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『コードD』File.25 暴龍討伐

『コードD』
 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 魔道書同盟が龍のプライズを使って生み出そうとしていたのは、ジャバウォックと呼ばれる巨大な龍だ。圧倒的な力を持つと言われているその龍を生み出させないために、征市は最後の龍のプライズ『龍の牙』を学者、平丘の家に取りに行くが、それをドラゴン男に奪われてしまう。征市は陸と湊を連れて、ドラゴン男が儀式をすると言った時間に彼が告げた場所に向かった。儀式を止めるため、征市はドラゴン男に挑む。征市はデュエルに勝利するが、儀式に必要なのは戦闘データだった。ドラゴン男が敗北する事で龍のプライズはドラゴン男の体内に埋め込まれていたジャバウォックのコアに反応する。世界を消し去るような光を受けて、征市達は気を失った。

  File.25 暴龍討伐
 
日が昇り始めたばかりの山城公園で、彩矢は、遠くの空を見ていた。晴れているはずの空なのに、遠くに巨大な黒雲が見える。風のない空の中で、その雲だけが彩矢のいる場所に向かって動いている。
「征市さん……」
 巨大な魔力を遠くにいても感じる事ができる。ジャバウォックは復活してしまったのだ。あの黒雲の中にジャバウォックがいると彩矢は思っている。
 黒雲を睨みながら、彩矢は携帯電話を取り出す。今は、土曜日なので相手が起きているかどうか不安だったが、数回のコールの後に寝ぼけたような声が聞こえた。彩矢の顔に宿っていた緊張が少し解ける。
「姉さん、おはよう」
『おはようじゃないよ~。五連休が始まるんだから、あと五時間寝かせてよ~』
「姉さん、それは寝過ぎよ」
 やんわりと姉をたしなめると、彩矢は軽く微笑み、本題に入る。
「眠っていたところを起こしちゃって悪いんだけど、今すぐQ区から……いや、Y市からも離れてできるだけ遠くに行ってもらえるかしら?東京じゃまだまだ近いわね。できれば、山梨くらい遠くに」
『え?いきなり、どうしたの?』
 世間話とは違う緊張感を含んだ彩矢の言葉を聞いて、寝ぼけていた彩弓も正常な思考を取り戻したらしい。突拍子のない彩矢の言葉に聞き返した。
「姉さん、征市さん達が悪い奴と戦っているの知ってるわよね?その悪い奴らがとてつもなく大きな怪物を生み出したの。今はまだ何もしていないけれど、いずれY市だけでなく、日本全体を襲うかもしれないわ。でも、そうなる前に何とかできるかもしれない。だから、決着がつくまでどこかに避難していて欲しいのよ」
『そうなの……』
と、静かに彩弓は呟く。その後、はっきりした口調で問う。
『彩矢。やっぱり、彩矢も征市君達と同じように魔法を使って戦っていたんだね』
 予想していなかった質問に、彩矢は一瞬、戸惑う。しかし、今の説明を聞いたら誰だって彩矢が関係者である事に気づくかもしれない。
「ええ、そうよ。でも「やっぱり」って?」
『征市君の家に行った時に、もしかしてって思ったんだ。二号見ても驚かなかったし、地下にあったたくさんのデュエル・マスターズカードを見ても驚かなかった。それに征市君の家から帰る時に様子がおかしかったし。もしかしたら、彩矢も同じように戦っているのかもって思ったんだよ』
「隠していてごめんなさい。いつかは話すつもりでいたのよ」
 彩矢は、彩弓の思考はもっと愚鈍だと思っていた。少なくとも、彼女の記憶にある一ノ瀬彩弓はそういう人格だった。顔を合せなかった数年間が、彼女を変えたのかもしれない。
『謝らなくていいよ。でも、これなら避難しなくても大丈夫だねっ!』
「姉さん!?」
 戸惑う事の連続だった。彩弓は太陽のように明るい声でそう言って彩矢を驚かせる。
『だって、征市君も彩矢も戦ってる。それに陸君や湊ちゃんだっていつも悪い奴らに負けないもん。征市君達は、絶対に負けないって信じてるから!』
「信じてる、ね……」
 彩矢が信じていたマシューは暴走し始めている。その言葉が、今は少しだけ重く感じる。
 彩矢は、彩弓との通話を終えると、トライアンフの事務所に戻る道を歩いた。マシューが何を考えて吸収計画を実行しているのかは判らない。だが、どんな事があっても変わらない事がある。彩矢は、魔道書同盟や悪意ある魔法使い、そして暴走したプライズから人々を守るために日本に来たのだ。その想いも、その気持ちから出た行動もマシューに邪魔させはしない。
「それに、うまくやれば征市さんも褒めてくれるかもしれないし」
 照れ隠しのようにそう呟くと、彩矢は他のメンバーが待機している事務所へ急いだ。

 風が頬を撫でるのを感じて、征市は目を覚ました。
