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『コードD』File.18 子供の町

『コードD』

 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 トライアンフの元リーダー、貴田一真(たかだかずま)に戦力外通告を受けて遠山陸(とおやまりく)はトライアンフ事務所を飛び出す。琴田菜央(ことだなお)はその事を責めるが、一真は陸が悪魔との契約によって命を縮める事を心配していたのだった。
 翌日、未来地区で起こった事件を解決するために出動した相羽征市(あいばせいいち)と若月湊(わかつきみなと)。倒れている人々にかみつかれ、何者かに操られる征市だったが、魔力でそれに対抗して湊を逃がす。全(ぜん)が作り出した怪人、吸血男の仕業だと気付いた一真は、吸血男を倒すため、未来地区へ行く。闇の魔力を使える者なら耐えられる事を知った湊は、陸に助けを求めるが、陸はそれを拒む。しかし、菜央から助けを求められて彼は動き出した。
 陸は、吸血男の攻撃によってダメージを受けた一真の代わりに吸血男と戦い、勝利する。陸と一真。師弟とも言える二人は、共にトライアンフ事務所に帰るのだった。

  File.18 子供の町

 湊は、白い部屋の中にいた。自分がどこから来て、どこへ向かっていたのか判らない。行く当てもないので、彼は周りを見た後、真っ直ぐ前に進む事に決めた。どこを見ても真っ白でどれだけ進んでも壁にぶつからなかった。それを見て湊は、広い部屋だと思うだけで、疑問は抱かなかった。
 当てもなくさまよっている途中で、湊は子供達を見かけた。数人の子供がグループを作って遊んでいる。その中央には、大人くらいの背丈があるロボットが立っていた。
 箱を積み上げたようなレトロなデザインをしたそのロボットの顔は、ライトやセンサなどで人間の顔と同じように飾られている。その表情は笑っているようにも見えた。
 どこを見ても、ロボットがいて子供達と一緒に遊んでいる。どの子供達も楽しそうな表情をしていたし、中央にいるロボットも喜んでいるように見えた。
 ふと、湊が立ち止まって振り返ると、子供達の姿が消えていた。子供達の中央にいたロボットも一体だけになっていて、今は動く事なく、白い床に座っていた。
「君は……」
 その背後には、湊と全く同じ外見をした黒髪の少女が立っている。少女は何かを訴えかけるような目で湊を見ている。
「判っているよ。哀しい器なんだね」
 湊が納得すると、少女は悲しそうな目をして頷いた。目の前の少女が何者なのか、それを疑問に思っても口には出さない。彼女は答えてくれないからだ。
「でも、いつか教えてもらうよ」
 そう言った時少女とロボットが湊から遠ざかっていった。動く地面の上を移動するかのように遠くへ行ってしまう。
「だから、今は僕に任せて」
 湊が呟いた瞬間、白い部屋の中を同じような白い光が包んだ。

 七月も終わりに近づき、どの学校も夏休みを迎えている。梅雨明けした空は、太陽が容赦なく人々を照らし、日中の気温が三十度を超える事も多い。
 湊は薄い緑色のキャミソールに似たシャツとハーフパンツの組み合わせで外を歩いている。長く伸びた黒髪は、邪魔にならないように後ろで結んでいた。外見は少女にしか見えないので、女物の服が似合っている。
 湊は歩きながら、今回の予知夢について考えていた。あの夢を見たのはもう三度目だ。黒髪の少女がいる事から予知夢だと、湊は考えていた。あの夢で気になったのは、何もない白い部屋とたくさんの子供達、そして、子供達の中央にいるロボットの存在だ。哀しいプライズが存在するとしたら、あのロボットがそれなのかもしれない。
 征市達に伝えるため、頭の中で情報を整理しながら湊は歩いていた。
「湊!」
 後ろから自分を呼ぶ声がして振り返ると、征市が手を振って歩いてきた。
「征市さん、体はもう大丈夫なんですか?」
「ああ、余裕だよ。上着が使い物にならなくなったのは痛いけどな」
 征市は今日もトレードマークとも言える、燃えるような真紅のブレザーを羽織っている。吸血男の策略に落ちた時、このブレザーはボロボロになってしまったはずだ。しかし、今の彼は穴の開いていない綺麗なブレザーを着ていた。
