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デュエル・マスターズ・マッスル MUSCLE.1

デュエル・マスターズ・マッスル

人が筋肉を求める時、それは魂の安らぎを求める時だ。
―マッスルシティ出身の哲学者ニクソンの言葉―

筋肉遣い。
それは、鍛えられた筋肉と強靭な精神を持つ男達を指す。
これは、筋肉遣いの激闘の物語だ。

MUSCLE.1 弾ける筋肉! 嵐を呼ぶ筋肉遣い、筋之助登場!!

ある土曜日の昼下がり。
取材のためにモードシティに来ていた夏野日奈子(なつのひなこ)は、待ち合わせ場所として決めていた喫茶店で先輩の秋宮月子(あきみやつきこ)を待っていた。
日奈子と月子は二人とも玩具雑誌の記者である。玩具雑誌と言っても、読者のほとんどは大人だ。子供向けの玩具のページもあるが、多くの記事は大人のためのホビーについて書かれている。
新人の日奈子は、月子の元でアシスタントをしていて、今回、初めて取材に同行する事になった。明日開かれるデュエル・マスターズの大会のために既に現地入りしているのだ。月子とはここで待ち合わせをした後、ホテルに向かう事になっている。
「月子先輩、遅いな……」
初めての場所で緊張した日奈子は、テーブルから腰を浮かして周囲を見回す。すると、外で何か爆発するような音がして、日奈子の視界に留まっていた車が突然、燃え出した。あまりの出来事に対処できず、日奈子はしばらく我を忘れていた。
「嘘……。何があったの!?」
驚いて日奈子が見ていると、車から少し離れた場所に月子がいるのを見つけた。日奈子は月子の無事を確認するために急いで喫茶店を出た。出てしばらくしてから領収書をもらい忘れた事を悔やんだが、その事を頭から追い出して野次馬の中にいた月子のそばまで駆け寄った。
「月子先輩!大丈夫ですか!」
日奈子の声を聞いて、月子は振り返る。彼女は日奈子より一つ年上の二十歳だ。外見からも仕事ができる女性らしさを漂わせている。
「あら、日奈子ちゃん。こういう事件が起こった時は急いで来なくちゃ駄目よ」
そう言って月子は燃え盛る車を指した。日奈子が見た限り、怪我はしていないようだった。
「いやいや!あたし達、雑誌記者ですから!こういうスクープ追いかけるのは新聞記者の仕事じゃないですか!」
「冗談よ。でも、私達にも無関係とは言えないかもしれないわ」
そう言って月子は日奈子に背を向ける。日奈子が彼女の視線の先を追うと、そこには二人の男がいた。
一人は帽子をかぶった太めの男だ。背が低く、丸い体つきで茶色いスーツを着ているため、たぬきのように見える。たぬき風の男は右手にピストルのような物を持っている。
「君ぃ、ふざけた事を言っていると、あの車のように目茶苦茶にしてしまいますよ。嫌だったら、大人しく私に従いなさい」
そう言ってたぬき風の男はピストルのような物の先を目の前にいる男に突き付ける。
たぬき風の男の前に立っていたのは、壁のように大きい男だった。ただ背が高いのではない。全身が筋肉の鎧で覆われているような筋肉質な男だった。赤いシャツを着ていた筋肉質の男は低い声で言う。
「そんな玩具で俺の筋肉を目茶苦茶にできるのか?」
筋肉質の男の挑発にたぬき男の眉が動く。
「月子先輩、まずいですよ!それにあのたぬき男、銃刀法違反ですって!」
「よく見なさい、日奈子ちゃん。あのたぬき男が持っているのはピストルではないわ。だから、銃刀法違反じゃない」
月子に言われて日奈子は驚きながらたぬき男の手元を見る。ピストルというにはカラフルな色をしている。鉄の色をした金属の部分とスポーツカーのボディのように青く輝いている部分があった。おかしな事にロボットのような頭部までついている。
「君もこのテッポーマンの威力を見たでしょう?月刊ゲラゲラコミックで連載中の漫画に出てくる玩具ですよ!ま、私はあの漫画みたいにビルを壊す事なんかできませんが、これで君の体を壊す事くらいできるんですよ、ぐっひっひ」
