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『TOKYO決闘記』 第二十話 復活

『TOKYO決闘記』

 私、一ノ瀬博成は東京連続失踪事件の謎を追っている高校二年生だ。
 赤城勇騎は、今までの情報から八百万八卦の『途切れぬ命(アライブ・ア・ライフ)』の弱点を推理した。死なない能力であるはずの能力の正体は、一度敗れた時に三人に分かれる能力だったのだ。八卦の速攻に一時は圧倒される勇騎だったが、大型のドラゴンの召喚により、ついに八卦を下す事ができた。
 そこへ集まる『球舞』のメンバー。そこに現れるのは、倒されたはずの八卦。いや、八卦の姿をした別の男、九重九十九だった。
 20XX年 一ノ瀬博成

 第二十話 復活
 九重九十九と名乗った八百万八卦の肉体は、両腕を空に突き出し大きく伸びをした。
「いい天気。虐殺日和だね」
 彼の笑顔は、無邪気な子供のようにしか見えない。八卦の肉体をした別人の出現に、誰もが驚いていた。その傍らに初七日が歩み寄り、跪いて、地面すれすれまで頭を下げた。
「九十九様、お待ちしておりました」
 その言葉には、神を前にしたような尊敬の念があり、深い愛があった。それを見て、三ツ沢も慌てながら同じように頭を下げる。
「う……うっす!九十九様、お勤めご苦労様です!!」
「僕は、刑務所に入っていたわけじゃないよ、三ツ沢。……ところで」
 九十九はそこに三人いた『球舞』のメンバーを見て、すぐに保持者達を見た。
「六儀ぃ……。こりゃ、ちょっとひどくないかな?」
 そう言った九十九は、六儀の前に歩み寄り大きな声でけたけたと笑った。そして、自分の髪をつかむと引っ張り始める。
「あー、邪魔だな~。すっごく邪魔だよ~。八卦は馬鹿だなぁ、こんなに髪を長くしても邪魔なだけなのに。僕だったら短くするよ。その方が邪魔にならないもん。邪魔邪魔。あっ、そうだ!」
 九十九は、いい事を思いついたというように手をたたくと初七日に近づいて微笑んだ。九十九の気配に気付いたのか、初七日は恐る恐る頭を上げる。
「初七日、僕の髪の毛を切ってよ。初七日に切ってもらうのがいいな」
「はい……九十九様。喜んで」
 その声は、震えていた。それは、九十九という存在の大きさへの畏怖であり、九十九に指名された事への喜びでもあった。
「う~ん、一本杉に二階堂、四天王寺と五箇条が負けたか。八卦がやられたのは別にいいや。僕、あいつ嫌いだもん」
 口を尖らせて言った九十九は、三人の保持者を見て、勇騎が八卦を倒した人物だと本能的に察した。
「君。まず、君からやっつける。名前は……赤城勇騎だっけ?」
「……何故、出現した。俺は、確実に八百万八卦を倒していたはず。今、その肉体は完全に滅んでいなければならないはずだ!」
 対戦相手の名前を確認する九十九に対して、口を開いた勇騎は自分の疑問をぶつけていた。彼も、目の前に現れた最大の敵に恐怖を感じている。
「六儀が言っていたよね?僕が復活するための方法は三つあって、最後の一つは八卦の力だけでいいって。一つは、八卦と初七日と六儀が君達のデッキのエネルギーを利用して新しい体を作る方法。もう一つは、三人が相性のいい適当なデュエリストを探して、そいつの体に僕の精神を植えつける方法。最後の一つは……八卦が倒される事なんだよ。ありがとう!八卦が消えてくれたから、僕はこうやって表に出てきて、色々壊せるんだよ!」
「八卦が消えた……?なら、何故お前は……」
 そこまで言った勇騎の目が見開かれる。
「勇騎君、一体どういう事なの?」
「恐らく、二重人格だ……。俺が倒したのは、八卦の肉体ではなく八卦という人格。今まで、八百万八卦が九重九十九という人格を抑えていた。だが、俺が八卦を倒した事で、八卦の人格は消え去り九十九が自由に行動できるようになった」
