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『TOKYO決闘記』 第二十四話 超越

『TOKYO決闘記』
 私、一ノ瀬博成は東京連続失踪事件の謎を追っている高校二年生だ。
 九重九十九の元へと急ぐ私達の前に現れた『球舞』最後の刺客、七夕初七日。九十九を慕う彼女によって道が阻まれたものの、ヴェルデが彼女と戦い、勝利する。
 すでに九十九がいる屋上へと辿り着いていた金城豪人、墨川一夜。二人の保持者を手玉に取り、圧倒的な力の差を見せる九重九十九は、私達全員を消し去るために六体の『ボルメテウス・サファイア・ドラゴン』を操るが、突如、彼のクリーチャーは破壊される。
 そこに現れたのは、炎のように赤いデッキ『プロミネンス』の保持者。九重九十九に倒されたはずの赤城勇騎だった。全ての役者が揃ったコスモガーデン屋上で、クライマックスにふさわしい戦いが始まろうとしていた。
 20XX年 一ノ瀬博成

 第二十四話 超越
 その場にいる誰もが信じられなかった。彼は、史上最強の敵、九重九十九に倒されたはずである。
だが、彼は帰ってきたのだ。自分を信じる友や、ライバルの待つ戦場へ。
「おかえり。勇騎君」
 その場を支配していた静寂を最初に破ったのは博成だった。笑顔で親友を迎える。
よく見ると、勇騎の服は以前九十九と戦った時のままだ。ところどころ生地が破れ、ボロボロになっている。
「あはは、はーっはっは!」
 勇騎の復活に驚いていた九十九が大声で笑う。それは恐怖から来る奇妙な笑いではない。平常心を取り戻した者の正常な笑いだ。
「ボロボロじゃないか!僕に倒されたそのままの姿で、僕を倒しに来たの!?あはははは、笑わせるよ!また返り討ちにしてやる。それと……」
 笑っていた九十九の目が一瞬で鋭く邪悪に変化する。彼の目は、勇騎よりも一足早くこの場所に来た博成達を見ていた。
「初七日をいじめた奴に痛い目見せてやらないとね。大丈夫だよ。永遠の苦しみなんて与えない。死を持って、一瞬で終わらせてやるからね」
 言葉の端から発せられる重苦しいプレッシャー。勇騎が来たからといって、九十九に対する勝機が見えたわけではない。ルールすら捻じ曲げる絶対無敵の能力『球舞王(ゴー・オーバー)』がある限り、保持者達に勝ち目はない。
 だが、それでも博成は勇騎の勝利を信じて疑わなかった。勇騎が何の策もなく九十九の前に現れるわけがない。絶対に勝利できる確かな自信があるからこそ、この場にやってきたのだ。
「さて、途中でデュエルが中止になっちゃったけれど、再開するんだよね?次は誰がやるの?僕は保持者四人相手でもいいよ」
 二人の保持者を相手にしても、微動だにしなかった九重九十九。四人の保持者が相手でも彼の優位は揺るがないという事が彼の発言から推測できる。
 そんな九十九を挑発するように、また、絶対の自信で相手を打ち倒すように、静かに力強く勇騎はこう宣言した。
「お前相手に四人もいらない。俺一人で充分だ」
「何ぃっ!?」
 自分の方が間違いなく優れているという自信を持っている九十九は、その言葉を疑う。
「ハッタリだよ!一人で、僕を倒せるわけがない!」
 大声で叫び、笑う九十九に向かって勇騎は一歩一歩、ゆっくりと進んでいく。途中、豪人とすれ違う時
「銃で九重九十九を狙う必要はない。三ツ沢二古にそれが通じなかったように、あの男にもそれは無意味だ」
と告げた。「判ったよ」と軽く笑い、豪人はいつでも銃を取り出せるようにと上着の中へ入れていた右手を出す。
 再び、九十九の前へ行こうとした勇騎の前に立ち塞がったのは一夜だ。勇騎の全身を睨みつけるように、じっと見つめている。
「どけ。九重九十九を倒すのは俺だ」
「……」
 一夜はそれに対して何も話そうとしない。勇騎が彼を避けて進もうとすると、その足に一夜の足がかけられた。受身を取れなかった勇騎はバランスを崩して転倒し、その様子を見た一夜は愉快そうに狂った声で笑い出す。
