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『コードD』File.21 世界一強い女の子

『コードD』

 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 キメラ男に敗れた相羽征市(あいばせいいち)は、魔力とデッキを失った事に加え、カーニバルを中止に追い込まれた事でショックを受けていた。その怒りから、見舞いに来ていた一ノ瀬彩弓(いちのせあゆみ)につらく当たってしまう征市だったが、彼女に抱き締められ、本来の自分を取り戻す。そして、魔力が回復した征市は真実(まみ)から受け取ったデッキを使い、キメラ男を倒すために立ち上がるのだった。
 一方、キメラ男に挑んだ若月湊(わかつきみなと)は敗北し、デッキを奪われる。同じように遠山陸(とおやまりく)も敗北し、その場にいた彩弓と琴田菜央(ことだなお)が連れ去られそうになる。しかし、そこに征市が現れ、リベンジを挑む。デッキを活かしてキメラ男に挑んだ征市は最強の怪人に勝利するのだった。

  File.21 世界一強い女の子

 暗い部屋の中で幻は隣にいる全と共に空になったいくつかのカプセルを見ていた。
 カーニバルの会場で征市を倒したキメラ男は、その後、トライアンフの湊と陸を倒した。しかし、新たなデッキを手にして蘇った征市に倒されてしまう。それ以降、全がどんな怪人を送り込んでも征市によってすぐに倒されてしまうのだった。
「あんな奴なんかにっ……!信じられないわっ!」
 幻の隣で全が肩を震わせながら泣いている。
「僕もそう言いたいよ。全く……信じられない男だ」
 幻も空のカプセルを見て溜息を吐いた。トライアンフの戦力である陸と湊が戦えない状態であるにも関わらず、怪人による作戦が進行しないのだ。幻には、征市の強さが理解できなかった。
「もうしばらく君に任せるつもりでいたけれど、そろそろ僕も動こうかな?」
 幻は肩を回しながら全を見る。全は静かに頷いた。
「そうね。小生の怪人だけじゃ奴は止められないわっ!ただ……」
「ただ?」
 泣いていた全の口元が歪む。口元に笑みを浮かべると全はこう言った。
「怪人を超える存在なら……どうなるか判らないわ」
「“アレ”を出すんだね?」
 幻はそう言って息を飲んだ。
 怪人を超える存在と聞いて、幻はそれが何なのかすぐに思い出した。同時に、幻は自分がやるべき事も理解した。
「じゃあ、材料を集めないといけないね」
「そうね。ただ、その前に――」
 全の後ろで一つのカプセルが音を立てた。液体が詰まった空間の中にいたのは、キメラ男だ。
「キメラ男を再生させたのか!?」
「違うわ。この子はキメラ男ちゃんであってキメラ男ちゃんじゃない。キメラ男ちゃんのデータを元に作り上げたキメラ男二号ちゃんよっ!」
 キメラ男二号とキメラ男の外見的な違いはほとんどない。強いて挙げるとしたら、二号の仮面のひびが多くなっている点だけである。
「キメラ男ちゃんの強力な魔力を疑似プライズを生み出す事ではなく、デュエルに全て使う。それがキメラ男二号ちゃんの最大の特徴よ。この子は今までの怪人とは違う。トライアンフの連中を倒すために存在するデュエリストハンターと言ってもいいわっ!」
「強力な魔力をデュエルのために使う、か……」
 幻は顎に手を当てて改めてキメラ男二号を見る。
 キメラ男の魔力の大半は疑似プライズのコントロールに使われていた。疑似プライズとはいっても、その性能は高く、一真、陸、湊の三人を相手にするくらいの実力を持っている。そのため、キメラ男自体の持久力は極めて低い。一度のデュエルをしたら退散して魔力を再補給しなければならないくらい燃費が悪かった。しかし、その能力を全てデュエルにつぎ込めばそんな事はありえないだろう。
「だけど、デッキはどうするんだい?それだけの魔力を受け止められるほどのデッキなんて……。まさか――」
 幻が言葉を途中で止めた時、全は懐から銀色に光るデッキケースを出す。ところどころ細かい傷がついているものの、まだ新品の輝きを失っていないその金属性のデッキケースを見て幻はそれの持ち主を思い出した。
「相羽征市のデッキか」
「そうよっ!奴が強かったのは、相羽総一郎から受け継いだ魔力のせいもあるけれど、それを活かせるデッキがあったからなのよっ!奪い取って調べてみたけれど、普通の怪人じゃ使いこなせないわっ!」
「だけど、キメラ男二号ならば充分使いこなせる。そういう事だね」
「もちろんよっ!」
 幻の目は、征市のデッキに釘付けになっていた。幻が仕掛けた罠を打ち砕き、全の怪人を倒し続けたデッキが自分の目の前にある。その事実が幻の心を内側から熱く興奮させる。
「相羽征市は、自分が使っていたデッキで死ぬ事になるのよっ!今度は奴の魔力を全て消し去り、胸にナイフを突き立てて終わらせてやるわっ!」
「魅力的だ。非常に魅力的だよ」
 高笑いする全とその手に握られたデッキを見て、幻はもう一つ思い出した事がある。キメラ男が奪ったデッキはもう一つあったはずだ。
「全、若月湊から奪ったデッキはあるかな?」
「ええ、持っているわ」
