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『コードD』File.41 征市暴走

『コードD』
 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 偽物のアルケー達を取り逃がしたトライアンフに、新しい予告状が届いた。それは、宇宙科学館で空の石を盗む、というものだった。宇宙から来たプライズとも言える空の石を守るため、トライアンフメンバーと勇騎達は宇宙科学館に向かう。そこで偽アルケー達は科学館の利用者に毒薬を撒いた事をアナウンスする。
 しかし、勇騎はそれが嘘であると見抜き、偽アルケー達の主犯格である九條(くじょう)かほると対峙する。そして、そこに現れた本物のアルケーと征市が戦う事になった。アルケーとかほるはそれぞれ、逃走。空の石もレプリカが奪われただけで本物は無事だった。戦いを終えて勇騎達は東京へ帰っていくのだった。

  File.41 征市暴走

 久しぶりに魔法図書館の扉が開いたのは、受付カウンターの上で黒猫の館長が皿に乗ったまぐろの刺身を食べようとしたまさにその時だった。そこに立っていたのは黒いローブの少女と、身なりのいい老紳士だった。館長の目は皿の上のまぐろではなく、魔法図書館に入って来た二人の客に釘付けになる。
 老紳士と少女は、館長に目もくれず奥へ歩き出した。館長は一瞬、ためらった後
「どこにも行っちゃ駄目だぞ」
と、まぐろの刺身に注意してから老紳士達を追いかける。
「おい!この俺を無視してどこに行こうってんだ!俺はこの魔法図書館の館長だぞ!」
 老紳士は奥にある何もない壁の前で止まり、館長を見た。その目を見て、館長は以前、この老紳士に出会ったようなデジャヴを感じた。
「そうか。今は、君が館長なのか」
「今はってどういう事だ?あんたは、一体……?」
 戸惑う館長の前で信じられない事が起こった。老紳士が壁に手をかざすと、壁が横にスライドして自動ドアのように開いたのだ。館長はその奥に部屋があるなんて知らなかった。いや、話だけは聞いた事があったが忘れていた。
「そうか。先代の館長から聞いていたけれど、ここに隠し部屋があったのか。俺も見るのは初めてだ」
 館長はそう言って、老紳士達と共に隠し部屋の中に入る。老紳士は隠し部屋の中を迷う事なく歩き、目的の書庫から一冊の魔道書を手に取った。
「私の名前を知りたがっていたな。私は、魔法特殊戦隊『紫電』のメンバーだった相羽総一郎(あいばそういちろう)だ」

 教会の下にある魔道書同盟の隠し部屋。ここでは、今日も幻(げん)と全(ぜん)が彼らの主、永遠(とわ)の復活を見守っていた。
 壁際の椅子に座った白い服の少女、永遠は目を覚まさなかった。宿敵であるヴェルナーを生贄に捧げた事で、復活に必要な魔力は蓄積されたはずだった。しかし、永遠は時折、目を開けるだけで一日のほとんどを眠ったような状態で過ごす事が多かった。幻は復活に必要な魔力が足りなかったと考え、強力なプライズから魔力を抜き出して永遠に捧げていた。
「永遠様、今日は目を開けられないわね。どうしたのかしら?」
 顔の上半分を白い布で覆い隠し、白いマントを羽織った男、全は女性のような仕草で頬に手を当て溜息を吐く。
「妙だね。一日中ずっと目を開けない事なんかなかったのに……」
 どこにでもいる若者のような服装の童顔な青年、幻がそれに答えた。
 今日、永遠は一度も目を開けていない。ずっと眠ったように目を閉じている。復活の儀式が失敗していたのかと感じ、二人は落ち込んでいた。
 すると、部屋の中に一筋の光が差し込んだ。部屋に入って来たのは、チャコールグレイのマオカラーのスーツを着て、肩から赤いマントをかけたオールバックの男、念だ。その後ろからは二人の男が続く。
