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『TOKYO決闘記』 第二十二話 死神

『TOKYO決闘記』
 私、一ノ瀬博成は東京連続失踪事件の謎を追っている高校二年生だ。
 コスモガーデンの前に到着した私と金城豪人の前に現れたのは、『球舞』の三ツ沢二古だった。人の姿をした三ツ沢の能力『破滅の息(ディープ・ブレス)』は、シールドの量が減るのと同時に酸素が減るという妨害に適した能力だった。
 『ザ・ユニバース・ゲート』を使って、自分のターンを増やしてくる三ツ沢の猛攻を防ぎ、豪人は彼に勝利した。
 車から抜け出してきた赤城日芽、そして、佐倉美和と共に、私はコスモガーデン内に入る。この中には、どんな敵が待っているのだろうか?九重九十九を含めて『球舞』のメンバーはあと三人だ。
 20XX年 一ノ瀬博成

 第二十二話 死神
 神父のような服に鍛えられた肉体を包み、二つの瞳をサングラスで隠した大男、六道六儀は、壁が全てガラスでできているという特殊な部屋の中で、何かをかじっていた。白い上質の和三盆糖だ。
 彼の隣には、段ボールに詰まれた多くの食料が入っている。果物、菓子類など……。子供が好みそうな甘いものが多い。
 口の中にある和三盆がなくなった事に気がついた六儀は、段ボールの中から干し柿を取り出す。その内の一つを口に近づけた時、部屋の中に侵入者が現れたのを見つけた。
「……」
 六儀の目は、干し柿ではなく侵入者の姿を見ている。最初に気付いたのは、彼の異様な姿というよりも、全身から放出される殺気や破壊衝動といった負の感情だ。保持者の中では、最も『球舞』のメンバーに近いその男は、革で出来た黒いジャケットから同じように黒く輝くデッキを取り出した。
 彼が歩くたびに、顔の右半分を隠す赤く染めた前髪が揺れる。そして、包帯の上から巻かれた革のベルトのような拘束具の金具が音を立てる。怪物のような口から、言葉が吐き出された。
「ゼロ号を殺ったのは、テメェかァ!?」
 謎の女性に連れられて行方不明になっていたはずの墨川一夜が帰ってきたのだ。彼は全身に、革のベルトのようなものをいくつもつけている。その一つ一つに錠前のようなものがつけられていて、何かを閉じ込めているかのようにも見えた。
「……」
 六儀は答えない。相手の存在を確認し、自分の仕事をするための準備が必要だ。干し柿を口に入れると、ゆっくりかみ続ける。口の中が甘い味で支配され、少しの間、幸福を味わった後、彼はこう呟いた。
「……補給……完了」
 その低い声は、戦いの始まりを告げる言葉でもあった。六儀がデッキを取り出すのと共に、世界は戦うためにその気配を変え、シールドがそれぞれの体を守る為に生み出される。
「死に損ない、か……」
 六儀にとって不思議な事が二つあった。
一つは、一夜が生きている事。六儀は、彼を偵察に行った事があり、体が何かに蝕まれているという事を知っていた。他の保持者に比べ、不完全な肉体である事を見抜いていたのだ。
しかし、今の一夜は崩れ落ちそうな不完全さがない。何者かによって完全な姿に改良されたように見える。
 もう一つは、一夜がここに来た事だ。豪人とヴェルデが来る事は容易に想像できる。彼らの仲間にも『完全殺戮(オール・デッド)』は放たれた。仲間を救うために、自分を犠牲にしてでもこの二人は戦うはずだ。
 怪盗アルケーも理由は違うが、九十九に戦いを挑むだろう。九十九による世界征服で、世界情勢が不安定になれば、芸術品を盗むどころではない。生み出される芸術だって減っていくのだ。利害の関係というドライな理由で、アルケーは九十九を倒すために動くに違いない。