「これは予備だよ。さすがに、あれは直せなかった。これは無事だったけどな」
そう言って、征市は湊の疑問に答えると襟についていた銀色の羽根を模したピンバッジを弾いた。湊は、このピンバッジは征市が誕生日プレゼントにもらった大切な物だと言う事を思い出す。
「どうも今日は子供が多いな」
 征市は、周囲の光景を見て言った。トライアンフ事務所へ向かう道は、山城公園にもつながっているせいか、観光客が利用する事も多い。色々な子供達が征市達と同じ道を歩いていた。
「夏休みだからでしょうか?」
「それもあるな。だけど、子供だけって事は妙じゃないか?」
「え……?」
 征市に言われて湊はもう一度周りを見た。確かに、子供ばかりで大人の姿が見えない。周りにいる子供は湊よりも幼い小学生のように見える。それならば、保護者なしで遊びに行く事もあるかもしれないが、全ての子供がそうとは限らない。
「大人だっていてもいいはずだ。だけど、子供ばかりで大人の姿が見えない。奇妙じゃないか?」
「そうですね。そう言えば――」
 湊は、予知夢の事を思い出し、征市に話す。あの予知夢では、子供しかいなかった。
「子供とロボットか。確かに何か関係があるかもしれないな。事務所についたら、菜央に関係がありそうな事件がないか調べてもらおうか」
 それから二人は一緒に事務所へ行くためのエレベーターに乗ってトライアンフ事務所に向かう。エレベーターを降りてすぐのところにトライアンフの事務所は存在するのだ。事務所の中には、既に他の三人も集まっていた。
「セーイチさん、ヤバいですよ!事件ですよ!」
 事務所に入った征市を見て陸が話しかける。征市が菜央を見ると、彼女はパソコンの画面を征市に向けた。
「魔法警察から、大人を子供にする怪人が現れたという情報をもらいました。この映像を見て下さい」
 パソコンの画面で動画が再生される。そこは、どこかのスーパーで防犯カメラの映像のようだった。奥から箱を組み合わせて作ったような四角いロボットが歩いてくる。
「あ、これ……!」
 湊は思わず声を出してしまった。そのロボットは、予知夢で見たロボットと同じ姿なのだ。
「中に人が入ってるんじゃないですか?」
 陸が茶化したような口調で言うが、他のメンバーは真剣な表情で動画を見ていて反応しない。
 ロボットが人々に近づき、話しかけるが人々は恐怖して逃げていく。一瞬、画面が白く点滅した。
「今のは、何だ?」
「恐らく、ロボットが強烈な光を発したんでしょう」
 征市の質問に菜央が答えた。光が止むと、そこにいたのは子供だけになっていた。大人がそのままサイズダウンしたかのように、服も変化している。ロボットはその様子を見るとどこかへ去ってしまった。
「これで防犯カメラの映像は終わりです。子供にされた人々は、記憶まで子供に戻ってしまったようです」
「記憶まで子供って事は、大人になってからに記憶が全て消えているって事か?」
「魔法警察の方が調査をしていますが、恐らくそういう事かと。ところで……」
 菜央は征市の質問に答えた後、湊を見た。
「若月さん、今のロボットに見覚えがありましたか?」
「はい、実は――」
 湊はトライアンフのメンバーに自分が見た予知夢の内容を話した。子供だけの世界とその中央にいるロボット。それはこの事件を暗示しているのかもしれない。
「予知夢か。菜央からのメールで知っていたが、実際にその内容を聞くのは初めてだな」
 一真はそう言うと、菜央に「パソコンを借りるぞ」と言って、怪人のデータベースを調べ始めた。
「一真さん、今回のは怪人なんですか?でっかいプライズのロボットじゃないんですか?」
「確かに俺もプライズではないかと考えた。だが、あのロボットには、他の怪人と同じように腰に全の声が出るスピーカー、他に映像を取るためのカメラ、それとマイクもついていた。全の作った怪人で間違いないだろう。だが……」
 怪人のデータベースを見ても、ロボットのような姿の怪人は存在しなかった。それを見て一真は「妙だな」と呟く。
「やっぱりプライズなんじゃないですか?」
「そうかもしれんな。だが、データベースにもない新たな怪人を作ったとも考えられる」
 今までの怪人は過去に作られたものがバージョンアップしていただけだった。だが、二度もトライアンフに倒されたせいで新しい怪人を作り上げたとしても不思議ではない。
「このデータも無駄になってしまうかもしれないな」
