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『コードD』File.14 電脳の魔物

『コードD』
 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 トライアンフを狙う倉員瀬里奈と木口元喜。征市の連絡を受けた菜央はトライアンフ事務所の全データが入った鍵を使って自分のデッキを起動し、元喜に戦いを挑む。そして、そこへ辿り着いた征市も瀬里奈に戦いを挑むのだった。征市の心に残っていた疑問も解け、二人は宿敵に勝利するのだった。

 File.14 電脳の魔物

 教会の扉が音を立てて開く。その様子はまるで、巨大な怪物が獲物を食べるために口を開くのに似ていた。古くなったその扉の音も、不気味な音であり、暗闇で聞いていれば怪物の声のようにも聞こえるだろう。
 開いた扉から光が差し込み、黒い人影がその光を隠す。怪物に飲み込まれたのではなく、彼らは彼らの意思でここの扉を開いたのだ。
 青年の人影が荷物を投げるかのような動作で抱きかかえていた少女を目の前の床に下ろす。いきなり投げ下ろされた白いドレスの少女、倉員瀬里奈は、軽く悲鳴を上げた後、青年を見上げて睨みつけた。童顔な青年、木口元喜は幼さの残る顔を苦痛と悔しさで歪めながら倒れるように近くにあった長椅子に座った。顔が赤く、肩で息をしている。体に力が入らないらしく、それは座るというよりも長椅子の上で横になるような格好に近かった。
「屈辱だわ……」
「僕もそう思いますよ……」
 二人は、数時間前の出来事を思い出す。昨年秋と同じようにトライアンフを倒すために、二人はチェス駒のプライズを使って彼らに襲いかかった。瀬里奈は征市を取り込み、自分の部下にするという目的のために、直接征市との対決を臨んだが敗北。同じように元喜は菜央と戦うが、彼も完敗だった。
 二人のクリーチャーがとどめの動作を行う瞬間、元喜は持っていたチェス駒を投げて、結界を破り、瀬里奈を連れて逃げたのだ。結界を破るのは楽な動作ではなかった。手の感覚がなくなっている。その腕で瀬里奈を連れて走ったのだ。体中の力が抜けてしまっていると言っても過言ではない。
「あいつら、私をチェス駒のプライズだと考えているに違いないわ。私は、プライズなんかじゃないのに!」
「何も置いて行かなかったら不思議に思うでしょう。チェス駒のプライズだと思ってくれた方が楽ですよ」
 元喜は自分の手を見る。目が霞んで、指が何本あるのかよく判らない。指先はもう動いていなかった。
「しばらくは戦えそうにないですね。僕は体が治るまで休む事にしますよ」
「治るまでっていつよ!?私は、今すぐにでも戦ってやるわ!奴らを一人残らずこの手で倒してやる!」
「そんな大声を出すものじゃないわっ!」
 元喜でも自分の声でもない別の声を聞いて、瀬里奈は周囲を見る。元喜はその声の主には興味がないのか眠るように目を閉じた。
 声の主は祭壇にいた。黒く伸びきった髪をした男で、顔の上半分を隠すように白い布を巻いている。真白なマントで体を隠していて、下からは黒い靴と、同じように黒いズボンの裾だけが見えた。
 その男は、祭壇を飛び越えると大きな音を立てて瀬里奈の前まで走る。近づいてきた彼は、白い布越しに瀬里奈の顔をじっと見つめた。
「駄目ね。育ち過ぎてるわ」
 男の体から奇妙な匂いがする。それは体臭とも、それを消すような香水とも違う。何かの薬のような匂いだと、瀬里奈は感じた。
「何よ、この無礼者!どこから入って来たの!?」
 瀬里奈は立ち上がって白いマントの男を睨みつけると
「元喜、この男を消しなさい!」
と、命じた。元喜は目を閉じたまま、
「いえ、消えるのはあなたですよ」
と、答える。
「どういう事!?」
 元喜を見る瀬里奈だったが、彼は目を閉じたまま動かない。彼の代わりにマントの男が答えた。
「倉員瀬里奈ちゃん。あなたは、小生が作った仮初の人格なのよ。本来、あなたが使っているその体は、小生達の大事なだ~いじな人の肉体なの。そのお方が眠っちゃっててね。困った事に起きないのよ。お寝坊さんなのね。ずっと起きなかったら、体にとってもよくないわ。だから、あなたを生み出しちゃったってわけ」
「正確に言うと、体が動かないと、過剰な魔力で体が蝕まれて崩壊するってわけです。ただ、もうある程度動かしましたし、これ以上、あなたが生き続けると元々の人格に上書きされてしまう恐れがあるので、お嬢さんには永遠に眠ってもらいますけどね」
 マントの男の言葉に元喜が続ける。瀬里奈は二人の顔を見ながら、一歩ずつ後ろに下がっていった。やがて、彼女の背中は、いつの間にか閉じていた教会の扉にぶつかる。扉を開けようとして手をかける彼女だったが、その扉は動く事がなかった。
