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『コードD』File.16 捕獲作戦

『コードD』

 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 トライアンフ元リーダーであり、最強のデュエリストと言われていた男、貴田一真(たかだかずま)がY市にやってきた。一真は遠山陸(とおやまりく)を連れて新Y駅付近を散歩し、一緒に来ていた相羽征市(あいばせいいち)と若月湊(わかつきみなと)を帰す。Q区に帰った二人は山城公園で魔力の爆発を感じる。二人が動くも、多くの人々が倒れた木の下敷きになってしまった。
 一方、新Y駅付近にいた一真は陸に対して、木口元喜(きくちもとき)のように琴田菜央(ことだなお)を裏切ってトライアンフを抜ける事を命じる。それに反発した陸は、一真相手に戦いを挑むが、圧倒的な実力差を前に追い込まれる。一真は、陸の切り札を退け、自分のクリーチャーに陸への直接攻撃を命じるのだった。

 File.16 捕獲作戦

 《マイキーのペンチ》の効果によって召喚酔いをしなくなった《青銅の鎧》が陸に近づく。自分に近づく猛々しい獣の姿の足音を感じながら、陸は思い出したかのように手札を見る。だが、この状況を打破できる唯一のカード《威牙の幻ハンゾウ》も今、手元にはない。
「何で……?何で、僕が裏切り者なんかに負けるんだ?」
「弱いからだろ」
 一真が冷たい目で陸を見ていた。それは強大な力を持った者が弱い者を見下すような視線だと、陸は感じた。
 《青銅の鎧》の槍が頭上に振り下ろされる瞬間、陸は色々な事を考えていた。征市と湊は一真が裏切り者だという事に気づいて戦ってくれるだろうか。仮に気づいたとしても、一真を相手に勝つ事ができるだろうか。
 最後まで、菜央の顔が頭から離れなかった。陸にとって、菜央が何よりも心配だった。だが、力ない者が残された者の心配をしても意味がない。
 自分の無力さを噛みしめながら、陸は目を閉じた。だが、衝撃はいつまで待ってもやってこない。不思議に思った陸は目を開けて目の前の光景を見た。そこに一真のクリーチャーの姿はなかった。一真を見ると、彼はデッキケースにカードをしまっていた。
「テストは終わりだ、陸」
「テスト?」
 一真は陸に背を向けると、車椅子の車輪を動かす。陸は、急いでカードをしまうと一真についていった。
「テストって、どういう事ですか?」
「詳しい事は事務所についてから話す。だが、それよりも先に俺の感想を言わせてもらおうか」
 一真は、車椅子を止めると陸を見て腕を組む。陸は、一真の前に移動し、彼が口を動かすのを待った。しばらく沈黙し、考えた後、一真は口を動かした。
「俺の感想を一言で言うなら、『がっかりした』。お前は強くなったと思っているようだが、この程度ではまだまだだ」
「でも!今回は、たまたま《ハンゾウ》が手札に来なかっただけで、来てたら……!」
「実戦で敵に同じ事が言えるか?」
 一真の言葉に陸は黙りこみ、目を背ける。実戦ならば、陸は一真に倒されていた。場合によっては死んでいたかもしれない。
「たまたまでも勝った奴は生き残り、負けた奴は死ぬ。遊びじゃないんだから、そんな事を言うんじゃない!」
「そんな事、判ってますよ」
 陸には、自信があったのだ。新たな事務所に移ってから、征市が仲間になるまで陸は一人で多くの敵と戦ってきた。多くの実戦を経験してきた陸にとって、半年以上も表舞台に出てこなかった一真の相手など容易いと思っていた。
 だが、現実は違った。陸は一真に敗れたのだ。それも僅差で敗れたのではなく、シールドを一枚しか破れないという無様な負け方だ。トライアンフ最強を名乗っていた一真の実力を改めて思い知らされた。
 陸が落ち込んで下を向いていると、携帯電話がけたたましいメロディを奏でる。片手でそれを取ると、陸は通話を始めた。相手は征市だった。
『陸。一真さんとの話の途中で悪い。今、どこにいるのか判らないけれど、すぐに事務所まで来てくれ』
「何かあったんですか?」
 口調に焦りのようなものが混ざった征市の声を聞いていて、陸は落ち込んでいた気持ちを無理に押し込め、いつもの事件に対する姿勢に切り替える。
『妙な事件が起きて、色々な人が犠牲になったんだ』
「どういう事?」
 陸は話を聞いていて、何を言っているのかよく理解できなかった。征市も話をまとめるのに困っているのか
『俺にもよく判らないんだ。気がついたら木が人の上に倒れていた。犯人がプライズなのか魔法使いなのかもよく判らない。一瞬、魔力の流れを感じただけで、誰が事件を起こしたのかもよく判らない』