 だが、一夜がここに来る理由だけは理解できなかった。自分に向かってくる敵は鬱陶しく感じて破壊するこの保持者は、赤城勇騎だけを追い続けていた。彼以外とは戦おうとしないと言ってもいい。そんな一夜が積極的に戦いに来ている。この理由は判らない。
「死に損ないィ?けッ!今の俺を見て、そんな事が言えるかァァァッ!!ゼロ号を殺ったのは、テメェじゃねぇ!そいつのところに行くから、どけ!」
「排除する」
 六儀の返事と共に戦いが始まった。互いにマナをチャージして最初の行動に移る準備をしている。
「『エナジー・ライト』」
 先に動いたのは六儀だ。手札を増やし、足場を確保していく。彼のマナにはすでに光、水、闇と三色のマナが揃っていた。
「『竜音のキラ』、召喚ッ!!」
 一夜が最初に召喚したクリーチャーは、ティラノ・ドレイクのコストを下げるブレイブ・スピリットだ。この時点で、一夜のデッキがティラノ・ドレイクをメインにしたデッキだと判る。
「……」
 戦いながら六儀は二つの事を考えている。一つは、このデュエルに勝利するためにどのような行動を取れば良いのか。もう一つは、門番として配置していた三ツ沢二古の存在について。
 墨川一夜がここに来たという事は、既に彼は保持者によって倒されているのかもしれない。元々負けるつもりがなかった彼は、ここで何としても勝たなければならないと悟った。『球舞』のメンバーが減ったという事は、それだけ今後の作戦に支障を来たすという事なのだ。
「ならば……」
 六儀の右手は人差し指を伸ばした状態で一夜を指す。それは、子供が指で銃の形を真似るようなものだった。そして、六儀の指先から黒い矢が放たれて、一夜の胸を突き刺す。彼は倒れなかったが、貫かれた部分は、包帯の上からでも判るくらいどす黒く変色していた。
「これが、テメェの力か……」
「……」
 六儀は答えずに手札をマナに置いて次の行動に移る。
「『光陣の使徒ムルムル』、『光波の守護者テルス・ルース』」
 六儀が召喚したのは、いずれも軽量のブロッカーだ。だが、『ムルムル』は他のブロッカーのパワーを3000も上昇させる曲者である。
「防御型のデッキか?けっ!くだらねェェェッ!!そんなもん、全部ぶっ壊してやる!!」
 一夜の手札から鎖につながれた二つの四角い頭蓋骨が飛び出す。勢いよく飛び出したそれは六儀に、いや、彼の手札に向かっていきその二枚を食い破った。
「『スケルトン・バイス』。ブロッカーは増やす前にぶっ壊す!」
 自分の手札が捨てられたのを見ても、六儀の表情は何一つ変わらない。無表情なのだ。
「『サイバー・ブレイン』」
 減らされた分の手札を補給する六儀。その淡々とした動作を見て、さすがの一夜も戸惑いを感じる。
 対戦中の勇騎のように、冷静なのではない。感情がないのだ。今まで一夜が戦ってきた相手には、どんなものであれ、感情が存在した。それがないという事は、相手の行動を読む事も難しくなる。
「何を考えてんだか知らねぇが、企みごとぶっ潰す!『サイレント・ドラグーン』!!」
 ヴァンパイアのような翼をマントのように広げ、一体のクリーチャーが場に現れる。本来、6マナ必要なそのクリーチャーは、『キラ』の能力によって5マナでの召喚が可能になったのだ。
 そのクリーチャーの姿を見た時、六儀の眉が動くのを一夜は見逃さなかった。それは、デュエルが始まってから六儀が初めて見せた感情の動きだった。
「どうしたァ?『サイレント・ドラグーン』がそんなに怖いか!?」
 そこで、六儀は予想外の行動に出る。手札から目を逸らし、隣にあった段ボール箱に手を入れる。そこから出したのは、掌に収まりきらないくらいの和三盆だ。それを全て口の中に入れた。
「なめてやがんのかァッ!!」
 デュエルの途中で糖分を補給するおかしな対戦相手に一夜は吠える。この光景を見たら、彼でなかったとしても同じように怒鳴るだろう。
