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『コードD』File.42 陸の契約

『コードD』
 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 征市(せいいち)の夢に何度も現れて不吉な予言を残す銀髪の少女が行動を起こした。姿を見せずに征市の耳元で囁き、彼の正気を奪う。この事で征市は暴走し、自分を倒すために現れた二人の新型人造デュエリストを撃破。鬼のような戦い方で念(ねん)と戦い、彼を打ち倒した。
 しかし、その戦い方を見て不審に思った陸(りく)と湊(みなと)は、征市を止めるためにデッキを取り出す。それに応戦しようとする征市だったが、彩弓(あゆみ)に止められ、憑き物が落ちたように元の征市に戻るのだった。そこへローブの少女と老紳士が現れる。老紳士は征市の祖父、相羽総一郎(あいばそういちろう)だというのだ。

  File.42 陸の契約

 念は階段を転げ落ちるようにして教会地下の隠し部屋に入って来た。それを見て、全(ぜん)と幻(げん)が駆け寄る。
「そこまでやられるなんて、一体どうしたの!?」
「苦戦した……。いや、負けてきたのかい?」
「今の相羽征市は危険だ」
 念は二人の問いに答える事なく、そう言うと近くにあったベッドに腰掛けた。しばらく肩で息をした後、顔を上げて二人を見る。
「今のあいつは、何かに取り憑かれているようだ。あいつであってあいつでない。まるで、何者かがあいつを操っているようだった」
「操った訳じゃないんだよ。ちょっと横でおしゃべりしてただけさ」
 この部屋に似つかわしくない少女の声が響いた。それを聞いた三人は、一瞬動きを止め、同じタイミングで部屋の奥にある椅子を見る。その椅子に座っていた銀髪の少女は目を開けて念達を見ていた。倉員瀬里奈(くらいんせりな)という仮初の存在ではない、本当の持ち主がそこにいる。
「永遠(とわ)、様……!」
 念が呟いたのが合図となった。三人はほぼ同時に駆け出すと永遠の前で跪いて頭を下げる。
「待たせちゃったみたいでごめんね。君達がヴェルナーを生贄にしたお陰で、この体に入れたんだけど、まだ不調でね。それと、気になる奴がいたからからかっていたんだ」
 永遠は立ち上がることなく、念を見る。そして、彼を呼んで話し始めた。
「念。征市君との戦い、見てたよ。クリーチャーの攻撃はああやって止めるんだね。僕は負ける事がないから使わないけれど、参考になったよ」
 それを聞いた念は驚いた表情で永遠を見る。永遠は得意気な表情で念に説明した。
「意識だけを飛ばして征市君を挑発していたのさ。何度もやってきたんだけれど、ここまで征市君が壊れたのは初めてだったな。あれは驚いたし、面白かったよ」
「そうでしたか。あれは、永遠様が……」
「もうあんな事はしないから怒らないでね?それと……」
 永遠が次に目を向けたのは、全でも幻でもなかった。この部屋の出入り口とも言える階段の先だ。
「そこに隠れている魔法使いさん。出て来てボク達とお話ししようか?」
 永遠の呼びかけからしばらくして階段から一つの影が降りてきた。
 赤いズボンにグリーンのジャケット、そして赤いラインが入った黒い帽子をかぶったその男は、ステッキを持って階段を下りてくる。魔道書同盟に協力している魔法使い、ジャロール・ケーリックだ。
「永遠様が復活されたと聞いたものでね!気になって来てしまった!」
 魔道書同盟の三人にそう言ったジャロールは、彼らと同じように永遠に跪く。
「初めまして、永遠様。僕は不老不死を目指している魔法使い、ジャロール・ケーリックです。ずっとあなたの力に憧れていました。かつて魔法特殊戦隊『紫電』の隊長をしていた時からずっとね……」
「へぇ。『紫電』って総一郎がいたあの戦隊でしょ」
 ジャロールの話を聞きながら、永遠は過去の大戦を思い出していた。
 魔法使い達と魔道書同盟によって繰り広げられたその大戦で多くの魔法使いが死んだ。魔道書同盟の長、永遠と念、全、幻の三人は自分達に記されていた魔法『永遠の牢獄』によって封印され、唯一生き残った真実(まみ)は人間達の元へ向かった。
 その大戦で魔道書同盟と戦った魔法使いの多くは、日本の魔法使いの組織、魔法特殊戦隊『紫電』に所属する者だった。その『紫電』も大戦末期には隊長が行方不明となり、組織としての力は低下。総一郎を臨時のリーダーとして立て直したが、大戦が終わってからは解体された。
「そうです。あなた方と戦っている時に気付いたのです!僕の求めていた物、僕が追い続けていた魔法を持っているのはこの方達だと!」
「だから、ボク達に協力してくれたの?ふふっ、君っておもしろいね」
 永遠は軽く微笑んでジャロールを見た。
