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『TOKYO決闘記』 第二十九話 宿命

『TOKYO決闘記』
 私、一ノ瀬博成は東京連続失踪事件の謎を調査した高校二年生だ。
 千秋千里(せんしゅうせんり)が率いる『試験官』の一人、久留間大吉(くるまだいきち)の立法学園襲撃。その翌日、勇騎は敵の狙いが自分である事を理由に学園を退学し、私の前から去った。
 その頃、蝶野香寿美(ちょうのかすみ)の研究施設が破壊され、そこで研究材料として囚われていた墨川一夜が脱走。激怒した香寿美は能力『アイアン・メイデン』を使って一夜を廃棄しようとするが、覚醒した一夜の『エクスプロード・フルフォース』によって能力を封じられ敗北する。勇騎の『プロミネンス・ネクスト・レベル』と同等の力を手に入れた一夜は、宿敵を追って街に降りたのだった。

 20XX年 一ノ瀬博成

 第二十九話 宿命
 廃工場近くの、もう人が住んでいない寮で勇騎は目を覚ました。自分に対して向けられる巨大な憎悪の感情。その感情を色で例えるとしたら、黒と赤。その感情の持ち主が近くにいる事を感じ、勇騎は『プロミネンス』を持ってベッドから立ち上がる。
 今にも雨が降り出しきそうな空の下を勇騎は駆ける。勇騎に対して憎悪の感情をぶつけるその存在を追って。
 勇騎が廃工場に入った時、その男は一斗缶の中で燃える炎を眺めていた。その顔に表情はない。精神を統一しているようにも見える。
「俺達の最初の戦いがいつだったか、テメェは覚えているか?」
 炎を眺めながら、一夜は呟くように勇騎に問う。
「俺達が『アカシック・マイナ』で手術を受ける前だな。その前の戦いから、俺達は戦い続けている」
 勇騎もその事をずっと覚えている。火文明の正規部隊だったヒューマノイドの少年と、野盗のように人から様々な物を奪い続けていたヒューマノイドの少年。戦場で偶然の出会いを果たした全く同じ顔の二人はその戦いで重傷を負い、同じ施設に研究材料として収容される。
「まだ、治らねェんだよォ……。他のところは治ったのに、ここだけはかゆいままなんだよォ……」
 一夜は立ち上がると、顔の右半分を隠している赤い前髪をはらう。その下にある白い包帯は、香寿美の施設に収容される前から変わっていない。一夜は、その部分を激しくかきむしり始めた。
「がああ!かゆいかゆいかゆいかゆいかゆいんだよォォォッ!テメェだ!テメェを殺さない限り、これは治らねェッ!」
 包帯が破れる。その中から出てきた赤く輝く右の瞳。そして、左目は暗く深い闇の中ように黒い光を帯びていた。
 対して、勇騎の右目は知性を現すような青に変わり、左目は激しく燃える彼の闘志を現すように赤く変わっていった。
「俺を殺す?お前に、そんな事はできない。お前の実力では、絶対に俺を倒せない」
 静かに一夜を挑発する勇騎。二人の保持者の右手に握られたデッキが、それぞれ赤と黒の光を発する。
「テメェか、俺か!真実はどっちを選ぶのか、試すんだよォォォッ!!」
「もう誰にも邪魔はさせない!ここで俺とお前の宿命に決着をつけてやる!」

「いい運勢だね」
 とある商店街。閉店した店のシャッターの前で詰め襟の学生服に身を包んだ長身の少女、亀島美土里(かめしまみどり)は、テーブルの上に乗った湯呑の中を見ながらそう言った。彼女の目の前で今まで暗い表情をしていた女子高生の顔が、まるで花が咲くように明るく変わっていく。
「挑戦し続ける事。それが幸福の条件。断片的な未来だけど、あんた自身がそう言っている。しばらくは挑戦あるのみさ」
 そう言って、美土里は湯呑の中の透明な液体を飲みほす。女子高生は占いの料金を払うと、感激した顔で礼を言って去って行った。
「次のお客はちょっと厄介かな?あんた自身がそう言っている。そうじゃないかい?」
 顔を上げた美土里の前に立っているのはヴェルデだ。完全に修復された『グランドクロス』を取り出し、美土里に見せる。
「今すぐにやろうってのかい?せっかちだね」