と、話す。
「本当に何も判らないって事なんですね。すぐに僕らも事務所に行きます」
 陸は、通話を終えると一真を見た。彼の力を借りるべきか迷っていると一真が口を開く。
「奇妙な事件が起きているんだろう?それも、今までのを超えるような規模の奴が」
「……はい、そうですよ」
 陸が答えると、一真は「やっぱりな」と呟いて陸を見る。
「事務所に急ぐぞ、陸。俺はこの危機に対抗するために戻ってきた」
「え……?じゃあ、一真さんはこの事件の事、判っているって言うんですか?」
「そうだ。だから、事務所に連れて行け」
「判りましたよ」
 陸は案内人として一真の前を歩く。一真がテストと称して陸と戦った理由や、この事件を予期していたような口調など、聞かなければならない事は多い。だが、何よりも今やるべき事は征市が電話で話した事件を解決する事だ。
(でも、ちょっと納得できないな……)
 心の中に嫌な気分を抱えながらも、陸は事件解決のために動き出した。

 トライアンフ事務所には、リーダーである菜央、征市、陸、湊、そして、旧リーダーだった一真の五人が集まった。一真と菜央は再会の挨拶を簡単に済ませ、今回の事件についての征市と湊の話を聞いた。
「山城公園で起こった事件の犠牲者は、三十人を超えていて、今、病院にいる。俺もよく見ていたわけじゃないが、見ていた多くの人が突然、木が倒れてきたと言っている」
 征市はそこで口を閉じ
「あの中には、夏休みを間近に控えた子供だっていたのにな」
と、苦々しく呟いた。
「僕達も一度、木が倒れたのを見ましたけれど、気の近くには誰もいなかったと思います。ただ、気が倒れる前に魔力が爆発したような感覚を覚えたくらいで何も見えなかったんです」
「見えないプライズか、そういった魔法を使える何者かが木を切り倒していったようですね。魔力の爆発を感じたのと木が倒れるまでのタイムラグはありましたか?」
 菜央の質問に征市は
「それは感じなかったな。魔力の爆発の後、すぐに木が倒れた。あと、切ったんじゃなくて爆発させたのかもしれない」
と、答えて携帯電話で取った写真を菜央に見せる。その断面図はチェーンソーのような刃物で切ったものではなく、爆破によってえぐられたもののように見えた。一部が黒く焦げている事からも、切り倒したのではなく、爆発させて倒した事は間違いないようだ。
「これは被害者の上にあった木を魔力で爆発させた後の写真だ。言っておくけれど、これは俺が爆発させた部分じゃないぞ。犯人は、木を一瞬で爆発させるような事もできるってわけだ」
 菜央は、携帯電話を征市に返すと一真を見て
「この事件について説明していただけますか?」
と、聞く。一真は、まず征市を見ると車椅子の後ろを指した。
「この中に、資料が入っているんだ。ちょっと出してもらっていいか?」
「判りました。……あ、これですね」
 車椅子のポケットに入っていたのは、一枚のディスクだった。征市はそれを菜央に渡し、菜央はいつも使っているノートパソコンにそれを入れた。
「今から話すのは、五十年近く前の話に繋がっている。まずはディスクに入っているデータを見てもらおうかな。菜央、何が出てきた?」
「今回の事件に類似した事件のデータです」
 菜央は、ノートパソコンを征市、陸、湊の三人に向けた。写真こそ古いものの、画面に映っている資料は今、征市達が見たのと同じような事件の資料だ。犯人の姿が見えない事まで同じである。
「判らないな。五十年前の事件と今の事件がどう繋がってるんですか?」
 陸が頭をかきながら一真に質問するが、一真は「しばらく待て」と、言って説明を続ける。
「今回、事件を起こしたのはプライズでも魔法使いでもない。神を気取った大馬鹿者によって作られた怪人だ」
 怪人。今まで聞いた事のないフレーズが三人の耳に届く。
「一真さん、冗談でしょう?確かに僕ら、正義の味方みたいな事やって悪い奴らやっつけてるけれど、怪人なんて……。今度の敵は悪の組織だって言うんですか?」
「似たようなものだな」
 冗談交じりの発言をした陸だったが、真顔の一真にそう返されて驚く。自分の耳が信用できないのか、征市と湊の顔も見たが、二人とも一真の言う“怪人”や“悪の組織”の発言に目を丸くしていた。
「この前、君達が倒した木口元喜(きくちもとき)もその組織の一員だ」
「元喜も!?」
征 市は、その名前を思い出す。トライアンフ事務所に攻撃を仕掛けてきただけでなく、もしもの時に備えてプライズまで用意していた凶悪な敵だ。
「だけど、元喜はチェス駒のプライズだったんですよね?じゃあ、その組織ってチェス駒のプライズを作った組織なんですか?」
「少し違うな」
 一真は、湊の問いに答える。陸は頭をかくと
