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『コードD』File.30 作られた戦士達

『コードD』
 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 様々な裏のギルドの捜査を終えた征市(せいいち)は、魔法警察のパトカーで眠ったまま起きなくなってしまった。眠り続ける征市の夢の中に入るために真実(まみ)はオルゴールのプライズを使う。その場に集まった陸(りく)、彩弓(あゆみ)、彩矢(あや)も同じように征市の夢の中に入り込んだ。夢の世界で征市と合流した四人は、征市の過去を見た。征市の誕生日、四月一日に彼の前に現れてその死を予告する謎の銀髪の少女。少女は征市達に夢魔をけしかけるが、真実はそれを追い払うのだった。

  File.30 作られた戦士達

 オーストラリア、シドニー。広大な青い海に近いこの街にトライアンフオーストラリアはあった。
 三十人近い優秀なスタッフは、全員がデュエル・マスターズのデッキを使ってカードによって様々な事件に対処する事ができる。歴史のあるヨーロッパや、最大規模のアメリカ、そして、総一郎が作り上げた日本には劣るものの、レベルが低いわけではない。
 ある日、数名のスタッフがハロウィーンの飾り付けをして帰ろうとした時、事務所の中に四人の男女が入ってきた。
 他の三人の前に立っているのは、チャコールグレイの詰襟のスーツを着て、肩から赤いマントを掛けた男だ。外見は三十近くまだ若いが、四人の中では一番年上に見える。黒いオールバックの東洋人で目も黒かった。オールバックの髪型とマオカラーのスーツを見て、日本を知っているスタッフの一人が日本のマフィアだと感じた。
 スタッフから見てオールバックの右後方にいるのは、全身を黒のスーツでまとめた二十歳前後の男だった。襟元から覗くドレスシャツの純白がアクセントにはなっているものの、室内でも黒いロングコートを羽織っているのが奇妙だ。南半球であるオーストラリアはこの間まで冬だったが、今は真冬に着るようなコートを羽織る季節ではない。黒ずくめの男は髪も黒く、顔には柔和な笑みを湛えていた。スタッフの中で外見が一番幼く、子供扱いされている少女を見つけると、彼女に向かって微笑みかける。それは敵対者に見せるようなものではなく、親愛の情を感じさせるものだった。
 オールバックの左後方にいるのは、クリーム色のセーターに細身のパンツの少女だった。ブラウンがかった髪をしたその少女は、眠いのか、しきりにまぶたを閉じて緑色の瞳を隠している。少女は、欠伸をするように口を開けると、手に持っていた木のランチボックスから寿司を取り出して口に運んだ。
 オールバックの真後ろにも一人いるのだが、背が低いため、黒ずくめや眠そうな少女の影に隠れてよく見えない。奇妙な服装をしているが、ハロウィーンパーティに来たのではない事は明確だった。
黒いオールバックのリーダー格の男は流暢な英語で
「最終試験だ。やれ」
と、はっきりした声で一緒にいた三人に言った。すると、その三人はデッキケースを取り出してスタッフの前に飛び出す。相手がデュエリストだと判り、スタッフ達も自分のデッキを取り出した。
 黒ずくめは先ほど微笑みかけた少女の前に向かったが、プロレスラーのような屈強な体格の男に行く手を阻まれる。相手の男の顔を見上げると、苛立たしげな口調で
「人類皆兄妹という言葉がある。つまり、全ての美少女は私の妹だという事だ。それを理解したなら、今すぐ消えろ。もしくは私に倒されて死ね」
と、言って目の前に五枚のシールドを展開する。
 寿司を口に含んでいた少女は口の中でゆっくりとそれを咀嚼するとデッキケースからデッキを取り出す。彼女の前に一人のスタッフが立ち、デッキを持って威嚇する。その姿を見ると、少女は急に悲しそうな顔をして
「あなたは……おいしくなさそう」
と、呟いてシールドを展開した。
 別の場所では、子供のような高い声で「変身!」と、叫ぶのが聞こえ、それに一拍遅れてクリーチャーの叫び声が響いた。
 四人の侵入者に対しスタッフは全力で戦い、その日が非番だった者も全員駆けつけた。しかし、一時間にも満たない時間でトライアンフオーストラリアは壊滅し、事務所は跡形もなく破壊された。
 その跡地を見て、一度も戦う事がなかったオールバックの男は呟く。
「試験は合格だ。お前らを日本に連れていく」

 時と場所は変わり、十一月三日。日本のY市Q区。
 祝日だが、征市にとっては休みではない。土日と同じように、デパートで手品グッズの実演販売を終えた彼は、トライアンフの事務所に向かった。事務所には一真(かずま)と菜央(なお)がいて、征市を待っていた。
「相羽さんには、ギルド捜査の最後の仕上げを頼みたいのです」
 挨拶を終えて菜央がそう言うと、白い紙に印刷された地図を見せる。事務所から歩いて行ける場所にある雑居ビルが今回の目的地らしく、その場所に赤い丸が付けてあった。
 征市達、トライアンフのメンバーは九月の下旬に魔道書同盟の全と戦った後に、魔法警察と共に様々なギルドの捜査に乗り出した。違法行為をしているギルドの摘発が主な目的であり、同時に魔道書同盟に協力している者達の動きを制限して間接的に魔道書同盟を追い詰める事も視野に入れていた。捜査をしていく中で、彩矢のルームメイトが赤い靴のプライズに魅入られて操られる、征市が捜査後に眠ったまま目覚めなくなるなどのトラブルがあったが、それ以外に目立ったアクシデントはなく、捜査は終わりを迎えていた。
「ここは、この前言っていたデッキ職人の事務所か?」
「そうです。つまり、そこを叩けばデュエル・マスターズカードを使った犯罪者は激減するでしょう」
 ギルドの中にはデュエル・マスターズカードを使える用心棒を雇っているところもあった。そういった用心棒は自分でデッキを作る者もいるが、デッキ職人が作り上げたデッキを買って使う者もいる。
