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『コードD』File.19 カーニバル

『コードD』

 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 Y市Q区で大人が子供に変えられてしまう事件が起こる。防犯カメラに残っていた映像を解析した結果、奇妙なロボットの仕業だという事が判った。トライアンフの事務所でその映像を見た若月湊(わかつきみなと)は、そのロボットが自分の予知夢に出てきたロボットと同じ外見をしていた事に気づく。その後、魔法警察からロボットがいたという通報を受けて相羽征市(あいばせいいち)と遠山陸(とおやまりく)、そして、湊が未来地区のショッピングエリアに向かう。戦うためにデッキを取り出す征市だったが、そこにいたロボット――ブリキ男によって陸と共に子供の姿にされてしまう。子供になった二人を連れて事務所に戻った湊は、ブリキ男は遊びたがっている事を告げた。
 魔法警察からの連絡を受けて貴田一真(たかだかずま)は、湊と共に未来地区に向かう。一真は、ブリキ男に話しかけるがブリキ男に子供にされてしまい、湊が話しかける。湊に心を開いたブリキ男は、湊と戦い、その結果に満足して倒れていくのだった。

  File.19 カーニバル

 未来地区の噴水広場に多くの人々が集まっていた。Y港開港百五十周年を記念した夏のカーニバルのスタッフだ。ユニフォームとも言える記念カーニバルのロゴが入ったTシャツを着たスタッフがそれぞれの仕事のために駆けまわっている。
 その人込みの中から抜け出した征市は軽く伸びをして、体をほぐす。そして、自分の手を見て一言呟いた。
「とうとう明日か」
 三日間行われるそのイベントの中で征市は手品ショーをやる事になっている。今までの練習の成果をぶつける時が来たのだ。今日のリハーサルでは普段通りに問題なく演じる事ができた。明日も普段通りにやれば成功すると思っている。
 征市が観客の前で演じるのは五分程度に過ぎない。だが、観客はその五分で征市の良し悪しを判断するし、征市もその五分に全てをぶつけるつもりで練習してきた。
「悔いは残さない。やれるだけの事をやってやろうじゃねぇか」
 リハーサルの疲れを残さないために寄り道をせずに帰ろうとした征市の前に、一人の女性が立っていた。その女性は周りにいる他の誰でもない征市を見ている。
 白いノースリーブのワンピースを纏った涼しげな服装と、それに対照的な腰まで伸びた黒い髪。清楚という言葉が似合うその若い女性を見て、征市は声も出せず目もそらせず、ただ見とれていた。
「相羽征市さんかしら?」
 上品な笑みを浮かべて女性は尋ねる。気品あふれる仕草に征市は
「はい、俺……、あ、いや、その……僕が相羽征市です」
と、戸惑いながら答えた。
「そんなにかしこまらなくていいんですよ。私はあなたのファンであいさつに伺っただけなんですから」
「俺のファン!?」
 嬉しい言葉だった。手品の世界では名がなく、今までにデパートの手品グッズの実演販売くらいしか手品に関する仕事をした事がなかった自分のファンだという事への驚きと、美しい女性がファンになってくれる事への喜びが混ざったいい気分だった。
「明日の手品ショー、楽しみにしていますね」
「あ、どうも」
 征市は女性が出した手を握る。征市の心の中で陸に自慢したい気持ちが生まれていた。
「あ、そうそう。私の家族があなたのお世話になっているようでしたね。今後もよろしくお願いします」
「家族が……?」
 征市は、それを聞いて目の前の女性と自分の知り合いを比べてみた。トライアンフのメンバーは自分の家族について話す者は少ない。他には彩弓か手品の関係者なのだが、彩弓と目の前の女性が結びつかなかったし、関係者の家族の顔は征市も知っている。誰の知り合いなのか考えていると、女性は艶やかな唇を動かしてその言葉を発した。
「私の名は真実(まみ)。魔道書同盟のメンバーですわ」
 それを聞いた征市は手を離し、真実と名乗った女を睨んだ。真実は一瞬、驚いた顔をしたものの、すぐに上品な笑みを浮かべた顔に戻り、征市を見ていた。
「あら?気に障ったかしら?」
「気に障ったか、じゃねぇよ。魔道書同盟がどんな事をしたか考えればすぐに判るだろ?」
 征市は、胸ポケットのポケットチーフを引き抜こうとして周囲を見る。周りにはまだ大勢の関係者がいる。今、ここにいる敵が真実一人ならいいが、それ以外にもいた場合、周囲にも被害が及ぶのは避けられない。
「くそっ!考えるのは後回しだ。あんたを倒す!」
「お待ちなさいな」
 真実はそう言ってポケットチーフに触れていた征市の手を押さえる。そして、こう続けた。
「魔道書同盟とはいっても、全員が人間の敵ではない事を知って欲しいのです。今日はそのためにあなたに会いに来たのだから」
「信用できるかよ!」
 征市はそう言って叫ぶが、真実からは幻と戦った時のような殺気を感じなかった。今の彼女の言動が演技で征市を油断させる罠の可能性もあったが、征市は目の前の女性を疑う気にはなれなかった。
 真実は悲しそうな目をすると
「私、魔道書同盟の他の子達にも嫌われていますの。幻、全、念(ねん)、そして永遠(とわ)には悪いけれど、人間の敵にはなれないわ」
と言った。
「何で、あんただけ過去の資料に名前がなかったんだ?」
 征市は一真が持ってきた魔道書同盟の資料を思い出していた。その中に書かれていた魔道書同盟のメンバーは、幻、全、念、永遠だけだ。
