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『コードD』File.26 暴龍の遺産

『コードD』
 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 龍のプライズの力を吸収して、ついにジャバウォックがその姿を現した。トライアンフ事務所では、ジャバウォックから産み落とされた卵について意見が対立する。卵から生まれた再生怪人を魔法警察に任せてジャバウォックの様子見を考えるマシューと、現場に向かう事を優先するトライアンフメンバー。メンバーは、マシューの命令を無視して再生怪人と戦う道を選ぶのだった。
 一方、Q区そっくりの街並みをしたジャバウォックの内部にいた征市、陸、湊の三人は、儀式を見に来たせいでジャバウォックに飲み込まれた平丘に出会う。三人は、再生怪人と戦いながら地下道へ移動する。そこにキメラ男三号が現れ、チェス駒のプライズを使い、征市達に襲いかかる。何とかキメラ男三号を倒した征市は、そこで平丘に対して自分の疑問をぶつけるのだった。

  File.26 暴龍の遺産

「お前、ジャバウォックのコアなんじゃないのか?」
 征市はデッキを手にして平丘に近づく。平丘は、征市の睨みつけるような視線に怯えて数歩、後ずさった。
「ジャバウォックのコアは、ジャバウォックの体内を好きなように動ける。魔法図書館にあった魔道書にはそう書かれていた。ジャバウォックのコアが何らかの理由で俺達の周りをうろついていてもおかしくはないだろ?それに、お前の周りには何で怪人が現れないんだ?」
「さあね。三体までしか出せなかったんじゃないかな」
 間髪入れずに平丘の口から出た反論を聞いて、征市は息を吸い込むと視線を下に移した。そして、青い顔をして頭を振った後、平丘を見る。
「下では、卵みたいなのから怪人が出ているみたいだな。卵は大量にあって、一度にそこから出る怪人は三体だけじゃない。同じようにジャバウォックから生まれたものだが、下の怪人は三体でなくてもいい。だが、こっちは三体でなくてはならない。奇妙な話だよな」
 征市は、話しながらブレザーのポケットに手を突っ込み、トランプを取り出すとシャッフルし始めた。そして、そのカードを扇状にして広げる。裏を上にしているため、平丘にはどこにどのカードがあるか判らない。
「俺には予知能力がある。あんたはこのトランプの中から一枚引く時、ハートのエース以外のカードを引く事ができない。それ以外のカードを引けない映像が、俺には見える」
 征市は説明をすると、平丘にカードを突き出す。
「引けよ。あんたがジャバウォックのコアだって自分で暴露する事は予知能力で判っているんだ。これは、俺に予知能力がある事を判らせるテストみたいなもんだ」
「馬鹿馬鹿しい」
 そう言いつつ、平丘は征市の視線に気圧されて広がったカードの中から中央にあるカードを引く。征市が言うように、それはハートのエースだった。征市が歯を見せて不敵な笑みを浮かべる。
「ハートのエースだった、だろ?」
「貸してみてくれ」
 平丘は、トランプを全て受け取ると自分でシャッフルして征市に渡す。征市はそれらを裏向きにしたまま、同じように扇状に広げた。
「さっきのは君がシャッフルした。だから、僕が引く位置にハートのエースを持ってくるようなトリックを仕掛けたんだ。今度は僕がシャッフルしたんだから……」
 平丘は中央のカードを指先で一度つかんだ後、離す。そして、数秒思案した後、征市から見て左端のカードを取った。それを表向きにすると、それもハートのエースだった。
「予知能力者なんだよ、俺は。お前が俺のカードの中からハートのエース以外のカードを引く事はありえない」
「こんな事が、あってたまるか。データでは、予知能力を持っているのは若月湊だけだったはずだ」
 平丘、いや、ジャバウォックのコアがデッキを取り出して征市を睨みつける。征市はトランプをシャッフルすると、ジャバウォックのコアの頭上にそれらのカードを投げつけた。
「そうだな。湊は予知夢を使って未来を断片的に知る事ができる。俺に予知能力はない。これはただの手品だ」
 征市の手から離れた五十二枚のハートのエースが宙を舞う。ジャバウォックのコアは、それらのカードを憎しみのこもった目で見ていた。
「全てハートのエースだったのか」
「そういう事だ。誰も、五十二枚全てのカードが別のものだなんて言ってないぜ」
 余裕の笑みを浮かべた征市とジャバウォックのコアの前に五枚のシールドが現れ、戦いが始まった。
「お前を倒したら、ジャバウォックはどうなる?」
 《フェアリー・ライフ》を使いながら征市がジャバウォックのコアに聞いた。
「さあ、どうなるだろうね?」
 怒りを抑えたのか、冷静さを保った声でジャバウォックのコアは答えると《死神封魔ラヴァール》を召喚する。そのクリーチャーを見て、征市は横目で陸と陸の偽者の戦いを見た。
「闇の進化クリーチャーのコストを下げるクリーチャーか。何が出てくるか用心しないとな!」
 征市は《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》を召喚する。それによって、マナがさらに増えた。
「《電脳封魔マクスヴァル》を召喚」
 ジャバウォックのコアは、《ラヴァール》に続いて、もう一体クリーチャーのコストを下げるクリーチャーを召喚した。《マクスヴァル》は、闇文明のクリーチャーのコストを下げる能力を持っているブロッカーだ。《紅神龍ジャガルザー》を召喚し、《青銅の鎧》での攻撃でターボラッシュを発動させようと思っていた征市は、一瞬、手を止める。
「《マクスヴァル》がそんなに嫌かい?いいクリーチャーなんだよ」
