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『コードD』File.24 暴龍覚醒

『コードD』
 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 強大な力を持つ龍のプライズの一つ、『龍の爪』。とある目的のために龍のプライズを集めていた魔道書同盟は、トライアンフに『龍の爪』を奪われ、龍のプライズを集めている事を気づかれてしまう。トライアンフから『龍の爪』を取り戻す策を練っている魔道書同盟の前にジャロール・ケーリックが現れる。自分が持っている『龍のひげ』を魔道書同盟に渡す約束で彼らの信用を得たジャロールは、陸を挑発して彼に『龍の爪』を持って来させる。
 罠だと知りつつも陸と征市、そして、菜央は『龍の爪』を持ってジャロールが指定したコンサートホールへ向かったのだった。三人は、そのコンサートで行われたヴァイオリンの演奏を聴く事で体の自由が奪われてしまう。ヴァイオリンの演奏者はジャロールの部下、ゴスバートであり、彼が使っていたヴァイオリンの弦に『龍のひげ』が使われていたのだ。『龍の爪』を奪い、ゴスバートからヴァイオリンのプライズを奪ってジャロールは去っていく。しかし、陸は悪魔との再契約を果たし、ジャロールを追うが、その前にゴスバートが立ちはだかる。ゴスバートを倒した陸は、能力を取り戻したものの、自分に残された命に不安を感じるのだった。

  File.24 暴龍覚醒

 ジャロールはヴァイオリンプライズから外した『龍のひげ』を指ではじいた。その感触を楽しみ、静かにほくそ笑む。
「大事な『龍のひげ』で何をやっているのっ!壊れたらどうするのよっ!」
 ジャロールを見た全が血相を変えて彼に近づく。そして、本来の『龍のひげ』の持ち主からそのプライズをひったくるようにして取った。
「その程度の事で『龍のひげ』は壊れはしない。ゴスバートにヴァイオリンの弦として使わせていたのもしなやかさと強度を併せ持っていたからさ」
「そういう問題じゃないわっ!大事に扱いなさいっ!遊んでいてなくしたらどうするのよっ!」
「僕は子供かね?」
 ジャロールは苦笑すると、壁に背中を預ける。ジャロールと全のやり取りを、幻は他の龍のプライズの近くで見ていた。部屋全体の雰囲気に溶け込む黒いテーブルの上に『龍の爪』と『龍の翼』が乗っていた。全の言葉が正しければ、他に『龍の牙』というプライズが存在するはずである。それを手に入れれば、最高の戦力が完成する。
「ふむ……」
 ジャロールは興味の対象が怪人達に映ったらしく、博物館の展示品を見るように顎に手を当てて怪人が入っているカプセルを見ていた。一つのカプセルを見たら、次のカプセルを見る。そうやって部屋を一周し、全てのカプセルを見た。
「これだけの怪人があるのに、何故、一度に使わない?こんなところで素晴らしい怪人を眠らせておくなんて、勿体ないと思わないのかね!」
 ジャロールは興奮したように頬を上気させていた。片眼鏡ごしに見える目は、面白いものを見つけた子供のように輝いている。
「できないのよ。同時に複数の怪人を生み出すなんて事はね」
 その言葉を聞いてジャロールが問いかける前に、全は白いマントの中から一つの玉を取り出した。それは、全の手の上に乗るほどの大きさで赤く輝いている。そして、心臓が脈を打つように玉の輝きも、強くなる時と弱くなる時を一定の周期で繰り返している。赤い輝きに隠れて判りにくいが、玉の中には長く伸びた龍の体が収まっていた。
「これは……一体、何だというのだね?」
「怪人に命を与える核となるパーツ、ジャバウォックコアよ」
 その言葉を聞いたジャロールはジャバウォックコアから目を離すと、驚いた顔で全を見た。
「君達が龍のプライズを探していたのは、やはり、そういう事か」
「あらっ!それ以外に何があるのかしらっ!」
「ジャロールも気づいていたんだろう?龍のプライズの本当の力を知っていたら、やる事は一つだ」
 幻が立ち上がり、会話に参加する。そして、全に近づくと撫でるような仕草でジャバウォックコアに触れた。
「怪人には毎回、このジャバウォックコアを入れていた。一つしかないから一体しか出せない」
「ジャバウォックコアを使う事で戦闘データが蓄積できるのよっ!それによってコアの中で成長するのっ!何が成長するのか……判るわよね?」
「暴龍……ジャバウォックか」
「その通りよっ!」
 ジャロールが口にした暴龍ジャバウォックとは、全が生み出したものではない。五十年前の大戦で全が読んでいた魔道書の情報を元に作りだそうとしていたのがジャバウォックだ。その魔道書に書かれていた理論も完全なものではなかったが、怪人を作り出すノウハウを持っていた全が理論を完成させたのだ。その結果、生まれたのがジャバウォックコアである。
「前の大戦では、戦闘データを充分に取れなかったから成長が不完全でジャバウォックは目覚めなかった」
「でも、今は違うわっ!戦闘データは充分集まっているものっ!あと一回戦えば完璧よっ!」
「戦士達の血を飲み、神の悪戯で生み出された器を使って目覚めるという事か」
