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『TOKYO決闘記』 第二十三話 帝王

『TOKYO決闘記』
 私、一ノ瀬博成は東京連続失踪事件の謎を追っている高校二年生だ。
 神父のような姿をした大男、六道六儀の前に現れたのは、狂気の保持者、墨川一夜だった。勇騎を倒した人物を求める一夜を相手に、六儀は能力『完全殺戮(オール・デッド)』を使って牽制する。強固な防御陣で一夜の攻撃を着実に防ぎながら攻撃していた六儀だが、『クリムゾン・メガ・ドラグーン』で逆転され、敗北する。
 そして、一夜を探す謎の三人組。新たな謎の種が蒔かれながら、『球舞』との戦いは続いていく。
 20XX年 一ノ瀬博成

 第二十三話 帝王
 博成、日芽、美和の三人は慎重にコスモガーデン内の階段を昇っていった。途中、一人も敵に出会う事はなかった。それは、先に進んでいる豪人が蹴散らしているからなのかもしれない。博成は、豪人に感謝するのと共に、保持者ではないから戦えない自分の不甲斐なさに腹が立った。
「あれ?この部屋、音がするよ」
 博成は、ドアが半分ほど開いて灯りが漏れている部屋を見つけた。色々な人がせわしなく歩いているような音や電話のコール音、会話の音などが聞こえる。ドアには、『第3スタジオ』と書かれている。
「誰かいるのかな?」
 興味を持った博成が、ドアを開けようとした瞬間、美和はそのドアに近づく人影を見た。
「危ない、博成さん!」
「逃げて!」
 美和が叫び、日芽が博成の体を後ろから引っ張る。一秒前まで博成の頭があったところに、木刀が振り下ろされていた。
「うおー!かかってきなさい、九重九十九!アタシが、勇騎ちゃんの仇を取ってやるわ!」
「委員長!?」
 木刀を両手で握って振り回しているのは、新撰組の格好をした青海ゆかりだった。知人の声を聞き、木刀を振り回すのをやめる。
「あ、一ノ瀬ちゃん?そんなとこに倒れてどうしたの?」
「どうしたの、じゃないよ!木刀なんか振り回したら、危ないじゃないか!」
「甘いわね」
 ゆかりは、ちっちっと右手の人差し指を左右に振りながら博成に答える。
「相手はあの九重九十九よ!武器を持たずに戦う方が危ないわ。デッキを出して戦う準備をしようとしている時に後ろから思いっきり殴ってやれば、絶対勝てるわよ!ここで、物音をさせてうるさくしておけば、疑問に思った九十九が来るはずだわ。そこを思いっきりガツンと叩くのよ!」
 どうやら、博成が聞いていた物音は番組用の音源だったようだ。こういった日常の音を流すサウンドトラックがある事を博成は知っている。
博成は、豪人が銃を使って三ツ沢を倒そうとした時の事を思い出しながら、木刀を日芽と美和に配るゆかりを見ていた。これで『球舞』のメンバーが倒せたら苦労はしない。
「委員長。木刀で倒せるのなら、コスモガーデンの中にいた人がやっつけないかな?」
「木刀だけじゃダメかしら?じゃ、使いたくなかったけれど、これの出番ね」
 ゆかりが懐から取り出したのは、黒光りする拳銃だった。予想以上の装備に、三人は息を呑む。
「ゆ、ゆかりさん……?その銃や木刀は一体どこにあったのですか?」
 美和が目を丸くしながら聞き、ゆかりがテンポよくそれに答えた。
「あ、これね。小道具の部屋に置いてあったわ。銃もちゃんと三人分あるから心配しないでね。一ノ瀬ちゃんは男の子だから、素手で戦ってね!」
「何で、僕だけ素手なのさ!それよりも、銃なんか危ないからしまってよ!」
「お、そうだ。弾がちゃんと出るかどうか確かめないと……」
