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『コードD』File.39 初仕事決闘記

『コードD』
 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 全(ぜん)の手で生み出された究極生命体は、自らヴェルナーと名乗り、トライアンフのメンバーに光線を浴びせて金色の像に変えた。真実(まみ)の手助けによってその攻撃を逃れた征市(せいいち)、菜央(なお)、彩弓(あゆみ)の三人は、ヴェルナーの秘密を知る。彼は、デュエル・マスターズカードを作り上げた魔法使いであり、かつて魔道書同盟の故郷を滅ぼした男なのだ。自分達の宿敵とも言える存在を蘇らせた事に、征市は疑問を抱く。
 その後、征市は真実の力を借りてヴェルナーの光線を封じ、彼に挑んだ。結果、征市は勝利し、金色に変えられた人々は元に戻るのだった。

  File.39 初仕事決闘記

 未来地区にある博物館。
 既に閉館しているはずのその建物の中に征市はいた。柱の陰に隠れ、展示されているプライズを見ていた。そこにあるのは、魔女がかぶっていたとされる帽子のプライズだ。誰が使っていたのかは明らかにされていない。
 鋭い目でそれを見ていた征市だったが、少し気が緩み、口から欠伸が出る。大きな欠伸をして二、三度瞬きをすると、再び、帽子のプライズを見た。
 その横顔に片手で持てるほどの大きさの黄色い箱が突き出される。それを持っているのは、征市より少し年下の少年だ。短い黒髪に鋭い目つき、そして、鍛えられた無駄のない筋肉の上に高校の制服を羽織った少年は右手で黄色い箱を持ち、左手にはゼリー状の飲み物を持っている。
「栄養補給をしろ。長丁場になるぞ」
「栄養補給って言われても……カロリーメイトはないだろ?刑事ドラマだってアンパンと牛乳とかじゃないか?これじゃ、味気ないぜ」
 そう言いながら、征市はカロリーメイトの箱を受け取る。黒髪の少年は別のカロリーメイトを取り出し、封を開けた。
「問題ない。補給スピードと栄養の維持を考えるなら、これがベストだ」
「勇騎(ゆうき)、お前の食事、変わってるって言われないか?」
「特にないな」
 短く答えると、勇騎と呼ばれた少年はカロリーメイトを口に入れ、左手に持っていた飲み物を飲む。
「ウイダー。こういう考え方もありか。あの情報屋が好むのも頷ける。この組み合わせならいつもより持つな」
「俺、早く仕事終えてもっとちゃんとした食事をしたいよ……」
 征市は情けない声でそう言うと、カロリーメイトをかじった。
 征市の隣にいる少年は、赤城(あかぎ)勇騎。東京の品川にある立法高校の二年生だ。とある事情により、征市達トライアンフと勇騎達は協力する事になった。話は数日前にさかのぼる。

 年が明けてから一週間が経った。ヴェルナーとの死闘以降、事件らしい事件も発生せず、トライアンフのメンバーは落ち着いた正月を過ごす事ができた。
 柳沢研究所は人を蘇らせる研究を医療の発展に応用するらしい。湊からそれを聞かされた時、征市達は彼らが前に進もうとしているのを知って、とてもいい気持ちになった。
「おーっす、リーダー!あけましておめでとう!お年玉をもらいに来ましたよ!」
「お前、毎日同じ事言うなよ。飽きないのか?」
 漫才のようなやり取りと共に、征市と陸(りく)が事務所に入ってくる。ヴェルナーによって体を金色の像に変えられてしまった陸だったが、征市がヴェルナーに勝利したため、彼の体も元に戻り、後遺症もなかった。
 二人が事務所の中に目を向けると、そこには誰もいなかった。しかし、休憩スペースからは声が漏れている。菜央とそれとは別に若い男の声が聞こえた。
「shit!僕のリーダーに近づこうとは百年早いぜ!」
「誰がお前のものになったんだ、誰が」
「玉砕覚悟だ!お命頂戴!」
「おい!」
 陸は目の色を変えたまま、休憩室に突撃する。征市も慌てて追いかけた。二人が休憩室に入ると陸の目には、菜央と一人の少年の姿が目に入った。どこかの高校の制服を着たその少年は二人の存在に気がつき振り返る。
「相羽さん、陸君、おはようございます。こちら……」
「そんなもん、知るか。その巨乳は渡さん!覚悟ーっ!」
 殺気だった陸が制服の少年に近づこうとする。しかし、それよりも一瞬早く、黒い手が陸の体を拘束した。それを見て、陸の殺気が消え、彼の目に怯えが宿る。おしおき部屋送りにされるのだ。
「しまった。最近、このパターンがないから油断していた。助けてーっ!」