「じいさんが残した魔道書同盟に関するメモには、あんた以外の四人の名前しか書かれていなかった。俺には判らないが、あんただけ書かれていない特別な事情でもあるのか?」
 真実は、征市の言葉に目を細めると「そうですか。あの約束を、覚えていて下さったのね」と呟く。そして、征市を見るとこう言った。
「総一郎さんにお願いをしたからです」
「じいさんにって何で……」
 真実はそれには答えずに征市に背を向けると歩き出す。
「待てよ!」
 真実は征市に声を聞いて一度立ち止まるとこう言った。
「私が魔道書同盟であったとしてもそうでなかったとしても、あなたのファンである事に変わりはない。明日の手品ショー、楽しみにしていますわ」
 そう言って、彼女は去ってしまう。征市は真実の言葉に言い返す事ができず、そこに立っていた。
「せーいっちクーン!」
 真実が去った場所を見ていた征市は、背中に衝撃を感じて振り返る。彩弓が抱きついていたのだ。
「征市君、明日は楽しみにしていた手品ショーだね!わたしも楽しみっ!」
「そうか。お前も楽しみか」
 そう言って、征市は彩弓を見る。今日の彼女はノースリーブの白いワンピースを着ていた。真実と同じ服装だ。
「着る奴によって随分印象が変わるもんだな」
「え?何か言った?」
「いや、何でもねぇよ」
 征市は歩き出す。彩弓もそれについてきた。
「征市君、夜更かししないで早く寝なきゃ駄目だよ!」
「言われなくても判ってるよ」
 彩弓にはそう答えたが、本当に早く寝られるかは判らなかった。緊張してすぐには寝られないかもしれないからだ。
「よぉーし!じゃ、今日はわたしが征市君のために晩御飯作ってあげる!」
「へぇ。彩弓、料理できるのか。楽しみだぜ」
「任せてよっ!インスタントラーメンをおいしく作るのは得意だから!」
 自信たっぷりに言う彩弓を見て征市は
「……俺が作るから気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとう」
と、言うのだった。

「あの世で神様に懺悔しな!」
「哀しい器よ、眠りなさい!」
 陸と湊の前で二人の切り札の攻撃が炸裂し、目の前にいる二人の男が倒れる。湊はデッキをしまうと陸を見た。陸は普段とは違う険しい顔をして戦っていたからだ。湊の視線を受けながら、陸は二人の男に近づくと、その顔を覆っていた表情のない白い仮面を取った。
「間違いない」
 その仮面は、征市と陸が倒した仮面のプライズが、自分のコピーとして生み出していた物と全く同じ仮面だった。色、形、手触りにも違いはない。
「陸さん、その仮面がどうかしたんですか?」
「どうかしたんだよ。詳しい事をリーダーに報告しないといけないね」
 陸は、現場を魔法警察に任せると湊と一緒に事務所に向かう。もちろん、魔法警察に仮面のデータの鑑定を頼むのも忘れなかった。
 トライアンフ事務所に入った陸は、菜央に倒したプライズについての報告をする。それを聞いた菜央も眉を動かし、その事件を奇妙に感じた。
「あの時と同じ仮面のプライズですか」
「そうなんです、リーダー。僕が見た感じだとあれとまったく同じみたいでした。今、魔法警察に鑑定を依頼しています」
「それにしても奇妙だな。陸も過去に倒したプライズと戦ったのか」
「一真さんもですか!?」
 一真の言葉に陸が驚いて聞く。一真は、静かに首肯した。
「散歩をしている時に鎧武者のプライズに遭遇した。倒した後に菜央に話したら、お前達が戦ったプライズだって言うじゃないか。驚いたよ」
「そのプライズって……」
 湊から視線を受けた菜央は、その鎧武者のプライズの画像データをパソコンから出すとモニタを湊に見せた。湊が戦った鎧武者と全く同じ姿がそこにあった。
「あの鎧がこんな事をするはずない!そうですよね?」
 湊が叫び、陸と菜央に同意を求める。鎧武者の事件を知っている二人は首を縦に振って答えた。
「仮面も鎧武者も偽物だったって事ですか?何で偽物なんか……」
「理由は判りませんが、一つだけ判っている事があります」
 陸の疑問に答えるように菜央が口を開く。陸と湊は、菜央をじっと見ていた。
「鎧武者の偽物を調べてもらったところ、怪人の成分とほぼ一致する事が判りました」
「怪人と一致?」
 それは二人とも全く予想していなかった答えだった。
「ああ、そうだ。怪人と一致した。しかし、怪人に見られる共通の特徴であるスピーカーつきのベルトはなかった。だから、俺と菜央は一つの仮説を立てた」
「プライズの偽物を作る事ができる怪人が存在するのではないかと考えています」
 菜央の答えを聞いて、陸と湊は背筋が震えるのを感じていた。自分達が苦労して倒したプライズのコピーが生み出されてしまうのだ。それらが一斉に襲いかかってきたら、この街を守れるかは判らない。
 その場を重い空気が包んでいた時、それを切り裂くようにデスクの上の電話が鳴り出す。菜央がそれに出て会話をする。受話器を置くと
「仮面の分析結果が出ました。やはり、怪人と同じ成分だったようです」
と、告げた。鎧武者と同じように、これも怪人によって作られたものかもしれないという事だ。
「プライズの偽物を作る怪人というのは仮説に過ぎない。全が怪人を作る施設を使って、プライズの偽物を作っている事も考えられる。どちらにしても、気をつけなければならない。パトロールを強化した方がいいな」
 一真がそう言うのを聞いて、陸は遠慮がちに手を挙げるとこう言った。
「あの~、セーイチさんはカーニバルが明日だから、その後でもいいですよね?」
 陸の提案を聞いて一真は腕を組み、菜央を見た。
「相羽さんの今までの努力を考えると、明日からパトロールにくわわるように命令はできませんね」
