スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『コードD』File.11 帰ってきた男

『コードD』

 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 魔法としてのデュエル・マスターズではなく、ホビーとしてのデュエル・マスターズがある世界。その世界をデュエル・マスターズで支配しようと企む悪の組織、ヴェノム・クライシス。日本の運命をかけた大会の決勝戦に勝ち進んだのは相羽征市(あいばせいいち)とヴェノム・クライシスのトップ、ヴェノムキングだった。ヴェノム・クライシスの妨害を受けながらも会場へ到着した征市はヴェノムキングに勝利し、その世界を救う。

 File.11 帰ってきた男

 『大勝利』。それが、トライアンフという言葉を日本語に訳した時の意味だ。他に『征服』という意味もあるが、そんな事を望むトライアンフメンバーはいない。
 暑さも和らいできた九月の終わりに、トライアンフの事務所は謎のデュエリスト達に襲われた。表向きは一般の家屋だが、一度入ると、特殊な空間魔法によって大会社のオフィスのように変貌するその事務所を見つける事は難しい。だが、敵は念入りに準備を重ねて計画を実行したのだ。いつの間にか事務所内にいた敵によって中にいたメンバーが倒される。事務所から緊急の連絡を受けて駆け付けようとした外のデュエリストも途中で何者かに襲われて敗北した。
 トライアンフが日本を代表する魔法使いの組織だと言っても、戦えるデュエリストは十人ほどしかいない。相手のデュエリストの数は百を超えていた。
 中と外、二重の攻撃を受けた事によって壊滅していく事務所を見た当時のリーダー、貴田一真(たかだかずま)は戦えないメンバーや、年少だった菜央と陸を逃がした後、空間魔法を使って事務所の中に敵を閉じ込め、その空間を遮断した。
 結果、トライアンフは壊滅し、生き残ったメンバーも他の組織に引き抜かれていった。リーダー、一真はこの戦いで重傷を負い、下半身が動かなくなってしまった。今では、移動に車いすを使っている。
 一真がこれだけの重傷を負ったのは自分のせいだと、陸は考える時がある。陸もデュエリストでありながら、力が未熟だったために戦いに参加させてもらえなかったのだ。もし、強ければ一真があれだけのダメージを負う事もトライアンフが壊滅する事もなかったかもしれない。
 トライアンフの壊滅からひと月がたった頃、一真、菜央、陸の三人は元々事務所があった場所に来ていた。そこはまだ、事務所の入口として家が建っている。だが、その扉を開けても、二度とトライアンフの事務所にはたどり着けないのだ。
「他のメンバーは何とか仕事先を見つけたようだ。お前達はどうする?魔法警察もお前達みたいな捜査官を欲しがっていただろう?」
 十月の終わりでも、黒いタンクトップ姿でいる青年、一真は二人の顔を見上げて優しい声で聞いた。まだ顔の半分を覆っている包帯が痛々しい。
「僕は一真さんに会う前みたいにまた適当に魔法使って仕事していきますよ。プライズの運び屋やってもいいし。菜央ちゃんはどうするの?」
 陸は隣にいる少女を見た。菜央はここに来た時から、厳しい表情をしていた。陸が話しかけても、口を利いてくれなかったので、何を考えているのかは判らない。
 陸の質問に答えずに菜央は一真に一歩近づき
「私は新しいトライアンフを作ります。リーダー、私に鍵を渡して下さい」
と、言った。強い決意を秘めたような鋭い目が一真を射抜く。一真は顔を引き締めると菜央に問う。
「やっぱり、君はそうするのか。準備はできているが、もう一度だけ聞く。他にも菜央に向いている仕事はある。トライアンフを作るよりも楽な仕事だ。トライアンフを作ったとしても、今までのメンバーが君に協力してくれるとは限らない。魔法警察には助けてもらえるかもしれないが、彼らはデュエルをする事はできない。それでも、やるのかい?」
「やります。私は新しいトライアンフを作って戦います」
 一真も菜央の決意は判っていた。菜央が新しいトライアンフを作ると決めた事は、前から聞いていた。菜央のような華奢な少女にトライアンフのリーダーという役目を背負わせる事を一真は迷っていたが、何度も説得されて彼女にトライアンフの未来を託す事を決意した。
「ちょっと待ってよ!新しいトライアンフを作るって何さ!」
 それに驚いたのは陸だ。菜央がやろうとしている事の重み。そして、それを一真が承認しようとしている事が理解できない。
「場所はもう決まっています。何かあった時のためのバックアップとして作られた場所がY市にあります。そこを事務所にして新しいトライアンフを作るつもりです。魔法警察の方とも話をして既に準備は始めています」
「そんな……!そういう事じゃなくて!」
「陸」
 何かを言いかける陸を一真が止める。それが気に食わないのか、陸は一真に食いついた。