「あーもー!五十年前って言ったり悪の組織って言ったり、今度は急に元喜のクソヤロウの話が出てきたり、一体、どこに向かっているんですか!」
と、聞いた。
「最後に全部繋がるから黙って聞いてろ。元喜は、プライズのチェス駒を操る力はあるが、奴自身はチェス駒のプライズではない。恐らく、一緒にいた倉員瀬里奈(くらいんせりな)もチェス駒のプライズではなく、二人は一時的に行動不能になっているだけで倒れたわけではない」
 一真の発言に、周囲がざわめく。征市と菜央が力を合わせて倒したあの強敵がまだ生き残っているというのだ。
「元喜だが、奴の木口元喜という名前は偽名だ。奴の本当の名は幻(げん)。幻(まぼろし)と書いて『げん』と読むようだ。そして、怪人を作り出している者と幻は同じ組織にいる。その組織の名は『魔道書同盟』だ」
 元喜は、本来、魔道書同盟と呼ばれる敵組織の者だった。その事実に征市達だけでなく、菜央も驚きを隠せなかった。
「怪人を作り出したのは、魔道書同盟のメンバーの一人。全(ぜん)と呼ばれる男だ。幻が行動不能になったために、今はこいつが動き出しているんだろう」
「ちょっと待って下さいよ!」
 一真はそこで一度口を閉じる。すると、陸が口を開いた。
「魔道書同盟とか、訳の判らない奴らが動いているのは判りましたよ。でも、何で一真さんがそれを詳しく知っているんですか?」
「トライアンフアメリカに行って調べたのさ。俺の言っている事は元総長のメモに書いてある事をそのまましゃべっているだけに過ぎん」
「じいさんのメモ、ですか?」
 一真は征市の方を見て
「君は相羽元総長の孫だったな。五十年前の事件については聞いていないのか?」
と、聞く。だが、征市は首を横に振った。
「やはりな。この魔道書同盟についての事柄は詳しく書かれているわけではない。元総長がトライアンフを作った理由がここにあると思うんだが、詳しいメモもそれに関する書物も多くは残されていなかった」
「え?トライアンフに関する重要な本なのに、何でですか?」
「語りたくない理由があるんだよ、じいさんにも」
 湊の問いに、征市が答えて「恐らく、君の言うとおりだろう」と、一真も言った。
「この魔道書同盟は、今から五十年近く前に世界各地で魔法使いやプライズを使った事件を多数起こしている。もはや、それは事件ではなく、世界を相手にした戦争だったと言ってもいい」
 一真はそこで「あくまで、それはメモを書いた元総長の感想だがな」と言う。
「魔道書同盟を倒すデュエリストの組織のリーダーが元総長、相羽総一郎だった。強大な魔力を持つ元総長は、当時、世界最強のデュエリストだったし、一緒に行動していた者達も世界でトップクラスだった。だが、元総長のいた組織にいたほとんどのデュエリストは魔道書同盟に敗れた。たった五人だけの組織に世界の魔法使いが負けそうになっていたんだ」
「五人って!?嘘言わないで下さいよ!」
 陸が声を上げる。そして、征市と菜央は改めて自分達が対峙した敵の強さに恐怖した。五人で世界を相手にできる者の一人と戦ったのだ。勝てたのは運がよかったからとしか言いようがない。
「嘘は言っていない。それが過去に起きた事実だったのだ。魔道書同盟の五人は、幻、全、念(ねん)と呼ばれる者。他には五人を束ねる永遠(とわ)と呼ばれるチームリーダーがいたようだ」
「残りの一人は?」
 征市が聞いたが、一真は
「それは書かれていない。メモにも曖昧な部分が多いんだ」
と、答えた。
「正確に言うと、奴らは魔法使いではない。魔道書同盟の名前にもあるように魔道書のプライズだ」
「あれ?魔道書のプライズだったら、楽に倒せそうじゃないですか?」
「それは無理でしょう」
 陸の質問に菜央が答え、ノートパソコンの画面を見せた。英文で書かれた文章を陸が読もうとしたが、英語が判らなかったので「説明お願い」と頼む。
「これは、一真さんが調べたのと同じものをトライアンフアメリカに問い合わせて今、メールで送ってもらったものです。魔道書同盟は確かに全五巻の魔道書のプライズらしいですが、いつ作られたかも判らないような古い魔道書であり、蓄えられている魔力も並のプライズとは比べ物にならないようです」
「じいさん達を手こずらせたプライズだからな。簡単に倒せる相手じゃないって事か」
 菜央が説明を終えた後、一真が続きを話した。
「元総長は、魔道書同盟を倒すのではなく、封じる事にした。『永遠の牢獄』と呼ばれる特殊な魔法でね」
「『永遠の牢獄』とは、魔道書同盟の写本に書かれていた特殊な封印用魔法です。作られた異世界の中で魂だけが永遠にさまよう事になる魔法です」
「へぇ、自分達の魔法で封じられるなんて、皮肉なもんだね」
