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『コードD』File.38 始まる究極との激突

『コードD』
 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 十也(じゅうや)を倒した征市(せいいち)の前に、再び、念(ねん)が立ちふさがる。征市は彼との戦いを思い出し、プレッシャーに押し潰されそうになるものの、彩弓(あゆみ)のアドバイスを受けて勝利。しかし、念は直接攻撃を受け止め、その場を去った。その後、一真(かずま)達と合流した征市達は湊(みなと)がいる放送室に向かった。
一方、菜央(なお)と陸(りく)の戦いも苛烈を極めていた。ナタリーの事を考えながら戦う陸は、切り札を出して菜央を追い詰める事に成功する。しかし、偶然現れたナタリーの幻によって説得され、菜央のシールド・トリガーによって敗北した。
 放送室には蓮華(れんげ)を追った柳沢所長が現れる。所長は、全によって改造され、デュエリストとして戦う能力を身に着けていた。湊は蓮華をかばうようにして立ちながら、所長と戦い、説得し続ける。命を奪って小春(こはる)を蘇らせようとする所長とそれに反対する湊の戦いは、湊が制した。それでも諦めきれない所長の前に、小春の魂が宿った蓮華が立つ。実の娘に説得され、所長は涙を流して娘を抱きしめるのだった。
 戦いを終えた征市達の前に陸が現れ、まだ完全に納得できていない事を伝える。そして、彼は敵の攻撃から仲間を守り、金色の像になってしまう。そこへ現れる全(ぜん)。そして、彼の隣にいる黒いマントの男。長く伸びた金髪にマントから出た金色の鎧が目立つその男は、全が生み出した究極生命体だというのだ。

  File.38 始まる究極との激突

 突如、現れた敵を見て、征市の中にいくつかの感情が生まれていた。
 最初に湧き上がってくるのは怒り。止め処のない怒りが抑えようという意思に反発して暴れている。目の前で陸と彩矢(あや)が金色に変えられているのだ。仲間を傷つけられて怒らない訳がない。彼は今も両の拳を握りしめ、必死に自分の中の怒りを押しつけている。
 次に出てくるのは、恐怖だ。敵は、どんな方法で陸と彩矢を金色に変えたのか。その方法が理解できずに、敵を恐れていた。
 魔法を使った事くらいは征市にも理解できる。しかし、征市達デュエリストは魔力をデュエル・マスターズカードで身にかかる危険を防ぐ事ができる。それが、自分で認識できないほどのスピードで飛んでくる銃弾であっても、カードが自動的に主を守るのだ。敵が攻撃魔法を使ったとしても、カードが彼らを魔法から守らないはずがない。デュエリストをデュエル・マスターズ以外の方法で倒す事など、不可能に等しい。
 二つの感情が激しく暴れながら最後に生まれるのは、落ち着いた気持ちだった。怒りや恐怖が感情の一部を支配しても、冷静さがそれらを上回る勢いで頭脳をクールダウンさせていく。冷静でなければ、敵は倒せない。相手を知る事から全てが始まる。
「彩矢!しっかりしてよっ、彩矢ーっ!!」
 目の前で妹が金色に変わってしまったのを見て、彩弓が涙を流しながら彩矢に駆け寄る。
 菜央も同じように感情をむき出しにして陸に近づきたかったが、それをこらえた。トライアンフのリーダーとして、自分の感情だけを優先できない。陸もそれは望まないだろう。まず、敵の攻撃の正体を知り、金色になった二人を元に戻す。陸に近づき、感情を吐露するのは敵を倒してからだ。
 一真も湊もやらなければならない事は理解できている。疲弊していたものの、戦う意思までは折れていない。
 トライアンフメンバーの闘志に気付き、全は彼らの意思を鼻で笑った。
「馬鹿ねっ!究極なのよ、究極っ!あんた達みたいなデュエリストが勝てる訳ないでしょっ!」
「気に入らないな……」
 全が喚いた後、究極生命体が一歩、前へ出る。それを見て一真達はデッキを手に取って警戒した。征市は、泣いている彩弓の手をつかんで自分の近くに引き寄せる。
「戦う気なのっ!?生意気なっ!本当に気に入らない連中だわっ!」
「違う」
 究極生命体は、全を横目で見ると彼の言葉を否定した。
「気に入らないと言ったのは、我の名だ。究極生命体などという言葉は、名前にふさわしくない」
 そう言って、究極生命体は金色の右手で空を指した。
「我は、ヴェルナー。ジェネラル・ヴェルナーとでも呼んでもらおう」
 ヴェルナーと名乗ったその男は、空に向けていた右手を征市達に突き付ける。挑発的な仕草から驕りのようなものは感じられない。念と同じように、自分の力に自信があるような自然なものだった。
「征市君……!」
 彩弓が後ろから征市の手を握る。彼女の声に怯えの色はない。彼女も、征市の手を握る事で、自分の感情を抑えようと必死なのだ。
「菜央、どうする?このまま、こいつを倒すのか?」
「いえ、相手の能力が判らない以上、迂闊に飛びこむのは危険です。ここは一度退いて、作戦を立て直しましょう。尤も――」
 菜央は征市と話しながら、横目でヴェルナーを見る。彼の目はずっとトライアンフのメンバーを見ている。逃げようという素振りを見せたら、その場で金色に変える攻撃を仕掛けてくるだろう。
「うまく逃げられるとは限りませんが」
「逃げたければ逃げればいい。我から逃げられるかな!?」
 ヴェルナーの声と共に、金色の鎧に覆われた彼の右手から光線が発射される。瞬く間に光線はトライアンフメンバーを包み、彼らを金色の像に変えてしまった。
「やったわっ!これで、トライアンフは全滅よっ!」
