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『コードD』File.extra めぐる学校の怪談 その1

『コードD』

「ねぇねぇ、知ってる?」
「四時四十四分だよ」
「この世とあの世を繋ぐ」
「永遠に世界の果てを廻る方法」
「七不思議の一つ」
 ろうそくに火が灯り、暗い教室を照らす。ぼんやりとした炎が照らすのは、教室の床面積の半分を埋めるほどの大きさの模型だった。その模型は学校を中心に、一つの町が形成されていた。
 ある程度デフォルメされたその模型の中にいくつかの人形が立っている。レゴブロックの人形のように、目と口がついただけの顔をしたその人形は何体か集まっていた。声は、その人形から聞こえてくる。
「うるっせぇメスガキどもだ」
 言葉とは裏腹に嬉しそうな声と嬉々とした表情。今の状況を楽しんでいるように見える。
 その男は、木で出来た古い床をきしませながら部屋を歩くと、床に置かれたその模型を見ながら近くにあった椅子に座る。長い年月を生きてきたその椅子は、労働させられる事への抵抗か、それとも働ける事への喜びか、床と同じようにきしんだ音を立てた。
 ろうそくの火が男の顔を照らし、顔の陰影を浮き上がらせる。まだ成人していない学生だと思わせるその青年は、肩の辺りで切り揃えた黒い髪をかきあげると窓を見た。床と同じように古い木枠の窓から見える風景は夜のものだった。その窓の近くの壁に、椅子に座った青年と同じ顔の青年が寄りかかっている。同じなのは、顔だけではなかった。白い半袖のシャツと黒いズボンという夏用の学生服らしい服装で二人はまとめていた。
「兄貴、これからどうする?」
 模型の傍にいた男が言う。よく見ると、その男の髪は左半分が青だった。兄貴と呼ばれた窓際の青年の髪は右半分が紫色をしていた。
「そろそろ奴らを出迎えてやるか」
 窓際の男は、近くの机の上から数体の人形を掴むと、模型に近づいた。そして、人形を放り投げる。それらの模型は、どれも示し合わせたかのようにとある博物館の前に着地した。頭から着地したものや、倒れているものなどはない。
 博物館の前にいる人形は全部で六体。赤いブレザーを羽織った黒髪の人形。黒いシャツに茶髪の人形。セーラー服を着た長い黒髪の人形。水色のシャツに紺のネクタイを締めた明るい茶色の髪をした人形。車椅子に乗った黒髪の人形。そして、髪を二つ結びにした人形だ。
 博物館に投げられた人形は、誰も触れていないのに一人でに動き始めている。中に磁石が入っていてそれに吸い寄せられているというような仕掛けではない。不可思議な力で動いているのだ。
 それを作り上げた二人の男は、不思議な光景を見ても何も感じない。彼らが動くように作り上げたからだ。
「始めようか。相羽征市(あいばせいいち)。ゲームスタートだ」
 暗闇の中で二人の声が重なった。

 夜。人々が太陽の光から遮断され、闇の中で生きていかなければならない時間だ。
 Y市は比較的都会に位置する場所なので、夜であっても人工的な明かりが街を照らしているが、それでも闇からは逃れられない。
 そんな完全な闇が支配する学校の校庭を歩く一人の少女がいた。
 その学校の夏服である半そでのシャツブラウス、プリーツの入ったスカートの裾を揺らし、つり目がちの鋭い目で夜の闇を射抜いている。栗毛色のツインテールと低い身長のせいか、妙に幼く見える。
 険しい目つきをしたその少女は、パスケースを取り出すとそこに挟まっていた写真を見る。少女と一緒に写っているのは、五歳くらいの男の子だった。その子供の顔を見て少女の顔が緩む。
「待っていてね。征市」
 少女は、パスケースの子供に向かって「征市」と言った。そのパスケースをしまうと、再び険しい顔をして歩きだす。


 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 デュエル・マスターズカードを使って戦うデュエリスト達の組織『トライアンフ』。
 トライアンフの若きリーダー。冷静な美少女、琴田菜央(ことだなお)。
 トライアンフのメンバーを支える元リーダー、貴田一真(たかだかずま)。
 予知夢を見る事ができる少女のような外見の美少年、若月湊(わかつきみなと)。
 闇のカードを操る陽気な実力者、遠山陸(とおやまりく)。
 偶然、デュエリスト達の戦いに巻き込まれた、トライアンフの心の支えとなる少女、一ノ瀬彩弓(いちのせあゆみ)。
 そして、トライアンフ創設者の孫であり、強力な魔力を持つデュエリスト、相羽征市。
 これは、彼らのようなデュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。

