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『コードD』File.27 暴龍の迷宮~Q区最後の日~

『コードD』
 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 ジャバウォックの中に疑似的に生み出されたQ区。その中にいた平丘は偽者で、ジャバウォックのコアだった。それを見抜いた征市は、ジャバウォックのコアに挑む。同じように、チェス駒のプライズが変化して自分達の偽者と戦っていた陸と湊は勝利。征市も、ジャバウォックのコアの切り札を退けて勝利する。コアの破壊と共に、ジャバウォックは崩壊し、征市達がいたQ区の偽者も崩れるのだった。Q区上空に投げ出される三人だったが、カードを使って無事に着地する。完全勝利かと思いきや、全がジャバウォックの残骸をその身に取り込んで暴走を始める。全の魔法によってトライアンフのメンバーから奇妙なクリスタルが抜き取られ、それらが全に取り込まれる。意識を失って倒れたメンバーの体に全が近づいていった。

  File.27 暴龍の迷宮~Q区最後の日~

 トライアンフ事務所。
 一人になった事務所の中で、マシューは電話を通して魔法警察からの報告を聞いていた。ジャバウォックは破壊され、残骸の一部がQ区の街に落下した。再生怪人の攻撃を受けた魔法警察達も無事で目立った被害は少ない。
 しかし、これは現時点での話である。避難していた一部の魔法警察は、全がジャバウォックの残骸の一部を体内に取り込み、その後、トライアンフのメンバーの体から何かを抜き取ったのを見ていた。何かを抜き取られたメンバー達の体は動かず、地面に倒れた。それを見ていた者は、住民や観光客の避難誘導の途中だったため、全に立ち向かう事ができなかったらしい。
 それらの報告を受けたマシューは、静かに受話器を置いた。そして、ある番号にかけようとして再び受話器に手を伸ばす。すると、彼が電話をかけるよりも早く、電話が鳴った。
『苦戦しているようだね、マシュー』
 受話器を取ったマシューは、そこから聞こえてくる声に驚かされた。それは、マシューに様々な指示を出した張本人だ。マシューに、陸と湊の解雇などの仕事を命じたのもこの男である。
 突然に電話に驚いていたマシューが声を出せずにいると電話の奥にいる男は続けた。
『どうする?テストを中止して、あらかじめ用意していた部隊を出撃させるか?』
 電話の向こうの男が言うように、マシューのこれまでの行動はトライアンフのメンバーを試すテストのようなものだった。今のトライアンフジャパンのメンバーは若すぎる。他のトライアンフからそういう声が多く出たため、彼らがきちんと行動できるか調べるためにマシューが派遣されたのだ。テストの結果によっては『トライアンフジャパン吸収計画』を実行し、トライアンフアメリカを中心に各国のトライアンフのメンバーを取り入れて再編成する事になっていた。征市達、デュエリストも残す事にはなっているが、多くの仕事は雑用ばかりになるだろう。
 テスト中であったとしても、魔道書同盟やジャロールのような悪しき魔法使いは行動を起こす。もしものためのバックアップのために、マシューは各国のトライアンフから十人近いメンバーを助っ人として呼んでいた。魔道書同盟の狙いがジャバウォックにある事も判っていたので、幻獣専門の殺し屋もメンバーに入っている。彼らはいつでも出撃できる状態で待機しているため、電話一本ですぐに動き、全を倒す事も可能だ。
「そうします。このままでは彼らが――」
『征市達はこれくらいでは負けない。テストは続行だ』
 電話の男はマシューの反論を受ける事なく、そう答えた。マシューは驚きのあまり、言葉を止める。
『まだ征市達は戦える。全を撤退させるまで待ってくれないか?』
「しかし、彼らはその全に取り込まれた状態です!これでは、彼らが勝つ事など不可能です!」
 自分でも気付かない内に声を荒げていた。電話の奥にいる男は、トライアンフにとって重要な存在なのだ。本来ならばトライアンフ全体を動かす権限などは持っていないはずだが、実質的に全てのトライアンフメンバーを動かす事ができると言ってもいい。誰も逆らえない事実上のトップなのだ。
 その男に対してマシューは逆らっていた。自分でも信じられない事だが、彼を止めなければならないという思いが生まれている。
「まだ彼らの体が残っています!体が残っていれば、全に取り込まれたものを取り戻して復活できるかもしれません。しかし、全がその体を傷つけてしまったら、彼らはもう――」
『トライアンフの武器は……征市達の武器はまだ残っている。そう言ったら君は意外に思うかね?』
 マシューの言葉にかぶせるようにして、電話の向こうから声が聞こえる。その言葉は落ち着いて淡々としたものだった。それがマシューには信じられない。
「良いのですか?あの中には、あなたのお孫さんだっているはずです」
『判っている。だから、信じて任せているんだ。あの子達は必ず勝つ。君はそれを他のトライアンフに報告すればいい。信じて見ているんだ』
「承知しました。相羽総一郎総長」
『元総長だ』
 マシューの発言に一言つけ足すと、総一郎は電話を切った。マシューは受話器を置くと、周囲を見る。
 本来の持ち主である彼らはここに帰ってくるのか、半信半疑だった。今の状況から全を倒す方法などあるとは思えない。
「帰って来い。そして、君達を信用していない他のトライアンフに君達の力を見せてやれ」
 祈るような口調でマシューは呟いた。

「ここはどこだよ?」
 目を覚ました征市がそう言うのも無理はなかった。
 意識が消える前に、全に吸い込まれた事だけは覚えている。そして、吸い込まれる直前に振り向くと自分達の肉体が倒れていたため、肉体と魂が分離したような状態になっている事も覚えていた。意識が消えたのはその直後で、今、目が覚めて周りを見たのだ。
 征市は、革張りの高級そうな椅子に座っていた。周りには、征市以外の五人も同じように椅子に座って眠っている。一真だけは、車椅子に座っていた状態だった。声をかけたが、目を覚まさない。立ち上がって触れてみようとしたが、椅子とは不釣り合いな色合いの黒いベルトで拘束されているため、椅子から立ち上がる事はできなかった。
 征市達六人は、洋画に出てくる貴族の家の中にあるような部屋の中にいた。映画の設置のような内装の部屋を見た征市は
「地獄ってのは、結構綺麗なとこだな」
と、皮肉を言うような口調で言った。
『地獄じゃないんだけどね』
 独り言に反応があった事に驚き、征市は無意識の内に顔を上げていた。この声を忘れるはずがない。これはさっきまで戦っていたジャバウォックのコアの声だ。
「お前、生きていたのか!」
『マスターに取り込んでもらったのがよかった。これからはマスターの中で体を再生させる事にするよ。時間はかかるかもしれないけれど、それくらいは我慢するよ。仕方ないからね』
「再生、だと……?」
『そう。マスターの体の中で新しい体を作り出すのさ。小さくなってしまうかもしれないけれど、マスターが僕に似合った体を作ってくれるだろう。心配いらないんだよ』
「そんな事させるかよ!」
 征市は腕や足を動かして立ち上がろうと努力する。しかし、太いベルトが食い込むだけで動く事はできない。
『そんなに出たいのかい?』
 軽い溜息の後で、ジャバウォックのコアが話す。
『出たいなら、出してあげてもいい。ただし、ゲームをして勝ったらだけどね』