「リーダーだって判るでしょ!トライアンフを作るって事は、また僕達を襲った敵にやられるかもしれないって事なんですよ!?今までのトライアンフには強いデュエリストがいっぱいいたけれど、これじゃ……」
「Y市は総長が住んでいた場所だ」
 一真が発した一言に陸が反応する。トライアンフの総長、相羽総一郎(あいばそういちろう)は日本最強のデュエリストと言われていた魔法使いだ。日本で最も多くのプライズが存在するY市で育った総一郎は、その環境があったからこそ強力な魔力を身につけられたと言われている。
「Y市ならば、強力な仲間が見つかるかもしれない。菜央はそう考えているんだ。総長の孫がいるという話も聞いている」
「それに、Y市はプライズが多い場所です。プライズに関する事件も多いに違いありません。そこで事件を解決していけば、いつか、私達を襲った敵も目をつけてくるでしょう」
「だったら、危ないじゃないか!なのに、何で!?」
「陸君は、負けたまま引き下がれますか?」
 菜央が陸を真っ直ぐな目で見た。その目に涙がたまっている事を陸は見逃さなかった。
「私は負けたままでいる事なんてできない。それに彼らを放っておいたら、多くの人が被害を受けるかもしれません」
 菜央は再び、一真を見た。一真は首から下げていた小さな金色の鍵を菜央に渡す。
「判った。判ったよ!僕も新しいトライアンフで戦う!」
 陸がそう言ったのを聞いて、一真と菜央の二人はその少年の顔を見た。
「一人でトライアンフを作ろうなんて言うもんじゃない。僕は行く当てがないんだからこれからもトライアンフのデュエリストとして戦うよ。これからもよろしくね、菜央ちゃん。いや、これからはリーダーか」
 陸はそう言って右手を出す。
「ありがとうございます、陸君。これからもよろしくお願いします」
 菜央はその手を握る。陸は、菜央のその手がかすかに震えているのを見て、菜央が背負ったものの重さを感じ取った。そして、その重みが少しでも軽く感じられるように努力しようと思うのだった。

 暗闇の中にいる。湊はそう感じていた。
「ちっ、追い詰められたみたいだな」
 そう言うのは征市だ。近くにいるのは判るが、声がするだけで湊からは姿が見えなかった。
「どこへ行ったんだ、あいつ!」
 陸も近くにいる。しかし、征市と同じように姿が見えなかった。
「気をつけて下さい。近くにいるのは間違いないはずです」
 珍しい事に、菜央も現場に出て来ていた。凛とした声が聞こえて湊は安心する。
 湊は周囲を見る。そこには闇しかない。だが、仲間がそばにいるから心配はいらない。どんな敵がいても乗り越えられると思っている。
 その時、くぐもった低い声と共に誰かが倒れる音がした。
「セーイチさん!しっかりして下さい!ぐっ!」
 それを見た陸も同じように倒れる。湊に聞こえるのは彼の声と倒れる音だけだ。続いて菜央が倒れる音がした。
 暗闇の中にシルエットが浮かぶ。輪郭しか見えていないが、湊はこの人物が誰なのか知っていた。そして、この人物がトライアンフのメンバーに手をかけた事も瞬時に理解した。
「あなたが僕の仲間を攻撃するなんて……。どうしてですか!」
 目の前にいる人物は仲間だったはずだ。それなのに、他の仲間を攻撃する事が信じられない。
 目の前のシルエットは手を伸ばして湊につかみかかる。それを振り払おうとした瞬間、湊の手に痛みが走り、目が覚めた。
 夢だったのだ。振り上げた手が壁に当たっている。それがぶつかった痛みで目が覚めたのだ。
「裏切り……?」
 夢の中の恐怖を心の奥へ抑え込みながら、湊は呟く。あれは、予知夢だ。鎧武者のプライズの時と同じように、何度かこの夢を見た。最終的に湊の脳裏に浮かぶのは『裏切り』という言葉だった。
 湊はトライアンフのメンバーの顔を思い出す。征市、陸、菜央。この三人が仲間を裏切るとは思えない。だが、湊の夢は仲間の中の誰かが裏切ってトライアンフが全滅する内容になっているのだ。
 ベッドの上で怯えながら、湊は解決策を探す。ただの夢ならばそれでいい。しかし、これは予知夢なのだ。近い将来、この夢が暗示する事が起こる。仲間の全滅を避けるために行動を起こさなくてはならない。
「相談しなきゃ……。征市さんに……」
 湊が最初に思い浮かべたのは征市だった。うまく言えないが、征市が一番信頼できると感じたのだ。彼に相談して、この予知夢の事件を無事に終わらせよう。
 そう決めると、湊はベッドから降りた。

 征市、陸、湊の三人は、Y市のK公園の中を走っていた。湊がトライアンフの事務所に着いてすぐに、プライズが暴れているという通報があったのだ。三人を迎えに来た魔法警察のパトカーに乗ってK公園の入口まで移動し、そこから三人は魔法警察の警官によって警備された敷地内に入った。
 K公園は、広い敷地を持つ大型の公園であり、近隣住民が花見やピクニックに訪れる事もある公園だ。ブランコのような一般的な公園の遊具だけでなく、アスレチックの設備もある。
