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『TOKYO決闘記』 第二十八話 破壊

『TOKYO決闘記』
 私、一ノ瀬博成は東京連続失踪事件の謎を調査した高校二年生だ。
 年が明け、多くの人々が東京連続失踪事件や『球舞』の存在をすでに過去のものとして感じ始めている頃、勇騎達の前に新たな刺客が現れた。立法学園に乗り込み、爆発物を起動させたのは彼ら『試験官』が送り込んできた少年、久留間大吉だった。学園内部に忍び込み『レッド&ゴールド』という爆発物を生成する能力で生徒達を危険に晒す大吉とのデュエルに臨んだ勇騎。そんな彼に、大吉は『プロミネンス』と同じように赤く輝くデッキを見せつける。
 デュエルに勝利した勇騎だったが、保持者以外の者が扱う事の出来ない輝くデッキの存在や『試験官』という新たな敵が彼の精神を支配していった。そして、新たな戦いを前に、勇騎は仲間との別れを決意する。
 20XX年 一ノ瀬博成

 第二十八話 破壊
 赤城勇騎と久留間大吉が交戦した翌日、蝶野香寿美は苛立ちながら早足で奥多摩の山中を歩いていた。
 千里が何を考えているかが判らない事。山を歩くため、スーツ姿に合わないスニーカーを履かなければならない事。そして、この奥にある彼女の研究施設が実験材料の“飼い犬”によって半壊した事が彼女を苛立たせていた。
「土地が安いからってこんな山奥に研究施設を作るのが悪いのよ!まったく、あの程度のムシケラもろくに管理できない給料泥棒共がっ!」
 大声で悪態を吐く事で冷静さを取り戻そうとする香寿美。機械が放熱して冷却するのと似たようなメカニズムだと考える余裕は、今の香寿美にはなかった。
 車から降りて歩いてから数分したところに、煙を噴いたその建物はあった。車を降りた時から聞こえてきた品のない警報が、自分を嘲笑っているように感じた香寿美の怒りは最高潮に達していた。
 建物の出入り口をふさいでいる柵が吹き飛び、ゆっくりと一人の男が出てくる。黒いコートと目深にかぶった黒い帽子を投げ捨て、その男は天に向かって吠えるように笑い始めた。
「笑うな、このゴミ虫がっ!飼い主に対してその態度はなんだっ!」
「かーはっはっはっは!こいつは傑作だぜ!!笑うなァ?飼い主ィ?俺がいつお前に飼われたァッ!テメェも!テメェの実験施設も!テメェが俺を利用するためにした実験も!全部、俺が不完全な体を治すために利用しただけだ」
 笑いを止めた墨川一夜は黒く輝くデッキ『エクスプロード』を取り出す。苛立ちながら香寿美も自分の黒いデッキケースを取り出した。
「使えないゴミね。処分してやる!」
「後悔しろ。テメェの行動全てをなァッ!」

 数ヶ月通った立法学園の校舎を背にして勇騎は歩く。寂しさを感じている時間はない。『球舞』以上の凶悪な敵が勇騎達に狙いを定めているのだ。
 むしろ、昔から戦いの中で過ごしていた勇騎にとって、学校に通うという生活の方が異常だったのだ。勇騎と日芽を保護し、学校にまで通わせてくれた赤城博士に対して申し訳ない気持ちが若干ある勇騎だったが、もうここにはとどまれない。
「勇騎君!」
 背後から博成の声が聞こえる。静かな世界にその声が響いた。
「一ノ瀬。教室に戻れ」
「自主退学ってどういう事なのさ!何で勇騎君が学校辞めなくちゃいけないの?久留間大吉からみんなを助けてくれた勇騎君が昨日の事件の犯人になってるの?」
 昨日の久留間大吉の事件。勇騎は『プロミネンス・ネクスト・レベル』を使った予知で生徒達に危険が及ぶのを察知し、煙を起こし火災報知機を鳴らして生徒を避難させた。その結果、死傷者の数はゼロ。校舎の一部が損害を負っただけで解決した。
