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『TOKYO決闘記』 第三十二話 月光

『TOKYO決闘記』

私、一ノ瀬博成は東京連続失踪事件の謎を調査した高校二年生だ。
ドナルド・マックイーンに招待された青海ゆかりは彼の住むマンションへ向かう。ボディガードとしてついていった赤城勇騎と私は、近くのコンビニで様子を見る事になる。異変を感じた勇騎はゆかりを助けるため、ドナルドのマンションに向かった。
一方、マンションの中では怪盗アルケーとドナルドが対峙していた。アルケーはドナルドを手に入れるため、ドナルドはアルケーの思い出を得るために、それぞれ戦う。ドナルドは《サイバー・G・ホーガン》でアルケーを追い詰めるが、アルケーは《ネプチューン・シュトローム》を使い、ドナルドのクリーチャーを全て消し去り、勝利する。
戦いが終わった部屋の中で、アルケーは仮面をつけずに勇騎と対峙する。そして、勇騎に自分が怪盗アルケーであると言い放った。
20XX年 一ノ瀬博成

第三十二話 月光
勇騎は目の前にいる少女を見ていた。その姿は青海ゆかりだ。しかし、その表情や気迫は全く別人のものになっている。
「二重人格だな。『球舞』の八百万八卦と九重九十九のようなものだ。青海ゆかりという人格がカムフラージュとなり、俺達を欺くのに使っていた」
「動揺していると思ったが、そうでもないようだな。それとも、動揺しているからそんな結論に達するのか?」
アルケーは勇騎の顔を見て怪しく笑う。保持者は居心地の悪そうな表情で彼女を見ていた。
「やめろ。俺達の知っている青海ゆかりはそんな笑い方をしない」
「ここにいるのは怪盗アルケーだ。青海ゆかりではない。君がそんな事を言うとは。この世界に来て人間に感化されたんじゃないのかな?」
「やめろ……」
「お前は弱くなったんだ。自覚しろ。今のお前には負ける気がしない」
「やめろ!」
勇騎の怒声を聞いてアルケーがまた微笑む。その反応が嬉しくてたまらないと言うように。
「私は二重人格者ではない。確かに、青海ゆかりという人格に怪盗アルケーが入り込んでいるが私達は別の存在だ。いや、別の存在だったと言うべきか。今から二年ほど前に、私はこの女に寄生した」
「何故だ!何故、青海を選んだ!」
「聞きたいか?聞きたくないと言っても教えてあげよう。その脳に刻み込んでやる」
アルケーが冷たく微笑む。勇騎はその微笑みに魂を吸い取られそうになっていた。
「あの日。実験施設『アカシック・マイナ』で墨川一夜が暴走し、一人の保持者と四人の保持者のなりそこないが別の世界に飛ばされたあの日だ。私はこの世界に辿りついた時には体を失っていた。魂だけの存在となった私は一番強い肉体を奪う事を考えた。一番強い保持者である君の体だ」
「俺の体を……?」
「そうだ。気配を追った私は、君を見つけた。しかし、君には隙がなかった。肉体を奪うために近づいたら、かき消されてしまうかもしれない。だから、君の近くにいた青海ゆかりの体を奪う事にしたのだ。尤もそれも完全ではなく、私という存在が彼女の人格を間借りしているような状態になってしまったがね」
「青海が俺の近くにいたから、狙ったというのか」
「そうだ。それ以外の理由はない。君のせいなんだ。そして、君と実験施設で生まれたくだらない失敗作を助けた青海の優しさのせいだ。君達が出会わなければ!誰も君達に近づかなければ!この世界に怪盗アルケーは誕生していなかった!どうする?青海ゆかりに詫びるかい?詫びるなら、死んで詫びるといい!」
アルケーは『ツナミ』を突き付ける。そのデッキが青く輝いた。しばらく迷ったような表情をしていた勇騎だったが、それを見て『プロミネンス』を取り出す。彼の手の中でそのデッキは赤く輝いた。
「今夜は月が綺麗だ。この世界で保持者として君と出会った夜を思い出す」
アルケーは後ろ手で部屋のカーテンを開ける。ビルの谷間から木漏れ日が差すように優しい月明かりが部屋を照らす。
「出会った時と似たような月光。私達の終わり、そして新たな始まりにふさわしい。そうだろう?」
「青海、聞こえているか」