 美土里は瓢箪から透明の液体を湯呑に注ぐと
「君も飲むか?」
と、ヴェルデに聞いた。
「ま、飲まんだろうね。あたしと戦いに来たんだから。あんた自身がそう言っている」
 美土里は立ち上がると、テーブルの上に乗っていた占いの道具を片づけ、テーブルを折りたたむ。そして、ヴェルデに一瞬だけ目を合わせると歩き出した。ヴェルデもそれについていく。
「お前は何者だ?」
「前にも言った。亀島美土里。保持者で占い師、それと女子高生」
「俺達以外に保持者はいないはずだ」
「それは、あんた達の世界の話さ。あたし達はこっちの世界の保持者。リーダー格の男を合わせて『試験官』って名乗っているけどね」
 様々なところに緑が映える公園に二人は移動した。そこにある自然は、ヴェルデの故郷にある自然とは違う。
「お前は何者だ?」
 コスモガーデンでの質問を含めてこれで三回。ヴェルデは同じ疑問を三回美土里にぶつけた。
「亀島美土里。保持者で占い師、それと女子高生。あんたが聞きたいのはそうじゃないみたいだね」
 美土里は、ヴェルデと同じような緑色に輝くデッキを取り出す。二人を中心に変わっていく世界。戦いを意識して、美土里の表情が引き締まる。
「お前は俺の敵なのか味方なのかどっちだ?」
「あんたがどう考えるかで答えは変わる。あたしはただの占い師でしかない。ただ、あたしのとこのボスは『球舞』と繋がりがあった……。こう言ったら敵になるのかな?」
「それだけで充分だ」
 『フェアリー・ライフ』でマナを増やすヴェルデ。それを見た美土里は『幻緑の双月(ドリーミング・ムーンナイフ)』召喚してマナを増やす。
「血気盛んって奴だね。あんたには時間がないはずだ。あたしなんかと戦ってていいのかい?」
「黙れ」
 ヴェルデの動きは止まらない。シールドの一枚に『ハッスル・キャッスル』を取り付けて要塞化する。クリーチャー中心のヴェルデのデッキなら、大量ドローもたやすい。
「あんたは自分のいた世界に戻りたがっている。そこには、故郷の仲間がいるからだ。共に戦った深い絆で繋がった仲間だ。あんたが仲間に固執するのは、保持者として改造される前まで一緒にいた仲間の事を想っているからじゃないのかい?」
 美土里の問いにヴェルデは答えない。だが、彼女が言った全ての事柄は当てはまっている。今でも、ヴェルデは故郷である自然文明の仲間達の事を想っている。体を治し、そこに帰る事が彼の目的だ。
「そのために必要な事を忘れたわけじゃないだろう?今でも覚えているはずだ。だが、この世界で君を頼った仲間の無念を晴らすために『球舞』と戦い、その『球舞』を倒す時まで他の保持者とは手を組んでいた。今、君が彼らを仲間だと思う理由は何だい?」
 問い続けながらも美土里の召喚は続く。マナブーストから4ターン目に繰り出されたのは、『甲魔戦攻ギリメギス』。パワー9000でW・ブレイカーを持つシンプルでありながら巨大なクリーチャーだ。本来なら、こんな早いターンに出るクリーチャーではない。
「お前は何故、俺の思っている事を知っている!?俺の目的だけじゃなく、俺の考えている事まで!何故だ!」
 自分の事を知りすぎている美土里に怯え始めたヴェルデ。彼女は自分の考えを知りすぎている。
「何度も言ったと思うけれど、もう一度言うよ。あんた自身が教えてくれた」
 美土里の顔の横に手のひらに乗るほどの小さなトーテムポールのようなものが現れる。その姿から、ヴェルデは自然文明のミステリー・トーテムを思い出した。
「それはなんだ?」
「あたしの能力『スタンド・バイ・ミー』のビジョン。こいつを通じてあたしはあんたの守護霊の声を聞く。あんたの守護霊はあんたの現在、過去、未来の道筋を教えてくれる。それはあんた自身の声と言っても過言ではない」
 トーテムポールのような存在、『スタンド・バイ・ミー』は宙に浮いたまま美土里の耳元に近づく。
「ああ、あんたのデッキの内容だとか、次にどんなカードを出すだとかそんな事は教えてもらってないよ。あくまであんたの守護霊の声だからね。あんたが不利になるような事は教えてくれない。でも……」