 一人は、昔の貴族のように派手な洋服を着た青年だった。長い時を生きた魔道書同盟の三人に目に、それは何かの衣装として作られた偽物として映ったが、彼らは何も言わなかった。眼鏡のレンズの奥から理知的な瞳を覗かせると、永遠の椅子の前で跪いて頭を下げた。
 もう一人は、地味な色の羽織に袴の男だった。髪は長く、洋服の青年とは対照的に獣のように粗暴さを感じさせる瞳をしている。彼も永遠の椅子の前まで来ると、跪いて頭を下げる。
「念!この二人は何なのっ!」
「三馬鹿のデータをフィードバックした人造デュエリスト、騎西(きさい)と武村(たけむら)だ。柳沢研究所にトライアンフが来た時、別の場所に移していた。三馬鹿の戦闘データを入力するのに手間がかかったが、ようやく戦力として投入できるようになった」
 念は説明した後、永遠の椅子の前で二人の人造デュエリストと同じように跪く。そして、立ち上がり、二人の人造デュエリストと共に振り返って歩き出す。
「どこに行くんだい?」
「俺の専門は戦闘だ。永遠様が復活される前に、トライアンフジャパンを滅ぼす」
「そんな事言っているけれど、本当は相羽征市と戦うのが目的なんじゃないの?」
 幻に皮肉に、念は眉を微かに動かす。
「否定はしない」
 静かに言い返し、念は部屋を出た。
「遊んでいる場合じゃないって判っているのかしらっ!」
「大丈夫さ。それくらい理解している。二人の人造デュエリストを連れて行った事がその証拠だよ。自分は相羽征市と戦う事に集中して、他のメンバーは二人に任せるつもりなんだ」
「やっぱり、遊びに行くんじゃないのっ!」
 全は憤慨しながら、念が出て行った扉を見ていた。

 征市の部屋のドアが勢いを立てて開いた。そして、中から頭を抱えた征市が出てくる。目は血走り、恐ろしい形相をしていた。
『征市!どうしたんだよ!?』
 相羽総一郎が描かれた肖像画のプライズ、二号が彼を心配して飛んでくる。征市はそれを見た後
「何でもない」
と言って階段を下りた。
『嘘つけ!様子がおかしいぞ!何があったのか判らないけれど、落ち着けって!』
「黙れ!」
 征市に一喝されて二号は黙る。征市は黙った二号に目もくれずに家を出た。
「あーあ、八つ当たりなんてみっともない」
 征市の頭に少女の声が響く。征市が耳を閉じても、少女の声は聞こえてきた。
「何なんだよ……。何でまた出てくるんだよ」
 征市の夢に何度も現れ、彼が二十歳になる前に死ぬという不吉な予言を残す銀髪の少女。その少女が再び、夢の中に現れ、不吉な予言を残して行ったのだ。それだけでは終わらず、夢から覚めても少女の声は消えなかった。今も征市の頭に少女の声が響き続ける。
「出てきちゃ悪い?ボクは征市君ともっとお話ししたいんだよ。征市君がボロボロになって死んでいくところを特等席で見たいのさ!」
「黙れ!ふざけた事を言うな!俺は……生きる。お前が何と言おうと俺は生きてやる!」
 少女の声を打ち消すように大声を出すが、その抵抗を少女は高い声で笑った。
「無理無理。相羽の人間はみんな二十歳まで生きられないのさ。征市君だって例外じゃないんだよ」
「そんなの……偶然だ」
「強がり言っちゃって!征市君だって理解しているんでしょ?君だって相羽の人間だもの。あれ?でも、もしかして自分だけは例外だと思ってる?他の相羽とは違って自分一人は『特別』だから、自分だけは助かるとか思っちゃってる?」
「お前……。それも知ってるのか?」
 少女がいう『特別』とは、征市が人造デュエリストの試作型である事を指しているのだろう。総一郎と真実(まみ)を元に作り出された対魔道書同盟のための切り札。
 他の相羽と違い、征市は人造デュエリストだからその定めから逃れられるのではないかという期待が心の中にあった。だが、少女は征市の希望を打ち砕く。