「何のつもり?私は、倉員瀬里奈!仮初の人格なんかじゃないわ!」
「信じられないのも無理はないわ。小生だっていきなりそんな事言われたら驚いちゃうものっ!」
 マントの男は、体をくねらせながら近づいてくる。瀬里奈は、自分が消されるかもしれないという思いと同時に、目の前の男の気色悪い行動にも恐怖を覚えた。
「借りたものは返さないといけないの。だから、瀬里奈ちゃん。その体をあの方にお返ししてね」
 マントの男が指をパチンと鳴らす。すると、瀬里奈の意識は途絶え、その場所に倒れ込んだ。一瞬の動作で、倉員瀬里奈という少女の人格はこの世界から完全に消えてしまったのだ。
 マントの男は、瀬里奈の肉体を抱きかかえると、近くの長椅子に座らせた。
「あんた、トライアンフにこの子を連れて行ったの?駄目じゃないっ!」
「そう言うなよ。あの方の意識が残っていたのか、相羽征市に興味を持っていたんだ。それに、僕らの計画にとっても邪魔になるかもしれないんだから、倒しておくのは間違いじゃない。例え、負けたとしても、倉員瀬里奈の人格を消すための手助けにはなる。そうだろう?全(ぜん)」
 白いマントの男、全は頷いた。そして、元喜を見る。
「ねぇ、幻(げん)。あなたもその体じゃ、しばらくは戦えないわね」
 全は、元喜の事を幻と呼んだ。韻を踏んだようなその名前を聞いて、元喜――いや、幻は答える。
「我ながら無様だとは思うよ。昔のトライアンフならともかく、今の弱体化した組織にここまでやられるとはね」
 目を閉じたまま、顔を歪める幻を見て、全は肩をすくめた。
「いいわっ!小生のいい子達も完成した事だし、トライアンフを倒すのは小生がやってあげるっ!」
「君はまだ体が完全に再生していないから、長い間、外には出られないはずだろう?どうやって……」
 そこまで言った後、幻は顎に手を当てて「――そういう事か」と、納得した。
「そういう事なのよ。小生の子供達はプライズとは一味も二味も違うって事をあのデュエリスト達に見せつけてやるわっ!」
「いいね。だけど、僕も何かあった時のための準備はしてあるんだ。あれで、トライアンフを潰す事はできなくても、奴らの戦力を減らす事くらいはできるかもしれない」
 幻と全の口元が怪しく微笑む。外界の光から完全に遮断された世界で、悪が動き始めていた。

 学生用の狭いアパートの一室。本来、フローリングの木目が見えているはずのその床は、今では足の踏み場もないくらい多くの本やディスクが積まれている。それをどかして足場を確保していた征市は、目の前の男を見ていた。
 青く変色し、逆立った髪。長い間、外に出ていないのか、病的なまでに白い肌。運動不足なのか、痩せ細った手足とこけた顔。その表情は怒りに燃えているように、征市には見えた。
「ホラー映画でこういうのいたな。悪霊に取り憑かれたとか、そんなシチュエーションで」
 ジョーク交じりの口調で言うと、征市は指を鳴らして自分の切り札に攻撃を命じた。
「《ボルシャック・大和・ドラゴン》!とどめだ!!」
 炎によく似た赤い鎧を身に纏った龍が、持っていた重い刀を振り下ろす。部屋全体を揺るがすような地響きと共に戦いは終わり、《ボルシャック・大和・ドラゴン》の攻撃を受けて倒れた目の前の男が痙攣したように一瞬、びくりと震えるとその体から青いものが出てきて窓際にあったデスクトップ型のパソコンに吸い込まれていった。征市は一息ついて
「終わりましたよ」
と、部屋のドアに向かって言う。それと同時に、魔法警察の私服警官が数名、部屋の中へ入ってきた。男の身柄の拘束など、ここからの仕事はトライアンフに所属している征市の仕事ではない。彼ら、魔法警察の仕事だ。征市は邪魔にならないように狭い廊下を移動すると、ドアを開けて部屋を出た。
 外に出た征市は、七月になったばかりの日差しを受けて目を細める。今まで戦っていた男の部屋は、窓もカーテンで閉め切っていたため、暗かったのだ。夏の日差しは、自分の存在感を訴えたいのか、過剰なまでに下界を照りつけている。
「たまには、雨に主役を譲ってやれよ。今年も雨が少ないから水不足になっちまうだろ」
 征市は、あまりの暑さにそんな事を呟きながら夏物の青いネクタイを緩めた。アパートが入っている敷地内から出ると、近くの電柱に陸が背を預けたままペットボトルに入った清涼飲料水を飲んでいる。
「あ、セーイチさん。お疲れ様です」
「お疲れ。うまそうなもん、飲んでるな」
「おっと、これはあげませんからね!欲しけりゃ自分で勝って下さい」
 そう言うと、陸はその中身を一気に飲み干す。「いらねぇよ」と、呟いた征市はアパートを見た。男の身柄の確保を終えたのか、彼を担架に乗せて魔法警察が出てくるのが見えた。その後に続く職員の手には、何枚ものディスクが見える。