「テッポーマン?」
たぬき男の言葉を聞いて、日奈子はそれが何であるか思い出した。小学生の子供向けの玩具、テッポーマンだ。一つ、千円程度の玩具で射的のゲームで遊ぶ事ができる。別売りの改造パーツを使えばパワーや連射性能を強化する事も可能だ。
「月子先輩!あのたぬき男、まさかテッポーマンで車を……!」
「気付くのが遅いわよ、日奈子ちゃん。あの男はテッポーマンで道に止まっていた車を撃った。赤いシャツの男に威嚇するためにね」
「えーっ!だって、玩具でしょ!?子供向けの玩具で弾を撃ったからって、車が爆発する訳ないじゃないですか!」
日奈子は月子が言っている事が信じられなかった。車を爆発炎上させるほどの玩具などありえない。拳銃でもそんな事ができるはずがない。
玩具には安全性を持たせるための基準が設けられている。車を破壊できるほどの威力だったら、基準に違反しているはずだ。
しかし、月子は首を横に振った。その仕草は「何も判っていないわね」と言っているようだった。
「ゲラゲラコミックで連載中の漫画、『爆裂ショット!テッポーマン!!』の主人公、一撃撃男(いちげきうつお)は、第一部の全国大会決勝で会場のドーム球場を粉々に破壊するほどの必殺ショットを見せたわ」
「漫画と現実をごっちゃにしないで下さい!」
「ドーム球場を破壊できるほどの威力があると思って買った多くの子供達はがっかりしているわ。漫画だったらドームをぶっ壊せたのに、頑張っても車を壊せる程度かよ!ってね」
「車を壊せるなんて充分恐ろしいじゃないですか!」
「あのたぬき男、車を壊せるという事はパワータイプの改造をしているみたいね。パワーを重視したせいで、連射性能と命中精度は落ちているはずだわ。大会で上位を独占する改造は連射と命中精度を重視したタイプなのに……。あの男は改造が判っていない馬鹿なのか、パワータイプに特別な思い入れがあるコアなファンのどちらなのかしら」
「無視しないで下さい!」
月子が冷静に分析しているのを見て、どうしようもない事を悟った日奈子は視線を二人の男に向けた。
「くどいな。お前らのような悪の組織に力を貸すつもりはない。もし、お前が悪の組織の一員でなかったとしても、そんなたるんだ腹の奴に力を貸せるか!」
筋肉質の男の一言が決め手になったのか、たぬき男の顔が怒りで歪む。そして、彼のテッポーマンの引き金が引かれた。
その瞬間、反射的に日奈子は目を閉じてしまったので何が起こったのか見る事はできなかった。ただ、周りに集まっていた野次馬から歓声が沸き起こった事だけは理解できた。
「え?歓声?何で……?」
恐る恐る目を開けてみる。
筋肉質の男は無事だった。車が爆発し、炎上するほどの衝撃を喰らって無事でいられる人間などいるはずがない。たぬき男にとっても予想外だったせいか、目を大きく見開き、目の前にいる筋肉質の男を見ている。
「まだ弾は残っているんだろう?俺を倒せると思うなら撃ってみろ、メタボリック」
「馬鹿にするな!これでも、若い頃はスマートでハンサムだったのだ!」
たぬき男は残っていた二発の弾を発射した。しかし、その二発が命中しても筋肉質の男には傷一つついていない。
「ば、馬鹿な……!化け物か!?」
「化け物じゃない。俺は筋肉遣いだ!」
筋肉遣い。その一言に周囲がざわつく。
「き、筋肉遣いだと!?こんなところにいるとは……覚えていろ!」
小物らしい捨て台詞を残してたぬき男は去っていった。それと入れ替わるように、月子が野次馬の中から抜け出し、筋肉質の男に近づく。
「見事でしたわね、真鶴(まつる)さん」
真鶴と呼ばれた筋肉男は振り返って月子と日奈子を見る。正面から見たその顔は、精悍な顔つきだった。
「あんなたるんだ腹の奴に傷をつけられたら、筋肉遣いの名が廃るからな。ところで、君達は?」
「私達は取材を申し込んでいた月刊トイ・プラスの編集者です」
