スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『コードD』File.13 勝利の瞬間

『コードD』

 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 ちょっとした行き違いから、湊は事務所を飛び出す。それを追いかけた元喜は、自分が湊の予知夢で見た裏切り者である事を明かし、彼を手に掛けようとする。そこへ、元喜が裏切り者であると気付いていた陸が現れて形勢が逆転する。しかし、元喜はそれを想定していたのか、銀髪と黒髪の執事風の男を呼び出し、二人の相手をさせた。元喜は菜央とトライアンフの事務所を消し去るために、二人の前から去る。
 一方、手品の仕事を終えた征市とそれについてきた彩弓の前に、白いドレスの少女、倉員瀬里奈が現れる。昨年九月のトライアンフ襲撃事件を指揮した瀬里奈は、彩弓を結界の中に閉じ込め、征市を倒すため、ナイトのチェス駒を差し向ける。祖父、総一郎の姿に変わったチェス駒と戦う征市を見て瀬里奈はトライアンフの事務所に向かった。チェス駒のプライズを倒した征市だったが、人間ではない異形の力を使った彼の姿を彩弓が驚いた顔で見ていた。

 File.13 勝利の瞬間

 自分の祖父の姿をしたチェス駒のプライズを倒した征市は、デュエル中に一度も見る事ができなかった彩弓の姿を見た。結界から解放されて自由になったはずの彼女はそこから離れる事もなく、じっと征市を見ていた。極限まで大きく見開かれた瞳は征市の姿を映している。その目に宿る感情は何なのか、征市は考えていた。
 考えられる感情は、魔法を使える事への恐れ。人は、人と同じ姿をしていても常識の範囲内で人間の持っている力を超えたものを持っている者を恐れる。否、人と同じ姿をしていながら、人とは違うものを持っているからこそ、恐れ、忌み嫌うのだ。
 この沈黙を破って彼女が口を開いた時、征市の耳をどんな罵声が貫くのか。それを考えながら、どんな言葉が来ても耐えられるように、彼は持っていたデッキケースを強く握る。
「す……」
 自分が話せる事を今まで忘れていたかのように、彩弓の口がぎこちなく動き出す。征市は表情のない顔でその唇の動きをじっと見ていた。
「すっごーい!」
「……へ?」
 両腕を振り回して言葉を発する彩弓を見て、征市は阿呆のように口を大きく開く。彩弓のリアクションは征市が新しい手品を見せた時のそれに似ていた。今回は、それ以上に腕の動きがオーバーで、目が輝いていた。漫画ならば目の中に星が入っているような手法で表現されるだろう。
「ね、ね!?征市君、今の何!?もしかして、魔法!?魔法なの!?やっぱり、Y市に魔法はあったんだね!」
 興奮が冷める事もなく、彩弓はその周りを飛び跳ねながら叫ぶ。体の中から湧きあがる感情が抑え切れず、その気持ちが体を暴走させているかのようだった。
「ちょっと待て!とりあえず、落ち着けって!」
 征市は、彩弓の両肩をつかむとその動きを抑え込む。そして、彼女の目を間近で見るとこう言った。
「お前……。魔法が恐ろしくないのか?」
 彩弓は首をひねる。頭の上に疑問符が浮かんでいるのが征市には見えたような気がした。
「何で?」
 今度は逆に彩弓が聞いた。予期せぬ質問に征市は言葉を失った。
「だって、魔法ってすごいもん!征市君って魔法が使えたんだね!何で、今まで教えてくれなかったの?」
「何で、って言うなよ。魔法が使えるなんて言ったら誰だって信じないし、実際に使っても信じてはもらえない。大抵、大掛りなトリックだと思われるだけだ。不思議だって思う奴もいるかもしれないけれど、それだって心から魔法があるって信じているわけじゃなくて、何かの仕掛けがあるって思うはずだ」
 そこで一度話を区切ると、「それに……」と、征市は続けた。
「魔法は人智を超えた得体の知れない力だ。誰だって怖がるに決まってる」
 征市が吐き捨てるように言うが、彩弓はそれを見て首を横に振った。
「みんなが怖がるわけじゃないよ。わたし、魔法みたいな不思議なものに憧れてY市に来たんだ。ここの学校を受験して寮に入ったのも、不思議なものを見たかったから。外国の文化が今も形になって残って共存しているY市だったら、それがあるかもしれないって期待してたんだ。でもね、面白いものやすごいものはいっぱいあったけれど、不思議なものは見つからなかった。そんな時に征市君の手品を見たんだよっ!」
「俺の手品……?」
 征市は去年の春の事を思い出す。デパートで手品用品の実演販売の仕事を始めさせてもらったばかりの征市にとって、初めての常連客と言えるのが彩弓だった。純粋に手品を楽しむその姿が、征市にとっていつも励みになったのだ。
「手品もすごいけれど、魔法はもっとすごかった。わたしが欲しかったものを征市君は二つも見せてくれたんだね!ありがとう!」
「あ、ああ……」
 礼まで言われると思わなかった征市は、その反応に困り、曖昧な返事をした。
 素直に魔法が受け入れてもらえた事に驚きながら、征市は再び口を開いた。
「でも、俺は魔法が使えるって事を知って欲しくなかったよ。彩弓にだけは絶対に知られたくなかった」
「どうして?」
 征市の表情が曇るのを彩弓は見て感じていた。その顔は彩弓の前でデュエルを終えて振り返った時の顔に似ていた。
「手品が偽物に見えるだろ?俺は手品をやっているのに、それは魔法なのかもしれない。不思議な事ができるのも魔法が使えるからだって思われたくなかった」
 征市は、そこで言葉を区切ると悲しそうな目で彩弓を見ていた。
「信じてくれ。俺、手品をする時は魔法を使っていない」
 彩弓は誰よりも征市の手品を楽しんで見ていた。今後、彩弓が征市の手品を見た時、魔法を使っていると疑われるのは何よりもつらい。彩弓がそうは思わないようにしていたとしても、心のどこかで魔法が使える事が引っかかるかもしれない。
 征市の心に、黒い雲のようなものが重くのしかかる。彩弓は、そんな征市の手を取ると、彼の顔を見た。
「この手は、手品の練習を全然していない手なの?毎日毎日、どんなに疲れていても、どんなに大変でも、自分の大事なもののためにがんばって練習した手じゃないの?手品がうまくできなかったら魔法で誤魔化す手なの?」
「そんな事……ねぇよ。俺は……!」
 征市は毎日手品の練習をしている。トライアンフのメンバーになった後もそれは欠かさない。暇さえあれば練習をしているのだ。
「そうだよね。手を見れば判るんだよ。征市君が手品にウソをつかないって事はね」
 彩弓は征市の手を静かに握る。彼女の手から征市の手に温かい何かが流れてくるようなものを感じ、彼の心にあった重く黒いものが溶けて消えていく。
「征市君は手品をものすごく大事にしている。だから、征市君は手品に絶対ウソをつかない!そうだよね?一番大事なんだから!」
「そうだな―」
 考えてみれば、当たり前の事だった。手品は征市が何よりも大事にしているもので、魔法とは違う。魔法で人を驚かせて楽しませる事はできない。手品は人を楽しませるためのものだ。観客の驚く顔、楽しむ顔を見るための想いが指先に流れ、体が動くものだ。両者は違うのだから、魔法で手品を誤魔化す事など最初からできるわけがなかったのだ。
「心配はいらなかったみたいだ」
 征市は、目を閉じて深呼吸すると、数秒間動きを止めて再び、目を開けた。
「彩弓、お前は今すぐ寮に帰れ。俺は行かなきゃならないところがあるからな」
 そう言って、征市は走り出した。後ろから彩弓の「待ってよー!」と言う声が聞こえるが、気にしてはいけない。急いでトライアンフの事務所に向かわなければ菜央が危ない。
 征市は念のため、携帯電話を取り出すとトライアンフの事務所にかけた。数回のコールの後、菜央が電話に出る。
「菜央、今すぐ事務所を離れろ。チェス駒のプライズを使った奴がそっちに向かっている。白いドレス姿の女の子だ。だが、他にも敵がいるかもしれない」
『判りました。すぐに事務所を出ます』
 簡潔な会話の後、すぐに通話を終了する。
 走る途中で考える事があった。それは、菜央が秘密にしていた本だ。湊から裏切り者の予知夢の話を聞いてから、征市はその秘密が気になっていた。
「これも教えてもらうぜ。そのためにも……!」
 征市は事務所へ向かう速度を上げる。全身に力を込めて征市は走り続けた。