「詩的な表現ね。そういう事よっ!」
 情報を得て成長し、龍のプライズに蓄積された魔力を媒介にして現れる暴龍。ジャロールもそういううわさがある事は知っていた。しかし、実在するとは思っていなかったのだ。
「しかし、ジャバウォックが目覚めるためには『龍の牙』が必要だ。成長が充分であっても、肉体がなければ――」
「心配いらないわっ!」
 全は開いていたカプセルに近づくと、そこに入っていた怪人の胸にジャバウォックコアを入れた。すると、ジャバウォックコアは黒い針のようなものを怪人の体内に打ち付け、固定する。そして、ジャバウォックコアを守るように、一枚の金属の板でできた鎧が胸を覆った。コアが入ったせいか、その怪人が立ち上がり、周囲を見る。
「完成だわ。龍のプライズ探索用怪人、ドラゴン男ちゃんよっ!」
 全の横に立つその怪人は、アーマード・ドラゴンやドラゴノイドに近い外見をしていた。二本足で立つそのシルエットは、一見すると人間にも見える。しかし、二本の白い角が生えた赤い龍の頭、角と同じ色の鋭い爪がついた手、そして、人間よりも明らかに横幅が広く鱗が生えた足。それら全てがドラゴン男を異形の存在である事を物語っていた。
「ドラゴン男ちゃんは龍のプライズから取ったデータを元に作っている怪人よ。龍のプライズの場所を探す事ができるわっ!」
 ドラゴン男は、腕を組むと部屋の出口に向かってゆっくりと歩き始める。自分のやるべき事を理解し、そのためにやるべき事を理解しているような余裕さえ感じられる歩みだ。それを見て全は、ドラゴン男の後ろを歩きながら二人に言う。
「行くわよ!この世界が変わる歴史的な瞬間を見ちゃおうじゃないっ!」
 幻とジャロールも彼に続いた。
 幻は、これを過去の大戦の再開だと思っている。ジャバウォックを生み出す事で、世界中の人間に対して常識を覆す存在を認識させ、戦いの狼煙を上げる。過去の大戦を知っている者は恐怖するだろう。それを想像する事で幻の胸の内が熱くなっていった。
「変わるさ。目茶苦茶に変えてやるよ」

「奴らが龍のプライズを集めていた目的が判った」
 一真に呼び出されて魔法図書館に集まった征市、陸、湊は最初にその一言を聞いた。一真は一冊の魔道書を持って彼らを見る。その横には、人間の言葉を話す黒猫がいた。魔法図書館の館長だ。
「一真、とりあえず、それを見せてやれ」
 館長に言われて一真は手に持っていた白い表紙の魔道書を開く。征市達がそのページを見ると、一体の巨大な龍の絵が描かれていた。デュエル・マスターズのクリーチャーとも少し違う龍で派手な原色の鱗で覆われている。背中には都市のような物が乗っていた。細かい説明も書いてあるが、日本語ではない上に見慣れない言語で書いてあるため、征市達には読む事が出来ない。
「なんですか、これ?新手のドラゴンか何かですか?」
「龍のプライズを使って生み出せる怪獣、ジャバウォックだ」
「げっ!」
 一真に質問をした陸が声をあげて驚いた。征市と湊も同様で、こんな怪物が生み出されるとは思っていなかったのだ。
 大声を出すと注意する館長も、この時ばかりは特に注意もせず(注意したとしても「他に客いねぇけどな」と付け加えるのだが)彼らを見上げてこう言った。
「ジャバウォックは一つの都市を丸ごと飲み込むほどの大きさがあるらしいぜ。ジャンボジェットなんか簡単に飲み込んじまうだろうな」
「都市を丸ごと……?ありえねぇだろ」
 征市達が今まで戦ってきた怪人とはけた違いのスケールの敵だった。そんな者が現れたとして、どうやって戦えばいいのか想像もつかない。
 現実離れした存在のプレッシャーに三人が黙っていると、一真が口を開いた。
「あくまで、これはジャバウォックの想像図に過ぎない。五十年前の大戦で全はジャバウォックを作り出そうとしたが時間が足りなかった。奴らがジャバウォックを生み出す前に龍のプライズを奪うか、奴らを倒せばジャバウォックが暴れる事はない」
 一真は、ジャバウォックの絵が描かれていた魔道書を征市に渡すと車椅子を動かしてエントランスへ向かった。
「奴らを倒そうにも奴らがどこにいるかは判らない。だが、最後に一つ残された龍のプライズの場所は菜央が調べている。事務所に戻るぞ」
 それを聞いた陸と湊は一真に続いた。まだ最悪の事態になっていない事と打開策がある事が判って安心したせいか、表情が少し和らいでいる。征市は、持っていた魔道書を館長に見せて
「これ、借りてもいいか?持ち出し禁止のシールが貼ってあるけれど」
と、聞いた。
「気にすんな。この状況でそんな細かい事気にする必要ねぇし。お前ら以外の客なんてほとんど来ないからな」
 館長はそう言ってしばらく歩くと「ジャバウォックとか龍のプライズとかの問題にケリがついたら、まぐろ買って来いよ」と、言った。
「判ったよ」
 魔道書を抱えて征市も他の三人と共に魔法図書館を出る。そして、市営地下鉄に乗って事務所へ向かった。
 事務所に入った四人は、菜央と彩矢の他に一人の男がいるのを見た。
 黒い髪をしているが青に近い目の色をしているその男は、眼鏡のブリッジを軽く押し上げると一真に近づいた。
「久しぶりだな、マシュー。お前が応援に来てくれたのか」
