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『TOKYO決闘記』 第二十六話 恋心

『TOKYO決闘記』
 私、一ノ瀬博成は東京連続失踪事件の謎を調査した高校二年生だ。
 勇騎の中にいるサイバーロードによって明かされる驚愕の真実。5つのデッキを作り上げたクリーチャー世界の研究施設『アカシック・マイナ』。保持者達はそこで作られたクリーチャーだったのだ。
 私が話を聞いているのとほぼ同時刻。ヴェルデの『ブランク』の中に封じられていたはずの七夕初七日(たなばたしょなのか)の封印が解け、彼女は逃げていってしまう。九十九を取り戻すため、彼女は保持者に牙を向けるのだった。
 20XX年 一ノ瀬博成

 第二十六話 恋心

 七夕初七日の特殊能力『冥府の天秤(デッド・オア・アライブ)』は使われない事を想定して用意された一種の保険のような能力である。『球舞』にとって最も重要な存在、九重九十九が倒された時、『ブランク』からの封印を自ら解き放つ能力。『球舞』の中で、誰よりも九十九の事を想う初七日が持つにふさわしい能力であり、彼女に茨の道を歩ませる能力とも言える。
 ヴェルデの持つ『ブランク』から解き放たれた事で、初七日は九十九が敗れた事を理解した。そして、それは彼女一人の厳しい戦いの始まりを意味していた。
 曇り始めた東京の空の下で、初七日は胸にデッキを抱き、歩き始める。戦いの厳しさは理解していた。
 九十九を打ち倒したのがどの保持者なのかは判らない。その保持者を見つけ出して倒し、そのデッキの中にある『ブランク』を奪う。保持者を倒すという『球舞』の他のメンバーが一人も成し遂げられなかった目的。それが困難であるという事も理解していた。
「九十九様……九十九様……!」
 だが、少女は怯む事もなく突き進む。彼女を突き動かすのは、身を焦がすような熱い炎。その炎の名は恋心。炎は少女の心に明りを灯し、少女の体を動かした。その炎が彼女の体を焼き尽くそうとしているとしても、少女は構う事なくその炎を胸に抱く。

 コスモガーデンを出たヴェルデは空を見る。金色の鎧は、今はその姿を見せていないが、両腕が痛むような感覚が残っている。嫌な気分だった。
「金城のところへ行ってやれ」
 ヴェルデが言うと、一緒にいた美和は不思議そうな顔で彼を見る。
「今、戦える保持者はあいつだけだが……こういう戦いはあいつが一番向いていない。すぐに行ってやれ」
「はい……」
 美和はヴェルデが心配だった。だが、ヴェルデの言いたい事も理解できる。
 豪人はただの女好きではない。恋をしている少女がいたら、親身になってその味方をするだろう。それが例え、人類に敵である『球舞』に属する少女だったとしても。
 美和は走り出し、ヴェルデはその影を目で追う。今の彼のデッキはひび割れていて、光を発する事もない。デッキさえ使えれば、豪人に任せずにヴェルデが自分の手で決着をつけていたのだ。歯がゆい思いで、その保持者はデッキを握る。
「金城……死ぬな」
「人の心配をしている場合じゃないと思うけどね」
 女の声が聞こえて、ヴェルデは振り向く。そこに立っていたのは、ヴェルデと同じくらいの身長で、男子学生用の詰め襟に身を包んで一升瓶を持った少女、亀島美土里(かめしまみどり)だった。
「貴様……!『球舞』の仲間か!?」
 ヴェルデは持っている『グランドクロス』に力を込めるが、やはり光を取り戻す事はなかった。目の前に敵が迫っているのに、戦う事ができない。戦士として、焦りを感じていた。
 美土里は、何を思ったのかそんなヴェルデの手を握ると
「可哀想に……」
と、呟いた。
「俺が、可哀想だと?」
「ああ、そうさ。ここはあんたのいる世界ではない。望まずに保持者として改造され、この世界に飛ばされて、体が蝕まれ続ける。融合がうまく行かなかったから、片方に片方が食われつつある。そして、人間の姿に化ける事も不完全」
 美土里は、話を区切ると水を飲むように一升瓶の中の酒を飲む。もうそれも残り少なくなっていた。
「お前は、『アカシック・マイナ』で何があったのか知っているのか?」
「あたしらのボスが詳しく知っている。あたしは少し話を聞いただけ。そして、教えてくれたのはあんた自身だ」
「俺自身が……教えた、だと?」
