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『コードD』File.46 彼女達の想い

『コードD』



 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 総一郎は永遠に激怒した。魔道書同盟でありながら人間達に協力した真実を倒した永遠は、次に総一郎に襲いかかる。最大の切り札《ヘヴィ・デス・メタル》は総一郎の策略を全て破壊し、彼にとどめを刺す。
 その場に現れた征市は、目の前で永遠と、総一郎が連れてきた少女が融合するのを見た。完全な姿となった永遠は人類の最期を予告して彼らの前を去る。
 総一郎から一枚のカードを受け取った征市は彼の死後、感情を失ったような生活をしていた。そんな彼の前に、征市によく似た外見をしたチェス駒のキングが現れる。怪人で征市の周りを囲み、彼の家に火を放つ二重の包囲網でキングは征市を追い詰める。戦う理由を失いかけていた征市は、それを見ながら呆然としていた。

  File.46 彼女達の想い

 キングは勢いよく壁に叩きつけられる。ほんの一瞬だけ気を失い、頭を振りながら立ち上がった。
 目の前にあるのは見慣れた地下室だ。ただ、一つ違う点があるとすれば、今までは不完全な姿だった永遠が本当の自分の体を手に入れて完全な姿でそこにいるという事だった。
「どうやら、お気に召さなかったようで」
「勝手な事をされて、気分がよくなると思うかい?」
 奥にある椅子に座った永遠は立ち上がる事なく、そう言う。
 ゴミでも見るような目と罵るような口調が彼女の怒りを現していた。彼女の宿敵である相羽総一郎と相羽征市がこの世から消え、完全な姿になったにも関わらず怒らなければならない気持ちがキングには理解できなかった。
 怪人を送り込み、家に火をつけて相羽征市を殺害した。征市にライバル心を抱いている念ならともかく、幻と全は手柄を取られた事には納得しないだろうが、征市が消えた事実には喜ぶはずだ。そして、永遠は手放しで喜んでくれると思っていた。
 しかし、現実はキングの予想とは大きく違っていた。与えられたのは労いの言葉ではなく、敵に浴びせられるような容赦ない攻撃だった。褒めてもらえる事もなく、笑顔を向けてもらえる事もなく、自分の予想との違いに戸惑ったキングは「こんなはずじゃなかった」と呟きながら永遠に向かってよろめきながら歩く。
「来るなよ。お邪魔虫」
 永遠がキングに右手を向けると、キングは見えない力が自分に向かって突進してくるのを感じた。そして、彼がそれを認識するのと同時に見えない力と彼は衝突し、もう一度壁に叩きつけられた。
「俺に……汚名返上のチャンスを、下さい……」
 壁に手をつきながら立ち上がり、喘ぐようにして永遠に懇願する。二度受けた永遠の攻撃によって彼の体はダメージを受けていたが、その目は強い光を持っていた。
「何をするつもりなのさ?征市君がボクの計画に必要だって事すら理解できなかった君が、どんな事をして汚名返上するの?」
「二時間以内にトライアンフを滅ぼしてみせます。俺とこいつで」
 キングは体を壁に預けながらジャケットの内ポケットを探る。そして、彼が取り出したのは掌に収まるくらいの小さな瓶だった。
「それ!何であんたがそれを持っているのっ!」
 その瓶の中身を知っているのらしく、全がキングに歩み寄る。
「どうせ、使ってなかった怪人だろ?俺ならこいつで奴らを全員殺せる」
「あんた、判っているのっ!?それは、小生が作った失敗作で最弱の怪人なのよっ!」
「いいねぇ、最弱。大いに結構だぜ」
 最弱という言葉を聞いてキングは小さく笑った。それを見た永遠は、キングを見たまま
「一時間だけなら時間を使っていいよ」
と、言う。その顔は少しだけ笑っていた。
「ありがたい。永遠様にもらった一時間でケリつけてきますよ」
 そう言い残すと、キングは階段を上って出て行った。最後まで話す事も無く表情を変える事もなかった念を永遠が見る。
「彼にチャンスをやった事が気に入らないみたいだね?」
