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『コードD』File.43 陸の出発

『コードD』

 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 征市達の前に現れた相羽総一郎は、征市にトライアンフを辞めさせる事を宣言した。それに反対する征市に彼はイギリスに行く事を薦めた。そして、陸には悪魔との契約に書かれた魔道書を渡す。それは、陸の宿敵、ジャロール・ケーリックが書いたものだった。陸は生き延びるために魔道書に書かれていた手順に従い、菜央の力を借りて悪魔を従わせる事に成功する。その後、陸は不老不死になったジャロールを呼び出す。彼の宿命に決着がつく時が来たのだ。

  File.43 陸の出発

 ネバーランド跡地に黒いマントを羽織った男がいた。全身を黒いマントで隠すその姿は、死神を連想させる。
そこに立っているのは、ジャロール・ケーリックだった。ジャロールはここに立って自分が不老不死を目指した時の事を思い出していた。最初に不老不死を目指そうと感じたのは『紫電』の隊長になる少し前の事だ。
 当時、ジャロールは故郷でデュエル・マスターズを使って人々の平和を守る仕事をしていた。今、陸がトライアンフで人々の暮らしを守るために戦っているように、ジャロールもデュエリストとして悪と戦っていた頃があったのだ。その時のジャロールには多くの仲間がいた。しかし、その仲間も悪いデュエリストとの戦いで死んでいった。一人になったジャロールは悲しむ事も怒る事もなく、こう思った。人はどうしてこんなにも脆いのか、と。
 人の脆さに失望した彼は、自分も脆い人間である事に恐怖し、強くなるために自分を磨き続けた。結果、彼は国でも最高のデュエリストとなり、ある時、日本に渡った。彼はそこで『紫電』という魔法特殊戦隊の創設に関わる事になる。実力と戦闘経験の豊富さから、彼は隊長として選ばれ、新天地でも悪いデュエリストと戦い、勝利していった。その時、ジャロールは自分だけは人間としての脆さを克服できたと感じていた。しかし、彼はそれが愚かな勘違いであった事をすぐに思い知らされる。
 『紫電』の前に魔道書同盟を名乗る五人の男女が現れた。実質的なリーダーである真実と永遠。そして、その命令を受けて動く幻、全、念の三人。この五人の登場で『紫電』も他の戦隊も多くの被害を受けた。それを見たジャロールの脳裏に過去の光景が蘇り、再び、思い知らされる。人はこんなにも脆い生き物なのだ、と。
そして、一つの答えに到達する。長い時間をかけて魔道書同盟に匹敵する力を手に入れたい。その力を使って人間達に自分達の脆さを自覚させたい。そのためには、長い間、自分のピークを保たなければならない。しかし、人間の寿命は短すぎる。そうだ。
 不老不死になろう。
 全ては人々に自分達の脆さを知らせるため。そして、自分の求める力を、魔道書同盟と同じ力を得るために不老不死になるのだ。
 その瞬間から、ジャロールにとって魔道書同盟は自分達の敵ではなく、目標となった。そのため、魔道書同盟と戦う必要がなくなり、『紫電』を脱退した。彼が脱退した数日後に総一郎を中心に再結成した『紫電』は『永遠の牢獄』を使って永遠、幻、全、念を封印する事に成功する。これによって、ジャロールは魔道書同盟の力を借りる事ができなくなったのだ。唯一、残っていた真実と接触する事はできず、ジャロールは自力で不老不死になる方法を探していた。
数十年に及ぶ歳月を経た今、ジャロールは魔道書同盟によって不老不死になった。今の彼は人々に人間の脆さを知らせる事以外にもやりたい事がたくさんある。あまりにも多すぎて、人間の一生では時間が足りないくらいだ。
「来たか……」
 土を踏む音がジャロールの耳に届く。向かってくる足音は二つあった。一つは陸の足音だ。彼の中に自分と同じものを感じていたジャロールは彼の足音だけは聞き間違える事がなかった。もう一つの足音は判らない。
 ジャロールが顔を上げると、陸が菜央を連れて向かってくるのが見えた。それを見たジャロールは体を隠していたマントを投げ捨て、両手を広げて歓迎のポーズを取る。
「ジャロール?本当にジャロール・ケーリックなのか……?」
 陸はジャロールの姿を見て立ち止まった。菜央も一度だけ見たジャロールと目の前の人物が一致しない。
 赤いズボン、グリーンのジャケット、赤いラインが入った黒い帽子と帽子からはみ出した青い髪の毛は間違いなく、ジャロールのものだ。だが、目の前にいるのは陸よりも少し年上の若い男だ。背が高く体中に筋肉がついたその男と、杖を持っていた老人の姿が一致しない。
「そうだとも!本物のジャロール・ケーリックさ!魔道書同盟の皆様に不老不死にしてもらった時に、外見の年齢も若くしてもらったんだ。これが僕の魔力がピークだった頃の姿だよ!自分の人生における最高の状態で不老不死になれたんだ!新しい人生を始めるのに、年老いた体ではいけない。やはり、若い体でなくてはならない!」
 ジャロールはそう言うと、陸を指して宣言した。
「陸!君も僕と一緒に来るんだ!君も僕と同じで一人ぼっちになる運命の人間。それに、僕と一緒に来るつもりだったから、今、ここにいるんだろう?」
