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DM花嫁修業 笹倉心亜 第四話 王子様の芸術

『DM花嫁修業 笹倉心亜』
DM企業戦士。
それは、会社のためにデュエル・マスターズで死闘を繰り広げ、同僚の未来を守るプロのデュエリストの事である。
心亜(ここあ)の憧れでもある時任俊之助(ときとうしゅんのすけ)も参加したDM企業戦士日本一決定戦の開催が決定した。大きな大会の決定に、心亜と多田(ただ)は心を躍らせる。
そこに、おもちゃメーカー『エンジョイ』の社長、花菱綾華(はなびしあやか)が現れる。自分と同年代の社長の登場に驚く心亜に対して、綾華は不満を持っている。DM企業戦士のアドバイザーとして馬庭カルチャーセンターで働く事を決めた綾華は心亜の実力を試すためにデュエルを申し込む。
綾華の《コアラ大佐》のO・ドライブに追い詰められる心亜だったが、《斬隠テンサイ・ジャニット》の能力で逆転して勝利する。綾華を仲間として迎えた彼女達は、日本一決定戦に参加するために新たな仲間を探すのだった。

第四話 王子様の芸術

とある金曜日の午後。心亜達が住む街から電車で一駅のところにある美術関連の専門学校。ここでは、明日の学園祭に向けて学生達が準備をしている。その中の一つの教室に、変わった服装の学生が一人いた。
ボーイッシュな短い黒髪で緑色の帽子をかぶっている。着ているのは小柄な体にあった黒のツナギだ。だが、作業着としてのツナギではなく、いたるところにワッペンや装飾などが施されたファッションとしてのツナギのようだ。顔を見ると、幼さの残る中世的な顔立ちの少女である事が判る。あと半年で二十歳になろうという女性を少女と呼べるかどうかは疑問が残るが。
「おっ、三葉(みつば)。がんばってるな」
三葉と呼ばれた少女は、他の学生に指示を出しながら自分も動いて教室内の飾り付けをしている。部屋の中は、ドラゴンなど架空の生き物の立体であふれていた。どれも本物のような存在感が感じられ、今にも動き出しそうに見える。
「あったり前だよ。だって、ボクはみんなの王子様だからね!」
『ボク』という男のような一人称で答えたこの少女の名は三葉クララ。日本人の父と外国人の母を持ち、両親の愛情を受けて育てられた結果、非常に自由な考え方ができる少女になった。
そんな自由に生きる彼女が選択したのは、この専門学校に進む事であり、様々な『芸術』を生み出す事だった。今回の学園祭も、彼女にとっては一つの『芸術』の発表の場である。
「明日が楽しみだね。どんな『芸術』が生まれるんだろう。わくわく!」
ほとんど準備が終わった会場を見ながらクララが言う。それを聞いて先ほど彼女に話しかけた男子学生が疑問を投げかけた。
「え?準備はもう終わりだろ?これで完成じゃないのか?」
「ノン!」
上目遣いで男子学生を見たクララは静かに目を閉じ、右手の人差し指を振る。
「これは『芸術』を生み出すための下地なの!明日になったら、ぽこぽこ『芸術』が生まれるから素人は黙って見ててよねっ!」
「はあ……さいですか」
理解しがたいと言った言葉を顔全体で表した後、男子学生は去っていく。ほとんどのクラスが作品の展示をするはずであり、このクラスもクララが中心になって作ったファンタジーに出てくるような生物を見せるのだと思っていたからだ。
似顔絵を描くクラスもあったが、それだったら見本の絵を飾るはずであり、オブジェを飾る理由にはならない。
「判ってないなぁ……。『芸術』は生まれるところを見るのが一番おもしろいのにね」
男子学生が考えながら去っていくのを見ながら、クララはツナギのポケットからカードの束を取り出した。そのカードには、教室に飾られた立体の元になった絵が描かれていた。

土曜日の午後。
心亜と綾華、そして心亜に誘われた香奈は専門学校の学園祭に来ていた。
「えへへ~。楽しみで昨日はあまり眠れなかったよ!」
と、笑う心亜を見て綾華は「何を子供みたいな事を」と呆れた顔をしていた。その二人を見ながら、香奈はひきつったような顔をしている。
「あれ?加奈ちゃん、元気ないよ。どうかした?」
心亜に言われて、香奈は驚いたような顔をする。
「体調がすぐれないようなら、医務室まで送りますわ」
「う、ううん!何でもないから!何でもないです!」
綾華に聞かれて香奈は全力で首を横に振る。「それならいいのですが……」と言いつつ、綾華は納得していない顔をした。
(心亜!何でそんなすごい社長さんとフレンドリーになってるの!?あたしの知らない間に何があったの!?)