 陸は英文を睨みながら言う。菜央がそれについて書かれた箇所を示しているのだが、それでも彼には理解できなかった。
「ああ。だが、元総長達は失敗した。『永遠の牢獄』に魔道書同盟のメンバー全員を閉じ込めるには、魔法使いが足りなかったんだ。そのため、永遠に閉じ込められるはずの魔法が成功せず、いつか魔道書同盟が出てくるという不完全な封印になってしまった。奴らのリーダー、永遠は『永遠の牢獄』で異世界に閉じ込められる前に言ったよ。封印が解けた後、必ず俺達人間に復讐するってね」
「だから、魔道書同盟に対抗するためにトライアンフが作られた、ってわけですか?」
 征市の問いに一真と菜央が頷いた。
 征市は、総一郎と暮らしている時に、現役のデュエリストとして戦っていた時の話を何度も聞かされた。だが、魔道書同盟との戦いは一度も聞かされた事はなかった。総一郎がトライアンフを作ったように、征市がデュエリストとしての力を与えられたのも、魔道書同盟と戦うという目的のためだったのかもしれない。
「話を怪人に戻すぞ。五十年前の魔道書同盟との戦いの時に全が作り出したのが、プライズの原理を応用して作りだした怪人だ。俺は今回、その怪人に関する資料を持ってきた」
 菜央は、ノートパソコンの画面を自分に向けるとディスクのデータを調べ始めた。それを見つけたのか、菜央はもう一度征市達に画面を見せた。
「奴は、五十年前と同じ怪人を作り出している。今回、動いているのは透明男と呼ばれる怪人だ」
 征市達は、透明男のデータを見た。透明男は文字通り、姿を透明にする事ができる怪人だ。動きが非常に素早く、手先から魔力を爆発させる事で物を破壊する事ができる。
「本来、この透明男は光に弱い。強烈な光を浴びると、透明な姿を維持できなくなってしまう怪人だ。そのため、五十年前には夜にしか活動していなかった」
「でも、僕達が事件にあったのはさっきですよ。天気は曇りでも雨でもない快晴でした」
 湊の言葉を聞きながら、征市はあまりの暑さにトレードマークともいえる赤いブレザーを脱いだ事を思い出す。空から照りつける光の強さを考えると、透明男が活動できたとは思えない。
「ああ、それは俺も予想外だった。だが、全が透明男のバージョンアップを考えているとしたらどうなる?例えば、強い光の下でも活動できるようにしていたとしたら」
 見えない敵が昼夜問わず暴れまわる。それは、危険すぎる上に、今のトライアンフメンバーでも対処ができない。
 しかも、今のY市は開港百五十年祭が近い。県内だけでなく、県外からも観光客が来る事も予想できる。そんな時に透明男が暴れたら、被害は今日とは比べ物にならないだろう。
 姿が確認できる敵なら、逃げる事ができるかもしれないが、見えない敵から逃げるのは不可能に近い。一真が言うようにバージョンアップが施されていたら、最悪の展開が待っているのだ。
「その透明男がバージョンアップされているかもしれないっているのは判りました。一真さんは俺達に対抗手段を持ってきてくれているんですよね?」
征 市が一真を見た。一真は、「その通りだ」と言って彼を見上げる。
「バージョンアップされて強い光に耐えられるようになったとしても長時間は耐えられないはずだ。実際、木を爆破して倒した事件も山城公園の付近だけで、他の場所では行われていない。昼間や強い光のあるところでの活動時間は短いと俺は考えている」
 一真は、菜央に「ちょっとパソコンを借りるぞ」と言ってノートパソコンを受け取ると何かを調べ始めた。
「もう一度奴が動くとしたら夜。それならば、透明な姿を維持したまま多くの犠牲者を出す事ができる。だから、俺は夜に奴をここにおびき寄せて倒そうと考えている」
 一真は、ノートパソコンを菜央に返した。その画面に映っていた場所を見て、征市達は納得する。
「魔法警察の協力を得て今夜中に作戦を行う。それまで、各自休んで英気を養っておくように」
 強い口調で一真が話を終える。その目には、今のトライアンフメンバーに対する期待のようなものが見えた。

 金属製のドアを開ける音を聞いて、幻は目を覚ます。ドアを乱暴に開けた者は部屋に響く高い足音と共に部屋に降りてきた。注視しているのだが、幻にその姿は見えない。
「まあまあ!よく帰って来たわっ!おかえりなさいっ!」
 全は、その姿が見えているのか幻が寝ているベッドの近くまで近づいて見えない何者かを抱き締める。その時、幻は「はぁーはぁー」という荒い息遣いを聞いた。
「もう解除してもいいのよ。ここには誰も入ってこないからっ!」
 見えない何者かから離れた全が言う。すると、何もなかったはずの場所から青と緑色が混ざったような色をした肌の男が現れる。服も競泳用の水着のような体に張り付くような素材でできたもので、それも男の肌と同じような色をしていた。幻は、男の肌の中に赤く腫れ上がっている部分があるのを見つけた。
