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『コードD』File.extra 初詣インポッシブル

『コードD』




 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。

  File.extra 初詣インポッシブル

 澄んだ空気を全身で感じている。冬の冷たい空気なのに、何故か心地いい。
 昨日までと同じ空気のはずなのにどこか違うように感じるのは、今日から年が変わったからなのかもしれない。そんな事を思いながら、征市は仲間達と一緒に初詣に出かけていた。石でできた長い道の奥に神社がある。今も多くの人が参拝していた。
「うわ~、結構並んでますね。あ、巨乳の巫女さんいないかな?」
 新年になっても言う事が変わらない陸が周囲を見回している。確かに、彼が言うように征市達の周りには多くの人が並んでいた。人は減る様子を見せない。
「陸君、元日から変な事を言わないで下さい。それに、人が大勢いるんですから」
 出来の悪い子供を優しく叱るように注意するのは、菜央だった。正月らしく、着物を着てめかしこんでいる。
「変な事じゃないです!僕にとっては大事な……ひっ!」
 陸は菜央の背後にある黒いオーラを見て口をつぐむ。菜央は右手の人差指でトライアンフの事務所がある方向を指していた。あの場所からおしおき部屋の黒い手が飛んでくるとは思えない。しかし、飛んでくるのではないかと思わせるほどのプレッシャーが、そこにはあった。
「大事な……なんですか?」
「そ、そんなに大事じゃないです!うん、そうだよね!変な事言っちゃ駄目だよね!」
 うんうん、とわざとらしく頷きながら陸は歩く。緊張のせいか、右手と右足が一緒に動いている。
「陸さん、新年からそんな事言って……」
「そうだよ!新年くらいちゃんとしてよ!」
 陸の姿を見て湊と彩弓が呆れている。湊は女物のような可愛らしいジーンズを穿いていた。彩弓も菜央と同じように着物を着てめかしこんでいた。征市はそれを見て「七五三みたいだ」と感じていた。
 彩弓の妹、彩矢はトライアンフアメリカに頼まれた仕事のため、アメリカに戻っている。「アタシの着物姿で征市さんを誘惑しようと思ったのに、残念!」と悔しがっていた。
 一真は、アメリカから観光に来たマシューと共に事務所にいた。日本の正月を楽しむと言っていたマシューの相手をしているのだ。
「まったく……。お前は年変わってもいつも通りだよな」
 呆れた顔で呟いた征市は、神社までの道を見る。
 今の時期、駅からここまでは屋台が並んでいた。ここから神社までの真っ直ぐな道の横には観光客への土産物屋が並んでいる。だるまや小さな置物の他に、地元のまんじゅうなど和菓子を売っているところもある。
 征市が気に入っているのは飴切りである。これは店先のガラス板で仕切られたカウンターの中で、出来たばかりの長く柔らかい飴を切って小さく食べやすいサイズにするものだ。包丁でテンポよく飴が切られているのを見るのはとても楽しい。飴は売り物だが、二、三粒ならその場で出来たてのものを試食する事ができる。征市が初詣でここに来る事に決めたのは、数年前、祖父に連れられて来た時に見た飴切りと飴の味を覚えていたからだった。
「あ、セーイチさん。飴なんか見てるんですか。色気より食い気ですね」
「お前は色気以外にないのかよ」
「当たり前ですよ!僕からそれを取ったら何が残るっていうんですか!」
「開き直るなよ」
「ねー、征市君、飴買ってよー!」
 飴を口に入れた彩弓が征市の袖を引っ張る。その隣では、湊と菜央も飴を頬張っていた。
「帰りでいいだろ?まだ並ぶんだから、荷物増やしたくないんだよ」
 そう言うと、征市は列を見た。大勢の参拝者が列を作っている。征市達の番が来るのはまだ先だ。
