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『コードD』File.36 衝突する意思

『コードD』
 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 征市(せいいち)達は、トライアンフアメリカから来たマシューに留守を頼み、柳沢研究所へと向かった。死者を蘇らせる研究をしているその研究所では、ジャロールに呼ばれた陸(りく)が警備をしていた。魔道書同盟のメンバーがいる事に疑問を感じた陸だったが、自分の目的のためにそれに目をつぶる。
 湊(みなと)は若月(わかつき)に対して、柳沢研究所の研究員達が死者を蘇らせる研究をする理由を問う。若月は湊を研究所の一室に閉じ込めると、その理由を語り始める。彼らは全て愛しい人を失った者達だったのだ。蘇らせる者の完全なクローン体を作り出し、それに魂を宿す事で蘇らせる。湊は、そのために作られた試作品の一人だった。
警備のために現れた怪人、防衛男を倒した征市達の前に春間(はるま)、智里(ちさと)と共に陸が現れる。戸惑う征市達に向かって陸はデッキケースを突き付けるのだった。

  File.36 衝突する意思

「この研究所で行われる実験を守る。そのためなら、仲間と戦ったって構わない!」
 陸はトライアンフのメンバーに自分のデッキケースを突き付ける。
 ジャロールとの戦いの後、行方不明になっていた彼が、何故、この研究所にいるのか。何故、敵であるはずの人造デュエリストと共に行動しているのか。何故、自分達に敵対するのか。
 メンバーの脳裏に三つの疑問が浮かび、彼らは困惑した表情で陸を見ていた。
「彼は私達の味方になった。確かにそれは一時的なものかもしれないが、紛れもない事実なのだ」
「だから……この子は、お友達」
 陸の右と左にいた春間と智里は説明するような口調で言うと、デッキケースを取り出し一歩、前へ出た。それを止めるように陸が手を伸ばして行く手を遮る。
「何の真似だ?」
 春間は不快そうな顔で陸に聞いた。陸は春間の顔を見ずに答える。
「けじめだからね。トライアンフのメンバーで邪魔するのがいたら僕が戦う」
「ふざけるな!」
 その言葉と態度に堪忍袋の緒が切れたのか、春間は陸の腕をつかんで言葉を荒げた。
「いいか!私は、お前のような奴が味方にいるというだけでも我慢がならんのだ!それだけでなく、私を差し置いて自分で自分の戦う相手を勝手に決めるとは何事だ!三羽烏のチームリーダーとして、私に作戦を立てさせるべきだ!」
「言いたい事はそれだけ?」
 陸は冷たい目で春間を見る。その目を見て、春間は一瞬、たじろいだ。春間がそれ以上何も言ってこないのを見て、陸はメンバー達の前に進む。それに合わせるように、菜央(なお)もデッキケースを握ったまま前に進んだ。
「菜央!陸と戦うのか?」
 征市が不安そうな声で聞くと、菜央は一度立ち止まって振り返った。
「あれは陸君ではありません。よくできた偽者でしょう」
「……え?」
 征市はそれを聞いて呆けたような顔をする。一真(かずま)と彩矢(あや)もその言葉に驚いていた。
「幻(げん)はチェス駒のプライズで偽者を作れます。陸君が私達の前から姿を消したのを知って、私達を混乱させるために偽者を作り出したのでしょう。本物の陸君が、私達に戦いを挑むはずがありません。仲間ですから」
 菜央はそう言うと、デッキケースからデッキを取り出した。その手が微かに震えているのを征市は見逃さなかった。
「判った。それじゃ、陸の偽者は菜央に任せていいんだな?」
「ええ。ですから、ここは私に任せて先に進んで下さい。ここまでして守ろうとする場所なのですから、魔道書同盟にとって重大な秘密がある施設に違いありません」
「判った。後は俺達に任せろ!」
 征市はそう言うと、彼らを避けて先に進もうとする。だが、その前に二人の人造デュエリストが立ちふさがった。
「悪いが、ここは通すわけにはいかない」
「ごめんね」
 春間が不敵な笑みを浮かべ、智里は舌を軽く出して謝る。それを見て一真と彩矢がデッキケースからデッキを取り出した。
「征市、急げ!」
「ここはアタシ達を信頼して、先に進んで下さいな!」
 征市が迷ったのは一瞬だった。
 人造デュエリストは念が連れてきた敵だ。今まで戦ってきた怪人以上の力を持っているかもしれない。しかし、そんな敵が相手でも一真と彩矢が負ける姿が想像できない。一人はトライアンフ最強を誇ったデュエリストで、もう一人は自称世界一強い女の子なのだ。
 自分を納得させた征市は研究所の建物に向かって走った。すると、彼を遮るように緑色の防衛男が建物から次々と飛び出してくる。四人の防衛男を見て征市は右手に金属製のデッキケースを、左手に赤い革製のデッキケースを持ち、それぞれのデッキを取り出した。
「ザコにかまっている暇はねぇ!さっさと消えろ!」

 彩矢の目の前に五枚の赤いシールドが現れる。一真も緑色のシールドを五枚、並べて春間を見た。
「ねぇ、一真さん。あれってチェス駒のプライズじゃなくて、本物の陸君でしたよね」
「ああ、間違いない」
 彩矢も一真も菜央の嘘に気付いていた。征市もそれに気付いていないはずがない。それにも関わらず先に進んだのは、菜央が行くように命じたからだ。こうなったら、彼女に任せるしかない。
「菜央が決着をつけると決めたんだ。菜央のやりたいようにやらせるのがいいだろう」
「もし、それで陸君にとどめを刺さなくちゃいけないとしても?」
「それくらい、菜央だって判っている」
 一真は溜息を吐くように呟くと、視線を手札のカードに動かした。
「なるようになれって事ね。……菜央ちゃんの事は信じてるし、陸君の事も信じるしかないか」
 彩矢は手札を見た後、目を智里に向けた。彼女の準備も終わっている。
 春間は山札から五枚のカードを引くと、一真を指して言った。
「お前達はここで終わりだ!今日の私は負ける気がしない!」
「自信があるみたいだな。全く、根拠のない自信で俺に勝てるわけがない!」
 一真の目に強い意志の光が宿る。それと同時にデュエルが始まり、一真はマナゾーンにカードを置いた。春間はそれを見て、外国映画のように大袈裟な仕草で肩をすくめる。
「根拠ならあるさ。これを見ろ!」
