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『コードD』File.48 永遠の牢獄

『コードD』


 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 魔道書同盟の本拠地が古びて人々が近寄らない教会にある事が判った。今になって判った事に疑問を感じるトライアンフのメンバーだったが、このチャンスを見逃す理由はなく、全員で攻め入る事が決まった。しかし、心に深い傷を負った征市は戦う事を拒否する。
 作戦の日。永遠の命令を無視して念は征市と戦う事を選んだ。征市が来ない事を彩矢の口から告げられた彼は暴走する。
 一方、征市は彩弓の説得と真実が残した手紙によって立ち上がり、念に挑む。宿命のライバルとの死闘に決着をつけた征市は、その足で本拠地の教会に向かった。

  File.48 永遠の牢獄

 湊に見守られながら、陸は汚れた扉に手をかける。力を入れてそれを引くと、重い音を立てて開いた。二人が中に入ると、同じように重苦しい音を立てて閉まる。外界の光から遮断された室内に入った時、巨大な怪物の口から体内に入ったような錯覚を覚えた。
 怪物の中は、暗かった。光を取り入れるための窓は全て黒い板で塞がれていた。まるで、光を拒絶するかのようだった。中を照らすのは、儚げな蝋燭の炎だけだ。微かな灯りに照らされて、二人が倒すべき敵の姿が浮かび上がる。
「待っていたよ、陸。二度と君の顔を見ないで済むように、今日で全てを、何もかも終わらせてあげよう」
 穏やかに微笑む青年が一歩、前に出る。穏やかな微笑みの下にどんな邪悪な策略を隠しているか判らない。人懐っこい微笑みを見せながら、彼は近づいてくる者を傷つけ、殺めて来た。
 陸はこの男を実態がつかめない幻のように感じた事がある。それを現すようにこの男の本当の名は、幻(げん)という。
「それはこっちの台詞だ!僕もずっとこの日を待っていた。あんたが裏切った事を知ったその日から、ずっと待っていたんだ!トライアンフのみんなの仇だ!幻!あの世で神様に懺悔しな!」
 陸は叫ぶのと共に、首から下げたループタイのカメオをつかむ。ドクロの形をしたそれが怪しく光ると、その光の中から金属製のデッキケースが飛び出した。デッキケースをつかんだ陸は、すぐに中身を取り出し、眼前に放り投げた。
 四十枚のカードは空中で舞う。その中の五枚が陸の右手に飛んでいった。三十枚は山札として彼の近くに収まり、最後の五枚は陸を守る黒い壁として眼前に並んだ。
 幻も同じように自分の前に五枚の青いシールドを並べる。陸を射抜くような冷たい目で見ると、口元だけで微笑み、「殺す」と呟いた。
「あら!おチビちゃんが来たのねっ!やっぱり、貴田一真は立てないのかしらっ!」
 気持ちの悪い口調で話しながらその男は湊に近づく。白い布で顔の上半分を隠し、体を白いマントで包んだその男は、様々な化け物を作り出してY市の人々を襲った。生き物を道具として使い、人とプライズを傷つけて来た。全能の神のように振舞うこの男の名は、全(ぜん)という。
「僕は許せない。多くの人を傷つけてきたあなた達を!もう二度と、誰も傷つけさせやしない!」
 湊の携帯電話についていた雪ダルマのストラップが緑色の光を発する。その光の中から彼のデッキケースが飛び出す。そこからデッキを引き抜いた湊は目の前に五枚の緑色のシールドを並べた。
「黙って聞いていれば、歯の浮くような事をっ!見た目と……見た目と同じでぇ、言う事も女々しいんだよ、ガキがぁっ!!」
 暴言と共に、全の頭の白い布と白いマントが吹き飛ぶ。隠れていた緑色の目が湊を睨んだ。
「覚えておけぃ!傷つけられ、蹂躙されるのは弱い者だからだ!強い者が力を示して悪いかぁっ!!」
 全は太い腕を振って目の前に五枚のカードを投げる。それは金色に光る壁となって彼を守った。
「あはは!始まったよ!君達二人はいらないんだ。征市君が来るまでの暇つぶしとしてかわいがってあげるよ!」
 祭壇の下に椅子があり、そこに黒いドレスの少女がいた。魔道書同盟の長で、人間達を今後も永遠に苦しめ続けようとするその少女を永遠という。
「あいつ、セーイチさんが来ると思っているの?」
 永遠の言葉を聞いて、陸が眉をひそめる。
「そうみたいですね。何だか、すごい自信です」
「だったら、考えている作戦もその自信も一緒にぶっ壊してあげようか!湊君、どっちが先に目の前のクソヤロウを倒して永遠を倒せるか競争だよ!」
「陸さん!遊びじゃないんですよ!」
「行くよ!《フェアリー・ライフ》!」
 湊の言う事に耳を貸さずに、陸は呪文を使う。その直後、湊を見てこう言った。
「このペースで行くと、僕が先に勝っちゃうよ?」
 陸は湊を挑発するように微笑む。それを見た湊は唇を尖らせた。