「そんな感じだよ」
 九十九は、デッキを取り出しゆっくりとした歩調で勇騎達に近づく。目の前の敵に対する恐怖を感じながら、勇騎は『プロミネンス』を手に取った。
「じゃ、始めよっか。最初に死ぬのは、赤城勇騎だね」
 そう言った途端、九十九の目の前に五枚のシールドが現れる。世界は、デュエルをするための世界へと変化をしていない。現実世界のまま、九十九はシールドを生み出したのだ。
「何?僕のレベルに追いつけない?そうか、君達は別の世界に行かないとクリーチャーも呼べないんだね?はっはっは!これは傑作だぁ!」
「俺達のデッキも、今までの奴らのデッキも一度別の世界……この世界とクリーチャーの世界の中間地点への瞬時の移動をしなければクリーチャーを呼び出す事はできない。中間地点の世界では、比較的クリーチャーを呼び出しやすい環境にある。だが、九重九十九は、それを現実の世界で行った。デッキの性能を限界まで引き出せばできるだろう。だが……」
 混乱する博成に対して、頼まれもせずに勇騎が説明している。そうする事で、平静さを取り戻そうとしているようにも見える。だが、説明を続ければ続けるほど、相手の実力の高さが判り、より袋小路に追い詰められていく。
「俺にもそれはできない」
 最後の一言は、博成を絶望させるのに充分な威力があった。
「ごめんね。じゃ、君達のレベルに合わせてあげるよ」
 瞬時に、世界はクリーチャーを呼び出せる世界へと変化していった。仲間に見守られながら、勇騎は五枚のシールドを呼び出す。
「来い、九重九十九。真実が見えている限り、俺に負けはない」
「怖がっているんじゃない?僕が相手じゃ仕方ないけどさ!」
 九十九が最初に召喚したクリーチャーは『幻緑の双月(ドリーミング・ムーンナイフ)』だった。勇騎は『フェアリー・ライフ』でマナを増やしていく。
「同じタイプのデッキか……」
「違うよ」
 勇騎に対して、九十九は醒めた口調で言い放つ。
「僕のデッキは、君なんかよりもずっと強いデッキさ。それを、少しずつ味わわせてやるから覚悟しな」
 九十九は、『青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)』でマナを増やす。間違いなく勇騎が八卦相手に使ったのと同じ、マナブーストから大型クリーチャーにつなげるデッキだ。
「ならば、俺は『青銅の鎧』を召喚。そして、『幻緑の双月』だ」
 同じ数のクリーチャーが並ぶ。勇騎の手札は減っているが、すでに『母なる大地』が手札にあるため、焦る必要はない。
(九重九十九がどう動くのかは判らない。だが、俺のマナには『ヘリオス・ティガ・ドラゴン』と『ジャガルザー』がある。次のターン、状況にあわせてどちらかのカードをマナから出せばいい)
「な~に、狙ってるのかな~?僕、今回はシールド一枚も破らせないもん。それっ!」
 九十九の手の中にある一枚のカードが青と赤の輝きを放ち、同時に場の中央にバスケットボールほどの水の塊と火の塊が現れた。九十九を除くその場にいた全ての人物が、その様子を黙って見ていた。
「ぶっ壊せぇ!『炎槍と水剣の裁』!!」
「何っ!?」
 勇騎が反応するより一瞬早く、全てのクリーチャーが水の剣で貫かれ、炎の槍に焼かれる。その亡骸の数だけ、九十九はカードを引いた。
「へへっ、四枚ゲーット!さ、次はどう来る?どうする?」
「『炎槍と水剣の裁』だと……?何故、そのカードが」
 勇騎が混乱する様子を見て、博成もその危険性に気付いた。デッキに入るはずのないプレミアム殿堂のカードがそこにある事など、おかしい。
「金城さん、こういうデュエルではプレミアム殿堂のカードを入れていてもいいの?これじゃ、勇騎君が不利だよ!」
「おかしい……。僕にだって判らないよ。本来なら、デッキに負荷がかかり過ぎてデッキが壊れるか、使用者に負荷がかかり過ぎて自滅するか……。どちらにしても、使えるはずがないんだ」