 全が、その場で飛び上がりながら手を叩いて喜ぶ。しかし、ヴェルナーだけは不服そうな顔をして金色の像になった彼らに近づく。
「気に入らないな」
 そう言うと、ヴェルナーは征市の像をノックするような仕草で軽く叩いた。すると、像は簡単に崩れ、中から金色になったチェス駒のポーンが転がって来た。ヴェルナーはそれを拾い上げた後、菜央と彩弓の像も叩く。その二つも同じように砕けて、中からチェス駒が出てきた。
「チェス駒のプライズ!まさか、あの裏切り者がっ……!」
 全の脳裏に一人の女性の姿が浮かぶ。元々、彼らと同じ魔道書同盟の一員だった真実だ。彼女はチェス駒のプライズを所持していて、それに魔力を込める事で人の形に変える事ができる。幻も同じようにチェス駒のプライズを持っているが、彼が征市達を助けるためにそれを使うはずがない。
「きーっ!もうちょっとでトライアンフが全滅だったのにっ!許せないわっ!」
「喚くな。うるさいぞ」
 ヴェルナーは全を睨みつけて注意する。そして、チェス駒を握り潰すと、研究所の出口に向かって歩き始めた。
「どこへ行くつもりなのっ!?」
「我は自分より身分の低い者に行き先を告げるつもりはない」
 それだけを告げ、ヴェルナーは研究所を出た。全は、それを追いかけない。そこへ、幻とジャロールがやって来る。彼ら二人を見た全は
「うまく行ったわね」
と、言った。
「トライアンフの二人が逃げたのは問題だけれど、大した事じゃない。あの二人はもう一度ヴェルナーに挑むだろうね」
 幻は、トライアンフにいた時の事を思い出す。菜央ならばこの強敵を放置するはずがない。それを知っているから、彼は静かに微笑んだ。
「ヴェルナーがトライアンフに勝っても負けてもうまく行く。面白い作戦だ」
 ジャロールは感心したような顔で笑うと、彼らの横を通った。それを見て、全が声をかける。
「あら?もう行っちゃうの?」
「死者を蘇らせる研究も究極生命体を生み出す方法も見せてもらったし、協力もした。これからは僕の時間さ。結果は次に会った時に聞かせてもらうよ」
 ジャロールはそう言って去る。去り際に
「次は、僕を不老不死にしてくれよ。そういう約束なのだからね」
と、念を押すように言って。
「とことん不老不死にこだわる、か。面白い人間だ」
 幻はそう言うと、ヴェルナーやジャロールの後を追うように研究所の出口に近づいた。全も一緒に歩く。
「念は教会に送っておいた。ヴェルナーの行く手は僕が追うから、君は準備を頼むよ」
「判ったわっ!」
 幻は歩きながら、自分の頬に手を当てる。顔がゆるむのを止められない。
トライアンフはこの大きな作戦の全貌に気付いてはいない。彼らはヴェルナーを倒す事だけを考え、その目標が達成された時、作戦について考えるのを中断するだろう。その時が最大のチャンスだ。彼らが気付いていないところで、仕上げをするのだ。
「死者を蘇らせる研究ばかりに気を取られてヴェルナーに気がつかなかった奴らだ。僕らの狙いに気付く訳がない。……ヴェルナーだって何も気付いていないんだからね」
 冬の太陽が、幻の邪悪な笑顔を照らした。

 征市、菜央、彩弓の三人は移動する車の中にいた。動いている事に気がつかないような静かな車に三人は疲れた体を預けていた。車内は広くなっていて、三人と向かい合うように真実が座っている。真実は三人を見ながら
「何か飲みますか?」
と、聞いてグラスを持った。
「お前、金持ちだったんだな。俺、二度とこんな高級車に乗る機会はないと思うぜ」
 征市はジョークを飛ばしてからグラスを受け取る。菜央もグラスを受け取ろうと右手を伸ばしたが、その指先が少しずつ金色に変わるのを見て、手を止めた。
「菜央……」
「大丈夫です。陸君が変わったのに比べたら、非常に遅い速度での変化です」
 菜央は震える右手を抑えながら征市にそう言う。そして、真実を見た。
「あなたが魔道書同盟の一員だという事は相羽さんだけじゃなく、陸君からも聞いています。しかし、何故、私達を助けてくれるのですか?ジャバウォックの時だけでなく、今回も……。私にはあなたが魔道書同盟と敵対しているように思えます」
「思える、ではなく、敵対しているんですよ」
 真実はそこではっきりと敵対という言葉を使った。魔道書同盟に属していたはずの彼女が言い切った事が、菜央は不思議に思えた。
「そんなにはっきりと断言していいんですか?仮にも仲間だったはずでしょう?」
 その疑問を解決するために、菜央は真実に問いかける。真実はすぐにその疑問に答える。
「少なくとも、魔道書同盟の者達は今の私を仲間だと思っていないでしょう。それに、私も……」
 歯切れのよい言葉で返していく真実だったが、そこで少し迷う。それから、こう答えた。
「私も、彼らの仲間ではありません。幻のようにあなた達を騙しているという訳でもありません」
 菜央が一番警戒していたのはそれだった。征市や湊とは違い、一年以上前からトライアンフのメンバーだった菜央は協力者の振りをした敵対者を最も警戒している。そのため、協力的な立場の人間は疑うようにする癖がついているのだ。元魔道書同盟だというなら尚更である。
陸は彩弓に真実を信じるように説得されていたが、菜央はまだ信じる事ができなかった。真意を探るために次の言葉を選んでいると、今度は真実が口を開く。
「今は、私が信じられるかどうかよりも、ヴェルナーを倒す事の方が大切でしょう。私はあの男の攻撃の正体を知っています」
「それ、本当なのか!?」
 真実が告げた事実に征市達は驚愕する。ヴェルナーを攻略する上で一番の問題が人を金色に変えるあの光線だ。あれの正体が判っていれば、戦う方法も見つかる。
「恐らく、私だけでなく魔道書同盟にいた者なら誰もが知っているはずですよ。あの男は、私達にとっても因縁のある相手ですから」