 神経質そうな顔をした男に、一真は柔和な笑みを湛えて話しかける。
「応援に来たわけじゃない。トライアンフジャパンの様子を見に来たんだ」
 マシューと呼ばれたその男は、一真の後ろにいた征市達三人を批評するような目つきで見る。
「学生のサークル活動じゃないんだ。もっとましな奴らを集められなかったのか?だからこそ、僕が来たんだが……」
 マシューはそう言うと近くにあったブリーフケースを開き、数枚の紙を束ねたものを一真に突き付けた。表紙には、『トライアンフジャパン吸収計画』と日本語で書かれている。
「マシュー、どういう事だ」
 一真の手がトライアンフジャパン吸収計画の資料を強く握りしめ、資料の紙に皺が寄る。
「僕はトライアンフジャパンの応援に来たんじゃない。それに書いてあるように、ここをうちの組織の出張所として使わせてもらう。トライアンフアメリカの日本支店みたいなものだ」
「ちょっとマシュー!吸収計画をやるかどうかはまだ決めないって言ったじゃない!」
 彩矢が彼に抗議するために近づいていった。しかし、マシューは自分の同僚を見ず、その方向へ手を出して彼女を制止させる。
「言ったわよね?アタシがトライアンフジャパンのメンバーを見て、問題がなかったら吸収計画は白紙にするって――」
「お前に冷静な判断ができるとは思っていない。それにこのメンバーは大切な龍のプライズを奪われた。問題ばかりだ」
 マシューは低い声でそう言い放ち、次に陸を指す。
「まず、お前。遠山陸。お前はクビだ。そして、その隣にいる若月湊。お前もクビだ」
 突然の言葉に呆気に取られている陸の横で、湊も同じように解雇を宣言される。
「マシュー!」
「それに書いてある。二人はトライアンフのメンバーとしてふさわしくない。遠山陸は、悪魔と契約をして魔力を得ている人間だ。いつ、魔力が暴走して我々に被害を与えるか判らない。不安定なものを使うわけにはいかないんだ。それと、若月湊は未知の部分が多すぎる。素性がよく判っていない。過去に魔道書同盟がトライアンフに入っていた事もあるんだ。僕達に牙を向かないという保証はない」
 額に血管を浮き上がらせて激昂する一真をよそに、マシューは淡々とした口調で自分の決定を告げていく。自分のやり方に逆らわせないという威圧感を目で陸と湊に訴え
「今月分の給料までは振り込む。月末までは寮にいてもかまわない。今月が終わるまでにどこかに引っ越す事を命じる」
と、言った。陸は何も言わずにその場を去り、湊は慌てて彼に続いた。
「お前、いい加減に……!」
「相羽征市。君にはサブリーダーの職についてもらう。リーダーの一真に次いで二番目の役職だ。表向きは」
「表向き」という言葉を強調して言ったマシューは命令を続けた。
「僕は既に『龍の牙』の持ち主の場所を突き止めた。アポを取ってあるから今すぐ向かえ」
「誰がお前の言う事なんか!大体、いきなりやってきて何のつもりだよ!?」
 征市が拳を強く握りしめてマシューに近づく。彼に対してマシューは一枚の契約書のようなものを見せた。
「なんだよ、それは」
「トライアンフジャパンを我々、トライアンフアメリカの管轄に置く事の許可証だ。この署名、誰のものか判らないか?」
 征市は、マシューの手から奪い取るようにして許可証を受け取ると、その内容と彼が言っていた署名の欄を見た。見慣れた筆跡の文字を見て、征市は思わず息をのむ。
「そこに書かれている名前と判子で誰の命令か判っただろう?初代総長、相羽総一郎の命令は絶対だ」
 どのトライアンフでも、相羽総一郎の名前による効果は大きい。ここでもそれは例外ではなかった。
「征市、ここは抑えて『龍の牙』を取りに行ってくれ」
 一真が征市の手を取って命じる。怒りのせいかその手が小刻みに震えているのを感じ、征市はマシューの命令を聞く事に決めた。
「判った。今から『龍の牙』を取りに行く。場所はどこだ?」
「ここだ」
 マシューに渡された地図を受け取って征市は事務所を出た。それを見送ってマシューは他のメンバーに目を向けた。
「一真にはこれからリーダーをしてもらう。今のリーダー、琴田菜央は事務や情報処理の担当だ。彩矢は引き続き、戦闘員として仕事をしてもらう」
「嫌だと言ったら?」
 マシューは、総一郎の署名が入った許可証を、もう一度一真に見せる。今の総一郎がトライアンフの役員として行っている仕事はない。しかし、トライアンフという組織を作り上げた存在として今でも、各国のトライアンフの上層部にとって頭が上がらない存在として認識されているのだ。過去にリーダーの経験がある一真でも、トライアンフに所属する異常、この許可証に背く事はできない。
「それが言えないのは判っているだろう?今のリーダーは君だ。だが、この組織の指揮は僕が取る。嫌だと言ってもかまわないが、トライアンフアメリカから応援が来るまでは僕の指示に従ってもらう」
「判った……」
 一真は、横目で菜央と彩矢にアイコンタクトを送る。菜央は「しばらく耐えるように」というそのアイコンタクトの意味を悟って静かに息を吐くのだった。

