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『TOKYO決闘記』 特別編 一本杉四神~秒刻みな都会の冒険~

『TOKYO決闘記』
 私、一ノ瀬博成は東京連続失踪事件の謎を調査した高校二年生だ。
 多くのデュエリストだけでなく、様々な人々を恐怖に陥れた東京連続失踪事件。それを指揮していた組織『球舞』。
 苗字と名前にそれぞれ数字を組み込んだ特殊な名前を持つ九人の男女が所属し、組織のリーダー、九重九十九によって与えられた能力を駆使して様々な活動を行っていた。その活動の多くは、事件が解決した今でも謎に包まれている。
 『球舞』のメンバー、一本杉四神。時計を好み、時間を何よりも絶対のものと病的なまでに信じる男。
これは、一年前の彼の活動を記した唯一の文書である。
 20XX年 一ノ瀬博成

 特別編 一本杉四神~秒刻みな都会の冒険~

 通勤通学の途中に事件が起こる事などまれだ。何か事件と呼べる物が起こったとしても、大抵、くだらない世間話のネタに消費される程度のものに過ぎない。この世界に生きる多くの人は、多少の違いはあっても多くは物語にもならないような平凡な日常を送っているものだ。
 だが、それでいい。
 平凡でない日常を得るという事は、日常に飽きている少年少女が思っているほど甘くはない。彼らの求める刺激と引き換えに、人の一生では背負いきれないほどのリスクを背負うのがこの世のルールだ。不満があったとしても、何もない日常に勝るものはない。
 話が脱線してしまった。よくありふれた通学風景。その日も、彼、永山登志雄(ながやまとしお)は通っている高校を目指して歩いている途中だった。そんな彼は、非日常の入り口に囚われてしまう。
「永山登志雄。学校では成績優秀、運動神経抜群で友人からの信頼も厚い。が、一度デュエルを始めればその品格漂う仮面を脱ぎ捨て、子供相手の陰湿ないじめに近いデュエルを行う。ただの弱い者いじめをするだけの男ではなく、きちんとした実力があり、昨年の関東地方トーナメントで第三位の成績を残している。いいな、実力がきちんとあるってのは。ガキ相手のいじめってのも使い方によっちゃ使える。俺達の下で兵隊となるか『ブランク』の中で永久に封印されるかは俺が戦って決める事だけどな」
 スーツを着た二十歳前後の青年。今の独り言を除けばどこにでもいる普通の男だ。
 だが、普通でない点が独り言以外に二つある。一つは全身に散りばめられた時計。腕時計も両手にしているし、首からは懐中時計がかけられている。時計を自分を飾る為のアクセサリーと間違えているのかと思うほど、彼は多くの時計を持っていた。
 次に、彼の持っている気迫。一般人でもない。かといって、不審者でもない。今までに感じた事のない気迫を登志雄は感じていた。
 だが、少ない会話の中と彼の動作で感じ取れたものがある。彼は、デュエル・マスターズをプレイしている人間だ。それも、かなりの実力者に違いない。
 登志雄が子供相手にいじめに近いプレイを行うのはフラストレーションの解消のためと言ってもいい。強いプレイヤーが現れず、欲求不満のままデュエルを終える事が多くなった彼は、どうやって勝つかではなく、いかに相手の心を折るデュエルをするかという事のみを考えるようになった。目の前にいる青年は、登志雄にとって久しぶりの『本物』だったが、今の彼はデッキを持っていない。それに、登校中である。どうするべきか悩んでいたら、時計だらけの青年は灰色のデッキケースを投げてきた。
「それを取れ。最初の試験だ。実力者なんだから、それすらできないわけはねぇよな?それができたら、デュエルだ。五分あれば全てが終わる。もし、俺が負けたらお前が『球舞』のメンバーになるわけだが……ま、それはないな」
