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『コードD』File.12 裏切り者は誰だ

『コードD』

 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 魔法警察からの連絡を受けてK公園で暴れているプライズを退治しに来た征市、陸、湊の三人だったが、問題のプライズは既に他のデュエリストによって倒されてしまった。そこにいたデュエリストは、Y市に移転する前のトライアンフにいた木口元喜(きくちもとき)だった。元喜は、昨年九月の旧トライアンフ襲撃事件の後に、事務所を襲撃したプライズについて調べていたのだ。今回、彼がK公園で倒したチェス駒のプライズが旧トライアンフ事務所を襲撃したプライズだ。
 それらを菜央に報告した元喜は、征市、陸と共にトライアンフの独身寮に向かう。そこに現れたのは、征市の姿を真似たチェス駒のプライズだった。それを難なく倒した元喜だったが、三人はこのプライズが仲間の振りをしてトライアンフ事務所にもぐり込む危険性を感じていた。

 File.12 裏切り者は誰だ

 Q区にある教会跡地。
 朝の光を浴びながら、銀髪の少女は数日前に部下に命じて持ち込んだ椅子に座っていた。リクライニングのついた背もたれに体を預けながら、少女にいつもついている執事風の男から水の入ったグラスを受け取る。
「大分、ここも使いやすくなってきたみたいね。あとは、心霊スポットと勘違いしてくる奴らさえ来なければ完璧だけれど……」
 そう言って、少女はグラスの水を飲み干し、執事風の男に渡す。次は右手で近くの箱に手を入れ、何かを取り出した。それは、トライアンフのメンバーを襲ったポーンのプライズだ。
「そろそろ忌々しい奴らにもう一度鉄槌を下してやらないといけないみたいね。そのためには、準備が整うのを待たないと」
 かつて少女は、トライアンフを壊滅させるためにチェス駒のプライズを大量に送りこんだ。トライアンフを壊滅させる事には成功し、結果的に少女は勝負に勝ったと言える。だが、トライアンフ側の抵抗によって、トライアンフの事務所内にいた大量のチェス駒プライズが事務所ごと消されてしまったのだ。多少の損害は覚悟していた少女だったが、半数以上の駒を奪われたのは屈辱的であった。
 その後、トライアンフのメンバーだった琴田菜央が新しいトライアンフを作っている事を知った少女は、それを叩き潰す事を決意する。チェス駒のプライズを増産するのと共に、様々なプライズをY市に送りこんだのだが、新しいトライアンフはそれらのプライズが起こした事件を全て解決した。少女の切り札でもあった鎧武者のプライズや、一緒に行動している青年が放った魔法のランプもトライアンフを壊滅させる事はできなかった。痺れを切らした少女は、また同じ方法でトライアンフを終わらせる事に決めたのだ。
 教会の扉が開き、銀髪の男と同じような姿の黒髪の執事風の男が入ってくる。男は少女の前に跪くと、懐から一枚の白い封筒と取り出して少女に渡した。少女は封筒を開け、中に入っていた手紙の内容を目で追った。唇の端が上がり、満足そうな表情に変わっていく。
「準備はできたみたいね。楽しみだわ」
 少女は椅子から降りると、二人の男の姿を見て言った。
「デッキの準備をしなさい!今からトライアンフに地獄を見せてやるわ!」
 命令を受け、二人の執事風の男は立ち上がって移動する。少女はチェス駒のプライズを入れていた箱から一枚の写真を取り出した。そこに写っているのは征市だ。
「相羽征市……。トライアンフ初代総長の孫。必ず、お前を奪ってやるわ」

 菜央は、デスクの上にあるノートパソコンで最近の事件のデータを調べていた。四月以降の事件では、コードDに属するようなデュエリストの出動が必要な事件が多すぎるのだ。ジャロール・ケーリックが陸を呼び出すために博物館を占拠した事件はともかく、他のほとんどの事件でもデュエル・マスターズカードが出てくるのはおかしい。デュエル・マスターズは戦闘用の魔法の最大最強の奥儀とも呼べるものだ。そして、デュエル・マスターズカードは、強力なデュエリストが自らの魔力を注入して生み出す物であり、ただの暴走プライズやレベルの低い魔法使いが簡単に入手できるものではない。
 魔法警察の調べで、それらのカードの多くは、旧トライアンフの事務所から持ち出されたものだという事が判った。昨年のトライアンフ襲撃事件の時に、チェス駒のプライズによって持ち出されたのかもしれない。だが、あの混乱に乗じて持ち出されたにしては量が多すぎる。旧事務所は一真によってすぐに封じられたため、持ち出されたカードは多くないはずだ。
「もしかしたら、その時ではなくて……」
 菜央は口に手を当てて考える。眼鏡のレンズにモニターの光が映っていた。