 カードを引いた春間は、コートの内側に手を入れる。それを見て一真は身構えたが、あの中にはおかしが入っている事を思い出した。以前、陸と湊から、春間達と初めて会った時の話を聞いていたのだ。
「ジャジャーン!」
 自分でうすら寒い効果音をつけると、春間はコートの内側から何かを取り出した。それは黒いカチューシャに見えた。しかし、よく見るとただのカチューシャではない。黒い色をした猫の耳がついている。
「これが何か気になるのか?気になるんだろう?」
 春間に問いかけられた一真は全力で首を横に振る。まともな答えが帰ってこない事は容易に想像できた。
「よし!いいだろう!そこまで言うのなら教えてやろう!」
「教えて欲しいなどと言った覚えはない!」
 一真が全力で否定するが、春間はそれを無視して解説を始める。その顔に幸せそうな笑みが宿るのを一真も彩矢も見逃さなかった。
「これは、宇宙一かわいいマイシスター、湊ちゃんのために私が作った『プリティー猫耳カチューシャ』だ!偉い人は“妹に貴賎なし”と言った。それは正しいと思う。しかし!私は宇宙一かわいい妹として湊ちゃんを選びたい!この猫耳カチューシャをつければ、彼女のかわいらしさが間違いなくアップするはずなのだ!!」
 春間は拳に力を込めて演説をしている。よく見ると、彼の指には真新しいばんそうこうがいくつも貼られている。手作りというのは間違いないようだ。
「早く会いたいぞ、湊ちゃん!お兄ちゃんが、君のためだけに作った猫耳カチューシャを持って迎えに行くからね!」
 明後日の方角を向いて話を続ける春間の様子を見て、一真と彩矢の戦意がダウンした。彼らの頭の中に「何故、こんな奴と戦わなければならないのか?」という疑問が浮かび上がる。
「そのためにも!」
 演説が終わってトリップから戻ってきたのか、春間が真剣な顔で一真に指を突き付けた。
「お前達、トライアンフを倒さなければならない!全力で行くぞ!」
「戯言は終わったか?なら、始めるぞ」
 一真も戦うために頭を切り替える。
 先に動き出したのは一真だった。フェレットのようなクリーチャー《幻緑の双月(ドリーミング・ムーンナイフ)》を召喚して、手札をマナに変える。それに対して、春間は《フェアリー・ライフ》を唱えた。場に現れた風に流されながら、緑色の葉と共に目を閉じた少女が踊っていた。
「素晴らしいぞ、マイシスター《フェアリー・ライフ》!効果でマナを増やす!」
「なるほど。序盤からかなり動けるデッキのようだな」
 春間はふざけた行動を取っているが、実力があるのも事実だ。
 陸から聞いた彼の切り札《猛菌魚雷ヤサカノフカ》は山札のカードを四枚、墓地に送る能力を持つ。陸のように墓地の回収が可能なデッキならば、それを逆転のチャンスに変える事もできる。しかし、一真のデッキは火と自然で組まれたデッキだ。墓地のカードを回収する方法は少ない。
「切り札の《ヤサカノフカ》を使われる前にお前を倒す!《マイキーのペンチ》召喚!」
「何っ!」
 一真の場に、ペンチでできた怪獣のような姿のクリーチャー《マイキーのペンチ》が現れる。このクリーチャーが場にいる間、一真の自然文明のクリーチャーはスピードアタッカーになるのだ。
「噂には聞いている。それがお前の切り札か」
「切り札というよりは、縁の下の力持ちかもしれないな」
 一真は春間の言葉に答えると《幻緑の双月》に攻撃を指示した。《幻緑の双月》は持っていた棒でシールドを叩き割る。そのカードはシールド・トリガーではなかったらしく、春間は恨めしそうな顔でそれを手札に加えた。
「さあ、こっちも行くわよ!」
 彩矢も《幻緑の双月》を召喚していた。そのクリーチャーに青い巨大な手の形をした《助太刀メモリー・アクセラー》をクロスする。《幻緑の双月》は両手の《メモリー・アクセラー》をロケットパンチのように吹っ飛ばした。右手は彩矢の山札の上のカードを一枚つかみ、主の手元に運ぶ。そして、左手は拳を堅く握りしめ、智里のシールドを殴った。
「行くよ……」
 破られたシールドを手札に加えた智里は、マナゾーンのカードを四枚タップすると、それにマナを加えて一体のクリーチャーを場に出す。ローブを纏い帽子をかぶりひげを生やした魔術師のような姿をした木彫りのそのクリーチャーの名は《進化の化身(エボリューション・トーテム)》だ。《進化の化身》が怪しげな呪文を呟き、持っていた木の杖を振ると智里の山札が浮かび上がった。《進化の化身》がそれを叩くと、山札から一枚のカードが智里の手元に飛んでいった。
「《進化の化身》のおじいちゃんはね……進化クリーチャーをくれるの」
「進化クリーチャーを山札から呼び寄せるのね。これは厄介だわ……」
 陸が春間のデッキの情報を話していたように、湊も智里のデッキの情報をメンバーに話していた。
 智里の切り札、《闘匠メサイヤ》は13000のパワーとT・ブレイカーを持つパワフルな進化クリーチャーだ。それだけでなく、ブレイクしたシールドのシールド・トリガーを封じる能力まで持っている。逆転の可能性を摘み取る事が可能なのだ。
「《メサイヤ》が出ちゃったら逆転は難しい。だったら、出せないように邪魔するしかないわね!」
 進化クリーチャーである《メサイヤ》は、《進化の化身》の能力で既に智里の手札に加わっている。ならば、《メサイヤ》を出すのが不可能な状況に追い込めばいい。
「そのために進化元を潰すか、もう一つのやり方か……」
 進化元のミステリー・トーテムを破壊するとしても、彩矢のデッキに入っている除去のカードは後半に使う事を意識した重いカードばかりだ。
「だから、出される前に攻めるだけ!《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》!」
 彩矢の場に、槍を持ち二本足で立つ緑色の獣が現れる。《青銅の鎧》と呼ばれたそのクリーチャーが槍を振ると、効果で彩矢の山札の上のカードがマナゾーンへ飛んでいった。これで、マナのカードは六枚。彩矢が切り札を使うのに充分な数のマナが溜まった事になる。
「下地はOK。ここから、攻めまくるわよ!」

「これでとどめだ!」
 征市の《ボルシャック・大和・ドラゴン》が、最後の防衛男を殴り倒す。防衛男が倒れて爆発するのを見ながら、征市は肩で息をしていた。
「これでよし……と。あれ?」