「俺が永遠様の判断に不服を感じているとでも?」
 念の手は、キングが征市を殺した事を宣言した時から静かに震えていた。永遠が動かなかったら、彼が動いていたはずだ。
「総一郎をボクに取られた事が不満で、征市君をキングに取られた事が不満なんだね。でも、気にしなくてもいいよ。征市君はまだ生きている」
 今まで微動だにしなかった念は永遠を見た。表情には出さなかったが、顔の筋肉の動きから永遠は彼の驚きを感じ取った。
「でも、征市君はボクのものさ。誰にも渡さない。念、君にも渡さない」
「判っております」
「本当かな?」
 念の返事に、永遠ではなく幻が反応する。念が彼を見る前に永遠が言った。
「からかうもんじゃないよ、幻。念は愚か者のキングや裏切り者の姉さんとは違うんだ。ボクの忠実な部下なんだからね」
 言葉の最後は念に向けられていた。
「判っております。俺の力は、いつでも永遠様のために」
 念は低い声で頷く。それを見た永遠は、満足そうな顔で微笑む。
「いい子だね、念。大好きだよ。もちろん、念だけじゃなくて幻も全もね!」
 三人の部下に笑顔を見せると、彼女は椅子に座り目を閉じる。
「少し休もうかな。大仕事の前に少しだけ」
 しばらくして主が寝息を立てるのを見ると、幻は念に近づく。そして二人以外に聞こえないような小さな声で話し始めた。
「相羽征市と戦うつもりなんじゃないか?」
「……」
 念はそれに答えない。寝息を立てる永遠を、何も言わずに見ていた。
「僕だって、相羽征市を殺したい。それは全だって同じさ。だけど、永遠様が手を下すとおっしゃっているんだ。君だって我慢するしかない」
「そんな事は判っている。くだらない事を言うな」
 幻の目を睨みながら言った彼は、近くにあったベッドに腰掛ける。
「大仕事の前に体を休めておけ。仮にトライアンフが滅んだとしても、俺達の敵が全て滅ぶわけじゃない」
「トライアンフ以外に僕達と戦える連中がいるとは思えないけどね」
「いたとしても、怪人達で蹴散らしてやるわっ!」
 念もトライアンフ以外の脅威が存在するとは思っていなかった。彼が体を休めるのは、自分が認めた征市と戦うためだ。
(征市、お前は誰にも渡さない。お前との戦いを楽しみにしているぞ)

 一真に連れられた陸、湊は信じられない光景を目の当たりにしていた。坂の上に立っていた征市の家は、もうそこにはなかった。焼け焦げた材木がここに家が立っていた証として少しだけ残っているだけだ。
 消防士や魔法警察がせわしなく周りを歩いていて、大勢の野次馬がそれを見ていた。
「彩弓ちゃん……」
 陸は、既にここに来ていた彩弓の存在に気付く。彼女は門扉の前で力をなくしたように座り込んでいた。瞬きせずに焼け跡を見ている彼女に、誰もそれ以上声をかける事はできなかった。
「征市さん、無事なんでしょうか?」
「……いや」
 湊の独白にも似た言葉に、苦い顔で一真が答える。それを聞いた陸は、それに何か反論したそうな顔をしていたが、何も言えずに顔を伏せた。征市が無事でない事は焼け跡を見れば判る。だが、それを口に出して認めたくない。
 魔法警察の話で、家が燃え始めた頃に家から去る人影があったと聞いている。その人影はまだ見つかっていない。
「放火犯がいるって事ですよね?一体、誰がこんな事を……」
 陸は人影の事を考えて呟いた。一真が口を開く。
「魔道書同盟かもしれないな。この家は総長の魔力によって守られていた。しかし、総長がいない今、守りが薄くなり、何者かが侵入して火をつけた。中には征市がいたはずだ。黙ってやられたはずがない。中で戦闘になり、そして――」
「そんなの嘘だ!セーイチさんが負けたって言うんですか!?おかしいですよ、そんなの!」
 それ以上、聞いていられなかった。一真も征市が死んだ事を信じられない事は判る。しかし、それ以上聞きたくなかった。
 嫌な沈黙が流れる。誰も口を開く事ができず、動く事もできなかった。
 しばらくそうしていると、一真の携帯電話が鳴り出した。仕方なく、それを取り出して電話に出る。
「判った。山城公園だな。すぐに行く。……山城公園に魔道書同盟の怪人が数体現れた。行くぞ」