 菜央はそう言ってほほ笑んだ。陸はその場で軽くガッツポーズをする。一真もその言葉に満足したように頷いた。
「ただし、プライズの偽物が現れて人々を襲っている事だけは教えておいて下さいね」
「判ってますって!じゃ、僕はこれで!」
 陸が手を振って事務所から出ていき、二人に頭を下げて湊もそれに続いた。
「カーニバル、うまく行くといいな」
「ええ、何事もなければいいのですが……」
 全が作り上げた怪人、透明男と吸血男は多くの人を襲うのが目的だった。人が多く集まるカーニバルに怪人が来ないとは限らない。
「念のため、明日のカーニバルは魔法警察からもパトロールを増やしてもらえないかお願いしてみましょう」
「そうだな。俺も行こう」
 一真は鋭い視線でそう言うと腕を組んだ。その後
「時間があったら、征市に差し入れでも持って行ってやるか」
と、言って笑みを浮かべるのだった。

 陸と湊は夕日を浴びながら歩いていた。陸は、カーニバルのビラを見ている。
「すっごいね、カーニバル。三日のラストには打ち上げ花火をやるみたいだよ。カワイコちゃん連れて観に行きたいな~」
「そんな事言ってると、菜央さんに怒られますよ」
「じゃ、この花火を口実にリーダーを誘おう!それがいい!」
 陸は自分の思いつきが気に入ったのか腕を叩いて満足した顔をする。そして、湊を見た。その顔は今までのふざけた態度ではなく、真剣な表情だった。
「プライズの偽物の事だけどさ、セーイチさんには出番が終わるまで内緒にしておこうか?」
「え……?」
 菜央には伝えるように言われていた事だ。陸の言葉が理解できず、湊は驚いたまま彼の顔を見ていた。
「変な意味じゃないんだよ。ただ、セーイチさんに余計な心配させたくないじゃん?せっかくの出番なんだから、集中してもらいたいって思うんだよ。だから、ね?」
「そう……ですね!」
 湊も話を聞いている内に陸の言いたい事が判った。征市にとって初めての舞台だ。緊張している彼に余計な負担をかけたくない。
「判ってくれてうれしいよ。僕達だって強くなってるんだから、セーイチさんがいなくても、怪人の一人や二人、簡単にやっつけられちゃうって!」
 陸が言うように、湊も自分の実力に自信があった。今日だって、仮面の偽物に対して苦戦せずに勝った。それに陸も湊も怪人と戦って勝利している。征市がいなくても何とかなるはずだ。
「明日は気合入れて平和を守るとしようか!その分、明後日からはセーイチさんにもがんばってもらわないとね!」
「征市さんの手品ショー、うまく行くといいですね!」
 その後も二人は明日のカーニバルに対しての雑談をしながら帰っていった。

 暗い部屋の中で幻(げん)は、ベッドから降りて立ち上がった。既に体は回復していて、征市達と戦う前のように動かす事ができる。魔力は完全に回復していないため、まだ行動する事はできないが、これでも充分だと彼は感じていた。
「幻!起きていいのっ!?」
 大量にある巨大なカプセルの中の一つを見ていた全は、幻に気がつくと彼に近づいて行った。それを見て幻は腕を動かして回復した事を体で表した。
「体はもう大丈夫だ。魔力が戻ったら、君の作戦を手伝うよ」
「助かるわっ!」
 全がその場で子供のように飛び跳ねる。その仕草に苦笑した幻は、全が見ていたカプセルに視線を移した。
 そのカプセルに入っていたのは、一体の怪人だ。ブリキ男と同じように、幻が見た事がないタイプの怪人である。
 その胴体は鎧武者を思わせる和風の甲冑であり、その肩にはチェス駒を思わせるような飾りがつけられていた。和と洋のアンバランスさを見る者に訴えかけるその怪人の顔は中央にひびが入った白い仮面で隠れている。怪人のパーツの意匠に、幻がトライアンフを倒すために使ったプライズが盛り込まれていた。
「その怪人、まだ完成していないのかい?最高傑作だったよね?」
 以前、この怪人の姿を見た時、全は自信を込めた口調で自分の最高傑作だと言っていた。大量に魔力を放出しながら誕生した怪人であり、幻もその力に期待していたのだが、動いているところを見た事がないので全の言う事が信じられない。
 全は、その言葉を聞くと突然笑い出した。そして、腹を抱えたままこう言った。
「幻、あなたにしては今のジョークは面白いわっ!」
「それはよかった」
「キメラ男ちゃんは完成しているし、もうテストは終わっているわ」
 その言葉を聞いて、幻はもう一度全の顔を見る。奇妙な口調で話すその仲間は、キメラ男と呼ばれた怪人が入っているカプセルを軽く叩くと説明を始めた。
「キメラ男ちゃんは、幻がトライアンフを倒すのに使ったプライズのデータを参考に作った怪人よ。一部だけど、プライズの欠片を取り入れて作っているわ」
 そう言うと、全は愛しい我が子にそうするようにカプセルを撫でまわして説明を続けた。
「トライアンフに敗れたプライズは、奴らに恨みを持っている。その恨みのエネルギーがトライアンフを倒す力を生み出すのよ」
「今までとは違って、トライアンフを倒すためだけに作られた怪人か」
 鎧武者のプライズはともかく、それ以外のプライズはトライアンフに敗れた事で恨みを感じていたとしても不思議ではない。その感情を混ぜ合わせ、強靭な肉体を与えた事で最強の怪人が生まれたのだ。
 幻は、この怪人ならばトライアンフに勝てると思う反面、それだけでトライアンフに勝てるのかという不安も感じた。
「幻、あなたの言いたい事は判っているわっ!」
 だが、全はそれさえも予想していたかのように言う。すると、カプセルの中でキメラ男の両肩の飾りが光り始める。光が止んだ瞬間、カプセルの前に光を発して三体の奇妙な人影が現れた事に幻は気付いた。黒い姿をしていたそれらの人型の頭部はチェス駒のナイト、ビショップ、ルークを模したような形をしている。