 黒い手に引っ張られた陸は、絶望的な声で叫びながら部屋を連れ出される。とんでもない光景を目撃した制服姿の少年は小動物のように震えながら陸を見ていた。
「な、何なんですか、今の……?」
「お約束みたいなもんだから気にすんなよ。で、菜央。この人は誰?」
 少年に苦笑した征市は菜央に質問する。菜央は手で少年を指し示しながら答えた。
「この人は一ノ瀬博成(いちのせひろなり)さん。品川にある立法高校の新聞委員会の方です。それと……」
 菜央は壁を目で追った。そこには、鋭い目をした黒髪に少年が壁に寄り掛かるようにして立っていた。
「彼は赤城勇騎さん。一ノ瀬さんと同じように新聞委員会のメンバーだそうです」
「ふぅん、新聞委員会ねぇ。俺、相羽征市。で、さっきのが遠山陸」
「一ノ瀬博成です。どうも」
 博成は征市が伸ばした右手を握った。
「なあ、お前の親戚でY市に住んでいる奴っていないか?」
「え?いませんけど……」
「そうか。じゃ、俺の勘違いみたいだな」
 一ノ瀬という苗字を聞いた時、征市の脳裏に浮かんだのは彩弓と彩矢の顔だった。彼女達の苗字も博成と同じ一ノ瀬なのだ。
「ところで、新聞委員会がここに何の用なんだ?東京の高校なのに、Y市まで来る用事でもあったのか?」
「きっと、僕の取材に来たんですね!」
 ボロボロになりながら、陸が戻ってくる。おしおき部屋のダメージを受けてはいるが、彼の目は輝いていた。
「何で、お前の取材に来るんだよ」
「やだなぁ、セーイチさん。イケメンデュエリストとして取材されるに決まっているじゃないですか!美しいって……罪、だよね?」
「俺達は怪盗アルケーを追っている」
 陸がポーズを決めているのを見ずに、壁際にいる勇騎が口を開いた。陸はそれを見て「え?もしかして、ツッコミもなし?」と、言った。
「怪盗アルケーって、あの怪盗か?」
 征市もその存在を聞いた事があった。東京の美術館から様々な品物を盗む怪盗アルケー。盗んだ後にいい香りのする水をメッセージとして犯行現場に撒いていくのが、アルケーの犯行の最大の特徴である。
「相羽さんの考えている怪盗アルケーで間違いありません。その怪盗アルケーがY市に来るという情報が入りました」
「へぇ、観光ですか?」
 陸が見当違いの質問をするのを無視して菜央は話を続ける。
「怪盗アルケーの予告状が届いたんです。アルケーは、博物館に展示されている帽子のプライズを狙っています」
「なるほどね。プライズを狙っているって事は、俺達の出番か。それは判ったけれど、この二人との関係が見えて来ないな。アルケーの取材でもするのか?」
 征市に質問されて、博成は首を振る。
「いえ、僕達はアルケーを捕まえるために追っているんです」
「俺達はアルケーと因縁がある。奴は強力なデュエリストだ」
「因縁ね……」
 勇騎の言葉を聞いて、征市は自分達トライアンフと魔道書同盟を思い浮かべた。
 勇騎達の実力は判らないが、菜央がトライアンフの事務所に入れるほどの人間だ。決して弱くないだろう。
 そして、怪盗アルケーはそれほどの男が認めるほどの存在なのだ。用心しなくてはならない。
「アルケーがプライズをターゲットにするのは初めての事です。そのため、魔法警察から私達に協力の要請がありました。立法高校の皆さんの力を借りて、必ずアルケーを捕まえましょう」
「了解!」
 菜央の言葉に陸が勢いよく返事をする。だが、征市はそれを聞きながら首を傾げていた。
「菜央。皆さんって言ったよな?二人じゃ少なくないか?」
「俺達の仲間があと二人来る。だが、遅れているようだな」
 征市の疑問に勇騎が答えた時、休憩室に三人組の男女が入って来た。一人は彩矢だ。
 三人の中央にいるのは長身の男だ。一見するとまともな職業の人間には見えないような白いスーツに、高級なアクセサリーをちりばめた若い男。甘いマスクで彩矢に話しかけている。
 そして、征市から見て一番右側にいるのは、立法高校の女子の制服を着た少女だ。こげ茶色のショートヘアと活発そうな瞳が特徴の少女で、部屋にいる勇騎を見つけると目を輝かせて手を振った。
「美しい上に親切だなんて、とても素晴らしいお嬢さんだ。今夜、食事でもどうかな?」
「やだ、もう!口がうまいんだから!」
 白いスーツの男は甘い言葉で彩矢を褒めている。それを見た陸は
「何て奴だ!両手に花ならぬ、両手に巨乳とは!けしからん!僕の判決を言い渡す!死だ!」
と、言ってスーツの男に掴みかかろうとするが、一足早くおしおき部屋から伸びてきた黒い腕に掴まれ、連れて行かれる。
「またかよぉぉぉっ!!」
と、いう叫びが休憩室に響いた。それを見て、白いスーツの男と制服の少女は、青ざめた顔をする。