「違うよ。不老不死になっても、馬鹿までは治ってないみたいだね」
 陸はループタイのドクロを光らせると、光の中から出てきたデッキケースを手に取る。それを見たジャロールは不思議そうな顔をした。
「どうして?君は、僕と戦いに来たのかい?」
「当たり前だ!お前、今まで僕に何をしたのか覚えていないのか!?あの時、ここで何をしたのか忘れたとは言わせない!!」
 陸は噛み千切らんばかりに強く奥歯を噛みしめてジャロールを睨んだ。怒りの矛先を向けられたジャロールは、何故、自分が怒りを向けられるのか判らないらしく、口を開いた。
「判らないな。確かに、ここで多くの子供達が儀式の生贄として死んだ。でも、それでいいじゃないか。君は生き残ったんだ。君が死んだのならば、君が怒るのも理解できるよ。でも、死んでいないんだろう?」
「ジャロール、お前……ッ!」
 陸はジャロールに飛びかかるために、脚に力を入れる。だが、菜央に腕をつかまれた事で冷静さを取り戻す。くだらない挑発で我を忘れてはいけない。自分がしたいのはそんな事ではなかった。
「陸君、目的を忘れないで」
「判ってますって。判ってますよ、リーダー」
 ジャロールを倒すためには、デュエル・マスターズカードを使うしかない。怒りで目が曇ったら、勝つ事はできない。
「陸。君は何も判っていないんだな」
 ジャロールは溜息を吐いて陸を見る。彼の手にもデッキケースが握られていた。
「君は一人ぼっちでいるべき人間なんだ。僕と同じなんだよ!だから、僕と一緒にいるべきなんだ!君も不老不死にしてあげるから、一緒に旅に出よう!僕の助手になれ!」
「そんな勝手な理屈、誰が理解するんだよ!」
 陸の前に黒い五枚のシールドが並ぶ。それを見て、さすがのジャロールも苛立ちを隠せないらしく、舌打ちをして目の前に五枚のシールドを並べた。
「何で理解できないんだ、陸!君は僕と一緒だと思っていたのに!言葉で理解できないのなら、痛い目に合わせて理解してもらうよ!」
「最初からそうすればいいだろ!尤も、お前の言い分を理解する気なんてないけどね!」
 二人の視線がぶつかり合う。菜央が見守る中、二人のデュエルが始まった。

 湊が征市の家のドアを開けると、彼は赤いブレザーを羽織って玄関で座って待っていた。湊の姿を見つけると、立ち上がる。
「待ってたぜ、湊。来てくれてありがとう」
「そんな事気にしないで下さい。それで、あの子は……?」
 湊はローブの少女を気にしているようだった。征市もそれに気付き、「ああ」と相槌を打つ。
「ずっと部屋にこもったままだ。食事もじいさんが部屋に運んでる。あの子が一体誰なのか、聞いても教えてくれないんだ」
 総一郎がローブの少女を出さない事に、征市は疑問を感じていた。ローブの少女を守るために部屋に閉じ込めていると思っていたが、今では監禁しているのではないかと疑っている。自分でも馬鹿げた考えだと思っているのだが。
「あの子、俺が呼んでも返事してくれないんだ。部屋に鍵かかってるから、外からドア開けられないし。それよりも、持ってきてくれたか?」
「ええ、ばっちりです」
 湊は征市にトランシーバーを渡す。トランシーバーからは魔法警察の無線が聞こえた。
 征市は総一郎の考えが理解できなかった。トライアンフの元総長であっても、征市にトライアンフを辞めさせる権利はない。そう考えた征市は実戦で活躍して総一郎に自分の実力を認めさせる事に決めた。そのために事件の情報を無線で集めて現場に急行できるようにしたのだ。
「サンキュー。これで、色々な情報が判る。じいさんに認めてもらえるぜ」
 喜ぶ征市と湊の耳に事件の情報が届いた。二か所で怪人が暴れているらしい。一つは未来地区だ。そこには既にパトロール中の総一郎がいて、デュエルが始まっている。もう一つは、市街地だ。征市の家に近い。
「湊、ちょっと行ってくるぜ!留守番、頼む!」
「征市さん!」
 湊が止める間もなく、征市は飛び出す。湊は「大丈夫かなぁ」と呟いて彼が出て行ったドアを見ていた。
『征市のためにすまないな』
 上空から肖像画のプライズ、二号が飛んでくる。彼にしては珍しく、しおらしい声だった。
「いいんですよ。征市さんには、助けてもらったし……。それよりも、僕は征市さんと総長さんの中が良くない事の方が心配です」
『だよなぁ……。俺も胃が痛いよ』
 二号は溜息と共に呟き『胃がないけどな』と付け足した。総一郎が帰って来てから、征市と総一郎の会話は皆無に等しい。
 二号は征市からトライアンフの事務所で起きた出来事を聞いていた。二号も、総一郎が征市の未来を勝手に決めた事に疑問を持っていた。そして、そのせいで征市と総一郎の会話がなくなってしまう事を気に病んでいる。
『征市は総一郎の事を考えていたんだよ。あいつは、総一郎が死んだって聞かされていたからな。生きているかもしれないって知った時、嬉しそうだった。もう一度会ったら話したい事があるって言ってた。得意な手品も見せたいって言ってた。その時の征市の顔は忘れられない。総一郎は征市にとって唯一、血が繋がった家族だからな』
「え?それじゃ、征市さんのお父さんとお母さんは……」
 二号は湊の問いに首を横に振って答えた。