 休日だけでなく、平日も多くの人が訪れるK公園だが、今の敷地内には征市達三人のデュエリストしかいない。プライズが暴れているために、魔法警察によって避難させられたからだ。
「平和な公園で暴れるなんてどんなプライズなんでしょうね。空気読めよな!」
「ぼやいてる場合じゃねぇだろ。ここは広いんだ。三人で分担して探そう」
「OK!」
 征市の提案を陸は受け入れる。だが、予知夢の事を思い出した湊は征市の手をつかんだ。別行動を取ったら、一人になった瞬間、裏切り者に襲われるかもしれない。それに恐怖して、思わずつかんでしまったのだ。
「湊?どうしたんだ?」
「僕は、三人で一緒に探した方がいいと思います」
 湊は征市を見上げながらそう言うと、彼の手を強く握った。
「はぁ?何でそうなるのさ。三人で別れて探した方が効率がいいじゃないの!」
 突然の提案に陸は納得できなかった。効率を考えたら、それは当然の事である。
「どうしたんだ?何か困る事でもあるのか?」
 征市も困惑して湊に聞き返す。湊は、裏切り者の予知夢の話をしようとして、思いとどまる。もしかしたら、陸がその裏切り者なのかもしれないのだ。
「どうしたのさ?早くしてよ!」
 湊がどうやって話せばいいのか言葉を選んでいると陸が催促する。意を決してありのままを言おうとしたその時、何かがぶつかり合うような大きな音は人間のものでも動物のものでもない雄たけびが聞こえた。
「誰かがデュエルをしているみたいだ。急ごう!」
 陸は音がした方向へ走る。征市と湊もそれに続いた。
 三人が公園内にある池の近くまで行くと、デュエルはそこで行われていた。
 片方は黒い服の青年だ。シールドが0枚という危機的状況に追い込まれながら、ブロッカーを大量に召喚して防御を固めている。
 対戦相手は青いシャツにジーンズの男だった。征市達に背を向けているため、顔は判らない。シールドは一枚も破られていないため、五枚残っている。だが、クリーチャーが一体もいなかった。
「へぇ、ブロッカーを増やすんだ。無駄だと思うけどね」
 青いシャツの青年は軽い口調でそう言うと、一枚のカードを場に投げた。青い光と共にそれがクリーチャーの姿へ変貌していく。
 場に出たのは、全身が液体でできたような人型のクリーチャー《アクア・ガード》だった。1コストで召喚できる軽量ブロッカーだが、攻撃する事はできない。
「あの人、何でブロッカーなんか……」
「よく見てごらん。意味はあるから」
 ブロッカーを召喚した事に驚く湊に、陸が言う。断言した陸の顔を湊が見ると、その目はじっと対戦している二人を見ていた。
「知っているみたいな言い方だな」
「知っているんですよ。もしかして幽霊かも……」
 陸の奇妙な言葉を聞いて驚いた征市は彼の顔を見た。陸は目の前の出来事を余す事無く記録するかのように、目を見開いてそのデュエルを観察していた。
「ブロッカーなんか、って思ってる?ブロッカーじゃない。進化元さ!」
 青いシャツの青年の手元から離れたカードが《アクア・ガード》に突き刺さる。すると、《アクア・ガード》は青い光を発して、半身半馬の青い騎士へと姿を変えていく。完全に姿が変わった瞬間、そのクリーチャーは周囲に衝撃波を発した。衝撃波を受けて、黒い服の青年のブロッカーがカードの姿に戻り、全て手札に戻っていく。
「僕の切り札、《クリスタル・パラディン》さ。場に出た時、全てのブロッカーを手札に戻す進化クリーチャー。進化クリーチャーだから、召喚酔いもない」
 淡々とした口調で青いシャツの青年は解説する。その言葉が黒い服の青年に重くのしかかる。
「幻となって消え失せな。《クリスタル・パラディン》でとどめだ!」
 《クリスタル・パラディン》は四本の足で草を踏みながら走ると、持っていた剣で黒い服の青年を突き刺した。青年が倒れ、その体から灰色の煙が出ていく。
「こんなもんかな」
 そう言うと、青いシャツの青年は結界を解除し、カードをデッキケースに戻して、倒れたままの黒い服の青年に近づいた。
 陸は、その青いシャツの青年に近づいて歩く。そして、青年の背中に声をかけた。
「元喜(もとき)さんですか?僕の知っている木口(きくち)元喜さんなんですか?」
 しゃがみ込んで黒い服の青年を見ていた青いシャツの青年は顔を陸に向けた。柔和でまだ子供らしさの残る顔に、明るい茶色の髪。久し振りに出会った後輩を見て、元喜と呼ばれた青年は微笑んだ。
「久し振りだね、陸。元気にしてた?」
「元喜さん!」
 それを聞いて確信したのか、陸は元喜に近づくと、その手を取った。
「生きていたんですね!よかった。僕、心配していたんですよ!リーダーも……あ、前のリーダーの一真さんじゃなくて、今のリーダーは菜央ちゃんなんですけど、とにかくリーダーも喜ぶと思います!」
「ああ、そうか。一真さん、もうリーダーじゃなくなっちゃったんだね。事務所に行ったけれど、誰もいなかったからどうしたのかと思ったけれど、色々な事情があったのかな?」