「よくある事らしい。気にするな。金城(かねしろ)、青海(おうみ)」
 新しく入って来た二人が知り合いだったらしく、勇騎が説明する。
「勇騎ちゃん、よくある事って……今のが!?マジで?」
 驚いた顔で聞くのは、青海と呼ばれた少女だ。その直後、勇騎に近づき、「あれ怖いから近くにいてもいいでしょ?」と、聞く。
「よくある事、ねぇ……。彼、アルケーと戦う前に戦闘不能になってしまうんじゃないかな?」
 金城と呼ばれたスーツの男はそう言って髪をかきあげると、菜央を見つけて「おおっ!」と、大袈裟なリアクションで驚く。そして、菜央に近づくと
「初めまして、トライアンフのかわいいリーダーさん。僕は、金城豪人(ごうと)。君に出会うために生まれてきた男さ!君みたいな子に会えて本当に嬉しいよ!」
と、自己紹介してウインクする。
「親切な自己紹介ありがとうございます」
 菜央は笑顔で豪人に返した。それを見た征市は、菜央も年上のいい男に口説かれるのは悪くないのか、と思った。
「でも……お世辞は好きじゃないです。あまり変な事を言うと……」
 菜央は休憩室の出入り口を指す。そこには、二度おしおき部屋送りにされてボロボロになった陸が立っていた。二度のおしおき部屋送りはさすがの彼も堪えるものだったらしく、肩で息をし、壁にもたれかかっていた。目からは生気が感じられない。豪人がそれを見て、青ざめていると
「判りましたか?」
と、菜央が確認するように聞いてくる。
「やれやれ。こういうおてんばなところも悪くないな」
 しかし、豪人は懲りる事なく、軽く溜息を吐くように言う。その後、勇騎を見て軽く手を上げた。
「遅れて悪いね。道に迷ってそこのかわいいお嬢さんに助けてもらったんだ」
「自分好みの子がいたから、わざと道に迷ったふりをして道聞いたんでしょ?たまたま知ってたからよかったものの、普通の人はトライアンフの事務所の場所、知らないわよ?」
 豪人の発言にテンポよく制服姿の少女、青海がツッコミを入れる。
「自己紹介がまだだったわね。アタシ、立法高校新聞委員会の委員長、青海ゆかりです。よろしくね!」
 ゆかりはそう言って、菜央に握手を求める。菜央もその手を握って微笑み返した。
「で、この四人が助っ人か。四人も一緒に戦ってくれるなら、心強いぜ」
 征市は安心したように呟く。だが、その直後
「いや、デュエリストなのは俺と金城の二人だけだ」
と、勇騎が否定した。
「マジかよ。デュエリストじゃないなら、この二人は何しに来たんだ?」
「確かに、二人はデュエル・マスターズカードを使って戦う事はできない。だが、デュエル・マスターズカードを使うだけが戦いではない。この二人は、今まで自分達にできる事をして俺達を助けてくれた。こいつらは怪盗アルケーを捕える上で、間違いなく戦力になる」
 勇騎は強い口調で二人の必要性を論じた。征市も、完全に納得した訳ではないが、彼の言葉の中にある熱さを感じて、二人を信じる事にした。
「判ったよ。そこのお二人さんにも期待しているぜ」
 征市が納得したところで、菜央はテーブルの上に大きな紙を広げる。これは、博物館の見取り図だ。
「立法高校の方々が揃ったところで、作戦会議を始めましょうか」
 菜央の言葉を合図に、トライアンフと立法高校の連合軍の作戦会議が始まった。

「まだ来る気配はないわね」
 長い廊下を見ながら彩矢が呟く。彼女の隣にはゆかりがいた。その手にはビデオカメラとトランシーバーが握られている。ビデオカメラはアルケーの行動を記録するためにゆかりが用意したもので、トランシーバーはトライアンフから支給されたものだ。他のメンバーもトランシーバーを持っている。
 このチームとは別に、入口を見張る豪人と陸のチームと階段を見張る博成と湊(みなと)のチーム。そして、征市と勇騎のチームはプライズを監視できる位置に隠れている。他には、魔法警察が巡回している。
事務所では一真(かずま)と菜央が待機していて、それぞれのチームと魔法警察から送られた情報を元に指示を出すのだ。
「ねぇ、ゆかりちゃんだったっけ?何でアルケーを追っているの?」
 見張りに飽きてきたのか彩矢はゆかりに質問をする。眠そうな目をしていたゆかりは目を数回瞬きさせて彩矢を見た。
「何でって、そうね……。勇騎ちゃんのライバルの一人だからっていう理由じゃ、納得できないかしら」
「ライバル?」
 それは、彩矢にとって予想していなかった答えだった。ゆかりは遠くを見るような目をしながら、過去を懐かしむような口調で話す。