『いないよ。あいつは小さい頃、総一郎に育てられて、その後、義理の両親に育てられたんだ。義理の両親も征市に優しくしてくれたけれど、それでも総一郎の事が忘れられないんだ。それなのに、こんなのってあるか?』
 最後の言葉は湊に向けたものではなく、この場にいない総一郎に向けたものだった。総一郎の代わりとして征市の保護者を務めたつもりの二号にとって、征市の心を傷つける事は許せないのだ。
「二号……」
『悪いな。柄にもなく、熱くなっちまった。でも、今は総一郎なんかがいなくても仲間がいるからいいか』
「いや、それは違います」
 湊はそれを聞いて首を振った。仲間も大切だが、家族も大切だ。柳沢研究所の事件を見て、湊は強く感じていた。
「仲間では駄目な時もあるんです。そんな時に家族は必要なんです。だから、僕は総長さんと征市さんに仲良くして欲しい……」
『そう……だな。お前の言う通りだよ』
 湊の想いを噛みしめるように、二号がゆっくりと言う。
 自分は相羽総一郎の分身のような存在だと思っていた二号は、それが思い違いである事に気付き、恥じた。こんな時、総一郎の代わりに征市を支えてやれない。その無力さが心に重くのしかかる。
『じゃ、家族で支えられない部分はお前達、仲間に任せるぜ。征市を頼む』
「任せて下さい!」
 湊は笑顔で二号に返した。二号の今までの鬱屈した気持ちを吹き飛ばすような笑顔だった。

 菜央はジャロール・ケーリックの戦いを見た事がなかった。総一郎が所属していた部隊の隊長であったにも関わらず、彼の戦闘データは残っていない。そして、去年の五月に陸がジャロールと戦った時は夢の世界での戦いだった。征市も陸と一緒に夢の世界に閉じ込められたのだが、彼も陸とジャロールの戦いは見ていなかった。
 初めて見るジャロール・ケーリックのデッキは光を中心に水文明を加えた構成になっていた。必要最小限の水のカードでドローできるようになっているのだ。
「さあ!《ロードリエス》の出番だ!」
 たくさんの手を持つ青い精霊《知識の精霊ロードリエス》が場に出た。菜央もよく使うエンジェル・コマンドで自分のブロッカーが場に出る度にカードを一枚引く能力を持つ。放置する時間が長ければ長いほど、陸にとって不利な展開が続く。
「嫌なエンジェル・コマンドだ。だけど、まだ僕にはそいつを倒せるカードはない。だから、パワーで勝負だ!」
 陸の場に《甲魔戦攻ギリメギス》が現れる。乗り物のような下半身を持つデーモン・コマンドで5コストと軽いにも関わらず9000のパワーとW・ブレイカーを持つ。しかし、パワーの差に驚く事もなく、ジャロールは余裕のある顔をしている。
「陸、焦ってはいけない。まだまだこれからさ!それっ!」
 体が鋭利な形状の三角形でできているようなエンジェル・コマンド《白騎士の精霊アスティノス》が場に現れた。それと同時にジャロールは山札のカードを上から四枚つかみ、空へ放り投げる。
「《アスティノス》が場に出た時、山札の上のカードを四枚めくりその中に白騎士のカードがあれば手札に加える事ができる。この能力で《白騎士の精霊レオニダス》を手札に加え、《ロードリエス》でドロー!」
 ジャロールが呼んだ《白騎士の精霊レオニダス》のカードは彼の手元に飛んでいき、めくられた他の三枚は山札の下に飛んでいった。それを見た《ロードリエス》が山札のカードをつかみ、ジャロールに投げつける。
「陸。君が強力なパワーのクリーチャーで来るというのなら、受けて立とう。僕の強力なブロッカー達で何度でも君の攻撃を受け止めてやるとも!」
「そうかよ。だけど、ブロッカーを何体も並べさせやしないさ!来い、《ガル・ヴォルフ》!」
 全身に狼の顔があるデーモン・コマンド《凶刻の刃狼ガル・ヴォルフ》が場に現れる。《ガル・ヴォルフ》は持っていた剣の刃を舐め、陸の指示を待った。陸がそのクリーチャーを選んだ理由を、菜央もジャロールも理解した。
「ジャロールは《アスティノス》の効果で手札に加えるクリーチャーを見せた。つまり、種族も判るというわけですね」
「そういう事!《ガル・ヴォルフ》で狙うのはエンジェル・コマンドだ!」
 陸の指示を受けた《ガル・ヴォルフ》の剣がジャロールの手札に向かって飛んでいく。手札は上空に弾け飛び、今、手札に加わったばかりの《レオニダス》にもう一本の剣が突き刺さった。
「まだまだぁっ!お次はシールドだ!」
 《ガル・ヴォルフ》の剣が次はシールドを狙う。その剣はブロッカーに防がれる事なく、ジャロールのシールドを一枚、突き刺した。
「《ガル・ヴォルフ》か。嫌なカードを使うね、陸は」
「お前に言われたくはないよ!行け!《ギリメギス》!」
 《ギリメギス》がけたたましい音を立てて移動する。その剣が振るわれる瞬間、《アスティノス》がその前に立ちふさがり、攻撃を受け止めた。
「ふぅ、危ない危ない。そんな怖いクリーチャーは閉じ込めてしまおう」
 《アスティノス》で攻撃を受け止めたジャロールはほっと息を吐き、一枚のカードを場に投げた。その瞬間、《ギリメギス》が黒い壁に閉じ込められる。その壁は圧縮され、《ギリメギス》はシールドに押し込められた。
「《魂と記憶の盾(エターナル・ガード)》さ。さらに、《白騎士の予言者ティリオス》を召喚!そして、ドロー!」