 征市はポケットで携帯電話が震えるのを感じ、それを取り出す。見ると湊からメールが来ていた。メールには、柳沢研究所の場所とその中のどこかの部屋に自分が閉じ込められている事が書かれていた。自分達が乗り込んだ研究所に湊がいるという奇妙な偶然に、征市は愕然とする。
 征市は携帯電話をポケットにしまってから、振り返って仲間達を見る。征市に与えられた使命は、この研究所の秘密を暴き、魔道書同盟の妨害をする事だ。湊を助ける事ではない。しかし、征市は与えられた使命ではなく、湊を助ける事を優先した。自分に来たメールの内容をコピーし、仲間達に送りながら建物に向かって走る。
「湊、待っていてくれよ!」
 征市は湊の無事を祈りながら建物に入った。
 建物の中は普通のオフィスと変わらない部分が多かった。中にいる研究員に見つからないように、注意しながら歩いた。
 最初に探さなければならないのは、警備室だ。湊を助けるために、鍵を手に入れなければならない。そのためには、鍵が置かれている部屋を探す必要がある。鍵などは、警備室に置かれているはずだ。
 そう考えた征市は警備室を探すのだが、この研究所の地図がない。そのため、一つ一つ、部屋を虱潰しで探すしかなかった。
「ここも違うか。――お?」
 征市は侵入した部屋の中で、床に落ちていたファイルを見つけた。この研究所の秘密も気になっていたので、そのファイルを手にとってページをめくってみた。
 どうやら、柳沢研究所と名乗る前から続く研究結果の記録だった。専門的な事が多く書かれているため、征市にはほとんど理解できず、所々飛ばしながら読んでいたが、とある項目で彼はページをめくる手を止めた。そこに書かれている単語を静かな声で口に出す。
「人造、デュエリスト……?」
 人造デュエリストという言葉を見て、念と共に現れた浅田十也(あさだじゅうや)、峰岸(みねぎし)春間、筒井(つつい)智里の顔が浮かんだ。彼らに関する情報が得られる事を期待しながら、ページをめくる。
 そのファイルの記録は二十年以上前のものだった。当時、魔道書同盟の復活を恐れた魔法使い達は、彼らに対抗できる力を探していた。しかし、デュエリストが減っている今では、戦力の確保は難しい。大戦を戦い抜いた伝説のデュエリストも老いには勝てず、ピーク時に比べて弱くなっていた。そこで彼らは人工的にデュエリストを作り出す事を考えた。大戦を戦ったデュエリストのデータを元に、その能力をコピーしたデュエリストを生み出すのだ。
 賛否が分かれる中、計画は進み、相羽総一郎(あいばそういちろう)と、人間に対して協力的だった真実(まみ)の遺伝子を元にして最初の人造デュエリストが生み出された。
 そこまで見た征市はページをめくる手を止めていた。興味がなくなったのではない。その先の情報を知りたい気持ちはある。
 だが、それと同じようにこの先に書かれている事を知りたくない気持ちがあるのも事実だった。この先にある事実を知ったら、自分は絶対に後悔する。そんな気持ちが征市を支配していた。
 しばらく悩んだ後、意を決して征市はページをめくった。そこには、一枚の写真があった。写真の下に、『人造デュエリスト試作一号機:相羽征市』と書かれている。
「俺は……人間じゃなくて、あいつらと同じ人造デュエリストだっていうのかよ!?」
 手から力が抜けるような感覚と共に、ファイルが床に落ちる。衝撃で紙を固定していた金具が外れ、ページが散らばる。その中の一ページが、再び、征市の目を引いた。
 そこには、人造デュエリストのバックアップに関する情報が書かれていた。総一郎を元に作った征市以降の試作品は、どれも失敗ばかりだった。唯一、成功した征市を守り抜くために、研究を引き継いだ柳沢研究所はバックアップのための二体の試作品を生み出した。それが一ノ瀬彩弓(いちのせあゆみ)と一ノ瀬彩矢の姉妹だ。この姉妹は、体内に大量の魔力を貯蔵している。征市がダメージを受けて魔力を失った時、その魔力を征市に移して復活させる事ができる。
 それを読んだ時、征市の頭はハンマーで殴られるような強い衝撃を受けたように感じた。彩弓が征市と仲良くしているのも、彩矢が征市に恋をしているように振舞うのも、征市を守るためなのかもしれない。
「誰か……。これを嘘だと言ってくれ」
 征市は頭を抱えてその場にうずくまる。その瞬間、所内に放送が流れた。
『相羽征市。聞こえているわねっ!あなたがこの中にいる事は判っているのよっ!小生は警備室で防犯カメラの映像をチェックしていたんだからっ!』
 これは全(ぜん)の声だ。防犯カメラまで目が回らなかったのは迂闊だった。征市は諦めて部屋の外に出る。
『いい?小生達は、あなたの大切なお友達を預かっているの。その子を助けたければ、一人で休憩所まで来なさい』
『征市君……助けて。つかまっちゃったみたい』
「彩弓か!?」
 全の後に続いたのは聞き慣れた彩弓の声だった。彩弓がこの場にいる事に驚いていると、全は言葉を続けた。
『休憩所は外にあるわ。海が見える場所よ。来なかったら、この子の命はないわっ!』
 全の声と共に放送は終わった。
 彩弓がここに来ているのは信じられない。全が征市を呼び出すために罠を仕掛けているのかもしれない。しかし、そうだったとしても、行く価値がないわけではない。
 湊がどこにいるのかは判らないし、魔道書同盟がここの研究を手伝う理由も気になる。征市は少し迷ってから全の指示に従って歩き出した。

 征市が休憩所についたのはそれから十分ほど経ってからだった。草木に囲まれた休憩所は、全が言ったように青い海が見える。
「こんな状況でもなければ、景色が楽しめそうなんだけどな」
 苦い顔をした征市は奥にある椅子に座っていた制服を着た彩弓を見る。手を縛り付けられているのが遠くからでも判った。
「征市君!」
「待ってろ、彩弓!今、助けてやる!」
 彩弓の隣には、念(ねん)と十也がいる。全はそこから少し離れた場所で大きなビデオカメラのチェックをしている。征市に気がつくと手を振った。
「待っていたわっ!今から、小生達の言う事を聞いてもらうわよっ!」
「そうすれば、彩弓を解放するんだな?」
「もちろんよ。小生は嘘をつかないわ」
「……判った」
 白い椅子に座って心配そうな顔をした彩弓が征市を見ている。あそこにいる彩弓が本物かどうか確かめる術はない。だから、彩弓が解放されるまでは大人しく従うべきだ。
