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『TOKYO決闘記』 第二十七話 爆発

『TOKYO決闘記』
 私、一ノ瀬博成は東京連続失踪事件の謎を調査した高校二年生だ。
 勇騎によって語られたクリーチャーの世界での話。五人の保持者の出会いと、墨川一夜による『アカシック・マイナ』の崩壊。今の戦いに至るまでの過去が明かされたのだった。
 一方、七夕初七日を追った金城豪人は彼女と交戦。巨大かつ凶悪なゴッドを操る彼女に勝利し、『ブランク』へ封印し直した。
 静かに動き始める新たなる闇。謎の男、千秋千里が動き出すのだった。
 20XX年 一ノ瀬博成

 第二十七話 爆発

 青海ゆかりは時々夢で見る過去の風景がある。それは夢から醒めた瞬間に消えてしまう記憶。まだ高校生になる前の、今日のような寒い日の思い出。ゆかりが初めて勇騎と出会った日の夢だ。
 その日は、雨が降っていた。凍えるような雨の日の午後、ゆかりは公園で寄り添うようにしてベンチに座っている兄妹を見つけた。
 兄は、意志の強そうな瞳をした少年で、妹を必死の思いで守ろうと抱きしめていた。妹の方は可愛らしい顔立ちをしていたが、どこか弱った表情をしていた。二人とも共通した事があって、それは薄着で服がボロボロだった事。寒い季節に薄着で外に出るなどという事はありえない。監禁された兄妹がどこからか逃げ出してきたのか、という妄想がゆかりの頭をよぎる。そんな馬鹿な、と思ったゆかりは自分の考えを振りはらったが、その二人を見ていると絶対にないとは言い切れなくなった。
「コーヒー。温まるわよ」
 ゆかりがその二人に話しかけた時の最初の言葉はそれだった。雨の中、傘を差さずにベンチに座っている兄妹と話すきっかけが欲しかったゆかりは、二本の缶コーヒーを持って二人に近づいた。
「助かる」
 兄の方は、突如差し出されたコーヒーとゆかりの顔をしばらく見比べた後に礼を言ってそれを手に取った。
「ありがとう」
 妹の方は、やわらかい表情でゆかりに礼を言って両手でコーヒーを受け取った。
 少年と少女は和らいだ表情になったが、二人の寒さと苦痛が消えたわけではない。ゆかりは二人に話しかけたものの、何を聞いたらいいのか判らずに困った表情で無言の時間を過ごした。
「色々な奴が通りかかったが、手を差し伸べてくれたのはお前だけだ。感謝している」
 少年はそれだけ言うと、空き缶を捨てて妹の手を取った。妹も手を取られて立ち上がる。
「待って!」
 ここから立ち去ろうとする二人を見て、ようやくゆかりの口が動いた。
「こんな寒い時に、傘も差さずにどうするの!?冬よ?冬なのよ!?」
「判っている。だが、心配するな。これからの事は俺達だけでなんとかするさ」
 少年の力強い瞳に見つめられて、ゆかりはそれ以上の事が言えなかった。二人はその場から立ち去ろうとする。
「本当はね、嬉しいんだよ。心配してくれる事が」
 妹の方がゆかりの顔を見て話しかける。そして、すでに公園の出入り口まで移動している兄を指差し
「でもね、今までそんなに優しくされた事があまりないから戸惑っているのかもしれないね」
と、続けた後、頭を下げてもう一度礼を言い、少年のいる方向へ走って行った。
 二人の様子や言葉がゆかりの好奇心を刺激した。だが、それと同時に彼らを心配する強い思いも生まれていた。あの二人は、自分達とは全く違うものを持っている。その正体を確かめたくなったゆかりは、足を踏み出そうとして体の違和感に気づいた。
「な……何よ、これ!」
 自分の両足を固定するかのように渦巻く青い霧状の存在。それはゆかりの体に巻きつくようにして、どんどん大きくなっていく。その中の一部が分離して丸い塊になると、ゆかりの顔の高さまで上ってきた。
「やっと見つけた」