「くけけけ、はーはっはっは!ゼロ号!テメェ、そんな体で戦うつもりかァ!?死ね!」
 倒れた勇騎が立ち上がる前に、一夜はその腹部を蹴り、笑い続ける。苦しさに咳き込む勇騎に対して、一夜は追い討ちをかけるように言葉を吐き出した。
「今のテメェは、俺が倒す価値もねェ……!さっさと九重九十九に殺されちまえ!!」
 言うべき事を言うと、一夜は両足に力を入れ高く跳躍する。扉の前に着地した彼は、その場を去る直前
「テメェはそこで死ね」
と言い残し、舞台から退場した。
「相変わらずふざけた奴だ。……だが、助かったな」
 腹部を押さえ、肩で息をしながら勇騎は立ち上がる。そこへ、ヴェルデが近づく。
「俺がやる。お前は休め」
 そう言って、ヴェルデは勇騎の肩に手を置くが、ボロボロの保持者はそれをはねのける。
「心配するな。俺なら、絶対に勝てる。二人も相手をする体力がなかったから、奴が退いたのは助かった。これで、九重九十九を倒す事だけに集中できる」
 もう、誰も邪魔をしない。そこにいる六人の者達は、炎の保持者と最悪の敵との決闘の観衆となったのだ。観衆は舞台に上がれない。
「君じゃ僕を倒せない。前だってボッコボコにしてあげたの、忘れたかな!?」
 九十九が空にカードをばら撒くと、そこから巨大なクリーチャーが何体も出現した。デュエルが始まっていないのに、現れたクリーチャーの姿を見て、博成は目の前の光景を疑った。
「ねぇ、僕の『球舞王(ゴー・オーバー)』は全てを超越した能力なんだよ。デュエル以外でクリーチャーを実体化させたとしてもおかしくないでしょ?まず、赤城勇騎!お前から消してやるよ!」
 九十九の言葉を合図にして、勇騎に飛び掛るクリーチャー。だが、その爪や牙が彼に届く事はない。
勇騎が赤く輝く『プロミネンス』を天へとかざすだけで、その場にいたクリーチャーは光に浄化される悪魔のように一瞬で消え去った。
 突然の事に、再度、博成は目の前の光景を疑った。まるで、魔法を使ったかのように理解を超えた方法で勇騎は九十九のクリーチャーを消し去ったのだ。
 目の前の光景を理解できなかったのは、博成だけではない。二人の保持者も、三人の少女達も、そしてクリーチャーを呼び出した九十九も唖然としていた。
 そんな彼らに対して、勇騎は手品の種を明かすマジシャンのように告げる。
「九重九十九の能力『球舞王(ゴー・オーバー)』はルールを超越した能力。いや、もっと単純に解釈するならば、能力ですらない。圧倒的なレベルの差だ」
「そうか!最初に勇騎君が九重九十九と戦った時に、現実世界でシールドを出していたっけ。それも、奴が高いレベルだからできる事。それは九重九十九自身が言っていた!」
 博成の言葉に頷く勇騎は、さらに解説を続ける。
「俺達とのレベルの差があるから、ルールを越えた攻撃ができた。俺達とのレベルの差があるから、現実世界でもシールドを出す事ができた。そして、俺達を越える圧倒的な力があるから、クリーチャーを実体化させて俺に攻撃する事ができた。だから、俺はお前に並ぶ事を考えた」
 淡々と解説する勇騎の右手の中で、『プロミネンス』は今尚赤く輝き続け、その端からは煙が昇り始めた。そして、勇騎の足下には赤い歯車を模した火文明のマークが現れた。
「九重九十九の『球舞王(ゴー・オーバー)』と同じ、圧倒的な力の差で相手を威圧する能力。俺が『プロミネンス』の力の次なるレベルに到達する事で生まれた俺だけの能力。これが『プロミネンス・ネクスト・レベル』だ」
 世界が変わり、勇騎は五枚のシールドを張る。右手には五枚の手札、そして左手で九十九を指し
「俺はさらなる高みへ到達した。お前を倒すのに、障害は何もない」
と高らかに告げた。
 その言葉を聞いた九十九は、表情を取り戻し、笑い出す。
