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『デュエマ族』第一話

『デュエマ族~一と新之助は奇妙な部活に入るようです~』

第一話 行け!二人のルーキー!

「一体、何がどうなってるの?」
 その日、永瀬新之助(ながせしんのすけ)は学校の廊下を走っていた。走らされていたというのが正しい。飼い犬の散歩をしていたら、飼い犬が突然走り出して引っ張られている構図によく似ていると新之助は感じた。新之助の右手の先にいるのは飼い犬ではなく、同じ学校の男子生徒だという点とここが学校であるという事だけが違っていた。
 ここは、新之助が通う私立烈光学園中学の二階である。今は、放課後のため、残っていた生徒は少ない。トイレに行った後、教室に荷物を取りに戻った新之助は同じクラスの男子生徒に手をつかまれたのだった。入学してからまだ二週間しか経っていないせいか、それとも新之助が大人しい性格であまり人に話しかけられないせいか、彼はその男子生徒の名前を覚えていなかった。
 えんじ色のネクタイを緩めて赤い野球帽をかぶったその生徒の名前を記憶から引きずり出すよりも先に彼は口を開いた。
「頼む!人助けだと思ってついてきてくれ!」
 そう言うと、彼は新之助の返事を聞く前にその手を引っ張っていた。
 廊下を走りながら新之助が犬の散歩だと感じたのは、野球帽の少年の背が低く小学校の四年生くらいに見えるからだ。クラスの中では、彼が一番小さいだろう。
 そんな事を新之助が考えていると、目の前の男子生徒は一階への階段を二段飛ばしで降り始めた。
「ちょっ!ま……ってっ……!」
 新之助も慌てて階段を駆け降りる。足をくじく事も転ぶ事もなく無事に一階に降りる事ができた。だが、この時点で新之助の体力は限界に来ていた。野球帽の少年のペースはかなり早いものだったからだ。
 どこまで連れていくのかと思ったところで、少年は立ち止まった。
「ここか。ここがデュエマ部の部室」
 新之助が少年の視線の先を見ると、そこには部室として使われている空き教室があった。まだ戸惑っている新之助は説明を求めて野球帽の少年を見るが、彼は新之助を見ていない。
 野球帽の少年は『デュエマ部』の部室の扉に手をかけた。

「ねえ、あと一週間だけどどうするのさ。静貴(しずき)が言うようなデュエマ好きな人、来ると思う?」
 ここは、デュエマ部の部室だ。普通の教室の半分ほどのスペースにいくつかのテーブルが置かれていて、壁側にはたくさんのカードが入ったカラーボックスが並んでいる。
 テーブルを中心に三人の生徒が集まっていた。口を開いたのは、中央に立っている黒縁の眼鏡をかけた男子生徒だ。
「何、健人(けんと)。今の《クルト》と『来ると』を賭けたダジャレ?」
「ふざけている場合じゃないって!あと二人部員が来なかったら廃部なんだよ!」
 健人と呼ばれた眼鏡の男子生徒に答えたのは、制服の上からでもスタイルの良さが判る女子生徒だった。リラックスした姿勢で椅子に寄りかかっている。
「なあ、義男(よしお)も静貴に何か言ってくれないか?」
「みっちゃん先輩、デカチョーがそうすると決めたなら俺に異論はないって言ったはずだぜ。もし、それでデュエマ部が廃部になるなら、俺はデカ部を作り、石黒軍団を名乗る!」
 健人が見たのは、サングラスをかけた男子生徒だった。白いテーブルの上に座り、タバコのようなものを口にくわえている。
「デカ部なんか絶対に作れないって。あの生徒会長が許す訳ないでしょ?」
「生徒会長が許すかどうかじゃねぇ。やるんだよ!」
「できないよ!」
 サングラスの生徒、義男との会話に頭を痛めた健人は改めて女子生徒、静貴を見る。
「落ち着いて考えろ、静貴。ここでデュエマ部が廃部になったら約束が果たせなくなるんだよ?こだわりがあるのは判るけれど、ここは妥協して人を集めた方がいい」
「健人の案は現実的ね。確かに、あたしが妥協すれば人は集まって廃部は免れる。でも、デュエマ好きじゃない人を部に入れたら、それも約束を破る事になる。デュエマ好きかいって聞かれたら、うん大好きさ、って笑顔で即答してくれる人じゃないと、絶対に目的は達成できない」
 静貴の真剣なまなざしが健人を見る。しばらくして彼は目を逸らした。ここで言い合っても話はまとまらない。静貴も健人も自分の言い分を譲らないからだ。
「俺もデカチョーと同じ意見だ。天下の阿部野(あべの)静貴とお近づきになりたくて来る奴にまともな奴はいねぇ。そんな奴が戦力になるとは思えないし、一緒にデュエマをしたいとも思わない」
「う~ん、それは僕も判ってるんだけどねぇ。デュエマ好きな人が二人。二人だけ来てくれれば……」
 健人は両手で頭を抱えた。
 烈光学園中学では、部活をやる場合、最低でも五人の部員がいないと部として認められない。決められた期限までに五人の部員が揃っていなければ、廃部となる。それを避けるために三人は部員を探しているのだ。
 確かに、デュエマ部の部員になりたいという生徒は多い。だが、その生徒達の目当てはデュエル・マスターズではなく、静貴だ。
 部長、阿部野静貴はアイドルでもあり、若き女優としても活躍している。テレビに出る日も多く、彼女の名を知らない人間の方が少ないと言われているくらいだ。そんな静貴に近づこうとしてデュエマ部に入部を希望する者もいるが、そういう生徒は彼女が出す入部テストで落とす事にしている。入部テストを続けた結果、入部するに値する者はいないという結論になり、メンバーは去年からデュエマ部の部員だった静貴、健人、義男の三人だけになってしまった。
「入部テストに合格するような人が二人、丁度よく来てくれれば……」
 健人は藁にもすがる思いで部室のドアを見つめた。すると、彼らの目の前でその白いドアは勢いよく横に開いた。そこには赤い野球帽をかぶった背の低い男子生徒と、大人しそうな男子生徒が二人、肩で息を切らして立っていた。突然の事に三人が驚いて二人を見ていると、野球帽の少年が右手を挙げてこう叫んだ。