「知ってるとも!君が生まれた時から知っていたよ。君が他の相羽と違っていたとしても、相羽の人間だからね。君が二十歳になる前に死ぬのは必然なんだよ!……そうさ」
 高い声で笑うように話していた少女の声のトーンがそこで低くなる。今までとは違う少女の声色に、征市は寒気を覚えた。
「確かに君は特別さ。だからこそ……だからこそ、他の相羽以上の地獄に叩き落してやらなくちゃ気が済まない。君はボクの宿敵の分身で姉さんの汚れなんだから、絶対に許さない。絶対に生き地獄を見せてやる!」
 征市はかぶりを振って歩く。地獄の底から響くような少女の声が征市の心をかき乱した。
「そうだね。そんな事する前にここで死ぬかな」
「何?」
 征市が前を向くと、そこには二人の人造デュエリスト、騎西と武村が立っていた。その後ろでは腕を組んだ念が様子を見守っている。
「念!どういうつもりだ!」
「どうもこうもない。お前を倒しに来ただけだ。騎西!武村!」
 念の合図と共に騎西と武村の二人がデッキを取り出す。
「念様に一度勝った事があると聞いたから期待したのですが、期待外れかもしれませんね」
「関係ねぇ!俺のデッキでぶちのめしてやるぜ!」
 二人がシールドを並べたのを見て、征市は右手に金属製のデッキケースを、左手に赤い革のデッキケースを持つ。
「やれやれ。念の邪魔する訳にはいかないな。しばらく、様子見と行こうかな」
 その言葉と共に、少女の声が消える。驚いた征市がしばらく耳を澄ましていたが、彼女の声が聞こえる事はなかった。
「何をぼーっとしてやがるんだ!」
 武村が苛立った様子で征市を睨みつける。それを見て、征市は笑みを浮かべた。普段の彼からは想像できないような冷たい笑みで、武村と騎西は背筋に冷たいものを感じた。
「デュエルしている時はうるさくない。最高だ。さあ、かかってこいよ。二人まとめて倒してやるから、来い!」

 陸、湊、彩矢の三人は征市の家へ向かうための坂道を駆け上っていた。普段はふざけている陸も、真剣な表情をしている。その理由は簡単だ。久しぶりに念が現れたからである。
 昨年末に、柳沢研究所で対峙してから一カ月以上経った今まで、魔道書同盟の三人はトライアンフの前に姿を見せていなかった。いつか彼らが姿を現すだろうと警戒していた。また、彼らと戦う時が来たのだ。
「リーダーが言った事が本当なら、二人の人造デュエリストが念と一緒にいるはずだ。セーイチさん、大丈夫かな?」
「それに、人造デュエリストは一真さんと征市さんと彩矢さんが倒したはずです。また出てくるなんて」
「話を聞いた時は、念って潔い敵だと思っていたけれど、ひどい奴ね。征市さん相手に三人で攻めに行くなんて」
 彩矢のぼやきに対して、陸は肯定も否定もしなかった。念は、戦う事に対して幻や全よりも真剣だ。柳沢研究所でも、その気になれば人造デュエリストの浅田十也と一緒に征市を攻撃する事もできた。それをせずに一対一の勝負を貫いた彼がここで三人一緒に征市を攻撃するとは思えない。
「あれを見て下さい!」
 もう少しで征市の家に着こうというその時、湊が声を上げる。陸と彩矢の二人が見上げると、そこで征市と二人のデュエリストが戦っているのが見えた。人造デュエリストの武村と騎西だ。二人の後には念がいる。三人は、デュエルがよく見えるところまで近づいた。
「こいつ、どうなってるんだ!ありえねぇ!」
 獣のように吠える武村の前で、彼のマナに熱した鉄球が叩きつけられる。鎖つきの鉄球を握っているのは征市の《超竜バジュラ》だ。鉄球を叩きつけるのと同時に、武村のクリーチャーが《バジュラ》に踏み潰される。征市の猛攻によって、武村のマナは全て焼き尽くされてしまった。
「私がここまで追い詰められるとは……。こんなの、今までのデータにはなかった!」
 騎西のブロッカーを蹴散らして、征市の《超神星アレス・ヴァーミンガム》がシールドに突進していく。《アレス・ヴァーミンガム》の二門の大砲が騎西の最後のシールドを焼き消した。