 あの時の敵達は、トライアンフ事務所の構造を知り尽くしていた。既に何度か調査をしていて、その時に少しずつ奪っていった事も考えられる。
 盗んだ方法が何であろうと関係はない。問題はトライアンフの備品が敵に奪われていた事だ。盗まれた事以上に、正義を守るために存在するカードが悪用される事が許せない。
 菜央は、マウスの隣に置かれた金色の鍵を見る。古びたデザインのその鍵は、一真に託されたものだ。これにトライアンフの事務所を作るための様々なデータが入っているもので、トライアンフ事務所の心臓部とも言うべきプライズだ。これを使う事で、菜央は特殊な空間魔法を使用し、今のトライアンフの事務所を作ったのだ。これだけは何があっても奪われる事があってはならない。
 菜央がその鍵を上着のポケットの中にしまうと、エレベーターのドアが開いて元喜、陸、湊の順に入ってくる。
「おはよう、菜央ちゃん。仕事熱心だね」
「おはようございます。陸君も若月さんも早いですね」
 菜央は眼鏡を外して三人を見る。陸が大きな欠伸をすると
「ふわぁぁ……おふぁようございまふ、リーダー。だって、元喜さんが早く行こうって……。僕はあと一時間遅くてもいいんじゃないかって言ったんですけれど」
「陸さん、あと一時間後だったら遅刻……ですよ?」
 湊が遠慮しがちにそう言った瞬間、菜央が拍手でもするように一度だけ手を叩く。すると、奥のおしおき部屋からいくつもの黒い手が伸びてきて陸をその中に連れ込んだ。突然、出てきた奇妙な黒い手を見て、元喜は近くにあった棚まで逃げ、青ざめた顔で菜央に聞く。
「今の何……?前の事務所にはなかったよね?」
「陸君のために特別に作ったおしおき部屋ですよ」
 満面の笑みで答える菜央。その笑顔に怯え、小動物のように震える元喜に
「あの……。陸さん以外がおしおき部屋に入る事はほとんどないから大丈夫ですよ」
と、湊が教える。
「ほとんど、ね。気をつけるよ」
 陸以外がおしおき部屋に入る事が少ないと知って、元喜は安心したのか菜央に近づく。だが、見慣れない部屋が気になるのか、視界の端で何度かおしおき部屋を見ていた。おしおき部屋の中からは陸の叫び声の他、この世のものとは思えない怨念を感じさせる声が聞こえる。
「昨日、征市君とも話をしたんだけど、このチェス駒のプライズは危険だって事が判ったよ」
 陸がおしおき部屋から出てから、元喜は昨日倒したポーンのプライズを取り出して菜央に話を始めた。
「このプライズは、ただデュエリストを人工的に生み出すだけじゃない。実在するデュエリストの偽物を生み出す事も可能なんだ」
「本当ですか?」
 元喜の言葉を聞いて、菜央は信じられないと言った顔で彼を見る。
「実力まではコピーできないけれど、外見は完全にコピーできる。偽物が僕らの中に入り込む事はあるかもしれない」
 その言葉を聞いて、湊は自分が見た予知夢を思い出す。
 予知夢の中の裏切り者が誰なのか。それは結局判らなかったが、もしかしたら、元喜が言うようにチェス駒のプライズがトライアンフのメンバーの姿を真似て現れる事の暗示なのかもしれないと、感じた。
 湊の考えている事を悟ったのか、元喜は彼を見る。
「君が予知夢を見る事は征市君から教わった。そして、トライアンフのメンバーの中に裏切り者がいるような予知夢を見たんだってね。だけど、それはチェス駒のプライズなんじゃないかな?」
 そう言って、元喜は湊の肩に手を置く。
「あ……」
 手。
 あの予知夢にも手が出てきた。トライアンフのメンバーを全て倒したその手は、最後に湊につかみかかるのだ。
 単なるスキンシップだったのに、予知夢の事ばかり考えていた湊はそれを思わず振り払ってしまった。元喜は困ったような顔で頬をかく。
「まいったな。認めてもらうにはまだ時間がかかりそうだね」
「あ、あの……。僕、そんなつもりじゃ……」
 湊にも元喜の手を振り払った理由は判らない。だが、元喜の手を見た瞬間、体が危険だと感じて動いたのだ。
「そんなつもりじゃない?だったら、どんなつもりだよ!」
 それが気に入らなかったのか、陸は近くにあったデスクに強く手を叩きつけて湊を威嚇する。
「元喜さんは、予知夢のせいで混乱している湊君の事を思って昨日から色々考えていたんだよ?なのに、何で振り払うなんて事を!」
「陸!」
 陸の怒りが元喜には理解できなかった。だが、菜央には判る。長い間、信頼していた仲間が新しい仲間に受け入れられない事が気に食わないのだ。それが許せない陸は、元喜の注意にも耳を貸さない。
「出て行けよ」
 突如、陸の口から聞こえる醒めた声。彼の目はつまらないものでも見るような冷たい目をしていた。
「出て行けったら!」
 その声を聞いて、湊はその場を飛び出す。陸の突然の怒りを理解できずに走り出した。