 だが、博成やゆかりなどの勇騎を知っている人物ならともかく、一般の生徒は誰が爆発の犯人なのか判らない。久留間大吉の存在を知らない多くの学校関係者は勇騎が昨日の事件の犯人だと疑っているのだ。
 事件の翌日である今日、勇騎は学校に対して退学届を提出した。これでは、勇騎が自分で犯人だと認めているようなものである。
「爆発はともかく、煙を出したり火災報知機を鳴らしたりした犯人は俺だからな。ある意味では間違ってはいない」
「だけど!」
「俺がいたから奴らはここを襲う事にした。俺がいなければ巻き添えを食わずにすむ」
「でも、勇騎君がいなくなるなんて間違ってるよ!それでみんなが巻き込まれないとしても、おかしいじゃないか!」
「甘えた事を言うな!」
 博成を一喝する勇騎。突然の怒気に、博成は黙るしかなかった。
「関係ない奴らを巻き込ませたいのか?一ノ瀬、お前は俺がこの学園に残る事と死傷者を出さない事のどちらが大事だと思っているんだ」
「それは……犠牲を出さない方が大事だと思うけれど。でも、それで勇騎君が学校を辞めるなんて奴らに負けたみたいで、悔しいよ……」
「負けてはいない」
 勇騎は博成に背を向けて歩き出した。博成はその背中を追う事ができない。追わなければならないと思っていても追えない。
「勝つために、俺はここを去る。もう一度だけ言うぞ。さよならだ、一ノ瀬」
 思い返すのは数ヶ月前のあの日の出会い。事件について何も知らなかった博成が、ゆかりの命令で東京連続失踪事件について調査を始めたあの日の出来事。偶然、新宿で襲われた博成を助けた勇騎。彼が出した事件に関するヒント。そこから始まったコンビが、ここで終わろうとしていた。

「『ドボルザーク』!出て来やがれェェェッ!!」
 『コッコ・ルピア』の召喚から『ドボルザーク』へと繋げる一夜。その効果で切り札の『デス・フェニックス』が一夜の手札に加わった。あまりにも素早い準備に香寿美は舌打ちをする。
「クズが!これ以上、余計な事をして私を苛立たせるんじゃないわよっ!!」
 香寿美の手札には、まだ『デス・フェニックス』を倒せるカードがない。だが、それはクリーチャーが出ていたらの話である。
「『ベガ』、召喚!手札から消し去ってやる!」
 シールドを増やすのと同時に一夜の手札を狙う香寿美。『ベガ』の周囲を漂う煙が一夜の手札を一枚弾き飛ばす。
「クソがァッ!なら、これでどうだ!」
 一夜が天空に一枚のカードをかざすのと同時に現れた巨大な龍。全身に絡まる鎖と巨大な剣によって拘束されているそのクリーチャーの名は『神滅竜騎ガルザーク』。その巨体から発せられる雄たけびが周囲に響いた。
「『デス・フェニックス』を倒しただけでいい気になるなよ。塵一つ残さずに叩き潰して……!」
 嫌な気配を感じ取った一夜は、右に一歩動いた。さっきまで自分が立っていた位置にナイフのような刃物が刺さっている。
「苛立たせるんじゃないわよ、このゴミクズが!アンタみたいな使えない実験体がまだ生きている事に腹が立つわ!」
 腕を組んで一夜を睨みつける香寿美。その背後には、数えきれないほどの刃物が宙に浮いていた。
「な、何が……何が起きてやがるッ!」
 さすがに一夜も動揺を隠せない。実験施設に連れ戻される前の香寿美との戦いでは、こんな奇妙な光景を目撃しなかったからだ。
「テメェも『球舞』の奴らと同じか!」
「あんな邪魔くさいクズどもと一緒にしないでくれる?私の能力『アイアン・メイデン』はデュエル中に実体化した怒りのエネルギーを相手に叩きつけて殺す能力よ。デュエルで死ぬか能力で死ぬか、どっちにしてもお前はもう死ぬのよ!」