 周りを見ると、そこは事務所の最寄り駅の近くだった。左を見れば未来地区へ行くためのエスカレーターがあり、右を見れば周辺地区へ移動するためのバス停がある。振り返るとJRの駅があった。見慣れたQ区の光景だ。
 ただ一つおかしいのは、周囲に征市達以外の人間が一人もいない事である。征市の足元には、陸と湊が倒れている。しかし、彼らの目の届く範囲に人の姿も人のいる気配もない。
 Y市の観光名所としても知られるQ区で人通りがない日などありえない。少なくとも、征市の記憶にはそんな日が来た事は一度もなかった。しかも、今は平日ではなく五連休最初の一日である。様々なイベントが行われていて、それを目的として来る人がいてもおかしくないのだ。
「う~、頭いた……」
「ん……」
 征市の足元で倒れていた陸と湊が目を覚ます。そして、自分達の周囲を見て征市と同じように驚いていた。
「うっそ!僕達、K公園からここまで飛ばされちゃったわけ!?」
「でも、人がいないなんておかしいですよ」
「どういう事だ?まさか――」
 征市は言いかけてから、自分の想像を口に出す事を恐れ、言葉を飲み込む。だが、それだけで陸と湊に言いたい事は伝わっていた。
「みんな、ジャバウォックのせいでいなくなっちゃったんですか?」
 信じたくはなかった。しかし、征市達が倒れている間、強大な魔力を駆使してジャバウォックがY市の人間を消し去ったとしか考えられない。龍のプライズは、全て集めれば何でも願いがかなうと言われているほどの代物だ。その力を全て使えばこれだけの事ができると言われても不思議ではなかった。
「街と俺達だけが残った、って事か。信じたくはないが、これも『ウソのようなホントウ』って奴かもな」
「いや、目の前で起こっているのは現実だけど、嘘とも言えるよ」
 男の声と共に、一人の人物が歩いてくる。征市達が声のした方向を見ると、そこには平丘がいた。
「無事だったんですか?というより、何でここに?」
「ドラゴン男に殴られた時の事かい?あの時、朦朧としてたけれど、意識はあったんだ。その時に龍のプライズを使った儀式をするって聞いたから、病院を抜け出して見に来たんだけど……」
 平丘はそこで口を閉じると、目を閉じる。夢の世界を漂うような気持ちのよさそうな表情をして、彼は話を続けた。
「こんなにすごいものが見られるとは思わなかったよ。暴龍ジャバウォックの復活か。『龍の牙』はただのプライズではないとは思っていたけれど……うん、すごい。すごすぎて陳腐な感想しか言えないね」
「すごいなんて言っている場合じゃないですよ」
「つーか、セーイチさん、この人誰ですか?」
 征市は、陸と湊に平丘が『龍の牙』の持ち主でプライズのコレクターである事を話し、平丘に陸と湊が自分と同じようにトライアンフに所属するデュエリストである事を話した。陸と湊が解雇された事は、話さなかった。
「ところで、「目の前で起こっている事は現実だけど、嘘」ってどういう事ですか?」
 平丘は、征市の問いに「どう説明したらいいかな」と呟いて顎に手を当てて考える。一分もしない内に平丘は顔を上げて説明を始めた。
「僕達以外の人間がいないY市に僕達しかいないというのが現実。そして、僕達の前に広がっているY市が嘘……というより、偽物」
「え?偽物?」
 オウムのように言葉を繰り返した征市を見て、平丘は説明を続ける。
「そう。偽物のY市だ。本物そっくりにできているけれど、偽物だから人がいない。何故なら、ここはジャバウォックの体内に作られた空間だからさ」
 その言葉は征市達の想像を遥かに超えていた。征市だけでなく、陸と湊も同じように驚いて平丘の顔を見る。
「ジャバウォックが何のためにY市の偽物を作ったのかまでは判らない。けれど、何か意味があるはずだ」
 平丘は、思考をまとめるためか、早足で歩きながら説明を続ける。一人で語っているような状態に近く、征市達は目に入っていない。
「この人、ジャバウォックについて色々知っているんですね」
「民俗学の研究者らしいからな。プライズに関する知識もあるみたいだし、専門かどうかは判らないけれど、こういう事も詳しいんだろ」
 湊の問いに答えた征市は平丘を見ていた。彼は、周りが目に入っていないらしく、いつの間にか道路の近くまで離れている。征市は苦笑しながら彼を追った。
 征市達が平丘まで五メートルほど離れた場所まで来た時、彼らは魔力の爆発のようなものを感じ取って不意に立ち止まる。征市と湊は過去に感じたものと同じ奇妙な感触を味わって顔を見合わせた。
「この感じ、まさか!」
 征市が口に出すのと同時に、白い街灯が折れて平丘に向かって倒れてきた。征市は急いで懐からカードを取り出すと、カードを通じて魔力を打ち出す。赤い光弾が平丘の頭上に迫っていた街灯を弾き飛ばした。頭上で光弾と街灯がぶつかる音、そして吹き飛ばされた街灯を見て、平丘は立ち止った。
「今のは、何だい?」