 マシューから受け取った地図に載っていたのは、普通の住宅街だった。その中に一軒家があるのを見つけ、征市は呼び鈴を押す。しばらくすると、中から四十に近い歳の男が出てきた。
「どうも。トライアンフの相羽征市です」
「トライアンフ……?ああ、君が」
 男は寝ぼけたような声で組織の名を呼ぶと、しばらくしてから記憶がつながったらしく、ゆっくり頷いた。
 平丘、というのがその男の名だ。民俗学を研究している学者で、プライズのコレクターでもあるらしい。プライズのコレクターの中には、裏のギルドと共謀して博物館などから盗難を行う者もいるが、平丘は自分の収入の範囲で細々とプライズを集めるコレクターだった。
「ちょっと待っていてね。今、持ってくるから」
 リビングに通された征市は、椅子に座ったまま周囲を見る。一般的な家だが、外装も内装も随分古い印象を受ける。後で征市が聞いた話だが、これは元々、平丘の親の持ち家だったものなのだ。
「プライズのコレクションに金を使ってるって事か」
 平丘は服にも金をかけている印象はなかった。学者の類の給料は高くない。だが、もう少し生活レベルが高くてもいいはずだ。
 征市がそう考えながら古い掛け時計を見ていると、ガラスが割れる音が奥の部屋から聞こえた。その直後に平丘の悲鳴が聞こえる。
「平丘さん!」
 音と悲鳴を聞き、征市はリビングを出る。廊下に出た時点である部屋の入り口から平丘の手が見えた。倒れていて意識がないらしく、征市の声にも反応がない。その部屋の入り口に立つと、外から風が吹くのを感じた。部屋には倒れた平丘と、砕けたガラス窓の残骸が散らばっていた。征市は、ガラス窓の破片を見て、ブレイクされたシールドを思い出す。
「お前がこれをやったのか!」
 そして、視線の先には龍に似た怪人、ドラゴン男が立っていた。右手には『龍の爪』に似た化石のようなプライズが握られている。『龍の爪』とは違い、犬歯のような形をしている事からそれが『龍の牙』だと征市は悟った。
「余は魔道書同盟の怪人、ドラゴン男。余を見逃せ」
「見逃せ?馬鹿言うな!今すぐ『龍の牙』を置いてここを出ていけ!」
 激昂した征市の言葉を聞いて、ドラゴン男は含み笑いをする。そして、左手でデッキを取りだした。
「戦ってやってもいいぞ。ただし、それは本当にお前が望む事か?」
「何!?」
「お前が強いのは知っている。しかし、一瞬で余を倒せるというわけでもなかろう。短くて五分。長くて何分になるかな?」
 ドラゴン男はそう言うと、征市から視線を逸らし倒れている平丘を見た。征市は言いたい事を理解する。
「お前と戦ったら、平丘さんが死ぬかもしれないって事かよ」
「急いだ方がいいぞ?時間が経てば経つほど、この男は死に近づく。殺すつもりで攻撃はしていないが、人間の強度はよく判らんからな」
 意識がない危険な状態なのは、征市の目から見ても明らかだった。『龍の牙』をドラゴン男が手に入れる事でジャバウォックが目覚めるかもしれない。そのせいで、多くの人間が犠牲になるのは容易に想像できた。今、平丘を犠牲にしてドラゴン男を倒せば『龍の牙』はトライアンフで管理し、ジャバウォックが生み出される事もない。
 しかし、征市は『龍の牙』ではなく平丘の命を選んだ。彼の耳元に顔を近づけ、もう一度彼の名を呼んだのだ。
「それでいい。みじめな姿が似合っているぞ」
 ドラゴン男はそう言った後、征市に背を向ける。割れたガラスを踏みながら去って行った。
「明日、九月十九日の日の出と共に、K公園でジャバウォック誕生の儀式を行う。我々が勝ってジャバウォックが誕生するか、お前達が勝ってそれを阻止するか、ゲームをしよう」
「嘗めているのか?」
「今のように無様な表情をしているお前をもう一度見たくなった。他の連中も連れてくるといい。歓迎する」
 ドラゴン男は窓から外に出た。征市は携帯電話を取り出し、救急車を呼ぶ。そして、その後、トライアンフの事務所に電話をかけて現状を報告した。
「ふざけた事ばかり言いやがって……。明日、何が何でもお前らの計画を阻止してやるよ!」
 報告を終えた征市は、救急車のサイレンを聞き、携帯電話を握りしめながらドラゴン男が去った窓を見ていた。

 翌日。
 日の出ていないK公園の中を征市が歩いていた。
 あの後、救急車で平丘は無事で命に別条はなかった。ドラゴン男の言葉を知ったマシューは、征市に儀式を止めるように指示を出す。一真、菜央、彩矢の三人には、何かあった時のために待機を命じていた。
「確かに何かあったら問題だからあいつらを置いておくってのは判るけれど、罠の可能性もあるから、俺も心細いんだけどな」
「だから、僕達がいるんじゃないですか」
「征市さん、がんばりましょう」
 征市の後ろには陸と湊がいる。不安を感じた征市のために、菜央が呼んだのだ。
 三人はしばらく歩くと、広場に出た。そこに魔方陣のようなものが描かれていて、その中央にドラゴン男が立っていて、足元に四つの龍のプライズが置かれていた。
「遅かったな」
「今日の日の出まではまだ二十分はある。お前を倒すのには充分過ぎるくらいだ」
 征市が右手でマッチを擦る。すると、その火は炎のように大きく燃え上がり、一瞬で消えた。炎は消える瞬間、赤い革のデッキケースへと変化する。