 陸と元喜が会話をしているところに、征市と湊が不思議そうな顔をして近づく。その二人を元喜が見る。
「陸、その子達は誰?魔法使いみたいだけど、知り合いなのかな?」
 陸は、自分の後ろにいる二人を見ると、元喜に対して
「紹介しますよ。相羽征市さんと若月湊君です。今のトライアンフのメンバーで二人ともデュエリストですよ」
と、紹介した。征市達に対しても
「この人は木口元喜さん。トライアンフのメンバーだった人ですっごく強いんだ!」
と、言った。その顔は、仲間に再会できた喜びで満ち溢れている。元喜は陸の隣に立つと、征市と湊を見て言った。
「木口元喜、二十一歳です。よろしく」
「元喜さん、童顔だから二十歳過ぎてんのに未成年に見られちゃうんですよね」
 陸の解説があって、征市は元喜が自己紹介の時に年齢を言った事の理由に納得した。征市も元喜は未成年だと思っていたのだ。
「相羽征市です」
「若月湊です」
 征市と湊も自己紹介をして、元喜と握手をする。握手を終えたのを見た陸が元喜の肩に手を置く。
「元喜さん、早く行きましょうよ!トライアンフの新しい事務所はY市にあるんです。早く戻ってリーダーを驚かせちゃいましょうよ!」
「ん、そうだね。でも、その前に……」
 元喜は振り返って黒い服の青年を見る。陸達も一緒になって見ると、そこに青年の姿はなかった。
「逃げられたって事?」
「いや、違うよ」
 陸の質問に答えた元喜は、青年がいた場所を見て何かを拾った。それはチェスの駒だった。黒のポーンを手に取った元喜は三人に近寄ると
「これがさっきまで僕が戦っていた相手だよ。詳しい事は歩きながら説明しようかな。トライアンフの新しい事務所も見てみたいし」
と、言った。
 警備をしていた魔法警察に報告をした四人は市営地下鉄に乗ってQ区に向かった。K公園の最寄り駅からQ区に向かうまでの間、陸は元喜が昨年九月のトライアンフ旧事務所壊滅事件で行方不明になっていた事を征市達に話した。
「戻ってきてくれてうれしいですよ!ところで、今まではどこにいたんですか?」
 九月の事件で行方不明になって以来、半年以上も音信不通になっていたのだ。陸が疑問に思うのも当然である。
「トライアンフを襲った組織の調査をしていたんだよ」
 元喜のその答えを聞いて、地下鉄内のその場の空気が変わる。陸は目を大きく開けて続きを促した。
「表向きは行方不明って事にしておいた方が敵にも気付かれにくいだろうと思ってね。君達に報告できなかったのは、事件で負ったダメージのリハビリに忙しかったのと、それから回復したら事務所がなくなっていて連絡ができなかったっていうのがあったからかな。でも、こうやって会えたんだから、持っている情報を全て託せそうだよ」
「おおっ!リーダーもきっと喜びますよ。早く着かないかなぁ、この電車」
 陸は、その後も元喜と他愛ない話をしていた。そのほとんどはとりとめのない世間話で、征市と湊がそこに入り込む事はできなかった。
 Q区に到着し、四人は事務所に向かった。絵画の下のエレベーターに乗り込むと、陸は元喜を見て
「元喜さんは、後ろの方に行っててもらえますか?ちょっと僕にいい考えがあるんですよ」
と、いたずらを思いついた子供のような顔で笑っていた。その顔を見ただけで何かを察したのか、元喜は快く頷き、後ろに下がる。エレベーターのドアが開いて、まずは陸が降りた。
「リーダー、リーダー!今日はスペシャルプレゼントがあるんですよ!」
 書類を見ていた菜央は眼鏡を取ってデスクの上へ置くと陸を見た。
「珍しいですね。陸君がプレゼントなんて初めてじゃないですか?」
「いやいやいや、僕はよくプレゼントをあげてるじゃないですか。愛のささやきとか……」
「陸君」
 菜央は笑顔でおしおき部屋のドアを指す。そのドアを内側から叩くような音と、怨念のこもった何者かの声を聞いて陸はその続きを言うのを控えた。
「いや、今回のはそういうんじゃないんです。きっとリーダーも喜ぶと思うんですけどね」
 そう言って陸はエレベーターを見ると
「どうぞ。入って下さい」
と、言った。征市と湊が降りた後、元喜が降りてきた。行方不明だったはずの元喜の姿を見て、菜央の手からペンが落ちる。
「え……?本当に、元喜さんなんですか?」
 菜央は立ち上がって元喜に近づく。元喜は笑顔で
「そうだよ。ただいま、菜央ちゃん。あ、いや、今はリーダーか」
と、言った。
「おかえりなさい、元喜さん!ずっと待っていたんですよ!無事でよかった!」
 今にも泣きだしそうな顔で感激する菜央。その光景を見ていた征市も思わずもらい泣きしそうになっていた。
「連絡できなくてごめんね。陸にも話したんだけど、色々あってさ。それよりも、まずはこれについての話をしなくちゃいけないんだ」
 元喜は、透明なパックにしまっていた黒いチェスの駒をズボンのポケットから取り出すと、近くのデスクの上に置いた。メンバー全員の視線がそれに集まる。