「これで事件は解決ですね。じゃ、帰るとしますか。もう暑くって嫌になっちゃいますよ!」
「お前は何もしてねぇだろうが」
 二人が魔法警察のパトカーの後部座席に乗ると、それは緩やかに速度を上げて走り出した。車内の冷房の利いた空気が、戦いで火照った征市の肌を癒す。しばらくその空気を楽しんでいた征市は、携帯電話を取り出すと、トライアンフの事務所に電話をかけた。すぐに菜央が出てくる。
『相羽さん、お疲れ様です。うまく行きましたか?』
「ああ、全く問題がなかった。今、魔法警察の人達が部屋を調べてるよ」
 征市が追っていたのは、コンピュータウイルスのプライズだ。プライズは、大抵、長い年月を経た物が魔力を帯びるケースが多い。日本的な考え方で言うならば、付喪神(つくもがみ)に近いと言える。今回のように形を持たないコンピュータウイルスがプライズ化するなどという事は誰も考えていなかった。征市も知らなかったし、魔法図書館で調べた菜央も前例がない事件だと言っていた。
 コンピュータウイルスのプライズは、普通のウイルス対策ソフトでは対抗できない。ネットワークを介し、様々なコンピュータに侵入したウイルスのプライズは、そこにあるプログラムを食べて成長していった。ネットワークに繋がっていれば、無限に増える事ができる驚異のプライズだ。
 だが、そのプライズにも弱点があった。魔法警察がそのプライズの発信地を特定できたのは、その弱点に気づいたからなのだ。ウイルスのプライズには母体が存在して、様々なプログラムを攻撃するウイルスは、一定の時間が経過するとプログラムを食らう事で得たエネルギーを母体に預ける。母体は預けられたエネルギーを精製して、他のウイルスが動くためのエネルギーを与えるのだ。母体は、征市が倒した男のコンピュータの中に存在する事が判り、魔法警察に呼ばれて征市と陸が向かったのだ。男が征市に立ち向かったのは、ウイルスのプライズによって体を操られていたからなのだ。
「ウイルスのプライズが人間も操れると知った時は驚いたよ。コンピュータのプログラムだけじゃなかったんだな」
「人間の感情も結局は電気信号だから似たようなもんなんじゃないですか?」
菜央への報告を終えた征市が呟くと、陸が答える。その後に「それにプライズだし」と付け加えた。
「コンピュータだけでなく人間も操れるプライズか……。被害が大きくなる前に事件が終わって良かったな」
「そうですね。……いや、待てよ?」
 同意した直後、陸が額にしわを寄せて何かを考える。そして、征市を見ると
「セーイチさん、これを使えばリーダーの素敵な二つの山に顔を埋める事も簡単なんじゃないでしょうか!」
「お前は何でそんな事思いつくんだよ。大体、菜央を操るような事したいのか?」
「甘いですね」
 そう言って陸は指を振った。自分を馬鹿にしたような仕草を見て征市はむっとする。
「リーダーを操ったら、リアクションが期待できないじゃないですか!それに、もし何かあった時に困りますからね。ここは、僕がウイルスのプライズに操られた振りをしてリーダーに抱きつくという事で。セーイチさんは、リーダーに僕がウイルスのプライズに操られている事を説明するのをお願いしますよ。ん?一緒に抱きつくのもありかな」
 真剣な顔をしてくだらない事を考える陸を横目で見ながら、征市は固いシートに体を預けて目を閉じた。

 その翌日。征市は、いつものように博物館の関係者専用の通路を通り、途中にある絵画の前で止まる。その下にある隠しエレベーターのドアを開くためだ。絵画に触れると、その下の白い壁が動き、征市を迎え入れる。征市が中に入ると、壁は閉まってトライアンフの事務所がある場所まで移動した。目的地について開いたエレベーターを出ると、征市を呼び出した菜央の他に陸と湊もそこにいた。
「遅いですよ、セーイチさん。遅刻ですか?」
「うるせぇな。こっちだって急いで来たんだよ。そう言うな」
 征市は、陸のジョークに軽い口調で言い返すと事務所の自分のデスクの上に鞄を下ろした。デパートでやっている手品グッズの実演販売を終えてすぐにこちらに向かったのだ。陸や湊と違い、すぐに移動できるわけではない。鞄の中には、自分で使うための手品グッズも入っている。
「ウイルスのプライズがまた動き出したって本当か?」
 その問いに菜央は頷く。
 昨日、征市に倒された男は魔法警察に連れて行かれた後、知っていた事を全て話した。ウイルスプライズの母体は、自分が倒された時のために既に別の母体を作り上げていたという事。そして、その母体によって新たなウイルスプライズが作られ、様々なコンピュータプログラムへの攻撃が始まっている事などが得られた情報だった。