 全は征市のデッキを床に置くと、懐から同じようなデッキケースを取り出す。幻は何も言わずにそれを受け取る。
「いらないから幻にあげるけれど、それをどうするつもりなのっ!?」
「僕も魔力が戻って来たからね。久し振りに彼らに挨拶をしてあげないと……」
 幻の目が天井の蛍光灯の光を反射して怪しく光る。そして、その頭脳で征市達トライアンフを倒す方法を考えていた。

 トライアンフ事務所。
 エレベーターを降りた征市は、事務室に入ると自分のデスクに体を預けるように座った。キメラ男の戦いから二週間が経った。陸も湊も戦えなくなった今、トライアンフは征市が一人で支えているようなものである。
「相羽さん、お疲れ様です」
「菜央、お疲れ。悪いけど、報告書とかは明日にしてくれ。判っちゃいたけど、俺一人で怪人の相手はきついな」
 征市は顔を上げて菜央を見ると、ネクタイを緩めてシャツの第一ボタンを外した。
「やはり、お前一人では荷が重いか」
「ええ、新しいデッキがあるって言っても限度ってものがありますからね」
 一真に聞かれて、征市はそう答える。真実から受け取ったデッキを使って以来、負ける事はおろか、相手に追い詰められる事もなくなった。しかし、毎日のように怪人と戦い続けていたら、いくら強いデッキを使っていたとしても、いつか隙が生まれて負ける時が来るだろう。
「キメラ男がカーニバルを襲った時のように複数の場所に敵が現れたら厄介だな」
「その時は、私達で対処するつもりですが……」
 菜央はそう呟くと、今は空席になっている陸と湊の席を見た。キメラ男に敗北して魔力を失ってから、二人がトライアンフの事務所に来た事はない。
「一人は事務所に残るとして、今までなら最大四人でコードDに相当する事件の解決のために出撃できた。今は、その半分の二人しか出撃できない。これではまずいと考えたから、俺はすでに手を打っておいた」
「本当ですか?」
 一真の言葉に、征市が反応する。今まで一人で戦っていたのが負担になっていたからだ。それが取り除かれるというのは朗報である。
「ああ、トライアンフアメリカに応援を要請しておいた。あと何日かしたらあっちから応援が来るだろう」
 一真はそう言うと、菜央を見て
「菜央に話してからとも思ったんだが、急いだ方がよさそうだったんでな。俺の方で話をつけさせてもらった。悪かったな」
と、言う。
「悪いなんてとんでもない。一真さんがそうして下さって助かりました」
「そう言ってくれると俺も嬉しいよ」
「俺も助かります。一真さん、ありがとうございます!」
 今まで疲れを見せていた征市だったが、応援が来る事を聞いてその疲れが消えたかのように言葉に覇気が出てきた。どんな応援が来るのかは判らないが、その事実が征市の心にとって大きなプラスになるのだ。
「安心したか?じゃあ、今日はもう帰って休め」
「はい!」
 それを聞いて征市は荷物をまとめると部屋を出た。その後、菜央は陸のデスクをじっと見ていた。
「新しい方が来るのならば……陸君と若月さんの私物も片づけなければなりませんね」
「そうだな」
 一真は返事をすると自分のデスクに戻る。そして、資料が入ったプラスチックのケースを取ると
「魔法図書館へ行ってくる」
と、言ってエレベーターに乗って出て行った。菜央は、一人残った部屋で陸のデスクに指先でそっと触れた。

 八月も終わり、夏の暑さも少しずつ和らいでいった。しかし、まだ暑さが残った空の下を陸と湊が歩いている。
「暑いね」
「そうですね」
 内容がない会話の後、沈黙が訪れる。それを繰り返しながら、彼らはこの数日間、トライアンフ事務所がある博物館の近くを散歩していた。
「僕達、もうトライアンフに戻れないのかな?」
 山城公園に入った辺りで陸がベンチに座り、そう呟いた。
「でも、陸さんはまだデッキがあるじゃないですか。僕には、もう魔力もデッキもないんです」
「デッキがあっても魔力がなかったらただの紙切れだよ。ま、セーイチさんが何とかやってくれそうだから、僕は気にしなくていいけどね」
 陸は乾いた口調で言うと軽く笑う。湊は、その笑い声がひどく癇に障った。
「僕は、そうは思いません」
 陸は湊の言葉を聞いて笑うのを止めると、視線を下げる。
「だって、今まで一緒に戦ってきたのにこれでお別れなんて悲しいじゃないですか。僕はまだ三ヶ月くらいしかみんなと一緒にいられなかったけれど、陸さんは――」
「判ってるよ!」
 陸は、力の限り叫ぶ。数日間、心に溜まったものを全て吐き出すような悲痛な叫びだった。
「判ってはいるんだよ。リーダーと一緒に戦うって、どんな事があっても戦うって約束したんだ。この前だってそう誓った!だけど……!」
 陸は、シャツの袖をまくる。ジャロール・ケーリックとの出会いの時からその体に刻まれた黒い模様は、綺麗に消えていて白い肌が見えた。
「僕は無力だ。戦う事なんてできやしない。意思だけで戦うなんてできっこないんだよ」
 二人の間に再び沈黙が流れる。重い空気を断ち切るように湊が言った。
「もう戦えないのに、どうして僕達、毎日こうやって事務所の近くを歩いているんでしょう?」