 この世のものとは思えない声。声色から女性である事は判ったが、ゆかりにはそれが人間のものに聞こえなかった。この世ならざる者の声は続ける。
「お前の肉体、貸してもらうぞ」
 青い塊は恐怖で開いたゆかりの口に入り込む。最初に入った丸い塊に続いて、足元を縛り付けていたものも、全てそれに続く。
 何者かに自分の肉体を乗っ取られていく恐怖を感じながら、乗っ取られていく事に安らぎを覚えていく。混ざり合う奇妙な二つの感情の中で、ゆかりは意識を失っていた。

 保持者と『球舞』の決戦の日から一か月が過ぎた。
 高層マンションの最上階。そこで、いつものように彼らは集まっていた。ダイニングのテーブルを囲み、思い思いの料理を口に運ぶ中、その部屋の主である千秋千里は、手にワイングラスを持ち窓から外を眺めていた。
「大吉」
「はぇ?」
 自分で作った蕎麦を頬張っていた久留間大吉は、突如、自分の名前を呼ばれて顔を上げる。
「明日の準備はしているか?」
「明日の準備?」
 その言葉を聞いて立ち上がったのは、蝶野香寿美だ。険しい顔で千里に詰め寄る。
「そんな話は初めて聞いたわよ!千里!」
「大吉と共に推し進めていた計画だ。お前はあの男の調教があって忙しいだろう?」
 そう言って、千里は視線で壁にもたれかかっていた一人の男を差す。黒いコートに黒い帽子を目深にかぶって両腕を組んだその男は、この部屋に入ってからずっとそうしている。動く事も話す事もない。
「香寿美、心配すんなって!俺様は必ず赤城勇騎を叩きのめしてやるじゃん!」
 大吉の態度が癇に障ったのか、香寿美は彼の頬を思い切り殴り倒すと
「帰るわよ」
と壁の男に言って、部屋を出た。
「千里、勝手な行動は慎みなさい」
 部屋を出る直前にそう言った香寿美に対して、千里は
「私の行動は君に報告しているつもりなんだがね」
と言い返した。その言葉に何も言い返す事なく、香寿美は部屋を出ていく。
「おお、いてて。ヒステリー女はやっぱり怖いじゃん。俺様が先に手柄を立てるのがそんなに怖いじゃん?」
「大丈夫ですか?」
 頬を抑えながら立ち上がる大吉に、ドナルドが濡れたタオルを持ってくる。ドナルドのタオルを受け取って、頬に当てようとする大吉だったが、それを美土里が制する。
「大丈夫だ。こういう時は、もっといい方法がある」
 そう言って、美土里は瓢箪に入れていた液体を口いっぱいに含むと、霧のように噴射して大吉の顔にかけた。
「これで消毒完了だ、大吉。優しい仲間に感謝しな」
「顔中、酒臭いじゃん。それにこれは切り傷とかの消毒じゃん?」
 酒臭さに顔を歪めながら、大吉は洗面所に向かう。
「これで、本当に明日は大丈夫なんだろうな?」
 ソファに体を預けながら、白峰敦也が千里に尋ねる。大吉を最初に保持者にぶつけようと決めたのは、千里なのだ。
「大吉はいつでもああいう男だ。この作戦には大吉が適任だという事くらい、お前だって判っているだろう?」
「ああ」
 明日の作戦で、白峰は大吉のサポートをする。サポートはあくまで最初のみだが、それで作戦の成否が決するほど重要な役目だ。
「大吉の『レッド&ゴールド』ならば、お前の言う作戦は成功するはずだ。だがな、千里。俺はお前が何か隠しているように見える。信頼できないな」
「私を信頼するかどうかはお前の自由だ。全てはなるようにしかならない。『アカシック・レコード』を通じてみた真実は変わる事がない」
「お前を信じなくてもいいから『アカシック・レコード』は信じろって事か」
「そういう事だ」
 ソファから立ち上がった白峰は、ハンガーに掛けてあったコートを取ると、ドアへ向かう。
「大吉には、明日、遅れるなと伝えておけ。俺は帰る」
 彼は、千里達の答えも聞かずに部屋を出て行った。それと入れ違いに大吉が戻ってくる。
「うげ~、まだ酒臭い気がするじゃん。あれ?白峰は?」
「ついさっき、帰りましたよ。明日、待ち合わせに遅れるな、と伝言をもらいました」
