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『コードD』File.22 双子のプライズ

『コードD』
 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 キメラ男との戦いから二週間が経った。トライアンフの戦力は相羽征市(あいばせいいち)のみという厳しい現状を打破するため、貴田一真(たかだかずま)はトライアンフアメリカに応援を要請する。
 魔力を失った遠山陸(とおやまりく)と若月湊(わかつきみなと)の前に、トライアンフアメリカの一ノ瀬彩矢(いちのせあや)が現れる。トライアンフ事務所への道案内を二人に頼んだ彩矢は事務所へ行く前に未来地区へ寄る事に決め、二人と連れて未来地区に向かった。未来地区の博物館で三人は拳銃のプライズを持った男が暴れているのを発見する。彩矢は機転を利かせて人質を逃がし、デュエル・マスターズカードを使って男を倒すのだった。
 魔法警察のオフィスで暴れていたキメラ男を倒した征市が博物館に着く頃には、全てが終わっていた。彼はそこで彩矢に「未来の旦那さま♪」と言われて抱きつかれるのだった。

  File.22 双子のプライズ

 彩矢は、目を覚ますとベッドから体を起こし、まだ目覚めていない頭を振り眠気を追い払おうとする。ベッドサイドに設置されたデジタル時計は六時五十分を表示している。アラームをセットした時間の十分前に起きた計算になる。
 その場で大きく体を伸ばし、バスローブを羽織り直す。そして、ベッドサイドの電話に手を伸ばして受話器を取ると、欠伸をしながら番号を押した。
「あ、おはよう。そっちはどう?」
『おはようという時間じゃない。こっちは夜だ』
 受話器から流暢な英語で若い男の声が聞こえてくる。相手の表情を想像して、彩矢はくすくす笑った。
「こっちは、いい朝よ。当たり前よね。だって、未来の旦那さまに会えたんだから♪」
 彩矢は、そう言うとベッドの上でバタ足でもするかのように足を激しく動かし、両手で枕を抱き締めた。電話の向こうにいる若い男は、『Ah』とも『Oh』とも聞こえるような軽い溜息の後、質問を始めた。
『その様子だと、相羽征市には接触できたようだな』
「まだキスしていないから接触していないとも言えるわね。今日の目標は、二人で一緒にデートする事よ」
『……切るぞ。電話代もタダじゃないんだ』
「嘘よ、嘘!冗談。ちゃんとトライアンフのメンバーと会えたから心配しないで」
 昨日、未来地区の博物館での戦闘を終えた後、彩矢は征市達と共にトライアンフ事務所へ向かった。彩矢は、一真がトライアンフアメリカに応援を要請する前から日本に来て、トライアンフのメンバーのサポートをする事が決まっていたのだ。しばらくトライアンフのメンバーとして彼らと共に戦っていく事を説明し、彩矢のファーストコンタクトは終了し、予定通り予約していたホテルに泊まったのだ。
『お前の目から見て、どう思う?』
「実物の征市さんは写真よりももっと格好よかったわ!それは想像通りだったけどね。それと、キメラ男のせいで組織がガタガタになっているのは間違いないわね」
 前半は恋する乙女のように弾んだ口調で、そして後半は冷静に状況を分析しながら淡々と事実だけを述べるような口調で言った。
『キメラ男が与えたダメージは、我々が思っていた以上に深いか』
「そうね。デッキは取り戻したけれど、魔力がないって事が心を不安定にしているみたい。だから、仕入れてきた秘密兵器には期待しているわよ♪」
『イギリス製に期待などするな』
 通話口の向こうで同僚が吐き捨てるように言ったのを聞いて、彩矢は思わず噴き出しそうになるのをこらえた。
「はいはい。でも、こういう魔法薬はイギリス製が一番信頼できるでしょ?」
『信頼性はともかく、味が最悪だ。奴らは味覚が狂ってやがる!』
「そう言わないの。それじゃ、明日の朝、かけるからね」
『しつこいようだが、こっちは夜だ』
 彩矢は、電話を切るとスーツケースを開けて中身を確認する。様々な荷物の他に、栄養ドリンクのような小さな瓶が三つ入っていた。彩矢は、それと一緒にプラスティックのケースに入ったファイルを取り出す。そのファイルの表紙には『トライアンフジャパン吸収計画』と書かれていた。

 夢。
 夢の世界にいた。
 魔力を失った湊は、もうここに来る事はないと思っていた。だが、魔力と予知夢を見る力は別なのか、今も湊は夢の世界にいる。
 湊が何もないこの世界を何もせずに眺めていると、腕を引っ張られた。右腕と左腕を両方引っ張られている。引っ張っているのは湊よりも少し小さいくらいの和服を着たおかっぱの少女だった。双子らしく、右腕を朝顔の花のような青い着物の少女が、左腕を夕焼けのように赤い色の着物を着た少女がそれぞれ引っ張っている。
 双子の少女に引っ張られて湊は歩き出す。しばらく歩くと二人は止まった。彼女達の視線の先に自分と瓜二つの少女が立っている。何も言う事はないが、何かを期待しているような視線で湊を見ていた。
「助けて」
 双子の少女が声を揃えて湊に頼む。だが、湊は静かに首を横に振った。
「助けて」
 双子の少女が再び、湊に頼む。湊は手を震わせながら答えた。
「僕には、できない……。もう魔力がないんだ。だから、戦えない。もう哀しいプライズを助ける事はできないんだ」
 それを聞いて、双子よりも瓜二つの少女が悲しむ。湊の顔を見ていた少女は、彼から目を逸らし、下向きの視線で目を合わせないようにしていた。