「それで、今日は何のためにここに来たの?君がボクの復活のために手助けをしてくれたり、ジャバウォックを生み出す手伝いをしてくれたりしたのは知ってるよ。だけど、ボク達の目的の邪魔はさせない。自分が人間だから、人間を傷つけるのをやめてくれ、なんて言わないよね?」
「つまらない事をおっしゃらないで頂きたい。僕が求めるのはただ一つ、不老不死だけです。永遠様ならばそれができると思い、参上したのです!」
「不老不死ね、いいよ。君を不老不死にしてあげる。念、全、幻。準備をしてくれるかな?」
 永遠は了解の返事をした後、念達三人に声をかける。三人は立ち上がると、感激した表情で永遠を見るジャロールを囲んだ。
「今から君を不老不死にしてあげる。不老不死になったら、もう二度と戻れないけど、いいよね?」
 念を押すように永遠が聞いてくる。ジャロールは笑いながらそれに答えた。
「もちろんですとも!架空の物語で不老不死になった連中はみんな後悔しているが、僕は違います!一緒にいたい友人などいない。長く生きても退屈する気はない。不老不死を手に入れるためだけに生きてきたのです。不老不死になれないのならば、死んだ方がいい」
「そうなんだ。じゃあ、いいね。後戻りはできないけれど、誰にも文句は言えないよ?」
 永遠はそう言った後、ジャロールに手を伸ばす。他の三人も同じように手を伸ばした。魔道書同盟のメンバーの手から不思議な光が出て、ジャロールの体を包んでいく。その瞬間、ジャロールは自分の体に新たな魔力が注ぎ込まれるのを感じていた。
「不老不死の誕生さ!」

 トライアンフメンバーの他に、彩弓、そして、総一郎とローブの少女が入った事務所は異様な雰囲気に包まれていた。総一郎が簡単な挨拶をした後、口を開く。
「今まで、征市と共に戦ってくれてありがとう。だが、それも今日までだ。征市は本日限りでトライアンフを抜け、代わりに私が戦う」
 誰もが想像していなかった言葉に、メンバーは顔を上げる。征市は驚いた顔で総一郎を見ていた。
「ちょっと待ってくれよ!そんな事、勝手に決めるなよ!おじいちゃんはトライアンフの総長だったのかもしれないけれど、今は違うだろ?ここのリーダーは菜央だし、戦うのをやめるか決めるのは俺だ。おじいちゃんが決める事じゃない!」
「征市、お前は戦うべきじゃない。お前の進むべき道はもう用意してある」
 総一郎はそう言うと、ローブの少女に手を伸ばした。少女は持っていた鞄から一冊のパンフレットを取り出して、総一郎に手渡す。総一郎はそれを征市に見せた。パンフレットの文字は英語で書かれている。
「これはイギリスにある魔法学校のパンフレットだ。私の知人が運営している。魔法学校とは言っても、教えるのは魔法ではなく手品だ。この学校が手品を教えられる者を探している」
「それで、俺に行けって言うのか?」
 征市はパンフレットを受け取って総一郎を見た。総一郎は静かに頷く。
「四月からお前はイギリスで過ごすんだ。もう戦う必要はない」
「でも、俺が戦わなかったらどうするんだよ!?今、おじいちゃんが戦っていた魔道書同盟が復活しているんだ!おじいちゃん達が倒せなかった奴らだ。今、現役じゃないおじいちゃんが勝てるわけないだろ?」
 征市は納得できずに思いをぶつけた。それを見ていた菜央(なお)が二人の間に入って口を開く。
「私に反対する理由はありません。しかし、総長が本当に征市さんの代わりとして戦えるのか判断できない限り、簡単に許可もできません」
「君は、私が征市の代わりとして戦えるだけの力を持っていれば満足できるのか?」
「そうです」
 総一郎が強力なデュエリストだったとしても、それは昔の話だ。一線を退いた彼と、実戦で鍛えられた征市では違いがある。それを理解し、総一郎は納得したように頷く。
「判った。それならば、しばらく私をテストしてくれないか?」
「テストですか?」
「そうだ。征市と同じ仕事をさせて代理として使えないようであれば、この件に関して何も言わない。だが、君達が納得できるほどの実力があれば、私のわがままを聞いてもらいたい」
「判りました」
「菜央!」
 菜央が頷いたのを見て、征市が食い下がる。だが、その時、総一郎が征市の主張を退けるかのようにこう言った。
「それと、遠山陸君。君に渡したい物がある」
 総一郎はローブの少女を見る。少女はその中から一冊の本を取り出した。それは魔法図書館で総一郎が手に取った本だ。総一郎は少女から本を受け取ると、それを陸に手渡した。
「これは、一体何ですか?」
 緊張して震える手で本を受け取った陸は、黒い表紙を見た後、総一郎に尋ねた。
「それは悪魔との契約に関する魔道書だ。かつて、ジャロール・ケーリックが書いたもので、君の命を吸っている悪魔に関する情報も載っている。そして、その悪魔を従わせる方法も書いてあるはずだ」
「ジャロールが書いた魔道書……」
 ジャロール・ケーリック。