「で、俺は何をすればいいんだ?」
「簡単な事よ。デュエル・マスターズカードを使って十也ちゃんと念の相手をしなさいっ!」
「戦えって事か。上等だ!」
 征市はそう言うと、金属製のデッキケースを持って二人の敵の姿を見る。
「来いよ!二人まとめて相手をしてもかまわないぜ!」
 それを聞いて、十也が一歩進む。巨大な白いバックルからデッキを取り出した十也は、征市に対してそれを突き付けた。
「まずは、俺が相手になるのだ!」
「念!お前は戦わないのか!?」
 征市はデッキケースを強く握りしめながら念に問う。念は腕を組んだまま
「十也に勝てたら相手をしてやろう」
と、答えた。
「そうよっ!あくまでデュエルは一対一!二人相手にするなんて許さないわっ!勝手な事をすると……」
 全は怒ったような声で言うと、彩弓に近づく。懐からナイフを出すと彩弓にそれを近づけた。彩弓は上半身をのけぞらせてそれを体から離そうとした。
「よせ!彩弓に手を出すな!」
「あら。小生に命令するなんて、偉そうね。気に食わないわっ!小生の言う事を聞かないんだったら、この子を傷つけてもいいのよっ!」
 征市は奥歯を噛みしめながら視線を全から十也に向ける。そして、怒りを押し殺したような声で
「判った。お前の言う事を聞く。だから、彩弓を傷つけるのだけはやめてくれ」
と、言った。
「そう!それでいいのよ。でも、小生に逆らったのは許せないわ。これはペナルティよっ!」
 全は、ナイフを持っていた手を振り上げた。それを見て彩弓は目を閉じて顔を逸らした。
「やめろーっ!」
 征市が叫び、手を伸ばす。
 その瞬間、念が左腕を振って全の手からナイフを弾いた。宙に舞ったナイフは近くの地面に刺さる。
「念!何の真似よっ!」
 突然、仲間に攻撃されたショックと手の痛みに混乱しながら全が問う。念は腕を組むと答えた。
「相羽の孫が戦いに来たら、娘を離してやる約束のはずだ。目的はあくまで俺達と相羽の孫のデュエルのデータを取る事。無関係の奴はもう離してやれ」
「判ったわ……」
 念の言葉と視線に怯えた全はそう言いながらナイフを拾って、彩弓を縛っていた縄を切った。彩弓は立ち上がった後、念を見て
「ありがとう」
と、言うと征市の近くまで走った。勢いをつけて征市に抱きつく。
「征市君っ!怖かった……!怖かったよ……!」
「大丈夫だ。俺が必ずお前を家まで送り届けてやる。だから、心配するな」
 それを見て、十也が咳払いをする。慌てて彩弓が征市の背後に回った。
「いや~、お熱いのだ~。二人はラブラブなのだ~」
「この野郎!茶化してんじゃねぇ!デュエルするぞ、デュエル!」
 征市は顔を耳まで真っ赤にしながら、それよりも赤い色のシールドを五枚並べる。十也も同じように赤いシールドを並べ、デュエルが始まった。
「さあ、俺から行くのだ!」
 十也はそう言うと、マナのカードを二枚タップした。すると、カードから出たマナは十也の手札にあるカードではなく、彼のベルトに吸い込まれていく。マナを吸収した事でベルトのバックルの穴が青く光った。十也がそれに一枚のカードをかざすと、バックルから出た青い光がカードを包む。
「変身!」
 十也がカードから手を離すと、カードは場に飛んでいった。青い光と共に、巨大な角が生え、腕に黄色いコードがついたリキッド・ピープルが現れた。《アクア・ベララー》だ。
「征市君、あれ、そんなに強くなさそうだよ」
 彩弓がそう言って征市を見ると、征市はそれを見て顎に手を当てた。何のためにそれを入れているのか考えているのだ。
「パワーだけならもっといいクリーチャーがいる。それで何をするつもりなのか、早く答えを見つけないと大変な事になりそうだな」
 征市は《幻緑の双月》を召喚してマナを増やした。続いて、十也が行動を始める。
「変身!」
 かけ声と共に、ベルトのバックルにマナを集め、それを介してクリーチャーを召喚する。次に現れたのは、背中についた四つの腕で、ドライバーやハンマー、ペンチなどの様々な工具を持っている小人のようなクリーチャー《解体屋ピーカプ》だ。
 《ピーカプ》が場に降り立つと、《アクア・ベララー》が手を伸ばした。その手から紫色の光が現れ、それが征市の山札を包む。同時に、十也の目の前にゴーグルのようなものが現れた。
「なるほど。征市が次に引くカードは《ボルシャック・大和・ドラゴン》なのだ」
「何っ!?何で、俺が次に引くカードが判るんだ!?まさか……!」
 征市は《アクア・ベララー》を見る。そして、その能力を思い出した。
 《アクア・ベララー》は近い未来を見るクリーチャーだ。自分の他のクリーチャーが召喚された時、自分か相手の山札の一番上のカードを見る。そして、そのカードを山札の一番下に置く能力を持っている。
「《ボルシャック・大和・ドラゴン》は嫌なのだ。だから、それを下に置いてやるのだ!」
 《アクア・ベララー》が両手を動かすと、征市の山札が宙に浮き、上のカードが下に移動する。《アクア・ベララー》が動きを止めると、山札は元の位置に置かれた。
「《ピーカプ》でパンチなのだ!」
 《ピーカプ》は《ボルシャック・大和・ドラゴン》と同じようにスピードアタッカーを持っている。そのため、召喚酔いせずに攻撃ができる。
 《ピーカプ》の拳が征市のシールドを砕く。そのカードはシールド・トリガーではなく、征市はカードを手札に加えた。
「先手を取られたか。速攻デッキって事か?」
 《ピーカプ》が出た事から、征市はそう考えた。しかし、それならば《アクア・ベララー》よりも速攻に向いたクリーチャーがいる。十也の戦い方に疑問を感じながらカードを引くと、そのカードは《青銅の鎧》だった。十也が言うように《ボルシャック・大和・ドラゴン》は山札の一番下に置かれてしまったのだ。
「《青銅の鎧》召喚!マナを増やすぜ!」
 《幻緑の双月》と《青銅の鎧》を使って連続でマナを増やす。これで、征市のマナゾーンのカードは五枚になった。
「《幻緑の双月》で《ピーカプ》を攻撃!」
 征市の目が《ピーカプ》に向く。《幻緑の双月》の棒が《ピーカプ》の頭を叩き、《ピーカプ》の工具が《幻緑の双月》を殴る。二体の攻撃が同時に炸裂した直後、二体ともその場に倒れた。
「《ピーカプ》だけで俺の速攻クリーチャーは終わったわけではないのだ。次はこいつなのだ!」