 戸惑う平丘の腕を引っ張った征市は、自分達の周囲に気を配った。四人の前に宙に浮いた青と緑色が混ざったような色をした人間の頭部が現れた。次は腕、そして胴。最後に腰と足が現れる。それは征市がよく知っていた怪人だった。
「透明男か?でも、こいつは俺が倒したはずだ!」
 透明男は、征市が一真の助言を受けてYスタジアムで倒した怪人だ。透明になる能力を持っているが、強い光に弱い。おびき出してスポットライトを浴びせて透明になる力を打ち消し、デュエルに持ち込んで勝利した。
「透明男だけではない!我もいるぞ!」
 声に反応して陸が振り向く。黒いマントに同じ色のタキシード。そして、日の光の下にいるのが似合わないような青白い肌をした古い映画に出てくるヴァンパイアのような怪人、吸血男だ。
「このマザコンも倒したはずなのに……」
「アソボウ!」
 機械で合成されたような声を聞いて湊が声の主を探す。四角い箱を積み上げたレトロなデザインのロボットのような怪人、ブリキ男が歩いてくる。この怪人は湊が倒したはずだ。
「ブリキ男の元になったプライズは保管されているはずなのに……!」
「セーイチさん、おかしいですよ!」
「そんな事は判ってる。偽物のY市だから、一度倒した偽者の怪人が出てくるって事か?上等だぜ!」
 征市はマッチを擦って炎の中から赤い革のデッキケースを取り出す。それを見て、陸もループタイのカメオのドクロを光らせ、湊も携帯電話のストラップを光らせて、それぞれデッキを取り出した。
「赤いブレザーの男!貴様を我の下僕にしてやる!」
 吸血男はデッキを取り出すと、征市に飛びかかった。征市は、陸の報告を思い出しながら五枚のシールドを自分の前に並べる。
「アソボウ!」
「おもちゃと遊んでいる時間はないんだよ!一気に決める!」
 陸は、ブリキ男にデッキを突き付けた。
「がァァァッ!」
「行くよ!」
 湊も二人と同じように透明男と対峙する。
「こいつらは偽者みたいだがどこまで同じか判らねぇ!ジャバウォックは俺達のデータを持っているんだ。気をつけろよ!」
 征市の言葉を合図に、トライアンフメンバーと怪人とのデュエルが始まった。

「僕に黙って何をした!」
 事務所に入った彩矢が最初に聞いたのは、マシューの怒鳴り声と彼がデスクを叩く音だった。怒りの矛先は菜央に向いているらしく、彼の視線の先には彼女がいた。トライアンフアメリカにいた時にそんなマシューの姿を見た事がなかった彩矢は、何が起こったのか判らずにその光景を見ていた。
「僕がそんなに気に入らないのか?何故、部外者の二人に連絡した!?あの二人が邪魔をしたせいでジャバウォックが現れたのかもしれないんだぞ!」
 マシューが発した「部外者の二人」というフレーズから、彼が怒っている理由が想像できた。菜央は、陸と湊に連絡を取ったのだ。自分が解雇した二人を勝手に頼った事が気に入らなくて怒鳴り散らしているのだ。
 菜央は、静かに息を吐くように口を開いた。
「解雇したければそうすればいいでしょう。そのやり方を続けた結果、あなたがどうなるのか私には興味がありません」
 菜央はそう言い残すと、マシューに一度頭を下げて去っていった。一真は、彼女の追いかけようとして車椅子に手をかける。
「追うのか?」
「ああ」
 面識がある二人の短い会話。そして、その直後に口を開く事も動く事も許されないような長い沈黙が続く。
「今の……琴田菜央が指揮しているトライアンフの動きは危険だ。一真も判っているだろ?」
 重い沈黙を破り、マシューが言葉を選びながら話す。一真は少し考えてからそれに答えた。
「陸みたいに悪魔と契約したデュエリストが危険だっていう考え方や、情報の少ない湊が信用できないっていう考え方が判らないわけじゃない。お前の考えは安全だし、正しい。だが、菜央の言っている事も正しい。俺達はトライアンフジャパンというチームなんだ。トライアンフアメリカの出張所じゃない」
 マシューが一真の答えに何か言い返そうとした時、デスクの上で電話が鳴る。何回か応答した後、すぐに通話を終えて一真を見る。
「気にするな。大した事じゃない」
 一真も彩矢もそれは嘘だと感じた。受話器からは助けを求める悲痛な叫びが聞こえたのだ。それを無視する事などできない。
「言え。何があった」
「……魔法警察だ」
 一真に睨まれたマシューは観念したように話し始める。街では、ジャバウォックが産み落とした卵から怪人達が現れ、人々に襲いかかろうとしているらしい。その怪人は、以前、征市達が倒したのと全く同じものだった。魔法警察が対応しているが、デュエリストでなくては歯が立たないと判断したため、トライアンフに応援を要請したのだ。
「今のところ、ジャバウォックは目立った動きを見せていない。街に卵を産みつけただけだ。だが、これからどんな動きをするかは判らない。二人にはジャバウォックの討伐を命じる」