「これがキメラ男ちゃんの能力っ!プライズのデータを元に、プライズのコピーを生み出す事ができるのよっ!チェス駒のプライズは、偽物を生み出す能力だけど、それは完全にコピーできなかったから、こんな兵士を生み出す能力になっちゃったけれど、満足しているわ」
 幻は、震えていた。全は、満足などという言葉で表現しているが、幻の中にある気持ちはそんなものではない。
 興奮。この能力ならばトライアンフを間違いなく倒せるという興奮の気持ちが彼の胸の中を支配している。
「このチェス駒のコピーもデッキを渡せばデュエリストと戦えるわ。もちろん、キメラ男ちゃんも戦える」
 そう言った後、全の口元が歪な形に変わる。歪んだ笑みを浮かべた彼はこう呟いた。
「明日は人間達のカーニバルね。三日間もある楽しいカーニバル。楽しくなるといいわねっ!」
「楽しいカーニバルにするためには、楽しくしてやらないとね」
 幻もそう返した。
 全の意図はすぐに理解できた。明日のカーニバルでキメラ男の能力を使って何かを仕掛けるのだ。
「そうね。小生も楽しんでやろうと思うわっ!」
 そう言った全の笑顔が闇を彩っていた。

 様々な思惑の中、日は変わる。カーニバル初日。
 いつもと変わらず、存在を強調し続ける太陽に呪いの言葉を吐きながら、陸は会場の山城公園を歩きながら自販機を探していた。しかし、やっと見つけた自販機には多くの人が並んでいて、とても待てそうにない。
「困った。喉が渇いてかなりきついかも……」
 そう言ってふらふらと歩いていた陸の頬に冷たい何かが触れる。驚いた陸が見ると、彩弓がペットボトルを持って立っていた。
「彩弓ちゃん、どうしたの?」
「征市君の手品ショーを観に来たんだよっ!陸君、喉渇いているの?じゃ、これあげるね!」
 彩弓はそう言うと、陸にペットボトル入りの麦茶を渡した。手に持ちやすいサイズのペットボトルを握りながら陸は
「間接キッス?」
と、顔を赤くしながら聞いた。
「ち、違うよ!それ、まだ開けてないもん!」
 彩弓の慌てたリアクションを見て笑いながら陸は蓋を開けてペットボトルの中身を飲む。喉を通して冷たい水分が体中に流れ込むようなそんな錯覚を覚える。
「生き返ったよ。ありがとう」
「どういたしまして。陸君も征市君の手品ショー観に来たの?」
「まあ、そんなとこかな」
 陸は、曖昧な返事をして言葉を濁す。
 今日、陸は一真、湊と共にパトロールに来ていたのだ。トライアンフのメンバー以外にも、魔法警察の私服警官が観客に紛れ込んでいる。異常があれば、すぐに駆け付けられるようになっているのだ。
「じゃ、後で征市君にも声かけてあげてねっ!もうすぐ出番だから緊張してるみたいなんだ」
「え?緊張してんの?情けないな~」
 陸は彩弓から征市の様子を聞いて笑った。それと同時に、征市にプライズの偽物の話をしなかった自分の判断が正しいと感じていた。緊張している征市に余計な事を言って混乱させる事にメリットはない。今だけは、トライアンフでの仕事を忘れて手品ショーに集中して欲しい。
「じゃ、また後で会おうね。僕、他にも見ようと思っているところがあるからセーイチさんには声かけられないかもしれないけれど、手品ショーは観に行くつもりだから」
「うん!手品ショーで会おうねっ!」
 そう言うと彩弓が手を振る。陸も手を振ってその場を去った。
 カーニバルでは、色々な出店が出ている。普通の祭りであるようなくじ引きや射的、簡単な食べ物だけでなく、色々なところでパフォーマーが演技をしたりミュージシャンによるミニライブが行われたりしていた。陸は何度かパトロールを投げ出してカーニバルを楽しみたいと思ってしまった。
「楽しいな~。こんなに楽しいんだから、何も起きないんじゃないかな~」
 陸は、思わずそう呟いてしまう。出店で何かを買うわけでもなく、イベントをじっくり見たわけではないが、山城公園に入った時から感じた祭り特有の雰囲気に飲まれて陸も楽しい気分になっていった。
パントマイムの演技に見入っていた時、陸の携帯電話が軽快な音と共に連絡が来た事を知らせた。一真からだ。
『陸。今すぐ未来地区のショッピングエリアに行くぞ』
 通話口から聞こえるのは一真の緊張した声だった。それを聞きながら、陸が平穏なひと時の終わりを感じ、足を未来地区に向ける。
「ショッピングエリアでタンクトップのバーゲンセールでもやってたんですか?なんて冗談言っている場合じゃなさそうですね」
『ああ、そうだ。ショッピングエリアにチェス駒みたいな頭をした奴らが現れた。怪人じゃなさそうだが、デッキを持っている。湊と俺も向かうからお前も来い』
「判りました!」
 通話を終えると陸は未来地区に向かって走った。征市が手品ショーをする予定の噴水広場を抜けてショッピングエリアまで急ぐ。そこには既に一真と湊がいた。二人の視線の先に、全身が黒く頭部だけがチェス駒の飾りのようになった人型の存在が立っていた。
「さっさとやるぞ。陸、湊!」
 一真の合図で三人はデッキを取り出す。三体のチェス駒も同じようにデッキを取り出した。そして、その背後から一人の男が歩いてくる。幻だ。
「元喜(もとき)!」
 陸が右の拳を握り締めながら、幻がトライアンフに潜入していた時の名を呼ぶ。陸の顔を見ながら幻は
「違うね。今の僕はそんな名前じゃない」
と、言った後、彼から目を逸らして一真を見た。
「……おや、久し振りだね、一真」
「そうだな、幻」