「表向きはプライズの販売会社だ。プライズとは言っても、大した効力のない物ばかりで安いパワーストーンなどの小物を扱っているらしい」
 征市は一真の説明を聞くと、菜央から受け取った地図を折りたたんで上着のポケットに入れる。
「それじゃ、行ってくるよ。ただ、デッキを組むだけの相手だったらそんなに難しい仕事でもないし、俺一人でも充分だろ?」
「デッキ職人はコンビで行動しているという噂がある。戦いを仕掛けてくるとは限らないが、気をつけろ」
「大丈夫ですよ。コンビだったら、デッキを二個持っている俺の出番です」
 一真の忠告に答えると、征市は事務所を出てエレベーターに乗った。
 征市は、祖父の相羽総一郎から受け継いだデッキと、真実の手を通じて総一郎が作り上げたデッキを持っている。体への負担が大きいため両方使う事は控えているが、デッキ職人のコンビと同時に戦う事になったら二つ同時に使うしかない。
「ま、何とかなるだろ」
 宿敵とも言える魔道書同盟が関係していないため、征市の気は楽だった。
 魔道書同盟の動きは、九月下旬の戦い以降、沈静化している。全が怪人を送り込む事も、幻がチェス駒のプライズを使ってトライアンフの行動を妨害する事もなかった。
 一つだけ征市が気にかけている事があるとすれば、それは自分の夢に何度も出てきた銀髪の少女だ。征市に対し、征市が大人になる前に殺すと宣言したあの少女は今もどこかで征市を見張っているのかもしれない。
「あとは、真実か」
 征市はレンガでできているようにデザインされた道を歩きながら考える。
 銀髪の少女が、「姉さん」と呼んでいた謎の女性、真実。彼女は魔道書同盟の一員でありながら、総一郎に恋をしていたと言っていた。それだけでなく、何度も征市達を助けてくれている。一度は、征市達を助けるために同じ魔道書同盟の全と戦った事もあるのだ。真実が味方である事は彼女の行動から理解できる。だが、何故彼女が仲間を捨ててまで総一郎に恋をし、征市に味方してくれるのかまでは判らない。
「それと、じいさんと真実の関係……だな」
 総一郎と真実の関係について、征市は詳しく知らない。だが、総一郎が真実にデッキを渡したり、後に書いた魔道書同盟のメモに真実の事だけを記さなかったりした事から真実を信用していたのではないかと考えていた。もしかしたら、総一郎も真実の事を愛していたのかもしれないと思う時もある。
「問題は山積みか。これも何とかなりゃいいけどな」
 簡単に解決できる問題ではない。しかし、いつかは解決しなければならない問題だ。特に、銀髪の少女の問題は急を要する。遅くとも来年の四月一日に訪れる征市の二十歳の誕生日までには解決しなくてはならないのだ。それができなかったら、征市は他の相羽の一族と同じようにこの世を去るのかもしれない。
「そんな事はさせねぇよ」
 自分に言い聞かせるように呟き、征市はデッキ職人がいるビルに向かって歩き続けた。

 教会の扉が音を立てて開くと、一人の男が入ってきた。オールバックの男は床に敷かれている赤い絨毯をどかすと、金属製の扉を見つけ、それを開く。そこからは地下に伸びる階段があった。男は迷う事なくその階段を下りる。
 降りた先には、また鉄製の扉があった。男がドアノブに手を触れようとすると、その手に軽い電気が走る。
「魔力による結界か」
 男は一度、ドアノブから手を離すとその拳を握りしめ、ドアを思い切り叩いた。すると、ドアが外れ、大きな音を立てて倒れた。金属製のドアが倒れた音を聞いて、中にいた全(ぜん)と幻(げん)が顔を上げる。
「トライアンフに負けたと聞いたが、元気そうだな」
 男は金属製のドアを踏みつけながら部屋に入ってきた。コンクリートが打ちっぱなしの壁に高い天井。そして、巨大なカプセルがいくつも並べられている。
 全は肩を怒らせて男に近づくと、怒鳴り散らす。
「念(ねん)!今まで、どこに行ってたのよっ!」
 念。それがその男の名前だ。魔道書同盟の一員であり、五十年前の戦争では幻や全と共に戦った。
「僕の情報網でも引っかからないような場所にいたんだろう、念?どこにいたのか教えてもらえるかな?」
 今まで、魔道書同盟は全が怪人の研究に専念し、幻がその怪人を使って作戦を遂行したり、表舞台に立ったりして情報収集する事が多かった。トライアンフに『トロイの木馬』として潜入した事もあるため、その時に様々な情報網を構築したのだ。トライアンフを利用して得た情報でも念の場所は判らなかった。
「この前は、トライアンフオーストラリアを潰していた。その前の事などは覚えていない」
「トライアンフオーストラリアが潰されたという話を聞いたが、それは君の仕業だったのか!」
 先月下旬にトライアンフオーストラリアが四人のデュエリストに潰されたという話は幻の耳にも入っていた。他のトライアンフへの通信手段もオフィスと同時に破壊されて情報伝達が遅れたため、今、その情報を把握しているのはトライアンフアメリカだけだ。
 幻が知る限りでは、トライアンフオーストラリアの事務所に四人のデュエリストが正面から突入し、宣戦を布告。四人の男女に壊滅させられたと言われているが、正確にはリーダー格の男を除いた三人だけでほとんどの作業は行われた。トライアンフオーストラリアは非番の人員も含めて全員でこれに立ち向かったが、一人も侵入者に勝つ事ができず、完全に敗北した。だが、一人の負傷者も出る事はなく、被害を受けたのは事務所と彼らのデッキだけだった。
 幻はかつて、トライアンフの事務所を壊滅させた事があったが、あの時はチェス駒のプライズを大量に使っただけでなく、騙し打ちのようなやり方だった。四人という少人数で正面からの突破となると、幻でも簡単にできる事ではない。念は、それを一時間でやっているのだ。
「トライアンフオーストラリアを潰して、次はここのトライアンフを標的にするって事かな?」
「そうなるな。俺がトライアンフオーストラリアを潰したのも、ここの奴らに対するメッセージだ」
「お前達は俺が潰すぞ、って事かしら?」