「楽しみだなぁ!ようやく、僕と同じくらい強い奴に会えた。僕と同じになっただけでしょ?僕より強い奴なんて絶対にいるわけないんだよぉぉっ!!」
 九十九もシールドを呼び出し、デュエルの準備を整える。条件は同じ。九十九の足下を支えていた圧倒的な力の差はこれで崩壊した。
「さあ、始めようか!」
 遠くまで見渡せるような青い空の下で、世界の命運を賭けたデュエルが始まった。

 豪人と三ツ沢が戦ったコスモガーデン入り口前。そこに、三人の男女がいた。
 肩にワインレッドの糸で蝶の刺繍が施されたスーツを着た女性、蝶野香寿美(ちょうのかすみ)。冬なのに、Tシャツに法被とジーンズという祭りに行くような服装の少年、久留麻大吉(くるまだいきち)。男子学生用の学生服に身を包んで右手に一升瓶を持つ長身の少女、亀島美土里(かめしまみどり)。
 さらに、もう二人。新しい観衆がその場に現れる。
「この場でどちらかは残り、どちらかは消え去る。消え去った者の思い出はどこへ行くのでしょうか?」
 青いシャツに白のジャケットとズボンを合わせた細身の男性。金髪碧眼で、周囲の者が驚くほど綺麗で優しい顔立ちをしている。ジャケットのポケットからチョコレートを取り出すと、口に放り込み、舌で味わいながら目を閉じる。
 彼の顔を知らなくても彼の名を知っている者は多いだろう。
 ドナルド・マックイーン。天才画家として世間を賑わせているその男だ。
「思い出など知らん。邪魔な九重九十九には消えてもらう。ただ、それだけだ」
 眼鏡をかけ、その奥の鋭い瞳で空を見上げる一人の男。濃い茶と黒の服に身を包んだその男性は、誰に対して呟いた言葉かも判らないドナルドの問いに答えると、左手の指先で何かをいじり始めた。
 その金属の塊は、まだ使われていない銃弾だ。銃弾を弄びながら、その男、白峯敦也(しらみねあつや)は香寿美に問いかける。
「俺が『スウェッティング・バレット』を使って潜入しようか?」
「その必要はないわ。美土里の占いの結果が出た。黒い獣は、あっちから私の前に現れる」
「ほぅ……」
 香寿美の言葉に、白峯は小さく頷く。彼も、美土里の占いを信用しているのだ。
「俺様にも美土里の占いが出たじゃん……。金運がヤバイって……。そのせいで、俺様の一万円札がなくなっちまったじゃん」
「それはお気の毒に……」
 その一万円が美土里の物になった事を知らないドナルドは、大吉に同情する。その傍らで、美土里は一升瓶の中身を飲んでいた。
「大事な研究材料だ。今度は、逃がすなよ?」
「逃がしたのは私じゃない。……不完全なクズだからって、管理を怠ったのね。仕事のできない下っ端のせいで私が来る羽目になった」
 その場にいる全員が気付くほどの大きな邪気。黒いデッキを手にした保持者はその場にいる五人の男女を―いや、最も憎んでいる蝶野香寿美を睨んだ。
「テメェ……!」
「外に出る許可など出していないわ。帰るわよ、クズが!」
 ぶつかり合う視線。かち合う闘志。
 一夜は、目の前にいる邪魔者を自分の眼前から消し去る為に、黒く輝くデッキ『エクスプロード』を取り出した。対する香寿美も不機嫌そうにデッキケースを取り出す。
「やれやれ……。私に勝てるとでも思っているの?」
「俺は、保持者だ。テメェみたいなザコに負けるわけがねぇぇっ!!」
 一夜の咆哮にも気圧される事なく、香寿美は一歩前に出る。そして、一度振り向くと仲間達に「手を出すな」と目で指示した。
「言われなくても、あんなうるさい奴、相手にしたくないじゃん」
「後で、彼の思い出を調べる時間を下さいね」
「あたしはここで待っているよ。好きにしな」
「お前が選んだ研究材料だ。お前が始末をするのは当然だろう」
 仲間達はそれぞれ言いたい事を返す。香寿美は挑発的な視線を一夜に向けると
「私がザコだと思っているの?保持者だから、自分は強いとか思っているの?思いあがるな、このゴミ虫がっ!」