「データを読んで判っていると思うけれど、怪盗アルケーはデュエル・マスターズカードで戦う事ができる怪盗よ。詳しい事は教えてくれないけれど、アルケーのデッキと勇騎ちゃんと豪人さんのデッキは兄弟みたいなもので、宿命のライバルみたいなのよね」
「へぇ、そっちも複雑なのね」
 彩矢は柳沢研究所の一件と、それに関連して発生したヴェルナーの事件を思い出していた。柳沢研究所のケースと湊の関係や、ヴェルナーと魔道書同盟の関係も複雑だ。
 そう考えた後、彩矢は顔にいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「でも、それだけじゃないでしょ。勇騎君の前でいい格好したいとか、勇騎君の力になりたいとかそういうんじゃない?」
「……バレてた?」
 ゆかりがはっとした表情で聞くと、彩矢は笑顔で頷く。
「何で、バレるの?今まで、誰にもバレてなかったのに……」
「博成君とか気付いてないの?同じ新聞委員会なんでしょ?」
「全然。長い間、一緒に活動しているけれど、バレていないわよ。……多分」
 最後の言葉は消え入りそうな声だった。
「アタシも好きな人いるんだ。征市さん。未来の旦那様の予定なの」
「えっ!もしかしてもう、婚約してるとか!?」
 期待と驚きの混ざった声でゆかりが聞くが、彩矢はそれに対して残念そうに首を振る。
「違うの。そうだったらいいな、って思うけれど、アタシが言っているだけ。それにアタシの恋には強力なライバルがいるの。……お姉ちゃん」
 彩弓自身は気付いていないかもしれないが、征市と彩弓は非常にいいカップルに見える。そうなっている事が自然であるように感じさせるものがあるのだ。彩矢の目から見て、そう思える時もある。
 少し寂しそうな顔をした彩矢を見て、ゆかりは口を開く。
「そっちも大変ね。こっちも簡単じゃないわ」
「あんなにアプローチかけてるのに、勇騎君気付かないの?」
 ゆかりは残念そうに首を振る。
「戦う事に関してはものすごく勘が鋭いのに、こういう事だけはいつまで経っても気付いてくれないのよね。それが、珠に傷かしら」
 それぞれ、自分の心の奥にあるものを見せ合い、しばらくして笑い合った。
「お互い、がんばろうね。アタシ、絶対征市さんのお嫁さんになる!」
「アタシも、もっと派手にやってみようかしら」
「ねぇ。今度から旦那様って呼んでみたら?鈍くても気付くと思うよ」
「それもいいけれど、勇気がいるわね」
 暗い博物館の中で、話に花が咲いていた。
 しかし、それはすぐに破られる。トランシーバーから博成の声が聞こえてきたのだ。
『こちら階段チーム!怪しい集団が侵入してきた!』
 それを聞いて二人は顔を合わせて頷きあう。ゆかりはデジタルカメラで廊下を映し、彩矢はデッキを取り出した。
 戦う準備はできたが、彩矢は少し困惑していた。怪盗と言うから、現れるのは一人だと思っていたのだ。しかし、トランシーバーから聞こえてきた博成の報告では、敵は集団で現れた事になる。
「怪盗アルケーって、いっぱいいるの?」
「おかしいわね。アタシも見た事はないけれど、勇騎ちゃんから聞いた話ではアルケーは一人のはずよ」
 ゆかりも困惑しながら返す。そうしている内に、博成の言う怪しい集団が見えてきた。黒い服に黒い帽子。そして、目には暗視ゴーグルのようなものをつけていた。
 五人いる黒い人物の前に彩矢が立つ。すると、その中の一人がベストからデッキを取り出し、リーダーらしい男が他の三人を誘導した。
「博成ちゃん、こっちには五人来たわ!一人、ここで足止めする!」
『判った!僕の方も、湊君がメンバーの一人と戦っているよ』
 博成と情報を交換するゆかりの前で、彩矢と黒い男はシールドを展開してデュエルの準備を行っていた。
「我々の邪魔をする者がいるとは……。魔法警察ではないな?」
「そう……。あなた達って何も知らないのね。情報が足りないっていうのは、怪盗をする上で命取りなんじゃない?」
 彩矢が挑発的な口調で言いながらカードを引いた。
 情報が足りないのは、彩矢も同じ事だった。現れたのは怪盗アルケーではない謎の集団だ。彼らに関する情報は何もない。会話をしながら探り出すしかない。
「さあ、世界一強い女の子が相手してあげるわよ!」

 征市と勇騎は、謎の集団に関する報告を聞きながら帽子のプライズの前に移動していた。
 合計六人だった集団の内、四人は仲間達が押さえてくれた。残りの二人を倒せば事件は解決する。
「なるほど。怪盗アルケーっていうから一人だと思ったけれど、奴らは元々集団で動く窃盗団だったんだな」