「余に勝つつもりか。いいだろう。ゲームスタートだ」
 ドラゴン男もデッキケースを取り出す。征市の前に燃えるような赤いシールドが、そして、ドラゴン男の前にも黒いシールドがそれぞれ五枚現れて相手の攻撃を受けるために立ちふさがる。残った三十五枚の中から五枚を手札として引き抜き、デュエルが始まった。
「《コッコ・ルピア》召喚!」
 征市が最初に場に出したのは、オレンジ色に近い色の体毛を持つ小鳥、《コッコ・ルピア》だ。丸く黒い瞳で征市を見上げ、高い声で鳴いている。
「同じタイプのデッキか」
 ドラゴン男は《コッコ・ルピア》を見ると自分のカードを一枚口元に当ててそう呟いた。そして、三枚のマナをタップすると、そのカードにマナを全て注ぎ込み、場に投げる。
「出でよ、《コッコ・ルピア》」
「何っ!?」
 陸と湊も驚いてその場を見ていた。ドラゴン男は、征市と同じ《コッコ・ルピア》を召喚していたのだ。
「俺と同じタイプって言うけれど、どこまで一緒なんだ?見せてもらうぜ!」
 岩のように硬い鱗で武装した長い体の龍《紅神龍バルガゲイザー》が征市の場に出る。攻撃時に山札をめくり、それがドラゴンであればコストを払わずに場に出す能力を持った強力なドラゴンだ。征市は本来、6コストのドラゴンを《コッコ・ルピア》のドラゴンのコストを2減らす能力で4コストに減らし、4ターン目の召喚に成功した。
「同じタイプでもレベルが違うという事を教えてやる」
 ドラゴン男も征市と同じようにマナゾーンにある四つのカードをタップする。しかし、征市が出したのは火文明のマナだけだったのに対して、ドラゴン男は闇文明のマナも出したのだ。
「闇のカード!?セーイチさんが使っていなかったカードじゃないか!」
「陸さん、何だか嫌な予感がします……」
 闇と火のマナを吸い込んだカードに、湊は怯え、陸はその存在に見入った。
 そのカードが鱗で覆われたドラゴン男の手から離れると、そこから出た黒と赤の光に呼応するように地面に揺れた。草が生えた土を突き破り、金属の棒のようなものが現れる。征市も何も言えずにそれを見ていると、その物体は徐々に姿を現し、三叉の剣である事が判ってくる。
「剣のクリーチャー?」
「いや、違う」
 湊が口にした疑問に、征市は無意識の内に答えていた。
 征市は思っていた。これほどのプレッシャーを感じさせる切り札級のクリーチャーがこんなにも早く出るはずがない、と。しかし、ドラゴン男のデッキは自然のカードでマナを増やし、ファイアー・バードでドラゴンのサポートをしながら重量級のドラゴンを大量に並べる征市と同じタイプのデッキだ。コッコ・ルピアが場にいる今なら、このターンで切り札が出てもおかしくはない。
 地面が大きく割れ、金属がこすれるような音と地獄の底から響くような怨嗟の声が聞こえてくる。
 地割れから最初に出てきたのは手だった。掌は炎のように赤く、手の甲は闇夜のように黒いドラゴンの手。それが大地をつかみ、地割れから自分の体を引きずり出す。
 次に現れたのは頭部だ。鋭い相貌が征市を睨みつけ、皮膚が破れ、骨が露出した口元から死臭にも似た臭気を帯びた息が吐き出される。その次に、様々な箇所が破れた翼が現れ、その翼が羽ばたいてその肉体の全てがその場にいる者達の前に晒される。
胴体に深く突き刺さった三叉の剣と、全身を縛り金属がこすれる耳障りな音を立てる鎖が見る者に得も言われぬ恐怖を与える。
「余の切り札の一つ、《神滅竜騎ガルザーク》!!」
 《ガルザーク》は外に出た喜びからか、全身を震わせ、大きな声で叫ぶ。そして、全身の鎖を揺らして征市を睨みつけた。
「なんだ、派手な登場したからどんな強い奴かと思ったらパワー6000のW・ブレイカーじゃないか。セーイチさん、そんなこけおどしのドラゴンなんかさっさとやっつけちゃって下さいよ!」
「いや……無理だな」
「うん、そう無理……って、えぇっ!?無理って嘘でしょ!?」
 余裕のある軽い答えを期待していた陸は、征市の思いがけない返答に驚いて聞き返す。陸を見てドラゴン男が笑っていた。
「余の切り札がただのW・ブレイカーのわけがあるまい。《ガルザーク》は攻撃されないドラゴンだ。どんなに強力なドラゴンを召喚したとしても、《ガルザーク》に触れる事すらできない」
「攻撃、されない……?」
 デュエル・マスターズにおいてクリーチャーを倒す代表的な手段は、クリーチャーで攻撃して殴り倒す事だ。征市のデッキはドラゴンデッキであるが故に、ドラゴンの比率が多くなり除去のためのカードが少なくなっている。《ガルザーク》を倒す手段が皆無に等しいのだ。
「攻撃されないだけのドラゴンではない。余の他のドラゴンがいれば、攻撃時のパワーは6000増え、T・ブレイカーを得る!」
「げっ……。4ターン目にパワー12000のT・ブレイカーって事?」
 《ガルザーク》の異常さに気付き、陸が改めてその巨体を見る。《ガルザーク》は体全体を上下に動かして呼吸をしながら征市を攻撃するチャンスを見計らっていた。
「心配するな、陸。今は、倒せないが、倒すチャンスがないわけじゃない!」
「負け惜しみを」
「そう思うか?」