「狂ってやがるぜ……」
 『球舞』の能力は、デュエルを有利に進めるための付属品とも言える能力だった。妨害はあっても、その能力で勝敗を決めるものはない。
 だが、一夜の目の前にいる女の能力はそれ自体で一夜を殺す事もできる。刃物が一本ずつ飛んでくるのならば避けるのはたやすいが、大量に飛んできた時はどうする事もできない。コスモガーデンでこの能力を使わなかったのは、あくまで実験材料の保護のためだったのだ。大切な実験材料が能力によって死亡するのを防ぐため。
「うぜぇ……。こんなくだらねェ能力もテメェもぶっ潰してやる!」
 『アクアン』で手札を増やした香寿美を睨みつけながら、一夜は自分のカードに手をかける。
「ドロー!そして、『ヘヴィ』を召喚して『ヘヴィ』自体を墓地に送りさらにドロー!『ガルザーク』!この女のシールドを叩き割りやがれェェェッ!」
 咆哮する一夜。叫ぶ『ガルザーク』。背中から抜かれた剣のひと振りによって、三枚のシールドが割られていく。圧倒的なパワーを防ぎきれない。
 しかし、そんな強大な『ガルザーク』を一撃で滅ぼす手段があるのも事実だった。そして、それはシールドに潜んでいる事もある。
「調子に乗るなっ!」
 黒ずんだ腕が伸び、『ガルザーク』の体を真っ二つに切り裂く。シールド・トリガーの『デーモン・ハンド』だ。一夜は、『デス・フェニックス』に続き、もう一体の切り札も失ってしまった。
「少しは楽しませてくれるようになったじゃない、クズが。でも、これ以上は許さないわ。さっさと失せなさい!」
 香寿美が一枚のカードを手札から引き抜いた瞬間、彼女の前にある三枚のシールドが発光し、一夜は腕で顔を覆う。
「テメェ、何を……!」
 一瞬、何をされたのか判らなかった一夜だったが、自分の手札がなくなっているのを見て彼女が使ったカードに気がついた。
「『ソウル・アドバンテージ』か……!」
 自分のシールドの数だけ、相手の手札を捨てる呪文、『ソウル・アドバンテージ』。『ベガ』でシールドを増やせるデッキなので相性がいい。
自分が有利な状況になった事で余裕ができたのか、ここで香寿美は初めて微笑む。
「今なら、命乞いくらいは聞いてあげるわよ。聞いてあげるだけだけどね!」
 一夜を倒す意志は変えないというメッセージなのか、『アイアン・メイデン』によって生み出された刃物が再び、一夜を襲う。一夜は横に跳躍してそれを避けると、山札からカードを引いた。
「そんな余裕、テメェごとぶっ壊してやる!」
 一夜は『ディメンジョン・チョーカー』を召喚する。『ディメンジョン・チョーカー』の断末魔にも似た鳴き声が周囲に響き渡り、香寿美に破壊されたはずのドラゴンが全て手札に戻って行った。
「命乞いは聞くとか言ってやがったな。俺も聞いてやるぜ。聞きながら、お前をバラしてやるゥゥゥッ!」

「決闘とは何だと考える?」
 千里が住むマンションの一室。ドナルド・マックイーン、白峰敦也、亀島美土里の三人がそこにいた。千里は、ソファに腰かけたまま、一枚のデュエル・マスターズカードを両手でいじっている。
「何を言っているんだ、お前?それよりも、大吉が負けた事について答えろ。お前が見た未来では、俺達は勝つはずじゃなかったのか?」
 壁に背を預けて立っていた白峰が苛立った様子で千里に詰め寄る。大吉の敗北に動揺しているのだ。
「我々、試験管のチームと保持者達のチームで見た場合、最終的にこちらが勝つ未来が見えただけだ。細かいディテールまでは見えないし、それは変わる事だってある」
「俺達の誰かが保持者に負ける事もあるって事だな」