綾華が『エンジョイ』の社長である事を知っている香奈は心亜が彼女の知り合いになっている事に驚いていた。それもただの知り合いではなく、気心の知れた友人のように接しているのだ。落ち着いてなどいられない。
「えっとー……。香奈ちゃんが見るって言ってる演劇部の発表は三時からだから、それまでここで遊ぼうね!」
そう言って心亜はパンフレットのとあるページを開く。そこには、デュエル・マスターズのクリーチャーが描かれていたが、何をやっているのかは書いていなかった。しかし、場所だけは書かれている。
「これって、何?絵のタッチがすごいのは判るけど、何やるか書いてないじゃん」
「きっとデュエル・マスターズの大会だよ!この絵を描いた人が間違えてデュエル・マスターズの大会だって書き忘れちゃったんだよ、きっと!」
「そんな馬鹿な……」
香奈は呆れたような顔で心亜を見る。綾華はパンフレットに載っている絵を見ながら
「ここはイラストに関する授業も行う専門学校です。デュエル・マスターズカードのイラストをアレンジして描いた絵を展示しているという事も考えられますわ」
と話す。
「え?それじゃ、大会じゃないの!?」
綾華の考えを聞いて、心亜はショックを受けている。さっきまでとの表情の変化が激しい。
「行ってみないと判らないでしょ。ほら、行くよ」
「うん!強い人がいるといいな~」
香奈に言われて心亜の機嫌が直る。そして、デッキケースを取り出した。
綾華もデッキケースを持ってきているが、遊びに来たわけではない。DM企業戦士日本一決定戦で共に戦ってくれる仲間を探しに来たのだ。
大会に参加するために、四人のデュエリストを集めなくてはならない。馬庭カルチャーセンターに所属するDM企業戦士は、心亜と綾華の二人だ。強くない事に目をつぶれば多田も戦力の一人として考える事ができる。最低でも一人、できれば二人の強いデュエリストを仲間にしたい。そんな時に目についたのがこのパンフレットだった。
デュエル・マスターズに関連するイベントに参加すればデュエリストが集まる。そこで声をかければ仲間になってくれるデュエリストが見つかるか、強いデュエリストが通っている店が判るかもしれない。
そういった目的があって参加しているのだが、心亜はそれを忘れているかのように「デュエル、デュエル~♪」と歌いながら楽しそうに歩いていた。
三人は迷うことなくパンフレットに書かれている教室に辿り着いた。そこは、普通の教室の二倍近い大きさの教室だった。
「あーっ!見て見て!」
最初に教室の中に入った心亜が声をあげる。綾華と香奈の二人も教室に入って心亜が声をあげた理由が判った。
教室に入ると、目の前に《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》の模型が立っているのだ。それもただの模型ではなく、天井まで届くほどの大きさで目や背中の大砲が光るようになっている。時折、首を振る機能もついていた。心亜達三人だけでなく、他の来場者も驚いた目で《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》を見ていた。
「ねね!こっちもすごいよ!」
そう言って心亜は教室の奥へ向かう。そこにも、様々な大きさのクリーチャーの模型が展示されていた。どれもよく出来ていて、今にも動き出しそうだった。デュエル・マスターズを知らない香奈も、目の前にある模型に見とれている。
「こりゃ、すごいわ。こんなにすごいのを作れる人がいるんだね」
「この学校は毎年様々なプロを業界に送り出していますからね。プロの卵なら、これくらい作れるでしょう。でも……そうだと判っていてもすごいですわ」
「わ~っ、すっごいなぁ~。本物のクリーチャーがいるみたいだよぉ~!あれ?」
展示されている模型に感動していた心亜は、ドアがあるのを見つけた。ドアには『WELCOME』と書かれている。
「何だろう?入ってみよっか!」
そう言いながら、心亜はドアを開ける。綾華と香奈もそれに続いた。