 ジャロールの場に新たなブロッカーが現れる。丸い銀色の球体のような姿のクリーチャー《白騎士の予言者ティリオス》は特殊な能力もなくパワーも3000と弱いが、軽いため、数を増やしやすい。
「白騎士と名がつくクリーチャーにブロッカー……。陸君、気をつけて下さい」
「言われなくたって大丈夫ですよ!いざとなったら、僕の切り札を使えばいい」
 陸の最大の切り札でもある《バロム》達は闇文明のカードを使っていないデッキには、圧倒的な破壊力を持つ切り札となる。ジャロールがどれだけブロッカーを並べても、《バロム》を出すだけで一掃できるのだ。
 しかし、それが判っていても菜央の不安は消えなかった。菜央の脳裏には白騎士と名がつくブロッカーで、陸の《バロム》すら容易く葬ってしまうクリーチャーを知っている。そのクリーチャーを菜央が考えているのと同じ方法でジャロールが出そうとしているのならば、陸が負けるかもしれない。
「切り札のパワーに頼っていて僕に勝てるかな?」
「勝つんだよ!何が何でも勝ってみせる!」
 陸はカードを引いてジャロールを睨んだ。

 市街地で征市は敵の怪人と戦闘していた。征市の《ボルシャック・大和・ドラゴン》の一撃が敵にとどめを刺す。
「これでよし。ここは終わったな」
 征市が金属製のデッキケースにカードを入れて振り向いた瞬間、彼は目の前に立っている男を見て凍りついた。総一郎が立っていたのだ。彼も驚いた顔をしている。
「征市、何をしている?」
 しばらく経っていから、総一郎は絞り出すような声で征市に問う。征市も歯切れの悪い口調で答える。
「何って……デュエルだよ。これが俺の、トライアンフに所属するデュエリストの仕事じゃないか」
「違う!お前はもう戦う必要がない!そのデッキを渡せ!」
 総一郎は征市の言葉を聞いて激昂する。征市に歩み寄ると、デッキケースを奪うために手を伸ばした。征市は、総一郎の手をはねのける。
「何でだよ!何で俺が戦うのを認めてくれないんだよ!おじいちゃんは知らないかもしれないけれど、俺はトライアンフで今までしっかりやってきたんだ。魔道書同盟の奴らが相手でも何度も勝ってきた。そりゃ、仲間が助けてくれたせいかもしれないけれど、俺自身の力だってあったはずだ!おじいちゃんが知っている昔のトライアンフじゃない。今のトライアンフに俺は必要なんだ!」
「征市……」
 征市は総一郎に背を向け、そのまま、話し続けた。
「おじいちゃんが認めてくれなくてもいい。俺は戦う。戦い続ける」
「待て、征市!」
 歩こうとする征市の肩を総一郎がつかむ。その時、総一郎は征市を見て背が高くなったと感じた。
「……何だよ?」
 征市が大きくなった事に驚いていた総一郎は、振り向いた征市に声をかけられて我に返る。
 今の征市を見て総一郎は理由を話す必要がある事に気付いた。不完全で未熟な部分はあるものの、総一郎の保護が必要な征市はここにはいない。今の彼は成長していた。
「俺は、とっくの昔にお前を認めている。強くなった事は、マシュー君からの報告を聞いて知っているよ」
 今までとは違う優しい口調に征市は戸惑った。そのまま、総一郎は話し続ける。
「魔道書同盟と戦っても負けなかった事も、仲間と共に強くなっていった事も知っている。だが、今のお前を辞めさせたい理由が一つだけある。お前がどんなに強くなっていても、これだけは譲れない」
 総一郎の言葉を聞いて、征市は再び険しい表情をする。
「何だよ!俺を認めるような事を言って、結局、認めてくれないのかよ!何でだよ……。何で、認めてくれないんだよ……」
 怒りが悔しさに変わっていく。それを見て、総一郎はすぐに「それは違う」と言った。
「俺はお前の強さを認めている。お前は俺の孫で、唯一生き残った家族だ。お前だけは失いたくない。トライアンフで戦っていたら、どんなに強くても死の危険から逃れる事はできない」
「え……?嘘、だろ……?」
 呆気に取られる征市を見ながら、総一郎は続けた。
「嘘ではない。お前が死ぬのが怖い。強いデュエリストでも、もっと強い者に倒される事がある。それにお前は魔道書同盟を統べる者、永遠の力を知らない。お前を永遠と戦わせるわけにはいかない。お前は、俺が守る」
「そうだったのか……」
 総一郎が征市を辞めさせた理由は、征市を認めないからではなかった。征市の身を心配して戦いの場から遠ざけようとしていたのだ。それは総一郎の優しさから生まれた行動だった。
「でも、俺はおじいちゃんの本当の孫じゃない」
 征市の言葉に総一郎の表情が凍りつく。征市は寂しそうな顔をしていた。征市は自分の出生を知っているのだ。故に、総一郎の血を引いていない事も知っている。
「俺は人造デュエリストの試作型なんだろ?柳沢研究所にあったファイルを見たんだ。おじいちゃんと真実の能力を元に作られたって、書いてあった」
「あれを……見たのか?」
 総一郎は目を見開き、絞り出すような声で征市に訪ねた。征市は縦に首を振って答える。
「おじいちゃんがどれだけ俺に優しくしてくれても、俺にはそれを受ける資格はない。だって、人造デュエリストなんだぜ?人間じゃないんだ」
「征市……」