 千里がその問いに頷くと、白峰は踵を返して歩いて行った。
「白峰、どこに行くつもりなんだい?」
 美土里に聞かれて、白峰は一度立ち止まる。そして、彼は振り返り千里の方を向いてはっきりと告げた。
「勝てるかどうか判らない戦いに俺は手を貸せない。俺は俺のやり方で保持者を倒して生き残る。俺にとっての決闘は生き残るための略奪だ」
 最後にそう言うと、白峰はドアを開けて去っていく。誰もそれを止めようとはしない。
「いいんですか?白峰さんが保持者側に回るとは思えませんけれど、抜けられるのは厳しいのでは」
「大丈夫だ、ドナルド。奴がどう動いても、奴を取り巻く真実は決して変わらない」
「確かに、白峰がいなくても今は特に困りはしないかもね」
 瓢箪に口をつけて美土里が酒を飲むと、千里の方を向いて話す。
「で?いきなり、決闘がどうとか、どうしたのさ?」
「僕もそれは気になりますね」
「少し気になっただけさ。決闘は、やるだけでも罪になるものであり、敗北したものは全てを失うものだ。こんなカードで遊ぶ事を決闘と呼ぶ者達に本物を見せてやろうかと思ってね。白峰は略奪と答えたが、それはとても正しい。言い換えればそれは略奪と同じ事だ。ただし、覚悟を決めた者同士の合意の上での略奪であるという点が抜けているな。奪われる覚悟の上で戦い、全てを奪うために戦う」
 千里は手でいじっていたカードを握りつぶすと、ライターで火をつけて灰皿に捨てた。カードは、千里達の見ている前で燃え上がり、すぐに灰になった。
「香寿美は何のために戦うのか。私も詳しくは知らないが、期待はしているよ」

 眩い閃光が辺りを包んだ。一夜は目を閉じ、香寿美が出したカードの事を考える。
「貴様はこれで終わりよ、クズが!失敗作は破棄される運命なのよ!」
 光が治まって、目を開いた一夜が見たのは巨大な精霊の姿だった。生き物全てが呼吸を忘れてしまったかのような静寂がその場を包む。
「『聖鎧亜キング・アルカディアス』。これで、お前は多色ではないクリーチャーを召喚できなくなった。多色のカードで何を出す?『ガルザーク』?『デス・フェニックス』?それとも、『デーモン・ハンド』で『キング・アルカディアス』を倒しに来るかしら」
「がァッ……!このアマ!」
 一夜の手札に『デーモン・ハンド』はない。手札にある『地獄スクラッパー』では『キング・アルカディアス』を破壊する事は不可能だ。そして、場にいるクリーチャーは『コッコ・ルピア』一体と『黒神龍ギランド』のみ。シールドは五枚だが、シールド・トリガーを恐れて香寿美が意図的に攻撃しなかったのかもしれない。その場合、準備が整った後の一斉攻撃が怖い。
 一方、香寿美のクリーチャーは『キング・アルカディアス』一体。『ベガ』、『タージマル』、『マクスヴァル』、そして『テルス・ルース』が一体ずついる。『ベガ』でシールドを増やしたため、シールドの枚数は四枚になっていた。
「だったら、リクエスト通りこれで殺してやるゥゥッ!!『ガルザーク』ッ!『デス・フェニックス』!!召喚ッ!」
 『ガルザーク』を召喚し、『ギランド』と『コッコ・ルピア』を『デス・フェニックス』に進化させる一夜。狙いは『キング・アルカディアス』だ。『キング・アルカディアス』を破壊できれば、後のクリーチャーは手札にある『ダーク・ルピア』や『ヘヴィ』の効果で破壊できる。これらのカードを出すためには、単色クリーチャーの召喚を禁止する『キング・アルカディアス』を倒すしかない。
「『デス・フェニックス』!『キング・アルカディアス』を殺せェェェッ!!」