 見下すような視線で征市を見たドラゴン男に対し、征市は五枚のマナをタップして一枚のカードを場に出す。そのカードが赤い光と共に龍へと変化した瞬間、高い声がK公園の広場に響いた。征市以外の三人の視線が声の主を見る。ドラゴン男の《コッコ・ルピア》が炎に包まれたまま倒れていたのだ。
「余の《コッコ・ルピア》に何をした!」
「ドラゴンを増やされたら厄介だったからな。こいつでお前の足場を破壊させてもらった」
 征市が呼びだしたのは、オレンジ色の肉体を持ち二又の銃に似た武器で相手を射抜く《ヘリオス・ティガ・ドラゴン》だ。場に出た時に相手のパワー2000以下のクリーチャーを全て破壊する能力を持っている。この特殊能力で《コッコ・ルピア》を破壊したのだ。
「同じタイプのデッキだったら、基本的な弱点も同じだ。やられて一番困る事をすればいい。マナが多くない今の状況で一番困るのは、ドラゴンのコストを下げる《コッコ・ルピア》を破壊する事だよな?」
 そう言うと、征市は歯を見せて笑う。
 征市が言うように、闇と火のカードで構成されたドラゴン男のデッキでは《コッコ・ルピア》を除去される事で被る被害は大きい。《ガルザーク》を早く出せたのも《コッコ・ルピア》がいたからなのだ。《コッコ・ルピア》の効果で続けてドラゴンを出そうと思っていたドラゴン男は、奥歯を強く噛み締めて征市を視線で射抜いた。
「そう怖い顔すんな。さっさと終わらせてやるからよ!」
 その声と共に、征市の《バルガゲイザー》が動き出した。

 空が少しずつ白くなり始め、空気が夜のものから朝へと変わり始めてきた。それと共に、二人のデュエルも終盤へと移り変わり始めている。
「《バルガゲイザー》で攻撃!能力行くぜっ!」
 《バルガゲイザー》がドラゴン男の《バルガゲイザー》へと突っ込む瞬間、征市は自分の山札の上に手をかざす。すると、山札が赤く輝き一番上のカードが《バルガザルムス》の元へ飛んで行って突き刺さる。カードから現れる赤いクリスタルの光を浴びて《バルガザルムス》の体が変化していった。
「《バルガゲイザー》の効果で《バルガザルムス》を進化させた。進化!《超竜騎神ボルガウルジャック》!!」
 そこに立っていたのは、四本足の下半身を持った龍《ボルガウルジャック》だった。攻撃した時に自身よりパワーが低いクリーチャーを一体破壊する能力を持っている。
「それと《バルガゲイザー》は攻撃時にパワーが1000プラスされる。生き残るのは、俺の《バルガゲイザー》だ!」
 征市の《バルガゲイザー》の口から吐かれた太い光線が、ドラゴン男の《バルガゲイザー》を焼き尽くす。そして、征市はドラゴン男の三枚のシールドを目で捉えた。
「《ボルガウルジャック》でシールドブレイク。そして、効果で《コッコ・ルピア》を破壊だ!」
 《ボルガウルジャック》が四本の足で地面をかけ、擦れ違う瞬間に持っていた剣で《コッコ・ルピア》を斬る。《コッコ・ルピア》は地面に倒れ、赤い炎を出して消えていった。《ボルガウルジャック》はシールドの前の地面で力を入れて跳躍すると、体当たりでもするように勢いを乗せて二枚のシールドを斬り裂く。ガラスが砕けるような音と共に、その二枚はドラゴン男の手札に入った。
 征市の攻撃によってドラゴン男のクリーチャーは減っていき、今では巨大なバズーカを持った龍《ボルスレッド・ファイアー・ドラゴン》一体のみになっていた。シールドは残り一枚である。
 征市には切り札とも言える《バルガゲイザー》と除去能力を持った進化ドラゴン《ボルガウルジャック》がいて、《コッコ・ルピア》が一体残っていた。シールドは既に残り一枚だ。
「俺に儀式の時間と場所を教えたのは失敗だったんじゃないか?お前を倒して龍のプライズを全部回収させてもらうぜ」
 征市は顔全体に余裕の笑みを浮かべてドラゴン男を見る。勝利を目前にして気が緩んでいるわけではない。勝てるという確信があったからだ。
 ドラゴン男の切り札《ボルスレッド・ファイアー・ドラゴン》は、攻撃時に手札からドラゴンのカードを一枚捨てると、捨てたドラゴンのパワー以下のクリーチャーを一体除去するパワー7000のドラゴンだ。次のターンで征市の二体のドラゴンを破壊する事も不可能ではない。しかし、征市の手札にはスピードアタッカーで《バルガゲイザー》とほぼ同じ能力を持つ《バルガライザー》があった。次のターンで《バルガライザー》を召喚すれば、シールドブレイクも《ボルスレッド・ファイアー・ドラゴン》と相討ちする事も可能だ。能力でドラゴンが出ればさらに有利な状況を作り出せる。
「お前、手札に《バルガライザー》を握っているな?」
 征市から一瞬、余裕の笑みが消える。それが悟られる事を恐れてすぐに微笑みを取り戻すが、その一瞬が命取りだった。
「隠す必要はない。余が作られた時に、余の兄弟達がお前と戦った時のデータが蓄積されている。そこの二人のデータも入っている。切り札が来るパターンも充分承知している」
 ドラゴン男は自分のカードをたたきつけるような仕草でカードを場に出した。そこから、体中は腐敗したようなドラゴン《黒神龍ザンジバル》が現れる。