「馬鹿にしないで下さい。僕だって、トライアンフに入ってから頑張ってきたんだ!」
 湊も全を見ながら《フェアリー・ライフ》を使う。それを見た後、陸は「お、その調子その調子」と言って、目の前の宿敵を見た。
「ふざけているのかい?」
 苛立った口調で幻が問う。それを見た陸は軽く口笛を吹いてから答えた。
「真面目にやっているよ。湊君は硬くなりすぎだからね。緊張をほぐしてあげないと」
「大した余裕だな。それで僕に勝てると思っているのか!?」
 茶化したような態度が気に入らなかったのか、言葉に怒気をにじませながら幻は一枚のカードを場に投げる。それが青い光を発すると、彼の山札の上のカード四枚が表向きになった。
「《ストリーミング・シェイパー》だ。効果で水のカードを四枚手札に!」
 表向きになったのは全て水文明のカードだった。効果で四枚全てが手札に加わる。
「相変わらず、水単色のデッキか。だったら、僕はこれだ!」
 陸がマナをタップし、一枚のカードを場に出す。黒い光を発したそれは、白い人型のクリーチャーとなって場に出る。毬のような腹には巨大な口があり、そこから息が漏れている。
「《停滞の影タイム・トリッパー》だよ。これでマナを止めて、動きを遅らせる。その隙に僕は大好きなデーモン・コマンドで攻め込むってわけ!」
 幻は《停滞の影タイム・トリッパー》を睨みながらカードを引く。手元にあるカードを吟味した後、その中の一枚をマナゾーンに置いた。その瞬間、カードが勝手にタップされる。
「マナチャージを妨害するカードか。どいてもらおうかな?」
 幻が手札にあったカードを一枚場に投げる。それが地面についた瞬間、カードから大量の水が噴き出した。水は集まり、津波となって《タイム・トリッパー》の体を飲みこんでいく。波の上には、丸い手裏剣に似た形のパワードスーツに乗ったサイバーロード《斬隠テンサイ・ジャニット》がいた。
「僕のマナゾーンには既に使えるマナが三枚あった。《テンサイ・ジャニット》を使えばこいつをどかすのは簡単さ。どうする?もう一回《タイム・トリッパー》を出すかい?」
「いや、マナが駄目なら狙うのは手札さ」
 陸が一枚のカードを場に投げる。それが光を発してクリーチャーの姿に変化するのと同時に幻の手札からカードが一枚弾け飛んだ。
「《トリプルマウス》でマナを増やすのと同時に手札を捨てたのか」
 見えない力に手札を弾き飛ばされたのを感じ取った幻は場に現れたクリーチャーを見て苦々しい口調で呟いた。そして、一枚のカードを《テンサイ・ジャニット》に向かって投げつける。
「だったら、失った手札の分を取り戻すよ!進化!《エンペラー・マルコ》!」
 カードから刺さった青い光が《テンサイ・ジャニット》を包み、その姿を巨大な退治のような姿へと変えていく。進化クリーチャー《エンペラー・マルコ》だ。
「《エンペラー・マルコ》の効果で三枚ドローするよ。そして、《エンペラー・マルコ》でシールドをW・ブレイク!」
 命令を聞いてすぐに《エンペラー・マルコ》が動き出す。その巨体が陸のシールドに押し当てられ、黒い壁二枚がひび割れ、消えて行った。
「このまま殴り倒してやるよ、陸。シールドが壊されていくのを、指をくわえて見ているといい!」
「そううまく行くと思ってんの?甘いんだよ、あんたは!」
 《エンペラー・マルコ》の胴体を黒い手で突き破る。しばらく痙攣していたその肉体は、力を失って停止すると青い粒子となって消えて行った。幻が見ると、陸は手に一枚のカードを持っている。
「シールド・トリガー《デーモン・ハンド》さ。僕がデッキにこれを入れてるの、忘れた訳じゃないよね?」
「忘れちゃいないさ。ちょっと甘く見ていたよ……」
 幻は舌で唇を湿らせて陸を見る。陸もターンの最初のドローを終えて敵の姿を見た。
「《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》でシールドを攻撃!」
 湊と全の戦いで先に攻撃を仕掛けたのは湊だった。《フェアリー・ライフ》に続き《青銅の鎧》でマナを増やしながら足場を固めていた。全もそれは同様で《フェアリー・ライフ》など自然文明のカードでマナを増やしていた。
「そんなザコにこれ以上攻撃させるかぁっ!《知識の精霊ロードリエス》を召喚!」
 全が呼び出した青い色の精霊がシールドを守るように立ちふさがる。いくつもの手を持ったそのブロッカー《知識の精霊ロードリエス》は手の一つを全の山札に飛ばし、山札の上のカードを全の手元に投げた。
「ドローできるブロッカー!?」
「《ロードリエス》がいれば俺は大量にドローできるぅっ!お前のザコクリーチャーにこいつが倒せるかぁっ!!」
「ザコじゃない!今まで僕の戦いを支えてくれたクリーチャー達だ!」
「お前が使うような奴がぁ!ザコでないと言えるかぁ!」