 美土里はヴェルデから離れて背を向けて歩き始める。デュエルでなくても、今のヴェルデなら美土里を倒す事は可能だ。美土里をここで逃せば、後で脅威となる事は本能的に判っていた。だが、体が動かない。
「お前は何者だ?」
「亀島美土里。保持者で占い師」
 信じられない答えに、ヴェルデは目を丸くする。ヴェルデ達以外にも保持者がいるなど、ありえない事だ。
「ああ、忘れていた。保持者で占い師、それと女子高生」
 面倒くさそうに付け加える美土里を問い詰める事も追いかける事もせずに、ヴェルデはその場で立ち尽くしていた。彼が知らない現実が、容赦なくその姿を見せ始めているのだ。

 ヒューマノイドの少年が、温厚なサイバーロードの研究者の監視下で暮らし始めて一週間が経過した。少年はまだ周りにいる者達を警戒し続けている。
「ここには慣れましたか?」
「言う必要はない」
 少年を助け、彼を保護しているサイバーロードに対しても、終始こんな調子である。
 時は五つの『王』と呼ばれる巨大なクリーチャーが姿を現す直前であり、火文明と水文明は敵対している。少年が警戒するのも無理はない。だが、そんな彼が、様々な文明の者が垣根を越えて存在するこの研究施設に興味を持ち始めているのも事実だった。
 少年は、彼を保護しているサイバーロードから多くの事を聞いた。表の世界ではまだ見付かっていないが、古代の世界で作られた魔導機械というものが存在し、研究施設の一角でそれの研究が行われているらしい。その中でも最高の性能を持つ五つの『カタストロフィー』と呼ばれる魔導機械の存在を数人の研究員が突き止め、その性能と互角以上の五つの兵器を開発された。
 一方、少年が住む研究室とその付近の研究室では、それらの兵器を自由自在に操れる戦士『保持者を開発しようとしている。完成する『保持者』は、過去、未来、現在の全ての真実が描かれた謎の書物、『アカシック・レコード』にアクセスする事ができる唯一無二の存在であり、彼が見て宣言した未来は絶対に変わる事はないのだ。
 少年は、その『保持者』をどのように作り出すのかまでは判らなかった。ただ、クリーチャー同士の融合により生まれる、爆発的なパワーを利用する事だけは予想できた。表の世界では、多くのクリーチャーが文明や種族を混ぜる事で力をつけて生き延びている。強力なクリーチャー同士を掛け合わせ、強大な戦士を作り上げる事など、この研究施設の設備を使えば容易な事だ。
 『保持者』について考えながら少年が歩いていると、後ろから軽快な足音が聞こえる。敵か、と思って少年が振り返ると、両頬を軽くつかまれ引っ張られた。
「えへへー、笑ってよ!」
 頬を引っ張られた間抜けな表情のまま眉間に皺を寄せる少年が見たのは、少年よりも小さな体の笑顔が似合うスノーフェアリーの少女だった。
 いや、正確にはスノーフェアリーと何かの融合クリーチャーだ。彼女の背中には、オレンジ色をした鳥の羽が生えている。
「その羽、ファイアー・バードか」
 火文明に所属していた少年は、少女が何と融合したのかすぐに理解した。
「そうだよ!ここで、この体に治してもらったの!でも『保持者』っていうのにはなれないんだって……」
 『保持者』になれないという事実のせいか、少女は顔を曇らせる。戦う事ばかりの日常で、感情らしい感情を失っていた少年は、少女が顔を曇らせたのを見て、久しぶりに何かを感じた。この少女はそんな顔をするべきではないと思ったのだ。
「笑え」
 少女の頬にそっと手を触れ、少年は無愛想にそう告げる。
「お前は、その方が合っている」
「うん……。そうだねっ!」
 それは少年と『ヒメ』と呼ばれる少女の出会い。東京に来てからも共に行動し続ける、彼らのファーストコンタクトだった。

 豪人がその少女を見つけたのは、都会の中でも緑の多い公園だった。公園といっても、町にある子供が遊ぶためにある施設とは違い、広い敷地に作られた庭園と表現した方が的確である。施設内には、様々な花々の他に小池などもあり、若いカップルが談笑しながら歩く事もある。
 そんな恋人達の憩いの場所も、『球舞』のニュースを恐れてか、休日にも関わらず今日は人がいない。いるのは、一人ぼっちで池を見つめる巫女服の少女、七夕初七日だけだった。
「探したよ。案外、簡単に見付かったかな」
 軽い口調で話しながら近づいてくる豪人を見つけた初七日は、警戒しながら片手に持っていた灰色のデッキケースを構える。