「どういう事なんだ?」
 征市は真実の話が理解できずに問いかける。その横で菜央が口を開いた。
「ジェネラル・ヴェルナー。何世紀も前に、魔法を駆使して様々な国を攻めていった将軍ですね?」
 菜央の言葉に真実は頷く。
「かつて、私達魔道書同盟が作られた国もヴェルナーによって滅ぼされました。彼は私達によって仇のような存在です」
「だったら……だったら何で全の奴はヴェルナーを蘇らせたんだ!?いや、奴を元に新しい怪人を作ったのかもしれないけれど、それにしてもヴェルナーをそのままそっくりコピーするような事をしなくてもいいじゃないか!」
 真実の話を聞いて征市の頭に浮かんだ疑問はそれだった。征市ならば、強敵を倒すためとはいえ、自分にとって憎い仇の力を借りる事などできない。それは、陸が魔道書同盟を倒すためにジャロールの力を借りるようなものだ。理解ができなかった。
 しかし、菜央には理由が判るらしく、頬に手を当てながら考えている。そうしている間にも、少しずつ金の浸食は進んでいた。
「ヴェルナーがデュエル・マスターズを生み出した魔法使いだからでしょうか?」
「そうかもしれませんね」
 菜央の質問に、真実が教師のように答える。それを聞いて征市は目を丸くしていた。
「ちょっと待て!あの男がデュエル・マスターズを作ったって本当か!?」
 真実は征市の問いに頷き、解説を始める。
「当時、ヴェルナーは己のあり余る魔力を充分使えるような武器の開発を進めていました。今までの武器よりも効率よく敵を倒し、防御の時は絶対の盾となる武器。それがデュエル・マスターズカードです」
 デュエル・マスターズカードは魔力を込める事で魔力の光線を撃つ銃のように扱う事ができる。それだけでなく、様々な攻撃を自動的に防ぐ盾としての役割も果たす。征市は、映画の中の世界での出来事だったとはいえ、至近距離から撃たれた戦車の弾を受け止めた事があるのだ。昔の兵器が相手でも、鉄壁の防御力を誇るだろう。
「尤も、最強と言われたデュエル・マスターズカードにもヴェルナーしか使えないという弱点がありました。扱うのが難しく、当時の魔法使い達では使う事ができなかったのです。それから、長き時を経て改良を加えられる事で多くの魔法使いが使えるものになりましたが、当時はヴェルナーだけが使える専用の武器でした」
 征市は、ふいに自分のデッキを見る。今、自分が使っているのは使いやすく改良されたデュエル・マスターズカードだ。ヴェルナーと自分の間に、それだけの実力の差がある事を知らされてショックを受けた。
「話をヴェルナーの能力に戻します」
 真実の言葉を聞いて、征市の意識はデュエル・マスターズカードからヴェルナーの能力に移る。
「ヴェルナーの人を金色の像に変える能力は、昔から持っている能力です。彼は、自分が攻めた場所の人間を一人残らず金色の像に変えていきました」
「ひどい……!ひどいよ!」
 今まで話について行けずに黙っていた彩弓もそこで反応する。征市も、それは許せないと感じていた。
「金色の光を浴びた人は、金色の像に変わってから約半日で完全に物質と化してしまいます。それまでにヴェルナーを倒せれば――」
「そうすれば、陸達は元に戻るんだな?」
 征市の力強い問いかけに、真実は静かに頷く。その言葉だけで充分だった。征市は真実を見ると
「一度、山城公園に向かってくれ。二人を降ろす」
と、言った。
「相羽さん?まさか、一人で行くつもりですか!?」
 菜央の問いかけに征市は答えない。答える事なく、彼は自分の要求だけを告げる。
「菜央、彩弓。山城公園で降りたら、トライアンフの事務所か俺の家に逃げろ。それなら、魔法による金色の浸食も収まるかもしれない」
 征市はそう言うと「これ、俺の家の鍵」と、キーホルダーがついた鍵を彩弓に渡す。
「駄目だよ、征市君!さっきの真実さんの説明聞いてたでしょ!?あのヴェルナーって奴、ものすごく強いんじゃないの!?」
「真実!」
 征市が苛立たしげに言う。真実は静かな声で
「今、着きました」
と、言ってドアを開けた。征市は押し出すようにして二人を降ろす。
「征市君!」
「相羽さん!」
 征市はドアを閉める前に一度だけ二人を見る。そして、溜息のように息を吐き出すとこう言った。
「そんな顔するなよ。俺は今から強敵を倒して帰ってくるんだ。今の俺だったら、ヴェルナーにも負ける気はしねぇよ。念にだって、ちゃんと勝ったんだぜ?見てただろ?」
 征市のすぐ近くで戦いを見ていた彩弓はゆっくり頷く。それを見た征市は満足そうに笑った。
「だから、俺を信じろ。絶対に勝って帰ってくる。だから、もっといい顔で送り出してくれよ」
 菜央と彩弓は戸惑い、顔を見合わせる。そして、征市の顔を見て彩弓が先に口を開いた。
「本当に勝って帰ってきてくれる?ここにいるみんなを守ってくれる?」
「もちろんだ。それが俺の……トライアンフ、相羽征市の仕事だからな」
「相羽さん」
 次に、菜央も声を出した。無理に笑顔を作ろうとしているが、表情がぎこちない。
「必ず帰ってきて下さい。トライアンフのリーダーとしてあなたに命令します」
「OK、リーダー。絶対に帰ってくるぜ!」
 征市はそう言うとドアを閉めた。
「絶対だよっ!絶対に帰ってくるっていう約束だからねっ!」
 ドアを閉め、車が動き出す瞬間、彩弓の声が聞こえる。
 ヴェルナーを倒して帰って来られる保証はない。しかし、今、ヴェルナーと戦える人間は他にいない。征市は決意を噛みしめると真実を見た。
「勝てる保証はないとしても、奴の攻撃を止める方法はあるんだろ?だから、奴の攻撃を受け止めて俺達を逃した。違うか?」
「それで正解です」
