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『コードD』File.extra めぐる学校の怪談 その2

『コードD』

 File.extra めぐる学校の怪談


 2 悪霊の教室

 話は数日前にさかのぼる。
 総一郎がローブの少女を連れて夜のQ区を散歩している時の事だった。二人がT高校の前を通りかかった時、総一郎は光る玉のようなものを見つけた。それは宙に浮いていて、泣いているような声で呻いていた。ローブの少女はそれを見て、総一郎の上着を引っ張る。
「判ったよ」
 優しい顔をして総一郎はそう言うと、光る玉に近づいていった。
「君はどうして泣いているんだい?」
 総一郎が静かに問いかけても、泣いているような声は止まない。しかし、総一郎はその声の奥に伝わる意思を理解できた。
「なるほど。それは災難だったね」
 泣き声がさらに激しくなる。総一郎は、光る玉に軽く触れると
「それで、君はどうしたい?私が魔力を与えれば、君は普通の人間と同じようにしばらく生活する事ができる。君が希望すれば成仏させる事もできる。幽霊と出会うのは久し振りだが、成仏のさせ方くらい覚えているよ」
と、語った。光る玉は一瞬、泣きやむとその後、泣くような声で静かに意思を伝えた。その答えに総一郎は眉をひそめる。
「それでいいのかい?その方法ならばしばらくは生きる事ができるが、それでも二週間程度の時間しかない。普通の少女として生きる方法ならば、三か月は生きられる」
 総一郎が確認のために問うが、光る玉は体を横にゆすって総一郎に意思を伝える。「自分の言った通りにしろ」と。
「判った。君に魔力を与えよう」
 そう言うと総一郎は光る玉から手を離す。そして、光る玉は変化し、発行する人間のような姿になっていった。
「私は明日までこの辺りにいるつもりだ。何かあったら、相談しに来るといい」
 総一郎は自分が泊まっていたホテルの連絡先を書いた紙を渡すと、去っていった。ローブの少女もついていく。数歩、歩いたところで総一郎は一度立ち止まると
「征市をよろしく頼む」
と、言ってまた歩いていった。

「へぇ、潜入捜査なんかするんだ。すごいねっ!」
 次の日の昼。征市の家のリビングで一人の少女が自分で買ってきたケーキを食べていた。征市と食べるために二つ買ってきたはずなのだが、気が付くと少女は一人で二つのケーキを食べていた。それについて征市は何も言わない。言う事が無駄だと思っているからだ。
 髪を二つ結びにしたこの少女の名は一ノ瀬彩弓(いちのせあゆみ)。近くの高校の寮に住んでいる高校二年生の少女だ。雰囲気や外見が幼く見えるため、中学生に間違えられる事も多い。征市とはY市に住み始めた頃、つまり、去年の春からの付き合いである。
 彩弓には、魔力がない。しかし、プライズ絡みの事件に巻き込まれる事が多いため、征市達トライアンフとも面識がある。彼らが魔法を使って戦う事を知っている数少ない一般人だ。
「ああ、T高校に潜入するんだけどな」
 そう言って征市は空になったケーキの皿をじっと見る。その後、彩弓を見ると彼女は目を逸らしながら「ま、また買ってきてあげるから……」と言った。
「それよりもT高校だよ!T高校!征市君、ここがどんなにすごいところなのか知ってる?」
 そう言うと彩弓は、手を顔の位置まで上げ力なくぶら下げる。幽霊の真似をしているようだ。
「すごいって甲子園に行ったとか、何か有名な事でもあるのか?」
「怖い話がいっぱいあるんだよっ!有名なんだから!」
 幽霊のような手つきのまま、明るい声で彩弓は言う。その直後、彩弓は声のトーンを落として
「それでね。T高校の人に聞いたとっておきの怖い話があるんだ」
と、言った。彩弓の話を要約するとこうなる。
 十数年前、一人の女生徒がいた。正義感が強いその女生徒は、ある時、旧校舎に奇妙な二人の男が住みついているという話を聞いてその二人を追い出すために話をしに行く事にした。旧校舎は外からの光が入りにくいせいか昼間でも暗く、木の床がきしんで自分の後ろを誰かがつけてきているような錯覚を感じさせた。一度、戻ろうかと考えた女生徒だったが、勇気を奮い起こして進んでいった。二人の男がいるのが最上階だと聞いていた女生徒は、怪談を上って目的地の最上階へ急いだ。最上階についた女生徒は話し声が聞こえる教室を見つけ、その教室のドアを開けた。
 女生徒はドアを開けた瞬間、意識が飛んで気がついたら、自分の部屋のベッドで寝ていた。いつの間にか家に帰って眠っていたらしい。そこか釈然としないものを感じながら、その女生徒が新聞を見ると新聞の日付は昨日、つまり、旧校舎に向かった日になっていた。それからその女生徒は、旧校舎に行った同じ一日を永久に繰り返しているという。そして、周りの人間はその女生徒がいた事を忘れてしまったのだ。
「ね、怖いでしょ?こんな事になったら困るから、征市君は旧校舎に行っちゃ駄目だよっ!」
 彩弓は話し終えると征市の顔をちらりと見た。征市は欠伸をしていた。
「もうっ!何で欠伸なんかするの!?怖い話だったのに」
「悪い。でも、その流れだと女生徒はずっと同じ一日を繰り返しているわけだろ?でも、それがどうして他の奴に判るんだ?」
「あ……あれ?そう言えば何でだろう?」
「よくある嘘の話だよ。怖がる必要なんかないって」
「うん、そうだね。でも、征市君は、旧校舎に行っちゃ駄目だよ。立ち入り禁止になっているみたいだからね!」
「判ってるよ。つーか、旧校舎があるのか。珍しいな」
「うん、五十年くらい前からあるんだって。床が抜けると危ないから立ち入り禁止ってなってるんだけれど、それでも肝試しとかで勝手に入る人もいるんだよっ!」
「そういう事やる奴はいるもんだな。結構詳しいじゃねぇか」
 征市に言われて彩弓は
「えへへー、実は、夏休みになったら旧校舎で肝試ししようって誘われてるんだ!」
と、言った。
「お前なぁ、人には旧校舎入るなって言っておいて自分は入るのかよ。説得力がないぜ」
 征市は話をしながら、彩弓が言っていたうわさについて考えていた。由麻の話によれば、怪現象の被害に遭った者はうわさに加えられてしまうはずだ。旧校舎を調べようとして何かを見てしまった女生徒がいたのかもしれない。