 世界は戦うための世界へと姿を変えていく。そんな世界を目の当たりにしながら、豪人は言った。
「恋をしているんだね。ならば、僕には君と戦う理由はない。このまま、手を引いてくれないかな?」
「アタシには、戦う理由があるの!九十九様を取り戻すまで、アタシは保持者を戦い続ける!いざという時に九十九様を守るのが、アタシの使命なんだから……!」
 悲壮な叫びを聞きながら豪人は、『ネオウエーブ』を取り出す。
「そうよ。最初からそれでいいのよ!あんたは、アタシが倒す!そして、九十九様を倒した保持者もアタシが……!」
「九重九十九を倒したのは勇騎君だよ。僕を倒せても、君に彼が倒せるかな?彼は戦う事に関して遠慮がない男だよ?」
「戦いをやめさせようとしているの!?本気!?あんたとアタシは……」
「確かに敵同士だけど、僕は全ての恋する乙女の味方だ。今、この瞬間も、間違いなく」
「くだらない事を……べちゃくちゃと……!」
 初七日のシールドが五枚張られ、五枚のカードを手札としてくわえる。豪人も、渋々同じように準備をした。
「『青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)』召喚!」
 先に行動を開始したのは初七日だった。ヴェルデから聞いていた彼女のデッキは、闇のドラゴン・ゾンビを水のドローでサポートする二色デッキだったが、今回は違うデッキらしい。
「なら、僕は『エナジー・ライト』で準備をしようかな」
 今の豪人のデッキにスピードはない。だが、必要なターン耐えて、攻撃に転じた後は一方的に攻め続ける事もできるデッキだ。
「そんな手札なんかっ!」
 豪人は、右手に持っていた手札に衝撃を感じる。気付くと、その中の一枚が弾け飛んでいた。同時に、初七日のマナゾーンに緑色の光が降り注ぐ。『青銅の鎧』の隣には、三つの口を持った獣が立っていた。『腐敗無頼トリプルマウス』だ。
「マナブーストと手札破壊か……。それに四色デッキとはね」
 6マナ集まれば、それだけでデッキの性格が見えてくるものだ。初七日のデッキは、光、水、闇、自然の四色で組まれたデッキ。一つの要素に特化した部分がないため、柔軟に戦う事ができる。
「『青銅の鎧』でシールドをブレイク!」
「そのシールドでいいんだな?」
 『青銅の鎧』の槍が豪人のシールドを一枚貫く。そのひびから、黄金の光が溢れ出し、その場を照らす。
「早速開いたみたいだね。『天国の門』が」
「っ……!『ヘブンズ・ゲート』!?」
「ご名答」
 周りにいる者全てを照らす光が収まった時、そこに立っていたのは二体のブロッカーだった。一体は、重厚な金の鎧に身を包み、巨大な魔銃を抱える騎士『デ・バウラ伯』。そして、もう一体は要塞とも言うべき巨大なエンジェル・コマンド、『バルホルス』だった。
「そんな!マナには闇のカードなんか!」
「『ヘブンズ・ゲート』を使えば闇のカードがマナになくても『バルホルス』を出す事は可能さ。僕のターンだね。『デ・バウラ伯』で墓地から回収した『サイバー・ブレイン』を使ってさらにドロー!」
 豪人はさらに手札を増やしていく。二枚目以降の『ヘブンズ・ゲート』を警戒して初七日は豪人の手札を睨みつけた。
「『バルホルス』がいる限り、君のクリーチャーは攻撃しなければならない!僕の『バルホルス』を超えるパワーのクリーチャーが出せるのかな?」
「くっ……」
 初七日は引いた手札を見て下唇を噛んだ。このカードでは『バルホルス』を倒せない。
「『エナジー・ライト』と『ストーム・クロウラー』……。これで、『デーモン・ハンド』を手札に」
 それ以上の行動はできない。初七日が操る二体の獣は吸い寄せられるように『バルホルス』に突撃していき、体当たりした直後に霧散していった。
「僕は『バルキア』を召喚してターンを終了だ」
 豪人のブロッカーはさらに増えていく。シールドへの攻撃はできないが、クリーチャーへの攻撃は可能だ。初七日が召喚したクリーチャーを直後にタップされて破壊する事も容易い。
「僕を簡単に倒せるとは思わない事だね。確かに僕は恋する乙女の味方だけど……一度戦い始めたら絶対に容赦しない」
 いつもの爽やかな豪人の顔で鋭く突き刺さる一言。