「魔法警察が戦っている怪人はどうする?」
「放置しろ。魔法警察は、人々の楯となるのが仕事だ。その結果、死んだとしたら、それは彼らの力不足によるものだ」
「マシュー!」
 彩矢がその言葉に反応して彼に近寄るが、一真が手でそれを制止した。
「やめろ。言い争っている時間が勿体ない」
「でも……!」
 一真は顔色一つ変えずにエレベーターに向かうと
「行くぞ」
と、言って彩矢を促す。
「一真さんは、街にいる怪人達を放っておくんですか!?ジャバウォックを優先して、怪人達と戦っている魔法警察を――」
「いいから早く来い。俺達で怪人を食い止める」
 静かな、だが、はっきりとした強い意志を感じさせる一真の言葉を聞いて、彩矢は口を閉じる。そして、マシューを見た。マシューは奥歯を噛みしめながら彩矢を見ている。一真にまで見放された事が信じられないらしく、屈辱を噛みしめた顔で口を開いた。
「彩矢も一真と一緒に行くのか?」
 彩矢は、少しだけこの男が哀れに感じた。トライアンフジャパン吸収計画だって彼が発案した計画ではない。彼も彼なりの正しさを貫いただけだった。だからこそ、彩矢は今の自分が正しいと思っている事をやらなくてはならなかった。
「ごめんね、マシュー。今は、ジャバウォックよりも卵から生まれた怪人をどうにかしなくちゃいけないと思うの」
 それだけを告げて、同僚に背を向ける。自分も彼に解雇を宣言されるだろうと思いながら。
「怪人を倒せば街にいる者も、魔法警察も助かるだろう。だが、ジャバウォックがいる限り、再び卵が産み落とされるかもしれない。他の方法で人々を襲う可能性もある!元を断たない限り、戦いは終わらない!」
「それも判っている。でも……多分、それは大丈夫!」
 彩矢は一真と共にエレベーターに乗ると、振り返ってマシューに微笑んだ。
「確かにジャバウォックは生まれてしまったけれど、儀式をしていた場所にはアタシの未来の旦那様とその仲間が二人もいたんだから♪今は三人を信じて任せましょ!」
 エレベーターの扉が閉まる。それまでの間、マシューは茫然とした顔で彩矢達を見ていた。
「三人に任せるか。俺もそれには賛成だな」
 事務所が入っていた博物館の外に出てから、一真は彩矢を見上げて言う。その顔は何か吹っ切れたような笑顔だった。彩矢の言葉を聞いて、自分の進むべき道を見つけたようなそんな笑顔だ。
「菜央に連絡を取ろう。どれだけ多くの怪人がいるか判らない」
 一真は通話をしながら駅前へ向かった。駅の付近に卵が産みつけられているのだ。人への被害が少なくても、既に交通網には影響が出ているかもしれない。
 菜央と合流し、三人は駅前に向かった。
「一真さん、戦うとしても、私にはデッキがありませんよ」
 菜央が使っているデッキは、トライアンフの事務所の全システムと連動したデッキだ。トライアンフのシステムをマシューが掌握している現在、菜央がそのデッキを持ちだす事はできなかった。
「あれを使うのはリスキーだ。お前もそう思っていたんだろう?」
 一真は菜央に真新しいデッキケースを渡した。菜央は、それに見覚えがあった。
「お前が作っていた新しいデッキ。これがあれば戦えるな?」
 一真の問いに対して、菜央は力強く頷いた。そして、前を向く。
 普段なら、人々で溢れているはずの駅前にイレギュラーな存在がいた。大人が一人入れるほどの大きさのオレンジ色の球体が大量に転がっている。その内のいくつかは割れて、透明の液体が中からこぼれていた。それが怪人の卵だったらしく、割れた卵と怪人の数は一致した。
「なんだ。まだ死にに来る奴がいるのか」
 怪人達の中央にいたキメラ男が一真達を見て言った。トライアンフを壊滅寸前まで追い込んだ怪人を囲むように、今まで現れた怪人が三人の前に立っている。それを見ながら、三人はデッキをデッキケースから取り出し、シールドを並べる。
「行くぞ。ジャバウォックは征市達に任せる。あいつらを信じるぞ」
「当然ですよ!だって、アタシの未来の旦那様なんだから♪」
「覚悟しなさい!」
 トライアンフメンバーの闘志に呼応するかのように、三体の怪人が彼らの前に出る。怪人達がシールドを展開した時、デュエルが始まった。

 全、幻、ジャロールはジャバウォックの頭部にいた。頭部の中は、暗室のようになっていた。そこに三脚だけあるパイプ椅子に座って三人は目の前にあるスクリーンを見ていた。スクリーンには、ジャバウォックの目を通して外の様子が映し出されている。
「すごいっ!ジャバウォックはすごいわっ!」
「まさか、ここまでとはね。本当に……驚いたよ」
 全はスクリーンに映る映像を見て子供のように腕を振り回しながら喜び、幻は自分の中で抑えられない興奮をどう処理していいのか判らないのか、困ったような顔をしていた。