「なあ、彩弓。その女生徒って何を見たんだ?」
 征市が聞くと、彩弓は目を丸くしていた。
「あれ?気になるの?征市君がこういう事、気にするのって珍しいねっ!」
「まあ、何かを見たとか言われると何を見たのか気になるだろ?想像力をかきたてられるというか。だから、気になるんだよ」
 そう言うと、彩弓は腕を組んで言った。
「わたしも気になったんだけれどね。うわさを教えてくれた友達もそれについては詳しく教えてくれなかったんだよね」
「じゃ、判らないのか」
 征市は残念そうな顔をした。それを見て彩弓は
「そんな顔しないでよっ!あ、そうだ!旧校舎に行けば判るかも!」
と、言った。
「お前、俺に同じ一日の繰り返しの中で永遠に彷徨えというのか」
「違う違う!そういう意味じゃないよっ!」
 その後もしばらく二人はT高校の話をしていた。T高校は旧校舎だけでなく、新校舎にも奇妙な話が多い学校らしい。征市はその話を聞きながら「俺、潜入捜査するの不安になってきた」とぼやいた。
「じゃあね、征市君!」
 それから三十分ほど雑談をした後、彩弓は帰っていった。征市も玄関まで見送る。
「さてと、あいつが肝試しに行く前までにはケリをつけないといけないな」
 いざという時は彩弓に危険性を知らせて旧校舎に近づけない方法もある。だが、彩弓の楽しみを奪うような事はしたくなかった。
「彩弓の肝試しがあってもなくても同じ事か。早いに越した事はない」
 そう言うと、征市は家の中へ戻った。潜入捜査に必要なものの確認をする作業が残っているのだ。それから征市は夜まで休まずに潜入捜査の準備をしていた。

「相羽征市です。どうぞよろしく」
 潜入捜査の日がやってきた。征市は急いで揃えた安スーツに身を包んで教卓に立っている。七月という珍しい時期にやってきた教育実習生に、生徒達は興味を覚えていた。その中でも一人だけ際立って目を輝かせている男子生徒がいる。陸だ。偶然なのか、それとも由麻や魔法警察が意図的に行った事なのか征市には判らなかったが、征市が担当するクラスは陸のクラスだった。教室に入ってその事実を知った瞬間、征市は苦い笑顔を陸に向けた。
(頼むから変な事をするなよ)
 征市は天に祈るような気持ちで陸に目で訴えかける。そして、
「さて、それじゃ最初の授業の十五分間は質問タイムにしようか。何か質問がある人」
と、生徒達に声をかける。
「はいっ!」
 早速、征市の悪い予感が的中した。最初に元気よく手を挙げたのは陸だった。
「はい、じゃあそこの……遠山君」
「はい!先生ってちっちゃい子にモテる感じがするんですけれど、どうですか!」
 陸の質問に、周りの生徒達がざわめく。征市は陸がそういう質問をするのを予想していたので慌ててはいない。しかし、隣にいる教師の視線が痛い。それは変態や犯罪者を見る目つきだった。
「俺は手品が得意だからね。手品は子供から大人まで楽しめるから、小さい子も楽しんでくれたのかもしれない。じゃあ、ちょっとやってみようか」
 征市はスーツのポケットから事前に用意していた小さな直方体の箱を取り出す。蓋を取り外すと中にはサイコロが二つ入っていた。
「今からこれを越谷(こしがや)先生に渡します。それで、越谷先生が選んだサイコロの目を透視して当ててみせよう」
 そう言うと、征市は越谷と呼ばれた隣にいる教師に箱とサイコロを渡して背を向ける。サイコロを箱に入れた後、越谷が征市を呼んでサイコロが入った箱を渡した。
「どうも。みんなも判ると思うけれど、サイコロは箱に入っているから見えません。でも、俺なら透視できる」
 征市は、サイコロの箱を生徒全員が見えるように上にあげて見せた後、数回降って自分の目の位置に持ってきた。そして、左手で頭を押さえると
「五と二だな」
と言った。そして、箱の蓋を開けると一番前に座っている生徒に箱を見せた。
「どう?当たってるだろ?」
 一番前の生徒は驚いて三回首を縦に振った。
「とまあ、こんな感じで簡単な手品ができるんだ。他に質問はあるかな?……遠山君以外で」
 征市は、もう一度誰よりも早く手を挙げた陸を横目で見ながら生徒達に聞くのだった。

「陸の大バカ野郎。あんなとこであんな質問するんじゃねぇよ。空気読め」
 授業を終えた征市は、職員室を抜けだして廊下を歩いていた。授業が始まっているせいか、生徒の姿はない。
 征市が誰もいない廊下を歩いているのには理由がある。廊下にも怖いうわさがあるのだ。
 かつてT高校には厳格な教師がいた。規則を何よりも大切にする人間で罰則も厳しい。ある日、授業をサボっている生徒と廊下で出くわしたその教師は、その生徒を追いかけた。しかし、濡れていた床のせいで足を滑らせて転倒してしまう。打ちどころが悪かったせいか、その教師は死んでしまったのだ。
 それから数週間後、廊下でサボっている生徒を見かけるとその教師の霊が近づいてこう言うのだ。
「授業をサボるな!そんな規則も守れない奴は死刑だ!授業をサボった生徒のせいで私は死んでしまったのだ!だからお前は死刑だ!」
 そう言ってサボっている生徒を追いかける。その足は生きていた頃とは比べ物にならないくらい速く、陸上部の生徒でも追い抜かれてしまうほどだ。追いつかれた生徒は鞭で体中を叩かれて死んでしまうと言われている。
「ひでぇ体罰教師だ。今の礼儀知らずなガキには厳しい教師や体罰をする教師がいてもいいとは思うけれど、死刑にする奴はいちゃいけないよな」
 征市は、その噂を聞いた時の事を思い出しながら歩く。すると、後ろから自分のものとは違う足音がするのに気がついた。征市が立ち止まっても、その足音は止まる事はなく、それどころかより速くなっている。
 征市は振り返ると、デュエル・マスターズカードを一枚呼び出して目の前に出す。すると、そのカードに鞭が当たって攻撃を防いだ。カードを見て、古いデザインのスーツを着た目の前の男は驚いた顔で固まっていた。今まで自分の鞭を受け止めたり避けたりする人間がいなかったのか、征市を一撃で仕留められなかった事に呆然としている。