「コンピュータウイルスのプライズが入ったディスクを渡したのは木口元喜です」
 菜央の口から出た名前を聞いて、三人は顔を見合わせる。元喜は、以前、トライアンフを襲撃しようとして菜央に倒された男だ。
「あの人もチェス駒のプライズだったんですよね。あの後、復活したんですか?」
 湊の疑問を聞いて、菜央が首を振る。その後、説明を続けた。
「木口元喜がウイルスプライズが入ったディスクを渡したのは、私達に出会う以前の事です。どうやら、何かあった時のためのバックアップのために、このプライズを準備していたのでしょう」
「抜かりがないな。昔からこういうのだけはしっかりしてるんだよな」
 陸がぼやいて近くにあったデスクを叩く。そして、昔の事を思い出すように遠くを見ていた。
「既に魔法警察のコンピュータもウイルスプライズの手に落ちています。私がここで指示を出しますので、みなさん、これを持って出撃して下さい」
 菜央は箱に入った黒い物体を三人に見せる。それはトランシーバーだった。
「おいおい。俺達ケータイ持ってるんだから、連絡はそれでいいんじゃないのか?」
 征市は、トランシーバーを見て聞くが、菜央は首を横に振ってそれを否定した。
「コンピュータウイルスのプライズは、携帯電話を介して移動する事もできますし、それで人を操る事もできます。街には、ウイルスのプライズの影響を受けて暴れ出す人々も出ています。昨日の陸君のは操られた振りでしたけどね」
 冷たい目で菜央に見られた陸は、照れたように指先で頬をかく。征市は「お前、本当にやったのか」と呆れた口調で言うと、トランシーバーを取った。
「判ったよ。それに、これの方が全員で連絡がとりやすそうだからな」
「お願いします。こちらで母体の場所を探しながら指示を出しますの、三人で一緒にそこに向かって迎撃して下さい」
「了解!」
 三人は返事をすると、それぞれ事務所から出ていった。それを見届けて、菜央はネットワークに繋がったノートパソコンを自分のデスクの上で起動する。数分間、そこで待機してから彼女はネットワークに繋がった、あるプログラムを開いた。モニタの中で、CGで作られたテーブルがあった。そのテーブルの上に、束ねられた青いカードが置かれている。それはデュエル・マスターズカードだ。これは、デュエリストの戦闘訓練のために菜央が開発したばかりのプログラムである。魔法警察の中の、デュエル・マスターズカードを扱うための練習をしている職員にのみ渡してあるもので、菜央は彼らの練習相手になる事も多い。
 画面内の空中でシャッフルされた四十枚のカードの中から上の五枚がシールドとして並べられ、その後の五枚が手札として裏向きになった状態で引かれる。しばらくすると、ドアフォンのような音と共に対戦相手が現れた。
『motokiさんが部屋に入りました』
 隅のチャット部分に説明が書かれる。対戦相手の名前の読みは、元喜と同じだった。
「やっぱり、私を狙っていた。そうですよね。そんな予感はしていた」
 ウイルスのプライズが元喜が作りだしたバックアップのためのプライズだとしたら、彼の意思のようなものがそれに宿り、菜央を狙ってくる事は判っていた。ウイルスが菜央を倒すために、このプログラムの中に入り込んできたのだ。魔法警察には「motoki」という名前でこのプログラムを使っている者はいないし、名前を変える事はできない。
『君を倒しに来たよ』
 motokiが挑発的な口調の書き込みを行う。これで、菜央は目の前にいるのが元喜の生み出したバックアップだと確信する。
 菜央は、これとはプログラムを起動しているのとは別のパソコンを操作してウイルスプライズの母体を探しながら、キーボードを叩いてmotokiに返事をした。
『ここでは、あなたは普段のようにプログラムを改変したり破壊したりする事はできません。私が作ったこのデュエル・マスターズカードの練習プログラムは、いわばプログラムのプライズ。実際のデュエルで結界を張るのと同じように、プログラムの結界の中からあなたは出られませんよ』
『君を倒せば話は別だよね。君を倒してその体を操ってトライアンフを中から壊してやる』
 元喜本人と同じように、motokiは冷静な口調を崩さない。それを見て、菜央はマウスを動かすとコンピュータの画面の中のカードを動かし始めた。

 征市は、トランシーバーから聞こえる報告を整理しながらY市の街を走っていた。ウイルスのプライズの影響は街全体に広がっていた。携帯電話を持って通話している人の多くは通話中に体を乗っ取られ、近くに人々に襲いかかっている。信号を操るウイルスのプライズも現れたため、交通も目茶苦茶なものになってしまった。征市も事故に巻き込まれ、トラックに轢かれそうになったが、デュエル・マスターズカードでその車体を受け止めたため、無傷で済んだのだ。