 ジャバウォックのコアの声と共に、征市達の体を椅子に縛り付けていたベルトが消えた。そして、征市の周りにいるメンバーが目を覚ました。
「あと、五分寝かせて」
 陸は周りを見た後、そう言って目を閉じて椅子に体重を預けた。
「馬鹿野郎!寝ぼけている場合かよ!俺達は全の体の中に閉じ込められちまったんだぞ!」
 征市は立ち上がると、叫ぶような声で言いながら陸の椅子に近づく。それでも目を覚まさないので菜央が静かに
「ここが事務所だったら、陸君をすぐにおしおき部屋に入れていたのですが……」
と、呟いた。すぐに陸は目を覚ますと立ち上がり、直立不動の姿勢で菜央に敬礼した。
「だ、大丈夫!大丈夫ですから!おしおき部屋だけはやめて!」
「ここが全の体の中なのは判った。だが、これはどういう事だ?」
 陸のリアクションにメンバーが笑いをこらえている中、一真が周囲を見て静かな声で言った。それを聞いて征市が今までのジャバウォックのコアとの会話を話す。
「じゃ、ゲームをして勝てれば僕達は出られるんですか?」
「そうみたいだな」
 征市は湊の問いに答えると、上を見た。建物ならば天井があるべき場所には、果てのない闇が広がっていた。
「ゲームをして勝てばって言うけれど、罠じゃないのか?俺達が勝った時のメリットはあるけれど、お前が勝った時のメリットがない」
『なかなか鋭いね。判りにくいかもしれないけれど、僕が勝った時はあるんだよ。君達は魔力が強いから取り込むのにものすごい時間がかかるけれど、僕が勝てばその瞬間に気が抜けてすぐに取り込めるようになる。取り込むまでの時間の短縮が僕のメリットさ』
 ジャバウォックのコアが答えるのと同時に征市達の前にビリヤードの台のようなテーブルが現れる。そして、テーブルの奥に一枚の木の扉が現れた。扉には、五つのくぼみのようなものがついている。
『ゲームのルールを説明しよう。今から僕が五つの問題を出す。君達の内の一人がそれに答えるんだ』
「問題っていうけれど、アタシ達が答えられないような内容の問題だったらフェアじゃないわよね」
 彩矢の言葉にジャバウォックのコアは『そんなひどい事はしないさ』と答える。
『テーマは君達もよく知っているデュエル・マスターズに関するものだ。僕が用意した状況で相手に直接攻撃を仕掛けるという簡単なものだよ』
 説明の途中でテーブルの上に何枚かのカードが現れる。征市達がいる側にも、それとは逆の扉に近い側にもデュエル・マスターズのカードが置かれていた。実際にデュエルをしている時のようにマナやクリーチャーが置かれていた。一つ異なるのは、普段のデュエルとは違い、カードからクリーチャーが出現していない事だけである。
『ゲームだからもちろんペナルティは存在する。答えを間違えたらその解答者はカードの姿にされて解答する事ができなくなる。それだけでなく、正解したプレイヤーもカードになって今後、解答はできなくなる。ヒントを与えたり与えられたりしても失格だ。それと、五問答えたとしてもその扉が開くだけで外に出られるわけじゃない』
「話が違うじゃねぇか!」
『そうは言っていない。ゲームに勝ったら外に出られるとは言ったけれど、問題を解くだけでゲームが終わりとは言っていないよ』
 激昂する征市を嘲笑うかのように冷静な口調でジャバウォックのコアは説明を続ける。
『五つの問題を解けば、扉を開くための鍵が一つずつ与えられる。五問解けば目の前の扉が開いて次のステージに進める。次のステージでは僕と戦ってもらう。僕に勝てばゲームは終わりさ。君達の勝ちが確定して外に出られるよ』
 征市達はジャバウォックのコアの話を聞いて情報を整理していた。
 このゲームに必要なのは六人で、問題を解く五人とジャバウォックのコアと戦う最後の一人に分けられる。問題を間違えたらその時点で人数が足りなくなって負けてしまう。一度もミスができない戦いだった。
『準備はいいかな?さて、最初の問題だ』
 ジャバウォックのコアと共にカードが光った。扉に近いカードは金色に、そして征市側のカードは緑色だ。光が止むとカードの種類や枚数が変わっていた。相手の場にはパワー15500の超巨大ブロッカー《白騎士の精霊アルドラ》と《光神龍スペル・デル・フィン》が一体ずつ並んでいる。シールドは一枚もなかった。
 こちらには《超神龍ブラムグレール》が一体いるだけだった。こちらにもシールドは一枚もない。
『君達が使える手札は一枚のみ。それも自然文明のカードだけだ。マナチャージは済ませてある。この状況で相手に直接攻撃をしてごらん』
 説明が終わると、湊が前に出た。そして、裏返しで置いてある一枚の手札を見る。そこにはカードの名前もイラストも効果が書かれた文章すらないただの緑色のカードだった。
「湊、自信があるのか?」
「自信があるわけじゃありません。ただ、信じているんです」
 そう言うと、湊は一度カードを台に置いて振り返った。征市の目と彼の目が合う。その目は真っ直ぐ征市を見ていて、その姿を捉えていた。
「信じるって何を?」
「征市さんがジャバウォックに勝つ事、です。五つの問題を解いたら、残った一人が戦わなくちゃいけない。僕は、征市さんに戦って欲しいんです。征市さんなら、絶対に勝ってくれるはずだから」
 そう言った後、湊は台の上のカードを取って場を見た。
 《ブラムグレール》は、本来パワー1000のクリーチャーだが、場にある全てのマナの数だけパワーが上がるため、10000を超える事は珍しくない。ここでは、扉側のマナ9枚と自分のマナ6枚分パワーが上がって16000になっている。
 しかし、どれだけパワーがあってもブロックされてしまうのでは意味がない。マナが6枚なので《ナチュラル・トラップ》を使える分のマナはあるのだが、《スペル・デル・フィン》が相手の場にいるせいで除去呪文を使って《アルドラ》を除去する事はできない。クリーチャーならば出す事も可能だが、《アルドラ》だけを除去するようなクリーチャーはいない。
「じゃあ《ハックル・キリンソーヤ》なら……いや、駄目だ」
 湊の頭に浮かんだ《密林の総督ハックル・キリンソーヤ》はマナのカードを一枚進化元にして場に出るマナ進化のクリーチャーだ。場に出た時に自分のシールドを一枚選ぶシールド・フォースによって、自分のクリーチャーをパワーが低いクリーチャーにブロックされないようにする能力を追加する方法を考えたのだ。
 しかし、これにも問題があった。マナ進化で自分のマナを減らしてしまったら、《ブラムグレール》のパワーが15000に下がってしまうから《ハックル・キリンソーヤ》の能力を使ったとしても、パワー15500の《アルドラ》にブロックされてしまう。それにシールドがないからシールド・フォースは使う事ができない。
「いや、僕の考え自体は間違えていないはずなんだ。《ハックル・キリンソーヤ》を使わずにパワーが低いクリーチャーにブロックされない方法を考えれば……。これだ!」
 湊は自分のマナゾーンのカードを三枚タップすると、手に持っていたカードを《ブラムグレール》の横に置く。そして、正解だと思うカードの名前を告げた。
「《鬼装 オーガ・フィスト》をジェネレート!そして、クロス!」
 さらに三枚のカードをタップして《ブラムグレール》にそのカードを取りつける。
 湊が選んだ《鬼装 オーガ・フィスト》は《ハックル・キリンソーヤ》の能力と同じようにクロスしたクリーチャーを自分よりパワーが低いクリーチャーにブロックされない能力を与えるクロスギアだ。それだけでなく、クロスしたクリーチャーのコストの分だけパワーが上がるようになっている。