 不老不死を目指したその男の狂気の儀式によって、魔法使いとしての遠山陸が生まれた。悪魔と契約したあの日から、陸の命は削り取られている。命がどれだけ残っているか判らない、不安を抱えながら陸は戦っていた。
「君と契約している悪魔は、本来、ジャロールが呼びだした者だろう?その魔道書にも情報が載っているはずだ」
 それを聞いた陸は、魔道書を開いて内容を読み始める。普段の彼ならば本を読む事などないのだが、命が懸かっているため、今の彼は真剣そのものだ。一文字も見落とさないように、隅から隅まで目を通している。
「おじいちゃんはジャロールを知っているのか?」
 自分が本当に知りたい質問に答えてくれないのを知った征市は、別の質問をする事にした。総一郎の口からジャロールの名が出た事も、驚くべき事だった。
「ジャロール・ケーリックは元々、私達が所属していた戦隊の隊長だった。魔道書同盟と対立していた魔法使いの組織の一つ、魔法特殊戦隊『紫電』。だが、大戦末期に戦隊を裏切り、どこかへ姿を消してしまった。そのころから、不老不死になる事を夢見ていたよ」
「その頃から不老不死になろうと思って、まだ諦めていないのか。執念深い奴だ」
 総一郎の話を聞いた征市がそう呟く。集中していた陸は何も言わなかった。一心不乱に魔道書を読んでいて、目を離さない。
「では、また明日会おう。テストは明日からさせてもらう」
 そう言うと、総一郎はローブの少女を連れて事務所を出た。征市も慌てて後を追う。
「征市さん、いなくなっちゃうんですか……?」
 誰に言う訳でもなく、湊が呟く。総一郎が決めた事とはいえ、それで征市がいなくなる事に納得できる者はいない。征市は実力もあり、精神的な柱としても大切な人物だ。彼が抜ける事は戦力だけでなく、士気にも影響する。
「最後に決めるのは相羽さんです。相羽さんがどんな決断をしても、私達には何も言えません」
 菜央はそう言ったが、彼女の表情にも納得できていないと感じさせるオーラがあった。それを見て彩弓が口を開く。
「大丈夫!征市君が間違った決断をする訳ないよっ!信じてみよっ!」
 明るい彼女の笑顔を見て、緊張し切った空気が緩む。張りつめた糸のような緊張感から解放されるような気さえした。

 その後、メンバーは帰宅し、事務所には菜央と陸だけが残った。
「二人で残っていると、相羽さんが来る前を思い出しますね」
 菜央が独り言のように言ったのを聞いて、陸は今から一年前の出来事を思い出す。征市が来てからの一年間でトライアンフは変わった。湊や彩矢(あや)がメンバーとして加わり、一真(かずま)が復帰した。メンバーではないが、彩弓も一緒に行動し、楽しく活動ができた、と陸は思っている。征市がいなくなると言われただけで、何か大きな物が失われてしまうような気がした。
「あれから、色んな事がありましたよね。たった一年間の出来事なのに……」
 陸は菜央の言葉に返事をするように言った。菜央もこの一年間の事を思い返していた。木口元喜(きくちもとき)としてトライアンフに潜入していた幻との戦い。トライアンフアメリカから来たマシューとの対立。そして、同時期に起こったジャバウォック、全との戦い。湊の一時的な脱退と陸の行方不明。柳沢研究所での決戦。それら全ての戦いが彼らを繋ぎ止める思い出となっていた。
「セーイチさんが抜けても、大丈夫ですって!僕もいるし、みんな強いデュエリストなんですから!いきなりこんな事があったから驚いちゃったけれど、すぐに慣れるって!」
 陸はおどけたような口調で言うと、鞄の中に総一郎から手渡された魔道書を入れた。
「それじゃ、僕は先に帰りますよ!セーイチさんのお別れ会とかしてもいいかもしれませんね。セーイチさん、感激して泣いちゃったりして!」
 最後まで明るい口調で話した陸は、菜央に挨拶をして事務所を出た。
 その後、寄り道をせずに帰宅した彼は総一郎から借りた魔道書を開いた。総一郎が言うように、確かにそこには陸と契約した悪魔を従わせる方法が書いてあった。しかし、これには大きなリスクが伴う。陸はこの方法を実行するか、それとも、このまま悪魔に命を奪われたままでいるか悩んだ。
 陸が魔道書のページを睨んでいると、近くに置いていた携帯電話が震えた。画面を見ると見慣れない電話番号が映っていた。奇妙に思いながら通話を始めると「やあ、陸。元気にしていたかい?」という聞き慣れた言葉が聞こえてくる。
「ジャロールか」
「そうだよ、陸!今、僕はとてもいい気分なんだ!とうとう不老不死になれたんだからね!」
「何だって!?」
 ジャロールは不老不死になるため、多くの者を犠牲にしてきた。ネバーランドにいた時、悪魔が陸の命を奪っていればジャロールは不老不死になれたのかもしれないが、結果的にそうはならなかった。その彼が、とうとう不老不死になったのだ。
 陸が驚いて言葉を帰せないでいるとジャロールは興奮した様子で続けた。