「《ザンジバル》が場に出ている間、お前のタップされているクリーチャーのパワーは2000マイナスされる。《バルガゲイザー》は3000であり、《ボルガウルジャック》は6000だ。そして、余の切り札の出番だ!」
 ドラゴン男が投げたカードが《ボルスレッド・ファイアー・ドラゴン》のバズーカに突き刺さる。それによってバズーカが不気味な黒い光を発した。
「照準を合わせろ、《ボルスレッド・ファイアー・ドラゴン》!狙うは《ボルガウルジャック》だ!」
 腰を落とし、左手を当てて《ボルスレッド・ファイアー・ドラゴン》は《ボルガウルジャック》に向けて弾丸を発射する。鉛色をしたただの弾丸は、空気に触れている内に視認できる黒い龍のようなオーラを纏っていった。龍の弾丸が《ボルガウルジャック》に当たり、広場全体、いや、K公園全体に聞こえるような爆発を起こす。強大すぎる爆発音を聞いて、木に止まっていた小鳥達が飛び去って行った。
「貧弱だな。これが龍とは片腹痛い」
 そして、《バルガゲイザー》が《ボルスレッド・ファイアー・ドラゴン》に踏みつぶされる。為す術もなく征市の二体の龍が破壊されていった。
「セーイチさん!何か作戦があるんでしょ!?さっさとやっつけちゃって下さいよ!」
 征市は山札からカードを引きながら陸の声を聞く。今は、彼に答えている余裕すらない。
「陸さん、ドラゴン男が《ボルガウルジャック》を破壊するのに使ったドラゴンのカード、見てましたか?」
「確か、闇のドラゴン・ゾンビだったと思うけれど……。まさか!」
 陸と湊はそのカードを知っていた。《黒神龍グールジェネレイド》という闇のドラゴン・ゾンビだ。パワー6000のW・ブレイカーである以外、特殊能力はほぼ皆無であり、7というコストから考えると貧弱な部類に入る。しかし、陸と湊がその存在を恐れるのには理由があった。
「やりたかねぇが……虎穴に入らずんばなんとやらとも言うしな。やるしかないか!」
 征市のやる気に応えるかのように、彼の手札から炎と共に切り札《ボルシャック・大和・ドラゴン》が現れる。《ボルシャック・大和・ドラゴン》は刀を抜いて地面を蹴ると《ボルスレッド・ファイアー・ドラゴン》に飛びかかり、刀を振り下ろした。
「馬鹿か!《ボルスレッド・ファイアー・ドラゴン》のパワーは7000!《ボルシャック・大和・ドラゴン》の6000のパワーでは太刀打ちできん!さらに、《ザンジバル》によって攻撃した瞬間にパワーが2000下げられたのを忘れたか!」
「忘れちゃいねぇ!忘れているのはお前の方だ!」
「何を……!?」
 征市の言葉に戸惑うドラゴン男は《ボルシャック・大和・ドラゴン》の刀が地面に叩きつけられる音を聞いて我に返った。パワーで勝っていたはずの《ボルスレッド・ファイアー・ドラゴン》は地面に伏せていて、それを見下ろすように《ボルシャック・大和・ドラゴン》が仁王立ちしている。
「《ボルシャック・大和・ドラゴン》は、攻撃時に墓地にある火文明のカードの数だけパワーを1000プラスできる」
「そうか。だが、攻撃時だけだろう?」
 切り札を失ったドラゴン男が焦る事を予想していた征市だったが、その余裕のある答えを聞き、再び気を引き締める。倒れた《ボルスレッド・ファイアー・ドラゴン》を見ると、黒く変色していた。
「死と生は似ている。そうは思わないか?」
 《ボルスレッド・ファイアー・ドラゴン》の死骸が動き出し、その体がひび割れていく。割れた体の中から、《ザンジバル》と同じように腐敗した肉体を持つ黒いドラゴンが現れた。
「余が《ボルスレッド・ファイアー・ドラゴン》の能力で仕込んでおいたドラゴン・ゾンビ《黒神龍グールジェネレイド》だ。他のドラゴンが破壊された時に場に出る能力を持つ!」
「くそっ!やっぱり俺には、『君子危うきに近寄らず』の方が性に合ってたな」
 征市は冗談めかした口調でそう言いながら《グールジェネレイド》を見る。《ザンジバル》がいる今の状況では《ボルシャック・大和・ドラゴン》が一方的に倒されてしまうパワーだ。
「《グールジェネレイド》で終わりではないぞ。《ガルザーク》、《ボルスレッド・ファイアー・ドラゴン》に続く余の最後の切り札を見るがいい!」
 ドラゴン男が投げたカードによって、《グールジェネレイド》の肉体が変化していく。そこに現れたのは骨のように白い肉体を持つ龍。九尾の狐のように大量の尾を持ち、その尾には巨大な口とそれの中に隠された緑色の目玉があった。
「余の最終兵器《超神龍アバス・ノナリス》!!」
 《アバス・ノナリス》は視線の先を《ボルシャック・大和・ドラゴン》に向けると白い尾でその体を貫いた。尾が引き抜かれるのと共に、《ボルシャック・大和・ドラゴン》の巨体が倒れる。
「《アバス・ノナリス》のパワーは8000だ。進化ドラゴンにしては弱い方だが、お前のドラゴンを仕留めるのには充分過ぎるパワーではないか?」
「……間違っちゃいねぇな」
 征市の手札にあるカードの中で8000を超えるものはない。充分なパワーだった。
「《ザンジバル》!シールドブレイク!」
 ドラゴン男の命令を受けて《ザンジバル》が腕を振り下ろして征市の最後のシールドをブレイクする。その瞬間、赤い光がひび割れたシールドから漏れて、《ザンジバル》は上から来た金属の塊に潰された。