 征市からの電話を受けた後、菜央は引き出しから金色のデッキケースを取り出した。施錠できるように作られたそのデッキケースを持って菜央は事務所を出る。これで、トライアンフの事務所は一時的に機能を停止した。次に事務所としての機能を果たすのは、トライアンフを狙う敵との戦いが終わった時だ。その時までメンバー全員が無事でいる保証はない。だが、菜央は全員が無事にトライアンフの事務所に戻って来る事を願っていた。
 事務所が入っている建物を出て歩く。海の見える景色が広がっているが、今の菜央にそれを見ている余裕はない。
「やあ、リーダー」
 ふと、前を見ると元喜が立っていた。その周囲に陸も湊もいない。
「元喜さん、戻ってきたんですか。二人はどこに?」
「さあね。君が気にする必要はないよね」
 元喜がデッキを取り出す。菜央はそれを見ながら、自分もデッキを取り出した。デッキケースの鍵穴に金色の鍵を差し込む。それを見た元喜はその鍵とデッキケースが何なのか思い出した。
「それは、事務所のプログラムが入っているデッキじゃないか!トライアンフの頭脳とも言うべきデッキをここで使うなんて……。やけくそなんだね」
「いえ、それは違います」
 涼しい顔で菜央は答えた。冷静な表情と口調だが、目の奥には元喜に対する怒りが見える。
「私は負けません。私だけでなく、他のメンバーも同じです。やけになっているわけじゃありません」
「それは……僕に勝つって言う事?」
 元喜の声が震えた。彼は旧トライアンフの頃の菜央を知っている。元喜を相手にして勝てるほどの実力があるわけではない。その少女が元喜を挑発しているのだ。気に障らないわけがなかった。
「私は勝ちます。トライアンフの名の元に勝利をつかみます!」
 菜央が鍵を回す。すると、デッキケースが開き、中から金色の光と大量のカードが飛び出してきた。菜央の周囲を飛びまわっていたカードは、彼女の前に四十枚が集まり、宙に浮いた状態で留まった。その内、五枚が飛び回り、それらは金色の光を発するシールドへ変化して彼女を守るように立ちふさがった。そして、その後の五枚は菜央の手元に飛んできた。
 それを見た元喜もデッキからカードを取り出そうとするが、菜央の後ろにいる者の姿を見てそこで動きを止める。
「お嬢さん、来ていたんですね」
 元喜の言葉に反応して、カードを持ったまま菜央も振り返った。日傘を差した白いドレス姿の少女が立っている。少女は日傘をたたむと、白いデッキケースを取り出して菜央と元喜を見た。
「初めまして、琴田菜央。私はトライアンフを潰したあなたの敵、倉員瀬里奈よ」
 自己紹介を聞きながら、菜央は征市から受けた電話を思い出していた。白いドレスの少女とは、目の前にいる倉員瀬里奈の事だ。この少女がチェス駒のプライズを使って多くの仲間を手に掛けたのだ。許してはいけない。
「怖い目をしているわね。私はあなたに用はないの。永久にね」
「どういう意味……?」
「お嬢さんに頼んで、僕が君を倒す事にしたのさ」
 菜央の疑問に答えたのは元喜だった。デッキケースから取り出していたカードの準備は終わり、既に臨戦態勢に入っている。
「裏切り者に殺されるのがお似合いじゃない?前のトライアンフからいた者達で私が直接手を下すのは、貴田一真だけと決めているの。私のチェス駒を台無しにしてくれたあの男は、私が殺す。あなたは、元喜が殺すというわけ」
 冷たい微笑みで瀬里奈は菜央を見た。だが、今の菜央はそんな事に興味はなかった。まずは、目の前の元喜を倒さなければならない。もう一人の相手は後だ。そう考えて菜央は手札を見る。
「ちょっと待ったーっ!」
 それと同時に聞き慣れた声が菜央の耳に届いた。菜央と瀬里奈の間に征市が入る。肩で息をしたまま、彼はデッキケースを取り出した。
「菜央、何とか間に合ったみたいだな。俺があいつを倒すから任せとけよ」
 額に汗をかきながら、征市はデッキからカードを取り出し、シールドと手札の準備をした。後ろに元喜がいる事を確認して瀬里奈を見た。
「こっちは三人いる。三対一だ」
 征市がそう言ったのを見て、瀬里奈は笑いだした。元喜も笑う。それを聞いて征市は不思議そうな顔で二人の顔を交互に見た。
「まだ、気がつかないの?木口元喜は私達の仲間よ」
「何っ!?」
 征市は振り返って元喜の顔を見る。馬鹿にしたような挑発的な視線で元喜は征市を見ていた。
「そういう事さ。予知夢にあった裏切り者って僕の事。今から、君達のリーダーを殺すから黙って見てなよ」
「そして、あなたの相手は私」
 征市は声に反応して再び瀬里奈を見た。彼女の前に白い光を発するシールドが現れる。五枚の手札を持って征市の全身を舐め回すように見ると、こう言った。
「私の部下になりなさい、相羽征市。そしたら、あなただけは見逃してあげる。チェス駒のプライズを倒すくらいの力はあるみたいだからね」
「どういう事だ?」
「テストよ。あれは、あなたの力を試すテストだったの。どうせ、お友達にも魔法が使える事がバレて嫌われてしまったんでしょう?私なら、部下の力を嫌う事はしないわ。さあ……」
 瀬里奈は妖しげな微笑みを浮かべると、手札を持っていない左手を差し出す。
「私のものになりなさい」
征市は、それを聞いた後、ため息をひとつ吐いてこう言った。
「断る。お前の部下になるつもりはない」
 その言葉を聞いて、瀬里奈の笑顔が崩れ、怒りの形相に変わっていった。
「本気?優しく言ってあげている今がチャンスなのよ!」
「部下なんてごめんだ。俺はトライアンフみたいに“仲間”と呼ばれたい。俺のとこのリーダーは、仲間の事を思ってくれるいいリーダーだ。お前とは違うんだよ!」
 瀬里奈は、俯いて
「交渉、決裂ね」
と、言った。
「最初から交渉になってねぇだろ。駄々こねれば何でも手に入ると思ってんのか?わがまま言うんじゃねぇよ。お兄さんがしつけ直してやるから、ちょっと我慢しろよ」
 征市はカードを見た。もう戦いは始まっているのだ。これ以上、おしゃべりをしている暇はない。
 だが、それでも気になる事があった。背中合わせになっている菜央の顔を横目で見ると征市は話し始める。
「俺、菜央のリーダーとしての素質は認めているし、信頼もしている。だから、デュエルの前にこれから言う事について教えてくれ」
「なんですか?」
「陸に内緒で魔法図書館に頼んだ本の事だ。何で陸に秘密にしなくちゃならないんだ?あいつがお前を慕っているのは判るだろう?」
 菜央は驚いた表情でしばらく征市を見ていたが、静かに話し始めた。
「これから言う事は陸君には絶対に内緒にしていて下さい。陸君にとって知られたくない秘密も教えなければならないのですから」
「陸の秘密?」
 その言葉に菜央が頷き、説明が続いた。
「陸君は悪魔との契約によって魔力を得ているんです。普段は服に隠していますけれど、陸君の体には、その時の契約で体につけられた黒い模様が刻まれているんです。陸君がいつも長袖の服を着ているのはそのためなんですよ」
 征市は、陸がカレーを作る時に袖をまくらないのを思い出した。奇妙だとは思ったが、それにも理由があったのだ。
「悪魔との契約か……。確かに、まずいな」
 征市は、物心付く前から魔力を得ていた。魔力を得る方法は先天的なものと後天的なものがある。陸は後天的なもので、その中でも最悪の方法を選んでしまったのだ。
 魔力を持たない人間が魔力を得る方法は様々である。魔法が使える者が立ち会って、精霊から力を授かる方法が最もポピュラーだ。悪魔と契約した場合、力の代償として様々なものを失うのだ。それは命であったり、家族であったり、その者によって異なる。