 その隙に、征市は目の前の男を観察していた。絵に描いたサラリーマンのようにきっちりとした七三分けの髪にレンズの厚い眼鏡といった真面目だけが特徴のような教師だった。征市はこの学校にこんな教師はいなかった事を思い出すと、スーツの胸ポケットから赤いポケットチーフを取り出し、左手にかける。
「お、お前は何者だ!何者であろうと、授業中に勝手に廊下を歩いてサボっている者は死刑だ!」
 教師の鞭が光を放ってデッキケースに変化する。征市が右手の指を鳴らすと、左手が赤く発光する。ポケットチーフを取ると、その手には金属製のデッキケースが乗っていた。
「死刑にするつもりか?俺は強いぜ?」
 征市は挑発的な目で教師を睨むと五枚カードを投げた。それらは、ドアと同じくらいの大きさの透けた赤色の壁――シールドへ変化する。教師も五枚のシールドを設置すると、五枚の手札を引いて征市を睨みつけた。
「教師に反抗する奴は悪だ!正義が死刑にしてやる!」
「正義はそんなに死刑を連呼しねぇよ。行くぜっ!」
 征市は《青銅の鎧》を召喚してマナを増やしていく。一方、教師は《電脳封魔マクスヴァル》を召喚していた。《マクスヴァル》は闇文明のクリーチャーのコストを下げる能力を持っているのだ。
「《マクスヴァル》はブロッカーか。こいつらじゃ、このパワーには勝てない」
 そう言うと、征市はカードを《トリプル・ブレイン》を使って手札を増やしていく。《マクスヴァル》のパワーは2000であり、征市が召喚した《青銅の鎧》のパワーは1000だ。破壊されるために攻撃する意味はない。
「ドローのカードか。ならば、こちらも召喚させてもらおう!」
 教師の出したカードから現れたのは、蒸気機関車に人間の手足、そして頭がついたような姿の人型のクリーチャーだった。このクリーチャーは《封魔妖スーパー・クズトレイン》だ。
「私の《スーパー・クズトレイン》はクリーチャーが破壊された時に手札を引く事ができる。さらに5000のパワー!」
「なるほど。《マクスヴァル》の効果で4ターン目に5コストの闇クリーチャーを召喚したってわけか」
 征市はそう呟くと教師のマナゾーンを見た。闇文明主体のデッキらしく《デーモン・ハンド》のようなクリーチャー除去のためのカードが置かれている。《スーパー・クズトレイン》の能力でドローする方法も豊富だという事だ。
「だけど、5000じゃ貧弱だな!俺の切り札で一気に決める!」
 征市はマナの六枚をタップし、一枚のカードを場に投げる。炎と共現れたのは《ボルシャック・大和・ドラゴン》だ。リノリウムの床を蹴って跳躍すると、腰につけていた刀を引き抜き、教師のシールドを二枚切り裂いた。
「さすがに《マクスヴァル》でブロックはしないか」
「当たり前だ」
 そう言うと、教師は苦い顔をしてカードを引いた。ブロックをすればシールドは守れるが、場にいる事で効果を発揮するクリーチャーを失う事は、それ以上の損になると感じたのだ。しかし、《ボルシャック・大和・ドラゴン》を除去するのは簡単ではない。いつかは損をするのが判っていても《マクスヴァル》でブロックしなければならない時が来る。
「ならば、他のブロッカーを出すまでだ。出でよ!《黒神龍ドボルザーク》!」
 《スーパー・クズトレイン》の隣に、敵の返り血を浴びたように真っ赤になった龍が現れた。その龍《ドボルザーク》が吠えると、教師の山札がバラバラになって飛んでいく。教師が手を伸ばすと、その中から一枚の黒いカードが彼の手に飛んでいった。
「《ドボルザーク》はフェニックスかゴッドを手札に加えるブロッカーだ。今、私は切り札のフェニックスを手札に加えたぞ!」
「だったら、その切り札が出る前にシールドを全部叩き割ってやるだけだ!」
 征市はそう言うとカードを一枚引いた。

「《ガトリング・フォース・ドラゴン》召喚!」
 征市の場に大量の重火器で武装したドラゴンが現れる。《ガトリング・フォース・ドラゴン》は、自分のドラゴンが攻撃した時に相手のブロッカーを破壊する力を持ったドラゴンだ。しかし、今の征市のドラゴンは《ガトリング・フォース・ドラゴン》一体のみであり、他のクリーチャーは《青銅の鎧》だけだ。
 一方、教師はブロッカーを並べていた。《ブラッディ・ドラグーン》が二体と《マクスヴァル》が二体だ。シールドは一枚残っている。
「それが切り札か。本当の切り札というものを教えてやる!」
 教師はずっと握っていた切り札を裏向きのまま征市に見せた。その目は勝利を確信していて、征市はそのカードが持つ黒いオーラを感じ、全身から血の気が引くのを感じていた。
「出でよ!《超新星プルート・デスブリンガー》!!」
 教師が投げた一枚のカードが場にあった《ブラッディ・ドラグーン》二体と《マクスヴァル》を巻き込んだ竜巻を起こす。カードに戻った三枚のクリーチャーは竜巻の中央にあった黒いカードと融合すると真っ黒な光を出して周囲を包んだ。
 その瞬間、竜巻が消えて、征市と教師の目の前に巨大な生命体が君臨していた。未来都市の宮殿のような形をした上半身を持ち、体に惑星を模したような三つの球体を持ったフェニックス《超新星プルート・デスブリンガー》が現れたのだ。
 その腕がシールドに伸びる時、球体の一つが音を立てて砕けた。すると、《ガトリング・フォース・ドラゴン》が喉を押さえて苦しみ始め、その場に音を立てて倒れる。すると、黒い粒子になってその姿が消えてしまった。
「メテオバーンだ。《プルート・デスブリンガー》は進化元のクリーチャーを墓地に送る事で邪魔なクリーチャーを破壊する事ができる。さらに……」
 《プルート・デスブリンガー》が腕を振るっただけで征市の三枚のシールドが全て砕けていった。これで征市を守るカードは一枚も存在しなくなった。
「私に逆らう者は死刑だ!お前は生意気だから、特別に最も苦しい方法で死刑にしてやる!」
「もう勝った気でいるのか?」
「何っ!?」
 シールドを全て失ったという最大のピンチで征市は不敵な笑みを浮かべていた。さらに、自分にこの状況を打破する切り札がある事を見せつけるように、手札を一枚右手で持って裏向きにしたまま軽く振っている。
「俺はこの一枚があれば勝てる」