「助けて」
「だから――」
 湊が再び、説明しようとして声を荒げた時、青い着物の少女が足元から消え始めているのが見えた。
「助けて。助けてくれないと、消えてしまう。あのぐちゃぐちゃの中に飲まれてしまう」
「あの……ぐちゃぐちゃ?」
 双子は、湊が言葉を反芻するのを見て首を縦に振った。
「私達が飲みこまれてしまう。だから……」
 青い着物の少女は今、下半身が全て消えてしまった。その間、湊の目を見て助けを求める。
「飲み込まれる前に早く……」
 青い着物の少女が消えた瞬間、皿が地面に叩きつけられるような音を聞いた。
 はっとした湊が周りを見ると、そこには誰もいなかった。今までいたはずの自分と瓜二つの少女も、赤い着物の少女もそこにはいない。
「それでも……魔力がないと戦えない。戦えないんだ」
 魔力。それだけではなかった。
 キメラ男の圧倒的な力。それを見せつけられた事によって心に巣食った恐怖。それが心を支配する限り、湊は前に進めない。
「プライズの声が聞こえても、僕は何もできない」
 湊はその場で立ちつくしていた。目を閉じれば、その場で哀しいプライズが泣く声が聞こえる。それらのプライズを助けるのが自分の使命だったはずだが、動けない。
「助けて……」
 和服の少女の声が響き、世界が白い光に包まれていく。
「僕には、無理だよ……」
 夢から覚醒する瞬間、湊はそう言っていた。

 征市は、リビングで紅茶を飲みながら昨日出会った少女、彩矢について考えていた。
 いきなり、征市に飛びついて「婚約者になる」と発言した彩矢。後から聞いた話だが、彼女はデュエリストらしく、博物館に現れた男から人質を助けたのだ。
「トライアンフアメリカからの応援、か……」
 一真は昨日、トライアンフアメリカから応援を要請したと言っていた。彩矢は、応援の要請が来る前から日本に来る準備をしていたらしい。トライアンフアメリカも日本の状況が判っていたから応援の準備をしていたと、征市はそう解釈していた。ただ、菜央は「そんな簡単な話ならいいんですが……」と、不安そうな顔をしていた。
『征市、上機嫌だな』
 征市の頭上を肖像画のプライズ、二号が飛び回る。征市は、カップに口をつけた後、「まあね」と返した。
「トライアンフアメリカから応援が来たんだ。ここんとこ大変だったけれど、これで少し落ち着くはずだ」
『ああ。巨乳のねえちゃんで、抱きつかれて顔赤くしてたって噂聞いたけれど、あれやっぱりお前だったのか』
「ばっ……馬鹿言ってんじゃねぇ!つーか、誰がそんな事言ってんだよ!?」
『近所の猫』
「……うー」
 征市は、言い返そうとして頭の中で言葉を組みたてようと試みるが、抱きつかれたのは事実なので否定できない。
『よかったな、征市。頼りになるデュエリストで、しかも巨乳で美人のねえちゃんなら言う事なしだろ?』
「うるせぇよ」
 二号の下品な笑顔を無視して征市はカップの中の液体を飲む事に集中する。だが、二号が『押し当てられた時、どんな感触だった?』としつこく聞いてくるため、昨日の事を思い出して意識がその事に集中してしまう。
「うるせぇって言ってんだろ!」
 征市が音を立ててカップを置いた瞬間、家全体に爆発音が響いた。揺れたため地震かと感じたが、揺れは一瞬で収まった。征市と二号は顔を見合わせる。
「聞こえたか?」
『ああ』
 征市の問いに答える二号の顔は、今までのように彼を茶化すような下卑た笑みを浮かべていない真剣そのものだった。
 二人は、何も言わずに爆発音が聞こえた場所へと向かう。音が聞こえたのは台所だった。爆発音が聞こえた後も、台所に変化はなかった。ただ、それは台所近くにある扉が開いているという点を除けば、の話である。
「開かずの扉が……」
 征市は口を開けてその扉を凝視している。開かずの扉の名が示すように、その扉は一度も開いた事がない。総一郎が住んでいた時もそうだったのかは判らないが、征市が住み始めてからは開く事はなかった。気になって開けてみようとしたが、どれだけドアノブに力を込めてもびくともしない扉なのだ。その扉が開き、蝶つがいがきいきいと耳障りな音をさせて動いている。
「ありえねぇだろ。今まで開かなかったんだぞ」
「うぅむ。確かに、開かずの扉が開くのって不思議ですよね」
「そうだね」
『全くだ。驚いたぜ』
「ああ、不思議だ」
 征市と二号は突如、聞こえてきた二つの声に返事をしながら扉を見る。そして、しばらくしてから振り返った。そこには、彩弓と彩矢が並んで立っていた。
「お前ら……。いつからそこにいたんだ?」
「何度呼んでも返事がないからあがらせてもらったんだよ!」
「返事がないなら入って来るなよ」
「いいじゃない。征市君、怒らないし。それに今日は妹を紹介しに来たんだ!」
 彩弓はそう言って、彩矢の腕を引く。彩矢は征市の前に立つと
「初めまして、相羽征市さん。一ノ瀬彩矢です。いつも姉がお世話になってます」
「あ、これはご丁寧に。こっちもいつもお世話に……。姉?妹?」
 聞き慣れない言葉を聞いたように征市はその単語を反芻し、二人の顔を見る。一ノ瀬彩弓と一ノ瀬彩矢。同じ苗字。
「彩弓。お前、妹がいたのか!?」
「うん、そうだよ。アメリカの学校に行ってるんだけど、夏休みだから、昨日から日本に来てたんだ!」
「へ~、アメリカの学校ね……」
 彩弓が説明をしている最中、彩矢は征市に目くばせをしていた。「話を合わせて」という意味だと考えた征市は適当に相槌を打つ。