「ところで、陸。僕のアシスタントとして働く気はないかい?今の僕には君が必要だ!君も不老不死にしてあげるよ!その気になったら電話をしてくれ!」
 一方的にそう告げた後、ジャロールは通話を終えた。陸は聞こえるツーツーという音に耳を傾けながら深呼吸する。ジャロールが不老不死になった事を聞いて、陸には思う事があった。この方法ならば、悪魔を従わせる方法の大きな問題が一つ解決する。
 陸は携帯電話を耳から離すと、震える指でボタンを押し、トライアンフの事務所に電話をかけるのだった。

 翌日、総一郎は一真と一緒に山城公園にいた。そこに奇妙な人間がいるという連絡を魔法警察から受けたのだ。
 ローブの少女は征市と一緒に彼の家にいる。少女は鍵がかかった部屋の中にいて、征市も自室から出て来ない。
「あれか」
 久しぶりの現場を歩いていた総一郎は、地面に倒れている人達を見つけた。その中央に頭の大きな男が立っている。総一郎が近づいてよく見ると、それは頭ではなくヘルメットのようなものだった。巨大な口が開いた鉄色のヘルメットをかぶった男は総一郎に気付き、彼を見た。総一郎はそのヘルメットに見覚えがあった。
「あれは口から魔力を吸い取る『魔封じの兜』か。これを使って人々の命を吸い取り、魔力に変換しようとした」
 後ろにいる一真に聞かせるように言うと、懐から金属製のデッキケースを取り出した。特注の物らしく、赤いラインが入っている。それを見た兜の男は、兜の口を大きく開ける。
「魔力を吸い取る動作だ。気をつけろ」
 総一郎は一真に背を向けたままそう言うと、目の前に五枚のシールドを並べた。それは征市のシールドと同じように炎のように赤い。兜の男はシールドに邪魔されて魔力が吸い取れない事に気付き、兜の口を閉じ、耳に取りつけてあったデッキケースを取り出す。目の前に五枚のシールドを並べて兜ごしに総一郎を睨んだ。
「プライズに支配されているのか。今すぐ、君を解き放ってやる」
 総一郎と兜の男が五枚のカードを手札として加えた時、デュエルが始まった。

 陸と菜央は、事務所の下にある特訓施設の中にいた。念に勝つために征市が使っていた特訓施設だが、今は使われる事がなく、ただの空きスペースとなっている。
 オフィスの二倍はある面積の床には、魔方陣が描かれている。これは、元々あったものではなく、陸が魔道書を見て描いたものだ。魔方陣が間違いなく描けたか確認した陸は菜央を見る。
「これから、僕はこの本に書いてある方法で悪魔を呼び出し、従わせます。それには、リーダーの協力が必要なんです。もう一度聞きますけれど、手伝ってもらっていいんですよね?」
 陸の問いかけに菜央は微笑んで頷いた。
 魔道書に書かれていた悪魔を従わせる方法を実行するためには、陸は二つの問題を解決しなければならなかった。その内の一つは、陸の魔力が悪魔との契約によって生み出されているという事だった。
 この儀式は悪魔とデュエル・マスターズカードで戦い、勝利する事で従わせるというものだ。陸の魔力は彼が生み出しているわけではないので儀式をしている間、誰かの魔力を借りなくてはならない。陸は魔力を借りるために菜央に声をかけたのだ。負ければ、二人とも命を失ってしまう危険な賭けだったが、菜央は迷う事無く陸の儀式の協力を決めた。
「もちろんです。これでやっと陸君は自由になれるんですから。それに陸君は絶対に負けないと信じています」
「嬉しいな」
 陸がそう言って笑った後、魔方陣の中央が黒く輝く。陸の目つきが鋭くなり、彼はそれを見た。人の体に黒い羽と山羊の頭の悪魔が魔方陣の中央から現れ、陸と菜央を見た。
「小僧。これは何のつもりだ?」
 悪魔は意外だという様子で陸に問いかける。陸は既に出していたデッキケースを突き付け、悪魔に答える。
「今から再契約の儀式を始める。僕が勝ったら、お前は僕の家来として従わなければならない」
 陸の口から放たれた言葉を聞いた悪魔は、近くに置かれていた魔道書を見た。「それを読んだのか」と呟いた後、陸を見てデッキケースを取り出す。
「だけど、いいのか?失敗したら、お前だけでなくお前に魔力を貸していた者も死ぬ。それに、儀式を成功させたとしても、お前が俺に人間の命をくれなかったら食い殺すぞ」
 悪魔を従わせたら、それを飼い馴らすための餌が必要になる。悪魔が要求してくるのは人間の命だ。それを定期的に与えなければ、契約者の命が餌として奪われる事になる。だが、陸は既にこれを解決する方法を考えていた。
「お前がそんな事を心配する必要はないよ。そこまで心配するなんて、親切なんだね」
「悪魔ってのは弱っている人間には親切なもんだ。そこまで言うんだったら仕方ねぇな。お前とはもっと一緒にいたかったが……」
 互いに五枚の黒いシールドを並べ、五枚の手札を引く。陸の未来を懸けた戦いが始まった。
「《エマージェンシー・タイフーン》だ!」