「俺の気が向けば、の話だ。トライアンフオーストラリアの中に、俺の血を滾らせる者はいなかった。ここなら、どうか判らないな」
「気が向かない相手だったから、一人も殺さなかった。そう解釈していいのかな?」
「そうなるな」
 念は、自分で実力を認めた相手としか戦わない。彼が戦うのは、互いの命と誇りを賭けた決闘の時のみで、その時は相手の命を奪う事も自分の命が奪われる事も厭わない。
 しかし、気に入らない相手と戦わなければならない状況に陥った時、念は相手の牙を折るだけで殺す事はない。幻は、念と一緒にいた三人も念に命令されて命までは取らなかったのだと考えた。
 低い声で質問に答えた念は、ゆっくり歩きながらカプセルを見る。そして、奥にある椅子に座った銀髪の少女の肉体を見た。そして、少女を見たまま、口を動かす。
「永遠(とわ)様を復活させる方法も見つかった」
 その一言が耳に入った時、全も幻も驚いた顔で念を見ていた。魔道書同盟の長である永遠の復活は、彼らにとって最優先事項だった。しかし、そのための具体的な方法が見つからず、今も二人はその方法を探している。
「見つかったなら、早く教えなさいよっ!」
「実行するのには時間がかかる。既に永遠様の魂は『永遠の牢獄』から解放されている」
「何だって!」
 『永遠の牢獄』とは魔道書同盟をつなぎとめていた封印のための魔法だ。使用者が制御できず、完全な封印ではなかったため、魔道書同盟は長い年月を経て蘇る事ができたのだ。
「永遠様の魂が解放されているのなら、何で永遠様が戻られないんだ!僕達はこうやって『永遠の牢獄』から解放されて自由に行動できているのに」
「この体が永遠様の本当の肉体ではないからだ」
「そんな、馬鹿な……!」
 幻は念の言葉を聞いて、部屋の奥にいる銀髪の少女の肉体を見る。彼は、この肉体に再び、永遠が宿るものだと信じていた。だからこそ、倉員瀬里奈という仮初の人格を生み出して肉体を管理していたのだ。
「永遠様の魂と肉体は分かれてしまったのだ、と俺は考えている。その時、魂は仮初の肉体に宿っていた」
 念は、そう言って銀髪の少女の肉体を見る。
「どういう事なのよっ!じゃあ、本当の永遠様の肉体はどこなのっ!永遠様の魂はどこに行っちゃったのよっ!」
「永遠様の魂がどこにあるのか、正確な場所までは判らない。しかし、仮初の肉体とはいえ、魂が宿っていたものだ。復活するとしたら、この肉体に魂が宿って復活するだろう」
 ヒステリックな声で叫ぶ全に対して、落ち着いた声で念が答える。彼は説明を続けた。
「本当の永遠様の肉体を管理している者がいるのだろう。肉体にかけられた特殊な封印のせいで、永遠様の封印は俺達のものよりも強固なものとなっている。まずは、魂を仮初の肉体に定着させる事だ。やるべき事はいたってシンプル。魔法を使った事件を起こし、この世界の至るところに魔力による影響を与えればいい」
「それだけ?」
 あまりにもシンプルな方法であったが故に、幻は思わずそう尋ねずにはいられなかった。念はゆっくり首肯すると
「永遠様の魂は既に解放されているのだ。だから、俺達で戻られるための下地を作ればいいだけの話。お前達がジャバウォックの事件を起こしたが故に、俺も永遠様の魂の動きを感じ取る事ができたのだ。いくつもの事件を起こせば永遠様は復活される」
と、力強く断定した。
「できるだけ、大きな事をしなくちゃいけないね」
「でも、ジャバウォックみたいな巨大な怪人は作れないわよっ!」
「あくまで規模の話だ。ジャバウォックのような巨大な怪物を生み出さなくても、それに匹敵するような存在を世に送り出し、暴れさせればいい。俺に考えがある」
 念はそう言うと、出入り口に向かって歩く。幻と全の二人は、彼に道を開けた。
「考えがあるっていうけれど、どこに行くつもり?遊んでいる場合じゃないわよっ!」
「遊ぶ?馬鹿を言うな。俺は既に行動している。今日は挨拶に行くだけだ」
 そう言うと、念は金属製の扉を踏みつけた。彼の脚の力に反応して、扉はさらにその姿を歪めていく。歪んだ扉の上を通り越すと、念は階段の一段目に足をかけた。
「トライアンフのエース。確か、相羽征市と言ったな」
「ああ、そうだよ。僕達が大嫌いな相羽総一郎の孫で、何度も僕達の作戦を邪魔した張本人さ」
 幻の言葉を聞いて念は納得したように笑うと
「挨拶だけで済ませるつもりだが、奴が面白ければ遊んで帰るのも悪くはない」
と、言って階段を上っていった。

 陸と湊(みなと)は未来地区で買ったかぼちゃのジェラートを舐めながら山城公園に向かう道を歩いていた。湊は、長い黒髪と少女のような顔が特徴の十二歳の美少年で、服装も女物を着ているため、少女に間違えられる事が多い。征市達、トライアンフのメンバーも初めて湊に会った時は少女だと思っていたのだ。
「いや~、平和平和。こんなにのんびりできるのって久しぶりだね。こんな日に仕事しなきゃいけないなんてセーイチさんも可哀そうに。くっくっく……!」
 言葉では同情しているが、表情は笑っている。
「陸さん、そういうのよくないですよ」
「ああ、ごめんごめん。だって、あまりにも平和だったからね。ここんとこ、魔道書同盟だのなんだので大変だったじゃない。その後のギルドの捜査も終わったし。しばらくはパトロールくらいしかする事がないかもね」
 湊にも、陸の言い分は理解できた。トライアンフの宿敵、魔道書同盟はジャバウォックの事件以降、何も仕掛けてこない。今も彼らはトライアンフを狙っていてもおかしくはない。しかし、一か月も行動がないのだ。湊だって気を抜きたくなる。
「あとは、巨乳の女の子がいれば最高なんだけどなぁ。さすがにそこまで贅沢は言わないけどね」
 そう言って、陸がジェラートを舐めようとした時、その腕を一人の少女に掴まれた。ブラウンの髪に眠そうな目をして、手にランチボックスを持った少女だ。少女は、今にも眠ってしまいそうな目で陸を見ると
「食べても……いい?」
と、聞いてからコーンの上に乗っていたジェラートを一口で食べてしまった。
「あ!僕のジェラート!」
「頭……痛い」