 美土里が一枚のカードを投げた瞬間、ヴェルデの手札が一瞬にして全て消える。『ソウル・アドバンテージ』を使って手札を破壊したのだ。
「守護霊の声を聞かなくてもあんたを倒す事はできる。あたし自身の力だけで充分さ!」
 『ギリメギス』、『幻緑の双月』の攻撃が続く。『ハッスル・キャッスル』にまで攻撃は届かなかったが、残ったシールドはその一枚のみ。早くもヴェルデは追いこまれていた。
「なめるな。俺は不完全でも保持者だ!」
 ヴェルデが叫んだ瞬間、『ギリメギス』の足元が崩れ、大地に飲み込まれていく。美土里はその様子を見て軽く笑った。
「シールド・トリガー、『ナチュラル・トラップ』か。確かに簡単には倒せないみたいだね」
 ヴェルデは、『スカイソード』を使ってシールドとマナを増やす。さらに、クリーチャーを召喚した事で手札も増えた。続いて『青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)』を召喚して、さらにマナと手札を増やす。
「お前が俺の何を見たのかは知らない。だが、俺は俺が敵だと思った奴に負けはしない!」

 勇騎と一夜、二人の雄たけびが重なる。余計な言葉が入り込む隙のない戦い。彼らの戦いに言葉は不要だった。相手を倒そうとする闘志。それだけで話が通じる。
「『コッコ・ルピア』、『ボルシャック・大和・ドラゴン』を召喚!」
 睨みあいが続く中で、先に切り札を出したのは勇騎だった。『大和・ドラゴン』が抜いた刀の切っ先が一夜を差す。
「一気に片をつけてやる。二度とお前の顔を見なくて済むようにな!」
 『プロミネンス』から立ち上る煙。勇騎の足元に現れる歯車のような火文明のマーク。全てを超越した力、『プロミネンス・ネクスト・レベル』が発動したのだ。
「未来の運命を見て、すぐに終わらせてやる!」
「そんな未来、ぶっ潰してやるよォォォッ!!」
 一夜が叫ぶ時、勇騎の足元にあった火文明のマークが消え、彼の頭脳に現れ始めていた未来のイメージが消えた。九十九との戦い以降、その能力を自在に使えるように練習していた勇騎は突然のトラブルに戸惑う。
「馬鹿な。こんなに早く時間の制限が来た事はなかった。一体、何が……」
「言ったじゃねェか。ぶっ潰すってよ!」
 勇騎は一夜の姿を見て気づく。勇騎が『プロミネンス・ネクスト・レベル』を使えるようになったように、一夜の足元には紫色の煙と共に闇文明のマークが現れていた。
「テメェをぶっ壊す力、『エクスプロード・フルフォース』だ。テメェに未来なんかいらねェッ!!」
 一夜はそれで勝利を確信したかのように吠えるが、勇騎が戸惑ったのは一瞬の事だった。『プロミネンス・ネクスト・レベル』で未来を見る事ができないのならば、それでもいい。一夜の『エクスプロード・フルフォース』は勇騎の能力を封じたがそれ以上の事はしてこない。勇騎が不利になったわけではないのだ。
「『ボルシャック・大和・ドラゴン』でシールドをW・ブレイク!」
 長い準備の末に先手を取ったのは勇騎だった。刀を二度振った『大和・ドラゴン』の斬撃が二枚のシールドを打ち破っていく。
「いいぜ。ぶっ壊してやるよォ!」
 割れたシールドからは『デーモン・ハンド』が出てくる。巨大な黒い手が『ボルシャック・大和・ドラゴン』を握りつぶした。
「くっ……!」
「まだ始まったばかりだぜ、ゼロ号……。もっともっと壊して潰してバラバラにしてやるよォォッ!!」
 一夜がけたけたと笑い、一体の黒い神を召喚する。一夜が歯をむき出しにしてにやりと笑った瞬間、その神の体は弾け、同時に勇騎の『コッコ・ルピア』も同じように弾けた。
「俺の切り札の一つ、『龍神ヘヴィ』だ。こいつは召喚と同時に自分のクリーチャーを一体破壊し、相手のクリーチャーもぶっ殺す。そして、一枚ドローできる」
「その程度で切り札か。貧弱な能力だ」
「俺の切り札達の本当の力はこんなもんじゃねェ……。全部見せて終わらせてやるから待ってろよ」