 征市の予想は当たっていた。攻撃を止める方法さえあれば、戦う事だってできる。
「しかし、受け止めるとしても限度があります。あの場でヴェルナーから征市さん達を逃がせたのは、征市さんの受け止める力が強かったからなのです」
「俺の力が強かった?」
 おうむ返しのように呟く征市に、真実は一枚のデュエル・マスターズカードを見せる。
「征市さんもご存知のように、デュエル・マスターズカードを持つデュエリストは、カードが様々な危険から自動的に身を守ってくれます。しかし、受け止められる力にも限度があります。魔法に関係のない物理兵器なら、ある程度巨大なものでも受け止める事が可能です。しかし、強大すぎる魔力は受け止めきれずに限界が来てしまうのです」
「じゃ、陸や彩矢が受け止めきれなかったのは、あいつらの魔力がヴェルナーに負けたからなのか?」
「そうです。それともう一つ」
 真実は、そこで言葉を区切ると窓を見た。そこから、二人を降ろした山城公園を見ている。
「彩弓が近くにいたから。だから、たくさんの戦いで消耗していたはずの俺の魔力が回復していたんじゃないのか?」
 征市が口にした仮説を聞いて、真実の目が揺れ動く。それから数秒して、彼女は首肯した。
「知っていたのですか?」
「今日、柳沢研究所の中でそれに関する資料を少しだけ見たよ。彩弓を降ろしたのは、戦いに巻き込みたくなかったってのもあるけれど、それ以上にこの話を聞かせたくなかったんだ」
 征市はあの資料に書かれていたショッキングな事実を思い出す。兵器として作られた自分の存在への戸惑いが消えた訳ではない。しかし、今はその力によって大切なものを守ろうとしている。奇妙な感触だった。
「俺の魔力による防御がうまく行っていたから、近くにいた菜央と彩弓も助かった。だが、菜央だけは完全に防ぎ切れなかったんだな」
「今、自分を責めても仕方がありませんよ。問題はこれからどうやって倒すか、それだけです」
「判ってる」
 征市は真実が策を話すのを待った。しばらくして彼女の口が開き、征市はその策に耳を傾けていった。

 未来地区の中は地獄に変わっていた。その中に人の姿はなく、全て金色の像に変わっていた。ヴェルナーは屈強な警備員の一人を蹴り倒すと、その上に座る。
「命乞いをした者を金に変え、その上に座る。非常に心地良い。王者のみが味わえる最高の快楽だ」
 そう呟いたヴェルナーは腹の底から笑う。彼以外の存在はなく、BGMだけが場違いに明るい音楽を流す中で彼は笑い続けていた。
 ふいに物音が聞こえてヴェルナーは笑うのをやめる。彼の目に映ったのは、兄妹らしき二人の子供だ。体中が恐怖で震えている。そのせいで近くに転がっていたペットボトルに足が触れ、ヴェルナーに気付かれてしまったのだ。
 兄は震えながら、足を前に出す。妹をかばうようにして立つと両手を横に大きく伸ばした。
「気に入らないな」
 震えながら、妹を守ろうとする彼の行動をヴェルナーは鼻で笑う。そして、その表情に少しずつ怒りの炎が宿っていった。
「気に入らない。弱き者は強き者の糧となればいい。無様な顔で泣き叫び、命乞いをしろ。それが貴様ら、弱き者達に許された行動だ!」
 ヴェルナーは右手を伸ばし、二人に向かって金色の光線を放つ。その瞬間、兄の恐怖が限界を超え、彼は目を閉じた。
「ぬ……?」
 指先をつたう奇妙な感覚にヴェルナーは眉をしかめた。金色の光線は、対象を金に変えたら消えるはずだ。しかし、手を伸ばして目を閉じた兄は金色に変わる事がなかった。ヴェルナーの指に、押し返すような力が加わる。
「我の邪魔をする者がいるのか。誰だ!」
 ヴェルナーは叫ぶのと共に、光線の出力を少し弱めた。金色の光線は細くなり、それを受け止めている者の姿が見える。
 デュエル・マスターズカードでヴェルナーの光線を受け止めているのは、真実だった。額に丸い汗を浮かべて防御に集中している。兄が目を開けたのを横目で確認した真実は
「早く逃げなさい!」
と、鋭い声で注意する。そして、すぐに意識をヴェルナーに戻した。兄は、訳が判らずにしばらく驚いた顔をしていたが、真実によって助けられた事を理解し、妹の手を引いて逃げ出した。
「それはデュエル・マスターズカードだな。この時代の魔法使いは、我と同じ力を使うのか。面白くないな!」
 ヴェルナーの光線の出力が上がり、真実の足が数センチ後ろに動く。ヴェルナーは舌打ちをすると、光線を出したまま真実に近づいていった。
「お前の作戦は理解した。我がこの光線を出している時は、他の魔法が使えない。故に、体を張って光線を止めたのだろう?だが、失敗だったな」
 ヴェルナーの左腕がマントの中から現れる。右腕とは違う銀色の鎧に包まれた左手には大きな刃のナイフが握られていた。
「我の光線を受けるのに魔力を集中して、デュエル・マスターズカードでの防御はできないだろう?ならば、これで心臓を突いてやれば良い。愚か者の浅知恵で我に対抗したのが間違いだったな!」
 真実とヴェルナーの距離が一メートル近くまで縮まった時、ヴェルナーはナイフを振り上げる。真実はそれから目を逸らした。ヴェルナーの顔に勝ち誇ったような笑みが浮かぶ。
 その瞬間、二条の赤い光弾がヴェルナーを襲った。
 一つは右腕を覆う金色の鎧を撃ち、もう一つは左手に持っていたナイフを弾いた。ヴェルナーはうめき声を挙げて右腕を押さえる。その手から、もう金色の光線は出てこない。
「くそっ!光線が出ない!我にこんな屈辱を与えるとは許せん!出て来い!」
「お前に言われなくても、すぐに出てってやるよ」
 その声の主は落ちていたナイフを左手で拾い、右手には革製のデッキケースを持っていた。炎のように赤い真紅のブレザーを着た姿を見て、ヴェルナーは思い出す。その青年は、自分の前から逃げた獲物の一人だ。