 一真がそう呟くと、デスクの上の電話が鳴った。菜央が対応して電話を切る。
「ロボットが現れました。場所は未来地区内のショッピングエリアです」
「了解。人の多いところ選んだな」
 征市はそう言うとエレベーターに乗り込んだ。陸と湊もそれに続く。
「妙だな」
 一真は、パソコンで映像を何度も見ている。そして、静かに呟いた。
「何かありましたか?」
「今までの怪人と違い、大きな被害を与えていない。透明男は人々を木の下敷きにしたし、吸血男は人々を自分の僕にしていた。このロボットは、人を子供にしただけで去っている。メリットがあるとは思えない」
 疑問に思って菜央も映像を見る。だが、ロボットの目的は判らなかった。
「陸君達に期待しましょう。何かが判るかもしれません」
 そう言いながら菜央は映像を見続けた。新たな怪人の弱点を探すために。

 未来地区のショッピングエリアには一日では回り切れないくらい大量のテナントが入っている。そんなショッピングエリアだが、今の人々は買い物どころではなかった。
「子供だらけだな」
 征市達が着く頃には、既にそこにいた人々が子供に変えられた後だった。中には、魔法警察の姿もあった。征市は、子供達の向こうに防犯カメラに写っていたロボットの姿を見つけた。人々を子供に変える事で目的を達成したのか、どこかに立ち去ろうとしている。
「おい、待てよ!」
 征市に言われてロボットは振り返った。
『あんた達、また邪魔をしに来たのっ!この前はよくも吸血男ちゃんをっ!』
 腰のスピーカーから全の声が聞こえる。このロボットは、全の怪人だという事が判った。
「怪人だと判ったなら容赦はしない。陸、ここは俺がやる」
 征市は既にデッキを取り出してロボットを睨んでいた。ロボットはゆっくり征市に近づいてくる。
「アソボウ、アソボウ」
 機械で合成したような声でロボットは征市に話しかけた。それを聞いて全は
『こら!ブリキ男ちゃん!何やってるのよっ!遊ぶんじゃなくてやっつけなさいっ!』
と、注意するがブリキ男はそれを聞かずに征市に近づく。
「生憎だが、遊んでいられるほど暇じゃないんだよ。行くぜ!」
 征市の前に五枚の赤いシールドが現れる。それを見てブリキ男は足を止めた。
「どうした?お前もデッキを出せよ」
 ブリキ男は立ち止まったまま動かない。そして
「キライ!」
と、言うと腕を回し始めた。それと同時に目のライトの光が強くなっていく。
「セーイチさん、これってまずいんじゃないですか?」
「まさか……。これってあれだよな?」
 征市と陸が顔を見合わせた瞬間、白い光が彼らを包んだ。
「何が起きたの……?」
 顔を腕で隠した湊は、光が止んだのを感じると閉じていた目を開けた。すると、目の前に立っていたはずの征市と陸まで自分よりも小さい子供になっていたのだ。
「そんな……!征市さん!陸さん!」
「ツマラナイ」
 ブリキ男はそう言うと、征市達に背を向けて歩いていく。
「待って!」
 それを見た湊は追いかけようとして足に力を入れる。だが、湊に抱きついてくる者がいた。陸だ。
「うっひょーい!お姉ちゃん、僕と一緒に素晴らしい恋の旅に出てみない?今なら、僕の必殺技『将来、巨乳になれビーム』でお姉ちゃんを巨乳にしてあげる特典付きだよ!」
「陸さん!?落ち着いて下さいよ!」
「こんなカワイコちゃん見て落ち着いていられるわけないじゃん!あれ?でも、何で僕の名前知ってるんだろう?まあいっか!」
 陸は湊から離れない。征市は、近くの子供達を集めて手品を披露していた。こうしている間にもブリキ男は遠くまで行ってしまい、姿を消してしまった。
「とにかく、菜央さんに連絡しないと」
 湊は、陸に捕まった状態で携帯電話を取り出し、事務所に電話をかけるのだった。

「なるほど。そういう事でしたか」
 菜央は事務所に戻ってきた湊から事情を聞いた。征市は自分のデスクで手品の練習をしている。陸は事務所に入ってすぐに
「うっひょー!これこそ僕が求めていた究極の巨乳!もう絶対に離さないぜ!」
と、言って菜央に抱きついたため、おしおき部屋送りにされた。
「陸はいつも通りだな」
と言って、一真が苦笑していた。菜央はそれを見て不機嫌そうな顔をしている。
「一人無事だったのはよかったとすべきか、それとも、一人しか残らなかったと嘆くべきか……。どちらにしても、情報が入った事を喜ぶべきか」