「征市君!この絵、どうしたの?浮いてるし、しゃべってるよ!」
「よくできてるだろう。新しい手品グッズなんだ」
『俺をそんな玩具と一緒にするな!』
 二号は征市をしかりつけると、彩弓の目の前まで移動する。
『俺の名は相羽総一郎。征市のじいちゃんだ』
「征市君!行方不明のお祖父さん、見つかったの!?でも、絵になっちゃって……」
「二号、ふざけてないで説明しろよ」
『おう。任せとけ』
 そう言うと、二号は彩弓と話し始めた。彩弓の意識が二号に集中したのを見て彩矢は征市に近づく。
「話を合わせて下さってありがとうございました、旦那さま。これでいつ結婚しても大丈夫ですね♪」
「その旦那さまってのをやめてくれよ。……彩弓はお前がトライアンフアメリカにいるって事、知らないんだな」
「ええ、内緒です。あと、征市さんの婚約者っていうのも秘密です♪」
「俺、婚約した覚えはないんだけど……」
「あら、アタシと結婚したら色々素敵だと思いますよ?例えば……」
 彩矢は目を妖しく光らせると征市の右腕に腕をからめ、胸を押し付けてくる。昨日、感じたのと同じ感覚に征市は顔を赤らめた。
『こらーっ!征市、何やってんだーっ!俺の目が黒い内はそんな破廉恥なマネは許さんぞ!』
 それに気づいたのか二号が征市の前に飛び出し、彩矢は征市を解放する。
「ばっ……!馬鹿言うな!何もやってねぇよ!」
「ねぇ、それよりも扉の先に何があるか見てみない?」
 いつもマイペースな彩弓はここでも自分のペースを崩さず、きいきいと鳴る扉を動かして遊んでいる。既に彼女は入口に立っていた。
「人ん家で冒険するつもりかよ。……懐中電灯持ってくるからちょっと待ってろ」
 懐中電灯を持ってきた征市を先頭に、四人は扉の中に入る。扉の先にあったのは、地下へ降りる階段だった。征市は、懐中電灯で先を照らしながら一歩一歩階段を下りて行った。一歩ずつ降りるのに従って気温が少しずつ下がっていくのを肌で感じる。寒気を覚えるくらいだった。
「彩弓。妹さん、二号とか見て平気みたいだけど、怖がってないか?」
 征市は、ふと疑問に思った事を自分の後ろを歩いている彩弓に聞いた。彩矢がただの高校生の振りをしているのならば、二号を見て驚かないのはおかしい。
「大丈夫だよっ!だって、よく征市君が悪い奴らと戦ってるのメールしてるからっ!」
「何してんだよ!つーか、機密事項だぞ……」
 征市が呆れたように言った時、階段が終わった。近くに電灯のスイッチがあったのでスイッチを押すと、電気が通っていたらしく天井に吊り下げられた電灯に明かりが灯った。
「ワインセラーか」
 征市は、寒さの原因を理解した。開かずの扉に通じていた地下室はワインセラーだった。ワインは一本も残っていないが、立派な施設だけは生き延びていた。
「あ!これ見てよっ!」
 彩弓が部屋の中央にあるテーブルの上に置かれた木箱を見る。それを開けると、中にはデュエル・マスターズカードが大量に入っていた。征市が箱を手に取ると、ずっしりとした重さを感じる。
「二千枚はありそうだな」
 普段使っているデッキの厚さから征市はそう計算した。何枚か取り出してみると、征市が使った事がない貴重なカードやまだ見た事なないカードまで入っていた。
『思い出した!』
 カードを見る事に集中していた征市は、二号の声で我に返る。
『ここは、もしもの時のためのカードが保管してある部屋だ。総一郎がそういう部屋を用意したってのを聞いた事があるぜ!』
「じゃあ、俺がキメラ男に負けたから開かずの扉が開いたのか?」
『そうだな。ちょっと遅れたが、お前のピンチを感じ取ったんだろ。主人思いのいい部屋だ』
「ちょっとどころじゃないけどな……」
 そう言いながら、征市はカードを見る。木箱に入っているのはどれも強いカードだった。征市は、どこにいるのか判らない祖父に感謝していた。
 そこにいる全員でカードを見ていると、征市の携帯電話が鳴った。トライアンフ事務所からの着信だ。出てみると菜央の声が聞こえた。
『相羽さん。オフィス街の近くで、新手の怪人が暴れています。すぐに現場へ行ってもらえますか?』
「判った。すぐに向かう」
 征市は携帯電話を折りたたんで仕舞うと、
「出かけてくる。この後で事務所に行くかもしれないから、俺の帰りを待たなくてもいいぞ」
と、言って階段を駆け上った。

 湊は、学校帰りの道を歩きながら考えていた。魔力がないのに、見た予知夢とその中で悲しそうな顔をしていた自分と瓜二つの少女。あの少女は、湊がプライズを助ける事を期待しているのだろうか。
「無理なのに……。僕には、もう……」
 失ったのは魔力だけではない。敵に立ち向かう強い心も今の湊から失われている。デッキを手にすると、キメラ男が自分を追いかけてくるような恐怖が体全体を駆け廻るのだ。
 期待される事の重みとそれに応えられない自分に嫌気が差して溜息が出る。
「ねえ」
 子供の声を聞いて、湊は顔を上げる。そこには、夢の中にいたのと同じ赤い和服姿の少女が立っていた。少女は湊の目を見て彼の手を取る。
「助けて」
 そう言うと、少女は湊の手を引いて走り出した。湊は訳も判らず、それについていく。
「助けてって、どういう事?」
 走りながら湊は疑問を口にする。
「助けてくれるって教えてもらった」
 少女は質問に噛み合わない答えを返す。
 湊が再び質問をしようとして口を開くと、少女は足を止めた。まだ暑さが残る大気の中で、体を震わせている。