「痛そうに……。さあ、こっちにいらっしゃいっ!包帯を巻いてあげるわっ!」
 奇妙な肌をした男は全に連れられて、奥へ向かう。幻が寝ているのとは別のベッドに座らせると、肌が露出した部分に包帯を巻き始めた。荒い息遣いをしていたその男だが、包帯を体中に巻かれると大人しくなり、ベッドに寝転んだ。
「ああ、透明男だね。久し振りだ」
 幻は、全がかまっていたその怪人の名を思い出す。五十年前の人間達との戦いでも、見えない姿を活かし、相手の多くの作戦を失敗に追い込んだ強力な怪人だ。
「そうよっ!透明男ちゃんよっ!」
「でも、奇妙だね。透明男は、光に弱い。こんな晴れた日に外に出して大丈夫なのかい?」
「甘いわね、幻。小生が昔の弱点を放っておくわけがないじゃないっ!」
「へぇ……。というと、どういう事かな?」
 全は、透明男を寝かしつけた後、幻に近づく。そして、説明を始めた。
「小生は昔に作ったいい子達を意味もなく現代に蘇らせたわけじゃないの。今回、蘇らせた透明男ちゃんは、昼間や光の強いところでも活動できるように改良してあるのよっ!」
 現代では、夜でも強い光を発している場所は多い。昔の透明男では、その光には耐えられなかったが、今ならば耐えられるのだ。
「今、昼の光でも耐えられるかどうかの実験をしているの。もし、今、昼の光に耐えられたら、これからはどうなると思う?」
「おもしろいね……」
 幻は、全の言いたい事を理解した。今は、一年で最も日差しが強い季節だ。今の日差しに耐える事ができれば、秋や冬の日差しに耐える事など造作もない。
「そうなのよっ!透明男ちゃんは二十四時間どんな時でも透明になって人間どもを襲う事ができるようになるのよっ!」
 興奮した様子で全は言うと「うぅっ……!」と涙を流した。涙はとめどなく溢れ、全の頬を濡らしていく。
「うぅ、嬉しいわっ!五十年!五十年も待ったのよっ!『永遠の牢獄』に閉じ込められた場所で五十年っ!相羽総一郎や人類に復讐する事を考え続けて五十年っ!」
 叫びながら、全が流す涙の量はどんどん増えていく。顔の上半分は髪に覆われていて判らないが、下半分はほとんど涙で濡れていた。
「その相羽総一郎なんだけどね。表に出てきていないんだ」
「死んだって事?」
「判らない」
 涙を止めて全が聞くが、幻にも詳しい事は判らなかった。
「現役を引退した後、行方不明になっているみたいだ。永遠様が目覚めない理由はあいつが知っていると思う」
「そうね。小生もそう思うわっ!」
 二人は、部屋の奥の椅子で座ったまま眠っている倉員瀬里奈の肉体を見る。あの肉体の本当の持ち主が、彼らの主、永遠なのだ。
「トライアンフに潜入した時に、孫の相羽征市に探りを入れたけれど、駄目だったよ。彼も詳しい事は知らないらしい」
「ふぅん。だったら、おびき出してやればいいわっ!」
 全はそう言うと、透明男を見た。
「ねぇ、幻。総一郎が隠れて出て来ないならば、他の奴らを襲ってやればいいと思わない?」
「関係ない奴らを襲っていれば、総一郎がいつか出てくるかもしれないって事?」
「そうよっ!」
「効率がいいとは思えないけれど、個人的には大好きだ。やりなよ」
 そう言って、幻は再び、ベッドに体を預けると
「今の僕じゃ反対したところでそれよりましな事はできないんだからね」
と、言った。
「判っているわ。今夜、人間達を目茶苦茶にしてやるわっ!」
 暗い部屋の中で、全の言葉が響いた。

 Q区に夜が来た。ガス灯を模した形の街頭に優しい光がつく。山城公園の付近は、繁華街のようなきついライトで照らしているわけではない。夜の静けさを乱さないような控え目な灯りなのだ。
 その光の下を透明男が歩いている。街頭程度の光では何ともないのか、体を透明にした状態で歩いていた。
『いい?少しでも多くの人間を犠牲にするのよっ!あと、人間からは見えないんだから事故には気をつけてねっ!』
 透明男のベルトのバックルから全の声が聞こえる。それに返事をするように、透明男がくぐもった声を出した。
 全は、透明男の顔にカメラとマイクを取り付けて状況を観察し、バックルを通じて指示を出しているのだ。
 透明男は、全に情報を与えるために周囲を見渡す。山城公園の中を五分以上歩いているが、誰一人見かける事はなかった。
『変ねぇ。山城公園は平日でも誰かいるものだと思っていたわ。時代が変わったのかしらっ!』
 すると、透明男の耳に人々の歓声が届いた。その歓声に近づいて歩いていくと、Yスタジアムが見えてきた。歓声はここから聞こえている。