 総一郎は静かに言って、征市の体を自分に向かせる。征市は、気まずそうに総一郎から目を逸らした。その頬を総一郎が殴る。バランスを崩して倒れかけた征市は驚いた顔で目を見開き、総一郎の姿を捉えていた。
「つまらない事を言うな……!」
 総一郎の手は震えていた。思えば、征市が総一郎に殴られたのはこれが初めてだった。征市は幼い頃から総一郎に叱られても殴られた事はない。痛みではなく、驚きが彼の心を埋め尽くしていた。
「つまらない事を言うな。お前が人造デュエリストとして生まれたとしても、俺はお前を家族だと思っている。誰が何と言おうと、お前は俺の家族なんだ。俺がお前を大事に思っているのに、お前がそれを否定するな!」
「家族……。俺はおじいちゃんの家族でいていいんだな。人造デュエリストであっても、家族でいいんだよな」
 征市は殴られた頬に手を当てる。総一郎の熱が伝わったように熱かった。そして、温かかった。
「当たり前だ。お前は大事な家族なんだから、寂しい事を言わないでくれ」
「判ったよ。ごめん、おじいちゃん」
 征市は総一郎に右手を差し出す。総一郎も右手を出して征市の手を握った。
 それから少しして、征市のトランシーバーに情報が入る。それと、同時に総一郎の携帯電話にも連絡が入った。こことは別の住宅街でデュエリスト達が交戦しているというのだ。片方は人造デュエリストらしい。
「行くぞ、征市」
「ああ、急ごう!」
 二人はその住宅街に向かって走り出した。数分ほど走ったところにその場所はあった。一人のデュエリストが赤いジャケットを着ている少年に追い詰められているのが見える。追い詰めている少年は征市達に背を向けているため、顔は見えない。
「くそっ!こんなガキに追い詰められるなんて!」
「そんな三流の悪役みたいなセリフを言ったら負けフラグなのだ!」
「……なのだ?」
 その少年の語尾に聞き覚えがあった征市は首をかしげる。そして、記憶の中からとある人物の名前を見つけ、「あ」と呟いた。
「征市、知っているのか?」
「あ、いや……知っているって言ったら知っている事になるけれど……。生きている訳がねぇ!こいつは俺が倒したはずだ!」
 驚く征市の前で少年はデュエルを続けた。相手のシールドはもう一枚もない。そして、ブロッカーもいなかった。
「決めるのだ、《イカロス》!ウエイクアップなのだ!」
 少年の声に呼応して、彼の場にいるクリーチャー、《星鎧亜イカロス》が跳躍する。《イカロス》は空中で一回転すると、相手のデュエリストに脚を向けた。
「イカロスキック!!」
 少年の声と共に《イカロス》は勢いをつけて相手の方へ飛び、胴体に蹴りを放った。相手は結界を突き破って吹っ飛ばされる。その体は煙のようになって消え、その場に黒いチェス駒が残った。幻がよく使うチェス駒のプライズだ。
「やれやれ。こんなプライズで俺を倒せると思ったら、大間違いなのだ」
 少年はカードを自分のデッキケースにしまうと、振り向いた。彼の顔を見た瞬間、征市は声を出して驚いた。少年も驚いたらしく、声を上げた。
「お前……あの人造デュエリストか!」
「あーっ!相羽征市なのだ!探していたのだ!」
 征市は少年を覚えていた。青い生地に白い字で『753』と書かれたシャツを着て、おかしなくらい巨大な四角いバックル付きのベルトを身に付けた少年の名は浅田十也(あさだじゅうや)。かつて、念と一緒に行動していた三人の人造デュエリストの一人だ。この三人のデュエリストは、柳沢研究所での戦いでトライアンフのメンバーによって倒された。十也は征市に挑み、敗北した。
「探していた、じゃねぇよ!倒したはずなのに、何で生きてるんだ!?」
 征市は警戒してデッキケースを取り出した。総一郎もいつ、戦いになってもいいようにデッキケースの準備をしている。
 征市の疑問を聞いた十也は「ふっ、ならば、説明してやるのだ」と、言って説明を始める。
「あの時、俺は征市のクリーチャーの攻撃を喰らって吹っ飛ばされたのだ。しかし、吹っ飛ばされた先は水の中。川に落ちたら復活フラグ!負けたけれど、死んだ事にはならないというのは最近のヒーローものの基本なのだ!」
「落ちたのは海だ!川じゃねぇ!大体、最近のヒーローものの基本ってなんだよ!」
「川落ちと一緒で基本とはいえ、その後、記憶が一カ月戻らなかったのは大変だったのだ。笹口さん一家には本当にお世話になったのだ」
「笹口さんって誰だよ!?」
「ま、そんな訳で。征市!俺を弟子にして下さいなのだ!」
「……は?」
 征市は口を開けた状態で十也を見ていた。彼の言っている事が理解できない。
「だから、弟子にして欲しいのだ。師匠と呼ばせて欲しいのだ。いい少年マンガでは、負けたら仲間にならなくてはならないという決まりがあるのだ!それに、征市と一緒の方が楽しそうだし、ヒーローっぽいのだ」
「ヒーローっぽいって、お前なぁ……」
「俺は本気なのだ」
 十也は真剣な眼差しで征市を見る。征市には、その目が嘘を言っているようには見えなかった。だが、十也が魔道書同盟のスパイとして征市の前に現れた可能性もある。信じていいのか、迷った。
「念が許すか?」
「辞表は出していないけれど、旦那が受け取るとも思えないのだ。そんな事は特に気にしなくていいと思うのだ」
「それもそうだけどな」
「いいじゃないか」