 冷たいジェラートを口に入れて一気に飲み込んだせいか、少女は辛そうな顔をして頭を押さえる。陸は悲しそうな顔でジェラートが乗っていたコーンを見ていたが、
「いや、プラス思考で考えるんだ、僕。このコーンを食べたら間接キス!それにこの子、ナイスな巨乳の持ち主みたいだし……。おお、神よ!僕の願いを聞いてくれてありがとうございます、アーメン!!」
と、天に向かって叫ぶと嬉しそうな顔でコーンを食べ始めた。
 湊は、その光景を見て戸惑った顔をしていた。まだ頭を押さえている少女に声をかけようとして一歩、前に出ると後ろからその肩を叩かれる。湊は小動物のように震えると、自分の方を叩いた人物を見るために振り返った。そこに立っていたのは、黒いロングコートを纏った黒ずくめの青年だ。
「怖がらないで。私は怪しい者ではない」
 黒ずくめの青年は、道を歩いている女性の八割だったら振り向かせられるくらいの美しい笑顔で湊に話しかける。しかし、今の時期にロングコートを着ているのはどう見てもおかしい。寒くなってきたため、湊もカーディガンを着ているが、黒ずくめの青年の服装は完全に真冬のものだ。
「自己紹介が遅れてすまない。私は、峰岸春間(みねぎしはるま)。君のお兄ちゃんになる男だよ、マイシスター!」
 春間と名乗った男は自己紹介を終えると、ロングコートの前を開ける。クジャクの羽のように広がったコートの裏地には、大量のポケットがあった。そのポケットからは様々な菓子が顔を覗かせている。春間は、たくさんのポケットの中から一つを選ぶとメロンパンを取り出した。
「これはテレビチャンピオンで二回連続日本一の栄冠を取ったパン屋が焼いたメロンパンだ。超人気の一品なのだが、一日に百個しか焼かないため、売り切れるのも早い。君にこれを食べて欲しいんだ!」
「何故ですか!大体、マイシスターってなんですか!」
 春間のノリについて行けず、湊は大声で叫ぶ。それは、周りを歩いていた人々が一度立ち止まってしまうほどのものだった。
 湊の中で春間は、ただのおかしい人から陸と同じような変態と同じ存在だと感じるようになっていた。春間は、メロンパンをコートのポケットにしまうとしばらく考え込む。初めて会った者を「マイシスター」と呼ぶ事にさえ目をつぶれば、今の彼は端正な美形の青年に見える。
「私として事が迂闊だった。まず、そこから説明すべきだったね。全てのかわいい少女は私の妹なのだ。そして、私は全ての美少女から“お兄ちゃん”と呼ばれるべき存在なのだよ。判ってくれるね?マイシスター」
「今の説明で何を理解しろって言うんですか!」
 湊は、目の前にいる変態からもう逃げ出したいと感じていた。陸に助けを求めて彼にアイコンタクトを送ると、陸はジェラートを横取りした少女に抱きしめられていた。
「陸さん!?」
「あ、ああ……!」
 さすがの陸も驚いていたらしく、普段見せないような緊張した表情をしている。少女は相変わらずの眠そうな顔で陸を見上げる。
「ねぇ……」
 少女の艶やかな声が陸の耳を刺激した。それは彼の体に触れる二つの弾力のある物体と共に彼の理性を完全に破壊していく。
「あなたを……食べてもいい?」
 いたずらっぽく笑う少女の声を聞いた瞬間、陸は脊髄反射的に答える。
「もちろんさ!喜んで!」
「本当?」
「ああ、これでもう僕達、恋人同士!すっごいね!今、流行ってる恋愛に積極的な肉食系女子って奴?これで僕も彼女持ちだ!巨乳の彼女持ちだ!セーイチさんに自慢して嘲笑ってやるよ!指差して、お前何年彼女いない歴更新すれば気が済むの、とか言ってやるよ!ヒャッハー!!だから、早く僕を食べて!イートミー、イートミープリーズ!!」
 少女の言葉を聞いた陸は顔を真っ赤にしながら早口でそう叫ぶと、目を閉じて唇を尖らせた。少女は嬉しそうな顔をすると
「じゃあ……いただきます」
と、言って陸に顔を近づける。彼の唇に向かっていくと思われた少女の口はそこから外れ、陸の耳に向かっていた。少女の口は大きく開き、素早い動きで陸の耳に食らいつこうとした。
「……っ!」
 本能的に恐怖を感じ取ったのか、陸は声にならない悲鳴を上げると間一髪のところで少女を突き飛ばした。肩で息をしながら倒れている少女を見ていた陸は、しばらくしてから思い出したかのように自分の耳に触れる。
「うそつき……。食べていいって……言った」
 地面に突き飛ばされた少女は驚いた顔で陸を見る・
「食べてもいい、ってそういう意味?ていうか、そういう意味に取る人、いる?」
「悪いな。こいつは君が言ったように肉食系女子だ」
 コートの前を閉じた春間は、少女の手を取って立ち上がらせると陸を見て説明した。
「ただし、恋愛に積極的ってわけではない。実際に、肉を主食としているという意味だ」
「そんな肉食系女子は嫌だ!」
「うそつき……。食べたら怒るかと思って……何度も聞いたのに」
 少女は目に涙を溜めて陸を睨んだ。周囲の人間は少女が陸の耳にかみつこうとしていたのをよく見ていなかったのか、陸を悪者を見るような目で見ていた。
「こんな奴だが、私の知り合いなのでね。君に向かわせた事は監督不行き届きだった。謝ろう」
 春間は陸に対して軽く頭を下げると、少女に「自己紹介をするんだ」と、命じる。
「あたしは……筒井智里(つついちさと)。食べるの……大好き」
「そういう事だから、君も智里に、食べてもいいなどと軽々しく言わない事だ。大体、巨乳の女に碌な奴はいないのだから、外見を見た時にこれぐらい判りそうなものだが」
「何!?」
 恐怖に怯えていた陸だったが、春間の言う事を聞いて立ち直り、今は怒りの視線で春間を睨みつけている。
「巨乳を嘗めるな!あの大きなタンクには夢とロマンが詰まっているんだ!全ての男は巨乳を神格視する事が義務付けられている!巨乳を馬鹿にする奴は生きている価値のない屑だ!!」
 陸の力のこもった演説に、周囲の野次馬の男性の何割かが賛同する。それを聞いて穏やかだった春間の表情が一変し、陸と同じように怒りのこもった顔へと変化する。