「ふむ。じゃ、僕のやるべき事はこれで終わりのようだな」
 その中でジャロールの反応だけが覚めていた。彼は魔道書同盟の一員ではなく、目的のために同盟と協力していただけだからジャバウォックの誕生を見ても喜びを感じないのかもしれない。
「どこへ行くつもりなんだ?」
 椅子から立ち上がったジャロールに幻が聞く。その目は、スクリーンに釘付けになったままだ。
「ここではつまらないからね。もっと刺激的な場所でジャバウォックの活躍を見る事にするよ。転送装置の場所は知っているから案内は不要だ」
「そう。死んでも知らないわよっ!」
「僕は不老不死を目指しているんだ。そう簡単には死なんよ。それより、協力の謝礼よろしく。焦ってはいないけれど、僕が寿命で死んでしまう前に頼むよ」
 魔道書同盟は、一部の龍のプライズの提供やトライアンフからの龍のプライズの奪還などでジャロールに力を借りている。彼は、不老不死のヒントを得るために同盟に手を貸していた。彼の言う謝礼とは、自分が不老不死になるためのヒントだ。研究をして不老不死になるのが目的であって、同盟に不老不死にしてもらうのが彼の目的ではないのだ。
 ジャロールは、扉を開いて暗室を出る。ジャバウォックの体内は、異常なまでに広い建物の中のようだった。
 ある場所に出れば洋風の内装の部屋。ある場所に出れば和風の内装の部屋。そして、ある場所に出れば部屋のはずなのに外の景色が広がっているという事もある。室内なのか屋外なのかよく判らない奇妙な空間を体内に宿しているのだ。
 様々な部屋の中に、地上への転送装置が置かれた部屋がある。魔道書同盟とジャロールはこれを使ってジャバウォックの体内に入ったのだ。
「面白がっているのは結構。しかし、鼠が入っている事に気がつかないとはいかがなものだろうか?僕には関係のない事だけどね」
 ジャロールはそう呟くとステッキを回しながら、ジャバウォックの体内に作られた長い廊下を歩いていた。

「とどめだ!」
 征市、陸、湊の切り札が、それぞれ対峙していた怪人達を倒す。征市はデッキケースにカードを戻すと平丘の腕をつかんだ。
「ここは危険だ。逃げましょう!」
 そう言うと、陸と湊に視線で合図を送って走り出した。四人が向かったのは、地下鉄のホームへつながる地下道だ。時折、後ろを振り向いて怪人が追いかけてこないか確かめながら階段を駆け下りる。
「よし、もう大丈夫みたいだ。げっ!」
 征市は地下道に降りる一歩手前で踏みとどまる。本当のY市だったら、灰色をした地下道があったはずだ。しかし、目の前に地下道はない。地下道があったはずの場所には、上空から見たY市の街並みが映っていた。
「おい……!これって、Y市の上って事か?もしかして、飛び出してたら、俺――」
 そこから先は恐怖で言う事ができなかった。勢い余って飛び降りて地面に激突していたかもしれない。想像するのも口に出すのも嫌だった。
 何もないように見えるが道はきちんとあるらしく、征市が恐る恐る足を踏み出すと何もないはずの場所に足をつく事ができた。分厚いガラスの道のように下にあるY市の街並みを見られるようになっている。陸と湊と平丘は珍しそうに眼下に映るY市の光景を見ていたが、征市だけは目を閉じて上を向くようにしていた。
「ジャバウォックの奴め。なんのつもりだ」
 征市は、右手に力を込めてジャバウォックへの怒りを語るが、言葉に覇気がなかった。考えられないくらいの高所にいるせいか、足が小刻みに震えている。
「あれ?セーイチさんってもしかして高所恐怖症なんですか~?」
「う、うるせぇ!そんなわけねぇだろ!」
 からかうような陸の口調に対して、征市の口調は震えていた。高所恐怖症である事を自分でアピールしているようなものだ。
「本当にすごい光景ですね。あれ?」
 湊が目を輝かせながら下の街並みを見ていると、駅の近くで視線が止まった。陸も同じように駅の近くを見る。
「な、何だよ。何があったんだよ!」
 征市は、下を見る事ができずにいた。二人が何に注目しているのか判らず、自分で見る事ができない苛立ちもあって声を荒げた。
「リーダー達が戦っているんです!」
「何!?」
 陸の切羽詰まった声に反応して征市は、目を開けた。だが、下が視界に入らないように上ばかりを見ているため、見る事ができない。
「変な卵みたいなものが駅前にあるんです。中には破れた卵があって、その周りには僕達が倒した怪人が――」
「ジャバウォックの卵さ」
 湊の説明の途中で平丘が口をはさむ。そして、体をくの字に折り曲げると目を皿のようにして下の光景を見ていた。
「ジャバウォックって卵を産むんですか?」
 征市は、目を堅く閉じて平丘に質問する。視界に下の光景が映ったせいか、声が震え、額に汗がにじんでいた。
「ああ、ジャバウォックは卵から色々なものを生み出す。コアが経験した情報を元に自分の分身とも言える存在を形として残すために卵を産み落とすんだ」