 File.extra めぐる学校の怪談


 1 怪奇への入口

 Y市Q区は、明治時代に建てられた西洋風の建築物が今でも多く残っている。そのQ区は世界でも有数の魔法による事件が大量発生している街なのだ。古くから存在する建物が多いせいか、港が近いため、海外から様々な物を輸入するせいかは不明だが、事件を起こすプライズも魔法使いも多い。
 プライズとは、魔力を帯びた不思議なアイテムである。“神様からのご褒美”という意味を込めて名付けられたそれらのアイテムは、人々に幸福や利益をもたらす事がある。
 だが、一部のプライズは暴走したり、最初から事件を起こすためだけに作られたりする事もあり、それによって人智を超えた不思議な事件が起こるのだ。
 七月の日差しが照りつけるQ区の未来地区で三人の悪い魔法使いと戦っているデュエリストがいた。高層ビルが多く建っていて、商業施設や遊園地もある未来地区は観光スポットとしても有名である。そんな未来地区だが、彼らの周りには誰もいない。一般人は警察によって避難したからだ。
「食らえぇっ!我が切り札、《キング・アトランティス》!!」
 夏だというのに、全身黒のライダースーツのようなものを身に纏い、青い仮面で顔を隠している男が手に持っていたカードを投げつける。すると、そのカードが青い光を発しながら姿を変化させていった。 現れたのは、巨大なクジラを思わせる水棲生物だった。全身が鋭く尖っている。その生き物が現れるのと同時に、赤いブレザーの青年の前に立っていた生き物が波に飲まれていく。波が消えた瞬間、そこに生物の姿はなく、あるのは数枚のカードだけだった。
「召喚と同時に全てのクリーチャーを手札に戻す《キング・アトランティス》か。まさに切り札ってとこだな。お陰で、俺のクリーチャーは0。しかも、シールドがないから次のターンで負けって事か」
 赤いブレザーの青年の手元に、波に飲み込まれたカードが戻っていく。その様子を見ながら、青年は淡々とした口調で今、自分が置かれている状況を語った。
 その青年は、燃える炎のような真紅のブレザーを羽織っていた。襟には、羽を模したような銀色のラペルピンが刺さっている。シャツは白く、結んでいるネクタイはQ区から見える海を現すような青い色をしていた。そして、全体の色の調和を乱さないような落ち着いたグレーのスラックスが足元をまとめている。
 青年は黒い前髪をかきあげると「まいったね。これは」と、呟く。
「そんな呑気な事を言っていていいのか?《キング・アトランティス》はお前を食いたいと言っているぞ?」
 《キング・アトランティス》と呼ばれた水棲生物は、歯を見せてブレザーの青年を威嚇した。だが、青年はそれに動じる事なく、自分に目の前で浮いているカードの束から、一番上のカードを引きながら言った。
「お前もシールドがないだろ?そんな余裕かましていていいのかよ?」
「問題ない。召喚されたばかりのクリーチャーは召喚酔いといって攻撃できない状態になる。それが解除されるのは次のターンだ。お前が《キング・アトランティス》を除去できないのならば、それで全てが終わる!」
 赤いブレザーの青年は、頬をかくと
「確かに、俺には《キング・アトランティス》を除去できるカードはないな」
と、言った。
「ならば、これでお前の負けだ!」
 仮面の男が言うのを見ながら、ブレザーの青年は手札から一枚のカードを引き抜くと場に投げる。そのカードは炎を発しながら姿を変えていった。姿を変えたカードは、日本風の甲冑に身を包み、二本足で立つ赤い龍だった。巨大な刀を鞘から引き抜くと、両手でそれを構える。
「俺の切り札《ボルシャック・大和・ドラゴン》だ」
 ブレザーの青年は、自分の切り札を相手に紹介する。《ボルシャック・大和・ドラゴン》は、刀を突き付けて《キング・アトランティス》を威嚇した。
「今更、切り札を見せて何になると言うのだ?」
「これでまだ判らないって、お前、相当な間抜けだな」
 仮面の男は笑っていたが、ブレザーの青年の言葉を聞いてその笑みが止む。
「貴様、私を挑発しているのか?」
「挑発なんてくだらない事はしねぇよ。俺はこのデュエルに勝ったんだからな」
「ふざけるな!《キング・アトランティス》を除去せずに勝つ事など……!?」
 そこで仮面の男は言葉を飲み込んだ。《ボルシャック・大和・ドラゴン》が地面を蹴って、自分に近づいてきたからだ。
「何故だ!?召喚酔いはどうした!?」
「スピードアタッカー。召喚酔いなしで攻撃できる能力。それが《ボルシャック・大和・ドラゴン》の力だ!」
 地面を蹴った《ボルシャック・大和・ドラゴン》は、滑空して仮面の男に近づきながら刀を頭上に構える。