「さあね。パトロールをやっていたから、それが体に染みついちゃってるのかもね。習慣って奴だよ」
 習慣の一言で片づけたが、陸はそうでない事を知っている。湊も自分達の中にある想いに気づいていた。人々のために戦いたいのだ。だが、意思があっても二人にそれを形にする力はもうない。
「今日はもう帰ろうか。湊君ももうすぐ二学期が始まるんだから、準備しないと」
「はい……」
 陸に続いて湊もゆっくりとベンチから立ち上がった。そして、歩き出す。
「あ、ちょっとちょっと!そこの人!ちょっと待ってくれない!?」
 少女の声を聞き、陸と湊は振り返る。そして、陸はその姿を見て目を奪われた。
 年齢は陸と同じくらいの、つまり、十代半ばくらいに見える。黒に近いこげ茶色の長い髪の少女で、毛先に軽いウエーブが掛かっている。白いシャツに黒のベスト、そしてチェックのスカートでまとめた服装で、すらりと伸びた足を包むニーソックスは目の覚めるような赤だった。
 何よりも陸の目を引いたのは彼女のスタイルのよさと活気のある表情だった。元気のよさそうなその表情は、やる気を失っていた陸と湊に元気を分け与えても余るほどの明るさを感じさせた。
「ええ、もちろんですとも!全ての乙女の味方であるこの僕に何でもお任せあれ!」
「陸さん……」
 少女のスタイルのよさに目が釘付けになった陸は、歯を光らせて少女に手を差し伸べる。湊は、陸の心情の変化に驚きつつも、これが陸らしい部分だという事を思い出し、頭を抱えた。
「お、親切な人がいてくれてラッキー。実は、ちょっと道に迷っちゃってね。日本の電車の乗り換えが複雑なのは知っていたけれど、道も判りづらいなんて……」
「はっはっは、僕も乙女心の複雑さには普段から手を焼いていますよ!道案内ならお安い御用!」
「それで、どこへ行きたいんですか?」
 妙なテンションで少女に話しかける陸を呆れた目で見た後、湊は少女に問う。
「ここなんだけどねー。どうも、判りづらくって」
 湊は地図を受け取ると赤い印がついている場所を見た。その印の下には『トライアンフ事務所』と書かれている。
「地図が判りづらいって、それはいけない!僕も女心という名の地図の判りづらさに敗れた犠牲者のようなものでして……。あ!でも、今、君となら進める気がするよ!」
「陸さんは黙っていて下さい!……この場所に何か用ですか?」
 湊に大声で注意された陸は、何で自分が注意されたのか判らないのか首をかしげる。湊は、地図を見せながら少女に聞いた。
「用があるから行くんじゃないかな?若月湊君は、賢いからそれくらいは判るよね?」
「何で、僕の名前を……!」
「何で湊君だけ覚えてもらってるの!ちょっと!何だか、すっごく不公平じゃないか!」
「陸さんは黙っていて下さい!」
 湊に注意されて、陸は再び首をかしげる。湊は警戒し、睨みつけるような視線で少女を見つめる。それを見て少女は、大げさな仕草で肩をすくめると
「そんな怖い顔しないで。アタシ、こういう者です!」
と、言ってスカートのポケットからプラスチックのケースに入った一枚のカードを取り出して二人に見せた。少女の写真が貼られたそれは、何かの身分証明書のようだった。ただ、そこに書かれている文書や単語が全て英語で書かれている事が、陸と湊を混乱させる。
「トライアンフ……アメリカ?」
 陸は上部に書かれていたその文字を読む。
「そういう事。アタシは、アメリカのトライアンフにいた一ノ瀬彩矢(いちのせあや)よ。一真さんにこっちの状況をメールで送ってもらってたから名前が判ったの」
「でも、僕達がトライアンフのメンバーだってどうして判ったんですか?」
「もしかして、愛?」
「だって、この地図を見せた時、表情が変わったじゃない。それにトライアンフがどうこうって話をしてたし。あと、愛って事はないよ。それだけは絶対にない。うん、愛だけは絶対にない。」
 右手の人差し指を振りながら、彩矢と名乗った少女は笑顔で解説をする。その後、『愛』に関しては全力で否定していた。
「ちょっと用があって明日、トライアンフの事務所に行かなくちゃいけないから下見に来てたんだけどね。あ、そうだ。未来地区案内してくれる?行ってみたいところがあるんだ!」
「かわいい女の子の頼みなら放っておけないよ!じゃ、行こうか!」
「じゃあ、案内よろしくね!」
 陸の笑顔に彩矢は笑顔で答える。すると陸は、小さな声で「笑顔で返してもらえるなんて最高だ。生きててよかった」と呟くのだった。
 それから、三人は未来地区のショッピングエリアにある色々な店を回った後、博物館に向かった。今、この博物館では、プライズに関する展示をしているのだ。
 買い物袋を陸に預けた彩矢は二階の展示スペースで展示されている物を自分のペースで見ていく。陸と湊は、少し離れてそれについていった。
「彩矢さん、トライアンフに何の用があるんでしょうか?」
「僕と結婚しに来たか、もしくは新人研修かな?」
「研修ですか?」
「うん、デッキを手に入れたばかりの新米デュエリストが一人で戦えるようになるまで実力のあるデュエリストの下について現場を回るんだけど……って、結婚しに来たって選択肢は無視かよ!」
「おーい!二人ともこっちこっちー!」