 湊が少女の視線の先にいる者を見ると、そこに怪人がいた。全が作り出した怪人らしく、腰には見慣れたバックルがついていた。胴体に四角い口のようなものがついていてそこから色々な物を吸い込んでいる。それ以外の部分は様々なスクラップでできている。吸い込まれた物が体の各部に移動して、怪人の体が大きくなっていった。目を形成しているサイズの違う二つのライトが交互に光る。
「あれ……」
 少女は震えながら、怪人を指す。正確には、怪人の肉体の一部となった物を指していた。左の腿を形成している部品の一つに、綺麗な白い和皿があった。青い朝顔の花が描かれた皿だ。
 恐らく、あれは和服の少女と同じように青い和服の少女の姿で湊の予知夢に出てきたプライズだ。双子のプライズを助けるために、和服の少女は湊に救いを求めたのだ。
「逃げよう」
 湊の言葉を聞いて、和服の少女は彼を見上げる。その視線には、湊を非難するような気持ちが含まれていた。
 しかし、少女が湊を非難するよりも先に怪人が湊を見つけ、近づいてきた。
『あら。トライアンフのデュエリストだわっ!ジャンク男ちゃん、やっちゃいなさいっ!今のあいつは魔力がないはずだわっ!』
「わがった」
 ジャンク男と呼ばれた怪人の動きは決して速くない。しかし、怪人の姿をキメラ男と重ねてしまった湊の足は動かなかった。
「ごろす」
 ジャンク男は腕を振り上げる。だが、ジャンク男は赤い何かに吹っ飛ばされて転がった。
「湊、無事か!?」
「征市さん!」
 征市はデッキを取り出すと、湊と少女を守るように立ちふさがった。そして、ジャンク男にデッキを突きつける。
「何企んでのか判らねぇが、ここで終わりにしてやるぜ!湊は、その子を連れて逃げろ!」
「はい」
 湊が去ったのを確認して、征市は視線をジャンク男に戻す。見ると、その隣には幻(げん)が立っていた。
「久し振りだね、相羽征市。僕らがカーニバルに送ったゲスト、喜んでもらえたかな?」
「喜ぶ訳がないだろ。丁度いい。その怪人を倒したら、次はお前だ!」
「そうはいかないよ」
 幻は口の端に笑みを浮かべると、懐から黒いチェス駒のプライズを投げる。チェス駒のプライズは、若い男の姿に変わるとデッキを取り出した。
「僕もジャンク男も君の相手をしている時間はないんだ。暇つぶしの相手は彼にしてもらってね」
 そう言うと、幻はジャンク男を連れてその場を立ち去った。征市が追いかけようとするが、チェス駒のプライズが行く手を阻む。
「そうかよ。まずは、お前をぶっ倒さなくちゃならないみたいだな。……行くぜっ!」
 征市の前に五枚の赤いシールドが現れてデュエルが始まった。

 それから数十分後。トライアンフ事務所には、本来のメンバーである一真、菜央、征市、陸、湊の他に彩矢と和服の少女がいた。
「幻が怪人を逃がしたか。確かに奇妙だな」
 征市の報告を受けて、一真が顎に手を当てる。今までならば、怪人でトライアンフのメンバーを倒そうとするはずだった。しかし、幻は戦う事よりも逃げる事を優先していた。
「セーイチさんをチェス駒のプライズで倒せると思ったんじゃないですか?嘗められてたんですよ、きっと」
「確かに奴なら俺らの事を嘗めてかかるくらいの事はしそうだけどな。でも、ポーンに俺の相手を任せると思うか?」
 征市は、陸に倒した黒いチェス駒のプライズを渡した。以前のトライアンフ事務所の襲撃事件で幻は様々なチェス駒のプライズをトライアンフのメンバーにけしかけた。その戦いを忘れていなければポーンのプライズで征市を倒せない事くらい予想できるはずだ。
「ジャンク男の準備が整うまでの時間稼ぎでしょうか?」
 菜央はそう言うと、パソコンの画面を全員に見せる。ジャンク男のデータは、一真が持ってきた過去の怪人のデータに残っていたのだ。
「何々……。様々な物を吸い込んで自分の体の一部にする。プライズを取り込んで魔力を増やし、最終的には生きた爆弾となって爆発する……。嘘だろ!?」
 征市は、そこに書かれたデータを読んで、幻の狙いが何なのか想像した。他のメンバーも同じ事を想像したらしく、気分の悪そうな顔をしていた。
「恐らく、ジャンク男に限界ギリギリまでエネルギーを蓄積してどこかで爆発させるのが幻の目的です。爆発のためのエネルギーが足りないから相羽さんにチェス駒のプライズをけしかけ、ジャンク男を逃がしたのでしょう」
「そんな……!」
 声を荒げたのは湊だった。予想外の行動に、その場にいた全員が驚く。
「急がないと。このままじゃ……!」
「何かあったのか?」
 湊の様子を心配して、征市が聞く。自分でも信じられないくらい熱くなっていた事を自覚した湊は、予知夢の内容とジャンク男の体に和服の少女の双子とも言うべきプライズが取り込まれている事を話した。
「くそっ!なんてひどい事をするんだ!きっとその子もここにいる女の子みたいに『将来、巨乳になれビーム』を使えば、数年後には立派な巨乳美少女になるのに!ダイヤの原石を誘拐するなんて許せないよ!」
 陸が拳を握って力説し、すぐに黒い手によっておしおき部屋に連れて行かれる。突如、現れた黒い手とおしおき部屋から聞こえる陸の苦悶の声に彩矢は驚き、せめて耳から入る情報だけでもシャットダウンしようと耳をふさぎその場にしゃがむ。
「こ、今回もひどい目にあった」
 陸がボロボロになりながらおしおき部屋から出てきてその場に倒れたのを見た後、彩矢は立ち上がる。
「判ったわ。そのプライズを助けたいのね?」
「……はい」