「けっ、それはこっちのセリフじゃん。明日は俺様の大舞台なんだから遅れるわけがないじゃん!」
 ドナルドから受け取ったタオルを、再び頬に当てる大吉。明日、大吉が行う作戦は彼自身にとっても千里達にとっても重要な作戦なのだった。
「大吉、本当にあんたで大丈夫なんだろうね?」
「当ったり前じゃん!俺様の『レッド&ゴールド』なら作戦は成功する。それに……」
 大吉はズボンのポケットからデッキケースを取り出す。彼がにやりとほほ笑んだ瞬間、それは赤く輝き始めた。
「俺様も保持者だ。奴を倒して、火の保持者は二人もいらない事を教えてやるじゃん」

 『球舞』との戦いが終わってから勇騎達の生活は平穏そのものだった。九十九を倒した後に初七日が復活するという事態が起きたものの、それから強大な敵が現れる事はなかった。戦いが終わってからヴェルデは姿を消し、彼と会う事はなかった。豪人と美和との関係は今でも続いている。
「今日はテストか。嫌になっちゃうよね、勇騎君」
「博成ちゃん、そんな事言わないの。あ、ぼやくって事は自信がないって事?」
「え!?今日ってテストあったの!?」
「大丈夫よ、日芽ちゃん。これは二年だけの実力テストだからね」
「そっか。勉強してなかったから驚いたよ~」
 他愛のない会話をしながら登校する勇騎、博成、ゆかり、日芽の四人。博成達が会話に花を咲かせる中、勇騎は一人で何かを考え込んでいた。
「勇騎ちゃん、どうかしたの?」
 ゆかりに顔を覗きこまれて、勇騎ははっとなる。
「いや……何でもない。ちょっと考え事をしていただけだ」
「勇騎君、もしかして、テストの自信ないの!?意外だね」
「そう言うな。俺だって苦手なものくらいある」
 そう言って笑うと、勇騎は博成と肩を組む。
「一ノ瀬、死ぬ時は一緒だ」
「僕は今日のテスト、自信があるから大丈夫だよ!」
 二人は肩を組んだまま、ゆかりと日芽を置いて先に進んでいく。その様子を見てゆかりはぽかんと口を開けていた。
「勇騎ちゃんもああいう事言うのね。意外だったわ」
「うん、『球舞』との戦いが終わってから何だかお兄ちゃん、少し変わったみたい」
 そう言って見ている二人に気づかれぬように、勇騎は博成にそっと耳打ちをした。
「一ノ瀬、今日、俺が妙な行動を起こしても絶対に驚くな」
 勇騎の言葉に驚いて、博成は彼を見る。冗談を言って笑っていた彼の顔ではない。その顔は真剣そのものだった。それを見て博成は、嫌な予感を覚えたのだった。
「そんな顔をするな。青海と日芽に気づかれないようにしてくれ」
「でも、勇騎君。何かヤバい事でもあるの?」
 博成の問いに勇騎は目を閉じる。一瞬、間を置いて
「俺にも正確には判らない」
と、答えた。その言葉に博成は戸惑う。だが、勇騎に言われた事を思い出して平静にふるまおうとした。
 博成はそれから、教室に着いて一時限目の実力テストまでどうやって過ごしていたかは覚えていない。テストの間も、ずっと勇騎の言った言葉が気になっていた。勇騎でさえ正体が判らないような危険な『何か』があり、その危険が近づいているというのだ。
 博成が仕方なく思考を切り替えてテストに集中しようとした時、耳障りな警報が校舎を駆け回った。火災警報だ。
「二階、東階段脇のトイレで火災が起こった!みんな、逃げろ!」
「勇騎君!?」
 突然の警報にクラスメートが驚く中、博成は廊下中に響き渡る勇騎の声を聞いた。今朝の勇騎の言葉を博成は思い出す。あの言葉はこれについて言っていたのだ。
 教師の誘導によって生徒達が外に出る。博成は避難しながら、東階段脇のトイレから大量の煙が出ているのを発見した。それと同時に、避難する方向とは逆に、三階へ上っていく勇騎の姿も見つけた。
「勇騎君!どこへ行くの!」
 博成の問いには答えずに勇騎は目的に向かって走る。
