけが穏やかな顔で微笑んだ。
「大丈夫!お兄ちゃんは、不利じゃないよ」
 日芽の言うように、勇騎は落ち着いた顔をしている。『ジャック・ヴァルディ』を見ても、まだ落ち着いていた。
「手札は充分。『幻緑の双月』を召喚して、再びマナをチャージ。『母なる大地』を使い、『幻緑の双月』をマナの『アクア・サーファー』と交換する。『ジャック・ヴァルディ』を手札に戻してもらうぞ」
 勇騎のマナゾーンは、4ターン目で六枚のカードが揃っていた。八卦の猛攻と二枚のカードの効果で手札も多い。
「そうだよ!次のターンには7マナ。『地獄スクラッパー』を使って小型クリーチャーを一掃する事だってできる!『ジャック・ヴァルディ』は4マナで軽いけれど、進化元のクリーチャーと合わせたら1ターンで召喚するのに必要なコストは最低でも6マナ。隙ができたよ!」
「それに、『アクア・サーファー』は6マナのクリーチャー。単色クリーチャーだけど、『ジャック・ヴァルディ』の効果で破壊できるクリーチャーじゃない」
 博成の言葉に、豪人が続ける。
「不思議だ……」
「何?」
 勇騎の静かな言葉に、八卦が返す。
「俺の予想以上にこのデッキはよく動く。運が良いという言葉では片付けられないほどに……。それが不思議だと言っている」
「自慢のつもりか、保持者?まだ戦いは終わっていない!」
 八卦が召喚したのは、二体の『封魔ハリセンモン』だ。ブロックされない特殊能力を持ちながら、2マナでパワー2000という同じサイズのクリーチャーの中でも、強いパワーを持っている。
「次のターン、『ハリセンモン』を『ジャック・ヴァルディ』に進化。W・ブレイクし、『ハリセンモン』でお前を消し去る!」
「それは不可能だ」
 勇騎は『ヘリオス・ティガ・ドラゴン』を召喚する。その雄たけびが、二体の『ハリセンモン』を焼き消していった。
「『アクア・サーファー』でシールドをブレイク!」
 八卦のシールドは、『サイバー・ブレイン』だった。手札は増えたが、勢いに乗った勇騎を止められるとは思えない。
「本当に不思議だ……」
「勇騎さん、それは想いの力です」
 美和の声を聞き、勇騎は後ろを向く。
「想い、だと?」
「ええ、羽山さん達や『ウイングス』の方々……。この戦いにつながる多くのデュエリストの想いが、この戦いを支えているのです。それが、あなたに力を与えているのです」
「なるほど」
 勇騎は、再び八卦を見る。静かな視線の中に、さらなる熱い闘志を秘めて。
「これが、この戦いの真実だ。倒されていった仲間の力が、俺の力を強くさせる!真実の裁きに身を委ねろ!」
「それが、真実だというのならば、俺の力で塗り替えるだけだ!」
 八卦は、カードを強く握り締めて勇騎を睨みつける。勇騎のペースになっているが、シールドの数では絶対的な差がある。八卦が勝つ事も可能なのだ。
「俺は『球舞』を統べる男だ……。俺の負けは『球舞』の負け……。絶対に負ける事はできない」

 『球舞』という組織を考えたのは、八卦だと言っていい。姿を現さない九十九の代わりに実質的に指揮を取り、組織を束ねていたのは彼だ。
 捉えたデュエリストの教育を担当する六儀。情報収集をメインにしていた初七日。その二人の行動を基に、最終的な作戦の指示を出した八卦。『球舞』も新たな五人のメンバーが入り、九十九を含めた九人のメンバーとして活動する事ができるようになった。
 二年の月日をかけて、戦いの準備をした。そして、少しずつデュエリストを取り込み、『球舞』の下で動く者達が増えていった。全ては順調で、八卦は『球舞』の支配者として、王として安堵していた。
 八卦は、一緒に働く仲間達に特別な感情を抱く事はなかった。ただ一人、七夕初七日を除いて……。
 彼女は、『球舞』という組織の中でも特別な存在だった。ごく普通の少女と言ってもいい。年頃の少女らしく、屈託なく笑い、時には怒る。普通の少年のように過ごしている三ツ沢の、どこか演技のようにも見える反応とは違い、彼女の感情には自然な美しさがあった。いつしか、八卦は初七日を好きになっていた。
「アタシが『球舞(ここ)』にいる理由?なんだっていいじゃない」
 八卦が初七日に『球舞』にいる理由について聞いても、こんな反応しか返ってこない。どのメンバーも『球舞』に入った理由は話したがらない者が多かった。五箇条のように「ただの好奇心だ」という者や「もっと絶望の近くにいたいのだ」と何度も発言する二階堂のような例外もいたが。
 八卦の初七日への想いは、心の中に生まれたその日から色褪せた事はない。しかし、彼の恋には強大なライバルがいた。それは、たまにしか姿を現さない九重九十九だ。
 何故、初七日は九十九に心惹かれるのか?