「お前は、我の前から逃げた者の一人か!」
「戦略的撤退って言って欲しいな。あそこで逃げてから、今、お前の光線を止められただろ?」
征市に言われて、ヴェルナーは右腕の鎧を外し、その場に叩きつける。
 真実はヴェルナーが金色の光線を出すのに右腕の鎧が必要なのを知っていた。それだけでなく、光線が出ている時のヴェルナーの弱点も把握していたのだ。
「お前の光線は出力を弱めて広範囲を狙う事も、出力を強めて狭い範囲を狙う事もできる。出力の調整で色々な敵を相手にできる訳だ。尤も、お前がいた時代では、その攻撃を止められる奴がいなかったみたいだけどな」
 征市は解説しながらナイフを近くのゴミ箱に投げ入れた。そして、デッキケースからデッキを取り出しながらヴェルナーに向かって歩く。
「お前の光線の弱点は、お前が言ったように光線を出している間は他の魔法が使えない事だ。完全に無防備になると言ってもいい。だから、誰かが攻撃を受け止めてその隙に攻撃をすればいい訳だ。単純な作戦だけど、うまく行ったぜ」
 征市はそう言って真実を見る。
 征市も最初にこの作戦を聞いた時は反対した。ヴェルナーの仲間がいたら、光弾による奇襲を防がれる可能性があるからだ。しかし、ヴェルナーはプライドが高いため、仲間を連れて歩かない事を真実は予測していた。結果、真実の予想通り、ヴェルナーは一人で多くの人を金色の像に変えていた。
「貴様……!これで終わったと思うなよ!」
 ヴェルナーは懐から金色のデッキケースを取り出す。そこからデッキを抜き出すと、持っていたデッキケースを投げ捨てた。征市の前に赤、ヴェルナーの前に金色のシールドが現れ、デュエルが始まる。
「《フェアリー・ライフ》!」
 最初に動いたのは征市だった。彼が呪文を唱えるのと共に、場の中央にさわやかな風が吹き、明るいメロディが流れる。
 対して、ヴェルナーは山札の上を手刀で切るような動作でカードを引く。そして、金色の人型ロボットが現れる。左手に盾を、右手に槍を持ったそのロボットの装甲の隙間から青い光が噴き出した。それを見て、征市の目に一瞬、鋭い光が宿る。
 そのクリーチャーの名は《王機聖者ミル・アーマ》だ。呪文のコストを1下げるブロッカーだ。小型のブロッカーだが、クリーチャーにもシールドにも攻撃できる。非常に性能の高いブロッカーなのだ。
「だったら、こっちもコストを下げるクリーチャーだ!《コッコ・ルピア》召喚!」
 炎と共に、オレンジ色の羽が生えた小鳥のようなクリーチャーが場に現れる。ドラゴンのコストを2も減らす《コッコ・ルピア》だ。征市が使うドラゴン中心のデッキで何度も活躍している。
 ヴェルナーは《コッコ・ルピア》を睨むが、妨害できず、《サイバー・ブレイン》でドローするだけでターンを終えてしまった。征市はこのチャンスを見逃さなかった。
「一気に叩き斬る!《ボルシャック・大和・ドラゴン》召喚!」
 征市が投げたカードから炎と共に甲冑を着て日本刀を構えたドラゴンが飛び出してくる。征市の切り札《ボルシャック・大和・ドラゴン》だ。《ボルシャック・大和・ドラゴン》は《ミル・アーマ》の横を跳び、刀で二枚のシールドを斬った。二枚のシールドの欠片はカードへと変化し、ヴェルナーの手札へ戻った。
「《コッコ・ルピア》からうまくつないできたか。ならば、足元を崩す!」
 ヴェルナーが場にカードを投げ、そのカードから黒い煙が噴き出す。真っ黒なその煙が《コッコ・ルピア》を包んだ瞬間、かん高い悲鳴が聞こえた。煙が晴れた時、そこには地に落ちたオレンジ色の羽根と一枚のカードだけが残っていた。
「《デス・スモーク》か」
「そうだ。《コッコ・ルピア》のように場にいる事で効果を発揮するクリーチャーは動かない事が多い。そういうクリーチャーにはこれが効くからな」
 ヴェルナーはそう言って低い声で笑う。そして、それに呼応するかのように彼の手札のカードが一枚、場に飛び出した。
 場に降り立つ瞬間、そのカードは馬に乗った騎士のような姿へと変化する。呪文を使うとそれに呼応して現れる《魔光騎聖ブラッディ・シャドウ》だ。
「これ以上シールドを破らせはしない!そして、いつかは反撃してやるさ!」
「そうかよ。いつか、なんて言ってたら、攻撃する前に負けるかもな!」
 そう言って、征市はカードを引きながらヴェルナーを睨んだ。

 今回、真実がヴェルナーを倒すために選んだ作戦はギャンブルのようなものだった。ヴェルナーはデュエル・マスターズカードを作り上げた男だ。この魔法のシステムを完全に把握していると言ってもいい。人を金色に変える光線を止める事までは計算に入っていた。
 しかし、デュエル・マスターズカードでヴェルナーを倒せるかどうかは判らなかった。征市が念を倒すために実力をつけていなければ、真実はこの作戦を征市に話さなかっただろう。
「分の悪い賭け?そんな事はないぜ。俺は念と戦うために強くなった。そして、奴に勝った。だから、例え、相手がどんな強敵が相手でも負ける気がしねぇ!」
 この作戦が分の悪い賭けだと伝えた時の征市の返答はこうだった。それを聞いて、真実は征市に賭ける事に決めたのだ。
「行け!《バルガライザー》!!」
 黒い甲冑の龍《竜星バルガライザー》が二本の剣を握りながらシールドへヴェルナーのシールドに突進していく。それと同時に征市が山札をめくり、場に巨大な炎の鳥《翔竜提督ザークピッチ》が現れた。
「《デ・バウラ》!シールドを守れ!」
 巨大なバズーカを構えた《魔光王機デ・バウラ伯》がシールドの前に躍り出て、《バルガライザー》の斬撃をその身で受ける。
