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『コードD』File.44 真実と永遠の魔道書

『コードD』

 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 陸はネバーランドの跡地で、不老不死になったジャロールと再会する。魔道書同盟によってピーク時の姿を取り戻したジャロールに苦戦するものの、陸はデュエルに勝利する。そして、絶対に死ぬ事のないジャロールの命を悪魔に与え、自分の魔力の糧とするのだった。
 一方、征市は総一郎からトライアンフを辞めさせた本当の理由を聞かされる。人造デュエリストの征市を本当の家族として見ていた総一郎は、征市の事を心配していたから辞めさせたのだ。和解した二人は、デュエリストが暴れている別の現場に向かう。そこには、征市が倒したはずの人造デュエリスト、浅田十也(あさだじゅうや)がデュエリストと戦っていた。チェス駒のプライズが変化したデュエリストに勝利した十也は、征市に弟子にしてくれと頼んだ。

  File.44 真実と永遠の魔道書

「《シデン・ギャラクシー》!」
「《ボルシャック・大和・ドラゴン》でとどめだ!」
「《イカロス》!ウエイクアップなのだ!」
 赤レンガ倉庫に怪人がいると聞いた総一郎、征市、十也の三人は、現場に急行し、それぞれのデッキで応戦した。並みの怪人では征市達の相手になる訳がなく、すぐに倒された。
「こんな奴ら、俺達の敵じゃないのだ!なっ、師匠!」
「師匠ってのはやめろよ。それより、気になる事がある」
 十也が征市の肩に手を置き、征市はその手を払いのける。そして、真面目な顔をして十也を見た。
「魔道書同盟の本拠地の場所、知らないか?」
「ああ、あれね!俺も何度も行った事があるから、判るのだ!」
 十也は手をポンと叩いた後、「こっちなのだ!」と言って歩き始める。征市が総一郎を見ると、彼は静かに頷く。そして、二人で彼について歩いた。
 十也を仲間として迎える最大のメリットは敵の本拠地の場所が判る事だ。トライアンフは今まで魔道書同盟の策略に対して、常に後手に回っていた。敵の居場所が判れば先に攻める事もできるはずだ。
 征市は期待した目で十也を見ていたが、十也は立ち止まると頭を押さえた。
「嘘……。全然、場所が思い出せないのだ。おかしい!おかしいのだ!」
 征市は十也の肩を掴み、振り向かせた。十也の目は動揺の色を湛えている。
「ふざけてんのか!お前、本当は魔道書同盟のスパイで魔道書同盟の本拠地を教えるつもりがないんだろ!」
「そんな事しないのだ!本当に思い出せないのだ!お願いだから、信じて欲しいのだ」
 十也自身にも自分の記憶がない事が信用できないらしく、うろたえていた。話し終わる時には、泣きそうな声になっている。
「信じろって言われて信じられるかよ!お前、元々俺達の敵だったんだぞ!?」
 その十也に征市は掴みかかる。だが、その手を総一郎が掴んだ。
「やめろ、征市。判らなかったものは仕方がない。それに、やろうと思えば別の場所を教えて罠に嵌める事もできたはずだ」
「おじいちゃんはこいつの言う事信じるのかよ!」
 総一郎は征市の問いに頷いた。そして、口を開く。
「恐らく、魔道書同盟にとっての安全装置だ。敗北した怪人が爆発するのは覚えているな?」
 総一郎に言われて、征市は過去の記憶を思い出す。今、倒した相手も含めて倒された怪人は全て爆発していた。
「爆発する事によってデータを抹消する事ができる。怪人の体を調べれば、様々な事が判る。それよりも高度な知能を持つ人造デュエリストが一度、敗北して爆発しなかった場合、魔道書同盟に関する情報がある程度失われるようになっているのだろう。念が連れてきた人造デュエリストで爆発しなかったのは十也だけだ」
 総一郎が言うように、敗北した人造デュエリストも怪人と同じように最後は爆発して消え去った。残ったのは十也だけだ。
「十也を責める訳にはいかない。別の仕事をしてもらおう」
 総一郎は優しい声でそう言うと、十也の頭に手を置いた。申し訳なさそうな顔をしていた十也は、落ち着いたような顔になる。
「十也、君にはここに行ってこの人の警護をして欲しい。やってくれるね?」
 十也は総一郎から手に収まる大きさの紙を渡される。仕事を任された事で、彼は顔を輝かせた。
「もちろんなのだ!名誉挽回してみせるのだ!」
 十也はすぐに元気を取り戻すと、紙に書かれた場所に向かって走り始める。
「十也に誰の警護を頼んだんだ?」
「真実だ」
 総一郎の答えに征市は驚く。信じられないと言った目で総一郎を見た。
「本気か!?十也は魔道書同盟のスパイなのかもしれないんだぜ!?魔道書同盟は裏切り者の真実を憎んでいる。そこにスパイかもしれない奴を送り込むなんてありえねぇよ!」
「十也を信じてやれ。疑いたくなるのは判るが、十也が俺達を殺すチャンスは今までに何度もあった。だが、十也はそうしなかった」
 総一郎の言う通りだった。総一郎は十也を監視するために家に彼を連れてきた。同じ屋根の下で暮らしながら、総一郎は何度も十也に隙を見せたが十也は総一郎を狙う事がなかった。トライアンフの事務所の場所までは教えなかったが、総一郎は彼を信頼している。