月明かりを受けながら、勇騎がはっきりした口調で言葉を発する。その言葉にアルケーは眉をひそめた。
「何のつもりだ?」
「返事はしなくていい。聞いてくれ。俺は怪盗アルケーから君を取り戻す。だから、心配するな。そこで待っていてくれ」
それは戦士としての口調とは違う温かさを内包したものだった。アルケーに支配されて表に出られないゆかりに語りかけるように優しく柔らかい口調で話す。
「帰ろう。怪盗アルケーとして動いていた事は全て悪い夢だと思って忘れるんだ。お前にはお前らしい場所がある。そこに帰るんだ」
勇騎の双眸がアルケーの姿を捉える。二つの瞳に睨まれたアルケーは背筋に冷たいものを感じていた。
「戯言を!青海ゆかりに君の言葉は届いていない!眠った姫を救う王子様のつもりか?」
「あいにくだが、俺はそういうものに興味がない。そんなつもりで言った言葉でもない。だが、これは真実だ。俺はどんな手を使ってでも青海ゆかりを取り戻す!彼女がいるべき世界に!仲間達と過ごす人間の少女の世界に必ず返す!」
勇騎とアルケー、二人のいる世界が現実からデュエルをするための世界に変わる。互いの五枚のシールドを展開し、デュエルが始まった。
「その力。その強さ。必ず奪ってみせる!」
アルケーは《フェアリー・ライフ》を使ってマナを増やした。今までとは違うアルケーのデッキを見て、勇騎の指先が止まる。
「自然のカードか」
「そうだ。いつもの私と一緒だと思っては困るな」
アルケーの戦略を考えながら、勇騎は山札の上のカードに触れる。その耳に、アルケーの声が届く。
「青海ゆかりを取り戻すと言ったが、どうするつもりかな?私を倒せば青海ゆかりから出て行くとでも思っているのか?それは違う。青海ゆかりの肉体も傷つくぞ。私がいなければ、ただの人間の小娘だ。死ぬかもしれないな」
「それがどうした」
全く感情のこもっていないような冷たい声で勇騎が答える。あまりに冷静さにアルケーは耳を疑った。
「俺はお前に真実を突き付ける。黙ってそれを受け入れろ」
「まさか……。まさか、君は青海ゆかりを殺す事が救いになると思っているのか?死なせる事で解放するという……そんな馬鹿げた事を考えているのか!?」
勇騎は答えない。《フェアリー・ライフ》でマナを増やしてアルケーを見た。それは敵を見る時の瞳だった。
「いいだろう。だが、私を倒すという事が間違っている。それを教えてやるよ!」
アルケーは《エナジー・ライト》を使って手札を増やした。勇騎は何も言わずに《コッコ・ルピア》を召喚する。
「ドラゴンデッキか。それで私の速度に追いつけるとは思えないな」
「無駄口が多いな」
ナイフのように鋭く氷のように冷たい勇騎の口調。まるで初めて出会った時のような彼の口調にアルケーは違和感を覚えていた。
今の勇騎は、『球舞』との戦いの前の彼に似ている。この世界で多くの仲間と出会い、彼らの肩を借りる事を知った今の彼とは違う。孤独で孤高で冷たい戦士の顔だ。
「俺が人間に感化されて弱くなったと言ったな。本当に弱くなったか、お前の目で確かめろ」
勇騎とアルケーの目の前に赤い龍が現れる。大きく広げた翼にいくつものミサイルを装備した《インフィニティ・ドラゴン》はアルケーのシールドを見て雄々しく吠えた。《インフィニティ・ドラゴン》が出た事で勇騎のドラゴンは場を離れにくくなった。
《インフィニティ・ドラゴン》は強力なドラゴンだ。九重九十九との戦いでも勇騎の勝利に貢献した。しかし、これは切り札を待つまでの中継ぎに過ぎない。本当の切り札は別のところにあるのだ。
赤い龍の姿を見たアルケーは口元をカードで覆って思考する。ドラゴンを除去できないのなら、相手の切り札が出るよりも早く自分の切り札を出せばいい。アルケーの切り札は強力なドラゴンを圧倒するだけの力がある。出せば、それだけで勝ちに直結するようなカードだ。
「まず、厄介な鳥を片づけるか」
アルケーが一枚のカードを投げた瞬間、勇騎の《コッコ・ルピア》が輝きだす。光に包まれたそのクリーチャーはカードへと変化し、シールドゾーンに飛んでいった。
「《魂と記憶の盾(エターナル・ガード)だ。前のターンで《ブレイン・チャージャー》を使ったからまだ動けるぞ!》