ドアを開けるとそこはさっきの部屋よりも小さな教室だった。壁が全てクリーチャーの絵で埋め尽くされていた。そして、中央にはいくつかのテーブルがあって、そこに集まっている人はデュエルをしていた。
「やった!やっぱり、デュエルもできるんだ!」
喜んでテーブルに近づいて行った心亜だったが、テーブルの近くで足を止める。
「よわっ。お前、何でデュエルやってんの?才能なさすぎ」
そんな声が、部屋に響いた。その声を聞いて、賑わっていたテーブルの周りも静まり返る。
声を発したのは心亜達と同じくらいの年頃の少年だった。近くの高校の制服を着ていて、首からヘッドホンをかけている。ヘッドホンからは音漏れしていて、少年は音を立ててガムを噛んでいた。睨むような目つきで相手を見ていて、「こんなザコ使うなよな」と言って相手のカードを叩く。デュエル・マスターズのプレイヤーと呼べないような最低の人間だった。
「下劣ですわ」
と、綾華は呟く。彼女は既にこの場への興味を失っていた。
「まあ……どんな事でもこういう奴はいるよね。みんないい奴ってわけじゃない」
香奈はそう言って少年を見る。そして、心亜を見て「つまらなくなっちゃったかもね。他のところに行こうか」と、声をかけた。
「許せない」
心亜は静かな声だが、はっきりとした怒りを込めてそう言った。いつも楽しそうにしている心亜しか見た事がない香奈と綾華の二人は驚いて顔を見合わせる。
「こ、心亜?」
「デュエル・マスターズはみんなで楽しくやらないといけないんだ。あんな事言われたら、楽しいもので遊んでいても楽しくなんかならないよ!」
「ならば、どうするつもりですの?注意したからと言って、相手がそれを聞いて大人しくなるとは限りませんわ」
綾華の言う通りだった。他のプレイヤーのブーイングを聞いても、不良プレイヤーの少年は顔色一つ変えずに対戦を続けている。誰かが注意したところで変わるとは限らない。
「でも!何もしないなんて嫌だよ!……そうだ。デュエル・マスターズでやっつければ少しは大人しくなるかも」
最後まで言い終える前に心亜はバッグからデッキケースを取り出す。それを見て綾華は彼女を遮るように右手を出す。
「勝てるつもりですの?相手の実力も判らないのに突撃するのは危険ですわ」
心亜に注意した後、綾華は不良プレイヤーを見て口を開く。
「彼の名は鬼塚恭兵(おにづかきょうへい)。色々な大会を荒らす事で有名な男ですわ」
「え?知ってるの?……あ、じゃなくて、知ってるんですか?」
香奈が綾華に聞く。綾華は頷いて説明を続けた。
「マナーも悪く大会を荒らす事も多いですが、実力があるのも事実ですわ。注意を受けても態度を改めなかったせいで、今では多くの店から出入り禁止処分と公式大会への出場停止を言い渡されています。それでも、非公認の大会に出て荒らして行く事もしばしばあるようです」
「でも、デュエル・マスターズって人と対戦するゲームなんですよね?それだけマナーが悪かったら誰も対戦してくれないんじゃないんですか。それなのに、強いなんて……」
「実際のカードを使わなくても、ネット上で対戦する事はできます。それにマナーが悪くても強いプレイヤーを尊敬している人達がいるのも……認めたくないけれど事実ですわ」
香奈の問いに綾華が苦い顔で答えた。その後で心亜に聞く。
「相手は最低のプレイヤーですが、実力はある男ですわ。策もなしに戦うのはおやめなさい」
「だって……!」
綾華の言いたい事は理解できる。だが、それは納得できない。
「《ボルシャック・ドラゴン》召喚!」
鬼塚の対戦相手の子供は、持っているカードを手当たり次第入れたようなデッキだった。しかし、それがその子にとって思い入れのあるカードで作ったデッキである事はカードについた細かな傷を見れば誰でも理解できる。
大会でしか入手できないプロモカードの《ボルシャック・ドラゴン》を見て鬼塚は少しだけ驚いたような顔をする。
「ザコには勿体ないカードだな。今、決めた!俺が勝ったらそれを俺に寄越せ!」