 征市の手が一瞬止まったのを、ジャバウォックのコアは見逃さなかった。それを口に出す事で、征市を追い詰めようとする。
「嫌なクリーチャーだぜ。俺にとっては」
 征市は、《ジャガルザー》の召喚を諦め、同じようにボルケーノ・ドラゴンの種族を持った《紅神龍バルガゲイザー》を召喚する。触れた者の手を切りそうな、鋭く尖った鱗が全身を覆っている。
「さっきの質問だが、僕の持っているデータを集めるとこういう結果が出たよ。有史以来、僕が産みだされて暴れたデータはない。だから、どうなるか判らない。それに、君では僕を倒せないから、結果を考える必要はない」
「じゃあ、見せてやるよ。史上初の敗北って奴をな!」
「どうぞ。できるものならね」
 肩をすくめるようにしてジャバウォックのコアが征市を挑発した後、彼の手から一枚のカードが場に投げられる。黒い光を出してそこから召喚されたのは、全身が一つの巨大な翼のような黒いクリーチャー《龍神ヘヴィ》だった。鳥とも龍とも呼べる頭部から、黒い二条の光線が吐き出され《ラヴァール》と《青銅の鎧》がその光線に飲み込まれていく。
「《ヘヴィ》は召喚された時に、自分と相手のクリーチャーを一体ずつ破壊する力を持つ。さらに……」
 《ヘヴィ》の肉体を形成している翼が空を羽ばたくかのように激しく動く。それによってジャバウォックのコアの山札の一番上のカードが飛んでいった。
「効果で一枚カードを引く事ができる。ドローもできて除去もできる。いいカードだろう?」
「さっきと同じ事を言わせてもらう。嫌なクリーチャーだぜ。俺にとっては」
 そう言いつつも、征市はチャンスを感じていた。進化クリーチャーのコストを下げる《ラヴァール》が破壊された事で、クリーチャーのコストを減らすのは《マクスヴァル》だけになったからだ。
(ここは、《マクスヴァル》を――)
 《マクスヴァル》を破壊するために行動を起こそうとする征市だったが、思いとどまり、《ヘヴィ》を見る。《ヘヴィ》の効果では、《ヘヴィ》自身を選んで破壊する事もできる。コスト削減能力を持つ《ラヴァール》を残して《ヘヴィ》を破壊した方が、進化クリーチャーをメインにしてデッキではメリットが大きいはずだ。
「《ヘヴィ》を残して何するつもりか判らねぇが、そいつの出番は終わりだ!《ドルザーク》!」
 緑と赤の光の中から、斧やパイルバンカー、ガトリングガンなどで武装した龍、《無双竜機ドルザーク》が現れる。そして、間髪入れずに征市は行動を起こす。
「《バルガゲイザー》で攻撃!《ドルザーク》で……」
 《ドルザーク》が胴体の龍の顔を模した大砲にエネルギーをチャージし始める。その間、征市は《ヘヴィ》と《マクスヴァル》を見ていた。
「どちらも君にとっては嫌なクリーチャーなんだろう?どっちを選ぶかじっくり――」
「じっくり選ぶ必要はない。《ドルザーク》を出した時点でもう決まってる!こっちだ!」
 《ドルザーク》の大砲が火を吹き、その攻撃に飲まれたのは《ヘヴィ》だった。カードに戻り、マナゾーンへ飛ばされていく《ヘヴィ》を見て、ジャバウォックのコアから余裕の表情が消える。
「まだまだ!《バルガゲイザー》の効果でこいつの出番だ!」
 緑色の光と共に、葉が舞う。その光の中から足音を響かせて《緑神龍バルガザルムス》が現れる。ドラゴンが攻撃する時に山札をめくり、それがドラゴンであれば手札にくわえ、それ以外のカードであればマナにするクリーチャーだ。
 《バルガゲイザー》の攻撃を《マクスヴァル》は防がなかった。身を守るように地に伏せ、紅い龍の光線を回避する。それによって破られたシールドがジャバウォックのコアの手札に入っていった。
「お前の反応……。やっぱり、手札にドラゴンを進化元にした進化クリーチャーがあったんだな」
「さあ、どう思う?」
 ジャバウォックのコアは、それをはぐらかすかのようにそう言うが、その後の動きを見れば征市の狙いが当たっていた事は明白だった。肝心の進化クリーチャーを出せずに《エナジー・ライト》で手札を補充し、全身が水色に輝く鉱物でできた人型のクリーチャー《幻槍のジルコン》を召喚する。
 《ジルコン》を使う事で、自分のカードを墓地に送り、新たな作戦を実行するための準備とも取れる行動だった。征市の行動でテンポを崩されたために、別の作戦を始めざるを得なかったのだ。
「一気に決めるぞ!《インフィニティ・ドラゴン》召喚!そして《バルガザルムス》で攻撃だ!」
 征市の力強い号令と共に、ドラゴン達が雄叫びをあげて動き出した。

「進化!出でよ《超竜ヴァルキリアス》!!」
 菜央の目の前でキメラ男三号の《ザークピッチ》が姿を変えていく。その場に現れたのは、二階建ての駅舎を超える大きさのアーマード・ドラゴンだ。全身が武器の塊と言っても過言ではないほどの装備の量であり、ドラゴン本体よりも長い銃身のライフルの銃口と体にいくつもついた龍の頭部は菜央と彼女の前に並ぶシールドを見ていた。
「《ヴァルキリアス》は己の雄叫びでマナからドラゴンを呼び寄せる!来い!」
 キメラ男三号がマナを見ると、マナゾーンにあった一枚の赤いカードが光となって場に飛んでいった。光は馬のような下半身を持った龍《闘龍鬼ジャック・ライドウ》へと変化する。
「菜央!《ジャック・ライドウ》は、進化クリーチャーを呼び寄せる能力を持っている。二体目の《ヴァルキリアス》に気をつけろ!」
 負傷者を逃がし終えた一真が車椅子から身を乗り出してそのカードを見る。キメラ男三号はその様子を横目で見ると、山札から飛んできた一枚のカードをつかんでトライアンフのメンバー三人に見せた。
「《ヴァルキリアス》?そんなカードは必要ないんだ。もっと強い進化クリーチャーがいるからな!」