 初七日は、決して油断していたわけではない。だが、戦闘の前に言った豪人の『乙女の味方』という言葉に心動かされる部分もあったのだ。戦わずに自分の想いを理解してもらえるかもしれない。もしくは、加減をしてくれるかもしれない、という甘えが心のどこかにあった。
「駄目ね、こんなんじゃ……。こんな男の相手で手間取っていたら、一生九十九様を救えない」
 初七日の目に一瞬、涙が見えた。だが、彼女はすぐにそれを拭う。
 その直後の瞳を見た豪人は動揺し、そして、気付く。この少女を倒す事は容易ではない事に。
「やっぱり君はそういう目をしている方が似合うね。そっちの方が美しい」
 そう言おうとして、口を閉ざす。そんな冗談を言っている場合ではないのだ。
「『究極神アク』を召喚!!」
 黒とところどころに光る青。初七日が召喚したのは、二体揃う事で場を暴れまわる強力なゴッドの片割れだった。
「なるほど。まさに切り札って奴だね」
 一瞬、怯んだような顔で豪人はカードを引き、
「揃えば、の話だけど」
と涼しい顔でカードをかざす。青い壁が『アク』を包み、その体を初七日のシールドゾーンまで移動させていった。
「『魂と記憶の盾(エターナル・ガード)』さ。最後の最後まで僕はそのシールドを攻撃しない。そう簡単には回収させないよ」
 そう言いながらも、豪人は内心焦りを感じていた。今回は、うまく『アク』を除去できたが、入っている『アク』の数が一枚とは限らない。リンクが成功した後では、豪人に勝ち目はない。リンクする前に勝たなければならないのだ。

 少年が『アカシック・マイナ』に保護されてひと月ほど経った頃の事だった。『アカシック・マイナ』の中で保管されていた五つの兵器が強奪されたのだ。
 その兵器を奪った者は、まずその力を試し、『アカシック・マイナ』を一瞬にして半壊させた。
「くっくっく……ひゃーはっはっはっは!これが『保持者』か!『保持者』になった奴の力かあぁぁっ!!」
 後に、墨川一夜の名で呼ばれるその少年の右目は赤く、左目は黒く輝いていた。彼の周囲で輝いている五つの、手に収まるほどの大きさの直方体。それこそが、他の世界を侵略し、『保持者』に強大な力を与える兵器なのだ。
 彼の攻撃で周囲の壁は吹き飛び、周りにいた研究員の多くはその瓦礫の下敷きになっていった。その瓦礫をどけて一人の少年が立ち上がった。それは、『保持者』として選ばれるはずだった少年、後に赤城勇騎と名乗る少年だった。
「お前がこれをやったのか?」
「テメェが保持者になる予定だった奴か……」
 勇騎の問いに一夜が質問で返す。一夜の狂気に満ちた瞳に勇騎は一瞬、気圧されたが逆に睨み返す。しかし、力の差がありすぎる。
 一夜には『保持者』が持つべき五つの兵器があるが、勇騎には何もないのだ。
「勝てると思ってやがるのかァ?テメェと俺の力の差を知り、さっさと死ね……!」
 一夜の右手が開いた瞬間、勇騎の体を何かが貫いた。一瞬の事で何が起きたのか、勇騎には判らない。
 一瞬、遅れて腹部に痛みを感じる。そこからは、真赤な鮮血が流れていた。手で押さえても止まる事なく、赤い血は流れ落ちる。勇騎はゆっくりとその場に倒れ、意識を失った。
「まずは一人ッ!他にもいるんだろ!?こいつと同じような失敗作がァァァッ!」
 一夜が叫んだ直後、銀色の狼が彼に飛び掛った。不意をつかれた一夜はその場に転がり、銀色の狼を睨む。それは自然文明のビーストフォークのようだった。左の拳が金色に輝く鎧のような物で覆われているのだけが、普通のビーストフォークと違う彼の特徴だ。
「テメェも失敗作か。奴と同じように全部……全部消してやるッ!!皆殺しだぁぁぁッ!!」
「それはどうかな?」
 黒い槍が飛んできて、五つの兵器の内、青く輝いていた物を弾き飛ばす。同時に、金色に輝く人型の生物が金色の兵器を奪った。ビーストフォークは、緑色に輝くそれをつかむ。
「バカな……!これは全部、俺の……俺の力だ!」
「勘違いをするな」
 黒い槍を持った、青い人型の存在が左手に青い兵器を持って立っている。声色からその生物が女性だという事が判った。
「すでに五つの力の内、三つはお前を離れた。残った二つも、いずれ私がお前から奪ってやろう」
「ふざけるなァッ!」
 一夜がそう叫んだ瞬間、二つ残っていた兵器の内、赤い物が別の場所へ飛んで行く。その先には、一夜が今、倒したはずの勇騎が立っていた。