「だったら、証明してみせるよ!」
 湊は一枚のカードにマナを与え、上空に投げる。青と緑の光を放って、そのカードは美しい色の扉となった。全が驚いた顔で見上げていると、その扉が開き中から四つのビジョンが飛び出してくる。
「なんだ……なんだ、この扉はぁっ!」
「《ミラクルとミステリーの扉》。出て来た四枚のカードからあなたは一枚を選ばなくてはならない。僕はそのクリーチャーをバトルゾーンに出す。僕のデッキのクリーチャーがザコだと言うのなら、何を出されても問題はないはずだ!」
「ぐっ……!小娘みたいな小僧がっ!」
 毒づいた全は改めて現れたカードのビジョンを見て、目を見開く。その中にあるクリーチャーは一枚のみだった。
「《ドルゲーザ》のみ……!くっそがーっ!」
 扉の奥から巨大な生物が飛び出してくる。下半身は奇妙な水棲生物、上半身は緑色の巨人というそのクリーチャーは湊の戦いを支えてきた切り札とも言えるクリーチャー《剛撃戦攻ドルゲーザ》だった。
「《ドルゲーザ》が場に出た時の効果で二枚ドロー。このパワーなら、《ロードリエス》でも防ぎきれないはずだ!」
「ならば、数だ!《デ・バウラ伯》で墓地の《フェアリー・ライフ》を手札に戻し、《ロードリエス》の効果でドロー!さらに《フェアリー・ライフ》でマナを増やす!」
 追い詰められた全はブロッカー、手札、マナを増やしていく。行動を終えると口元を歪めて笑った。湊はカードのドローをしながらそれを見ていた。いいカードを引いたのか、《ドルゲーザ》を倒す算段でもあるのか、それは判らない。
 しかし、《ドルゲーザ》を破壊されたとしても、致命的な問題にないという事は湊も判っている。同じように全も切り札以上の力を持った真の切り札を用意しているかもしれない。
「なら、僕はマナを増やす!《万象の超人(アウェイクニング・ジャイアント)》を召喚!《ドルゲーザ》でシールドを攻撃!」
「《デ・バウラ伯》でブロックだ!」
 《ドルゲーザ》の巨大な拳の一撃が《デ・バウラ伯》の肉体を粉々に砕いて行く。それを見て全は笑っていた。
「愉快、愉快だぜぇ!実に計算通りって奴だ!喰らえぇ!」
 全は歯をむき出しにして笑うと一枚のカードを《ロードリエス》に投げつけた。金色の光と共に、《ロードリエス》は人型のクリーチャーへと姿を変えていく。光が全て消えた時、そこには金色の鎧と巨大な盾が特徴の聖霊王が立っていた。
「いいぜぇ!《聖霊王エルフェウス》だ!これで《ドルゲーザ》も一撃だぁ!」
「《エルフェウス》……!これが全の切り札なの……!?」
 《聖霊王エルフェウス》は5という低いコストであるにも関わらず、9500という《ドルゲーザ》を500上回るパワーを持っている。さらに、《エルフェウス》がバトルゾーンにある間、湊のクリーチャーはタップされた状態で場に出る。
「《ドルゲーザ》をやる前に、まずは邪魔なそのジャイアントだ!《魂と記憶の盾(エターナル・ガード)》で《万象の超人》をシールドにぃ!待たせたな、デカブツ!《エルフェウス》でぇ、《ドルゲーザ》をぉ、攻ぉ撃いぃっ!!」
 《エルフェウス》の蹴りが《ドルゲーザ》の腹に突き刺さる。腹を押さえた《ドルゲーザ》はそのまま崩れ落ちるように倒れた。
「どうするよぉ?どうやって、《エルフェウス》を突破する?こいつでお前のザコの動きを全部止めてやるよぉ!」
「どんな切り札も万能じゃない!僕にはまだ勝算がある!」
 そう言って湊はカードを引き、戦略を再構築し始めた。

 真実から征市への手紙はこの言葉で始まっていた。
『親愛なる征市さん。少し早いけれど、お誕生日おめでとう。あなたがこの手紙を読む頃、私はこの世にいないかもしれません』
 それは、母に近い女性が息子とも呼べる存在に初めて書いた手紙で、最後のメッセージだった。
 手紙に書かれたのは、総一郎と自分が愛し合っていた過去。そして、ありふれた祝いのメッセージと征市の誕生日プレゼントを選ぶのがどれだけ楽しかったかという幸せに満ちた言葉が書かれていた。
 過去に行われた人間と魔道書同盟の大戦で、真実だけは人間を傷つける事に消極的だった。それは最初に書かれた魔道書である彼女にだけ加えられた『それでも、私は人間を愛する』という一文が心に引っかかっていたからだ。
 魔道書同盟に加担して人間を襲う事も、人間に味方する事もなく過ごしていた時、必死で人間を守る為に戦っていた総一郎に出会った。知能の低い怪人に人間と間違われて襲われた彼女は総一郎に助けられた。家族でもなく、名前も知らないような人間を命がけで助ける総一郎に真実は興味を持って彼に近づいた。それが興味から愛情に変わるのに時間はかからなかった。
 総一郎に愛情を持って接した彼女は、彼を助け魔道書同盟と戦った。そして、彼女に一部だけ記されていた『永遠の牢獄』を使って魔道書同盟を封印した。