「菜央!次はどこへ行けばいい?」
 征市、陸、湊の三人は菜央の指示を聞きながら移動していた。事務所のパソコンで、菜央がウイルスのプライズの場所を探している。
「次は、その道を真っ直ぐ行って下さい」
「よし、判った!」
「いいえ!そこは右に曲がって下さい!」
「え?右か?」
 冷静な菜央だが、何度か指示を誤る事があった。トラックに轢かれかけた時も、間違えた指示で菜央に誘導された時だったのだ。
「ドジっ娘属性を会得するとは……。リーダーもなかなかやりますね」
 陸が腕を組んで納得するが、普段の菜央の行動から考えると異常である。
「ドジっ娘じゃなくて、陸を事故に見せかけて消そうとしてるんじゃねぇのか?最近のお前のセクハラにむかついて。さっきのトラックでお前をぺしゃっとやろうとしたに違いない」
「何で僕を殺さなくちゃいけないんですか!この美少年をつかまえておいてそれはないですよ」
 軽口を叩く陸だったが、彼も今日の菜央の様子はおかしいと感じていた。菜央は、トランシーバーの誘導が始まってからミスばかりしている。
「冗談じゃねぇ。誘導ミスで殺されるなんて笑いごとじゃないぞ」
 そう言うと、征市はトランシーバーを近くの壁に叩きつけ「おい、菜央!」と叫ぶ。彼は肩で息をしていた。その怒声が伝わったのか、トランシーバーから菜央の悲鳴のような声が聞こえる。
「ふざけてんじゃねぇ!お前、本当に俺達を誘導する気があるのか!?」
「征市さん、落ち着いて下さい」
 湊が彼をなだめようとするが、征市はそれを聞かずに続ける。
「次だ!次の誘導で間違えていたら、俺はすぐに帰る。俺はトライアンフを抜けるから二度と俺の前に顔を見せるな!!」
「征市さん!」
 湊が注意するが、その肩を陸が叩く。その顔を見ると、彼は首を横に振った。
「ごめんなさい」という菜央の声が聞こえた後、征市は吐き出すように言う。
「最後のチャンスだ。俺達はどこへ行けばいいのか言え」
 トランシーバーの向こうで菜央がしばらく沈黙する。そして、数秒が経った後
「そこから……右へ曲がって真っ直ぐ進んだところにある会社のオフィスです。ごめんなさい、征市さん。この指示を信じて下さい」
という、泣いているような声が聞こえる。その直後
「いえ、そこではなくその道を真っ直ぐ進んで下さい。廃工場が見えるはずです。そこの事務室にあるパソコンから反応があります!」
という声が聞こえた。征市は、陸を見ると
「どっちが本物だと思う?」
と、聞いた。
「ちょっと泣いているようなリーダーの声も魅力的だったけれど、こういう時のリーダーは感情をすぐに表に出さないですからね。凛とした声のリーダーが本物だ。というわけで、廃工場に行きましょうか!」
「そうだな。俺も廃工場だと思う」
 陸が笑うと、征市も同じように微笑む。湊だけは、何故、その指示が正しいのか判らずに二人を見上げていた。トランシーバーからは
「征市さん!?違います!それはきっとウイルスのプライズが声を真似た偽者です!」
という声が聞こえる。
「陸はどっちが正しいのか判ったんだ。俺達よりも長く菜央と共に行動しているからな。付け焼刃のお前が偽者だって判ると思っていたぜ。それに、菜央は俺と湊を名前で呼んだ事がない。苗字で呼ぶんだ」
 トランシーバーから聞こえてきた偽者の声が止まる。その代わり本物の菜央の声が聞こえてきた。
「いい判断でした、相羽さん。すぐに廃工場に向かって下さいね」
「了解だ!作戦とはいえ、怒鳴って悪かったな」
「いいえ、作戦だって判っていましたから」
 菜央の言葉を聞いて、征市は安堵したように軽い深呼吸をする。だが、その直後の
「でも、トランシーバーを叩きつけるのはやりすぎですよ。壊れていたら、弁償ですからね。このトランシーバーは高いから覚悟して下さい」
という言葉を聞いて表情が凍りついた。
「セーイチさん!急ぎますよ!」
 陸に急かされながら征市は走る。だが、ずっとトランシーバーを見ていた。
「え?だって……これ、弁償って」
「仕方ないですよ。急ぎましょう?」
「仕方ないのかよ……。確かに叩きつけたのはやりすぎかもしれないけどよ……」
 征市達三人がしばらく走ると、廃工場が見えてきた。廃工場と言っても、閉鎖が決まったのは比較的最近であり、工場の中は電気が通っている。人が入る事が少ない場所なのでウイルスのプライズの母体が隠れるにはぴったりだ。
 三人は、閉まっている門を乗り越えると事務室を探した。判りやすい場所にあったため、五分もかからずに三人は事務室に入り、そこにあるパソコンを見る。事務室の中に誰もいないのに電源がついていた。そのパソコンの画面が強い光を発し、モニタの中から青い人間の上半身が出てきた。手にはデュエル・マスターズカードのデッキを持っている。