「それに、十也にはしばらく席を外して欲しかった。お前達にしなければならない話もある」
 総一郎はそう言って歩き出す。征市はその背中についていった。
 総一郎の行き先は征市の家だった。お互い、一言も口を開かずに帰宅し、家に入る。玄関には女物の靴が二足あった。彩弓と彩矢の靴だ。
「あいつら、来てたのか」
「俺が呼んだんだ。話があるからな」
 総一郎が二人を呼んだ事で、征市は総一郎がしようとしている話の内容を理解した。彼が話そうとしているのは恐らく、人造デュエリストの試作型とそのバックアップに関する話。征市と一ノ瀬姉妹に関する話だ。総一郎の口からその秘密が語られる事に征市の心は言いようのない高ぶりを感じていた。同時に不安な気持ちも抱えている。
 リビングに向かうとテーブルで彩弓と彩矢が待っていた。二号もいる。
『おい、こら!女の子を待たせるとか男のする事じゃねーだろ!』
 二号の軽口でその場が和んだ。これからする話の重さに心が不安定になっていた征市は、二号の何気ない冗談に救われた気がした。
「あ!もしかして、アタシとお姉ちゃんのどっちをお嫁さんにするとかそういう話?それで呼ばれたとか!?」
「そんなんじゃねぇよ!彩弓も顔を赤くすんな!」
「だって……せ、征市君のお嫁さんって……」
「そうじゃねぇから!彩矢、がっかりした顔すんな!」
「待たせて悪かった」
 総一郎はそう言うと、着席した。征市もそれに続く。総一郎が纏う雰囲気を感じ取って、二人は真剣な話だと気付き、真面目な顔で彼を見る。
「これからする話は君達に関係する話だ。全ては二十年以上前。征市が生まれる前に遡る」
 話しながら、総一郎は当時の事を思い出していた。目の前にいる三人の運命を弄ぶ原因を作り出したあの時を、今でも後悔している。
「君達は柳沢研究所を知っているね?」
「柳沢研究所……。湊ちゃんがいたあの研究所ですね?」
 彩矢は去年の戦いを思い出していた。しかし、それと二十年前の出来事との繋がりが見えない。
「そうだ。柳沢研究所と名乗る前――その頃からあの場所は、研究所として使われていた。当時の研究テーマは人造デュエリストだ」
「人造デュエリスト!?人造デュエリストってあの人造デュエリストですか?」
 突然の事に彩矢は驚く。長い間、研究が重ねられた事が信じられなかったのだ。
「そうだ。念が連れてきた人造デュエリストはその研究所で生み出された人造デュエリストのデータを元に、怪人のデータを組み合わせて作りだされたものだろう。今の人造デュエリストと当時の人造デュエリストでは同じ名前で別の存在を指すと言ってもいい。当時の人造デュエリストは『紫電』のメンバー達が生み出したものだ」
 総一郎を含め、『紫電』のメンバーは魔道書同盟が復活する事、そして、自分達の力が衰えている事を恐れていた。彼らにも自分達の子はいたが、デュエリストとして成長したのはごく僅かだった。魔法使いとしての力を受け継がなかった者もいた。戦力不足を解決するために考え出されたのが人造デュエリストだった。『紫電』のエースだった総一郎と、魔道書同盟でありながら人間に友好的で唯一封印されなかった真実の遺伝子を元に作りだされたのが人造デュエリストの試作一号機、相羽征市だった。
「そんな……。征市君もその研究所で作られたの?」
 彩弓は征市に問う。彼女の瞳は驚きで震えていた。
「そうみたいだ。俺も柳沢研究所に行った時、偶然、その資料を読んだ。俺だってそれを知った時はショックだったよ」
「でも、征市さんが人造デュエリストだからってアタシは何とも思わないわ!それにトライアンフのみんなだって――」
「彩矢」
 身を乗り出した彩矢を、彩弓は静かな声で止める。彼女は手を膝の上で強く握っていた。まるで、耐えられないような責め苦に耐えるような仕草だった。
「どうしたのよ、そんな苦しそうな顔して」
「征市君のお祖父さんは、『君達に関係する』って言ってた。征市君が人造デュエリストだったってだけで終わりじゃないと思う」
 その言葉の意味を彩矢は考える。人造デュエリストを生み出す計画は、征市だけに関係する事ではない。自分達姉妹にも関係する出来事だった。総一郎のその言葉の意味を理解して、彩矢は総一郎の顔を凝視する。
「そうだ。それで終わりじゃない。人造デュエリストの他に強大な魔力を内蔵したバックアップを作り出した。人造デュエリストが倒れて魔力を失っても、バックアップがいれば魔力を補填できる。征市は一度敗北し、魔力を失っている。そして、とある人物によって魔力を回復させている」
 総一郎はそこで一度、言葉を切る。次に彼が口を開くまでの間は、数秒程度のものだった。だが、話を聞いている彩弓と彩矢にとっては非常に長い時間に感じられた。
「君達二人がこのプロジェクトで作られたバックアップだ」
 二人とも、言葉を返せない。総一郎の言っている事が信じられなかった。
「そんな……!嘘です!アタシは物心ついた時から魔法が使えてデュエリストになったけれど、姉さんはデュエル・マスターズカードも持っていないし、魔法だって……!」