 ゆかりは、部屋の隅にあったドラム缶に狙いをつける。あれが空ならいいが、中身が入っていたら大変だ。もし、火気厳禁の物体が入っていたらコスモガーデン付近は大惨事に巻き込まれるだろう。
「ゆかりさん、ダメーっ!」
 日芽が止める声も聞かずに、ゆかりはためらう事もなく引き金を引く。すると、ぽんという呆気ない音と共にカラフルな紙ふぶきが舞って、『おたんじょうびおめでとう』と書かれた垂れ幕が銃口から出てきた。ただのおもちゃだったようだ。
「委員長、確かめておいてよかったね。九十九相手にそれを撃ってたら、きっと笑いものになってたよ」
「う、うるさいわね!やっぱり、銃なんて使い慣れない物に頼っちゃダメだわ!木刀でやっつけてやる!」
「誰をやっつけるですって?」
 博成達の誰のものでもない声。女性の澄んだ声が、スタジオの中に響いた。
「あそこだよ!」
 日芽が指した方向。客席に位置する方向から、巫女服の美少女が歩いてくる。九重九十九という、彼女が信じる絶対にして唯一の現人神に仕える巫女。七夕初七日だ。
 一歩ずつ近づく彼女を何もせずに見ていた博成達だったが、ゆかりが木刀を持ったまま、前に出る。
「女の子を殴るのは嫌な気分だけど、世界を救うためよ。覚悟!」
 ゆかりが縦に振った木刀を、初七日は上半身の動きだけで避け、右手で彼女の頬を叩く。
「委員長!」
 倒れるゆかりに、博成達が駆け寄る。その姿を、初七日が見下ろしていた。
「九十九様をあなた達が倒す?ふざけているの?」
 初七日は低い声で笑った。そして、直後に声に力を入れて言う。
「恐れ多い!この上には九十九様がいらっしゃるのよ!」
「そう……だったら、あなたを倒して行けばいいのね」
 木刀を握ったまま立ち上がるゆかり。そして、その前に博成が立った。
「委員長はどいてて……。女の子を戦わせるなんて、やっぱりよくないよ」
「まさか、一ノ瀬ちゃんに女の子呼ばわりされるとは思わなかったわ。勇騎ちゃんの影響で少しは頼もしくなったみたいね」
 ゆかりの言葉に何かを言い返す余裕もないまま、博成は初七日を見続ける。
「くだらない。九十九様にたてつく者など、この場には必要ない!」
「どいて欲しい。君みたいな女の子が戦っちゃいけない。それに、デュエルはそんな事のためにあるんじゃないよ!」
 博成の説得を聞いても、初七日は表情を変えない。灰色に輝くデッキケースの中から『ブランク』を取り出す。
「言いたい事はそれだけ?あの保持者の後を追いなさい!」
 至近距離から投げられる『ブランク』だったが、それが博成に到達する事はなかった。キィンと響く金属音と共に的外れな方向へ飛んでいったのだ。
 博成と初七日の間には、ヴェルデが立っている。彼の両腕の金属製の鎧が『ブランク』を弾いたのだ。
「ヴェルデ君……。来てくれたんだね!」
「戦うのは、俺達保持者の役目だ。下がっていろ」
 ヴェルデが『グランドクロス』を取り出し、世界は戦うためにその姿を変える。ヴェルデと初七日、二人の前に五枚のシールドが現れ、デュエルが始まった。
「いいわ。邪魔する奴は、全員この手で葬ってやるから!」
 初七日は『エマージェンシー・タイフーン』で手札補充をする。そして、手札から一枚の黒いカードが捨てられるのをヴェルデは見た。
「闇と水か……」
 相手の色を確認しながら、彼は『グリタリス』を召喚する。特殊能力などはないが、3マナでパワーが4000のクリーチャーは序盤での殴りあいにも向いている。
「『パルピィ・ゴービー』。山札の上を入れ替えるわ」