 それだけの短い挨拶。そのやりとりで、一真は目の前にいるのが魔道書同盟の敵だという事を自分に言い聞かせた。自分が知っている名前で呼んだら、懐かしい思い出が蘇ってしまいそうだった。
「残念だけど、僕は君達の相手はできないんだ。琴田菜央にやられたせいで、魔力がまだ戻っていなくてね。体もようやく回復したばかりなんだよ。だから、デュエルはできない。せっかくだからカーニバルを楽しもうと思うけどね」
 そう言うと、幻は一真達に背を向けて去っていく。その途中で一言
「特に手品ショーが楽しみなんだ。手品ショーを観に来た人達が怪人に襲われたら楽しいよね」
と言った。その一言で陸の顔が凍りつく。
「まさか、こいつ……!」
「落ち着け、陸!」
 踵を返してその場を去ろうとする陸を一真が一喝する。湊も一度後ろを振り返ったが、諦めて前にいるチェス駒の怪人の姿を見る。
「カーニバルの会場には征市がいる。あいつには今日のカーニバルを楽しんでほしかったが、仕方がない」
 それを聞いて陸と湊は顔を見合わせる。征市には、プライズの偽物に関する事件を話していないのだ。二人は、心の準備ができていない彼を心配した。
「大丈夫……だよね?」
「征市さんを信じましょう」
 そう言って二人は自分達の敵を見た。六人のデュエリストがそれぞれ五枚のシールドを目の前に展開してデュエルが始まる。
「《エマージェンシー・タイフーン》」
 三体のチェス駒の怪人は、それぞれが低い声でカードの名を告げる。そして、場に現れた巨大な竜巻が山札の上のカード二枚を弾き飛ばし手札に送った。その後、彼らの手札は竜巻に飲み込まれ、一枚が弾き飛ばされる。
「気をつけろ。墓地を活かした攻撃が来る」
 一真はそう言って自分の手札を睨んだ。
「判ってますって!でも、墓地をどうにかするカードなんて僕らのデッキにはないですよ!」
 陸は、そう言って《フェアリー・ライフ》を使う。場の中央に現れる若葉と共に、陸の山札が弾け飛び、カードがマナゾーンへ移動した。
「だから、奴らが墓地のカードをうまく利用する前に倒すんだ。陸、湊、油断するなよ!」
 一真の手から離れたカードが、緑色の光を発しながらフェレットのような姿のクリーチャー《幻緑の双月(ドリーミング・ムーンナイフ)》へと変化する。
「判りました。だったら、速攻で!」
 湊も《ポッポ・弥太郎・パッピー》を召喚した。それぞれが準備を終えて、相手を見る。
 最初に動いたのは、陸の前にいたチェス駒だ。ナイトのチェス駒のように馬を模した形の頭部をしていたそのチェス駒の怪人は、水色の鎧を着たナイトクリーチャー《氷牙フランツI世》を召喚する。《フランツ》は呪文のコストを1下げる能力を持ったクリーチャーだ。
「呪文メインって事かな?それとも、ナイト種族でまとめたデッキかな?」
 相手のデッキの内容を考えながら陸はカードを引いた。種族をまとめたデッキならば、陸のデッキに入っている《凶刻の刃狼ガル・ヴォルフ》で相手に大きなダメージを与える事ができる。
 そう思ってナイト以外のチェス駒の怪人を見ると、一真の前にいたビショップと湊の前にいたルークも《氷牙フランツI世》を召喚した。
「同じカード!?」
「どうやらほとんど同じカードで組まれたデッキのようだな」
 湊が《フランツ》に反応し、一真が相手のデッキを推測する。
「呪文のコストを下げる《フランツ》が出ると厄介だ。計算が狂う」
 一真の注意を聞きながら、陸と湊はカードを引くのだった。

 征市は、舞台の裏で深呼吸をしていた。夏らしい熱を帯びた空気が灰の中に取り込まれる。
「落ち着け、俺。平常心だ、平常心」
 征市は呟くと、近くにある姿見で自分の姿を確認した。トレードマークとも言える赤いブレザーに水色のネクタイ、そしてグレーのスラックス。どこにもおかしいところはないのだが、ネクタイの結び目を直してみたり、ポケットチーフの位置を直してみたりして時間を潰す。この十分間で三回はこの作業を繰り返していた。
 征市の出番は最初の五分間だ。メインで出てくる彼の師匠の前座と言ってもいい。師匠も「気楽にやれ」と言っていたが、今日だけは気楽に手品ができそうもない。
「くそっ!何で今日はこんなに緊張するんだよ。いつもだったら、緊張を抑えられるはずなのに……」
 デパートでの手品グッズの実演販売でも緊張しないわけではない。だが、その時は適度な緊張を体に与える事で手品をより上手に見せる事が可能だった。今の征市は緊張とうまく付き合う事ができず、押し潰されそうになっている。
 どうやって緊張を抑えようか考えていると、客席から悲鳴が聞こえた。一瞬、歓声と聞き間違えたが、その声には間違いなく恐怖の感情が入り混じっている。
「何があった!?」
 征市が舞台の隅から客席を覗くと、客席の中心に奇妙な怪人が立っているのが見えた。武者の鎧と両肩のチェス駒、そして、頭部の仮面がアンバランスに配置されたキメラ男だ。
 キメラ男は腰についていたランプを取り出すとそれをこする。すると、周りにいた人間が煙になってランプに吸い込まれていった。
『いいわっ!その調子で人間どもを吸いつくしちゃいなさいっ!』
 バックルのスピーカーからは全の声が聞こえる。奇妙な外見とその声で征市はそれが全が作り上げた怪人だという事を理解した。
「カーニバルを壊すつもりか?そんな事させるかよ!」
 キメラ男が観客に向けたランプに向かって征市はカードを投げる。そのカードがランプを弾き飛ばし、ランプは空高く舞うと地面に叩きつけられた。割れたランプから煙がもれて、それが吸い込まれた人の形になっていく。
『きいぃっ!うまく行っていたのにっ!』
「うまく行っていたじゃねぇだろ。このカーニバルだけは壊させはしないぜ!」