 十也は他のクリーチャーの召喚と同じようにカードをバックルにかざす。カードは十也の手を離れ、十也は山札の上のカードを一枚つかむとそのカードに投げた。
「超変身!」
 十也が力強く叫ぶと、場で二枚のカードが融合し、何かが爆発したような光を発する。その光の中から、右腕と左腕にそれぞれ巨大な二つのドリルをつけた人型ロボットのようなクリーチャーが現れる。
「デッキ進化クリーチャー《機真装甲ヴァルドリル》なのだ!」
 デッキ進化とは、山札の一番上のカードをめくり、それがクリーチャーだった時、そのカードを進化元にして出す進化クリーチャーだ。進化クリーチャーなので、スピードアタッカーと同じように召喚酔いがない。
 《アクア・ベララー》が今度は十也の山札に紫色の光を当てている。十也はゴーグルを通じてそれを見た後、
「このままでいいのだ」
と、言って《アクア・ベララー》の効果を解除した。その直後、《青銅の鎧》を見る。
「《ヴァルドリル》で《青銅の鎧》を攻撃!こいつは、バトルゾーンに出たターンだけ、アンタップされているクリーチャーを攻撃できるのだ!」
 《青銅の鎧》は持っていた槍で《ヴァルドリル》のドリルを受け止める。しかし、残っていた三つのドリルが容赦なく、その体を貫いた。これで、征市のクリーチャーは全滅してしまった。
「確かにクリーチャーが減ったのはつらい……。だけど、こいつらの仕事はもう終わっているとも言えるな」
 征市は余裕のある笑顔でカードを引いた。それを見て十也が口を開く。
「強がりを言うんじゃないのだ!このまま、《ヴァルドリル》で殴りまくって俺が勝つのだ!」
「そうは行かねぇよ。まずは、こいつだ!」
 征市の場に和風の甲冑を纏った龍《ボルシャック・大和・ドラゴン》が現れる。《ボルシャック・大和・ドラゴン》は鞘から刀を引き抜くと、《ヴァルドリル》に斬りかかった。巨大な刀があっという間に《ヴァルドリル》を真っ二つにする。
「《幻緑の双月》で一枚、《青銅の鎧》で一枚、合わせて二枚マナを増やしていたからこのターンで《ボルシャック・大和・ドラゴン》を召喚できた。このまま、一気に決めるぜ!」

 若月に閉じ込められた部屋で座っていた湊は携帯電話を見た。
 征市にメールを送ってから一時間近くが経過している。何度も連絡を取れればいいのだが、電池の残量が少なくなっている。電池が切れたら連絡ができなくなってしまうのだから、連絡は必要最小限にしたい。
「蓮華(れんげ)……」
 蓮華は素敵な笑顔の持ち主だった。彼女は、自分が体だけを残して消えてしまうなんて考えた事はないだろう。だが、この研究所にいる者達はそのためだけに彼女を育ててきた。蓮華のためにも、何としてでも実験を止めなければならない。
「ねぇ……」
 少女の声が聞こえて湊は顔を上げる。そこに、自分と同じ姿の少女が立っていた。体が白い光を発している。それを見た時、湊は彼女が生きた人間ではないのだと察した。
「小春さん、だよね?」
「そうだよ」
 少女は湊の問いかけに答えた。
 小春とは、若月の話で出た所長の娘の名前だ。今、湊の目の前にいるのは所長の娘の幽霊という事になる。
 小春は首をかしげて湊を見る。自分の名前を知っている事に疑問を感じているようだ。
「若月さんに教えてもらったんだ。所長さんの娘さんなんでしょう?」
「そうなの。お父さんを止めて欲しいの」
 そう言うと、小春はドアを見た。彼女がドアノブに手をかざすと、金属がかみ合うような音と共にドアのロックが解除され、ドアが少しだけ開いた。湊はそれを見て立ち上がり、ドアに近づく。
 小春の脇を通り過ぎる瞬間、湊は立ち止って彼女を見た。
「ねぇ、蘇りたいって思う?」
 湊の問いに小春は迷う事なく首を横に振った。
「君のお父さんは、君に会うために研究を続けている。それなのに、蘇りたくないんだね?」
「私は、蘇りたくない。お父さんには今、目の前にある幸せを見つけて欲しいと思う。今のお父さんは、すごく……悲しそう」
 それを聞いて、湊はゆっくり頷くとドアを開けた。外から光が差し込んでくる。
「所長さんは僕が止める。君の望みは、絶対に僕が叶えてみせる」
 湊は部屋から出る。彼は、強い決意と共に歩き始めた。

「やれ!《ヤサカノフカ》!」
 細長く伸びたクジラのような姿のクリーチャー《ヤサカノフカ》の効果で一真のシールドが破られる。だが、最後のシールドを破った瞬間、地面から現れた緑色のツタによって拘束される。カードの姿に戻った《ヤサカノフカ》はマナゾーンに飛んでいった。
「《ナチュラル・トラップ》!シールド・トリガーか……」
「これなら、《ヤサカノフカ》の効果は使えないだろう?」
 一真のシールド・トリガーによって切り札の効果を封じられた春間は不機嫌そうな顔で頭をかく。しかし、一真が不利な事に変わりはなかった。
 春間の場にいるクリーチャーは《ストーム・クロウラー》一体。シールドは一枚残っている。一体のブロッカーと一枚のシールドが彼を守っている。
 それに対して、一真のシールドは一枚も残っていない。クリーチャーは《マイキーのペンチ》だけだ。
「確かにシールド・トリガーで除去されてしまったら《ヤサカノフカ》の能力は使えない。しかし、まだ私の手札には別の《ヤサカノフカ》がある!お前の攻撃を全て受け止めて勝利してみせる!」
「その言葉、嘘はないな?」
 一真が低い声でそう言ったのを聞いて、春間は背筋に何か冷たいものが走るのを感じた。陸と敵対した時以上の恐怖が自分に襲いかかったのだ。
「なら、俺の切り札の攻撃を受け止めてみろ!召喚!」
 一真の場に緑色の細長い龍が現れる。龍の周りにはオレンジ色の球体がいくつも浮いていた。その姿を見て、春間は口を大きく開けて驚く。
「《緑神龍バグナボーン》だと!?」
「ああ、俺のお気に入りの切り札だ。俺がこれを使うって事、知らなかったのか?」
 《バグナボーン》が吠えると、周囲に浮いていたオレンジ色の球体の一つが破裂する。それと同時に地面がひび割れ、そこから炎が噴き出した。炎の中から、巨大な翼を持った黒いクリーチャー《衝撃のロウバンレイ》が現れる。
「《バグナボーン》は攻撃した時にパワー3000以下のクリーチャーをマナから出す事ができる。《マイキーのペンチ》の効果でスピードアタッカーになっているから、すぐにこの効果が使えるんだ!」
「ぐぅっ!《ストーム・クロウラー》!