「じゃあ、何で……」
「決まってんじゃん。僕が強いからだよ」
 混乱する豪人と博成に対して、九十九が笑顔で解説する。
「僕の能力『球舞王(ゴー・オーバー)』は圧倒的な力。普通の世界でもクリーチャーを召喚できるし、プレミアム殿堂のカードだって使い放題。保持者なんかじゃ僕には勝てないんだよ。力の差があるのさ」
 そう言った九十九は、唇を歪な形に歪めながら勇騎に微笑む。それは挑発の微笑みだ。力の差を楽しむ為に、弱者を玩具にする者の目だった。
「俺は、『サイバー・ブレイン』を使ってターンを終了する」
「僕は、『青銅の鎧』を召喚。さらに『サイバー・ブレイン』で手札補充だ」
 九十九がマナ破壊や手札破壊での妨害を仕掛けてこなかったのを見て、勇騎は安堵し、一枚のカードを出す。
「この程度の力の差など、俺には何の問題もない。『バルキリー・ドラゴン』を召喚する!」
 勇騎の場に出たのは、大型のドラゴンだ。W・ブレイカーもあり、さらに、特殊能力も備わっている。
「俺は、『バルキリー・ドラゴン』の効果で『ボルシャック・大和・ドラゴン』を手札に加える。ターン終了だ」
 勇騎が手札に加えた『ボルシャック・大和・ドラゴン』が赤く輝く。強大な敵を前に怖気づくどころか、喜んでいるようだ。
「やった!勇騎君の切り札だ!これで、勝てる!」
 博成は、大きな声を出して喜んだ。九十九のペースでデュエルが進んでいるとはいえ、今、彼の場にはクリーチャーが一体しかいない。次のターン、勇騎が『大和・ドラゴン』を召喚すれば、四枚のシールドをブレイクする事ができるのだ。
 九十九が不機嫌そうな顔をしている事からも、勇騎が有利になっていると推測できる。
「つまんない」
 九十九が一枚のカードを引き、子供のように呟く。
「残念だったな。復活して一時間も経たずに消えていく事には同情する。だが、お前を放置しておくわけには行かない。真実に選ばれなかった事を地獄で後悔しろ」
「つまんないって言ったのはそういう意味じゃない。保持者も弱すぎてつまんないの」
 九十九は裏返ったカードを一枚見せる。裏面だけしか見えていないのに、勇騎はその力に恐怖した。
「まさか……それはっ!?」
「『無双竜機ボルバルザーク』、召喚」
 圧倒的に巨大なドラゴンが宙を舞い、その翼が太陽を隠す。その鋭い剣の先が勇騎に向けられていた。
 そのドラゴンの名を知らぬ者は少ない。博成も、プレイしていて何度も使われた経験があり、自分でも何度も使った経験のあるドラゴンだ。
「怖い?怖いよね?自分のシールドトリガーがうまく機能すればいいけれど、もし、うまく行かなかったら死んじゃうもんね?」
「俺のデッキは、シールド・トリガーでデッキの半分が構成されている。選択を間違えたな、九重九十九」
 確かに、勇騎のデッキには大量のシールド・トリガーが入っている。八卦との戦いでもその豊富なシールド・トリガーで相手を翻弄し、勝利したのだ。
 だが、それはシールド・トリガーが使えたら、という仮定での話である。もし、シールド・トリガーが封じられたら……。シールド・トリガーだけでなく、ストライク・バックさえも封じられたら、勇騎に勝ち目はない。
 そして、九重九十九は、相手の勝利の可能性を一つも残さない悪魔のような戦法を使う男だった。
「一回、ターン終了。ここで決めないと、僕の負けになっちゃうな。ま、そんな事はないけどね。まずは、『幻緑の双月』を召喚。そして、『母なる大地』を二枚使って場のビーストフォーク二体をマナのクリーチャーと交換!さ、終わりだよ」
 バトルゾーンに出たのは、赤い体に青い翼。要塞と見間違うほどの銃火器を背負った龍、『ボルメテウス・サファイア・ドラゴン』だ。