 《超新星アポロヌス・ドラゲリオン》。相手のシールドを全て砕くという圧倒的な力を持ったフェニックスだ。進化元に三体のドラゴンが必要だという燃費の悪さが弱点だが、既にキメラ男三号の場には《ヴァルキリアス》《ジャック・ライドウ》そして《バルガザルムス》がいる。三体のドラゴンが揃っているのだ。
「そんな……。《ヴァルキリアス》だけでもつらいのに、その上こんな……!」
「《アポロヌス・ドラゲリオン》はあくまで保険のようなものだ。これだけで、充分決着がつきそうだがな!」
 《ヴァルキリアス》のライフルと体の全銃口から幾筋もの光線が発射され、菜央を守る三枚のシールドが砕かれていく。自分の攻撃を阻む壁がなくなったのを見て《バルガザルムス》が足踏みを始めた。
「菜央さん……嘘でしょ?」
「いいえ、相羽さん風に言うのならば、『ウソのようなホントウ』と言うべき状況です」
「そんな……!」
 彩矢は、まるで達観したかのように表情のない顔で淡々とそう言った菜央の顔を見た。表立って戦う事は少なくても、彼女はトライアンフのリーダーなのだ。キメラ男三号が相手だったとしても、負けるとは思えない。彩矢は汗ばんだ両手を強く握りながら、目の前の状況を必死に否定しようとした。
「そうだ。嘘ではない。だから、お前はここで終わりだ!」
「嘘ではないから……ここで終わりではないんです!」
 砕かれたシールドが金色の光を発する。その光から金色の輪が現れ、《バルガザルムス》と《ジャック・ライドウ》の体の各部を拘束する。二体のドラゴンは、体をひねったり足に力を入れたりして抵抗するが、巨大なドラゴンが全力で引きちぎろうとしても金色の輪が壊れる事はなかった。
「シールド・トリガー、《スーパー・スパーク》です。これで、私の勝利が決まりました」
 キメラ男三号だけでなく、安心した表情で菜央を見た一真と彩矢もその言葉を聞いて耳を疑った。
 菜央のクリーチャーは《迅雷の精霊ホワイト・ヘヴン》が一体と《無頼聖者スカイソード》が一体ずついるだけだ。シールドは一枚も残っていない。
 対してキメラ男三号には、一時的に行動不能に陥ったとはいえ、一万を超えるパワーとT・ブレイカーを持つ《ヴァルキリアス》、《ジャック・ライドウ》《バルガザルムス》という三体のドラゴンが並んでいる。さらに、シールドは菜央に一度も触れられていないだけでなく、クリーチャーをシールドに封じる菜央の戦法によって八枚に増えていた。
「確かに、逆転が始まりそうだけど、どうやって勝つのよ?このターンしのいでも、あいつがスピードアタッカーのクリーチャーを出してきたらそれでジ・エンドなのよ!?」
 両手で身振り手振りを加えながら話す彩矢を見て、菜央はくすりと笑う。
「大丈夫です。目の前にいるクリーチャーを倒す方法も、手札にいるクリーチャーを封じる方法も、シールド・トリガーを防ぐ方法も全て見つけています。絶対に負けない方法があるんです」
 菜央の静かだが力強い説得を聞いて、彩矢は言葉を止める。一真はそれを見て腕を組むと
「強くなったな。一年前とは大違いだ」
と、呟いた。
「行きますよ!まず、マナをチャージ!これで11マナです」
 マナをチャージした菜央は、流れるような動作でマナゾーンのカードをタップしていく。タップされたカードは八枚。それらのカードから集められた金色のマナが菜央の手札にある一枚のカードに集まっていった。菜央の手から離れたその切り札は、《迅雷の精霊ホワイト・ヘヴン》の体に刺さり、金色の光で《ホワイト・ヘヴン》の肉体を包んだ。しばらくすると光が消え、《ホワイト・ヘヴン》の姿が変わっていた。
「あれ、ロボットなの?」
「いや……エンジェル・コマンドのはずだ」
 彩矢の疑問に一真が答えるが、その答えも歯切れが悪い。天使のような白い羽が背中から生えた人型のロボットのようなクリーチャーだった。青いボディカラーのヒロイックなデザインのそのクリーチャーはメカニカルなデザインをした弓矢を空に向けて光の矢を撃った。
「私の切り札の一つ、《白騎士の聖霊王 HEAVEN(ヘヴン)》です。これで、あなたのクリーチャーは全滅します!」
「何っ!?」
 キメラ男三号が驚いた直後の事だった。《HEAVEN》が撃った矢が速度を上げて地上に落ちてきたのだ。光の矢は、雨のように降り注いでキメラ男三号のドラゴンの肉体を貫いていく。ドラゴン達は悲痛な叫び声を上げると金色の光を発しながらカードの姿へ戻っていった。そして、それらのカードは四枚のシールドへ姿を変え、キメラ男三号を守るようにそびえ立つ。
「《HEAVEN》は、場に出た時に光文明以外のクリーチャーをシールドへ封じる進化エンジェル・コマンドです。光文明でないあなたのドラゴンは全てシールドに変わりました」
 光と自然のクリーチャーである《スカイソード》は場に残っていた。しかし、それもカードへ姿を変えると、マナゾーンへ飛んでいく。
「呪文、《母なる紋章》。光文明の《スカイソード》をマナゾーンへ移動し、光文明の進化クリーチャーを出します!」
 《スカイソード》と入れ替わるように、マナゾーンから金色の光を発するカードがバトルゾーンへ飛んでいく。そのカードから発せられる金色の光が《HEAVEN》を包み、その肉体がさらに変化を遂げる。
「進化!《聖霊王アルファディオス》!!」
 いくつもの腕に何本もの聖剣を持って場に現れる《アルファディオス》。世界の暗闇全てを消し去るような金色の光が全身から溢れていた。荘厳さを感じるその光に、彩矢も一真も見入っていた。
「シールドをT・ブレイク!」
 その場にいる全員が呆気に取られている中で、菜央が動き出す。相手のシールドへの攻撃はこれが初めてだった。《アルファディオス》の左側の腕が剣を振るうだけで、キメラ男三号の三枚のシールドにひびが入り砕けていく。しかし、その内の一枚が緑色の光を発し始めた。
「これで勝ったつもりか?シールド・トリガーで反撃を――」