「嘘を言うな!《ガトリング・フォース・ドラゴン》はスピードアタッカーではないから攻撃できない!《ボルシャック・大和・ドラゴン》はスピードアタッカーだが、《マクスヴァル》でブロックできる!」
 教師は数秒前まで感じていた自分が勝つという自信を失ってうろたえていた。悪霊になっても人を見る目だけは失っていなかったらしく、征市の裏にある絶対的な自信に気づいてしまったのだ。
「嘘じゃない。見せてやるぜ。『ウソのようなホントウ』って奴をな!」
 征市が投げたカードはマナゾーンから二枚のカードを取り込むとそれらのカードと重なり、星が誕生するような大爆発を起こす。それを見て教師の《プルート・デスブリンガー》も思わず、腕で顔を覆った。
「よく見ろ。これが俺の切り札だ」
 そこに現れたのは要塞に真紅の羽根と鳥の頭部が融合したようなフェニックス《超神星アレス・ヴァーミンガム》だ。
「進化クリーチャーだから召喚酔いはない。さらに……」
 《アレス・ヴァーミンガム》の体から赤い球体が飛んでいくと《マクスヴァル》の前で弾けた。そこから赤い光があふれ、《マクスヴァル》は影だけを残して消えてしまう。
「私の《マクスヴァル》に何をした!」
 教師は慌て、口からつばを飛ばしながら征市に問う。征市は前髪をかきあげると
「《アレス・ヴァーミンガム》は《プルート・デスブリンガー》と同じようにメテオバーンを持つフェニックスだ。相手の3コスト以下のブロッカーを全て破壊する力を持っている!」
と、説明した。それと同時に、《アレス・ヴァーミンガム》の二門の大砲が教師の最後のシールドを打ち抜く。それはシールド・トリガーではなかった。
「これで俺の勝ちだ!《青銅の鎧》で攻撃!」
 《青銅の鎧》は愛用の槍をしっかり構えると教師に向かって走っていった。
「嫌だ。私はルールを守らない奴を死刑にしなければならないのだ!私こそが正義なのだ!」
 そう言って目を見開いて叫ぶ教師の腹に槍が突き刺さる。教師の悪霊は、学校全体に響き渡るような叫び声と共に黒い煙となって消えていった。
「現代文の教育実習生としてここに来ている俺からあんたに一言だけ言葉を贈るぜ。『過ぎたるは及ばざるがごとし』だ。あんたのやった事は、理由はどうであってもやりすぎだって事だ」
 そう言うと、征市はカードをデッキケースにしまい、その場を去った。そして、手の甲で首の下の汗をぬぐいながら
「こんなおかしい悪霊ばかりいるのかよ。これから大変だな」
と、愚痴を言うように呟いた。

 放課後になった。陸はクラスメートと別れた後、後ろ髪を引かれる思いで音楽室に向かって歩いていた。明るい性格が幸いしたのか転向初日ですぐにクラスメートと打ち解けた陸は、できる事ならクラスの女子生徒ともっと話をしたかったのだが、これが仕事なのだから仕方がない。
「この潜入捜査が終わったら、個人的なお付き合いを申し込んでみようかな」
 そんな事を言いながら、ふと菜央の姿が頭をよぎった。そして「浮気じゃない浮気じゃない。まだ僕とリーダーは仕事上の関係だからこれは浮気じゃないよ」と言いながら頭を振った。
 音楽室についた陸は迷わず扉を開けた。カーペットがしかれ、音響をよくするための穴が開いた壁が他の教室との違いを感じさせる部屋だ。特徴的な壁に飾ってあった肖像画と目が合う。そこには、どこの学校の音楽室にもあるように著名な音楽家の肖像画が横に並んでいた。
「僕、ベートーヴェンって弁当の名前だと思ってた頃があるんだよね。まあ、そんな事はどうでもいいけれど」
と、言って陸は首に銀色のドクロのカメオがついたループタイをかけると、そのドクロの目を光らせた。陸の右手に黒い光が集まり、それが金属製のデッキケースになる。
「僕がここに来た目的は一つ。モーツァルト!お前を倒すためだ!」
 陸はそう言ってデッキケースを突きつける。モーツァルトではなく、バッハに。
「あれ?確か、音楽室のモーツァルトがどうのこうのって」
「ハハハハハ!」
 突如、肖像画のモーツァルトが大声を上げて笑いだし、その肖像画が浮いた。額縁の中で陸を指しながら男とは思えない高い声で笑っている。
「セーイチさんとこの二号で見慣れているとは言っても、これは変だと思うよ」
 陸は、征市の家にある肖像画のプライズ、二号を思い出した。あれも意志を持った肖像画だが、目の前にいるモーツァルトの肖像画のように悪質な存在ではない。
「おかしいよ、こいつ!私はこっち!それはバッハだ!ハハハハハ!」
「そんなに笑うなよ!間違いは誰にでもあるんだ!」
 顔を真赤にして怒りながら、陸はモーツァルトの話を思い出していた。音楽室に女子生徒だけで入ると肖像画からモーツァルトの手が出てきて女子生徒を絵の世界へ連れて行ってしまうのだ。
「え?そうなの?私は間違えないよ。ハハハハハ!」
「お前の存在自体が間違いだって事。気づかせてやるよ」
 陸のデッキケースからカードが飛び出し、五枚のシールド、五枚の手札の準備をする。それを見てモーツァルトも陸に興味を示したのか、絵の額縁の中からデッキを取り出すとシールドを展開した。
「あれ?勝つつもり?やめとけって。私には勝てないよ。ハハハハハ!」
「高笑いがうるさいね。言っておくけれど、僕は絶対負けないよ。女子高生の胸とか生足とかほっぺとか、この世の桃源郷とも言えるナイスなさわり心地はお前には絶対渡さない!今、ここでぶっ飛ばしてやる!」
 陸はバトルゾーンに一枚のカードを投げる。そのカードが緑色の優しい光を発し、カーペットの上から芽が出る。そして、春の風のようなさわやかな風が吹き、陸の山札の上のカードがマナに置かれた。
「《フェアリー・ライフ》でマナを増やした。この調子で叩き潰すよ!」
「ハハハハハ!」
 陸がマナを増やしたのを見ても、モーツァルトは笑い続けている。
「遅い遅い!それ!」
 モーツァルトは子供の姿をしたマスコットのようなクリーチャー《エメラル》を召喚した。《エメラル》が目の前にあるパネルに操作すると、モーツァルトの手札が一枚手元から離れシールドへ飛んでいく。カードの裏面に0と1の数字の羅列が現れ、それはシールドへと変化していった。その後、一枚のシールドがカードの姿に戻るとモーツァルトの手元へ飛んでいく。