 シールドを焼き尽くすT・ブレイカーの『ボルメテウス・サファイア・ドラゴン』が二体。そして、『ボルバルザーク』が一体。三体のドラゴンを従え、その中心にいる九十九は腕を空高く突き上げる。
「いっけぇ、『サファイア』!シールド・トリガーなんか、全部焼いちゃえ!!」
 二体の『サファイア』が噴出す炎は五枚のシールドを灰すら残さずに焼き消した。その中には、『ナチュラル・トラップ』も『アクア・サーファー』も『母なる大地』も入っていた。
 勇騎は、消えていくシールドを呆然とした顔で見る事しかできなかった。カードを持つその手が震えている。
 博成は、目の前の光景が信じられなかった。信じようとすらしなかった。今まで、一度も負けた事がない勇騎が、こんなにあっさりと敗北するわけがない。最強だと信じた友人が負けるのだとしたら、この世界の誰もが、九十九に勝つ事などできないに違いないと感じた。
「う、嘘だ……。夢か何かだよ!何かの間違いだよ!勇騎君が負けるわけないじゃないか!勇騎君は絶対、絶対に最後には逆転して勝つんだよ!」
「うるさい」
 九十九が殺意を混めた視線で博成を睨みつける。その目に恐怖して、もう何も言う事ができなくなる。
 気分を害したように、九十九は右手を振り下ろし
「はい、終わりね」
と、言った。『ボルバルザーク』の赤い剣が、勢い良く勇騎に振り下ろされ、爆発が起こり、地面が激しく揺れた。
「勇騎くぅーーんっ!!」
 世界が元の姿に戻り、爆発の跡地の煙が消えていく。勇騎がいたはずの場所には誰もいない。そこには、抉れたような地面があるだけだった。『プロミネンス』すら残らず、跡形もなく消し去られてしまった。
 静寂。
 誰も動けず、何者も言葉を発する事ができない。誰よりも勇騎の近くで彼の強さを見ていた博成は、この状況を脳が認識できずに、頭を抱えた。
「やっ、やったッ!さすが九十九様!おれっちにできない事を平然とやってのけるッ!そこにしびれる!あこがれるゥ!」
 最初に言葉を発したのは三ツ沢だった。興奮した様子でそう叫ぶと、九十九に近づく。その後に、初七日と六儀も続いた。
「あ~あ、終わっちゃった。『プロミネンス』も壊れちゃったかな?色々使い道があったんだけど……。ま、いいか。他の四つがあれば計画に支障はないんだし」
 つまらなさそうな顔をしていた九十九は、にこやかな顔になり、初七日を見る。
「初七日、今から髪切ってよ。他の奴らもきっとつまんないから戦わなくてもいいや。それにこの服も嫌だから、服も選んでよ。僕に似合う服がいいな。それと、六儀」
 九十九は六儀に近づくと、静かな声で命令を告げる。
「能力を使う事を許可する。……いや、違うね。能力『完全殺戮(オール・デッド)』を使う事を命ずる」
「了解」
 六儀が両手を前に出すと、指先から黒い矢のようなものが放たれた。その矢は、四方八方へ飛んで行き、青い空を黒く染めた。
 その内の一つが博成に刺さった瞬間、彼は体の力が抜けて行くのを感じ、その場に倒れた。勇騎が敗北した事に絶望し、力が抜けたのかと思ったがそうではない。六儀の能力のせいで、体の力が抜けているのだ。
「行こうか。僕達にはやらなくちゃいけない事がある。髪を切って、服を選ぶ。それからが本当の仕事の始まりだ」
 王を迎えた『球舞』のメンバーは、博成に背を向けて歩きだす。豪人もヴェルデも恐怖で動けず、彼らを止められない。
「さてと、史上最速の世界征服を始めるよ」
 九十九の言葉がはっきりと聞こえた瞬間、博成は意識を失った。

 九十九に勇騎が敗北してから一日が経った。
 博成は豪人に運ばれたらしく、気がついたら自室のベッドにいた。体が重く、何もする気にならない。それは精神的な理由ではなく、肉体に問題があるからだ。
 『完全殺戮(オール・デッド)』の黒い矢を受けた腹部に、奈落の底のような黒い染みができていた。最初は拳ほどしかなかったそれは、少しずつ大きくなっていった。それと共に、博成の体力が奪われているのを感じる。