「お前、何で……!」
「お節介焼きのサイバーロードのせいで死なずに済んだようだ」
『お節介焼きとは……。何とも不本意な呼び方ですね』
 勇騎とは別の声が彼の中から聞こえる。それは、彼を保護していたサイバーロードの声だった。
「ヒューマノイドとサイバーロードの融合体。それが今の俺。唯一の完成した保持者、アカシック・ゼロだ!」
 右目は彼の故郷を映すように赤く、左目はここで与えられた知性を現すように青く輝く。
「ふざけるなよ、クソがァァァッ!!」
 一夜が目の前にある黒い兵器を手に取った瞬間、大きく地面が揺れ始めた。
『この施設はもう限界ですね。彼が暴れたせいで、機密保持のための機能が発動したようです』
「どういう事だ?」
 勇騎は内なるサイバーロードの声に耳を澄ませた。
『外部、もしくは内部からの攻撃によって五つの兵器が奪われ、暴走した時、この場にあった資料の全てが悪用されるのを防ぐために、『アカシック・マイナ』の施設の全てを爆破するようになっているのです。爆破までもう五分もないでしょう』
「これで全て終わりという事か」
 勇騎が呟いた瞬間、彼が持っていた赤い兵器が強く輝き始めた。それは彼が持っていたものだけではない。他の四つも同じように輝き始めたのだ。兵器の力に呼応したのか、空にブラックホールのような巨大な穴が開いた。光、水、自然の保持者候補は、その穴に飛び込んでいく。
「ゼロ号……。ここで生まれた俺の兄弟……」
 一夜はぶつぶつと呟きながら勇騎を睨んだ。そして、意を決したかのように空の巨大な穴へと飛ぶ。
「覚えておけ!お前が誕生したせいで、ここにいる他の奴らは死んだ!テメェ一人を作るために全てが犠牲になったんだ!俺も体をいじられた!テメェがいなければ……俺が、俺が自由にその力を使っていた!!覚えておけ!テメェを殺して俺が必ずテメェになってみせる!!」
 嫌な言葉を残して、一夜は消えていく。
「ふざけた奴だ……」
 勇騎が誕生したせいで、多くが犠牲になった。それは彼にも判っている。『保持者』を生み出すために、一夜以外にも多くの生物が研究材料となっていたはずだ。その中には、勇騎に話しかけたスノーフェアリーの少女もいる。
「……何かいる」
 勇騎はふと顔を上げて周囲を見回す。どこかで、少女の泣く声が聞こえる。それはいつも笑顔でいた少女。ヒメの声だった。
 勇騎は急いでその声がする方向へ走ると、瓦礫をどけ始めた。
『構っている時間はありませんよ!あなたもあの穴から脱出しなければ、爆発に巻き込まれるでしょう』
「俺に、あいつを放っておけというのか?忠告はありがたいが、それは聞けない」
 サイバーロードの声に答えながら、勇騎は瓦礫をどかし続ける。
「奴はここでできたお前以外の仲間……俺の友達だ。見捨てるわけにはいかない!」
 瓦礫の隙間から、白い小さな手が伸びる。彼女の手を忘れた事はない。初対面の勇騎の頬を引っ張って無理矢理笑わせようとその手を忘れるはずがない。
 勇騎はその手をつかんで引き上げた。
「ヒメ、この施設はもう消える。逃げるぞ」
「逃げるって、どこへ?」
 恐怖に震えながら、ヒメが聞く。いつもの笑顔はどこへ消えたのか。そんな事を考える勇騎の胸が痛んだ。
「新しい世界だ。ここにあったデータが本当なら、そこは素晴らしい世界のはずだ。行こう」
 勇騎はヒメを連れて空の穴へと跳躍する。
 別の世界へと移動する長く暗いトンネルの中で、勇騎は考えていた。
 保持者アカシック・ゼロにならなければ、勇騎は死んでいた。だが、保持者になる事は彼の望みではない。多くの犠牲が出た事も辛い。保持者という存在があったせいで、一夜は暴走し、アカシック・マイナの全てが崩壊した。
 罪深い存在、それが勇騎の考える保持者。
『他の兵器を持った四人の保持者は、完全体であるあなたを狙ってくるでしょうね。あれは、一つでも強大な力を持っていますが、五つ集まれば世界を一つ滅ぼす事もできる代物ですから』
「奴が使った時は、研究所が崩れただけだったが」
『まだコントロールできていないのでしょう。やがて、力がなじみ、自由に使いこなせるようになったら……』
「他の四つにも手を出し、その力を自由自在に使いこなせるかもしれないという事か。ならば、俺が保持者になったのは、偶然じゃない。真実が俺を選んだ。他の奴らが俺の力を奪おうとしても、俺はこの力を渡さない」
