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『TOKYO決闘記』 第二十五話 解明

『TOKYO決闘記』
 私、一ノ瀬博成は東京連続失踪事件の謎を調査した高校二年生だ。
 コスモガーデン屋上での赤城勇騎と九重九十九の対峙。『球舞王(ゴー・オーバー)』によるルール無視の攻撃で、再び勇騎を退けようとする九十九だったが、勇騎が手に入れた能力『プロミネンス・ネクスト・レベル』によってその力を封じられる。
 これで条件は互角となり、勇騎は序盤から九十九を圧倒する。しかし、九十九はシールド回復、『アクア・スーパーエメラル』によるシールド操作や切り札、『ムゲン・イングマール』の登場で形勢を逆転させた。追い詰められた勇騎は、取り乱す事なく『プロミネンス・ネクスト・レベル』で見た予知通りに仕込まれたシールドトリガーを焼き尽くし、九十九に勝利した。
 これで終わったのだ。『球舞』との戦い、そして東京連続失踪事件が。
 20XX年 一ノ瀬博成

 第二十五話 解明

 博成は、勇騎に肩を貸してコスモガーデンの中を歩く。まだ九十九が倒された事が判っていないのか、ビルの中の人は少ない。だが、『完全殺戮(オール・デッド)』が解除されたのだ。体調の変化に気付かない事はない。それによって、人々は戦いの終わりに気付くだろう。
「まだ、静かだね」
「人が増えると厄介だ。今の内にコスモガーデンを出よう。コスモスクエアにまで行けば、人ごみにまぎれるから俺達が『球舞』と戦っていた事が知られなくてすむ」
「そうよ!その通り!」
「うわっ!」
 博成は、突然聞こえたゆかりの声に驚いて振り返る。その時にバランスを崩しかけて「気をつけろ、一ノ瀬」と勇騎がぼやいた。
「他のマスコミなんかに勇騎ちゃんの活躍は取材させないわ!勇騎ちゃんの勇姿は、アタシ達の心に永久に刻み込んでおくのよ!そのためにも早く脱出よ!」
「そういう事!さ、お兄ちゃん、博成君、急ご?」
 ゆかりが、博成とは反対側の勇騎の腕をつかみ、日芽も彼らに近寄る。長い戦いの終わりを実感して、誰もが喜んでいた。
 博成は思う。
 長い戦いの中で、たくさんの犠牲が出た。羽山達『ウイングス』のメンバー、『球舞』に操られていたデュエリスト。もしかしたら、『球舞』だってこの戦いの被害者なのかもしれない。
 犠牲となった彼らのためにも、東京連続失踪事件は何らかの形で記録しなければならない。それができるのは、勇騎のそばにいた自分だけだ。
「ねえ、勇騎君」
「なんだ、一ノ瀬?」
 突然の質問に、勇騎は顔を上げずに答える。ダメージが残っている状態で戦ったのだ。疲れていないわけがない。
「東京連続失踪事件は、僕が記事にしてもいいかな?」
「一ノ瀬ちゃん!?」
 驚いたのはゆかりだった。博成の発言に目を丸くしている。
「委員長、僕、変な事言ったかな?」
「う、ううん。でも、一ノ瀬ちゃんだったら「関係者の事を考えて、東京連続失踪事件に関する記録は全て闇に葬ろう」とか言うのかと思ってたわ」
「違う。逆なんだ。この事件は隠しちゃいけない。誰かが書かなくちゃいけないと思うんだ。だから、僕が書く。学校新聞にはできないけどね」
「がんばって、博成君!」
「一ノ瀬ちゃん、期待してるわよ!」
「任せた」
 日芽とゆかりに続いて、勇騎も博成を応援する言葉を口にした。博成が事件に関わる事を嫌っていた勇騎が、博成の努力を認めたのだ。
「うん、やってみるよ」
 デュエルでは戦えなかった。だけど、真実を文章にして伝える事ならできる。博成の本当の戦いはここから始まるのかもしれない。