『やー、みんな見てくれているかな?』
 動く気力がない博成がテレビを見ていると、突然、妙な番組が始まった。どこかのテレビ局を占領したのか、ニュースキャスターの代わりに、髪を切ってスーツを着た九重九十九が映っていた。
『初七日~、ネクタイやだよー。今度はネクタイ締めなくていい服にしてね。おっと……話がそれちゃったね、ごめんごめん。僕の名前は九重九十九。世界を支配する組織『球舞』のリーダーだ。突然だけど、今から君達の世界を全て僕のものにする。今、東京は僕の支配下にあるといってもいい。君達の周りにもいるんじゃないかな?体の一部が真っ黒になっている人。それはね、僕の部下、六道六儀の能力『完全殺戮(オール・デッド)』によるものなんだ。三日もすれば、体の機能は全て停止……つまり、死んじゃうって能力。六儀に使わせたのは昨日だから、タイムリミットはあと二日。二日でみんな死んじゃうね。止めてあげてもいいけど、先に僕の要求を日本政府に呑んでもらう。できないとは言わせないよ。一部の政治家も、『完全殺戮(オール・デッド)』のターゲットにしたから』
「無茶苦茶だ……」
 今まで水面下で静かに仲間を増やしていた『球舞』とは全く違う。メディアを使い、世界中に自らの存在を広めている。
 だが、それが命取りだ。外国の政府がこれを黙って見ている訳がない。日本を侵略するにしても、『球舞』から日本を救うとしても、さらに自分の国に被害を飛び火させないためにも、何らかの方法で『球舞』を倒すアクションが行われるはずである。日本という国を犠牲にして、彼らを倒す事は容易だ。リスクは大きいが、止むを得ない。
『言っておくけど、僕が玩具にするのは日本だけじゃない。今から、三日以内に世界の全てを僕が支配する。僕の影武者が色んな準備をしてくれたからね。世界中に人質がいると言ってもいい。それに、僕がその気になれば日本から海外を攻撃する事も簡単なんだよ。ねぇ、保持者?』
 最後の言葉は保持者に対しての挑発だった。本当にそれだけの力が九十九にあるとは限らない。だが、『ネオウエーブ』や『グランドクロス』などのデッキのエネルギーを使えば世界征服も可能だ。『プロミネンス』の行方は不明だが、残りの四つだけでも世界征服をするためには充分すぎるほどの力が得られるのかもしれない。
『とりあえず、日本政府には『球舞』のやる事を妨害しない事、日本という国の機能の全てを僕が自由に使えるようにする事の二つを要求する。僕をこの国の王にしろ。でなければ、この国の全ての人間を殺す』
 八卦のような低い声ではない。だが、幼さが残る九十九の声は、それにはない狂気を持っていた。
『保持者達に告ぐ。『完全殺戮(オール・デッド)』は六儀の能力だけど、僕を倒さない限り止める事はできない。今、僕がいるのは……ここってどこだっけ?ねぇ、三ツ沢!カンペ、どこ~?まあ、いいや。どっかのテレビ局のでっかいビル。がんばって探してね』
 放送が終わり、博成は呆然とした顔で放送停止の信号を流しているテレビ画面を見ていた。
 史上最速の世界征服とはこういう事だったのだ。まず、日本を支配して、その後に世界を手中に治める。宣言をして三日で世界の全てを支配できれば、間違いなく史上最速だ。
「それに……もう誰も『球舞』とは戦えない。勇騎君が勝てない相手に、豪人さんやヴェルデ君が勝てるとは思えない……」
 世界の終わり。そう表現するのにふさわしい最悪の展開だった。東京連続失踪事件から始まった『球舞』との戦いは、保持者達の完全敗北で終わろうとしていた。
「もう、何もない……」
「一人で何を言っているんだい?」
 博成が顔を上げると、そこには豪人が立っていた。いつものように、高そうな白いスーツに身を包み、アンニュイな表情で博成を見ている。