「これで《ブラムグレール》のパワーは《オーガ・フィスト》の効果で6000増えて22000!《ブラムグレール》でとどめ!」
 湊の解答が終わると、場に合ったカードが光を発する。そして、場の中央に緑色のビー玉のようなものが現れた。
「征市さん、やりまし――」
 湊がそう言って振り向いた瞬間、彼の姿は煙を出して消えた。征市が駆け寄った時、そこに残っていたのは一枚のカードだった。テキストのない緑のカードでクリーチャーのイラストが描いてある場所には湊の絵が描かれていた。
『第一問は正解のようだね。次の問題を始めるよ』
「待てよ!」
 淡々とした口調で次の問題に進もうとするジャバウォックのコアに対して、征市が叫んだ。彼は湊が変化したカードを拾うと上を向いた。
「カードになった湊は、俺達が勝てば出られるんだよな?」
『もちろんだ。勝てれば、ね』
 ジャバウォックのコアは「勝てれば」を強調して言うと軽く笑う。その声が征市を苛立たせた。
「くそっ!馬鹿にしてやがるのかよっ!」
「落ち着いて下さい、相羽さん」
 顔を赤くしていきり立つ征市の肩を、菜央が叩いた。そして、テーブルに一歩近づく。
「今は、進むしかないんです。不安定でも道があるならば、そこを進むしかない。それが最善ではないですか?」
「だったら、次は俺が行く!みんながカードに変えられるのは不安だ」
「いえ、相羽さんは最後まで残ってジャバウォックと戦って下さい」
 菜央の言葉には重い響きが感じられた。これはお願いではなく、命令だ。彼女の下で仕事をしている征市にはそれが理解できた。
「だけど……俺は……!」
「切り札は最後まで取っておくものです。切り札が活躍するための準備をしますから、切り札はそこで見守っていて下さい」
 迷う征市に菜央が静かに告げた。予想外の言葉に征市は反論する事を忘れて菜央を見ていた。
「第二問を始めましょう」
 菜央が言うと、場のカードの配置が変わった。
 扉側のカードは、《光陣の使徒ムルムル》が四枚と《無限の精霊リーサ》が四枚だった。《ムルムル》の効果で四枚の《リーサ》はパワーが12000増えて16500になっている。シールドが二枚もある上に、これだけのパワーのブロッカーが四枚も並んでいるのは驚異的だ。
 それに対して、菜央の場にはクリーチャーの姿もシールドもない。裏返った状態で四枚の手札が置かれているだけだ。
『相手のシールドはシールド・トリガーではない事が判っている。君は一つ前のターンで《神令の精霊ウルテミス》を破壊されて手札に一枚、シールド・トリガーの呪文を加えている。シールド・トリガー呪文一枚とクリーチャー三枚を使ってシールドをブレイクし、このターンで相手を倒せ。ただし、使うカードは光文明単色のものだけだ』
 難しい問題だった。自然文明の問題の時のようにブロックされないようにはできないが、光文明ならば相手クリーチャーをタップする事ができる。菜央は、シールド・トリガー呪文で相手クリーチャーを全てタップする《スーパー・スパーク》を使う事を考えた。しかし、それでは相手クリーチャーをタップするだけで攻撃はできない。他にもシールド・トリガー呪文を使う方法を考えたが、ブロッカーを無効化するだけで攻撃まではできない。シールドをブレイクして相手に直接攻撃をするなど不可能に思えた。
「《神令の精霊ウルテミス》を破壊してシールド・トリガー呪文を……。もしかしたら!」
 菜央は、マナのカードを七枚タップして手札からカードを引き抜いて場に置いた。呪文を使うと思って見ていた他のメンバーは、菜央が最初に出したカードを見て息を飲んだ。それはクリーチャーだったからだ。
「まず《龍聖霊ウルフェウス》を召喚!このクリーチャーは墓地にエンジェル・コマンドがあればコストを支払わずにシールド・トリガー呪文を手札から使う事ができます。墓地には《ウルテミス》。そして、手札からはこのシールド・トリガーを!」
 菜央は《ウルフェウス》の効果でコストを支払わずに一枚の呪文を出す。場に出た黄色いカードに文字が浮かび上がり、その効果が発揮される。
「使うのは《ヘブンズ・ゲート》です。これで、手札に残った二枚のブロッカーを場に!」
 場に一枚ずつ光文明のブロッカーが出てくる。《ヘブンズ・ゲート》ならば、光文明のブロッカーを二体まで手札からコストを支払わずに出す事ができるのだ。
「あれは!」
 一真が身を乗り出して最初に出たブロッカーを見た。それは《予言者スフィア》だ。これを出す事で、相手のブロッカーは全てタップされる。どれだけ高いパワーを誇っていてもブロックする事ができなくなるのだ。
 その後、一真はもう一体のブロッカーを見た。そこにあったのは《覚醒の精霊ダイヤモンド・エイヴン》だ。場に出た時、他の攻撃できないクリーチャーを攻撃可能にする能力を持つ。
「これで《ムルムル》と《リーサ》は全てタップされ《ウルフェウス》と《スフィア》は攻撃可能になりました。《ウルフェウス》でW・ブレイクして《スフィア》でとどめです!」
 菜央が高らかに答えを告げたのと同時に、緑色の球の隣に金色の球が現れる。そして、菜央はカードの姿に変わった。一真がそれを拾って征市に渡す。
「次は俺が行く。後は頼む」
 低い声で言うと、既にカードが入れ替わったテーブルの上を見た。相手の場にシールドはなく、四枚の《黒神龍ザンジバル》が並んでいる。
「攻撃クリーチャーのパワーを下げる《ザンジバル》か。四枚で合計8000も下げられる。嫌なカードだ」
 一真の場には《腐敗電脳メルニア》が一体いるだけだ。攻撃と共に、《ザンジバル》の効果で破壊されてしまう。当然、シールドも残っていない。
『第三問だ。君の手札は《インフェルノ・サイン》一枚のみ。それを使って墓地にある水文明単色のクリーチャーを呼び出し、《メルニア》で攻撃して勝利しろ。《メルニア》は前のターンで召喚されているものとする』
 《インフェルノ・サイン》で呼び出せるのは7コスト以下の進化ではないクリーチャーだけだ。しかも、水文明のみと限定されている。
 一真の頭に浮かんだ最初のクリーチャーは《アクア・サーファー》だった。このクリーチャーなら、場に出た時にクリーチャーを一体手札に戻せる。しかし、一体が限界であり、四枚の《ザンジバル》を動かす力はない。次に全てのクリーチャーを手札に戻す《キング・アトランティス》を思い浮かべたが、コストが12と重すぎる上に効果で《メルニア》まで手札に戻されてしまう。
「じゃ、あのカードか。なかなか使う事がない珍しいクリーチャーだな」
 一真はそう呟くと五枚のマナをタップして場に《インフェルノ・サイン》を置く。そして、墓地にある何も書かれていない青いカードをつかむとこう言った。
「俺が呼び出すのは《アクア・ウェイブスター》だ!」
 《アクア・ウェイブスター》は多色ではないクリーチャーを全て手札に戻す事ができる。これで四枚の《ザンジバル》は手札に戻り、《メルニア》の攻撃を妨害する者はいなくなった。
「これで攻撃が通る。《メルニア》でとどめだ!」
 今度は青い色の球が現れ、一真がカードの姿に変わる。陸がそれを拾うと征市に渡した。
「じゃ、セーイチさん。気に入らないけど、切り札らしいから後はよろしく」
「気に入らないってなんだよ。だったら、俺と代われよ!」
 征市がテーブルに近づこうとするが、陸は両手を広げて彼を止める。そして、真剣な表情で征市を見た。
「みんな判っているんですよ。セーイチさんが僕らの中で一番強いって。キメラ男を倒したのもセーイチさんでしょ?だから、ジャバウォックを倒してくれるんじゃないかって信頼しているんですよ」