月子は真鶴に名刺を渡す。日奈子はそれを見て慌てて自分の名刺を出した。真鶴は二人の名刺を受取ると、財布にそれをしまった。
「悪いな。俺は名刺を持っていないんだ。俺の名は真鶴筋之助(きんのすけ)。二人ともよろしくな!」
右手の親指を立てて、それで自分を指すと真鶴筋之助は二人に歯を見せて微笑むのだった。

日奈子は月子、筋之助と共にさっきまでいた近くのファミレスに入り、インタビューを始めた。
「筋之助さんは今まで無名の選手だったと聞いています。初めて地方予選に参加し、他のデュエリストを圧倒的な実力差で退けてきたと聞いていますが」
「ああ、あいつらの筋肉は貧弱だったからな。プロテインを飲んで筋トレをすればもっと強くなるんじゃないのか?」
「え?筋肉ですか?」
「ああ、そうだ。どこかおかしいかい?お嬢さん」
日奈子がデュエル・マスターズと全く関係ない単語に驚いていると、筋之助は爽やかな顔で答える。今まで色々な癖のあるデュエリストにインタビューをしてきた彼女だったが、ここまで個性的な男は初めてだった。
「それよりも大事な話があるんだ。俺が雑誌のインタビューに応じたのも情報交換のためなんだ」
インタビューが終わった後、筋之助は真剣な顔で話を切り出す。日奈子は彼氏にするんだったらもっと細身の男がいいから付き合ってくれとかそういう相談はやめてくれ、と思っていた。
「ひ弱な男をマッスルに改造する力を持った謎のプロテイン『オリハルコン』の事ですね?」
声をひそめて月子が言う。筋之助も静かに頷いた。
「何なんですか、それ!デュエル・マスターズと全然関係ないじゃないですか!」
「日奈子ちゃん、声が大きいわよ!」
「悪いが、静かにできないなら帰ってくれないか」
二人に怒られ、日奈子は口を閉じる。しかし、二人が言う事に理不尽なものを感じ、それに対する反抗として口を尖らせていた。
「ああ、どこからともなく出現したと言われる謎のプロテイン『オリハルコン』。それを使えば、簡単に筋肉遣いを作り出す事ができる。俺は『オリハルコン』を封印して厳重に管理するためにマッスルシティから出てきたんだ」
「簡単に筋肉遣いが……」
筋之助のような筋肉たっぷりの人間が大量に現れる光景を想像して、日奈子は吐き気を催した。それを見た筋之助は
「そうか。君もそれは恐ろしいと思うか」
と、話しかけた。
「そりゃそうですよ。街中に筋肉が溢れるなんて……」
「その通りだ。そんな偽物の筋肉が街中に溢れる事なんてあってはならない。筋肉は自分の努力で鍛えられなければならないからだ!さあ、見てくれ!俺の溢れる筋肉を!神々が羨む肉体美を!さあ!さあ!!」
自分で静かにしろと言っておきながら、筋之助は一人だけ熱くなり大声を出してポーズをつけている。筋肉を強調した彼を見ないように日奈子は目を外に向けた。
暑苦しい筋肉とは違い、外の景色は平和だ。平和で平凡が一番なのだ。日奈子は自分にそう言い聞かせ、視界の隅に映る筋之助の筋肉をシャットダウンしようと試みた。
「真鶴さんが『オリハルコン』を追う理由は理解できました。それとデュエル・マスターズの大会とどういう関係が……まさか!」
筋之助に聞く途中で月子が目を見開く。彼女は驚いた顔で筋之助を見つめると質問した。
「この大会の賞品が『オリハルコン』だという事ですか?」
「ああ、俺はそういう噂を聞いた。もし、君達が今大会の賞品について何か知っていたら教えてもらおうと思ったんだが……」
月子は申し訳なさそうな顔で首を振る。それを見た筋之助は残念そうにうなだれた。
「しかし、無関係とは思えません。一週間前に行われたモードシティの予選では、今まで貧弱なボウヤだったデュエリスト達が突然、筋肉質になっていましたもの」
日奈子は月子の言葉を聞いてその時の様子を思い出した。大会参加者のほとんどが筋肉質な男だったからだ。筋之助ほどマッチョではなかったが、カードゲームというインドアな趣味を考えると奇妙に思えた。