「一度、陸君の体の模様を見た事がありました。あの模様は、魔法使いの寿命を削る模様です」
「魔法を使うと、命が削られるあれか?」
 祖父と共に書斎で見た文献の内容を思い出しながら、征市は菜央に聞いた。菜央は首肯して、説明を続ける。
「陸君の体を元に戻すために、私は魔法図書館で解呪の魔道書を探していました。陸君に内緒にしておいてもらえるように館長に頼んだのは、いたずらに希望を持たせないためです」
「そうか……」
 陸がそれを知って、もし見つからなかったらどうなるのか、征市は考えたくなかった。それに、内緒にしていたはずの体の模様が見られた事を知ったら、陸はそれを不快に思うだろう。
 そこで、もう一つの疑問が征市の頭をよぎった。彼はそれを口に出す。
「魔法のランプがあっただろ?あれで、陸の模様を消せたんじゃないのか?」
 菜央は首を横に振る。既にそれは試していたのだ。
「無理だったか」
「ええ。悪魔の呪いが強力過ぎて解呪は不可能でした。それでも、願いを一つかなえたとカウントされてしまいましたけれども」
「……残りの二つは?」
「えっと、その……」
 菜央は言いにくそうにして俯いた。その後、征市を見ると
「どうしても言わなくてはなりませんか?」
と、聞いた。
「教えてくれ。仲間同士で秘密があると、それが原因で誰かを疑う事になっちまう」
「……判りました」
 静かにそう言うと、菜央は恥ずかしそうな顔をして
「ダイエットと食べても太らない体を望みました」
と、答えた。それを聞いた征市の目が点のように小さくなっていた。
「え?」
「だから、ダイエットと食べても太らない体です!ずっと事務所にいたから、運動不足で……!って、何を言わせるんですか!これはセクハラです!後で相羽さんはおしおき部屋行きです!」
「えー、セクハラになるのか?これ」
 情けない顔をした征市だったが、すぐ、自分の敵に向きなおり表情を整える。願い事の内容を言って顔を赤くしていた菜央も元喜を見た。背中合わせの二人はそれぞれの敵を見据えてデュエルが始まる。
「随分と面白い会話だったわ。女の子の秘密は聞かないでおくものよ。私の部下になったら、そのおしゃべりな口を止めてやろうかしら」
「うるせぇな。本当に普通の願い事だとは思わなかったんだよ!」
 征市は会話の事を引きずりながらも《フェアリー・ライフ》を使って準備を始める。既に思考は目の前の戦闘に切り替わっていた。
「《電脳封魔マクスヴァル》召喚!」
 瀬里奈は、腕の交差させた黒い体の人型のクリーチャーを召喚する。両手の先から赤紫のオーラを発するそのクリーチャーは、闇のクリーチャーの召喚コストを下げる事ができるブロッカーだ。
「闇の後続に要注意って事だな。だったら、こいつだ!」
 征市は《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》を召喚してさらにマナを増やす。征市のデッキのブロッカー対策は重いものが多い。それ故、序盤はその準備に力を注ぐ事が多くなってしまうのだ。
「《青銅の鎧》?ただの小型クリーチャーね。すぐにそれも消してあげるわ」
 瀬里奈の手から一枚のカードが離れ、そこから飛んできた黒い弾丸のようなものが征市の手札のカードを弾き飛ばす。
「しまった!《ガトリング・フォース・ドラゴン》が!」
 征市の手札で破壊されたのは、自分のドラゴンが攻撃した時にブロッカーを破壊する力を与える重量級のドラゴンだ。マナを溜めて後で使おうと思っていたため、捨てられたのは口惜しい。
「あらあら。切り札が墓地に行っちゃったわね、残念」
 おどけたような口調で言う瀬里奈の前に黒い怨念のようなオーラを体の周囲に漂わせている人型のクリーチャー《腐敗聖者ベガ》が現れる。《ベガ》が左腕に持っていた盾が輝くと、瀬里奈の新しいシールドが一枚出現した。
「《ベガ》のコストを減らしたってわけか」
 《ベガ》は本来、5コストのクリーチャーである。《マクスヴァル》の効果によりコストを1減らし、4コストで召喚したのだ。
「《マクスヴァル》の恩恵を受けるのはまだまだこれからよ。あがきなさい、私の玩具」
 その言葉を聞いた征市は不機嫌そうな顔でカードを引く。そして、手早くマナのチャージ、タップを終えると、一枚のカードに五つのマナを注ぎこみ、場に投げた。その瞬間、投げられたカードから巨大な斧が飛び出し、《マクスヴァル》の体を真っ二つに切り裂いた。
「何!?何をしたの?」
「一々教えてやらなくちゃ判らないのか?《ウインドアックス》だ」
 征市が呼び出した《無頼勇騎ウインドアックス》は《ベガ》と同じように出た時に二つの特殊能力を使う事ができる。《ベガ》が光と闇の特徴であるシールドの追加と相手の手札の破壊ができるように、《ウインドアックス》は火と自然の力を使い、相手のブロッカーを一体破壊し、マナを一枚増やす事ができるのだ。
「《マクスヴァル》はブロッカーだったよな?これで、俺の攻撃を阻むものはなくなった!《青銅の鎧》でシールドブレイク!」
 《青銅の鎧》は《ベガ》の効果で増えたシールドを槍で突く。中央から亀裂が広がり、そのシールドは砕けていった。そのカードがシールド・トリガーでない事に、瀬里奈は一瞬、落胆したような表情を見せたが、そのカードを見てすぐにそれが歓喜の表情に変わる。
「《ブレイン・チャージャー》を使うわ!ドロー。そして、使用したカードをマナにチャージ!」
 瀬里奈が投げた青いカードに反応して山札の上のカードが彼女の手元に飛んでいく。そして、投げたカードはマナゾーンに飛んでいった。瀬里奈の行動はそれだけで終わりではない。
「《ベガ》で《青銅の鎧》を攻撃!」
 《ベガ》の腕の先から人間の顔のような形をした黒いものが飛んでいき、《青銅の鎧》にぶつかる。すると、《青銅の鎧》の体は石像のように硬く変化した。全身が変化すると、それは砕けていった。
「まだまだこれからよ、相羽征市。私のものになるまで徹底的に痛めつけて、主人が誰なのか教えてあげるわ」
 瀬里奈は腕を組みながら征市を挑発した。その挑発も今まで征市が倒してきたプライズとは違い、自信に裏打ちされたものだ。この戦いは、簡単には終わりそうにない。
「だったら、俺も見せてやるよ。トライアンフのエースの力をな!」
 征市と瀬里奈の対決と同じように、菜央と元喜の戦いも白熱していた。
「《青銅の鎧》召喚です!」
 菜央が最初に出したのは、征市と同じ《青銅の鎧》だ。マナを増やして、元喜を見る。既に彼は、鏡餅のような機械のクリーチャー《賀正電士メデタイン》を召喚していた。菜央が召喚したクリーチャーを見ながら、カードを引く。
「マナを増やす戦略か。だけど、まだまだ!遅いね!」
 元喜は、《アクア・ガード》を召喚し、それに一枚のカードを投げつける。体に刺さったカードの力を得て、《アクア・ガード》は半身半馬のクリーチャー《クリスタル・ブレイダー》に進化した。
「《クリスタル・ブレイダー》でシールドをブレイク!」
 螺旋形の盾で《クリスタル・ブレイダー》は菜央のシールドを砕いていく。それを見ても、菜央は表情を変えない。代わりに溜息を吐いた。
「その程度の力で私と、トライアンフを潰そうと言うんですか?」
「え……?」
 菜央の口から放たれた挑発的な言葉に元喜は絶句する。弱いと思っていたはずの菜央が自分にこんな事を言うとは思っていなかったからだ。
 口を開けたままの元喜を見ながら、菜央は一体のクリーチャーを召喚した。金色の鎧に身を包んだ緑色の虎のようなそのクリーチャーは、右手の剣で菜央の山札のカードをマナに変え、左手の剣で、山札のカードをシールドに変えた。《無頼聖者スカイソード》だ。
「《スカイソード》でただシールドを増やしただけじゃないか。脅かすなよ」