 そう言って陸は振り返る。そして、照れ隠しのように付け加えた。
「それと、セーイチさんに任せたら間違えそうだし」
「おい、そりゃどういう意味だよ」
 今まで緊張が顔に現れていた征市も、陸の言葉を聞いて表情が和らいだ。メンバーに信用される事でプレッシャーがかからないわけではないのだ。そのプレッシャーを陸が消し去った。
「さて、僕の番だ。どんな問題でもすぐに解いてやるよ!」
 陸の声に応えるように、また場のカードが変わっていく。
 扉側の場には、《アルドラ》が一枚とタップされた《聖帝ファルマハート》が一枚あった。《ファルマハート》は相手の攻撃に応じてアンタップして一時的にブロッカーになる事が可能な進化クリーチャーだ。効果を発動させるためには進化元のカードを一枚墓地に捨てなくてはならないが、場にある《ファルマハート》の下には数枚のカードがあった。他に、シールドが二枚ある。
 相手の防御にげんなりした陸が自分の場を見ると、そこには四枚のシールドがあった。クリーチャーは《ねじれる者ボーン・スライム》が一枚。そして、何も書かれていない闇文明のクリーチャーが一枚。手札のカードを見ると、同じように4とコストだけが書かれた闇文明の呪文が二枚あった。マナのカードは全て闇のカードで四枚である。
「四ばっか。死の数字って感じで縁起悪いな」
 闇文明を使う陸らしくない発言の直後にジャバウォックのコアが説明を始めた。
『第四問。手札にある二枚の闇呪文と場の闇クリーチャーを使ってこのターンに勝利せよ。相手と自分のシールドにシールド・トリガーはないものとし、使う闇のカードは闇単色のものとする。マナのチャージは既に終了している。《ボーン・スライム》ともう一体の闇クリーチャーは前のターンで召喚されているものとする』
「つまり、この4コストの呪文とクリーチャーは好きに決めていいってわけね。う~ん」
 ブロッカーを破壊し、シールドをブレイクしてとどめを刺す。この三つをやる必要があった。
 陸の頭に最初に浮かんだ4コストの闇呪文は、自分のシールドを一枚捨てる事でクリーチャーをW・ブレイカーにする《スネークアタック》だ。これならば貧弱な《ボーン・スライム》もW・ブレイカーになる。しかし、ブロッカーの問題は解決できない。
「《デス・スモーク》は……駄目か。除去はできるけれど、マナが四枚じゃ呪文は一枚しか使えない。どうすりゃいいんだろ?四ってやっぱ縁起が悪い」
 ぼやきながらそう言った陸は、手札にある闇呪文と場にあるクリーチャーを見てはっとした。そして、上を向く。
「シールドは闇のカードだよね?」
『そうだ。それらも全て闇のカードだ』
「OK。それで謎は全て解けた!まず、場にある闇クリーチャー。こいつは《アングリーチャージ・ドラグーン》だ!」
 場のクリーチャーのカードにテキストが浮かび上がる。《アングリーチャージ・ドラグーン》はシールドが三枚以下になるとW・ブレイカーになるのだ。
「陸、どうやってシールドを減らすんだよ?」
「任せておいて下さいよ、セーイチさん。シールドを減らすのは手札にある4コストの闇呪文一号《バブル・トラップ》だ!」
 陸はマナゾーンのカードを四枚タップして《バブル・トラップ》を場に出した。これにより、シールドを一枚手札に戻し、進化ではないクリーチャーを一体破壊できる。
「効果で破壊するのは《アルドラ》だ!そして、手札に戻したシールドをうまく活用する」
 シールド・トリガーは使えない。それが《バブル・トラップ》の効果でシールドを手札に戻した時のルールだった。それに、シールド・トリガーが入っていない事は説明されている。
 征市達の心配をよそに、陸は手札に戻ったシールドを捨てたのだった。
「陸!何してんだ!自棄になるな!」
「自棄になんてなりませんって。これをしなくちゃ《ファルマハート》は倒せないんですよ!ストライク・バック!《ファンタズム・クラッチ》!」
 手札に残っていた4コストの闇呪文《ファンタズム・クラッチ》が場に出た。そして、その効果でタップされていた《ファルマハート》が破壊される。
「なるほど!シールドが闇のカードか確認していたのは、ストライク・バックを使うためだったのね!」
 彩矢と征市も理解した。ストライク・バックは、シールドが手札に加わった時にそのシールドを墓地に捨てる事で発動する能力だ。《ファンタズム・クラッチ》は闇のカードがシールドから手札に加わった時に発動する。効果はタップされているクリーチャーを破壊するというシンプルなものだが、この効果こそ、今、求められていたものなのだ。
「《アングリーチャージ・ドラグーン》でW・ブレイク!そして《ボーン・スライム》でとどめ!」
 陸の解答が終わるのと同時に彩矢が一歩前に出る。そして、今までの仲間がそうしてきたのと同じようにカードになった陸を拾い上げて征市に渡した。そして、はにかんだような顔で征市を見る。
「これが終わったら、結婚式を挙げましょうね、旦那様♪」
「ばっ!馬鹿言うんじゃねぇよ!今、そんな事言っている場合か!」
「じゃ、終わってから言います」
「そうじゃなくて!」
 征市が慌てているのを見て、彩矢は微笑んだ後に場を見た。
 扉側には《アルドラ》が二枚あるだけでシールドはなかった。彩矢の場にはクリーチャーもシールドもない。マナゾーンに火文明のカードが六枚あるだけだった。裏返しになった二枚の手札を見ると、今までと同じように何も書かれていない。
『最後の問題だ。火文明のカードを二枚使ってこのターンで勝利せよ』
 シンプルだが、悩ませる問題だった。ブロッカーの破壊は火文明の特技の一つだ。しかし、トップレベルの巨体を誇る《アルドラ》二体を破壊して攻撃を通すのは難しい。
「六枚、六枚。これがヒントよね。スピードアタッカー出してブロッカー二体を破壊して……」
 彩矢は目を閉じ、顎に手を当てて考える。そのまま、一分ほど動かずに熟考した後、手札を見る。この二枚のコンボでこの状況は打破できるはずだ。
「一枚目はこれ!《爆獣マグヌス・グレンオー》よ!」
 彩矢が最初に出したのは3コストのクリーチャー《爆獣バグヌス・グレンオー》だった。墓地に呪文があればスピードアタッカーになる火文明のクリーチャーだ。
「もちろん、呪文を使ってスピードアタッカーにするわ。使う呪文はこれ!《魔弾 クリティカル・デストロイヤー》!!」
 彩矢が出した3コストの火呪文を見て征市はあっ、と声を出した。《魔弾 クリティカル・デストロイヤー》はブロッカーを一体破壊する呪文である。本来ならば《アルドラ》を一体しか破壊できないが、場にナイトのクリーチャーがいる場合は話が別だ。
「《クリティカル・デストロイヤー》は場にナイトのクリーチャーがいればナイトマジックを使って呪文の効果を二回使用できる。アタシの場にはナイトのクリーチャー《マグヌス・グレンオー》がいるわ!これで《アルドラ》を両方破壊!《マグヌス・グレンオー》をスピードアタッカーにしてとどめよ!」
 彩矢が直接攻撃を宣言した瞬間、彼女もカードの姿に変わる。そして、場には、緑、金色、青、黒、赤の五つの球が揃った。五つの球は自らの力で宙に浮くと、扉にある五つのくぼみにはまった。耳障りな音を立てて、扉が開く。扉の奥は白い光に溢れていて、征市からは中がよく見えない。
『おめでとう。君は僕と戦う権利を手に入れた。入っておいで』
「言われるまでもない!」
 征市は彩矢のカードを拾うと、他のカードと一緒に上着の内ポケットにしまった。そして、静かに深呼吸すると扉の奥へ向かった。