「厄介なものをポコポコ出すんじゃないよ!すぐにリーダー達を助けに行かないと!」
 陸も地面に這いつくばって透明なそれを叩いている。だが、人間の手でジャバウォックの肉体を貫けるはずがない。
 突如、地下道に響く足音を聞いてその場にいた四人は動きを止めた。征市は、意を決して目を開け、足音の主が階段を下りてくるのを見た。
「キメラ男……か?」
 この場にいる三人のデュエリストを一度葬り、その後に征市に倒され、蘇って再び征市と戦った怪人、キメラ男が立っている。Y市の偽物であるこの場所ならば、この怪人が征市達の前に現れるのも不思議ではない。問題は、今まで戦ったキメラ男と外見が変わっているという事だ。
 吸血男のような黒いマントに、左肩についた青と緑が混ざったような色の顔。右肩にはジャンク男の頭部がついていて、胴体にあるブリキ男の目が光るのと同じタイミングでジャンク男の目のライトも光っていた。そして、顔はキメラ男と同じようにひび割れた白い仮面で覆われている。
「キメラ男三号と名乗っている。そう呼んでもらおう」
 自らそう名乗ったキメラ男は、どこからか二つの黒いチェス駒を取り出し、目の前に投げる。黒い光を放ったそれは空中で二人の人間の姿へと変化した。陸と湊だ。
「僕らの偽者か?嘗めるなよ!」
「偽者なんかには負けない!」
 既にデッキを握っていた陸と湊を見ながら、二人の偽者もデッキを取り出し、シールドを展開した。それぞれ、本物と偽者の戦いが始まったのだ。
「本物とか偽者とかどうでもいいじゃんかよ。僕が勝ったら、責任とってリーダーを幸せにしてやるから安心して死んでろよ!」
「ふざけるなよ!」
 挑発に乗って熱くなる陸を見ながら、偽者の陸は様々な生物が融合したような形の小型のグランド・デビルを召喚する。闇の進化クリーチャーのコストを下げる《死神封魔ラヴァール》だ。怨念を感じさせるような気持ちの悪い叫び声が周囲に反響した。
「進化狙いか。切り札出される前に何とかしたいね!」
 陸は、偽者が出したクリーチャーを見ながら動き始める。陸が使った呪文《エマージェンシー・タイフーン》によって、巨大な彼の手札に二枚のカードが紛れ込み、それと同時に一枚のカードが手札から弾かれた。墓地にカードを送り込むのも策略の内だ。
「行くよ!《フェアリー・ライフ》!」
「《ヤッタルワン》召喚!」
 湊も自分の偽者と戦い始めていた。偽者が《フェアリー・ライフ》を使ってマナを増やしたのに対して、湊は二本足で歩く犬のようなクリーチャー《大冒犬ヤッタルワン》を召喚し、その能力で手札をマナに変える。互いにマナを増やしながら相手の出方を探っていた。
「《コッコ・ルピア》召喚!」
 征市は《フェアリー・ライフ》でマナを増やしてから《コッコ・ルピア》を召喚する。これによってドラゴンのコストを軽減するのだ。
「ならば、こちらも行くぞ。《ルピア・ラピア》!」
 征市と同じように前のターンで《フェアリー・ライフ》を使っていたキメラ男三号は、《コッコ・ルピア》によく似たファイアー・バードを場に出した。違うのは、羽に緑色の大きな宝石がついている点と肩に大砲を背負っている点だ。
「《ルピア・ラピア》か。《コッコ・ルピア》と同じようにドラゴンのコストを減らすクリーチャーだな」
 征市もそのカードの存在を知っていた。《ルピア・ラピア》は《コッコ・ルピア》と違い、ドラゴンのコストを2減らす事はできない。減らせるコストは1だけである。しかし、パワー3000と破壊されにくく、破壊されてもマナに姿を変えて、代わりにマナゾーンにあるドラゴンのカードを手札に戻す力を発揮する。
「お前もドラゴンデッキを使っているのか。そうだとしても、俺は負けない!」
 征市が投げたカードから、赤い翼を広げた龍、《インフィニティ・ドラゴン》が現れる。《インフィニティ・ドラゴン》は翼についた大砲をキメラ男三号のシールドに向けて威嚇していた。
「あの時と同じように、またお前を這いつくばらせてやる。怯えろ!相羽征市!」
 仮面ごしに征市を睨みながらキメラ男三号は山札からカードを引いた。

 ジャバウォックの巨体が空を隠し、全てがその影に隠れている駅前でシールドの砕ける音が響いた。
「とどめだ、《バグナボーン》!」
「《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》!」
「《ホワイト・ヘヴン》!」
 一真の《バグナボーン》が舞い、彩矢の《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》の刀が敵を斬り裂き、菜央の《迅雷の精霊ホワイト・ヘヴン》が弓矢で敵を撃つ。三体の怪人は為す術もなく破れ去っていった。