 香寿美のデッキが力を持って輝く。それは、力を持ったデュエリストの輝きとも、『球舞』のメンバーとも違う黒い輝き。目の前にいる保持者の、墨川一夜の『エクスプロード』と同じ輝きを持つデッキだった。
「な……なんだと…!?俺の『エクスプロード』と同じ……!?」
 一夜もこれには言葉を失う。赤、緑、金色、青、黒に輝くデッキはカタストロフィーの名を持つ保持者達のデッキだけだ。それ以外のデッキは灰色に輝く事はあっても、他の色になる事はない。
「始めるわよ。どちらが闇の保持者にふさわしいか、教えてやるわ」
 舌なめずりをする香寿美が五枚のシールドを自らの前に呼び出した。

「あっはは、行くよ!『青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)』!」
 九十九のデッキは勇騎を倒した時と同じように、自然文明のマナブーストを主体として大型クリーチャーにつなげるデッキのようだ。だが、『母なる大地』も一枚しか使えない今の状況では、マナに置かれた大型クリーチャーの回収は困難である。以前のように、理不尽な召喚はできないのだ。
「『コッコ・ルピア』を召喚。そして、『紅神龍ガルドス』だ!」
 勇騎はファイアー・バードのサポートを受けたドラゴンデッキを使っている。すでに『チッタ・ペロル』が場に出ているため、勇騎のドラゴンはタップされていないクリーチャーが行動を起こす前に破壊する事が容易だ。
「『ガルドス』で『青銅の鎧』を攻撃する。お前に自由な行動などさせはしない」
「言ってくれるね。まだ序盤なんだよ!」
 九十九がカードを引き、手札の中から引き抜いた赤いカードを振り上げるとその中から炎の弾が飛び、『チッタ・ペロル』に激突する。
「あっはっは!『クリムゾン・チャージャー』だよ!マナを増やす手段は自然文明のカードだけじゃない!これで、ドラゴンとのコンボは難しくなったね!」
「なめるな。ドラゴンをサポートするのは『チッタ・ペロル』だけではない。『フレミングジェット・ドラゴン』を召喚する!」
 勇騎が召喚したのは、レールガンを腕に装備した龍だ。スピードアタッカーなのですぐに攻撃する事ができる。
「山札をめくって出たドラゴンの数は二枚。これで、『フレミングジェット・ドラゴン』はこのターン、三枚のシールドをブレイクできる!」
 一枚目は腕のレールガンから放たれた鉄の塊が壊し、二枚、三枚目は音速に近い速さでの体当たりで破壊する。九十九への先制攻撃を終えただけでなく、シールド二枚まで追い詰める事ができた。
「くそっ!『地獄スクラッパー』だ!『コッコ・ルピア』を破壊!」
 シールド・トリガーによって勇騎を支えていた『コッコ・ルピア』が破壊される。だが、勇騎が九十九を追い詰めているという事実に変わりはない。力強く両脚で立ち、強敵を見据える勇騎を見て博成は言った。
「大丈夫だ、勇騎君!絶対勝てる!」
「外野は黙ってろ!僕が保持者なんかに負けるもんか!」
 九十九は『ブレイン・チャージャー』で手札とマナを増やす。そして、不気味な顔で微笑むと一枚のカードを引き抜き、勇騎の前で挑発するように振ってみせた。
「喰らえ!『アクア・スーパーエメラル』!どれを入れようかな~」
 一瞬、悩むような素振りを見せた九十九は一枚のカードをシールドと交換する。何が仕込まれたのかは判らないが、シールドに何かを仕込んだという事実が勇騎を精神的に追い詰める。
「俺は『コッコ・ルピア』を召喚し、シールドを攻撃する!」
「おっと!そうは行かないよ!『アクア・スーパーエメラル』でブロックだ!」
 『フレミングジェット・ドラゴン』の攻撃は通らない。だが、これで九十九のクリーチャーは再び、0になった。
「あ、まだ自分が有利だと思ってる?そんな風に思いあがってる?違うんだな~、これが!」
 勇騎のターン終了後、九十九は満面の笑みを見せる。前回のデュエルで勇騎達を圧倒した時に見せたのと同じ、余裕のある笑顔だ。
「攻防一体!そんなドラゴン、吹き飛んじゃえ!『血風聖霊ザーディア』だ!!」