 勇騎の向かう場所に何かがある。彼の性格からそう結論を出した博成もまた、避難するクラスメート達から離れて勇騎を追い始めた。
 全力で走って勇騎を追いかけた結果、博成は屋上へ出る扉の前に立っている勇騎を見つけた。
「一ノ瀬、何故ついてきた?」
 睨むような目つきで勇騎が博成を見る。『球舞』との戦いで勇騎が心を許してくれたものだと思っていた博成は、その目つきに驚いた。
「まあいい。今回ついてきたのは仕方がない。だが、次からはついてくるなよ」
「え?それってどういう……」
 博成の問いに答えず、勇騎はドアノブに手をかける。
「駄目だよ、勇騎君。ここのドアには鍵が掛かっているんだ」
「それぐらい、俺だって判っている。だが……」
 勇騎がドアノブを回すと、それは簡単に回り、ドアが開いた。
「先客がいて、そいつがドアを開けたというわけだ。先客というよりも、むしろ侵入者だがな」
 一歩ずつ踏み出していく勇騎。彼に続いていく内に、博成は自分の心臓の鼓動が高鳴るのを感じていた。数週間ぶりに味わう緊張感。『球舞』と戦った時と同じ気持ちを博成は感じていた。
「ごっそさん!」
 勇騎と博成の視線の先に、一人の少年が彼らに背を向けて座っているのが見える。髪は赤く、風になびく法被もまた赤い。その少年は、自分の隣にどんぶりを置くと勇騎達に聞かせるように語り始めた。
「立法学園学食。いいとこの学食だけあってなかなかのレベルじゃん。若い生徒が客層だけに、ボリュームがあって安い。この安さでこの味、この量はお買い得と表現するしかない。予想以上のレベルではあるが、ものすごいうまいってわけでもない。よって、点数は79点。学食のそば屋がここまでの得点を出すとは思わなかったじゃん?」
 少年、久留間大吉は立ち上がり、振り返る。そして、歌舞伎のように大見栄を切って
「姓は久留間、名は大吉!そば好きの暴れん坊保持者、ここに参上じゃん!」
と、名乗りを上げた。
「保持者!?勇騎君!今、あの子、保持者って!」
「ああ、俺にもそう聞こえた。何のつもりかは判らんが保持者の名を騙ってただで済むと思うなよ」
 勇騎が『プロミネンス』を取り出すと、大吉もそれに対抗するかのように灰色のデッキケースを取り出す。二人のデッキは同じタイミングで赤く輝いた。
「馬鹿な……!」
「驚くのはこれだけじゃないじゃん。そろそろ、かな?」
 大吉が言い終えるのとほぼ同時に、腹に響くような爆音と足元から伝わる振動があった。それから一瞬遅れて、生徒達の悲鳴や叫びが聞こえ、トイレから出た煙とは比べ物にならないほどの煙が校舎から出ている。
「何が起こったの?一体、何をしたんだ!」
「俺様の能力『レッド&ゴールド』。建物の中に隠れ、適当に動き回り、どこかで勝手に爆発するどでかい花火じゃん。花火はやっぱりいい。もう一発どかんと行ってみるじゃん!」
 大吉がデッキを持っていた逆の手から金色に輝く大きなリンゴのようなものが生み出される。それはゆっくり下に落ちていくと、固い床の中に飲み込まれるようにゆっくりと入っていった。
「爆発する場所が判らないのがちと難点ではあるが、俺様らしいあっぱれな能力って奴じゃん!次の爆発までにそこにいる保持者を倒すくらいの時間はあるじゃん」
 大吉はデッキを持っていた手で勇騎を指す。その顔は余裕と自信、そして興奮に満ちていた。
「さーて、祭りの始まりじゃん!ド派手に行くじゃんっ!!」
「派手に散れっ!」
 勇騎が怒声を上げるのと同時に、世界は戦うための世界へと変化する。五枚のシールドに守られながら、二人の保持者の戦いが始まった。
「一戦交えるくらいの余裕がある。それが幸いだったな。俺はお前に勝利して二発目の『レッド&ゴールド』を止めてみせる」
 先に動いたのは勇騎だ。『ポッポ・弥太郎・パッピー』を召喚し、大吉を見る。
「確かに、俺様を倒せば『レッド&ゴールド』は止まるじゃん。だけど、これから真の火の保持者になる俺様を倒すなんて不可能じゃん!」