 通話を終えた一真は、陸と湊の二人を見る。
「判りましたよ。いつまでもここにいたってしょうがない。しょうがないけれど……」
 一真に続いて焼け跡を去ろうとした陸は、一度だけ振り返った。彩弓はまだ焼け跡を見ている。
「彩弓さん……」
「いいよ、行って」
 耐え切れず、声をかけた湊に彩弓は答えた。しかし、彼女はそれ以上の言葉を口に出さず、ずっと焼け跡を見ていた。
「行こう」
 陸は湊の手を取って駆け出す。
 重い足取りで数分走って山城公園に辿り着く。
「やれっ!《ディルガベジーダ》!!」
 既に一真は戦いを始めていた。彼の目の前とその周りに、数体の怪人がいる。
 それは全身が水色の怪人だった。かろうじて、上半身は人の形を保っているが、下半身は円錐に似た形をしている。液体で出来ているのか、時折、表面が波打つ。陸はRPGに出てくるスライムを思い出していた。
「一真さんに続くよ!あの世で神様に懺悔しな!」
「哀しい器よ、眠りなさい!」
 陸と湊はそれぞれデッキを取り出して怪人の前に立つ。それぞれシールドを並べ、デュエルを始めようとした。
 しかし、視界の端で一真の戦況を捉えていた二人は、その時、信じられない光景を目にした。一真の攻撃を受け、爆発した怪人は二体に分裂したのだ。
「馬鹿な!俺は確かにこいつを倒したはずだ!なのに、何故……」
「何かの間違いですよ!蘇るんだったら、何度でも倒してやる!」
 陸はそう言って目の前の怪人に立ち向かう。その怪人を倒すのは難しい事ではなかった。むしろ、今の陸にとっては赤子の手をひねるような楽な作業だった。しかし、怪人にとどめを刺すと一真がやった時と同じように分裂してしまった。
 湊がやっても同じだった。怪人はクリーチャーの攻撃を受けると、爆発して二体に増えてしまう。
「倒す方法がないのか?無敵って事?」
「お前達じゃ、その怪人は倒せねぇよ」
 三人は男の声を聞いて動きを止める。それは、聞き慣れた男の声だったからだ。
「今の声……征市か?」
 一真は陸と湊に確認した。彼は自分の耳が信じられなかった。二人も驚きながら一真の問いに頷く。
「その怪人、スライム男は全が作り出した怪人の中では最弱だ。デュエル・マスターズカードを使う事はできる。だが、ただ使えるだけで実力はお粗末なもんだ。お世辞にもそれで戦えるとは言えねぇ」
 硬い靴音を響かせ、その男は一歩ずつ一真達に近づいてくる。黒いタキシードが波風を受けてなびいた。
「だが、こいつはお前らには負けない。お前達に勝つ事もないが負ける事もない。スライム男は相手の魔力の衝撃を受けるとそれを吸収して二体に分裂する事ができる。何故、今までこいつを使わなかったのか不思議か?理由は簡単だ。こいつは火の魔力を受けるとすぐに溶けて消えちまう。だから、全は今まで使わなかった。相羽征市がいなくなった今……火の魔力を使う事ができないお前らならこいつで殺せる。怪人に限界はないが、戦い続ければお前達は疲れるし魔力も減る。限界が来たその時がお前達の最期だ」
「征市、なのか……?いや、何者だ!」
 一真が黒いタキシードの男、キングを見た。陸と湊も突然の闖入者を見る。
「チェス駒に人造デュエリストのデータを組み合わせて誕生した魔道書同盟の切り札、キングだ。早速だが、貴田一真!お前には今すぐ死んでもらう!」
 そう言うとキングは胸元から赤いバラの花を出した。彼の手の中でそれが燃え始め、炎が赤いデッキケースに変わる。
「チェス駒ごときに負けはしない!《バグナボーン》で攻撃!」
 一真の切り札、《緑神龍バグナボーン》がキングのシールドに突っ込む。これでキングのシールドは0になった。
「効果で《マイキーのペンチ》を出した。これから出る俺のクリーチャーは全てスピードアタッカーになる。次のターンでお前は終わりだ」
「そんな判断で大丈夫か?」
「何!?」
 シールドもクリーチャーもないはずのキングは笑っていた。両手にカードを持って愉快そうに肩を震わせながら一真を見る。