「いいじゃないですか。ここでパンパン手を叩いてお参りしたって事にして帰りましょうよ」
「陸、適当な事言うなよ」
『そうだ!お参りをバカにすんなー!』
 突然、空中から声が聞こえて征市達は雲ひとつない空を見上げる。他の参拝客も同じように空を見上げた。すると、雲ひとつない青空に、黒いしみのようなものが浮かび上がる。驚く参拝客の前で黒いしみは広がり、そこから巨大な船が出て来た。
「げっ!何で、空から船が出てくるんだよ!?」
「征市君、あの船どこかで見た事がある船だよっ!」
「馬鹿言うな。空飛ぶ船なんか見た事あるかよ!」
 征市は彩弓の言った事に反論するが、彼も空を飛ぶ船の形に見覚えがあった。風を受ける帆に宝と書かれたその船は参拝客の上で一時停止する。
「征市さん、あれって宝船じゃないですか?」
 湊の言う事は当たっていた。あれは、七福神が金銀財宝を乗せている宝船そのものなのだ。
「何で、宝船が空を飛んでいるんだ?俺、夢でも見てるのか?」
『はい。みんなちょーっと大人しくしててよね!発射!』
 空飛ぶ宝船の脇には門松がついていた。その門松の先が参拝客の方を向くと、白い物を発射した。
「危ない!」
 征市達が駆け寄るよりも早く、白い物は参拝客の上に降りかかる。それは、大きく広がり参拝客の上にのしかかった。参拝客は白い物から逃れようとして動くが、白い物が絡まるだけで取る事はできない。
「相羽さん、これ、お餅ですよ」
 菜央が近づいてよく見てみると、その白い物の正体は餅だと判った。それを聞いた征市は険しい目つきで宝船を見る。
「ふざけやがって!餅は、こんにゃくゼリーよりも多くの人間を殺しているんだぞ!そんなものを勢いよく降らせて、喉につまる奴がいたらどうするんだ!」
「征市君、怒るポイントがずれているような気がするよっ!」
『にゃはははっ!!どうかな!?あたしの門松バズーカの威力、思い知ったか!』
 そんな声と共に、いくつもの人影が宝船から飛び降りてくる。降りて来たのは、バンダナにボーダーのシャツといった装いの人型の何かだった。顔が宝石で出来ているものや金や銀で出来ているものばかりがいる。
「何だ、こいつら。魔道書同盟が作った怪人達か!?」
 征市、陸、湊の三人は警戒しながら自分のデッキケースを取り出す。今、神社には大勢の参拝客がいる。結界を張ったとしても、ここで戦ったらパニックによる被害が出てしまいかねない。
「違うよ。よくわかんないけど、あたしはあんた達が言っている奴とは違う」
 バンダナの異形の中から少女の声が聞こえる。それは、宝船の中から聞こえてきた声と同じものだった。
 バンダナの異形が左右に分かれる。中から出て来たのはドクロが目立つ帽子をかぶり、右目には眼帯をして、ギターを手に持った少女だった。
「あたしは世界を旅するハッピーニューイヤー海賊団の船長、ローザ・ベンテン!この世界の正月にしかないっていうお年玉をもらいにやってきたの!」
「海賊……?」
 ローザと名乗る少女が言った言葉を聞き、餅から逃れた参拝客がざわつく。突然、現れた奇妙な者達に恐怖しているようだった。それを横目で見た陸は一歩、前に出た。
「セーイチさん、ここは僕に任せて下さいよ」
「おい、大丈夫なのか?」
 陸はその問いに答えずにローザの前に行く。そして、見下したような目で彼女を見るとこう言い放った。
「戦闘力たったの72か……。ゴミめ……」
「なっ!何言ってんの、こいつ!?」
 ローザは呆れた目で陸を見た。征市達も陸の言った事の意味が判っていない。
「あ、お前はさっきお参りをバカにしてた奴だね!戦闘力72とか言っているけれど、あたしは弱くない!デュエル・マスターズカードを使った戦いならお前みたいなのに負けるもんか!」