「これにて一件落着♪……とはいかないみたいね。空気読んでよ」
 彩矢は唇を尖らせると、倒れているキメラ男を見た。キメラ男に、今まで倒されていった怪人の残骸が飛びつき、融合し始める。強い光と共にキメラ男は立ち上がった。他の怪人の残骸と融合したその姿は、ジャバウォックの体内で征市が戦っているキメラ男三号と全く同じものになった。
「何なの、これ?征市さんが戦ったのが、キメラ男二号だから……」
「三号。キメラ男三号と呼んでもらおう」
 キメラ男三号は彩矢にそう言った後、菜央にデッキを向ける。
「すぐにそう呼ぶ機会もなくなるがな。私の姿を見て生きていられると思うな」
 菜央は、キメラ男三号の挑発に眉一つ動かさずにシールドを並べる。そして、五枚の手札を引くとこう言った。
「確かに、そう呼ぶ機会はないでしょう。私がすぐに倒すんですから」
「お前……!」
 挑発を返されたキメラ男は乱暴な手つきでシールドを並べて、デュエルの準備を始める。菜央は一真と彩矢を見て
「魔法警察の方々や逃げ遅れた人を頼みます」
と、言った。今、キメラ男三号以外の怪人はこの場にいない。負傷者を逃がすのならば、今がチャンスだ。
「冷静な判断だな。やっぱりお前が俺達のリーダーにふさわしいよ」
 一真はそう言うと彩矢を連れてその場を離れた。
「余所見をしている場合か?《コッコ・ルピア》召喚!」
 キメラ男三号が《コッコ・ルピア》を召喚する。征市と同じドラゴンデッキだ。《コッコ・ルピア》を召喚した後、大型のドラゴンが続けて出るのはつらい。すぐに場を制圧されてしまう可能性がある。
「とても調子がいい。次のターンにはドラゴンを出せるぞ」
 さらに、キメラ男三号はたたみかけるように手札の状況を伝えてくる。普通のデュエリストなら、焦りや動揺を隠せなくなってしまうような状況だ。しかし、菜央は冷静な表情を崩さぬまま、カードを引いた。
「水文明のカードをマナゾーンにチャージ。これで光と水と自然。私のデッキに入っている全ての文明が揃いました。もう、ドラゴンも怖くない。そんな気がします」
 そう言った菜央はマナのカードを全てタップし、一枚のカードにそこから出た三つのマナを注ぎ込む。すると、マナの力に反応して菜央が持っていたカードが強烈な光を発した。キメラ男は思わず目を保護するように手で顔を隠した。
「何をした?目くらましのつもりか?」
 光が収まったのを感じ取って、キメラ男三号は場を見る。すると、召喚したはずの《コッコ・ルピア》がいなくなって、代わりにシールドが一枚増えていた。
「《魂と記憶の盾(エターナル・ガード)》を使って《コッコ・ルピア》をシールドに封じました。いくら調子が良くても、二ターン続けて《コッコ・ルピア》を出せるんですか?」
 菜央が浮かべた微笑を見ながらキメラ男三号は震える手でカードを引く。しかし、そのカードは望んでいた《コッコ・ルピア》ではなかった。マナにカードをチャージしてターンを終了する。
 それを見た菜央は《フェアリー・ライフ》でマナを増やし《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》を召喚する。これによってターンの最初に四枚しかなかった菜央のマナゾーンのカードは六枚にまで増えていた。これだけのマナがあればそれなりの強さのクリーチャーを出す事も可能だ。
「あなた達にかまっている時間はないんです。早く倒してジャバウォックを止める方法を考えなければならない。すぐに蹴散らしてあげます!」
「まだ始まったばかりだ。私は全ての怪人の集合体のようなもの。こんな小娘に負けるものか……」
 菜央の迫力のある目に射抜かれ、キメラ男三号は思わず後ずさった。気圧されながらカードを引いた。

「終わりだ」
 キメラ男三号が静かにそう言うと、彼が投げたカードを中心に《ルピア・ラピア》《武装竜鬼ジオゴクトラ》《闘龍鬼ジャック・ライドウ》の三体が融合していく。そして、星が誕生する時のような巨大な爆発と共に一体のフェニックスが場に現れた。
「げぇっ!なんだよ、あれ……」
「大き……すぎます」
 自分の偽者と戦っていた陸と湊もその巨大な質量に圧倒され、デュエルを止めてそのクリーチャーを見ていた。
「おいおい……。冗談じゃねぇ。こんな奴とどう戦えってんだよ」
 そして、目の前でそのクリーチャーと対峙していた征市がぼやく。太陽を思わせるような装飾の赤いフェニックス《超神星アポロヌス・ドラゲリオン》が宙に浮き、征市のシールドを見ていた。
「《アポロヌス・ドラゲリオン》で攻撃!メテオバーンでワールド・ブレイカーに!」
 キメラ男三号の命令を受けた《アポロヌス・ドラゲリオン》の体内から赤い玉が出てきて征市のシールドに近づく。たんぽぽの綿毛のように空を漂っていたそれは征市のシールドに近づくにつれ、大きくなっていた。そして、シールドに触れると真っ赤な光を出して爆発する。