 元喜は、《ストリーミング・シェイパー》で手札に四枚の水文明のカードを加えた。そして、《クリスタル・ブレイダー》で菜央のシールドをブレイクする。
「これで、準備は整いました。あなたの負けです」
 そう言って、菜央はシールドに一枚のカードを投げる。すると、無地の壁だったシールドに、金色の要塞のような絵が浮かび上がった。そこから発せられる光を受けて、《青銅の鎧》の槍がただの棒を尖らせたような形から、装飾を施された鋭い形に変化していった。《スカイソード》の剣も鋭く重くその形を変化させていった。
「《青銅の鎧》で《クリスタル・ブレイダー》を攻撃!」
 《青銅の鎧》は菜央の命令を受けて、《クリスタル・ブレイダー》のいる場所目がけて走る。その決断を聞いて、元喜は笑った。
「これは傑作だよ!《青銅の鎧》で《クリスタル・ブレイダー》を攻撃だって?《青銅の鎧》はパワー1000のクリーチャーだ。《クリスタル・ブレイダー》の5000のパワーにかなうわけないじゃないか!」
 そう言って元喜は冷たい目で《青銅の鎧》を見る。
 だが、その瞬間、彼の背筋に電流のようなものが走った。言葉では説明できない何かを感じ、《青銅の鎧》の攻撃が届く直前に彼は叫ぶ。
「《メデタイン》!《クリスタル・ブレイダー》を守れ!」
 《青銅の鎧》が突き出した槍を《メデタイン》の体が受け止める。パワーが2000あるはずの《メデタイン》だが、その槍に容易く貫かれて爆発し、霧散していった。
「《メデタイン》がやられた……?その城はなんだ!」
 元喜はそこで気付く。菜央がシールドに重ねた城のカードが、彼女のクリーチャーに力を与えていた事に。
「《無敵城 シルヴァー・グローリー》。私のクリーチャーに全てのバトルで勝つ力を与える切り札です」
 全てのバトルで勝つ。それは、パワーに関係なく、菜央のクリーチャーが相手のクリーチャーを一方的に倒せる事を表している。その力に目を見開いたままの元喜を見ながら、菜央は《スカイソード》に指示を出した。
「《スカイソード》で《クリスタル・ブレイダー》を攻撃!」
「ちぃっ!」
 《クリスタル・ブレイダー》は両手の盾で頭部を守ろうとするが、《スカイソード》の二本の剣は盾ごとその体を切り裂いた。ガラスが割れたかのように、水晶のような素材でできたその体が砕け散っていく。
「そんな馬鹿な……」
 元喜が知っている菜央は、ただの少女だった。確かにデュエル・マスターズカードを扱う事もできるが、実戦で戦えるような腕を持っていたわけではない。その菜央が、トライアンフに所属し第一線で戦っていた元喜を追い詰めているのだ。菜央を倒し、トライアンフを潰す計画に歪みが入った事を元喜は理解した。
「許せないな。僕をコケにするなんて!」
 元喜は、一体の人型のクリーチャーを召喚した。片腕が巨大な水棲生物の頭部のようになったそのクリーチャー《封魔バルゾー》は、その腕についた頭部から滝のように水を吐き出す。それが、《スカイソード》を飲み込んでいった。飲み込まれた《スカイソード》はカードに変化すると、菜央の手札に戻る。
「やっぱりね!《シルヴァー・グローリー》の効果でバトルに勝つ事はできても、それは絶対に倒されないっていうわけじゃない。今みたいに倒す方法は存在するんだ!」
 次に元喜は、《シルヴァー・グローリー》によって要塞化されたシールドを指す。
「城はついているシールドがブレイクされると破壊される。すぐにそのシールドを破壊してやるよ!」
「そうはさせません」
 菜央は静かに言うと、マナをタップし、手札にあるカードに五つのマナを集める。一瞬、《スカイソード》を警戒した元喜だったが、マナの波長からそれが違うカードである事がすぐに判った。
 場に飛んでいったそのカードは青い姿のいくつもの手を持った精霊《知識の精霊ロードリエス》へと変化していった。自分のブロッカーが出るたびに手札が増えるそのブロッカーの姿を見て、菜央は行動を続ける。
「《ロードリエス》自身の効果でドロー。そして、《魂と記憶の盾(エターナル・ガード)》!」
 菜央の手から離れたカードが発した光が《封魔バルゾー》の体を粒子状に分解し、シールドへと変化させていく。そのカードは、元喜のシールドゾーンに六枚目のシールドとして収まった。
「《スカイソード》に《ロードリエス》。そして、《魂と記憶の盾》か。防御型ってわけだ」
 元喜も菜央の戦略が見えてきた。菜央のデッキは防御に比重を置いたデッキ。そのため、攻撃の手数は少ないはずだ。《青銅の鎧》が自分のシールドをブレイクするのを見て、彼は笑う。
「OK。だったら、その防御が無駄だって事を教えてあげるよ!」
 元喜の手札から二枚のカードが飛び出す。それは二体の同じクリーチャーとなって場に現れた。全身が綺麗な流線形で作られた《弾丸透魂スケルハンター》だ。攻撃もブロックもされない、防御型のデッキにとっては天敵とも言える相手である。
「こいつら二体をどうやって止める?《魂と記憶の盾》はさっき使っちゃってもうないよね?」
 菜央は何も言わない。ただ、淡々とカードを出して、それに答える。
「《迅雷の精霊ホワイト・ヘヴン》を召喚」
 菜央が出した巨大な精霊は持っていた弓矢で《スケルハンター》を狙う。放たれた矢は《スケルハンター》に刺さり、その体を粒子状に分解。そして、シールドへと変化させていった。まるで《魂と記憶の盾》を使われた時のようなその動きを見ていた元喜に、菜央が説明する。
「《ホワイト・へヴン》は、他のエンジェル・コマンドがいる時に相手のクリーチャー一体をシールドに変えるエンジェル・コマンドです。これで一体は除去できましたよ」
「そうだね。一体は、ね」
 元喜は口元に笑いを含んだ表情をして、《サイバー・ブレイン》を使い、手札を増やした。そして、増やした手札の中から《アクア・ガード》二体を召喚する。
「でも、《スケルハンター》はまだ一体残っているんだよ!これで、《シルヴァー・グローリー》がついたシールドをブレイクだ!」
 元喜の命令を受けた瞬間、《スケルハンター》は姿を消す。低いモーターの音と共に次にその姿を見せた時は、《シルヴァー・グローリー》によって要塞化されたシールドの前にいた。
「これで、無敵の力は期限切れだ!制圧してやる!」
 その銃口が火を噴いた時、元喜は信じられないものを見た。銃口から出た銃弾は真っ直ぐ飛んでいったはずなのに、そのシールドに着弾する直前に隣のシールドに狙いを変えたのだ。
「《スケルハンター》、何をしている!そっちじゃない!」
 だが、《スケルハンター》は元喜の命令を聞かずに全ての弾を撃ち尽くしていた。そのシールドから緑色のツタが伸びてきて《スケルハンター》の体を締め付ける。
「シールド・トリガー《ナチュラル・トラップ》です。《スケルハンター》をマナへ!」
 粒子状に変化した《スケルハンター》は、カードに姿を変えるとマナゾーンに飛んでいった。それを信じられないような表情で見ながら、元喜は叫ぶように言う。
「シールド・トリガー。それくらい判っている。僕は《スケルハンター》に《シルヴァー・グローリー》がついたシールドを攻撃しろと言った!なのに、何故!何故、隣のシールドに攻撃がそれたんだ!?」
「《シルヴァー・グローリー》によって要塞化されたシールドが攻撃された時、別のシールドに攻撃を移す事ができます」
 その一言に元喜は口に手を当てて驚いた。彼に追い打ちをかけるように、菜央は「そんな事も知らずに私を倒そうと思ったんですか?」と、言い放ち、カードを引いた。
「裏切った事、後悔させてあげます。もう反省しても、どうしようもないですからね!」