 彩矢に聞かれて、湊は一瞬迷った。助けたいと思っても、助ける力がないのだ。それに、ジャンク男の前に出たら、また足がすくんで動けなくなるかもしれない。しかし、恐怖心以上に和皿のプライズが消えてなくなってしまう事が許せなかった。
 湊の目に強い意志の光が灯ったのを見ると、彩矢は満足したように頷いた。
「征市さん、さっきの部屋にこの子を連れてってあげましょう」
「あの部屋か?」
 征市が聞き返すと、彩矢は「征市さんがよければ、の話ですよ」と付け足す。
「俺は別に文句はないよ。湊のデッキが強くなるなら、それでいいだろう。だけど、魔力はどうするんだ?カードを新しくしても、魔力が元に戻るわけじゃないんだぜ?」
「あ、それならだいじょぶです」
 彩矢はそう言うと、栄養ドリンクのような瓶を湊に渡した。ラベルの文字が英語で書かれている。
「トライアンフイギリス製の魔力回復ドリンクの試作品よ。どんな副作用があるのかよく判ってないけれど、魔力回復効果は抜群よ!」
「これを飲めば、僕の魔力は回復するんですね?」
 湊は彩矢に渡された瓶を見ながら言う。
「うーん……。副作用が怖いけれど、回復力は……」
 彩矢の説明を最後まで聞かずに湊は瓶の中の液体を飲み干す。
「副作用を恐れている時間はありません。僕は戦わなくちゃならないんです」
 湊は、征市と彩矢を見た。
「何か強くなるための作戦があるんですよね?よろしくお願いします」
 そういう彼の目は、キメラ男に敗北する前のように哀しいプライズを守る強さが溢れていた。

 幻は、再びオフィス街で暴れるジャンク男を見ていた。ジャンク男ならば、本来の目的を気づかれずに作戦を遂行できる。そう考えて全に作らせたのだ。
「本来の目的が終われば、生きた爆弾として使うんだけどね」
 幻は呟くと静かに笑った。それと同時に、ジャンク男の目のライトが交互に激しく光る。それを見て幻はジャンク男に近づく。
「見つかったか?」
「あっだ」
 ジャンク男は頷き、口の中に手を入れた。ジャンク男が体の中を探す様子を、幻は微笑みながら見ている。しかし、二人の人間の足音を聞いてその顔から笑みは消え、厳しい目で周りを見るようになった。
「ジャンク男、探しものは後だ!」
 幻はそう言って懐から二つのチェス駒を取り出し、地面に向かって投げつけた。チェス駒のプライズは幻の魔力を受けて二人の執事風の男へ変化する。
「幻!」
 幻の視界に征市と彩矢が入って来た。二人の姿を見て、幻は不快そうに舌打ちする。
「また邪魔しに来たのか。しつこいんだよ!」
 幻を守るように二人の執事風の男が立ちふさがり、デッキを取り出す。
 征市は苛立ちを隠さず、表情に出してマッチをする。マッチの炎が一瞬、巨大化してすぐに消える。それと同時に炎は赤い革のデッキケースへと変化した。彩矢の右手も赤い光を発して、その中から刀のようなストラップがついたデッキケースが現れる。合計二十枚のシールドが現れ、デュエルが始まった。
「これでいい。後は――」
「ぎゃっ!」
 征市達の様子を見て逃げるタイミングを計っていた幻の隣で、ジャンク男が奇妙な悲鳴を出して後ろに吹っ飛ぶ。幻はその悲鳴を聞きながら、吹っ飛ばされた怪人を追う一つの影を視界の隅で捉えた。湊が立っていたのだ。
「お前の相手は僕だ!」
 湊はそう言ってシールドを展開する。不意打ちとはいえ、魔法使いに攻撃を受けた事でジャンク男のプライドは傷ついた。目の部分のライトを赤く光らせながらデッキを取り出した。
「ぶっごろず!」
「待て!」
 退却を優先させようとした幻は制止させるために命令するが、怒りで冷静さを失っていたジャンク男はその命令を聞き入れずにシールドを展開した。
「ジャンク男……そいつを倒したら戻って来るんだ。いいね?」
 幻はジャンク男の説得を諦め、その場を去る。ベルトのバックルからは全が戦いをやめて逃げるように命令し続けているが、ジャンク男はそれが命令ではなくただのノイズ程度にしか感じていないらしく、時折、不快そうな顔をしながらカードを引いた。
「《ムルムル》!」
 ジャンク男が最初の召喚したのは、勾玉のような形で真横に細いマニピュレーターがついたクリーチャー《光陣の使徒ムルムル》だった。自分のブロッカーのパワーを2000上げるクリーチャーだ。《ムルムル》自体もブロッカーなので、他の《ムルムル》が出ればパワーが上がる。
「ブロッカーデッキか。だけど……!」
 湊はマナのカードを四枚タップし、手札の一枚にそのマナを全て注ぎ込む。緑色に輝くカードからは、腰に刀を下げた緑色の巨人《西南の超人(キリノ・ジャイアント)》が現れる。湊に呼び出された《西南の超人》は、腕を組んで《ムルムル》を見ていた。
 ジャンク男はしばらく《西南の超人》を見た後、《エナジー・ライト》を使ってカードを二枚引いた。動きが止まったのを見た湊は、カードを引いて次のクリーチャーを召喚する。
「《禁門の超人(キジマ・ジャイアント)》を召喚だ!」
 丸みを帯びた黄緑色の鎧に身を包んだ巨人《禁門の超人》は腰の刀に手を当ててじっとジャンク男を見ている。攻撃の合図が来るのを待ち構えているかのように。
「攻撃、さぜない!」
 ジャンク男の手から離れたカードが金色の杖を持った司祭のようなクリーチャーへと変化する。《神令の精霊ウルテミス》。4コストという最軽量のエンジェル・コマンドである。ブロッカーでもあるため、《ムルムル》の効果でパワーを3000プラスして、現在のパワーは7500になっている。