 暗いトンネルが終わり、光が見えてくる。
「奴らがこの世界で、あの力を使って悪事をしたとしても、俺が阻止してみせる」

『以上が、保持者と五つのデッキを作り出した『アカシック・マイナ』のお話です。時間に多少の違いはあったようですが、全員が、同じ世界の同じ時代に辿り着きました。それぞれが別の時代に行かなかった事が最大の幸運ですね』
「そんな事があったのか……」
 勇騎達は、『球舞』を倒すために力を合わせたが、本来は全員敵同士なのだ。壮大な戦いの歴史の中で彼らは生きていた。
「日芽ちゃんも、本当はクリーチャーだったんだね。羽出して飛んだりしてたから、普通じゃないとは思っていたけれど……」
「満足したか?」
 いつの間にか青いもやは消え、勇騎が博成と話していた。
「勇騎君、保持者は……また戦わなくちゃいけないの?」
「さあな……。墨川一夜や怪盗アルケーが何を考えているのかまでは判らんが、金城やヴェルデが俺に戦いを仕掛ける事はないと思っている」
「そうだよね!金城さんもヴェルデ君もそんな事しないよね!他の二人は少し心配だけど、僕は勇騎君を信じてるよ!」
 その後、しばらく話してから博成は帰っていった。誰もいない部屋で勇騎は一人呟く。
「お前にも見えているのか?」
『ええ』
 それは独り言ではない。内なるサイバーロードに対する問いかけだ。
「認めたくはないが、それが『プロミネンス・ネクスト・レベル』が俺に見せた未来か」
『新たなる戦い。この世界で生まれた存在するはずのないもう一組の保持者。彼らに力を与えた者。そして……』
「その戦いに敗れる俺達の姿……」
 自分で口に出して、最悪の未来を確認する。『プロミネンス・ネクスト・レベル』は勇騎の保持者としての真の力。世界の全ての真実が記された『アカシック・レコード』にアクセスし、未来を見る。その未来は、絶対に変わる事がない。
『私も、こんな形で全てが終わるとは思っていませんでした。あなたも残り少ないこちらでの生活を楽しんでは……』
「ふざけるな」
 低く、迫力のある声。その言葉には、何者も逆らえない強さがあった。
「真実がこの未来を選択したのならば、俺は……俺は真実と戦う」
『……あなたなら、そう言うと思いました』
「納得したか?」
『私が納得するかどうかは関係がない事です。どちらにしても、あなたは戦うでしょう。ですが、勝利するためには多くを犠牲にしなければなりません』
「それも判っている」
 勇騎は目を閉じる。新たなる敵はすぐそこまで迫っている。だが、今だけはしばらく休む時間が欲しかった。
『戦う前に、鋭気を養っておかねばなりませんからね。戦士の休息ですか』
 勇騎の新たな戦いがいつになるのか。それは未来を見た彼にも判らない。だが、遠くない未来である事だけは理解していた。

「『聖霊王エルフェウス』でシールドをW・ブレイク!」
 豪人と初七日の戦いはまだ続いていた。豪人が呼び出した『エルフェウス』によって、初七日のクリーチャーは攻撃する前に全て倒された。そして、彼女のシールドは今の攻撃で残り四枚になっていた。
「シールド・トリガー!『デーモン・ハンド』よ!」
 初七日が手にしたカードから黒い手がいくつも飛び出し、『エルフェウス』をつかんで地面に叩きつける。『エルフェウス』はそのまま地中へと引きずり込まれていった。
 豪人のクリーチャーは『バルキア』が一体。そしてシールドは四枚である。
 切り札を除去された今の状況は好ましいものではない。シールド・トリガーによってペースをつかんだのか、初七日の反撃が始まった。
「『究極神アク』を召喚!さらに、『テルス・ルース』を召喚よ!」
 初七日が召喚したのは、彼女の切り札である神の片割れ。そして、特殊能力を持った小型のブロッカーだった。
「今さら『テルス・ルース』を呼び出して何を……。まさか!」
 豪人が気付いた瞬間、初七日は残っていた三枚のマナをタップする。初七日が手札から出したカードが光り、『テルス・ルース』が姿を変化させていく。
「そう、そのまさかよ!『母なる大地』を使って『テルス・ルース』をマナゾーンに置き、マナから『超絶神ゼン』を!そして、ゴッドリンク!!」
 二つが一つになる瞬間、閃光が世界を包んだ。その圧倒的な力の影響か、晴れていた空が暗雲に包まれていく。