「《執拗なる鎧亜の牢獄》を使う」
 未来地区、噴水広場での戦いも続いていた。
 陸が呼び出しておいた《冥府の覇者ガジラビュート》を、クリスタルでできた牢獄が包む。それが砕ける事で、それはカードの姿で陸の手札に戻っていった。さらに、砕けたクリスタルから黒い手が飛んできて陸の手札を一枚引きずり落とす。それは、今、手札に戻されたばかりの《ガジラビュート》だった。黒い手は赤い炎に変わると、陸のシールドに飛びつき、それを焼き尽くしていった。この時点で陸のシールドは残り二枚である。
「クリーチャーもシールドも食いつくす呪文か。嫌だね、本当に」
 陸は言葉とは裏腹に余裕を残した表情でそう言って、手札から一体のクリーチャーを呼び出す。四本足の下半身に人型の上半身、そして、全身に狼のような顔があるデーモン・コマンド《凶刻の刃狼ガル・ヴォルフ》だ。剣を銀髪の男に向け、体中の顔が唸る。
「OK、《ガル・ヴォルフ》。相手の手札のアーマロイドを撃破しろ!」
 《ガル・ヴォルフ》の雄たけびが銀髪の男の手札を全て弾き飛ばす。そして、空に飛び落下してきた手札の中から一枚のカードに狙いを絞り、剣を投げつけた。そのカードが真っ二つに切り裂かれると、《ガル・ヴォルフ》は銀髪の男のシールドにも剣を投げつける。剣が突き刺さったシールドは粉々に砕け散った。この時点で銀髪の男のシールドの残り二枚になった。彼の場にクリーチャーの姿はない。陸も《ガル・ヴォルフ》一体のみだ。
「《ゾンビ・カーニバル》を使う」
「何だって!?」
 銀髪の男が掲げたカードから、黒い布をかぶったドクロが三体飛び出してくる。それらは、銀髪の男の墓地から三枚のアーマロイドのカードを引きずり出してきた。その中には、陸が《ガル・ヴォルフ》を使って捨てたカードもあった。
「墓地から回収するカードが入っていたとはね……。ちょっと油断したよ」
 陸は《サイバー・ブレイン》を使って三枚のカードを引く。だが、いいカードが引けなかったらしく「ちくしょう!」と叫んで手を膝に叩きつける。
「だけど、これだけあれば充分かな。《ガル・ヴォルフ》でシールドをW・ブレイク!」
 《ガル・ヴォルフ》が銀髪の男のシールドまで走り、持っていた剣で二枚のシールドを切り裂いていく。だが、二枚目のシールドを切った時に悲劇は起こった。そのシールドが砕け、何かが飛び出してきた。それは、体中にある巨大な手の一本を伸ばして、陸の手札を弾き飛ばす。弾き飛ばされた手札は、空で黒く変色し、灰となって消えていった。
「シールド・トリガークリーチャー《ギガバルザ》だ」
 銀髪の男のシールドから出てきたのは、体中に様々な生物の手を持つ獣《ギガ・バルザ》だ。場に出た時、相手の手札を一枚捨てる事ができる。
「だけど、パワー1000のクリーチャーだ。《ガル・ヴォルフ》は倒せない」
 それを聞きながら、銀髪の男は《ガッツンダー》を呼び出す。確かに、そのクリーチャーならば、特殊能力によって《ガル・ヴォルフ》を倒す事ができる。だが、召喚酔いをしていて今は攻撃ができない。
「何で、今、《ガッツンダー》なんか……」
 疑問に思っている陸の前で、《ガッツンダー》に一枚のカードが刺さり、その姿が変わっていく。様々な機械が融合し、白い女性の顔のような仮面を纏った四本足の獣、《超機動魔獣ギガランデス》だ。
「そうか!これを出すために……!」
「切り札だ……」
 驚く陸の前で、銀髪の男は静かに言う。そして、《ギガバルザ》に指示を出した。
「《ギガバルザ》、W・ブレイク」
 すると、《ギガバルザ》の肉体が巨大化し、元々多かった手の数がさらに増えていく。増えた手が伸び、陸の二枚のシールドをブレイクしていく。
 《ギガバルザ》は本来、シールドを一枚しかブレイクできないクリーチャーだ。だが、《ギガランデス》の特殊能力によってW・ブレイカーが与えられている。《ギガランデス》の特殊能力は、キマイラとアーマロイドにW・ブレイカーを与える事、そして、自分以外のキマイラとアーマロイドのパワーを2000プラスする事だ。
 《ギガバルザ》の攻撃によって、陸のシールドはなくなってしまった。シールド・トリガーもない。銀髪の男は陸の姿を指して最後の攻撃を命じる。
「《ギガランデス》、殺害しろ」
 重く大きな体を引きずって《ギガランデス》は陸へと向かっていく。陸は、諦めたのか《ギガランデス》が現れてからずっと下を向いていた。《ギガランデス》が陸の目前まで近づき、仮面越しの吐息が少年の顔にかかる。機械のキマイラがその腕を振り上げた時、陸は顔を上げた。
「残念だったな!僕の勝ちだ!」
 《ギガランデス》は腕を振り上げたまま動かない。そのまま、全てにパーツが腐り始め、崩れ落ちていった。その隣には、巻物を持ったカエルのようなクリーチャーがいる。
「《威牙の幻ハンゾウ》。相手の攻撃かブロックのタイミングに合わせて出せるクリーチャーさ。出た時に相手のクリーチャーのパワーを6000減らす事ができる。《ギガランデス》のパワーは6000だったよね!」
 銀髪の男は一歩のけぞる。もう攻撃できるクリーチャーは残っていなかった。その鼻先に《ガル・ヴォルフ》が剣を突きつける。
「あの世で神様に懺悔しな!《凶刻の刃狼ガル・ヴォルフ》でとどめだ!」
 《ガル・ヴォルフ》の剣が銀髪の男の体を切り裂いていく。その体は黒い光を発するとビショップのチェス駒となって、地面に落ちた。陸はそれを拾い上げると湊を見た。彼の戦いも終わりに近づいていた。