「若月さんが無事だったというだけで充分だと思います。無事でよかった」
 湊は征市や陸と同じような光を浴びたのに体が変化しなかった。これは湊が征市達の後ろにいたせいか、それともまだ子供だからなのかもしれない。
「デュエル・マスターズカードでも防ぎきれない光線ですか。次にブリキ男が現れた時は慎重に対応しなければなりませんね」
「そうだな。光線を防ぐ方法があればいいんだが」
 菜央と一真が考え始める。そこで湊は疑問に思っていた事を口に出した。
「あの怪人は「アソボウ」と言っていました。それを征市さんが拒絶してから白い光を出したような気がします」
 湊の記憶が確かなら、ブリキ男の誘いを征市が拒んだ後「キライ」と言って白い光を出していたはずだ。そこから攻略の糸口がつかめるかもしれない。
「遊ぶと言っても、どうする?」
「何をすればいいかは判りません。でも、好意的な態度を取っていればすぐに白い光を出す事はないと思います」
「子供の姿に変えるのは敵対的な相手だけという事か。確かに征市は戦うつもりでブリキ男に挑んでいたからな。デュエル・マスターズカードで遊ぶ事を提案すれば倒せる」
 湊は、一真の言葉に頷いた。ブリキ男は自分から戦いを挑む事のない怪人だ。うまく誘い出すしかない。
「次に奴が動き出したら、俺達二人で相手をする。菜央、俺は湊と二人で今から魔法警察に行ってくる。通報があったら、パトカーですぐに現場に行けるからな」
 一真はエレベーターまで車椅子を動かした。湊もそれに続くと、振り向いて菜央に
「行ってきます」
と、言ってエレベーターに乗り込んだ。
「少しおかしいな」
 二人が去った後、征市が目の前のトランプを見て呟いた。
「何かおかしいですか?」
「ああ、そうだ。俺には判る」
 征市は腕を組んで菜央に答えた。子供になった時の征市は、普段より偉そうにしている。
「教えて欲しかったら、新しい手品グッズ買ってくれよ。こんな初心者向けトランプじゃ面白くない」
 そう言って、征市は持っていたトランプをデスクの上に投げる。
「そうですか。確かに、相羽さんには物足りないかもしれませんね」
 菜央はそう言うと、にこやかな顔でおしおき部屋の扉を指した。そこからはこの世の者とは思えない生物の声と陸の悲鳴が聞こえてくる。征市は、顔を青くしながら菜央を見て
「言う!言うからあの部屋はやめて!」
と、必死になって叫ぶ。
「わがままを言わないでくれてとてもうれしいです」
 菜央は笑顔でそう言うと、征市に近づいた。菜央が近づいた事で、征市はおしおき部屋に入れられると感じ、恐怖したのか顔を引きつらせて叫んだ。
「ミスディレクションだよ。あのロボットは囮だ!」
「ミスディレクションとは、つまり、ブリキ男は私達の意識を引きつけるのが目的という事ですか?」
 ミスディレクションとは、手品などで使われるテクニックでタネを隠す時にタネとは別の場所に人々の意識を誘導させる事だ。征市はブリキ男の行動が、これと同じものだと言った。
「ロボットが意識してそれをやっているのか判らないけどな。でも、何かおかしいと思わないか?テレビでも悪い怪人は、無力なかわいい子供を放置しておかないもんだぜ。人質にするかもしれないし」
 征市が感じた疑問は、一真が抱いていたのと同じものだった。ブリキ男は、人々を子供に変えてからは危害を加えていない。
「あのロボットを作った奴が何を考えてるのか判らないけれど、本気で悪い事するつもりだったら、あんなロボットは使わない。何考えてるんだろうな」
 征市の言葉に菜央は何とも言えない不安な気持ちになった。一真と湊は無事に帰って来られるだろうか、と。
「一真さん、若月さん……」
 菜央は、そこでただ待つ事しかできなかった。

「アソボウ」
 湊は、また白い部屋にいた。湊の前にブリキ男と同じ形の小さなロボットが座っている。ロボットは湊に背を向けていた。
「アソボウ」
 ロボットは、自分の目の前を通り過ぎる人々に声をかける。何度呼ばれても彼らは気付かずに通り過ぎる。
「アソボウ」
 歯車をきしませながら、ロボットは手を伸ばした。だが、その腕は届かない。その腕に歩いている人の足がぶつかる。
「危ない!」
 湊が止める間もなく、ロボットは倒れる。ロボットを蹴飛ばした人は、その事に気づかずにどこかへ行ってしまった。湊はロボットの傍まで走ると抱えあげた。
