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『デュエマ族』第二話

『デュエマ族~一と新之助は奇妙な部活に入るようです~』

第二話 ライバル登場!必殺シールド・トリガー・カウンター

 烈光学園から電車で一時間の距離にあるS県。田園風景の広がる穏やかな場所に松野一(まつのはじめ)は住んでいる。一軒家が多いその町の中でも一際大きい日本風の建物が一の家だ。巨大な塀が家の周りを囲み、立派な門扉があるその家は他の家とは明らかに違う雰囲気を放っている。
 その家の縁側に座り、一は入部テストに挑む時に使った自分のデッキを眺めていた。四十枚全てがお気に入りのカードだ。切り札の《独裁者ケンジ・パンダネルラ将軍》だけではなく、小型クリーチャーもシールド・トリガーの呪文も全て自分の仲間だ、と一は感じている。
 松野一は烈光学園に通い始めた中学一年生だ。赤い野球帽をかぶったやんちゃそうな少年である。クラスの中では背が小さい方だ。学年の中でも背が低い方に入る。
「一、帰っていたのか」
「じいちゃん!」
 男の声を聞いて一は顔をあげる。その顔はとても嬉しそうだった。そこに立っていたのは、小柄の男性だった。上着を脱いだその男性は一の隣に腰を下ろした。
 彼は一の祖父、松野藤之助(まつのとうのすけ)である。昔、この町で大きな会社を立ち上げこの地域の経済に大きな影響を及ぼした。今では引退しているが、今でも彼を慕う者は多い。
「デュエル・マスターズカードか」
「そうだよ。俺、デュエマ部に入れたんだ!」
「前に話していたデュエマ部の入部テストに受かったのか。すごいな」
 藤之助も一からデュエマ部の入部テストを受けるという話を聞いていた。有名な阿部野静貴(あべのしずき)が部長をしている部活で、今年は入部できた生徒はいなかったはずだ。それを聞いた時、藤之助は入部テストが非常に難しいものだと感じた。同時に、一では合格できないのではないかとも思った。
 しかし、一は合格し、笑顔でデュエル・マスターズカードに触れている。
「ああ、そうだ!これから毎日デュエマをやるんだ」
「そうか。よかったな」
 藤之助は優しい手つきで一の頭をなでる。
「じいちゃん、俺、もう子供じゃないって」
 文句を言っているが、一の顔は嬉しそうだった。
 夕焼け空の下で祖父と孫は穏やかな時間を過ごしていた。

 一方、その頃、永瀬新之助(ながせしんのすけ)は勉強机の前で考え事をしていた。勉強机の上にはデュエル・マスターズのデッキが置かれている。新之助の目には、そのデッキが映っていた。
「楽しかったよ。だけど、これが僕のやりたかった事なのかどうか判らないや」
 新之助は数日前の事を思い出していた。放課後の教室で一に引っ張られて、気がついたらデュエマ部の入部希望者にされていた。その後、断る間もなく話が進んでいき入部テストを受けて合格してしまった。
 少女に間違えられるような外見からも判るように、彼は大人しく、何かに巻き込まれる事が多い。中学ではできれば変な事に巻き込まれたくないと思っていたが、早速巻き込まれてしまった。
「入部テストの合格条件は『デュエマを楽しんでいる事』よ」
 入部テストが終わり二人の合格を宣言した静貴の言葉を思い出した。新之助は本当にデュエマを楽しんでやっていたのか、自分でも判らなかった。この数日間はあっという間に過ぎ去ったから、自分でも気持の整理ができなかったのだ。
 一は、中学生になったから新しい事をやりたいと言っていた。そして、デッキを作る時も新之助を相手に練習する時も楽しそうにしていた。それは、デュエマを楽しんでいて、デュエマ部に入る事を楽しみにしている人間の顔だった。
「あ、僕、勝った事ないや……」
 一との練習でも、入部テストでも新之助は勝てなかった。切り札として用意した《超絶神ゼン》と《究極神アク》をリンクさせる事すらできなかった。
「本当にデュエマをやりたかったのかな?」
 新之助は勉強机の上のデッキを見る。そして、ある決意をした。

「一つ、デュエマを愛し、カードを愛する。一つ、デュエマでは常に全力を出し、正々堂々と正面から叩き潰す。一つ、仲間と一緒にデュエマを楽しむ」
 静貴が言った後に続いて、他の部員が復唱する。と言っても、今、部室にいるのは静貴の他に三島健人(みしまけんと)と石黒義男(いしぐろよしお)だけだ。
「ねぇ、今日は久しぶりに部員最強決定戦総当たりバトルとかやってみない?せっかく部員が五人揃ったんだもの」
 部員達の中心で発言するのは、部長の阿部野静貴。三年だ。中学生とは思えない均整の取れたスタイルと魅力的な顔、美しい長髪が特徴的な少女だ。テレビではアイドル兼若き女優としてお茶の間を賑わせていて、実力と人気を兼ね備えている。
「いいね。だけど、僕は松野君と永瀬君にはもっと基本的な事を覚えてもらった方がいいと思うんだ」
 静貴に意見を出したのは、彼女と同じ三年の部員、三島健人だ。黒縁の眼鏡をかけた真面目そうな雰囲気を漂わせている少年で、静貴からも「デュエマ部じゃなくて文芸部とかも似合いそう」と言われた事がある。静貴とは長い付き合いで彼女の性格もよく理解している。
「イチの奴ならデカチョーの案に乗ってきそうだな。みっちゃん先輩の堅実な案にはシンが賛成しそうだ。俺はデカチョーの案に一票入れますぜ」
 大きなレンズのサングラスをかけ、タバコのようなものをくわえているのが二年の石黒義男だ。刑事ドラマに憧れているらしく、制服デカを自称している。そのため、デュエマ部の部員もあだ名で呼んでいる。部長の静貴を『デカチョー』健人の苗字、三島から取って『みっちゃん先輩』などそのあだ名は単純な方法で命名されている。
「どうする、健人?これで二対一よ」
「多数決で決めるの?全員一致の方が良くない?」
「そんなすっとろい事してられるか!もし、イチかシンが俺の意見に反対したら先輩権限で無理矢理言う事を利かせる」
「じゃ、僕が先輩権限で義男に無理矢理言う事を利かせてもいいよね?」
「……それぞれの意見を尊重するのが俺のやり方だ」
 義男はくわえていたタバコのようなものを取ると、それを指先でいじり始めた。
 三人は新しい後輩ができた事で興奮していた。静貴だけでなく、健人と義男も新しい後輩と楽しい部活ができる事に喜びを感じているのだ。健人など、授業中も落ち着いていられずに何度か先生に注意された。いつもの健人との違いを見た先生に体調を心配される事もあった。