 真実の協力で終結した魔道書同盟の大戦だが、魔道書同盟の一員である彼女をいぶかしく思う者も多く、彼女は総一郎の前から姿を消した。
 戦後、総一郎はいくつもの縁談を薦められたが全て断り、生涯、独身を貫いた。真実に対して、操を立てていたのだ。
 会う事はできなかったが、二人は長い間、手紙を送り連絡を取り続けていた。人に知られない場所で人の目につかないように二人は愛し合っていた。
 そして、真実は残された魔道書同盟の処分についてこう書いていた。
『最後に一つだけ征市さんにお願いします。どうか、あの子達を止めて下さい。もし、永遠達が私と同じように加筆されていて総一郎さんのように心優しい人と出会っていたら、こんな悲劇は起こらなかったでしょう。勝手な願いだとは判っています。それでも、最後にあの子達の事をお願いせずにはいられないのです』
 加筆された一つの文が運命を変えた。それを知った征市は少しだけ、魔道書同盟に同情した。
 真実は手紙をこういった文章で終わらせていた。
『できる事ならば、あなたが大人になる姿を見たかった。しかし、それもかなわぬ願いでしょう。征市さん、あなたは魔道書同盟にも迫りくる運命にも負けずに大きく羽ばたいて下さい』
 征市は、改めて目を通した手紙を懐にしまった。目の前には古びた教会が立っている。中では、既に陸達が戦い始めているはずだ。
「やってみるよ。俺が……俺達が魔道書同盟の企みをぶっ壊す!」
 教会の扉に手をかけ、開いた。そこにいる者達のいくつもの瞳が征市を見た。
「セーイチさん、来たんですか!?」
「征市さん……!」
 最初に反応したのは陸と湊だった。続いて、幻と全が反応した。
「来たのか!?相羽征市!」
「貴様ぁっ!念をどうしたぁ!?」
 そして、最後に永遠が椅子から立ち上がる。そして、征市に向かってゆっくりと歩いてきた。
「ようこそ、征市君!念が君に会わなかったかな?」
「ああ、来たぜ。決着はつけた。次はお前だ!」
「うふふ、そう。裏切り者の始末をしてくれてありがとう!征市君!手間が省けたよ」
 無邪気な顔で笑いながら永遠はそう言った。征市は信じられないような物を見るような目で永遠を見ていた。
「お前の仲間だろ?真実も念も同じ魔道書同盟の一員じゃないのかよ!?」
「姉さんは裏切って人間達の味方になった。念は信じていたのにボクの命令よりも君との戦いを優先した。どうしようもない裏切り者さ。幻と全は違うよね!?」
 黒いドレスのスカートを翻し、永遠は二人の部下を見る。
「当然です。僕がプライズをいじって人間共を苦しめるのは永遠様のためだもの」
「もちろんですともぉっ!」
 幻と全が期待通りの返事をした事で永遠は微笑んだ。
「これがボクの仲間だよ。人間に復讐するために力を貸してくれる仲間さ!さあ、征市君。約束を果たそう!君は大人になれない!ここで君の人生は終わりを迎えるんだから!」
 床に書かれた魔方陣の近くで彼女は足を止める。同じように征市も魔方陣の反対側の淵に立つ。
「永遠。お前、人間への復讐をやめる気はないか?」
「セーイチさん!?何言ってるんですか!?そいつらは――」
「陸は黙っててくれ!もう一度聞くぞ。人間への復讐をやめる気はないか?」
 征市は真っ直ぐな瞳に願いを込めて聞いた。永遠は馬鹿にしたように鼻で笑ってそれに答える。
「そんなくだらない事を言うためにここに来たの?ボクがそんな戯言を受け入れるわけがないよ!」
 永遠が何もない空間に右手を伸ばす。すると、その空間に穴が開き、黒いデッキケースが現れた。彼女はそれを手につかみ、中のカードをばらまく。ばらまかれたカードの内、五枚は彼女の野望と同じように黒い色のシールドへと変化し、五枚は手元に飛んでいった。残る三十枚のカードは彼女が右手で取りやすい位置に浮いている。
「人間に明日はない!幸せな未来は全部ぶち壊してあげるよ!」
「お前なんかに壊されてたまるか!幸せな未来は、必ず守ってみせる!」
 征市は指先でマッチをこする。その炎が一瞬だけ大きくなり、炎が瞬時に赤い革のデッキケースへと変化した。
それを見て、永遠が舌打ちをする。
「それは、総一郎が姉さんにプレゼントしたデッキ……。どこまでボクを馬鹿にするんだ!」
「うるせぇよ。黙って見てな!」
 四十枚のカードの内、五枚は征市の闘志と同じような赤い色のシールドに変化して主の前に立つ。次の五枚は征市が相手を撃ち抜くための武器として主の手元に飛ぶ。残った三十枚はいつ出番が来ても戦えるように彼の右手で取れる位置に浮いていた。
「《ボルシャック・大和・ドラゴン》で攻撃!」
 《フェアリー・ライフ》と《コッコ・ルピア》からつなげる事で、4ターン目に《ボルシャック・大和・ドラゴン》が場に飛び出す。炎と共に《ボルシャック・大和・ドラゴン》は永遠のシールドへ突撃し、抜いた刀で無防備なシールド二枚を切り裂いた。
「先制攻撃だぜ」