 二回の展示場を歩いていると彩矢は何かを見つけたらしく、二人に手を振っている。それを見て二人は彩矢の傍へ駆け寄った。
「ね、これを見てよ」
 彩矢が指を指したのは、恐竜の羽根の化石のようだった。翼竜の羽根のようなものが完全に近い形で展示されている。
「恐竜の化石ですか?」
「恐竜、好きなの?」
「違うわ。説明をよく見て」
 彩矢に言われて二人はそこに書かれた説明を読む。二人が化石だと思っていたのはプライズらしく、『龍の翼』だと書かれていた。今はプライズの展示を行っているのだから、よく考えれば恐竜の化石が展示されていないのは当たり前である。
「へぇ、『龍の翼』ねぇ。でもこれって、ドラゴンの化石かなんかなの?」
「詳しい事は判っていないわ。でもね……」
 彩矢はそう言って声を低くすると周囲を見る。周りに人が集まっていないのを確認すると、二人にもっと近づくよう、手で指示する。
「これみたいに龍のプライズって呼ばれるようなプライズはいくつかあって、それを全部手に入れたら……願いが何でもかなうらしいのよ!」
「な、なんだってー!!」
 陸が驚き、一歩後ずさる。そのリアクションがオーバーだったのと、声が大きかったせいで彼は周りの見物客から批難の視線を浴びせられるのだった。周りに頭を下げた後、陸は再び、話の輪に加わる。
「願いが何でもかなうってマジ?」
「嘘よ」
 顔を乗り出して聞いた陸に対して、彩矢は笑顔で答える。その答えに陸は大きく口を開けて呆れた顔をしていた。
「あはは。願いが何でもかなうっていうのは嘘だけど、実際、それくらいすごいプライズなのは間違いないと思うわ」
 軽い声でそう言うと、彩矢の視線は再び『龍の翼』に向かった。陸達と雑談している時とは明らかに違う真剣さを纏った視線で、話題にしているプライズを見る。
「蓄積されている魔力の量が普通のプライズとは比べ物にならない。全部手に入れたら、何でもできるくらいの魔力は充分手に入るわよ」
「マジで……?」
 彩矢の気迫に気圧されながら、陸は静かな声で聞く。彩矢は彼の問いに無言で頷いた。
 陸と湊の視線は、改めて『龍の翼』に注がれる。魔力を失った二人には、そのプライズがどれほどの魔力を持っているのかは判らない。それを見て二人が思う事は一つだった。魔力を取り戻して、また戦いたい。
「龍のプライズって、他にはどんなプライズがあるんですか?」
 しばらく『龍の翼』を眺めていた湊が彩矢に聞いた。
「まだ『龍の翼』しか判っていないわね。龍のプライズ自体が謎に包まれている部分が多くて――」
 そこまで彩矢が説明した時、館内に乾いた音が響いた。運動会などで聞こえるピストルの音。それに似た音がその場にいた三人の耳を貫く。
「上にいる奴ら、降りて来ぉい!」
 男の怒鳴り声に続いてもう一発。それと少し遅れて悲鳴のような声がいくつも聞こえる。
「行ってみよう」
 陸がそう提案すると、他の二人も頷き、下へ降りるため階段へ向かった。

「俺は休んでいいって言われたはずなんだがな」
 征市は吐き捨てるようにそう言うと、目の前にある魔法警察のオフィスを見た。目の前にいる怪人が右手で持ち上げていた警官を投げ捨てる。近くのデスクに叩きつけられた警官は力なく倒れる。
『すいません、相羽さん。ですが、今、この怪人と戦えるのは相羽さんだけでして……』
「判ってるよ、菜央。すぐに終わらせる」
 征市はそう言うと、菜央との通話を終え、携帯電話をしまってその怪人を見る。キメラ男とほぼ同じ姿の怪人が彼と対峙していた。
『来たわね、相羽征市っ!蘇った最強の怪人、キメラ男二号ちゃんでやっつけてやるわっ!』
「小僧、覚悟しろ」
 スピーカーを通したような声でキメラ男二号が言うと、白い仮面が割れた。中からはつり上がった目をした骸骨に必要最小限の肉を張り付けた顔が出てくる。仮面が床に落ちる音で我に返る時まで、征市は驚きの表情でその顔を見つめていた。
「驚くのはこれからだ。見ろ」
 キメラ男二号はベルトの腰部分からデッキケースを取り出す。そのデッキを見て、征市は思わず手を伸ばした。
「俺のデッキか……!」
「そうだ。自分のデッキで死ね」
 キメラ男二号がデッキケースからデッキを取り出し、五枚のシールドを展開する。それを見て征市は懐からマッチを取り出して一本擦る。その炎が征市の手の上で爆発を起こしたように一瞬だけ大きくなり、すぐに消えた。否。炎の中から赤い革のデッキケースが現れたのだ。デッキケースから四十枚のデッキを取り出した征市が目の前に五枚のカードを投げた時、それらのカードはキメラ男二号のシールドと同じように赤いシールドとなって征市を守るために姿を変えた。互いに睨みあった後、デュエルが始まる。
「《幻緑の双月(ドリーミング・ムーンナイフ)》!」
「《フェアリー・ライフ》!」
 互いにマナを増やすカードが最初に出た。キメラ男二号の《幻緑の双月》によって、キメラ男二号の手札が一枚、緑色の光を発しながらマナゾーンに落ち、征市の山札の上のカードが一枚マナになった。
「そのデッキも奪い取る。《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》召喚!」