 九十九の手から放たれたのは神像のような多色クリーチャー。山札の上からシールドを追加し、相手のクリーチャーを5500以下になるように破壊してもよい。
 『ザーディア』の両腕から放たれた炎が、『フレミングジェット・ドラゴン』の肉体を焼き尽くしていく。
「そんな!『ザーディア』は9マナもある重いクリーチャーだよ!?何でこんなに早く出るのさ!」
「マナブーストです……」
 博成の叫びに答えるように美和が言う。
 冷静になって考えてみれば判る事だ。九十九は、『青銅の鎧』だけでなく、『クリムゾン・チャージャー』や『ブレイン・チャージャー』などで相手の妨害やドローを絡めながらマナブーストを繰り返していた。勇騎の攻撃を受けながら、デュエルを有利に進めるための準備をしていたのだ。
「九重九十九のマナには、『スカイソード』もあるね。シールドを追加して防御力を上げる事も容易だって事だ。さらに、『アクア・スーパーエメラル』もある。好きなカードをシールドに仕込んでシールドをコントロールする事だってできる」
「何よ!それじゃ、勇騎ちゃんが不利みたいな言い方じゃない!」
 豪人の解説にゆかりが食いつく。マナブーストによって足下が整い、勇騎の攻撃やドロー呪文で手札を増やした事で、九十九は不自由せずに行動を起こせるのだ。ゆかりが言ったように、見方によっては勇騎が不利に見える。
「大丈夫、ゆかりさん」
 日芽に手をつかまれて、ゆかりは我に返る。この少女も勇騎の勝利を信じているのだ。九十九に敗北した後も、彼が生きていると信じていた。
 ゆかりは、好きな人の後姿を見る。彼は何も語らないが、そのたくましい後姿が、悪しき魔王に立ち向かって行く勇敢な戦士のような彼の姿が、何かを語っていた。
「準備が終わったのは、お前だけではない。俺はここで切り札を出す」
 言葉ではなく行動で自分の優位を表すために、勇騎は絶対的な切り札をここで出す。そのカードは『インフィニティ・ドラゴン』。自分の全てのドラゴンに対する除去耐性を付与するこの龍の登場で、九十九の表情が凍りつく。
「やった!勇騎君のデッキは、ドラゴンデッキ。ドラゴンが場から離れなくなる『インフィニティ・ドラゴン』がいれば、無敵の軍団が作れる!この勝負、勝てるよ!」
 能力によるアドバンテージを封じ、序盤から攻撃を仕掛け、さらに切り札を召喚。全てが勇騎のために動いているような光景だった。博成も、恐れる理由はない。勇騎が勝つ事は、何者にも変えられない決定事項のように思える。
「不愉快だ……。あんな奴まで僕を馬鹿にして!見せてやるぞ……。僕の切り札で最悪の光景を見せてやる」

 コスモスクエア全体に響くような重い音と共に、香寿美の『オルゼキア』の剣が地面に叩きつけられる。それは、デュエル終了の合図だった。
「くだらないわね。所詮、不完全な失敗作などこの程度……。まだ使えるサンプルだから、とどめは手加減してあげたわよ」
 世界が元に戻った瞬間、一夜は何も言わず、地面に崩れ落ちるようにして倒れた。一夜は香寿美に敗北したのだ。保持者を倒したにも関わらず、香寿美は息を切らしていない。余裕を持った表情のまま、携帯電話を取り出して通話を始めた。
「墨川一夜は捕獲したわ。救急車に偽装した車をこちらへ送って。加減はしたけれど、死なないとは限らないわ。貴重なサンプルを死なせるのは嫌だし、使い方によっては戦力になる。判ったなら急いで」
 通話を終えた香寿美は、黒いデッキケースをしまい、一夜に背を向ける。直後、サイレンの音が聞こえ始めた。香寿美が呼んだ車は、すぐにここへ到着する。
「もうここにいる意味はないわ。行くわよ」
 香寿美に連れられるように、その場にいる四人の男女は歩きだす。
「世界に教えてあげましょう。九百九十九の次は千だと」
 体から流れ出る自らの血の温かさを感じながら、一夜は『球舞』以上の脅威が近づいている事を知った。そして、今の彼ではその脅威に立ち向かえない事も、同時に知ったのだった。