「嘘だ!我々は、今まで邪魔なデュエリストを全て葬ってきたのに、何故、こんなところで!」
 ブレザーの青年は、軽い溜息を吐くと、断末魔の悲鳴にも似たその叫びにこう答える。
「嘘なんかじゃない。『ウソのようなホントウ』って奴だ」
 《ボルシャック・大和・ドラゴン》が刀を振り下ろし、未来地区一帯の地面を揺らすほどの衝撃を発生させる。決着がついたのだ。
 時を同じくして、彼らの周りでも同じような光景が見られた。
「あの世で神様に懺悔しな!」
 モデルのように背の高く、甘いマスクをした少年が、自分の前にいる悪魔のような生物に指示を出す。黒い長そでのシャツに、長い足を包むジーンズ。そして、首には銀色のドクロのカメオがついたループタイを引っ掛けている。自然な茶色をした髪が、攻撃の衝撃で発生した風になびいた。
「哀しい器よ、眠りなさい」
 緑色の仏像のような姿の巨人が槍で地面を叩き、衝撃波を発生させる。それによって、そこに立っていたライダースーツの男が吹き飛んだ。
 巨人に命令を下したのは、黒く長い髪をした子供だった。どこかの学校の夏服らしい半袖で白に青が映えるセーラー服を着ていた。少女のような外見をしているが、彼は少年である。
「終わったな。プライズ窃盗団、あえなく御用ってとこか」
 ブレザーの青年、相羽征市がそう言うと、サイレンが聞こえるのと共に赤いパトランプの光が見えてきた。
 魔法を使って悪事を働いた者が倒されたら、警察によって連れて行かれる。ただし、魔法に関する事件は、専門の魔法警察の担当である。魔法警察は、征市のようにデュエルをするほどの実力はないが、人数を活かした仕事で様々な事件を解決している。
 征市達は、『コードD』と呼ばれるような危険性の高いミッションを請け負う組織『トライアンフ』に所属している。トライアンフは、戦闘用の魔法の中でも最大の奥儀と言われるデュエル・マスターズカードを扱える者のみで構成されている組織だ。デュエル・マスターズカードを使ったデュエリストや、カードを使えるような凶悪なプライズが暴れた時は彼らの出番である。
「いい仕事しましたね。あ、リーダーの素敵な二つの山で褒めてもらえるかも!」
 いやらしい笑みを浮かべながら、モデルのような顔の少年、遠山陸は笑う。彼は、征市よりも長くトライアンフに所属しているデュエリストである。長い間、一人で戦い続けていたのだ。
「そういう事を言うと、また菜央さんに怒られますよ」
 それを見ていたセーラー服の少年、若月湊が陸を注意する。体格的には大人と言って差し支えない二人とは違い、彼はまだ十二歳である。その中でも小柄で少女のような顔つきのせいか、セーラー服を着ていても怪しまれる事はない。
「怒られる、で思い出したけれど、今日、午後から会議があったよな。急いで事務所に戻らないと」
 征市はそう言うと、大きな欠伸をした。眠そうな顔で瞬きをしている。
「おや?寝不足ですか?」
「ああ、そうなんだ。変な夢を見て、どうも寝た気がしないんだよな」
 陸の質問に征市が答えると、三人は歩き出した。
 彼らが言うトライアンフ事務所は、未来地区から歩いてすぐのところにある。近代的な建築物が並ぶ未来地区とは対照的に、彼らが向かっているのはY港が開いた直後からあまり変わる事のない西洋風の建物が並ぶ場所だ。未来地区から、自然が多く歩きながら港が見える山城公園に入ってそこを抜けると、彼らはとあるモダンな建物の前に来た。これは大正時代に郵便局として利用されていた建物で、今は博物館として使われている。三人はその博物館に入り、関係者のみが通れる通路を歩くと、とある絵の前に立った。その絵の下が自動ドアのように横に開き、三人を迎え入れる。三人が入ると、そのドアは閉じた。
 それは、エレベーターのようなものだった。しばらく降下するような感覚を味わうと急に止まり、ドアが開く。そこにあるのが、日本のトライアンフの事務所だ。三人は事務所に入ると中を見た。
「皆さん、お疲れ様です。窃盗団との戦いで疲れているとは思いますけれど、会議を始めますよ」
 壁際の大きなデスクに掛けている少女が、彼らのリーダー、琴田菜央だ。過去にトライアンフの夏用の制服として作られた水色の半袖シャツに紺色のネクタイを締め、下は黒のタイトスカートを穿いている。彼女が部屋に入って来た三人を見ると、短い茶髪が軽く揺れた。
「うっひょー!さすがリーダー!ネクタイで胸の谷間を強調するなんて、判ってるじゃないですか!」
 陸が喜びながら叫ぶと、菜央は笑顔で指を鳴らす。すると、事務所の隅にある金属製の扉が開き、そこから黒い手がいくつも出てきて陸をその中に連れ去った。陸が中に入ると扉は勝手に閉まる。部屋の壁は真っ白でまだ新築のように綺麗だが、その扉だけは周囲から浮いていて、ところどころ錆ついている。何よりも奇妙なのは、ところどころに血痕がついている事だろう。血痕には古いものも新しいものもある。