 闇の炎を纏い、巨大な精霊に向かって飛び立つ『デス・フェニックス』。だが、その前に『テルス・ルース』が立ちはだかり、『デス・フェニックス』の巨体を受け止める。
「はっ!大事な切り札を守らないわけがないでしょ、このゴミクズが!もう終わりにしてやるわ!」
 香寿美が一枚のカードを『マクスヴァル』に重ねる。『キング・アルカディアス』が降臨した時と同じように、そのクリーチャーも光を発した。
「どう?目を開けて絶望しなさい。どんなクズでも絶望して地べたを這いつくばって命乞いをする権利くらいあるのよ」
 目に飛び込んだそのクリーチャーは、一夜を絶望させた。その名は、『聖鎧亜クイーン・アルカディアス』。『キング・アルカディアス』が多色ではないクリーチャーの召喚を禁じるように、『クイーン・アルカディアス』は多色ではない呪文の使用を禁止する。これで、一夜の行動は完全に封じられてしまった。
「千里もお前も使えない奴だった。保持者って、みんなこんな風に自分勝手なのかしらね?次に保持者を作る時は、私に絶対服従するような改良を施す事が必要だわ」
 溜息と共に漏れる香寿美の台詞に一夜が反応する。千里に能力を与えたのは自分であるかのような口調だ。
「お前……!お前が、あの男や他の保持者を!」
「くだらない事をしゃべり過ぎたみたいね。でも、まあいいわ。冥土の土産みたいなものよ」
 香寿美の背後には何百という刃物。そして、彼女の前には一夜の行動を封じる二体の精霊。逃げ場も勝ち目もそこには存在しなかった。
「予定通り、廃棄処分にしてやるわ。このターンでとどめは刺せないけれど、次のターンなんかいらないでしょ?ふふふ……」
 微笑んだ後、香寿美は目を見開き一夜を指して
「やれ!墨川一夜を塵一つ残さず処分しろ!」
と、クリーチャーに命じた。
 精霊達に破られていくシールド。雨のように一夜に降り注ぐ刃物。香寿美が持つ全ての力が一夜を殺すために襲いかかった。
「ぐおおおおっ!」
 目の前に迫る精霊や刃物を見ながら、一夜は自分が保持者である証である黒いデッキケース『エクスプロード』を握る。自分がここで死んだとしても、これを香寿美に渡す事はできない。
「俺は!俺はァァァッ!」
「ここで敗れ去るのが、失敗作であるお前の真実だ」
 突如、一夜の周囲が暗くなる。何もない真っ暗な世界の中で、彼の目に映るのは赤いデッキを持った保持者、赤城勇騎の姿だった。
「ゼロ号……」
「俺は『プロミネンス・ネクスト・レベル』を使い、『プロミネンス』の全ての力を引き出す事に成功した。失敗作のお前にはできない能力だ。この世に存在していい保持者は、唯一の成功者である俺だけだ。偽物はここで消えろ」
 そこで、一夜の意識が元に戻る。眼前まで迫る刃物も、行動を制限する精霊も消えていない。だが、それを見て一夜は笑った。
「くくく、かかか……かーはっはっはっはっは!!思い出したぜェ、ゼロ号。テメェ、『球舞』の奴相手にこんな事やってたよなァ?お前にはできないとか言ってやがったなァ?この程度で、自分だけが最強気どりかよ、くくく……!」
 一夜は『エクスプロード』を握り、さらに高らかに笑う。彼の足元からは、毒々しい紫色の煙と共に、ダークロードの頭部をあしらったような闇文明のマークが現れる。
「何がおかしい!そんなマークが出たって、クズは……!え?」
 香寿美は自分の目を疑った。数えきれない程の刃物が一夜に当たる前に消えていく。それは一夜に刺さる直前の刃物だけではない。今、宙に浮いている刃物も消えていた。
「私の『アイアン・メイデン』の能力が消えた?馬鹿な!」
「かーはっはっはっは!!」
 狼狽する香寿美を見て一夜は笑う。もう香寿美では一夜を飼いならす事はできない。