「ふざけるな、小童が!巨乳とは虚構の乳でしかない。だが、貧乳とは品格の乳だ。虚構の存在など品格ある曲線の前ではただの醜い塊に過ぎない。神が宿りしなだらかな曲線について何とも思わないとは愚かな!私は、この少女のような素晴らしき貧乳の少女を妹として保護する事を使命としている!」
 春間は陸に負けないくらいの力強さで論じると、湊の肩に手を置いた。混乱していた湊だったが、誤解を解くために口を開く。
「あの、僕はお――」
「何が品格だ!貧弱の間違いだろ!?」
「夢とロマンが詰まっている!?頭に脳が詰まっていない連中が好みそうなフレーズだ!」
 陸も春間も周りが目に入っていない。睨みあったまま、互いの信念をぶつけ合っていた。しばらくそれを見ていた智里だったが、突如、何かを思い出したように腕を叩くと春間の腕をつかんだ。
「ええい、離せ!私は世界の発展のために、この男の息の根を止めてやらなければ気が済まん!神の曲線を侮辱した愚か者に対し、神に代わってこの私が天罰を下してやるのだ!」
「念様に言われた事……ちゃんとやる」
「む……。判った」
 春間はまだ不服そうにしていたが、智里と目を合わせた後コートのポケットから青いデッキケースを取り出す。智里も持っていたランチボックスの中から赤いデッキケースを取り出した。それを見て、ふざけた持論を展開していた陸も正気に返る。
「デッキを取り出した……って、どういう事さ?」
「今日は挨拶代わりだから君達と戦うつもりはない。だが、私達を倒せるというのならついてこい。魔道書同盟の新たなエース、峰岸春間にな!」
 春間はコートを翻すと、陸達に背を向けて走っていく。智里もランチボックスに自分のデッキケースをしまうと春間の後を追った。
「陸さん、今の人、魔道書同盟って!」
「ああ、聞いてたよ。あいつら、仲間を呼んでいたんだ。罠の可能性もあるけど、急ごう!」
 春間が魔道書同盟の名を口に出したため、陸と湊は彼を追う事に決めた。罠だったとしても、目の前にいる魔道書同盟の関係者を放っておく事などできる訳がない。
 四人は山城公園から離れて、ビルが立ち並ぶ街へと移動していった。

 征市が地図に書かれたビルに入ると、入口に近い応接室に通された。友好的な応対に戸惑いながら、征市は安物のソファに腰掛ける。
「お茶をどうぞ」
 コンビのデッキ職人の一人、喜多(きた)がティーカップに入った紅茶を出す。喜多は眼鏡をかけた細身の男で、資料に書かれていた二十五歳という年齢よりも老けて見えた。それに対し、征市の目の前に座った西(にし)という男は、太っているせいか顔が柔和に見える。喜多と同い年のはずだが、並ぶと彼の方が若く見えるのだ。征市は、西を見て「七福神の中にこんなのいたよな」と考えていた。
「それで、用件と言うのは?」
 喜多が下がり、西が征市に話を切り出す。征市は紅茶に口をつけるべきか迷いながら、話を始めた。
「あんたらが裏でやっているデッキの製作と販売を中止してもらいに来た。あんたらと取引があるギルドの多くは既に俺達が潰している。表向きのアクセサリー販売だけにしておいた方が身のためだぜ?」
「身のため、ですか……。これは困った」
 西は体を揺すりながら笑うと立ち上がる。そして、応接室に戻ってきた喜多に
「喜多、準備をしろ。やはり、口では判ってもらえないようだ」
と、言った。喜多は既に準備を済ませていたらしく、紅茶を乗せるのに持ってきた銀のトレイの上に今は二つのデッキを乗せていた。その内の一つを西が取り、残っていたデッキを喜多が掴んだ。
「ちっ!やっぱりこうなるのかよ!」
 征市が舌打ちをすると、彼は何かの機械が動くような音を聞いた。征市が応接室のドアを見ると、その場所にシャッターが降りて征市を閉じ込めてしまった。
「あれは、ただのシャッターではない。強力な魔力をぶつけない限り破る事ができない魔力を帯びたシャッターだ」
「お前、俺を嘗めてんのか?俺はデュエリストだぞ。こんなシャッターくらい!」
 征市はカードを取り出そうとするが、その背中に何かが突き付けられる。首から上だけを動かして後ろを見ると、喜多がデッキを突き付けていた。
「我々は出ようとする君を全力で阻む。君が出たければ、デュエル・マスターズで我々と戦えばいい」
「ぶっ倒せって事かよ。いいぜ!」
 征市は、喜多から離れると左手で胸ポケットのポケットチーフを上へ投げつける。ポケットチーフが左手に乗ると、征市は右手でそれを取った。左手には金属製のデッキケースが乗っていた。
 そして、右手でマッチを擦るとその炎が激しく燃え上がり、炎の中から赤い革のデッキケースが現れる。征市が右と左のデッキケースを握って強く念じるとカードが飛び出し、空中でシャッフルされる。征市の左右に五枚ずつシールドが並び、腕を組む征市の顔の前に二つのデッキから飛び出したカードが五枚ずつ並んだ。
「勝つのは我々だ。西、これはいい宣伝になる」
 征市の右側にいた喜多は、シールドを張ると指先で眼鏡のブリッジを持ち上げて征市を見る。
「そうだな、喜多。CMの完成が楽しみだ!」
 西もシールドを展開して征市を見た。二人のデュエリストに囲まれたまま、征市のデュエルが始まる。
「行くぜ!まずはこっちに《幻緑の双月(ドリーミング・ムーンナイフ)》召喚!」
 征市は西と対戦している場にフェレットのようなクリーチャーを呼び出す。《幻緑の双月》が持っていたクワを振る事で、征市の手札がマナゾーンにこぼれ落ちた。
「こっちは《フェアリー・ライフ》だ!」
 喜多と対戦している場では、マナを増やす呪文《フェアリー・ライフ》を使って山札の上のカードをマナに変えた。
「マナを増やしてきたか。やはり、事前に聞いていた情報通りだな、西」
「そうだな、喜多。これなら我々が勝つ!」
 西は巨体を揺らして笑うと、手札を持っていない右手で部屋の隅を指した。そこには、三脚に設置されたビデオカメラが置かれていた。
「あれを見ろ。このデュエルはビデオカメラで記録している。我々の勝利はいい宣伝材料になる」