 春間が《ストーム・クロウラー》の名を呼ぶと、最後のブロッカーがシールドの前に立ちふさがる。《バグナボーン》は目の前に現れた《ストーム・クロウラー》を噛み砕く。その脇から《ロウバンレイ》が飛んでくると、翼を振り下ろして最後のシールドを真っ二つに切り裂いた。春間が期待した表情で見るが、その中にシールド・トリガーはない。
「《マイキーのペンチ》でとどめだ!」
 《マイキーのペンチ》は春間の眼前まで走っていくと、大きくジャンプし、金属でできた頭で頭突きをした。それを受けて春間が倒れる。直接攻撃が通ったのを見て、一真はカードをデッキケースにしまった。
「く、そ……。まだだ!」
 そう言うと、春間は立ち上がった。《マイキーのペンチ》によって攻撃された額からは血が流れている。
「私は、理想の妹、湊ちゃんを抱き締めるまで倒れるわけにはいかない。あの子の笑顔を見ずに逝くわけにはいかない!」
 春間の足は震えていてまともに立つ事もできない。しかし、その目は強い意志の光に溢れていた。
「私が妹にしてやると言った時のあのはにかんだような顔が忘れられないのだ!待っていてくれ、湊ちゃん!今、お兄ちゃんが迎えに行くからね!」
 それを見た一真は言いにくそうな顔で言った。
「何か勘違いをしていないか?あんな格好をしているから判りにくいが、湊は男だぞ?」
 それを聞いて、春間は目を大きく見開き、一真を睨みつける。
「何を馬鹿な事を!あんなかわいい子が男のわけがない!嘘をつくなーっ!!」
 春間は力の限り叫ぶ。だが、一真はそれを聞いても首を横に振るだけだった。
「智里ーっ!」
 春間は、叫び声で智里を呼ぶ。突然、名前を呼ばれて智里は小動物のように体を震わせてから春間を見た。春間の目に宿る強い光を見て怯えた彼女に、春間は問う。
「湊ちゃんは男のわけがないよな?この馬鹿に教えてやってくれ」
 智里はそれを聞いて少し困ったような顔をすると
「あの子……男の子、だよ」
と、答えた。
「お前まで何を言っている!湊ちゃんはどこからどう見ても女の子で、理想の妹だ!」
「違う。念様……あたし達にちゃんと教えてくれたよ。あの子は男の子……って」
 それを聞いた春間の体が震える。そして、狂ったように笑い出した。
「はははははは!これは傑作だ!私は、何と男を追い求めていたのだ!笑わずにはいられない!」
 春間は髪をかきむしった後、両手を上に挙げる。
「許さん!私はこの世界を許さん!こんな世界、滅びてしまえーっ!!」
 絶叫と共に春間は倒れる。そして、怪人達と同じように爆発して消えてしまった。煙が消えた後に一真がそこを見ると、湊のために作ったというカチューシャだけがそこに残っていた。一真はそれを拾い上げると呟く。
「お前、人間みたいな奴だったな」
 そう言った後、一真は彩矢を見た。彼女の戦いも終盤に差し掛かっている。
「春間は負けちゃったけど……あたしは負けないよ。そーれ……」
 智里は《口寄の化身(シャーマン・トーテム)》を召喚する。彼女のバトルゾーンには他に金色の複葉機のようなクリーチャー《黙示聖者ファル・レーゼ》がいるので、三枚カードをドローした。
 《ファル・レーゼ》は攻撃できるが、智里は攻撃をしかけずにターンを終えた。今の彩矢のシールドは三枚。丁度《メサイヤ》のT・ブレイクで全てシールド・トリガーを使わせずにブレイクできる。このターン、攻撃するよりも次のターンまで待って攻撃をする方が賢明だ。
 智里のシールドも三枚残っていた。彩矢の場にそれを攻撃できるクリーチャーはいない。《メモリー・アクセラー》と龍の姿をして鎖がついた巨大なハンマーを持ったクロスギア《バジュラズ・ソウル》があるだけだ。これらのカードがどれだけ強力であっても、クロスするクリーチャーがいなくては効果を発揮できない。
「あれ?もしかして、絶体絶命?」
 彩矢は自分の置かれている状況を見てそう言った。智里の手札に《メサイヤ》がある事は判っている。次のターンで進化される前に、何としても進化元の《口寄の化身》を破壊しなければならない。
「破壊するのは楽。だけど、それだけじゃ駄目よね。やるからには、徹底的に!」
 彩矢の場に濃いオレンジ色の甲冑を来た龍が現れる。自分の場にあるクリーチャーよりも巨大なドラゴンの姿を見て、智里の顔に恐怖が浮かんだ。
「アタシの切り札の一つ《バザガベルグ・疾風・ドラゴン》よ。このクリーチャーはバトルゾーンに出した時、クロスギアを一つだけタダでクロスできるの!」
 彩矢がそう言うと、《バザガベルグ・疾風・ドラゴン》が雄叫びをあげる。その咆哮に呼応して、《バジュラズ・ソウル》がその背中に融合した。
「それだけじゃないの。スピードアタッカーで、しかも、タップされていないクリーチャーを攻撃できる!《口寄の化身》を攻撃!!」
 《バザガベルグ・疾風・ドラゴン》が彩矢の命令を受けて飛んだ瞬間、背中についていた《バジュラズ・ソウル》のハンマーが智里のシールドに向かって飛んでいった。
「だ……駄目っ!」
 智里が手を伸ばすが、ハンマーはシールドには触れなかった。しかし、その先にあるマナゾーンでハンマーは急降下し、二枚のマナの上に叩きつけられた。ハンマーに蓄えられていた熱によってそのカードは燃え尽き、墓地に飛んでいく。
「判った?《バジュラズ・ソウル》をクロスしていたクリーチャーが攻撃すると、相手のマナを二枚破壊できるのよ!」
 同時に《バザガベルグ・疾風・ドラゴン》の斬撃によって《口寄の化身》が真っ二つに切り裂かれる。
「そんな……。進化……できない」
 智里は進化元である《口寄の化身》を失っただけでなく、マナのカードも失ってしまった。《メサイヤ》を出すのに必要な七枚のカードを揃えていたのだが、二枚破壊された事で五枚になってしまったのだ。これではまだ進化できない。
 しかし、時間はまだ残っている。《バザガベルグ・疾風・ドラゴン》は強力なパワー故、バトルゾーンにいられる時間は限られる。ターンの終わりには手札に戻らなければならないのだ。その攻撃を耐え抜けば、智里にも勝ち目がある。