 湊のシールドは二枚。場には《覇翼 フェアリー・アクセラー》を装備した《西南の超人(キリノ・ジャイアント)》が一体。そして、龍の形を模したクロスギア《竜装 ザンゲキ・マッハアーマー》があった。
 湊と対峙する黒髪の男のシールドは三枚。だが、そこにクリーチャーの姿はなかった。
「《西南の超人》でシールドをブレイク!」
 《西南の超人》が腰に下げていた刀を引くと、両腕でそれを握り、力いっぱい黒髪の男のシールドを斬る。
 すると、そこから緑色の光と共に一体のクリーチャーが飛び出してきた。紫色の巨大なサソリのようなクリーチャー《ウィップ・スコーピオン》だ。本来のパワーは低いが、攻撃した時はパワーが一時的に高くなるパワーアタッカーの特殊能力を持っている。それを見て満足したのか、黒髪の男は一枚のカードを《ウィップ・スコーピオン》に投げつけた。緑色の淡い光と共に、その姿が大きく変化していく。
「進化、《大昆虫ガイアマンティス》」
 例えるなら、超巨大なカマキリ。人の体の何倍もある緑色のカマキリのようなクリーチャー《ガイアマンティス》は鋭いかまで湊のシールド二枚を切り裂いていった。カードの姿に戻ったその二枚のカードは湊の手元に飛んでいく。
「W・ブレイカーまであるなんて……」
 《ガイアマンティス》はパワーが9000もあり、W・ブレイカーも備えているクリーチャーだ。さらに、パワー8000以下のクリーチャーにブロックされない能力も持っている。今の湊のクリーチャーでは倒す事ができない。
「《ガイアマンティス》を倒すか、シールドを二枚ブレイクして、とどめを差すかどっちかをしなくちゃ……」
 湊は四枚のマナをタップして、一体のクリーチャーを呼び出す。鍛えられた青い肌の肉体を黒い鎧で固めたジャイアント《維新の超人(リョウマ・ジャイアント)》だ。
「そうか!《西南の超人》と《ザンゲキ・マッハアーマー》の効果で合計3コスト減らしたんだね!」
 陸は、湊の行動を理解した。《西南の超人》はジャイアントのコストを2下げるクリーチャーであり、《ザンゲキ・マッハアーマー》はサムライのコストを1下げるクロスギアだ。ジャイアントであり、サムライでもある《維新の超人》は3コストも下げる事ができる。
「来て!《マッハアーマー》!」
 《維新の超人》が刀を天へ掲げると、マナからカードが飛んでいく。それは空中で赤い光を発しながら、《ザンゲキ・マッハアーマー》へと変化し、いくつかのパーツに分裂する。分裂した《ザンゲキ・マッハアーマー》は、全て《維新の超人》に融合した。
「《ザンゲキ・マッハアーマー》をクロスしたサムライはスピードアタッカーになる。それにシールドをブレイクできる数も増えた。勝負あったな」
 陸が言うように《維新の超人》は、自分にクロスしたクロスギアの数だけシールドを一枚多くブレイクする事ができる。今、《維新の超人》には《ザンゲキ・マッハアーマー》がクロスされているので二枚のシールドがブレイクできるのだ。《維新の超人》でシールドをブレイクした後、《西南の超人》で直接攻撃をすれば勝てる計算だ。
 だが、湊はまだ顎に手を当てて手札を見ていた。あくまでそれは相手のシールドにシールド・トリガーが入っていなかった時の話だ。湊は二枚のマナをタップすると、《西南の超人》に一枚のカードを投げた。
「進化!《大神秘ハルサ》!」
 《西南の超人》は巨大な仏像のような姿へと進化していった。その場で最も巨大な存在である《ハルサ》は持っていた杖を鳴らす。すると、場に新たな《フェアリー・アクセラー》が現れる。湊は一枚のマナをタップして、《維新の超人》に頭の羽飾りとして融合した。
「《ハルサ》でシールドをW・ブレイク!そして、《ガイアマンティス》をマナに!」
 ハルサが杖を振ると、《ガイアマンティス》の足元が砕け、地面に飲まれていく。それによって《ガイアマンティス》はその体を二枚のカードに変え、マナゾーンへ飛んでいく。これで黒髪の男のクリーチャーは一体もいなくなった。《ハルサ》はそれを見た後、巨大な杖でシールドを一枚ずつついていく。最後のシールドをついた瞬間、砕けた時のひびから緑色の光が発せられた。その光は緑色のツタに変化し、《維新の超人》に襲いかかる。
「シールド・トリガー《ナチュラル・トラップ》だ」
 淡々とした口調で黒髪の男が言う。《ハルサ》の特殊能力と同じように、《ナチュラル・トラップ》は、相手のクリーチャーをマナに封じ込める力を持っているのだ。
「湊君!」
 陸は心配して湊を見る。だが、彼は笑っていた。それは勝利を確信した笑みだ。
「僕がどうして《フェアリー・アクセラー》を《維新の超人》にクロスしたのか判っていなかったみたいですね。こんな時のためだったんだ!」
 《フェアリー・アクセラー》が《維新の超人》から離れると、空を飛び、その羽飾りでツタを切り裂いていく。自由になった《維新の超人》は刀を構えて腰を落とした。それを見て、黒髪の男が呆然としている。
《維新の超人》は相手の呪文で場を離れる時、クロスしているクロスギアを破壊する事で場に留まる事ができるクリーチャーだ。呪文では、湊の切り札を倒す事はできない。
「哀しい器よ、眠りなさい。《維新の超人》でとどめ!」
 《維新の超人》の横薙ぎが黒髪の男を捉える。黒い光と共にその姿は消え、陸が倒した男と同じようにビショップの駒だけが残った。湊はそれを拾い、カードをデッキに片付けると陸を見る。
「急ぎましょう。菜央さんが……!」
「ああ、リーダーに手出しはさせない!」
 二人は、目を合わせるとすぐにその場を去る。そして、トライアンフの事務所を目指して走り出した。
「待っていてくれよ、リーダー!」