「はいはいっ!俺、入部希望です!」
「入部希望……?入部希望だって!?」
 オウムのように言葉を繰り返した健人の顔が輝く。そして、静貴と義男を見た。
「入部希望者だよ!二人もいる!これで五人揃うから廃部は免れるよ!」
「健人、まだこれで二人が入部するって決まった訳じゃないわ」
 しかし、興奮する健人とは対照的に静貴の反応は冷ややかだった。
「いいじゃないか。入れてあげれば」
「駄目よ。この子達にも入部テストをしなくちゃ、他の人達に不公平でしょ」
 健人に反論した後、静貴は部室に入って来た二人を見る。健人は助けを求めるような目で義男を見るが、彼は「俺はデカチョーの言う事に従う」と、返した。
「入部希望なんだ?名前とクラスは?」
 二人の少年は、テレビで見た事がある阿部野静貴が微笑みながら話しかけてくるのを見て息を呑んだ。しばらく、放心した後、赤い野球帽の少年が話す。
「俺、一年二組の松野一(まつのはじめ)です!デュエマはまだやった事がないけれど、テレビ中継されているトーナメントは何回か見た事があります。それと、こいつは……」
 野球帽の少年、一は連れて来た新之助の顔を見る。
「ぼ、僕は一年二組の永瀬新之助です」
「そうです!二人合わせて入部希望です!」
「え?」
 勝手に自分の意思を決められた新之助は驚いた顔で一を見る。それと同時に一は新之助の口を手でふさいだ。彼の目が新之助の瞳を捉える。怪しく光ったその目は「余計な事を話すな」と言っていた。
「一君と新之助君ね。あたしは部長の阿部野静貴。ヨロシクって言いたいんだけど、この部に入るには入部テストをして合格してもらわなくちゃならないの。君達二人には、あそこにいる二人と戦ってもらいたいの。それがテストの内容よ。その戦いぶりを見てテストが合格か不合格か決めます」
「待って、静貴。松野一君はまだデュエマをやった事がないって言っているんだろう?だからデュエマを教える時間が欲しい。僕が教えるから三日待ってもらえないかな?」
「健人の言う通りね。それじゃ、健人。デュエマを教えてあげてね。新之助君はデュエマをやった事あるの?」
「えっと、僕もテレビで見た事があるだけで……」
「そう。それじゃ、新之助君も一緒に健人に教えてもらってね!」
 静貴が手で健人の方を指し示す。それを見て、健人は片手を上げた。
「僕は三年の三島(みしま)健人。副部長、みたいなものかな?あそこにいるサングラスをかけてるのが石黒(いしぐろ)義男。いやあ、二人が入部してくれて嬉しいよ」
「健人。二人は入部って決まった訳じゃ――」
「判らない事があっても大丈夫。何でも教えてあげるからね。もちろん、静貴も義男も手伝ってくれるよね?」
 静貴の声を遮った健人は目で二人を威嚇する。それを見た義男はテーブルから立ち上がり、くわえていたタバコのようなものをポケットにしまって健人に向かって歩き出した。
「ああ、義男。やっぱり部のピンチには力を貸してくれるんだね!嬉しいよ!」
 自分に近づいてくる義男を見て、健人は今にも感動のあまり泣き出しそうな声を上げる。しかし、義男は健人の前では止まらず、入部希望の二人の横を通り抜けてドアの前に立った。
「勘違いしないでくれ、みっちゃん先輩。学園デカとしての見回りの時間だ。悪がはびこるのを見過ごすなんて、俺にはできないんでね」
「風紀委員に任せておけよ!お前はデュエマ部の部員だろ!」
「仕方ねぇ。みっちゃん先輩の言う事も一理あるからな。ヒントをやるか。おい、新入り希望の二人。これだけは覚えておけ。入部テストに合格するのは簡単な事じゃねぇ。お前ら二人、全力で叩きつぶすから覚悟しな」
 義男は一と新之助にそう告げるとスライド式のドアを開けて出て行った。
「一理あるって言うなら手伝ってくれよ!静貴はもちろん手伝ってくれるよね?」
「もちろんよ。新しくデュエマを始めようって人に協力を惜しまないのが、我々デュエマ部の部員だ!それじゃ、デッキ作りから始めましょうか。デッキって言うのはね……」
 静貴が説明を始めようとすると、ドアがノックされた。中にいた者達が見ると、すぐにドアが開き、手に四角い黒の鞄を持った長身の青年が入って来た。黒い開襟シャツにシルバーのアクセサリーが特徴的な青年で、学校関係者には見えない。
 突如現れた男に一と新之助が驚いていると、健人が口を開いた。
「一ノ瀬(いちのせ)さんじゃないですか!こんにちは。あれ?静貴は今日は仕事じゃない日ですよね?」
「こんにちは、健人さん。突然ですが、バラエティの仕事が入りまして。少ないですが、これは静貴さんを連れ出すお詫びです」
 一ノ瀬と呼ばれた青年は笑顔を絶やさずに健人に話しかける。物腰も穏やかなその青年は鞄から二つの白いビニール袋を取り出して、健人に渡す。
「新しいカードだ!それと、いつものハムカツですね。義男がパトロールとか言ってどこかに行っちゃったから、そこにいる新入部員候補の二人と食べますよ」
「新入部員候補の方ですか」
 一ノ瀬は健人の言葉を聞いて一と新之助を見る。深くお辞儀をした後
「はじめまして。私は静貴さんのマネージャーをしている一ノ瀬と申します。ゆっくりお話をしたいのですが、スケジュールが詰まっていましてお時間が取れない事をお許し下さい。正式に部員となられましたら、ゆっくりお話しましょう」
と、言った。
「バラエティねぇ。空気読んで媚売っておけばいいから楽と言えば楽ね」
 静貴は近くにあった学校指定の通学鞄を手に取った。そして、健人、一、新之助に向かって手を合わせて
「ごめんね!後は健人に教えてもらって!それじゃ!」
と言って謝った後、部室を出た。一ノ瀬が三人に対して頭を下げた後でそれに続く。
「僕だけになっちゃったな。とりあえず……ハムカツでも食べる?」
 右手に持っていたビニール袋を見ながら健人が二人に聞いた。

「それじゃ、そろそろデッキ作りを始めようか」