 ローザはガンベルトについていたホルスターからデッキを取り出す。だが、陸はデッキではなくローザを見て
「戦闘力たったの72か……。ゴミめ……」
と、言った。
「おい、陸。何言って……まさか!」
 征市は陸の視線の先と言葉の意味を理解した。
「こいつ、何言って……まさか!」
 ローザも同じように陸の視線の先を理解した。陸が冷たい目で見ていたのは彼女の胸だった。
「ひ、ひどい!あたしだってがんばっているんだぞ!」
「そうだ!船長は牛乳を毎日飲んでいるし、世界の正月らしいものを探すだけじゃなくて、その世界のバストアップサプリも探して試しているんだぞ!」
 ローザが涙目になって怒り、彼女の周りにいる船員達も彼女を擁護する。
「クズめ……。カスめ……」
 だが、陸の罵りは留まる事を知らない。無事だった参拝客の中からも「そうだー!バストがたったの72なんてダメだー!」という声や「いや、俺は好きだー!」という声が聞こえる。
「たかが72のバストで船長?ふざけるな!女海賊はボンキュッボンでセクシーじゃないと認めない!出なおしてこい!」
「陸君」
 菜央は静かな声と共に、陸の肩に触れる。陸は面倒くさそうな顔で振り返った。
「なんですか?僕はこいつに貧乳は無価値だって事を教え……ひぃっ!!」
 菜央の顔を見た陸は怯え、足の力が抜けたようにその場に座り込む。全身を震わせながら菜央を見ていた。
「ダメですよ、陸君」
 菜央の声は穏やかだった。その穏やかな声を聞き、陸だけでなく参拝客達も黙った。
「ほら、泣かないで。飴屋さんでもらったできたての飴、あげるから泣き止んで?」
「う、うん。ありがと……」
 陸と参拝客の攻撃を受けて泣いていたローザは彩弓から飴とハンカチを受け取る。飴を口に入れ、ハンカチで涙をぬぐったローザは征市達を見た。
「あー、なんか話が中断したが、お前は何をしたいんだ?」
「お年玉を賭けてあたしと決闘しなさい!この場で一番強いお前を倒す!」
 飴で元気が出たらしく、罵られる前の顔に戻ったローザは征市を指して言う。それを聞いた征市は周りを見た。
「周りの人達が心配?だったら、あたしの船の上でやればいいよ!ついてきな!」
 ローザがそう言うと、上空から宝船が降りてくる。駐車場の空いていたスペースに着地した宝船から梯子が出て来た。ローザはそれを上って宝船に飛び乗る。
「随分勝手だな。俺に拒否する権利はないのか?」
「拒否はできない。お前達の命は俺達の掌の上にある事を忘れるな」
 数人のバンダナ達が門松の先を征市達に向けている。他のバンダナ達は無事だった参拝客に門松の先を向けていた。
「この門松バズーカの威力はお前達も知っているだろう。ここから餅を出してお前達を動けなくしてやる!」
「しょうもない攻撃だな」
 征市は呆れた顔で言った後、菜央に耳打ちする。
「門松バズーカ、カードで防げないか?」
「いえ、恐らく不可能でしょう。デュエル・マスターズカードは持ち主の体を傷つけるものからしか身を守る事ができません。お餅は、銃弾やナイフのような人を傷つけるものならば防げたかもしれませんが、食べ物ですから……」
「それじゃ、ここは大人しく従うしかないか」
 諦めたように言って征市は梯子を上った。ローザは既に五枚のシールドを用意して待っていた。
「気が早いな。急いては事をし損じるぜ?」
「善は急げってね!さあ、行くよ!お年玉はいただきだ!」

「一真、餅をくれないか」
 テレビを見ていたマシューは近くにいた一真に頼む。車椅子に乗った一真は呆れた顔で聞き返した。
「自分で焼いたらどうだ?俺には仕事があるんだ」
 隣には、調理室もある。餅を焼くくらいなら誰でもできる。
「焼きに行きたいんだが、動けないんだ。君も、今の僕を見たらそれが判るだろう?」
 真剣な表情でマシューは一真を見つめる。彼はこたつに入り、みかんを食べていた。