 不敵な表情で笑う一夜を睨みながら、勇騎はドローする。一夜はまだ勇騎のシールドに一枚も手をつけていない。攻撃を続ければ、一夜に手も足も出させずに勝つ事も可能だ。
「お前の切り札を見る必要はない。『龍聖霊ウルフェウス』!!」
「エンジェル・コマンドだとォッ!?」
 一夜は勇騎が出したカードに驚愕する。今まで火文明のカードをメインにして戦ってきた勇騎が光文明のエンジェル・コマンドを切り札として採用していたのだ。
「『ボルシャック・大和・ドラゴン』が墓地にある。効果を使う条件は満たされているな。効果で『サイバー・ブレイン』を使い、三枚ドロー!」
 勇騎は手札を増やしながら一夜を見据える。『ウルフェウス』はスピードアタッカーではないが、W・ブレイカーを持つパワー6000のクリーチャーだ。一夜を攻めるのに充分な性能を持っていると言える。
「まだ始まったばかり、だろ?」
「ぐぅっ!」
 自分が挑発に使った台詞で逆に挑発される一夜。今の彼の手元には切り札が一枚もない状況だ。勇騎が攻め続ければ、逆転のチャンスもなく負けてしまう。
「余裕ぶってるんじゃねェェッ!今日こそ!必ず!必ずぶっ殺すって決めたんだ!!」
 一夜は山札を叩くようにしてカードを引く。そのカードに描かれた黒い龍を見た途端、その目に邪悪な輝きが宿る。
「これだ。これでいい。これが最高だァッ!出ろ、『ドボルザーク』ッ!」
 一夜が一体の龍を呼び出す。黒神龍ドボルザーク。パワー5000のブロッカーだ。
「ブロッカー!?そのパワーだったら、『ウルフェウス』で……」
「甘い、甘いぜ。ゼロ号……。こいつの実力はそんなもんじゃねェ」
 一夜の山札が弾け飛び、数十枚のカードが宙を舞った。舞っているカードは一夜の周囲を周りながら飛んでいる。
「『ドボルザーク』はゴッドかフェニックスを手札に持ってくるブロッカー。そして、俺の切り札はゴッド!!」
 一夜が手を伸ばすと、そこに一枚のゴッドが収まる。そのカードが持っていた不穏な気配に気づき、勇騎はその一枚から目が離せなくなった。
「なんだ、その一枚は……」
「テメェをバラす最終兵器だ。死ぬ前に見せてやるから楽しみに待ってろよ……」
 一夜の返事に舌打ちをした勇騎は、『地獄スクラッパー』で『ドボルザーク』を破壊し、『ウルフェウス』でシールドを二枚ブレイクする。
「ならば、その切り札を出す前にお前を倒すだけだ」

「『ジオ・マスターチャ』で『ギリメギス』を攻撃!」
 ヴェルデの切り札、『ジオ・マスターチャ』はコスト4以上のクリーチャーにアース・ドラゴンとアポロニア・ドラゴンの二つの種族を追加し、パワーを3000増やすクリーチャーだ。『ジオ・マスターチャ』自身のパワーも8000に3000を追加して11000になる。9000という大きなパワーを持つ『ギリメギス』すら倒せるパワーだ。
 ヴェルデのシールドは、『ハッスル・キャッスル』によって要塞化された一枚しか残っていない。だが、彼の場には命に代えてシールドを守る『バケット・バケット』が二体いる。このクリーチャーは、破壊された時に相手のクリーチャーを一体マナに送る事ができるのだ。ブロッカーはいなくても防御力は充分だ。
「『ジオ・マスターチャ』か……。やってくれるじゃないか」
 美土里の場にいるクリーチャーは『地脈の超人(グラウンド・ジャイアント)』一体のみ。『ギリメギス』がいる事で9000になっていたパワーも5000に減ってしまった。しかし、シールドは一枚割られただけで四枚も残っている。
「敵だと思ったら必ず倒す。必ずだ!」
「そうかい。だが、倒すべき本当の敵を今のあんたは判っていない。自分の本当の目的も忘れているんじゃないか?」
 ヴェルデは美土里の言った事に反論できなかった。他の保持者を倒し、デッキを奪えばその力で自分の体を蝕む鎧を破壊し、故郷へ帰る事ができる。五つのデッキを揃えればそれくらいの事はできる。だが、一つでは足りないのだ。
「あたしのデッキでは、ダメだ。『球舞』の奴らが使っていたのよりはましだけど、これも『グランドクロス』のコピーでしかない。欲しければ他の保持者から奪うしかないんだよ」