 これは、陸のために作られた『おしおき部屋』と呼ばれる施設だ。陸が菜央に対してセクハラ(もしくは、彼女がそう感じた行為)をした場合、彼におしおきをする設備となっている。陸の巻き添えを食らって、何度かおしおき部屋に入った事がある征市も中に何があるのか正確には把握していない。
「陸君はいけない子ですね」
 そう言って菜央は腕を組んだ。彼女はスタイルがよく、今も組んだ腕の上に胸が乗るくらいのボリュームがある。だが、それを指摘されるのは嫌らしく、口にした者はおしおき部屋送りにされてしまうのだ。
「陸も毎回懲りないな。学習能力がないのか」
 菜央の近くのデスクに車椅子に座った一人の男がいた。鍛えられた筋肉の上に黒いタンクトップを纏った青年、貴田一真だ。
 トライアンフのリーダーをしていたが、昨年秋のトライアンフ事務所襲撃事件で負傷し、今は車椅子で移動している。事件後、現役を引退しリーダーを菜央に任せていたが、数週間前にトライアンフの力になるために戻ってきたのだ。現役時代はトライアンフ最強のデュエリストとして多くのプライズや悪い魔法使いと戦った。
「では、メンバーが全員揃いましたから、会議を始めましょう」
 菜央の一言で征市と湊は着席し、会議が始まる。陸は、おしおき部屋の中で悲鳴をあげているが、よくある事なので全員気にしてはいなかった。
「征市、陸、湊の三人には潜入捜査をしてもらう」
「潜入捜査?」
 征市と湊の言葉が重なり、二人は作戦の内容を言った一真を見た。
「そうだ。T高校で一週間の潜入捜査をしてもらう。征市は教育実習の大学生として、陸と湊の二人は生徒として潜り込むんだ」
「ちょっと待った!」
 おしおき部屋の扉から陸が出てくる。体中傷だらけになっているが、目は生気に満ちて輝いていた。
「高校に潜入捜査って事は、女子高生ナンパし放題ですね!ひゃっほう!」
 陸が両手を上げて喜んだ瞬間、再び、おしおき部屋の扉が開き、陸がその中に連れ去られる。菜央は笑顔で「会議を続けましょう」と言い、他の三人は菜央を怒らせるような事をしないようにしようと固く誓った。
「T高校の場所は判りますね?」
 菜央は征市と湊の二人に聞く。
 T高校はトライアンフ事務所から歩いて数分のところにある共学の高校だ。JRの駅とも近いため、交通の便のいい学校としても知られている。
「で、何で潜入捜査なんかしなくちゃならないんだ?その中にプライズがあるんだったら、すぐに行けばいいだろ?」
「そうですね。三人でやればすぐに終わると思います」
 征市と湊が潜入捜査の必要性に疑問を感じている。それに対して菜央は説明を続けた。
「確かに、普通のプライズだったら何とかなるでしょう。ただし、あくまで多くの怪現象として処理されているので本当にプライズによるものかどうかも判っていません。詳しい事は魔法警察の調査待ちですが、魔法警察はコードDに該当するような事件だと判断しています。」
「確かにただの怪現象だが、その数が尋常じゃないんだ。その裏にはプライズだけでなく、それを操っている者がいるかもしれない」
「なるほど!大体、判りましたよ!」
 再び、陸が扉を開けて出てきた。そして、自分のデスクに着席する。
「T高校は多くの怪談で有名な学校ですね。多くの怪現象が起きるのも納得できます」
 陸は腕を組んで何度も首を縦に振る。それを聞いた征市は「怪談で有名なんて嫌な学校だ」と、言った。
「でも、一真さん。僕達、潜入捜査なんてした事ありませんよ。どうするんですか?」
「大丈夫だ。既に一人、潜入捜査をしている奴がいる」
「俺達以外にもいるんですか?」
 征市の疑問に一真は頷き、菜央に説明の続きを譲った。
「既に潜入捜査をしているのは魔法警察MX班の方です」
「MX班?聞いた事がないぞ」
「新しく作られたチームですからね。知らないのも無理はありません。魔法警察がフリーのデュエリストを集めて作った組織で、現在、試験的にこの任務を与えているそうです」
「MX班とは言っても、この任務では一人しか動いていないみたいだけどな」
 一真はそう言うと、車椅子を動かしてエレベーターに向かった。
「三人ともついて来い。今からそのMX班の奴と会う事になっているんだ」
 それを聞いて、征市、陸、湊の三人は一真の後ろについて移動する。日も落ちてきて、殺人的とも言える夏の日差しも落ち着いてきたが、それでも暑い事に変わりはなかった。
「一真さん、MX班ってどんな人がいるんですか?」
 暑さから思考を切り替えるために征市が聞く。会う前にそれは知っておきたい事でもあった。