 全は一歩足を前に進める。その度に、全身を快感が駆け巡る。
 ジャバウォックを取り込む事で圧倒的なパワーを得た事の喜び。そして、自分の邪魔をしたトライアンフのメンバーをこの手で消し去る快感。その二つが全のエネルギーとなって血液と一緒に体中を移動している。
「そこまでよ」
 だが、そんな彼の快感はその声でかき消された。目の前に白をメインにした落ち着いた服装の女性が現れる。それは真実だった。片手にデッキを持って征市達を守るように立ちふさがり、全を見ていた。
「裏切り者ぉっ!ぶっ殺してやる!」
「待て、全。ここは僕が!」
 快感の代わりに怒りが全を突き動かした。怒りに突き動かされたのは彼だけでなく、幻も同じだった。二人ともデッキを取り出して真実に近づく。真実は眉一つ動かさずに二人を見ると、懐から白いチェス駒を取り出した。白く長い指からチェス駒が離れると、白い光を発しながらその姿を幻そっくりの姿に変えて行った。
「久しぶりね、二人とも。幻の相手はこの子にお任せするわ。全、あなたは私が止める。征市さんに触れさせるわけにはいかないわ」
「いいだろう!殺してやるぅ!殺してやるぞぉ!」
 金色のシールドが全の前に現れる。それと同じように真実の前にも五枚のシールドが現れた。
「くっ、僕はこんな玩具の相手か」
 幻は不機嫌そうに悪態を吐くと青いシールドを展開した。それぞれの準備が終わり、デュエルが始まった。
「《ストリーミング・シェイパー》。効果で山札をめくるわ」
 流れる水のように静かな動作で真実は自分の山札のカードをめくっていく。《ストリーミング・シェイパー》は山札のカードを四枚めくり、水文明のカードを手札に加え、それ以外を墓地に置く呪文だ。どんなカードを手札に加えるのか全は息をするのも忘れてじっと見ていたが、三枚のカードが墓地に置かれ手札に加わったのが一枚だったのを見て声をあげて笑い始めた。
「傑作だ!ちゃんとデッキを組んだのかぁ!?魔道書同盟を抜けて人間の味方をする奴なんざ所詮こんなもんだよなぁっ!!」
 全は《アクアン》を召喚した。《アクアン》も《ストリーミング・シェイパー》と効果が類似していた、山札を五枚めくりその中から光と闇のカードを手札に加え、それ以外を墓地に置くクリーチャーだ。全は効果で四枚のカードを手札に加えた。加わった手札を見て、全は満足そうに顔全体に笑みを浮かべた。
「どうだ!手札補充ってのはこうやるんだよぉっ!!」
「そうね。参考にするわ」
 真実も微笑を浮かべながら行動を開始した。次のターン、《サイバー・ブレイン》で手札を三枚増やし、ターンを終了した。
「2ターンも手札補充に使うとか馬鹿のする事だな。俺は溜まった手札を使う!召喚だぁっ!」
 金色と青の光を受けて青い色をしたエンジェル・コマンド《知識の精霊ロードリエス》が全の場に出る。体の周囲にいくつもの手が浮いているこのクリーチャーは、自分のブロッカーが場に出る度に一枚ドローする能力を持っている。
「さぁて、攻撃だ!やれっ!《アクアン》!」
 全の命令を受けて、《アクアン》の小さな体が飛び回り、真実のシールドに体当たりをした。その光景と真実の口元に浮かんだ微笑を見た瞬間、幻は本能的に真実の行動の意味を理解し、声を出していた。
「全、待て!それは罠だ!《ストリーミング・シェイパー》は手札補充に使っていたんじゃない!」
 しかし、幻のアドバイスは遅かった。シールドは中央からひびが入り、粉々に砕け散る。そしてそこから黒い光を発するカードが飛び出し、カードから魔方陣が現れた。
「《インフェルノ・サイン》よ。《ストリーミング・シェイパー》の効果で墓地に送ったクリーチャーを場に出すわ」
 真実は宣言すると怪しい微笑を浮かべた。相手を魅了し誘惑するような微笑とは対照的に、相手を恐怖し絶望させるようなプレッシャーが魔方陣から発せられる。
「何だよ。何が出てくるんだよぉっ!?」
 恐怖に耐え切れなくなった全が叫んだ瞬間、魔方陣から黒い剣が何本も飛び出し《アクアン》と《ロードリエス》を串刺しにしていった。魔方陣から出てきたのは、全身に黒い刃物を装備したデーモン・コマンド《魔刻の斬将オルゼキア》だった。
「《オルゼキア》は自分のクリーチャー一体の命と引き換えに相手のクリーチャー二体を破壊する能力を持つ。私が破壊するのは《オルゼキア》自身よ」
 真実が《オルゼキア》を見つめて微笑みかけた瞬間、《オルゼキア》は高い声で叫ぶと自分の体に黒い刀を突き刺した。場に存在した《オルゼキア》を含む三体のクリーチャーが全て倒れる。
「騙しやがってぇっ!」
「騙したつもりはないわ。《ストリーミング・シェイパー》を手札補充に使ったなんて誰も言っていない。あなたの勘違いよ」
 真実はそう言うと、カードを引いた。その瞳に宿る冷たい光を見ながら、全は激しい怒りの中に生まれた少しの恐怖を鋭敏に感じ取っていた。怒りで押し切ろうとしている自分とは違い、真実は凍りつくような冷静さで全を追い詰めようとしている。恐怖に心が支配されたら、その時点で全の負けだ。
「負けるかよぉ……。裏切り者なんかに狩られてたまるかぁっ!」
「狩られる?何の事かしら?」
 全の言葉に目の動きだけで反応してから、真実はマナゾーンのカードをタップし、自分のカードにマナを注いだ。

 扉を開けた征市は、巨大なチェス盤のような舞台の上に立っていた。周りに駒はなく、あるのは大理石でできたような台だけだ。征市と反対側にも同じような台がある。周りは真っ暗で真夜中の空のようだった。
「お待たせしたようだね。クライマックスを始めよう!」
 反対側の台の後ろにある空間が四角く切り取られ、ドアが開くような形で開いた。そこから奇妙な怪人がやってくる。
 全身の龍の頭と首を巻きつけたような怪人で、龍の頭は原色に近い派手な色をしている。カラフルで目立つ出で立ちだが、特に目を引くのは頭部がない事だった。首に金属製の台のようなものがあり、そこから映像で頭部を映していた。映された頭部は、古いCGで作られたような不自然なものだった。表情にもぎこちないものがある。
「改めて自己紹介をしよう。僕はジャバウォックのコア。これが真の姿さ」
「相羽征市。トライアンフの“切り札”だ」
 征市の言葉に満足したようにジャバウォックのコアの頭部が笑い、目の前にある台の上にデッキを置いてシールドを並べる。五枚置かれたカードはドアくらいの大きさの半透明の壁―シールドへ変化し、赤く輝きながら主を守る自らの存在を主張した。
 征市も同じようにデッキを置き、赤く光るシールドを並べ、五枚のカードを引いた。
「《スピア・ルピア》召喚!」
 ジャバウォックのコアの手から離れた赤いカードが火の玉となってチェス盤の中央へ飛んでいく。火の玉は、巨大な槍がついたヘルメットをかぶったファイアー・バード《スピア・ルピア》へと姿を変えた。
「タップされていないクリーチャーを攻撃できる上に破壊された時の効果があるクリーチャーか」
 《スピア・ルピア》を見て、征市は手札にある《コッコ・ルピア》の召喚をやめた。
 《スピア・ルピア》はパワー1000のクリーチャーで、破壊された時に山札からドラゴンを手札の呼ぶ能力か、自分のクリーチャー一体のパワーを2000増やしてタップされていないクリーチャーを攻撃できるようにする能力を使う事ができる。《コッコ・ルピア》も同じパワーなので次のターンに出したらすぐに破壊されてしまう。長い間、場に留まる事で効力を発揮する《コッコ・ルピア》をすぐに失うような真似はしたくはない。