「大丈夫?」
 そう聞くとロボットは
「アソビタイヨウ」
と、話す。湊は、ロボットの合成された感情のない声の中に、悲しさや寂しさのようなものを感じた。
「ムカシハミンナ、アソンデクレタ。アソボウッテイワナクテモヨカッタ。イマハダレモアソンデクレナイ」
 湊に抱きかかえられたまま、ロボットは腕や足を動かす。
「ボクハ、コワレテイナイ。アソベルヨ。アソボウ」
 ロボットは湊の腕から抜け出すと、人々の元へ歩いた。その声は誰にも届かない。
 歩き続けているのは疲れ切った表情をした大人だった。誰も横にいるロボットの事を見ずに一心不乱に歩き続けている。
「そうか。遊び相手を探していたんだね」
 湊は、ロボット、いや、ブリキ男の目的を理解した。ブリキ男が人を子供に変えるのは遊び相手を探していたからなのだ。自分と遊んでくれない相手が嫌いなのだ。
「湊、起きろ」
 一真の声と体を揺さぶられる感触に気づいて湊は目を覚ます。周りを見ると、どこかの駐車場のようだった。
 二人は魔法警察のパトカーに乗ってショッピングエリアまで移動していたのだ。ここに、ブリキ男がいる。
「俺が先にブリキ男に話しかける。何かあったらその時は頼む」
 一真はそう言うと、車椅子を押して動き出した。湊もそれに続く。
「一真さん、ここは僕が……!」
 湊が言うのを一真は手で制する。そして
「俺だったら子供に変えられるかもしれない。そう言いたいんだろう?」
と聞いた。湊はそれに頷く。
「問題ない。俺も色々なプライズと戦ってきた。今回の相手は怪人だが、攻略法さえ判っていれば何とかなる!」
「でも!」
「ミツケタヨ」
 一真と湊が言い争っているところへ、聞き慣れた声がした。ブリキ男が駐車場まで移動してきたのだ。
「いいところに来たな。俺と遊ぼう」
 一真は車椅子をブリキ男の傍に移動させながら言う。ブリキ男は首を傾げるように体全体を傾けながら一真を見ていた。
「どうした?遊ばないのか?」
 反応がないブリキ男を見て、一真が聞く。それを見たブリキ男は一真に近づくと
「オマエ、キライ!」
と、言って腕を回し始めた。
「しまった!一真さん!逃げて下さい!」
 湊が叫んだが、一真は逃げ遅れて白い光に飲み込まれていった。倒れた車椅子の車輪が回り、乾いた音を立てる。
 車椅子に隠れるようにして小さい子供が出てきた。湊を不安そうな顔で見上げると、走って湊の後ろまで逃げた。
「あのロボット、怖い」
 一真は、絞り出すような声で言いながら湊の足にしがみつく。普段との一真とのギャップに湊は驚いていた。
「アソボウ」
 湊はブリキ男を見る。一真が子供の姿にされたのは、ブリキ男と遊ぶつもりがなかったからだ。ブリキ男は本当に自分と遊びたいかどうかが理解できるのだ。
 湊はデッキを持ってその手を差し出す。そして、ブリキ男の目のライトと視線を合わせると微笑んだ。
「僕と遊ぼう。君もデッキを持ってるよね?」
 だから、ブリキ男と戦えるデュエリストは湊しかいない。夢でブリキ男の寂しさを理解している湊しか心に通じる言葉はかけられない。
 ブリキ男は、ベルトの横についているポケットからデッキケースを取り出す。二人のカードが宙を舞い、五枚のシールドがそれぞれのデュエリストの前に現れた。
「アソブヨ!ボク、コレデアソブノダイスキ!」
 ブリキ男は万歳をするように両手を高く上げるとその場で飛び跳ねた。ドスンドスン、と響く音に怯えて一真は湊のシャツの裾を引っ張る。湊は、一真の頭を撫でると「大丈夫だから。怖くないよ」と声をかけた。
「ウサギチャン!」
 ブリキ男は金属で出来た兎のような生命体《秘護精ラビリオン》を召喚する。《ラビリオン》は特殊な能力を持たないパワー3000のブロッカーだ。シールドやプレイヤーを攻撃する事もできない。
 しかし、この3000のパワーを超えるクリーチャーが少ない湊のデッキにとって、厄介なクリーチャーだった。
「《ポッポ・弥太郎・パッピー》召喚!」
 湊が投げたカードが赤い光と共に、日本風の兜をかぶった赤い小鳥の姿へ変化する。
「トリサンダ!ピヨピヨ!」
 ブリキ男はクリーチャーが出るのが面白いのか、召喚されるたびにリアクションを取っている。デュエル・マスターズカードを戦うための道具以外に使った事がなかった湊にとって新鮮な反応だった。