 時計の青年は、登志雄に投げたものと全く同じ灰色のデッキケースを取り出した。それは、灰色の輝きと共に登志雄を威圧する。意を決した登志雄が目の前にある灰色のデッキケースを取った時、それは青年の持っている物と同じように勢いよく輝き出した。
「うわっ!」
 間の抜けた声が登志雄の口から飛び出す。ただ手に取っただけで輝くなどという、マンガのような現象が起きるとは思わなかった。デッキが光る原理も判らないまま、登志雄はケースの中からカードを取り出す。
 スリーブに入っていないデュエル・マスターズカード。だが、それは紙の感触とはどこかが違った。裏は普通のカードだが、表を見ると何も書かれていない。カードの効果を記したテキストも、クリーチャーのイラストもない。真っ黒なカードだ。戸惑いながら登志雄が自宅にある自分のデッキを思い浮かべると、真っ黒なカードに色がつき始める。それは、いつも自分が使っているデッキのカード。たった一枚の違いもなく、それは登志雄がいつも使っているのと同じデッキになった。
「準備はできたか?お前が間抜け面をしてカードを眺めているうちに、七十二秒も経っちまった。こうしている時間も勿体無い。さっさとシールドを張りやがれ。三分で終わらせる」
 普通のカードではない初めてのデュエルに戸惑う登志雄を見て、時計の青年は苛立ったような声で言う。彼が無造作に五枚のカードを投げると、それはドアくらいの大きさに変化し、彼を守る半透明の壁となる。登志雄が見よう見まねでそれをやると、彼の目の前にもシールドが張られた。
「行くぜ、永山。『球舞』調査員にして最速の男、一本杉四神がてめぇを試してやる!」
 それが永山登志雄の非日常への入り口であり、破滅の始まりだった。

「強豪デュエリスト失踪事件って知っているかしら、猛司(たけし)」
 平日の午後。とある店のデュエルスペースでの一コマ。
 現在の局面からベストの戦い方を模索していた詰襟姿の少年は、目の前にいる対戦相手の凛とした声を聞き、思考を中断した。過去に聞いた話からそれに該当するものを思い出しながら、カードの動きを考える。慣れてくれば、カードと同時に別の事を考えるのも難しくない。まだ、行き詰っていない状況というのもあって、水科(みずしな)猛司はクリーチャーの召喚と同時に少女へ返答する。
「ああ、知っているよ。公式大会の入賞などで名の知れたプレイヤーが半日ほど―ケースによっては一日行方が判らなくなる事件だね。一ヶ月に一回くらいのペースで起きていて、被害者は失踪直前から、発見されるまでの記憶を失っているっていう……。UFOのせいだってワイドショーでコメントしている評論家がいたね。テレビに出る奴はやっぱり馬鹿ばかりだ」
「ワイドショーを見ている男は馬鹿が多いわよ。同属嫌悪?」
 猛司の前にいるブレザーの少女は、冷たい視線を送りながら輝く切り札を召喚する。そのカードが何をするためにあるのか、猛司はよく知っている。
「いつもより言葉に棘が多いな、姉さん。先週の大会で姉さんの切り札を除去した事、まだ根に持ってるの?」
「そんな子供みたいな事するわけないでしょう」
 猛司の姉、水科富美恵(ふみえ)は、頬を膨らませながら否定する。それは、怒っているという無意識のサインだ。猛司の友人の中には、この仕草が気に入っているものもいるらしいが、血縁者である猛司にはそれが理解できない。
 姉がこんな状態になっているからといって、猛司は手加減をしない。こういう時の姉は、負けたら怒るが手加減された状態で勝っても怒るのだ。姉弟なので、手加減をしているかどうかもすぐに判る。
「『スペル・グレートブルー』で攻撃!さらに、効果で『英知と追撃の宝剣(エターナル・ソード)』を使うわ!」
「ちっ!」
 富美恵の攻撃で猛司のシールド、クリーチャーは全てなくなってしまった。しかも、富美恵にはまだ攻撃できるクリーチャーがいる。
「負けたよ。今回は、ね」
 猛司が『今回』という言葉を強調して言うが富美恵はそれを気にしない。この姉弟にとってはよくある事だ。