「大丈夫じゃねぇよなぁ。大問題だ。トライアンフ最強とまで言われた貴田一真がこんな判断ミスをする野郎だったとは……ガッカリだぜ!」
 キングが場に投げたカードは、彼のマナのカード三枚を吸収しながら姿を変えて行く。緑色の光を発したそのカードは、白く長い体を持つ龍へと変化した。
「俺の切り札、《超天星バルガライゾウ》だ。こいつの効果で山札の上にあるドラゴン三体を場に!」
 キングが叫ぶと《バルガライゾウ》の体から三枚のカードが飛んでいく。続いて、彼の山札の上のカード三枚が場に飛んでいく。それら三枚のカードは龍の姿へと変化した。
「《ヘリオス・ティガ・ドラゴン》で《マイキーのペンチ》を破壊!さらに、《ミルドガルムス》と《ザールベルグ》でお前のマナをぶち壊す!」
 最初に場に現れた赤い龍《ヘリオス・ティガ・ドラゴン》は右手を一真の場に向ける。すると、手から出た赤いレーザーのようなものが《マイキーのペンチ》の体を貫いた。
「これじゃ、出てくる奴らはスピードアタッカーにはならないよな?続いてマナだ!」
 続いて一真のマナゾーンに飛んでいった緑色の体色の龍、《緑神龍ザールベルグ》と《緑神龍ミルドガルムス》はその手でマナゾーンのカードを潰していった。
「《バルガライゾウ》で《バグナボーン》を食い殺す!これでお前のクリーチャーはゼロだ!」
 《バルガライゾウ》はその鋭い牙で《バグナボーン》の首に噛みつく。《バグナボーン》は首を振って抵抗するが、《バルガライゾウ》の巨体はびくともしない。《バルガライゾウ》は首を横に振って《バグナボーン》を地面に叩きつけた。音と振動が周囲に伝わり、《バグナボーン》は緑色の光となって消えた。
「次はお前だ。トライアンフ元リーダーさん」
 《バルガライゾウ》の動きを見ていた一真は、キングの声を聞いてはっとする。カードを引くが、それを見て落胆した顔をした。
「……《マイキーのペンチ》を召喚してターンを終える」
「何を出すかと思ったら、《マイキーのペンチ》かよ。だったら、こいつで終わりだ!」
キングの《ミルドガルムス》がカードに変化し、マナゾーンへ飛んでいった。その直後、キングの頭上に金色の魔方陣が現れる。
「《母なる聖域》を使った。行け!《バルガライゾウ》!!」
 金色の魔方陣から二体目の《バルガライゾウ》が飛び出す。続いて山札の上からは《バザガジール・ドラゴン》、《紅神龍ジャガルザー》、《緑神龍ザールベルグ》が飛び出した。
 今、呼び出されたばかりの《バルガライゾウ》が一真のシールド三枚を打ち破る。その内の一枚が緑色に輝き《バザガジール・ドラゴン》を捉えた。
「シールド・トリガー《ナチュラル・トラップ》だ。まだ終わりじゃない……!」
「うぜぇな。さっさと死んじまえよ!」
 《ヘリオス・ティガ・ドラゴン》が残りのシールドを破る。そこから《地獄スクラッパー》が出たが、それではキングのクリーチャーを止める事はできない。
 《バルガライゾウ》が餌を前にした犬のように低く唸った。キングが指を鳴らし、一言命令した。
「やれ」
 その瞬間、《バルガライゾウ》は一真に食いつく。
「一真さん!」
 陸と湊が同時に彼の名を呼ぶ。だが、一真がそれに答える前に彼の体は《バルガライゾウ》にくわえられたまま空高く飛んで行ってしまう。
「空から見るY市の光景はどうだ?絶景だろ?今からここを地獄に変えてやるよ。お前はあの世でそれを見てな!」
 キングが右手を握り、親指を下に向ける。すると、高層ビルよりも高く舞い上がっていた《バルガライゾウ》が急降下する。《バルガライゾウ》は地面に激突する直前のところで一真を離し、地面に叩きつけた。石畳の道が砕け、鍛えられた彼の肉体がめり込む。
 叩きつけられた一真はしばらく痙攣していたが、すぐに動かなくなった。
「嫌だ!一真さん、一真さーん!」
 陸が泣き叫ぶような声で一真を呼ぶ。そして、湊は口に両手を当てたまま、その場で動けなくなっていた。
 自分の師匠とも言える一真の敗北にショックを受けた陸だったが、すぐにやるべき事を思い出した。足に力を入れて一真とキングがいる場所に近寄ろうとする。だが、その前にスライム男が立ちふさがった。