「言ったはずです。シールド・トリガーを防ぐ方法も見つけています、と」
 菜央がそう告げるのと共に、緑色に光ったシールドはカードへ姿を変え、キメラ男三号の手札へ戻っていった。キメラ男は、震える手でシールド・トリガーが発動するはずだった《ナチュラル・トラップ》を受け取った。
「何で、シールド・トリガーが!?何故だ!」
「強くなった、と言ったが前言撤回だ。そんな微笑ましいレベルじゃない。敵に回したくないレベルだ」
 一真は、《アルファディオス》の攻撃とそれを受けたキメラ男三号を見て苦笑いを浮かべ、腕を組んだ。
「何がおかしい!?」
「《アルファディオス》が出たら、光文明以外の呪文も光文明以外のクリーチャーも出せなくなっちゃうのよね。《HEAVEN》でシールドにクリーチャーを封じても、シールドをブレイクしたらまた召喚できちゃう。でも、《アルファディオス》がいればクリーチャーの召喚も呪文を使う事も封じちゃうからシールドに封じたクリーチャーが手札に戻っても怖くはない。安全だけど、ちょっと怖い戦い方よね」
 一真と同じように、彩矢が苦笑しながら説明する。それを聞いてキメラ男三号は、羽をもがれた虫のように自分はもう何もできない事を理解した。
「ドロー、そして《アルファディオス》でシールドをT・ブレイク!」
 ターンが回ってきても、キメラ男三号にはドローとマナチャージ以外の動作はできない。抵抗できずに十二枚のシールドが全て割られていった。
「チェックメイト!《聖霊王アルファディオス》でとどめです!」
 《アルファディオス》は菜央の命令を聞いて空へ掲げた二本の剣をキメラ男三号の頭上に振り下ろす。周辺の地面に響く震動と共に、最後の攻撃がキメラ男三号を撃破した。それを見て、菜央は全てのカードをデッキにしまった。
「よくやったな、菜央」
「お疲れ様♪」
 戦いを終えた菜央は、二人に笑顔を向けた。だが、それも一瞬で厳しい表情をすると空を隠すジャバウォックを見上げる。
「こちらの怪人の動きは止まりました。後は、ジャバウォックですが……」
 空中を自在に移動するジャバウォックを捕える方法は皆無に等しい。だが、怪人から人々を守るのと同じようにジャバウォック退治もやらなければならない仕事なのだ。
「行くぞ。いくら巨大とはいえ、魔法で生まれた生命なら、魔法で消し去る事ができるはずだ。俺達はそのための最強の武器を持っている」
 一真の言葉に菜央と彩矢はデッキを持って頷く。そして、行動を起こすためにもう一度上空にいるジャバウォックを見上げたのだった。

「進化!《アステロイド・ゲルーム》!!」
「《聖帝ソルダリオス》に進化!」
 陸と湊、それぞれの偽者が進化クリーチャーを召喚して行動を開始した。
「《アステロイド・ゲルーム》で《ガル・ヴォルフ》を殺す!」
 陸の偽者が二体のグランド・デビルを進化元にして生み出した紺色のフェニックス《闇彗星アステロイド・ゲルーム》は、肩についている髑髏の口から黒い球のような物を吐きだした。黒い球は、ブラックホールのように周りの物を吸い込みながら《ガル・ヴォルフ》に近づく。透明な地面にしがみついていた《ガル・ヴォルフ》だったが、耐え切れずにその中に吸い込まれてしまった。
「《アステロイド・ゲルーム》は場に出た瞬間に相手のクリーチャーを一体破壊する僕の切り札だ。どんなクリーチャーだってイチコロさ!」
「ふぅん。たった一体しか破壊できないなんて、大した事ない切り札だよね」
「何っ!?」
 陸の偽者は、自分の切り札によって陸を追い詰めたと感じていた。陸のクリーチャーの中でW・ブレイカーだったのは《ガル・ヴォルフ》一体のみで、他には《冥府の覇者ガジラビュート》と《古の羅漢バグレン》がいるだけだ。《バグレン》は、タップされたクリーチャーのパワーを1000減らす事で、小型クリーチャーの攻撃を防ぐ効果があるものの、パワーが高いわけでもW・ブレイカーでもない。不敵な笑みを浮かべる陸を見ながら、陸の偽者は《アステロイド・ゲルーム》に攻撃を命じた。
「ハッタリなんか僕に通じるもんか!《アステロイド・ゲルーム》でW・ブレイク!!」
 《アステロイド・ゲルーム》の体についた巨大な二つの球体から黒く太い光線が発射される。その光線が陸のシールドを一枚ずつ破っていった。
「よし、これで攻撃終了だ」
 陸の偽者の場にいる攻撃可能なクリーチャーは《アステロイド・ゲルーム》以外に、深海に咲く花のようなクリーチャー《メディカル・アルナイル》が一体いた。しかし、パワーが1000のため、攻撃が通る前に《バグレン》の効果で破壊されてしまうのだ。他には、《封魔ウェバリス》が四体と《電脳封魔マクスヴァル》が一体、一枚も残っていないシールドの代わりに守るために立っている。これらのブロッカーは《メディカル・アルナイル》の特殊能力により、破壊されても墓地に行く事がなく、代わりに手札に戻るのだ。
「おっと、僕のシールド・トリガーが残ってるぜ!まずは、《インフェルノ・サイン》!」
 陸が投げたカードの効果で、彼らの頭上に黒い穴が開いた。黒い穴は広がっていき、その中から魔方陣のようなものが現れる。
「《インフェルノ・サイン》は7コスト以下のクリーチャーを墓地から引きずり出すシールド・トリガーだ。蘇れ、《ハンゾウ》!」
 魔方陣の中からカエルのような姿のクリーチャー《威牙の幻ハンゾウ》が現れる。《ハンゾウ》は、毒霧のようなものを口から吐き出し、《メディカル・アルナイル》に吹きかける。毒霧を浴びた《メディカル・アルナイル》の体は茶色く変色し、枯れていった。
「これで、グランド・デビルのブロッカーは不死じゃなくなった。さあ、地獄を与えてやるよ!」
 陸はカードを引くとそれを手札に加え、扇状になった手札から一枚のカードを引くとマナをタップせずに場に投げつけた。