『ここに集まっていたのねっ!透明男ちゃん、行っちゃいなさいっ!』
 全の指示を受けて、透明男はYスタジアム内に入る。そして、観客席に向かったがそこには誰もいなかった。だが、人々の声だけは聞こえる。
『まさか……罠かしらっ!逃げ……!』
 全の声を聞いている途中、透明男に激しい光が浴びせられる。巨大なライトの光が透明男に当たっているのだ。
「がァァァァッ!!」
 透明男は獣のように吠えると、光から逃げるように走る。そして、観客席からフィールドに落ちた。その時の激しい動きで、カメラのレンズが割れてしまう。
『透明男ちゃん!何があったのっ!返事をしてっ!』
という声がバックルのスピーカーから聞こえるが、透明男は答えなかった。肌を透明な状態から青い色に戻し、飛び出るくらい大きく目を見開いてそこに立っている自分の敵を見た。
「待ってたぜ、透明男さんよ。プレイボールと行こうぜ」
 ピッチャーのいるべき場所に立っていたのは征市だった。透明男は何も言わず、征市を睨みながらバッターボックスに立つ。
『何!?透明男ちゃん!?何があったのっ!?』
 バックルからは、まだ全の声が響いている。征市は、それを聞きながらスタジアム内に響く声で言った。
「残念だったな。この付近には、誰一人入れないように今夜だけ人を避難させたよ。魔法警察の協力で超巨大な結界を張ったんだ。そして、Yスタジアムに俺と一部の魔法警察の人だけが残り、お前をおびき寄せる最後の仕上げに取り掛かっていた。歓声はここのマイクとスピーカーを使って出していたんだぜ」
 透明男はスタジアムにいくつかあるスピーカーを見た。今も、そこから人々の歓声が聞こえている。
「お前が光に弱いって知っている人がいたんだよ。ライトで強烈の光を当てたら、本当に姿を見せたな。そういうのは、五十年前と変わらねぇって事か」
『何ですって!』
 征市のよく通る声が聞こえたのか、バックルから聞こえる全の声が反応した。
『お前、五十年前の事を知っているのねっ!何者よっ!名を名乗りなさいっ!』
 征市はブレザーの胸ポケットからポケットチーフを取り出し、それを左手にかける。指を鳴らすと、赤い光と共に手の上に金属製のデッキケースが出現した。
「俺か?俺はトライアンフのデュエリスト、相羽征市だ!!」
 征市は、デッキケースを透明男に突き付ける。すると、デッキケースからカードが飛び出していった。その内の五枚は征市の前に並ぶと、ドアくらいの大きさはある透けた赤い色の壁――シールドへと変形した。残った三十五枚の内、上の五枚は征市の手元に飛んで行って、残りの三十枚は征市の前に降りてきた。
 透明男もベルトについたデッキケースからカードを取り出すと宙に投げる。空中でカードはシャッフルされ、五枚のシールド、五枚の手札、五枚の山札に別れて準備が整う。
「行くぜ、第一球投げた!」
 征市はマナゾーンのカードをタップすると、手札から一枚のカードを引き抜く。すると、野球の投手がするようなモーションでカードをバトルゾーンに投げた。それは空中で緑色の光を出し、葉を帽子のようにかぶったフェレットのような小動物の姿に変わる。《幻緑の双月(ドリーミング・ムーンナイフ)》だ。
 《幻緑の双月》が持っていた槍のようなものを振ると、征市の手札が一枚マナゾーンに落ちて光を発する。初手から最良とも言える動きをしている。
 一方、透明男は三枚のマナをタップすると緑色の肌をした二本足で立つ獣《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》を召喚する。透明男の山札の一番上のカードが光り、透明男のマナゾーンに飛んでいった。
「同じタイプのデッキか!?」
 征市のデッキにも《青銅の鎧》は入っている。序盤からマナを増やし、素早く大型のクリーチャーにつなげるためのカードとして採用しているのだ。
『同じタイプ!?透明男ちゃんのデッキはアンタのよりも強いのよっ!』
 バックルから全の声が聞こえる。征市はそれを聞きながら、「気色悪い奴だな」と呟いた。
『気色悪いですって?きぃーっ!!透明男ちゃん、さっさと切り札を出してやっつけちゃいなさいっ!』
 マイクの精度がよかったのか小声で言ったはずの征市の声が全に届く。征市は、頬をかくと
「聞こえてたのかよ。一々、うるさい奴だ。一気に決めるぜ!」
と、言って《サイバー・ブレイン》を唱える。カードから出た水流が征市の山札を押し上げ、上のカード三枚を征市の手元に運んだ。そして、《幻緑の双月》が足をバタバタと動かしながら透明男のシールドに向かって走る。
「《幻緑の双月》でシールドをブレイク!」