「はぁ……。畜生……。何であんな事をするんだよ。訳が判んねぇよ」
 陸は両手を強く握りしめながら呟く。仲間が仲間に認められない悔しさを感じ取り、元喜がその肩に手を置く。
「ごめんよ、陸。僕がみんなに信頼されていると思って軽率な行動を取ったせいで……」
「何言うんですか!元喜さんのせいじゃ……!」
 元喜の言葉に陸は戸惑う。元喜は菜央を見ると、
「湊君が心配だ。僕が追いかけるよ」
と、言ってエレベーターに乗り込んだ。
「元喜さん!僕も行きます!」
 陸もついていこうとして一歩踏み出すが、元喜がそれを手で制した。
「陸、君はここで待機だ。プライズによる事件があった時、すぐにここから出動できるデュエリストがいた方がいい。僕に任せてくれよ。ちゃんと信頼を勝ち取ってみせるから」
 そう言って、元喜の姿は消えていった。
「くそ……。何で信じられないんだよ……」
 陸の言葉の後、長く思い沈黙がトライアンフ事務所の中で続いた。

 デパートでの仕事を終えた征市は、彩弓と共に近くのハンバーガーショップにいた。征市は、いつもだったら早く食べ終えてしまうのだが、今日だけは食が進まなかった。頭の中で二つの事を考えていたからだ。
 一つは、チェス駒のプライズへの対策。現時点でできるのは、可能な限り一人で行動しない事だが、根本的な解決策にはなっていない。
 もう一つは、菜央が探していた魔道書だ。どんな本を何のために探しているのかは判らない。だが、少なくとも信頼できる仲間のはずの陸に内緒にする必要はないはずだ。
 湊が話した予知夢のせいか、菜央が裏切り者に思えてしまう。だが、菜央が信頼できる仲間で、鎧武者のプライズとの交戦で征市や陸が負傷した時に見せた姿から、トライアンフのメンバーを大事に思っている事は理解できる。征市の中で、菜央を信じようという気持ちと疑う気持ちが存在していた。 どちらの気持ちも、征市の心の中を強く支配している。
「あ……」
 長い間、考え事をしていたせいか、ポテトが冷め始めていた。熱いできたてのポテトが好きな征市は、目の前にいる彩弓を見て
「半分、食うか?」
と、聞く。彩弓は、バニラシェイクのストローから口を離すと、
「いらない」
と、素っ気なく答えた。
 今日の彩弓は、元気がないと、征市は感じていた。征市がいつものように手品を始めた時から、元気がなくなっていった。同じ手品を何度も見て飽きたのかとも思ったが、彩弓は同じ手品を何度見ても楽しめる少女だ。原因は別のところにあるはずだ。
「行こう」
 会話がないまま食事が終わり、征市が食べ終わったのを見た彩弓は席を立つ。征市も続いて席を立った。ハンバーガーショップを出てからも彩弓は口を開こうとしない。Q区の近くまで来て、征市が訳を聞こうとした時、彩弓は征市に体を向け、口を開いた。
「征市君、今日、集中してなかったよね?」
 その一言が征市の胸を鋭く貫き、彼は足を止めた。
 彩弓は毎日のように征市の手品を見ていた。売り場にある手品の商品を使用するため、彩弓が見るのはいつも同じ手品ばかりだ。たまに、新商品が入荷する事もあるが、それも目新しいのは最初の数回程度で普通だったら飽きるはずだ。それでも、彩弓は同じ手品を何度やっても楽しんで見ている。手品のタネや仕掛けを考えようとせず、自然に手品を楽しもうとしているからだ。
 だからこそ、彩弓は征市の様子が普段と違って集中していない事に気がついた。タネや仕掛けは判らなくても、気持ちがこもっているかどうかは判るのだ。
「どうしたの?手品、嫌いになったの?」
 眉の端を下げ、征市の顔を見上げる彩弓。心配している彼女の表情を見て、征市は自分の手が震えるのを感じていた。
 ショックだった。手品を自分の全てだと思って行動していたはずなのに、気になる事があったというだけで集中できていなかったのだ。彩弓以外の子供達は、征市の手品を楽しんで見ていたせいか、手を抜いても観客を楽しませる事ができると思いあがるところだった。
「手品は嫌いになんかならねぇよ。でも……俺自身は嫌いになりそうだ」
「そんな事言わないで。何か理由があったんだよね?」
 彩弓が征市の手をつかんで歩き出す。征市もそれに続いた。
「理由……。なかったわけじゃない。だけど、それは言い訳だ。どんな理由があっても、俺は俺が大事にしている手品で集中しなかった事に変わりはない」
 征市は、今ほど時間を巻き戻したいと思った事はなかった。中途半端な仕事をした事は、彼にとって大きな失態だった。
 大きなショックでまだ震えている征市の手を彩弓が強く握る。そして、こう言った。
「だから、次はもっと上手なのができるよね?もう、集中しないで手品をするなんて事はないよね?」
その言葉の全てが征市の胸を打つ。それに対して、征市はこう答えた。
「約束する」
「誰に?」