「『オリハルコン』が少しずつばら撒かれているのか!こうしてはいられない!」
筋之助は勢いよく立ち上がる。それとほぼ同時に、外を見ていた日奈子が「あっ!」と叫ぶ。
「日奈子ちゃん、どうしたの?」
「月子さん、見て下さい!さっきのたぬき親父が!」
日奈子に言われて月子と筋之助は窓の外を見る。たぬき男は両手にテッポーマンを持っていた。そして、彼の後ろには褐色の筋肉に覆われた男が立っている。
「あのメタボリック。また来たのか。しつこい奴だ!」
筋之助は彼らを見つけて席を立つ。
「日奈子ちゃん!支払い、ヨロシク!」
月子も伝票を日奈子に押しつけて彼を追った。
「ちょっと!月子さん、待って下さいよ~!」
まだ半分近く残っている自分のパフェを見た日奈子は恨めしそうな目でレジに向かうのだった。

日奈子が急いで外に出ると、筋之助とたぬき男が睨み合っていた。たぬき男がテッポーマンを乱射したのか、道路も近くの建物の外壁もボロボロになっていた。
緊迫した空気が辺りを包んでいて、声をかけることすらためらわれる。
「何度も言ったはずだ。俺はお前達に力を貸さないと!」
「ぐっひっひ、偉そうに言っていられるのも今の内ですよ。目には目を歯には歯を。筋肉遣いには筋肉遣いを」
たぬき男がそう言うと、今まで彼の後ろに立っていた褐色の肌の男が前に出てきた。その男を見て筋之助の眉がピクリと動く。
「この男、筋肉遣いか……!」
「えっ!筋肉遣い!?」
日奈子はそれを聞いて二歩下がる。筋之助のような筋肉馬鹿が他にいる事に恐怖したのだ。
「俺は、ガングエイジの筋肉遣い、カーマ・セナだ」
「が、ガングエイジですって!?」
「知っているのか、記者さん!」
驚く月子に筋之助が問う。
「ガングエイジ。それは玩具を使って世界征服を企む悪の組織よ。玩具を軍事利用するために改良を加え、玩具の大会で優秀な成績を収めた子達を誘拐して強力なエージェントにするため育成し、傭兵として売り飛ばす悪党だわ!」
「玩具で世界征服ができるか!」
日奈子の渾身のツッコミもそこにいる者達には通じなかった。彼らはその言葉が聞こえなかったかのようにふるまっている。
「お前が筋肉遣いだなんて、俺は認めない。筋肉遣いはその筋肉を正義のために使うものだ!悪に染まった筋肉を、俺は許さない!」
「ふん、強い者が正しいのだ。正義などという薄っぺらい言葉は筋肉遣いには不要!」
カーマは筋之助に対してそう言うと、両腕を上げ自らの筋肉を見せつけるようなポーズを取った。すると、彼の肉体が紫色に輝き始める。
「げっ!なんなの、このマッチョ!」
「邪悪なマッスルオーラだ。記者さんは下がってな!」
カーマのオーラを見て一人納得した筋之助は、日奈子と月子を自分の後ろに下がらせた。そして、自分も同じように筋肉をアピールするようなポーズを取る。
「カーマ・セナ。確かにお前の言う通りだ。俺達筋肉遣いに言葉はいらない。相手を認めさせたかったら筋肉で伝えるしかない!」
筋之助の筋肉が赤く輝き始める。すると、筋之助とカーマの間にテーブルが現れた。そのテーブルの上にはデュエル・マスターズカードのデッキが二つ乗っている。
「え?筋肉で伝えるとか訳の判らない事言ってたのに、デュエル・マスターズカードで何かするの?」
日奈子は筋之助の影からテーブルの上を覗く。同じように筋之助の影からテーブルの上を見た月子はそれを見て納得したように頷く。
「これはただのデッキとテーブルじゃないわ。二人の筋肉遣いとしての力によって生み出されたオーラの塊のようなものよ!こんな事ができるなんて……。真鶴筋之助、やはりただの筋肉遣いではないようね!」
「月子さんは何でそんな事まで判るんですか!」
「戦いが始まるわよ!黙って見なさい!」
月子に叱られ納得できないものを感じながら日奈子はテーブルの上を見る。筋之助は見た目の筋肉からは想像もできないほど繊細な手つきでカードを場に出した。
「《フェアリー・ライフ》!マナを増やすぞ!」