「《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》召喚!」
 緑色の肌の獣、《青銅の鎧》が場に出た事で征市はマナゾーンのカードを一枚増やす。《青銅の鎧》もパワーは1000だが、既に効果を発揮し終えているので《スピア・ルピア》と相討ちになったとしても 《コッコ・ルピア》に比べて被害は少ないと言えるだろう。
「おや?《コッコ・ルピア》は出さないのかな?……まあいいか。君も僕の考えは気づいているようだし、挑発には乗ってくれそうもないね」
 ジャバウォックのコアは肩に大砲を背負ったファイアー・バード《ルピア・ラピア》を召喚する。征市の頭に浮かんでいた疑惑は、今、確信へと変わった。
「ドラゴンデッキか。また《アポロヌス・ドラゲリオン》でも出るんじゃないだろうな?それとも《DEATH・ドラゲリオン》か?」
「安心してくれ。どちらも出ないよ」
 そう言うと、ジャバウォックのコアは口元の映像に右手を添え口笛を吹いた。その高い音に反応して《スピア・ルピア》が両翼を激しく動かし、《青銅の鎧》に突撃していく。《青銅の鎧》は飛んできた敵を打ち倒すため、足腰に力を入れて持っていた槍を突き出した。それと同時に《スピア・ルピア》の頭部の槍が《青銅の鎧》に突き刺さる。それぞれの槍がそれぞれの体を貫き、二体のクリーチャーは地に伏した。
「さあ、《スピア・ルピア》の効果発動だ!」
 ジャバウォックのコアが山札に手を伸ばすと、《スピア・ルピア》の頭部の槍が飛んできて山札のカードを全て弾いた。弾け飛んだ山札が地面に落ちるまでの瞬間、それぞれのカードをじっと見ていたジャバウォックのコアは目の前のカードに手を伸ばす。ドラゴンを手札に加えたのだ。他のカードは効果を使う前と同じように重なり合った状態で元の場所に戻っていった。
「いい事を教えてあげよう。僕の切り札は、アーマード・ドラゴンさ。《アポロヌス・ドラゲリオン》のようなフェニックスじゃない。だけど、それよりももっと強いクリーチャーなんだ」
「強い?だったら見せてみろよ。その強さをな!」
 征市は、マナをタップして《緑神龍バルガザルムス》を場に出した。四本の足でしっかり地面を押さえ、巨大な剣のような頭部の角を相手に向ける。
「いいさ。見せてあげるよ。だが、その前に……」
 ジャバウォックのコアの頭部が、口元を歪めて笑うと一枚のカードを場に投げた。そのカードは赤と緑色の光を放つと龍の姿へと変化して場に現れた。侍のような黒い甲冑を纏い、巨大な斧を掲げた《武装竜鬼ジオゴクトラ》だ。コスト4以上のクリーチャーにサムライ、アーマード・ドラゴン、アース・ドラゴンの三つの種族を追加し、パワーを2000増やす能力を持ったドラゴンだ。《ジオゴクトラ》の効果を受けて、《ルピア・ラピア》の頭部が龍のように変化していった。
「とりあえず、今は何もしない。これでターン終了さ」
「じゃ、何もしなかった事を後悔させてやるよ」
 征市の《バルガザルムス》の隣に、紅い鱗の龍《紅神龍バルガゲイザー》が現れる。ジャバウォックのコアよりも先に切り札のドラゴンを出すため、一気に山札をめくる作戦に出たのだ。
「《バルガザルムス》で攻撃!そして、山札をめくる!」
 征市が山札をめくると、それはドラゴンのカードだった。征市がそれを手札に加えると、《バルガザルムス》は巨大な角でジャバウォックのコアのシールドを貫いた。
「やるね。じゃ、僕はこうするか」
 ジャバウォックのコアが場に一枚の赤いカードを投げる。すると山札の上から一枚のカードがそのカードに張り付いた。二枚のカードが張り付いた時、爆発が起こり、その中から炎の羽を持つフクロウのようなクリーチャーが現れた。
「《火之鳥ペリュトン》。デッキ進化を持つ5コストのクリーチャーだ。破壊された時に、墓地から《ペリュトン》の進化元のクリーチャーを場に出す事ができる」
 デッキ進化。それはクリーチャーの召喚時に山札をめくり、それがクリーチャーならば進化元として下にそのカードを重ねて出すタイプの進化クリーチャーだ。進化先のクリーチャーよりも進化元のクリーチャーが強い事だってある。《ペリュトン》を破壊したら、その効果で《ペリュトン》よりも強いクリーチャーが場に出る事だってあるかもしれないのだ。
「プレッシャーを感じるかい?だが、まだまだこれからだよ。本当の切り札が出ていないからね。僕が切り札を出す時まであがいてごらん」

 全は自分の前に並ぶブロッカーを見て静かに息を吐いた。
 《ロードリエス》が一体、バトルに勝てば無限にブロックできる《リーサ》が二体、さらにそれらのブロッカーのパワーを高める《ムルムル》が一体並んでいるのだ。これらのブロッカーで攻撃はできないが、無理に動く必要はない。全には、鳥の頭のような兜をかぶった進化エンジェル・コマンド《聖霊王イカズチ》がいるのだ。
「《イカズチ》はバトルゾーンにクリーチャーが出た時、自分のクリーチャーを好きな数アンタップさせ、それらのクリーチャーにブロッカーを与えるっ!お前がクリーチャーを召喚する度に、《イカズチ》はアンタップされ、攻撃を受け付けない状態になるのだぁっ!喰らえ、W・ブレイクッ!!」
 全の命令を受けて《イカズチ》両手を交互に突き出し、真実のシールドを二枚ブレイクする。二枚目のシールドから《イカズチ》の手が離れた瞬間、そのシールドが黒く光り出した。シールド・トリガーだ。
「《インフェルノ・サイン》。墓地から《邪眼皇ロマノフI世》を場に!」
 魔方陣を潜り抜けて、紅いマントを纏って銃身が剣のように変化した銃を両手に持った黒い騎士が現れた。《邪眼皇ロマノフI世》は全を挑発するように左手に持った銃を彼に向ける。
「馬鹿が!クリーチャーが場に出れば《イカズチ》の効果は使える!アンタップした《イカズチ》で最後のシールドをブレイクだ!」
 《イカズチ》の手が振り下ろされ、最後のシールドが紙でも切るようにたやすく切り裂かれていく。その中にシールド・トリガーはなく真実は最後のシールドを手札に加えた。
「互いにシールドはなし。面白くなってきたわ」
 真実はそう言うと口元に笑みを浮かべて自分の場にいる《ロマノフI世》を見た。《ロマノフ》も背後で自分を見守っている真実と視線を交わす。
「面白くなってきた!?馬鹿も休み休み言え!俺の《イカズチ》がいる限り、俺の防御は完全無敵よぉっ!!」
 全が言い終わるより少し早く、黒い手が《イカズチ》の体を貫いていた。《イカズチ》の体から発せられていた金色の光は消え、聖霊王は地に膝をつき倒れた。
「《デーモン・ハンド》。どれだけ強いクリーチャーでも除去呪文には勝てないわ。そして……」
 真実の言葉を聞きながら、《ロマノフ》は二丁の銃を全のクリーチャー達に向ける。兜の中で光る目が邪悪な笑みを湛えた。
「私と《ロマノフ》ならこの一撃で勝てる。《イカズチ》を破壊したのは万が一のための保険よ。手札にニンジャ・ストライクを使うクリーチャーがあったら困るものね」
 ニンジャ・ストライクのカードを使えば、相手のターンであってもクリーチャーを場に出す事ができる。その効果で《イカズチ》の能力を使い、クリーチャーをアンタップする事が可能だ。
「やるわよ、《ロマノフ》」
 真実は冷静な仮面を崩す事なく、墓地から拾い上げた一枚のカードをかざす。《ロマノフ》は墓地にある6コスト以下の闇文明の呪文を使う事ができるのだ。真実が持ったカードから黒い光が二丁の銃に注がれる。光が充分に注がれたのを見て《ロマノフ》は銃を高く掲げ、相手の場に突っ込んだ。