 迷っている征市を見て、総一郎が口を開く。十也は総一郎を見て「誰?」と言った。
「魔道書同盟に所属していた人造デュエリストなんだ。実力はあるんだろう?トライアンフの事務所には入れないが、征市の弟子を名乗りたければ名乗るといい」
「ちょっと、おじいちゃん!勝手に決めんなよ!」
「やったー!じいさん、話が判るのだー!そんな訳で、師匠!今日からよろしくなのだ!」
 十也は笑顔で頭を何度も下げ、征市の右手を両手で握って上下に振った。その無邪気な仕草を見ていると、人造デュエリストではなく、普通の少年に思えてくる。
 征市がそう考えていたら、総一郎が征市の耳元で囁く。
「魔道書同盟に関する情報を知るチャンスだ。うまく聞き出せ」
 総一郎の言葉を聞いて、征市は心の中で頷く。十也が本当に魔道書同盟を捨てて征市の弟子になるのだったら、情報を聞き出せるはずだ。
(魔道書同盟の本拠地が判れば、殴り込みに行ける。防御に回っていた戦いを終わらせられるはずだ)
 興奮して手を振る十也の前で征市はそう考えていた。

 蒼く輝く剣、《英知と追撃の宝剣(エターナル・ソード)》がジャロールのブロッカーとマナを弾き飛ばして行った。無防備になったシールドに《ガル・ヴォルフ》の剣が突き刺さる。これでジャロールのシールドは0だ。
「これで終わりだ、ジャロール!次の僕のターンが始まるまでに、自分の罪を反省しろ!」
 陸の場には、攻撃を終えた《ガル・ヴォルフ》の他に召喚したばかりの《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》がいた。シールドにはまだ手がつけられていない。《魂と記憶の盾》で増やされた一枚を含めて六枚ある。
 一方、ジャロールはクリーチャーを消され、今の攻撃でシールドがなくなってしまった。このターンで、ブロッカーを出したとしても陸はそれらを除去する自信があった。
 しかし、それを見ていた菜央は嫌な予感がしていた。陸は宿敵を追い詰めているせいで気付いていないが、ジャロールは君の悪い笑みを顔に貼り付けている。その笑みの奥に潜む狂気に危険性を感じていたのだ。
「陸、反省するのは君の方さ!君はいつも僕に逆らってきた!忘れてはいけない!君は一人ぼっちなんだ!君を理解できるのはただ一人!僕だけだ!」
 ジャロールの前で砕け散ったシールドから金色の光が発せられる。金色の光は特殊な模様を描くと、その中央から金色の塊を吐き出した。
「ブロッカー……?」
 菜央にはその塊が何なのか理解できた。あれは光文明のブロッカーだ。
「その通りだよ、お嬢さん!喰らえ、陸!シールド・トリガー!ダブル《ヘブンズ・ゲート》!!」
 金色の光の正体は光文明のシールド・トリガー《ヘブンズ・ゲート》だった。光文明のブロッカーであれば、それがどれだけ重いクリーチャーであったとしても、二体まで手札から出す事ができる。ジャロールが出したブロッカーは《アスティノス》が一体。そして、白い翼で羽ばたく銀色の戦艦のような巨大なエンジェル・コマンドだった。三体の巨大な精霊が場を埋め尽くす。
「何だよ……。何なんだよ、そのブロッカーは!?」
 今まで優位に戦いを進めていると思っていた陸は、そこで初めて恐怖する。ジャロールは笑みを絶やさずに答える。
「いいだろう、陸。僕のデッキに入っている最強最大の白騎士《白騎士の精霊アルドラ》だ!!」
 《白騎士の精霊アルドラ》は15500という圧倒的なパワーに加え、T・ブレイカーを持つブロッカーだ。コストは12とクリーチャーの中でも最大クラスだが、《ヘブンズ・ゲート》を使えば簡単に出す事ができる。
 化け物と呼ぶにふさわしい超巨大なブロッカーが場に三体も現れた事で、陸は目の前が真っ暗になるのを感じた。圧倒的な力の差がそこにあった。
「陸君、諦めないで!《アルドラ》は超巨大なブロッカーですが、弱点があります!《アルドラ》はブロッカーを召喚したターンでなければ攻撃できないんです!」
 菜央のアドバイスを聞いて陸はすがるような目でジャロールを見た。
「今のは本当か?」
「本当だとも!だから、元気を出したまえ!ほら、逆転のチャンスが見えてきただろう!?」
 そう言ったジャロールの手札に《アスティノス》の効果で飛んできた白騎士のカードが加わる。一瞬、希望を持った陸だがそのカードを見て、再び、表情が凍りついた。
「判るだろう、陸。チャンスが見えて喜んだ君を叩き潰すのがとても楽しいんだ!君に希望は似合わない!君も僕のずっと一人ぼっちなんだ!」
「ふざけるな!」
 怯えた声で陸が叫ぶ。動揺した目がジャロールを睨んだ。
「僕は一人じゃない!」
「いや、君は一人ぼっちさ。忘れてはいないかな?君の人生は一人ぼっちという言葉が似合う。ご両親も、ネバーランドのお友達も、そして、トライアンフの仲間も君の手から離れてみんな死んでいく運命なんだよ!」
 そう言ったジャロールは空に向かって高い声で笑った。その後、陸を見つめて低い声でこう言う。
「そう……僕と同じだ。僕もずっと一人。仲間だと思っていた者はみんな死んでしまった。誰も僕と一緒にはいられない。だから、一人ぼっちになった子供を集めてネバーランドを作った。子供達を見ていれば何か変わるかもしれないと思ったのさ」