「突然だけど……いい天気だよね」
 コスモガーデンの屋上にて。豪人は携帯電話をしまうと、ヴェルデに問いかける。祝勝会と称して、レストランで三人分の予約を取っていたのだ。
「ああ」
「本当に綺麗な空ですね……」
 ヴェルデと美和はそれに頷く。今まで、緊張が肉体と精神を支配していたのだ。
 だが、『球舞』との戦いは終わり、それらは解放された。空の美しさを楽しむような心の余裕が生まれているのだ。それに、この空はただそこにあるだけではない。保持者達が『球舞』と戦い、守った世界の一部なのだ。
「さてと、空の美しさに感動するのもいいけれど、ここから脱出するのも忘れちゃいけないね。僕らは表向きは、不法侵入者なんだから」
 豪人が軽い口調で言って、ドアへと歩きだす。ヴェルデがそれに続こうとした時、彼は体に違和感を覚えた。厳密に言うと違和感を覚えたのは体ではなく、常に肌身離さず持っていた『グランドクロス』だ。不思議に思ったヴェルデがそれを取り出すと、『グランドクロス』の表面に無数のひびが入っていて、そこから黒い煙が出ていた。
「これは……!何が起きている……!?」
 保持者のデッキにダメージに与えるなど、並大抵の事ではない。あまりにも異質な状況に豪人も美和も立ち尽くすしかなかった。ヴェルデが『グランドクロス』を手放すとそのデッキは地面に落ち、噴出す煙の量が一気に増えた。その煙は一人の人間の形へと変形していく。その煙から生まれたのは、ヴェルデが倒したはずの七夕初七日だった。
 目覚めるようにゆっくりと目を開けた初七日は、周囲を見て咄嗟にドアに飛びつき逃げるようにしてその場を後にした。あっという間の事だったので、誰も彼女を止める事ができなかった。
「ヴェルデ君、彼女の……七夕初七日の能力は、八百万八卦と同じものかな」
「待て、金城。八卦の能力は、倒された時、三人に分裂する能力だ。俺は間違いなく奴を『ブランク』に封印した。お前が八卦と戦った時の状況とは違う……!」
 冷静に状況を整理し始めた豪人に対し、ヴェルデが焦りながら答える。彼の顔に焦りが見えるのも無理はない。『球舞』に完全勝利したと思ったら、そのメンバーが封印を解いて蘇ったのだ。それに、ヴェルデのデッキ『グランドクロス』もダメージを受けている。
「いくつか判った事があるけれど、とりあえず一つだけ言うよ。……これから始める予定の祝勝会はキャンセルだっていう事だ。やれやれ……」
 豪人は軽くため息をつくと、歩きだした。
「ヴェルデ君、君は休んでいた方がいい。君自身が戦えたとしても、デッキがそれじゃどうしようもない。美和、悪いけど、先に帰ってもらってもいいかな?僕にはまだやる事があるみたいだ」
「かしこまりました、豪人様」
「任せた」
 豪人の命令に静かに頷く美和と、納得行かないような顔で『グランドクロス』を見つめるヴェルデ。その二人を背に、豪人は屋上を出る。
 七夕初七日が蘇ったのは、彼女の能力によるものだと豪人は推測している。蘇ったように見せて相手を威圧する八卦のそれとは違い、彼女の場合は、間違いなく『蘇る』能力。条件などは不明だが、八卦との戦いと同じように厄介な事に変わりはない。
「まるで、『グールジェネレイド』だな」
 ジョークのように軽い口調で呟くが、おもしろくも何ともないその言葉を噛み締めて豪人は階段を降りていった。彼女の狙いは判らない。だが、今は行動するしかない。