「《ガジラビュート》!《バグレン》!《ハンゾウ》!ちょっと力を貸してね!」
 三体のデーモン・コマンドは陸の言葉に頷くと、頭上にあるカードを見る。三体の体から一つずつ黒い球体が現れると、そのカードに吸い込まれていった。カードは、マナを吸い込むように黒い球体を取り込むとその姿を変化させていく。
「な、んだ、こいつ……!」
 陸の偽者は言葉を詰まらせながら変化していく黒いシルエットを見ていた。そのシルエットはあまりにも巨大すぎた。既に陸の場にいる三体のデーモン・コマンドを超えるほどの質量を持ってその場に留まっている。
「切り札ってのは、こういう奴の事を言うんだよ。そうだよね、《デュランザメス》!!」
 胴体に獅子の顔を持ち、他のデーモン・コマンド一体分の大きさの剣と斧をそれぞれの手に構えた《漆黒戦鬼デュランザメス》は、陸の言葉を聞いて唇の端を歪めて笑った。
「パワー12000のT・ブレイカー。さらに、出た時の能力もすごい」
 陸が右手を伸ばすと、墓地からその手に大量のカードが飛んできた。全てクリーチャーのカードだ。
「《デュランザメス》が場に出た時、墓地にあるクリーチャーを全て手札に戻せるのさ」
「馬鹿な!それだけの大きさのクリーチャーを召喚したのに、何で一枚もマナゾーンのカードをタップしていないんだよ!?おかしいじゃないか!」
 陸の偽者は怯えた表情で《デュランザメス》を指す。震える指先を見ながら、陸は「ああ、そんな事か」と呟いて解説を始めた。
「《デュランザメス》は、G・0を持つクリーチャーだ。バトルゾーンにデーモン・コマンドが三体以上いれば、タダで出せるのさ!」
「ず、ずるい……!卑怯だぞ、そんなの!」
 うろたえる陸の偽者だったが、本物が一枚のカードを手札から引き抜いたのを見て言葉を止める。得体の知れない一枚のカードに目が釘付けになってしまった。
「や、やめろよ。それだけは――」
「じゃ、一気に決めちゃおっか」
 怯える偽者の顔を見ながら、陸はマナゾーンにある十枚のカードをタップすると、軽く笑いを浮かべながら持っていた切り札を場に投げた。投げられた黒いカードは《デュランザメス》の肉体に刺さり、その体を黒い光で変化させていく。その黒い光は《デュランザメス》の肉体を変えるだけでなく、偽者の場にも届き、四体の《ウェバリス》とマナゾーンにあった水文明のカードを黒い霧へと変えて消し去った。
「お待たせ。切り札《悪魔神ドルバロム》の登場さ!!」
 陸の場に現れた白い体の悪魔の神《ドルバロム》。その効果で、闇文明以外のクリーチャーとマナのカードは全て破壊されてしまうのだ。その効果により、偽者のブロッカーは《マクスヴァル》一体のみとなった。
「《バグレン》!とどめだ!」
「くそっ!《マクスヴァル》!」
 《バグレン》の刀が陸の偽者を狙うが、その前に《マクスヴァル》が立ちふさがってその攻撃を受け止める。それによって《マクスヴァル》は胴体のところで真っ二つに切り裂かれ、黒い炎を出して爆発し、消えていった。
「い、嫌だ……。見逃してくれ……!」
 陸の偽者は、目の前に立ちふさがる《ドルバロム》《ガジラビュート》《ハンゾウ》の三体を見て逃げ出すように後ずさりを始めた。しかし、その場につまずいて腰を打つ。そんな偽者を見ながら陸は怒りのこもった口調で言い放った。
「逃がすわけないだろう。責任取ってリーダーを幸せにしてやるとか言ってたけれど、あの巨乳は僕のものだ!お前みたいな新入りに渡せるか!」
「そういう問題かよっ!」
 偽者のツッコミを聞きながら、陸は《ドルバロム》と目を合わせる。決着の瞬間だ。
「あの世で神様に懺悔しな!《ドルバロム》でとどめだ!」
 《ドルバロム》の掌から黒い光線が放たれ、陸の偽者の体を貫いた。貫かれた偽者は、黒い光を発すると黒いチェス駒に戻った。
「と……!湊君はどうしたかな?」
 陸が湊の場を見ると、彼の場には《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》と《禁門の超人(キジマ・ジャイアント)》、そして、進化クリーチャーの《宇宙巨匠ゼノン・ダヴィンチ》が並んでいた。シールドは三枚だ。
 それに対して、湊の偽者の場には進化させたばかりの《ソルダリオス》の他に、《霊騎サンダール》《霊騎マルディス》《霊騎サイヤス・トロン》が一体ずつ場に並んでいた。《マルディス》はブロッカーではないアーク・セラフィムをブロッカーにする能力を持っている。この効果で《ソルダリオス》と《サンダール》がブロッカーになっていた。横に並んだ霊騎の部隊だけでなく、二枚のシールドも湊の偽者を守っている。
「《ソルダリオス》のメテオバーン、発動だ!」
 双頭の馬のような下半身を持つ《ソルダリオス》の体から緑色の球体が飛び出し、空中で弾けた。それと同時に、湊の偽者のマナゾーンのカードが光り始める。
「《ソルダリオス》のメテオバーンを使えば、マナからアーク・セラフィムを出す事ができる!僕が出すのはこれだ!」
 マナゾーンのカードの中の一枚が、一際大きい光を発すると勢いよくバトルゾーンに移動した。そのカードから現れたのは、両肩に巨大な球体をつけたような緑色のアーク・セラフィム、《霊騎ラグマール》だった。
「《ラグマール》は場に出た瞬間、それぞれの場からクリーチャーを一体ずつマナに送る能力を持つ。どれをマナに送るのか選びなよ」
 偽者に言われて、湊は《青銅の鎧》を指した。すると、《青銅の鎧》はカードの姿に戻るとマナゾーンへ飛んでいった。
「僕は出したばかりの《ラグマール》をマナに置く。ここで、《サンダール》の出番だ」
 《サンダール》は両腕に装備した剣を天にかざして光らせる。すると、マナに置かれたばかりの《ラグマール》が湊の偽者の手札に戻っていった。