 征市のシールドは四枚残っていた。場には《バルガライザー》と《ザークピッチ》がいる。
 対して、ヴェルナーのシールドは残り一枚。場にいるクリーチャーは《ミル・アーマ》一体だけだ。
 強力な将軍に征市が差をつけて勝っているのだ。ターンを終了したのを見ながら、真実は安心したようにほっと息を吐いた。
「我が負ける。そう思っているのか?」
 カードを引いたヴェルナーは、ぞっとするような冷たい微笑みを征市と真実に向ける。それを見た瞬間、征市の頭脳は警告を発していた。
「今、我は切り札を引いた。これから警戒しても無駄だ!」
 ヴェルナーが投げたカードが《ミル・アーマ》に突き刺さり、カードから出た金色と黒の光がそのクリーチャーの姿を変えていく。光の中から現れたのは、人型のシルエットだった。背中には青いマントを羽織り、全身を強固な鎧で覆っている。羽飾りがついた兜の下で、そのクリーチャーの口元が笑うように歪んだ。
「王!これこそが我にふさわしい切り札!《聖鎧亜キング・アルカディアス》!!」
 《聖鎧亜キング・アルカディアス》。その名が、征市と真実の脳裏に深く突き刺さる。呆然としたような表情の征市の前で、ヴェルナーの切り札は舞うような動きで《バルガライザー》に近づく。《バルガライザー》が剣を構えて威嚇するが、《キング・アルカディアス》が円を描くような動きで舞い、マントが剣を弾き飛ばす。そして、その回転を活かしながら《バルガライザー》の腹を拳で突いた。《バルガライザー》の巨体が倒れ、征市の足元が揺れる。
「まずは一体。次はそいつだ」
 ヴェルナーと《キング・アルカディアス》の動きがシンクロし、彼らは《ザークピッチ》を指す。征市はついさっきまで感じていた体の震えを押さえながらカードを引いた。
「忘れてはいないだろうな!?《キング・アルカディアス》が場にいる間、貴様は多色以外のクリーチャーを召喚できない!」
 それが《キング・アルカディアス》の最大の特殊能力だった。征市のデッキに入っている多色のクリーチャーは少ない。《キング・アルカディアス》を倒すためには多色のクリーチャーを召喚してバトルか能力で倒すか、呪文で倒すか、今いるクリーチャーがバトルや能力で倒すしかない。《ザークピッチ》は場に出た時以外の能力はない。パワーでも《キング・アルカディアス》を下回っている。
「だったら、逃げ切ってやるよ!《ルピア・ラピア》召喚!」
 征市の場に《コッコ・ルピア》に似たファイアー・バードが現れる。緑色の翼で羽ばたくファイアー・バード《ルピア・ラピア》は《コッコ・ルピア》と同じようにドラゴンの召喚コストを減らす事ができる。多色クリーチャーでもあるため、《キング・アルカディアス》がいても召喚できるのだ。
「《ザークピッチ》で最後のシールドをブレイク!」
 《ザークピッチ》は肩に取り付けた銃で最後のシールドを撃ち抜く。しかし、弾丸が打ち込まれた途端、シールドを突き破って黒い手が伸びてきて《ザークピッチ》を鷲掴みにする。
「シールド・トリガー《デーモン・ハンド》だ。地獄へ旅立つがよい!」
 《デーモン・ハンド》によって《ザークピッチ》は地面に叩きつけられる。めり込むほどの強さで叩きつけられた《ザークピッチ》は動く事なく、そのまま、カードの姿に戻って墓地に飛んでいった。
「これで頼みのドラゴンはいなくなったな。さらに、これを使う!」
 ヴェルナーが一枚のカードをかざした瞬間、《ルピア・ラピア》の周りに透明な壁が現れた。征市が驚いていると、その壁は赤く変化し、《ルピア・ラピア》を閉じ込める。《ルピア・ラピア》が声を出す間もなく、そのクリーチャーはシールドに変えられてしまった。
「《魂と記憶の盾(エターナル・ガード)》だ。これで終わりではないぞ!《ロードリエス》召喚!」
 ヴェルナーの場に、いくつもの手が周囲に浮いた青い色の天使《知識の精霊ロードリエス》が現れた。間髪入れずに《ブラッディ・シャドウ》二体が現れる。すると、《ロードリエス》の手がヴェルナーの山札に飛び、三枚のカードを主の手元に運んだ。
「ブロッカーが現れる度にカードを引く《ロードリエス》。そして、呪文を使えばタダで場に出る《ブラッディ・シャドウ》。このコンボで防御は完璧だ!」
 防御の準備を終えたヴェルナーは、征市のシールドを指して《キング・アルカディアス》に攻撃を命じる。《キング・アルカディアス》は《バルガライザー》を倒した時と同じように舞いながら征市のシールドに近づき、拳で二枚のシールドを砕いた。赤いシールドの欠片が、火の粉のように周囲に舞い散る。
「このまま、何もできない貴様をいたぶり続けてやる。弱き者はそれでいい。抵抗せずに強き者に潰されていくのが正しいあり方なのだ!」
「うるせぇよ」
 征市が静かな声で呟くと《キング・アルカディアス》の周囲を舞っていたシールドの欠片が緑色に変化した。そして、欠片から緑色のツタが伸び、《キング・アルカディアス》の体を絡め取る。その力の強さに《キング・アルカディアス》の鎧が悲鳴を上げ始めていた。
「シールド・トリガー《ナチュラル・トラップ》だ。いくらこいつがクリーチャーの召喚を止める進化クリーチャーでもこの呪文までは止められないだろ?」
 ツタに締めあげられて《キング・アルカディアス》の肉体が崩壊する。それは二枚のカードとなってヴェルナーのマナゾーンへ飛んでいった。追い打ちをかけるように、征市は一体のクリーチャーを召喚した。それは周囲に炎をまき散らしながら、刀を持ってヴェルナーに向かって跳ぶ。
「決めるぞ!《ボルシャック・大和・ドラゴン》!!」
「ブロックだ!《ブラッディ・シャドウ》!」