「まず、俺自身に。手を抜いたら後悔するって事は死ぬまで忘れない。それと、この事を気づかせてくれた彩弓に」
「よろしい。次は絶対、楽しい手品にしてね!絶対だよっ!」
 そう言って彩弓は手を離して走る。その先には山城公園があった。深緑の芝生の上を彩弓が駆ける。
「おいおい。こけないように気をつけろよ」
「大丈夫だよ~っ!うわっ!」
 征市がいる後ろを向いて走っていた彩弓は、前から歩いてきた少女にぶつかって尻もちをつく。
「おい、大丈夫か?」
 彩弓は、近づいてきた征市の手を借りて立ち上がると
「ごめんね。怪我はなかった?」
と、目の前に立っている銀髪の少女に聞いた。銀髪に白いドレス、白い日傘というY市の西洋建築によく映えるその姿に征市も彩弓も目を丸くする。
「仲がいいのね。デート?」
と、少女は目を細めながら征市に聞いた。
「バッ、バカ言ってんじゃねぇよ!大人をからかうんじゃねぇ!」
「征市君、まだ十九歳だから大人じゃないよ」
「細かい事はいいんだよ」
 そんな二人のやりとりを見て、少女は口に手を当てて上品に笑う。
「へぇ……。予想以上に面白い人格ね、相羽征市」
 少女の口から自分の名前が出たのを聞いて、征市は軽く眉を動かす。
「知り合い?」
「いや、初対面……のはずだよな?」
 彩弓の問いに答えながら、征市は少女に質問をした。
「ええ、初対面よ。だけど、私はあなたをよく知っている。あなた達をよく知っている」
 少女が左手をゆっくり広げると、そこには黒いナイトの駒が乗っていた。征市の視線が、魔力を発するそのチェス駒に釘付けになる。
「トライアンフは、憎むべき敵。だから、全滅させるの」
 黒い光がナイトの駒のプライズから発せられる。
「まぶしいよ!何これ!」
 彩弓が、目を保護するように手で顔を覆う。征市も目を守るように右腕を掲げた。
 光が止むと、そこに立っていたのは、黒いタキシードに身を包んだ相羽総一郎(あいばそういちろう)だった。少女は、チェス駒のプライズを征市の祖父の姿へ変化させたのだ。
「え……?あれって、征市君の家にかけてある絵のお祖父さんだよね?何で……?」
 混乱する彩弓を征市が見ると
「今すぐ逃げろ。早く!」
と、この場から離れるように言って、胸ポケットのポケットチーフをつかむ。だが、彩弓は数歩進んだところで何かにぶつかる。
「いった~い!何で!?何で!?」
 彩弓は痛みで両目に涙をためながら、両手で強くぶつけた額に触れた。それを見て、征市の動きが止まる。
「どうしたの?早くデッキを取り出しなさい。私が呼び出した相羽総一郎のコピーを倒さない限り、あの子もあなたもこの結界から出られないわよ」
「くっ……!」
 征市は、後ろにいた彩弓を見る。そして、
「ごめん、彩弓。俺、内緒にしていた事があったんだ」
と、静かに言った。そして、乱暴にポケットチーフを引き出すと左手に乗せ、右手の指を鳴らした。ポケットチーフを取ると、強い光と共に金属製のデッキケースが現れる。
「お前、何が目的だ!」
 赤い五枚のシールドが征市の前に現れ、デュエルが始まる。それを見て少女は満足そうな顔をすると、征市に背を向けた。
「私の名は倉員瀬里奈(くらいんせりな)。目的は、既に何か判っているんじゃないかしら?」
「まさか、お前がトライアンフを……!?」
「一人協力者がいたけれど、指揮を執ったと言う点では、私がトライアンフを潰したとも言えるわね」
 征市に背を向けたまま、瀬里奈は一歩足を踏み出す。そのまま、歩き始めた。
「さようなら、相羽征市。私はトライアンフを潰しに行く。嫌だったら、止めに来なさいな」
「挑発のつもりかよ。上等だぜ!」
 征市は、祖父の姿を真似たチェス駒のプライズを見る。今の最優先事項は、このプライズを倒す事だ。
「《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》召喚!」
 総一郎の偽者が《エル・カイオウ》、《パラ・オーレシス》を召喚するのに対して征市は、《青銅の鎧》を召喚してマナを増やす。征市のデッキには、ブロッカー対策のカードも入っている。壊せない壁ではない。
「《アクアン》で手札を補充だ」
 全身が水で出来た子供のような体躯のクリーチャー《アクアン》の両手が鞭のようにしなり、総一郎の偽者の山札の上のカードを弾いていく。弾かれた五枚のカードの内、金色の輝きを放つ四枚が総一郎の手元に飛び、残りの一枚が墓地へ飛んでいった。
「光のカードを大量に補充する《アクアン》か。簡単には終わらせてくれないみたいだな」
 《アクアン》での大量手札補充を行うには、相手に五枚のカードを見せなければならない。その中で征市が見たカードは全てブロッカーだった。長期戦を狙ったデッキのようだ。
「だったら、こっちも全力で殴るしかねぇ!《トリプル・ブレイン》!」