 ジャロールは手で顔を隠すように押さえる。その姿を見て、陸はジャロールが今までの罪を懺悔しているように思えた。ジャロールは乾いた声で語り続ける。
「僕はネバーランドの子供達を選り分けて、さらに一人ぼっちになるべき存在を探した。最終的に生き残り、本物の一人ぼっちになったのは、陸。君なんだよ!ネクロマンサーの笛を使った時、ナタリーをパートナーにしてもいいと思ったのは、彼女も君と同じように一人ぼっちだったからなのさ」
「だけど、お前にも仲間がいただろう?ゴスバートだって仲間じゃないのかよ!」
 コンサートホールで陸と対決したジャロールの部下、ゴスバート。ジャロールを慕っていたゴスバートを彼が忘れているとは思えない。しかし、ジャロールの乾いた声は意外な答えを告げた。
「あんな男は仲間ではない。僕の考えに賛同する信者さ。使い捨ての道具みたいなもんだよ。あんなのは腐るほどいる。完成された今の僕にはあんな奴、いらない。いらない!」
 ジャロールが顔から手を離す。見開かれ、血走った目が陸を見ていた。
「君だよ、陸!同じ一人ぼっちの人間として君だけいればいい!君を不老不死にしてパートナーとして連れて行く!これで終わりだ!」
 《アスティノス》に一枚のカードが刺さる。金色の光が《アスティノス》を包み、別の姿へ変貌させていった。光が消えた時、そこにいたのは龍のように長い胴を持つ精霊だった。
「僕の切り札《白騎士の無限龍ウルフェリオス》!!」
 ジャロールの切り札《白騎士の無限龍ウルフェリオス》は光のクリーチャーから進化できるエンジェル・コマンドだ。しかし、ブロッカーではないため、陸はほっと息を吐く。
「《ウルフェリオス》で《ガル・ヴォルフ》を攻撃!そして、メテオバーンだ!」
 《ウルフェリオス》が白い翼を羽ばたかせた時、《ガル・ヴォルフ》は金色の光に浄化されるように、黒い粒となって空気中に溶けるように消えて行った。それと同時に《ウルフェリオス》の体から進化元になった《アスティノス》のカードが墓地に飛んでいく。
「さあ、これからが本番だよ、陸!《ウルフェリオス》のメテオバーンで僕は山札の上のカードを二枚めくり、白騎士を好きなだけ出す事ができる!この効果で《ティリオス》二体を場に!」
 《ティリオス》が場に出た時、三体の《アルドラ》の体が銀色に光った。ブロッカーが出た事で攻撃が可能になったのだ。
「陸、君の負けだ!《アルドラ》二体でシールドを消してやる!!」
 《アルドラ》のボディの先端から銀色の光線が発射される。シールド三枚を簡単に飲み込むほどの太い光線が陸の六枚のシールドに激突した。光線の出力に耐えられるはずもなく、シールドは一瞬で粉々になる。
「君をもらう!《アルドラ》で陸にとどめだ!」
 最後に残った《アルドラ》から光線が発射される。陸は表情のない顔でそれを見ていた。
「陸君!」
 菜央が涙ながらに絶叫する。しかし、その声も陸には届かない。
「さようなら、陸!そして、おめでとう、陸!これで君は僕のパートナーになるんだ!」
 ジャロールの叫び声と高笑いがその場に響き渡る。
 しかし、光線はいつまで経っても陸に当たらない。彼の手前で止まっていた。それを妙に思い、ジャロールは笑うのをやめる。
「おかしい。何故、《アルドラ》の攻撃が陸に当たらないんだ?」
 ジャロールが目を向けた時、《アルドラ》の光線が少しずつ押し戻され始めた。
 菜央もそれを見て目を丸くする。光線の先には何もない。しかし、見えない力によって押し戻されていた。
『陸、諦めないで』
 懐かしい声が陸の耳に届く。そして、彼の目は光線を押さえる一人の少女の姿を映していた。彼はその名を呼ぶ。
「ナタリー?ナタリーなの?」
 ぼやけた姿のナタリーは両手で光線を押しながら、顔だけ振り向き、陸に微笑む。
『陸は一人ぼっちじゃない。今の友達もいるし、ネバーランドの友達もいる』
 ナタリーが言った瞬間、彼女の周りに数人の子供の姿が現れる。彼らは、ネバーランドにいた子供達だ。彼らもナタリーと一緒に《アルドラ》の光線を押している。
『ジャロール理事長は、陸が一人ぼっちだって言ったけれど、そんな事はない。私達が一緒にいる。判るよね?』
「判るさ。今、ここでそれを感じている」
 仲良くなったばかりの友達がいた。陸の事を気にかけてくれる友達がいた。「一緒に遊ぶ」と約束した友達がいた。ネバーランドの友達が陸に力をくれた。
「やめろ……!やめろぉっ!!何故、君達がいる!?僕の前に姿を見せるな!」
 ジャロールにもネバーランドの子供達の姿が見えたのか、彼は青白い顔をして光線の先を見る。怯えた表情で、少しずつ後退していった。
『陸がジャロール理事長に苦しめられるのはこれで終わり。そして、私達が手伝えるのも最初で最後。最後に陸のお手伝いが出来てよかった』
 光と共に、ナタリー達の姿が消えて行った。そして、光線が消え、《アルドラ》の体が砕ける。その場に、一枚の黒いカードが落ちていた。陸の《デーモン・ハンド》だ。
「そうか。シールド・トリガーの《デーモン・ハンド》か。僕は疲れていたのかもしれないな。あんな幻を見るなんて……。不老不死になった事ではしゃぎ過ぎたのかもしれない。陸をパートナーにした後は、少し体の調子を見るとしよう」