 ハムカツを食べ終えた二人を見て、健人が口を開く。彼は脇に数冊のファイルを抱えている。
「先輩、そのファイルは何ですか?」
 健人がテーブルの上に並べたファイルを見て、新之助が聞いた。一はその一冊を手にとって開くと「おおっ!」と声を挙げる。
「これ、レアカードのファイルだ!そうですよね?」
「うん、そうだよ。デッキは四十枚のカードで作られる。まずは、デッキの中心となる切り札を決めなくちゃいけないからね。この部室にあるカードは好きに使っていいから、自分でデッキを作ってごらん。このファイルの中から切り札を選んでね」
 既にファイルの中のカードに気を取られている一のものとは違うファイルが新之助に手渡される。新之助は礼を言ってそのファイルを開いた。
「あっ……!」
 数ページめくったところで、新之助の動きが止まる。まばたきする事まで忘れたかのように集中してカードを見つめていた。
「何だ、何かいいのあったのか?」
 隣で別のファイルを見ていた一が新之助のファイルを覗き込む。彼は既に一枚のカードを手にしていた。
「見てくれよ!俺が選んだのは《独裁者ケンジ・パンダネルラ将軍》だ!これでドリームメイトを出しまくって勝つんだ!」
「《ケンジ・パンダネルラ将軍》か。うん、使いやすくていい速攻向きのカードだよね」
「でしょ!俺、テレビの中継だと速攻で戦ってるの見るのが好きなんすよ!対戦内容も判りやすいし」
「ええと、永瀬君はどう?何かいいカードがあったかい?」
「そうだ。お前も何か見つけたのか?」
 二人は新之助を見た。彼はまだファイルを見たままの姿勢だった。小さく声を挙げた時と変わっていない。
「どうしたんだよ?いいのあったんじゃないの?」
 一が肩を揺さぶると、そこで初めて新之助が顔を上げる。
「あ、ごめん。あったけれど、これなんですよ」
 一に謝った後、新之助はファイルのページを健人に見せる。そこには、二枚のイラストがつながったようなひと組のカードがあった。新之助が指したそのカードにはそれぞれ《超絶神ゼン》《究極神アク》という名前がついている。
「《ゼン》と《アク》か。使うのはちょっと難しいけれど、強いカードだね。これが気になったの?」
「そうなんです。でも、こんな風に光ってるカード、二枚もなんて駄目、ですよね?」
 消え入りそうな声で新之助が聞いた。健人は何も言わずにファイルを受け取ると、そのページから《ゼン》と《アク》を三枚ずつ抜き出し、新之助に手渡す。
「遠慮なんかしなくていいよ。最初に言ったけれど、ここにあるカードは好きに使っていいんだ。今までデュエマをやった事がない人がデュエマを好きになってくれるかもしれない事が嬉しいからね。切り札を決めたら次はデッキの土台をきちんと作らないとね。それはそうと、松野君は《ケンジ・パンダネルラ》一枚でいいの?」
「大丈夫です!デッキのスーパーエースは一枚の方がかっこいいじゃないですか!」
 一枚のカードを持ってそう言う一を見て、健人は静かに頷く。
「判ったよ。それじゃ、二人とも。こっちにおいで」
 健人は壁側のカラーボックスに近づくと手招きをして二人を呼ぶ。二人がカラーボックスに近づくと、健人はその引き出しを開けた。
「あっ!」
 一も新之助も同時に声を上げる。その中には大量のデュエル・マスターズカードが隙間なく入っていたからだ。
「デッキの切り札になるようなレアカードはさっきみたいなファイルに入れておいて、デッキの土台になるような コモンやアンコモンのカードはこっちに入れてあるんだ。その中から使いたいカードを選んでごらん。判らないカードがあったら、僕が説明するからね」
「わっかりました!おい、えーと……永瀬だっけ?お前は三島先輩に教えてもらえよ。俺は一人でデッキを作ってみる」
「え?大丈夫なの?」
 口ぶりから察するに、一も新之助と同じように初心者のはずだ。しかし、彼の口調からは自信が溢れている。
「大丈夫だ!俺は中継とかも見てるから、どんなカードが強いかも知ってる。どんなデッキを作るかのイメージもできてる。それに……」
 途中から一は新之助の耳元に顔を寄せ、低い声になった。
「入部テストでは三島先輩か、サングラスの先輩と戦うんだぜ?手の内は明かしたくないんだよ。俺が三島先輩と戦うから、俺のデッキは三島先輩には内緒にするんだ」
 言いたい事を言った一は新之助から離れる。
「よし、判ったな!それじゃ、俺はまず、火と自然のカードを……っと」
「同じ名前のカードは四枚までだからね」
「大丈夫です。それも知ってます!」
 元気よく返事をした一はカラーボックスの中のカードを探し始めた。新之助はどうすればいいのか判らない様子で一を見ている。
「じゃ、永瀬君には先にデュエマのルールを教えてあげようかな。僕のデッキを一つ貸してあげるから、それで練習しようか」
「それじゃ、お願いします」
 健人に呼ばれ、新之助は彼についていく。健人はテーブルに自分の鞄を置くと、そこからケースに入ったデッキを取り出した。
 そんな調子で、一は一人でデッキの作成、新之助はルールの確認を中心に一日目を終えた。次の日も、そしてその次の日も二人は健人と一緒にデッキの作成と調整を行った。
 そして、静貴が言った入部テストの日がやってきた。
「付き合わせて悪かったな」
 放課後、教室を出た一は、同じように教室を出た新之助に声をかける。今になって謝られた事に戸惑いを感じながら新之助は答えた。
「いいよ。最初は驚いたけれど、やっぱりデュエマは楽しいから」
「だよなー!本当にデュエマって楽しいぜ。テレビで大会の中継見るのもいいけれど、やるのはもっと楽しいな!よっしゃ!入部テストで先輩に勝てば入部だ!毎日、デュエマができるんだ!」
 一は笑顔でドアから階段へと駆け出す。それを見て新之助が「待って!」と言った。
「あ、悪い。やっぱり、廊下は走っちゃいけないよな」
「ううん、そうじゃないんだ。松野君は何でデュエマをやろうと思ったの?」
「何で……って言われてもなぁ……」