「え?」
「《アルカディアス》でシールドブレイクして、《シリウス》でとどめ!ほら、寄越せ!」
子供が返事をする前に鬼塚の手が《ボルシャック・ドラゴン》に伸びる。だが、その腕をつかんで止める者がいた。心亜だ。
「何だ、お前!」
「ひどいよ!」
鬼塚の問いに答える前に心亜が言う。
「人を馬鹿にして戦ったっておもしろいわけがない!他の人だってイヤな気分になるよ!デュエル・マスターズはもっとワクワクしてドキドキして楽しくやらなくちゃいけないの!」
「よく言ったね、お嬢さん」
心亜の声にこたえるように、『関係者以外立ち入り禁止』と書かれたドアから一人の人物が出てくる。細かな装飾が施された繋ぎを着たその少女は心亜達の前まで歩いてくる。
「ボクはこの企画を考えたみんなの王子、三葉クララさ!」
「王子……?でも、女の子だよね?」
心亜は突然話に入り込んできたクララの言葉に首をかしげる。
「ノン!男とか女とかそういう問題じゃない!ボクは誰が何と言っても王子なの!やれやれ、何でこんな簡単な事理解できないかな」
早口でまくし立てた後、首をすくめる。そして、鬼塚に視線を向けた。
「君みたいな実に馬鹿な奴が来るとは思わなかった。それは計算外で予想外で想定外。でも、それを考えておかなかったって事はまだまだボクも王子としての自覚が足りないって事だからちょっと反省してみるよ。そんな訳で王子の命令だ!ボクの芸術を汚したお前を倒すから覚悟しろ!」
クララはそう言ってデッキを取り出し、対戦用のテーブルに置く。
「あ……ああ!?何言ってんだ?」
あまりの出来事に理解ができなかったのか、鬼塚は聞き返した。
「脳みその回転が鈍い奴だな。油ささないとダメだね。いい?おバカな君にも判るようにもう一度説明するよ?これはボクのボクによる色々なデュエル・マスターズスキーの人達に楽しんでもらうための企画なの。楽しくデュエル・マスターズで遊べばそれだけ盛り上がって芸術的な対戦とかそういうのが芸術的な逆転とかそういうのがあるわけ。でも、キミのせいでみんなテンションダウンして盛り下がっちゃったわけ。空気読めない人っているけれど空気ぶち壊して最悪の空気にしちゃう人がいるよね。それがキミなんだよ。だから、ボクとしては最悪になった空気を何とかしてどうにかしなくちゃいけないって思う訳。みんなの王子様だし、責任者だし。どうにかするって言ったら、やっぱり悪い奴をやっつけるしかないじゃん?悪い奴が悪い事をすればするほど悪い奴がやっつけられた時興奮するし。もう判ったよね?始めよっか!」
「待てよ!判んねぇよ!俺になんのメリットがあるんだよ!」
鬼塚の言う事も尤もだった。今の説明で理解できる者などいない。
「え?判るでしょ?」
ただ一人、心亜という例外を除いて。
「キミ、ボクの言いたい事が理解できるの?ナイスだね!それはともかく、今のでまだ理解できないの?戦隊ものの悪い奴だって何も考えずにヒーローに「うおー!」って突進してくるじゃない。そんな感じでやってくれればいいのに。メリットって言えば、このボクと戦える事なのにそれ以上の事を望むなんて贅沢な奴だな。じゃ、仕方ない。こうしよう」
クララは諦めたように言うと、自分のデッキケースから三枚のカードを取り出す。どれも貴重なプロモカードだった。鬼塚だけでなく、それらのカードを見た他のプレイヤーからも声が湧き上がった。
「これ、実は今日一番勝った人にあげるつもりだったプロモカード。ボクに勝てたらキミにあげてもいいよ」
「本当だな?」
それを聞いた鬼塚は目の色を変える。そして、デッキをシャッフルし始めた。
「ボクは嘘をつかないものなの。だって、みんなの王子様だからね!」
クララはそう言って、子供の代わりに椅子に座る。デッキをシャッフルする前に子供の頭に手を載せ「大丈夫。今から悪い奴やっつけてあげるから見てて」と言った。
それを見た鬼塚は何か言いたそうな顔をしていたが、何か言い返しても会話が噛み合わずに疲弊するのが判ったので何も言わずに黙っていた。