 悪魔が使ったカードによって場の中央に竜巻が現れ、悪魔のカードを弾き飛ばしていく。山札の上のカードが二枚手札に飛び、手札から一枚、墓地に飛ばされていった。
「墓地利用か?」
「闇が得意とする戦い方だ。お前も好きだろ?」
 悪魔に言われて、陸はカードを引く。陸も墓地利用をメインにしたデッキを使っていた。しかし、今使っているのは、それとは違う新しく作り直したデッキだ。
「《フェアリー・ライフ》!」
 陸のカードの効果で場に草木が生え、山札の上のカードがマナゾーンへ飛んでいく。最初に使ったカードが自然文明のカードだった事に悪魔は驚き、溜息を洩らす。
「マナを増やして《ドルバロム》を出すか?だが、俺も闇をメインにしているから効果はねぇぜ?」
 悪魔の言う通りだった。陸の切り札《悪魔神ドルバロム》は、場にある闇以外のクリーチャーを全て破壊し、その後、互いのマナゾーンの闇のカードを全て破壊する進化クリーチャーだ。相手が闇のカードをあまり使っていなければ立ち直れないほどのダメージを与える事が可能だが、闇を多く使っている場合はダメージが少ない。悪魔のように闇をメインにしている場合、ほとんどダメージがないと言ってもいいだろう。
「《ドルバロム》だけが切り札じゃないさ。僕の強さを教えてやるからよく見てな!」
「お前の切り札を待つほど暇じゃねぇよ!おらぁっ!」
 悪魔の場に魚と人が融合したような姿のクリーチャー《フェイト・カーペンター》が現れる。《フェイト・カーペンター》が持っていた鎖を引っ張ると、山札の上の二枚のカードが悪魔の手札に向かって飛ぶ。悪魔がそれを握った時、《フェイト・カーペンター》はその手札に向かって鎖を鞭のように振り、叩きつけた。その勢いで二枚のカードが墓地に落ちる。
「また自分の手札を墓地へ……!」
 菜央が驚いた顔でその策略を見ていた。陸も少し焦り始めている。悪魔がこれだけ早く墓地にカードを溜めるというのは予想外だったからだ。
「これぐらいで驚くんじゃねぇ!後でもっと驚く事になるんだからよ。小僧の人生最期のデュエルらしく、ド派手な切り札で終わらせてやるから覚悟しな!」
「そうはいかない!僕はここで終わるんじゃない!ここから始まるんだ!」
 陸は《サイバー・ブレイン》でカードを三枚引く。相手が悪魔でもやる事はいつものデュエルと変わらない。自分のやり方で戦っていけばいいだけだ。引いたカードを確認した陸は、絶対に勝たなければならない敵を見てターンを終了した。

 一真は目の前のデュエルを見ながら、復帰し、陸と戦った時の事を思い出していた。あの時の自分は現役と同じかそれ以上の実力をつけて戦線に戻っていた。しかし、陸は一線を退いた相手だからと嘗めていた部分があったのかもしれない。
 一真は総一郎の実力が落ちているだろうと考えてこのデュエルを見ていた。一真のブランクとは違い、総一郎は何年も実戦を行っていない。しかし、そうは思えないほどの実力で相手を追い詰めていた。かつて、魔道書同盟と戦った『紫電』のメンバーの実力を見せつけられて、一真は言葉を話す事すら忘れたままデュエルに見入っていた。
「おおおっ!《アポルオン・ワーム》ッ!!」
 兜の男が出した進化クリーチャー《貴星虫アポルオン・ワーム》は馬のような下半身と、たくさんの腕がある上半身が別れ、それぞれ地面に叩きつけられた。その前に立つのは冷たい銀色の光沢を放つ鎧を纏った龍《聖霊龍騎セイント・ボルシャック》だった。総一郎がこのターンに召喚した《セイント・ボルシャック》は燃える手で兜の男を指し、挑発する。
「あああっ!」
 兜の男は自分が追い詰められている事に恐怖し、胴体が四角いアナログ時計でできているようなブロッカー《時空男》を召喚する。彼の場にはシールドが二枚しかない。総一郎の場にいる《セイント・ボルシャック》はW・ブレイカーであり、その横に並ぶ《龍仙ロマネスク》は攻撃できるブロッカーだ。ブロッカーを召喚しなければ、次のターンで負けてしまう。
「ブロッカーか。それで防御し、時間を稼ぐ。……そんな事を私が認めるとでも思ったかな?」
 総一郎は手札から一枚のカードを引き抜く。そのカードに金色のマナと赤いマナが集まり、力を与えていた。
「進化ボルテックス!」
 総一郎がカードを投げると、そのカードを中心に《セイント・ボルシャック》と《ロマネスク》が光に変わり、一つの存在に融合していく。光が消えた時、その場に立っていたのは、炎のように赤い右半身と天使のように白い左半身が特徴的な龍だった。
「行くぞ、《シデン・ギャラクシー》」
 場に現れた総一郎の切り札《超聖竜(スーパーチャンプ)シデン・ギャラクシー》は右手に持っていた剣を兜の男のシールドに向けると、巨体とは思えない俊敏な動きで跳躍した。総一郎はその背中に手を向け、何かを引っ張るような仕草をする。すると、《シデン・ギャラクシー》の背中から一枚のカードが抜け落ち、総一郎の墓地へ飛んだ。