 一は腕を組んでしばらく考える。その後、手を叩いてこう答えた。
「俺達、中学生になったんだぜ!だから、新しい事をやらなくちゃいけないと思ったんだ!」
「それだけ……?」
「ああ、それだけだ。ほら、行こうぜ!」
 そう言うと、一は新之助の手をつかんで走り出した。新之助は、三日前と同じように彼に引っ張られながら階段を降りて行った。

「それでは、今から入部テストを始めます」
 デュエマ部の部室に静貴の声が響いた。対戦用のテーブルには、健人、義男、一、新之助が座っている。
「三島健人対松野一。石黒義男対永瀬新之助。時間は無制限の一本勝負。公式のルールと同じでシールドを全てブレイクして直接攻撃をするか、相手の山札がなくなったら勝ちとします」
「いいデッキはできた?」
 静貴の説明に耳を傾けていた新之助は、一の前に座っていた健人に声をかけられて、慌てて首を縦に振る。
「もちろんっすよ!」
 一は元気よくそれに答えた。
「よかった。いいデュエマにしようね」
 健人は余裕のある微笑みを見せる。
「みっちゃん先輩は言う事が甘いな。おい、二人とも。今回はハンデとしてお前達二人に先攻はくれてやる」
「義男!そんな事言っていいの!?」
 一と新之助も余裕ぶった義男の言葉に驚いたが、それ以上に健人が驚いていた。
「あら。健人は先攻取られたら負けちゃう?そんなに自信ないの?」
 横ではそれを見た静貴がいやらしい目つきで笑っている。それを見た健人は口を尖らせて
「そんな事ないさ!いいよ、僕だってデュエマ部の部員だ。それくらいのハンデはあげるよ」
と、言った。
「へっ、相変わらず面白い先輩だぜ」
 健人のリアクションが気に入ったのか、サングラスの奥の瞳が笑う。だが、それも一瞬の事だった。
 デッキをシャッフルし、右手で取りやすい場所に置く。置かれたデッキの上から五枚のカードを取ると、その横に一枚ずつシールドとして並べた。最後に山札の上の五枚のカードを手札としてドローした時には二人の目つきは全力で戦うデュエリストのものになっていた。
「すげぇ!これが本当のデュエマかよ!永瀬、負けんなよ!」
「うん!」
 一と新之助も慣れない手つきでシールドをセットし、カードを五枚引く。互いに準備が終わった事を確認した静貴が合図をする。
「それでは、デュエルスタート!」
 先輩、後輩も関係なく、互いに礼をして対戦が始まった。今回はハンデとして、一と新之助が先攻を与えられている。新之助は一度山札の上のカードに触れ、はっとした表情で手を戻す。
「いけない。先攻の最初のドローはしちゃいけないんだった」
 横目で一を見ると、一も山札の上に伸ばしかけた手を慌てて引っ込めた。
「ヒュー。みっちゃん先輩の教えが行き届いてるじゃねぇの。二人ともルールはちゃんと覚えているみたいだな」
「へへっ、当たり前ですよ。俺達はこれからデュエマ部の部員になるんだ。だから、こんなミスはしませんって!ええっと、《力持ちのジェロン》をマナゾーンに置いてターンエンドっす」
 義男に褒められた一は得意そうな顔をして、鼻の下を人差し指でこする。そして、シールドよりも手前に上下を逆にしてカードを置いた。それはハンマーを持った動物のイラストが描かれた赤いカードだった。
「僕は、《究極神アク》をマナゾーンに置きます。多色のカードだからタップして置いてターンエンドです」
 新之助が置いたのは切り札として選んだカードの片割れだった。黒い石像のようなイラストが描かれたカードだ。それは、一がマナとして置いた《ジェロン》とは違い、横向きになった状態で置かれている。
「多色のカードはタップした状態でマナゾーンに置かれる。ちゃんとできているね」
 感心した様子で健人がカードを引いた。義男もそれに続く。
「さすがに1ターン目じゃ使えるカードはねぇか。俺は《デーモン・ハンド》をマナゾーンに置いてターンエンドだ」
「ドロー。僕も1ターン目から使えるカードはないな。《火焔タイガーグレンオー》をマナゾーンに置いてターンエンドだよ」
 義男は黒のカード、健人は赤いカードをマナとして置いた。一と新之助はそれを見て、それぞれの色とその特徴について考える。
 デュエル・マスターズには五つの文明が存在し、それぞれカードの色が異なる。
 義男がマナに置いた黒のカードは闇文明のカードだ。闇文明は、相手が行動するために出した生き物、クリーチャーや相手の手札などを破壊する事を得意としている。
 健人が置いた赤いカードは火文明のカードだ。火文明は攻撃的な戦い方を得意としている。クリーチャー同士の戦いを得意としているクリーチャーも存在する。
「火文明のカードか。相手にとって不足はないぜ!ドロー!《ナチュラル・トラップ》をマナゾーンに置いて、《ナチュラル・トラップ》と《ジェロン》をタップ。《無頼勇騎ゴンタ》を召喚!」
 カードをドローした一は、まず、緑色のカードをマナとして置いた。
 緑色のカードは自然文明を意味する。自然文明はマナを増やすなど、マナに関する能力を持つカードが多く、クリーチャーのパワーも高いものが多い。
 一が召喚したのは火文明と自然文明の力を持ったクリーチャー《無頼勇騎ゴンタ》だった。《ゴンタ》は召喚する時に火と自然、両方のマナを必要とする。そのため、パワー4000という2コストという序盤で召喚できるクリーチャーとは思えないほどの高いパワーを持っている。
「召喚したばかりのクリーチャーは召喚酔いで攻撃できないから、これでターンエンドっす」
「いきなり大きいのが来たか。それじゃ、僕は《恵みの大地ババン・バン・バン》をマナゾーンにチャージして呪文《フェアリー・ライフ》を使う。山札の上のカード、《ストーム・クロウラー》をマナゾーンに置いてターンエンドだ」
「げっ!いきなり、マナが増えた!」
 健人と対峙していた一は対戦相手が使ったカードを見て驚いた。
 呪文はクリーチャーとは違い、バトルゾーンに残る事はできない。使用後はすぐに山札に右横にある墓地に置かれてしまう。しかし、場に出した瞬間、効果が使えるのだ。