「『インフィニティ・ドラゴン』で攻撃!『バルガザルムス』の効果で山札の上のドラゴンを手札に加える!」
 『インフィニティ・ドラゴン』が出た事で、勇騎の勝利はほぼ確定していた。彼の場には『インフィニティ・ドラゴン』の他に『緑神龍バルガザルムス』がいる。シールドは残り二枚だが、簡単に壊されるものではない。
 一方、九十九はうまくシールドを回復したため、残りのシールドは三枚になっていた。その内の、二枚は『アクア・スーパーエメラル』の効果で何かを仕込んでいる。だが、クリーチャーは一体もいない。九十九が除去呪文を使ったとしても、勇騎のドラゴンは場から離れる事はない。
「これで、俺はターンを終了……す……」
 ターン終了を宣言しようとした勇騎のシールドが薄くなっていく。それだけではない。彼の場にいる二体のドラゴンの色も一瞬、消えかけた。
「あはは!そうか!そういう事か!」
 勇騎のクリーチャーとシールドに生じた異変から、九十九は何が起きているのかを理解した。それが、九十九にとって唯一の勝機になるのだ。
「判ったよ、赤城勇騎!君は僕の『球舞王(ゴー・オーバー)』と同じ能力を得たと言っていた。それで、僕の優位を封じた。だけど、それは長く続くものじゃない。前回の僕との戦いでダメージを負っているから長くは戦えないんだね!?墨川一夜との対戦を嫌がっていたのもこのためなんだ!あっはっは!脅かしやがって!もう怖くない!それに……『インフィニティ・ドラゴン』を倒せる僕の切り札もいるもんね!」
「なんだって!?」
 最後の言葉は、博成達に衝撃を与えた。勇騎の優位が崩れかけただけでなく、九十九は勇騎の切り札を破壊するためのカードがあると言うのだ。
「そんなカードがあるもんか!『インフィニティ・ドラゴン』は、自分のドラゴンが場から離れる時に山札の上をめくってそれがドラゴンかファイアー・バードなら場に留まる能力を持つカード。どんな強いクリーチャーでも、どんな除去呪文でも倒せるもんか!」
「言ったね?じゃあ、見せてやるよ。驚きな!」
 突如、現れる黒い雲。轟く雷鳴。そして、その黒雲を切り裂いて、ジェット機のように巨大な飛行物体が姿を見せた。
 いや、それはただの飛行物体ではない。機械でできた白い天使。『機動聖霊ムゲン・イングマール』だ。
「『ムゲン・イングマール』はスピードアタッカーだ!攻撃するのは、もちろん『インフィニティ・ドラゴン』さ!」
 『ムゲン・イングマール』が左手に持っていた盾が『インフィニティ・ドラゴン』を押しつぶす。巨大なドラゴンでさえ、『ムゲン・イングマール』の大きさにはかなわないのだ。
「大丈夫だよ!『インフィニティ』は破壊されない……!山札をめくれば……」
「そうだ、一ノ瀬。俺は山札をめくらなければならない」
 勇騎はゆっくりした動作で山札をめくる。そのカードはドラゴンだった。
「ああ、よかったね!『インフィニティ』、死なないでよかったね!じゃ、もう一回死ね!」
 『ムゲン・イングマール』は再び拳を『インフィニティ・ドラゴン』に向かって振り下ろす。勇騎はもう一度山札をめくらなければならなくなった。
「そんな……!何で、『ムゲン・イングマール』が……。そうか!」
 博成は、理解する。『ムゲン・イングマール』はバトルに勝った後、アンタップできるクリーチャー。バトルで負ける事がない限り、再び起き上がり攻撃する事ができる。
 そして、勇騎の切り札、『インフィニティ・ドラゴン』は場を離れた時に山札をめくる必要がある。バトルに負けてもその効果は発動し、山札の一番上のカードがめくられる。
「勇騎君が、ドラゴンかファイアー・バードじゃないカードを出すまで、『ムゲン・イングマール』は攻撃し続ける……!勇騎君のデッキはドラゴンデッキ!これじゃ、山札がなくなっちゃうよ!」