 征市はキメラ男に向けてデッキを突きつける。キメラ男は『やっつけちゃいなさいっ!』という全の声に反応してデッキを取り出すとシールドを展開した。征市は、観客や手品ショーの関係者が避難したのを横目で確認してからシールドを展開した。デュエルが始まる。
「俺の出番が近いからな。急いで決着をつけてやる!」
 征市は《幻緑の双月》を召喚し、マナを増やす。それを見てキメラ男は《フェアリー・ライフ》でマナを増やした。
『いいわ、キメラ男ちゃん。ゆっくり準備して切り札でやっつけてやるのよっ!』
 全の言葉を聞きながら征市は手札のカードを見る。手札にはいいカードが揃っている。キメラ男が切り札を出す前に勝つ事だって可能だ。
「準備が終わる前にお前の出番が終わる。《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》!」
 槍を持った緑色の獣《青銅の鎧》を召喚する事でさらにマナが増える。これでマナゾーンのカードは五枚になった。次のターンにマナをチャージすれば切り札《ボルシャック・大和・ドラゴン》が召喚できる。
「大した事ないな。俺の引き立て役になって消えちまいな!」
 そう言って征市は《幻緑の双月》に攻撃を命じるのだった。

 馬にまたがった巨大な黒騎士が骸骨で飾り立てた銃から弾丸を放った瞬間、ショッピングエリア全体を揺るがすような震動がその場を襲った。
「これが《魔光帝フェルナンドVII世》の力だ」
 一真の前にいるビショップの怪人はそう説明する。《フェルナンド》の銃より放たれた黒い弾丸が一真の《ヘリオス・ティガ・ドラゴン》を貫く。その瞬間、《ヘリオス・ティガ・ドラゴン》は体中から黒い煙と黒い液体と出して溶けていった。
「《フェルナンドVII世》は墓地にある呪文の数だけ相手のクリーチャーのパワーを1000減らすナイトだったな」
 一真は、ビショップの怪人が《エマージェンシー・タイフーン》で墓地のカードを増やし、なおかつ《フランツ》で呪文のコストを減らして呪文を大量に消費していた理由を理解した。《フェルナンド》の破壊力を高めるためだったのだ。《フェルナンド》は召喚に11コスト必要な重いクリーチャーだが、墓地にある呪文の数だけコストを軽くする事ができる。ビショップの怪人はコストを7減らして召喚したのだ。
「さらに……」
 《フェルナンド》は自分が乗っていた馬で一真の切り札、《緑神龍バグナボーン》を踏みつける。《フェルナンド》は特殊能力に加え、一万を超えるパワーとW・ブレイカーも持っているのだ。
「俺の《バグナボーン》がパワーで負けるとは。驚いた」
 一真の場にあるのは《マイキーのペンチ》一体のみだ。そして、シールドは一枚である。
 ビショップの怪人のシールドは三枚。クリーチャーも一体だけだが、そこに鎮座しているのは切り札《フェルナンドVII世》だ。
「諦めろ。クリーチャーのパワーが違い過ぎる」
 ビショップの怪人の低い声を聞いて、一真の眉が動く。そして、右手でその眉を押さえると静かな声で言った。
「クリーチャーのパワーが違う?本気で言っているのか?」
 一真がマナのカードを九枚タップして、そこから出た緑色のマナを一枚のカードに注ぎ込む。一真の手がカードから離れた瞬間、《フェルナンド》の攻撃以上の激しい震動がその場を襲った。
「覚えておけ。これが俺の切り札だ。《フェルナンド》ごときとはパワーが違い過ぎる」
 ショッピングエリアの天井を突き破ってしまいかねないほどの巨体がそこに現れる。緑色を中心に南国の植物のようなカラフルな色で彩られた超巨大な龍《緑神龍ディルガベジーダ》。23000という常識を超えたパワーのドラゴンの目が、ビショップを狙っている。
「召喚酔いがあると思って安心しているのか?無駄だ」
 《ディルガベジーダ》は巨体を震わせて《フェルナンド》に近づくと、右腕で粉々にそのクリーチャーを砕いた。召喚酔いを無視した攻撃にビショップの怪人は愕然とし、一真はその原理を説明する。
「《マイキーのペンチ》は自然文明と闇文明のクリーチャーにスピードアタッカーを与える。自然文明の《ディルガベジーダ》もその恩恵を受ける事ができる」
 それを聞いたビショップの怪人は、すぐにカードを引き、逆転の方法を考える。だが、手持ちのカードでは《ディルガベジーダ》を倒す事はできない。
「お前のターンは終わりか?じゃあ、今からお前を踏み潰してやる」
 一真は二体目の《バグナボーン》を召喚する。《ディルガベジーダ》が全てのシールドを砕き、ビショップの怪人を守る壁はなくなった。
「《バグナボーン》でとどめだ。眠れ!」
 《バグナボーン》は草のような体毛を震わせながらビショップの怪人に近づくとその周囲にあったオレンジ色の球体が隕石のようにビショップの怪人めがけて飛んでいった。オレンジ色の球体に潰されたビショップの怪人は黒い煙を出して消滅する。
 一真は軽く息を吐いてカードを片づけ、陸と湊を見た。
 陸の前にいるナイトの怪人は、クジラを思わせる巨体の生物《氷牙レジェンダリー・ヴァンガード》を召喚していた。シールドは一枚残っている。そして、湊の前にいるルークの怪人の場には、下半身から二匹の白い芋虫のようなものを生やした騎士《黒騎士ザールフェルドII世》がいた。残っているシールドはない。
 陸の場には、《ガル・ヴォルフ》が一体。そして、シールドは三枚だ。湊のシールドは一枚。クリーチャーは《竜装 ザンゲキ・マッハアーマー》をクロスした《維新の超人(リョウマ・ジャイアント)》と《大神秘ハルサ》、そして《ポッポ・弥太郎・パッピー》がいた。
「呪文と《ザールフェルド》の恐ろしさを教えてやる!」