「魔力が全くない人間が何度もプライズに狙われる事はない」
 征市も彩矢もそれは疑問に思っていた。征市がトライアンフのメンバーになる前から、彩弓は色々なプライズに狙われていた。征市とトライアンフを繋ぐ事になった仮面のプライズの事件だけでも、彩弓は二度もプライズに狙われた事になる。
「デュエリストになったと言ったが、君の場合は想定外だった。内側に溜めておかれる魔力が外側に溢れ出し、デュエルに使われるようになったのだろう。本来なら、君も自分の中にある魔力に気付く事なく、一生を終えるはずだった」
「え……?じゃあ、どういう事なの……?アタシは最初から、征市さんのために生み出されたって事?そんな……それじゃ……」
 彩矢は立ち上がったまま、後退する。その声が震えていた。
「それじゃ……それじゃ、アタシが征市さんを好きだって思った気持ちも……もしかしたら、作られたものかもしれないって事?本物じゃないって事?」
「彩矢!」
 征市が立ち上がって彼女に近づこうとする。
「来ないで!」
 だが、彼女の声がそれを制した。
「お願いです。お願いだから、来ないで!」
 叫んだ彩矢は部屋を飛び出す。
「彩矢!」
 征市と彩弓の二人が彼女を追うために立ち上がった。だが、そこで運悪く征市の携帯電話が鳴る。彩矢を追う彩弓の姿を目で捉えながら携帯電話を耳に当てると、十也の声が聞こえてきた。
『師匠!念の旦那が現れたのだ!真実さんが狙われているから、応援を頼むのだ!』
「念が!?真実を狙っているってどういう事だよ!?」
『よく判らないけれど、裏切り者がどうとか……。あと、永遠様が一緒だったのだ!永遠様が真実さんを追っているのだ!場所は河川敷なのだ!』
 それだけ言うと、電話が切れてしまった。会話の時に漏れた声を聞いて、総一郎が立ち上がり、コートを羽織る。
「念と永遠が現れたようだな。行くぞ」
「行くって、彩矢はどうするんだよ!」
「彼女も心配だが、それよりも今は奴らを倒す事が優先だ。今なら、永遠を倒せる」
 総一郎の声には自信を感じさせる響きがあった。征市にはその根拠が判らず、問う。
「自信があるみたいだけれど、本当に大丈夫なのか?」
「ああ。永遠は魔道書同盟の長。その実力は念をも凌ぐ。しかし、今の奴は真の力を発揮できない。何故なら、奴は今、本当の体でないからだ。奴の本当の体は俺が隠している」
 説明しながら総一郎は部屋を出る。征市もブレザーの上からコートを羽織ってその背中を追った。

 話は数分前に遡る。未来地区で買い物をした真実と十也は河川敷を歩いていた。その前に永遠と念が現れ、デッキを取り出した。
「ここは俺に任せて逃げるのだ!」
 そう言った十也の言葉に従い、真実は駆け出す。しかし、永遠がそれを追った。結果的に十也は念一人しか止める事ができなかったと言える。
 その念だっていつまでも十也の相手をしているとは限らない。十也の実力では念に勝つ事ができない。それは十也自身も理解していた。
 十也は征市に電話で連絡した後、ベルトの脇についていたホルダーからデッキケースを取り出す。それを見た念は驚いたように軽く息を吐いた。
「俺と戦うつもりか。せっかく助かった命だ。大切にしたらどうだ?」
「旦那に見つかって無事でいられるとは思えないのだ。それに旦那も俺にとって目標の一つ。逃げるなんて選択はできないのだ!」
 十也はデッキケースからデッキを取り出す。念もそれを見て、目の前にシールドを並べた。
「旦那にはよくしてもらったと思うのだ。旦那みたいに何かに真っ直ぐな奴に俺もなりたいのだ。だからこそ俺は自分の信じる正義の道を進む!敢えて言うのだ。旦那、お前の罪を数えろ!」
「いいだろう。俺を殺しに来い、十也!」
 互いに五枚のカードを手に取り、デュエルが始まる。
 序盤は動かず切り札での一撃必殺を狙う念に対して、十也のデッキは序盤からクリーチャーを召喚するデッキだった。カードをタップし、マナを出す。マナは十也のベルトに入り込み、ベルトのバックルが音と共に発光する。十也がバックルのスリットにカードを通すと、カードは光の粒子となってバトルゾーンに飛んでいった。
『変身!』
 ノイズ混じりの十也の声がバックルにつけられたスピーカーから出る。それと共に光の粒子は《無頼勇騎ゴンタ》に変化した。
「これが俺の新しいベルト。前のベルトが水で使い物にならなくなったから、6300円かけて新しいのを作ったのだ!それにこのデッキもベルトに合わせて作った新型なのだ!」
「お前も少しは強くなったという事か。だが、俺は怪人達とは違う」
「判っているのだ!意思を持たない奴らとは違う。旦那は戦いのスペシャリストで超強い。でも、超強いから燃えるのだ!」
「なら、そのまま燃え尽きろ」
 念は《フェアリー・ライフ》でマナを増やす。その動きを見て十也は予想通りだと感じていた。
 切り札を変え、デッキを変えた十也に対して、念は自分の戦い方を変えていない。自分のスタイルとして貫き通している。
「それでこそ旦那なのだ。俺が憧れた旦那はそうじゃなくちゃいけないのだ!」
『変身!』