「MX班の中で、最も優秀なデュエリストらしい。歳は菜央や陸と同じで女だと聞いていた」
「何ですと!一真さん、女性を待たせちゃ駄目ですよ!急ぎましょう!」
 暑さでげんなりしていた陸は、目を輝かせると一真を急かす。征市が「後で菜央に言いつけるぞ」と、言ったのも聞こえていない。
「急かすなよ。もうすぐ着く」
 一真が言われてすぐのところに、長い一直線の道があった。車道だけでなく、歩道も広い。そして、木の下で一人の少女が立っていた。
 ツインテールのつり目がちな少女だった。T高校の制服を着ていて、学校帰りなのか鞄を持っている。少女は、征市達を見て近付いてきた。
「セーイチさん好みのちびっこが近づいてきますよ」
 陸が醒めた目つきで少女を見ながら、征市に言う。
「勝手に俺の好みを決めるな」
「よく、彩弓ちゃんと一緒にいるから、僕はてっきりああいうのが好みかと思ったんですけどね」
 少女は征市達の前に来ると、手を出す。
「あたしがMX班の笹本由麻(ささもとゆま)よ。よろしく」
「トライアンフの貴田一真だ」
 由麻は一真と握手をした後、征市達を見上げた。そして、征市を指すと
「あなたが相羽征市ね?」
と、聞いた。
「そうだけど、名前言ったっけ?」
「資料で見て覚えていたのよ。相羽総一郎の孫だってね。他の人は知らないわ。今からこの辺りを案内するからついてきて」
 そう言うと、由麻は四人に背を向けて歩き出した。
「きつい感じの人ですね」
 湊は静かな声で征市にそう言う。
「女の子だと聞いたから期待してたんだけど、セーイチさん好みの貧乳じゃがっかりだ!」
 陸は大きな声でそう断言した。その声を聞いた時、由麻が立ち止まる。
「おい、陸が変な事言うから」
 征市が陸をひじで突きながら、注意する。
「だって貧乳なのは本当じゃないですか。あと、セーイチさんが貧乳好きなのも」
「お前なぁ……!」
「来るわよ!」
 由麻の声を聞いて、征市達はくだらない会話を中断する。それと同時に征市は、遠くから自分達に向かって歩いていくる人影を見つけた。その数は十や二十では済まされない。行列で多くの人影が歩いてくる。
 近くまで来て、征市はそれらの人影が戦国時代の侍のような鎧を着ている事に気がついた。その鎧も体を守るための必要最小限のようなものであり、豪華なものではなかった。破損し、完全な形の鎧などなく、槍や矢が刺さっているものばかりだった。
「これ、何なんですか?」
「落ち武者の行列よ」
 湊が口に出した疑問に由麻が答える。
「武者の鎧のプライズって事か?」
「違うわね。原因は判っていないけれど、T高校を中心に起きている怪現象の一つよ」
 征市の問いに由麻が答える。彼女は何もないはずの空間から一枚のデュエル・マスターズカードを取り出すと、そのカードに自分の魔力を込める。
「はっ!」
 カードを通して由麻の魔力が赤い弾丸に変化し、落ち武者の行列に飛んでいく。
「やったね!あっけないじゃん!」
 陸がそう言って行列を見るが、落ち武者達の姿は減ったものの完全に消えたわけではない。目的のないような目つきでさまよい歩いていた彼らは、由麻を見た。
「うぅ……恨めしい」
 その中のリーダー格と思われる兜をかぶった男が由麻に近づく。由麻がもう一度カードに魔力を込めると、男は腰につけていた袋からデュエル・マスターズカードのデッキを取り出した。
「デュエルもできるんですか?」
「そうよ。誰がデッキを与えたのかは判らないけれど、怪現象を起こしている奴らはみんなデッキを持っている。だから、あたしもこれで対抗する!」
 由麻は持っていたカードを消し去ると、制服のスカートのポケットからマッチを取り出す。マッチを擦るとその炎が巨大化し、小さな爆発を起こしてデッキケースへと変化した。征市達が持っている金属製のデッキケースとは違い、表面に赤い革で加工が施してあるケースだ。
「戦闘開始!」
 由麻が、デッキケースからカードを出して投げると彼女の体が光に包まれた。光が止むと、彼女の前に炎のように赤い五枚のシールドが揃っていた。
「わお!パラダイスだ!」
 陸は興奮した顔で由麻の姿を見た。征市と湊も我が目を疑う。
 湊より少し高い程度の身長しかなかった由麻の身長が伸びていたのだ。それだけではない。彼女の体全体が一時的に大人びたものに成長している。
「ボンキュッボンだ!これは、由麻ちゃんの勝ちですね」
「……そうだな」
 征市は、気付いていた。由麻の体が変化したのと同時に彼女の魔力が膨れ上がっている事に。
「《コッコ・ルピア》召喚!」
 由麻が投げたカードが赤い光と共に生命体へと変化を遂げていく。最初に現れたのは、赤い体毛を持つ小鳥のようなクリーチャー、《コッコ・ルピア》だ。ドラゴンのコストを2下げる能力を持っている。