「でも、このままじゃいつまで経っても議論は平行線ね。仕方ない。だったら、これで決めましょう」
 静貴は自分のデッキケースを取り出した。健人と義男もそれに応じる。
「総当たりで一番勝った人の意見を採用って事でどう?」
「そうすると、全員一勝一敗で引き分けって事になるんじゃない?」
「あたしが二勝するから何も問題ないわ」
「すごい自信だね」
 健人が静貴の発言に驚き彼女を見た時、部室のドアが開いて一人の少年が入って来た。新之助だ。
「よお、シン!早速だが、今日の活動はデカチョーが提案した部員最強決定戦とみっちゃん先輩が提案したつまらない基礎訓練のどっちがいい?」
「その聞き方だと僕の案がひどい案に聞こえるじゃないか。基礎は大事だよ。永瀬君もそう思うよね?」
 義男と健人の二人が新之助の前までやって来て話しかける。違う主張をしたのを聞いて二人は睨み合った。
「基礎なんか実戦を繰り返せば自然とできるもんだぜ、みっちゃん先輩。男は叩き上げで強くなるんだよ」
「基礎をきちんとやった方が伸びも早くなるんだよ。義男だって、入部テストの時に僕の教えが行き届いているのがいいって言ったじゃないか」
「うるさい先輩だな。俺だってこいつらに教えたい事があるんだよ」
「僕だって教えたい事があるよ。やっとまともな後輩が入って来たんだ。義男みたいな濃い奴ばかりだとこっちが持たないよ!」
「濃くて悪かったな。それじゃ、シンに決めさせようぜ」
「ああ、いいよ。最初からそのつもりさ。永瀬君は部員最強決定戦総当たりバトルと、強くなる為の基礎訓練のどっちがいい?」
 健人が新之助の両肩に手を置いて聞く。彼の目が「絶対に僕の案に賛成してくれる!基本は大事なんだ!」と言っていた。
「あ、あの……僕、退部しに来たんです!」
「た、退部!?」
 静貴と義男の声が綺麗に重なる。新之助は続けた。
「僕、本当は松野君に無理矢理連れて来られただけで……入部テストまでしてもらって勝手に退部して本当にごめんなさい!」
 新之助は頭を下げた。そして、しばらくして顔を上げる。肩に手を置いた健人はまだそのままのポーズで新之助の顔を見ていた。その状態で三十秒ほど経った時、新之助が口を開く。
「あの、三島先輩?」
 新之助が聞いた時、肩に置かれていた手から力が抜ける。健人は糸が切れた操り人形のようにその場に崩れるようにして倒れた。
「みっちゃん先輩!……殉職か」
「勝手に殺すなって。今のがショックだったのね。義男、保健室に連れて行ってあげて」
「やれやれ、世話の焼ける先輩だぜ」
 義男は健人の体を背負うようにして持つと、ドアを開けて出て行った。
「あの……その……」
 それを見ていた新之助は何を言っていいか判らずに、もごもごと口を動かす。それを見て静貴は言った。
「松野君に無理矢理連れて来られたのね。詳しく話してくれる?」
 静貴の顔は怒っていなかった。それを見て少しほっとした新之助は話を始めた。
 教室に残っていた名も知らぬ新之助を一が無理矢理引っ張って行った事から全ては始まった。断る暇もなく、気がついたら入部希望者扱いされていた喜ぶ健人の顔を見たら断る事もできずにデュエマを始めていた。そして、入部テストの結果「デュエマを楽しんでいる」と言われ、今までの自分の行動に疑問を持った。
 頭の中で整理しながら新之助はそれを話した。その間、静貴は黙ってそれを聞いていた。
「成り行きで始めた僕が、本当にデュエマを楽しんでいるのかどうか、自分でもよく判らないんです。僕は松野君と違ってデュエマの中継も見た事がないし、漠然とそういうのがある事くらいしか知らなかったんです。自分でもデュエマを楽しんでいるかよく判らないから退部します。それと、このデッキはお返しします」
 新之助は両手でデッキを持って静貴に差し出した。静貴はそれに力を入れて押し返す。
「言いたい事は判ったわ。退部したい理由も判った。だから、退部する事は止めないわ」
「それじゃ、デッキは――」
「でも、デッキはもう君のものよ。これは君が使いたい切り札を活躍させるためにがんばって組んだものでしょ?世界に一つしかない大事なものなの。だから、これからも大事にしてあげて。そして、気が向いた時でいいからこのデッキで遊んでね」
 静貴は笑顔で話しかけ、新之助の手にデッキをしっかり握らせる。新之助は手の中にあるデッキを見た。
「僕のデッキ……」
「そう、君のデッキ。このデッキは君と一緒にデュエマをするため、そして、君と一緒にデュエマを楽しむために生まれて来たの。始めたばかりじゃ、どうやってデュエマを楽しむのかよく判らないかもしれないけれど、使って欲しいな。このデッキに愛情を注いであげられるのは永瀬君だけだから」
「……判りました。ありがとうございました」
 新之助は静貴に向かって一礼すると、部室を出た。新之助が部屋を出てしばらくして、静貴は頭を抱える。そして、こう言った。
「残り部員一人。どうしようかしら」

 烈光学園の近くには河川敷がある。近隣住民が犬の散歩やジョギングに使う事もあり、通る人は多い。しかし、今の時間はほとんど誰もいなかった。
 新之助は河川敷のベンチに座っていた。真っ直ぐ家に帰る気にならずに寄り道したのだ。真面目な新之助が寄り道をする事は少ない。デュエマ部をやめた事の後ろめたさからか、真っ直ぐ家に帰る気がしなかった。
「何で僕を誘ったんだろう?」
 頭をよぎるのは数日前の事だ。たまたま少し遅くまで残っていたあの日、一が新之助に目をつけなければ、デュエマ部の入部テストを受ける事もなかった。一が少しでも新之助の話を聞く気になってくれれば、こうやって嫌な気持ちにならなかったかもしれない。
「でも……僕があの時、断っていればよかったのかな」
 それが最善の道だった。だが、新之助は断るのが苦手な人間だ。それに新入部員として期待された目で見られて断れそうになかった。
 新之助は小さく溜息を吐いた後、鞄の中からデッキを取り出した。静貴はデッキに愛情を注げるのは新之助だけだと言っていた。しかし、愛情を注ぐという事がどういう事なのか判らない。
「本当にもらっちゃって良かったのかな?」
 そう呟いてまた溜息を吐く。
「何やってんだオラァっ!」
「ひいっ!」
 いきなり怒鳴るような声が聞こえて新之助は頭を押さえて身を縮めた。恐る恐る顔を上げると、自分の周りには人はいなかった。自分が怒鳴られた訳ではないと判り、新之助はほっとして胸を撫で下ろす。少し遠くまで見ると、そこには中年の男と男を取り囲む詰襟の学生服の集団がいた。
「な、なんだ、君達は!?」