「証拠として俺に勝つ動画を撮っているってわけか。俺を倒す事じゃなく、倒した後の事を考えているとはね」
 征市は肩をすくめると、強い意志を持った目で二人を見た。
「後の事ばかり考えてデュエルがおろそかになってるんじゃねぇのか?後の事なんか考えてないで、全力で俺を倒しに来い!」
「何を!」
「我々を嘗めるなよ!」
 征市の挑発を受けて、喜多と西にコンビにも火がついた。喜多は征市と同じように《フェアリー・ライフ》を使ってマナを増やし、西は《光陣の使徒ムルムル》を召喚して様子を見る。その行動を見て征市は、二人のデッキタイプを考えていた。
 喜多の《フェアリー・ライフ》でマナに置かれたのは、《魔刻の斬将オルゼキア》だ。陸や真実も使っている闇のカードで、重量級のデーモン・コマンドである。西のマナゾーンには光と水のカードが一枚ずつ置かれている。《ムルムル》を召喚した事から、西のデッキは多くのブロッカーが入った事が判った。
「どっちも急がなくちゃやばいって事か。だったら、《コッコ・ルピア》召喚!《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》召喚!」
 喜多の前に現れる《コッコ・ルピア》は自由自在にその場を飛び回った後、ゆっくりと床に着地する。西の前に現れた《青銅の鎧》は持っていた槍を振り回しながら大きな音を立てて床に降り立った。
「《青銅の鎧》の効果でマナを増やす!これで、俺のターンは終了だ!」
 順調に下準備を終えていく征市を見ながら、喜多と西はカードを引く。その瞬間、爆音と共に建物全体に震動が走る。征市は一瞬、地震だと思ったが、音がしたのはシャッターで閉じられた事務所の入り口だ。見ると、シャッターがこじ開けられ、開いた穴から何かが飛び込んでくるのが見えた。
「バイク?」
 征市には、それがバイクのように見えた。しかし、よく見るとレーシングタイプのバイクのようなカウルがつけられた自転車だった。自転車の上では、一人の少年が黄色いマフラーをなびかせて必死にペダルを漕いでいる。
「いやっほぅ~~!!」
 少年はそう叫ぶと、征市達がデュエルしているところに突撃してきた。そして、結界に阻まれ、弾き飛ばされる。少年は自転車ごと倒れるが、何事もなかったかのようにすぐに立ち上がると征市を指して宣言した。
「やっと見つけたのだ!俺のライバル、相羽征市!」
「え?ライバル?」
 征市はその少年を見た事がなかった。どこかで会った記憶もない。
 目を輝かせるその少年の歳は湊と同じくらいに見える。どこにでもいるような普通の服装の子供だが、唯一おかしいのは腰に巻いたベルトだ。デッキケースが一つ丸ごと収まるような巨大なバックルがついていて、そのバックルにはCDくらいの大きさの穴が開いている。バックルは白く、細かい装飾が施されていた。
「この浅田十也(あさだじゅうや)、お前を倒しに来たのだ!」
 十也と名乗った少年はデッキケースを取り出すと、征市に突き付ける。征市が突然の乱入者に驚いていると、喜多と西のコンビが声を上げた。
「今、彼は我々と戦っている。邪魔をするな!」
「おっと、ごめんなさいなのだ。さっさとそいつらを倒して俺と勝負するのだ!」
 一応、謝罪の言葉を口にしているものの、その後の言葉が喜多と西の怒りを煽る。
「ま、そういう事だから。さっさと倒させてもらうぜ!」
 怒りながら行動を終えた二人を見て、征市はカードを引いた。

「行くぜ、進化!《超竜バジュラ》!」
 燃え盛る炎と共に、征市のドラゴンの姿が変化していく。活火山の岩肌のような皮膚、体から伸びる三つの龍の頭。そして、鎖で繋がれた巨大な鉄球を持つ進化ドラゴン、《超竜バジュラ》へと変化した征市の切り札は、鉄球を振り回して喜多を威嚇する。
「喰らえ、喜多!《バジュラ》でT・ブレイク!さらに、マナのカードを二枚破壊だ!」
 征市の命令を受けた《バジュラ》は、勢いがついた鉄球を喜多の場に向かって投げる。鉄球はシールドを通り過ぎるとマナゾーンのカードの上に落ち、高熱を発して二枚のカードを消し炭にしていった。さらに、胴体にある三つの龍の頭が一枚ずつシールドを破っていく。
「西!お前にはこれだ!《無頼勇騎ウインドアックス》召喚!」
 緑と赤の光を纏って、巨大な斧を持った獣人、《ウインドアックス》が場に現れる。《ウインドアックス》は持っていた斧を振り回すと、西の《ムルムル》に投げつける。西の戦略を支えていた《ムルムル》は《ウインドアックス》の斧によって真っ二つにされてしまった。
「なかなかの戦略なのだ」
 十也は乱入した後、静かに対戦を見ていた。征市のクリーチャーはそれぞれ、《バジュラ》と《ウインドアックス》だけだ。だが、喜多を威圧する《バジュラ》は最強クラスの進化ドラゴンであり、一度暴れ始めたら、倒す事は容易ではない。そして、西の前にいる《ウインドアックス》は出た時に効果があるだけのクリーチャーだが、シールドがなくブロッカーだけで攻撃を受けている今、ブロッカーが破壊されてしまうのは非常に痛い。
「マナが……!マナが……!」
 破壊されたマナを見ながら頭を抱えている喜多のシールドは残り一枚。クリーチャーは《炎獄の剛魔ビルギアス》だけだ。喜多の攻撃を阻む征市のシールドも残り一枚だ。
「まだ一体破壊されただけだ。まだブロッカーは残っている!」
 西の場には、《ムルムル》が一体、そして《魔光王機デ・バウラ伯》が一体いる。西と対峙する征市のシールドは三枚残っていた。
「くそ、ここまでか……!」
 喜多が顔中に汗をかきながら、山札の上のカードに触れる。西も同じで、その顔には勝てないという諦めが漂っていた。その二人の表情を見て、十也は軽く口笛を吹く。
「嵐が来るのだ」
「えっ?」
 今まで口を開かなかった十也の言葉に驚いた征市は、乱入者の少年を見た。それと同時に、喜多の西が歓喜の叫び声を上げる。
「これだ……!待っていたのは、このカードだ!」
「今こそ、逆転の時!」