「ほらほらぁっ!どうした!?最強だと信じた自分の切り札の効果で自滅しろっ!!」
 九十九の『ムゲン・イングマール』の連続攻撃によって『インフィニティ・ドラゴン』は押しつぶされた。勇騎の山札は十枚も減らされている。その中には、『ムゲン・イングマール』を除去するのに使える『ナチュラル・トラップ』も入っていた。
「残念だったね。さ、ぶっ飛びな!!」
 シールドに向かって『ムゲン・イングマール』の右腕のミサイルが発射される。轟く爆音と熱風。吹き飛ばされそうな風の中で勇騎は手札に戻されるシールドを見ていた。
「チャンスはここにある……!」
 勇騎の言うとおりだった。『ムゲン・イングマール』がどれだけ強力なクリーチャーでも、シールド・トリガーの効果を不発にする事はできない。破られた最後のシールドにこそ、逆転のためのカードが入っている。
「俺が使うシールド・トリガーは『母なる大地』だ」
「へぇ!シールドトリガーが出たんだ……。でも、それで僕に勝てるのかな?」
 『母なる大地』の効果ならば、『ムゲン・イングマール』をマナに送る事ができる。だが、それと引き換えにマナゾーンから九十九のクリーチャーを呼び出さなければならない。除去、という単純な目的で見るのならば『ナチュラル・トラップ』の方が向いている状況だった。
「ねぇ!僕のマナを見てよ!どれもお気に入りの精鋭ぞろい!それにこのターン、生き残っても次の『ムゲン・イングマール』が手札にあるんだ!決まっちゃったよね!?そうだよね!?」
「俺がマナに送るのは、『バルガザルムス』だ。これをマナに置き、マナの『紅神龍バルガゲイザー』を召喚する!」
 勇騎が召喚したのは、『インフィニティ・ドラゴン』と同じようにこのデッキを支える切り札だった。
「やった!『バルガゲイザー』なら、攻撃した時にドラゴンを出せる。これなら……!あ……!」
 博成は気付いた。まだ九十九のシールドは三枚も残っている。『バルガゲイザー』で一枚。その効果で出たドラゴンがスピードアタッカーで残りのシールドを全てブレイクしたとしても、九十九には届かない。
「それに、九重九十九は二枚のカードをシールドに仕込んでいる。防御は固い……!」
「大丈夫だ、一ノ瀬」
 ここで、ようやく勇騎が博成に声をかける。『球舞』に勝つと言ったあの時のように。絶対の自信を持って。
「俺には、すでに勝利という名の未来が見えている。これは、運命が俺に見せた確定事項だ」
「勇騎君……」
「あははははは!!」
 勇騎の言葉を聞き、九十九はそれを腹を抱えてあざ笑う。
「本当に僕に勝つつもり!?無理無理!?勝てるわけがないよ!」
「勝つ、と言ったのは嘘ではない。すでに決まっている事だからだ。俺はただ、お前のシールド三枚を破り、仕込まれた二枚のシールド・トリガーを防ぎ、お前にとどめをさせばいい。単純な事だ」
 そして、勇騎は右手の人差し指を立てて続けた。
「1ターン。この1ターンで全てを終わらせてやる。まず、お前のシールドの内、二枚はシールド・トリガー。一枚は『バリアント・スパーク』。もう一枚は『アクア・サーファー』が入っている。そして、中身をいじっていない唯一のシールドに入っているのは、『エナジー・ライト』。そして、手札にもストライク・バックは入っていない……」
「なっ……!何で、僕の手札が……!それにシールドも……!?」
 勇騎の発言に驚いたのは九十九だけではない。周りにいる勇騎の仲間達も彼の発言に目を丸くしていた。
「宣言する。俺はお前が仕込んだシールド・トリガーを消し去って勝利する。まず、『紅神龍ジャガルザー』を召喚!」
 勇騎が手札から呼び出したドラゴンは、ターボラッシュで仲間にスピードアタッカーを与える事が可能だ。
「これで、『バルガゲイザー』のアタックトリガーを使ってドラゴンが出れば、スピードアタッカーで攻撃できる……!だけど……!」
 残った二枚のシールド・トリガーの壁はとてつもなく厚い。九十九を護る鉄壁なのだ。