 だが、その行動はふざけていたのではない。糖分を充分吸収した彼は、口の端を動かして笑う。その笑みを見た瞬間、一夜は心臓が痛み出すような感覚に襲われた。
「ぐうぅッ!!テメェ……何をしたァ……!」
「俺の能力だ……」
「何ィッ……!?」
 六儀の能力『完全殺戮(オール・デッド)』は、外で多くの人を傷つける呪いのような能力だ。ここに来るまで一夜はその力によるダメージを受けなかったが、不特定多数の人間が被害を受けている。六儀の能力はあの一回で終わりではなかったのか。
「最高出力の『完全殺戮(オール・デッド)』は不特定多数の人間をターゲットにする事ができる。だが、通常時の……デュエルで発動する『完全殺戮(オール・デッド)』は、決められた数の人間しかターゲットにできない。最高出力の『完全殺戮(オール・デッド)』は九十九が使うための切り札……。そして、通常時は俺がデュエルで使う時のための能力だ……。後十分でお前は死ぬ」
「なるほど……。テメェがふざけたように見せて何か食ってたのは、エネルギーを補給するためか……!」
 一夜は、糖分がエネルギーに変わりやすい事を知っている。六儀が大量に糖分を摂取していたのは、最高出力の『完全殺戮(オール・デッド)』を維持した状態で戦い、さらに通常時の『完全殺戮(オール・デッド)』を一夜に使うためだったのだ。
「覚えとけ……!」
 地獄の底から響くような低い声。一夜の口から、呪いの言葉のようにそれが吐き出されていく。
「猛獣は飼い馴らせても、俺は縛れねェ……。半端なダメージしか与えないテメェの能力を、後悔しやがれええッ!!」
『完全殺戮(オール・デッド)』による攻撃を受けながらも揺るがない一夜の闘争心を見て、六儀は少しだけ驚く。だが、彼の冷静なプレイに影響を与えるほどではない。
「『猛菌恐皇ビューティシャン』を召喚、O・ドライブを使う」
 六儀は、追加で闇と水のマナを支払う事によって自分の手札を増やし相手の手札を捨てる小型のブロッカーを召喚した。鉄壁の防御に加えて、手札補充、そして手札破壊まで兼ね備えているのだ。今まで手札補充のカードを使わなかった一夜にとって、手札を破壊されるのは辛い。
「ククク、ハーハッハッハ!テメェの判断ミスだ……!」
 だが、その手札破壊を受けて一夜は笑う。破壊されたはずの手札が場に出ているのだ。
「判るよなァ!?『炎竜提督ガウスブレイザー』!!効果で、ティラノ・ドレイクとブレイブ・スピリットを手札に加えるッ!!」
 一夜が手札にキープしていたのは、相手の手札破壊を受けて場に出る特殊能力を持ったクリーチャーだ。さらに、山札三枚をめくって手札補充まで可能にする。
「『ガウスブレイザー』の効果で手札に加えた『ロウバンレイ』を召喚!まず、『サイレント・ドラグーン』で攻撃し、『ムルムル』を破壊イイィッ!」
『ロウバンレイ』は、ティラノ・ドレイクとブレイブ・スピリットにブロッカー破壊能力を与えるクリーチャーだ。どんなパワーのブロッカーであっても、攻撃と同時に破壊する。
「……」
 六儀は、『サイレント・ドラグーン』の鋭い一撃をブロックせず、シールドで受ける。そのシールドが怪しく輝く時、黒い手によって『ロウバンレイ』の体が解体されていった。
「デーモン・ハンドだ……」
 『ロウバンレイ』が破壊された事によって、一夜のクリーチャーに一時的に付与されていたブロッカー破壊能力は消されてしまった。六儀の判断に、一夜を歯軋りして悔しがる。
「まだだァッ!『ガウスブレイザー』で攻撃!」
 次の攻撃も六儀はブロックしない。ブロックとシールド一枚のリスクを計算しての結果だった。
「予想以上に……やりやがる……!」
 今まで見た事がないタイプの敵。彼の経験の中で最も近い者を挙げるとすれば、赤城勇騎しかいなかった。