「貴田一真、戦闘不能。こいつは少しだが、火の魔力が使えるから厄介だった。お前達二人はどうだ?火の魔力は使えるか?デッキに火のカードは入っているか?」
 陸も湊も火のカードは持っていなかった。これでは、スライム男を止める事はできない。
「入っていないよな?計算通りだ。お前達はここで全員死んでいく。今日がトライアンフ最後の日だ!」

 征市の家の前には、彩弓以外に誰もいない。いつの間にか、野次馬もいなくなっていた。
 彩弓は絶望している訳ではなかった。時折、征市の魔力の波動のようなものを感じる事があったのだ。これを感じるのも、総一郎に征市の――人造デュエリストの――バックアップとして作られた自分の宿命を聞き、自分の能力を自覚したからなのかもしれない。
 微弱な波動で集中していないと消えてしまいそうだったから、ずっと集中していた。彼の波動は少しずつ強くなっている。
「征市君……いるなら、出てきて。会いたいよ……」
 すると、焼け跡の瓦礫が動き出した。よく見ていなければ気がつかないような細かい動きだったが、しばらくすると瓦礫の山が激しく動き出す。瓦礫の山が崩れて、中から黒い服を着た男が出て来た。男は、自分が出た後に赤いブレザーを着た青年を引きずりだす。
「征市君!」
 彩弓は瓦礫の上に横たわる征市に近づく。起きてはいないが、彼の胸は静かに上下していた。彩弓は黒服の男を見る。
「ありがとうっ!あなた、真実さんと一緒にいた人でしょ?征市君を助けてくれたの?」
『ああ、そういう事だ』
 黒服の男と征市が出て来た場所から、肖像画が飛び出してくる。二号だ。
「二号も無事だったんだねっ!よかった」
『ああ。そいつが俺達を地下のワインセラーに入れたんだ。それで、火が収まるまで結界を張ってくれた。だけど……征市が危ない』
 低い声で二号が言った。黒服の男と二号が無事なのに、征市だけは目を覚まさない。弱々しい呼吸を続けるだけだった。
「どうして?どうして征市君だけ無事じゃないの?」
『酸素だ。結界を張っても酸素だけはどうしようもなかったんだ』
「そう……なんだ」
 彩弓は屈みこむと征市の胸に手を当てる。その手が淡い光を発した。
『お前……!そんな事できたのか!?』
「うん。できるようになったのは、征市君のおじいさんに教えてもらった後かな?」
 少しずつ征市の顔色がよくなっていく。しかし、そこで彩弓の手の光を消えてしまった。二号が彩弓を見ると、彼女は息を荒くしている。
『無理すんなよ!征市は助けて欲しいけれど、でもお前が駄目になっちゃったら……!』
「大丈夫……!まだやれるんだよっ……!」
 二号に見守られながら、彩弓の両手はまた淡い光を発した。すると、その手の上に二つの手が重ねられる。
「あ……」
 彩弓が見上げると、そこには彩矢がいた。泣きそうな顔で彩弓の手の上に自分の手を重ねている。
「姉さん、どうして!?アタシには判らないよ!どうしてそこまでできるの?」
「自分が人造デュエリストのバックアップだって言われた時の事、まだショックなの?」
 優しい顔で問う彩弓に彩矢は首肯する。
「わたしもショックだったよ。驚いた」
「それなのに、何で征市さんを助けられるの!?見えない誰かにやらされているような気がしないの?」
「よく……判らないよ。だけど、やっぱり征市君が好きだからかな」
 彩弓は気恥ずかしそうに言った。
「バックアップだって言われた時も、その前と気持ちが変わらなかったんだ。やっぱり、征市君の事が好き。手品をしている征市君もデュエル・マスターズカードで人々を守っている征市君もいつもの征市君も全部好き。これは誰かに作られた嘘なんかじゃないよ。わたしがずっと持っている本当の気持ちだよ」
 彩矢は黙って顔を伏せる。彼女の手も淡く光った。
「本当は……本当はアタシもまだ征市さんの事が好き」
 その声は震えていた。
「だから、征市さんがいなくなっちゃうのは嫌!まだ一緒にいたい!」
 彩弓と彩矢が発した光が征市を包んでいく。その光の中で、彩弓は征市の波動が少しずつ強くなっていくのを感じていた。

「《オルゼキア》!スライム男にとどめだ!」