「《サンダール》はクリーチャーがバトルゾーンに出た時にマナゾーンからアーク・セラフィムを手札に戻せる。これで《ラグマール》を何度もマナに置いて能力を使い続けられる!」
 偽者の解説が終わった後、《ソルダリオス》と《サンダール》が動き出す。二体のアーク・セラフィムの攻撃で三枚あった湊のシールドは全てブレイクされてしまった。
「湊君!」
「まだ、大丈夫です!三枚もブレイクされれば、シールド・トリガーだって!」
 三枚目に破られたシールドが緑色の光を発した。それと同時に《マルディス》の体に緑色のツタが巻きつき、地中に引き込んでいく。《ナチュラル・トラップ》がシールドに入っていたのだ。これによって《マルディス》はマナゾーンへ封じられ、《ソルダリオス》と《サンダール》へのブロッカー追加効果は中断された。
 しかし、陸は驚いた顔で湊を見ていた。彼の判断が間違いだったと感じたからだ。
「湊君、ここは《サンダール》をやっつけとくとこじゃないの?《マルディス》をマナに送ってもまた《サンダール》の効果で出ちゃうんじゃない?」
「いえ、これでいいんです。これ以上は持たないから、このターンで勝負を決めないといけないんです。そのためには、ブロッカーをどかさないと……」
 湊はカードを引くと偽者を守る二枚のシールドと、その前に立ちふさがる《サイヤス・トロン》を見ていた。
「ブロックされずに《ゼノン・ダヴィンチ》のW・ブレイカーが決まればいいんだけどなぁ……。《禁門の超人》なら攻撃しながら《サイヤス・トロン》を倒せるけど……」
 陸は相手の防御を見ながら腕を組んで考える。
 《禁門の超人》は進化ではないコスト4以下のクリーチャーをマナゾーンに送りながら攻撃できるクリーチャーだ。今の状況では事実上、ブロックされないと言ってもいいだろう。攻撃中に《サイヤス・トロン》をマナに送ればブロックされずにシールドをブレイクできる。しかし、《禁門の超人》がブレイクできるシールドの数は一枚だ。一枚、シールドが残ってしまう。
「《ゼノン・ダヴィンチ》の攻撃を止めればすぐに僕のターンだ!もうこれ以上、君をこの場に残しはしない!」
「受け止めてもいいですよ」
 湊は静かにそう言った。陸も偽者も呆気に取られて彼の事を見ている。
「今の僕の手札に《サイヤス・トロン》を除去できるカードはない。だから、攻撃を受け止めてもいいんです」
「湊君!止められたら負けちゃうじゃないか!」
 陸は、湊の発言に驚き、彼を叱咤するように声をかける。そんな陸を見て、湊は微笑んだ。そして、偽者の方を向き、カードを場に投げる。緑色のそのカードは《ゼノン・ダヴィンチ》に刺さり、カードの中から、三角形がいくつも重なったような巨大な緑色のクリスタルが現れ、その場を照らしていく。
「進化クリーチャーか!?でも……これは何かが違う」
 陸は今までの進化クリーチャーとは違うオーラを変化していく《ゼノン・ダヴィンチ》から感じ取っていた。クリスタルはせわしなく変化途中のジャイアントの周りを回っている。《ゼノン・ダヴィンチ》の全身が緑色の光に包まれた直後、突風が吹き荒れた。その風に流されるようにして光が消えていき、その姿が現れる。
「《ゼノン・ダヴィンチ》を究極進化!《神羅トルネード・ムーン》!!」
 雲に座った風神のような外見の巨人、《ドルネード・ムーン》。その周囲には今も通常の進化クリーチャーのクリスタルよりも巨大で強い光を放つクリスタルが浮いていた。
「究極……進化……!?そんなの知らないよ!なんだ、それは!」
 偽者が震える声を出し、目を大きく開いて《トルネード・ムーン》の姿を凝視する。湊はそれに答える事なく、《トルネード・ムーン》に命令を下した。
「《トルネード・ムーン》でQ(クアトロ)・ブレイク!」
「あ……っ!《サイヤス・トロン》でブロック!」
 シールドを一度に四枚も叩き割るQ・ブレイクの言葉を聞いて、湊の偽者は《サイヤス・トロン》を見た。どれほどブレイク数が多いクリーチャーでもブロックしてしまえばその攻撃がシールドに到達する事はない。《トルネード・ムーン》の周りに吹き荒れる嵐に飛ばされそうになりながら《サイヤス・トロン》が立ちふさがり、自分の体ほどの大きさの拳を全身で受け止めた。
「やった!これで、僕の――」
「僕の勝ちだ!」
 湊の偽者の言葉にかぶせるように湊が叫ぶ。それと同時に、巨大な鉄球が壁にめり込むような音と共に、二枚のシールドに拳を打ちつけたような痕が現れた。その拳を中心にシールドにひびが入っていく。
「僕はブロックしたのに!《サイヤス・トロン》でブロックしたはずなのに!どうして!?」
「《トルネード・ムーン》は、ジャイアントがブロックされた時、そのジャイアントがシールドを二枚ブレイクできるようにする効果がある。だから、ブロックしてもいいって言ったんだ!」
 絶望を顔で現した湊の偽者の前で、彼のシールドが砕け散っていく。そして、金属同士が当たる音と何かの足音を聞いて顔を上げた。《禁門の超人》が動き出しているのだ。
「哀しい器よ、眠りなさい。《禁門の超人》でとどめ!」
 《禁門の超人》が刀を振るう事で、湊の偽者の姿が消えていく。そして、こつんと音がして地面に黒いチェス駒が転がった。
「ハラハラさせないでよ。ま、勝つのは判っていたけどね」
 陸は、デッキを片づけていた湊に近づくと歯を見せて笑った。そして、すぐに真剣な表情になると
「セーイチさんが心配だ。ちらっと見たけど、平丘がジャバウォックでセーイチさんと戦っているみたいなんだ」
と、言った。二人で征市の近くに駆け寄ろうとして彼らが戦っている場に顔を向けようとした瞬間、体全体に響く爆発音のような音が二人を襲った。
「まさか、征市さんが?」
「そんな簡単にやられるわけないと思うけれど……。セーイチさん!」