 二人は視線を合わせてアイコンタクトを取った後、マナゾーンのカードをタップして引いたばかりのカードに全てのマナを注ぐ。漆黒の闇のマナが喜多の切り札に、金色の光のマナが西の切り札に、それぞれ力を与える。
「進化!」
 二人の声が重なり、喜多の《ビルギアス》と西の《デ・バウラ》にカードが刺さる。カードの中から発せられる光を浴びてそれぞれの姿が変わっていった。
「出でよ!《悪魔神デスモナーク》!!」
 喜多の場に現れたのは、黒い体のデーモン・コマンドだ。右半身は赤、左半身は青の血管のようなラインが体中に浮かびあがっている。
「輝け!《白騎士の開眼者ウッズ》!!」
 馬の姿をした下半身と、人間の姿の上半身の鎧のクリーチャーが西の切り札だった。鎧の中から時折見える光は雷のようだった。左腕に持った銀色のランスが天を指している。
二体の巨大な進化クリーチャーの姿を見ながら、征市は自分の鼓動が速くなるのを感じていた。
「《デスモナーク》で《バジュラ》を攻撃!」
「何っ!?」
 征市が喜多の行動に驚くのも無理はない。《デスモナーク》のパワーは8000。《バジュラ》のパワーよりも低い。攻撃を仕掛けても、勝てるはずがないのだ。
「自棄になったのか!?」
「いや、これでいい。これで《バジュラ》は死ぬ!」
 《デスモナーク》は迷うことなく《バジュラ》に向かって突進していく。《バジュラ》はそれを迎撃するために、鉄球を振り回して投げつけた。鉄球は《デスモナーク》の体に食い込み、巨大な悪魔神の体に穴を開ける。再起不能になるほどのダメージを受けた《デスモナーク》はその場に倒れた。
「スレイヤー、ってわけでもないよな。だったら、何で――」
 考えていた征市の前で奇妙な現象が起こった。倒れていた《デスモナーク》の影から燃え盛る剣が征市めがけて飛んできたのだ。剣は、突然の事に驚いていた征市ではなく、それを守るように立っていたシールドに突き刺さった。その攻撃を受けて、征市の最後のシールドは炎に包まれて消えてしまう。
「何だ。何が起こったんだ」
 征市は、シールドが立っていた場所を見た後に、喜多の場を見た。そこには召喚と同時に相手のシールドを一枚破壊する《冥府の覇者ガジラビュート》が立っていた。喜多はクリーチャーを召喚するようなそぶりを一度も見せなかった。それなのに、何故クリーチャーが現れたのか、征市には理解できない。
「《ガジラビュート》だけじゃない。次はこれだ!」
 《デスモナーク》の影から黒い剣が飛び出し、《ガジラビュート》に刺さる。《ガジラビュート》が倒れるとその体は爆発し、中から大量の黒い剣が飛び出した。その剣は吸い寄せられるように《バジュラ》に向かっている。剣は《バジュラ》の体を埋め尽くすように全身に突き刺さっていた。突然の攻撃に《バジュラ》も自分の身を守る事が出来ずに膝をついて倒れてしまう。そして、赤い炎となってその体が焼かれていった。
「《オルゼキア》だ。さっきはよくもこいつを焼いてくれたな」
 多くの腕で多くの黒い剣を持ったデーモン・コマンド《オルゼキア》は、自分のクリーチャーを一体破壊する事で、相手のクリーチャーの二体破壊する能力を持つ。よく見ると《オルゼキア》の顔には焼け焦げたような痕がついていた。
「そうか。《デスモナーク》は破壊された時に、墓地にあるデーモン・コマンドを全て蘇らせるクリーチャー。その《オルゼキア》はさっき《バジュラ》が破壊したマナにあったカードか!」
「その通り。《バジュラ》に復讐できてこいつも喜んでいる事だろう。最後に《デスモナーク》の進化元となっていたこいつの出番だ!」
 最後に現れたのは、《ビルギアス》だ。自分の体と同じくらいの大きさの大槌を持って征市を睨みつけている。最後のシールドが《ガジラビュート》によって破壊されてしまった今、二体のクリーチャーに囲まれたこの状況は絶体絶命だと言える。
「こちらも行くぞ!《ウッズ》!!」
 西の言葉を合図に、《ウッズ》は持っていたランスで征市のシールドを二枚ブレイクしていく。その中にシールド・トリガーはない。
「やってくれたな。だけど、これでお前のターンは……」
「まだだ!《ムルムル》で攻撃!」
「嘘だろ!?」
 《ムルムル》は本来、シールドへの攻撃ができないクリーチャーだ。しかし、《ムルムル》の頭上に《ウッズ》が持っているのと同じようなランスが現れるとそのランスが征市の最後のシールドを突き刺した。
「《ウッズ》は攻撃できないブロッカー全てを攻撃可能なクリーチャーに変える力を持つ!《ムルムル》でも攻撃できるのだ!」
「厄介な切り札だ。だけど、攻撃したから防御がガラ空きだぜ!」
 《ウッズ》も《ムルムル》も攻撃に回った事で征市のシールドは全てブレイクできた。しかし、《ウインドアックス》の攻撃から西を守るブロッカーはもういない。次のターンで征市の《ウインドアックス》の攻撃が通る。しかし、西はその言葉を予想していたらしく、丸い顔を歪めて笑った。
「《ウッズ》は最高の切り札だ!弱点など存在しない!アンタップだ!」
 西の言葉を聞いた時、《ウッズ》の体を銀色の光が包んだ。すると、《ウッズ》は軽やかに飛び立ち、体を広げて西を守るように立ちふさがる。
「《ウッズ》がいる間、ターンの終わりに私の白騎士は全てアンタップされる。今、白騎士のクリーチャーは《ウッズ》だけだが、これで充分。《ウッズ》が私を守ってくれる」
 《デスモナーク》と《ウッズ》。喜多と西は切り札でこのピンチから逆転し、征市を追い詰める事に成功した。逆に追い詰められた征市は不敵に笑うと十也に声をかける。
「お前、さっき嵐が来るって言ったよな?今はどうだ。これから嵐が来ると思うか?」
 征市に声をかけられた十也はしばらく考えると首を振った。
「いいや。嵐は来ないと思うのだ」
 その答えに満足したのか、喜多と西は切り札を引いた時と同じように再び歓喜の声を上げる。だが、それを打ち消すようにして十也は言葉を続けた。
「その代わり、嵐なんかよりももっとすごい何かが来るのだ」
「ああ……その通りだぜ!」
 征市が二つの山札からカードを引く。すると、すぐにそのカードにマナを注ぎ込み、場に投げた。