 まず、左手の銃から魔力を帯びた黒い弾丸が発射される。脳を突き破るような音と共に、銃から薬莢の代わりに黒い羽根が舞った。最初に撃ち抜かれたのは《ムルムル》だ。勾玉に似た形のブロッカーは、一発目を受けて宙に跳ね上がると空中で二発目を打ちこまれた。三発目が飛ぶまで体が持たず、《ムルムル》は金色の光となって消えてしまった。
「次!」
 真実の鋭い声を聞いて、《ロマノフ》は右手の銃を自分の右にいる《ロードリエス》に、左手の銃を自分の左にいる《リーサ》に向けると踊るようなステップを踏んで乱射し始めた。自分の周囲にいるクリーチャーを見境なく撃ち抜いていく。黒い羽根の薬莢が、破壊されたクリーチャーに捧げられた花のように地に落ちていった。
「何故だ!《ロマノフ》一体で何故、俺のブロッカーが!?どんな呪文を使ったんだぁっ!?」
「《魔弾ロマノフ・ストライク》よ」
 真実の口から告げられた呪文の名前を聞いて全はその存在を忘れていた事を思い出し、それを忘れていた自分の愚かさを呪った。
 《魔弾ロマノフ・ストライク》は《ロマノフ》のために作られた呪文といってもいい呪文だった。通常の効果では相手のクリーチャーのパワーを5000下げるだけの呪文でしかない。しかし、《ロマノフ》の効果で墓地からその呪文を唱えた場合、他のクリーチャーのパワーも5000減らす事ができるのだ。
「うおおお!うわあああーっ!!」
 悔しさに耐え切れず、全は頭を押さえてうずくまる。その頭部に《ロマノフ》の銃口が突き付けられた。
「終わりよ、全。覚悟なさい」
 だが、その言葉を聞くまで震えていた全は、突如、顔を上げるといやらしい笑みを浮かべて真実を見た。その表情に不快感を覚えた真実は眉をひそめる。
「何のつもり?」
「俺を殺したら、トライアンフの奴らも死ぬなと思っただけだぁ」
 真実は、全の言葉に反応しない。正確には反応できなかった。全がこの事実に気づかなければ、全を見逃す代わりに征市達を体から出すよう要求するつもりだった。しかし、全がこれを武器に使った今、それは通用しない。
「俺を撃つのか?お前が相羽征市を気に入っている事は知っているぞぉっ!奴を殺すのか!?相羽総一郎の血を引くこいつをぉっ!お前は、俺達だけでなく奴も裏切るのかっ!」
「やめなさいっ!」
 大声を出していた事に気づき、真実は驚いた顔で自分の口を押さえた。心理攻撃が効いたため、満足したのか全は立ち上がった。
「《ロマノフ》の攻撃を中止させろ。そして、これからお前は一度も俺に攻撃するな。……言わなくてもそうするよなぁっ!?」
 真実は黙ったまま、全を見ていた。この状況で全を攻撃する事はできない。征市達が全の中から出てくる事を祈りながら、屈辱にまみれた時間の中で真実は全を睨みつけていた。

「《超竜バジュミカヅチ》に進化!そして、W・ブレイク!」
 ジャバウォックのコアの《ジオゴクトラ》が新たな力を得て姿を変えていく。そこに立っていたのは、両手、両足、そして胴体に龍の頭部があるドラゴン《超竜バジュミカヅチ》だ。《バジュミカヅチ》の全身の龍から発せられた光線が征市のシールドを二枚打ち破っていく。さらに、《ペリュトン》が突っ込んで一枚ブレイク。これで征市のシールドは残り一枚になった。
「《バジュミカヅチ》が場にいる間、君のクリーチャーが攻撃する時、君は自分のパワー7000以下のクリーチャーを一体破壊しなければならない。7000っていったら、ほとんどだね」
 ジャバウォックのコアが言う事は当たっていた。征市のデッキで7000を超えるパワーを持つのは進化ドラゴンだけだ。今の場には《バルガザルムス》が二体と《青銅の鎧》が一体、そして《コッコ・ルピア》が一体いた。どれもパワーが低く、《バジュミカヅチ》の効果で破壊されてしまうものばかりだ。
「じゃあ、肉を切らせて骨を断つってのをやってみるか!《バジュミカヅチ》を倒す!」
 征市はそう言うと、場にある《バルガザルムス》に向かって一枚の赤いカードを投げた。そのカードから発せられた赤い光によって《バルガザルムス》が大きく強靭な姿へと変わっていく。
 火山の山肌を思わせる皮膚に胴体から伸びる三つの龍の頭部。そして、鎖のついた燃え盛る鉄球。
「行くぜ!《超竜バジュラ》!!」
 征市のデッキの中で最大のパワーを持つ進化ドラゴン《超竜バジュラ》は《バジュミカヅチ》を睨むと鉄球を回して放り投げた。その鉄球はクリーチャーには当たらず、シールドにも触れなかった。触れたのはマナゾーンのカードだ。マナゾーンにある二枚のカードに鉄球が叩きつけられ、高温で熱せられる事で灰になる。
「《バジュラ》は攻撃した時に相手のマナを二枚破壊する。次は《バジュミカヅチ》だ!」
 鎖を引いて鉄球を手元に引き戻した《バジュラ》は勢いをつけると再び鉄球を投げた。それと同時に《青銅の鎧》の足元から火柱が噴きあがり、緑の獣の体が火に包まれていく。
「悪い、《青銅の鎧》!仇は取るぜ!」
 《バジュラ》の鉄球が体に当たり、《バジュミカヅチ》の体がバラバラに砕け散っていった。満足した顔でそれを見た征市は、《バルガザルムス》と《コッコ・ルピア》を動かした。
「《バルガザルムス》と《コッコ・ルピア》でシールドブレイク!」
 《バルガザルムス》の角がシールドを突き破り、《コッコ・ルピア》が体当たりする。この攻撃でジャバウォックのコアのシールドも残り一枚になった。切り札の《バジュラ》だけで形成逆転したのだ。
「どうだ?俺には《バジュラ》に《バルガザルムス》、《コッコ・ルピア》がいる。お前は《ペリュトン》が一体だけだ。ゲームは俺の勝ちだったな」
「勝ち?君はこのゲームを甘く見ているんじゃないかな?」
 頭部の映像が笑みを浮かべる。古いCGの頭部の映像が、今は生々しさを感じさせて気持ち悪い。
「デュエル・マスターズはいかにうまく切り札を使うかが重要だ。君達にとっては戦いの道具かもしれないけれど、僕にとってはゲームだよ」
 そう言ったジャバウォックのコアの手から一枚のカードが離れる。そのカードから炎が噴き出し、《ペリュトン》が飲み込まれていった。突然噴き出した炎によって煙が発生し、征市のクリーチャーも煙に包まれる。
 それからしばらくして、耳をつんざくような爆音と共に幾条もの光線が煙を切り裂いた。地面を揺るがすような音と共に、それは姿を現す。
 煙の幕から現れたのは、龍の形をした要塞のようなクリーチャーだった。《バジュラ》よりも大きく、征市が顔を見上げてもその全貌がつかめないくらいだった。
「究極進化《神羅ドラグ・ムーン》」
「《ドラグ・ムーン》?」
 《ドラグ・ムーン》は重い足を上げると地面に転がっていた《バジュラ》の鉄球を踏み潰す。その光景を見た瞬間、征市は《ドラグ・ムーン》によって《バジュラ》が倒された事を理解した。
「僕の切り札《ドラグ・ムーン》は攻撃した時にパワー6000以下のクリーチャー二体を破壊できる。そして、パワーは《バジュラ》を上回る15000だ!」
 圧倒的なパワーの《ドラグ・ムーン》は茫然とした顔の征市に両腕の銃口を向ける。次のターゲットはお前だ、とでも言うように。
「これで君のクリーチャーは全滅。このゲームは僕の勝ちだったね」
「いや……」
 征市がカードを引き、マナゾーンにある六枚のカードをタップする。そして、手札にある一枚のカードにカードから出た赤いマナを注ぎ込むと場に投げた。
「行け!《ボルシャック・大和・ドラゴン》!!」