 征市は納得したように頷く。過去に、怪盗アルケーは一人ではなく、集団で行動しているという情報を何かの記事で読んだ事があった。それは飽くまで個人の予想に過ぎなかった事だが、征市にとって、それが自分の考えの裏付けになっていた。
「いや、違うな」
 だが、勇気はその考えを否定する。戸惑う征市を見ずに、彼は続けた。
「怪盗アルケーは一人だ。今、俺達の前にいるのは怪盗アルケーではない」
『そうだね。今回、会えるんだったら彼女に僕のハートを盗んでもらおうかと思ったけれど、残念だったな』
『こら!あんたには、美和(みわ)ちゃんがいるでしょ!』
 トランシーバーから豪人とゆかりの声が聞こえる。それを聞いて征市はさらに混乱した表情をしていた。
「おい、アルケーって女?」
「誰もアルケーが男だとは言っていない。……来るぞ」
 勇騎に言われて、征市は前を向いて集中する。報告にあった黒い服の男が二人足音も立てずにやって来た。
「アルケーの偽者達だな。お前達が来る事は予告状を出した時から……いや、正確にはもっと前から判っていた」
 勇騎はそう言うと、ポケットから小瓶を取り出した。その中には透明な液体が入っている。
「これは、最近の怪盗アルケーの事件で現場に撒かれていた香水と同じものだ。市販はされていないが、復元に成功した。これはアルケーが撒いている香水とは別のものだ」
 淡々とした口調で説明する勇騎に、黒い男達は動揺する。そして、征市は耐え切れずに口を挟んだ。
「ちょっと待てよ!何でそれが違うって判るんだ?」
「俺達は何度かアルケーの事件に出くわしている。奴の香水の香りはその時にかいだ。あの香りは、奴を捕える重要な手掛かりだ」
 そして、勇気は右手の人差指を立てて話を続ける。
「香水の違いに気付く者はいないだろう。俺だって、最近まで気がつかなかった。だが、お前達は香水とは比べ物にならない致命的なミスを犯した。それはこれだ」
 勇騎は右手を懐に入れると、一枚の紙を取り出した。それは予告状のコピーだ。
「怪盗アルケーは予告状を送らない怪盗だ。奴が自分の犯行を主張するサインは一つ。香水だけだ」
 勇騎の言葉が終わったのを見て、征市は放心したような顔で拍手した。
「って、んな事やってる場合じゃねぇ!おい、偽アルケーズ!お前ら、この帽子のプライズに何の用だ!」
「それと、今までほぼ完璧にアルケーの犯行を真似ていたのに、何故、今回だけ予告状を出すという単純なミスをしたのか理由を聞かせてもらうぞ」
 征市がマッチを擦ると、炎が大きく燃え上がり、その炎が赤い革製のデッキケースへと変化した。
 勇騎が懐から灰色のデッキケースを取り出す。それを彼が強く握ると赤く輝き始めた。
 二人のデュエリストに怯えながら、黒い男達はデッキを取り出す。五枚ずつ、合計二十枚のシールドが並べられてデュエルが始まった。
「行くぜ!《コッコ・ルピア》召喚!」
「《フェアリー・ライフ》」
 征市の場にオレンジ色の羽の小鳥が現れ、勇騎の場に風が吹く。それと同時に勇騎の山札の上のカードが風に乗って飛び、彼のマナゾーンへ落ちた。
「《エナジー・ライト》!」
「《フェアリー・ライフ》だ!」
 征市の前にいる黒い男は《エナジー・ライト》を使って手札を増やした。大柄で横幅も広いため、征市は目の前にいる男を『ぬり壁』と勝手に名付けていた。
 勇騎の前にいるアルケーの偽者は《フェアリー・ライフ》でマナを増やした。この男は細身で、風が吹けば飛びそうに見えるため、征市は『一反木綿』と名付けていた。
「どうやら、同じデッキを使っているようだな。使っているのは、火文明、自然文明、水文明か」
 勇騎は相手のマナのカードからそれらの情報を読み取り、分析する。征市もそれを理解していたらしく、勇騎のアイコンタクトに頷く。
「マナ増やされたら厄介だ。だから、さっさと決着つけるぜ!《バルガゲイザー》!」
 炎に包まれたカードから、硬い鱗で覆われた羽のない龍が現れる。征市のデッキの中心とも言うべき《紅神龍バルガゲイザー》だ。本来、召喚には6コスト必要なのだが、《コッコ・ルピア》の効果でコストを2軽減しているため、4ターン目に召喚できたのだ。
「俺もお前達に余計なターンを与えるつもりはない。《竜装 ザンゲキ・マッハアーマー》ジェネレート」
 勇騎の場には龍を模した鎧のようなものが現れる。龍の鎧のようなクロスギア《竜装 ザンゲキ・マッハアーマー》から龍の咆哮が聞こえ、二人の黒い男達は一歩下がった。
「クロスされていなければ意味はない!」
「《バルガゲイザー》でどんなドラゴンを出したとしても怖くはない。召喚!」