 事務所のデスクをどかして置かれたこたつを一瞥した後、一真は聞く。
「動けないのか?」
「そうだ。こたつに入ったら、出られなくなる。僕はそれが何故なのか判らなかったが、今ならそれが理解できるよ。こたつの中は暖かくて気持ちがいい。このまま、眠ってしまいたいくらいだ」
「寝ている場合か」
 呆れた一真はジャケットを羽織り、自分だけドアに向かう。
「留守番は任せておけ。こたつから出ないと電話に出られないから、電話をこたつの上に置いてくれないか?」
「こたつから出て電話に出ればいいだろ。……そうだ。お前、日本の正月を堪能しに来たと言っていたな」
「ああ、そうだ。何か正月らしい事をしてくれるのか!?」
 一真の言葉を聞いたマシューは目を輝かせる。
「寒稽古を教えてやろう。俺がトライアンフのリーダーだった時は毎年、元日にやっていたんだ」
「歓迎とつくからには面白いものに違いない。判った!それを教えてくれ!」
「仕事が終わったらな。きちんと留守番が出来たら教えてやろう」
「判った!僕に任せておけ!」
 マシューは出て行く一真に敬礼する。その後、「かんげいこ。素敵な響きだ」と呟いていた。

「《ボルシャック・NEX》で《ルピア・ラピア》をバトルゾーンに!さらに《バルガゲイザー》を召喚だ!」
 《コッコ・ルピア》一体しかいなかった征市のバトルゾーンに、三体のクリーチャーが並ぶ。その内の二体は強力なドラゴンだ。
 だが、それを見てもローザはうろたえない。鼻歌でも歌いそうな顔でカードを引く。
「《バルガゲイザー》は厄介だな。それに《ボルシャック・NEX》はW・ブレイカー。だったら、こうしちゃおう!」
 ローザが自分のカードを頭上に投げた瞬間、それが機械で出来た青い翼に変化する。征市がその翼を見ていると、翼に一枚のカードが貼りついた。カードは黒い光を発しながら、人型のクリーチャーに姿を変える。
「《キリモミ・ヤマアラシ》を使ってスピードアタッカーにした。やっちゃえ!《エスコバルドZ(ゼータ)》!!」
 貴族のような服に身を包み、両手に銃を持ったデーモン・コマンド《壊滅の撃墜王エスコバルドZ》はダンスをするように両手の銃を振り回す。乱射された弾が征市のクリーチャー全てを貫いた。
「俺のクリーチャーが全員やられた!?」
「これがあたしの《エスコバルドZ》の能力。墓地のカードを7枚山札に戻せば、《エスコバルド》以外の7コスト以下のクリーチャーは全て破壊される!どんな強力なドラゴンだってイチコロよ!」
 《エスコバルド》が撃った弾は征市のシールド二枚を貫く。これで、征市のシールドは残り一枚になってしまった。
「だが、負けちゃいねぇ!シールド・トリガー《ナチュラル・トラップ》!《エスコバルド》をマナゾーンへ!」
 破られたシールドが緑色に輝くと、そこからツタが飛び出し《エスコバルド》に絡みつく。除去呪文の《ナチュラル・トラップ》によって《エスコバルド》はマナに送られてしまった。
「《エスコバルド》の能力は強力だが、《ルピア・ラピア》まで破壊した事は失敗だったな。効果で《ルピア・ラピア》をマナに置き、代わりにドラゴンを一体回収!俺のターンで回収した《バルガライザー》を召喚する!」
 征市は、手札に加えたカードをすぐに場に出す。黒金の鎧を身に纏ったドラゴン《竜星バルガライザー》は雄叫びをあげるとローザのシールドに突進していった。
「《バルガライザー》はスピードアタッカーだ!さらに、攻撃する時に山札をめくり、ドラゴンだったら場に出す!」
 征市の山札の上が燃え上がり、そこから一体のドラゴンが飛び出す。それは山札から進化ドラゴンを呼び出す《ジャック・ライドウ》だった。
「《ジャック・ライドウ》の効果で俺は《超竜バジュラ》を手札に加える。《バルガライザー》!W・ブレイクだ!」