 陸の《オルゼキア》が目の前にいるスライム男を真っ二つにする。スライム男はすぐに二つに分裂するだけだ。意味がないと判っていたが、何もしなかったらこっちが負けてしまう。
「陸さん!このままじゃ!」
 同じようにスライム男と対峙していた湊が悲鳴をあげる。陸は舌打ちをして
「判ってるよ、そんなの!だけど、今はこうするしかないんだ!」
と、言って目の前にシールドを並べた。
「二人とも、急げよ。早くしないと一真が死んじゃうぜ?」
 唇を歪めていやらしく笑ったキングが二人を挑発する。彼の足は、一真の頭の上に置かれていた。
「お前……!その汚い足をどけろ!」
 陸は自分のデュエルを中断してキングを睨む。キングは顔色一つ変えずに陸と戦っているスライム男を指した。
「お前の相手はそっちだ。余所見するなよ」
 スライム男のクリーチャーが陸のシールドに突進する。二枚のシールドが破られ、残りのシールドは一枚になってしまった。
「注意力散漫、疲労困憊。ここまで追い詰めればトライアンフ攻略も楽だな。幻も全もこんな奴らに手こずってたのかよ。信じられねぇな」
 陸も湊も焦っていた。その焦りがカードに伝わり、普段の彼らではしないようなミスをしている。
「何とかしないと、一真さんが……!一真さんが!」
 湊が相手のスライム男を睨む。その後ろには数えるのも嫌になるほどのスライム男が並んでいた。
「そろそろお前ら、包囲するのも飽きたな」
 突然、キングが呟いた。そして、彼が指を鳴らすと近くにいた数体のスライム男が動き出す。群れから離れたスライム男達は未来地区や住宅街に向かって移動し始めた。
「無防備な人間を襲わせる。お前らならこれだけいれば充分だろ?」
「やめろ!やめろよーっ!」
「はっ!やめるかよ、馬鹿が!それよりも、今の顔もう一度やってみてくれよ。傑作だったぜ!あーはっはっは!」
 陸の叫びを見たキングが大口を開けて笑う。
 その瞬間、未来地区に向かっていたスライム男達が一瞬で炎上した。
「え……?」
 それを見たキングの笑いが止まる。次は住宅街に向かっていたスライム男達だ。最後に陸達の周りにいたスライム男達が、全て炎に包まれた。
「嘘だろ?何で、スライム男が一瞬で……」
「ウソじゃないわ。『ウソのようなホントウ』って奴よ」
 少女の声が山城公園に響く。片手にデッキケースを持ち、彩矢が歩いてきた。
「アタシは戦線を離脱したと思った?だから、こんな怪人を使った。違うかしら?」
「いや……その通りだ」
 キングは呆然とした顔で彩矢を見ていた。彩矢は陸と湊に近づくと
「早く一真さんを病院へ連れて行って」
と指示を出す。
 陸が一真を担いでその場を離れ、湊が安全な場所に救急車を呼ぶために携帯電話を取り出す。
「俺の計画がたった一人の女の子に潰されちまった……。何でだよ。何でトライアンフはいつもいつも俺達の邪魔ばかりするんだ!」
「それがアタシ達、トライアンフの仕事だからよ!」
「君がトライアンフのメンバーとして頑張ったって、オリジナルは君を普通の女の子として見る事はできない!それでもいいのかよ!?」
 悲鳴にも似た声でキングが問う。彩矢はそれに答えなかった。
「俺だったら、あいつの事を全部忘れさせてやる!だから、俺のところへ来い!」
「姉さんがね……。征市さんの事、好きだって」
「え?」
 彩矢が呟いた。それは会話ではなく、独白のようなものだった。
「そう言ってたの。今まで、好きなんだろうなって事は感じてた。だけど、はっきり言われたのは初めてだった。そう言われて、征市さんが好きな事に迷っていたアタシは何なんだろうって思った。こんなアタシじゃ……好きな気持ちに嘘ついていたアタシじゃ、征市さんの隣にはいられない」
「だから、俺の隣にいればいいんだよ!あんな奴、必要ないんだ!」
「だけどね……!」
 彩矢は目の前に五枚のシールドを並べる。鮮やかな赤い壁がキングを拒絶した。
「忘れる事なんてできない!好きだっていう気持ちはアタシの『ホントウ』だから!それに、大好きな征市さんの顔で仲間を傷つけるアンタなんか大嫌いよ!」