「早ければいいってもんじゃないよ。それ!」
 破られたシールドの一枚が黒く光る。そして、そこから黒い手が飛び出し、《コッコ・ルピア》を握り潰した。小さな絶叫と共に、オレンジ色に似た色の羽が舞う。
「シールド・トリガーか」
「そう。《デーモン・ハンド》さ。厄介な鳥は早い内に消しとかないと。あと、厄介なドラゴンもね」
 《ボルシャック・大和・ドラゴン》に目を付けた永遠は、一枚の黒いカードを場に投げる。黒い光と共にそれは黒い羽を持つ神《龍神ヘヴィ》へと変化した。鳥のような口から騒音とも奇声とも呼べるような声が発せられる。
「《ヘヴィ》、自爆だ!《ボルシャック・大和・ドラゴン》を巻き込め!」
 《ヘヴィ》は奇声をあげながら体中に黒い炎を纏う。そして、《ボルシャック・大和・ドラゴン》に向かって突進していった。《ボルシャック・大和・ドラゴン》はそれを両腕で受け止める。すると、受け止めた両腕が黒い炎に包まれた。
「《ボルシャック・大和・ドラゴン》!」
「逃げようとしても無駄さ!死んじゃえ!」
 《ヘヴィ》と《ボルシャック・大和・ドラゴン》の体が黒い炎に焼きつくされ、そこには二枚のカードだけが残った。すぐにそのカードも墓地に向かって飛んでいく。
「これで征市君の切り札、破壊完了。さらに《ヘヴィ》の効果で一枚引くよ」
「除去とドローを同時にこなすとはなかなかやるじゃねぇか。だけど、俺の切り札が《ボルシャック・大和・ドラゴン》だけだと思うなよ!」
 征市は一気に六枚のマナをタップする。そして、手札から引き抜いたカードに六つのマナを全て注ぎ込んで場に投げた。
「《ボルシャック・NEX》召喚!」
 炎を纏って場に現れたのは、征市のデッキに入っている二体目のボルシャック、《ボルシャック・NEX》だ。《ボルシャック・NEX》が手を開くと、そこから緑色の翼を持つファイアー・バードが飛び去った。《ルピア・ラピア》だ。
「ドラゴンのコストを下げるカードは一枚だけじゃない。《ルピア・ラピア》もその一枚だ。さらにこいつは破壊されたらマナのドラゴンを手札に回収する力を持っている!」
「これまた厄介だね。ま、何を出しても同じさ。ボクの切り札でみんな地獄に送ってあげるよ!」
「切り札、か……。だったら、その切り札を倒して俺が勝つ。俺のデッキにはじいちゃんからもらった最高の切り札が入っている!」
 征市は永遠の切り札を見た事がない。だが、それが真実と祖父を倒した切り札だと言う事は想像できる。恐怖と緊張を心の奥底にしまいながら、征市は宣言した。
「総一郎が君にあげた切り札なんか大した事ないよ!それで勝てると思っているんだったら、くだらない希望を打ち砕いて現実を見せてやる!」
 永遠はギラギラした目で征市を睨むと、山札からカードを引いた。

「《ギリメギス》!《エンペラー・マルコ》を攻撃だ!」
「ブロックだ、《マリブ・ダンサー》!」
 陸のクリーチャーが放った一撃を幻のブロッカーが受け止めた。それを見て、陸はターンを終了する。
 陸のバトルゾーンには、パワー9000を誇る《甲魔戦攻ギリメギス》と《凶刻の刃狼ガル・ヴォルフ》が一体ずつ。そして、《タイム・トリッパー》がいる。シールドは残り三枚だ。
 幻のクリーチャーは、《エンペラー・マルコ》を中心とした小型水クリーチャーのデッキだった。《アクア・エボリューター》や《クラゲン》などの進化を助けるクリーチャーと、《コスモ・ポリタン》《マリブ・ダンサー》などの小型ブロッカーが並んでいる。切り札と言えるほどの力を持っているのは《エンペラー・マルコ》だけだ。強力な効果を持つクリーチャーだが、幻が切り札と呼ぶには弱いスペックのクリーチャーだった。
「《マリブ・ダンサー》がブロックした時の効果で一枚ドロー。そして、ターンの最初のドロー。こっちのシールドは残り一枚か。でも、これだけで充分さ」
 そう言った幻は、手札の中から一枚のカードを引き抜くと右手でそれを弄ぶ。そのカードから目が離せない陸を焦らし、挑発しているようにも見えた。
「このカードが気になるかい?気にならないなんて事はないはずだ。焦らなくてもいい。ちゃんと見せてあげるよ」
 幻は自分のマナゾーンのカードを全てタップする。そして、そこから出た青いマナを手に持っていた一枚のカードに全て注ぎ込んだ。
「これを見る時は、君が死ぬ時だけどね!」
 マナを吸収して青く輝いたそのカードは《エンペラー・マルコ》に刺さる。《エンペラー・マルコ》の巨体が青い光に包まれていった。
「進化クリーチャー!?それがお前の切り札か!」
「残念。読みが外れたね。究極進化クリーチャーさ」
 青い光の中から黒い手が飛び出し、陸の《ギリメギス》を握り潰す。陸がそれに気付いた時には《ギリメギス》の肉体は消え去り、そこにはカードしか残っていなかった。
「《デーモン・ハンド》!?幻のデッキには水のカードしか入っていなかったはずだ!」