「それくらい、判っている」
 仲間。
 その二文字の単語がヴェルデの決意を鈍らせていた。豪人も勇騎も共に『球舞』と戦った仲間だ。その想いがヴェルデを二人と戦う事から遠ざける。
「さて、目の前のデュエルに戻るか。囲まれちゃったな。攻撃は『ジオ・マスターチャ』。防御は『バケット・バケット』か。全滅、狙わないとね」
「何!?」
 ヴェルデは耳を疑った。美土里のデッキは、自然の他に闇と水で構成されている。闇は破壊をメインにしたカードが多いが、美土里が入れているのはごく少数のカードであり、サポート程度にしか使っていない。あくまで自然のカードをメインにしていたのだ。
「あたしさ、一対一でやり合える男って好き。だから、このカードを切り札に選んだ」
 『地脈の超人』が緑色の光を出しながら巨大化していく。そして、その光を受けたヴェルデの『ジオ・マスターチャ』と『バケット・バケット』の一体がカードに変化してマナゾーンへ飛んでいった。
「俺のクリーチャーが……マナに!」
「これで一対一だよ、ヴェルデ。あたしの切り札、『大宇宙シンラ』の力さ」
 『大宇宙シンラ』。それは、ジャイアントの進化クリーチャーだ。場に出た時、自分のクリーチャー一体を残してマナに置き、相手のクリーチャーも一体だけ残してマナに変えてしまうクリーチャー。ヴェルデが無意識の内に選んだのは防御のための『バケット・バケット』だった。
「守りに入るか。悪くない。『ジオ・マスターチャ』を残しても『シンラ』のパワーにゃ勝てないからね。さあ!シールドをブレイクだ!」
「シールド・セイバーを使う!」
 振り下ろされる『シンラ』の拳の前に『バケット・バケット』が立ちふさがり、その拳を受け止めてシールドを守る。地面に残ったバケツのような兜からツタが伸びて『シンラ』の体を包んだ。
「これであたしの切り札もマナ送り。あんたのクリーチャーも全滅、か。でもいいんだ。あたしにはまだ手札がある」
 美土里は『スペース・クロウラー』や『ドルゲーザ』でうまく手札を増やしていた。手札もマナもあり、シールドも残っている。明らかにヴェルデが不利だった。
「もういいだろう?これ以上続けていても意味がないと思うんだけど」
「いや、まだだ。俺はまだ戦える」
 ヴェルデは諦めていなかった。美土里はそれを悪あがきだと思ったが、彼の目を見てそうでない事を悟った。
「確かにお前は俺の敵じゃないのかもしれない。だが、お前には聞きたい事が山ほどある。お前を倒して全てを話してもらう」
「いいね。あんたが勝ったら好きにしていい。勝てたら、ね」
 ヴェルデは手札の中から一枚のカードを引き抜く。それを場に出した瞬間、マナから一枚のカードがそのカードと重なった。
「そうか。マナ進化!」
 マナから進化元のクリーチャーを調達するマナ進化。バトルゾーンに進化元を出しておく必要もなく、進化クリーチャーなので召喚酔いもない。
「『超神龍バリアント・バデス』だ」
 ヴェルデが召喚したのは、三枚まで進化元として使い、進化元のパワーの合計に応じてシールドのブレイク数が変わる白い巨大な龍だ。最大で四枚までブレイクできる。
「『バリアント・バデス』か。確かにすごいクリーチャーだ。だけど、君は一枚しか進化元に使っていない。それでQ・ブレイクできるのかい?」
 ヴェルデは無言で『バリアント・バデス』に手をかけ、攻撃を指示する。動きだした『バデス』は、咆哮と共に美土里のシールドを全てブレイクしていった。
「一枚でこれだけのパワー……。まさか!」
「そうだ。俺は『バリアント・バデス』の進化元に一枚だけで充分な『緑神龍ディルガベジーダ』を使った」
 『緑神龍ディルガベジーダ』。単体で23000という破格のパワーを持つ。『バデス』の進化元に最適のクリーチャーなのだ。
「それでQ・ブレイクできたってわけか。だが、ここで『バデス』の出番は終わりだよ!『デーモン・ハンド』!」