 何故、『球舞』の王は自分ではないのか?
 何故、こんな邪魔者がいるのか?
 八卦は、九十九が嫌いだった。九十九がいなければ、全ては安定する。初七日は、八卦を愛するだろう。八卦は『球舞』の本当の支配者となる事ができる。
「九重九十九は、俺の前に存在してはならない邪魔者だ」
 二年という時間をかけて軍団を作り上げた『球舞』の次の目的は、九重九十九の完全なる復活だった。だが、八卦の目的だけは違っていた。
「来い、八百万八卦」
 勇騎の言葉で、八卦の意識は現実へと引き戻された。今は、憎むべき保持者との対戦中だ。この男を破らなければ、八卦に未来はない。
「『ボーンキラー』、『バジル』を召喚」
 最初の勢いは消え失せている。どんな手を使っても勇騎を倒さなければならないという焦りだけが、八卦の心を支配していた。
「勇騎ちゃん!なんか、相手の勢いはなくなっているわ。そんな奴、さっさとやっつけちゃいなさい!」
「ああ、判っている」
 勇騎は『地獄スクラッパー』を使い、八卦のクリーチャー二体を破壊した。『バジル』の効果で『アクア・サーファー』が破壊され、『ボーンキラー』の効果で手札一枚が破壊されたが、勇騎は動じない。八卦の目を見据え、予言でも言うかのように荘厳な雰囲気を身に纏って宣言する。
「お前を倒し、いずれ俺の前に立ちふさがるであろう九重九十九も必ず倒す」
「九十九……だと?」
 世界で最も忌み嫌っている男の名前。その単語が、八卦の闘志を再点火させた。
「九十九……九十九……何故だ。何故、俺を見ない?俺は、俺はここにいる!初七日も何故、俺を見ないんだ!『球舞』を指揮するのは、『球舞』の王はこの俺だ!八百万八卦だ!」
 八卦は両手で髪をかきむしりながら叫ぶ。それは、悲痛な叫びだった。例えるなら、地獄で処刑される罪人の断末魔のように。この世のものとは思えない恨みや憎しみが、人間の形をした存在の口からどんどん吐き出されていく。
「九十九など……必要ない!お前も消えてなくなれ!」
 八卦の叫びを無視して勇騎の『ヘリオス・ティガ・ドラゴン』はシールドをW・ブレイクする。しかし、そのシールドの破片から現れた黒い腕が『ヘリオス・ティガ・ドラゴン』の肉体を突き破る。『デーモン・ハンド』だ。
「次はお前だ、保持者。お前の肉体を突き破る!」
 八卦は『腐敗勇騎ガレック』を召喚した。序盤に増やした勇騎の手札だったが、マナのチャージ、そして召喚、除去を繰り返している内に、手札は減っている。今、『ガレック』によって手札を減らされたら、状況に対応できるか判らない。
 黒い光と共に、勇騎の手札は弾け飛び、墓地へ送られる。その様子を見た八卦は愉快そうに笑った。
「ははははは!次!次のターンで俺は『ジャック・ヴァルディ』を出す!いくらシールド・トリガーが豊富なデッキであっても、何度も出るものではあるまい!俺のシールドは残り二枚。簡単に破られるものではない!」
「馬鹿が……。手札破壊くらい、俺が予想していないとでも思ったか?」
「何!?」
 勇騎の墓地から赤い輝きを放ち、一体の巨大な鳥のようなクリーチャーが八卦の前に立ちはだかった。
「『翔竜提督ザークピッチ』。効果で、俺はアーマード・ドラゴンを一体手札にくわえる」
「何故だ……」
「俺のターンだな。マナをチャージ。これで9マナ」
「何故、運命は俺を嫌う……」
「これで、俺の切り札を呼び出す準備ができた」
「何故なんだ!何故!何故!何故!」
「『ザークピッチ』を『超竜ヴァルキリアス』に進化!そして、マナから『ボルシャック・大和・ドラゴン』を呼び出す」
「何故なんだよおおおっ!俺は、『球舞』の王なのに!!」