「そう。僕のデッキには水のカードしか入っていない。だから、僕は君のカードを使った。見てご覧!これが僕の切り札の姿だ!」
 青い光が消え、そのシルエットが見えてくる。タコのような足、ヒトデのような手、そして表面を海の生き物で覆ったような人型の上半身を持つ、海の神のようなクリーチャー。それが幻の切り札《神羅カリビアン・ムーン》だ。
「僕の切り札《神羅カリビアン・ムーン》は場に出た時、攻撃する時、場を離れる時に相手の墓地にある呪文を使える。使った呪文は、僕の墓地じゃなく君の山札に戻るから安心していいよ。さて、残る《デーモン・ハンド》は一枚だったね」
 幻は舌を出して唇を舐める。そして陸のシールドとクリーチャーを交互に眺めていた。そして、最後に苛立った陸の顔を見て静かに笑う。
「決めたよ、総攻撃だ!《カリビアン・ムーン》でシールドを攻撃!陸の墓地にある《デーモン・ハンド》で《ガル・ヴォルフ》を破壊だ!」
 《カリビアン・ムーン》のヒトデのような手が空中で印を切る。すると何もない空間に黒い穴が開き、そこから黒い手が現れ《ガル・ヴォルフ》を握り潰していった。
「これで陸の切り札の進化元になるデーモン・コマンドは全て消した!このターンでシールドも消してやるよ!」
 《カリビアン・ムーン》のタコのような足が鋭く伸び、陸のシールド二枚を突き刺した。貫かれたシールドはひび割れて崩れ落ちていった。
「残り一枚も頂く。そして、とどめだよ!」
「そうはいかない!」
 陸は自分の頭上を指した。幻と彼が操るクリーチャーがそれを見る。すると、空から金色の光が降り注いだ。幻は慌てて顔を覆う。
「まぶしいっ!一体、この光は何だ!」
「シールド・トリガー、《スーパー・スパーク》さ」
 陸が言うように、その金色の光は《スーパー・スパーク》によって発せられるものだった。その光を浴びた幻のクリーチャーが次々と倒れていく。それを見た幻は舌打ちをして、陸を睨みつけた。
「何故だ!何故、そのカードを君が持っている!」
「菜央ちゃんからお守りとして借りたのさ。これはきっと彼女からのメッセージだ。僕達トライアンフはお前達魔道書同盟を許さない。今、この場にいない菜央ちゃんも一真さんも一緒に戦っている。全員でお前達に勝つんだって、ね」
「戯言を!」
「戯言かどうか、これで判らせてやるよ。《ギリメギス》を召喚!そして、《タイム・トリッパー》にこれを使う!」
 巨大なキャタピラを持つデーモン・コマンド《ギリメギス》を召喚した陸は一枚のカードを空中に投げつける。それは緑色の魔方陣になった。その魔方陣に《ギリメギス》と《タイム・トリッパー》が飛びこむ。
「仕上げはこいつだ。行くよ!」
 陸はマナゾーンから一枚の黒いカードを取ると魔方陣に投げつけた。すると、魔方陣の色が黒く変わり、中から巨大な人型の上半身が飛び出してくる。
「《母なる紋章》を使った。幻、祈れよ。悪魔の神様にね……!」
 陸が悪魔の神と呼ぶ白い人型のクリーチャーはあぐらをかいた状態で魔方陣から出て来た。長く伸びた口と大きな耳を持つその悪魔の背中からは一対の翼ともう一つの上半身が生えている。二つの上半身が翼を広げた時、灰色の羽根がその場を舞った。
「《悪魔神バロム・エンペラー》か……!?」
 幻の顔が恐怖で歪む。過去の経験から、それが陸の切り札だと判るからだ。
「ちゃんと祈ったか、幻?祈っても祈るだけ無駄だけどね!」
 灰色の羽根に触れた幻のクリーチャーの肉体が灰となって崩れていく。強いクリーチャーも弱いクリーチャーも関係ない。全てのクリーチャーに等しく死が降り注いだ。
「全滅か!?だが、それでも、これで終わりじゃない!《カリビアン・ムーン》の効果で《スーパー・スパーク》を使う!これで《バロム・エンペラー》をタップだ!」
 崩れ落ちていく《カリビアン・ムーン》の巨体から一筋の光が降り注ぐ。それを浴びた《バロム・エンペラー》は顔を伏せ、眠ったような状態になった。
 それを見た幻は声を上げて笑った。
「やった!やったよ!危なかったけれど、首の皮一枚でつながった!勝つのはやっぱり僕なんだ!《コスモ・ポリタン》を二体召喚!さらに一体を進化させる!」
 召喚された《コスモ・ポリタン》の一体に青いカードが刺さる。それによって《コスモ・ポリタン》は頭部に巻貝のようなものをかぶり、下半身を波で覆った女王のようなクリーチャーに変化した。
「進化クリーチャー《マーシャル・クイーン》。これが僕の奥の手だ!効果でシールドと手札を入れ替える!これで防御は完璧だ!喰らえ!」
 幻が叫ぶのと同時に《マーシャル・クイーン》の足元の波から巻貝が飛び出し、陸の最後のシールドに突き刺さる。崩れていく最後のシールドはシールド・トリガーではなかった。