「シールドを仕込んだってわけか」
「ハハハハハ!そうさ、怖いだろ!」
「全然」
 陸が表情を崩さずにそう言うと、モーツァルトは笑うのをやめて陸を見た。その目が怒りの感情を持っているのを見ながら、陸は挑発するかのように一枚のカードを使う。
「まずは、場の邪魔なクリーチャーの掃除からだ。《ローズ・キャッスル》!」
 陸のカードがシールドと融合する事で、そのシールドに黒いバラのような模様が現れる。すると、モーツァルトの場にバラのツタが現れた。そのツタは《エメラル》を締め上げ破壊してしまった。
「ふざけるなよ!僕の《エメラル》に何をするんだ!」
「これは、僕がひざまくらをしてもらう予定だった女子生徒の生足の分だ」
「は……?」
 陸の意味不明なセリフに、モーツァルトは言葉も怒りも忘れて聞き返した。陸はその言葉の意味について説明する事もなくモーツァルトを指し
「引けよ。あんたの番だ」
と、挑発する。それによって怒りが再燃したのか、モーツァルトはカードを引くと陸を睨みつけた。
「引いちゃうよ。大量にね!」
 モーツァルトは、深海の植物のようなクリーチャー《マリン・フラワー》を召喚する。そして、その《マリン・フラワー》に一枚のカードが突き刺さり、そのカードから出たクリスタルから光が放出され《マリン・フラワー》の姿が巨大な波のような姿へ変わっていく。
「《アストラル・リーフ》!ハハハハハ!」
 《アストラル・リーフ》の体の波が床を揺らし、モーツァルトの山札の上のカードが振動で飛ぶ。飛んでいった三枚のカードをモーツァルトは手札に加えた。
「ドローつきの進化クリーチャーか」
「そうさ!そして、《ローズ・キャッスル》つきのシールドをブレイク!」
 《アストラル・リーフ》の波が《ローズ・キャッスル》で要塞化したシールドをブレイクする。陸は苦い顔でブレイクされたシールドを手札に戻した。
「だったら、こっちはパワーで勝負だ!《甲魔戦攻ギリメギス》召喚!」
 陸の場に巨大なキャタピラで移動するデーモン・コマンド《甲魔戦攻ギリメギス》が現れる。軽いが、9000のパワーを持つW・ブレイカーだ。《アストラル・リーフ》のパワーではどうやっても太刀打ちできないクリーチャーの出現にモーツァルトは両手で頬を押さえて
「キャー!」
と、叫んでいる。
「何それ?ムンクの『叫び』の真似?そんなに怖いの?」
 高パワーの《ギリメギス》を召喚した事で心の余裕が生まれたのか、軽い口調で陸が聞く。だが、次のモーツァルトの言葉と行動で陸の余裕は一瞬にして崩れ去る。
「ハハハハハ!違うよ!せっかく出した切り札をすぐに消される君の事を考えたら可哀想に思ったのさ。そらっ!《スパイラル・ゲート》!」
 モーツァルトが掲げたカードから大量の水が出てきて《ギリメギス》の体を飲み込んでいく。水に飲み込まれた《ギリメギス》はカードの姿に戻ると、陸の手札に返っていった。
「そんな……。出したばかりの《ギリメギス》がいきなり戻るなんて」
 陸はデュエリストとして多くの場数を踏んできたが、このケースは初めてだったらしく驚いた顔で手札に戻った《ギリメギス》を見ていた。
「ハハハハハ!さらにこいつだ!」
 モーツァルトは《アストラル・リーフ》の横に両手で巨大なハサミを持った和風の鎧を着たトカゲのようなクリーチャーを召喚する。《奇襲兵ブルレイザー》。自分のクリーチャーが相手クリーチャーと同じかそれ以上の数でないと攻撃できないが、2コストで3000のパワーを持つパワフルなクリーチャーだ。
「それっ!」
 ラッシュをかけるように、《アストラル・リーフ》で攻撃するモーツァルト。それによってブレイクされたシールドから緑色の光が出た。光を発しながら手元に戻ってきたカードを陸は手の甲で弾く。それによってカードは能力を発揮した。シールド・トリガーだ。
「よし、来た!《フェアリー・ライフ》!」
 これによって陸のマナがさらに増える。モーツァルトはそれを見て笑っていた。
「ハハハハハ!僕のクリーチャーがやられるのかと思ったら、《フェアリー・ライフ》か!ハハハハハ!」
「笑ってないでよく見てなよ、召喚!」
 陸がカードを投げ、そのカードがクリーチャーの姿に変わる瞬間、《アストラル・リーフ》の全身の水が、黒く濁っていった。そして、泡を立てながら蒸発していく。
「《アストラル・リーフ》!どうしたんだ!」
「僕のクリーチャーの力さ」
 陸のシールドの前に黒いカエルのようなクリーチャーが座っていた。《威牙の幻ハンゾウ》と言って、場に出た時に相手クリーチャーのパワーを6000減らす事ができる。
「《フェアリー・ライフ》がなかったら、《ハンゾウ》はこのターンに出ていなかった。どう?マナ増やすのっていいでしょ?」
 陸の余裕と《ハンゾウ》の能力に驚き、モーツァルトは悔しそうな顔で陸を見ていた。
「《ブルレイザー》だ!こっちにはまだ《ブルレイザー》がいるし、他のクリーチャーだっているんだ!」
 陸は、モーツァルトの言葉に人を馬鹿にしたような高い笑い声がなくなっている事に気づいた。余裕がなくなっているのだ。
「よし、この調子で一気に行くぞ!」
 陸はそう言って自分の手札を確認し、モーツァルトを倒す方法を考えた。

「食らえ!《冥府の覇者ガジラビュート》召喚!」
 陸が召喚した魔神《ガジラビュート》が持っていた剣をモーツァルトのシールドに投げつける。剣が刺さる事でモーツァルトの最後のシールドが音を立てて砕けていった。《エメラル》によってシールド・トリガーを仕込まれていたシールドだったが、《ガジラビュート》の効果で墓地に行ったため、シールド・トリガーは出す事ができない。
 これで、モーツァルトのシールドは0枚になった。彼を守るのは二体の《マリン・フラワー》だけだ。
「ノリノリでやっちゃうよ!ハハハハハ!」
 しかし、モーツァルトは余裕を取り戻したように高い声で笑うと一体のクリーチャーを召喚した。
 腕に刃をつけたトカゲのようなクリーチャー《襲撃者エグゼドライブ》だ。ターンの終わりに手札に戻ってしまうが、軽いスピードアタッカーとして活躍する事ができる。
 続けてモーツァルトは一体のクリーチャーを召喚する。