 カードが緑色の光を発しながら《青銅の鎧》に姿を変える。そして、キメラ男二号のマナがさらに増えた。その直後、《幻緑の双月》が床を蹴って飛び、持っていた槍で征市のシールドを一枚切り裂いた。
「まずは一枚。ゆっくりしている時間などないぞ?」
「そうみたいだな。じゃ、一気に決めるぜ!」
 征市の声と共に、ブレイクされたシールドから赤い光が漏れ、それが上空に金属の塊を作る。門のような形をしたその金属の塊は、上から圧力をかけて《幻緑の双月》と《青銅の鎧》を押し潰した。
「シールド・トリガー《地獄スクラッパー》だ」
 キメラ男二号のクリーチャーが全滅したのを見て、征市は歯を見せながらいやらしく笑うとカードを引き、一体のクリーチャーを場に出す。
「《青銅の鎧》召喚!」
「何!?」
 征市が場に出したのはキメラ男二号と同じ、《青銅の鎧》だった。これによって征市のマナはキメラ男二号と同じ五枚になった。
「まだ始まったばかりだぜ。お前にはそのデッキは使いこなせないって事を教えてやるから早くしろよ」
『きーっ!生意気なっ!キメラ男二号ちゃんっ!やっちゃいなさいっ!』
「了解です。マスター」
 キメラ男二号は、赤く血走った目で征市を睨みつけるとカードを引いた。

 陸達三人は、博物館に来ていた他の見物客と一緒にロビーで一箇所に座った状態で集められていた。陸だけでなく、全員の目が拳銃を持った一人の若い男に集まっている。
「見てんじゃねぇ!」
 そう言って、男は銃を天井に向けて撃つ。男は短気な性格らしく、何かあるとすぐに銃の引き金を引いている。見るな、と言われても、男がいつ銃口を自分達に向けて引き金を引くか判らないので、どうしてもそちらに目が向いてしまうのだ。
「奇妙な銃ね」
 彩矢が近くにいる陸と湊にしか聞こえないような小さな声で話す。二人がその言葉に反応して彩矢を見る前に、彼女は「気づいていないふりをして」と、命じた。彩矢は陸の背中に隠れるようにしているので、男からはよく見えていない。
「いい?アタシの言う事を聞いて。耳だけはこっちに集中して、他の部分は普段通りにして。相手に何か企んでいる事がバレないように演技してね」
 念を押すように何度も注意してから彩矢は銃が奇妙だと言った事についての解説をし始めた。
「あの銃、リボルバーなのにもう十発近く撃っているわ」
 彩矢に言われて陸は男が持っている銃を見た。彩矢が言うように、弾倉が回転するリボルバーのようだった。それを見て征市や湊と共に行った西部劇の映画の世界を思い出したが、今は関係ない。
「リボルバーならば、弾がなくなっているはず。なのに、まだ撃ち続けているし、弾切れを気にしているようにも見えない。多分、プライズね。弾道が変化するとかそういった事に使っていないから、魔力がないような普通の人でも使えるタイプ。弾の代わりにプライズが要求しているのは、使用者の寿命」
 リボルバーを見ながら、彩矢は淡々とした口調で解説している。陸は、買い物をする時にはしゃいでいた少女と自分の後ろでプライズを観察している少女が本当に同じ少女なのか信じられなくなった。
「人質がこんなに大勢いるんじゃ仕方ないわね。アタシがうまく引きつけるから、隙を見計らってどこかに連絡してね」
「え?どこかって……」
 陸の疑問に答える前に彩矢は、人質達の中から抜け出すと陸を指差して
「イヤーッ!チカーン!!」
と、その場に響き渡る大きな声で叫んだ。
「えっ!?ええっ!?僕やってないよ!まだ、何もやってない!湊君だって見てたよね!?ね?」
 陸は顔の前で両手を振って否定する。しかし、湊も
「陸さん……。見損いました!」
と、言って腕を組んで陸を睨む。
「嘘言わないでくれよ~。僕、痴漢なんかしてないって……」
 陸は、周囲の人に睨まれながら泣きそうな顔で彩矢を見る。彩矢は両目に涙を浮かべて陸を見て「ケダモノ……」と弱々しい声で呟き、その場に座り込んだ。
「ごちゃごちゃうるせぇっ!!」
 人質が勝手に動いた事が気に入らないのか、男は彩矢に銃口を向けると即座に発射した。続けて二発目が発射される。だが、銃口から出たはずの二発の弾丸は彩矢に届く事はなかった。彼女の前にある二枚のカードが弾丸を受け止めていたからだ。二発の弾丸が地面に落ちる音をグレーのカーペットが吸収する。
「デュエル・マスターズカード!?」
 彩矢を守ったそのカードの存在に湊が反応する。青い裏地のそのカードは陸と湊が見慣れたデュエル・マスターズカードだ。彩矢は自分の目の前にある二枚のカードを手に取ると振り返って陸を見た。そして、目の前で手を合わせる。
「手伝ってもらっちゃってごめんね!みなさーん、この人は痴漢じゃないですよー!注意をこっちに逸らすためのお芝居ですよー!」
「じゃ、陸さんは本当に痴漢じゃ……」
「だから、僕は無実だって言ってるじゃないか!勘弁してくれよ……。今のご時世、痴漢の冤罪って洒落にならないよ……」
 陸はそう言って肩を落とした。
「あ、でもさっき『まだやってない』って言ったでしょ?まだって事はこれから何かいやらしい事するつもりだったのかな~?」
「しないしない!絶対にしない!」