アルケーは《エナジー・ライト》で手札を増やした。手札とマナを増やしているが、クリーチャーは一体も出ていない。情報が少ないため、勇騎はアルケーの切り札が予測できずにいた。
「大型クリーチャーか、それとも重いカードを使ったコンボか?お前が出すよりも先に俺が切り札を出す!」
そう言って勇騎は自分の山札の上のカードに触れた。

美土里は暖かい部屋の中にいた。彼女の眼は右手のお猪口に注がれる熱燗を見ている。充分に温められた酒の熱が掌に伝わってくるのを楽しんだ後、彼女はその液体を一口で飲み干す。
「いい飲みっぷりだね」
白い徳利を持っていた豪人は空になったお猪口に酒を注いだ。彼の手元には透明なグラスに入ったウーロン茶が置かれていた。
「酒は嫌いじゃないからね。それにこんないい酒は久しぶりだ。大吉の財布から一万円札を取った時以来かな。……あんたは飲まないのかい?」
「この後で勇騎君達を迎えに行かないといけないからね。飲酒運転はできないよ」
「そうだね。それじゃ、これはあたしがもらっておくよ」
そう言うと、美土里はお猪口の中の酒を飲み干し、小鉢に入った煮物に箸を伸ばした。
「どうぞ、ごゆっくり。僕は取らないよ」
改めて美土里に酌をした豪人は、煮物を食べ始めた。
数日前にヴェルデと共にやってきた美土里は、本来、勇騎達の敵『試験官』のはずだ。しかし、彼女は敵対するような素振りを一切見せず、ヴェルデを救うのに協力した。ヴェルデが元の世界に帰った後も勇騎達と戦おうとしなかった。ただ、一言「よろしく」と言って豪人の住むマンションに毎日のように訪ねてくるようになった。勇騎や博成は警戒していたが、彼女の友好的な態度を見て敵ではないと判断したらしい。今では、毎日のように豪人と一緒に晩酌を楽しんでいる。
「ところで、そろそろ話してくれてもいいんじゃないかな。君の組織のトップについて」
豪人の口から出た言葉を聞いた瞬間、美土里の手が止まった。それを見ながら豪人は続ける。
「君が何かを恐れてここに来ているのは知っている。自由奔放に活動する君を組織が放っておくとは思えないからね。ヴェルデ君を助けた事に対して、何らかの罰があるんだろう。君はそれから逃れようとしている。そうなんじゃないかな?」
「お見通しってわけだ」
「ああ。もし、奴らの追跡が不安だったら、しばらくの間、隣の美和の部屋にいるといい。美和は了承しているよ」
美土里は震える手でお猪口を置こうとした。手の震えが移り、波のように揺れた。
「『試験官』にそれぞれ与えられた目的は、自分と同じ文明のデッキを持つ保持者と接触し、そのデッキを奪う事だ。あたし達のデッキは所詮、保持者のデッキのレプリカに過ぎない。『球舞』の連中や奴らの下にいるチンピラみたいな奴らのデッキよりはマシだけど、保持者のデッキにはかなわない」
「君はヴェルデ君が持つ『グランドクロス』を奪うのが仕事だった、という事かな?」
「そうさ。千里に――あたし達のボスに与えられた任務はそれだった。あたし達はレプリカでも戦える。だけど、千秋千里はレプリカじゃない本物の保持者のデッキじゃないと戦う事ができないのさ」
「なるほどね」
豪人は顔の前で手を組んで考える。千里が保持者のデッキを入手していなければ勝ち目はあるかもしれない。どれほど強大な力を持っていたとしても、戦えない相手は怖くない。
しかし、同時に別の考えが頭をよぎった。勇騎と戦って敗北した墨川一夜のデッキ『エクスプロード』と、神出鬼没の怪盗アルケーが使うデッキ『ツナミ』はどうなるのか、と。豪人達の手の届かないところにあるそれらを千里が奪うために動いていてもおかしくない。既に奪われているとも考えられる。
「デッキさえなければ……って考えるかもしれないけれど、甘い考えだね。千里は部下達に『エクスプロード』を探させている。もしかしたら、もう手に入れているんじゃないか?」
美土里はテーブルの上にお猪口を置いた。今まで一口で飲んでいた中身が半分ほど残っている。
「酒の席で聞く話題じゃなかったかな?」
「仕方ないさ。世話になっているんだ。これくらい、話さなくちゃ」
「助かるよ」
ウーロン茶で口を潤した豪人は、次の質問に移る。