 博成が勇騎の部屋に入るのは二度目だ。前回は、怪盗アルケーの調査を彼と一緒に行った時だった。あの戦いの後に、『球舞』との全面戦争が始まったのだ。対した時間は流れていないはずなのに、ものすごく長い戦いを繰り広げてきたように、博成は感じた。
「ありがとう、一ノ瀬。礼を言う」
 勇騎はそう言うと、ベッドに腰掛ける。
「横になってた方がいいよ。僕、そろそろ帰るね」
「いや、待ってくれ。お前にだけは、もう一人の俺を見せておく必要がある。真実に辿り着く権利がある」
「もう一人の、勇騎君……?」
 博成の問いを聞きながら、勇騎は目を閉じる。しばらくすると、彼の体から青いもやのようなものが出始めた。そのもやは人の形を作り、博成の前に立つ。
「勇騎君、これは一体……?」
『一ノ瀬博成さんですね』
 勇騎の体から出たその青い人型のシルエットは、勇騎と同じ声で話しかける。同じ声だが、その声には別人のような穏やかさがあった。
「君がもう一人の勇騎君、なの?」
『ええ、本来、私達は二人で一つの存在。私は彼の体の中で長い間眠っていました。彼が持っていた力を解き放った事で、こうやって私も外に出る事ができるようになったのです』
「解き放った力って、『プロミネンス・ネクスト・レベル』の事だね」
 青いシルエットは頷く。
『あなたには教えておくべきかもしれません。我々の戦いの過去を。全ての原点というべき過ちを』
 博成はその言葉で感じ取った。これから語られる事は、東京連続失踪事件を調査する博成が最も知りたい事なのだ。
 静かに時間が流れる中、博成はそっと呟くように言った。
「教えて欲しい。色々な事を。保持者の戦いの全てを。僕は、ほとんどの事を知らない。判る事と言えば、勇騎君が信頼できる友達だって事だけだよ」
 博成が調べても、資料が見つけられるようなものではない。保持者と彼らが使う五つのデッキは、共に博成が住む世界とは違うクリーチャー達の世界で作られたという過去だけを豪人から教わった。それ以外の事は何も知らない。
『最初に、保持者とは何者なのか。それについてお教えしましょう。保持者、それは五つのデッキを扱うために既存のクリーチャーを組み合わせ、異世界の生物の姿へ変化する能力を持つ創られた五体のクリーチャーを指すのです』
「保持者は……全員、クリーチャーだって事?でも、勇騎君も金城さんも、人の姿を……!」
 淡々と語られる過去の真実。考えてみれば、クリーチャーの世界で創られたデッキを扱う者達だ。その世界の生物でない可能性は低い。
『それは、この世界へ適合するために作られた仮の姿に過ぎません。尤も、金城豪人はこの世界での姿を気に入っているようですが』
「あの人は、ああいう人だから」
 豪人の普段の行動を思い出し、博成は苦笑した。青いシルエットは話を続ける。
『本来、保持者とは、この世界を制圧するために創られた兵士。5つのデッキも、この世界を制圧するための兵器なのです』
「そんな……!でも、勇騎君は僕達の世界を守るために戦っているじゃないか!」
『その通りです。この世界を制圧するという当初の目的は失敗に終わりました。この計画事態、完成する前に一人の男によって研究所ごと破壊されているのです』
 博成は、目の前にいる青いシルエットが目を閉じて悲しい過去を思い出しているように見えた。外見上の変化はない。だが、そう感じたのだ。
『全てを破壊したその男の名は、墨川一夜。『エクスプロード』の保持者です』

 『アカシック・マイナ』。
 文明にも種族にも関係なく、ただ研究をしたいものだけが集まる研究機関が水文明の支配下に存在し、そこで歴史を変える研究が行われていた。
 異世界を侵略するための五つの兵器。伝説にある古文書のデータを元に作られたそれらは、『カタストロフィー』と呼ばれる魔導機械と同等、いやそれ以上の破壊力を保有していた。
強力な兵器は、それを扱う者が必要だった。それなしで兵器は完成した事にはならない。兵器に見合った存在、『保持者』を作る事がアカシック・マイナの最優先事項となっていった。
 そんなある日、保持者の研究をしていたとあるサイバーロードの元へ、負傷した一人のヒューマノイドの少年が運び込まれた。そのサイバーロードは温厚で、周囲の研究者とは違っていた。一方、ヒューマノイドの少年は冷静で口数が少なく、感情を表に出す事がなかった。
「俺は、この戦いの先にある真実に到達する」
 少年は、『真実』という言葉を好んで使った。他のヒューマノイドにはあまり見られない知的な言動は、彼を保護していたサイバーロードだけでなく、他の研究員も興味を持った。
「あなたは、ここに運ばれた時、重傷でした。どんな戦いがあったのか、憶えていますか?」
「言う必要はない」
 少年は、ここに来る前の戦いについて一言も語ろうとはしなかった。どうでもいいのではなく、それを聞かれる事を拒んでいるように見える。
 それとほぼ同じ時期に、別のヒューマノイドの少年が、アカシック・マイナ内の別の研究室に運ばれた。それは、サイバーロードに保護されているヒューマノイドの少年とよく似た顔をした少年だった。体に深い傷を負っていて、動く事もできず、生きているのか死んでいるのかも判らないような状態で運ばれてきた。
 彼の姿を見た時、その研究室にいた者の一人がこう言った。
「我々でゼロ号を作らないか?生体ベースはここにある」
 『ゼロ号』。それは、アカシック・マイナで作ろうとしている保持者の完全体を意味するコードネームだ。
「どうせ、放っておいたら死んでしまう命だ。実験で使ってもかまわんだろう?」
 目の前の命よりも、目前にある研究テーマが大事だった研究員によって、その少年は改造された。その時の苦痛を彼は忘れる事はない。
『いつか……お前ら全員、必ず殺してやる……!』
 動かす事のできない口で、彼は力を込めてそう叫んだ。
 全く同じ顔をした二人の運命は、ここで大きく変わったのかもしれない。