 初七日は、手早く山札を操作する。一つ一つのきびきびした動作の中に、『球舞』の中でも上位のメンバーらしい強さが垣間見える。ヴェルデは、その動作の速さに二階堂や八卦との戦いの時とは別のプレッシャーを感じていた。彼女のプレイヤーとしての能力だけでなく、どんな特殊能力を持っているのかも問題である。
「俺は『ムルムル』を召喚して、『グリタリス』で攻撃する」
 最初に攻撃を仕掛けたのはヴェルデだ。初七日は、この攻撃をブロックせず、シールドから手札を補充する。
「『ムルムル』はブロッカーのパワーを3000も上げるクリーチャーだ。ヴェルデ君がどんなブロッカーを入れているのか判らないけれど、防御は期待できそうだよ!」
 博成が歓声を上げるのを見て、初七日は愉快そうに妖しく微笑む。
「その程度のパワーなんて、対したものじゃないわ。邪魔よ!」
 初七日が使った呪文、『陰謀と計略の手』の効果で津波が押し寄せ、『グリタリス』が流されていく。さらに、その津波の中から現れた黒い手が手札を一枚弾き飛ばす。叩き落された手札は『無垢の宝剣(イノセント・ハンター)』だった。
「『無垢の宝剣』に『ムルムル』。大型ブロッカーにでも進化するつもりかしら?」
 手札破壊を受けてもヴェルデは気にせずに『無垢の宝剣』を召喚する。どんな進化クリーチャーを用意しているのかは不明だが、何か策があるはずだ。
「急ぐぞ。俺は九十九を倒し、羽山達の無念を晴らす。お前にかまっている暇はない」

 長い階段を昇りきった豪人は、灰色をした扉に手をかける。そこは屋上のヘリポートへ繋がる扉だ。
 第3スタジオから聞こえた初七日の言葉で、豪人は九十九の居場所を知ったのだ。あの場で博成達を助けに行かなかったのは、ヴェルデがいる事を知っていたからである。初七日の相手はヴェルデに任せておけばいい。『球舞』のメンバーを全滅させる事よりも、九十九を倒し『完全殺戮(オール・デッド)』の効果を消し去る事の方が重要だ。
 豪人が両手に力を入れて重い扉を開けると、冬の寒い空気が流れ込んでくる。空に昇る太陽の光と共に、ヘリポートの光景と対峙している二人の男の姿が豪人の目に飛び込んだ。
「あは!二人目だ。二人も保持者が僕の前に来たよ。驚いたな」
 ヘリポートにソファを持ち込んで寝そべっているのは、九重九十九だ。白いパーカーにオーバーオールを重ねている。
「なんだァ?」
 入り口に背を向けていたその男は、横目で後ろにいる豪人を見た。豪人もその姿を見るのは初めてだったが、着ている服や雰囲気、持っている黒いデッキで墨川一夜だと判った。
「先を越されたか。邪魔をしないでくれよ。僕は九重九十九を倒すためにここに来たんだ」
 『ネオウエーブ』を取り出しながら、豪人は一夜に近づく。一夜は豪人が九十九と戦いに来たのが気に入らないらしく、不服そうな表情を顔全体で表した。
「ふざけるな!ゼロ号を殺った九重九十九は俺が殺す!邪魔するならまず、お前から……!!」
「はいはい、喧嘩しないの」
 手を叩きながら九十九がソファから立ち上がる。彼は両手に灰色に輝くデッキを持っていた。
「いいよ。僕は二人相手でもまったく問題はない。二人とも殺して『ネオウエーブ』も『エクスプロード』も僕のものにする。残るは、『グランドクロス』と『ツナミ』だね」
 九十九は豪人側に五枚、一夜側に五枚、それぞれ合計十枚のシールドを張る。二人の保持者を同時に倒すという事だ。九十九のこの自信には、一夜も少し驚いた顔をしたが
「けっ……!ゼロ号を殺ったからって調子に乗るなよオオォォォッ!!二人同時に相手をした事を後悔しやがれェェッ!!」
と、いつもの彼らしく叫び、シールドを呼び出す。