 十也のバックルの声と共に光の粒子がバトルゾーンに飛んでいく。粒子は《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》に変化した。《青銅の鎧》が槍を高く天に突き上げる事で山札のカードがマナとなり、《ゴンタ》が地を蹴って念のシールドへ跳ぶ。
「《ゴンタ》で旦那のシールドをブレイク!」
 《ゴンタ》の拳が念のシールドを砕く。念に対して、攻撃を先制した事で十也の口元が緩んだ。しかし、それも束の間の事で《ゴンタ》と《青銅の鎧》の上に現れた赤い金属の塊を見た時、彼は息を呑んだ。
「《地獄スクラッパー》だ。俺に何度も攻撃を通せると思うな」
 念はターンの最初のドローを終えると、すぐに一枚のカードを場に投げる。緑色の光を発したそのカードから緑色の四足の獣が飛び出し、十也のマナゾーンのカードに食らいついた。相手のマナを破壊する呪文《マナ・クライシス》を使ったのだ。
「せっかく《青銅の鎧》で増やしたマナが……!」
「壊すのはマナだけではない」
 奥歯を噛みしめながらマナゾーンを見つめる十也を指し、念は低い声で言う。
「お前の闘志も征市によって植えつけられた正義感も壊しつくしてやる」
「上等、なのだ」
 深く息を吐いた十也は、カードを引いて手札を見る。引いたカードは切り札の《イカロス》ではなかった。だが、それは十也にとって幸福だったかもしれない。手札に持っていたとしても、マナに置いたとしても何らかの形で破壊される可能性はある。本当に必要な時まで切り札を引いてはいけない。
「旦那を越えて俺は正義のヒーローになる!魔道書同盟もこの手で倒すのだ!」
 念を真っ直ぐ見つめて、十也はそのターンの行動を開始した。

 真実と永遠は川岸で向かい合って立っていた。
 真実は白いチェス駒に魔力を込めそれを黒服の男に変化させると、大事そうに持っていた紙袋を渡した。
「誰に渡すか判っているわね?」
 黒服の男は頷いた後、しばらく真実を見ていた。そして、彼女に背を向けて走り始める。
 永遠は半笑いのような表情で何も言わずにそれを見つめていた。真実が永遠に目を向けてからは彼女の目を見ている。真実は睨むような鋭い目で永遠を見ていた。
「何十年ぶりなんだろうね。久しぶり、姉さん。それと、さようなら!」
 永遠は口を開くのと同時にデッキケースを取り出す。真実も同じようにデッキケースを取り出した。同じタイミングでシールドが並び、手元にカードが加わる。
「さっきの袋の中身は何?魔力を感じたけれど、プライズか何かかな?もしかして、ボク達を倒す秘密兵器とか!?そんなもの、用意しても無駄だけどね!」
 永遠の手から離れたカードはオレンジ色の羽を持つ鳥の姿になって場に落ちる。ゴッドのコストを下げる《ゴッド・ルピア》だ。
 それを見た真実は《エマージェンシー・タイフーン》で手札を入れ替える。永遠は、墓地に飛んでいった黒いカードを見て「あは」と、声を出して笑う。
「闇の呪文を捨てた。《ロマノフ》を使う準備をしているんだね。無駄だけど、がんばりなよ!」
 永遠は《エナジー・ライト》でカードを引き、手札にあるカードを見てまた声を出して笑った。その声を聞いた真実は額に皺を寄せる。
「無駄とはどういう事なの?」
 真実が口を開いたのを見て永遠は「あ、やっとしゃべってくれた」と呟いた。
「文字通りの意味さ。ボク達を倒すために何をしても無駄だって事。ボク達は完璧な『永遠の牢獄』を発動して、この世界の全てに復讐する。全ての人間をボク達と同じ目に合わせる。その準備ももうすぐ終わる」
「準備が終わったとしても、計画は実行させないわ」
 真実は青い人型のクリーチャー《電脳封魔マクスヴァル》を召喚してターンを終える。永遠はそれを見ながら、笑ったままカードを引く。
「無駄さ!誰が何をしてもボク達の計画は止められない。今、姉さんがボクに倒されるのと同じで人間の世界に終わりが来るのも決まっている事なんだよ!行け!《龍神ヘヴィ》!」
 永遠の場に黒い羽と巨大な爪を持つゴッド《龍神ヘヴィ》が現れる。単体での能力は低いものの、他のゴッドとリンクした後が厄介なクリーチャーだ。それは、《ヘヴィ》を使った事がある真実が一番よく知っている。
「ボク達の……いや、ボクの準備がどれだけ完璧なのか、それは姉さんでも理解できないさ。判るはずがないよ!判っていたら、もっと焦っているはずだからね!」
 自信に溢れた永遠を見ながら、真実はその自信の源が何なのか疑問に思い始めていた。ただの自信過剰とは思えない。過去に総一郎達『紫電』のメンバーが魔道書同盟のそれを真似て発動させた『永遠の牢獄』とは違い、完璧な本物の『永遠の牢獄』を発動させられる自信があるのだ。
「本当にできると思っているの?『永遠の牢獄』は完成していない魔法よ。だから、人間達が使った時も不完全だった。魔道書同盟のメンバーが集まっても成功しないわ」
「そんな事は判っているよ。だから、ボクが完成させたんだ。人間達が閉じ込めたあの牢獄の中でボクが完全な形にしたんだ!どんな準備をしていたのか、念達も知らなかったみたいだけどね。だからこそ、都合がよかった。知っていたら、トライアンフに気付かれて計画が潰されてたかもしれない」