「陸!君の負けさ!シールドにはシールド・トリガー!さらにブロッカー!この二重の防御がある限り、僕は君に負ける事はない!」
「うっさい人だな、あんたは」
 勝利を確信して吠える幻とは対照的に、陸は非常に冷静だ。覚めた声で幻に語りかけたが、その目は笑っている。目だけではない。口元も端を釣り上げて不敵に笑っていた。
「恐怖でおかしくなったかい?」
「怯えているのはあんたじゃないのか?そんな貧弱な防御、ぶっ壊してやるよ!」
 そう言った陸は、自分のマナゾーンのカードを六枚タップして一枚のカードを場に投げる。闇のマナを吸収したそのカードは二本の剣を持ったデーモン・コマンドとなって場に出た。そのクリーチャーは燃え盛る剣の一本を幻のシールドに投げつける。
「まずは、こいつ。《冥府の覇者ガジラビュート》さ。これでシールド・トリガーを破壊する!」
 陸が言うように《冥府の覇者ガジラビュート》が投げつけた剣は、幻のブロッカー《コスモ・ポリタン》の横を通り抜けてシールドに突き刺さった。シールドはひび割れるのと同時に黒い灰になって崩れ落ちていった。
「ぼ、僕のシールドが……!」
「これが《ガジラビュート》の能力。場に出た瞬間に相手のシールドを一枚、墓地に送る事が出来る。その能力で破壊されたシールドはシールド・トリガーは使えない。これで二重の防御の一つをぶち壊した。次はもう一つ!」
 陸がマナゾーンのカード、三枚をタップして一枚のカードにマナを注ぎ込む。そして、それを空中に投げた。空中でそのカードは魔方陣となり、陸のマナに合った黒いカード一枚と《バロム・エンペラー》、《ガジラビュート》がそこに飛び込んだ。黒い光と共にそれら全ての力が融合する。
「もう判ったかな?《母なる聖域》を使ってマナから進化クリーチャーを出すんだ。僕の切り札が何か、よく判ってるよね?」
 幻は空中の魔方陣を見たまま何も言わない。眼前に迫る避けられない恐怖に、何も言う事ができない。
「行くよ!僕の切り札《悪魔神ドルバロム》!!」
 現れたのは、台座の上であぐらをかく白い体の悪魔神だった。登場と同時に陸と幻の周囲を真っ黒な闇で覆った《悪魔神ドルバロム》は周囲に黒い羽根をまき散らす。その羽根に触れた幻のクリーチャーは、《バロム・エンペラー》の羽根に触れた者と同じように黒い灰になって消えてしまった。
「ま、まだだ……!僕には充分な数のマナがある!それを使えばニンジャ・ストライクで――」
「《ドルバロム》は自分に刃向かう者を決して許さない。クリーチャーだけじゃなく、マナも滅ぼす」
 幻が自分のマナゾーンに手を伸ばした時、彼の指が触れる前に全てのカードが黒い灰となって消えていく。クリーチャー、シールド、マナ。反撃の手段を全て失った幻に勝つ術は残されていなかった。
「い、嫌だ……!僕は消えたくない!嫌だ、嫌だーっ!」
「往生際が悪いんだよ!言ったよね?あの世で神様に懺悔しな、って。《ドルバロム》でとどめだ!」
 《ドルバロム》が腕を伸ばす。すると、手の先から黒い光線が出て来て、それが幻の胴体を貫いた。光線に貫かれた場所から、彼の体が黒い灰になって崩れていく。
「陸ーっ!このままで済むと思うなよ!僕は、僕が作ったプライズをこの世にいくつも残しているんだ!僕がいなくなっても、そのプライズは残る。永遠様が統治する世界でそのプライズが必ずお前を殺す!僕が消されても、僕の中にある復讐したいと願う気持ちは、人間を消し去りたいという気持ちは絶対に消えない!消えろ、消えろ、お前が消えろぉぉぉっ!!はははははっ!!」
 自分が消えていくという恐怖が受け入れられないのか、幻は髪の毛をかきむしり、目を見開いて狂ったように笑った。若い男性のような外見は、一瞬にして十歳以上老けたように見える。最期は陸を指して消えていった。
「やってみろよ。お前が残したプライズなんかには負けない。僕はトライアンフの中で強くなった。一人じゃなかったから、多くの力を借りる事ができたから強くなれたんだ」
 戦いを終えた陸は自分のデッキから一枚のカードを取り出す。それは菜央から借りた《スーパー・スパーク》だった。
「そうさ。力を借りる事ができたから……」

「すごいブロッカーの数だ……」
 湊は、全のシールドの前に並ぶブロッカーの数に驚いていた。シールドは二枚しか残っていないが《デ・バウラ伯》が二体、《ロードリエス》が一体、《スペース・クロウラー》が一体、《ストーム・クロウラー》が一体いる。
 湊の場には、《青銅の鎧》が二体、《アクア・サーファー》が一体、《ドルゲーザ》が一体、そして、《大神秘アスラ》が一体いる。シールドは残り四枚だ。まだまだ余裕がある。
「手札は充分!これから攻撃に転じてやるわいっ!」
 全は歯をむき出しにして豪快に笑う。それを見ながら湊はマナゾーンにある七枚のカードをタップした。
「残念だけど、そうはいかない。僕の切り札で攻撃を貫き通す!《母なる紋章》!」