 二人の黒い男は同時に同じクリーチャーを召喚する。巨大な目と舌を持つ水の塊のようなクリーチャー《スペース・クロウラー》だ。このクリーチャーが出た時の効果で二人の男は手札を一枚増やす。
「防御なんか無駄だ!ブロッカーなんか蹴散らしてやる!」
 征市はマナのカードをタップし、一枚の赤いカードを場に投げた。すると、そのカードは炎を纏ったまま《スペース・クロウラー》の体を突き破り、《バルガゲイザー》の足元に飛んでくる。着地した瞬間、炎が消え、中から青い毛のファイアー・バード《ボッコ・ルピア》が現れた。《ボッコ・ルピア》は場に出た時、ドラゴンの数だけ相手のブロッカーを破壊する能力を持っている。
「《バルガゲイザー》で攻撃!効果発動だ!」
 征市の手が赤く光り、山札のカードに触れ、それを場に投げる。そのカードから大地を揺るがす緑色の龍《緑神龍バルガザルムス》が現れた。巨大な剣のような頭部を震わせながら黒い男を威嚇する。
 ほぼ同時に、勇騎も一体のドラゴンを召喚する。地響きを鳴らしてその横に一体の龍が降り立った。四本の足の爪が、地面に食い込んでいる。その格好から征市は自分に恐怖を与えたある龍を思い出し、口を開いた。
「《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》か?」
「いや、違うな」
 勇騎が召喚したドラゴンは、念の《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》とは違い、赤い体色だ。武装も蒼い鎧ではなく、体に合わせた武者鎧のようになっている。咆哮と共に、背負った二本の剣が揺れた。
「俺の切り札《ボルメテウス・武者・ドラゴン》だ。一気に押し切る」
 勇騎が静かな、だが、熱い思いを秘めた声で告げると《ザンゲキ・マッハアーマー》がパーツごとに分裂し、《ボルメテウス・武者・ドラゴン》の体に装備された。ブースターのような形でついた《ザンゲキ・マッハアーマー》から火が噴き出し、《ボルメテウス・武者・ドラゴン》を動かす。
「クロスギアをクロスするのには、ジェネレートとは別にマナが必要なはずだ!何故、コストを払わっていないのにクロスできるんだ!?」
「《ボルメテウス・武者・ドラゴン》には《ザンゲキ・マッハアーマー》をコストを払わずにクロスする事ができる。召喚酔いの隙さえなければ、簡単には除去できないはずだ!」
 『一反木綿』に解説した勇騎が手を伸ばすとシールドがカードに変わり、彼の手に戻っていった。彼が戻って来たカードを《ボルメテウス・武者・ドラゴン》に投げると、背負っていた剣に炎が宿る。《ボルメテウス・武者・ドラゴン》は飛行機の羽のように展開した剣で《スペース・クロウラー》を両断した。
「よし、先制攻撃だ!行くぜ、勇騎!」
「油断するな、相羽!」
 征市の《バルガゲイザー》の体当たりと、勇騎の《ボルメテウス・武者・ドラゴン》による背中の剣の斬撃が敵のシールドを破る。《バルガゲイザー》は一枚、《ボルメテウス・武者・ドラゴン》は二枚ブレイクした。
「幸先いいぜ。このまま一気に――」
 征市はそこで言葉を失った。破られたシールドから一体のクリーチャーが飛び出し、《コッコ・ルピア》を足で踏み潰したのだ。赤い服を着たそのクリーチャーは、くしを取り出すと頭髪にそれを当てた。
「なるほどな。《ダキテー・ドラグーン》か」
 特徴的な髪型のクリーチャー《爆獣ダキテー・ドラグーン》は登場時に相手のパワー3000以下のクリーチャーを一体破壊する事ができる。シールド・トリガーでもあるので、奇襲性が高く、連続攻撃を仕掛けた敵のテンポを崩す事もできる。
 一方、勇騎の前にも敵のシールド・トリガークリーチャーが出現していた。
 人と龍を掛け合わせたような外見と、両腕、両足につけたリングが特徴的なクリーチャー《エクスプレス・ドラグーン》だ。特殊能力はないが、それを見て勇騎は目を細めた。
「こっちもシールド・トリガーのティラノ・ドレイクか。妙だな」
「もう遅い!」
「我々の切り札を見ろ!」
 そう言って『ぬり壁』と『一反木綿』は赤いカードをそれぞれのクリーチャーに投げた。『塗り壁』の《ダキテー・ドラグーン》と『一反木綿』の《エクスプレス・ドラグーン》がそれぞれ赤い光を出しながら姿を変えていく。赤い光が消えた時、そこに立っていたのは四本の足で体を支えるオレンジ色の龍だった。肩から青いクリスタルのようなものが伸びている。
「アーマード・ドラゴン?いや、ティラノ・ドレイクの進化クリーチャーか!」
 驚く征市の前で《バルガゲイザー》が進化ティラノ・ドレイクのクリスタルに貫かれる。同時に勇騎の《ボルメテウス・武者・ドラゴン》も貫かれた。