 腹部にデフォルメされた赤ん坊のような人型の存在がいる龍《電磁旋竜アカシック・ファースト》だ。場にいる自分のドラゴノイドとサイバー・ウイルスの数だけ召喚コストを下げるシンパシー能力を持っている。《マリン・フラワー》二体と《エグゼドライブ》がいるため、3コスト下げて4コストで召喚に成功したのだ。
「僕の切り札、《アカシック・ファースト》!タップされていないクリーチャーも殴れるし、破壊されても手札に戻るんだ!ハハハハハ!」
「くっ、破壊されても手札に戻るのはつらい」
 陸のデッキは相手クリーチャーを破壊する事に長けたデッキだ。《アカシック・ファースト》の特殊能力は、その長所を打ち消して対抗する力を持っているのだ。
「さらに、援軍行くよ!それっ!」
 モーツァルトがカードを四枚投げると《アカシック・ファースト》の腹部のサイバー・ロードに反応してそれらがクリーチャーの姿に変わる。アンモナイトに似た姿をした軽量なサイバー・ウイルス《パラダイス・アロマ》だ。
「そんなコストを払わずに召喚するなんて。しかも、四体も」
 《パラダイス・アロマ》は場にサイバー・ロードがいればコストを支払わずに召喚する事ができる。パワーが低いクリーチャーだが、四体も出るとそのプレッシャーは非常に大きい。複数のクリーチャーの除去を苦手としている陸にとってモーツァルトの援軍は大きな脅威となった。
「ハハハハハ!もう終わりさ。《エグゼドライブ》でシールドブレイク!」
 《エグゼドライブ》が床を蹴って飛ぶと、腕につけていた刃で陸の最後のシールドを真っ二つに切り裂いた。陸が期待してシールドを見るが、その中身はシールド・トリガーではない。
「ハハハハハ!僕のクリーチャーを全部倒せる?倒せたとしてもマナがあるから《エグゼドライブ》でとどめだよ!ハハハハハ!」
 モーツァルトは勝利を確信して高笑いをしている。誰が見てもモーツァルトが有利なのは明らかだ。陸のクリーチャーは《ガジラビュート》一体のみ。しかし、モーツァルトはブロッカーの《マリン・フラワー》二体に加え、四体の《パラダイス・アロマ》と切り札の《アカシック・ファースト》がいる。
「静かにしろよ、僕が勝つんだから」
 だが、陸はこの状況で勝つと宣言した。そして、一枚のカードを手札から引き抜く。そのカードを見る陸の目を見て、モーツァルトは言葉をなくした。その目の奥に宿る絶対的な自信に生命の危機を感じたのだ。
「進化!《悪魔神ドルバロム》!!」
 陸が投げたカードによって《ガジラビュート》の姿が変化し、再構成されていく。現れたのは台座に鎮座した白い色の悪魔。それによって黒い羽根が舞い、モーツァルトのクリーチャーが黒い石のようになると崩れ去っていった。
「これは、僕がツンツンする予定だった女子高生のほっぺの分!さらに!」
 《ドルバロム》の黒い羽根は陸のマナゾーンも侵食していった。その羽に触れたカードがクリーチャーと同じように崩れていく。そして、モーツァルトのマナゾーンのカードは全て破壊されてしまった。
「これは、僕が揉む予定だった女子高生の巨乳の分!」
 陸が腕を振り上げるのと同時に《ドルバロム》も腕を振り上げた。その様子を見て、モーツァルトは再び頬に手を当てると
「ギャー!」
と、叫んだ。
「そして、これが僕の分だ!あの世で神様に懺悔しな!」
 《ドルバロム》の腕が振り下ろされ、モーツァルトの肖像画は床に叩きつけられる。その中から黒い煙が出てモーツァルトは普通の肖像画に描かれた表情に戻った。
 陸は、肖像画から出た黒い煙を見ると
「お前が負けた原因はたった一つだ。美しい花のような女子高生に手を出した事だよ」
と、言って音楽室を去った。

 湊は、美術室に入った。今、美術部は活動をしていないので静かである。本来、美術室は鍵がかかっているのだが、その鍵は征市が職員室から黙って持ち出してきたのだ。
 この美術室に一人で残っていると、奇妙な彫刻が現れると言われている。それは大人の男くらいの大きさの手の彫刻だ。右手と左手の両方がある。昔、この学校の生徒が作った物らしいが詳しい事は判っていない。
 今、その彫刻は意志を持って動いている。美術室に一人で残っていた生徒を見つけると話しかけて粘土細工に変えてしまうのだ。このうわさは色々なパターンがあるらしく、生徒達の知名度も高いため、この学校の生徒は一人で美術室にいるような事はしない。いたとしても、その生徒は消されてうわさにされてしまうため、結局、誰も一人で残らない事になってしまうのだ。
「久し振りの上玉キター!」
 軽い声を聞いて湊が振り向くと、机の上に乗っている絵の具などをどかしながら、その手は指を使って歩いてきた。うわさ通り右手と左手の彫刻で銀色だった。
「やあ、僕、イケメンの彫刻。イケメンだけど、手だけだから君みたいなかわいい子に顔を見てもらえないのが残念だね」
 自分のジョークが面白かったのか、彫刻は笑い声と共に机を叩いた。
「お話はこれで終わり。君もフィギュアになって僕と一緒に永遠に暮らそう!」
「そんな事は許さない。僕は君を倒しに来たんだ!」
 湊はスカートのポケットから携帯電話を取り出すと、雪ダルマのストラップを光らせる。その光によって、ストラップは金属製のデッキケースに変化した。
「ボクっ娘キター!この日を何年待ちわびた事か!君は特別に『ボクっ娘専用スペース』に飾ってあげよう!」
 彫刻は、両手で机を叩きながら喜ぶ。すると天井からデッキケースが降りてきて彫刻がそれを手に取った。五枚のシールド、五枚の手札を用意してデュエルが始まる。
「さあ、君を倒してフィギュアにするぞ!召っ喚!」
 彫刻はナスに手足がついたようなクリーチャー《ダンディ・ナスオ》を召喚する。そして、手札を裏向きにすると両手の人差し指を湊に向けて
「ゲッツ!」
と叫んだ。すると、《ダンディ・ナスオ》が持っていた棍棒で彫刻の山札を叩く。すると、一枚のカードがその中からマナゾーンへ飛んでいき、マナゾーンからは一枚のカードが墓地へ飛んでいった。
「《ダンディ・ナスオ》はこうやってマナのカードを調整できるのだ!ナスの味は嫌いだが、効果は大好きだ!」
 彫刻の言葉に納得しかけた湊だが、彫刻がナスを食べた事があるのか一瞬、疑問に感じた。