「どうした?お前達はその程度なのかよ!」
 陸達三人は、征市の表情を見た時、言葉を失った。血走った目。動物が牙をむき出して威嚇するような表情。その全てが尋常ではなかった。彼は普段の征市ではない。何かに取り憑かれているようだった。
「鬼みたいだ」
 陸は自分で呟いた言葉に驚く。自分達と一緒に戦ってきた仲間をそんな言葉で表現した自分に驚き、同時にその言葉が当てはまる今の征市に驚いていた。
「ねぇ、征市君」
 征市の耳元でまた少女の声が囁かれる。
「早くやっつけちゃいなよ、そんな奴ら。ほぅら、早く早く!」
「うるさい!今、とどめ刺すから黙ってろよ!」
 征市は少女の声に返事をした後で目の前にいる二人を見る。戦う前は征市を倒すつもりでいた二人は、恐怖に怯えた表情で震えていた。
「何だ、その目は……。お前ら、俺を殺しに来たんだろ?最後の最後まで足掻いてみせろよ」
 これ以上の抵抗は無意味だった。武村のマナはなく、騎西の前には大量のクリーチャーが並んでいる。勝つ事は不可能だ。
「《バジュラ》!《アレス・ヴァーミンガム》!とどめだ!」
 《バジュラ》の鉄球が武村を焼き尽くし、《アレス・ヴァーミンガム》の大砲が騎西をかき消した。二人の人造デュエリストは悲鳴をあげる暇すらなく、完全に消えてしまった。
「あっはははは!すごいすごい!やっぱり、征市君はすごいや!さあ、次は念だよ!今の君に勝てるのかな!?」
 征市は血走った目を念に向ける。念はそれを見て、デッキケースを取り出し、征市の前まで歩いた。
「俺が征市を倒して、もし、奴が生きていたら、デュエル・マスターズカードを取り上げろ。こいつのためだ」
 念は陸達三人にそう言った後、征市を見据える。
「今のお前はおかしい。今のお前は鬼気迫る何かがある。だが、その強さはお前の強さではない。俺が戦いたかった相羽征市はどこに行った」
「俺が相羽征市だ!俺以外に相羽征市はいない!さあ、来いよ!見せてやるぜ!『ウソのようなホントウ』って奴を!」
 征市は金属製のデッキケースからデッキを取り出し、目の前に五枚のシールドを並べた。念もそれを見て、自分を守る五枚のシールドを展開する。二人の視線が一瞬、ぶつかり合った後、デュエルが始まった。
「《幻緑の双月(ドリーミング・ムーンナイフ)》!」
「《フェアリー・ライフ》!」
 互いに最初の一手にマナを増やすカードを選んだ。征市は手札を一枚、マナに変えるクリーチャー《幻緑の双月》だ。それに対して、念は山札の一番上のカードをマナにする《フェアリー・ライフ》を使った。それによってマナに置かれたカードは《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》だった。
「また《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》か。出る前に決着つけてやるぜ!」
 征市はマナをタップし、二体目のクリーチャーを召喚する。それは登場と同時に山札の一番上のカードをマナに変える《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》だった。マナを増やす二体のクリーチャーの効果で、征市のマナゾーンには既に五枚のカードが並んでいた。
「《幻緑の双月》でシールドブレイク!」
 《幻緑の双月》が念のシールドまで走り、体当たりする。そのシールドはシールド・トリガーではなかったらしく、念はすぐにそのカードを手札に戻した。
「今回は重いドラゴンではなく、序盤から攻撃できるクリーチャーを選んできたか。このままでは次のターンで切り札の《ボルシャック・大和・ドラゴン》を出させてしまうな」
 そう言った念は、手札のカードを一枚引き抜いて投げる。緑色に光ったそのカードからは四本足の獣が飛び出して、征市のマナゾーンのカードを一枚噛み千切った。