「そして、俺が『バルガゲイザー』のアタックトリガーで出すのは、この龍だ!」
 『バルガゲイザー』の雄たけびが山札をめくる。そして、黒雲を消し去って白と青の龍が空から姿を見せた。
「『ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン』!!」
 その場にいる者達の声が重なる。その刹那、九十九のシールドが一枚破られた。
「そ……そんな!本当に、『エナジー・ライト』だったなんて……!?」
 九十九は手元に来たシールドと勇騎の顔を何度も見る。何故、見えていたのか。その理由が判らない九十九に追い討ちをかけるかのように、勇騎の『ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン』が動き出す。
「『ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン』は、シールドを焼き尽くすクリーチャー。どんなシールド・トリガーが入っていたとしても、発動しない!」
 『ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン』の口から吐かれる高温の炎が仕込んであった『バリアント・スパーク』と『アクア・サーファー』を焼き尽くした。これで、九十九の前にあった鉄壁は消え去ったのだ。
「そんな……!どうして……!何故なんだよぉっ!?」
「俺の能力『プロミネンス・ネクスト・レベル』の真の力だ」
 恐怖に脅えながら叫ぶ九十九に対して、勇騎がゆっくりと説明を始める。
「『プロミネンス・ネクスト・レベル』は今までの限界を超える事で九十九と同じフィールドに立つ能力。そして、この先にある未来を……運命を見る能力だ!使える時間に制限はあるが、今のようにデュエルの一部だけを知る事はできる。そして、一度見た未来は何をしても変わらない」
 勇騎が空へ右手をかざすと、『ジャガルザー』が攻撃のために動き始めた。
「今から最期の瞬間まで、お前が傷つけた者達のために祈れ……!九重九十九!!」
「嘘だ、嘘だ嘘だ……!僕が負けるなんてこんなの嘘だああぁぁぁっ!!」
 『ジャガルザー』が吐き出した炎が九十九を、『球舞』の王を包み込み、最後の戦いは終わった。勇騎が『ブランク』を九十九に投げて封印し、決着がついたのだ。
「ふぅ……」
 九十九が封印された『ブランク』とデッキを『プロミネンス』に戻し、勇騎は仲間達に向かって言う。
「終わったよ。これで、東京連続失踪事件は完結した」
 博成は、それを聞いて体が軽くなるのを感じた。九十九の存在によって効果が持続していた『完全殺戮(オール・デッド)』の効果が切れたのだ。だが、体が軽くなった原因はそれだけではない。
 長い戦いが終わった。その事実が、何よりも嬉しかった。
「勇騎君、お疲れ様!」
 誰よりも早く、博成が駆け寄って戦士に言葉をかける。それを受けた勇騎は軽く微笑むとその場に座り込んだ。
「すまない、一ノ瀬。まだ体が『プロミネンス・ネクスト・レベル』の力に慣れていないんだ。しばらく肩を貸してくれるか?」
と、手を伸ばす。
「もちろんだよ!」
 博成はその手を受け取り、肩を貸して歩き始めた。
 戦いは終わった。休む時間はいくらでもある。
 そう、新たな敵が動き出す時まで……。

 第二十四話 終

 第二十五話予告
 勇騎によって『球舞』との戦いは終結した。自宅に帰った勇騎は力を使った反動のせいで、深い眠りに落ちてしまう。そこに現れるもう一人の赤城勇騎。そして、語られる過去。
「あなたには教えておくべきかもしれません。我々の戦いの過去を。全ての原点というべき過ちを」
 隠されていた謎が、博成に語られる。
 第二十五話 解明
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