「恨めしい……。止まれ」
 対して、落ち武者は青い鎧のようなクロスギア《ノーブル・エンフォーサー》を場に出す。このクロスギアはクリーチャーにクロスされていない時は、パワー2000以下のクリーチャーの攻撃とブロックを禁ずる能力を発揮するのだ。
 由麻のシールドの前で飛び回っていた《コッコ・ルピア》はその動きを止め、下に落ちる。
「セーイチさん、ヤバいんじゃないですか?《コッコ・ルピア》が動けなくなりましたよ」
「陸、よく見ろ」
 一真が陸を注意するのと同時に、その場に熱風が流れた。不思議に思った陸が場を見ると、《コッコ・ルピア》の隣に岩のように硬い鱗を持つ長い体の龍がいた。オレンジ色の鱗で武装したその龍は《紅神龍バルガゲイザー》だ。
「本来、6コストの《バルガゲイザー》を2コスト減らして4ターン目に召喚か。綺麗な流れだ」
 征市は、《コッコ・ルピア》からの繋ぎを評価した。
「あのバスト、かなりある。綺麗な巨乳だ」
 陸は、由麻の体が一時的に成長してから胸ばかり見ていた。隣で湊が「そんな事ばかり言ってるから、菜央さんに怒られるんですよ」と、忠告するが聞いていない。
「さらに行くわよ!」
 落ち武者が《ブレイン・チャージャー》でカードをドローしたのを見た後、由麻も動きだした。緑と赤の光を発して《バルガゲイザー》の隣に一体のドラゴンが現れる。斧やガトリングガン、パイルバンカーなどの武器を持ち、機械的な鎧を身に纏った龍《無双竜機ドルザーク》。他のドラゴンが攻撃した時に、相手のパワー5000以下のクリーチャーをマナに送る能力を持っているドラゴンだ。
「行くわよ、《バルガゲイザー》!」
 《バルガゲイザー》の巨体が動き出すと、その口から咆哮が聞こえる。一種の遠吠えにも聞こえるその声により、由麻の山札が振動し、その一番上のカードが弾け飛んだ。そのカードは赤い光を発すると、場に飛び出し、龍の姿を形成する。
「あれは……?」
「《バルガゲイザー》の能力だ。攻撃する時に山札を表向きにしてドラゴンなら、コストを支払わずに出す事ができる」
 突然の出来事に驚いて見ていた湊に、征市が解説する。征市も由麻の見事なドラゴンさばきに目を奪われていた。
「また揺れたな」
「お前はそれしかないのかよ!」
 胸ばかり見ている陸に、征市が注意するがそれが聞き届けられる事はない。
「当たり前じゃないですか!あの胸から目を逸らすなんて罰当たりな事できるわけないですよ!」
「今はそっちじゃなくてデュエルを見ろよ!」
「あー、もー!セーイチさんの判らずやの貧乳スキー!」
「勝手に人に不名誉な称号をつけてんじゃねぇ!いつ、俺は貧乳が好きだなんて言った!」
 征市と陸は睨み合って言い争っていた。だが、耳をつんざくような轟音を聞いて、我に返る。見ると由麻と落ち武者の全てのシールドにひびが入っていた。場の中央には巨大な黒い剣を持ったドラゴンが立っていて、そのドラゴンが剣の先を地面につくとシールドが一斉に割れる。それを見て他の落ち武者から歓喜の声が上がった。
「セーイチさん、あれって……」
「《竜将ボルベルグ信玄》と《超銀河剣THE FINAL(ギャラクシーブレード ザ・ファイナル)》だな。厄介なクロスギアだ」
 《ボルベルグ信玄》は、場に出た時、コストを支払わずにクロスギアを場に出す侍流ジェネレートという能力を持っている。さらに、サムライクロスギアをコストを支払わずにクロスする事ができるのだ。
「《THE FINAL》は自分も相手も関係なく全てのシールドをブレイクするG(ギャラクシー)・ブレイクを与えるサムライクロスギアだ。10コストなんていうとんでもない重さだが、こうやって出すとはな」
 征市は、落ち武者が《ボルベルグ信玄》を召喚する事で《THE FINAL》を出し、即座にクロスするという離れ業をやった事に気がついた。
「セーイチさん、呑気に解説している場合じゃないですよ!あれ見て下さいよ!」
 ブレイクされたシールドから大量のシールド・トリガーが発動していた。落ち武者の《デーモン・ハンド》や《アクア・サーファー》が由麻のクリーチャーを破壊し、場から消していく。由麻のシールド・トリガー《ナチュラル・トラップ》は、場に唯一残っていた相手のブロッカー《ブラッディ・シンバル》をマナに送りこんだだけだ。落ち武者の場には、今のシールド・トリガーで出た《アクア・サーファー》が一体残っているが、由麻のバトルゾーンにはクリーチャーが一体も残っていない。
「ヤバいって、これ!」
「征市さん……」
 慌てながら場を見る陸と、心配したような顔で征市を見上げる湊。だが、征市は何も言わずに由麻を見ていた。
「勝つんだろ?」