 大量にあった手札を使ってルークの怪人が動き出す。7枚もマナを使ってルークが唱えた呪文は《英知と追撃の宝剣(エターナル・ソード)》だ。巨大な剣が場に現れ、《維新の超人》と《大神秘ハルサ》の体を切り裂いていく。そして、湊のマナゾーンに移動したその剣は湊のマナのカードも二枚切り裂く。
「《英知と追撃の宝剣》は二体選んで、破壊するクリーチャーと手札に戻すクリーチャーを選ぶんだったよね。だったら……」
 湊は《維新の超人》をカードの姿に戻すと、それを手札に加える。そして、《ポッポ・弥太郎・パッピー》が火の玉のように姿を変化させると花火のように弾けた。それによって《ハルサ》が切り裂かれた時に受けた傷が治っていく。
「《ポッポ・弥太郎・パッピー》はサムライを守るクリーチャーだ。そんな呪文は効かないよ!」
 友が場から去るのを見た《ハルサ》は持っていた杖をルークに突き付ける。ルークの怪人はそれを見て一枚のカードを《ザールフェルド》に投げつけた。《ザールフェルド》の下半身の芋虫の頭部から黒い手が出てきて《ハルサ》の体を掴むと、地中に開いた黒い穴に引きずりこんでいく。
「《デーモン・ハンド》だ。これでクリーチャーはもう残っていないな」
「嘘……。もうマナは残っていないはずなのに……」
 湊は何度もルークのマナゾーンのカードを確認する。マナゾーンのカードは《英知と追撃の宝剣》を唱えるのに使った時に全てタップしている。もう呪文を使うためのマナは残っていないはずだ。
「《ザールフェルド》がいる時に呪文を唱えると、それよりもコストの低い呪文をコストを払わずに使えるのだ」
 ルークの言葉を聞いて湊は思い出す。《英知と追撃の宝剣》は7コスト。そして次に使った《デーモン・ハンド》は6コストだ。《ザールフェルド》の能力ならば全てがうまく説明できる。
「《デーモン・ハンド》の次はこれで反撃を断つか」
 そして、ルークの怪人はさらに一枚のカードを《ザールフェルド》に投げつける。それによって、《ザールフェルド》の肉体から銀色の弾丸が飛び出し、湊が手札に握っていた二枚のカードを空高く弾き飛ばした。湊が次のターンに召喚しようと思っていた《維新の超人》もこれでは使えない。
「《魔弾バレット・バイス》。ナイトがいれば相手の手札二枚を破壊できる呪文だ。これでバトルゾーンも手札も全滅!シールドブレイク!」
 ルークの怪人は《ザールフェルド》に攻撃を命じた。芋虫が湊のシールドを突き破る。そのシールドはシールド・トリガーではなかった。だが、それを見て湊の目の色が変わる。それは勝利を確信した目だった。
「大丈夫。これで僕の勝ちだ!」
 そう言って、湊は《ポッポ・弥太郎・パッピー》を召喚する。《ザンゲキ・マッハアーマー》の効果により1コストで召喚できた。
「そんなクリーチャーで勝つつもりか?」
 馬鹿にしたような口調で聞くルークの怪人を見ながら、湊は四枚のマナをタップする。そのマナの光を浴びて《ザンゲキ・マッハアーマー》が龍のように雄たけびをあげると、《ポッポ・弥太郎・パッピー》がそれに乗った。《マッハアーマー》の後部についたバーニアが火を噴き、ルークの怪人に近づく。
「馬鹿な……!何がどうなって……」
「《ザンゲキ・マッハアーマー》がサムライクリーチャーにクロスされていれば、サムライは全てスピードアタッカーになる!哀しい器よ、眠りなさい!」
 湊の説明を受けてルークの怪人は自分の敗北を知り、腕で頭部を隠す。《マッハアーマー》はその防御を貫いてルークの怪人を真っ二つに切り裂いた。
 一方、陸の戦いもクライマックスを迎えていた。ナイトの怪人が操る《レジェンダリー・ヴァンガード》の巨体によってシールドを一枚に減らされた陸はそこから入手したカードを《ガル・ヴォルフ》に投げつける。
「さぁ……神様の出番だ!」
 黒く舞い散る羽根と共に、陸の切り札《悪魔神ドルバロム》が現れる。その効果によって《レジェンダリー・ヴァンガード》の肉体は腐り、朽ちていった。それを見ながら《ドルバロム》がナイトの怪人の最後のシールドをブレイクする。それを見て、ナイトの怪人の動きが止まる。
「もう何もできないみたいだね。あの世で神様に懺悔しな!」
 《ドルバロム》の腕がナイトの怪人の腕に振り下ろされた。決着がついたのだ。
「終わったけれど、まだ終わったわけじゃない。噴水広場へ急ごう!」
 陸はデッキを片づけるとその場にいた二人にそう言って踵を返した。一歩ずつ進みながら征市の無事を祈る。
「セーイチさん、無事でいてくれよ!」
 幻の回りくどい作戦に胸騒ぎを覚え、陸は声に出して呟いた。

「野郎……」
 征市は順調に攻撃し続けていた。速攻で勝利するはずだったのだ。だが、いつまで攻撃しても尽きないキメラ男のシールドに闘志が砕けそうになる。
『《無頼聖者スカイソード》召喚よ!』
 全の声と共に、キメラ男が一体のクリーチャーを召喚する。金色の鎧に包まれた二本足で立った虎のようなクリーチャー《スカイソード》が両手に持った剣を振る事でキメラ男のマナが増え、シールドが一枚増える。これで、キメラ男のシールドは二枚になった。
『さらに……』
 キメラ男は裏向きにしたカードを征市に見せる。キメラ男が手を放すと、それはキメラ男の《腐敗聖者ベガ》の頭部に乗った。それによって、《ベガ》の姿が黒い光と共に消える。
「自分のクリーチャーを消した!?何をするつもりだ!」
『ふふふ。マジシャンがこんな事で驚いちゃいけないわっ!出なさい、闇の進化クリーチャー!キメラ男ちゃんの切り札っ!!』