「ところで、千秋千里の能力と目的はなんだい?勇騎君が戦った久留間大吉も君も特殊な能力を持っていた。君達『試験官』は『球舞』と同じように特別な能力を持っているんだろう?僕は君達と『球舞』が何らかの関係を持っていると思っている。もし、『球舞』と同じ目的なら共に行動すればいいはずだ」
「あいつの目的は抽象的で……あたしにもよく判らない」
「判らない?でも、君は相手の考えている事が理解できるんじゃないのか?」
美土里が使っていた能力『スタンド・バイ・ミー』は守護霊の声を聞く能力だ。それを使う事で他人の思考の一部を読みとる事ができる。実際に、豪人達が見ている前で美土里は博成の思考を読み、彼が嘘をついている事を見破った。そして、勇騎はその能力を利用してヴェルデとの対戦中にヴェルデに悟られる事なく自分の作戦を豪人に伝えた。
それほどの力があれば、考えの一部が読みとれても不思議ではない。しかし、美土里は気弱そうな顔で首を横に振った。
「あいつ自身が言っている目的は、世界の終わりだ。それが何を意味するのか、あいつに近いところにいたあたし達『試験官』でも理解している人間はいないさ。ただ……」
美土里はそこで言葉を区切った。口を開かずに、透明な液体が入ったお猪口をじっと見ている。豪人も続きを促すような事はせずに、彼女が口を開くのを待った。
「……ただ、これだけは言える。奴の野望を放っておいたら多くの人が不幸な目に合う。千里は悪の組織のラスボスみたいなもんさ。だから、誰かが止めなくちゃならない。あたしはあんた達に賭けてみようと思う」
美土里の真っ直ぐな目が豪人を見た。豪人も彼女の顔と真剣なまなざしを見つめる。
「千里の能力は未来を見る力だ」
「それは、まさか勇騎君の『プロミネンス・ネクスト・レベル』と同じ……!」
豪人の反応を見て、美土里は静かに頷き、説明を続けた。
「その力で奴は世界が滅ぶ未来のビジョンを見ている。そして、その未来が奴の望んでいた世界だ。千里は世界を滅ぼすために行動を続けている」
「世界を滅ぼす?世界を自分の思うように操るとか、そういう事ではなく滅ぼして何をするつもりなんだ?」
「あたしにも判らないさ。奴はただ笑って、世界の終わりを見れればそれでいいって、そう言ったんだ」
「終わりか……」
相手の能力も目的も豪人の予想を超えているものだった。千里の能力が本当に勇騎の『プロミネンス・ネクスト・レベル』と同じ能力だとしたら、人類は世界が滅ぶ未来から逃れる事はできない。人間である千里が見ている未来だ。それは遠い未来の事ではない。
「奴の目的から逃れる事はできるかな?」
「そのためにあんた達に近づいたんだ。あんたらは千里と香寿美がスポンサーだった『球舞』を壊滅させたんだ。実力は充分ある」
「彼らも千秋千里にとっては捨て駒だった。そういう事かな?」
豪人は昨年末の『球舞』との戦いを思い出していた。あれは、豪人にとって全てを賭けた戦いだった。あれほどの強敵ともう一度戦ったら、今度は勝てるかどうか判らない。
「どう思っていたか判らないけれど、『球舞』が暴れている間は保持者に注目されずに動けると考えていたみたいだ。カムフラージュに使っていたってわけさ」
「乗せられたね」
「確かにそうかもしれない。保持者が『球舞』に注目している間に、千里と香寿美は作戦を進めたんだからね。でも、あんたらが『球舞』と戦ったのは間違いじゃなかった。あたしはあの戦いであんた達を試すと決めた。ヴェルデを助けられるかどうか試して、それができたらあんた達に千里を倒してもらおうと思った。そのために協力すると決めたんだ」
「千里を倒してもらう、か……」
豪人はウーロン茶で口を湿らせた後、しばらく押し黙る。その顔を、美土里が緊張した顔で見ていた。
「できないかい?」
「できると断言はできないけれど、できないとも言わないよ。やれるだけの事はするさ。そうしないと、僕達の未来も消えてなくなる。やらないという選択肢はない」
「すまない。全て任せてしまって」
美土里は目を伏せ、頭を下げる。そんな彼女のお猪口に豪人は酒を注いだ。
「もうそういう事は言わなくていいよ。今はお酒を楽しむといい」
「そう言ってもらえると気が楽になる。感謝するよ」