「召喚!《竜星バルガライザー》!!《戦攻竜騎ドルボラン》!!」
 喜多のデーモン・コマンド達の前に赤い炎と共に黒金の鎧を身に纏い、二本の剣を持った龍が現れる。その名は《竜星バルガライザー》。雄叫びでドラゴンを呼ぶ征市の切り札の一つだ。
 そして、西の前に巨大な銛と様々な銃火器を持った龍《戦攻竜騎ドルボラン》が現れた。《ドルボラン》は持っていた銃火器から銃弾を撃ち尽くして《ムルムル》の姿を場から消し去った。さらに、銛で《ウッズ》を突き刺すと空高く放り投げる。空中で《ウッズ》は金色の光を発しながらカードの姿に戻ると、西の手に飛んでいった。
「さすがに焦ったぜ。動かないと思っていたブロッカーが動くってのは、予想していなかったからな。でも、お前だって最高の切り札が倒されるとは思っていなかったらしいな」
 征市の声を聞く西の顔には、《ウッズ》を出す前と同じような諦めと絶望感が漂っていた。《ドルボラン》の効果を使い終えた征市は、喜多を見る。
「《バルガライザー》はスピードアタッカーだ!さらに、攻撃した時に山札をめくり、それがドラゴンだったら呼び出す事ができる。《バルガライザー》で最後のシールドをブレイク!」
 《バルガライザー》が吠えながら喜多の最後のシールドをブレイクする。シールドが砕け、カードに戻って喜多の手札に戻った時、《バルガライザー》の背中を踏み台にして一体のドラゴンが現れた。侍のような甲冑を纏い、大きな日本刀を握った龍《ボルシャック・大和・ドラゴン》だ。このドラゴンも《バルガライザー》と同じようにスピードアタッカーである。
「嘘だ。嘘だ……嘘だ、嘘だ!」
 喜多は汗をかき震えながら目を見開いて叫ぶ。西も頭を抱えながら「うわー!嘘だー!」と、叫んだ。
「嘘じゃないぜ。『ウソのようなホントウ』って奴だ!《ボルシャック・大和・ドラゴン》!《ウインドアックス》!とどめだ!!」
 《ボルシャック・大和・ドラゴン》は《ウインドアックス》を背中に乗せると飛び立つ。《ボルシャック・大和・ドラゴン》は最初に西に近づいた。すると《ウインドアックス》が背中から飛び降り、勢いをつけて斧で西の体を打ちつけた。《ボルシャック・大和・ドラゴン》は滑空した勢いを活かして喜多を刀で切り裂く。コンビのデッキ職人はそれぞれの攻撃を受け、崩れるようにしてその場に倒れた。
 征市はそれぞれのカードをデッキケースにしまい、トライアンフの事務所と魔法警察に連絡を入れた後、十也が開けた穴から外に出た。改造した自転車を押しながら十也がついてくる。
「やっぱりさすがなのだ、征市!あの状況から勝つなんて、ライバルとして鼻が高いのだ!」
「だから、勝手にライバルとか言ってんじゃねぇよ!お前、迷子か?」
「いいや、春間と智里が迷子になったのだ!」
「春間と智里って誰だよ?」
 漫才のようなやり取りをしながら征市と十也が歩いていると、遠くから走ってくる人影が四つあった。後ろにいる二人は征市もよく知っている陸と湊だ。
「春間!智里!」
 前を走っている二人の顔に見覚えがあるらしく、十也は手を振った。春間と智里は十也に近づき、征市は陸と湊に向かって走る。
「何があった?」
 陸の表情からただならぬものを感じ取った征市は二人に聞く。
「実は――」
「おっと、そこから先は俺達が説明するのだ!その前に改めて自己紹介なのだ!」
 陸が口を開いたが、それにかぶせるようにして十也が説明を始める。うおっほん、と大袈裟に咳払いをすると十也は口を開いた。
「俺は浅田十也。魔道書同盟によって作られた人造デュエリストのスーパーヒーローなのだ!」
「私は峰岸春間。魔道書同盟の手で生まれた人造デュエリストであり、全ての妹を愛する素敵なお兄ちゃんだ!」
「あたし……筒井智里。人造デュエリストで……食べるの大好き。よろしくね」
「我ら!」
 それぞれの自己紹介を終えた三人の言葉が重なる。一拍置いて、彼らは最後のセリフを口にした。
「特務機関ケルベロス!」
「三羽烏!」
「さわやか三組」
 満足したような表情でポーズを取る十也の肩を春間が叩く。その顔には不満が現れていた。
「十也、私達のチーム名は三羽烏と決めていたはずだ」
「えー!それ、古臭いのだ!特務機関ケルベロスの方が格好いいのだ!」
「やだ。さわやか三組がいい……」
 三人は自分達の主張を譲らない。それぞれ、自分で決めたチーム名を連呼し続ける。
「黙れ、三馬鹿」
 そこに、男の低い声が響いて三人は黙る。三人よりも奥からオールバックの男が歩いてくる。塩の混ざった風が男の赤いマントをなびかせていた。
「念の旦那!」
 十也は笑顔でその男、念に近づく。春間は直立不動の姿勢で念を見ていた。
「旦那。サンバルカンもいいけれど、俺は特務機関ケルベロスの方がいいと思うのだ」
「十也!馬鹿な事言っていないで、念様に挨拶をしろ!挨拶!」
「構わん」
 念は、右手を出して春間を黙らせると、彼らの前を通り過ぎて征市達の前に出た。
「お前……魔道書同盟の一員だな?」
 考えるよりも先に征市の口から言葉が飛び出す。それを聞いて念は満足そうに笑った。
「いい反応だ。俺は魔道書同盟の念。そして、この三人は俺の部下。人造デュエリスト達だ」
「人造って事は、こいつらを作ったって事か?」
 魔道書同盟には全のように怪人を作る者もいる。人間に極めて近い存在を作り出してもおかしくはなかった。
「正確に言うと作ったのは俺じゃない。だが、今はそんな事はどうでもいい」
 念はポケットから赤いラインの入ったデッキケースを取り出す。それに呼応するかのように征市も赤い革のデッキケースを取り出した。
「面白い。実に面白い反応だ。お前となら楽しめるかもしれん。俺の乾きを癒やせ!俺の飢えを満たせ!」
 征市と念の前に五枚の赤いシールドが並び、二人のデュエルが始まった。

 『File.31 誘う者・誘われる者』につづく
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