「これだけ早く出てくる進化クリーチャーで、俺達のドラゴンを超えるパワー。《ドラギリアス》か」
「そうとも!《爆竜凰ドラギリアス》だ!」
 『ぬり壁』と『一反木綿』の切り札、《爆竜凰ドラギリアス》は5コストでパワー5000の進化ティラノ・ドレイクだ。それだけならば《バルガゲイザー》や《ボルメテウス・武者・ドラゴン》が負ける事はない。《ドラギリアス》の特殊能力は、自分のティラノ・ドレイク全てのパワーを二倍にするというシンプルなものだ。そして、パワー6000を超えたティラノ・ドレイクはW・ブレイクを得る。
「《ダキテー・ドラグーン》も《エクスプレス・ドラグーン》もパワーは3000。《ドラギリアス》の効果を使えばW・ブレイカーとなる」
「こいつらのデッキは《ドラギリアス》の効果を活かすために作られたデッキだって事か」
 二人は目の前に立ちはだかる《ドラギリアス》を見る。
 今の《ドラギリアス》のパワーは一万。場にクリーチャーがいない勇騎では手が出せず、征市の場にいる《バルガザルムス》では倒す事ができない。
「まだ始まったばかりだ。本物のアルケーと戦う前に、こんな奴らに負けるつもりはない」
 勇騎はそう言って、カードを引いた。

「喰らえ!《ドラギリアス》でW・ブレイク!」
 『ぬり壁』と『一反木綿』の《ドラギリアス》の攻撃が征市と勇騎のシールドを貫く。それだけでは終わらず、パワーアップした《エクスプレス・ドラグーン》の攻撃で彼らのシールドは全てやぶられてしまった。シールド・トリガーも発動しない。
「こいつは、かなりヤバいな」
 征市は前髪をかき上げながら場を見る。残っている自分のクリーチャーは《バルガゲイザー》一体だけだ。
 対して、目の前にいる『ぬり壁』のシールドは二枚。ブロッカーはいないが、《ドラギリアス》と《エクスプレス・ドラグーン》の二体が征市の命を狙っている。
 そして、勇騎のクリーチャーは《ポッポ・弥太郎・パッピー》が二体いるだけだ。これでは、『一反木綿』のクリーチャーも、残っている三枚のシールドをブレイクして倒す事もできない。
「この程度で我々を捕えるつもりだったのか。愚かな奴らだ!」
 『ぬり壁』と『一反木綿』が声を出して笑う。それを見た征市は、片方の眉を吊り上げて怒りを現した。
「こんな事言われて黙ってられるか!」
「もう勝ったつもりか?」
 怒りに燃える征市とは対照的に、勇騎は冷静な口調で言う。二人は同時にマナをタップし、行動を開始した。
「呪文《魂の呼び声》だ!これで山札の上にアーマード・ドラゴンを持ってくるぜ!」
 征市がマナのカード三枚をタップし、一枚の手札に取り込む。そのカードを投げると、風が洞窟を通り抜けるような獣の声に似た音がして征市の山札の中から三枚のカードが飛び出した。赤い色をしたそれらのカードは空中を飛び回った後、征市の山札の上に乗る。
「やめておけ。何をやっても無駄だ」
『ぬり壁』は忠告するが、その言葉は震えている。征市は既に勝利を確信していたため、それを鼻で笑った。
「無駄?何言ってんだ。これで逆転できる!俺の勝ちだ!」
 征市が指を鳴らし、《バルガゲイザー》が動き出す。征市は右手で山札の上のカードをつかむと場に投げた。
「俺が一番上に置いたカード。それは《竜星バルガライザー》だ!」
 《バルガゲイザー》の隣に、黒い鎧を纏った龍が現れる。《竜星バルガライザー》と呼ばれたその龍は、《バルガゲイザー》と同じように山札の上からドラゴンを呼ぶ能力を持っている。
「そんな馬鹿な!嘘だ!ありえない!」
 《バルガゲイザー》の攻撃を受けて、『ぬり壁』は叫ぶ。彼を守るシールドは残り一枚だ。
「嘘なんかじゃねぇ。『ウソのようなホントウ』って奴だ!《バルガライザー》で攻撃!そして、俺の切り札、登場!!」
 《バルガライザー》は両手に持っていた剣で最後のシールドを切り裂く。その肩を踏んで、一体の龍が空高く舞い上がった。
「《ボルシャック・大和・ドラゴン》!とどめだ!」
 征市の切り札、《ボルシャック・大和・ドラゴン》は腰に下げていた鞘から刀を引き抜くと、『ぬり壁』に叩きつけた。
「勇騎!」
「心配するな。こっちももう終わる」
 冷静な声で征市に返した勇騎の手から一枚のカードが離れる。燃え上がるような赤い光を発するそのカードに向かって二体の《ポッポ・弥太郎・パッピー》が飛んでいった。カードとクリーチャーが触れる瞬間、光はさらに強くなった。
「進化。《戦極竜ヴァルキリアス・ムサシ》!」