 上ずった声で中年の男が言った。相手が子供とはいえ、囲まれている恐怖が口から出てしまっている。学生服の集団から一人の少年が出て来た。端を釣り上げた眉や鋭い眼光など、特徴的な部分は多いが最も特徴的なのは彼の髪型だ。天を刺すように真っ直ぐ伸びたリーゼントが頭の上に乗っている。リーゼントの少年は中年男性を睨みつけながら言った。
「テメェ、タバコをポイ捨てしやがったな!自分のした事が判ってんのかオラァ!いいか、よく聞けオラァ!地球(ほし)を傷つけ汚す輩は、地球と俺達が許さねぇぞオラァ!」
 ものすごい剣幕でまくし立てた少年は、中年男性が捨てたものらしき吸い殻を拾い、男性の手に無理矢理握らせた。
「あっつ!」
「それはお前の罪の熱さだオラァ!次にポイ捨てなんかしやがったら、容赦しねぇぞオラァ!」
 中年男性は詰襟学生服の集団から逃げ出した。よく見ると、学生服の集団は全員、手にビニール袋を持っている。
「よし!それじゃ、河川敷のゴミ拾いはこれで終わりだオラァ!ゴミ拾いをしていい気分になるなんて最高だぜ。俺のアイディアはナイスだ。そうだよな、豆助(まめすけ)!」
「ほんとうっす!長作(ちょうさく)さん、ボルシャックかっけーっす!」
 リーゼントの少年は近くにいた小柄な少年に同意を求める。小柄な少年はすぐにリーゼントの少年の言葉に頷いた。
「さてと……ん?」
 リーゼントの少年が新之助を見た。新之助は目が合わないように慌てて目を逸らす。
「おいおい、何だ、坊ちゃんよぉ。見世物じゃねぇぞオラァ!」
 リーゼントの少年とその仲間が威嚇するような歩き方で新之助に近づいてくる。逃げようとした新之助は、急いで荷物をまとめようとしたが、手からデッキが滑り落ちてしまった。
「あっ!」
 健人や義男がやっていたようにデッキケースに入れておかなかったため、カードがバラバラになってしまう。新之助がかがんでカードを拾い始めると、リーゼントの少年がそのカードに手を伸ばした。顔を上げると彼の仲間もカードを拾っていた。
「おい、デュエマやってるんだったら早く言えよ。バラバラになったカード拾ってやるから、デュエマやろうぜオラァ!」
「あ、あの僕はやめ――」
「他の学校の奴とデュエマでタイマン張るのは初めてだぜオラァ!この仏地義理(ぶっちぎり)中学の番長、番場(ばんば)長作が相手してやるぜオラァ!」
 番場長作と名乗った少年の元にカードが集められる。長作はそれを新之助の手に握らせた。
「あ、ありが――」
「礼の前にちゃんと四十枚あるか数えろオラァ!もしかしたら足りなくなってるかもしれないだろオラァ!」
 長作に言われて、新之助はデッキのカードを数える。デッキのカードは四十枚全て揃っていて一枚も欠けていなかった。
「大丈夫。四十枚ある」
「それはよかったぜオラァ!それじゃ、デュエマを始めるぞオラァ!」
 長作はそう言ってベンチに座り、ベンチの上の空いているスペースに自分のデッキを置く。新之助も同じようにベンチに座り、デッキを置いた。
(僕、やめるつもりだったのに……)
 心の中で呟いた新之助は長作を見る。彼は今にも鼻歌を唄い出しそうなほど上機嫌でデッキをシャッフルしていた。とても、デュエマをやめると言い出せる雰囲気ではない。
(こういう時、ちゃんと断れないから駄目なんだろうな、僕は)
 心の中で溜息。仕方なく新之助もデッキをシャッフルした。
 デッキを交換し、シャッフルする。そして、相手にデッキを返し、自分の山札の上から五枚をシールドとして並べる。その後、五枚を手札として引いた。
「まず、向かい合って礼をするっす」
 豆助と呼ばれた小柄な少年が審判として二人の間に立つ。新之助と長作は握手をした後、互いに礼をする。
「よろしくお願いします」
「それじゃ、ジャンケンをして先攻と後攻を決めるっす。じゃんけんポン!……長作さんが後攻っす」
 新之助は山札の上のカードに触れそうになり、慌てて手をひっこめた。周りの学生服の集団が新之助の挙動をじっと見ている。
「そうだ。最初のターン、先攻は引いちゃいけない。だから、この手札で何とかしないと……!」
 自分の手札を見つめる。そこには多色のカードしかなかった。
「えっと、《大地と永遠の神門》をマナゾーンにおいてターンエンドです」
「慣れてねぇ手つきだ。お前、初心者みたいだなオラァ。だからって手加減なんかしねぇぞオラァ!ドロー!そして、マナに《黒神龍ギランド》を置いてマナをタップ!《ねじれる者ボーン・スライム》を召喚だオラァ!」
「1ターン目から召喚!?速い!」
 長作のデッキは驚くべき速度だった。それを見て新之助は一のデッキを思い出す。彼のデッキにも1コストのクリーチャーが入っている。そのため、1ターン目からクリーチャーを召喚し、相手がついてこられない速度で勝負を決める事ができる。
 速攻相手の少ない対戦経験から戦い方を考えながら新之助はカードを引く。
「ドロー。駄目だ……」
デッキに多色のカードが多いせいで引いた《光陣の使徒ムルムル》が出せない。《超越神ゼン》をマナゾーンに置いてターンを終えた。
「デッキが回ってないじゃねぇかオラァ!アンタップしてドローしてマナに《アレス・ドラグーン》をチャージ!マナ二枚タップして《飛行男》を召喚だオラァ!」
 長作が2ターン目に出したのはプロペラがついた飛行機のような姿のクリーチャーだった。《ボーン・スライム》に続いて二体目の闇クリーチャーだ。
「また、闇のカードだ」
 新之助は入部テストの対戦を思い出した。入部テストで義男が使っていたデッキは闇文明がメインのデッキだった。闇文明は破壊を得意とする文明だ。昨日もクリーチャーを破壊する能力の高さを嫌と言うほど見せつけられている。
「速攻、行くぜ!《ボーン・スライム》でシールドを攻撃だオラァ!」
 ブロッカーが守っていない無防備なシールドに攻撃が加えられる。新之助は長作が指定したシールドを見るが、そこにシールド・トリガーのカードはなかった。
「《ボーン・スライム》はシールドをブレイクすると破壊される。こいつを墓地に置いてターンエンドだオラァ」
「そうか。ずっといる訳じゃないんだ。それならまだ何とかなりそう……!」
 長作のバトルゾーンにあるクリーチャーは《飛行男》一体のみ。しかも、パワーは1000と低い。手札にある《ムルムル》のパワーならブロックして破壊できる。
「マナをアンタップしてドロー。《エル・カイオウ》をマナゾーンに置く。光文明を含む二枚をタップして《ムルムル》を召喚!」