 征市も手札を三枚増やして、敵を睨む。
 総一郎の偽者は絹の手袋で保護された指先で、一枚のカードを手札から引き抜いてバトルゾーンに投げつけた。
「ここは、絶対に通しはしない。これを見ろ!」
 総一郎の偽者はいくつもの手を持った青い色の精霊を召喚する。その名は、《知識の精霊ロードリエス》。自分のブロッカーを召喚した時にドローできるブロッカーだ。
「なるほどな。ブロッカーを出せば、増援を呼べるって事か。だが、ブロッカー破壊は俺のデッキの特技なんだよ!」
 征市が投げたカードがバトルゾーンに着地する。巨大な斧を持った人の姿に似た獣《無頼勇騎ウインドアックス》だ。《ウインドアックス》が投げた巨大な斧は風に乗って加速し、《ロードリエス》の体を真っ二つに叩き割った。
「《ウインドアックス》は召喚された時にブロッカーを一体破壊するクリーチャーだ。俺のブロッカー対策はこれだけじゃないぜ」
 挑発的な言葉で相手を威圧する征市。しかし、総一郎の偽者はカードを引くと
「ブロッカー対策があると言うだけで動揺すると思ったか?」
と、返す。征市は焦っていた。一刻も早く相手を倒し、トライアンフの事務所まで行かなければならない。挑発的なセリフを言ったのも、相手を心理的に揺さぶるためだった。
「ポーンと同じだと思っては困るな。それに、《ロードリエス》の代わりがいないわけではない」
 総一郎の偽者が投げたカードは、金色の光を発して、モニュメントのような姿に変わっていく。鋭角的なデザインで構成されたそのクリーチャーは《雷鳴の守護者ミスト・リエス》。クリーチャーが召喚された時にドローする事ができる。それは相手のクリーチャーでも自分のクリーチャーでもいいのだ。
「ドローのためのクリーチャーか。嫌なカードだ」
「さあ、対策があるというのなら、今すぐ見せてみろ」
 今度は、総一郎の偽者が征市を挑発する。征市はゆっくりカードを引くと、それを見た。
「嘗めやがって。対策見せてさっさと叩き潰してやるよ!」

 気がつくと湊は未来地区にある噴水の広場に来ていた。ここでは、休日に有名アーティストのライブやパフォーマーによるショーなど様々なイベントが行われている。だが、今は何もないため、人通りはほとんどなかった。
「僕、何で……」
 予知夢の手と元喜の手が重なった理由が自分でもよく判らない。だが、あの手を見た時に危険性を感じたのは事実だった。それを陸に説明したとしても、判ってもらえるかは判らない。
「謝らなきゃ……」
 それが今の湊にとって最良の選択肢だった。疑った事と元喜の手を振り払った事を、彼と仲間に謝るのだ。
「湊君」
 背後から男の声が聞こえる。振り返るとそこには元喜が立っていた。
「ごめんなさい、元喜さん。手を振り払っちゃって……」
「ああ、そんな事は気にしなくていいよ」
 元喜は笑顔で湊に近づく。それを聞いた湊の顔がほころび、彼も元喜に近づこうとして立ち止まった。
 彼が右手に持っている物。それは、チェス駒のプライズだった。馬の頭の形をしたそれはナイトのチェス駒だ。元喜が倒して保管していたのはポーンであり、ナイトは持っていないはずなのだ。
「何で、元喜さんがそれを……」
「死んでいく君には教えてあげないよ」
 そう言って近づく元喜の手に黒い光の弾が飛ぶ。急いで振り返ると、元喜はカードを出してそれを防いだ。
「やっぱ、元喜さんにこれは通じないか。だよなぁ」
 近くにある柱の影から聞き覚えのある声が聞こえた。元喜は舌打ちをしてその人物を見た。
「陸、いつ気がついたんだ?」
 柱から出てきたのは陸だった。右手でデッキケースを持って元喜に近づく。
「どう説明すればいいのか判らないけれど、昨日から疑ってたんだよ。どうも最近、昔の事を夢で見る事が多くってね。何と言うか……湊君の予知夢とは逆に過去の記憶を鮮明に思い出しちゃうような感じ。それで、何か怪しい動きをしている奴が一人いたな、って思い出したんだよ」
 ジャロールが使ったオルゴールのプライズで過去の記憶を夢として見てから数日間、陸は過去の悪夢に悩まされ続けた。表面上は何事もないように振舞ったが、それが精神にダメージを与えていた事は間違いない。だが、その中で陸は過去を直視し、裏切り者を見つけていたのだ。
「去年、トライアンフが襲われた時に何であんな簡単に敵の侵入を許しちゃったのかってずっと考えていたんだ。で、内通者がいたら簡単だよなって、気付いたんだよ」
 陸は、湊のすぐ傍まで近づくと人差し指で元喜を指した。真相を追求するような鋭い視線で裏切り者を見ていた。
「ごめん、湊君。こいつがいつ尻尾を出すか判らなかったから、ちょっと利用させてもらったよ」
「え?じゃあ、陸さんは最初から、このつもりで?」
 陸は、湊の問いに頷くと