筋之助が場にカードを出すと、そこからボディビルダーのように筋肉質の妖精が飛び出した。カードから出た妖精と共にポーズを決めた筋之助は、山札の上からカードを取りマナゾーンに置く。
「俺は《フェアリー・ライフ》と美しき筋肉の力により、マナを増やす!」
「さすがだな、真鶴筋之助。その筋肉は伊達じゃないようだ」
カーマもそれを見てにやりと笑う。日奈子は「筋肉関係ないじゃん!」と言いたかったが、自分の常識と周りの常識の違いに戸惑い、それをやめた。
「ならば、俺も行くぞ!《ミル・アーマ》召喚!」
カーマが出したカードからはロボットのようなクリーチャーが立体映像として飛び出してくる。このクリーチャーも持ち主と同じようにポーズを取った。
「そうなの……。こいつら、持ち主と同じで脳みそまで筋肉なのね……」
「まだまだ!《西南の超人》召喚!」
日奈子の呟きは対戦に集中している二人にも月子にも届かなかった。諦めたような表情で彼女は対戦を見ていた。

「《ドルゲーザ》でW・ブレイク!」
筋之助の《ドルゲーザ》がカーマのシールド二枚を殴り倒す。彼が《ドルゲーザ》を召喚した時、日奈子は「ああ、筋肉だからジャイアントか」と納得した。
「随分と派手にやってくれるな」
「ぐっひっひ、全くですな」
今の攻撃でシールドが残り一枚になってしまったにも関わらず、カーマとたぬき男は不気味な顔で笑っている。
「何よ、強がり言っちゃって!」
「いや、違うな」
ターンを終えた筋之助はカーマのバトルゾーンを見ていた。そこには《ミル・アーマ》とブロッカーのパワーを増やす《ムルムル》が並んでいる。この二体はブロッカーだが、カーマは筋之助の攻撃をブロックしなかった。シールドよりもブロッカーを残す事を優先したのだ。
「《ミル・アーマ》を残したという事は、呪文を使って何かやらかすかもしれないという事ね」
「ああ、そこにいる女の言う通りだ。筋肉遣いよ、これを喰らえ!」
カーマが場に一枚のカードを出すと、突然、筋之助のマナゾーンのカードが二枚吹き飛んだ。
「えっ!何で二枚もマナが飛んでいくの!?」
「日奈子ちゃん。これがカーマ・セナの作戦よ。彼は《ハイドロ・ハリケーン》を使ったのよ!」
《ハイドロ・ハリケーン》は自分の光のクリーチャーの数だけ相手のマナゾーンのカードを手札に戻す呪文だ。相手の動きを止める事ができる。
「そっか。マナが減れば動きが鈍る。でも、先輩!筋之助さんの方が勝ってると思いませんか!?」
筋之助のシールドは無傷の五枚だ。そして、バトルゾーンには《西南の超人》と切り札の《ドルゲーザ》がいる。《ムルムル》がブロッカーのパワーを上げたとしても《ドルゲーザ》のパワーを超えてはいない。殴り続ければ筋之助が勝てる。
「この時点ではね。でも、《ハイドロ・ハリケーン》は一枚じゃない。カーマだって何か考えているはず……」
月子と日奈子はバトルゾーンを見る。カーマは残ったマナで《エナジー・ライト》を使ってドローした。
「マナがなくなったから終わり……そんな事考えてはいないよな?」
彼は突然、四枚のカードを場に並べた。それらのカードは同時に立体映像となってその場に現れる。
「呪文を使ったターンにタダで召喚できる《ブラッディ・シャドウ》だ!」
「そんな!ブロッカーが四体も!?」
カーマが召喚した《ブラッディ・シャドウ》は一度のブロックで破壊されてしまうが、便利なブロッカーだ。さらに、このクリーチャーが光と闇のクリーチャーである事が問題なのだ。
「光と闇の多色クリーチャーが四体も並ぶとはね……。《ハイドロ・ハリケーン》は闇のクリーチャーの数だけバトルゾーンのクリーチャーを戻す事ができるわ。クリーチャーもマナも削り、最後にはあれでケリをつけるつもりね」
月子が目で示したのはカーマのマナゾーンだ。そこには多色クリーチャーから進化し、相手の単色呪文を使用不可能にする《クイーン・アルカディアス》と攻撃できないクリーチャーを攻撃可能にする《ダイヤモンド・エイヴン》が置かれていた。