「俺のマナが……!そうか、《マナ・クライシス》か」
 4コストの呪文《マナ・クライシス》。それは、相手のマナゾーンのカードを一枚選び、墓地に置くというものだ。破壊できるのはたった一枚だが侮ってはいけない。複数の文明を使ったデッキの場合、特定の文明のマナを一枚破壊するだけでその機能を停滞させる事もできる。
「小さい事してんじゃねぇ!《サイバー・ブレイン》!」
 マナ加速で減った手札を補充する。これによって、次のターンに使える6コストのカードは三枚に増えた。
「小さい?それは違うな。俺の《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》が場に出るための準備だ。それさえも理解できなくなったか!?」
「うるさい!《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》を出す前に決めてやる!《青銅の鎧》で攻撃!」
 《青銅の鎧》は持っていた槍で念のシールドを貫く。だが、その直後、征市のクリーチャーの上に赤い金属の塊が落ちてきた。念のシールド・トリガー《地獄スクラッパー》だ。一度に複数の小型クリーチャーを破壊する事ができる。
「出す前に決める?できるものならやってみろ!」
 念の手札にある一枚のカードが光る。それによって、念の場が青々とした草木に覆われ、征市の場の地面がひび割れ、マグマが噴き出した。草木が念の山札を押し上げて一番上のカードをマナゾーンに送り、マグマが征市のマナのカードを一枚焼いていく。
「《焦土と開拓の天変》だ。俺のマナはこれで六枚。次のターンで七枚だ」
 征市の脳裏に《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》の姿が蘇る。柳沢研究所で戦った時は、《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》を操る念を倒したが、一度刻まれた恐怖の記憶は簡単には消えない。
「あれれ?征市君、びびっちゃってるの?ダッサーい!」
 耳元で聞こえる少女の声に苛立ち、征市は周りに聞こえるような舌打ちをする。怒りが恐怖を打ち消し、過剰とも言える憎しみが力を与えた。
「うるせぇ!黙って見てろ!」
 再び、マナをチャージする事でマナのカードは五枚になる。征市は、その全てのカードを荒々しい動作でタップしていった。
「《ギガ・ホーン》召喚!これで《ザークピッチ》を手札に!」
 征市の場に出た巨大な角を持つ全身が毛に覆われたクリーチャー《鳴動するギガ・ホーン》は登場時に山札から好きなクリーチャーを手札に加える能力を持つ。征市はこの効果で、手札破壊を受けた時コストを支払わずに場に出せる《翔竜提督ザークピッチ》を手札に加えたのだ。
 念のマナには闇文明のカードが置かれている。闇文明の特技は墓地の利用、相手のカードの破壊だ。場のクリーチャーだけでなく、マナ、シールド、手札の破壊も得意としている。征市はその能力を牽制するために《ザークピッチ》を引き抜いたのだ。
「来いよ、念!俺はお前に怯えてなんかいない!」
 征市は念を鋭い視線で睨んだ。
「確かにお前は俺には怯えていない。だが、俺の戦いたかった相羽征市ではない。戻って来い、征市」
 念は征市が自分に怯えていない事は理解していた。しかし、征市が別の何かを恐れている事を感じ取った。何者であれ、自分とライバルとの戦いの邪魔をする者がいるのは耐えがたい。だから、敵である征市を説得する。
「これが俺だ!」
「違う!」
 征市の言葉を否定してカードを引く。戦いたかった征市でないからと言って、手を抜く事はできない。いや、何者かによって怒りのエネルギーを取り込んでいる今の征市は普段よりも危険だ。一瞬の判断ミスで命を落とす事になる。