 大吉は『無頼勇騎ゴンタ』を召喚する。『ポッポ・弥太郎・パッピー』と同じコストでありながら、4000のパワーを誇る速攻向けのパワフルなクリーチャーだ。
「速攻だと?」
「その通り。ダーッと出してバーッと殴ってドガーッっとやっつけるのは最高に決まってるじゃん!一気に叩き潰してやるじゃん!」
「そう簡単にはいかない。何故、俺の知らない保持者がいるのか、それを知る事。そして、お前を倒して『レッド&ゴールド』を解除する事。この二つをやり遂げる」
 勇騎と同じように、博成も新たな保持者の存在が気になっていた。
 久留間大吉と名乗った少年は、勇騎と同じような赤く輝くデッキを持っている。そして、『球舞』のメンバーのような特殊能力も持っていた。『球舞』は勇騎達によって倒されたはずだ。それに、彼らの中に保持者のデッキと同じような光り方をするデッキを持つ者はいなかった。
 博成の疑問はそれだけでは終わらない。あの派手な格好をした男は一体、どうやって侵入したのか、という事だ。校内に侵入するならば制服に着替えればいい。大吉の外見は勇騎や博成と同世代に見える。それならば、立法学園の制服で堂々と侵入しても怪しまれない。
 しかし、大吉の派手な赤い髪を見て気にとめない者はいない。立法学園の校則では、派手な色に頭髪を染める事や、派手な髪型が禁じられている。
 何らかの方法で制服を入手し、一時的に髪を染めたとしても、本来、学園の生徒でない者がいたら一人くらいそのイレギュラーな存在に気づくはずである。特に勇騎のような戦士や、博成のような新聞委員会のメンバーの耳に情報が入らないはずがない。
 どこから侵入したのか判別できない怪しい少年と勇騎のデュエルは続く。
「『ビワノシンでアタック』!効果で『ホワイトグレンオー』を手札に加えるじゃん!」
 大吉のデッキは、サムライを使用した速攻デッキだった。そのスピードに勇騎が押され始めている。
「へへっ!『球舞』の九重九十九を倒したって言っても大した実力じゃないじゃん?」
 大吉に押されて肩で息をしている勇騎。だが、その顔はいつものように落ち着いている。
「予想していたとはいえ、お前達の登場には驚いた。だが、それだけだったな?」
「お前、達?」
 勇騎は大吉の事を「お前」ではなく「お前達」と呼んだ。つまり、大吉も『球舞』のような組織の一員で彼にも仲間がいるという事なのだ。
「勇騎君、お前達っていう事は……!」
「ああ、そうだ。『球舞』にも援助を行っていた上位組織。それが今、俺達の眼の前にいる敵だ」
 そう言って大吉を指す勇騎。
「そんな事はどうでもいい事じゃん?勇騎よぉ、さっさとお前を片づけてうまいそばを食いに行きたいじゃん!」
 勇騎は大吉から視線を外すと再び、カードに目を向ける。そして、
「一ノ瀬、さよならだ……」
と静かに言った。

 学園から歩いて数分のところにある喫茶店。そこにジャケットを羽織った眼鏡の男がいた。白峰だ。窓に近い席から、学園の方角を見ている。
「そろそろ二発目の時間ですね」
 白峰が声のした方を見ると、そこには、地味な服装と帽子をかぶったドナルドが座っていた。
「人気者の絵描きがこんなところに出てきていいのか?サインをねだられても知らんぞ」
「だから、変装をしてきました」
「それのどこが変装だ。俺に言わせればそんなものは子供の着せ替え遊びのレベルだ」
「さすが、専門家の言う事は違いますね」
 白峰は、ドナルドから視線を逸らし、再び学園を見た。右手で、せわしなく弾丸をいじっている。
 この弾丸が白峰の能力『スウェッティング・バレット』だ。人間の汗などに含まれた情報を解析し、専用の銃弾にこめて打ち出す。銃弾に殺傷能力はなく、撃たれた人間は、銃弾インプットされた人間の情報を元に外見を再構成される。尤も、性別の違う人間にはなれず、体格が極端に違う人間にもなれない、自分より大きい人間になるためには何らかの方法でたんぱく質の摂取が必要である、などの条件があるが。