 美土里が手札から除去呪文を放つ。巨大なパワーを持つ『バリアント・バデス』でも除去呪文が効かないわけではない。美土里は『青銅の鎧』を一体召喚してヴェルデを見た。
「せっかくの切り札だったみたいだけど、これで終わりさ。残念だったね」
「いや、残念じゃない。俺はもう勝っている」
 余裕のあるヴェルデの表情を見て、そして、『スタンド・バイ・ミー』を通してその理由を理解する。
「そうか……。そうだね。切り札が一枚だとは限らない」
 美土里の前に現れる二体目の『バリアント・バデス』。だが、突然その姿が消えた。
「え?どうしたって言うんだい?」
「ぐ……!ぐおおっ!!」
 ヴェルデが倒れ、彼の体の表面を金色の鎧が覆っていく。そして、彼の顔は銀色の体毛を持つ狼のような顔へと変わっていった。『グランドクロス』はその機能を停止して地面へ落ちる。
「それが君の本来の姿なのか」
 美土里は悲しそうな声でヴェルデに言う。ヴェルデの体はほとんど鎧に蝕まれている。無事なのは、頭部だけだ。
「もう、あんたに時間はないんだ。判っているだろう?あんた自身がそう言っているんだから」
 美土里はデッキにカードをしまうとヴェルデに背を向けて去って行った。ヴェルデはそれを見て低く唸る。
「あんたはもう決めるしかない。その体を元に戻すために自分の仲間と戦うか、体を蝕まれる事を受け入れて死んでいくか、二つに一つだ」
 美土里の言葉を聞きながら、獣は意識を失っていく。

 『ウルフェウス』の発する輝きによって一夜の最後のシールドが破られる。その中に、シールド・トリガーはなかった。
「覚悟しろ。お前の負けはもう決まった」
 勇騎がそう言うのも無理はない。彼のシールドは無傷の五枚。切り札の『ウルフェウス』が一夜を狙っている。
 一方の一夜は、シールドもバトルゾーンのクリーチャーもない状態だった。しかし、それでも一夜は笑っていた。
「くくく、けけけ、かーはっはっはっは!まだだ!これからが本当におもしろいって事を教えてやるよォォッ!泣け!喚け!殺して殺して殺してやるよォォッ!!」
 一夜は、『ヘヴィ』を召喚する。だが、場に出した時の効果は使わない。
「俺のクリーチャーを除去しないだと!?」
「これからが本番だ。見ろよ!」
 一夜が空に放り投げた一枚のカード。それが空に黒い穴を開ける。
「地獄から這い出ろ。『インフェルノ・サイン』ッ!」
「しまった!そのカードは……!」
 一夜が使った呪文、『インフェルノ・サイン』は7コスト以下のクリーチャーを墓地から蘇らせるカード。墓地からは、『ヘヴィ』と対になる赤い神が現れる。
「来たぜェ。『龍神メタル』ッ!ゼロ号のマナをぶっ壊せ!」
 『ヘヴィ』がクリーチャーを破壊するように、『メタル』はマナを一枚破壊する。だが、この二体の能力はそれで終わりではない。
「『ヘヴィ』!『メタル』!ゴッド・リンクだ!!そして、『ウルフェウス』を殺せ!!」
 『ヘヴィ』と『メタル』がリンクし、パワー12000の巨大クリーチャーとなる。双頭から繰り出される怪光線が『ウルフェウス』の体を焼き尽くした。
「無様だぜ!ゼロ号の切り札が死んだ!」
 『ヘヴィ・メタル』に驚異を感じた勇騎は、ブロッカーの『ウルテミス』を召喚し、『アルシア』で呪文を墓地から回収した。今のままではマナが足りなくて使えないカードだが、次のターンではこれを使って、『ヘヴィ・メタル』を倒す事ができる。
「このまま俺が『ヘヴィ・メタル』だけで終わると思ってるのか?思ってねェよなァ?」
 一夜のカードの中からずっと勇騎にプレッシャーを放っている一枚があった。それは『ドボルザーク』で手札に加わったゴッド。それが今、動き出す。
「全部だ。テメェのクリーチャーもシールドも命も全部食いつくすッ!『破壊神デス』召喚!トライ・ゴッド・リンクッ!!」
 『ヘヴィ』と『メタル』の体が再び分離し、その中心に一体の神が入る。一夜の切り札三枚が揃ったのだ。
「まず、一つ。ゼロ号のクリーチャーを全て殺せェッ!」
 『へヴィ・デス・メタル』の羽ばたき一つで、勇騎の場にいた二体のエンジェル・コマンドの体が崩れ去っていく。一撃で全滅してしまったのだ。