「どう?私の切り札は?」
 挑発的な口調で言う瀬里奈に、征市は「最悪だ」と答えた。
 巨大な目が描かれた黒と白の左右が非対称のマント。マントとは逆の配色の仮面をかぶった巨大な人型のクリーチャー、《鎧亜の邪聖ギル・ダグラス》。それが、瀬里奈の切り札だ。《ギル・ダグラス》が場に残っている間、瀬里奈はカードを引く時、相手にそれを見せなければならない。一見、不利に見える効果だが、これにも意味はある。そのカードが光のカードであれば《ギル・ダグラス》はそのカードを引いたターン、破壊されない。そのカードが闇のカードであれば、相手のクリーチャー一体のパワーを2000マイナスする事ができる。
「お楽しみはこれからよ。《トリプル・ブレイン》!」
 瀬里奈が掲げた青いカードが光り、山札の上から三枚のカードが表向きになる。その三枚全てが闇のカードだった。
「まず、一つ!《青銅の鎧》のパワーをマイナス!」
 瀬里奈が引いた一枚の闇のカードからマナが飛び出し、《ギル・ダグラス》が持っていた白と黒の槍に力を与える。マントの目が《青銅の鎧》を捉えると、それに向けて黒い光線が発射された。
 一瞬の事だったので、征市が光線の発射を認識した頃には既に《青銅の鎧》の姿はそこにはなかった。
「まだよ!全部消え去りなさい!」
 同じようにして《幻緑の双月》と《クゥリャン》も倒される。最後に残ったのは、《紅神龍ジャガルザー》だけだ。
「攻撃、の前にやる事がまだあるわね」
 瀬里奈の手札から三枚のカードが飛んでいく。だが、それは飛ぶというよりは浮かぶと表現するのが正しい。風に乗って空中に浮かぶように飛んでいったそれは場に落ちるとクリーチャーの姿に変わっていった。白い馬に乗り、丸い盾を持った黒騎士が《ギル・ダグラス》の横に待機している。
「G・0。《魔光騎聖ブラッディ・シャドウ》よ」
 G・0(グラビティ・ゼロ)。それは、特定の条件を満たした時、コストを支払わずにクリーチャーを召喚する特殊能力である。《ブラッディ・シャドウ》の条件は、そのターンに呪文を唱えている事だ。《トリプル・ブレイン》によって、その条件はクリアしている。
「最後に《ジャガルザー》を消すわ。《ギル・ダグラス》で《紅神龍ジャガルザー》を攻撃!」
 《ギル・ダグラス》が持っていた槍で《ジャガルザー》の肉体を貫く。一ターンで、征市のクリーチャーは全滅してしまった。
「小型クリーチャーじゃ、攻撃する前に《ギル・ダグラス》にやられちまう。大型だったら、安心して殴れるが……」
 瀬里奈の二枚残ったシールドを守るように三体の《ブラッディ・シャドウ》が立ちふさがる。ブロッカー破壊のカードは一枚しか残っていない。
「だったら、このドローに賭けるしかないな。……来いっ!」
 征市は、念じるようにゆっくり山札の上に手を置き、素早くそのカードを引く。そのカードの赤い輝きを見て征市は勝利を確信した。
「これで俺の勝ちだ!《超神星アレス・ヴァーミンガム》召喚!」
 征市が投げたカードに、マナから飛び去った二枚の赤いカードが融合する。真紅の不死鳥がその場に現れた。
「まだそんなブロッカー対策カードを残していたの?」
「ああ。これで決めてやる!《アレス・ヴァーミンガム》のメテオバーンを使い、《ブラッディ・シャドウ》三体を破壊!そして、シールドをW・ブレイク!」
 《アレス・ヴァーミンガム》の体から出た赤い球体が砕け散り、大爆発が起こる。星が爆発したのかと錯覚させるほどの光と音。それによって生じた熱によって《ブラッディ・シャドウ》の姿は影だけを残してその場から消え去った。
 次はシールドである。《アレス・ヴァーミンガム》の二門の砲台が赤い光線を発射し、瀬里奈のシールドを貫いていく。その内の一枚が割られた瞬間、そこから黒い巨大な手が現れ、《アレス・ヴァーミンガム》の肉体を握り潰していった。その場に、真紅の羽根が舞う。
「ここで、シールド・トリガー《デーモン・ハンド》だと……!?」
 破壊された切り札がいたはずの場所を見ながら、征市は呆然としていた。次のターン、《アレス・ヴァーミンガム》で攻撃していれば勝っていたはずなのだ。目前に迫った勝利を逃した征市を見て、瀬里奈が笑う。
「傑作だわ!今の顔、とても面白いわ!私に勝てると本気で思っていたの?思いあがるんじゃないわ!」
 瀬里奈が一枚のカードを引き、五つのマナをタップする。そのマナを使って一体のクリーチャーを召喚した。
「《腐敗聖者ベガ》を召喚するわ。シールドを増やし、最後の手札を破壊!」
 《ベガ》の盾が輝き、山札の上のカードが飛び、シールドへ変化していく。さらに、その体から飛んだ黒い弾丸が、征市の持っている最後の手札を弾き飛ばした。征市は表情のない顔で宙を舞うその一枚の手札を見ていた。
「あはははは!無様!無様だわ!」
「本当に、そう思うか?」
 征市は、瀬里奈の顔を見ると歯を見せて笑う。それは追い詰められた者の顔ではない。
「はったり?でも、意味がないわよ。あんたの最後の手札は今、破壊した」
「ああ、破壊された。その力を利用して、俺が仕掛けた手品のタネが動き出す!」
 宙を飛んでいた征市のカードが突如、燃え始め、巨大化した炎は大きな翼を持つ炎の鳥へと変わっていった。その口から発せられる高い声が征市の山札の上を三枚めくり、その中から一枚、アーマード・ドラゴンのカードが征市の手元に飛んでいく。
「《翔竜提督ザークピッチ》だ。こいつは、相手のターンに手札から捨てられるとコストを払わずに場に出る。そして、場に出た時に山札を三枚めくり、その中からアーマード・ドラゴンとファイアー・バードを全て手札に加えるクリーチャーだ!」
「《ベガ》の力を利用したというの!?」
「利用させてもらった、というよりはまた《ベガ》を出された時のために備えていたってのが正しいな。一枚だけ手札にずっと握っていたら、怖くて捨てたくなるだろ?ちょっとした心理の誘導をしてやるのも手品師のテクニックってもんだ」
「許せないわ!《ギル・ダグラス》でシールドをW・ブレイク!」
 《ギル・ダグラス》の槍が征市のシールドを貫く。カードの姿に戻ったシールドを手札に戻し、征市は瀬里奈を見ると、六枚のマナをタップした。左手に持っていた手札の束から一枚のカードを右手で引き抜くと、そのカードにマナゾーンのカードから現れた色とりどりのマナが入り込んでいく。赤い光を発するその切札を場に投げながら征市は言う。
「お前が許すかどうかなんか関係ない。だが、お前が犯した罪は、昔のトライアンフのメンバーに味わわせた痛みはきっちり教えてやるから覚悟しておけ!」
「くだらないわ!大体、今、クリーチャーを召喚しても召喚酔いしている!仮に《ザークピッチ》で最後のシールドをブレイクしたとしても、それで終わりよ!」
「俺の切札が何なのか、まだ判らないみたいだな」
「え……?」
 瀬里奈の目の前で、征市の切札が炎の柱を生み出す。その炎を吸収して巨大なシルエットが現れた。それが赤い龍だという事を瀬里奈は数秒後に理解する。征市のピンチを何度も救ってきたその龍は二本の足で地面に立ち、刀を引き抜くと左目に傷を負った顔を瀬里奈に向けた。
「《ボルシャック・大和・ドラゴン》召喚!!」
 名を呼ばれて咆哮する《ボルシャック・大和・ドラゴン》。スピードアタッカーのため、召喚酔いなしで攻撃できるクリーチャーだ。
「嘘よ……。私が追い詰められた?」
「嘘なんかじゃない。目の前にあるのは紛れもない真実だ。お前はここで負けるんだ。多くの人をプライズで苦しめてきたみたいだが、それももう終わりだ!」
 《ザークピッチ》が両肩の銃口から弾丸を飛ばし、瀬里奈の最後のシールドを砕く。それはシールド・トリガーではなく、すぐに手札に戻った。
「きっちりその目に焼き付けておけ。『ウソのようなホントウ』って奴をな」