 大吉が立法学園の侵入に成功したのはこの『スウェッティング・バレット』の能力のお陰である。事前に入手していた同じくらいの身長の生徒のデータを弾丸に記憶させておいたのだ。
「千里はこの作戦が成功すると言っていましたか?」
「いつもと同じだ。『最終的には我々が勝つ』とな。この作戦が成功するかどうかは判らん。だが、最終的には勝利する。すでに計画は最終段階に入っているんだ。『球舞』の奴らが派手に動いてくれたお陰で、あの鋭い保持者も俺達には気づかなかったんだからな」
 白峰達が話している間も、戦いは進行していた。同時に彼らの作戦も進行していたのだった。

「『アクア・ツバメガエシ』で『ビワノシン』をアタック!『バジュラズ・ソウル』の効果でマナを二枚破壊する!」
 勇騎は切り札の『バジュラズ・ソウル』を場に出し、その強力なマナ破壊能力を使い始めていた。彼の場にいるクリーチャーは『アクア・ツバメガエシ』と『アクア・スーパーエメラル』のみ。だが、クロスギアはクロスされている『バジュラズ・ソウル』を含めて、『助太刀メモリー・アクセラー』と『熱刀デュアル・スティンガー』を合わせた三枚だった。シールドは残り一枚である。
 最後に残っていた『ビワノシン』を破壊された大吉だったが、彼の場には、『熱刀デュアル・スティンガー』と『覇翼フェアリー・アクセラー』が一枚ずつあり、シールドはまだ無傷だった。
「へっ!今更、『バジュラズ・ソウル』なんかが出ても遅いじゃん!俺様、最強!俺様、最速っ!!行け、『デュアル・又左』!」
 大吉が召喚したのは小型のアーマロイドだ。だが、その一枚に勇騎と博成に視線が釘付けになる。
「へへっ!『デュアル・又左』はクロスギアをクロスすればパワーが増えてスピードアタッカーになる。さらに俺様の場には、ブロッカーを粉砕する『デュアル・スティンガー』があるじゃんっ!決めてやるぜ、くらえっ!」
 両手で削岩機のような機械、『デュアル・スティンガー』を掴んだ『デュアル・又左』は、先端についている針を打ち出し、『アクア・スーパーエメラル』を破壊する。そして、全身の排気口から蒸気を吹き出し、勇騎の最後のシールドに突撃していく。
「たーまやーっと!」
 砕け散る最後のシールド。勝利を目前にし、笑う大吉。目を覆う博成。その中で、勇騎もまた、大吉と同じように笑っていた。
「シールド・トリガー、『地獄スクラッパー』!『デュアル・又左』を破壊!」
 巨大なプレス機の圧力で粉々に砕け散る『デュアル・又左』。それを見て、大吉は唖然とする。
「忘れたのか?俺は『アクア・スーパーエメラル』を召喚した時に、最後のシールドと手札を交換していた。ギリギリだったが、何とか成功したな」
 奥歯を噛みしめて勇騎を睨みつける大吉。そんな彼を見ながら、勇騎は最後の切り札を召喚する。
「『アルティメット・影虎・ドラゴン』を召喚!!」
 二本の槍を持ったサムライドラゴン。それが勇騎の切り札だ。
「げぇっ!クロスギアの数だけブレイク数を上げる化け物っ……!……くくく、ははははは!!」
 一瞬だけ勇騎の出した切り札に怯える大吉だったが、すぐに笑い出した。
「どれだけ強力でも、召喚酔いしてるじゃん?それで終わりなら、全てをこの場でこの一撃で終わりにしてやるじゃん!」
 大吉の手札から呼び出されるクリーチャー。それは、『デュアル・又左』だったのだ。
「クロスギアをクロスするのにマナは充分。さっき、俺様のシールドを攻撃しておけば、『バジュラズ・ソウル』の効果でマナをぶっ壊せたのに、馬鹿な奴じゃん!自分の愚かさを呪いながら死ぬがいいじゃんっ!!」
 大吉が腕を上げるのを合図に、『デュアル・又左』が勇騎に飛びかかる。