「ふざけた事しやがって。二度と復活できないようにしてやるよ!」
 征市がデッキケースを取り出すが、それを陸が手で制する。そして、ループタイについたカメオのドクロの目を光らせると、陸の手にデッキケースが現れた。
「ここは僕にやらせて下さいよ。リーダーの声を真似るなんて許せないじゃないですか」
 陸の目の奥にある冷たい光を見て、征市は一歩後ろに下がった。
「ありがとうございます」
と、言って陸はデッキケースからカードを取り出す。半透明な黒いシールドが五枚、陸の前に現れ、ウイルスの母体の前にも同じように五枚のシールドが現れた。
「チェス駒のプライズといい、今回といい、偽者はもうこりごりだよ。それに、リーダーを利用したのだけは絶対に許せない」
 陸の手からカードが離れて、それが緑色の光を発すると目の前に地面に芽が出て花が咲く。その花から発せられた光に呼応するように、山札の上のカードがマナへ変化した。《フェアリー・ライフ》を使ったのだ。
『許せないから、どうする?私を倒せると思っているのか?』
 それを作り出した元喜と同じように挑発的な口調でウイルスの母体は言い返す。そして、手札のカードを投げると、黒い光を発してそれは黒い人型のクリーチャーとなった。《停滞の影タイム・トリッパー》だ。
「パワー1000の雑魚クリーチャーじゃないか!弱い!弱いね!」
 陸は《タイム・トリッパー》を見ると、カードを引きマナにカードをチャージする。
「ほいっ!これで4マナ……」
 だが、そのカードはマナとして機能しなかった。マナゾーンに置かれたカードは自らの意思でタップされたのだ。
「そんな……!どうして?」
「陸、気をつけろ。《タイム・トリッパー》の効果だ」
 征市に注意されて陸が《タイム・トリッパー》を見ると、その腹にブラックホールのような黒い穴が開いていて、空気が吸い込まれていた。その流れに乗ってカードの動きが止められたのだ。
「陸さん、《タイム・トリッパー》は相手のカードがマナにチャージされた時、それがどんなカードでもマナにタップされた状態で置かれるカードです」
「なるほど。足元止められた感じだね。でも……」
 陸は、残っていた三枚のカードをタップすると黒いマナを出して持っていたカードにその力を全て注ぎ込む。陸の手から離れたそのカードは、シールドと融合すると黒いバラのツタを出して《タイム・トリッパー》を縛り上げた。バラの棘が《タイム・トリッパー》の体を切り裂き、その姿が消えていく。
「《ローズ・キャッスル》を要塞化した。これでパワー1000の雑魚クリーチャーは生き残れないよ」
 軽い口調で言った陸は、相手を見る。ウイルスの母体はカードを引き、手札の中から一枚のカードを投げる。青い光を出したそれは自らの意思でマナに向かい、その光に吸い寄せられるように山札の上のカードが母体の手元に飛んでいった。
『《ブレイン・チャージャー》でマナを増やした。マナを増やせるのがお前だけだと思うな』
「へぇ、言ってくれるじゃん。マナはただ増やせばいいってもんじゃないと思うけどね」
 挑発に乗る事もなく、陸はカードを引き、マナをチャージする。そして、一枚のカードに黒、緑、青のマナを与えて場に出した。
「出でよ!《ギリメギス》!!」
 地鳴りと共に現れたのは、バイクのようなタイヤで移動するデーモン・コマンド《甲魔戦攻ギリメギス》だ。特殊能力はないが、パワー9000のW・ブレイカーであり、切り札と言っても過言ではない強さを誇る。
『すごいパワーだ。だが……!』
 ウイルスのプライズはマナをタップし、一枚のカードに力を注ぎこむ。場に投げられたそのカードは黒い巨大な黒い手となって《ギリメギス》を殴りつけた。《デーモン・ハンド》で《ギリメギス》を破壊したのだ。
『壊してしまえば、パワーは関係ない』
 陸は、《ギリメギス》がいた場所を見て、舌打ちをする。そして、相手を見た。
「元喜の野郎が生み出したプライズだけの事はあるね。一筋縄じゃいかないみたいだ」
 手札を見て、より鋭い目をして戦いに臨む陸。その視線に力がこもる。
『勝つつもりでいたのか』
「当たり前だろ!」
 陸はカードを引いて行動を再開する。まだ、戦いは始まったばかりなのだ。

 征市達との連絡に使っていたトランシーバーを首から下げ、菜央はパソコンの画面に向かっていた。motokiのバトルゾーンには青い鎧で武装した龍《蒼狼スペルギア・ファントム》と《アクア・サーファー》が一体ずついた。