「くそっ!何をしやがった!……何っ!?」
 まだ一度も攻撃を受けていなかった五枚のシールドにひびが入っている。征市がそれに気付いた瞬間、シールドは音を立てて崩れていった。
「《アポロヌス・ドラゲリオン》はメテオバーンを使う事で相手のシールドを全てブレイクするワールド・ブレイカーとなる。私には《コッコ・ルピア》が一体残っている。これで私の勝ちだ!」
「さあて、それはちょっと違うみたいだぜ!」
 そう言って笑った征市のシールドの一枚から赤い光と共に、巨大な金属の塊が飛び出る。シールド・トリガー《地獄スクラッパー》だ。《地獄スクラッパー》は真下にいる《コッコ・ルピア》を鉄の塊で押し潰した。これで、キメラ男三号は征市にとどめを刺せなくなった。
「さらに、こいつだ!シールド・トリガー《ナチュラル・トラップ》!!」
 地中から伸びた緑色のツタが《アポロヌス・ドラゲリオン》の体にまとわりつく。強力なシールドブレイク能力を持つ《アポロヌス・ドラゲリオン》でも《ナチュラル・トラップ》が通用しないわけではない。
「だが、甘かったな!確かに《アポロヌス・ドラゲリオン》にも除去呪文は通用する。しかし、リスクもあるのだ!」
 《アポロヌス・ドラゲリオン》が倒れるのと同時に叫ぶ。すると、それに呼応するかのように征市のマナゾーンのカードが火柱を上げて燃えていった。全てのマナが消え去り、墓地へ行く。
「何があったんだ。……そうか!」
 《アポロヌス・ドラゲリオン》は、呪文や能力の対象として選ばれた時に、相手のマナを全て破壊する能力を持っている。それによって征市のマナは全滅したのだ。
「さあ、お前のターンだ。シールドもマナもない状態で何ができるか見せてみろ」
 征市は自分の場を見た。キメラ男が言うように、征市の場にはシールドもマナもない。しかし、場には《紅神龍バルガゲイザー》がいる。攻撃した時に山札をめくり、それがドラゴンであればコストを支払わずに出す能力を持ったドラゴンだ。これがあれば、マナがない事など関係ない。
「マナをチャージ。《バルガゲイザー》でシールドをブレイク!」
 《バルガゲイザー》の咆哮と共に、征市は山札をめくった。めくられたカードは赤い光を出すと姿を変化させて場へ飛んでいく。現れたのは二体目の《バルガゲイザー》だ。一体目の《バルガゲイザー》の体当たりがキメラ男三号のシールドを一枚破壊していく。残りは一枚だ。
「無駄だ!《ナチュラル・トラップ》!」
 しかし、そのシールドにはシールド・トリガーが潜んでいた。場に出たばかりの《バルガゲイザー》は緑色のツタによってマナへと変えられていく。征市のクリーチャーは、再び《バルガゲイザー》一体になってしまった。
「《コッコ・ルピア》召喚!これでとどめを刺してやる」
 さらに、キメラ男三号の場に《コッコ・ルピア》が現れる。小型で攻撃では頼りないクリーチャーだが、征市にとどめを刺すのにパワーは関係ない。今の征市は、一度の攻撃で簡単に倒されてしまうのだ。
「もう後がねぇ……。俺は俺のデッキに全てを託す!《バルガゲイザー》で攻撃!来い、《ボルシャック・大和・ドラゴン》!!」
 《バルガゲイザー》の咆哮を聞き、山札の上のカードが征市に触れられる前に場に飛びだす。炎と共に現れたそれは、和風の甲冑を身に纏い、巨大な刀を両手で握った征市の切り札《ボルシャック・大和・ドラゴン》だった。
「《ボルシャック・大和・ドラゴン》はスピードアタッカーだ。これで俺の勝ちだ!」
 《バルガゲイザー》によってキメラ男三号の最後のシールドが破られる。それを見て、《ボルシャック・大和・ドラゴン》が飛び出した。
「姿を変えても、何度やってもこいつに負ける。何故だ!最強の怪人、キメラ男が何故、負けるのだ!」
 吠えるキメラ男三号に《ボルシャック・大和・ドラゴン》の刀が叩きつけられる。征市はカードを片づけると、再び、上を向いた。
「デュエルしている時は集中しているからいいけど、やっぱり高いとこ苦手だ……」
 そう言うと、青い顔をしながら平丘を見る。そして、頭を振って恐怖を追い払おうとした。
「平丘さん、あなたの目的は何ですか?」
「……いきなりどうしたんだい?」
 征市の突拍子のない発言に、平丘は首をひねった。それを見た征市は
「とぼけるんじゃない!」
と、語気を強くして言う。征市はデッキを手に持って平丘に近づいていった。今の彼は、眼下に広がるY市の光景も見えていない。戸惑う平丘に、征市はこう言った。
「あんたが本物の平丘さんじゃない事は判っているんだ。お前、ジャバウォックのコアなんじゃないのか?」

 『File.26 暴龍の遺産』につづく
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