本当に気が楽になったらしく、美土里は静かに息を吐くと豪人が注いだ酒を一気に飲み干した。

「《インフィニティ・ドラゴン》でシールドをW・ブレイク!」
勇騎の《インフィニティ・ドラゴン》が翼を広げ、シールドに狙いをつける。その直後、翼に取り付けられた無数のミサイルがシールドに向かって飛んでいった。破られた二枚のシールドにシールド・トリガーはなく、アルケーのシールドは最後の一枚になってしまった。
勇騎のバトルゾーンには《インフィニティ・ドラゴン》の他に《コッコ・ルピア》が一体。そして、長い鎖を武器として扱う《爆竜トルネードシヴァXX(ダブルクロス)》がいた。
対して、アルケーのバトルゾーンには《黙示賢者ソルハバキ》が一体いるだけだった。今までに切り札らしいクリーチャーは一体も出てきていない。
「切り札を出す事もできないのか。怪盗アルケーも堕ちたものだ」
挑発的な事を言いながら、勇騎はアルケーの顔を観察していた。今回のアルケーのデッキは、今まで勇騎が見て来たアルケーのデッキとは明らかに違っていた。彼女は基本的に水を中心にしたデッキを組んでいた。水文明だけのデッキか、もしくはそれに闇文明のカードを少し足すのが彼女のスタイルだ。しかし、今は水、光、闇、自然の四つの文明のカードを使っている。何をしてくるのか予測不能だった。
「本当に私が弱くなったと思っているのか?違うだろう?これから始まる虐殺に怯えているのだろう?」
アルケーの言う事は当たっていた。いつ来るか判らない切り札の存在を勇騎は恐れていた。しかし、これだけの差があればアルケーでも逆転はできない。そんな安心感があるのも事実だった。
「その怯え。私が形にしてやろう。この切り札を使ってな!」
アルケーが《ソルハバキ》に一枚のカードを重ねた。その力を受けて、《ソルハバキ》が青い光を出して姿を変え始めた。
「やはり、進化クリーチャーを持っていたか!」
「そうとも!これで君を奪う!」
青い光が巨大な人型に変わる。長い緑色の髪をした背の高い女性型のサイバーロードだった。周囲には板のようなものが浮いている。
「始めよう。美しい終焉をな!やれ、《エンペラー・キリコ》!!」
《エンペラー・キリコ》は唄い始めた。周りに浮いている物はスピーカーらしく、その歌声が反響する。戦いの最中であるにも関わらず、勇騎はその歌声に聞き惚れていた。
しかし、それも一瞬の事だった。歌声に反響するように、アルケーの山札がバラバラになって宙を舞う。そして、その中から三枚のカードが飛び出した。
「歌に聞き入っている場合ではないよ。《エンペラー・キリコ》はその歌声で三体の配下を呼ぶ。この三体で、終わらせてやる!」
現れたのは三つの黒い影だった。いくつもの剣を持った《魔刻の斬将オルゼキア》、カエルのような外見を持つ《威牙の幻ハンゾウ》、そして、炎を纏った《冥府の覇者ガジラビュート》だ。
「三体だと!?」
この三体は一体だけでも強大な力を持っている。それが突然、三体も現れたのだ。その威力は戦況を完全にひっくり返す程だ。
「《ハンゾウ》は《コッコ・ルピア》を破壊。《ガジラビュート》はシールドを破壊。そして、《オルゼキア》は自爆して二体のドラゴンを滅ぼせ!」
言われた通り、《ハンゾウ》は口から霧を吐いて《コッコ・ルピア》の体を包む。《ガジラビュート》は燃え上がる剣を投げて勇騎のシールド四枚の内、一枚を焼き切った。そして、《オルゼキア》は爆発し黒い剣をばらまく。その剣はマシンガンの弾のように飛び、《インフィニティ・ドラゴン》と《トルネードシヴァXX》に襲いかかった。
「《インフィニティ・ドラゴン》の効果を使う!……残せるのは一体か。なら、俺は《トルネードシヴァ》を残す」
「《インフィニティ・ドラゴン》ではないのか。どうした。自棄になったか?」
アルケーの言葉を聞いた勇騎は目を伏せる。
《インフィニティ・ドラゴン》はドラゴンが破壊される時、山札をめくってドラゴンかファイアー・バードが出れば生き残らせる事ができる。ドラゴンを主体としたデッキの場合、《トルネードシヴァ》よりも残しておきたいクリーチャーだ。しかし、勇騎はセオリーを外した行動を取り、《トルネードシヴァ》を選んだ。誰が見ても判断ミスだ。