 《スペルギア・ファントム》が二枚残った菜央のシールドを見て動き出す。それと同時にmotokiの山札が三枚表向きになって宙に浮いた。その中の一枚が青く光ると、《スペルギア・ファントム》の足元から波が現れ、それが菜央の《迅雷の精霊ホワイト・ヘヴン》を飲み込む。波に飲まれた《ホワイト・ヘヴン》はカードの姿に戻ると菜央の手元へ飛んでいった。
『motokiさんは表向きになった《陰謀と計略の手》を手札に加えました。motokiさんは《サイバー・ブレイン》を山札の上に置きました。motokiさんは《パルピィ・ゴービー》を山札の上に置きました』
 隅にmotokiの行動のログが残った。《スペルギア・ファントム》は攻撃時に山札の上を三枚めくり、その中に呪文が一枚でもあれば、相手クリーチャーを手札に戻す事ができる。さらに、その三枚の中から呪文を手札に加えて良いのだ。
『手札も潤ったし、邪魔者もいなくなったよ!喰らえ!』
 《スペルギア・ファントム》の攻撃によって、菜央のシールドが一枚ブレイクされる。それを見た後、motokiは《アクア・サーファー》に指示を出した。隅にログが残って《アクア・サーファー》が攻撃態勢を取る。
 だが、波に乗ってシールドへ突撃する《アクア・サーファー》の前に音もなく現れる影があった。《光牙忍ハヤブサマル》だ。《ハヤブサマル》は刃物のように鋭いエッジの翼で《アクア・サーファー》の体を切り裂いた。その後、《ハヤブサマル》は出た時と同じように音もなく姿を消した。
『そんなにそのシールドが大事かい?』
『ええ、大事ですよ。これさえあれば、逆転できますからね』
 キーボードでそう打ち込んだ後、菜央は行動を開始する。マナのカード七枚をタップすると、場に一体のクリーチャーを呼び出した。金色の輝きを帯びたその精霊、《不滅の精霊パーフェクト・ギャラクシー》がバトルゾーンに舞い降りた。
『シールド・フォースで《パーフェクト・ギャラクシー》を強化します』
 《パーフェクト・ギャラクシー》の裏でシールドが金色の光を発する。そこから現れた粒子が《パーフェクト・ギャラクシー》を包み、更なる力を与えた。シールドがもう一枚も残っていないmotokiにとって、攻撃できるクリーチャーは何としても排除しなければならない相手だった。菜央がターンを終了した事を受け、あらかじめ調整してあったカードを引く。そして、そのカードをすぐにバトルゾーンに出した。
『《パルピィ・ゴービー》だ。山札を調整するよ』
 丸い体に細長い手足が生えた水棲生物《パルピィ・ゴービー》は、手足を伸ばすと山札の上のカードを五枚取り、好き勝手に並べ替えた。並べ終わったのを見て《スペルギア・ファントム》が動き始める。
『これで山札の上に呪文が来た。《スペルギア・ファントム》があれば効果で《パーフェクト・ギャラクシー》を手札に戻せる!喰らえ!』
 《ホワイト・ヘヴン》が戻されたのと同じように《スペルギア・ファントム》の効果で三枚のカードがめくられ、波が発生する。《パーフェクト・ギャラクシー》も同じようにその波に飲まれていった。
『これで《スペルギア・ファントム》を邪魔する奴はいない!最後のシールドを破れ!』
 自分で生み出した波に乗って突撃する《スペルギア・ファントム》だったが、シールドの前で何かにぶつかり、消滅する。
『何っ!?』
 驚くmotokiの前で波が消えていった。そこから現れたのは、《パーフェクト・ギャラクシー》だったのだ。
『馬鹿な……!《スペルギア・ファントム》の効果で手札に戻したはずだ』
『《パーフェクト・ギャラクシー》の効果は、シールド・フォースでブロッカーを得る事。そして、場から離れないようにする事です』
 そこまで打って一呼吸置いた菜央は、挑発の意味も込めて続きを打ち込む。
『木口元喜と一緒で油断しすぎたみたいですね。もっとカードの勉強をした方がいいですよ』
『ぐぅっ……!だが、こっちには《パルピィ・ゴービー》が!』
 motokiの文章を見て軽い溜息を吐くと、菜央はマウスを動かす。その動作によって六枚のマナがタップされ、バトルゾーンに一枚のカードが現れた。そのカードから出てきた緑色のツタによって《パルピィ・ゴービー》の体が埋め尽くされる。
『《ナチュラル・トラップ》です。《パルピィ・ゴービー》には、《パーフェクト・ギャラクシー》のように場を離れない能力はありませんよね?』
 これで勝負は決した。《パーフェクト・ギャラクシー》が動き出し、体中から金色の光を出して場を埋め尽くす。光が消えると、motokiのカードは全て場から消えていた。そして、画面には菜央の勝利を告げる言葉が書かれている。
 菜央は、元喜の亡霊がいた画面を見つめるとこう言った。
「私達を倒すためにここまでやるなんて恐ろしい人。でも……今の私はあの時のようにただ泣く事しかできなかった女の子じゃない」