 新之助は3ターン目にしてようやくクリーチャーを出す事に成功する。遅いスタートだが、彼が出したのはブロッカーのパワーを3000増やす《ムルムル》だ。守るためにブロッカーを増やしたデッキなら大きな効果を発揮する。
 《ムルムル》が場に出るのを見て、長作は顔を歪める。それを見た新之助は自分の行動が正しかったと知り、心の中で「やった」と呟いた。
「確かに速攻デッキはブロッカー出されるとつれぇぜ。だがな!後続のブロッカーは出させねぇぞオラァ!」
 長作は《ブラッディ・ドラグーン》をマナとしてチャージした。そして、三枚のマナをタップし風車に顔がついたようなクリーチャー《風車男》を召喚する。
「風車のクリーチャー?」
「ただの風車じゃねぇぞオラァ!《風車男》は攻撃する時に効果で相手の手札を一枚ランダムで吹き飛ばす事ができるぞオラァ!そして、《飛行男》でシールドを殴るぞオラァ!」
「えっ……!?攻撃!?」
 タップされた《飛行男》を見て新之助は驚いた。《飛行男》のパワーでは《ムルムル》には勝てない。無駄死にするようなものだ。
 そう思った新之助は戸惑いながら指先を《ムルムル》に添える。それを見た長作は口の端を釣り上げて言った。
「一つ言っておくぞオラァ。俺の《飛行男》は破壊された時に相手の手札をランダムに打ち抜く凶暴な野郎だオラァ!ブロックしてシールドを守るか、ブロックせずに手札を守るかよく考えろオラァ!」
「えっ……と、それじゃ……」
 新之助は《ムルムル》から手を離し、慌てて自分の手札を見る。今、手札には《エナジー・ライト》と《魔光騎聖ブラッディ・シャドウ》がある。これを使って次のターン、ドローと《ブラッディ・シャドウ》の召喚を同時に行えば守りは硬くなるはずだ。今、手札を失うとこのコンボができなくなるかもしれない。
「僕はブロックしない」
「判ったぜ。《飛行男》、シールドブレイクだオラァ!」
 長作が選んだシールドは、またしてもシールド・トリガーではなかった。だが、新之助はまだ問題ないと思っている。手札には切り札も来ている。
「アンタップしてドロー!マナをチャージして《エナジー・ライト》を使う。二枚ドロー。そして、G・0(グラビティ・ゼロ)で《ブラッディ・シャドウ》を一体場に!」
「ノーコストで出しただとオラァ!?」
 《魔光騎聖ブラッディ・シャドウ》は本来ならば、召喚に光と闇のマナを必要とする2コストのブロッカーだ。しかし、呪文を唱えたターンはコストを支払わずに召喚できる。このように特殊な条件を満たした場合のみコストが0になる能力をG・0と呼ぶ。
「これでいい。僕はこれでターンエンド」
「手札が増えたか。アンタップ、ドロー、マナをチャージして《汽車男》を召喚!こいつは出た時に相手の手札をランダムで喰らうクリーチャーだオラァ!さっきから大事そうに見ていた一番端のこのカードを捨ててもらうぞオラァ!」
「出た!長作さんの手札破壊地獄だ!」
 取り巻きの一人が言うと他の取り巻きも「すげぇ!」と声を挙げる。
 長作がチャージしたマナを含む四枚のカードをタップして召喚した《汽車男》はバトルゾーンに出た時に相手の手札を捨てる能力を持っている。長作は新之助が持っている一番左のカードを指で差した。新之助は手札の一番左のカードを残念そうな顔で引き抜くと、しばらく眺める。そして、墓地に置いた。
「《究極神アク》か。こいつは大物だぜオラァ!」
「僕の切り札が……」
「そんな顔すんな!他のカードも捨てて墓地をにぎやかにしてやるぜオラァ!《風車男》で攻撃!今度はこのカードを捨てるぜ!」
 長作が人差し指で指定したカードを墓地に置いた。それは相手の切り札を破壊するために取っておいた《デーモン・ハンド》だった。
「でも、《風車男》の活躍はこれで終わりだ!《ブラッディ・シャドウ》でブロック!」
 《ブラッディ・シャドウ》のパワーは4500だ。さらに《ムルムル》の効果で3000増えて7500ある。《風車男》のパワーは2000だ。戦ったら負けるはずがない。
「ちっ、さすがにこんなすげぇパワーには勝てねぇ。だが、《ブラッディ・シャドウ》も無事じゃねぇ。そうだろ!?」
 長作が《風車男》を墓地に置くのと同時に新之助も《ブラッディ・シャドウ》を墓地に置いた。《ブラッディ・シャドウ》は低コスト高パワーで特殊能力も持っているが、デメリットもある。それはバトルをしたらその直後に破壊されてしまうという事だ。バトルした相手クリーチャーのパワーがどれだけ低くても生き残れないのだ。
「どんどん行くぜぇ!《飛行男》で攻撃だオラァ!」
「《ムルムル》でブロック!」
「今度は守って来たか。《飛行男》を墓地に置いて、今度はこの手札だオラァ!」
 新之助の手札から《曙の守護者パラ・オーレシス》が捨てられる。《ムルムル》と同じように防御を固めるカードを落とされて、新之助は叱られた子犬のような表情になった。
「しょぼんってしてる場合じゃねぇぞオラァ!ターンエンドだ!」
「アンタップ、ドロー。マナをチャージして《青銅の鎧(ブロンズアーム・トライブ)》召喚!山札の上のカードをマナに!」
 ターンを始める前とは違い、新之助の顔が明るくなった。《青銅の鎧》はもっと早いターンで使いたかったクリーチャーだが、贅沢は言えない。防戦一方の状況で相手のシールドを攻撃できるクリーチャーが出た事が嬉しい。
「マナを増やしたか。だが、俺はこれ以上マナを増やさねぇ」
「え……。たった四枚でいいの?」
 一が使っていたデッキも長作と同じように速攻をコンセプトにしたデッキだった。しかし、彼のデッキでも切り札を出すためにはマナゾーンに五枚のカードが必要だった。目の前にいる長作はそれよりも少ない四枚でいいと言っている。
「ああ、充分だオラァ!アンタップ、ドロー!マナを四枚全部タップして《デス・スモーク》だオラァ!」
「闇文明のクリーチャー破壊呪文!」
 手札破壊にばかり気を取られていたが、闇文明はクリーチャーの破壊も得意としている。今、ここでそれが出て来たのだ。
「《ムルムル》を破壊!これでお前のブロッカーは全滅だオラァ!」
 手札だけではなかった。ブロッカーまで滅ぼされて新之助は自分のシールドを守る術を失ってしまった。
「《汽車男》でシールドブレイク!」
「また、シールド・トリガーじゃない……」
 守るためのブロッカーもなく、手札もシールドも減らされてしまい、シールド・トリガーも出ないという現実が新之助を打ちのめす。
(僕、がんばってるつもりなのに、どうして応えてくれないの?このデッキにどうやって愛情を注げばいいの?)