『何やってるのっ!早くやっつけちゃいなさいっ!』
 しかし、全はそれが気に食わなかったらしく、ベルトのスピーカーから大声を出して怒鳴り散らす。ブリキ男はカードから目を逸らし、ベルトのスピーカーを見た。
『遊びなんかでやってるんじゃないわよっ!小生達は戦ってるのよっ!あんたなんかじゃなくて、透明男ちゃんや吸血男ちゃんが残っていたらよかったのに……』
「何て事を言うんだ!」
 全の言葉に怒鳴ったのは、ブリキ男ではない。湊だ。カードを持っていない左手を強く握りしめて声を張り上げている。
「自分で作った怪人に何でそんなひどい事を……。自分の子供みたいなものじゃないの?」
 ブリキ男の頭のマイクから声が伝わったのか、全はスピーカーから金切り声を出した。
『うるさいわよっ!このちびが!小生にとってこいつはただの失敗作なのよっ!捨てられていたこいつを小生が拾って今の形にしてやったんだからっ!こいつは小生にとって子供じゃなくて、奴隷なのよ、奴隷っ!』
「そんな……」
『判ったら黙ってなさ――』
 突然、ブリキ男がスピーカーを叩く。それから、スピーカーからは雑音しか聞こえなくなった。
「……アソボウ」
 ブリキ男はしばらくして顔を上げるとそう言った。その顔を見て湊も頷く。
「もう誰も邪魔しないね」
 湊の後ろに隠れている一真も小さな声でそう言った。彼もブリキ男がただ遊びたいだけだと気付いたのか、声色にも好意的なものが感じられる。
「メガ、デロ!」
 ブリキ男は再び動き出す。彼が使ったのは《フェアリー・ライフ》だった。場に緑色の芽が吹き出し、ブリキ男のマナが増える。
「《風来の股旅ビワノシン》召喚!」
 湊は序盤の最重要カードとも言える《ビワノシン》を召喚した。ビワのような顔をした二体のサムライが二人三脚のように二人で立っている。《ビワノシン》がクロスギアをつけた状態で攻撃する時、山札の中からサムライのカードを選んで手札に加える事ができる。サムライであれば、クリーチャーでもクロスギアでもいいのだ。
「フタリ、ナカヨシ。タノシソウ!」
 ブリキ男は、《ビワノシン》を見て喜んだ後、自分のシールドに一枚のカードを投げつける。その効果によって無地の壁だったシールドが変化していった。その姿は例えるならば、レンガでできた要塞。その上にパンダの頭のようなものがある点がアクセントになっていた。
「パンダサン!」
 ブリキ男が喜び、湊がその存在に驚いた。その城は《ハッスル・キャッスル》と言って自分のクリーチャーを召喚するたびにドローする事ができるようになるのだ。
「いいカードだね。でも、僕も負けないよ」
 湊は気を引き締めて自分の手札を確認した。ブリキ男は「ホメラレタ!」と言って手を上にあげて喜んでいた。
 その後も二人の攻防は続いた。
「《ハルサ》でシールドをW・ブレイク!」
 巨大な仏像を彷彿とさせる湊の切り札《大神秘ハルサ》が動き、右手に指輪のような形でつけていた《熱刀 デュアル・スティンガー》がブリキ男のクリーチャーをブロッカー化していた《霊騎マルディス》の体を貫く。そして、《ハルサ》が杖を振るとモニュメントのような形のクリーチャー《雷鳴の守護者ミスト・リエス》がカードの姿に変わり、マナゾーンへ飛んでいった。
 そして《ハルサ》は持っていた杖でブリキ男のシールドを順調に二枚ブレイクしていく。しかし、二枚目が割れた瞬間に相手が動き出した。
「クサ、ボーボー!」
 シールド・トリガーで《ナチュラル・トラップ》が発動したのだ。
 割れたシールドから緑色のツタが出て湊の《ハルサ》を包みこんでいく。やがて、ツタは枯れてその場で朽ちていった。そこから、二枚のカードと《デュアル・スティンガー》が出てきて、カードはマナゾーンに飛んでいった。
「僕はこれでターン終了だ」
 湊のバトルゾーンにはまだ《ポッポ・弥太郎・パッピー》が一体残っている。だが、召喚したばかりなので動く事ができない。シールドは二枚残っていた。
「ボクノバン!」
 ブリキ男はうれしそうに言うとカードを引いた。
 ブリキ男のシールドは残り一枚。クリーチャーは台座に座ったような姿をしたアーク・セラフィム《白騎士の霊騎ラジューヌ》と虚無僧のようなかぶり物をしたアーク・セラフィムの《霊騎キヨマサ・コムソー》が一体ずついる。どちらもパワーが低いクリーチャーだ。湊はシールド・トリガーで《地獄スクラッパー》が出れば、相手のクリーチャーを全て破壊できると思っていた。