「そういう事。君が出て行かないなら、僕が出て行って一人になるつもりだった。一人になったところを倒して、リーダーにはチェス駒のプライズに倒されたとか、言うつもりだったんじゃないのかな?ま、リーダーにもあんたが裏切り者だって事は話したから、もうあんたのくだらない作戦は終わりだよ」
 そう言うと、陸は元喜にデッキを突きつけた。
「来いよ。仲間の仇討ちだ」
 陸を見ながら、元喜は頭をかく。「ははは」と、軽く笑っているが、その目から発せられるどす黒い怒りの感情は抑え切れていない。すぐに口元の形も変わり、「ちっ!」と、舌打ちをする。
「お前なんかに計画が邪魔されるなんて予想外だったよ。今回もトロイの木馬気取りでスムーズにやろうと思ったんだけどね。まあいいか」
 元喜が両手を強く叩く。すると、上から執事風の服装の男二人が降りて元喜の隣に着地した。銀髪と黒髪以外にほとんど違いのない二人の男は、デッキを取り出して陸と湊を見た。
「ここは任せるよ。僕はトライアンフの事務所を襲いに行く」
 そう言って元喜は走ってその場を去る。それを陸が逃がすわけがなかった。
「待てよ!」
 彼も足に力を入れて走り出す。だが、すぐに見えない壁にぶつかった。
「結界?くそっ!逃げるのかよ、裏切り者!待てよ!」
 陸は結界を強く叩く。だが、そんな事で結界が壊れるはずがない。元喜は陸のその様子が気に入ったのか、外から結界に手を触れた。
「そこにずっといなよ。もし、そこから出られたとしてももう終わりさ。今から僕が琴田菜央を殺す。今の時間なら相羽征市もいないからね。邪魔が入らない内に仕事は終わらせるよ」
 元喜の挑発的な視線が、陸を苛立たせる。去っていく元喜を見て、陸が何度も結界を殴り続けた。
「ちくしょう!リーダーが!リーダーが!」
「陸さん!」
 陸の手を湊がつかみ、視線で執事風の男達を指した。今は敵を倒す事に集中しろという事だ。
「そうだったね。リーダーを助けたければ、さっさとこいつらを倒すしかない」
 陸は右手に力をこめると、自分の右頬に叩きつける。その後、息を吐き出し
「頭、冷やしたよ。ありがとう」
と、言った。
 陸が黒いシールドを出すと、目の前に立った銀髪の男も同じような色のシールドを五枚出す。湊が緑色のシールドを出すと、黒髪の男も同じようなシールドを並べた。
「似たような波長の魔力を使うって事か?戦い方が研究されているみたいで厄介だな」
 そう言って、陸はカードをマナに置いた。相手をしている銀髪の男もカードを引き、マナに置く。
 先に行動を開始したのは陸だった。《フェアリー・ライフ》を使い、マナを増やす。妖精が奏でるリズムと噴水の音が重なり、綺麗なメロディが流れる。
「……粉砕、する」
 対して、銀髪の男が投げたカードからクリーチャーが現れる。戦車のような下半身を持つその赤い人型ロボットは、召喚されると地面に着地し、地面を響かせた。体の半分以上はある巨大なハンマーが陸の目に入った。
「パワー1000のザコクリーチャー……とも言ってられないか。きついな」
 銀髪の男が召喚したのは《砕神兵ガッツンダー》だ。陸が言うように、パワー1000でタップされていないクリーチャーを攻撃できるだけのクリーチャーである。だが、このクリーチャーはパワー6000以上のクリーチャーを攻撃すれば、そのターン、9000もパワーが追加されるクリーチャーなのだ。陸のデッキでこのパワーに対抗できるのは二種類の切り札《悪魔神バロム》と《悪魔神ドルバロム》だけだ。
「ま、それが動く前に潰せるのが僕のデッキのいいところだね」
 陸が投げた黒い光を発するカードがシールドと融合する。シールドは黒いバラに包まれ、長いツタを伸ばして《ガッツンダー》を絞めつけた。植物によるものとは思えないほどの強い締め付けが、機械の兵士をバラバラにしていく。
「《ローズ・キャッスル》だ。パワー1000なら、そのなけなしのパワーを削って0にしちゃえばいい。そうすれば、出す事もできなくなる」
 陸が使ったのはシールドのエネルギーを媒介として場に現れる《ローズ・キャッスル》だ。相手の全てのクリーチャーのパワーを1000減らす能力を持っている。そのため、触れる事なく《ガッツンダー》を破壊できたのだ。
 銀髪の男は、一瞬、手を口に当て悩むような仕草をしたが、マナゾーンにある赤と黒のカードをタップし、一枚のカードにエネルギーを与える。二色の光を発するそのカードが男の手から離れると、高い声と共に飛んでいった。目玉がついたライダースーツのような服に身を包んだ鳥、《翔天魔獣ギガッピ》だ。
「……飛翔、する」
 《ギガッピ》の体にもツタは巻きつく。だが、《ギガッピ》のパワーは4000。1000減らされたとしても対したダメージではない。
一方、湊と黒髪の男のデュエルも少しずつ進んでいた。
「……チャージ、する」