 今回、健人は自然文明の呪文《フェアリー・ライフ》を使った。これは自分の山札の一番上のカードをマナゾーンに置く呪文だ。これによって健人のマナゾーンには青いカードが置かれた。
 青いカードは水文明を差す。水文明は手札を増やしたり、クリーチャーやマナを手札に戻したりするなど、手札に関するカードが多い。一番テクニカルなカードが揃っているのが水文明だ。
「みっちゃん先輩お得意のマナブーストか。永瀬、お前も来いよ」
「わ、判りました。えっと……まず、タップされた状態のマナをアンタップしてドローして……《光陣の使徒ムルムル》をマナゾーンに置いてターンエンドです」
「ここで行動はなし、か。なら、俺から行くぜ」
 義男のサングラスの奥の瞳が自分の手札を見つめた。その鋭い視線を、新之助も見守っている。
「ドロー。そして、マナゾーンには《ナチュラル・トラップ》をチャージ。俺もみっちゃん先輩と同じように《フェアリー・ライフ》を使う。山札の上から《炎獄の剛魔ビルギアス》をマナゾーンに置いてターンエンドだ」
 義男は《フェアリー・ライフ》でマナを増やしたが、健人とは違い、置かれたのは闇文明のカードだった。
「大丈夫。マナが増えただけだ。俺のバトルゾーンには《ゴンタ》があるんだ。さらに追加で《ジェロン》を召喚!」
 ドローとマナチャージを終えた一は二枚のマナをタップして《力持ちのジェロン》を召喚する。《ジェロン》のパワーは1000と低いが、攻撃をした時は2000追加されてパワーが3000になる。《ゴンタ》とは違い、火文明のマナだけで召喚できるので召喚も簡単だ。
「もう《ゴンタ》は召喚酔いしてない!《ゴンタ》で三島先輩のシールドを攻撃だ!」
 一は《ゴンタ》を横向きにし、シールドとして置かれている五枚のカードの内、一枚を指した。
「このシールドをブレイクだね。じゃ、確認しようか」
 健人は一に見えないように指定されたシールドのカードを見る。そして、口の端で笑った。その笑みを見た時に、一の背筋に寒いものが走る。
「やべっ!やっぱ、別の……」
「もう遅い!これはシールド・トリガーさ!《火焔タイガーグレンオー》をタダで召喚!」
 《ゴンタ》で攻撃に指定されたシールドが表向きになってバトルゾーンに置かれる。シールドがブレイクされた時、コストを支払わずにバトルゾーンに出して能力を使う事ができるものがある。それが、シールド・トリガーである。
 健人が召喚した《火焔タイガーグレンオー》は本来、火文明のマナを含んだ7コストのマナを支払わなければ召喚できない。しかし、シールド・トリガーを持ち、ブレイクされたシールドに入っていたため、コストを支払わずに召喚できたのだ。
「《タイガーグレンオー》がバトルゾーンに出た時の効果を使う!効果で松野君のパワー2000以下のクリーチャーを全て破壊!」
「げっ!パワー2000以下って事は、出したばかりの《ジェロン》が破壊されるって事か!ショックだ~」
 一は召喚したばかりの《ジェロン》を墓地に置いた。《タイガーグレンオー》はクリーチャーなので、これでクリーチャーの数では互角になった。
「まだだよ!マナをチャージして《ストームジャベイン・ワイバーン》を召喚!」
「げぇっ!すげぇパワーだ!」
 健人が召喚したクリーチャーを見て、一が声を上げた。
 彼が召喚した《ストームジャベリン・ワイバーン》はシールドへの攻撃や相手プレイヤーのとどめに使う事ができない。そのデメリット故に、4という低いコストとは思えない7000という高いパワーを持っている。
「クリーチャーを攻撃できない《ストームジャベリン・ワイバーン》だけど、これならどんなクリーチャーも攻撃して倒せる。次に《ゴンタ》が攻撃してきたら、返り討ちにしてあげるよ」
「ぐ……くっそ~」
「みっちゃん先輩は余裕みたいだな。お前はどうだ、一年?」
 義男がサングラス越しに挑発的な視線を新之助に向ける。新之助はマナのアンタップ、ドローの後、自分のカードをじっと見つめた。
「《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》をマナゾーンに置いて《エナジー・ライト》を使います。山札から二枚ドローしてターンエンドです」
「《ゼン》と《アク》の四文明が揃ったか」
 義男は新之助のマナゾーンのカードを見て、そう呟いた。
 《超絶神ゼン》は召喚に光文明と自然文明のマナを必要とし、《究極神アク》は召喚に闇文明と水文明のマナを必要とする。今の新之助のマナゾーンには闇と水の《アク》が一枚、光の《ムルムル》が一枚、自然の《青銅の鎧》が一枚ある。もう一枚、闇か水のカードが置かれれば、《ゼン》と《アク》を出すのに必要な文明のマナが揃う。
「《エナジー・ライト》を使ったって事は手札補充の重要性は判っているみたいだな。初心者はこれをおろそかにしがちだが、お前は違うみたいだ。だが、それだけじゃ俺には勝てねぇよ!」
 義男はアンタップ、ドロー、マナチャージを終えて自分の手札にあるカードを吟味する。しばらく思考した後、一枚のカードをバトルゾーンに出した。
「《青銅の鎧》召喚!マナを増やしてターンエンドだ!」
 義男が召喚したのは《フェアリー・ライフ》を内蔵したようなクリーチャー《青銅の鎧》だ。召喚時に山札の上のカードを一枚、マナゾーンに置く能力を持っている。
「すごい……。僕のマナはまだ三枚なのに、もう五枚も……」
「ぼやぼやしてたら置いてっちまうぞ」
 後輩が驚くのを見た義男は気を良くしたのか機嫌が良さそうに微笑んだ。経験者の先輩二人を相手に追い詰められながら、初心者の一年二人は自分の手札を睨みながら対策を考えていた。

 数ターンが経過した。
 それぞれ、一進一退の攻防が続いている。まだ誰も切り札と呼べるような強力なクリーチャーは召喚していなかった。
「くっそ~。思ったように速攻できね~」