三体もいたクリーチャーは《トルネードシヴァ》一体だけになり、一体だけだったはずの相手のクリーチャーは三体に増えた。その内の一体は、高いパワーとT・ブレイカーも持っている。圧倒的な差だった。
「クリーチャーだけじゃない。シールドも頂くぞ!」
《エンペラー・キリコ》がまた唄い出した。しかし、それはクリーチャーを山札から呼び出した時とは違い、奇妙に甲高い不快な声だった。反響した歌声によって勇騎の三枚のシールドがひび割れ、破られていく。それらのシールドの中にシールド・トリガーはなかった。
「これが最強の保持者か?九重九十九(ここのえつくも)を倒した男か?様々な危機を乗り越えた力を見せてみろ。見せたとしても、もう無駄かもしれんがな」
「お前には、真実へ至る道が見えなかったようだな」
勇騎の言葉を聞いてアルケーの眉が動く。勇騎は目を伏せ、戦況に絶望しているはずだった。判断を誤るほど、精神的に追い詰められているはずだった。しかし、彼はまだ勝つつもりでいた。
「私が判らない道を見ていると言うのか?」
「そうだ。俺は、青海を取り戻す未来が見えている。必ず、青海を取り戻す」
勇騎の足元に赤い歯車のようなマークが現れる。火文明を現すマークだ。
『プロミネンス・ネクスト・レベル』。完成した保持者の勇騎のみに与えられた力だ。それが発動した時、足元には火文明のマークが現れ、彼は近い未来を見る事ができる。その未来は絶対に変わらない。
「能力を使って来たか……!しかし、これだけ追い詰められた状況で使っても見えるのは絶望だけだ!」
「絶望の未来を見ているのはお前じゃないのか?」
勇気が顔を上げてアルケーを見る。目が合った瞬間、アルケーは頭を抱えた。
「やめろ!その目だ……。その目が青海ゆかりを惹きつける。私を追い出そうと暴れ出す!」
「青海、待っていてくれ。すぐに終わらせる!」
勇騎がそう言った瞬間、《ガジラビュート》の炎がさらに大きくなり、自身の体を焼きつくす程になった。驚いたアルケーの目の前で《ガジラビュート》は消し炭のようになってしまった。
「今さら、除去呪文か?」
「ああ、そうだ。そして、俺が切り札を呼び出すための呪文でもある」
静かな声で言った勇騎の右手が天を指す。空間に赤い裂け目が広がっていた。その裂け目から勢いよく赤いドラゴンが飛び出してくる。《ハンゾウ》くらいの大きさのクリーチャーなら軽く握り潰せそうな手を持つそのドラゴンは、手の指を鳴らしてアルケーを見た。
「使った呪文は《超次元ボルシャック・ホール》。そして、呼び出したのはサイキック・クリーチャー《時空の火焔ボルシャック・ドラゴン》だ!」
《時空の火焔ボルシャック・ドラゴン》はアルケーのクリーチャーを見ていた。戦いの相手を見定めているようだった。
「それが切り札か。だが、召喚酔いしている。《トルネードシヴァ》だけでは最後のシールドを砕くのが精一杯のはずだ!」
「いや、これでいい。俺が《トルネードシヴァ》を残した事を判断ミスだと考えた時点でお前の負けは決まっていた。《トルネードシヴァ》でシールドを攻撃!」
《トルネードシヴァ》はシールドに向かって走る。それと同時に持っていた鎖で《ハンゾウ》の体と《ボルシャック・ドラゴン》の右腕を縛りつけた。
「何の真似だ?」
「《トルネードシヴァ》は攻撃する時にバトルゾーンにあるクリーチャー二体をバトルさせる事ができる。これで俺は《ハンゾウ》を破壊する」
鎖で繋がれた《ボルシャック・ドラゴン》は右腕を上げる。《ハンゾウ》が上空に向かって放り上がったのを見て《ボルシャック・ドラゴン》は跳躍し、左の拳を叩きつけた。赤い炎を吹き出し《ハンゾウ》の肉体は爆発する。
「シールドは犠牲にしない。《ハンゾウ》を守るのにそれをする必要はない」
《ハンゾウ》はシールドを犠牲にする事で場に留まる効果を持つ。しかし、今、その効果を使うという事は、アルケーを守る壁をなくす事になる。
「その判断は間違ってはいない。しかし、正しい判断をしたからと言って勝てるとは限らない」
《トルネードシヴァ》の熱せられた拳が最後のシールドをブレイクする。それはシールド・トリガーではなかった。