 《幻緑の双月》は透明男のシールドの近くで高くジャンプし、持っていた槍でそのシールドを真っ二つに斬る。そのシールドはカードの姿に戻ると、透明男の手元に飛んでいった。
「うがァァッ!」
 透明男は今、ブレイクされたシールドにマナを注ぎこみ、場に投げつける。カードから透明な体でできた頭身の高い人型のロボットが現れる。
「《スケル・アイ》か。元喜の奴を思い出すぜ」
 《無頼王機スケル・アイ》は、幻が使っていた《弾丸透魂スケルハンター》と同じようなクリーチャーである。クリーチャーを攻撃できないというデメリットはあるものの、攻撃されない能力とブロックされない能力を持っているため、簡単には倒せない。さらに《スケル・アイ》は、攻撃した時に山札から好きなクリーチャーのカードを一枚手札に加える力も持っているのだ。
『《スケル・アイ》が出たなら透明男ちゃんの勝ちは決まったようなものだわ。やっちゃいなさいっ!』
 全の命令を受けて透明男の《青銅の鎧》が動き出し、征市の《幻緑の双月》に近づく。《青銅の鎧》の槍が振り下ろされて《幻緑の双月》の頭を捉える。だが、同時に《幻緑の双月》の突きも《青銅の鎧》の体を貫いていた。二体のクリーチャーは共に倒れ、カードの姿に戻ると、墓地に飛んでいった。これで、征市のクリーチャーの数は0となる。
「好きなクリーチャーを持ってくるってのは、いい能力だな。俺も使わせてもらう!行け!《ギガ・ホーン》!」
 征市の場に、四本足で巨大な角を持つ獣が現れる。《鳴動するギガ・ホーン》。召喚と同時に山札の中から好きなクリーチャーのカードを一枚呼ぶクリーチャーだ。《ギガ・ホーン》の角が光り、征市の山札が宙を舞う。大量にあるカードの中から征市は迷わず、自分の切り札を引き抜いた。
「俺は《紅神龍ジャガルザー》を手札に加えてターンを終了する」
 征市の手札に加わったのは、今まで何度も彼の危機を助け、勝利への道を作り上げてきた赤い龍《紅神龍ジャガルザー》だった。ターボラッシュ能力を持っているため、他のクリーチャーがシールドをブレイクすると、自分のクリーチャーを全てスピードアタッカーにする力を持っている。
『ふん!強いって言っても、それじゃ透明男ちゃんのクリーチャーは倒せないわっ!もっと増やしちゃうわよっ!』
 全の命令に従うように透明男は《スケル・アイ》よりも頭身の低い透明な素材で出来たロボット型のクリーチャー《スケルハンター》を二体召喚した。この二体も、《スケル・アイ》と同じように征市のクリーチャーの攻撃を受けない。
「がァァッ!」
 透明男が叫ぶと《スケル・アイ》が動き出した。同時に耳のセンサーが動き出し、透明男の山札から一枚のカードが引き抜かれると彼の手元に飛んでいく。そして、《スケル・アイ》の左腕から放たれたレーザー光線が征市のシールドを貫いた。そのシールドはシールド・トリガーではなく、征市の手元に帰っていく。
「まだ一枚だ!《ジャガルザー》を召喚!一気にシールドをぶち破る!」
 征市が一枚の手札を投げると、赤い光と共にそのカードは、全身が赤い鱗で覆われた龍《ジャガルザー》となって場に出る。そして、《ギガ・ホーン》が雄たけびを挙げると、全のシールドを角で貫いていった。そして、全身から赤い光を発した《ジャガルザー》もそれに続く。
「食らえ!W・ブレイクだ!」
 《ジャガルザー》の長い胴体による体当たりが二枚のシールドを破っていく。だが、その中の一枚が緑色の光を発し、地面から緑色のツタが伸びて《ジャガルザー》の体を捉えた。
「しまった!《ナチュラル・トラップ》か!」
 透明男のシールド・トリガー《ナチュラル・トラップ》によって、《ジャガルザー》は地面に飲み込まれていく。その中からカードの姿に戻った《ジャガルザー》が飛び出し、征市のマナゾーンに飛んでいった。
『見えないからよく判らないけれど、ナイスよっ!透明男ちゃん!そのまま、一気に決めちゃいなさいっ!』
 全の言う事に、透明男は唸り声のような返事で答えると《スケルハンター》に一枚の青いカードを投げつける。《スケルハンター》に刺さったそのカードから青いクリスタルが出ると、光を発し《スケルハンター》の体を変化させていった。光が止んだ後、そこに立っていたのは巨大な顔に手足がついたようなロボット《無敵巨兵グランダイバーX》だ。
「W・ブレイク……」
 透明男が命ずると《グランダイバーX》は鼻から蒸気を噴き出して征市のシールドに近づき、巨大な手で殴りつけていった。二枚のシールドは粉々に砕けていく。
「くっ……!いきなり、W・ブレイカーかよ!」
 《グランダイバーX》は、グレートメカオーの進化クリーチャーだ。その特徴は《スケルハンター》、《スケル・アイ》と同じく、クリーチャーへの攻撃を捨てる代わりに攻撃もブロックもされない事である。だが、パワー6000でなおかつW・ブレイカーである事が驚異となっている。征市のデッキの中でこれだけのパワーのクリーチャーを倒せるカードは少ない。