 智里は一枚目の《メサイヤ》をマナに置くと《進化の化身》を召喚して山札から二枚目の《メサイヤ》を手札に加えた。そして、《ファル・レーゼ》で攻撃を仕掛ける。《ファル・レーゼ》が突っ込んだシールドを手札に加え、彩矢の攻撃が始まる。
「そろそろどうにかしないとまずいわね。《バザガベルグ・疾風・ドラゴン》召喚!」
 《バザガベルグ・疾風・ドラゴン》は再び《バジュラズ・ソウル》をクロスすると今度はシールドに突っ込んだ。ハンマーの攻撃で二枚のマナが破壊され、刀の斬撃が三枚のシールドを切り裂く。すると、その中の一枚が緑色の光を発した。途端に、《バザガベルグ・疾風・ドラゴン》の体を緑色のツタが捉える。
「《ナチュラル・トラップ》!?まさか、こんなところで!?」
 予想外のシールド・トリガーによって彩矢の切り札はマナに押し込められた。それを見て、智里は一体のクリーチャーを召喚する。巨大な大砲を抱えたブロッカー《魔光王機デ・バウラ伯》だ。
「これで……スピードアタッカーが来ても、怖くない」
 智里が呟いた後、《ファル・レーゼ》が突進してシールドを破り、《進化の化身》が杖でシールドを殴る。これで、彩矢のシールドも0になってしまった。
 彩矢の手札には、別の切り札《ボルベルグ・クロス・ドラゴン》があった。《バザガベルグ・疾風・ドラゴン》のと同じように場のクロスギアをコストを支払わずにクロスできるドラゴンでスピードアタッカーだ。しかし、それでも《デ・バウラ伯》に止められてしまう。
「じゃ、こうするしかないか」
 彩矢は諦めたような顔で《ボルベルグ・クロス・ドラゴン》をマナに置く。それを見て智里の顔に笑みが浮かんだ。
「でも……勝負を諦めたわけじゃない!勝つのはアタシよ!」
 彩矢の声と共に、場に一体のドラゴンが現れる。赤い甲冑に二本の刀を持った彩矢の切り札《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》だ。
「それで……終わり?召喚酔い……してるよ?」
 智里は首をかしげながら彩矢に訪ねる。彩矢の三体ある切り札の内、《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》だけはスピードアタッカーではない。このターンに攻撃できないのだ。
「切り札を見せるだけだったら……意味ないよ」
「いや、意味はあるわ。召喚酔いなんか、解除してやるもの!」
 《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》の隣に赤いファイアー・バードが現れる。《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》の兜によく似た角飾りをつけた赤い鳥《ボルット・紫郎・バルット》だ。《ボルット・紫郎・バルット》が《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》の周りを飛ぶと、《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》の体が赤い光に包まれて動き出す。右の刀が智里を狙って振り下ろされた。
「《デ・バウラ》!」
 智里の命令を受け、《デ・バウラ伯》が立ちふさがり、その巨体で刀を受け止める。その体は刀を受け止めた衝撃で地面に倒れた。
「そんな……。何で……?」
「《ボルット・紫郎・バルット》の効果よ」
 《ボルット・紫郎・バルット》には二つの効果がある。一つは、場に出た時に山札からクロスギアを呼び、手札に加える能力。もう一つは、《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》をスピードアタッカーにする能力だ。
「でも……《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》の攻撃は耐えた。これであたしの――」
「いいえ!アタシの勝ちよ!」
 智里が顔を上げると、《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》が自分に向かって左の刀を振り下ろしていた。もう彼女の場にブロッカーはいない。
「《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》は二回攻撃できるのよ!」
 智里が、彩矢の説明を聞き、目を閉じて頭をかばった瞬間、《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》の刀が叩きつけられた。それを見て、彩矢はカードを全てデッキケースにしまう。
 軽く深呼吸をした後、一真に向かって歩き始める。
「一真さん、征市さんが心配だから、こっちも急がないと!」
「ああ、そうだな」
 一真はそう答えた後、慌てて口を開く。
「彩矢、後ろだ!」
 彩矢が驚いて反射的に振り向くと、智里が起き上がって襲いかかってきた。彩矢の両肩をつかみ、口を開く。
「いただき……ます」
 その口が彩矢の首筋を狙った瞬間、彼女は智里を突き飛ばした。勢いよく倒れた智里は赤く発光すると怪人達と同じように爆発した。
「大丈夫だったか?」
 彩矢は、一真の言葉を聞いて自分に何が起こったのか理解した。智里は最後の力を使って、彩矢の喉を食い千切ろうとしたのだ。
 彩矢は腕をさすりながら一真を見ると
「大丈夫ですってば!アタシってば、世界一強い女の子なんだもん!」
と、言って建物に向かった。一真も後を追う。
 走りながら、彩矢は一度振り返った。そして、呟く。
「バイバイ。人造デュエリストさん達」

「《ボルシャック・大和・ドラゴン》で浅田十也にとどめだ!」
「そうはいかないのだ!《パルピィ・ゴービー》でブロックなのだ!」