「あああっ!《時空男》ッ!!」
 絶叫にも悲鳴にも似た声で兜の男が命令すると、《時空男》は跳躍し、《シデン・ギャラクシー》を追った。《シデン・ギャラクシー》は容赦する事なく、持っていた剣で《時空男》を真っ二つにする。
「攻撃が止められてしまったか」
 一度、総一郎の攻撃を止められれば充分なのか、兜の男は自分の手札を見ていた。しかし、彼はすぐに《シデン・ギャラクシー》の真の力を知る事になる。
「愚か者め。戦闘の最中の余所見をするな!」
 叱責するような総一郎の声と共に《シデン・ギャラクシー》の右半身が赤い光を発する。着地した《シデン・ギャラクシー》の剣が炎を纏い、兜の男のシールド二枚を横薙ぎで叩き割った。
「馬鹿な……!《シデン・ギャラクシー》の攻撃は《時空男》によってブロックされたはずだ!」
「一真君、《シデン・ギャラクシー》のメテオバーンだ。《シデン・ギャラクシー》は最初の攻撃時に進化元のカードを一枚墓地に送る事によって二種類の能力を得る事ができる。ドラゴンを捨てた時、《シデン・ギャラクシー》は一度アンタップされる。つまり、二回攻撃が可能になるという事だ。私が墓地に捨てたのは《セイント・ボルシャック》だ」
 総一郎が《シデン・ギャラクシー》の進化元に使っていたのは両方とも種族にドラゴンを持つクリーチャーだった。もう一枚、ドラゴンが進化元として残っているため、《シデン・ギャラクシー》は二回攻撃を次のターンにも使う事ができる。
「あああっ!《デーモン・ハンド》ッ!」
 しかし、相手も甘くはなかった。《シデン・ギャラクシー》がブレイクしたシールドにシールド・トリガーが入っていたのだ。今回、シールドから飛び出したのは問答無用で相手のクリーチャーを一体墓地に送る黒い悪魔の手、《デーモン・ハンド》だ。
 それを見ても総一郎は冷静さを保ったまま、低い声で言う。「愚かな」と。
 《シデン・ギャラクシー》に黒い手が伸びるが、白い左半身が腕に装備していた盾をかざすと黒い粒になって消えていった。
「《セイント・ボルシャック》を捨てたと言ったはずだ。《シデン・ギャラクシー》がメテオバーンによって得られるもう一つの効果は守りの効果。エンジェル・コマンドを墓地に捨てる事によって発動する。メテオバーンを使用したターンは、破壊される事なく場に留まる事ができる。私が捨てた《セイント・ボルシャック》は種族にアーマード・ドラゴンとエンジェル・コマンドを持つ!」
 攻撃も防御も完璧な切り札、《シデン・ギャラクシー》。それに怯え、兜の男は複数のブロッカーを並べる。しかし、それも総一郎の《地獄スクラッパー》によって全滅してしまった。
「さあ……眠れ!《シデン・ギャラクシー》でとどめだ!」
 燃え盛る剣を両手で握り、《シデン・ギャラクシー》が踏み出す。剣が地面に叩きつけられた瞬間、兜が男の頭を離れ、転がっていった。カードをデッキケースにしまった総一郎は、倒れていた男性に駆け寄る。操られていただけで、体は無事らしい。
「一真君、魔法警察と救急車に連絡を頼む」
 総一郎は、指示を出してから兜を拾った。それを見ながら、一真は携帯電話を使って連絡をしていた。
 魔法警察と救急車を待ちながら一真は思っていた。総一郎は征市とは違う。しかし、彼とは別の意味でトライアンフの柱になってくれる事は間違いない。一真は総一郎を征市の代わりにメンバーに入れる事に賛成するつもりでいた。

「やるじゃねぇか」
 《冥府の覇者ガジラビュート》の燃え盛る剣が悪魔のシールドを一枚焼き尽くした時、彼は余裕を感じているような口調でそう言った。今の彼の場にクリーチャーの存在はなく、シールドは三枚残っている。
 対して陸はシールドが二枚残っていて、場には《甲魔戦攻ギリメギス》と召喚したばかりの《ガジラビュート》がいた。
「褒めてくれてどーも。だけど、手加減はしないよ!《ギリメギス》でW・ブレイク!」
 《ギリメギス》が剣を乱暴に振り下ろし、悪魔のシールドが二枚破られていく。順調なブレイクに陸の気が緩んだ瞬間、その内の一枚が黒い光を発した。
「手加減?そんなもの必要ない。全力で俺を倒しに来なきゃ面白くねぇだろ!?その自信を抉り取るのが最高なんだよ!!」
 悪魔の前に金色の魔方陣が現れた。魔方陣からは白い虫のようなクリーチャーが出てくる。
「《魔光蟲ヴィルジニア卿》。これが俺の墓地利用の答えだ!」
 場に出た《魔光蟲ヴィルジニア卿》が空に向かって鳴くと、墓地から三枚のカードが飛んできた。その三枚は黒い光を出して宙で融合していく。
「《ヴィルジニア》は墓地からクリーチャーを回収する能力を持つ。そして、《ヴィルジニア》と同じ種族を持った進化クリーチャーを回収した時、コストを支払わずに場に出す事ができる!俺の切り札はこれだ!」