「そうね。アタシもさせない。君、アタシのタイプじゃないし」
「ひでぇ!」
「それに、結婚するって決めている人がいるから!」
 彩矢はそう言うと頬に手を当てて「キャッ!言っちゃった!」と言ってその場で何度か飛び跳ねた。
「俺を無視するんじゃねぇ!!」
 彩矢の余裕に逆上したのか、男は彼女の背中に再び、発砲する。しかし、それらの銃弾もデュエル・マスターズカードによって防がれる。
「悪いわね。じゃ、今からじっくり反省させてあげるわ」
 彩矢は男がいる方向に振り向いた。彼女の真っ直ぐな視線に射抜かれた時、男は居心地の悪さを感じ、数歩、後ずさる。
「こんな子供に嘗められてたまるかよ!」
 男は懐に手を入れた。別の拳銃を取り出すのかと思ったが、そうではない。懐から取り出したのは、デッキケースだ。
「それ、僕のデッキだ!」
 湊はそれを見て愕然とする。それを横目で見た彩矢は「ふーん、何だか囚われのお姫様を取り戻すみたいな気分ね」と、呟くと右手を前に出す。赤い光がその手を包み、光が消えるとその手には赤いデッキケースが握られていた。下には日本刀のようなストラップがついている。
「大丈夫。湊ちゃんのデッキは悪い事には使わせないから、安心して。それより、他の人達の避難を頼んだわよ!」
 彩矢は、後ろにいる陸と湊にそう告げるとデッキケースの中からデッキを取り出す。同じタイミングで男もデッキを取り出した。彩矢の前に五枚の赤いシールドが現れ、デュエルが始まる。
「あなたもデュエル・マスターズカードを持っているなんてちょっと驚いたわ。でも、実力は大違い。世界一強い女の子が最強の強さを教えてア・ゲ・ル♪」
 右手で持ったカードを扇のように仰ぎながら彩矢が笑顔で話しかけ、ウインクする。それを見ながら、男はクリーチャーを召喚した。
「《ポッポ・弥太郎・パッピー》召喚!」
 兜をかぶったファイアー・バードが場に出る。サムライが破壊された時、その命を身代りに捧げる事で助ける《ポッポ・弥太郎・パッピー》だ。そのカードを見た彩矢は特に驚く事もなく
「ふぅん、データ通りね。サプライズがなくてちょっと残念」
と、言ってカードを引く。そして、《幻緑の双月》を召喚し、一枚のカードをマナに置いた。場に出た《幻緑の双月》は彩矢を見上げるとキューキューと小動物のような高い声で口を震わせて鳴いた。
「ん~、なんてかわいいのかしら!やっぱりかわいいクリーチャーが一番よね!おまけにこれもあげちゃう!」
 そう言って彩矢は今、追加したばかりのマナをタップすると、場に一枚のカードを投げた。青い光と共に巨大な機械の手のようなクロスギア《助太刀メモリー・アクセラー》だ。クロスギアの中でも最軽量の1コストであり、クロスしたクリーチャーが攻撃する時、一枚引く能力を与える。
「クロスギアもクロスしてなきゃ、意味がねぇ!出ろ!《ビワノシン》!」
 男は、二体目のクリーチャーとして《風来の股旅ビワノシン》を選択した。クロスギアがクロスされていれば、攻撃した時に山札からサムライのカードを探して入手できるクリーチャーだ。さらに、男は《ポッポ・弥太郎・パッピー》で彩矢のシールドを一枚ブレイクする。
「意味がない、ねぇ……。確かにその通りだわ。でもね」
 彩矢は冷静な表情でそのカードを手札に加えると、カードを引いて行動を開始した。
「クロスしていても……いえ、持っていても使いこなせなくちゃもっと意味がない。宝の持ち腐れって言葉、知ってる?」
 彩矢は笑いながら、上目遣いで男を見る。その言動に苛立ちを感じながら、男は奥歯を噛みしめた。
「そんな怖い顔しないの。それじゃ、行くわよ!」
 彩矢は《青銅の鎧》を召喚してマナを増やし、さらに《メモリー・アクセラー》を《幻緑の双月》にクロスした。
「《幻緑の双月》でシールドを攻撃!そして、ドロー!」
 《メモリー・アクセラー》の巨大な手が山札の上に飛び、カードを一枚引く。そして、それを彩矢の手元まで持って来た。彩矢は「ありがと」と言ってそのカードを見る。
「やったー!いいカードが来たわ!」
 そう言って、その場で数回飛び跳ねた後、男を見て「あ、これ秘密にしておいた方がよかったかも」と、呟いた。
「嘗めやがって!後悔させてやる!」
 シールドをブレイクされた男は、それを手札に加えて次の行動に移った。

「《ギガ・ホーン》召喚!」
 キメラ男二号は、今、呼び出した巨大な角を持つ四足の獣《鳴動するギガ・ホーン》によって手札に《ボルシャック・大和・ドラゴン》を加えた。
 キメラ男二号の場には《ギガ・ホーン》以外に《無頼勇騎ゴンタ》が二体いる。さらに、マナも手札も大量にあるため、《ジャガルザー》と同時に別のクリーチャーを出す事も可能だ。
「やべぇな……。今まで使っていたデッキだけあって、どこがどうまずいのかよく判るから余計に怖い」
 征市のシールドは残り二枚だ。場には、《紅神龍バルガゲイザー》と《コッコ・ルピア》が一体ずつ立っていた。
「ならば、次のターンで消してやる。《ゴンタ》でシールドブレイク!」
 二体の《ゴンタ》が持っていた槍で征市のシールドを貫く。砕け散ったシールドの破片はカードの形を形成すると征市の手札に戻る。