「こんな風に……。こんな風に九十九様と一つになりたかった。今からでも、遅くない……。アタシは九十九様と一つになる!九十九様と一緒に生きていく!!」
 初七日を中心に吹き荒れる暴風。風を受けて豪人のコートの裾がばたばたと音を立てる。
「『ゼンアク』で、シールドを攻撃!」
 初七日の言葉を受けて動き出す一組の神。その前に『バルキア』が立ち塞がるが、神の姿に触れた瞬間、一瞬で蒸発してしまう。
「『ゼンアク』はリンクしている時に攻撃すると相手のクリーチャーを一体破壊できるのよ!これで、アンタを守る邪魔な壁はない!!」
 『ゼンアク』の乗っている台座が吠える。その低い声で豪人の前にある四枚のシールドがひび割れ始める。クリーチャー破壊能力。Q・ブレイカー。さらに攻撃後にアンタップしてブロックする事も可能。圧倒的な性能だった。
「さらに、破壊しても手札に戻る……か。この四枚に賭けるしかないね!」
 最初に割れた一枚目からは、『アクア・サーファー』が飛び出す。彼の乗っていた青い波がリンクしていた『ゼン』を初七日の手札まで押し戻した。
「でも、まだよ!Q・ブレイクは解除されない!」
 彼女の叫びと共に粉々に砕け散る三枚のシールド。豪人を追い詰め、目的に近づいた初七日は笑いながら彼を見る。だが、その表情を見た瞬間、その笑顔は一瞬で凍りつく。
「天国の門は、常に僕を守ってくれるものさ」
 暗雲を切り裂く一筋の光。超巨大ブロッカー、『天海の精霊シリウス』二体が黄金の光と共にその場に降臨したのだ。
 爽やかな表情で、豪人は目を閉じる。
「『シリウス』二体……。だけど、アタシのシールドは四枚よ!まだシールド・トリガーが出る可能性だってある!『アクア・サーファー』か、『デーモン・ハンド』か、どれが出るかなんて判らないけれど、このターン、耐えられればいい!」
「いや、僕はその二種類のシールドトリガーを恐れる必要はない」
 豪人の長い二本の指から手札から一枚のカードを引き抜く。マナゾーンから生まれる金色の輝きが『シリウス』を満たし、その精霊はその姿を最大最強の聖霊の王へと進化させていく。
「進化!『聖霊王アルファディオス』!!」
 豪人の切り札が『エルフェウス』だと信じていた初七日は、いくつもの大剣を持ったその聖霊王を唖然とした顔で見上げていた。『アルファディオス』の前では、輝かないカードが場に出る事など許されない。そう、光以外のクリーチャーも呪文も出せないのだ。
「これで、君のシールド・トリガーは怖くない。唯一怖いのは、『バリアント・スパーク』くらいのものかな」
 豪人が左手を前に突き出すのと共に、『シリウス』の体内にある巨大な光の大砲が火を吹く。それは、初七日のシールド三枚を一撃で吹き飛ばした。一瞬、黒や青の光を発した初七日のシールドだったが、それらはすぐに光を失って手札に戻る。
「そんな……!でも、でも最後のシールドが……!」
「判っているだろう。それは僕が『魂と記憶の盾』で封じ込めた『究極神アク』だ」
 豪人が乾いた声でそう告げると、『アクア・サーファー』がそのシールドを突き破る。もちろん、そのシールドからはシールド・トリガーが出てくるはずがない。
 泣きそうな顔になる初七日。自分でそれに気付いて頭を振って感情を追い出そうとしているが、涙が溢れ出るのは止められない。
 豪人は初七日の顔を見ずに、目を伏せていた。左手には手札を、右手は『アルファディオス』に添えたまま、動こうとしない。
 豪人の指先に、一滴の水が落ちて来た。一滴だったはずの水は仲間を増やし、彼の体にも初七日の上にも降り注ぐ。
「まったく……自分でも嫌になる。戦うからには覚悟を決めたはずなのに、最後の最後で体が動かないよ」
 自嘲するかのように豪人は笑う。右手の指先が、カードから離れた。
「何のつもり……?」
「取引をしよう。君が九重九十九を封じた『ブランク』を追わないのであれば、僕はこのデュエルを中止する。君は九十九との恋を忘れてどこかで生きていくんだ。その方がいい」
「あなた、本気で恋をした事がある……?」
 穏やかな口調で初七日が問いかける。今そこにいるのは、保持者と『球舞』ではなく、女に甘い男と恋に身を捧げた女なのだ。
「ああ」
「なら、恋を忘れて生きていくなんてできると思う?」
「できないね」
 迷う意味などなかった。答えは決まっていた。豪人は震える指先を『アルファディオス』に添える。