 一つ前のターンで《エナジー・ライト》を使い、充分な数の手札を持っていた黒髪の男は、緑色に光るカードを場に投げる。そこから現れるのは巨大な昆虫だ。湊が出していた《ポッポ・弥太郎・パッピー》や《風来の股旅ビワノシン》を遥かに上回る姿をしている。
 《タイラント・クワザリ》。4コストで6000という同じコストのクリーチャーに比べて破格のサイズのクリーチャーだ。召喚された《タイラント・クワザリ》は巨大な二つのカマを振る。それによって生み出された風が、黒髪の男の手札を二枚、弾き飛ばす。弾き飛ばされたカードは、マナから発せられた光に吸い寄せられ、マナゾーンに落ちた。
「そんな!4ターンでマナが六枚も」
 《タイラント・クワザリ》の特殊効果は、場に出た時に自分の手札を二枚マナゾーンに置く事だ。これは絶対にしなければならない事であり、手札がない時は自らの首を絞める効果になりかねないが、序盤で、手札も潤っている時ならば、後半へ向けての自分への投資となる。
「そっちがマナを増やすのならば、こっちは使うマナを減らす!《竜装 ザンゲキ・マッハアーマー》をジェネレート!」
 湊は巨大なアーマード・ドラゴンの姿をした鎧《竜装 ザンゲキ・マッハアーマー》を場に出す。風が《マッハアーマー》の隙間を通りぬけて、龍が鳴くような音がその場に響いた。
「陸さん、冷静に!」
「判ってるって!」
 二人は互いに声を掛け合う。そして、それぞれ対峙している敵を見た。
 急がなければと焦るが、焦るだけでは戦い方に隙が出る。急いでいる時こそ落ち着いて行動しなければならないのだ。戦う前に冷静さを欠いていた陸も今では、いつものような冷静さを取り戻している。
「あの世で神様に懺悔しな!」
「哀しい器よ、眠りなさい」
 互いに自分のペースで戦っている事を確認し、二人は動き出した。

「《ボルシャック・大和・ドラゴン》でシールドを攻撃!《ガトリング・フォース・ドラゴン》の効果で《ロードリエス》を破壊!」
 《ボルシャック・大和・ドラゴン》が姿勢を低くして走り出すと、《ガトリング・フォース・ドラゴン》が銃口となった両手の指で相手のブロッカーを蜂の巣にしていく。他の小型ブロッカーは攻撃を受け止めず《ボルシャック・大和・ドラゴン》は二枚のシールドを刀で叩き割った。総一郎の偽者はそれを手札として加える。
 征市のシールドは二枚ある。そして、場には切り札の《ボルシャック・大和・ドラゴン》と《ガトリング・フォース・ドラゴン》がいる。まだ手札にもドラゴンがあるため、相手がブロッカーを増やしても《ガトリング・フォース・ドラゴン》の援護射撃で焼き尽くせるのだ。
 総一郎の偽者のシールドは残り二枚。場には、《蒼天の守護者ラ・ウラ・ギガ》が三体と《神託の守護者ミント・シュバール》が一体いる。
 シールドから手札になったカードを黙って見ていた総一郎の偽者は、一枚のカードをそれに掲げた。そのカードから発せられる光が《ガトリング・フォース・ドラゴン》に当たった瞬間、その体が粒子状に分解され、シールドへと変化してく。《魂と記憶の盾(エターナル・ガード)》を使って厄介なカードを封じ込めたのだ。
「《ウインドアックス》以外にもブロッカーを破壊できるカードがあるとは思わなかった。ここまで封じられていれば、そう簡単に手は出せんだろう。さらに……」
 総一郎の偽者は、右手の人差し指と中指で一枚のカードをつかむ。そして、そのカードを《ラ・ウラ・ギガ》に投げつけた。金色の光に包まれながら、《ラ・ウラ・ギガ》は巨大化し、姿を変えていく。金色の宇宙戦艦のようなデザインの進化クリーチャー《守護聖天グレナ・ビューレ》。パワー8500の巨大なW・ブレイカーがそこに立っていた。
「切り札の《ボルシャック・大和・ドラゴン》を潰す!」
 《グレナ・ビューレ》から照射される光線が《ボルシャック・大和・ドラゴン》の肉体を溶かしていく。二体もいた征市のドラゴンが全滅してしまった。
「ヤバいけれど、まだ負けたわけじゃない!《ドルボラン》!」
 征市の手札から離れたカードが、巨大なドラゴンへと変化していく。《戦攻竜騎ドルボラン》の銃撃が《グレナ・ビューレ》を手札に戻し、持っていた槍で《ミント・シュバール》を貫いた。《ドルボラン》のパワーならば、総一郎の偽者のブロッカーに攻撃を阻まれてもパワーで負ける事はない。だが、《グレナ・ビューレ》に進化した場合、《ドルボラン》でも勝つ事はできない。
「2ターンだ。あと、2ターンで終わらせる」
 総一郎の偽者の勝利宣言に征市は目を見開く。同時に、総一郎の偽者が持っている一枚のカードに目が釘付けになった。
「《ラ・ウラ・ギガ》と《テルス・ルース》を召喚。そして、《ラ・ウラ・ギガ》三体を進化元に生まれよ、聖母!」
 三体の《ラ・ウラ・ギガ》が航空ショーのパフォーマンスのように高速で飛び交う。それによって生まれた竜巻の中に、総一郎の偽者は持っていた切り札を投げ入れる。