「キリフダ、キタ!」
 ブリキ男が手札から一枚のカードを場に投げる。金色の光を放つそのカードを中心に、カードに戻った《ラジューヌ》と《キヨマサ・コムソー》が竜巻を起こす。竜巻の中心にあるカードが強烈な光を発してその場を包みこんだ。
「うわっ!」
湊が目を閉じるのと同時に、一真も声を上げる。この眩しさでは、目を開けていられない。光が止んだのを感じて、湊は目を開けた。目の前には緑色の羽根をして腰に惑星に似た球体を取り付けた不可思議な生命体が立っていた。
 《光彗星アステロイド・マイン》。進化元のクリーチャーを二体必要とする進化ボルテックスのクリーチャーで、パワーが一万を超えるW・ブレイカーである。だが、本当に恐ろしいのはそれだけではない。
このクリーチャーは呪文や能力で選ぶ事ができないクリーチャーなのだ。湊の切り札《ハルサ》が特殊能力を使ってマナに送ろうとしたとしても、《アステロイド・マイン》だけはマナに送る対象として選ぶ事ができない。
「イケ、キリフダ!」
 ブリキ男の命を受け、《アステロイド・マイン》は羽根から緑色の光を発しながら飛ぶ。その羽根が一瞬、湊のシールドを撫でるように触れたかと思うと、全体にひびが入り、割れていった。割れたシールドの欠片は、一瞬、緑色の光を発するが湊は手を伸ばしてカードを取る。それは《ナチュラル・トラップ》だった。
「使わ、ないの?」
 後ろから見ていた一真が遠慮するような口調で湊に聞く。湊は静かに首を振った。《ナチュラル・トラップ》では《アステロイド・マイン》に触れられないからだ。
 湊は静かにカードを引く。負けないためにはブリキ男の《アステロイド・マイン》を破壊するしかない。しかし、呪文もクリーチャーの特殊能力も効かないこの切り札を倒すには、巨大なパワーのクリーチャーで攻撃するしかない。湊の場にそれだけ巨大なパワーのクリーチャーは存在しなかったし、これから用意する事もできない。
「だから、シールドをブレイクして直接攻撃しかない」
 しかし、クリーチャーは《ポッポ・弥太郎・パッピー》一体しか残っていなかった。クリーチャーを召喚したとしても、召喚酔いしているので攻撃できるクリーチャーは一体しかいない計算になる。
 だが、湊はその計算を破壊する切り札を持っていたのだ。七枚のマナをタップして、手札の一枚にその全てのエネルギーを注ぎ込む。マナを吸収したそのカードが緑色の光を発しながら湊の手を離れた。場の中央に飛んでいったカードは、緑色の光を発するとその真の姿を現す。鍛え上げられた青い筋肉とそれを覆う黒い鎧。巨大な鞘を腰に下げたジャイアント《維新の超人(リョウマ・ジャイアント)》だ。 《維新の超人》が鞘から刀を抜くと、それに呼応してマナのカードがクロスギアに変化して飛んでいった。龍に似た姿をした《竜装 ザンゲキ・マッハアーマー》は様々な部品に分かれると、《維新の超人》に鎧のような形で融合していく。その結果、鎧から蒸気のようなものが噴き出した。
「《維新の超人》は場に出た時にマナからクロスギアを出してクロスする事ができる!さらに《ザンゲキ・マッハアーマー》がサムライにクロスされていれば、サムライのクリーチャーはスピードアタッカーになってパワーが2000増える!」
 これで準備は整った。それを理解したのか兜の奥の《維新の超人》の目が光った。
「スゴイ!オオキイ!」
 湊の切り札を見て、ブリキ男は無邪気に喜んでいた。ただ、遊びたかっただけでそれ以外の事を願わなかったブリキ男に攻撃する事に湊は躊躇する。だが、迷っている時間はない。
「《ポッポ・弥太郎・パッピー》でシールドをブレイク!」
 《ポッポ・弥太郎・パッピー》がくちばしで最後のシールドを突き破る。その中にシールド・トリガーはなかった。
「《維新の超人》!」
 湊に呼ばれて《維新の超人》は刀を持つ手に力を込める。だが、主はその後の攻撃を命令しない。湊はブリキ男の姿をずっと見ている。ここで攻撃したら、ブリキ男はその命を失い、永遠に誰とも遊ぶ事が出来なくなるのだ。
「《維新の超人》で……!相手を……!」
 声を絞り出して攻撃を命じようとするが、最後の言葉が口から出ない。ブリキ男の想いを理解した湊だからこそ、ブリキ男と戦う事ができた。そして、その想いを理解しているからこそ、とどめを指す事ができない。