「《スケルハンター》でシールドをブレイク!」
 《スケルハンター》の攻撃によって菜央のシールドは、《シルヴァー・グローリー》によって要塞化された最後の一枚のみになってしまった。ブロッカーでの防御をメインにした菜央のデッキでは、攻撃もブロックもされない《スケルハンター》を倒す事は困難だ。だが、クリーチャーの数で差があるのが救いだと言える。
 W・ブレイカーのエンジェル・コマンド《ホワイト・ヘヴン》。マナのカードを回収する《ストーム・クロウラー》と墓地の呪文を回収する力を持つ《デ・バウラ伯》が相手の攻撃をブロックする。
 最後に、その中央に立つ菜央の切り札《聖霊王エルレヴァイン》が相手の動きを見張っていた。白い羽根を散らしながら、その場に立つ様々な装飾が施された豪華絢爛な鎧に身を包んだそのエンジェル・コマンドの力は、場に出た時に選んだシールドから力を借りる事で特殊な効果を発揮するシールド・フォースである。《エルレヴァイン》のシールド・フォースは光文明以外のクリーチャーの召喚コストを4増やす能力だ。これによって光文明を持たない元喜のクリーチャーは全て4コスト増やした状態で召喚される。簡単にクリーチャーが召喚出来ずに行動がほとんど封じられてしまっているのだ。
「《ロードリエス》を召喚!そして、《エルレヴァイン》で元喜さんの最後のシールドをブレイク!」
 《エルレヴァイン》が右手を元喜のシールドに向けて指を鳴らす。すると、独りでにそのシールドが砕けていった。落胆した元喜だが、そのシールドが青く輝いたのを見て、まだ自分が負けていない事を知る。シールドの破片が宙に集まり、そこから巨大な波とそれを操るサーファーが現れた。波は、元喜を攻撃しようとして矢を絞っていた《ホワイト・ヘヴン》を飲み込んでいく。
「シールド・トリガー、《アクア・サーファー》だよ。いくら《エルレヴァイン》のシールド・フォースが強力でも、シールド・トリガーまでは防げない。それに……」
 元喜は手札から一枚のカードを取り出し、八枚のマナをタップする。マナから集まった青い光が元喜の切札に集まっていった。
「これで君の防御を崩して僕は勝つ。本来のコストに加えて4コスト、合計8コスト。これだけ揃えるのは大変だったよ。だけど、君を踏みにじるために耐えてきた!さあ……!」
 元喜の手から離れた青いカードが《アクア・サーファー》に刺さり、その体を変化させていく。そのクリーチャーが姿を現す直前に場の全体に発せられた青い光が、菜央のブロッカーを粒子化させ、ただのカードに戻していった。それらは全て手札に戻ってしまう。
「幻となって消え失せな」
 腕を組んで言う元喜の前に、半身半馬のリキッド・ピープル《クリスタル・パラディン》が立つ。場に出た時にブロッカーを全て手札に戻す進化クリーチャーだ。これで、菜央を守るのは《シルヴァー・グローリー》によって要塞化されたシールド一枚になった。それを狙って《クリスタル・パラディン》が走る。走った時の勢いをつけたまま、《クリスタル・パラディン》の剣がそのシールドに届く。
 だが、そこで奇妙な影がシールドの前を通り、《クリスタル・パラディン》の肉体が真っ二つに切り裂かれる。音もなく現れたそのクリーチャーは、動きを止めて菜央のシールドの前で静止した。鋭角的なフォルムのボディと流線形のウイングを持った戦闘機のようなクリーチャーだった。シールドをブレイクしていないのだから、シールド・トリガーでもない。突如、菜央の手札から現れたそのクリーチャーが《クリスタル・パラディン》を倒していったのだ。
「何だ、そのクリーチャーは!?」
「《光牙忍ハヤブサマル》。ニンジャ・ストライクを持つクリーチャーです。場に出た時、自分のクリーチャー一体をブロッカーにする事ができます。これなら、《クリスタル・パラディン》でも戻せませんよね?」
 菜央が微笑む顔を見て、元喜は体中の力が抜けていくのを感じていた。彼は、菜央とのデュエルで負けたのだ。
「お嬢さん!お嬢さんはどうなった!」
 元喜が瀬里奈を見ると、彼女のシールドも既になくなっていた。征市の場には《ボルシャック・大和・ドラゴン》がいる。
「これで終わりです、元喜さん!」
 菜央の想いに呼応して、《エルレヴァイン》の両手に金色の光が集まっていく。
「きっちりその目に焼き付けておけ。『ウソのようなホントウ』って奴をな」
 征市の《ボルシャック・大和・ドラゴン》の刀にも炎が集まっていった。主の命令を受けて飛び出すその瞬間のために、腰を落として構える。
「チェックメイト!」
 菜央の声と共に《エルレヴァイン》の両手から金色の太い光線が発射される。
「行け!《ボルシャック・大和・ドラゴン》!!」
 そして、征市の《ボルシャック・大和・ドラゴン》も飛び出した。二人の切札の攻撃が炸裂する瞬間、爆音と砂埃がその周囲を包んだ。その砂埃が消えた瞬間、瀬里奈が立っていた場所にはクイーンの駒が、そして、元喜が立っていた場所にはルークの駒が置かれていた。それを見て、菜央は体中の力が抜けたのか、後ろに倒れる。驚いて、征市がそれを支えた。
「おい!大丈夫か!?」
「大丈夫……みたいです。久し振りにデュエルをしたので、ちょっと疲れてしまいました」
 そう言って、菜央は弱々しく微笑む。だが、その笑顔には勝利した喜びがはっきりと現れていた。
「おーい!」
 しばらく休んだ菜央が自分の力で立ちあがると、遠くから聞き慣れた声がした。陸だ。他に、湊と彩弓もいる。陸は険しい顔をして二人に近づくと
「裏切り者の元喜はこっちに来ましたか?」
と、聞いた。征市は一度、菜央と顔を見合わせると
「菜央が倒した」
と、答えた。それを聞いて陸と湊は驚いた顔をして菜央を見た。
「何だかよく判らないけれど、菜央ちゃんはすごいんだね!よかったよかった!」
「お前……。本当に判ってるのか?」
「細かい事はいいんだよ!」
 征市と彩弓の漫才のようなやり取りに菜央が笑う。陸と湊も続いて笑い、気分が良くなった征市と彩弓も笑った。
「みなさん、大事な話があります」
 しばらく笑った後、菜央が真面目な顔でそこにいる全員を見た。
「今回は、裏切り者を含むトライアンフの敵を何とか倒す事ができました。彼らは、去年、トライアンフを襲撃した宿敵でもありました。これから戦い続けていたら、トライアンフはもっと強力な敵と戦う事になり、誰かが命を落とすかもしれません」
 今回の戦いも危険だった。瀬里奈や元喜の心に慢心があったから、その隙に付け入る事ができたが、彼らが本気で今のトライアンフを狙っていたらどうなっていたか判らない。以前のトライアンフよりもひどい状態で敗北していたかもしれないのだ。
 菜央は続ける。
「私は、ここで一度トライアンフを解散します。危険を承知で戦える人だけついてきて下さい」
 征市達は顔を見合せ、しばらく考えた。その中で、最初に征市が右手を出した。
「俺は戦う。Y市は世界でもプライズが多い場所だ。プライズのトラブルだって多い。それに、今回の敵と関係があったギルドが、俺達を狙って動き出す事も考えられるからな。戦える奴は戦うべきだ」
 それに続いて、陸が右手を出し、征市の手に重ねた。
「僕の答えは“YES”だよ、リーダー。新しいトライアンフを作った時に一緒に戦うって約束したでしょ?」
 湊もその手に自分の手を重ねた。
「僕も戦い続けます。この世界にはまだたくさんの哀しい器があるはずですから」
「わたしも、わたしもー!」
 彩弓もそこに手を重ねた。
「お前なぁ……。意味判ってるのか?」
「判ってるよ!悪い奴らをやっつけるんでしょ!?」
「いや、判ってねぇ。絶対、判ってねぇ!」
 彼らの笑い声が波の音と混ざっていく。
 『大勝利』。それが、トライアンフという言葉を日本語に訳した時の意味だ。他に『征服』という意味もあるが、そんな事を望むトライアンフメンバーはいない。
 彼らは勝利し続けなければならない。プライズを悪用する者達や暴走したプライズとの戦いが終わるその時まで。

  『File.14 電脳の魔物』につづく
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

Twitter

FC2カウンター

FC2カウンター

現在の閲覧者数:

検索フォーム

QRコード

QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。