 黒い光の中から出てきたのは、紫色の体毛に覆われた獣だった。体の各部から龍の首が伸びている。
「《死神の魔龍虫ビャハ》。どんな大群が相手でも簡単にぶっ殺しちまう俺の切り札さ」
 《死神の魔龍虫ビャハ》の大きさ自体は《ギリメギス》と大差はない。しかし、その全身から溢れるオーラに陸も菜央も恐怖していた。
「怯えるなよ。楽しいショーはまだ始まってねぇ!」
 悪魔はマナゾーンのカード五枚をタップする。そして、一体のクリーチャーを呼び出した。煙が骨の鎧を纏っているような姿のクリーチャー《炸裂の影デス・サークル》だ。《デス・サークル》は場に出た瞬間、その場で爆発した。体を構成した骨が《ガジラビュート》の体に激突する。
「どういう事だ?自爆したの?」
「無駄死にじゃねぇよ。見な」
 陸が自分の場を見ると、骨が当たった《ガジラビュート》の肉体が白い煙に変わっていた。最初は骨が当たった部分だけが煙になっていたが、その箇所はどんどん広がり、最終的には体が全て煙になってしまった。
「《デス・サークル》は自爆する事で相手のタップされていないクリーチャーを破壊できる。そして、俺が自爆クリーチャーを選んだ理由はこれだけじゃねぇ」
 役目を終えた《デス・サークル》は黒いカードの姿に戻っていた。そして、墓地に飛んでいくために宙に浮いた。
「おっと!お前の仕事はまだ終わってねぇんだよ!」
 《ビャハ》が勢いよく《デス・サークル》のカードを吸い込む。口の中にカードを取り入れた《ビャハ》はそれを飲み込んだ。
「《ビャハ》が場にいる間、死んだクリーチャーは《ビャハ》の進化元として吸い込まれる。《ビャハ》はメテオバーンを持つクリーチャーだ」
 陸にもその危険性が理解できた。メテオバーンは進化元を捨てる事で能力が発動できる。進化元が増えるという事は、それだけメテオバーンの使用回数が増えるという事なのだ。
「《ヴィルジニア》で《ギリメギス》を攻撃!」
「何だって!?」
 《ヴィルジニア》はその体を《ギリメギス》にぶつけ、散っていく。カードに変わった瞬間、《ビャハ》がそれを吸い込んだ。
「これで四枚。《ビャハ》がメテオバーン》を使うための進化元は全て揃った」
「どういう事だ?」
「《ビャハ》はメテオバーンを持つクリーチャーだ。だが、こいつのメテオバーンは恐ろしく燃費が悪い。進化元を四枚、一度に墓地に送らないと発動できないんだからな。それにしても、四か……」
 そこで悪魔は一度言葉を区切る。そして、歯を見せて笑った。その顔はまるで人間のようだった。
「四ってのは死を連想させるとかいうよな。丁度いい。こいつのメテオバーンも相手に死を与える能力だ!」
 《ビャハ》の体から四枚の黒いカードが飛び出す。そして、体の各部から出ていた龍の首が黒い光線を吐き出した。その光線は《ギリメギス》の体を貫いていく。
「《ギリメギス》!」
「クリーチャーの心配をしている場合か?次は手札だ!」
 《ビャハ》の黒い光線は陸が持っていた四枚の手札を全て弾き飛ばした。その中には、反撃のために用意していた《デーモン・ハンド》やいざという時のために持っていた《ハンゾウ》もあった。
「《ビャハ》がメテオバーンを使ったら、相手のクリーチャー四体と相手の手札四枚を破壊できる。小回りは効かねぇが、パワーは充分だ!」
 《ビャハ》が陸のシールドに噛みついてくる。二枚のシールドが噛み千切られ、絶体絶命となった時、シールドから出た黒い手が《ビャハ》の体を貫いた。
「くっ、《デーモン・ハンド》か。運のいい奴だ」
 強力な力を持つ《ビャハ》も《デーモン・ハンド》が相手では勝てなかったらしく、その場に倒れたまま動かなかった。しかし、《ビャハ》の一撃で陸が不利な状況に追い込まれた事に変わりはない。クリーチャーがない状態からの逆転は不可能ではないが、それに加えて手札もないというのが問題だった。手札がないという事は、行動の選択肢がないという事なのだ。陸は震えながら山札の上のカードに触れる。
(これでいいカードが来なかったら、どうしよう……)
 陸は押しつぶされそうな想いを胸に抱えてカードを引いた。しかし、それがどんなカードなのか、まだ見る事はできない。
「陸君!」
 背後から菜央の声が聞こえる。それを聞いて、陸は振り向く。
「ごめん。負けちゃいそうになって」
「そんな事を言っている場合じゃないです!陸君!自分のデッキを信じなさい!諦めるのはまだ早いはずです!」
 陸は菜央に言われて引いたカードを見る。それは《凶刻の刃狼ガル・ヴォルフ》。相手の手札を破壊し、うまくいけばシールドも同時に破壊できるクリーチャーだった。
「そのデッキは陸君が自分の手で強くしたデッキです。私達はデュエルをしている間は孤独です。だけど、デッキだけはデュエリストのために力を貸してくれる。それに今は私も陸君のそばにいます!」
 菜央の言う通りだった。今の陸は一人じゃない。初めて悪魔と出会ったあの時とは違う。