「《ゴンタ》と《ギガ・ホーン》を除去するか?それでも手札にある《ボルシャック・大和・ドラゴン》がお前を狙うぞ」
『その通りよっ!観念しなさいっ!』
 キメラ男二号の二枚のシールドを見ながら、征市は静かに息を吐いた。そして、キメラ男二号の血走った目を見る。
「なあ。お前、俺のデッキ見たんだよな?《ボルシャック・大和・ドラゴン》と《紅神龍ジャガルザー》ってどっちが強いと思う?」
 思いがけない質問を受けてキメラ男二号は「何?」と聞き返す。
「だから、《ボルシャック・大和・ドラゴン》と《ジャガルザー》だよ。お前はどっちが強いと思う?」
「決まっている。単体でスピードアタッカーになれる《ボルシャック・大和・ドラゴン》だ」
『そうよっ!判り切った事を聞くんじゃないわっ!』
 それを聞いた征市は「そうか……」と呟き、前髪をかきあげる。
「やっぱ、お前にそのデッキを使うのは無理だ。《ジャガルザー》の強さを理解していないんだからな」
「なんだと!?」
 征市は、キメラ男二号を見ながらカードを引く。そして、一枚のカードを手札の中から引き抜いた。
『何よっ!《ジャガルザー》なんて、他のクリーチャーに頼らなくちゃスピードアタッカーになれない半端者じゃないっ!』
「確かに半端者に見える。だけど、こいつは、自分だけがスピードアタッカーになるんじゃない。他の奴にもきちんと恩恵を与えてくれるいい奴だぜ!」
 征市の手から切り札が離れる。赤い鱗で身を包んだ龍、《紅神龍ジャガルザー》だ。
「《ジャガルザー》を召喚してさらに《無双竜機ドルザーク》を召喚!」
 体中に機械でできた武器を装備した龍《ドルザーク》が《ジャガルザー》の隣に立ち、雄たけびを上げる。これで、征市の準備は整った。
「《バルガゲイザー》でキメラ男二号のシールドを攻撃!」
 《バルガゲイザー》が甲羅のように硬い鱗をうねらせながら動き出す。そして、《ドルザーク》の胴体についていた龍の頭部の口が開き、そこから光線が発射された。光線は《ギガ・ホーン》を焼き尽くすとカードの姿に変えてマナゾーンに送りこんだ。
『しまったっ!《ドルザーク》の特殊能力ねっ!』
「ああ、そうだ。《ドルザーク》が場にいる時、他のドラゴンが攻撃すればパワー5000以下のクリーチャーをマナに叩きこむ事ができる。さらに……!」
 征市の右手が赤く輝いた。征市がその手を山札の上にかざすと、一番上に乗っていたカードが赤い光を発して場に飛び、龍へと姿を変えた。場に現れたのは、二体目の《バルガゲイザー》だ。
「《バルガゲイザー》は攻撃する時に山札の上のカードをめくり、ドラゴンだったらコストを払わずに場に出す能力を持っている!」
 《バルガゲイザー》はその巨体をうねらせてキメラ男二号のシールドに体当たりした。壁が砕け散り、カードがキメラ男二号の手札に戻る。それと同時に、征市のクリーチャーが全て赤い光を発した。
「何が起こった!?」
 キメラ男二号が驚くのを見て、征市は呆れたような顔をして深いため息を吐いた。
「お前、本当に《ジャガルザー》の能力を知らねぇのか?他のクリーチャーがシールドをブレイクした時に発動するターボラッシュ。《ジャガルザー》の場合、俺のクリーチャー全てをスピードアタッカーにする」
 それを聞いてキメラ男二号が呻きながら《ジャガルザー》を見た。
「《バルガゲイザー》でシールドをブレイク!《ドルザーク》の効果で《ゴンタ》をマナゾーンに!」
 《ゴンタ》が《ドルザーク》の光線によって跡形もなく消え失せ、《バルガゲイザー》の効果で《翔竜提督ザークピッチ》が場に出る。《バルガゲイザー》のシールドブレイクによって《ザークピッチ》もスピードアタッカーになった。
 キメラ男二号は、思わず砕けていくシールドに手を伸ばす。しかし、手を伸ばしたところでその崩壊は止まらない。シールド・トリガーが出ずにそのシールドは手札に戻った。背筋に寒気を感じて前を見ると、征市が歯を見せた笑顔でキメラ男二号を見ていた。その間に割って入るように《ジャガルザー》が現れる。
「嘘だ……。二度も同じ男に負けるなど……」
『嘘よっ!嘘嘘嘘嘘嘘っ!』
「嘘じゃないぜ。『ウソのようなホントウ』って奴だ。《紅神龍ジャガルザー》でとどめだ!」
 《ジャガルザー》が口から吐きだした炎にキメラ男二号の肉体が包まれる。火ダルマになったキメラ男二号は、ふらつきながら後ろに下がると、その場に倒れて爆発を起こした。征市は自分のデッキをデッキケースに戻すと、キメラ男二号によってコントロールされていた自分のカードを手に取った。それらのカードを全部拾うと金属製のデッキケースにしまう。
「帰ってきてくれたな。これからもよろしく」
 征市がデッキケースに向かってそう呟くのと同時に、彼のジャケットの中で携帯電話が着信音をうるさく鳴り響かせる。菜央からの電話だった。
『相羽さん、未来地区の博物館に拳銃のプライズを持って暴れている人物がいるようです。陸君と若月さんがその場にいたらしく、報告がありました。デュエル・マスターズカードを扱えるらしいので、行ってもらえますか?』
「何だって!?二人は大丈夫なのか?」
『ええ……。どうやら、デュエリストが一人いたらしく、その方が戦っています』