 カードから出た《ボルシャック・大和・ドラゴン》は地面を蹴ると高く飛んだ。そして、《ドラグ・ムーン》の頭上まで移動すると刀を引き抜き、両手で構えて突撃する。
「パワー6000のクリーチャーで攻撃するなんて正気かい?《ドラグ・ムーン》!蹴散らせ!」
 自分に攻撃を仕掛ける者が気に食わないのか、《ドラグ・ムーン》は命令を受ける前から体中にあるミサイルを発射していた。《ボルシャック・大和・ドラゴン》はそれを避けながら滑空すると、まず左腕を斬り落とした。一瞬、遅れて他の音を全て消し去るような悲鳴がその場に響いた。
「何故だ!《ドラグ・ムーン》のパワーは《ボルシャック・大和・ドラゴン》の二倍以上あるはず!《ドラグ・ムーン》が負けるなんて嘘だ!」
「違うな。『ウソのようなホントウ』って奴だ。《ボルシャック・大和・ドラゴン》は墓地にある火のカード一枚につき、パワーが1000増える。今の《ボルシャック・大和・ドラゴン》のパワーは16000!《ドラグ・ムーン》だって破壊できる!」
 《ボルシャック・大和・ドラゴン》は《ドラグ・ムーン》の周りを飛び回り、右腕と両足も斬り落とした。最後に胴体に刀を突き刺すと《ドラグ・ムーン》の体が高熱を発して爆発する。
「ぐぅぅっ!まだだ!《ペリュトン》召喚!」
 ジャバウォックのコアが再び《ペリュトン》を召喚して征市の最後のシールドをブレイクする。それを見て、征市は歯を見せて笑った。
「《ボルシャック・大和・ドラゴン》に続くもう一枚の切り札が来たぜ。行くぜ!《紅神龍ジャガルザー》!!」
 紅い鱗の龍《紅神龍ジャガルザー》が《ボルシャック・大和・ドラゴン》の隣に並ぶ。まず《ボルシャック・大和・ドラゴン》がジャバウォックのコアの最後のシールドを切り裂き、それを見て《ジャガルザー》が動いた。
「お前の言うとおりだった。デュエル・マスターズは切り札をうまく使う事が重要だったな。切り札をうまく使う事は俺の方が一枚上手だったけどな!」
 《ジャガルザー》の口から吐かれた光線がジャバウォックのコアを包み込む。その姿が消えた瞬間、天井から白い光が差してきた。
「そうか。俺達が勝ったから、出られるんだ!」
 征市はデッキを片づけると、両足に力を入れて跳んだ。白い光は遠くにあったが、重力による束縛がないかのように高く飛んで光に近づく。征市はその光に手を伸ばした。

 突然、白い光がその場を襲った。しばらくしてから真実が目を開けると、後ろに征市が立っていた。他のトライアンフのメンバーも無事らしく、まだ体に力が入らないようだが意識はあった。
「何だか判らないけど、また助けてもらったみたいだな」
「ええ、それが使命のようなものですから」
 真実は満面の笑みで征市に微笑んだ後、全を見た。全はその場に座って体を押さえている。
「何だ?ジャバウォックの食って得た力が急に抜けて行く。何がどうなってやがるんだぁぁっ!!」
「俺がジャバウォックを倒したからな。その力が消えたんだろ」
 征市の言葉を聞いた全は、顔を上げると赤いブレザーを着た宿敵を睨みつける。その頭に再び、銃口が突き付けられた。
「終わりよ、全」
 真実が静かに言い放った直後、《ロマノフ》が銃を乱射する。体中に弾丸を受けて全は後ろにあるバス停の柱にぶつかった。
「ぐ……ぅ……!」
「全!」
 白いチェス駒を倒したのか、幻が全に近づく。全は意識があるらしく、幻の声に反応していた。幻はそれを見て、仲間を米俵を担ぐように抱えると歩き出した。
「何よ……幻。もっと大事に……持ちなさ……いよ」
「文句言うな」
 全がいつもの口調に戻っていたのに気付き、幻は静かに息を吐いた。
「待てよ!」
 その二人を追いかけようとして征市が声を上げる。しかし、立っていられずにその場に倒れた。
「畜生!一体、何で……?」
「征市さん、ここは抑えて下さい。今日一日でかなりの魔力を使っているはずです。体が持ちませんよ」
 穏やかな、しかし、逆らう事を許さないような厳しさもこもった声で真実が征市を止める。今日一日だけでドラゴン男と戦い、ジャバウォックの中で様々な怪人とジャバウォックのコアを倒した。最後に全の体内でジャバウォックのコアと戦ったのだ。体が悲鳴を上げるのも無理はない。
「二人を追わなくてもあなた達の勝ちです」
「最後の最後で逃げられちまったら、引き分けじゃないか?」
 征市は弱々しい声でそう言うと目を閉じた。

 空港のベンチでマシューは携帯電話を取り出し、電話をかけた。相手が出るまで日本にいた数日間の事を思い出していた。
 トライアンフジャパンの強さは認められ、吸収計画は白紙に戻った。そして、調査のために派遣されたマシューと彩矢はトライアンフアメリカに帰る事になったのだ。
『無事、終わったようだな』
 電話の向こうから落ち着いた声が聞こえる。まるで、こうなる事を予期していたようだ。
「もう憎まれ役は御免ですよ。次に同じようなテストがある時は、私以外の人間を選んで下さい」
 頼まれたとはいえ、憎まれ役をやるのはいいものではない。結局、陸と湊はマシューが帰るまで一言も口を利いてくれなかった。
『判った判った。もし、次があったら君の希望を聞こう』
 冗談めかした口調で総一郎がそう言うと、通話が終わった。マシューは携帯電話をしまうとスーツケースを持ってベンチから立ち上がった。
「マシュー!」
 その姿を見て声をかける者がいた。征市だ。遠くからマシューの姿を見て走ってくる。
「何をしに来た?計画が失敗したから、嫌みの一つでも言いに来たのか?」
「違う。マシューがアメリカに帰るから見送りに来たんだ。まあ……陸と湊と菜央は誘っても来てくれなかったし、一真さんは忙しかったから俺だけだけどな」
 そう言うと征市は右手を差し出す。
「あんたのやり方、全部が間違っているとは言わないよ。俺達を見て不安になったかもしれない。でも、信じてくれよ。俺達はジャバウォックを倒したんだから」
「判った」
 無愛想な口調でそう言うとマシューは征市の手をつかみ、軽く振って離した。それは握手とも言えないような淡白なものだったが、それでも別れの挨拶ができた事に征市は満足していた。
「今度は観光に来いよ。Y市は観光名所が多いんだぜ」
「考えておく」
 マシューは征市に背を向けて歩いて行く。征市の言うように『今度』があるならば、仕事を抜きに来るのもいいかもしれない、とマシューは思った。

「せーいっちくーん!」
「だーんなさまー!」
 マシューを見送った征市が帰ろうとして振り向くと、よく似た二つの声が征市を呼んでいた。周囲の人物の目を引きながら彩弓と彩矢の姉妹は征市に駆け寄る。周りの視線を痛く感じながら、征市は二人を見た。
「お前らなぁ、こういうとこで大声出すなって。恥ずかしいだろ!」
「いいじゃん、いいじゃん。それより早く行こうよ。今日は連休の最終日なんだからさっ!」
 征市の言葉など意に介さない様子で彩弓は征市の右腕に腕をからめる。それを見て彩矢が
「あ!姉さんばかりずるい!よぉーし、アタシも」
と、言って征市の左腕を取った。
「お、おい!お前ら!大体、彩矢はマシューと一緒にアメリカに帰るんじゃなかったのかよ!」
「あ、それキャンセルしました。これからはこっちの高校に通いながらトライアンフジャパンのメンバーとして頑張っていきます!」
「……マジかよ」
 うなだれる征市を引きずるようにして、姉妹は歩いて行く。征市達が守った空の下で、連休最後の一日を楽しむ計画を立てながら。

 『File.28 赤い靴と踊ろう!』につづく
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