 そう言って、一は自分の手札とバトルゾーン、そして健人のシールドを見た。
 一はまだ一度もシールドをブレイクされていない。無傷の五枚だ。
 しかし、召喚して攻撃したクリーチャーは全て《ストームジャベリン・ワイバーン》によって殴り倒されてしまう。攻撃するとタップされるので攻撃をためらっていると、呪文やクリーチャーの能力でマナや手札に送られてしまう。そのため、攻撃が進まない。
 今、一のバトルゾーンに残っているのは《弾け山のラルビン》と《翔天幻獣レイヴン》のみ。健人のバトルゾーンには《ストームジャベリン・ワイバーン》が絶対の守護神として鎮座している。
「僕の残りシールドは三枚か……。そろそろ切り札を出さないとこっちが危ないな」
 マナとクリーチャーのアンタップを終えた健人がドローして手札を見る。そして「行けるね」と呟いた。
「マナのカード八枚全部をタップ!そして、《恵みの大地ババン・バン・バン》を召喚!」
 健人は手札から一枚のカードを選び、バトルゾーンに出した。そのクリーチャーを見た途端、一の目の色が変わる。
「げっ!《ストームジャベリン・ワイバーン》よりも高いパワー9000!?しかも、W・ブレイカーかよ!?」
 様々な装飾を見に纏った四足歩行の草食動物を思わせるクリーチャー《ババン・バン・バン》は一が言うように高いパワーとW・ブレイカーを持つ。しかし、このクリーチャーの真の力はこんなものではない。
「《ババン・バン・バン》の効果を発動!今の僕のマナゾーンのカードと同じ数だけ山札のカードをタップしてマナゾーンに置く!」
「嘘だろ!?やめてくれよ!」
 一が懇願するのも無理はない話だった。これで健人のマナゾーンのカードは八枚の倍の十六枚になった。これなら出せないカードはないと言っても過言ではない。
「サングラスの先輩が言ってたお得意のマナブーストってこういう事かよ。すげぇな。これが三島先輩の切り札か」
「切り札、ねぇ……。いや、何でもない。ターンエンドだよ」
 妙に引っかかる発言の後で、健人はターンを終える。
「さて、どうする、一年?みっちゃん先輩もマナブーストの鬼としての本領を発揮しちまったから、俺もそろそろ学園デカとしての本領を発揮しちまうぜ?」
 義男の口元が怪しく微笑んだ。
 義男のシールドは一枚ブレイクされただけで、四枚残っている。バトルゾーンにあるのは《炎獄の剛魔ビルギアス》と《死神獣ヤミノストライク》だ。
 対して、新之助のシールドは二枚。バトルゾーンにあるブロッカー《光陣の使徒ムルムル》《曙の守護者パラ・オーレシス》《霊王機エル・カイオウ》で守りを固めている。
「大丈夫です。僕にはブロッカーがいます」
「ああ、確かに厄介だな。元々のパワーが高い《エル・カイオウ》にブロッカーのパワーを3000上げる《ムルムル》、相手のターンのみクリーチャーのパワーを2000上げる《パラ・オーレシス》か。《ビルギアス》も《ヤミノストライク》もパワー1000のザコクリーチャーだ。正面突破は無理か。新入りの作戦勝ちだな」
 義男が溜息を吐いたのを見て、新之助の表情が輝く。守りに徹していれば勝てるかもしれない、という自分の作戦が成功したからだ。
「だが、そううまくはいかねぇよ」
 しかし、義男はその希望を容赦なく打ち砕く。アンタップ、ドロー、マナチャージを終えると手札から一枚のカードをバトルゾーンに出した。
「《魔刻の斬将オルゼキア》を召喚!こいつは、俺のクリーチャー一体を破壊し、同時にお前のクリーチャー二体を破壊する!」
「えっ……!?二体も!?」
「ああ、そうだ!俺は《ヤミノストライク》を破壊!お前も自分のクリーチャーから二体選べ!」
 いきなり、とてつもないクリーチャーが登場した。
 《魔刻の斬将オルゼキア》はバトルゾーンに出た時に強力な効果を発揮するクリーチャーだが、それだけではない。パワーが6000のW・ブレイカーであり、シールドへの攻撃要員としても充分な力を持っている。
 それを見た新之助は迷った挙句、ブロッカーのパワーを上げる《ムルムル》を残し、他の二体のブロッカーを墓地に置いた。
「でも大丈夫。今、シールドを攻撃できるのはパワー1000の《ビルギアス》だけだし、《ムルムル》のパワーでも対抗できる……」
「まだまだだぜ、新入り」
 再度、義男が希望を打ち砕く。彼は、マナのカードをタップせずに手札から一枚のカードを引き抜いた。
「《ヤミノストライク》が破壊された時の効果を発動させる!俺はこの効果で7コスト以下のデーモン・コマンドをバトルゾーンに出す!行くぜ!」
 義男は手札から引き抜いた一枚のデーモン・コマンドを《ビルギアス》の上に重ねた。それは白い体をした巨大なクリーチャーだった。
「進化クリーチャー《死神明王ガブリエル・XENOM(ゼノム)》だ」
「嘘……!パワーが11000もあるなんて!?」
 《ビルギアス》から進化した《死神明王ガブリエル・XENOM》はケタ違いのパワーを持っていた。しかも、W・ブレイカーを持っている。
「驚くのはまだ早いぜ。《ガブリエル・XENOM》で新入りのシールドを攻撃!攻撃する時の効果で山札の上のカード三枚を捨てる!」
 新之助は驚いた顔で義男を見た。山札がなくなったら負けてしまうのに、山札の上のカードを捨てる事など自殺行為に見えたからだ。驚いた顔を見た義男は口元に笑みを浮かべて説明する。
「ちゃんと意味があるんだぜ。こいつは攻撃した時に山札の上のカード三枚を捨てる事で相手のクリーチャーを破壊できる!俺が破壊するのはバトルゾーンに残った《ムルムル》だ」
「そんな……。最後の一体が……」
 三体もいたブロッカーが1ターンで全滅してしまった。そして、相手の場にはパワーの低いクリーチャーしかいなかったはずなのに、いつのまにかW・ブレイカーのクリーチャーが二体並んでいる。
「これがデュエマだぜ、新入り。《ガブリエル・XENOM》の効果で墓地のカードを一枚手札に回収。W・ブレイク!」