「攻撃じだら、《ウルテミス》でやっづげる!」
「そんな脅しで、今の僕は止められない!」
 湊はそう言ったが、まだ手の震えは収まらない。魔力を取り戻し、デッキを取り戻しても、闘志はまだ完全には戻っていない。
(それでも、それでも僕は――)
 カードを引きながら、鋭い視線でジャンク男を見る。その目から放たれた気迫に、ジャンク男は倒されそうになるような錯覚を覚えた。
「負けられないんだ!僕に助けを求めたプライズのためにも!」
 湊が場に投げたカードがひと際眩い光を放つ。下半身の青い光は、巨大な口をした奇妙な姿の生物、アースイーターの姿を作り、上半身は今まで湊が場に出していたのと同じジャイアントに似た緑色の巨人の姿をしている。
「《剛撃戦攻ドルゲーザ》召喚!!」
 湊の新たな切り札《剛撃戦攻ドルゲーザ》はコスト8でパワー9000のW・ブレイカーである。重いクリーチャーだが、湊のマナには余裕があった。
 その理由の一つに《西南の超人》の効果がある。《西南の超人》は、ジャイアントのコストを2下げる能力を持っている。さらに、《ドルゲーザ》自身が場にいる味方のジャイアントやアースイーターの数だけコストを下げるシンパシー能力を持っている事もコストダウンに一役買っていた。これにより、湊は8コストのドルゲーザを半分の4コストで召喚したのだ。
「まだ終わりじゃない。《ドルゲーザ》の効果でドロー!」
 《ドルゲーザ》が拳で地面を叩くと、湊の山札の上のカードが四枚、湊の手札に飛んでいく。《ドルゲーザ》が場に出た時、場にある自分のジャイアントとアースイーターの数だけドローする能力を使う事ができる。《ドルゲーザ》自体がジャイアントとアースイーター二つの種族を持っているため、このクリーチャーを出すだけでも二枚引けるのだ。
「増えた手札の中から一枚使って《フェアリー・ライフ》。《禁門の超人》で攻撃だ!」
 湊の命令を受け、《禁門の超人》が摺り足でジャンク男のシールドに近づく。それを見たジャンク男は口の部分を形成した金属の板をカチカチ鳴らしながら笑った。
「馬鹿め!《ウルテミス》の方がづよい!やっつけろ!」
 《ウルテミス》はジャンク男の命令を聞き、シールドの前に立ちふさがる。だが、《禁門の超人》は腰の刀を引き抜き、《ウルテミス》を切り裂くと何事もなかったかのようにシールドへ移動していった。
「《禁門の超人》は攻撃した時にコスト4以下の進化じゃないクリーチャーをマナに送る事ができる!これで、シールドブレイクだ!」
 《禁門の超人》はジャンク男のシールドを一枚切り裂くと、バックステップで戻っていった。ジャンク男は、地団駄を踏みながらその姿を睨みつける。
「ゆるざない!ゆるざないぃぃぃーっ!」
 ジャンク男の顔が蒸気を噴き出す。怒りに身を任せながら、その怪人はカードを引いた。

「《ロメール》」
 執事風の男は静かな声で切り札の名を告げると《クゥリャン》に一枚のカードを投げつける。それによって場に手足が様々な戦艦に変化したようなサイバーロードが現れた。《超電磁妖魔ロメール》というサイバーロードかヘドリアンから進化できる進化クリーチャーだ。サイバーロードとヘドリアンのパワーを2000プラスし、ブロッカーをすり抜ける能力を与える。
「いくら切り札でも一体じゃ大した事はないな」
 征市はそう言って《ロメール》を見る。征市の場には、すでに《コッコ・ルピア》と《無双竜機ドルザーク》がいる。《ロメール》が進化クリーチャーであっても、ドラゴンのパワーにはかなわない。征市が余裕を感じながら、《ロメール》を見ているとその背後からアンモナイトに似たような姿の三体のクリーチャー《パラダイス・アロマ》が姿を現した。《パラダイス・アロマ》は場にいるサイバーロードの気配に反応して姿を現すサイバー・ウイルスだ。サイバーロードがいれば、コストを払わずに何体でも出す事ができる。
「げげっ!そりゃ、反則だろ?」
 征市がそう言うのも無理はない。彼のシールドは二枚しか残っていないのだ。《ロメール》と《パラダイス・アロマ》の軍団で攻撃されたら、一溜まりもない。
「《ロメール》」
 神託を告げるような口調で執事風の男は切り札の名を呼ぶと、《ロメール》の戦艦部分が征市のシールドを突き破る。破られたシールドがカードへ戻り、征市の手元に返っていった。
「やれやれ……。覚悟を決めるしかないか」
 征市は執事風の男のシールドの数を見る。立ち塞がる壁の数は三枚だ。今の手持ちのクリーチャーではシールドをブレイクするだけで攻撃が止まってしまう。
「じゃ、クリーチャーは……」
 《ロメール》が一体タップされているが、《パラダイス・アロマ》はタップされていない。三体の《パラダイス・アロマ》を攻撃する方法はない。
「いや、一つだけ……。一つだけ、こいつらを全滅させる方法がある!」
 そう言うと征市は今、手札に戻って来たカードにマナを注ぎ込み、場に出した。それはケンタウルスのように半人半馬のような姿の龍だった。下半身が四足で動く龍であり、上半身は槍を構えた戦士。その名は《闘龍鬼ジャック・ライドウ》。その足が地面についた時、征市の山札が弾けて全てのカードが宙を舞った。
「判るよな?《ジャック・ライドウ》は場に出た時、こいつと同じ種族を持つ進化クリーチャーを一体、手札に加える力を持っている。シールドに隠れていたらどうしようかと焦ったが、そんな心配をする必要はなかったぜ!」
