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『彼女と僕のある日の対戦』

『彼女と僕のある日の対戦』



 僕と彼女が初めて出会ったのは高校生の時だから、もう十年の付き合いになる。その頃は意識していなかったが、今では恋人同士の付き合いをしている。今日のように、彼女が僕のアパートに来る事など日常茶飯事だ。
 今、彼女が子供のように目を輝かせながら見ているのは、残念ながら僕ではなく、デュエル・マスターズのカードだ。元々、デュエル・マスターズで遊んでいたのは彼女ではく、僕だ。昔から趣味が子供っぽいと言われている僕に合わせて彼女が始めたのだが、今では僕よりも彼女の方がすごく……いや、ほんの少し強い。僕も負けないように、手を変え品を変え、彼女の予想を超えるような戦略を試すようにしている。想定していなかった戦略を見た時の彼女の反応は、ただ強いデッキを見た時とは全然違う。他愛のないコンボや発想を世紀の大発見のように驚いてくれるのだ。そういう顔を見ていると勝つ事よりも、予想外な戦略を見せて彼女が驚かせたいという気持ちの方が大きくなってくる。勝つ事は嫌いではないが、勝つためだけに全てを捨てるのも好きにはなれないのだ。
 実は、今日の僕のデッキにはあるすごい仕掛けをしている。うまく行けば、彼女は今までの対戦で経験した事のない最大の驚きと最高の喜びを感じるだろう。失敗したら、とても気まずい空気が流れる事は避けられない。それでも、僕はこの仕掛けを使いたかった。
「はいっ、これでターン終わり!」
 慣れた手つきで彼女はカードを動かし、ターンを終えた。今日の彼女のデッキが全く読めない。マナが非常に多く溜まっている。大型のクリーチャーを使ったデッキなのだろうか?最近の大型クリーチャーや大型の呪文は破壊力が強すぎる。僕の仕掛けが成功する前にそんなものを出される訳にはいかない。
「どう?今日もあたしの連勝?」
「まさか。たまには漫画の主人公みたいに、ピンチの時に引くカードで勝ってみせるさ」
 彼女の軽い挑発に乗るように言ってしまったが、これが不可能に近い事は自分でも判っている。
 僕は運が悪い方で、パックを箱で買っても欲しいカードが当たる事などは少ない。彼女はいいカードが当たる事が多いので、互いにカードを(僕に有利で彼女に不利な条件で)トレードしてデッキを作っている。カードを買う時だけでなく、実際の対戦でもピンチの時に切り札を引いた経験など一度もない。そんな僕が今、欲しいカードを引ける事などあり得ない。
 僕の右手が山札の上に伸びる。そして、カードに触れた瞬間、止まった。
――引けないかもしれないけれど、今だけ信じてみたい。いや、引いてみせる!
 カードに触れた時から、何かが伝わって来たような気がした。もしかしたら、僕が仕掛けたあのカードがここにあるのかもしれない。
 もし、この状況であのカードが引けるのならば、それは奇跡以外の何物でもないと思う。今までの僕の不運もここでこのカードを引くための帳尻合わせに思える。これで引けたら、全てがうまく行く。
 僕の指先は震えているように思えた。彼女の目にはどう映っただろうか。普段の僕のドローと同じように見えただろうか。
 普段通りを装いながら、僕は引いたカードを見た。
「来た!」
 思わず、声が漏れる。初めての出来事に彼女も驚いていたかもしれないが、その時の僕には彼女の表情が目に入っていなかった。ただ、引いたカードを場に出す事だけ考えていたのだ。
 マナをタップするのがひどくもどかしい。すぐにカードを場に出したくなるのを押さえながらマナをタップし、手札からそのカードを出した。
 初めて見るカードに彼女は困惑する。それはそうだ。僕が考えたオリジナルカードで、デュエル・マスターズでこんな事をやるのは僕ぐらいのものだから驚きのも無理はない。
「光文明、3コストのクロスギア《エンゲージ・リング》。これは、僕の生涯のパートナーになってくれる人ならば、コストを払わずにクロスする事ができる。僕はこれをジェネレートしてターンを終了する」
 彼女の目は《エンゲージ・リング》に釘付けになっている。その目は、今までに見た事のない色をしていた。
 やがて、彼女は呆れたように溜息を吐くと、僕を見た。
「もー、これは一体どういう事?オリジナルカードを使うなんて、対戦前に一言も言ってなかったじゃない」
「う……ごめん。オリジナルカードを作ったの初めてだから、確認するのを忘れてたよ」
「あたしとあなたの仲だから許すけれど、こういうの本当はダメなんだからね。じゃ、一つペナルティね」
 少し怒ったような顔の彼女はマナをアンタップしてカードを引く。喜んでもらえると思ったけれど、失敗だったのだろうか。僕の気持ちは風船のように急速にしぼんでいった。
 そう思いながら彼女を見ると、彼女はマナのカードを全てタップし、一枚のカードを場に出していた。そして、そのカードがシールドの上に置かれる。
「10コストの城《あたし達の家》。効果はこれから二人で考えればいいと思う。色々な事があると思うから」
 彼女は悪戯っぽく笑うと、少しだけ頬を染めた。肩の力が抜けるのと共に、腹の底から高揚感が湧き上がってくる。
「さっき、一つペナルティって……」
「ああ、あれはあなたがオリジナルカードを使うのを黙っていたから、あたしも黙っていたのをチャラにしてもらおうと思って。でも、驚いたな。あたしだけじゃなくて、あなたもオリジナルカードを作っていたなんて……。ねぇ、オリジナルカードだけじゃなくて実物のクロスギアはないの?あなたの《エンゲージ・リング》」
 それからどうなったのかはよく覚えていないけれど、この式に来てくれた君ならば、その後の事が順調だったのは判ってくれると思う。
 僕達のオリジナルカード《エンゲージ・リング》と《あたし達の家》は二枚とも額に入れて大切に飾っている。僕達にとってこの二枚は、生涯忘れられない大切なカードになると思う。
 それじゃ、そろそろ式が始まるから僕は行くよ。デュエル・マスターズカードはコミュニケーションツールとしても使えるっていう話を聞いたけれど、こういう事もあるんだね。
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