 そう言った後で、永遠は「例え、気付いたとしても対策なんてできないだろうけど」と付け加える。
「対策はできない……?それはどういう……」
 永遠に聞きながら、真実は彼女の企みを理解した。それと、同時に真実の目に闘志が宿る。
「あなたを生かしてはおけない。私が愛する人と、私が守りたい人のために今、ここであなたを倒さなくてはならない」
「姉さんにできるの?昔から一緒だったボクを倒せるの!?」
「やってみせる」
 真実の声は震えていた。その震えは同じ魔道書同盟の永遠を手にかける事への躊躇から来るものか、それとも、目の前にいる永遠に対しての怯えから来るものなのかは判らない。真実の脳裏に浮かぶ二人の大切な人間を守るためには、その感情を絶ち切って永遠を倒さなければならないのだ。
 決意した真実を永遠が笑った。
「姉さんが強いのは判るけれど、ボクは負けないよ!すぐに《ヘヴィ》をリンクさせてボクが勝つんだ!」
「それはどうかしら?」
 真実の指先が動き、黒いカードが場に放たれる。そのカードから出た煙が《ヘヴィ》の全身を包んだ。
「《デス・スモーク》よ。動きだしていないクリーチャーなら、これで破壊できる」
「……本気みたいだね」
 破壊された《ヘヴィ》の亡骸を見た永遠は笑うのをやめる。その瞳が、真実と同じように睨むような鋭い目に変わった。
「裏切り者にふさわしい結末を見せてやるよ!人間に加担した事を後悔しろ!」

 十也は肩で息をしながら念を見ていた。
 十也のシールドが無傷で、ドローのためのクリーチャー《雷鳴の守護者ミスト・リエス》がいる。それに対して、念のシールドは三枚でクリーチャーはいない。それにも関わらず、念から発せられるプレッシャーが十也を追い詰めている。
 十也のデッキはスピードを重視した構成になっている。休む事なくクリーチャーを召喚し、シールドへの攻撃を絶やさないデッキだ。念は圧倒的な除去で攻撃を防ぎ、被害をシールド三枚にまで食い止めていた。
「もう終わりか」
 連続攻撃を受けても、念は息を乱していない。それが十也にはショックだった。
 念は手元にある一枚のカードを引き抜き、マナをタップする。マナゾーンのカードが角度を変える度に、十也は自分の心臓の鼓動が強くなるのを感じていた。
「怖くなんか、ないのだ。旦那の《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》なんか怖くないのだ!」
「よく言った。なら……受け止めてみろ!」
 カードが念の指から離れ、場に落ちた瞬間、場の中央から火柱が立ち上る。燃え盛る炎を見て言葉を失っていた十也の耳に咆哮が聞こえた。炎を吹き飛ばし、蒼い鎧に身を包んだ白い肌の龍が姿を現す。念の切り札《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》だ。
「《ミスト・リエス》の効果でカードを一枚引くのだ」
 十也は震える手でカードを引きながら、《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》の白い体躯を見ていた。ブロッカーが少ない十也のデッキでは《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》の猛攻に耐える事はできない。《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》を倒すカードもあるが、手札にそれはなかった。それを引くために《ミスト・リエス》が立っている。
「何とか耐えるのだ」
『変身!』
 バックルの声と共に《無頼聖者スカイソード》が十也の場に出る。《スカイソード》が両手に持っていた剣が発光し、カードが一枚マナゾーンに飛んでいき、一枚新しいシールドとして主人の前に飛んでいった。
「さらに《ミスト・リエス》でドロー!防御力を高めて迎え撃つのだ!」
 十也は自分のクリーチャーを動かさずにターンを終えた。
「《ミスト・リエス》で攻撃を仕掛けなかったか。ここで攻撃しなかった事を後悔するぞ」
 念が投げたカードから黒い手が伸び、《ミスト・リエス》を握り潰す。除去の呪文《デーモン・ハンド》だ。これによって十也のドロー手段が封じられてしまった。
「次はシールドだ」
 《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》が低く唸り、四肢に力を込める。背中の大砲が十也のシールドを狙い、轟音と共に炎の弾が発射された。十也の目では捉えきれないスピードで空を飛び、着弾した炎の弾は一瞬で十也のシールド二枚を消し去った。シールドがあった場所からは白い煙が立ち上っていた。
「残り四枚か。まだ大丈夫なのだ!」
 バックルの声と共に十也は《ゴンタ》とキノコの妖精のようなクリーチャー《シビレアシダケ》を召喚する。そして、十也は満面の笑みを浮かべると手札に持っていたカードを一枚、バックルのスリットに通した。すると、バックルの中央から金色の魔方陣のようなものが現れ、場に飛んでいった。
「《母なる聖域》を使ったのだ。今、宣言する。俺は旦那の《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》を倒す!」