 新之助は自分のデッキを見てそう思った。悩みながら彼はカードを引く。

「さっきはごめんね。いきなり、倒れたりして」
 部室には静貴、健人、義男の他に、静貴のマネージャーの一ノ瀬(いちのせ)がいた。皆、新之助の退部に頭を抱えている。
「倒れたいのは健人だけじゃないわ。何とかしてあと一人部員をゲットしないと……。他に誰かデュエマを楽しんでくれる子を……」
「どうにかしなくちゃ!このままじゃ、廃部だよ!?」
「判ってるわ。判ってるんだけど……。そうよ!」
 静貴は手を叩いて笑った。何かいいアイディアがあるのかと期待して健人と義男は静貴を見る。
「ぬいぐるみとかマネキンとかを置いて代役にできないかしら!?」
「静貴……」
「憐れんだ目で見るのはやめなさいよ。そんな目で人を見る暇があったら、何かアイディアを出すの!」
「アイディアねぇ……。もう、デュエマを楽しんでいる人にこだわらずに誰でもいいから入ってもらえばいいんじゃない?」
「それは駄目」
 静貴が低い声で拒絶する。そして、健人を見た。
「健人もあの約束を知っているでしょう?あたしはこの部には心からデュエマを楽しんでいるとあたしが認めた人しか入れない」
「判ってる。でも、それで廃部になったら元も子もないよ。なあ、義男も何とかして説得してくれない?」
 義男は二人が会話しているのを見ながら腕を組んでいた。組んでいた腕を解くと、上着のポケットから煙草のようなものを取り出して口にくわえる。静かに息を吸った後、口を開いた。
「ない事もない。デカチョーはこういう方法は嫌いかもしれないが、俺はやる価値があると思っている」
「一体、どんな方法なの!?」
 静貴と健人が期待した目で義男を見る。二人の顔が義男のサングラスに映った。
「シンをデュエマが出来る偽者の不良に襲わせます。偽者の不良がシンを襲う理由は何でもいいでしょう。不良にデュエマで勝負を挑まれたシンは戸惑いながらそいつを撃退する。勝ったシンは喜び、初めての勝利と共に自分の強さとデュエマの楽しさに気付くって訳です。どうすか?」
 話し終えた義男は鼻息を荒くして二人を見た。
「八百長っぽいのは気に入らないけれど、勝たせて自信をつけさせるのはありだと思うわ。それでデュエマの楽しさに気付いた時に入部しないか勧誘する訳ね。よし!」
 静貴は左手を腰に当て、右手で一ノ瀬を指す。
「一ノ瀬君!今すぐ偽不良役の子を誰か用意して!演技がうまくてデュエマができる人ね!」
「かしこまりました。プロダクションに連絡し、今すぐ用意をいたしましょう」
 にこやかな顔で一ノ瀬は返事をし、携帯電話を取り出す。彼が通話しようとした時、廊下に響き渡る足音と共に部室のドアが勢いよく空いた。
「大変だ!」
 鉄砲玉のように勢いよく部室に入って来たのは一だった。肩で息をしながらその場に座り込んでしまう。
「おい、イチ。血相変えて何かあったのか?」
「た、大変なんすよ。永瀬が……あいつが河川敷で不良に絡まれてデュエマを挑まれてるんです!助けて下さい!あのままじゃ、殺されちゃうかも!」
 悲鳴にも似た声で一が状況を説明する。それを聞いた静貴は一ノ瀬を見た。
「もう用意していたの?いつも思うけど、用意がいいわね」
「いえ、さすがに私でもこんなに早くは……まさか!」
 一ノ瀬と静貴の目が合う。嫌な予感は当たるものだ。新之助は偽者ではなく、本物の不良に遭遇している。
「松野君!走ったばかりで悪いんだけど、また走ってもらうわよ!河川敷の永瀬君がいる場所まで案内して!」
「静貴さん、落ち着いて下さい。松野君をまた走らせる必要はありません。車を用意してありますからそれで行きましょう」
 そう言うと、一ノ瀬はしゃがんで一に手を貸し、彼を立たせた。
「永瀬君の居場所を知っているのはあなただけです。案内してくれますね?」
「……うっす!も、もちろん……っす!」
 息を切らしながら一はそう言った。
 新之助がいつ河川敷は学園から車で十分もかからない場所にあった。しかし、一には河川敷から学園までの道のりが果てしなく長いもののように感じられたのだ。一ノ瀬が運転する車から降りた静貴達四人はベンチに向かいながら対戦相手を見る。
「ああっ!あのリーゼントはもしかして!」
「知っているの!?健人!」
 健人は静かに頷くと対戦している者達に近づきながら説明を始めた。
「彼は仏地義理中の一年生、番場長作だ。仏地義理中がどんな学校か知っているよね?」
 静貴と義男はその問いに頷く。
 仏地義理中は不良の溜まり場と言われている学校だ。悪の巣窟とも現代版ショッ○ーのアジトとも世紀末の世界とも言われている。
「その仏地義理中に入学して一週間で不良達をまとめて番長になったのがあの番場長作だ。一年だけじゃないよ。二年も三年も彼に喧嘩でかなわなかったんだ!それだけじゃない。周りの高校の不良が集団で彼に襲いかかったんだけど、番場長作はその不良集団を一人でやっつけてしまったんだ。あと、甘党で和菓子に目がないらしいんだ。最近は水ようかんが好物らしいよ」
「なるほど。最後のはどうでもよかったわね。でも、その不良が何で永瀬君に襲いかかるのかしら?」
「デカチョー。奴は不良をまとめた後にデュエマ部を作ったそうですぜ。番場長作も始めたばかりらしいが、部員と共に毎日練習してるって話でさあ」
「それじゃ、彼もあたし達と同じでデュエマを楽しむデュエマ族なのね」
 話をしている内に静貴達四人は不良達のすぐ傍まで来た。長作の取り巻きの一人がそれに気付く。
「お、おい!あの阿部野静貴だ!阿部野静貴が来てるぞ!」
 自分の名前を出された静貴は、不良達に営業用のスマイルを見せる。
「ぐはっ!」
「最高だっ!」
「ビューティフルッ!」
 その笑顔を見て、不良の何人かは胸を押さえて倒れる。その顔は幸せそうだった。
「どうしたの?デュエマしてるの?」
「そ、そうだぞオラァ……」
 静貴を見て長作も顔を赤くする。喧嘩が無敵の番長も今をときめく美少女のスマイルには勝てないらしい。
「ねぇ、物は相談なんだけど……」
 静貴は長作の耳に口を近づける。そして、小声でささやいた。
「今、あなたが戦ってる子。あたしの知り合いでデュエマを始めたばかりの子なの。あの子に自信をつけさせるために負けてくれないかしら?」
「おう……おう……!」
 長作は顔中を真っ赤にしながら何度も相槌を打つ。本当に頭に入っているのか判らないが、この調子なら言う事を利かせるのは簡単そうだった。
「あたしの頼み、聞いてくれる?」
「おう、任せ――」
「そんな事はさせないっす!」
 それを聞いていた豆助が反応した。有無を言わせずに彼はマシンガンのように言葉を紡ぐ。
「長作さんはボルシャックかっけー人っす!いくら美人さんの頼みでも悪い事には力を貸さないっす!」