「チェスの駒のプライズ。今回、僕が倒したプライズで、去年、僕達の事務所を襲った敵の正体だ」
 元喜の台詞の後半部分を聞いて、菜央と陸の表情が強張る。指先でチェスの駒のプライズをいじりながら、元喜は話を続けた。
「これは魔力を注ぎこむ事で人間の姿へ変化する。これはポーンだから、そんなに強くはないけれど、他の強い駒も存在している。駒の強さに応じて必要な魔力は違うみたいだよ」
「じゃあ、キングなんかはものすごい魔力が必要って事ですか?」
 元喜は、陸の問いに首を縦に振って答えた。そして、その後も説明を続ける。
「チェスの駒のプライズなんだけど、本物のチェスの駒と同じ数とは限らない。僕は、ポーンばかり何度も見ているからね。キングやクイーンみたいな駒を相手にした事は、まだない」
「げ……!マジっすか。じゃあ、そんな駒が現れたら」
「僕でもきついかもしれないね」
 陸の疑問に、元喜はさらりと答える。元喜はポーンのプライズをあっさり倒していたが、それ以上の駒はどうなるのか判らない。未知数の強さだ。
「事務所を襲った敵は、このプライズに多くの魔力を注ぎこんで人工のデュエリストとして使用していたんだ。あれだけの数だったんだから、使われたのはポーンで間違いないと思う。もう、事務所に入る事はできないから確認できないけれど、間違ってはいないはずだよ」
 その言葉に菜央は頷いてポーンの駒を手に取る。かすかに魔力が残っているのは判るが、それが事務所崩壊の事件の時に感じた魔力と同じものかどうかまでは判らない。
 その様子を見ていた征市の腕を引く者がいた。湊だ。真剣な眼差しで征市を見ている湊は、何か言いたそうにしていた。
「どうした?」
「ここでは言いにくいので、休憩室まで来て下さい」
「……そうだな」
 元喜達三人は、ポーンのプライズを囲んで過去の事務所崩壊の事件に関しての話し合いをしている。征市は休憩室に行く事を伝えると、湊を連れて移動した。
 休憩室のソファに座って征市は隣にいる湊を見た。湊は慎重に言葉を選びながらゆっくりと話し始めた。
「最近、予知夢を見るんです」
「予知夢って、鎧武者の時みたいなのか?」
 湊は頷いて話を続ける。
「そうなんです。今回、僕が見た予知夢は……」
 そこまで言って湊は口をつぐむ。湊も、今回の予知夢の内容を疑っているのだ。例え、その予知夢が真実を表していたとしても、仲間の中に裏切り者がいるとは考えたくない。だが、黙っていても先には進まないのだ。
「僕が見た予知夢は、裏切り者が出る夢なんです」
 意を決して、湊は話し始めた。暗闇の世界の中で、仲間が何者かによって倒されていく事。そして、仲間を倒していったのが仲間だったはずの存在だという事。覚えている事、夢で見た事を全て征市に伝えた。
 それを聞いて、征市は裏切り者の存在を否定する前に考える事があった。菜央が探していた魔道書だ。陸に内緒で菜央がどんな魔道書を探していたのか、征市は知らない。菜央に聞く事もせずに、この問題について答えを出す事を放置していた。
 確かに、菜央は陸に内緒で魔道書を探していた。征市にもそれは話していなかった事だ。だが、それと裏切りは結びつかない。秘密にしている事があるというだけだ。
 菜央は裏切り者ではないと考えながら、征市の頭の中では秘密にしている魔道書の存在が大きく膨れ上がっていた。関係ないと思えば思うほど、湊が見た裏切りの夢と直結するように思えてしまう。
「征市さん……?」
 ずっと考えていたせいか、時間が過ぎるのを忘れていた。湊が心配そうな顔で見ている。
「教えてくれてありがとう、湊。俺はトライアンフの仲間の中に裏切り者がいるとは思えないけれど、これからは気をつけてみるよ」
「僕も、仲間の中に裏切り者がいるなんて信じられません。嘘であって欲しいです」
 湊が手を握り締めながら言う。それは征市も同じ気持ちだった。
 話を終えて征市がソファを立ち上がろうとした瞬間、休憩室のドアが開いて陸が入ってくる。その後ろには元喜も一緒だ。
「なんだ。話は終わったのか?」
「そうなんです。それで、元喜さんが今夜寝泊まりするところを探しているっていうから、独身寮に行こうと思って」
「できれば、これからずっと寮で暮らしたいと思うよ」
「大丈夫ですよ。これからトライアンフのメンバーとして復帰すれば、独身寮が使えるようになりますって」
「判った。俺も行くよ。湊はどうする?」
 征市は、二人の会話を聞いて立ち上がるとソファに座っていた湊に聞いた。
「僕は、このまま帰ります。また明日」
「うん、判った。気をつけてね!」
 陸が手を振る。湊はソファから立ち上がると、ドアまで移動する。その途中で征市とすれ違う時に
「一人の時は気をつけて下さい」
と、言い残した。
「よし!じゃ、僕らも行こうか。元喜さん、今日は僕がカレー作りますから食べて下さいね!セーイチさんは荷物持ちですよ!」
「げっ!何で俺が荷物持ちなんだよ」