 《母なる聖域》の効果によって現れた魔方陣に《シビレアシダケ》が飛びこむ。魔方陣をくぐった瞬間、《シビレアシダケ》はカードの姿に戻り、マナゾーンへ飛んでいった。それと同時に一枚のカードがマナゾーンから魔方陣に飛んでいく。
「進化の準備なのだ!跳べ、《スカイソード》!」
 《スカイソード》は十也の声を聞いて跳躍し、マナゾーンから飛んだカードを掴み、一緒に魔方陣に飛び込んだ。魔方陣を潜り抜ける瞬間《スカイソード》の体を金色の光が覆う。魔方陣を完全に潜り抜けた時、金色の光が飛び去り、《スカイソード》の体が変化した。
「魑魅魍魎跋扈するこの地獄変」
 十也が呪文を唱えるように口を開き、言葉のリズムに合わせて《スカイソード》を包む金色の光が変化する。魔方陣を潜り抜ける前に比べて二倍近い大きさの人の形をした光へ変わっていった。
「浅田十也はここにいる」
 十也の双眸が強い意志を持った光を帯びて念を見る。それと同時に《スカイソード》が纏っていた金色の光が周囲に飛び散り、額に太陽を思わせる角飾りをつけた人型のクリーチャーが現れた。
「《イカロス》爆現!!」
 十也の場に出現した進化クリーチャー《星鎧亜イカロス》の角飾りが太陽のように発光する。その光を見て《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》は顔を伏せた。
「《イカロス》!《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》を攻撃なのだ!」
 十也の声を聞き、《イカロス》は足音を立てずに《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》の巨体の前に移動する。《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》が目を開き、その存在に気付いた時には白い巨体に《イカロス》の拳が突き刺さっていた。悲鳴を上げる間もなく、念の切り札はその場に倒れる。
「《イカロス》はパワーアタッカーを持っているのだ。仲間の、多色クリーチャーの数だけ強くなれるのだ!」
 《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》を倒した事で安心したのか、十也は得意気になって話す。
「ならば、これはどう止める?」
 低く重い咆哮と共に二体目の白い龍が現れる。十也は、驚いて目を開いたまま、一瞬停止していた。
「に、二体目なんてずるいのだ!だったら、こうするのだ!《ハッスル・キャッスル》!」
『キャッスル・オン!』
 十也がバックルのスリットにカードを通すと、バックルから十也の声と共に、パンダの形をした緑色のオーラが飛び出した。緑色のオーラは十也の目の前にあるシールドに取りつき、シールドをパンダの頭がつい要塞へと変化させた。
「《ハッスル・キャッスル》によってシールドが要塞化されれば、俺がクリーチャーを召喚した時、カードを引く事ができるのだ!《サンフィスト》を召喚してドロー!そして……」
 十也はポケットから鍵のようなものを取り出すと、ベルトのバックルに差し込んでひねる。エンジンのような音と共にバックルが赤く発光し、それに呼応するかのように《イカロス》の左足が赤い光を発する。
「ウエイクアップ!《イカロス》で旦那のシールドを全部ぶち壊すのだ!!」
 《イカロス》は両足に力を入れて高く跳躍する。そして、左足を伸ばしてシールドに向かって飛んだ。《イカロス》の背中からはまるでブースターのように赤い光が噴き出し、加速させている。
「必殺!イカロスキック!!」
 《イカロス》が放ったキックは、念を守っていた三枚のシールドを同時に砕いた。シールドの破片を浴びながら《イカロス》は着地する。
「今まで攻撃を仕掛けて来なかったのは、《イカロス》による一撃必殺を狙っていたからか」
「そういう事なのだ。そして、これで終わりなのだ!《ゴンタ》でとどめ!」
 《ゴンタ》はこん棒を持って念に向かって走る。だが、駆け出した瞬間、その上に赤い金属の塊が現れた。
「終わりなどではない。ここまでやるとは大したものだ」
 念の口元が笑うように歪んだ瞬間、《地獄スクラッパー》が《ゴンタ》を潰した。
「《ゴンタ》!!」
「クリーチャーの心配をしている場合か?ここからが本番だ。命乞いは聞かん。歯を食いしばれ」
 念は一枚のカードを場に投げる。黒い光を発してクリーチャーの姿に変化していったそれから、黒い剣が何本も飛び出した。四方八方に飛び出した黒い剣は《イカロス》と《サンフィスト》の体を串刺しにする。それを見て、カードから現れた黒い悪鬼《魔刻の斬将オルゼキア》は口元を歪めて笑うと、自分の体にも黒い剣を突き刺して倒れた。
「お前を護ブロッカーは排除した。次はドロー手段を潰す」