「まだだ!二つ!ゼロ号のシールドを全てブレイク!!」
 ワールド・ブレイカー。相手のシールドを全てブレイクする脅威の能力だ。無傷だった勇騎のシールドが全て手札に戻っていく。
「三つ。判るよなァ?『ヘヴィ・デス・メタル』をお前は選ぶ事ができない。そして、四つ。お前のクリーチャーは『ヘヴィ・デス・メタル』に攻撃しなくちゃならない。お前に勝ち目はねェんだよォォッ!」
 勇騎は手札に加わったカードを見たまま、呆然とするしかなかった。それぐらい今の一夜は強かった。今まで二回倒した時以上に。
「それでも、俺は負けていない」
「あ?」
 だが、勇騎にもまだ勝利のチャンスは残されていた。『ヘヴィ・デス・メタル』は全てを破壊するクリーチャーに思われている。だが、勇騎のシールドやクリーチャーはなくなっても、マナは残っているのだ。
「『聖霊龍騎アサイラム』を召喚する」
「『アサイラム』だと?」
 『アサイラム』は、パワー6000のW・ブレイカー。破壊された時に墓地ではなくシールドになる特殊能力を持っている。
「バカか!今更『アサイラム』を出しても無駄だ!『ヘヴィ・デス・メタル』を攻撃しようにも召喚酔い!ブロッカーでもないからブロックもできねェ!ゼロ号、くだらねェ事をするんじゃねェェッ!」
「くだらないと思うか?勝つための方法が見えていたら、試すしかない」
 マナをタップした勇騎の手札から一枚のカードが放たれる。無骨な機械のようなクリーチャーが現れ、一夜の顔が凍りつく。
「『銃神兵ディオライオス』!召喚!」
「ディ、『ディオライオス』だと!?そのクリーチャーは!」
 『ディオライオス』は、登場と同時に自分と相手、それぞれが自分のクリーチャーを選んで破壊するクリーチャーだ。
「俺は『アサイラム』を選び、破壊。効果で『アサイラム』をシールドに!」
 勇騎を守るシールドが一枚完成した。それだけではない。『ディオライオス』の効果は選ばない攻撃なので、『ヘヴィ・デス・メタル』であっても破壊が可能である。
「くっ!まだだ!『メタル』を破壊!だが、これでも無駄だ、ゼロ号!選ばれるようになっても、テメェのクリーチャーは『ヘヴィ・デス』を攻撃しなくちゃならねェッ!テメェに16000のパワーを超えるクリーチャーが出せるかァッ!」
「出せないな。だから、今は時間を稼ぐしかない」
「そんな時間与えるかよォォッ!」
 一夜の手札に今の状況を打破できるカードはない。『パルピィ・ゴービー』を召喚して山札を見る事しかできなかった。
「クソがッ!『ヘヴィ・デス』でゼロ号のシールドをブレイク!」
『アサイラム』を入手する勇騎は顔色一つ変えずにカードを引く。そして、呟く。
「決まったな」
と。
「何を言ってやがる!テメェは『ヘヴィ・デス』を倒せるクリーチャーは出せねェ!シールドもねェ!『ディオライオス』は『ヘヴィ・デス』に突っ込んで死ぬ!これでどうやって勝てるんだよォォッ!?」
「一つずつその過程を見せてやる。まず、コストを削減して『セイント・ボルシャック』召喚!!」
 暗い廃工場を一筋の光が照らす。その光の中から現れたのは、エンジェル・コマンドを思わせるような銀色の鎧を纏ったドラゴン、『聖霊龍騎セイント・ボルシャック』だった。
「『セイント・ボルシャック』は、墓地にあるエンジェル・コマンド、アーマード・ドラゴンの数だけコストを減らす事ができる。故に、俺は9コストかかる『セイント・ボルシャック』を3コストで召喚した」
「く……!だから、どうした!俺には『パルピィ・ゴービー』もいる!お前のクリーチャーは絶対に『ヘヴィ・デス』に攻撃しなくちゃならねェッ!」
「なら、どうにかしてやればいいだけの話だ!『ヘヴンとバイオレンスの衝撃』、超動!!」
 空に、金色の龍が現れる。その口から吐かれる炎が『パルピィ・ゴービー』を焼き尽くし、体から発する光が『ヘヴィ』をシールドに変えて押し込んだ。
「な、何なんだよォォッ!そのカードは、なんだァァッ!!」