 征市の《ボルシャック・大和・ドラゴン》が十也のブロッカーを真っ二つに切り裂いた。
「強いのだ!さすがは俺のライバルなのだ!」
 十也はそう言って喜んでいるが、彼のバトルゾーンには、《ヴァルドリル》が一体いるだけだ。シールドは一枚も残っていない。
 それに対して、征市はシールドが二枚残っていて、場には切り札の《ボルシャック・大和・ドラゴン》がいる。どちらが有利なのかは明らかだった。
「征市君、強いよ!これなら、勝てるね!」
「当たり前だ」
 征市は前髪を指ではらった後、十也を見た。既に負ける寸前まで追い込まれているのに彼は笑っている。彼がカードを引いた瞬間、念が口を開いた。
「十也。俺が許す。相羽の孫を倒せ」
 それを聞いて征市は自分の耳を疑った。絶対的に不利な状況の十也を見て、念は征市を倒せと命じたのだ。十也もその命令に反発する事なく
「もっちろんなのだ!というより、旦那がやるなって言ってもやるのだ!今から、俺の切り札でやっつけるからよく見ていて欲しいのだ!」
と、笑顔で言ってマナを七枚タップする。
「征市、お前は確かに強かったのだ。でも……」
 十也のバックルにマナが集まる。その瞬間、征市は言いようのない恐怖を感じた。
「俺が活躍するための準備は終わったのだ。だから、見ているのだ。俺の究極変身!!」
 十也がカードを投げるとそれが《ヴァルドリル》に突き刺さる。それにより、《ヴァルドリル》の体は炎で覆われた。
「進化クリーチャー!?」
「いや、もっとすごい究極変身なのだ!」
 炎の中から巨大なクリーチャーが姿を現す。両肩には火山を模したような大砲があり、体全体はマグマでできたような巨人が現れる。
「《神羅マグマ・ムーン》。これが俺の切り札なのだ!行っけー!」
 十也に命じられて《マグマ・ムーン》は腕を振り上げると、《ボルシャック・大和・ドラゴン》に向かって振り下ろした。《ボルシャック・大和・ドラゴン》は刀でそれを受け止めようとするが、サイズに違いがありすぎて潰されてしまう。
「おっと、《マグマ・ムーン》の効果はこれだけじゃないのだ。まずは、三なのだ!」
 十也がそう言って《マグマ・ムーン》にカードを投げる。カードは《マグマ・ムーン》に吸収された。《マグマ・ムーン》は腰を低くすると、両肩の大砲を撃った。片方から《ピーカプ》が現れる。
「《マグマ・ムーン》は俺のクリーチャーが攻撃する時、俺に数字を選ばせる。山札をめくって選んだ数字と同じコストのクリーチャーだったらタダで出せるのだ!」
「なんだって!?」
 それを聞いて、征市は《アクア・ベララー》や《パルピィ・ゴービー》を召喚していた理由や「準備は終わった」という言葉の意味を理解した。《アクア・ベララー》や《パルピィ・ゴービー》で山札の上のカードをあらかじめ知っていれば、数字を選ぶ時にミスをする事はない。間違いなくクリーチャーを出す事ができる。
 《ピーカプ》が征市のシールドを狙って飛び出した。十也は今度、四の数字を選んだ。すると、《マグマ・ムーン》の大砲から《ヴァルドリル》が現れる。
「《マグマ・ムーン》の能力は、こいつ以外のクリーチャーが攻撃した時にも使えるのだ。《ヴァルドリル》でシールド攻撃!そして、数字は三!」
 《ヴァルドリル》のドリルが征市の最後のシールドを貫き、《マグマ・ムーン》の大砲からは二体目の《パルピィ・ゴービー》が現れた。効果で十也は自分の山札の上のカードを五枚見ると好きな順序でそれを並べる。
「さあ、どうするのだ、征市。次のターンで俺が勝っちゃうのだ!」
 十也はその場で跳びはねながら征市に言う。征市はそれを聞きながらカードを引いた。そして、静かに笑う。
「確かにお前の切り札はすごい。だが、俺の切り札も負けてないって事を教えてやる!」
 征市がマナのカードを七枚タップする。そして、その中の二枚と手札にあるカードを場に向かって投げた。その三枚が重なる瞬間、強烈な光がその場を照らした。
「うわっ!まぶしいのだ!」
 十也は一度、腕で顔を隠し、目を保護する。光が収まってから場を見ると、そこには炎の鳥の体に要塞が融合したようなクリーチャーがいた。
「俺の切り札《超新星アレス・ヴァーミンガム》だ。進化クリーチャーだから召喚酔いはない!」
 征市の《アレス・ヴァーミンガム》が十也に大砲の照準を合わせていた。それを見ても十也は余裕らしく、笑顔で征市を見ていた。
「征市!強いけれど、お前は俺に一歩及ばなかったのだ!《アレス・ヴァーミンガム》は進化クリーチャーだから召喚酔いしないのはよく判るのだ。でも、俺には《パルピィ・ゴービー》がいるのだ!《アレス・ヴァーミンガム》の攻撃をブロックするのだ!」
「そんな奴、もう動けねぇよ!」
「へ?」
 征市に言われて十也は自分の場を見る。よく見ると、《パルピィ・ゴービー》が真っ黒い灰になっていた。
「一体、何があったのだ!?訳が判らないのだ!」
「《アレス・ヴァーミンガム》のメテオバーンだ!こいつは進化元のカードを捨てる事で相手の3コスト以下のブロッカーを全て破壊できる!《アレス・ヴァーミンガム》、とどめだ!!」
 《アレス・ヴァーミンガム》の二門の大砲が十也を撃つ。十也はその勢いで吹き飛ばされた。
「嘘なのだぁぁぁーっ!!」
 叫び声と共に吹っ飛んだ十也は、休憩所に面した海に落ちた。大きな水柱が上がる。
「嘘じゃない。『ウソのようなホントウ』って奴だ。さてと……」
 征市は、一度カードをデッキに片づけると念を見た。念は腕組みを解き、デッキケースを取り出していた。
「俺に負けてから少しは強くなったようだな」
「少しなんてものじゃない。どれくらい強くなったのか、今から教えてやるよ!」
 征市と念は互いにシールドを並べて睨み合う。今、征市のリベンジが始まろうとしていた。

 『File.37 父と娘』につづく
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