 ジャロールは落ち着こうとして早口でまくし立てる。
 ジャロールが言うようにナタリー達の姿は幻だったのかもしれない。しかし、陸にはそうは思えなかった。
「ナタリー、みんな、ありがとう。これで僕は勝てる!」
 陸の鋭い目がジャロールを見た。その目の奥に宿る光を見てジャロールは怯える。
「何て目をしているんだい、陸!君に勝ち目はない!残っているクリーチャーだって貧弱なザコクリーチャーじゃないか!」
「ザコクリーチャーねぇ……。いいんだよ。これで充分さ!」
 陸はマナをタップして《ギリメギス》を召喚する。さらに三枚のマナをタップして場にカードを投げた。すると、そのカードは金色の魔方陣に変化し、《青銅の鎧》を吸いこんでいく。吸い込まれた《青銅の鎧》は魔方陣を通る時にカードの姿に戻り、マナゾーンに置かれた。その直後、一枚の黒いカードがマナゾーンから飛び、魔方陣の中央に触れる。カードは魔方陣を通り抜けながら黒いシルエットに変化する。《ギリメギス》は腕を天へ伸ばし、シルエットを身に纏う。
 その瞬間、《ギリメギス》の体から発せられた黒い光が周囲に飛び散った。黒い光に触れたジャロールのクリーチャーは表面が腐敗し、その場に崩れて行く。マナゾーンのカードも同じように黒い粉のようになってしまった。
「陸!何をしたんだ!?」
「《母なる聖域》で《青銅の鎧》をマナに送り、進化クリーチャーを呼び出したのさ。ジャロール、これで僕の勝ちだ!進化、《悪魔神ドルバロム》!!」
 陸の場に現れた最強最大の切り札《悪魔神ドルバロム》によってジャロールのブロッカーは全て消え去った。白い肌の悪魔《ドルバロム》が腕を伸ばし、ジャロールを握り潰す。骨の折れる音と断末魔の叫びにも似たジャロールの絶叫がその場に響き、《ドルバロム》はジャロールの体を地面に投げつけた。ジャロールは立ち上がる事もできずに虚ろな目で陸を見ていた。
「陸……これで勝ったと思っているのかい?僕は不老不死なんだ。デュエルで勝ったとしても死なない。体はすぐに治るし、魔力もすぐに回復する。そしたら、また君をもらいに行くよ」
「本当に死なないのか?僕がこの場で何度殺しても死なない?」
 カードをデッキケースにしまった陸は、歩きながらジャロールに問う。
「当たり前じゃないか。僕が求めた不老不死に欠陥はない。僕は何があっても絶対に死なない。この世界が滅んだとしても、死ぬ事はない」
「それを聞いて安心したよ」
 陸は口元を歪めて笑うと、ループタイのドクロに手をかざした。すると、ドクロから黒い煙が出てきてジャロールの周囲を囲む。ジャロールは驚いた顔で自分の周囲の煙を見た。
「陸。これは何だい?」
「久しぶりだな、不老不死男」
 その声を聞いたジャロールは小動物のように怯えた声を出す。声の主は
「覚えていてくれたみたいで嬉しいぜ」
と、言った。
「ジャロール、お前を悪魔への生贄に捧げる。僕はお前が書いた魔道書を読んで、悪魔を従わせる儀式をした。この儀式で悪魔を従わせた場合、定期的に人間の命を悪魔に捧げなければならない。そこで僕は不老不死になったお前の命を捧げる事にした。もう一度聞くよ、ジャロール。不老不死になったって事は、何をしても絶対に死なないんだよね?」
 陸の質問の意味を理解して、ジャロールは倒れたまま声を絞り出して叫ぶ。その体は手足から煙に同化していった。少しずつ、体が黒い煙になっていく。
「やめてくれ、陸!どうしてこんなひどい事をするんだ!……あ、あああ!嫌だ!命を食われるのは嫌だ!苦しい!殺してくれ!僕を殺してくれ!!」
「自分で不老不死を選んだんだろ?終わりのない生き地獄の中で悪魔に懺悔しな!お前の罪をたっぷりとね!」
 ジャロールは絶叫と共に黒い煙となってドクロに吸い込まれた。ドクロに入った後、悪魔は
「お前、考えたな。確かにこれだったら、お前はもう人間の命を俺に与えなくてもいい。俺も好きなだけ命を食える。でも、不老不死の人間の命はまずいんだよ」
と、言った。
「好き嫌いを言うもんじゃないよ」
 陸は悪魔にそう言った後、菜央を見る。菜央は陸に走って思いっきり抱きついた。突然の事に陸は目を白黒させる。
「ちょ、ちょっと菜央ちゃん!?」
「よかった。本当によかったです、陸君!これで終わったんですね?」
「ああ、終わったよ。そして、ここから始まるんだよ」
 陸の宿敵、ジャロールは倒れた。だが、魔道書同盟との戦いは終わっていない。もう一人の宿敵とも言える幻との戦いが残っている。
「もう、僕はジャロールに縛られなくていい。それと……」
 陸はネバーランドの跡地を見ていた。陸が悪魔と最初の契約を交わしたあの日から、陸はここに来た事がなかった。自分の罪を責められるような気分がして、立ち寄る事ができなかったのだ。
「それと、これからはここに来る時も苦しまなくていい。お別れはしたけれど、またここに来るよ」
 陸は心の中でネバーランドの友達に別れの言葉を呟く。彼が選んだ言葉は「さようなら」ではなく「またね」だった。

 『File.44 真実と永遠の魔道書』につづく
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