 マナゾーンの一枚のカードが黒い稲妻を纏って宙に浮いた。その一枚のカードと同じように《スカイソード》の周りにも黒い稲妻が現れる。《スカイソード》が手を伸ばすと、宙に浮いたカードがその手に吸い込まれていった。それと同時に晴れていた空が一瞬にして暗闇に包まれる。そして、征市とキメラ男の周りを炎が覆い、地面には水が流れ始めた。
 だが、征市はそれらのありえない自然現象に目もくれず目の前に降臨した巨大な龍だけを見ていた。機械の鎧で武装したような巨大な龍は、赤、紫、青の翼を羽ばたかせながら浮遊していた。その羽ばたきによって、足元の水が波立つ。
「そうか。《ベガ》を消したカードは《母なる紋章》か」
 《母なる紋章》とは、文明を選び、その文明を持つバトルゾーンのクリーチャーのマナに戻し、マナゾーンから同じ文明のクリーチャーを呼ぶ呪文だ。進化クリーチャーも出す事ができる。
『ご名答よ、相羽征市。そして、場に出したのはキメラ男ちゃんの切り札』
「《極仙龍バイオレンス・サンダー》だ」
 全の声に続いてキメラ男が初めて口を開く。男や女、若い者や年老いた者、そういった様々な対をなす声が重なりあった特殊な声だった。
 《バイオレンス・サンダー》は持っていた機械で出来たような槍を地面に叩きつけると、三枚ある征市のシールドに向かって滑空する。その途中で胴体から伸びた青い龍の首が高い声で叫ぶ。
「まず、水だ」
 地面で波立っていた水が大きな波を起こし、キメラ男の山札を揺らす。それによってキメラ男の山札の上のカードが三枚宙を舞い、キメラ男の手札に入っていった。
「さらに、闇」
 次に、紫の龍の首が黒い光線を吐き、征市が持っていた三枚の手札を包みこむ。それらのカードはガラスのように砕け散り、征市の右手からこぼれ落ちていった。
「最後に、火」
 《バイオレンス・サンダー》の赤い頭部が火を吐いて征市の《ドルボラン》を焼き尽くしていった。
「手札補充に手札破壊にクリーチャーの破壊……。圧倒的過ぎる」
 征市は額から流れる汗を拭う事もせずに《バイオレンス・サンダー》の猛攻を見ていた。征市のクリーチャーでは太刀打ちできない絶対的な強さを感じさせるカードだった。
 さらに《バイオレンス・サンダー》は持っていた槍で征市のシールド三枚を全てブレイクしていく。圧倒的なパワーに加えて、T・ブレイカーまで持っているのだ。
『どう?キメラ男ちゃんの切り札の凄さを思い知ったかしら?』
「ああ、充分過ぎるほど思い知ったぜ」
 征市は、肩の力を抜いてそう言うと、《バイオレンス・サンダー》の効果で破壊され、地面に落ちて水に浮いた一枚のカードの上に手を置いた。破れたそのカードは赤い光を出すと一枚のカードとなって再生していく。そして、周りの水を蒸発させるとバトルゾーンへ飛んでいった。炎と共に、それは火の鳥を思わせる巨大な鳥となって場に現れる。
「ここからは俺の番だ。俺達の力を見せてやろうぜ、《ザークピッチ》!」
 《翔竜提督ザークピッチ》。それは手札破壊を受けて場にでるファイアー・バードだ。さらに、場に出た時、山札の上を三枚めくってその中からアーマード・ドラゴンとファイアー・バードを全て手札に加える事ができる。
 《ザークピッチ》の雄たけびと共に、征市の手札に一枚のアーマード・ドラゴンが飛んできた。全は、そのカードを見て愕然とする。
『嘘よっ!土壇場で切り札を引くなんて……何かの間違いよっ!』
「いや、そんな事はないぜ。『ウソのようなホントウ』って奴だ」
 炎と共に、征市の切り札が姿を現し、《ザークピッチ》の隣に並ぶ。日本風の鎧に身を包んだ《ボルシャック・大和・ドラゴン》だ。《ボルシャック・大和・ドラゴン》は刀を鞘から抜くと、キメラ男にその切っ先を突きつけた。
「これで終わりだ!《ザークピッチ》で攻撃!」
 《ザークピッチ》の両肩の砲台がキメラ男のシールド二枚を貫く。これでキメラ男のシールドはなくなった。
「よし!《ボルシャック・大和・ドラゴン》で――」
 征市が《ボルシャック・大和・ドラゴン》に行動を命じようとした時、切り札が持っていた剣が弾け飛び、《ボルシャック・大和・ドラゴン》が倒れる。その胴体からは黒い手が見えていた。
「シールド・トリガー《デーモン・ハンド》だ」
 征市の切り札が何もできずに敗れた。そして、これによって征市がもう行動できなくなってしまった。
「受けろ、相羽征市。これは我々が今まで受けた苦しみだ。――死ね」
 《バイオレンス・サンダー》の槍の一撃が征市の体を貫く。目を大きく見開いたままその攻撃を見ていた征市は、自分が何をされたのか判らずにただ、手を伸ばしていた。
「え……?何、で……?」
 足に力が入らなくなる。同時に全ての神経が痛みに悲鳴を上げた。体中に重りをつけられたような感触と共に征市はその場に倒れる。《バイオレンス・サンダー》の効果で現れた水は消えていて、熱を帯びた地面が征市の体を受け止めた。その周りに、手品のために上着の中に仕込んでいたトランプがばらまかれる。それを踏みながらキメラ男は征市に近づくと、彼のデッキケースとカードを奪っていった。
『上出来よっ!キメラ男ちゃんはすごいわっ!』
「当然です、マスター。今から帰還します」
 キメラ男はそう言うと、黒い煙を出して消えていった。それを見ながら征市は手を伸ばす。
「返、せ……。それは、俺の……デッキ」
 その手は何もつかめないまま、力尽きて行動を停止する。相羽征市は、敗北したのだ。
 誰もいない噴水広場でカーニバルを盛り上げるための陽気な音楽が、空しく流れていた。

 『File.20 征市新生』につづく
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