「攻撃せずに相手の動きを止め、安全になってから初めて動く。シールドブレイクによるリスクを最小限に抑える石橋を叩いて渡るようなデッキね」
「そんな!こんなチマチマしたデッキ、何だかずるいですよ!卑怯じゃないですか!」
「黙ってな、お嬢ちゃん!勝った筋肉が偉い筋肉なんだよ!」
カーマの言葉を聞いて、日奈子は彼を睨む。立派な筋肉の割に小じんまりとした彼の作戦と人格に怒りを感じていたのだ。
「そうだぞ、記者さん。勝った筋肉が偉い筋肉なんだ。黙っていてくれないか」
筋之助は低い声で日奈子を諭すとカードを場に出す。すると、そのカードから二体のクリーチャーが立体映像として飛び出して来た。
「《超次元フェアリー・ホール》を使った!効果で《キル》と《アンタッチャブル》をバトルゾーンに出す!そして、《ドルゲーザ》で攻撃!」
「させるか!《ブラッディ・シャドウ》でブロック!」
《ドルゲーザ》の拳の前に《ブラッディ・シャドウ》が立ちふさがる。小柄な《ブラッディ・シャドウ》では《ドルゲーザ》の拳の重みに耐え切れず、すぐにバラバラになる。
「これでシールドは守った!クリーチャー三体とマナ五枚はいただきだ!《ハイドロ・ハリケーン》!!」
カーマは二枚目の《ハイドロ・ハリケーン》を使う。テーブルの上が濁流に飲み込まれた。
「はっはっは!飲みこめ!マナゾーンもクリーチャーも蹴散らしてやる!」
「うるさい奴だ」
筋之助の言葉を聞いて、カーマの眉が動く。
「何だ?負け犬の遠吠えか?」
「違うな。弱い奴ほどよく吠えると思っただけだ。見ろ」
その場にいる者達は、筋之助のバトルゾーンを見た。そこには《アンタッチャブル》と《キル》が残っていたのだ。
「馬鹿な!?選ばれない《アンタッチャブル》はともかく、何で《キル》までバトルゾーンに残ってるんだ!」
「《キル》は己の鍛えられた筋肉でバトルゾーンにしがみつく能力を持っている。お前が《ハイドロ・ハリケーン》で《キル》を動かす事は不可能だ!」
「筋肉は関係ないでしょ!」
日奈子のツッコミも聞かずに筋之助は「はっはっは!筋肉万歳!」と言ってポーズを取っていた。
「舐めやがって!もう勝った気でいるのか!?俺にはまだこれだけのブロッカーがいる!パワー1000のクリーチャー二体で俺に勝つなんて不可能だ!」
「俺の筋肉に不可能はない!行くぞ」
筋之助が自分の山札に触れる。すると、そのカードが光り始めた。
「切り札が来るわね」
「って、漫画じゃないんですから!というか、パクリじゃないの、これ!?」
「筋肉遣いが勝負を決める一枚を引く時、カードが光り始める。まさか、本当だったとは……。カーマ君、気をつけたまえ!」
「って、たぬき親父も知ってるのかよ!」
「見てな!記者のお嬢さん!カードをドロー!ああ、予想通りのいいカードだ。そして、これをマナにチャージ!」
「勝負を決める一枚じゃないのかよ!今までのエフェクトは何だったのよ!」
これはさすがの日奈子も予想外だった。普通だったら、こういうシチュエーションで引いたカードは場に出して勝負を決めるのに使うものだ。それをマナに置くなんて考えられない。
「勝負を決める一枚よ。筋之助さんのマナゾーンに光のカードが入った。これで光のカードを使えるようになるわ」
月子は冷静に場を見ていた。光のカードは今まで筋之助のマナゾーンにはなかったのだ。
「これで俺のマナは五枚になった。このカードでケリをつける!」
筋之助が一枚のカードを出すと、その場を金色の光が覆い尽くした。その場にいる者はあまりの眩しさに目を開ける事ができずにいた。
「な、何が起きたのよ。眩しいじゃない!」
日奈子は回復して目を開ける。すると、カーマのクリーチャーが全て倒れているのが見えた。
「馬鹿な!俺のクリーチャーが!」
今まで冷静だったカーマは顔を青くして自分のバトルゾーンを見る。これで彼を守るのは一枚のシールドだけになってしまった。