「戻ってこないのなら、どんな事をしてでも戻す」
 念は自分自身に誓うようにそう言うと、マナをタップし始めた。

「《バザガジール・ドラゴン》でW・ブレイク!」
 数ターンが経過した。その間、念は何度も《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》を引いたが、一体は召喚した瞬間、マナに送られ、一体は手札にある時に《パクリオ》でシールドに埋め込まれた。
 何もせずに負けてしまう事を恐れた念は、もう一つの切り札とも言える《バザガジール・ドラゴン》を召喚し、無傷のシールドに特攻を仕掛ける。《バザガジール・ドラゴン》の何本もの腕が征市のシールドを二枚、切り裂いていく。
 しかし、念が安堵のため息を漏らした瞬間、その欠片が緑色に輝き始めた。
「しまった。退け!《バザガジール・ドラゴン》!」
「もう遅い!シールド・トリガー《ナチュラル・トラップ》!」
 念の《バザガジール・ドラゴン》の体をツタが拘束する。シールド・トリガーの除去呪文、《ナチュラル・トラップ》は締めつけたドラゴンの体をカードに変えると念のマナゾーンに送り込んだ。
「《ボルシャック・大和・ドラゴン》召喚!そして、W・ブレイク!」
 武者を思わせる甲冑を来た征市の切り札、《ボルシャック・大和・ドラゴン》が念のシールドを二枚、叩き割っていく。残りのシールドは一枚だ。
 だが、追い詰められているのにも関わらず、念の顔に笑みが浮かぶ。それは一瞬で消え、彼は普段の表情でマナをタップする。
「ブレイクされたシールドの中に入っていた。これでお前を元に戻す!」
 地響きと共に、一体の龍が天空から舞い降りる。白い肌を青い鎧で覆う四本足のその龍が着地すると、地面がひび割れた。
「来たか。《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》」
 征市の胸が早鐘をつくように高鳴る。有利な戦況で、一度勝った事があるとは言っても、《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》は怖い。目を閉じるだけで、結界さえも突き破るあの攻撃の威力を鮮明に思い出せる。
「ははは!やっぱりビビってるんだね!征市君はチキン野郎なんだ!」
「黙れ!」
 少女の声に一喝して恐怖を追い出そうとする。いくらか冷静になった頭でもう一度状況を分析してみた。
 《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》はパワー7000のW・ブレイカーだ。それだけならば、どこにでもいる平凡なクリーチャーだ。だが、このクリーチャーには伝説のカードと呼ばれるのにはふさわしい能力が存在する。それは、ブレイクしたシールドを墓地に送る能力だ。破られたシールドは手札に戻る事がないから、ブレイクしても相手の手札は増えない。さらに、シールド・トリガーを使わせる事もない。目の前にあるシールドを跡形もなく焼き尽くすのだ。
 《バザガジール・ドラゴン》にブレイクされてしまったため、征市のシールドは三枚だ。《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》の攻撃には二回まで耐えられる。二回の攻撃を受けなければいい。
「二枚くらいなら、犠牲にしてもかまわないかな……」
 征市はそう言ってカードを引く。そして、そのカードを見て目を疑った。
「どうした?何をしている」
 征市がカードを凝視している時間が長すぎたため、念が声をかける。はっとした顔で念を見た征市は何も言わずにマナをタップした。今、引いたばかりのカードにそのマナを全て注ぎ込むと場に投げた。
「《アクア・サーファー》召喚!」