「サンキュー、菜央ちゃん。僕は負けない。こんなところで止まっている場合じゃない!」
 陸はマナゾーンのカードを六枚タップする。そして、《ガル・ヴォルフ》のカードにそのマナを全て注ぎ込んだ。
「《ガル・ヴォルフ》召喚!手札にあるパラサイトワームを捨てる!」
 《ガル・ヴォルフ》は持っていた剣の内、一本を悪魔に向かって投げる。それによって悪魔の手札は宙にばらまかれた。
「ちいっ!」
「そこだ!」
 《ガル・ヴォルフ》の剣の一本が悪魔の《ヴィルジニア》を刺す。そして、最後に残ったシールドにも一本、剣が突き刺さった。
「お前のデッキにはパラサイトワームが多い。墓地利用をメインにした事でお前は手の内をさらけ出し過ぎたんだよ!」
 墓地にあるカードは、シールド、手札や山札とは違い、いつでも誰でも見る事ができる。それ故、悪魔がメインで使っている種族を読み取る事は容易い。さらに、悪魔は《ヴィルジニア》を使っていた。これでは、特定の種族をメインにすると宣言しているようなものである。
「闇文明をメインにした事で《ドルバロム》の被害を減らしたのは正解だったかもしれないけれど、僕の得意な文明で勝負に挑んだ事は間違いだったね!」
 これによって悪魔のシールドは0。陸もシールドは残っていないが、クリーチャーがいる分、陸の方が有利だ。
「嘗めるなよ、小僧!お前の命もそこにいる小娘の命も搾り取ってやる!」
 悪魔はカードを引くが、舌打ちをして引いたカードを召喚した。体中が鋭い鉱物でできたようなブロッカー《幻槍のジルコン》だ。《ジルコン》が出た時、カードを一枚引いてから手札を一枚墓地に捨てる事ができる。それによっていらない手札を入れ替えた悪魔は一体のクリーチャーを召喚した。
「《ねじれる者ボーン・スライム》だ!これでブロッカーが二体!しかも、《ボーン・スライム》は攻撃できる!」
 有利になった陸だが、このターンで追い込まれてしまった。次のターンで運よく除去のカードを引いたとしても、ブロッカーを一体しか除去できない。それに、いくら陸でも二ターン連続でいいカードを引けるとは限らない。
しかし、陸は笑っていた。この状況でも勝つ事ができると信じているようだった。
「たかが、二体のブロッカーだ。それに僕のデッキは闇を中心にしたデッキ。壊す事は何よりも得意なんだよ!」
 陸はカードを引き、それにマナを注ぎすぐに投げた。場に投げられたカードは黒と青の光を発しながら、巨大な剣に姿を変えていく。冷たい輝きを放つその剣が二体のブロッカーの横を通り過ぎた瞬間、二体は弾き飛ばされた。
「なんだ、そのカードは!?」
「《英知と追撃の宝剣(エターナル・ソード)》さ!場のクリーチャーの中から二体を選び、手札に戻すか破壊できる。そして、マナのカードも同じように一枚手札に戻し、一枚破壊する!これで《ガル・ヴォルフ》が通る道ができた!」
 陸は悪魔に向かって手を伸ばし、《ガル・ヴォルフ》に命令を下す。
「《ガル・ヴォルフ》でとどめだ!」
 低い声で唸って《ガル・ヴォルフ》は跳躍し、持っていた剣が悪魔を突き刺す。突き刺された場所から黒い煙となった悪魔は陸のループタイのドクロに吸い込まれていった。
「忘れるなよ、小僧。お前が俺に餌をくれなかったら、俺がお前の命を食うんだからな」
 負け惜しみのような声で言った悪魔の声に、陸は「判っているよ」と答える。デッキケースにカードをしまった彼が、腕まくりをすると今までそこにあった黒い紋章が消えていた。これが、陸が悪魔を従わせた証なのだ。
「うまく行きましたね。これで、もう命が削られる心配もないんですね。よかった……」
 菜央は自分の事のように喜んで、顔をほころばせた。しかし、陸は険しい顔をして携帯電話を取り出す。
「うん、よかった。だけど、まだ半分なんだ。奴を倒さない限り、僕は先に進めない。今度こそ決着をつける!」
 陸がかけた相手はジャロールだった。テンションの高いジャロールの声を聞いた後、陸は話を切り出す。
「ジャロール、大事な話がしたいんだ。明日午前十時に、ネバーランドの跡地で待つ」
『いいだろう!陸、とうとう僕と一緒に来てくれるんだね!それにネバーランド跡地とはいい場所を選ぶ!明日が待ち遠しいよ!今夜は寝られないかもしれない!』
 通話を終えて電話を切った陸は深呼吸した後で菜央を見る。
「明日、僕は生まれ変われる気がする。できれば、見に来てくれるかな?」
「ええ、もちろん。二人で一緒にジャロールに勝ちましょう」
 菜央は陸の手を取ってそう答えた。
 菜央がいれば、陸はいつも以上の力を発揮できるような気がしていた。
 全ては明日決まる。陸はかつてない戦いを前に、握りしめた拳を震わせた。

 『File.43 陸の出発』につづく
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