「豆助ぇ!」
 長作は「余計な事を言うな!」という顔で豆助を睨む。それを見た豆助は長作にウインクした後、こう言った。
「ほら、長作さんも取引には応じないって言ってるっすよ!」
「そう、それなら仕方ないわね」
 諦めたような口調で静貴が数歩下がる。それを見て、長作と豆助は諦めたのかと思った。
「一ノ瀬さん、あれ出して」
「はい、かしこまりました」
 静貴の命を受けて、その場に来ていた一ノ瀬が黒いバッグから何かを取り出し、地面に置く。それは街路樹くらいの太さで二メートル近い長さの巨大な氷柱だった。バッグに収納できないようなサイズのものが出て来た事に、その場にいた者達は驚く。
「驚くのはまだ早いわよ。さてと……」
 地面に横たわった氷柱を一瞥した後、静貴は目を閉じて呼吸を集中させる。そして、急に目を開くと右手に力を込めて氷柱に拳を打ち込んだ。瞬きする間もなく、氷柱は砕け、小石よりも小さくなった氷の粒が飛び散った。
「あたし、言う事を聞いてもらえなかったら誰かさんをこんな風にしちゃうかも」
 右手を握ったまま、静貴は長作を見て笑顔で話す。ついさっきまで真っ赤になっていた長作の顔は恐怖で真っ青になっていた。
「お、俺は……」
「馬鹿言うんじゃないっすよ!長作さんは他の高校の不良が束になってかかっても倒せない最強の番長なんすよ!氷柱なんかと一緒にするんじゃないっす!ねっ、長作さん!」
「豆助ぇっ!」
 長作は再び豆助を「余計な事を言うな」という目で見る。しかし、目で訴えたメッセージはまったく通じなかった。
「そう、残念だわ……。それじゃ――」
「まだ、デュエマは終わってないよ……!」
 弱々しいがしっかりした声が静貴を止める。それは新之助が発したものだった。
 新之助のシールドは二枚。それを守るように《ムルムル》と《エル・カイオウ》が一体ずつ立ちふさがる。持っている手札は二枚。《エナジー・ライト》で手札補充もしたが、長作の猛攻で減らされてこんなに少なくなった。
対して、長作のシールドは無傷の五枚だった。新之助の攻撃できるクリーチャーは手札にある状態で捨てられるか《デス・スモーク》のような除去呪文で破壊されてしまい、攻撃できなかったのだ。
 バトルゾーンにも《飛行男》と《風車男》と《汽車男》の手札破壊クリーチャー三体が並んでいた。新之助にはそれらが自分の手札を見て舌なめずりをしているように見える。
 長作の手札は速攻で消費したため、一枚しか残っていない。しかし、新之助と違い、捨てられて減らしたのではなく自分で使って減らしたのだ。
「僕はターンエンド。君の番だよ」
「こいつ、まだやる気っすか?無駄っすよ。長作さんは喧嘩だけじゃなくてデュエマも強いんすから」
「豆助、黙ってろ」
 長作が低い声で注意する。注意された事に驚いたのか、豆助は
「でも、長作さん!」
と、反論する。
「こいつ、いい目をしてやがるぜオラァ。俺はこんな奴と喧嘩するために不良になった。そして、こんな奴とやり合うためにデュエマを始めたんだオラァ!」
 長作は使ったマナをアンタップしてドローする。その顔は喜びに満ち溢れていた。
「永瀬君!」
 見ていた静貴が声をかける。新之助は自分の名前が呼ばれたのに気付いて、初めて静貴達を見た。
「あ、来てたんですか?」
「来てたんですか、じゃないわ。大丈夫なの?」
 静貴に言われて新之助は改めて手札を見る。そして、顔を上げて答えた。
「よく判りません。デュエマを楽しむとか、デッキに愛情を注ぐとか……。何もかも判らない。どうすればいいのかも全く判らない。だけど、ここまでやれたんです」
 新之助はそこで一度言葉を止める。そして、息を吸ってこう続けた。
「この番長さんの速攻、すごかったんですよ。でも、ここまで耐えた。だから、負けてもいいから切り札を出せるまでがんばろうと思うんです」
「永瀬君……」
 そこには、部をやめると言っていた弱気な新之助はいなかった。自分の対戦に真剣に向き合う一人の少年がいた。
「不良の偽者とか用意しなくてもよかったみたいだね」
 健人が静貴に話しかける。知り合った後輩が精神的に強くなったのを見て、満足そうな顔をしている。
「部が廃部になるとか、そういう小さな問題はもうどうでもいいわ。こんな素敵なデュエマ族が生まれた事の方が幸せだもの」
「全くだ。こいつぁいいぜ」
 義男も後輩の成長を見て喜んでいた。ただ一人、一だけが話について行けない様子で
「え?廃部ってどういう事ですか?」
と聞いていた。
「お前、なよなよした奴だと思ったけれど、そうじゃねぇな。だから、俺の切り札を見せてやるぜオラァ!闇のマナ四枚タップして、《イモータル・ブレード》をジェネレートだオラァ!」
 長作が出したのは長い槍のような物とそれを持つ黒い人型の者が描かれているカードだ。それにはパワーが書かれていなかった。
「え、クリーチャーじゃない?呪文?」
「クリーチャーでも呪文でもない。クロスギアだオラァ!」
「クロスギア……?」
 自分が使った事がない種類のカードを見て、新之助は健人を見た。
「永瀬君、クロスギアはクリーチャーとも呪文とも違う第三のカードだ。コストを払って場に出す事をジェネレートって言って、もう一度コストを払ってクリーチャーに装備させる事をクロスと言う。クロスギアは本来ながらクリーチャーにクロスされていなければ効果を発揮しないんだけど……」
「おっと、解説はそこまでだぜ、眼鏡の兄ちゃん!《風車男》で攻撃!そして、手札を捨てるぞオラァ!」
 効果で新之助の手札が一枚捨てられる。しかし、《風車男》が攻撃してきたおかげでブロックして《風車男》をバトルで倒す事ができる。
「《エル・カイオウ》でブロック!」
「それでいいんだな?《イモータル・ブレード》の効果で《エル・カイオウ》も墓地送りだオラァ!」
 《風車男》を墓地に置いた長作が《エル・カイオウ》を指して言った。驚いた新之助は長作の顔を見た。
「永瀬君!《イモータル・ブレード》はクリーチャーにクロスされていない時でも効果を発揮するクロスギアよ!効果で全てのクリーチャーがスレイヤーになるわ!」
「シン!スレイヤーってのはバトルに負けても相手をぶっ殺す能力の事だ。お前がいくら《ムルムル》でパワーを上げていても破壊されちまう!」
「そんな……。ブロッカーで守りきれると思っていたのに……!」
 静貴と義男のアドバイスが耳に届く。ようやく長作に勝つ方法を見つけたと思っていた新之助は窮地に立たされた事に気付いた。
 新之助は長作のクリーチャーを見て、自分のクリーチャーよりもパワーが低い者が多い事に気がついた。故に、パワーの高いブロッカーを並べれば時間を稼ぐのは容易いと思ったのだ。
「相手の闘志は徹底的に叩きのめす!それが俺の喧嘩だオラァ!《飛行男》で攻撃!」