 新之助の最後のシールドが破られていく。義男の圧倒的な強さの前に絶望しながらシールドを見た時、彼は小さく声をあげた。
「まだ……。まだです!シールド・トリガー!《デーモン・ハンド》で《ガブリエル・XENOM》を墓地へ!」
 これにより、《ガブリエル・XENOM》は破壊され、残ったのは《オルゼキア》だけになった。しかし、新之助が不利な事に変わりはない。
「くっそ……。大会の真似をして速攻デッキ作ったのに、全然強くないじゃないか。それに、どうして先輩はこんなに強いんだよ!?」
 一は自分のイメージしていたデュエマと現実のデュエマの違いに戸惑っていた。それが叫びとなって口から出る。
「これじゃ、もう勝てない……」
 新之助も同じだった。防御を固めて相手の攻撃を徹底的に防いで切り札が来るまでの時間を稼ぐ作戦で今日の入部テストに挑んだのだ。しかし、義男の闇カードによる破壊力に押し負けていた。
 二人の心は既に折れている。対戦は終わっていないが、二人は先輩に完全に飲まれていた。
「三日前まで初心者だったにしてはよくやった」
「そうだね。ルールを覚えて自分でデッキを作って戦えるだけでも充分だよ」
 勝利を確信した義男と健人も慰めるような声をかける。そして、自分のカードを片づけようとしてバトルゾーンに手を伸ばした。
「何をしているの?」
 静貴の一言が部室に響き、二人は手を止めて彼女を見た。
「まだ、デュエマは終わっていないわ。誰かが勝った訳でも、誰かが負けた訳でもない。クリーチャーで相手を直接攻撃するその時までデュエマは終わらない!ほら、二人とも何しているの?」
 静貴に見られた一と新之助は戸惑っている。どう見ても自分達の負けは明らかだと思っていたからだ。
「あなた達、もう勝てないと思っているの?決してそんな事はないわ。一君のシールドは無傷の五枚。健人はチキンだからまだ一枚もブレイクできていないのよ」
「ちょっと静貴!僕はチキンなんじゃなくてちゃんと考えがあってやっているんだよ!」
「新之助君は《ゼン》と《アク》をデッキに入れているのよね?今、シールドはないから、シールドに切り札が埋もれているっていう事はない。だから、次のドローで切り札の片方が引けるかもしれないわよ。リンクした《ゼンアク》なら、義男なんか敵じゃないわ!」
「おっと、デカチョー。引く前に俺が勝ってみせますぜ」
 健人も義男も静貴の言う事に反論する。しかし、それも本気で言っているのではない。静貴が二人の挑戦者を元気づけるために言っている事が判っているのだ。
「……そうか!そうだよ!俺には切り札の《ケンジ・パンダネルラ将軍》があるんだ!」
「シールドがないから、だから次のドローで引けるかもしれない。僕のデッキには健人先輩からもらった《ゼン》と《アク》が三枚ずつ入っているんだ。お願い、来て!」
 一と新之助が山札の上のカードに触れる。二人はその一枚に願いを込めて引いた。カードを見た二人の目が輝き、先輩達二人は顔を合わせた。
「《翔天幻獣レイヴン》を《独裁者ケンジ・パンダネルラ将軍》に進化!」
「《超絶神ゼン》を召喚します!」
 一と新之助の切り札がバトルゾーンに現れる。満を持して登場した自分の切り札を見て二人の顔から笑みがこぼれた。
「まさか、この状態で引いたのかよ!ヒュー!やるじゃねぇか」
「デッキを信じたから、デッキが答えた。そういう事かな」
 しばらく自分の切り札を見ていた二人の挑戦者は、自分達の前にいる先輩を見た。今こそ、反撃の時だ。
「よっしゃ!《ケンジ・パンダネルラ》が出れば俺の勝ちだ!三島先輩を倒して俺は絶対に入部する!《ケンジ・パンダネルラ》で三島先輩のシールドを攻撃!そして、攻撃する時の効果で山札の上をめくる!」
 一の切り札、《独裁者ケンジ・パンダネルラ将軍》は攻撃する時に山札の上のカードをめくり、全てのプレイヤーに見せる。そのカードがドリームメイトかビークル・ビーの進化ではないクリーチャーならばコストを支払わずにバトルゾーンに出せるのだ。
「めくったカードは《力持ちのジェロン》だ!こいつをバトルゾーンに出し、W・ブレイク!さらに《弾け山のラルビン》で最後のシールドをブレイク!」
 怒涛の連続攻撃が決まる。三枚あった健人のシールドは全てなくなってしまった。
「よし!《ケンジ・パンダネルラ》と《ラルビン》がやられても《ジェロン》が残ってる。このデュエマは俺の勝ちだ!」
「やれやれ。さっきまでとは大違いだね」
 一の変わりようを見た健人が呟く。一方、義男は何も言わずに新之助が召喚した《ゼン》を見ていた。
「僕はもうマナを全て使ってしまいました。これでターンエンドです」
 新之助の行動は《超絶神ゼン》の召喚だけで終わってしまった。しかし、その目は敗北しか見えなかったさっきまでとは違い、勝利が見えている。
 《ゼン》は《究極神アク》とリンクする事で真の力を発揮するクリーチャーだ。しかし、単体でもパワー8000のW・ブレイカーであり、ブロッカーでもある。義男の《オルゼキア》が攻撃してきてもブロックして返り討ちにできるだけのパワーを持っている。
「すげぇぞ、俺達の切り札!おい、永瀬!これなら俺達、勝てるかもしれないぜ!」
「うん。……うん、勝てるよ!」
 一と新之助は見えてきた勝利の可能性に興奮し、無邪気に喜んでいた。一方、健人は眼鏡のブリッジを軽く押し上げ、義男にこう言った。
「なかなかやるね。義男、僕らも切り札を出そうか」
「ああ」
 義男はそれにそっけなく答える。それを聞いた瞬間、二人の挑戦者の表情は凍りついた。
「ドロー。マナチャージはしない。《ストームジャベリン・ワイバーン》を《聖剣炎獣バーレスク》に進化!」
「嘘……。嘘だろ!?《ババン・バン・バン》よりも強い切り札があったのか!?」
 驚いた一が身を乗り出して健人の切り札を見る。健人が《ストームジャベリン・ワイバーン》に重ねた進化クリーチャー《聖剣炎獣バーレスク》はパワー8000のW・ブレイカーだ。しかし、ただのW・ブレイカーではない。