「何っ!?」
 カードから飛び出したのは全身が液体でできているサーファー《アクア・サーファー》だった。巨大な津波と共に場に現れた《アクア・サーファー》は波を生き物のように操り、《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》の要塞のような巨体を飲み込んでいく。波が消えた時、そこに残っていたのは巨大で荘厳な龍ではなく、一枚の赤いカードだった。念の手元にそれが戻った瞬間、《ボルシャック・大和・ドラゴン》が地を蹴ってシールドに向かって跳ぶ。瞬きする間もなく、一瞬で最後のシールドが叩き割られてしまった。
「よし!こうなったら、次のターンで……!」
 構える征市の前で、《アクア・サーファー》が突然降って来た赤い塊に潰される。《地獄スクラッパー》だ。それを見ても表情を変えずに征市は念を見た。
「念、それで終わりか?」
「ただの悪あがきだ。来い」
 それ以上の事は何もできないらしく、念はターンを終える。それを見た征市はマナをタップしてもう一体の《ボルシャック・大和・ドラゴン》を召喚する。今、出している一体目の《ボルシャック・大和・ドラゴン》で攻撃すれば勝てるのにも関わらず。
「《ボルシャック・大和・ドラゴン》で念を攻撃!」
 《ボルシャック・大和・ドラゴン》が刀を持って跳躍し、念の前に着地する。そして、念に叩きつけるように刀を思い切り振り下ろした。
「無駄だ!クリーチャーの攻撃だけで、俺は倒せん。お前も知っているはずだ」
 念は以前、征市の前でやってみせた時と同じように両手で《ボルシャック・大和・ドラゴン》の刀を受け止める。陸と湊も念に自分のクリーチャーの攻撃を止められている。だが、やはり、彼らも目の前で起きている事が信じられない。どれだけ強くてもクリーチャーの攻撃を受け止める者などいなかったからだ。
「やっぱり、念はすごいね!付き合いは長いけれど、こんな事が出来るなんて知らなかったよ!」
 その様子を見て、少女の声が言う。少女に「知っているのか?」と問おうとした征市だったが、それをせずに戦いに集中する。
「ぬおおお!!」
 体の底から発せられる雄叫びと共に、念の腕に力が集まる。念は、《ボルシャック・大和・ドラゴン》の刀をへし折り、右ストレートを叩きこんだ。ダメージを受けて《ボルシャック・大和・ドラゴン》はよろめき、倒れる。
「さすがだ、征市。不本意な戦いだったが、今回もお前の勝ちにしておいてやる」
「まだ終わっちゃいねぇ!見ろ!」
 征市は右手で天を指す。念が上を見ると、二体目の《ボルシャック・大和・ドラゴン》が刀を抜いて空から急降下してきた。
「そうか!一体目を倒して弱り切った俺にとどめを刺すために二体目を出していたか!」
「ああ、そうだ。お前ともこれでお別れだ!」
 魔道書同盟の一人が倒れる。そんな信じられない状況を目前にして、陸達三人は動く事ができなかった。時間が流れるのが非常に遅く感じられ、目の前の動きがスローモーションのように見える。
 念は降ってくる《ボルシャック・大和・ドラゴン》を見て体全体に力を入れた。しかし、一度直接攻撃を受け止めたため、すぐに力は溜まらない。急すぎた奇襲が、今、念の命を奪おうとしていた。
「ここで終わるか……。本当の征市と戦わずして散るとは、無念だ」
 念は体の力を抜き、目を閉じる。その頭に刀が近づく。
 しかし、信じられない事が起こった。《ボルシャック・大和・ドラゴン》が刀を念の頭上で止めたのだ。
「何してるんだ!早くとどめを刺せ!」
 征市に命じられるが、《ボルシャック・大和・ドラゴン》はその命令を聞かず、刀を鞘にしまう。そして、自分の主を見て、首を横に振った。それを見た征市は動揺する。
「何だよ……。何で、俺の言う事が聞けないんだ!」