「いいからいいから。くっくっく、カレー作りを極めた僕の腕が鳴るぜ!」
 やる気になっている陸を先頭に、三人は事務所を出ると近くのスーパーでカレーの材料を買ってからトライアンフの独身寮に向かった。
 その間、征市も元喜と色々な話をした。元喜も陸と同じように気さくな人格の人間で話しやすかった。征市がやっている手品に興味を示してくれた事もうれしい。
 三人が歩きながら坂を上っている時、目の前から歩いてくる一人の人物がいた。その人物の顔を見て、征市と陸の表情が固まる。
 目の前からやってきたのは、征市とまったく同じ顔をした男だ。本物の征市と違うのは、赤ではなく黒いブレザーを羽織っている事だけである。
「何だ、こいつ……!俺の偽物か?」
 征市は、上着のポケットチーフに手をかけて、デッキを取り出そうと準備する。だが、その手を元喜が制した。
「ここは僕に任せてもらおうかな、征市君。陸も、僕の戦いを見て勉強しておくといい。これがトライアンフメンバーの戦い方だ!」
 元喜が空に右手を伸ばすと、その手に水の塊のようなものが生まれる。そこから水が弾けると、金属製のデッキケースが乗っていた。それを見て偽者の征市も上着の懐からデッキを取り出す。
「デュエリスト三人を相手に一人で来るなんて、命知らずだね。無知な奴はこれだから困る」
 元喜の前に青い色のシールドが五枚現れる。偽者の征市の前にも灰色のシールドが五枚現れた。デュエルが始まるのだ。
「僕から行くぞ!《アクア・ガード》召喚!」
 元喜は1ターン目から行動を開始した。征市のデッキも陸のデッキも1ターン目からクリーチャーや呪文を使う事はできない。それができるのは速攻デッキだが、元喜が出したのはブロッカーである。この《アクア・ガード》は攻撃する事はできない。
「攻撃できないブロッカーを最初から召喚するなんざ、素人の戦い方だな。トライアンフのメンバーと聞いてどんな奴かと思っていたが、がっかりだぜ!」
 偽者の征市は、本物と全く同じ声で話すとマナに光と水の文明が混ざった多色カードを置いた。彼も1ターン目から動く事はできないらしい。
「1ターン目にこいつを召喚するから意味があるのさ。《アクア・ガード》を《クリスタル・ブレイダー》に進化!」
 元喜が投げたカードが《アクア・ガード》の姿を変化させていく。それは征市達がK公園の戦いで見た《クリスタル・パラディン》と同じような半身半馬のリキッド・ピープルだ。《クリスタル・パラディン》と違う点は、両腕に丸い盾を持っている点である。
「《クリスタル・ブレイダー》で攻撃!」
 元喜はすかさず、攻撃を命じる。サラブレッドのように整えられた足音で駆けて行った《クリスタル・ブレイダー》は手に持っていた盾をシールドに打ちつけた。偽者の征市のシールドが一枚破られ、手札に戻っていく。
「進化クリーチャーだと!?」
 2ターン目にシールドをブレイクされるなど、よほどの速攻デッキでない限りありえない事だった。その速度に偽者の征市は驚く。
「どう?意味あったでしょ」
 元喜の余裕のある微笑みが気に食わないのか、偽者の征市は奥歯を噛みしめると、クリーチャーを召喚した。無骨なロボットのようなそのクリーチャーは、シールドを守るように立ちふさがる。
 そのクリーチャーの名は《霊王機エル・カイオウ》だ。2コストだが、光と水の二つのマナを必要とするため、普通のブロッカーよりもパワーが高い4500である。
「《エル・カイオウ》か。うん、強いブロッカーだね。僕の敵じゃないけれど」
 元喜の手札の中のカードが青い光を放ち、場に飛びだす。それは曲線を描いたフォルムのロボットへ変化する。《弾丸透魂スケルハンター》だ。
「パワー1000のザコクリーチャーじゃねぇか!タップした後、《エル・カイオウ》で叩き潰してやるよ!」
「そう。じゃ、《クリスタル・ブレイダー》はどうするの?」
 突進していく《クリスタル・ブレイダー》。偽物の征市は迷ったが《エル・カイオウ》を失う事を恐れてその攻撃をブロックしなかった。二枚目のシールドがブレイクされる。その瞬間、シールドが輝きそこから巨大な波と、それに乗った青い影が《クリスタル・ブレイダー》を流していった。波に飲まれた《クリスタル・ブレイダー》は、二枚のカードになって元喜の手に飛んでいく。
「シールド・トリガー《アクア・サーファー》だ!あとは、ザコ一体!恐れる必要はないぜ!さらに……」
 《エル・カイオウ》の横に、金色の奇妙なブロッカーが現れる。それは、相手のターンのみ自分のクリーチャーのパワーを2000増やす《曙の守護者パラ・オーレシス》だった。
「OK。これなら《クリスタル・ブレイダー》も怖くないぜ!《アクア・サーファー》でお前のシールドをブレイク!」
 元喜のシールドが《アクア・サーファー》の突撃によって破られていく。そのカードはシールド・トリガーではなかった。だが、元喜は余裕を感じているのか軽い微笑みを浮かべている。