「判断……。冷静さ……。奴に似てやがる……!だが、ゼロ号ほどじゃねエエエェェッ!!」
 一夜の怒号を聞きながら、六儀はカードを引いて次の動きを考えていた。

 今、コスモスクエアにいる人物は少ない。その中の一角にある閉店しているはずの蕎麦屋で蕎麦をすする者がいた。
 十二月であるにも関わらず、白いTシャツにジーンズ、赤い法被(はっぴ)という夏祭りにでも出かけるようなめでたい格好。髪は、赤く染めたスポーツ刈りで活発そうな顔をしている。歳は勇騎達と同じくらいであろう。
 この状況で外出している人間は非常に少ない。幸せそうな顔で蕎麦をすすっている少年など、尋常ではない。
「さすが、六条の蕎麦ってとこじゃん?本店に比べると水やその他諸々の違いから多少の質は落ちるが、値段を考えると妥当……いや、リーズナブルってとこ。今、蕎麦を打ったのが俺様だからいいようなものの、腕の悪い職人だったらさらにマイナスになるっつー事なんだが、それでも六条の蕎麦なら誰が打っても多分うまいから問題ないじゃん?よって、点数は91点。俺様蕎麦ガイドブックの五つ星認定じゃん!」
 蕎麦を食べ終えた少年は、持っていたメモ帳に何かを記入し、蕎麦の代金をテーブルの上に置いて立ち上がった。
「ごっそさん!」
 誰もいない蕎麦屋を出た少年は、そこで一人の女性を見かける。
 レンズの小さい眼鏡をかけた黒髪の女性で、細身のすらっとした体型の人物である。歳は、二十代前半のようだ。黒のタイトスカートに、同じ色で肩にワインレッドの糸で蝶の刺繍が施してあるジャケットを着たその姿から、この付近の会社に勤める会社員だと思われる。だが、一連の騒ぎで今はどの会社も役員クラスの人間しか出社していないはずだ。
「ようよう!香寿美(かすみ)もやっぱり六条の蕎麦が気になったって事じゃん!?」
 香寿美と呼ばれた女性は、身長がそれほど変わらない目の前の少年の首をつかみ、持ち上げる。その目には、はっきりと判る怒りの感情が表れていた。
「蕎麦?私は、何を探して来いって言ったのかしら?答えてみなさい、ゴミ虫がっ!」
 香寿美は、少年を地面に叩きつけると汚い物でも見るような目で彼を見た。
「俺様は、ゴミ虫なんかじゃないじゃん!久留麻大吉(くるまだいきち)っつー、ナイスな名前があるじゃん!?大体、究極の蕎麦と至高の蕎麦を探して来いって言ったのは、香寿美……がぶっ!?」
 香寿美のパンプスが大吉の頭を踏みつけ、少年は地面と接吻をする羽目になった。女性は、大吉の行動に心底苛立っているようだ。
「逃げた墨川一夜を探せって言ったのよ!墨川一夜っ!蕎麦なんて名前がどこに入っている!?このカスがっ!」
 悪鬼のような表情で香寿美は大吉の肩を蹴飛ばす。ようやく立ち上がった大吉は
「ああ!隅川庵の蕎麦か!香寿美、それだったらコスモスクエアに支店はないじゃん!?隅川庵って言ったら、新潟の老舗で東京にある支店は立川に一軒だけじゃん」
と、鼻血を拭くのも忘れて話した。蕎麦の事しか考えていない少年を見て、香寿美は諦めた。一緒に探す相手を間違えていたと悟ったのだ。
「落ち着けよ、香寿美。今日のあんたは探し物に向いている」
 今の言葉は、大吉の声ではない。遠くから詰襟の学生服を来た人物が歩いてくる。
 詰襟の学生服、つまり学ランは男子学生が着るものだが、ここでそれを着用しているのは女性だった。上着の前を全て開け、純白のシャツから柔和な体のラインが判る。腰まで伸びる黒髪の上には学生服と同じ色の学帽。体育祭の応援団として女子学生が学ランを着るケースがあるが、彼女は体育祭から抜け出した女子学生のようだった。その右手に持った一升瓶さえ見なければ。
「大吉、あんたは駄目だ。今日は災難だね」
 そう言って学ランの女性は一升瓶に口をつけて、ペットボトルで水でも飲むようにその中身を飲んでいく。