「ブロックは……しない!」
「シールド・トリガーじゃないみたいだな。だったら、《汽車男》で最後のシールドを攻撃だオラァ!」
「《ムルムル》でブロック!」
 最後のシールドは守った。しかし、これで新之助のブロッカーは全滅してしまった。
「《飛行男》が残ったか。ターンエンドだ」
「アンタップしてドロー。《エナジー・ライト》を使う!お願い、ブロッカー来て!」
 祈りながら山札の上のカードに触れ、一枚目を引く。それを見てがっかりした新之助はもう一枚引いた。それもブロッカーではなかった。
「僕はもう何もしない。ターンエンド」
「さすがの俺もこのターンじゃ勝てねぇぞオラァ。アンタップ、ドロー。《ボーン・スライム》を召喚。そして、闇を入れた四枚のマナをタップして《イモータル・ブレード》を《飛行男》にクロスするぞオラァ!クロスした《イモータル・ブレード》はクリーチャーをスレイヤーにする能力がなくなる。代わりに攻撃する時に墓地のクリーチャーを蘇らせ、手札に戻す事ができるんだオラァ!」
「嘘!?」
 必死になって倒したクリーチャーが蘇る。それは、今まで新之助が続けて来た戦略の全てを否定されるような能力だった。
「《イモータル・ブレード》をクロスした《飛行男》で最後のシールドを攻撃!これで俺は《汽車男》を手札に戻すぞオラァ!」
 何者にも守られていない最後のシールドに《飛行男》の攻撃が通る。新之助は目を閉じて最後のシールドに触れた。
「もう駄目だ。どれだけ頑張っても僕は勝てない。さよなら、デュエル・マスターズ」
 目を開き、最後のシールドを見る。それを見た時、新之助は自分の目を疑った。何度か瞬きを繰り返し、もう一度そのシールドを見た。何度見てもそのカードは変わらない。新之助を勝利に導く逆転の一枚だという事実は絶対に変わらない。
「おい、どうしたんだオラァ!シールド・トリガーだったら早く使えオラァ!」
 それを見ていた長作が新之助を急かす。それは喧嘩に慣れている彼の本能が、新之助の行動や場の流れが危険だと感じ取っているからだ。苛立ちではなく、怯えからくる行動なのだ。
「来たわね」
「そうだね。多分、逆転のカードだ」
「ああ、これがあるからデュエマはやめられねぇ」
 静貴、健人、義男の三人も、過去の経験からそれが流れを変える一枚だと感じ取った。
「長作さんの言う通りっす!早くするっす!」
「あ、ごめん。じゃ、使うよ……。シールド・トリガー!《インフェルノ・サイン》!!」
 今までシールド・トリガーが出なかった新之助のシールドからついにシールド・トリガーが出た。そして、それは間違いなく流れを変えて新之助に勝利を呼ぶ一枚だった。
「シールド・トリガーだと!?しかもそれはヤバいカードじゃねぇかオラァ!」
 《インフェルノ・サイン》。それはデッキに一枚しか入れる事ができない殿堂カードの一つだ。これを使った時、墓地から7コスト以下のクリーチャーを一体、場に出す事ができる。
「僕の墓地には番長さんの手札破壊で捨てられたカードがたくさんある」
「俺の手札破壊がお前の選択肢を増やしちまったって事かオラァ!?」
「そう。僕が選ぶカードはもう決まっている。墓地から《究極神アク》をバトルゾーンに!」
 それは長作が《汽車男》の効果で捨てたクリーチャーだ。破壊されたはずのそのカードが、今、新之助のために蘇った。
「《ボーン・スライム》は召喚酔いだからもう攻撃はできねぇ。ターンエンドだ。だけどなぁ!もし、《アク》で《飛行男》を攻撃しても無駄だぞオラァ!《ボーン・スライム》はブロッカーだからブロックできるし、もし、ブロックしなかったとしても、《ボーン・スライム》で攻撃できる!俺が勝つんだオラァ!」
「僕の手札には切り札がある」
 静かだが、確かな声で言った新之助は長作の目を見る。彼の言葉と視線に射抜かれた長作はその場でひるんだ。
「アンタップ、ドロー。光と自然を含んだマナ七枚をタップして《超絶神ゼン》を召喚!!」
 それは、揃える事を夢にまで見たゴッドの片割れだ。これでゴッド・リンクするのに必要な二体のクリーチャーが揃った。
「やった!これで合体できる!《超絶神ゼン》と《究極神アク》をリンクさせて《ゼンアク》に!!」
 二枚の神の絵がつながる。その瞬間、新之助は静貴の言っていた「デュエマを楽しむ」という事を理解し始めた気がした。
「すげぇ!やったじゃないか、新之助!お前、リンクできたの初めてだろ!?本当にやったー!」
 リンクしたゴッドを見て自分の事のように喜んでいるのは一だ。小さな体で飛び回っている。
「ぐっ!切り札を出しただけで勝った気になってんじゃねぇぞオラァ!《ゼン》は召喚酔いだから何もできないぜオラァ!」
「いや、違う!ゴッドはリンクした時に召喚酔いがなくなるんだ。だから、これで番長さんのクリーチャーを攻撃できる!」
「マジかよ……」
 驚く長作の前で、新之助は指を《ゼンアク》に添えた。攻撃のターゲットはもう決まっている。
「《ゼンアク》で《飛行男》を攻撃!リンク時の攻撃する時の効果で《ボーン・スライム》を破壊!」
「げっ……!攻撃しただけで一体、破壊だとオラァ!?」
 《ゼン》と《アク》は単体でも特殊な能力を持つゴッドだ。
 《アク》は場にいるゴッドが破壊される時、破壊される代わりに手札に戻す能力を持つW・ブレイカーだ。《ゼン》はW・ブレイカーで攻撃できるブロッカーだ。それぞれリンクした時、単体の時に持っている能力以外に三つの新しい能力を得る。その一つが攻撃する時に相手クリーチャーを一体破壊する能力だ。
「ぐ……。《ボーン・スライム》と《飛行男》が……。だが、効果で手札を捨てるぞオラァ!」
 切り札が出た事で安心したのか、新之助は手札を捨てられても気にしなかった。相手クリーチャーが二体墓地に行ったのを見て、新之助はタップされた《ゼンアク》に指を添える。
「ターンエンド。そして、ターンが終わる時の能力で《ゼンアク》をアンタップ!」
「なんだとオラァ!」
 リンクした時に得られる第二の能力。それがターンの終わりにアンタップされる能力だ。これで《ゼン》の持つブロッカーとしての能力をフルに活かす事ができる。
「くそっ!とんでもねぇ切り札じゃねぇかオラァ!だが、《イモータル・ブレード》は残っているぜ!これでスレイヤーの効果を使ってやる!《汽車男》を召喚して手札を捨てるぞオラァ!」
 長作は叩きつけるようにして《汽車男》を召喚する。最初のような余裕がなくなっていた。
「もう俺は何もできねぇ。ターンエンドだ」
「《エナジー・ライト》でドロー。《ブラッディ・シャドウ》をG・0で出して《ゼンアク》でシールドを攻撃!効果で《汽車男》を破壊!シールドをQ(クアトロ)・ブレイクだ!」