「当たり前よ」
 短い言葉で征市が聞くと、由麻も同じように短い言葉で答えて一体のクリーチャーを召喚する。甲冑を観に纏った龍《ボルシャック・大和・ドラゴン》だ。
「あれは、征市の切り札と同じクリーチャーか。なるほど」
 一真が頷くのとほぼ同じタイミングで由麻が《ボルシャック・大和・ドラゴン》に命令を下す。
「《ボルシャック・大和・ドラゴン》でとどめよ!」
 《ボルシャック・大和・ドラゴン》は地面を蹴ると持っていた刀を両手で握り、落ち武者に振り下ろした。真っ二つに切られた落ち武者は「恨めしい……」と言い残しながら、黒い煙になって空気中に溶けて消えていった。他の落ち武者達もその様子を見て苦しそうに叫びながら消えていく。一分もしない内に落ち武者の姿は消え、静かな午後の風景が戻っていた。
「こんなもんね」
 由麻の姿も大人びた姿から、征市達の前に現れた少女の姿に戻っている。陸は「う~む。デュエルの時じゃないとあの芸術的な姿は拝めないのか。残念」と呟いた後、由麻に駆け寄り
「初めまして、由麻お嬢様。僕は、あなたのために生まれてきたナイスガイ、遠山陸です!どうぞよろしく!」
と、言って手を差し伸べる。だが、由麻はそれを無視して征市に近づいた。
「お腹空いてきちゃった。今の奴らの話するから、どこかに行こう?」
 そう言うと、由麻は征市の手を取る。征市は呆気に取られた顔でそれを見ていた。
「何で?何で僕じゃなくてセーイチさんかな?セーイチさんってちっちゃい子にモテますよね。でも、デュエルバージョンのナイスバディになった由麻ちゃんは渡さないぜ!」
 陸がそう言うと、由麻は「うるさい」と言って征市の手を引く。征市もその手に引かれてついていった。一真と湊もそれに続き、最後に納得できないといった顔をした陸がついていった。

 征市達は駅の近くにある二十四時間営業のファミリーレストランに来ていた。五人は席に座ってメニューを見ている。
「俺は、何にするかな」
「どうせ、あんたはオムライスでしょ」
「まあ、そうなんだけどな」
 征市はそう言って、メニューを隣に座っていた陸に渡して由麻を見る。
「でも、俺がオムライス選ぶって何で判ったんだ?」
「事前にあんた達の事を調べた時に知ったのよ。オムライスが好きだって。どうでもいい事だけどね」
「僕は巨乳が好きだよ!」
 陸が大声で由麻にアピールする。征市が慌てて陸の口に手を当てるが、周りの人間は征市達が座っている席を見ていた。昼食には遅く、夕食には早い時間帯だったので、人が少なかったのが唯一の幸いかもしれない。
「馬鹿。変な事言ってんじゃねぇよ」
 周囲の興味や関心の対象が自分達の料理や一緒に食事をしている相手に移ったところで、征市は陸に注意する。一真や湊、そして由麻も呆れた目で見ていた。
「あ、食べ物の事ね。カレーが好きだな。でも、ここにはないみたいだから何にしようかな~」
 それから数分が過ぎて、全員が注文した料理が運ばれてくる。それぞれが料理に口をつけ始めた頃、一真が口を開いた。
「笹本由麻。お前は、あの落ち武者の正体を詳しく知っているみたいだが、それについて話してくれるか?」
「判ったわ」
 目の前に来たパフェの三分の一を食べ終えた由麻が答える。征市と湊は話し始める由麻に注目していたが、陸は目の前のチキンステーキを食べる事に集中していた。
「T高校とその周辺では、奇妙な怪現象がよく起きているの。あの落ち武者達の行列もその一つよ。あれらの怪現象は“学校の怖いうわさ”として生徒達の間で語り継がれているわ」
「T高校は、怪談が多い事で有名だって聞いたぜ」
 征市は陸が言っていた事を思い出す。
「その通りよ。T高校は百物語を作っても余るくらい多くの怪談がある。それもただのうわさ話じゃなくて実際に怪現象が起きて生徒達が被害に遭っているの。少なくとも十年以上あの高校の周辺で怪現象が起き続けているわ」
「じゃあ、何で今まで魔法警察がT高校を調べなかったんですか?」
 湊が疑問に思った事を口に出す。怪現象が起きて被害に遭った生徒がいるのならば、高校が対応しないわけがない。高校の関係者が魔法警察の存在を知らなくても、その動きを見て魔法警察が独自に動き出す事は充分あり得る。だが、由麻は首を横に振ると
「今まで誰も気づかなかったからよ。怪現象の被害に遭った生徒は運命と人々の記憶から存在していた事を消されてしまうから」
と、悲しそうに呟く。
「どういう事だ?」
 征市が聞くと、由麻は再び説明を始めた。
「うわさを調べると、その怪現象が調べた生徒を食らいつくすの。肉体は彼らの餌として。魂は分解して魔力として。その結果、人々はその生徒がいたという事実を忘れ、うわさ話が残る。今回の落ち武者だって、六年前に調べた生徒が被害に遭って怖いうわさだけが残ったわ。放課後、一人で歩いていると落ち武者の行列に出会って斬り殺される事があるって。それまではそんなうわさはなかったのにね」