 菜央は昨年九月のトライアンフ襲撃事件を思い出す。あれがあったからこそ、菜央は強くなれた。そして、これからも仲間がいる限り強くなれると信じている。

 一方、廃工場でのデュエルはまだ続いていた。青く長い体、そして顔にXの形に似た模様の龍《蒼神龍スペル・グレートブルー》が陸達三人を睨んでいる。その隣には、《パルピィ・ゴービー》がいて山札を動かしていた。
『《スペル・グレートブルー》の力で消えるがいい!』
 《スペル・グレートブルー》の顔の模様が怪しく光り、ウイルスの母体の山札の上のカードが空高く舞い上がる。その中から冷たい金属の光沢を帯びた巨大な剣が現れ、陸の《ガル・ヴォルフ》と《ギリメギス》を切り裂いていった。そのカードの内、《ガル・ヴォルフ》の体は崩れ去り、《ギリメギス》は青い光を発すると、カードの姿に変わり陸の手札に戻っていった。
「僕のデーモン・コマンドが、二体も!?」
『次はマナだ!』
 ウイルスの母体に言われて陸ははっとなる。時すでに遅し。シールドを擦り抜けたその剣は、デーモン・コマンドを切り裂いた時と同じように、陸のマナゾーンのカードも二枚切り裂いていった。
「やっぱり《英知と追撃の宝剣(エターナル・ソード)》か。えげつない呪文だ」
 《英知と追撃の宝剣》は、相手のクリーチャー二体とマナ二体を場から消す事のできる呪文だ。《スペル・グレートブルー》を操る事で、ウイルスの母体はそれをコストを支払わずに使う事ができたのだ。
『さらに《スペル・グレートブルー》でシールドをW・ブレイク!』
 《スペル・グレートブルー》の体当たりによって残っていた二枚のシールドも破られてしまう。陸の場に残っていたのは、《冥府の覇者ガジラビュート》一体のみだ。ウイルスの母体は《スペル・グレートブルー》と《パルピィ・ゴービー》が残っている上に、三枚もシールドが残っていた。
「こいつは、ちょっとまずいかな」
 額に汗をかきながら、陸は《スペル・グレートブルー》の巨体を見上げる。《ガジラビュート》のパワーでは《スペル・グレートブルー》を倒す事はできないし、《パルピィ・ゴービー》でブロックされてしまう。さらに除去呪文も手札になかった。
「じゃ、こいつの出番かな?」
 陸は子供のように無邪気な顔で笑った。だが、その目の奥にある冷たい光を見て、ウイルスの母体だけでなく、征市と湊もぞっとした。
 陸は、手元に持っていたカードを《ガジラビュート》に投げつけ、その肉体を変化させていく。その瞬間、黒い光が周囲を包み、舞い落ちる漆黒の羽根が《スペル・グレートブルー》と《パルピィ・ゴービー》の生命力を奪っていく。生命力を奪われた二体のクリーチャーは腐りながら破壊されていった。それだけではなく、ウイルスの母体のマナから水のカードが全て腐り、風化していった。残っているのは三枚の闇のカードだけだ。
「《悪魔神ドルバロム》。僕の切り札さ」
 《ガジラビュート》から進化した白い体の悪魔《悪魔神ドルバロム》は、ウイルスの母体を守る三枚のシールドに手を向ける。その掌から打ち出される黒いエネルギーの塊が三枚のシールドを消し飛ばしていった。
 粉々に砕けてその場を彩るシールドだったが、その内のいくつかの欠片が青く輝いた。それは水の塊を形成すると、ウイルスの母体の山札三枚を弾き飛ばし、手札として送る。
「陸!《サイバー・ブレイン》で引かれたぞ!気をつけろ!」
 征市に言われるまでもなく、陸は顔を引き締めて相手の動きを見ていた。だが、ウイルスの母体は何もできずにいる。
「大丈夫だったみたいですよ、セーイチさん。これで終わりだ!」
 陸は相手に掌を向ける。その動きにリンクして、《ドルバロム》も掌を向け、黒い光をその手に集めた。
「あの世で神様に懺悔しな!」
 陸が台詞を言い終わるのと同時に黒いエネルギーがウイルスの母体を飲み込んだ。機械で合成されたような悲鳴と共に、ウイルスの母体は跡形もなく消え去った。
「ふぅ……。あっついな、ここ……」
 陸は、ループタイを緩めて征市達を見ると手を振った。征市と湊も戦いが終わったのを見て陸に近づく。すると、雑音と共にトランシーバーから菜央の声が聞こえた。
『ウイルスの母体の反応が消えたみたいです。終わったんですね?』
「そうだよ、リーダー。完全勝利さ!」
 それに陸が答える。
 元喜が生み出した保険のためのプライズは倒した。もし、新たな母体を生み出していたとしても、トライアンフの敵ではない。
 今の彼らに、プライズを使った陳腐な罠など通用するはずがないのだ。何故なら、彼らは仲間を信じて行動する最高のチームなのだから。

 『File.15 見えない刃』につづく
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