「不法侵入ですよ」
「ドアが開いていたんだ。行こう」
 豪人は博成の腕をつかむ。彼の言っている意味が判らない。
「どこへ、ですか」
「九重九十九が放送を行っていたビルは、Tテレビが去年建てたコスモガーデンだ。奴の居場所を探していたら、カーナビであのニュースが流れてきたんだよ。場所さえ判れば問題ない」
「問題ないって……問題は山積みじゃないですか。勇騎君はいない。『球舞』は四人も残っている。その内の一人は、最強の九重九十九です」
「そうだね」
 豪人は、ゆっくり頷く。そして、それに対する答えを博成に返した。
「だけど、『球舞』は半分以上いない。保持者は……怪盗アルケーと墨川一夜が協力するとは思えないけれど、四人いる。その二人が戦ってくれなくても、僕もヴェルデ君も戦える」
「でも!勇騎君だって九十九には勝てなかったんですよ!」
「僕を見くびらないで欲しい」
 大声で叫ぶ博成を見ても、豪人は冷静だ。彼を安心させるように微笑みかける。
「君は、彼の戦いをいつも一番近いところで見ていたんだろう?だったら、信じてあげないでどうするんだい?」
「信じるって、何を……?」
「まあ、説明するよりも先にこっちに来てよ」
 豪人に引きずられるようにして博成は立ち上がる。そして、家の外に出ると豪人の車の助手席に乗せられた。
「博成君……やっぱり来てくれたんだ!」
「日芽ちゃん!?」
 後部座席から高い声を聞いて、博成は振り返る。いつもは明るさを周囲に振りまいている少女の顔も、今日はどこか暗く見えた。
「日芽ちゃんも、六儀の『完全殺戮(オール・デッド)』を受けている。美和もだよ」
 運転席に乗り込んだ豪人が前を見ながら重要な事実を告げた。あの時、博成はショックで周りの事まで気が回らなかった。自分だけが大変な目に合っていると思っていたのだ。
「日芽ちゃん、怖くないの?」
「怖い……よ」
 返ってきたのは、震える小動物のような声。だが、その直後に太陽のように晴れやかな声が聞こえた。
「でも、お兄ちゃんを信じてるから。今は、出てきてくれないけど……きっと、助けに来てくれる」
「そんな……だって勇騎君は」
「僕も彼が死んだとは思っていないよ」
 博成の言葉に答えたのは豪人だ。保持者の彼が言うのならば、その言葉にも信憑性がある。
「彼が来なかったとしても、僕はやるしかない。美和を救う手段が九十九を倒す事しかないのなら、やる事は最初から決まっている。もう一度聞くよ、一ノ瀬博成。君は、赤城勇騎の戦いを一番近いところで見ていたんだろう?彼の強さは君もよく知っているはずだ。君は彼を……彼の追い求めている真実を信じられないのかい?」
 真実。それは勇騎が好んで使っていた抽象的な言葉。
 彼はいつだって勝ち続けた。自分自身を信じて、どんな戦いも勝利したのだ。
 博成は、この一連の事件を追うと決めた。それは勇騎との誓いであり、自分との約束でもあった。
「勇騎君は……負けません。必ず、戻ってきます」
 この状況で、博成が言うべき言葉は一つ。
「金城さん、僕をコスモガーデンに連れて行って下さい。勇騎君が、きっとそこに戻ってきます。僕は、彼の戦いを見守らなくちゃならないんです」
「上出来だよ」
 豪人が軽く笑い、アクセルを強く踏んだ。

 第二十話 終

 第二十一話予告
 コスモガーデンに到着した豪人達三人の前に現れたのは、三ツ沢二古だった。九十九に与えられた力によってさらに凶悪になった彼のデッキが豪人に牙を向く。
「お前は、今まで買ったカードの枚数を覚えているか?」
 豪人、そして博成をも巻き込む特殊能力『破滅の息(ディープ・ブレス)』。豪人は最初の難関を突破できるのか。
 第二十一話 悪戯
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