「じゃあ、俺達が落ち武者に勝てなかったら……」
「うわさを聞いて落ち武者を調べに来た若者が落ち武者に斬り殺された。そんな風に新しいうわさ話ができて、あたし達の存在が消えていたかもしれないわ」
 征市は聞きながら背筋が寒くなるのを感じていた。それは店全体を冷やす冷房のせいではない。
 今まで征市が相手をしたプライズは、人々に危害を加える事はあっても、その人間の存在を消すような事まではしなかった。だが、T高校の怪現象は被害に遭った人々の命だけでなく、生きていた証まで奪ってしまう。その事実に恐怖したのだ。
「最近になって怪現象が人々を消してうわさ話にしている事がようやく判ったの。数年前、T高校に魔力を持った生徒が入学してそれで疑問に持ったのね。その生徒は在学中、うわさ話には近づかなかったんだけれど、彼の友達がうわさ話に近づいて奴らに消されてしまったの。彼は次に自分が消されるんじゃないかって怯えながら生活していたそうよ。卒業して自分に脅威が迫ってこないのを知ってそれから魔法警察に相談したわ」
「それを聞いて魔法警察が動き出し、MX班に潜入捜査を命じたというわけか」
 話を聞いて一真が頷く。由麻はパフェについてきたアイスをスプーンですくって口に入れると頷いた。
「で、俺達はT高校で何をすればいいんだ?潜入捜査をする目的があるんだろ?」
「もちろんよ」
 征市の問いに答えると、由麻はパフェの最後の一口を口に入れた。
「そうそう。女子高生のナンパとかね」
「お前は黙ってろ」
 征市が陸に注意したのを見て、由麻は話し始める。
「あたしは今までいくつかの怪現象を見てきたけれど、その中にはデュエル・マスターズカードを使える悪霊がいた。ただの悪霊がカードを手に入れる手段はない。つまり……」
「悪霊にカードを渡して指揮している奴を見つけて倒すって事か」
「ええ」
 征市達は自分達のすべき事を理解した。デュエル・マスターズカードでなければ倒せない者達。彼らの毒牙から人々を守るのは征市達、トライアンフの仕事だ。
「どんな風に潜入するのか魔法警察からあんた達のリーダーにメールが行くと思う。それを見て準備をしてね」
 そう言うと、由麻は席を立って去っていった。
「女の子と一緒に高校で潜入捜査か。楽しみですね、セーイチさん!」
「浮かれてんじゃねぇよ。これは、今までの仕事とは違うぞ」
 征市は今まで以上のプレッシャーを感じていた。この仕事は、今までとは比べ物にならないほど危険な任務だ。やるべき事がはっきりと判っているとはいえ、敵の正体に関しては謎の部分が多い。しかし……。
「俺は事務所で待機する事になるだろう。だが、T高校の怪現象について魔法図書館に行って調べるつもりだ」
 トライアンフの元リーダーとして活躍していた一真。今はサポートとして力を発揮している。今回も征市達をアシストしてくれるだろう。
「どんな理由があっても、人々の存在を消すなんて事が許されるはずがないんです。僕は絶対に許しません」
 予知夢を見る事ができる湊。他のメンバー以上に鋭敏な感覚を持っている彼だからこそ見えるものもあるはずだ。
「どんな敵が相手でも僕達を相手にした時点でおしまいだよね。ふざけた奴に悪い事したらどうなるか教えてあげようか!」
 常に飄々(ひょうひょう)としている陸。ふざけているようにも見えるが、彼も多くの実戦で鍛えられてきたデュエリストだ。
 征市は思う。ここにいる仲間と菜央、そして由麻の力を借りればこの事件は解決するはずだ、と。
「やってやるか。この事件、俺達の手で終わりにしてやろうぜ!」
 征市の熱い言葉と共に、彼ら全員の心が一つになった。

 N空港。
 ここでアメリカ行きの飛行機を待っている一人の老人と、その隣に黒いローブを羽織った少女がいた。スーツ姿の老人の名は、相羽総一郎(あいばそういちろう)。征市の祖父でトライアンフを作った人物だ。ベンチで座っていた総一郎に一人の男が近づく。その男は
「笹本由麻がトライアンフのメンバーと接触しました」
と、報告する。
「御苦労。あとは、彼らがやってくれるだろう」
 報告を終えると、男はどこかに去ってしまう。総一郎は目を閉じると、孫の顔を思い浮かべた。
「征市。これは試練だ。自分の過去に、そして、お前の隣人を奪った相手に勝ってみせろ」
 総一郎は立ち上がると、ローブの少女を連れて歩き出す。ここでの仕事は終わったのだ。長居をする必要はない。
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