「誰だか判らないが、ありがたいな。行ってみるよ。着いたら連絡する」
 征市はそこで通話を終えると、部屋を出た。

「《ハルサ》!ぶっ潰せ!」
 仏像のように台座に座っている巨人《大神秘ハルサ》が振った杖によって彩矢の《戦攻竜騎ドルボラン》がマナに送られてしまう。さらに、《ハルサ》の突きによって彩矢の二枚のシールドがブレイクされる。男は攻撃を終了してターンを終了した。
「ちょっと、これはヤバいんじゃないの?」
 人質の避難を終え、博物館に戻ってきた陸は彩矢の場を見てそう感じた。湊も同じように不安そうな目でその場を見ている。
 彩矢のシールドは今の攻撃で全滅した。相手の切り札《大神秘ハルサ》を倒せるようなクリーチャーはない。場にいるクリーチャーは《ボルット・紫郎・バルット》一体のみだ。これでは、男のシールド二枚をブレイクしてとどめを差す事はできない。
「勝ったわ」
 陸と湊が見守る中、彩矢ははっきりした声でそう言った。彩矢以外の人物は全員耳を疑う。
「現実逃避か!馬鹿が!謝っても許してやらねぇぞ!」
「それはこっちの台詞よ。召喚!」
 彩矢の手札にあった一枚のカードが赤い光を発しながら、場へ飛び出す。そのカードから発せられる明るい赤の光に、陸と湊は思わず目を閉じた。しばらくして目を開けると、そこには、二本足で立つ一体の龍がいた。鮮やかな赤い鎧を身に纏った二刀流のドラゴンだ。
「アタシの切り札、《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》よ。W・ブレイカーだから、今あるシールドは全部ブレイクできるわね」
 静かにそう呟いた彩矢は、自分が呼び出した切り札に攻撃を命じる。
「《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》でW・ブレイク!」
 その命令を聞くとすぐに《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》が左の刀を振るう。その横薙ぎによって男の二枚のシールドは崩れ落ちた。
「馬鹿な!召喚酔いはどうなった!?」
「《ボルット・紫郎・バルット》が場にいる時、《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》はスピードアタッカーになるのよ。この子をマナに送っておけばよかったわね♪」
 彩矢が男に微笑みかけると、《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》が右の刀を強く握り、男に近づき、刀を振り上げた。
「こいつ、俺のシールドを攻撃したじゃねえか!何で、まだ動けるんだよ!?」
「《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》は二回攻撃できるドラゴンなのよ!ずるい?そんな事はないわよね?」
 彩矢は、満面の笑みを浮かべてこう言った。
「だって、世界一強い女の子の切り札なんだもんっ!」
 博物館の建物全体に響く振動と共に、《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》の刀が男に叩きつけられる。突然、現れた少女の実力を見て、陸と湊は驚き口を開けていた。彩矢は、男が持っていたデッキを拾うと湊に近づき、それを握らせる。
「もう悪い奴に取られちゃ駄目よ?」
「ありがとう……ございます」
 湊はそう言うと顔を伏せ、両手で強く自分のデッキケースを握った。
「陸!湊!」
 それからしばらくして、征市が入ってくる。走って来たせいか、肩で息をしていた。
「無事だったみたいだな。よかった。……あんたが二人を助けてくれたのか?ありがとう」
征市は二人の無事を確認すると、彩矢に近づいた。征市の顔を見ていた彩矢は突然、征市に抱きつく。
「お、おいっ!いきなり、なんだよ!?」
 彩矢は、抱きついたまま顔を上げ、慌てる征市に目を合わせた。その視線に魅入られ、征市は息を飲んだ。
「初めまして、相羽征市さん。あなたの嫁になる女、一ノ瀬彩矢と申しますわ♪」
「え……?ん?えぇーっ!?」
 征市は、彩矢の言っている事が理解出来ず、一瞬だけ考え込む仕草をしたが、その後、言っている事を理解しその内容に驚き、叫んだ。
「馬鹿な!こんな美少女がセーイチさんごときに奪われるなんて最悪だ!結婚なんて父さんは認めんぞ!」
 陸はそれを聞いて混乱したらしく、おかしな事を言っている。湊も驚き、目を見開いて征市と彩矢を見ていた。
「つまり、婚約者という事になります。これからよろしくお願いしますね、旦那さま♪」
「だ、だだ、旦那さまぁ!?」
 裏返った声で征市が聞き返す。
 美少女に抱き締められて求婚されるという、多くの男性が羨むようなシチュエーションの中で、征市はこれが夢であって欲しいと強く念じるのだった。

 『File.22 双子のプライズ』につづく
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