「行っくよー!《青銅の鎧(ブロンズアーム・トライブ)》!」
クララが最初に召喚したのは《青銅の鎧》だった。マナには既に自然と水のカードが置かれている。
「《サイバー・ブレイン》」
鬼塚は2ターン目に召喚した《光陣の使徒ムルムル》に続いて呪文のコストを下げる《王機聖者ミル・アーマ》を召喚していた。クリーチャーの召喚で手札が減ったが、ここで手札補充の呪文を使い、手札を増やす。
「へ~、ブロッカーデッキなんだ。でも、そんなにブロッカーばかり出していいのかな~?それっ!」
クララは《メガイノセントソード》をジェネレートし、《青銅の鎧》にクロスする。
「綾華ちゃん!今の!」
「《メガ・イノセントソード》が入っているという事は恐らく進化クリーチャーを多用したデッキのはずですわ」
心亜と綾華はそのクロスギアとマナゾーンのカードから進化クリーチャーの存在を感じ取っていた。クララのマナゾーンにはどの種族の進化クリーチャーにもなれる《コマンダー・イノセント》が置かれていたのだ。そして、《メガ・イノセントソード》はクロスしたクリーチャーのパワーを3000増やし、どんな種族の進化クリーチャーにもなれるようにクリーチャーを強化するクロスギアだ。
「どんな進化クリーチャー出しても無駄だ!《ヘブンズ・ゲート》!死ねっ!」
乱暴の言葉と共に鬼塚の手札から一枚の呪文と二体のクリーチャーが場に出る。それは二体とも《天海の精霊シリウス》だった。
「すごい!まさか、こんなに早く《シリウス》が二体出るなんて!DM企業戦士の桃太郎さんみたい!」
対戦前は鬼塚の行動に腹を立てていた心亜だったが、対戦が盛り上がるのを見てそれを楽しんでいる。光文明のブロッカーを活かした戦術を見て、心亜は伝説のDM企業戦士の一人、百瀬光太郎(ももせこうたろう)の存在を思い出した。
鬼塚は百瀬のあだ名である『桃太郎』という単語を聞いて「あいつと一緒にするな」と不機嫌そうに呟いたが誰もそれを聞いていなかった。
「次のターンで終わりだぜ」
「次のターンでキミは攻撃できない」
鬼塚に挑発を聞いて一秒と経たずにクララが答え、マナのカードをタップする。そして、《青銅の鎧》に一枚の青いカードを重ねた。
「進化!《クリスタル・パラディン》!!」
「何っ!?」
場を見守っていたプレイヤーから歓声が沸き起こり、鬼塚は舌打ちをして自分のクリーチャーを全て手札に戻す。香奈だけが状況についていけず「え?え?一体、何がどうなってんの?」と言っている。
「《クリスタル・パラディン》はバトルゾーンに出た時、全てのブロッカーを手札に戻すクリーチャーですわ」
「鬼塚って人のクリーチャーは全部ブロッカーだから、全滅しちゃったんだね!」
綾華と心亜が《クリスタル・パラディン》に効果を説明しながら場を見る。召喚されたばかりの《クリスタル・パラディン》に手を添えて、クララは攻撃を命じる。
「《クリスタル・パラディン》でシールドいっただきぃ!」
ブレイクされたシールドはシールド・トリガーではなかった。鬼塚は舌打ちしてそのカードを手札に加えた。
その後も、ブロッカーと進化クリーチャーによる一進一退の攻防は続いた。
クララのクリーチャーは《メガ・イノセントソード》をクロスし、何重にもカードが重ねられた《大勇者「ふたつ牙」》が一体だけだ。シールドは一枚残っている。
鬼塚のシールドは一枚も残っていない。しかし、彼のバトルゾーンには《知識の精霊ロードリエス》がいる。自分のブロッカーが場に出る度に一枚引ける強力クリーチャーだ。ブロッカーとの相性がいいこのクリーチャーが残っているので、クララは油断をしていなかった。
「《ヘブンズ・ゲート》だ!」
鬼塚は《ヘブンズ・ゲート》を使って《シリウス》二体を出した。そして、《ロードリエス》の効果で二枚ドローする。
「これで終わったね。じゃ、ボクは――」
「まだだ!」
鬼塚のマナゾーンのカードは全てタップされている。しかし、彼は手札から一枚のクリーチャーを出した。
「え?今の反則!反則だよ!」