「美土里(みどり)。お前が迷子になっていたせいで、俺様はお前を探すのが大変だったじゃん!?お前が蕎麦屋の中にいると思って六条に入ったら、暴力女にボコボコにされたじゃん」
「あんたは蕎麦目当てだったでしょう。責任を人に押し付けるな、ゴミがっ!」
 香寿美が再び、大吉の首を絞める。美土里と呼ばれた女性は、二人に近づくと片手で大吉を引き離した。美土里は、身長が百八十センチ近くあり、力も強いのだ。
「大吉、言っただろう?今日は災難だって。余計な事は言わず、素直でいればいい」
「美土里……お前、俺様と同じ十七歳なのに酒臭いのはまずいじゃん?酒は、未成年は飲んじゃ駄目じゃん?」
「グローバル化の時代だよ?硬い事言うなって」
 一升瓶でもう一度酒を口に入れた美土里は、香寿美を見て頭を撫でる。
「なっ……!」
「バカだからってあまり大吉をいじめるなよ。あたしらの弟みたいなもんじゃないか」
「こんなゴミ虫が弟だったら自殺するわ!」
「俺様の方が背が低いからって勝手に弟扱いするな!」
 仲裁のために美土里が言ったセリフは逆効果だった。二人は再び睨みあっている。
「香寿美……。墨川一夜は、今日ここであんたの物になる。あんたが探し回る必要はない。どこかで熱燗でも飲みながら待てばいい。焦って動き回る必要はない」
「……信じるわ」
「占いの料金は後払いだぞ?」
「それも判ってる」
 その言葉を聞いて、美土里は活き活きした顔で請求書を書く。それを見ながら、大吉が言いにくそうな顔で美土里に聞く。
「な、なあ……俺様の災難って一体どんな事なんじゃん?」
「金運が悪化している。あたしの占いが正しければ、財布の中に隠してあった諭吉さんが消えている」
 厳かな口調で言う美土里の顔を見て、大吉は財布を確認する。財布の一番取り出しにくい場所に折り畳んで入れていたはずの一万円札がなくなっていた。
「うおーっ!俺様の一万円がーっ!金運が最悪っていうのが当たったーっ!」
 号泣する大吉を見ながら、美土里は一升瓶に口をつける。その様子を見ながら、香寿美はひそひそ声で美土里に話しかける。
「美土里、あんたはいつもお酒をひょうたんに入れているわね?あれはどうしたの?」
「酒持って行くと香寿美がうるさいから置いてきた。でも、ここはコスモスクエア。色々な店がある」
「酒屋もあったってわけね……」
「日本酒買うなら、高いの買わないと。一万円くらいの奴ね」
 大吉の一万円がなくなった原因は判明した。彼が大事に隠していた金は今、美土里が持っている一升瓶になっている。
「うおーっ!何でなくなっちまったんだー!?こんなのっておかしすぎるじゃん!?」
 混乱している大吉に二人の会話は聞こえない。カスだのゴミだのと彼を罵った香寿美だったが、少しだけ大吉に同情した。
「奴にも、一杯だけ飲ませてやるよ」
 その一杯でチャラにしようとする美土里を見た後、香寿美は携帯電話を取り出してどこかに通話する。
「私よ。墨川一夜がいるのはここで間違いない。捕らえるわよ」
 その顔は、仲間達と漫才のようなやり取りをしていた時の顔ではない。一夜の魂を奪いに来た死神のような形相をしていた。

「何て壁だ……!」
 一夜の目の前に並ぶのは、『ムルムル』二体、『タージマル』一体、『ターコイズ・クラーケン』二体、そして『ベガ』が一体だ。ブロッカーを退けながら攻撃した一夜の努力も虚しく、『ベガ』の効果によってシールドは回復し、ブロッカー以外では三枚のシールドが六儀を守っている。
 一夜の場には、シールドが四枚。クリーチャーは『スーパー・クズトレイン』一体のみだ。
「ターンの最後にアンタップされる『ターコイズ・クラーケン』と『バリアント・スパーク』を使って相手のクリーチャーを減らしつつ、防御力も減らさない。鉄壁ってわけだ……!」