 《バルガライザー》は両手に持っている剣で二枚のシールドをブレイクしていく。その中にシールド・トリガーはない。残りのシールドは三枚だ。
「くっそー!あたしをなめるなー!海賊の船長の力、見せてやる!」
 ローザは、再び《キリモミ・ヤマアラシ》を使う。そして、骨で出来た馬にまたがったデーモン・コマンドを召喚した。それを見た瞬間、征市の顔に動揺が走る。
「おい……!そのデーモン・コマンドは!」
「こいつの怖さが判る?当然だよね。《エスコバルド》に続くあたしの切り札、《ブラック・ガンヴィート》!!」
 《終焉の凶兵ブラック・ガンヴィート》は攻撃する時に全てのプレイヤーの手札を全て墓地に捨てる能力を持っている。さらに、手札がない者がいれば7000のパワーが12000に上がるのだ。
「《キリモミ・ヤマアラシ》の効果でスピードアタッカーになっている!《ブラック・ガンヴィート》!こいつに地獄を見せてやれ!」
 《ブラック・ガンヴィート》は持っていた鎌を征市とローザの手元に投げる。鎌によってそれぞれの手札は空高く弾き飛ばされてしまった。
「これで、パワーは12000!《バルガライザー》をアタック!」
 《ブラック・ガンヴィート》は跳躍すると、馬の足で《バルガライザー》を踏みつけた。赤い炎と共に、《バルガライザー》の姿は消えて行く。
「どうだ!これで手札の《バジュラ》はいなくなった!《ブラック・ガンヴィート》がいればあたしの勝ちだ!」
「ああ、そうだ。俺の切り札が……、俺の《バジュラ》がいなくなっちまった」
 征市は放心したような顔で空を舞う《バジュラ》のカードを見ていた。そして、目を伏せる。
「残念だったね!でも、海賊は奪うのが仕事だからね!」
「そうだな。それが、仕事だ。……そして、俺達はそういう悪人を倒すのが仕事だ!」
 宙を舞っていたカードの内の一枚が激しく燃え上がる。ローザの見ている前で炎はさらに激しくなり、巨大な火の鳥になった。
「《バジュラ》はいなくなった。だが、俺の手札にはこいつがいたんだ」
「ざ、《ザークピッチ》!?」
 ローザの手札破壊を受け、《翔竜提督ザークピッチ》が場に出た。征市は山札の上、三枚を見てアーマード・ドラゴンとファイアー・バードを手札に加え、不敵に笑った。
「そうか。《ザークピッチ》があるからわざと《バジュラ》を見せて手札破壊をするように仕向けたな!」
「ああ、そうだ。相手の動きを誘導するのもマジシャンのテクニックの一つだぜ」
 ローザは悔しそうに奥歯を噛みしめ、征市を強く睨んだ。だが、そこで気付く。
「お前!余裕ぶっているけれど、今、加えた手札にスピードアタッカーはないだろ!あたしはまだ手札に切り札がある!だから、あたしの勝ちだ!」
「ああ、確かにスピードアタッカーはないな」
 征市は静かな声で言うと《ボルシャック・NEX》を召喚した。すると、山札のカードが全て空中に飛んでいく。彼はそれらのカードをじっと見ていた。
「だが、スピードアタッカーにするカードならある!それはこいつだ!」
 そう言って、空を飛ぶカードを一枚つかむと場に投げた。バトルゾーンに出たカードは赤い光を発すると、小鳥の姿になる。
「《マッハ・ルピア》。アーマード・ドラゴンをスピードアタッカーにする効果を持つ!《ザークピッチ》!W・ブレイクだ!」
 征市の命令を受けて《ザークピッチ》が肩の大砲でローザのシールドを撃ち抜く。続いて《ジャック・ライドウ》が最後のシールドに突進していった。その中にシールド・トリガーはない。
「う……そ……」
「嘘じゃねぇ!『ウソのようなホントウ』って奴だ!《ボルシャック・NEX》でとどめだ!」
 《ボルシャック・NEX》の巨体がローザに近づく。そして、鋭い爪が輝く巨大な腕が振り下ろされた。
「ストップだ!《ボルシャック・NEX》!!」