「そんな事を考えている場合じゃない。行くよ!」
 湊は緑色の肌をした巨人《戊辰の超人(ヒジカタ・ジャイアント)》を召喚する。クロスギアをクロスしていなければシールドを攻撃できないクリーチャーだが、クリーチャーを攻撃する事はできる。3コストだが5000というコストに比べて高パワーのクリーチャーだ。
「いきなり、すごいパワーのクリーチャーを出すとは、さすが俺の嫁!だが、君をゲッツするためにも負けるわけにはいかない!これでドローだ!」
 彫刻は《エマージェンシー・タイフーン》を使ってカードをドローし、効果で一枚捨てた。《ダンディ・ナスオ》と同じように墓地が増えていく。
「墓地を増やす効果に興味がおありのようだね。ハニー」
 彫刻の墓地を見ていた湊に彫刻が聞く。
「は、ハニーって……」
「照れなくてもいいよ。君はずっと僕のものになるのだから!それと、墓地を増やす事の意味はまだまだ秘密さ!」
 そう言うと、彫刻は《ダンディ・ナスオ》で攻撃をせずにターンを終了した。それを見た湊はすかさずクロスギアをジェネレートする。
「《覇翼 フェアリー・アクセラー》をジェネレート!そして《戊辰の超人》にクロス!」
 1コストという最軽量のクロスギア《フェアリー・アクセラー》は羽根飾りのような形のクロスギアだ。クロスしたクリーチャーが攻撃した時に山札の上のカードをマナにする能力を与える。
「これで《戊辰の超人》は攻撃できる!シールドをブレイク!そして、マナを増やす!」
 《戊辰の超人》にクロスされた《フェアリー・アクセラー》が風を受けてなびくと、湊の山札の一番上のカードが弾けてマナに飛んでいった。これで湊のマナゾーンには五枚のカードが置かれている。
 《戊辰の超人》が拳でシールドを砕き、彫刻は左の拳を丸めて机を叩く事で悔しさを現した。
「ハニーは思ったよりやるね。だが、こちらも負けてはいない!」
 彫刻は、左腕に剣を持ち、右手に銃を持った液体人間《蒼狼アクア・ブレイド》を召喚した。特殊能力を持っていないクリーチャーだが、ナイトとサムライ、そして、リキッド・ピープルの三つの種族を持っているため、様々なタイプの進化クリーチャーに進化する事ができる。
「よく見ていてくれよ、ハニー。すっごい進化クリーチャーで驚かせてあげるからね」
 そう言った彫刻の言葉は数ターン後、現実のものとなった。
「《魔光蟲ヴィルジニア卿》召喚!」
 彫刻は白い姿をした芋虫のようなクリーチャーを召喚する。それによって、墓地にあったカードが一枚飛び出し、《魔光蟲ヴィルジニア卿》の上に浮いた。
「《ヴィルジニア》の効果は墓地からクリーチャーを回収する事。だけど、それだけじゃない。聡明なハニーならよく判るよね?」
「判るさ。墓地から手札に加えたカードが進化クリーチャーで《ヴィルジニア》と同じ種族を持っていたら、コストを支払わずに進化できる」
「ご名答。そして、僕が選ぶのはこの進化クリーチャーさ!」
 彫刻が墓地から飛んで来たカードを指すと、そのカードが《ヴィルジニア》と《アクア・ブレイド》を巻き込んで竜巻を発生させた。その中心で緑色と黒い光が発生し、竜巻は消える。
 その中心にいたのは、黒と緑の体が印象的な巨大な猛禽類にも似た存在。特別な力を持った不死鳥。サムライとナイト、二つの力を持ったフェニックス《星狼凰マスター・オブ・デスティニー》だ。
「さあ、行くよ、ハニー!切り札《マスター・オブ・デスティニー》の力を見せてあげよう!」
 《マスター・オブ・デスティニー》が羽ばたいた直後、その背後から現れた黒い手が湊の《戊辰の超人》をつかみ、その下に開いた黒い穴に押し込む。《デーモン・ハンド》をノーコストで使ったのだ。
「これが《マスター・オブ・デスティニー》のワンダフルな能力さ、ハニー。攻撃した時にマナゾーンのシールド・トリガー呪文を使う事ができる。さらに……」
 《マスター・オブ・デスティニー》が足で鍬のようなクロスギア《フェアリー・スコップ》を振る。それによって、黒い手は彫刻のマナゾーンに帰っていった。
「使った呪文は《フェアリー・スコップ》の墓地のカードをマナに変える能力で再生可能。これで僕は何度でも《デーモン・ハンド》で君のクリーチャーを除去できる!T・ブレイクだ!」
 《マスター・オブ・デスティニー》によって、今まで無傷だった湊のシールドが三枚ブレイクされる。残りに二枚だ。
「シールドブレイクは必要最小限に。そうすれば手札になったシールドを悪用される事も少ない。さて、ハニー。僕の最後のシールドに攻撃を仕掛けられるかな?」
 彫刻は最後に残った一枚のシールドを出して挑発する。彫刻のクリーチャーは切り札として召喚した《マスター・オブ・デスティニー》一体のみ。彼が言ったように呪文を無限に使うコンボのために《フェアリー・スコップ》をクロスしている。
 湊の場には、《フェアリー・アクセラー》があるだけだ。クリーチャーは存在しない。攻撃できるクリーチャーを召喚してシールドをブレイクして次のターンで直接攻撃をするか、それとも彫刻の切り札を除去するか。今の湊にはクリーチャーを召喚する選択肢しか残されていなかった。
「今度は僕の切り札の出番だ。《維新の超人(リョウマ・ジャイアント)》!」
 青い肌に黒い甲冑を着て長い刀を構えた超人が場に現れる。《維新の超人》と呼ばれたそのクリーチャーの刀が光を反射させて光ると、マナに合ったカードが龍の姿をしたクロスギアへと変化して《維新の超人》の元へ飛ぶ。そのクロスギア《竜装 ザンゲキ・マッハアーマー》はいくつかのパーツへ分離すると、腕や足、体などに増加装甲として融合した。《維新の超人》は場に出た時にマナゾーンからクロスギアを出し、コストを払わずにクロスできるのだ。
「なんと!ハニーもマナゾーンの扱いに長けていたとは!」
「これが僕も切り札の力だ。《維新の超人》で攻撃!」
 彫刻が驚くのを見ながら、湊は《維新の超人》に攻撃を命じた。《ザンゲキ・マッハアーマー》はサムライをスピードアタッカーに変える能力を持つ。増加装甲となった《ザンゲキ・マッハアーマー》が火を噴き、《維新の超人》を彫刻のシールドへと押し始める。