 征市の叫びを聞いて、念は目を開ける。《ボルシャック・大和・ドラゴン》に背を向けると、結界を拳で叩き壊す。
「《ボルシャック・大和・ドラゴン》、礼を言うぞ。だが、俺を逃がした事を後悔するなよ」
 それだけ告げて、念は歩き出した。陸達とすれ違う瞬間、彼は
「俺では征市を戻す事はできなかった。命が惜しかったら逃げろ」
と、言い残す。
「命が惜しかったら……か。命が大事だったら、戦っていないよ!」
 陸はループタイについているドクロを光らせる。すると、そこから彼のデッキケースが飛び出して来た。
「陸さん、僕も戦います!」
「アタシだってやるわ!未来の旦那様の様子がおかしいって時に黙ってられるもんですか!」
 湊と彩矢もデッキケースを取り出すが、陸は二人を手で制した。
「気持ちは嬉しいけどね。二人は何かあった時のために残っていてよ。セーイチさんとは、僕がケリをつける!」
 征市の目に陸の姿が映った。陸がデッキケースを持っているのを見て、征市はデュエルの準備を始める。
「陸、お前が俺と戦うのか?」
「戦いますよ。今のセーイチさんはおかしい。戦う事で元に戻せるかは判らないけれど、それしかできないならやるしかない!」
 征市と陸の前に、それぞれ五枚のシールドが並ぶ。それを見て、征市は満足した顔でカードを引こうとした。
「待って!」
 聞き慣れた声を耳にして、征市の動きが止まる。その直後、征市は背後から何者かに抱きしめられた。
「彩弓、か……?」
 振り返らなくても理解できる。彼女の名前を聞いた征市の声に、今まであったような狂気はなかった。
「なんだ、この子?」
 代わりに、今まで征市の横で楽しそうに騒いでいた少女の声のトーンが大人しくなった。
「彩弓ちゃん!今のセーイチさんは危険だ!離れて!」
 彩弓の姿を見つけて、陸が注意する。だが、彩弓は「大丈夫だよ」と言って離れない。
「征市君、どうしちゃったの?何に怯えているの?」
「俺は……俺は……」
 彩弓の声を聞いた征市の手からカードが落ちる。そして、彼は力が抜けたようにその場に座り込んだ。
「何なんだ、この子。征市君が思ったように動いてくれない。……仕方ないな」
 少女の声は諦めたように呟くと「じゃあね、征市君。また今度」と、言って話さなくなった。それを聞いた征市は安心して深く息を吐き出す。
「何で来てくれたんだ?」
 少女の声が消えてしばらくしてから征市は彩弓に聞く。彩弓は不思議そうな顔をして
「そうだね。何でだろう?征市君が助けを求めているような気がしたから、かな?」
と、笑った。
「なんだよ。全然判らねぇよ」
 征市も落ち着いた顔で笑う。その様子を見て、陸達三人も征市に近づいた。
「セーイチさん、大丈夫なんですか?」
「ああ、心配させて悪かった。俺なら、もう大丈夫だ」
 やはり、少女の声は聞こえない。危機は去ったのだ。
「大丈夫などと断言していいのか?」
 征市の言葉を聞いて陸達が安心した時、その場に男の声が響く。征市達が声の主を探すと、一人の老紳士とローブを羽織った少女が彼らの視界に入るのが見えた。
 突然、現れた二人の内、一人が高い魔力の持ち主である事もすぐに判った。陸達は今までに感じた事がない魔力に息を飲む。そして、征市は老紳士の顔を見て目を丸くしていた。
「もう一度聞くぞ、征市。お前は今のように暴走する事は二度とないと断言できるのか?」
「何なんですか、あなたは!セーイチさんが暴走したのは偶然ですって!部外者が口を出さないで下さいよ」
 陸はそう言って老紳士と征市の間に立つ。すると、征市は立ち上がって老紳士を見た。老紳士も征市を見る。
 征市は老紳士の質問に答えない。ただ、しばらく彼を見つめた後、
「おじいちゃん……」
と、呟いた。

 『File.42 陸の契約』につづく
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