 ローザの頭上で《ボルシャック・NEX》の手が止まる。それを聞いて、ローザはその場に座り込んだ。
「な、何で……?」
「悪さはしないんだろ?だったら、とどめを刺す必要はない。お前達のいる世界に帰りな」
 そう言うと、征市はデッキのカードを片づけ梯子を下りて行った。
 宝船の下では、トライアンフのメンバーだけでなく参拝客も征市の姿をじっと見ていた。征市が「勝ったよ」と言うと、歓声が沸き起こった。
「ちょっと待ったー!」
 続いてローザが急いで降りて来た。目には涙を浮かべている。
「何だ?文句あるのか?」
「文句ある!勝負には負けたけれど、お年玉は欲しい!お年玉くれなきゃ、あたし達は絶対に帰らない!」
 おもちゃ屋で泣き叫ぶ子供のようにローザは駄々をこねる。周りにいたバンダナ達はローザをあやし、征市の近くにいたバンダナは「ああなった船長は手がつけられないんだよ。お年玉くれないか?」と頼む。
「仕方ねぇな。お年玉袋を用意するからちょっと待ってろ」
 征市はそう言うと近くのコンビニまで走って行った。数分後、宝船の近くまで戻って来た征市の手にはお年玉袋が握られていた。ローザに近づき、それを手渡す。
「ほらよ。これがお年玉だ」
 ローザは両手で握って征市に渡されたそれを見る。泣き顔がすぐに笑顔に変わった。
「開けていい!?」
「ダメだ。こういうのは家に帰ってから開けるもんだ」
「判ったよ。お年玉、ありがとう!野郎ども、撤退だ!」
 ローザの号令でバンダナ達は宝船に戻っていく。そして、五分もせずに宝船は飛び去った。
「ちょっと待てよ!餅にくるまれた人達を戻して行けって!」
 征市が言うのも聞かずに、宝船は来た時と同じように空に黒い穴を開けて去って行った。それを見て、征市は溜息をついた。

「結局、初詣できなかったね」
 飴を口に入れながら彩弓が言った。
 あの後、征市達は魔法警察を呼んで人々を餅から救い出そうと試みた。魔法で作られたものではないただの餅だったらしく、魔法警察でも人々を救助するのは困難だった。警察やレスキュー隊も呼んで大騒ぎになり、初詣などできる雰囲気ではなくなってしまった。
「まったく、人騒がせな海賊だったぜ」
「そうですね。それに貧乳でしたし」
「お前、まだそれを言うのかよ」
 最後までそれにこだわる陸に、征市は溜息を吐く。ふと、思い出したように湊が聞いた。
「征市さん、あのお年玉袋の中にはいくら入っていたんですか?」
「ああ、あれか?湊もやっぱりそういうのが気になるよな。ほら、お前にもやるよ」
 湊は陸と彩弓に「ずるーい!」と言われながらお年玉袋を受け取る。
「ずるくねぇよ。開けてみろ」
 征市に礼を言うと、湊はお年玉袋を開けた。中に入っていたのが五円玉一枚だけだった。
「あ……これだけ、ですか?」
 湊は少しがっかりしたような声を出す。
「うわ、ケチくせー。ローザにもこれだけしかあげなかったんですか?」
「ケチって言うな。ちゃんと意味があるんだよ。『御縁がありますように』ってね」
「征市君、それじゃお賽銭みたいだよ。……あ」
 突然、彩弓が立ち止まる。それを見て、菜央が聞く。
「一ノ瀬さん、どうかしましたか?」
「んーと、征市君って『御縁がありますように』って意味で五円玉入れたじゃない?」
「ああ、そうだ。金銀財宝に縁があるようにって意味で入れたぞ」
「そういう意味じゃなくてわたし達と縁があったら……また来年も来ちゃうんじゃないかな?ローザちゃん」
「……」
 その場にいる全員が顔を見合わせる。そして、空を見た。
「冗談じゃねぇ!こんな面倒くさい元日は二度と御免だ!今すぐ神社に戻るぞ!賽銭奮発して、来年ローザが来ないように願掛けするんだ!」
 そう言うと、征市は神社に向かって走り出した。
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