 『球舞』が隠れ家として使っていた雑居ビルのエレベーターに初七日は入る。肩で息をしながら、IDカードをスキャンし、階数と暗証番号を入力する。地下室に到着したエレベーターの扉が開いた時、初七日は信じられない光景を目にした。
「九十九……様?」
 濃い茶と黒の服に身を包んだ九重九十九が部屋の中央に立っている。彼は初七日を見つけると、
「お帰り、初七日」
と、言って両手を広げた。
 隠れ家に戻ってくるまで、険しい顔をしていた初七日だったが、そこで初めて顔を緩めた。ゆっくりと九十九に近づく。
「そんな……嘘。信じられない……。九十九様ぁっ!!」
 初七日はエレベーターを飛び出し、九重九十九に向かって走り出す。だが、彼の一歩手前で立ち止まり、その顔を睨みつけた。
「いや、違う。この男は九十九様じゃない!」
 パン、と乾いた音が部屋中に響き渡る。九十九によく似た人物の頬を初七日が叩いたのだ。
「だから、その子の恋心を弄ぶような事はやめなさいと言ったんです。純粋な恋心をあなたは何だと思っているんですか?」
 九十九の偽物が立っているのとは別の方向から声が聞こえる。そこに立っているのは、金髪碧眼の天才画家、ドナルド・マックイーンだった。
「やれやれ……」
 痛みに顔を歪めながら、その男は頬に手を当てる。その瞬間、九十九だったはずのその顔は別の顔へと変わっていった。その男は、懐からケースを取り出して眼鏡をかける。その顔は初七日もよく知っている顔だった。
「白峯敦也(しらみねあつや)……。何で、アンタが!」
「九十九が倒されたみたいだが、思ったより元気そうだな」
「今日は、あなたに残念なメッセージを伝えに来たんですよ」
 頬に手を当てながらのらりくらりとしている白峯に代わって、ドナルドが口を開く。憐れむような表情で、彼は続けた。
「我々は『球舞』がもう滅んだものとして扱います。これから、あなた方をサポートする事はありません」
「そんな……!」
 白峯から顔を逸らした初七日は、ドナルドにつかみかかる。そして、今にも泣きそうな顔で叫んだ。
「アタシが保持者から九十九様を取り戻す!だから、お願い!もう一度、アタシ達に援助を!」
「ごめんなさい、初七日さん。これは僕が決めた事ではなく、千里(せんり)が決めた事なのです」
「お前達『球舞』の兵隊はこっちで使ってやるよ。今まで、よくやってくれたな」
 頬を叩かれたのが不快だったのか、白峯は初七日と目を合わせる事もなく、エレベーターに向かった。ドナルドも少し困ったような顔をしながらそれに続く。
「もし、あなたが保持者を倒して……誰でもいいんですが、一人でも保持者を倒して九重九十九が封じられた『ブランク』を奪ってくれば、千里は彼の蘇生くらいは許可するかもしれませんね」
 初七日の姿を見て心を痛めたのか、ドナルドはエレベーターに乗る直前にそう言い残す。隣で白峯は「余計な事を……」とぼやいていた。
「保持者を倒して、九十九様を取り戻せば……」
 初七日は、自分のデッキを握り締める。全て、保持者がいたからうまくいかなかったのだ。保持者を倒し、九十九を取り戻し、もう一度戦う。今度は九十九と二人で。
「邪魔な保持者はこの手でアタシが殺す。この手で、必ず……!」
 隠れ家を出た初七日はデッキを片手に歩きだす。そこに、先ほどまでの援助を求めていただけの甘えは一切存在しない。
 東京の空が少しずつ曇り始めていた。

 第二十五話 終

 第二十六話予告
 勇騎の体から現れたサイバーロードによって語られる研究施設『アカシック・マイナ』の存在。そして、そこで生み出された保持者。勇騎と一夜の最初の戦い。
「九十九様……九十九様……!」
 暴走を始める初七日の恋心。彼女を止めるために豪人が戦う。
 第二十六話 恋心
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