 『完全殺戮(オール・デッド)』が一夜の体を蝕んでからかなりの時間が経つ。一般人に無差別で放ったそれと同じように、一夜の体のそれも生命力を奪っているはずだ。だが、一夜の外見に変化は見えない。変わった事と言えば、黒い染みが大きくなっていくという事だけだ。
「終われ……」
 突然、六儀の場にいた『ベガ』が輝き、巨大な姿へと変化を遂げていく。
「進化クリーチャーかッ!?」
 『ベガ』はイニシエートとゴースト、二つの種族を持つ。タップして相手クリーチャーを撃破する戦略を考えると、ここで使われるのはイニシエートの進化クリーチャー、『聖天使クラウゼ・バルキューラ』が妥当だ。
「いや……これは『クラウゼ』じゃねェッ!?『クラウゼ』のパワーじゃねェッ!!」
 一夜の前に現れた巨人。それは、『超鎧亜キングダム・ゲオルグ』だ。
「『ゲオルグ』で、シールドをW・ブレイク」
 『ゲオルグ』の胴体から二条の光線が放たれ、一夜のシールドを突き破っていく。あまりの眩しさに一夜は腕で顔を覆った。
「攻撃時の効果で、『スーパー・クズトレイン』をタップ」
「くそッ!それが狙いかァッ!!」
 進化クリーチャー以外をタップ、もしくはアンタップする『キングダム・ゲオルグ』。そして、タップされているクリーチャーなら攻撃可能であり、ターンの最後にアンタップする『ターコイズ・クラーケン』。この二体がコンビを組んでいる限り、一夜のクリーチャーは行動を起こす前に倒されてしまう。
「『ターコイズ・クラーケン』で『クズトレイン』を攻撃」
 『ターコイズ・クラーケン』が持っていた槍のような形の武器でクズトレインを突き刺す。クリーチャーも出せない。ドローのためのカードも破壊された。相手には、切り札が出ている上にブロッカーとシールドの壁が立ち塞がっている。
「……負けを認めろ」
 投了を促す言葉を言う時、六儀は思い出す。
 元々『完全殺戮(オール・デッド)』は自分達が扱う部下の資質を見定めるための能力だった。体力を蝕まれていく中で、正常な判断ができるか、逆境に打ち勝つ精神力を備えているか……どれだけ戦いに向いているのかを確かめるために、六儀が自ら戦い、多くの部下を鍛えていった。
 当たり前だが、六儀に勝てる兵士は誰もいなかった。大抵、今のようなセリフを言ってデュエルは終わりになる。殺すのではなく、資質を見抜く事が目的の戦いだったからだ。癖のようなもので一夜に対しても同じ事を言っていた。
「ククク、ケケケケ……」
 顔を伏せたまま、一夜は笑っている。その声はどんどん大きくなり、やがて歓喜の笑いへと変わる。
「カーハッハッハッハッ!!テメェ、俺が終わったとでも思ってやがるのか!ザコが!油断した時点で、テメェの負けだアアァァァッ!!」
 六儀が部下から受けた報告では、追い詰められた墨川一夜は非常に危険だと聞いている。今がその危険な状態なのだ。
 だが、六儀は表情を変えない。負ける理由が何一つ見当たらないからだ。
「まだすました面(つら)してやがんのかァッ!見ろッ!」
 一夜が一枚のカードを投げつけた瞬間、『ターコイズ・クラーケン』が爆発する。
「『デーモン・ハンド』……」
 そのカードならば、パワーに関係なくクリーチャーを除去できる。だが、一夜が選んだのは『デーモン・ハンド』ではなかった。
 次は、二体目の『ターコイズ・クラーケン』。そして、『タージマル』、『ムルムル』が破壊された。その結果、六儀の場に残ったクリーチャーは『キングダム・ゲオルグ』一体になってしまった。
「『クリムゾン・メガ・ドラグーン』!!ブロッカーで俺から身を守れると思ったのが間違いだ!」
 一夜が場に出していたのは、ブロッカーを全滅させるティラノ・ドレイクだ。これを予想していなかった六儀の頬に冷や汗が流れる。久しぶりに、彼が追い詰められた事を自覚したのだ。