 征市はその中から一枚のカードに手を伸ばして引き寄せる。征市はそのカードを《ジャック・ライドウ》に投げつける。《ジャック・ライドウ》は赤い光を出しながら姿を変えていった。
「行こうぜ!俺の進化クリーチャー!」
 光が消えるのと同時に《パラダイス・アロマ》が一体、炎に包まれる。予期せぬ事態に、執事風の男は《パラダイス・アロマ》と征市のクリーチャーを交互に見比べた。
「それは挨拶みたいなもんだ。俺の進化クリーチャー《ボルガウルジャック》のな!」
 征市の切り札の一つ、《超竜騎神ボルガウルジャック》はアーマード・ドラゴンかティラノ・ドレイクから進化できるクリーチャーでどちらの種族を進化元にしたかによって能力が変わる。しかし、征市が選んだ進化元《ジャック・ライドウ》は両方の種族を持っていたので、二つの能力を使えるのだ。
「まずは、ティラノ・ドレイクから進化した時の能力でパワー4000以下のクリーチャーを一体除去した。次はアーマード・ドラゴンから進化した時の能力!」
 《ボルガウルジャック》が下半身を馬のように震わせ、《ロメール》に向かって走り始める。その途中で《ボルガウルジャック》は全身に炎を纏って《パラダイス・アロマ》に体当たりした。《パラダイス・アロマ》は熱せられたその体に触れただけで蒸発して消えてしまった。
「アーマード・ドラゴンから進化した時の能力。それは、アーマード・ドラゴンかティラノ・ドレイク以外の《ボルガウルジャック》よりもパワーが低いクリーチャーを破壊する能力だ!」
 《ボルガウルジャック》のパワーは8000であり、《パラダイス・アロマ》はパワー2000だ。太刀打ちできるわけがない。さらに、最後に残っていた《パラダイス・アロマ》は《ドルザーク》の胴体にある龍の頭から発せられた光線によって全身を焼き尽くされる。《ドルザーク》は、自分のドラゴンが攻撃する時に相手のパワー5000以下のクリーチャーをマナに送る能力を発揮するのだ。これで残るは《ロメール》のみ。その《ロメール》も戦艦ごと細かく切り刻まれて爆発した。
「これでお前のクリーチャーは全滅だ。次のターンでお前を倒す!」
 執事風の男は、《斬隠テンサイ・ジャニット》を召喚して征市の《コッコ・ルピア》を手札に戻すが、そんな行為は焼け石に水でしかない。
「嘘だ」
 執事風の男は思わずそう呟く。そして、目の前に《ボルシャック・大和・ドラゴン》が現れたのを見ると、もう一度「嘘だ」と呟いた。
「嘘じゃないぜ。『ウソのようなホントウ』って奴だ!総攻撃で蹴散らせ!」
 《ボルガウルジャック》が《テンサイ・ジャニット》を焼き払いながらシールドを打ち破り、《ドルザーク》も持っていた斧で最後のシールドを叩き割った。そして、《ボルシャック・大和・ドラゴン》が縦に刀を振り下ろして、執事風の男を切り裂いた。
 それと同時に彩矢の戦いも最高潮に達しようとしていた。執事風の男のクリーチャーは《ロメール》一体のみでシールドは二枚残っていた。
 彩矢の場には龍を模したクロスギア《バジュラズ・ソウル》があるだけでクリーチャーは一体も残っていない。シールドもなかった。
「じゃ、逆転劇の始まりね♪」
 絶対的なピンチの中で彩矢は余裕を感じさせる笑みを浮かべると一体のクリーチャーを召喚する。巨大な大砲を背負ったような金色の龍《ボルベルグ・クロス・ドラゴン》だ。
 《ボルベルグ・クロス・ドラゴン》が吠えると、《バジュラズ・ソウル》が分解され、《ボルベルグ・クロス・ドラゴン》に鎧のような形で装備される。《ボルベルグ・クロス・ドラゴン》は、コストを払わずにクロスギアをクロスする事が可能なドラゴンなのだ。
「さあ、一気に行くわよ!」
 《ボルベルグ・クロス・ドラゴン》が《バジュラズ・ソウル》についていた鎖のついた鉄球をなげつけた。それが《ロメール》から大きく外れたため、執事風の男は笑みを浮かべる。だが、《ボルベルグ・クロス・ドラゴン》の狙いが《ロメール》でない事に気づくと目を見開いた。
「マナを破壊っ!」
 鉄球が二枚のマナの上に落ちる。回転し続ける鉄球によって、そのマナはすり潰されてしまった。
「さらに、《ロメール》もっ!」
 《ボルベルグ・クロス・ドラゴン》は戻って来た鉄球をもう一度投げて《ロメール》にぶつける。《ロメール》は戦艦のような四肢を投げ出し、その場に崩れ落ちた。
「さ、どうするの?このターンで、《ロメール》と進化元を両方出して攻撃するつもりだったんでしょ?そうはいかないんだから!」
 彩矢の読み通りだった。執事風の男は、悔しそうにマナのカードを見つめている。現在、チャージした分を合わせてもマナのカードは五枚。《ロメール》と進化元を召喚するにはあと一枚足りない。
「残念だったわね。でも、同情はしないわ。ここで決着をつける!《バザガベルグ・疾風・ドラゴン》!!」
 《ボルベルグ・クロス・ドラゴン》の隣によく似た姿をして様々な刃物を持ったドラゴン《バザカベルグ・疾風・ドラゴン》が現れる。そして出現と同時に動き出すと執事風の男のシールドを持っていた刀で切り裂いた。
「《バザカベルグ・疾風・ドラゴン》はスピードアタッカーでW・ブレイカーなの。強いけど、ずるくはないわよね?」
 彩矢はそう言うと、執事風の男に笑顔を見せる。
「だって、世界一強い女の子の切り札なんだもんっ!」
 《ボルベルグ・クロス・ドラゴン》の鉄球が執事風の男を直撃し、勝敗は決した。戦いを終えた征市と彩矢は、湊の戦いを見る。