「七夕初七日を直接攻撃だ」
 まるで世界を焼き尽くすような光を『アルファディオス』の剣が発する。その内の一本が初七日の頭上に振り下ろされる瞬間、豪人は『ブランク』を彼女に投げつけた。
 落雷。そして、元に戻って行く世界。
 豪人は、雨に濡れながら金色に輝くデッキと乙女が封じられた『ブランク』を持って、ただただ雨を受け止める小池を呆けたように眺めていた。
「豪人様……!」
 小走りで近づいてくる少女の声を聞いて、豪人の意識は現実に引き戻される。傘を持った美和が心配そうな顔で豪人を見ていた。
「豪人様、大丈夫ですか!?ああ、こんなにずぶ濡れになって……。今すぐ、お家に戻りましょう。このままでは、風邪をひいてしまいますわ」
「そうだね。帰ろう……」
 美和から傘を受け取ると、彼はそれを差す。豪人の頬を流れるのは、涙からそれとも雨か。
 いつものように軽口を叩かない豪人に、美和は何も言わない。今は、そうするのがいいと判っているのだ。

 『球舞』が滅び、静かな夜がやってきた。
 とある高層マンションの最上階。まるでホテルのスイートルームのようなその部屋の中に数人の男女がいる。
 特徴的な蝶の刺繍を施したスーツを着ている蝶野香寿美は、リビングでシャンパングラスを傾けている。
 金髪碧眼の天才画家、ドナルド・マックイーンは、香寿美の横で好物のチョコを頬張っていた。隣で香寿美が飲んでいるシャンパンには特に興味がないらしい。
 無口な男、白峯敦也はまだ痛む頬を押さえながら、夜の闇を照らす明りを見つめている。
 男子生徒用の学生服を着た少女、亀島美土里と赤い法被を着た少年、久留麻大吉の年少組はキッチンで蕎麦を茹でていた。正確には、蕎麦を茹でている大吉を美土里が邪魔していると言うのが正しい。
 そして、その中心に男が一人。外見はただの少し洒落ている二十代後半のサラリーマンにしか見えない。薄いグレーのワイシャツに、少し緩めたシャンパンゴールドのネクタイと、今仕事から帰った青年そのものだ。
 どこにでもいるような人物。しかし、そこにいるだけで周囲に与える威圧感は並大抵のものではない。
「千里(せんり)!蕎麦ができたじゃん!夕飯の時間だから準備をするじゃん!あ、こら美土里!つまみ食いするな!」
「ありがとう、大吉。助かるよ」
 そう言って、千里という男は笑った。いや、それは笑ったというよりも、笑顔という仮面を無表情な素顔に貼り付けたと言った方が正しい。彼からは、まるで感情を感じ取れない。
「いらいらするわ。『球舞』のせいで、資金源は損害を受けている。どうするつもりなの!千里!」
 香寿美に声をかけられて、千里は答える。あらかじめ用意していた答えを、この世界への宣戦布告として答える。
「資金は充分だ。『球舞』が消えた事で全ての準備は整った。念のため、お前達を派遣したが、特に気にする必要はなかったようだ。私が『アカシック・レコード』を通して見た真実は、狂いも歪みも一転の曇りもない。我々は完成された運命のシナリオ通りに行動すればいい。万事、うまく行く」
 そう告げた瞬間、千里は本当の意味で彼の表情で笑った。ここにいる五人は、彼との付き合いは長いのだが、彼の笑顔にはいつもぞっとする。
「さて、『球舞』は消えた。東京連続失踪事件は解決した。全ての人々は平和が訪れた、もう何も悪い事は起きないと信じている。安心し切っている世界を我々が終わらせてあげよう」
 そこにいる五人の手で光る五つのデッキ。そして、微笑む千里。
「九百九十九の次は千、と言ったのは香寿美だったな。いい言葉だ。全てに『次』と『最期』を教えよう。それがこの千秋(せんしゅう)千里の役目なのだ」
 刃物のような企みを闇の中に包み、夜は静かに終わっていく。

 第二十六話 終

 第二十七話予告
 『球舞』との戦いが終わり、それぞれの生活に戻る保持者。そして、東京連続失踪事件についてまとめ始める博成。平穏な日常を過ごす勇騎と博成の前に、新たなる敵が現れる。
「さーて、祭りの始まりじゃん!ド派手に行くじゃんっ!!」
 千里達『試験官』が放つ最初の刺客、久留麻大吉。無邪気な少年の力が世界を壊し始める。
 第二十七話 爆発


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