「だが……手札はない」
 一夜の手札は一枚。大事そうに守っているその一枚を除去すれば、つかみかけていた逆転の可能性を潰せる。六儀は、そう判断して一体のクリーチャーに賭けた。
「『猛菌教皇ビューティシャン』。O・ドライブ」
「かかったな、ザコがアアァッ!!」
 『ビューティシャン』の手札破壊を受けて、再び、『ガウスブレイザー』が現れる。手札に来たティラノ・ドレイクはたった一枚。だが、それは一夜の切り札だった。
「く……!」
 焦りながら六儀は、『テルス・ルース』を召喚する。そして、『キングダム・ゲオルグ』で残っていたシールドを全て粉砕した。
「……っと!ここで、ようやく俺にも来たぜ!『地獄スクラッパー』!!」
 一夜が放つシールド・トリガーで、六儀のブロッカーは跡形もなく消え去る。圧倒的に有利だったはずの六儀が、逆転され今度は追い詰められた。
「見たよなァ?俺の切り札が何なのか判るよなァ!じゃ、死ね」
 一夜が『クリムゾン・メガ・ドラグーン』に一枚のカードを重ねる。大きな黒い翼が日光に包まれた部屋を覆い尽くし、闇に包み込む。巨大な闇の進化ティラノ・ドレイク。切り札と呼ぶにふさわしい、相手に悪夢を見せる一枚。
「『覇竜凰ドルザバード』ッ!!」
 この進化ドレイクは、マナでタップされたカードに応じて二つの能力を一時的に得る事ができる。
まず、ブレイブ・スピリットがタップされた時の能力。それによって、『ドルザバード』がブレイクしたシールドはシールド・トリガーが発動しなくなる。
 もう一つは、ティラノ・ドレイクがタップされた時の能力。場に出た時、相手のシールドを一枚ブレイクする能力だ。
「フォートエナジーでシールド一枚をブレイク!」
 『ドルザバード』の目から放たれた細いレーザーが六儀のシールドを消し飛ばす。黄金色の輝きを見せたシールドだったが、『ドルザバード』の咆哮によってその光は消え、六儀の手札へ入っていった。
「シールド・トリガーは使わせねェェッ!『ドルザバード』でW・ブレイクッ!!」
 『ドルザバード』の口から、太い光線が吐き出され六儀を守っていた二枚のシールドは破壊される。その中には、『アクア・サーファー』と『デーモン・ハンド』が入っていた。
「……テメェじゃねェ。ゼロ号はこんなザコに倒される奴じゃねェッ!ゼロ号を倒したのは誰だアアッ!」
 一夜の叫びと共に、『ガウスブレイザー』の爪が六儀を突き刺し、その後、壁に投げつけた。特殊な強化ガラスでできた壁にひびが入るほどの力で打ち付けられた六儀は、震える手でズボンのポケットから板チョコを取り出し、かじる。
「……補給……不可能……」
 静かに呟いた六儀に、一夜は包帯を破いてむき出しにした傷跡を見せる。それは、ブラックホールのようにブレインジャッカーを吸い込む特殊な傷だ。
「ぐおおおおッ!!ゼロ号を倒した奴は上かアアアァァッ!!殺すバラす消す散らす!テメェ!呑気に待ってられると思うなよ!俺が、原型ととどめないくらい目茶苦茶にぶち壊してやる!!」
 六儀だけでなく、段ボール箱の中身も……いや、この部屋にある全ての物を吸い尽くしてから一夜は上の階に行く階段を昇った。
 彼のターゲットは、『球舞』のボス、九重九十九だ。

 第二十二話 終

 第二十三話予告
 豪人とは別のルートでコスモガーデンを攻略していくヴェルデ。順調に敵を倒して行く彼の前に『球舞』最後の刺客、七夕初七日が立ち塞がる。
「恐れ多い!この上には九十九様がいらっしゃるのよ!」
 狂信者でもあり、愛に囚われている少女でもある冥府の巫女。そして、最後の舞台に全ての役者が揃う時が来た。
 第二十三話 帝王

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