 《ボルシャック・大和・ドラゴン》の刀を《ブラッディ・シャドウ》の体が受け止める。征市は軽く舌打ちをしてヴェルナーを見た。
「まだ倒れるわけにはいかん。それに、我の切り札は《キング・アルカディアス》だけではない!」
 ヴェルナーが《ブラッディ・シャドウ》を召喚し、それに一枚のカードを投げた。金色の光が《ブラッディ・シャドウ》の姿を変えていき、屋内だというのに周囲に黒雲が現れる。
「出でよ、ブロッカーに鋭き刃を与える切り札。《白騎士の開眼者ウッズ》!!」
 銀色の鎧でできた馬の下半身と、同じような銀色の鎧の上半身のクリーチャーが現れる。黒雲から雷を受けると、《白騎士の開眼者ウッズ》は持っていたランスを征市のシールドに向ける。《ウッズ》が両手に持ったランスを天に掲げて征市のシールドに向かって走る時、《ブラッディ・シャドウ》と《ロードリエス》もそれに続いた。
「そうか!《ウッズ》はブロッカーの攻撃できない効果を無効化し、攻撃できるようにするクリーチャーだ!」
「その通り。そして、貴様のシールドは三枚。《ウッズ》はW・ブレイカーだから二枚破り、他のクリーチャーで一枚。残った一体で貴様を倒せる!」
 最初にシールドの前にたどり着いたのは《ウッズ》だった。右と左、二本のランスでそれぞれ別のシールドを貫く。すると、その中の一枚が赤い光を発し、《ブラッディ・シャドウ》の上に巨大な赤い機械が現れる。
「いかん!逃げろ、《ブラッディ・シャドウ》!」
 ヴェルナーが指示を出すが、時すでに遅く、《ブラッディ・シャドウ》は《地獄スクラッパー》によって上から降って来た金属のプレス機に潰されてしまった。
 《ロードリエス》はそれを見て一瞬、止まった後、再び征市のシールドめがけて突進する。しかし、《ウッズ》がランスでそれを止めた。
「まだだ。まだ攻撃しなくてもよい。残ったシールドは《ルピア・ラピア》だと判っている。次のターンでとどめをさせばよい。手札を増やしてやる事などないのだ」
 ヴェルナーに言われて《ロードリエス》と《ウッズ》が戻る。《ウッズ》は《ボルシャック・大和・ドラゴン》にランスを向けていた。
「どうする?《ウッズ》はターンの終わりに自身をアンタップする能力を持つ。この二体のブロッカーを乗り越えて我に勝てるか?勝てなければ、次の我のターンで勝利するのみ!」
「くそっ!また、こいつに悩まされるとはな……」
 《ウッズ》は攻防主体のクリーチャーだ。パワーが一万を超えるブロッカーであり、W・ブレイカーでもある。ブロッカーを攻撃できるように変化させる能力ならば、召喚酔いすら解除する事もできる。《ボルシャック・大和・ドラゴン》で攻撃したとしても《ロードリエス》で止められ、次のターンで何かブロッカーを召喚して攻撃を仕掛けてくる事は目に見えている。仮に《ウッズ》を倒せたとしても、別の切り札が眠っているかもしれない。
 そう考えながら、征市は山札の上に指を乗せて目を瞑る。
「これは賭けだ」
 征市は声に出して自分に言い聞かせる。
「俺の手札に状況を打破できるカードはない。だが、デッキの中にこのピンチを潜り抜けるためのカードを入れている。それがこの場に引けるかどうか、分の悪い賭けだ。だがな……」
 征市は目を閉じたまま、額に皺を寄せて強く念じる。そして、カードを引いた。
「ここで引かない訳にはいかねぇんだよ!俺には仲間が待ってるし、お前が金色に変えた人達にも待っていてくれる人がいるんだ!その絆をお前なんかに消させてたまるか!」
 征市は目を開けてカードを見る。そして、マナのカードをタップしてそれにマナを加えた。
「切り札を引いたというのか!?嘘だ!ハッタリだ!」
「嘘じゃねぇ!俺は俺を信じていた。そして、俺のデッキを信じていた。だから、来たんだよ」
 征市は、マナを受けて赤く光るカードを場に投げる。そして、ヴェルナーを見据えた。
「見せてやるぜ。『ウソのようなホントウ』って奴を!」
 カードから、炎を纏った龍が飛び出してくる。そのクリーチャーの召喚を恐れていたヴェルナーだったが、そのシルエットや顔立ちを見て笑い出した。
「笑わせるな!今さら《ボルシャック・大和・ドラゴン》を召喚しただけで何ができる!」
 そのクリーチャーの顔は《ボルシャック・大和・ドラゴン》にそっくりだった。今、《ボルシャック・大和・ドラゴン》を二体召喚しても、ヴェルナーに止められてしまう。とどめは刺せない。
 しかし、炎が消えた時、ヴェルナーは自分の思い違いを呪った。その龍が纏っている鎧は和風の甲冑ではなく、炎を模したような赤い鎧だった。赤い鎧の龍は主の敵、ヴェルナーに燃え盛る手を向けた。
「《ボルシャック・NEX(ネックス)》召喚!」
 《ボルシャック・NEX》。征市にそう呼ばれた龍の手から炎の塊のような物が飛んでいった。その塊は《ウッズ》に突っ込み、突き破る。同じように《ロードリエス》の体も突き破った。炎の塊によって突き破られた二体のブロッカーは音を立ててその場に倒れた。
 炎の塊はその後も周囲を飛び続けた後、《ボルシャック・NEX》の肩に止まる。それは、青と白の羽のファイアー・バード《ボッコ・ルピア》だ。
「馬鹿な……!おかしい!《ボルシャック・NEX》を召喚した時点でお前のマナはなくなっていたはずだ!それなのに、何故、そのファイアー・バードが出てきたのだ!」
 自分のブロッカーがいなくなった事で、ヴェルナーは怯えた顔をして吠えた。それに対して、征市は余裕を保ったまま解説をする。
「俺の切り札《ボルシャック・NEX》は場に出た時に山札からルピアとあるクリーチャーを召喚する力を持つ。そして、今、俺が呼んだ《ボッコ・ルピア》は自分のドラゴン一体につき、相手のブロッカー一体を破壊する能力を持つ!