 勇騎が一方的に倒された事を知っている豪人は少しだけ躊躇したが、軽く深呼吸した後五枚のシールドを張った。
「やれやれ……。保持者二人を相手に勝てると思うなんてね。これで終わらせてやるよ」
 ピリピリした緊張の中で、三人の戦いが始まった。

「『アバス・ノナリス』に進化!W・ブレイク!」
 『黒神龍ギランド』から進化した初七日の切り札が容赦なくヴェルデのシールドを破っていく。ヴェルデのシールドは残り二枚。そして、クリーチャーは『鳴動するギガ・ホーン』と『無垢の宝剣』が一体ずつ。
 初七日のシールドは残り一枚。だが、『アバス・ノナリス』の存在によってヴェルデの攻撃を封じている。
「これはまずいよ……」
「えっ?どうしてなの、一ノ瀬ちゃん。ヴェルデちゃんが二回攻撃すれば勝てるじゃない」
「いや、それはできないんだよ。委員長」
「何でなのよ!」
「『超神龍アバス・ノナリス』は相手のクリーチャーに『アバス・ノナリス』自身への攻撃を強制するクリーチャーです。ヴェルデさんの今のクリーチャーの中に、『アバス・ノナリス』とぶつかり合って勝てるクリーチャーはいません」
 博成に噛み付くゆかりに対して、美和が説明する。ゆかりもそれを聞いてようやく納得したようだ。
「へー、なるほどね。一ノ瀬ちゃんも最初からそういう風に説明してくれればよかったのに」
「そんな事はどうでもいいんだよ、委員長!このままじゃ、ヴェルデ君が不利だ!」
 間違いなく危険な状況。だが、ヴェルデはまったく恐怖を感じていない。
「不利?そんな事はない。俺はすでに、『アバス・ノナリス』を倒す方法を見つけている!」
 『ギガ・ホーン』に一枚のカードが重ねられる。それは、ホーン・ビーストにとって唯一の進化クリーチャーだ。
「『フィオナ』だ!」
 日芽が叫んだそのクリーチャーの名は『護りの角フィオナ』。登場時に自然文明のクリーチャーを山札から手札に呼ぶW・ブレイカーである。
「『フィオナ』のパワーは9000。『アバス・ノナリス』のパワーを上回っている!食らえ!」
 『フィオナ』の巨体が『アバス・ノナリス』の周囲で妖しく光る瞳を弾き飛ばし、勢いに乗った角が黒い龍を串刺しにした。切り札同士の対決は、ヴェルデが制したのだ。
「やった!もう七夕初七日にクリーチャーはいない!このまま行けば、ヴェルデ君の勝ちだ!」
「いや……違うわね」
 ヴェルデの逆転に喜ぶ博成だったが、その隣でゆかりは浮かない顔をしている。
「一ノ瀬ちゃん、よく見なさい。七夕初七日の顔を。あれは、追い詰められた顔じゃないわ。策略で相手を絡めとって満足している顔よ!」
「なんだって!」
 初七日は、切り札を倒されたのに動じていない。ゆかりの言うように、罠にかかった獲物を見て喜んでいるように見える。
「これでいい。アタシの勝ちは決まった!ここにいる奴らは、誰一人として九十九様の前まで行かせはしない!」
 倒されたはずの『アバス・ノナリス』の肉体からシューシューとガスの抜けるような音がし、ボコボコと表面が泡立つ。そして、異臭と共に二体のドラゴン・ゾンビが死体の中から生まれた。
「罠として墓地に仕込んでおいた『黒神龍グールジェネレイド』。もちろん、これだけで終わりじゃないわ」
 初七日が手に持っていた切り札が『グールジェネレイド』一体の上に重ねられる。それは、『超神龍アブゾ・ドルバ』。『グールジェネレイド』と同じように墓地に関連した能力を持つドラゴン・ゾンビだ。
「そんな……。このパワーは!」