 拒絶の言葉を聞いたキングは髪をかきむしった。そして、獣のように叫ぶ。
「そうか……。あいつが、クソオリジナルが全ての原因だ。永遠様が俺の功績を認めて下さらないのも、好きになった女の子が俺の事を嫌いだって言うのも、全部あいつのせいだ。あいつをぶっ殺せば永遠様も俺を認めて下さる!君も俺の事を好きだって言う!」
 キングは血走った目で彩矢を見ると、目の前に五枚の赤いシールドを並べた。血のように赤いシールドに守られた彼は言う。
「一ノ瀬彩矢、お前を殺す。お前を殺してお前の記憶の中の征市を殺す!お前だけじゃない!全ての人間の記憶にある征市を全て殺す!征市を皆殺しだ!」

 征市はゆっくりと目を開ける。最初に彼の瞳に映ったのは、彩弓だった。
「征市君、目が覚めたんだねっ!」
 どこか疲れたような顔をした彩弓が征市に抱きつく。征市は何が何だか判らずに周りを見た。
「おい、二号。何が起きたんだ?」
 近くにいた二号に説明を求めた。二号は征市の近くまで行くと、話し始めた。
『キングが去った後に、そこの黒服がお前をワインセラーに入れて結界を張ってくれたんだよ。だけど、酸素がなくてお前はふらふらになった。それを助けてくれたのが彩弓と彩矢だ。彩矢は菜央から連絡受けて山城公園に向かったぜ。すごく強い怪人とキングがいるみたいだった』
「そうか。そうだった……のか」
 助けられた征市は、あまり嬉しそうな顔をしていなかった。それを見た彩弓の顔が曇る。
「相羽征市」
 黒服の男が征市に近づく。彼は綺麗な紙に包まれた細長い箱を征市に渡した。征市はそれを受け取って黒服を見る。
「真実様からだ。……さらばだ」
 そう言うと、黒服は銀色の光を発して消えてしまった。彼がいた場所には、白いナイトのチェス駒が落ちていた。
「真実から俺に?一体、何なんだ?」
 征市は包みを開ける。中には、紺色のネクタイと一枚の赤いカード、そして白い封筒が入っていた。征市はそれを見たまま、動けずにいた。
「それを渡して欲しいって頼まれたんだね。だから、渡すために征市君を守った。頑張ったね」
 彩弓は白いナイトを拾うと抱きしめる。その間、征市はずっと紺色のネクタイを見ていた。

「行け!《バルガライゾウ》!!」
 キングが召喚した《バルガライゾウ》が巨体を震わせて宙を舞う。それに続くように《バザガジール・ドラゴン》《ザールベルグ》《ミルドガルムス》が場に出た。
 二体の緑神龍がマナを破壊し、《バルガライゾウ》と《バザガジール・ドラゴン》がシールドに突っ込む。一回の攻撃で彩矢のシールドは全て破られ、マナもダメージを受けた。
「それだけ?そんなんじゃ、アタシには絶対に勝てない!」
 破られたシールドの欠片が緑色に輝く。すると、その場に風が吹いて、彩矢の山札の上のカードがマナゾーンへ飛んでいった。
「シールド・トリガーの《フェアリー・ライフ》か。これで、六枚だな」
 キングは彩矢のマナを見ていた。彼女の場には赤い翼を広げたファイアー・バード《ボルット・紫郎・バルット》しかクリーチャーがいない。
 それに対して、キングには三体のドラゴンがいる。そして、シールドは四枚だ。
「そうね。今、チャージして七枚。これで充分よ!」
 彩矢は手札から一枚のカードを引き抜いて場に出す。全身を赤い鎧に包み、両手に刀を持ったその龍の周りを《ボルット・紫郎・バルット》が飛び回る。
「《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》を召喚したわ。さらに、侍流ジェネレート!」
 《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》が刀で空に円を描く。すると、その円から刀が飛んできた。《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》は自分が持っていた刀を地面に投げ、その刀を受け取る。