「姉さん、さっき失踪事件がどうとか言ってたけれど……」
「少し気になっただけ。もし、強いデュエリストが狙われるのであれば、次は私達かもしれないわよ?」
「考えたくはないけれど、『強いデュエリストが狙われる』という事だけが事件の共通点なのだとしたら、覚悟はしておかなくちゃいけないね」
 二人は、カードを片付けると店を出た。しばらく歩くと、道を塞ぐように一人の少年が立っているのが見える。その少年は、ひと月ほど前に失踪事件の被害者となって半日間行方不明になっていた永山登志雄だった。
「ああ、永山君。久しぶりだね」
 軽く手を振りながら登志雄に手を振る猛司。登志雄は猛司を見ても表情を変える事なく、灰色のデッキを取り出した。
 猛司は手を振る前から奇妙だと思っていた。姉の富美恵もだ。登志雄がこの付近まで来る事は滅多にない。それに、彼の様子がどこかおかしい。
「来いよ、水科姉弟。どっちも俺の敵じゃない。力がみなぎってくるんだ!早く強い奴と戦いたいんだよ!」
 登志雄は二人に灰色のデッキケースを一つずつ投げつけると、頭をかきむしった。
「あの一本杉とか言う奴に、俺の力を認めさせてやる!さあ……来い!」
 二人の記憶に残っている登志雄は、冷静さを失う事は滅多になかった。今の登志雄はやはりおかしい。
「いいよ。永山君は去年の関東大会で僕に負けた事、覚えているよね?運で負けた、って言われたの頭に来たよ。だから、今日は君を完膚なきまでに叩きのめしてあげよう!」
 登志雄が投げたデッキを先に拾ったのは猛司だ。デッキを取る時、そしてカードを切る時、少しずつ彼の気持ちが高ぶってくる。
「姉さん、手は出さないで」
 姉に一言だけ注意すると、猛司は目の前に五枚のカードを投げる。初めて使う特殊なデッキだったが、本能的に使い方を理解した。
 登志雄もシールドを張り終えた瞬間、デュエルは始まった。

 一本杉が指定された場所に入ると、耳が痛くなるような大音量が聞こえて、彼は思わず顔をしかめた。そこは、使われていないボウリング場。ピンもボールもないので、遊戯施設として使う事はできない。
 そのレーンで音楽にあわせて首を振る少年がいた。一本杉の仲間、三ツ沢二古(みつざわふたご)だ。
「ふぃ~、やっぱり音楽はデトロイト・メタル・シティに限るっすね。全身の細胞が、おれっちの血液がメタルを求めているっす」
 ノリノリで体を動かしていた三ツ沢は満足した様子で置いてあったラジカセを止める。音量から解法された一本杉は椅子に座って持ってきた袋からハンバーガーを取り出した。
「四天王寺と五箇条センセイは?」
「さあ?新入りの体調管理は終わったはずっすよね。何かあるんすかね?」
「俺が知るかよ」
 一本杉がハンバーガーにかじりついた瞬間、そこに二人の客が現れる。いずれも高校の制服を着た子供だ。
「なんすか?ここは関係者以外立ち入り禁止っすよ。子供は帰って早く宿題をしろよ」
「お前も子供だろ」
 一本杉は律儀に突っ込み、そこにいる二人の客に向かって歩きだす。
「やっぱり、永山登志雄じゃ相手にならなかったか。久しぶりだな、水科姉弟」
 一本杉と水科姉弟の視線がかち合う。二人は、灰色のデッキケースを取り出した。
「永山はどうなった?」
「彼がどこにいるかなんて、僕には判りませんよ。どうでもいい事ですし。それよりも、上椙(うえすぎ)先輩はここで何を……」
 頭に響くような金属音が辺りに響いた。大音量でメタルを聞いていた三ツ沢も不快そうな顔で耳を塞ぐ。
 一本杉が近くにあったゴミ箱を蹴り倒したのだ。その瞳、その表情から彼の怒りがほとばしる。
「今の俺をその名で呼ぶな。俺は一本杉四神だ。上椙じゃないっ!!」
 一本杉は灰色のデッキケースを二つ取り出し、叫ぶ。目の前に倒さなければならない宿敵がいるような、そんな表情で。