「残念だったなァ?俺はお前みたいな偽物の保持者じゃねェ。これが、本物と偽物の差だ!」
「こんな事、認めないわ!一体、何をしたの!?」
 香寿美の声が震えている。間違いなく圧倒的優位に立っている状況の中で、一夜の奇妙な何かが香寿美に言いようのない恐怖を与えているのだ。
「テメェのくだらない能力をぶっ壊したんだよ。俺の能力『エクスプロード・フルフォース』でなァッ!!」
「そんな能力なかったじゃない!クズがクズがクズがっ!何で計算が合わないのよ!このクズはもう廃棄されていて、私は『エクスプロード』を奪って、他の保持者のデッキも奪う準備をしているはずなのに、何でまだこのクズが私の目の前に立っているのよ!」
「教えてやるよ。それは俺じゃなくて、お前がただのクズだったからだ!」
 一夜がカードを引く。抑えられないような自分の鼓動を聞きながら、香寿美はそのカードを見ていた。
「無駄よ、無駄無駄!お前が何をしても今更無駄なのよ!私のシールドは四枚もあるし、ブロッカーだっている。クリーチャーの召喚もできない、呪文も使えないお前がブロッカーを倒してシールドもブレイクして勝つなんて事ありえない!絶対にありえないんだから、身の程を知りなさい!ゴミが!!」
「命乞いしろよ」
「命乞いですって?」
 一夜の言葉に香寿美は恐怖した。それは、追い詰められた者の台詞ではない。相手を完全に追い詰めた者が吐く台詞だ。
「命乞いしても無駄だがなァ!……消えろ」
 二人の頭上に巨大な門が現れる。金属のような光沢を持つその門は、重い音を立てて少しずつ開いていった。門が開くたびに、鎖に繋がれた刃物が宙を舞い、香寿美のシールドを傷つけていく。
「そんな……!クリーチャーも封じた!呪文も封じた!それなのに!」
「これが俺の憎しみだ。これが俺の怒りだ!」
 一夜が放った『憎悪と怒りの獄門(エターナル・ゲート)』が香寿美のシールドを全て貫いたのだ。もう香寿美の前にシールドはない。彼女を守るのは『タージマル』一体だ。
「『デス・フェニックス』!やれ!」
 一夜が叫ぶのを見て、我に帰る香寿美。目の前にあるカードに手をかけ、必死になって叫ぶ。
「『タージマル』!」
 『デス・フェニックス』の口から吐かれた炎は、『タージマル』を灰にした。その光景を見ながら香寿美は震え、涙を流す。
「いやーっ!どうして、こんなゴミクズ同然の奴に!どうして!どうしてなのよぉーっ!!」
「廃棄してやるよ、ザコが」
 一夜が右手を突き出し、親指を下にして『ガルザーク』に見せた。一夜の叫びと竜の雄たけびと香寿美の悲鳴が混ざり合った時、巨大な剣が香寿美に振るわれた。
 地面の揺れと共に世界は元に戻り、一夜は腹に空いた穴の中にその付近のものを全て吸いこんでいった。
「ゼロ号。もう誰にも邪魔はさせねェ。『球舞』は全員消えた。俺を飼っていると勘違いしたザコも始末した。どっちが本物か試す時が来たんだよ!俺は逃げない!お前も逃げるな!テメェの全てをぶち壊し、俺が本当の俺になる時だ!」
 一夜は山を降りて街へと向かう。宿命の対決を止められる者はいない。

 第二十八話 終

 第二十九話予告
 悲壮な決意をした勇騎の元に現れた一夜。よく似た二人の戦いに水を差す者は誰もいない。その頃、『グランドクロス』の修復が終わったヴェルデの前に美土里が現れる。
「テメェか、俺か!真実はどっちを選ぶのか、試すんだよォォォッ!!」
 避けられぬ戦いに燃え上がる闘志。今、彼らの運命に決着がつく。
 第二十九話 宿命
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