 勝利した喜びを忘れ、二人は征市が戦っている場に駆け寄った。

「また、《アポロヌス・ドラゲリオン》かよ……」
 話は数分前に戻る。
 ジャバウォックのコアは、キメラ男三号が使っていたのと同じような姿の黒い不死鳥を召喚したのだ。《アポロヌス・ドラゲリオン》を太陽と現すのならば、このフェニックスは夜の闇にも似ていた。全く正反対の印象を受ける色のフェニックスなのだ。
「《アポロヌス・ドラゲリオン》じゃない。これは君を殺す闇のフェニックス《超神星DEATH(デス)・ドラゲリオン》だ!」
「《DEATH・ドラゲリオン》だか何だか知らねぇが、今の俺にワールド・ブレイカーなんか通用しないぜ!」
 征市が言うように、今の彼に対してワールド・ブレイカーはあまり効果がないと言っても過言ではなかった。征市のシールドは残り二枚。ごく普通の進化クリーチャーでも充分ブレイクできる数だ。
 さらに、征市の場には《バルガライザー》が一体と《ドルザーク》が一体、さらに二体の《コッコ・ルピア》がいる。それに対してジャバウォックのコアのクリーチャーは《DEATH・ドラゲリオン》一体だけだ。この中の一体が倒されたとしても、次の征市のターンの攻撃で残った一枚のシールドをブレイクし、とどめを刺す事が可能だ。
 ジャバウォックのコアは、自信に溢れた征市の態度を見て不快そうに眼鏡のフレームに触れる。
「《アポロヌス・ドラゲリオン》と一緒にして欲しくはないな。それじゃ、《DEATH・ドラゲリオン》の力、見せてあげるよ!」
 ジャバウォックのコアがそう言って腕を天井に向けて上げると、《DEATH・ドラゲリオン》の胴体についていた巨大な三つの球体が黒く光り始めた。そして、そこから様々な方向にいくつもの黒い光線が発射されていった。狙って撃っているわけではなく、四方八方に出鱈目に撃っているようにも見える。それらの光線によって、征市のクリーチャーは一瞬で全滅してしまった。
「《DEATH・ドラゲリオン》はメテオバーンで進化元のクリーチャーを最大三体まで墓地に送る事ができる。そして、墓地に送った進化元の枚数だけ場にいる全てのクリーチャーのパワーを3000減らす事ができるんだ。これで君のクリーチャーは全滅。《DEATH・ドラゲリオン》自体のパワーも減るからこのターンだけ、こいつのパワーは2000だから《地獄スクラッパー》で倒せるよ」
 《DEATH・ドラゲリオン》は巨大な球体から細い二条の光線を出して征市のシールドをブレイクしていく。その内の一枚は《地獄スクラッパー》だったが、征市は使うかどうか数秒ほど迷った後、そのカードを手札に加えた。
「セーイチさん!せっかくのチャンスに何やってんですか!」
 背後から陸の声が聞こえて征市は振り向いた。そこには湊もいる。
「馬鹿野郎。あいつは、《DEATH・ドラゲリオン》の進化元に三体の《グールジェネレイド》を選んでやがった。それ以外にもう一体墓地に仕込んである。《DEATH・ドラゲリオン》はフェニックスであるのと同時にドラゴン・ゾンビでもあるんだよ。今、こいつを破壊したら墓地から四体の《グールジェネレイド》が出てくるじゃねぇか」
「あ、そっか」
 ジャバウォックのコアに仕込まれている《黒神龍グールジェネレイド》はパワー6000のW・ブレイカーであり、ドラゴンの死に反応して場に出るドラゴン・ゾンビだ。シールドがなくなってしまった征市にとって、一体のクリーチャーだけでも脅威なのだ。四体も出てきたら除去し切れない。
「だから、こいつの出番だ!《ナチュラル・トラップ》!」
 征市は自分のターンにカードを引くと、マナをタップして一枚の呪文を使う。《ナチュラル・トラップ》の効果によって《DEATH・ドラゲリオン》はマナゾーンから伸びたツタに引っ張られ、カードの姿に戻るとマナゾーンに置かれた。
「《ナチュラル・トラップ》でマナに送れば破壊された事にはならない。征市さん、今がチャンスですよ!」
「判ってるぜ、湊!《コッコ・ルピア》召喚!」
 小さな炎と共にオレンジ色の体毛の小鳥、《コッコ・ルピア》が現れる。征市はここでマナを使い切ってしまい、ターンを終了した。
「やれやれ。《DEATH・ドラゲリオン》は一体じゃないんだよ?」
 そう言うとジャバウォックのコアは一体のドラゴンを召喚した。赤紫色の体躯のドラゴン・ゾンビ《黒神龍ドボルザーク》が地に降り立ち、叫ぶ事でジャバウォックのコアの山札から一枚のカードが飛び出してくる。それは《DEATH・ドラゲリオン》だった。
「それと、《ドボルザーク》はブロックしたら自動的に破壊されるようになっている。これで、墓地の《グールジェネレイド》を出す事もできるってわけさ」
「くそっ!」
 攻撃を仕掛けたら《ドボルザーク》がそれを防ぎ墓地の《グールジェネレイド》が飛び出し、もたついていたら《DEATH・ドラゲリオン》が現れる。最悪の包囲網だった。
「セーイチさん……」
「征市さん……」
 陸と湊は、意気消沈したように下を向いた征市の背中を見つめた。
「さあ、君のターンだ。人間の知恵を見せてごらん」
「判ったよ……」
 征市は静かにそう言うと、顔を上げた。その目には、その表情にはまだ勝とうという意思が残っている。
「《ボルシャック・大和・ドラゴン》召喚!さらに《ドルザーク》召喚!」
 コスト6のドラゴン二体が《コッコ・ルピア》の恩恵を受け、それぞれ4コストで場に出る。一体は征市の最強の切り札《ボルシャック・大和・ドラゴン》だ。そして、その脇を固めるように《ドルザーク》が両手に武器を握りながら《ドボルザーク》を見る。
「これで判ったよな。俺の作戦が!」
 征市が右手の指先をジャバウォックのコアのシールドに向けると《ボルシャック・大和・ドラゴン》が地面を蹴って刀を抜く。その前に立ちふさがる《ドボルザーク》に対して《ドルザーク》の胴体の龍の頭から光線が発射された。