 湊は、ブリキ男を見たまま、手を震わせる。
「イイヨ」
 どれだけの間、そうしていただろうか。気が付くとブリキ男がそう言っていた。
「ボク、イッパイアソンデモラッタ。タノシカッタ。ダカラ、モウネムッテモイイヨ」
 ブリキ男はそう言うと、体全体で湊の攻撃を受け止めるように手を横に広げた。湊もそれを見て決心する。
「哀しい器よ……眠りなさい……っ!《維新の超人》で攻撃!」
 《維新の超人》の刀がブリキ男の頭上に振り下ろされていった。

「ひどい目にあった。そんな気がするぜ」
 トライアンフ事務所。大人の姿に戻った征市はそう呟いた。隣にはぐったりした姿でデスクにもたれかかった陸がいる。事務所には、一真と湊もいた。ブリキ男との戦いを終えて、それを報告していたのだ。湊の手にはブリキ男が縮んだようなデザインの小さなロボットが乗っている。ブリキ男のように自分一人で話す事も動く事も遊ぶ事もできないおもちゃだ。ブリキ男のパーツとして使われていたらしく、倒された残骸の中に入っていたのだ。
「そう言えば、一真さんも子供にされちゃったんだよね。湊君、一真さんの子供バージョンってどんな感じだったの?」
 陸に聞かれて湊が答えようとすると、湊は一度だけ一真を見た。一真は普段と変わらない表情をしている。だが、目の力だけはいつもとは違っていた。
「絶対に言うんじゃない!」
 その目はその一言を力強く語っていた。
「……今の一真さんと同じでしたよ。征市さんも陸さんもそうでしたし、子供の頃と変わらないものなんですよ」
「そっか。何か面白い秘密が聞けると思ったんだけどな~」
 そう言って陸は一真を見た。一真は陸から目をそらすと
「そのおもちゃ、どうするつもりだ」
と、湊に聞いて話題を変えようとした。
「これはブリキ男を作るベースとなったおもちゃのプライズです。僕は予知夢でブリキ男の願いを見ました」
 湊は今まで見た予知夢と、魔法警察のパトカーの中で見た夢の内容を話した。
「子供と遊ぶ事が、ブリキ男の願いだと思うんです。だから、大切に扱ってくれるところを探してくれませんか?」
 湊はそう言ってロボットのおもちゃを菜央に渡す。菜央は、それを受け取ると一度、デスクの上に置いて
「判りました。普通のプライズとは違うみたいですから、子供が多く集まりそうなところを探してもらえるように魔法警察にも相談してみます」
と、答える。それを聞いて湊は顔をほころばせる。
「ありがとうございます!」
 湊が礼を言った瞬間、ロボットの目のライトが点滅したのを征市は見た。それは、ロボットのおもちゃなりの感謝だったのかもしれない。

 光の当たらない暗い部屋。その中で、全はわめき続けていた。
「何なのよ、ブリキ男の奴っ!小生の指示を無視した挙句、スピーカーを壊すなんて許せないわっ!あのクズロボット!」
「君にしては冷たいじゃないか、全。どうしたの?」
 相手を皮肉ったような口調で幻(げん)が聞く。彼の体調も回復してきているせいか、立ち上がって彼の近くまで歩いていた。
「小生はあんなのかわいいと思っていないわっ!今までの怪人は全部いい子達だったわよ。でも、ブリキ男だけは失敗作だわっ!」
「でも、君の目的のために動いてくれたんだろう?」
 冷水のような一言を聞いて、全は動きを止める。そして、相棒の姿を見ると
「気づいていたのね」
と、返した。
「近くであれだけの魔力の放出があれば誰だって気が付く。魔力を持たない人間でも、外で違和感を覚えているかもしれないね。トライアンフの奴らに気づかれなかったのは、ブリキ男を囮にしていたからだろう?」
「ええ、そうよ。小生の嫌いなブリキ男だけれど、小生の最高傑作のために少しは役に立ったみたいだわっ!」
 そう言うと、全は後ろにあったカプセルを見た。カプセルの中の怪人を見て、幻は口を開く。全が作り出した新たな怪人の姿が、想像を遥かに超えていたからだ。
「これなら、トライアンフとも戦える。いや、違うね。負ける姿が想像できないよ」
「そうでしょ?あいつらに一泡吹かせてやるわっ!」
 暗い部屋の中、カプセルの中で白い仮面だけが不気味な光を発していた。

 『File.19 カーニバル』につづく
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