「《スーパー・スパーク》を使った。クリーチャーが何体いようと全てタップする事ができる!」
対戦を始める前と同じように筋之助の体を赤いオーラが覆う。それと同時に彼のバトルゾーンにいる《キル》も同じオーラに包まれた。
「《キル》!シールドに突撃だ!」
《キル》は筋之助の命令を受けて無防備なシールドに拳を叩きこむ。そのカードをひったくるようにして取ったカーマは一瞬、顔をほころばせる。
「シールド・トリガーだ!《デーモン・ハンド》で《アンタッチャブル》を……。しまった!」
カーマは言っている内にそれが不可能である事を悟った。《アンタッチャブル》の能力は彼も知っているからだ。
「ああ、お前もさっき言ったな。《アンタッチャブル》は選ばれないクリーチャーだ。《デーモン・ハンド》で倒す事はできない」
《アンタッチャブル》が静かな足取りでカーマに近づく。それを見ながらカーマは怯えていた。
「お前も筋肉遣いなら判るはずだ。筋肉遣いの掟。筋肉遣い同士のデュエマで敗れた者は、筋肉を失い貧弱なボウヤになる!」
「い、嫌だ!せっかく『オリハルコン』で筋肉遣いになったのに、また貧弱な肉体に戻るのは嫌だー!!」
《アンタッチャブル》がカーマの腹を殴りつける。すると、カーマは後方に吹っ飛んで爆発した。
「げ!デュエマで何で爆発するの!?」
「ただのデュエル・マスターズではなく、デュエマだから仕方がない」
「そうね。筋肉遣い同士の戦い。デュエル・マスターズ・マッスル、通称デュエマだから仕方ないわね」
カーマを心配した顔で見ていた日奈子は筋之助と月子の言葉を聞いて唖然とする。彼女が知っているデュエマとは意味が違うからだ。
「え?デュエマってデュエル・マスターズの略でしょ?」
「それは俗説だ。デュエマのデュエはデュエル・マスターズを現し、マはマッスルを現す」
「日奈子ちゃんも一流の記者になりたいならこれくらい勉強しておかなくちゃ駄目よ」
「そんなの知るかー!」
日奈子は絶叫した後、爆発したカーマを見る。煙が晴れた時、そこには褐色の肌をした男がいた。しかし、日奈子の知っているカーマではなく、針金のようにやせ細った男だった。
「何でこうなっちゃうの!?」
「筋肉遣いの掟だ。負けた者は筋肉を失う。厳しいが、それが筋肉遣いの戦いだ」
「くっ!せっかく『オリハルコン』を与えたのに使えない!」
たぬき男はかぶりをふると、筋之助達に背を向けて走り出す。
「お前が『オリハルコン』を持っているのか!待て!」
「待てと言われて待つ奴はいないんですよ!明日の大会でケリをつけてあげましょう!」
たぬき男はその体型から想像できないほどのスピードで逃げて行った。見ると、足元にロケットのようなものがついたローラースケートを履いている。
「玩具で世界征服を企むだけの事はあるわね。いい使い方だわ」
「やれやれ。逃げられたか」
筋之助はカーマに手を伸ばして立たせる。ふらつきながらもカーマは立ち上がった。
「お前には聞きたい事がある。『オリハルコン』の事や、奴らガングエイジの事も教えてもらうぞ。たぬき親父め。何を考えているか判らんが、俺の筋肉でたるんだ腹のようなお前の野望を蹴散らしてやる!」
筋之助の闘志は熱く燃えていた。
彼は『オリハルコン』を手にしてガングエイジの野望を阻止できるのだろうか。
次回につづく

次回予告
こんにちは、日奈子です。
デュエル・マスターズの大会の取材に来たはずなのに、ムキムキの筋肉馬鹿が出てくるなんて嫌になっちゃう!でも、見た目があたし好みのデュエリスト吉池面太郎(よしいけめんたろう)君に出会えたから、よしとするか!
え?この人、筋之助さんの知り合い?イケメンなのに、筋肉馬鹿と知り合いなの!?
次回、『MUSCLE.FINAL さらば筋之助!筋肉よ、永遠に!!』
え、ちょっと、次回で最終回って何で!?
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