『素敵よっ!透明男ちゃん!切り札が出たのねっ!』
 透明男は満足したように頷くと《スケル・アイ》と《スケルハンター》に命じて残っていた二枚の征市のシールドをブレイクした。破られたシールドの破片が空に舞う。
「俺のシールドは0か。だが、やられっぱなしじゃ終わらねぇ!」
 空に舞っていたシールドの欠片が赤く輝くと水門のような形の巨大な鉄の塊を形成する。その鉄の塊の下には《スケル・アイ》と《スケルハンター》がいた。
「シールド・トリガー!《地獄スクラッパー》だ!」
 征市の声と共に、上からプレス機が落ちてきて二体のクリーチャーを粉々に砕いていった。
「ぐゥゥッ!」
 倒されないと思っていたクリーチャーを二体も失った事で、透明男は一歩後ずさる。だが、征市も追い詰められている事に変わりはなかった。
「このターンで《グランダイバーX》を倒さないと俺の負けか。だったら……!」
 征市はマナに一枚のカードを置くと、八枚全てのカードをタップし、手に持っていたカードにそのエネルギーを注ぐ。そして、再びボールを投げるようなモーションを取ると
「行くぜ。俺の魔球を食らえ!」
と言って場に投げつけた。球場全体を揺るがすような音と共に、どっしりとした体格のドラゴンが現れる。左腕に槍を、右腕に巨大な銃を構えたその龍は《戦攻竜騎ドルボラン》だ。
「《ドルボラン》は召喚された時に6000以下のクリーチャーを一体破壊できる。《グランダイバーX》は丁度6000だったよな!」
 《ドルボラン》は低く唸って《グランダイバーX》に狙いをつけると右腕の銃を発射した。轟音と共に打ち出された弾丸が《グランダイバーX》の肉体を焼き尽くす。
「これで一安心だ。《ギガ・ホーン》で最後のシールドをブレイク!」
 《ギガ・ホーン》の角が透明男の最後のシールドを破っていった。
『まだよっ!透明男ちゃんはまだ負けてないわっ!勝つのよ!』
 全に促されて透明男は一枚の呪文を使う。征市の《ドルボラン》と《ギガ・ホーン》の周りに波が押し寄せ、二体のクリーチャーを飲み込んでいった。波が消えた後、カードに戻った二体が征市の手札に戻る。クリーチャーを二体手札に戻す《テレポーテーション》を使ったのだ。
「これで、俺のクリーチャーも0体。仕切り直しだな」
 溜息と共に征市がそう言うと、透明男は嬉しそうに笑った。
「なんて言うと思ったか?」
 征市が右手の指を鳴らすと、左手で持っていた手札から一枚のカードが飛び出す。炎と共に現れたのは、日本風の甲冑を身に纏い、刀を両手で持った二本足で歩くドラゴン《ボルシャック・大和・ドラゴン》だ。《ボルシャック・大和・ドラゴン》は刀の切っ先を透明男に向けた。
「予告ホームランだとよ。とどめ、行くぜ!」
 《ボルシャック・大和・ドラゴン》は透明男の前まで走ると両手で刀を握り、バットを振るように大きく振った。透明男は弾き飛ばされて、ベンチに叩きつけられる。すると、爆発を起こして木端微塵に砕け散った。
「うわ……。爆発するなんて本当に怪人みたいだな。怪人なんだけどな」
 征市は透明男が爆発したベンチを見ながら携帯電話を取り出してトライアンフの事務所に電話をかける。仲間に勝利を伝えるためだ。

「そうですか。判りました。今日はそのまま帰宅して下さい。お疲れ様でした」
 そう言って、菜央はデスクの上の電話に受話器を戻す。そして、事務所にいた陸と一真に
「征市さんの勝ちです」
と、勝利を報告した。
「なんだ。怪人って言っても大した事ないじゃないの。これだったら、余裕だね」
 陸が軽い口調で言うと、一真が
「陸」
と、低い声で注意する。
「そうですね。一真さんが怪人に関するデータを持ってきてくれたお陰ですね。それくらい判ってますよ」
 陸が慌てて言うと、菜央も微笑んだ。
「一真さん、ありがとうございます。これからも私達と一緒に戦って下さいますか?」
 一真は菜央を見ると
「もちろんだ。そのために俺は戻ってきたんだから。俺は俺なりにサポートをさせてもらうぞ」
と、言った。
「やった!一真さん、これからもよろしくお願いしますね!」
 陸は喜んで一真に手を差し出す。だが、一真はその手に触れない。
「陸。俺はお前とは一緒に戦えない」
「え……?」
 驚く陸を横目で見た後、一真は菜央を見て
「陸にはトライアンフを抜けてもらう。代わりは俺が務める」
と、言った。

 『File.17 無限増殖の罠』につづく
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