 『ヴァルキリアス』の体にあるいくつもの銃口が火を吹き、八卦を守っていた三枚のシールドが粉々に打ち砕かれる。その中にシールド・トリガーはなかった。
「終わりだ。もう二度と、お前が蘇る事はない……」
 『ボルシャック・大和・ドラゴン』が鞘から刀を抜き、両手で構える。刀身で燃え盛る炎は、勇騎の思いに呼応してどんどん大きくなっていった。
「『ボルシャック・大和・ドラゴン』!八百万八卦を斬り捨てろ!」
 縦に振り下ろした刀が八卦を捉えた時、爆音と強風がその場を駆け巡った。やがて、クリーチャーの姿は消え、世界は勇騎達の住む普通の世界へ戻っていった。
「八卦!」
 遠くから、三人の『球舞』のメンバーが走ってくるのが見える。その中で、初七日は勇騎達の姿を見て、何が起こったのか理解した。
「……八卦は、どうしたの?」
 それでも、問わずにはいられない。頭脳で理解しても、心では信じていないのだ。
「八百万八卦は俺が倒した。残るは、お前達か」
「ふざけんじゃねぇっすよ!八卦さんが負けるはずねぇだろが!八卦さんの『途切れぬ命(アライブ・ア・ライフ)』は死なない能力なんだよ!何度ぶっ殺しても生き返る、カーズ様も真っ青の最強の能力なんだぞ!てめぇごときに……てめぇごときに……っ!!」
 勇騎の言葉を聞いた三ツ沢が彼につかみかかり、初七日が力を失ったようにその場に崩れた。勇騎は何も言わずに三ツ沢を突き飛ばし、『プロミネンス』を取り出す。
「おうおうおう!上等じゃねぇっすか!八卦さんの仇討ちをしてやるっすよ!」
「やめろ」
 デッキを取り出した三ツ沢を見て、六儀が低い声で注意する。三ツ沢の怒りの矛先は、彼に向いた。
「何故なんすか!?おれっちじゃこいつを殺せねえとでも言うのかよぉっ!!」
「九十九が、蘇る」
 六儀の言葉に、そこにいた全ての者が動きを止めた。呆けたような顔で六儀の顔を見ている三ツ沢に彼が説明を始める。
「九十九が蘇る方法のうち、二つは俺達三人の力が必要。だが、最後の一つは八卦の力だけでいい……」
「じゃ、八卦さんは最後の一つを……。って、最後の一つってなんすか!初めて聞いたっすよ!俺は二つしか知らないっすよ!」
「あーははははははは!!」
 その声を聞いた保持者達は耳を疑った。そして、今まで表情を変えなかった六儀が初めて笑顔を作る。
「ここだよ!僕だよ!」
 遠くから、一人の男が歩いてくる。修行僧のような服装。男性とは思えないような黒く伸びた美しい髪。それは八百万八卦の姿をしていた。だが、表情も動きも八卦ではない。
「久しぶりの肉体。久しぶりの太陽。久しぶりの虐殺の予感……。さあ、お祭りの始まりだね!」
 子供のように無邪気な笑顔。八卦が絶対にしなかった表情だ。
「お前は……誰だ?」
 警戒する勇騎の声を聞き、驚いたように博成が言う。
「え……?八百万八卦でしょ?」
 そう言いながら、博成も奇妙に思う。目の前にいる男は間違いなく八百万八卦だ。だが、八百万八卦ではない。矛盾した思考が頭脳を満たしている。
「九十九様……。九十九様!」
「久しぶり、初七日。お待たせしちゃったね」
 九十九と呼ばれた男は、初七日に微笑みかけた後、勇騎達に顔を向けた。
「初めまして。僕が『球舞』の王、九重九十九だよ」

 第十九話 終

 第二十話予告
 復活した九重九十九。ついに現れた最悪にして最強の敵の目的は世界征服だった。保持者すら圧倒するその脅威の力が、世界に刃を向ける。
「さてと、史上最速の世界征服を始めるよ」
 ついに始まった狂気の計画。真実を追う勇騎は、九十九に勝つ事ができるのか?
 第二十話 復活
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