「何を言っている。私は攻撃を耐えた!《エンペラー・キリコ》で――」
「俺のターンはまだ終わっていない。《ハンゾウ》を倒した時の効果で《ボルシャック・ドラゴン》を覚醒させる!」
《ボルシャック・ドラゴン》が腕を組む。すると、その体が赤い光で包まれた。アルケーはそれを見て腕で顔を覆い隠す。
しばらくして光がやむと、そこには組んだ腕の他に二対の巨大な腕を持った《ボルシャック・ドラゴン》が立っていた。
「何だ?カードを使わずに進化したとでも言うのか!?」
「違うな。サイキック・クリーチャーに与えられた特殊能力、覚醒だ。覚醒する事でサイキック・クリーチャーは真の力を使えるようになる。これが俺の切り札《勝利の覚醒者ボルシャック・メビウス》だ!」
《ボルシャック・ドラゴン》、いや、《ボルシャック・メビウス》は巨大な四枚の翼をはばたかせてアルケーへと飛んだ。突然の事にアルケーは何も言えずにそのクリーチャーを見ている。
「何故だ?召喚酔いはどうした!」
「覚醒したサイキック・クリーチャーは召喚酔いが解除される。俺は前の俺のターンが終わった時点で手札に《超次元ボルシャック・ホール》を持っていた。この力で《ボルシャック・ドラゴン》を出し、《トルネードシヴァ》の力でバトルさせて覚醒条件を満たし、《ボルシャック・メビウス》にする策を立てていた。だから、《トルネードシヴァ》を残したのも全て計算の上だ」
「計算の上か。してやられたよ。だが、何もかもうまく行くと思うな!」
アルケーはその場で気を失ったように倒れた。《ボルシャック・メビウス》の攻撃は当たらず、空を切る。
その直後、倒れた体から青い霧のような物が噴き出す。その青い霧は勢いよく勇騎の体に向かって飛んでいった。
「勝ったと思ったか!それが油断だ!私の目的は最初から君の肉体を奪い取る事だ。勝利を確信して気が緩んだこの瞬間を待っていた。今の君の肉体を守るクリーチャーはいない!」
「なるほどな。このデュエルで勝ったら意識を失った俺の肉体を乗っ取り、負けたとしても勝利を確信して油断した俺の肉体を奪える。盗人にしてはよく考えたな」
「今さら気付いても遅い!」
「だが、お前は気付くのが遅かった」
「何!?」
勇騎の眼前で青い霧は止まる。霧状の体を《ボルシャック・メビウス》が両手でつかんでいたのだ。
「馬鹿な!?《ボルシャック・メビウス》は攻撃をしたはずだ!一度攻撃をしたクリーチャーが二度攻撃をする事などありえない!」
「《ボルシャック・メビウス》は二回の攻撃ができるサイキック・クリーチャーだ。俺が何のためにこのクリーチャーを切り札にしたか判るか?お前が俺の体を狙ってくる事を予測していたからだ」
《ボルシャック・メビウス》は霧状のアルケーを握っていた手に力を込める。すると、霧状のアルケーの体が煙となって消えていく。
「あ、熱いぃ!やめろ!私を消すのか!?嫌だ!もっと、もっと美しいものを見ていたい!私を消すな!やめろぉぉぉっ!!」
絶叫と共にアルケーの体は全て白い煙となり、完全に消えた。
デュエルを終えた勇騎は、床に転がっているアルケーデッキ『ツナミ』を拾った。しばらくそれを眺めた後、懐にしまう。
「青海、しっかりしろ。帰るぞ」
倒れているゆかりに話しかけるが、彼女からの返事はない。しばらく考えた勇騎は彼女の体を抱き上げた。
「帰るぞ。もう君に悪事をさせるような奴は誰もいない」

「ん……」
ゆかりはゆっくり目を開けた。
長い夢を見ていたような気がした。
自分の中には自分の体を勝手に使う悪い奴がいて、夜になるとその悪い奴は人々の大切なものを盗んでいくのだ。最初は悪い夢だと思っていたけれど、それが現実だと気付く頃には遅かった。悪い奴が行った悪事はテレビや新聞で報道されるくらい有名になっていて、そんな事、誰にも相談できなくて一人で悩んでいた。
そんな時、一人の正義の味方が現れた。赤いデッキを持ったその正義の味方はゆかりの中にいた悪い奴を追い出し、悪い奴を退治してくれた。そんな子供だましのような、おとぎ話のような夢を見ていたような気がした。
「さよなら、怪盗アルケー」
自分にしか聞こえないように呟く。もう彼女はいない。ここにいるのは青海ゆかりだ。