「入部テストで僕達が切り札を使ったのは君が始めてだ。行くよ。《バーレスク》で松野君のシールドをW・ブレイク!」
 《バーレスク》の攻撃で一のシールド二枚が破られる。彼は期待して破られたシールドを見るが、その中にシールド・トリガーはなかった。
「でも、大丈夫だ。三島先輩の攻撃できるクリーチャーは《ババン・バン・バン》一体。これなら、俺のクリーチャーは生き残って次のターンで勝てる!」
「ターンエンド。《バーレスク》の特殊能力が発動。《バーレスク》はターンの終わりに手札に戻る」
「え?戻っちゃうの?9マナも使ったのに何か勿体ないっすね。それじゃ、俺のターン――」
「いや、君のターンは二度と来ない。《バーレスク》がシールドのブレイクを邪魔されなかったら、効果でもう一度僕のターンができる!」
「げっ!ずるいですよ!」
 一の抗議を受けながら、健人は眉ひとつ動かさずにアンタップとドローを終える。そして、《ストームジャベリン・ワイバーン》を召喚し、それを《バーレスク》に進化させた。
「《バーレスク》で松野君のシールドをW・ブレイク!そして《ババン・バン・バン》で最後のシールドをブレイク!」
「くそ……。駄目だ。シールド・トリガーが一枚もないや」
「ターンエンド。そして、もう一度僕のターンだ。《ストームジャベイン・ワイバーン》を召喚し、《バーレスク》に進化!《バーレスク》で松野君にとどめだ!」
「くっそー!負けちまった……!」
 一は悔しさに声を震わせ、両手の拳を強く握りしめた。
「松野君!」
「次はお前だぜ」
 一を心配して声をかける新之助に、義男が死刑宣告をするような低い声で告げる。彼は右手の人差指と中指で一枚のカードを挟んでいた。
「俺がさっきのターン《ガブリエル・XENOM》で墓地からカードを回収したのを覚えているか?回収したカードが俺の切り札だ」
 マナをタップし、義男は《オルゼキア》の上にそのカードを置いた。
「これで逮捕だ!《オルゼキア》を《悪魔神ドルバロム》に進化!」
 《悪魔神ドルバロム》とは、デーモン・コマンドから進化するクリーチャーである。バトルゾーンに出た時、自分と相手のバトルゾーンから闇以外のクリーチャーを全て破壊し、その後、自分と相手のマナゾーンから闇以外のカードを全て破壊する能力を持っている。
「さあ、闇じゃない奴には消えてもらうぜ!出た時の効果で《超絶神ゼン》を破壊!これでがら空きだな!永瀬新之助!お前に直接攻撃して逮捕だ!」
「そんな……。《ゼン》も出せて、もうちょっとだと思ったのに……」
 新之助もその場で俯いた。そして、自分のデッキを片づけて健人に差し出す。一も同じように作ったデッキを健人に差し出した。
「このデュエマは俺達の負けです。だから、デッキを返します」
「そうです。入部テストは不合格ですよね」
 それを見た健人は困ったような顔で静貴を見た。義男は溜息を吐いている。
「ねぇ、二人とも。何で、入部テストが不合格だったって思うの?」
 静貴は二人の挑戦者に顔を近づけて聞いた。
「だって、俺達……負けちゃったし」
 一は今にも泣きそうな声で答えた。
「ねぇ、静貴。やっぱり、僕達の説明の仕方が悪かったんじゃないかな?」
「う~ん、そうみたいねぇ」
 健人に指摘されて、静貴は指先で頬をかく。その様子を見て、義男が口を開いた。
「おい、新入り二人。俺達は誰も入部テストの合格条件が『俺達二人に勝つ事』だなんて言った覚えはないぞ。というより、よく考えたら誰もどうやったら合格できるか言ってねぇよな」
 それを聞いた一と新之助は顔を上げた。
「勝手に不合格なんて決めつけるな。大体、お前らのためのあだ名を考えた俺の気持ちはどうなるんだ」
「あだ名はともかく、勝手に不合格なんて思わないで。あなた達、二人とも合格よ!」
「え?」
 一と新之助は驚いて顔を見合わせた。そして、改めて静貴を見る。
「合格なの。入部テストの合格条件は『デュエマを楽しんでいる事』よ。強いかどうかじゃない。デュエマを楽しんでいるかどうか、それが問題なの」
「三日間、デッキを作っているところを見たけれど、僕は二人がデュエマを楽しんでいたと思うよ。僕は合格に反対しない」
「対戦した俺にも判る。お前らは俺の後輩になるべき奴らだ。よろしくな、イチ!シン!」
 健人と義男は二人に右手を伸ばす。それが握手だという事に気付くまで少し、時間がかかった。
「そ、それじゃ俺達はデュエマ部の部員でいいんですね!?」
「そうよ。これから毎日、デュエマしようぜ?」
「やったー!」
 静貴の声を聞いて二人は歓声と共にその場で跳びあがった。
「ほら、これは二人のデッキだ。これからも大事にするんだよ」
 健人が二人にデッキを渡す。一と新之助はそれを受け取って自分のデッキを見た。
「ありがとうございます!みっちゃん先輩!これからも俺、がんばります!」
「み、みっちゃん先輩……ね。義男!お前が変なあだ名つけるからもう悪影響が出ちゃったじゃないか!」
「おっと、それは俺のせいじゃないぜ、みっちゃん先輩。イチ、なかなか見どころがあるな」
 その日、五人の部員が揃ったデュエマ部の部室は久しぶりに愉快な笑い声に包まれた。
 これは、松野一、永瀬新之助という二人の初心者がデュエル・マスターズというカードゲームに出会い、成長していく物語である。

 第一話 終

 次回予告
「みんな、こんにちは!阿部野静貴です!デュエマ族第一話は楽しんで読んでくれたかな?次回は……ええっ!?入部を決めたと思った永瀬君がいきなり、退部!?そして、番長に狙われてデュエマで対決!?大丈夫よ、永瀬君。デュエマに腕力は関係ないわ。切り札の《ゼンアク》でやっつけてやりなさい!かくして不良との一騎打ちが始まる!『第二話 ライバル登場!必殺シールド・トリガー・カウンター』次回も読みなさいよね!」
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