驚いた心亜を見ながら綾華は口に人差し指を当てる。その意味を悟った心亜は口を閉じた。
「G・ゼロを持つ《巡礼者ウェビウス》ですわ。エンジェル・コマンドがいればコストを払わず場に出せるブロッカーです」
「《ウェビウス》出して《ロードリエス》の効果でドロー!さらに《ウェビウス》!ドロー!《ウェビウス》!ドロー!」
このターンで《シリウス》二体に加えて四体の《ウェビウス》が並んだ。それを見てクララも悩むような顔をしている。
「七体も並ぶなんてすごいな。でも、そうじゃなくっちゃ!弱い悪役よりも強い悪役の方がみんな燃えるもんね!」
クララはそう言って指を鳴らすとマナのカードをタップしていく。そして《ふたつ牙》に緑色のカードを重ねた。
「でも、男なら一対一で勝負だ!《大宇宙シンラ》に進化!」
「何だとぉぉっ!?」
クララが出したカードでまた逆転劇が起こる。《大宇宙シンラ》は場に出た時にそれぞれのプレイヤーが一体だけ選び、選んだクリーチャー以外の全てのクリーチャーをマナゾーンに送るカードである。鬼塚は少し悩む素振りを見せた後、《シリウス》以外の全てのクリーチャーをマナに置いた。
「よし!《シンラ》でとどめ!」
「《シリウス》でブロック!」
超巨大ブロッカーの《シリウス》も《シンラ》には勝てない。攻撃をブロックして墓地に置かれた。
「ボクは次のターンで勝つよ」
さらにクララは挑発するように言う。それを聞いて鬼塚は舌打ちした。
「なめんな、馬鹿が!勝つのは俺だ!」
鬼塚は《ロードリエス》を召喚する。さらに、二体目の《ロードリエス》を出した。
「来たぜ。これでお前は終わりだ。次のターンで俺が勝つ!」
鬼塚は《ロードリエス》に一枚のカードを重ねる。それは子供との対戦でも使った《アルカディアス》だった。
「《アルカディアス》で最後のシールドをブレイク!」
クララは最後のシールドを確認し、溜息を吐く。
「シールド・トリガーだったけれど、《アルカディアス》のせいで使えなくなっちゃったよ。残念残念。キミは強かったんだね」
鬼塚は満足したように口の端を歪めて笑った。だが、クララの動きを見てその顔からすぐに表情が消える。
「でも、ボクの勝ち!《シンラ》を進化!」
《シンラ》に一枚の青いカードが重ねられる。その進化クリーチャーを見て、観客達は部屋中に響く最大の歓声をあげた。
「綾華ちゃん、あの進化クリーチャーは!」
「《クリスタル・ランサー》。ブロックされないW・ブレイカーですわ!」
その場にいる全ての者が理解していた。この勝負はクララの勝ちだと。
「おばあちゃんが言っていた。芸術を理解できない奴と悪い奴が栄えた試しはないってね!《クリスタル・ランサー》でとどめ!!」
鬼塚は悔しそうな顔で右の拳を机にぶつけると、デッキを片づけ、顔を真っ赤にして去っていく。その後ろ姿に心亜は「べ~」と舌を出していた。
「なんか白けちゃったかな?でも、みんなこれからも楽しんでくれるかな!?」
クララの声に、そこにいるメンバーが答える。その返事は「YES」だ。
「よし、OK。これからもここで対戦を楽しんでいってね!それじゃ!」
「待って!」
去ろうとするクララに心亜が声をかける。綾華と香奈に見守られながら、心亜は口を開いた。
「あたし達と一緒に戦ってくれないかな?DM企業戦士として」

次回に続く

第五話予告
百瀬「まさか私と戦ったあの男が出てくるとは思わなかった。まだ三流悪役のような事をしていたのか」
時任「え?今回出てきた奴って桃太郎と戦った事あるの?」
百瀬「ええい!私を桃太郎と呼ぶな!」
時任「いいじゃんかよ。心亜ちゃんも桃太郎って言ってたんだし。それじゃ次回予告だ!」
百瀬「クララ嬢を自分達のチームに招き入れようとする心亜嬢。それを聞いたクララ嬢は彼女達にある条件を突き付ける。その条件とは……」
時任「次回『第五話 王子様への挑戦!』だ!次回も熱いデッキで燃え上がるぞ!」
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