 ヴェルデが驚くのも無理はない。『アブゾ・ドルバ』は墓地の恩恵を受けていない時点ですでに、フィオナを超えるパワーを持ち、墓地にあるクリーチャーの怨念の数だけ力を増す。すでにそのパワーは二万を超えていた。
「『アブゾ・ドルバ』で『フィオナ』を破壊!地獄へ堕ちろ!」
 『アブゾ・ドルバ』が吐き出す青い炎がフィオナの肉体を腐らせていく。切り札を失ったヴェルデに対して、『グールジェネレイド』の攻撃がくわえられる。保持者のシールドはとうとう0になってしまった。
「いや、ピンチだがまだ俺には勝機がある……!」
 シールドがなくなった瞬間、砕かれたシールドのかけらが緑色に輝き、太いツタが四方八方から押し寄せて『アブゾ・ドルバ』を絡め取った。
「そうか!『ナチュラル・トラップ』だ!除去呪文だったら、パワーに関係なく除去できる!」
 博成は喜んだが、まだ問題は解決していない。まだデュエルは終わっていないのだ。
「『アバス・ノナリス』に続いて『アブゾ・ドルバ』までやられたのは悔しいけれど、アタシは負けていないわ。それどころか、勝利まであと一歩よ。次のターン、『グールジェネレイド』でアンタをかみ殺してやる!」
「俺は、最後まで諦めてはいない。それに、切り札が二種類あるのはお前だけじゃない」
 ヴェルデが淡々と語ったその言葉に、初七日だけでなく、博成達も驚いた。『フィオナ』以外にもヴェルデは切り札を持っていたのだ。
「は……ハッタリだわ!切り札があったとしても、この状況を簡単に覆せるわけがない!」
「なら、実際に見せてやる。まずは、『神令の精霊ウルテミス』を召喚。そして、残った6マナで『聖獣王ペガサス』に進化ボルテックス!!」
 まばゆい光と共に、『無垢の宝剣』と『ウルテミス』の肉体が細胞レベルでの融合を果たす。金色の穏やかな光と共に、馬のような巨大なクリーチャーが場に降臨する。
「『ペガサス』のパワーは『グールジェネレイド』を越えている。それに、攻撃した時に山札をめくってそれがクリーチャーだったらコストを払わずに場に出せるんだ!」
 博成の言葉と目の前の巨獣が、少しずつ初七日を追い詰める。『ペガサス』の巨体が震え、最後のシールドが破られた。
「残念だったわね。シールドを破ってもとどめまでは……」
「それは次のターンでいい」
 ヴェルデの言葉を聞いて、改めて場を確認する初七日。一枚もなくなっていたはずのヴェルデのシールドがいつの間にか一枚増えていた。そのシールドの前には二本の剣を持って金色に光る鎧を着た二本足の獣が立っている。
「『スカイソード』……。そんなクリーチャーを隠し持っていたなんて」
 ヴェルデは『ペガサス』の効果で『スカイソード』を呼び出し、『スカイソード』の効果でシールドとマナを追加したのだ。
「まだよ……!まだ負けたわけじゃない……!負けなんて認めない……!」
 初七日は、手札と場を何度も確認する。だが、『グールジェネレイド』一体ではシールドブレイクのみでヴェルデに直接攻撃まではできない。『デーモン・ハンド』で除去しても、一体しか倒せない。確認すればするほど、どうしようもない結果だけが自分の目に映る。
「いいわ……。アタシの負けよ。殺しなさい」
 両手のカードを下ろし、初七日は降伏を口にする。九十九に絶対の忠誠を誓っている彼女が最後まで戦わず投了した事が意外だったので、ヴェルデだけでなく、そこにいた者達全てが驚いていた。
「でも、忘れないで欲しい。アタシの想いは消えない。九十九様に何かあったら……その時は、アタシの想いが呪いとなってアンタ達を殺すわ。これは脅しじゃない。警告よ」
 そう言った初七日は、目を閉じる。何かの罠ではないかと疑っていたヴェルデだったが、あまりにも無防備な初七日の姿を見てその可能性はないと判断し、『ブランク』を投げて彼女を拘束した。