 《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》の雄叫びと共に、音と熱の暴力が十也のシールドに襲いかかる。《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》が打ち出した炎の弾は、パンダの顔をした可愛らしい要塞ごとシールドを焼き尽くした。
「シールドは残り二枚だ」
「二枚もあるって事なのだ!まだまだ!」
 十也は《次元の霊峰》を使って《サンフィスト》を山札から呼び、呼んだ《サンフィスト》を召喚する。しかし、彼の抵抗はそれが精一杯だった。念の攻撃に打つ手がなかった。
「ブロッカー一体で俺の攻撃を防げる訳がない。判っているな?」
 念が新しいカードを場に出すのと同時に、《サンフィスト》の体が爆発し、十也の手札が一枚弾け飛んだ。念が場に出した《腐敗勇騎ガレック》の効果によってブロッカーと手札が破壊されたのだ。
 十也が嘆く間もなく、《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》の一撃がシールドを焼き尽くす。攻撃を防ぐ障害物が全てなくなったのを見て念のクリーチャー達は、目だけで笑った。
「まだ……。まだなのだ。俺に征市と同じような正義の力が宿っているならば、ここで切り札を引いて逆転ができるはずなのだ!」
 十也は震えながらカードを引き、それを見る。カードを目にした瞬間、彼の顔から表情が消えた。
「安い正義感で戦ったお前が勝てるはずがない。お前は浮ついた半人前だ。だが……」
 念は諭すような口調で十也に言葉をかける。その途中、彼の口元が緩んだ。
「俺に挑んだ度胸だけは褒めてやる。胸を張れ」
 立ち尽くした十也に向かって《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》の大砲が火を噴いた。

 目覚めた時、体中が熱いと感じた。それと同時に、自分の体がひどく重く、動かないように思えた。それが信じられずに腕を持ち上げようとするが、持ちあがらない。自分の腕がどうなっているのか、それもぼやけて見る事ができなかった。
(そうか……。俺は旦那に負けたのだ)
 十也は自分に何が起こったのか思い出す。《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》の一撃を受けた十也は、炎が身を包んだ瞬間、意識を失った。敗れてから、どれくらいの時間がたったのかも判らない。
(師匠に負けた時とは違うのだ。あの時は記憶がなかっただけだけど、今は体がなくなったみたいに感じるのだ)
「十也!」
 自分を呼ぶ声を聞いて、十也は必死に反応しようとする。しかし、体は動かない。背中の感覚はのこっているらしく、地面を通じて二人の人間が走ってくるのを感じた。二人は十也の近くまで来て立ち止まる。
「十也!?しっかりしろよ!」
「真実、さんが……」
 征市の声を聞いた十也は自分がもう生きていられない事を悟った。だから、伝えるべき事を伝えるために、全ての力を振り絞って口を開く。
「川の方、へ……永遠、様も……」
「真実と永遠が戦っているのか!?」
 征市とは違う声が走り去っていく。あれは、自分が征市の弟子になる事を認めてくれた総一郎の声だ。彼がいなかったら、征市は自分を認めてくれなかったはずだ。感謝していたが、それを声に出す事はできなかった。
「十也、死ぬんじゃねぇ!」
「師、匠……」
 近くに征市がいるのを感じながら、色々な思いが頭を駆け巡った。自分達の過去。同じ人造デュエリストとして、念の下で働いていた春間と智里。最後に頭に浮かんだのは、どうすれば本当の正義の味方になれるのか、という疑問だった。
「俺……正義の味方、なりたかった……。浮ついた、半人前じゃなく……本物に……なりたかった」
 しばらくして、頬に水が落ちるのを感じた。雨だと思ったが、雨にしては温かく優しい。
「馬鹿野郎!お前、俺達と一緒に戦ったじゃねぇか!あれは遊びだったのかよ!違うだろ!?それはお前が一番知っているんじゃねぇのかよ!」
 また、優しく温かい水が頬に落ちる。水の気持ちよさと征市の言葉を聞いて、十也は心が軽くなるように感じた。
「俺……正義……」
「お前はがんばった!だから……だから、胸を張れ!後は俺達に任せろ!」
『胸を張れ』
 念も征市も同じ事を言っていた。自分が目指した目標が自分を認めてくれたのだ。
(ああ、よかった……)
 とても静かな気持ちが心の中に染み渡る。同時に重かった体が軽くなるように感じ始めた。熱さも消えていく。
「……十也!?おい、十也!」
 征市の声が遠くに感じる。何故だか、すごく気持ちがよかった。眠りたい気分になった。
(いい気持ちで眠れそうなのだ……)
 そして、意識が静かに沈んでいった。

 真実は奇妙に思っていた。攻撃を仕掛けるチャンスが何回もあったにも関わらず、永遠は攻撃を仕掛けて来ない。そのため、真実のシールドは未だに無傷の五枚だ。クリーチャーは攻撃には向かない《爆獣イナバ・ギーゼ》一体のみだが、このクリーチャーが生きている事に意味がある。
 永遠のシールドは三枚。真実の読みが正しければすぐにブレイクできる数だ。厄介なのは、永遠が使役している唯一のクリーチャー《龍神メタル》の存在である。