「よ……四枚ブレイクだとオラァ!?」
 リンクした《ゼンアク》が持つ第三の能力がシールドを四枚ブレイクするQ・ブレイクだ。一撃で相手を瀬戸際まで追いつめる脅威の一撃だ。
「くそっ!シールド・トリガーはねぇ!」
「《ゼンアク》をアンタップしてターンエンド」
 追い詰められていた時とは違い、新之助は落ち着いている。今にもパニックになりそうな長作とは対照的だ。
「くそっ!俺のターンだが、何を出せば何を出せばいいんだオラァ!こうなったらブロッカー二体だオラァ!」
 長作は逃げの姿勢に入ったのか《ブラッディ・ドラグーン》を二体召喚した。これは攻撃ができないブロッカーで《ブラッディ・シャドウ》と同じようにバトルした後で破壊されるクリーチャーだ。
「《ゼンアク》の能力で破壊できるのは一体だ!二体並べれば、一体が《ゼンアク》を仕留めるぜオラァ!」
「そうだね。《ゼンアク》で破壊できるのは一体だけだ。それならこうすればいい!」
 自分のターンが来て、新之助は闇文明のカードを含んだ六枚のマナのカードをタップする。そして、一枚の呪文を出した。
「《デーモン・ハンド》。これで《ブラッディ・ドラグーン》を一体破壊!そして、《ゼンアク》でシールドを攻撃して効果でもう一体の《ブラッディ・ドラグーン》を破壊!最後のシールドをブレイク!」
「ち、ちくしょぉぉっ!!」
 ついに長作はシールド0まで追い込まれた。シールド・トリガーもなくここから逆転は不可能だ。最後の悪あがきで長作はカードを引き、手札を睨む。そして、静かに息を吐くと体の力を抜いてこう言った。
「もう俺の手札にはブロッカーがない。ターンエンドだオラァ」
「カードをアンタップ、ドロー。《ゼンアク》で……《ゼンアク》でとどめ!」
 《ゼンアク》に指を添えてタップしたところで新之助は硬直した。そのままの姿で固まったまま動かない。
「新之助、やったじゃないか!お前、勝ったんだぜ!」
 はちきれそうな笑顔の一がやってきて、新之助の肩を何度も叩く。何回か叩いたところで新之助は、はっとして周りを見た。
「ねぇ、僕……勝ったの?」
「勝ったんだよ!自信持てよ!」
「おめでとう!永瀬君!」
 一に続いて、静貴達デュエマ部の三人と一ノ瀬も彼に近づく。そして、手を伸ばした。少し悩んだ後、その手を新之助がつかむ。
「あの……勝手なお願いなんですけど、聞いてもらっていいですか?」
「何?」
 新之助は目を閉じ、何度も深呼吸をする。そして、目を開けて口を開いた。
「僕、この部活でデュエマをしたい……。この部を続けたいです!」
 それを聞いた静貴は健人と義男を見る。彼らは笑顔で答えた。
「何も問題はないよ。だって君はデュエマ部の部員だからね。これからもよろしく」
「おい、行くぞ、シン。今日はお前達に部室の掃除を教えてやろうと思ってたんだ」
 三人の態度を見て不思議に思った一は首をかしげながら言う。
「部を続けたいなんて、変な事言うな。それよりも、早く部室に戻ろうぜ!」
「あ、ちょっと待って……!」
 走ろうとする一を手で止めると、新之助は長作に近づいた。彼は取り巻きの不良に囲まれてうなだれている。
「あの……番長さん?」
「番場長作だ。番長は名前じゃねぇぞオラァ!」
「あの、長作君。僕は烈光学園中学の永瀬新之助って言うんだ。長作君のおかげでデュエマを楽しむって事が判った気がする。ありがとう。また、一緒にデュエマしようね」
 周りの不良の視線を気にしながら新之助が右手を伸ばす。顔を上げた長作はその手を見て笑った。
「ああ、何度でもやってやるぞオラァ!もし、喧嘩になったら俺を呼べ!俺達は友達だ!何が合っても助けてやるぞオラァ!」
 長作はその手を握って言う。手を離した後、長作は振り返ると
「お前ら帰るぞオラァ!町内清掃作戦はこのくらいにして、デュエマの特訓だオラァ!」
と言って走り出した。
「長作さん、ボルメテウスかっけーっす!」
と、言って豆助がそれに続く。取り巻きも走り出した。
「新之助!俺達も負けてらんねーぞ!部室に帰って特訓だ!」
 待ちきれなくなったのか一が走り出す。
「あ、待ってよ、一!」
 それを見てデッキを抱えた新之助がついていった。
「帰りの車はどうされますか?」
 二人の様子を見ていた一ノ瀬が静貴に聞く。
「あたし達も走りましょ。何だか青春っぽくて面白いじゃない」
「俺もデカチョーに賛成だ。みっちゃん先輩は?」
「珍しく意見が合うね。僕も走ろうと思ってた」
 三人はしばらく見つめ合うと笑った。
「じゃ、ビリの人はみんなにジュースおごりね。それじゃ、よーいドン!」
「あ、自分で言って走り出すなんてずるい!」
「やれやれだな」
 静貴に健人と義男が続く。一ノ瀬はその様子を笑顔で見つめていた。

「はぁ……」
 数日後。生徒会室にて。
 烈光学園中学の生徒会は一般の中学校に比べて大きな権限を持っている。授業以外のありとあらゆる事を決める事ができるほどの権力があると言っても過言ではない。
 どこかの書斎のように重厚感のあるテーブルや椅子、ソファ、棚に囲まれた生徒会室の奥では、代々生徒会長だけが座る事ができる美しい木目調のデスクと椅子があった。そこにいる金髪縦ロールの少女が烈光学園中学の生徒会長、神足綾音(こうたりあやね)だ。
 絹のように白い彼女の指が一枚の紙をつまむ。それは今年度のデュエマ部の活動許可証だった。生徒会による承認のハンコが押されている。
「もう少しでデュエマ部を廃部にできたというのに……!松野一と永瀬新之助……。ただでは済ませませんわ」
「とすると、デュエマ部の存続が決まった時のためのプランを実行する訳ですか」
 綾音の隣で立っていた眼鏡の少年が言う。
「そうなりますわ。あたくしの計画実行のためには何が何でもデュエマ部には廃部になってもらわなくては困りますの。新たなプランで絶対に廃部にしてみせますわ!」
 一難去ってまた一難というべきか。
 五人揃ったデュエマ部に生徒会長の魔の手が近づいていた。何故、生徒会長はデュエマ部を廃部にしたいのか?彼女のプランとは一体、何なのか?
 それはいずれ明らかにされるだろう。

第二話 終

次回予告
「こんちは、健人です。いやー、ちゃんと部員が五人揃ってよかったよかった。これからはみんなで練習するぞ!って、ちょっと義男!松野君と永瀬君連れてどこに行くのさ!え、学園デカだから見回りに行くって!?お前、デュエマ部なんだからデュエマしろよ!え?タレコミがあって、偽サインカードを作っている奴らを摘発しに行くって!?かくして学園に潜む悪党との対決が始まる!『第三話 刑事の男 義男』次回も読んで下さいね!」
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