 一瞬、雷が閃光となって周囲を照らし、その切り札は姿を見せた。
「《超神星ヴィーナス・ラ・セイントマザー》だ。お前に勝ち目はない」
 総一郎の偽者の場に現れた超巨大なクリーチャー。“聖母”と呼ばれた名にふさわしく、その体には腕を組んだ女性の彫像のようなものが組み込まれている。
「綺麗……」
 今まで黙ってその様子を見ていた彩弓も思わず、そう呟いた。金色のパーツで作られた美しき造形は、戦っていた征市をも虜にする。
 巨大な翼を広げ、《ヴィーナス・ラ・セイントマザー》は征市のシールドに突撃する。その体が金色の光に包まれた瞬間、征市の前にあった三枚のシールドが破られた。
「T・ブレイク!?やってくれるじゃないか。だがな……!」
 ブレイクされた三枚のシールドの内、一枚がカードの姿に戻る瞬間、緑色の光を発した。そして、そのカードから青々としたツタが伸び、《ヴィーナス・ラ・セイントマザー》の肉体を絡め取る。
「《ナチュラル・トラップ》だ。三体も進化元を使ったデカブツも一発でおしまいだな!」
 征市が使った《ナチュラル・トラップ》ならばどんなクリーチャーも封じる事ができる。だが、《ヴィーナス・ラ・セイントマザー》の肉体から金色の光の球が飛んでいき、空で弾けた瞬間、《ナチュラル・トラップ》のツタが消え去った。
「愚かな……。メテオバーンを使って《ヴィーナス・ラ・セイントマザー》をバトルゾーンにとどめた。《ヴィーナス・ラ・セイントマザー》を除去したければ、あと三回除去するのだな。だが、その前にこちらの勝ちだ」
 征市には、シールドが残っていない。クリーチャーは《ドルボラン》のみ。
 相手には二枚のシールドとブロッカーの《ミント・シュバール》がいる。ブロッカーを破壊し、二枚のシールドをブレイクし、直接攻撃をしなければ征市は勝てない。
「今の攻撃で手札に戻った《ガトリング・フォース・ドラゴン》じゃ、ブロッカーの破壊効果を《ドルボラン》につけるだけ……。スピードアタッカーじゃないから意味がない、か……」
 征市は視線を落とし、その姿を見た総一郎の偽者の口元が緩む。視線を落としたまま、征市は《ガトリング・フォース・ドラゴン》をマナに置いた。
「スピードアタッカーじゃないから、意味がない。だったら、ブロッカーを潰して召喚酔いのないクリーチャーを出せばいいよな」
 征市は顔を上げると、総一郎の偽者を見た。その目は勝利を諦めた者の目ではない。勝利を確信した者の目だ。
「悪いな。この次のターンで勝つって言うけれど、そのターンは来ない。俺がここで勝つからだ」
 不敵な笑みを浮かべた征市の顔を見て、総一郎の偽者の顔に動揺が走った。
「この防御を崩せるわけがない。そんな出鱈目を―」
「出鱈目じゃない。『ウソのようなホントウ』って奴だ。出でよ、俺の切り札!」
 征市が七枚のマナをタップして、赤いカードを投げる。そして、それを追うようにマナから赤いカードが二枚、そのカードに飛んでいった。三枚のカードが重なる瞬間、世界を焼き尽くすような爆発が起こる。
 爆音を聞いて耳をふさぎ、目を閉じた彩弓が恐る恐る目を開けると、そこには、真赤な色の巨大な鳥のようなクリーチャーがいた。征市の切り札の一つ《超神星アレス・ヴァーミンガム》だ。
「出たぜ。ブロッカーも残っていた二枚のシールドもぶっ潰す俺の切り札《アレス・ヴァーミンガム》。一気にケリをつけてやる!」
 《アレス・ヴァーミンガム》の咆哮と共に、その体から赤い球が飛び、爆音と共に砕け散った。その球の爆発によって、総一郎の偽者のシールドを守っていた《ミント・シュバール》の姿が一瞬で音もなく蒸発してしまう。
「邪魔する奴は誰もいない。《アレス・ヴァーミンガム》でW・ブレイク!」
 《アレス・ヴァーミンガム》の二門の大砲から、赤い光線が発射される。それは、真っ直ぐ飛んでいき、二枚のシールドを貫いた。
「シールド・トリガーはなし。《ドルボラン》でとどめだ!」
 《ドルボラン》の銃撃が総一郎の偽者の姿を打ち抜いていく。その煙が晴れると、偽者が立っていた場所に、チェス駒のプライズが転がっていた。カードをデッキにしまった征市は、それを拾う。
「何とか、終わったな……」
 征市は彩弓に背を向けたまま、目を閉じた。
「征市君……」
 魔法で戦う征市の姿を見て、彩弓が驚かないわけがない。彼女の心を支配している感情は、恐怖だと征市は感じていた。
 意を決して、征市は振り返って彩弓を見た。驚いて普段より大きく見えるその瞳に征市の姿が映る。 その顔を見て、征市は無邪気にはしゃいでいた数十分前には戻れない事を痛感した。

 『File.13 勝利の瞬間』につづく
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