「行け!『デュアル・又左』!俺様達『試験官』に栄光あれ!」
 『デュアル・又左』の刀が勇騎の首筋に届くその瞬間、『デュアル・又左』の右側から青い塊がぶつかり、『デュアル・又左』はその姿を消した。勝利を確信していた大吉も、勇騎の敗北に怯えていた博成も呆気に取られた表情で『デュアル・又左』が消えた場所を眺めていた。
「ニンジャ・ストライクだ」
 勇騎は二人に対して説明を始める。彼の足元には、両腕と両足を機械で強化したようなサイバーロードが立っていた。
「俺が使った『斬隠テンサイ・ジャニット』は、場に出た時に3コスト以下のクリーチャーを手札に戻せるクリーチャー。そして、もう一つ。俺のマナゾーンに4マナ以上あれば、相手クリーチャーの攻撃、もしくは相手クリーチャーのブロック時にコストを支払わずに召喚できるニンジャ・ストライクを持つ」
「じゃ、俺様が攻撃しても安心しきっていたのは……!」
「防ぎきる自信があったからだ。お前には聞きたい事が山のようにあるが、話すような男ではないだろうな」
 勇騎は自分の手札を見る。大吉の速攻と手札補充によって、彼の手札は片手で持ち切れないくらい増えていた。
「けっ!確かに今回、『デュアル・又左』は戻された。だけど、同じ事がもう一度できるとは限らないじゃん!ブロッカーを出しても『デュアル・スティンガー』がある!他にも『ホワイトグレンオー』がいるじゃん!」
「忘れたのか?俺の場には既に切り札が出ている。『アルティメット・影虎・ドラゴン』自体のW・ブレイクとクロスギア三枚が存在する事による追加ブレイクでお前のシールドは消し飛ぶ!」
 『アルティメット・影虎・ドラゴン』の咆哮。矢継ぎ早に繰り出される『影虎・ドラゴン』の突きは大吉のシールドを全て貫いた。その中にシールド・トリガーはない。
「そんな……!俺様は保持者になるはずだった。本物の保持者になるつもりだったじゃん!こんなの信じられないじゃん!」
「相手が悪かったな。『アクア・ツバメガエシ』で久留間大吉を直接攻撃!」
 『アクア・ツバメガエシ』の斬撃を受けて静かに倒れる大吉。その体に勇騎の手から放たれる『ブランク』が重なった。
「二発目が爆発する前に終わって良かった。被害は最小限に食い止められたはずだ」
 『ブランク』を回収し、その場を立ち去る勇騎。博成もそれについていった。
「やっぱり勇騎君は最強だよ!どんな敵が現れたって大丈夫だよね!」
「一ノ瀬」
 一度、立ち止まり博成の顔を見る勇騎。博成はデュエル中に勇騎が言っていた「さよなら」の一言を気にしていたのだ。彼が去ってしまう事など考えたくはない。だが、勇騎はもう一度はっきりとその語を告げた。
「さよならだ。今度の敵は『球舞』とは違い、不特定多数の人間を襲っているのではなく、俺達、保持者をターゲットに選んできている。俺達の近くにいるのは危険だ。今まで以上にな」
「そんな!勇騎君は今回だってみんなを助けてくれたじゃない!」
「あれは『プロミネンス・ネクスト・レベル』の予知で偶然、事前に相手の作戦を察知できたからだ。次回以降、同じような事ができるとは限らない」
 立ち止まったままの博成。勇騎は彼を置いて歩いて行く。
「僕は……僕はさよならなんて言わないからね!勇騎君!僕は明日も一緒に学校に通えるって信じてるから!どんな敵が来ても一緒に戦えるって信じてるからね!」

 第二十七話 終

 第二十八話予告
 大吉との戦いに勝利した勇騎だったが、彼はそれと同時に様々なものを失う。彼が平和な世界に身を置く事はできないのか。
 一方、その頃、香寿美によって拘束されていた一夜が再び動き始めた。
「後悔しろ。テメェの行動全てをなァッ!」
 最も狂暴な保持者と何かを企む策士。二つの闇が激突する。
 第二十八話 破壊
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