「シールドブレイクだ!」
 湊の声と共に《維新の超人》は持っていた刀で彫刻の最後のシールドを真っ二つに切る。
 これで勝てる、と勝利を確信した湊だったが、シールドが切れた箇所から現れる黒いもやを見てその考えが甘かった事を知る。
「シールド・トリガー!《デーモン・ハンド》!残念だったね、ハニー!」
「くっ!まだまだ!」
 《デーモン・ハンド》の黒い手につかまった瞬間、《維新の超人》は《ザンゲキ・マッハアーマー》を体から切り離す。《デーモン・ハンド》は、クロスギアしか黒い穴に押し込む事はできなかった。
「《維新の超人》はクロスギアを犠牲にする事で呪文の効果を逃れる事ができるんだ」
「なるほど、死にづらいとはまさに切り札だ」
 彫刻の右手は何かを押さえるような形を取り、左手がそれを支える。手だけの動きなので判りにくいが、人間で言うとあごに手を当てて物事を考えているポーズになる。
「しかし、もう《維新の超人》にクロスギアはクロスされていない。ハニー!これで終わりだ!」
 《マスター・オブ・デスティニー》が羽ばたき、再び、マナから《デーモン・ハンド》が飛んでくる。それによって、《維新の超人》は黒い穴の中に落とされてしまった。
「さあ、丸裸だ!」
 《マスター・オブ・デスティニー》によって湊のシールドが全てブレイクされる。その中にシールド・トリガーはない。
「ああ、ハニー。泣かないで諦めておくれよ。これが君と僕とのデスティニーなんだ。理不尽に見えるかもしれないけれど、あんたは一体何なんだーとか言って怒らないでおくれよ」
「別に」
 彫刻の声に対して静かに答えると湊はカードを引いた。湊が拗ねてしまったのかと思った彫刻は話を続ける。
「拗ねた顔もかわいいけれど、笑ってくれないか」
「いいけど、その後で運命なんか理不尽だって嘆かないでね」
 湊がそう注意すると、その様子を見て彫刻は笑う。
「はははっ!僕が嘆く事なんてあるわけないさ!」
 それを聞いて湊は一体のクリーチャーを出す。《戊辰の超人》だ。
「んー、ハニー。確かにそのクリーチャーはクロスギアがクロスされていれば攻撃できるが、召喚酔いをしている。諦めて僕のものになってくれないか」
「いや、僕は勝つ!」
 そう言うと、湊は一枚のカードを《戊辰の超人》に投げつける。緑色の光を出して、《戊辰の超人》は姿を変えていった。
 巨大な杖を持ち、仏像のように台座に座ったいくつもの腕がある巨人。湊のもう一つの切り札、《大神秘ハルサ》だ。
「馬鹿な、進化クリーチャーだと!?」
 彫刻が慌てて逃げようとするが、右手と左手で別の方向に逃げようとしてぶつかる。
「逃がさないよ!《ハルサ》でとどめだ!」
 《ハルサ》が杖を振って彫刻の両手を叩いた。ひび割れて粉々に砕けた彫刻から黒い煙が出てくる。湊が戦いに勝利したのだ。
「おお、ハニー。僕達、違う形で出会っていたらいい人生の伴侶になれたかもしれないね」
 彫刻から出た黒い煙が悲しそうに言うと、湊は申し訳なさそうな顔をして
「僕、男だけど」
と、言った。
「お……男ぉっ!?今、流行りの女装男子という奴か……。無念」
 彫刻の黒い煙が消えたのを見て湊はその場を去った。ここには、ただのうわさがあっただけだ。それの奥にある全てのうわさの元凶はここにはない。

「兄貴!大変だぜ!」
 引き戸になっている扉を開けて、その青年は教室に入って来た。肩まで切りそろえられた髪の青年で、右半分は黒。左半分は青くなっていた。半袖のシャツにスラックスといったT高校の制服を着ている。
 彼の名は時田左京(ときたさきょう)。征市達が戦っているT高校の悪霊達を操っている存在だ。
「騒ぐな。騒々しい」
 部屋の奥で、椅子に座って巨大な町の模型を眺めながら左京にそっくりの男がそう言った。左京との違いは、髪の色と落ち着いた表情だけだ。彼の髪は左半分が黒で右半分が紫色をしていた。
 彼は時田右京(ときたうきょう)。左京の兄で、この事件の首謀者である。
「トライアンフのメンバーが来た事なら、これを見ているから知っている。他に面倒な事でもあるのか?」
「あいつが生きてやがった!」
「あいつ……?」
 それを聞いて右京は首をかしげる。
「判らないな。ここに来てからの十四年で何人殺して来たか覚えているか?お前はいつも説明に使う言葉が足りな過ぎる。もっと具体的に教えてくれるか?」
 右京は目の前にある町の模型を飛び越えると左京に近づいた。落ち着いた表情と、狂気を隠したような血走り見開いた瞳のギャップに左京は一歩のけぞる。小動物のように体を震わせながら左京は
「あいつだよ!十四年前に一度だけ俺達に刃向かってきたあのメスガキだ!」
と叫んだ。それを聞いて右京は足を止める。そして、右腕を伸ばすと左京の首をつかんだ。
「ぐぇっ!」
 左京は、右京の右腕を叩くが、彼の手の力は弱まる事はない。右京は左京の言った事を頭の中で反芻しながら天井を見ていた。
「馬鹿な……。死者が蘇る事などがあってたまるか。あの女は僕がこの手で消したはずだ。左京、それはお前も見ていたよな?」
 右京は左京を床に叩きつけて聞く。左京は手で首を押さえてせき込みながら
「もちろんだぜ、兄貴!俺が倒せなかったあいつを兄貴が倒してくれたんだよな!」
と答える。
「ああ、そうだ。お前の尻拭いをしたんだったね」
 そう言う右京の手が強く震える。彼は一度振り返って町の模型を見た。あの模型ならば、町にいる人間の動きを確認できるが、死者の動きまでは調べられない。たとえ生き返って生きている人間と同じように振舞っていても不可能だ。
「あの女……。再び、僕らの邪魔をしようというのか」
 右京の落ち着いた表情はすでに消え去り、顔全体で怒りを表していた。彼は近くにあった椅子を蹴飛ばすと、模型の近くの椅子に座る。
「殺す。今度こそ奴を消し、このプライズを完成させるぞ、左京!」
「おう!」
 右京は左京の返事を聞くと冷たい目で模型を見た。彼が見ているのは、赤いブレザーを着た征市の模型だ。
「十四年待ったのだ。今度こそお前を手に入れる。邪魔はさせない!」
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