「そうか!《ドボルザーク》のパワーは5000!」
「《ドルザーク》の効果を使えば、マナに送れますね!」
 陸と湊もそれに気付き、ジャバウォックのコアを見た。巨大怪獣のコアは、怯えたような顔でシールドの欠片を見ていた。その欠片はシールド・トリガーとしての機能を発揮する様子はない。
「嘘だ。人間ごときが、この僕に!」
「いいや。『ウソのようなホントウ』って奴だ。怪人の中で色々なデータを取ったみたいだけど、それじゃ足りなかったみたいだな!《コッコ・ルピア》でとどめだ!」
 《コッコ・ルピア》が勢いよく飛び出し、ジャバウォックのコアに体当たりする。ジャバウォックのコアは後ろに倒れると
「ありえない。ありえるはずが……」
と、言って黒い煙になって消えていった。
「終わった、か……。ふぅ」
 征市はデッキを片づけると、倒れるようにして地面に座り込んだ。そして、透明の地面からQ区の光景を見ないように上を向く。
「高所恐怖症の俺にここまでさせんなよ。最悪の怪人だったぜ」
「いやあ、お陰でセーイチさんの面白い弱点見つけちゃいましたからね。最高の怪人ですよ」
「何だと!」
 征市が陸の言葉に反応して立ち上がろうとした瞬間、地面が激しく揺れた。周囲を見ると、壁に大きくひび割れ始めている。
「まさか、コアを倒したから……ジャバウォックの体内にあるここも崩れるって事か?」
 征市は自分の考えを口に出し、陸と湊を見た。その二人も同じ事を想像したらしく、三人揃って青ざめる。
「冗談じゃねぇ!」
 征市がそう言った瞬間、彼らの下の地面が崩れた。三人のデュエリストは空へ体を投げ出された。三人は為す術もなく地上へ向かって落下していく。その速度はどんどん速くなっていった。
「何もしないで終われるかよ!陸、湊!俺に続け!」
 征市は、デッキケースを取り出すとその中のカードを一枚下に向かって投げた。それはシールドのように大きく広がり、征市はその上に乗った。陸と湊もそれを見て真似る。カードはパラシュートのような役割を果たし、加速し続けたスピードを殺す事に成功した。三人はほっと息をつきながら駅前に降り立つ。そして、ジャバウォックの残骸の一部がバス停に落ちる。
「征市さん!」
「陸君!」
「湊!」
 空から下りてきた三人のデュエリストの姿を見て、地上にいた三人のトライアンフのメンバーが駆け寄る。パラシュートなしの空中遊泳が堪えたのか、三人は力なく微笑むと手を振る。
「さすがアタシの旦那様!必ず、ジャバウォックを倒せるって信じていましたわ!」
「そうか、ありがとよ。……それはいいから、ちょっと手、引っ張ってくれねぇ?腰に力が入らないんだ」
 征市は情けない表情でそう言うと、彩矢に右手を差し出した。彩矢は笑顔でその手を受け取る。
「陸君も若月さんもお疲れ様でした。ジャバウォックは、これで沈黙。私達の勝ちですね」
 真面目な表情でそういう菜央の言葉を聞いて、陸が頷く。そして、いたずらを思いついた子供のような表情で口を開く。
「上でちょっと面白い事を知ったんですよ。実は、セーイチさんは――」
「面白い事って何よっ!」
 聞き慣れた声が六人の耳に届く。ジャバウォックの残骸を見ると、そこに幻と全が立っていた。
「あいつが、全……」
 征市は全の姿を初めて見る。黒と白の奇妙な服装の敵は、征市に背を向けジャバウォックの残骸に駆け寄った。
「そんな……!ジャバウォックが!何故よっ!何故なのよっ!」
 全は、ジャバウォックの残骸の前で座り込む。そして、肩を震わせて泣いた。離れた場所にいる征市達にも判るくらい激しく肩が動いている。
「信じられないっ……!信じない。信じ……信……信じてたまるかよぉっ!!」
 突如、野太い声を出して全が立ち上がり、白いマントを脱ぎ捨てた。そして、征市達がいる場所に振り向くと頭の上半分を隠していた白い布を引っ張り破り捨てる。緑色をした目が征市達を睨みつけていた。
 マントに覆われていたため判りにくかったが、全の両腕は一真に勝るとも劣らない筋肉質なものだった。その筋肉質な腕でジャバウォックの残骸の一部をつかむと片手で粉々に砕き、口の中に押し込んだ。
「ウッソ!あいつ、ジャバウォックを食べてる!?」
 驚きのあまり、陸が声を上げた。
 その後、ジャバウォックの残骸を取り込む全に呼応して、ジャバウォックの残骸から黒い煙が出るとそれらが全の口の中に吸い込まれていく。
「これが、ジャバウォックの残した力かぁ。漲るぞぉ!」
『そうだ、我がマスター。僕は、あなたの中で蘇るだろう。僕の力を使って彼らを体内に取り込んでしまうのはどうかな?彼らを僕の栄養にしたい』
 全の言葉の後に、ジャバウォックの声が聞こえる。倒したはずのジャバウォックが生きていた事に驚き、征市は声を出す事すらできなかった。
「任せておけぃ!」
 野太い声と共に全が両腕を突き出す。すると、征市達六人の体が奇妙な光を発し、倒れた。六人の体から奇妙な緑色のクリスタルが飛び出し、それらが全の口に飛んでいく。全はそれらを全て口に含むと、音を立てて噛み砕いていった。
「全、大丈夫かい?」
「至って快調よぉ!」
 ジャバウォックを取り込む事で肉体に変化が現れていないか心配した幻が聞く。しかし、全の体調は良好らしく、両手の指の骨を鳴らすと倒れている征市達の肉体を見た。
「さて、今まで邪魔をしてくれやがったこいつらの体を粉微塵にしてやるとするか」
「それはいい考えだ」
 全のアイディアに幻が笑って答える。無抵抗の肉体に、幻と全が近づいていった。

 『File.27 暴龍の迷宮~Q区最後の日~』につづく
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