 赤い光が消え、巨大な二本の剣を持った武者の龍が現れる。二体のサムライクリーチャーを進化元にする事で誕生する《戦極竜ヴァルキリアス・ムサシ》だ。《ヴァルキリアス・ムサシ》が剣を『一反木綿』のシールドに向けると、《ヴァルキリアス・ムサシ》の隣に二体の龍が出現する。侍の龍《バザガベルグ・疾風・ドラゴン》と《武装竜鬼ジオゴクトラ》だ。
「《ヴァルキリアス・ムサシ》が場に出た事で、俺は二体のサムライを出す事ができる。そして、そのサムライはスピードアタッカーを得る!」
 勇騎の解説と共に、《ジオゴクトラ》が持っていた巨大な斧をシールドに振り下ろし、《バザガベルグ・疾風・ドラゴン》の斬撃がシールドを襲う。三枚あったシールドはサムライの猛攻ですぐになくなってしまった。
「信じられん。……誰か、嘘だと言ってくれ」
 『一反木綿』は消え入りそうな声で言う。そんな彼に対して、勇騎は右手の指を突き付けた。
「よく見ろ。それがお前の真実だ。《ヴァルキリアス・ムサシ》で直接攻撃!」
 《ヴァルキリアス・ムサシ》の剣が『一反木綿』に振り下ろされる。地響きと共に戦いは終わった。
「やれやれ。ちょっと苦戦したけれど、こいつら大した事ないな」
 征市はカードをデッキケースにしまうと、倒れた『ぬり壁』に近づく。勇騎もデッキをしまい、『一反木綿』に近づこうとした。
 だが、二人の黒い男を白い煙が包む。勇騎は手で口を覆い、征市の腕を引っ張った。
「気をつけろ。この煙はただの煙じゃない」
「え?マジ?吸ってたらどうなってたんだ……」
 征市が煙を見ていると、すぐに煙は消えた。そして煙に飲み込まれてしまったように、黒い男も消えてしまった。
「げげっ!もしかして、あの煙の中にいたら消されちまうって事か!?」
「判らない。煙幕の可能性もある」
 勇騎は黒い男達が倒れていた地面に触れながら答える。
「プライズは無事だけど、事件解決とは行かなかったみたいだな」
 征市は魔女の帽子を見ながら、勇騎に話しかけた。

 征市と勇騎が煙の場所を調べているのと同時に博物館を出る一台のワゴン車があった。座席には、六人の黒い服の男達が座っている。全員、帽子と暗視ゴーグルを外し、疲れ切った表情をしていた。
「だらしないな。それでも、怪盗アルケーを名乗るプロの怪盗か?」
 運転席から若い女性の声が聞こえる。征市が『ぬり壁』と勝手に名付けていた男が、いら立った表情で運転席の女を見る。
 黒いパンツスーツを着た普通の会社員にしか見えない女性。黒く長い髪を後ろで束ねていて、目には強い意志のような光が宿っている。
「九條(くじょう)!お前が余計な事をするから、こうなったんだ!何故、予告状なんか出した!?」
 『ぬり壁』は運転席の女性、九條に怒鳴る。だが、彼女は詫びる事もなく
「意味ならあるさ。お陰で面白い獲物が引っかかった」
と、返す。
「面白い獲物って、トライアンフと保持者の事かい?」
 助手席に座っていた若い男が話しかける。そこにいたのは幻(げん)だ。微笑みながら九條を見ている。
「君が彼らを面白がるのはいいけれど、仕事はきちんとやってくれないと困るよ」
「判っている。次に狙うのは、あのプライズだろう?」
 九條の質問に幻は頷き、
「かほるは、彼らと違って理解が早くて助かるよ」
と、言って後部座席を見た。
「そんな事は私が一番よく判っている。私がいなければ、こいつらは今でもくだらない空き巣を続けていただろうな。ところで……」
 九條かほるの声のトーンが低くなる。それを聞きとろうとして幻も耳に神経を集中させた。
「プライズに履歴書はない。お前があれをどう使おうと勝手だが、いいのか?出所も何も判っていないような代物だぞ?」
「一応、宇宙から来たプライズって事にはなっているみたいだけどね。今の僕にはどこから来たプライズなのかって事はどうでもいいんだ。ただ、魔力を秘めたプライズが欲しいだけだからね」
「そうか」
 それ以上、何も口を開かずにかほるは運転を続けた。彼女は頭の中で、次の仕事の計画を練っていた。同時に自分の敵であるトライアンフと勇騎達の顔が浮かぶ。どのデュエリストも自分の敵だと感じられない。それほどの実力があるとは思えないのだ。
(まだアルケーは現れなかった。ここまで挑発して現れないとはどういう事だ?)
 たった一つ、懸念する事があった。本物の怪盗アルケーをおびき出す事も彼女の計画に入っている。だが、まだ現れる気配はない。
 疑問を抱えたまま、かほるはワゴンの運転に没頭するのだった。

 『File.40 香水』につづく
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