「そんな……!ありえん!あって……あってたまるか!」
 ヴェルナーは恐怖に顔をひきつらせたまま、数歩下がる。結界にぶつかったところで止まり、その場に座り込んでしまった。
「全てはこうやって繋がっているんだ。俺達はチームだから誰かをかばうために自分を犠牲にする事もあれば、誰かを助けるために実力以上の力を得る事だってできる。お前みたいに、一人で全部やって、全てを自分の下にしようなんて考えている奴に負けるかよ!」
 征市が手を伸ばす。それを見て《ボルシャック・大和・ドラゴン》が刀を両手で握った。
「《ボルシャック・大和・ドラゴン》でとどめだ!!」
 《ボルシャック・大和・ドラゴン》が両足で跳躍し、ヴェルナーに向かって刀を振り下ろす。斬撃と共に、ヴェルナーの手札が弾け飛んでいった。征市は手を伸ばしてその中のカードを数枚取る。
「《ヘブンズ・ゲート》、《ダイヤモンド・エイヴン》、《ロードリエス》か。《ウッズ》の後も、俺を倒す手段はあったって事か」
 征市はそう呟いた後にネクタイを緩めた。そして、静かに深呼吸する。
「征市さん、見て下さい」
 カードをデッキケースに入れていた征市は、真実に言われて周りの光景を見た。金色にされていた人々は全員、少しずつ元に戻っていった。真実に助けられた兄妹も元に戻った親の元に駆け寄る。
「良かったな。また親と一緒になれて」
 そう言って微笑む征市の顔には、少しだけ寂しさが宿っていた。彼は否定するかもしれないが、真実にはそう見えた。
 征市はその場に背を向けると歩き出す。
「行こうぜ。陸達も元に戻っているはずだ」
 その顔からは、再び、一緒になった家族を見た時の寂しさは消えていた。仲間を助けられた事への安堵と、また一緒にいられる事の嬉しさが宿っていた。

 ヴェルナーが目を覚ますと、そこは暗い部屋だった。見た事もない巨大なカプセルが並ぶ部屋で、カプセルの中には彼が見た事もない怪人が入っている。
 部屋の奥に目を向けると、そこには白い服を着た少女が椅子に座っていた。少女は眠っているのか、動く気配がなかった。
「あらっ!お目覚めみたいねっ!」
 全が近づいてくるのを見て、ヴェルナーはベッドから起き上がろうとする。だが、体は動かない。力が入らないのではなく、ベッドに固定されているのだ。顔を横に向けると、両手首が固定されているのが見えた。足を動かそうとすると、足もおなじように固定されていて動けない。
「予想通り。いや、予想以上にうまく行ったかな?」
 全に続いて現れるのは幻だ。顔にうっすらと笑いを浮かべながら近づいてくる。
「無礼者が!我にこんな事をしてただで済むと思うなよ!」
「ただで済むと思うな、だと?」
 最後に念が現れる。ヴェルナーは固定された状態で三人に囲まれてしまった。
「お前こそ、人の国を滅ぼしておいてただで済むと思うな」
 念がベッドの上に手をかざすと、ヴェルナーの体中に痛みが走った。強烈な痛みに耐え切れず、本能が暴走して叫び声を上げようとするが声が出ない。幻と全がそれを見ながら奇妙な笑顔を浮かべる。
「君がトライアンフのメンバーを倒せなくても、僕達にとっては何の問題もなかったんだ。本当の目的は僕達の手で君を生贄に捧げる事。これが僕達の復讐」
「そう、復讐よ。宿敵をわざわざ蘇らせたのは、強大な魔力を利用するだけじゃなく、宿敵に恐怖と絶望を味わわせる事が目的なのよっ!」
「だが、悲しむ事も悔やむ必要もない。お前は我らの主、永遠様が蘇るための糧となれるのだ。喜べ」
 ヴェルナーは痛みが激しくなるのを感じ、声にならない悲鳴を上げた。その瞬間、指先から少しずつ力が失われていくのを感じていた。
 それと同時に、白い服の少女の周りが紫色に光っていくのが見えた。周りにいた魔道書同盟もそれに気づいたらしく、歓喜の声を挙げた。
「すごいっ!すごいわっ!とうとう永遠様が目覚められるのねっ!」
「永遠様が目覚められたら本当の戦いの始まりだ。トライアンフの奴らに地獄を見せてやるさ」
「永遠様。またあなたの下に仕えられる日が来ようとは……」
 ヴェルナーの耳に三人の声が入っても、脳はその意味を理解していなかった。痛みを受けながら、彼はずっと考えていた。何故、自分がこんな目に遭わなければならないのか、と。
 痛みがさらに激しくなり、意識が途絶える直前にヴェルナーは見た。白い服を着た少女が目を開くのを。

 『File.39 初仕事決闘記』につづく
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