「おい、陸。元喜さん、余裕みたいだけど、油断していていいのかよ?」
 征市もあまりの余裕に心配して陸に尋ねる。
「大丈夫ですよ。元喜さんは、僕より強いんですから」
 陸は、元喜を信じて彼の戦いから目を離さない。久し振りに見る先輩の戦い方から何かを盗もうと観察しているようであり、同時に彼の戦いを見られる事を喜んでいるようでもあった。
「じゃ、次は手札かな。それっ!」
 元喜は、軽やかな手つきでカードを一枚場に投げる。そのカードが青い光を放ったかと思うと、中から四体のリキッド・ピープルが飛び出してきた。
「四体のリキッド・ピープル!?」
 偽者の征市もそれに驚く。元喜は、ドラマに出てくる外国人のように大げさに肩をすくめながら
「クリーチャーじゃない。呪文だよ。《ストリーミング・シェイパー》さ」
 《ストリーミング・シェイパー》から飛び出した四体のリキッド・ピープルは一体ずつ山札の上を飛び越えていく。その瞬間、一枚ずつ山札の上のカードが空へと弾かれていった。全部で四枚のカードが空へ飛んでいくと、青い光を放って元喜の手札となるため、彼の手元へ飛んでいく。
「元喜さんの超絶ドロー呪文、《ストリーミング・シェイパー》は山札の上から四枚めくって水文明のカードを手札に加える呪文。元喜さんのデッキは水文明のカードだけでできているから百発百中ですよ」
 それを見ていた征市の横で陸が解説する。征市が普段使う《エナジー・ライト》よりも二枚多くドローできるカードなのだ。
「さらに《アクア・ガード》を召喚して、《スケルハンター》で攻撃!」
 《スケルハンター》は足を宙に浮かせて高速移動を試みる。加速したままシールドに向かって一直線に突撃するが、その前には《エル・カイオウ》と《パラ・オーレシス》が立ち塞がった。
「馬鹿な野郎だ。《エル・カイオウ》で《スケルハンター》をブロック!」
「馬鹿はどっちかな?」
「何っ!?」
 元喜の挑発的なセリフに偽者の征市が眉を動かすと、彼の目の前で《スケルハンター》の姿が突然、消えた。驚いて周囲を見渡すがどこにもその姿はない。
「どこだ!どこに消えたんだ!?」
 偽者の征市が《スケルハンター》の姿を探していると銃声と共に、偽者の征市のシールドにいくつもの穴が開いていく。その穴からは一筋の煙が立ち上っていた。銃声が止むと、シールドの前に《スケルハンター》の姿が現れた。その腕についた銃口からはシールドに開けられた穴と同じように煙が立ち上っている。
「確かにブロックしたはずなのに……。パワー1000のザコクリーチャーのはずなのに……!」
「《スケルハンター》はブロックされないクリーチャーさ。勉強が足りなかったね」
 驚く偽者の征市に対して、元喜が解説する。最後につけた一言が偽者の心を苛立たせた。
「ブロックされなくても、所詮はパワー1000のクリーチャーだ。俺のクリーチャーの敵じゃねぇ!《エル・カイオウ》で《スケルハンター》を攻撃!」
 《エル・カイオウ》は腕を振り上げて《スケルハンター》に近づく。腕を振り下ろした瞬間、周囲に振動が伝わった。
「やった……!」
 偽者の征市は、右手で握り拳を作るとガッツポーズを取る。その様子を見ていた元喜は、静かに手を叩いた。
「おめでとう。うん、おめでたい頭だ」
「何だ?負け惜しみか?」
 《スケルハンター》が倒されても余裕を崩さない元喜を見て、偽者が言う。そして、その瞬間、《スケルハンター》の姿が再び、場に現れた。
「そんな……!確かに今、倒したはずなのに!」
「《スケルハンター》は攻撃もブロックもされないクリーチャーさ。恥ずかしがり屋さんだから、クリーチャーに触れないんだね。だから、クリーチャーへの攻撃はできない。そこは安心してもいいよ。こいつが君のクリーチャーを倒す事はないから」
 そう言うと、元喜は偽者のシールドを指して
「シールドは頂くけどね」
と、言って挑発する。
 その後も、デュエルは元喜のペースで続いた。相手を挑発する余裕と、それを裏打ちする実力は間違いなく本物だった。
「さてと……そろそろ決着つけちゃうかな?」
 元喜の場には、《スケルハンター》が二体と《アクア・ガード》二体、《アクア・スーパーエメラル》が並んでいる。シールドは三枚残っていた。
 一方、偽者の征市のシールドは一枚。ブロッカーが大量に並んでいるが、《スケルハンター》の前では意味がない。
「どう考えても元喜さんの勝ちだな」
 征市がそう言うが、元喜は鋭い視線で相手の最後のシールドを見ている。長い間、見つめていたかと思うと、手札から一枚のカードを取り出した。その一枚が今までにない強烈な輝きを放つ。
「ここは安全第一で行こうか。僕の切り札を呼び出して一気に決める!」
 元喜が場にそのカードを投げると、それを中心にカードの姿に戻った《アクア・ガード》二体と《アクア・スーパーエメラル》一体が竜巻を起こすように飛びまわる。その四枚が重なると、青い光を放って姿を変えていく。