「シールド・トリガー、《地獄スクラッパー》だ。こっから逆転……って言いたいけれど、そう簡単にはいかないみたいだな」
 《アバス・ノナリス》が尾の中にある緑色の目玉を《コッコ・ルピア》に向ける。それによって《コッコ・ルピア》の黒い瞳の中に、狂気に満ちた緑色の光が宿った。
「余の切り札《アバス・ノナリス》は相手クリーチャーに《アバス・ノナリス》への攻撃を強制する。余のシールドは一枚だが、鉄壁の守りだ!」
「確かに、鉄壁だ」
 征市は顔を落とした。前髪で彼の顔が隠れる。陸と湊は信じられないものを見るような顔で征市を見ていた。
「……なんて言うと思ったか?」
 一瞬で空気が変わる。燃えるような炎と共に、二体のドラゴンが場に現れた。
 一体は《紅神龍ジャガルザー》。シールドがブレイクされた瞬間、場にいるクリーチャーを全てスピードアタッカーに変えるドラゴンだ。もちろん、自分自身をスピードアタッカーにする事もできる。
 そして、もう一体は《ボルシャック・大和・ドラゴン》だった。刀を引き抜くと、《コッコ・ルピア》に向けられていた尾を斬る。そして、《アバス・ノナリス》本体に刀の切っ先を向けた。
「さっきはパワーが2000減らされていた《ボルシャック・大和・ドラゴン》がパワー7000の《ボルスレッド・ファイアー・ドラゴン》を倒した。今、パワーを減らされていない《ボルシャック・大和・ドラゴン》がパワー8000の《アバス・ノナリス》を攻撃する。どうなると思う?」
 征市は笑顔でドラゴン男に聞いた。ドラゴン男は目の前の現実に驚き「あ、ああ……!」と喚くだけで意味のある言葉を話せない。
「そうだよな!破壊される!」
 《ボルシャック・大和・ドラゴン》の斬撃によって《アバス・ノナリス》の巨体が真っ二つに切り裂かれる。《ボルシャック・大和・ドラゴン》に続くように次は《コッコ・ルピア》が動き出した。風に吹かれて舞う木の葉のように軽やかに飛びまわると、ドラゴン男の最後のシールドに体当たりしたのだ。
「OK。見たか?これが『ウソのようなホントウ』って奴だ。最後は《ジャガルザー》でとどめ!!」
 《ジャガルザー》の口から吐かれた熱い炎がドラゴン男を包んでいく。ドラゴン男の爆発と共にデュエルは終了した。
「陸、湊!龍のプライズの回収だ!どこかで幻の奴が狙っているかもしれない!」
「その必要はない」
 龍のプライズに向かって飛び出そうとしていた二人と、デッキを片づけていた征市はその言葉を聞いて硬直する。それは、今まで戦っていたドラゴン男の声だったからだ。
 爆発の煙が晴れて、ドラゴン男が姿を現す。胴体の鎧は原形をとどめていなかった。ジャバウォックコアがむき出しになり、そこからコードのようなものが伸びている。
「まだ生きていたのか。だったら、もう一度……!」
 征市は片づけたデッキから五枚のカードを引き抜き、もう一度シールドを並べた。だが、ドラゴン男はカードに手をつける事なく話し続ける。
「データの収集は完了した。蓄積された経験によって暴龍ジャバウォックは誕生する」
「どういう事だ?」
「お前達は、ジャバウォック誕生の儀式がどういう事か判っていなかったようだな。既存の魔道書では不完全な方法しか残っていなかったのだから無理はあるまい。ジャバウォック誕生に必要なのは、四つの龍のプライズと戦闘データが蓄積されたコアだ」
 見ると、ジャバウォックコアは人間の心臓が鼓動するように、一定の周期で点滅している。中にドラゴンのようなものが見えるため、心臓ではなくもっと別のもののようにも思えた。
「相羽征市との戦いによって儀式は完了した。必要だったのは戦闘データのみ!勝つか負けるかは関係ないのだ!」
「じゃあ、お前が時間と場所を教えたのは最初から俺と戦うつもりだったのかよ!」
「言わなかったか?無様な表情をしているお前をもう一度見たくなった、と。今のお前はあの時以上に無様な表情をしているぞ?」
 征市の心を敗北感が満たしていた。自分はデュエルに勝利した。しかし、それすらも相手の作戦の範囲内の行動だったのだ。これほどの屈辱はない。
「ゲームは余の勝ちだ。ジャバウォックが誕生する!」
 コアから伸びている赤いコードのような物が龍のプライズに向かって動き出した。それを見て征市は顔を上げて陸と湊を見る。
「陸!湊!龍のプライズを取れ!まだ俺達は負けていない!」
 征市は二人に命じると、地面を蹴って自分の近くにある『龍の牙』に向かって駆け出した。
「もう遅い!」
 しかし、それよりも早くコードが『龍の牙』に突き刺さる。他の龍のプライズにもコードが突き刺さり、ドラゴン男と共に宙に浮いて行った。
「二千九年九月十九日、今、この時から世界の歴史が変わる。魔道書同盟によって全てが支配される新たな時代が始まるのだ!」
 コードが縮み、龍のプライズが赤く発光しながらコアに近づいていく。そして、四つのプライズとコアが触れた瞬間、太陽が爆発するような光がK公園の全てを覆い尽くし、征市達はその場に倒れて意識を失った。

 『File.25 暴龍討伐』につづく
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