 戦いが終わり、世界が普通の日常に戻った瞬間、衝撃と音が第3スタジオを襲った。真上で何かあったようだ。
「もしかしたら、金城さんと九重九十九が戦っているのかもしれない!急ごう!」
 博成を先頭にして、そこにいるメンバーは第3スタジオを出て階段を駆け上がる。屋上への扉はすでに開いていて、そこから熱風が吹いていた。
 不快な暑さを感じながら、博成達五人は屋上へ出た。
「金城さん!それに、あれは九重九十九!」
 博成が見たのは、肩で息をしながら険しい表情をしている豪人。その隣でカードを握っている見慣れない保持者。そして、合計六体の『ボルメテウス・サファイア・ドラゴン』を従えている九重九十九だ。
「あは、あはははは!弱いなぁ……赤城勇騎に比べて弱すぎだよ、君達。保持者ならもっと楽しめると思ったのに、残念だなぁ……。でも、せっかくだからもう少し遊んであげないとね。おや?」
 豪人と一夜の相手でハイになっていた九十九は、突如入ってきた博成達の姿を見つけて驚いていた。そして、彼の顔から笑顔が消えていく。
「何で……?下には初七日がいたはずだよね……?初七日は……?くくくくく、そうか。そういう事か」
 声は笑っている。だが、顔も目も笑っていない。熱風のせいで暑かったが、冷や汗をかいてしまうような冷たい恐怖がその場にいる者達の心を支配していた。
「初七日を倒してきたんだね?僕を怒らせたね?もういいや。お前ら、ここで死ね」
 六体の『ボルメテウス・サファイア・ドラゴン』の口に強大なエネルギーが集まっていく。あれが同時に放出されたら、コスモガーデンだけでなく、コスモスクエアも崩壊するだろう。
「あの世への旅立ちだ。せっかくだから、とことん派手にしてあげるよ。死ね!!」
「い、嫌だ。勇騎くーん!!」
 博成が叫び、『サファイア』の口から今まさに光線が放たれようとした瞬間、九十九が従えていたクリーチャーに炎の槍が突き刺さる。彼の傍にいた龍は全滅した。
「嘘……。何?何が起きたの?」
 九十九にとって予想外の事が起こり、彼は周囲を見渡す。
「どんな敵が待ち受けていようと、どんな困難が俺の前に立ち塞がろうと、真実が見えている限り、俺は逃げる事はない」
 静かで、自信に満ちた声。この場にいる全員が、この声の主を知っている。ここに立っている全ての者が、この男を待っていた。
「真実は俺を裏切らない。俺もまた真実を裏切らない。そして、俺は友の想いを裏切らない」
 その場に立っていた者達は、彼のために道を空ける。この場の主役は彼しかいないのだ。
戦っていた豪人と一夜もカードをデッキにしまって、彼を見る。この場で九重九十九と戦うのにもっともふさわしい者が登場したのだ。彼らは退場する時が来た。
「そんな……。お前は僕が殺したはずだ!お前は誰だ!」
 目の前の現実を受け入れられない九十九に対し、赤く輝くデッキを光らせた保持者はこう答える。
「忘れたのか?俺は『プロミネンス』の保持者、赤城勇騎。お前を倒すデュエリストだ!」

 第二十三話 終

 第二十四話予告
 復活した勇騎は進化した力を使って九重九十九に挑む。勇騎には、九十九の能力『球舞王(ゴー・オーバー)』を打ち破る秘策があった。
「俺はさらなる高みへ到達した。お前を倒すのに、障害は何もない」
 『球舞』との最終決戦。ついに、全ての戦いに決着がつく時が来た。
 第二十四話 超越
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