「『ヘヴンとバイオレンス』の衝撃。俺のバトルゾーンにドラゴンがいればパワー6000以下のクリーチャーを破壊し、エンジェル・コマンドがいれば相手クリーチャーをシールドに変えて封じる事ができる。お前のクリーチャーは『デス』だけになったな。なら、わざわざ攻撃する必要はない」
 一体だけになった『デス』はただのW・ブレイカーに過ぎない。『ヘヴィ』と融合した時の攻撃強制能力もなく、三体揃った時のように選ばれない能力もない。
「『ディオライオス』!墨川一夜の最後のシールドをブレイクだ!」
 『ヘヴィ』を封じたシールドが、『ディオライオス』の銃撃によって撃ち抜かれていく。これで、一夜を守るものは何もなくなった。
「『セイント・ボルシャック』……」
 勇騎は『セイント・ボルシャック』のカードに指を乗せる。この一撃で全ての宿命に決着がつくのだ。
 戦場で出会った奇妙な二人。自分と全く同じ顔をした敵を見た瞬間、二人の動きは一瞬止まった。
 次に出会ったのは、二人が運ばれた研究施設。片方は完全な保持者となり、片方は失敗作となった。
 その次に出会ったこの世界。何度も戦い、決着はつかなった。それも今、この場で終わる。
「墨川一夜に直接攻撃!!」
「ゼロ号ォォォッ!!」
 『セイント・ボルシャック』の燃え盛る右手が一夜の体に振り下ろされる。
「ぐおおおォォォッ!!」
 響く断末魔の叫び。そして、世界は戦うための世界から普通の世界に戻っていく。
「これで終わったんだ。これで……」
 緊張の糸がほどけたのか、一瞬だけ気が抜けたような表情になる勇騎。だが、気を引き締め直すと『ブランク』を取り出して、倒れている一夜に近づいた。
「これで、終わったと思うなよ、ゼロ号ッ!」
 一夜が立ち上がり、勇騎の首を両手で絞める。予想していなかった事に勇騎は焦った。
「今なら、この方法で殺せるよなァ?力も残ってないよなァ!さあ、死ねよォッ!」
「くっ……!」
 一夜の言う通りだった。デュエルで体力を使い果たした勇騎に、一夜の腕を振りほどく力は残っていない。
(これまでか……)
 勇騎が観念した瞬間、一夜は突然勇騎を蹴り飛ばした。数メートル吹き飛んで倒れる勇騎。起き上がると、一夜の周囲が炎に包まれていた。
「クソがァァッ!誰だ!俺とゼロ号の戦いを邪魔しやがるのは誰だァッ!」
「この匂いは……!」
 勇騎は気付いた。一夜とデュエルをしている間、灯油をまかれたのだ。そして、彼は目撃する。一夜に向かって火炎瓶のようなものが投げ込まれるのを。
「くっ……!」
 灯油に引火して、さらに激しく燃え上がる炎。一夜はもう脱出できない。
「クソがァァァッ!何で俺達の戦いを邪魔しやがる!俺は俺は俺は!奴を殺して本当の俺になるんだ!本当の保持者に!うおおおォォォッ!」
 勇騎は『プロミネンス』を拾うと、周りを見る。周りに火を消せるような物はない。諦めて彼は背を向けて立ち去った。
「ゼロ号ォォッ!俺は死なねェェッ!必ず、お前を殺してやる!必ずだ!忘れるな!」
 炎に包まれる一夜の声を聞きながら、勇騎は廃工場を出た。
外に出た勇騎は携帯電話を使って消防署に電話をする。だが、もう一夜は助けられない。
「いや……助ける必要はないはずだ」
 一夜は勇騎にとって敵でしかない。助ける必要はない。だが、それでも助けようとしてしまったのは、自分と同じ顔を持った分身のような存在だったからなのかもしれない。
「助ける必要はないんだ」
 一夜は死なないと言った。その言葉は嘘ではない。彼はまた勇騎の前に現れてくるだろう。勇騎が『ブランク』を使って彼を封じるまで、戦いは終わらない。

 第二十九話 終

 第三十話予告
 一夜との戦いで疲弊していた勇騎は、彼を探していた博成と再会する。そこに体を鎧で蝕まれたヴェルデが現れる。
「仲間に会うために、俺は本当にやるべき事をする」
 ヴェルデがすべき事。それは勇騎との戦い。今、二人の保持者の決闘が始まる。
 第三十話 深緑
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