 永遠が召喚した《ヘヴィ》と《メタル》は真実も使った事があるゴッドだ。《ヘヴィ》がリンクする時、相手のクリーチャーはリンクした《ヘヴィ》へ攻撃をしなければならない。パワーの低いクリーチャーの魂を貪り食うようなゴッドだ。
 《メタル》が既に場に出ている以上、リンクされる事を想定して戦わなければならない。《ヘヴィ》と《メタル》がリンクした時のパワーは12000。真実のクリーチャーでは越えられないパワーだ。
「さあ、おいでよ!それとも、怖気づいたの!?」
「いいえ、あなたを倒す方法を考えていたのよ!」
 マナゾーンのカードを七枚タップし、一枚のカードが指先から場に飛んでいく。それは黒い光と共に骸骨を思わせるような鎧を纏い、二本の銃剣を持った黒い騎士へと姿を変えて場に現れた。真実の切り札《邪眼皇ロマノフI世》だ。
「《ロマノフ》が来たか!でも、無駄だよ!ボクは姉さんには負けない!それに、《ロマノフ》だって、まだ動けな――」
 永遠の言葉を遮るように、《ロマノフ》は左腕の銃剣から弾丸を撃つ。黒い羽根のような形の薬莢を空にまき散らしながら、黒い手の姿をした弾丸が《メタル》の体を貫いた。
「《ロマノフ》のアタックトリガーで《デーモン・ハンド》を使ったわ」
「そんな事は判っているさ!《ロマノフ》が墓地の呪文を使える事くらい理解している。だけど、召喚酔いをして動けないはずなのに、何故……!?」
 そこまで言って永遠は《イナバ・ギーゼ》の存在に気付いた。この小さいクリーチャーの役割は大きい。《イナバ・ギーゼ》は味方のナイトをスピードアタッカーにする。《ロマノフ》の効果は強力だが、召喚酔いをしている間、警戒した相手に狙い撃ちされる事もある。その弱点を補うためにこのクリーチャーがいるのだ。
「気付いたようね。《イナバ・ギーゼ》の力に」
 《ロマノフ》は右手の銃剣で永遠のシールドを二枚撃ち抜く。その中にシールド・トリガーはなく、魔道書同盟の長は悔しそうな顔で戻って来たシールドを睨んだ。
「《イナバ・ギーゼ》で最後のシールドをブレイク!」
 《イナバ・ギーゼ》が持っていたダガーを最後のシールドに投げる。すると、最後のシールドはダガーが刺さった中央から割れていった。
「もう終わりよ、永遠。魔道書同盟もあなたの企みも終わり」
「終わりじゃないさ。絶望の始まりだよ!」
 最後のシールドが破られ、絶体絶命の状況であるにも関わらず、永遠は笑い始めた。すると、彼女の前に金色の魔方陣が現れ、そこから破壊したはずの《メタル》が現れた。
「シールド・トリガー《インフェルノ・サイン》さ。さらに、《ヘヴィ》を召喚!」
 赤い羽の神と黒い羽の神が揃った。二体が融合する事で、中央に巨大な一つ目を持つ赤と黒の翼を持った神《ヘヴィ・メタル》が誕生する。
「全ての人類に見せてあげなくちゃ!滅びの祝砲を!」
 《ヘヴィ・メタル》の中央にある目玉から一条の太い光線が発射される。その射程距離にいた《ロマノフ》は太い光に飲み込まれ、一瞬で消滅してしまった。
「さあ、おいで。悪あがきくらい見てあげるさ」
 《ヘヴィ・メタル》は強力なゴッドだが、倒す手段がないわけではない。《デーモン・ハンド》のような除去呪文で破壊する事ができるし、パワーが上回ったクリーチャーの攻撃ならばバトルで倒す事も可能だ。だが、今の真実の手札では《ヘヴィ・メタル》を倒せるカードはない。《スペース・クロウラー》を召喚して手札を増やし、さらに《マクスヴァル》を召喚した。
「《イナバ・ギーゼ》で攻撃」
 何かに操られているかのような動きで《イナバ・ギーゼ》は《ヘヴィ・メタル》に突撃していく。近づいてくるクリーチャーに《ヘヴィ・メタル》は光線を浴びせた。
「これで《ロマノフ》を出しても、スピードアタッカーにならなくなっちゃったね!困る?困るよね!?」
「どうかしらね……」
 真実は《スペース・クロウラー》を召喚した時、《ロマノフ》を手札に加えていた。手札には《イナバ・ギーゼ》もあり、マナゾーンのカードは九枚だ。《マクスヴァル》の効果で《ロマノフ》のコストを減らせば、二体を同時に召喚できる。《ロマノフ》の効果で山札にある除去呪文を墓地に送り、すぐに《ヘヴィ・メタル》を破壊する事ができるのだ。
 真実がそれを考え、妨害されない事を祈って永遠を見た時、魔道書同盟の長はくぐもったような声で笑っていた。笑いを抑えても抑えても止める事ができない。そんな表情だった。
「何がおかしいの?」
 恐怖のせいか、苛立った口調で真実が問う。永遠は笑いながらそれに返した。
「だって、ボクはもう切り札を引いちゃったんだもん。見ててよ、姉さん」
 永遠は愉快そうにマナゾーンのカードをタップしていく。感情が抑えきれないのか、タップしながら奇声を発していた。
「これで、OK。十枚全部タップした!おしまい!」
 マナゾーンのカードから出たマナを永遠のカードが吸収する。彼女が投げた一枚が《ヘヴィ・メタル》に触れた瞬間、真実のクリーチャーとシールドが全て消え去った。

 『File.45 永遠の復活』につづく
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