「これが《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》の武器、《竜装 シデン・レジェンド》よ。《シデン・レジェンド》は《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》にコストを払わずにクロスする事ができる!」
 《シデン・レジェンド》を受け取った《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》は両足に力を込めて跳躍した。
「スピードアタッカーになった!?そうか、その小鳥のせいか!」
 《ボルット・紫郎・バルット》は《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》をスピードアタッカーにする能力を持っている。その効果で召喚したばかりの《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》が動き出したのだ。
「さらに《シデン・レジェンド》の効果発動よ!」
 《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》が持っていた《シデン・レジェンド》の切っ先が赤く輝く。すると、キングのシールドが一枚、音を立てて割れて行った。
「触れていないのにブレイクされた!?」
「《シデン・レジェンド》をクロスしたクリーチャーが攻撃する時、相手のシールドをブレイクできる!それだけで終わりじゃないわ!」
 《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》が左手の刀を奮って二枚のシールドを砕く。その中にもシールド・トリガーはない。
《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》は一度振り返って主を見る。彩矢はキングを指して言った。
「決めるわよ!世界一強い女の子の切り札の力、受けてみなさい!」
 《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》は再び動き出した。両足に力を入れ、最後のシールド目掛けて飛ぶ。
 突撃した《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》は《シデン・レジェンド》でシールドごとキングの胸を突き刺した。キングはそれを引き抜き、後ろに下がる。
「二回攻撃、か……。くそぉ……。クソオリジナル、殺す。征市を殺して……」
 キングはその場に倒れ、爆発を起こした。全てのカードをデッキケースにしまった彩矢は、キングが倒れた場所に向かった。そこには、黒いキングのチェス駒があった。
「忘れない。征市さんへの想いがあったから、アタシはここまで強くなれた。だから、絶対に自分の気持ちを忘れない」

「ん……」
 寝ぼけ眼の永遠が目を覚まし、軽く伸びをする。自分の手を閉じたり開いたりした後、部下達を見た。
「征市君は復活したみたいだね。キングはいなくなっちゃったか。何をしてくれるか期待していたんだけれど、大した事はしていないみたいだね」
 そう言って、永遠は静かに笑う。
 椅子から下りた彼女は数歩歩いて宣言した。
「今から人間達を『永遠の牢獄』に閉じ込める。ボク達の復讐が始まるのさ!」
 三人の部下達がどよめいた。今まで待っていた復讐の時が来たのだ。
「愚かな奴らに僕達の鉄槌を下してやる!」
「この時を待っていたわっ!」
 幻と全の笑い声が響く。念は静かに腕を組んでいた。永遠はそれを見ても何も言わない。
「征市君が来るのが楽しみだね。人間は彼を救世主かと思っているかもしれないけれど、それは違う。彼が人類にとっての災厄である事を思い知るのさ」
 誰にも聞こえないような小さな声で呟くと、二人の部下と同じように笑った。主の喜ぶ顔を見ながら、念は自分の決戦の時が近い事を感じ取っていた。

 『File.47 彼が求めた死闘』につづく
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