「三ツ沢、俺の飯にまで手を出すなよ……。お前ら二人相手でも五分で充分だ。俺の過去を詳しく知っている奴は、お前ら二人……。その記憶はぶっ壊す!」
 水科姉弟は理解した。目の前にいるのは、姉弟が知っている上椙という男ではない。一本杉四神という別の人間なのだ、と。何かが変わってしまったのだ、と。
「やれやれ……一本杉先輩、ですか」
「私達二人を相手に五分?なめないで下さいね」
 一本杉と姉弟の闘志がぶつかり合う時、世界は変わりデュエルは始まる。三人が五枚のシールドを張り終えたその時から一本杉は行動を始めた。
「水科姉!どうせ、今でも遅いデッキを使ってやがるんだろ!?俺には一生追いつけない!水科弟!お前はビートダウンを使っているが、俺の速度には追いつけない!覚えとけ!力の差を!俺の切り札を食らえッ!!」
 一本杉は、猛司側、富美恵側両方のクリーチャーに一枚のカードを重ねる。その瞬間、猛司が切り札として使っていた『大地の猛攻』が破壊される。そして、富美恵を守っていた『ストーム・クロウラー』も同じように破壊された。
「知らねぇだろうな、こんなカード……。初めて見るよな、この切り札……!」
 去年の関東大会で一位、二位を独占した二人だ。どんな敵にも簡単に追い詰められた事はない。だが、目の前にいる男には一本杉四神には絶対勝てる気がしなかった。
「最高だぜ、『ジャック・ヴァルディ』……!シールドをやれ……」
 一本杉の『ジャック・ヴァルディ』によって、富美恵も猛司も残っていた二枚のシールドをブレイクされる。どちらのシールドからもシールド・トリガーは出なかった。
「これで、俺の勝ちだな。着いてきてもらうぜ!」
 一本杉の『フォーチュン・ボール』が二人に直接攻撃を加えるのとほぼ同時に、彼が投げた『ブランク』を吸収し、閉じ込めた。戦いは終わり、その場に残ったのは水科姉弟のデッキと彼らが封じられた二枚の『ブランク』だった。
「や~、鬼気迫るって奴でしたね。今日の一本杉さんは怖いっす」
 三ツ沢が一本杉に近寄って『ブランク』を拾う。一本杉はそのカードを見る事もなく、椅子に座ってハンバーガーを食べ始めた。
「八卦に言ってそいつらにブレインジャッカーを寄生させる。四天王寺に頼んで厄介な記憶を消させるのはいつでもできるな」
「そんなに嫌な事覚えてるんすか、こいつら?」
「嫌な記憶なんて、誰にでもあるだろ?」
「……そうっすね」
 『嫌な記憶』に関しては、三ツ沢も似たようなものだった。今、三ツ沢の『嫌な記憶』を知る者はいない。誰にも見せたくない記憶なのだ。永久に封印された方が、彼にとって都合がいい。
「でも、なんつーか、こんな弱い奴ばっかりじゃ味気ないっすね。このまま兵隊増やしていって意味あるんすか?」
「あと一年もすりゃ、保持者とかいうのが行動を始めるらしい。俺も詳しい事は知らねぇ。八卦がどこかから情報を仕入れてくるんだよ。調査担当の俺も知らないような情報をな」
 一本杉は、ハンバーガーの包み紙を捨てると立ち上がった。
「もう行くんすか?」
「ああ、その保持者が東北のどこかにいるって判ったからな。しばらく東京には戻らねぇ。水科姉弟は任せたぞ」
「OK牧場っすよ!」
 三ツ沢のジョークに苦笑すると、一本杉はボウリング場を出た。
 古傷を抉られても、止まる事などできない。止まっていたら予定していた時間に遅れてしまうからだ。彼にとって時間は最優先事項。予定の時間に遅れる事は絶対に避けなければならない。
「わたしと時間、どっちが大事なの、だと?今でも同じだ。人間は時間の奴隷だぜ?言うまでもないだろうが!」
 古傷は癒えない。誤魔化すように隠すしかないのだ。
 心に一つの傷を負った時の奴隷は、今日も時間に追われながら準備を進める。保持者という、未知の存在と戦うために。その敵に勝利して、時間と対等の存在になるために。
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