目を覚ましたゆかりは夜の公園にいた。自分はベンチに座っている。周りには誰もいない。
「気がついたか?」
彼女の前に一人の少年がやってくる。赤いデッキを持って悪い奴からゆかりを助けた正義の味方は、今は手に缶コーヒーを持って歩いてきた。
「飲むといい。温まるぞ」
「ありがと」
ゆかりが缶コーヒーを受け取ると勇騎は彼女の隣に座った。
「しばらくしたら、金城が来る。迎えを頼んである」
「そう……」
「君には感謝している」
缶コーヒーに口をつけた時、勇騎がそう言った。
「あの日、日芽と二人でいたあの雨の日にもらった缶コーヒーは温かかった。だから、その借りを必ず返したいと思っていた」
「そんな事……別にいいのに」
ゆかりはそう言って缶コーヒーを飲む。そして、空になった缶を脇へ置き、勇騎の肩にもたれかかった。
「借り、返してくれた?」
「判らない。俺が君に会ったせいで、アルケーは君の肉体に寄生した。君を助けただけでは、借りを返したとは言えない」
「それじゃ、豪人さんが来るまでしばらくこのままでいさせて。お願い」
勇騎は驚いた目でゆかりの目を見た。彼女のうるんだ瞳が目に入る。
「かまわないが、こんな事でいいのか?」
「いいの」
「そうか……」
納得できないような口調で勇騎は呟いた。
冬の夜空を二人は見上げた。静かな夜空にほんの少し星が輝いているのが見えた。そんな空の星のようにほんの少しの勇気を出してゆかりは口を開く。
「勇騎ちゃんは……アタシの事、好き?」
「今さら何を言っているんだ。好きだよ」
「え……!」
驚き、頬が赤くなるのが判った。心臓の音が聞かれてしまうのではないかと思い、ゆかりは急いで自分の胸に手を当てた。
「君だけじゃない。一ノ瀬も日芽も金城も佐倉も……。俺に優しくしてくれた奴はみんな好きだ。だが、何でそんな事を聞く?」
「あ、ちょっと気になっただけなの。そうよね。うん、そうだと思ったわ。優しくしてくれる人は好きよね」
怪訝そうな顔で聞く勇騎から目を逸らしたゆかりは慌てたようにまくし立てる。その後、小さな声で
「勇騎ちゃんの鈍感」
と言った。

「仲がいいね」
背後から男の声が聞こえて勇騎は目を見開く。この公園には自分とゆかりしかいなかった。自動販売機で缶コーヒーを買った時にそれは確認している。何者かが入った気配はなかった。
「振り向かなくていい。答えなくてもいい。ただ、私という存在がいる事を知って欲しい」
背中に銃や刃物を突き付けられて脅されているような感覚があった。戦う力を持っていないゆかりを逃がす事だけ考えていた。
「隣にいる彼女を傷つける事はしない。今日はあいさつに来ただけだ」
背後にいる男は淡々と話す。ゆかりは何も聞こえないのか、勇騎の肩にもたれかかったままだ。
「はじめまして。私の名は千秋千里。久留間大吉、蝶野香寿美、亀島美土里、ドナルド・マックイーン、白峰敦也が所属する『試験官』のリーダーだ。そして、この世界で生まれた保持者でもある」
保持者。その単語を聞いた時、勇騎は自分の耳を疑った。
「いずれ君とは戦う事になるだろう。その時、勝つのは私だと判っている戦いだ。未来を見ているのなら判るはずだ。破滅の未来を作り出すためにお互いにがんばろう」
言いたい事だけを言って、背後の男、千里の気配は消えた。
「勇騎ちゃん、大丈夫?」
ゆかりに言われるまで、勇騎は自分の異常に気がつかなかった。額には汗をかいているし、息が荒い。
「すまない。何でもない」
そう言うと、ゆかりはそれ以上聞いてくる事はなかった。
勇騎はゆかりに気付かれないように背後を見た。そこには誰もいない。足跡すらなかった。
(奴が敵……。俺を倒す敵……)
千里の気配は消えた。しかし、豪人が迎えに来るまで勇騎は千里の姿がないか、ずっと周囲を警戒していた。

第三十二話 終

第三十三話予告
白峰は生きるために美和と美土里を捕らえ、豪人を挑発する。怒りに震える豪人は、勇騎の言葉にも耳を貸さない。
「俺はお前となって生きる」
他人をコピーする白峰の能力が豪人に襲いかかる。
第三十三話 偽者
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