 そこに現れたのは、元々のクリーチャーとは似ても似つかないような巨大な存在。丸い球体が三つついたオブジェのような独特の下半身に人間の女性のものを思わせるような上半身がついた銀色のクリーチャー。
「僕の切り札《超神星マーキュリー・ギガブリザード》だ」
 《マーキュリー・ギガブリザード》は矮小な生物でも見るような目で偽物の征市を見ていた。
「ははは……!いくら巨大なクリーチャーって言っても、ブロックされないわけじゃない!何の意味があるんだよ!」
 その圧倒的な存在感に怯えながらも、偽者の征市は虚勢を張った。それを見て腕を組むと、元喜は自分のクリーチャーに命令をする。
「《スケルハンター》。シールドを攻撃」
 《スケルハンター》が命令に応じてシールドに突撃すると、ブロッカーの前で姿を消し、シールドの前で現れて腕についた銃を撃つ。三発目の銃声が響いたところで、シールドのひびから金色の光が現れた。それを見た偽者は笑い始める。
「ははははは!やったぞ!シールド・トリガー、《スーパー・スパーク》だ!お前のクリーチャーは全部タップされる!」
 そう言った後、偽者は裏向きのまま一枚のカードを見せた。そのカードの淵が金色に光った。
「これでいい。次のターン、俺の切り札で無防備なシールドを全部ぶち壊してぶっ殺してやるよ!」
「やれやれ。そんな事できると思ってんの?」
「何っ!?」
 元喜の言葉に驚いたのは、偽者だけではない。征市も驚いていた。
「信じられないって顔しているね。じゃ、見せてあげようか。《マーキュリー・ギガブリザード》、メテオバーンで呪文を破壊しろ!」
 《マーキュリー・ギガブリザード》が持っていた槍を振ると、体の球体の一つが輝きを失った。その瞬間、光を発していた偽者のシールドが凍りつき、砕け散っていった。
「何をやった!?」
「不勉強なんだね。教えてあげるからよく聞くんだよ。僕の《マーキュリー・ギガブリザード》は、メテオバーンで進化元を捨てる事で、呪文の効果を無効化して墓地に送る事ができる。もう一体残った《スケルハンター》はタップされず、ブロックされずに君にとどめをさせるってわけ」
 元喜がそこまで言うと、《スケルハンター》は偽者目がけて移動を始めた。
「《エル・カイオウ》!《パラ・オーレシス》!誰でもいい!《スケルハンター》から俺を守れ!」
「無駄だ。幻となって消え失せな」
 偽者の前に現れた《スケルハンター》がその体を打ち抜いていく。断末魔の叫びと共に倒れた偽者の征市は、黒い光を発するとチェスの駒へと姿を変えていった。これもチェス駒のプライズだったのだ。
「ポーンが俺の姿をしているってのは、いい気分じゃないな」
 征市は、元喜が倒したポーンのプライズを見るとそう呟いた。
「セーイチさんの実力だったら、ポーンで丁度いいんじゃないですか」
「うるせぇな。お前だって、自分の偽者が現れて、その正体がポーンだったら嫌だろ?」
 陸とくだらないやりとりをしながら、征市は一つの事を考えていた。このプライズを使えば、トライアンフの中に裏切り者を紛れ込ませる事も容易ではないかという事だ。
「もしかしたら……」
 征市が呟くと、興味深そうな顔で元喜が彼を見る。
「どうしたんだい?」
「ええ、実は……」
 征市は、湊が予知夢を見る事が出来る事、湊が最近見た予知夢の内容、そして、それがチェス駒のプライズの出現を意味しているのではないかという推理を話した。
「このポーンのプライズは、俺の姿をしていました。俺達を狙っている敵がいて、俺達の事を知っているとしたら、俺達の誰かの偽者を紛れ込ませておくかもしれません」
 征市の言葉を聞いて、元喜は「ふむ」と顎に手を当てて考え込む。
「僕ではすぐに対策は思いつかない。けれど、チェス駒のプライズが僕らの仲間のふりをして入り込んでいるかもしれないから、気をつけよう。調査やパトロールの仕事の時はできるだけ二人以上で行動をして、単独行動を取らない。これだけでも大分変わってくると思うんだ」
 もし、チェス駒のプライズがトライアンフメンバーの誰かに成り済ますのならば、一人になった時に入れ替わるのが一番都合がいい。二人以上で行動すれば、そのチャンスを奪う事ができる。
「魔法警察や魔法図書館の資料を読んで対策を考えてみよう。きっと、対策が見つかるよ」
「そうですね」
 元喜に話して、征市は安心した。そして、自分よりも経験が豊富な先輩がいるというだけで、こうも安心できるものかと感じた。
 新しい仲間を心強く感じながら、征市は元喜と陸と共に独身寮への道を歩いた。

 『File.12 裏切り者は誰だ』につづく
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

Twitter

FC2カウンター

FC2カウンター

現在の閲覧者数:

検索フォーム

QRコード

QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。