 ジャンク男のシールドは一枚も残っていない。しかし、《ムルムル》が二体、その命が尽きるまで永遠にブロックし続けるエンジェル・コマンド《無限の精霊リーサ》が三体、ジャンク男を守るように立ちふさがっていた。《ムルムル》の効果の恩恵により、《リーサ》のパワーは本来の4500に加え6000プラスされた10500になっている。湊のジャイアントのパワーが高いとはいっても、このパワーには勝てない。
 さらに、攻撃要員としてターンの終わりにアンタップされるエンジェル・コマンド《白騎士の聖霊王ウルファス》が一体いた。湊の最後のシールドへの攻撃を終えて、ブロッカーに守られながら立っている。
「お前、勝でない。おれ、づよい!」
 ジャンク男は口の金属の板を鳴らしながら笑う。それとは対照的に、湊は自分の手札を見ながら沈んだ顔をしていた。場には《西南の超人》が二体と《アクア・サーファー》が一体並んでいるだけである。《西南の超人》もジャイアントだが、その能力は他のジャイアントのサポートに向いているため、攻撃や戦闘には向いていない。
「駄目だ。負けたくない……。負けちゃ、駄目なんだ……!」
 湊は手を震わせながら手札との睨めっこを続けている。それを見る事に耐えられなくなって、征市は湊の名を呼ぶために一歩、前に出る。
「湊!」
 だが、征市が名前を呼ぶよりも先に彼の名を呼ぶ声がした。遠くから和服の少女が走って来たのだ。湊は少女の声を聞いて反応したが、自分のふがいない状況を見られたくない気持ちが勝って目を背ける。少女は結界の前で立ち止まり、湊を見ていた。
「勝てる」
「え……?」
 少女の断言する声を聞いて、湊は耳を疑った。質問する余地を与えずに少女は語り続ける。
「そのカードから、湊への声が聞こえる。そのカードもプライズなら、湊に力を貸してくれるはず。湊が選んだなら、湊に応えてくれるはず!」
「僕に、応えてくれる……!」
 湊は右手を伸ばして山札の上に触れる。その手はまだ震えていたが、湊は覚悟を決めた。
「僕に力を貸して。哀しみの中に押し込められたプライズを助けるために!」
 湊はカードを引き、今引いたカードを場に投げる。そのカードは《西南の超人》に突き刺さり、緑色の光を発して《西南の超人》の姿を変えていった。その緑色の光はさらに強くなり、地中から緑色のツタを呼び出した。そのツタは、湊とジャンク男のクリーチャーに絡み付き、カードの姿に戻した後、マナに変えていった。
「何をじだぁ!」
「僕の切り札の力だ!」
 湊の前に宇宙を内包しているような巨大なクリーチャーが現れる。《大宇宙シンラ》。場に出た時、それぞれのプレイヤーのクリーチャーを一体ずつ残して他の全てのクリーチャーをマナに変える能力を持ったクリーチャーだ。
「残るは《ムルムル》一体だけ。それなら……!」
 湊はマナに変化した《西南の超人》と《アクア・サーファー》を含む六枚のカードをタップし、一枚のカードに緑色のマナを注ぐ。それによって《ムルムル》も他のクリーチャーと同じように緑色のツタに飲み込まれていった。
「増えたマナで《ナチュラル・トラップ》を使った。これでブロッカーもシールドもない!」
 《シンラ》が拳を握り、ジャンク男に近づいていく。
「哀しい器よ、眠りなさい。《大宇宙シンラ》でとどめだ!」
 《シンラ》の拳がジャンク男を押しつぶしていく。その後、《シンラ》が両手でジャンク男を包み、爆発の威力を押さえた。
 《シンラ》が手をどけると、そこには様々なプライズが地面の上に転がっていた。少女がそれに近づき、一枚の和皿を拾う。そして、湊を見て笑顔を見せた。
「ありがとう、湊。助けてってお願いしてよかった」
 少女は礼を言い終えると光に包まれていく。湊達が見ている前で、少女はジャンク男に吸収された和皿とほとんど同じ和皿に変化した。青い朝顔が描かれた皿と、赤い夕日が描かれた皿。湊は二枚の皿を手に取った。
「お礼を言うのは僕の方だよ。大きな力と強さを教えてもらった。本当にありがとう」
 湊は和皿のプライズを持ったまま立ち上がり、征市と彩矢を見る。
「事務所に戻りましょう。この子達を大事にしてくれる人を探さないと」
「そうだな。二人一緒に大事にしてくれる人を探そう」
 征市はそう言って湊に近づき、和皿を見る。彩矢は、和皿には目もくれず、ジャンク男の残骸を見ていた。緊張した顔でその中から何かを探す。しばらくすると、手を止めて恐竜の化石のような物を取り出した。
「やっぱりね」
 彩矢はそう呟くと、二人に化石のような物体を見せる。征市には、それが爪の化石のように見えた。
「それは何だ?」
「龍のプライズです。湊ちゃんには昨日説明したわよね?」
 湊は博物館での説明を思い出し、ゆっくり頷く。そして、彩矢が征市に龍のプライズと呼ばれる物がいくつか存在して、普通のプライズとは比べ物にならない魔力が蓄積されている事と、全て手に入れたらどんな事でもできると言われている事を説明した。
「じゃ、幻はこれを手に入れるためにジャンク男を使ったのか?」
「まだ推測にすぎませんけど、アタシはそうだと思ってます。龍のプライズを使って何をするつもりなのか、それと、全部集めたら何ができるのか、調べた方がよさそうですね」
 三人の視線が手元のプライズに集まる。沈みかけた日の光を体に受けながら、三人は呪いでもかけられたようにその場に立ちつくしていた。

 『File.23 幻惑のコンサート』につづく
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