 湊が投げたカードが緑色の光を発して《アスラ》に刺さる。それが発した緑色の光は《アスラ》を包み、その巨体をさらに巨大な体へと変貌させていった。
「な、何が起こるというのだぁっ!?」
 緑色の光に包まれた巨体は雲に乗って浮かび上がった。光が消えた時、雲の上に乗っていたのは四つの腕を持つ風神のような姿のジャイアント、究極進化クリーチャー《神羅トルネード・ムーン》だった。
「《トルネード・ムーン》でシールドを攻撃!」
 間髪入れずに湊は《トルネード・ムーン》に命令を告げる。湊の声を聞き、《トルネード・ムーン》は巨大な腕を突き出す。その目標は全を守る二枚のシールドだ。
「させるかぁっ!《スペース・クロウラー》でブロックだ!」
 《スペース・クロウラー》は全身を使ってその拳を受け止める。しかし、拳圧によって《スペース・クロウラー》の背後にあった二枚のシールドに拳の後が打ち込まれ、そこからひび割れていった。
「《トルネード・ムーン》が場にいる間、僕のジャイアントはブロックされた時に相手のシールドを二枚ブレイクできる!ブロックは無駄だ!」
「ちっ!舐めた真似をするガキがぁっ!だが、これでどうだ!」
 ブレイクされたシールドの一枚が緑色に光る。そして、天に向かってツタが伸びていく。目にも留まらぬスピードで伸びていったツタは《トルネード・ムーン》の体を拘束し、縛り上げていく。
「シールド・トリガー《ナチュラル・トラップ》よぉ!さすがの《トルネード・ムーン》様もこいつにはかなうまい!」
 全の言う通りだった。《トルネード・ムーン》は除去に耐性がある訳ではない。その巨体はあっという間に三枚のカードに変えられてしまい、マナゾーンに飛ばされた。
「さらに、こいつだぁぁっ!シールド・トリガー《スーパー・スパーク》!!」
 金色の光が全てを包み込む。その光を受けて、湊のバトルゾーンにあった大量のクリーチャーは倒れていった。
「シールド・トリガー二枚で逆転だ。さて、こっちの攻撃の時間だぜ、ボウヤぁぁっ!!」
 そう言った全は手札から引き抜いた三枚のカードを突き出した。
「こいつらで決めてやる!まずは《母なる紋章》!光のクリーチャー《デ・バウラ》をマナに送って《ロードリエス》を《エルフェウス》に進化っ!!」
 倒したはずの《エルフェウス》が再び場に現れる。今の湊のクリーチャーのパワーでは、勝つ事ができない。
「《エルフェウス》で終わりだとは思ってないだろうなぁ?本当の切り札を見せて殺してやるよぉぉっ!!《母なる聖域》で《デ・バウラ》をマナに送り、《エルフェウス》を究極進化!!」
 マナゾーンから飛んできた一枚のカードが突き刺さり、《エルフェウス》の肉体が金色の光に包まれる。その肉体が巨大かつ強靭に生まれ変わっていく。その姿は、金色の神の像に似ている。身の丈よりも巨大な二本の杖を持ち、その杖の先からは魔力が雷となってほとばしる。顔は年を取った男性のようだった。ただ老いただけの男の顔ではない。熟練の魔法使いの顔だ。
「これが!これがぁぁ!俺様の切り札《神羅サンダー・ムーン》よぉっ!!魔力よ、弾けろっ!目の前にいるクソガキを滅ぼせぇぇっ!!」
 《神羅サンダー・ムーン》が杖の先を重ねる。すると、杖の先に赤い火の玉が現れ、そこからいくつもの炎の槍が飛び出した。
「《サンダー・ムーン》は場に出た時、マナゾーンの呪文をノーコストで使う事ができる究極進化クリーチャーだ。この効果で《超銀河弾 HELL(ギャラクシーショット ヘル)》を使ったっ!」
 炎の槍の雨は湊のバトルゾーンに降り注ぎ、《青銅の鎧》と《アクア・サーファー》を焼きつくしていった。
「僕のクリーチャーが!」
「次はシールドだ!地獄の業火で焼き尽くしてやるぜぇっ!!」
 続いて、炎の槍の雨は湊のシールドにも降り注ぐ。破壊されたクリーチャーと同じ三枚のシールドが燃えていった。その炎は、カードを残す事無く燃やしつくした。
「シールド・トリガーがでないだけじゃなくて、シールドが直接墓地に置かれた……?なんて恐ろしい……」
「《超銀河弾HELL》はパワー9000以下になるように自由に相手クリーチャーを焼き尽くし、破壊したクリーチャーと同じ数だけ相手のシールドを破壊する!念の《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》も真っ青の呪文よぉっ!」
 呪文を撃ち終えた《サンダー・ムーン》は杖を《ドルゲーザ》に振り下ろす。《ドルゲーザ》はそれを両手で受け止めるが、杖から流れた電撃に耐えられず倒れた。
「クリーチャーも全滅。勝負あったな、ガキぃっ!!」
「まだだ。まだ僕の戦いは終わらない!《西南の超人》を召喚してこれを《大神秘アスラ》に進化!」
 《大神秘アスラ》はジャイアントの進化クリーチャーだ。三つの顔を持つ緑色の仏像のような姿をしている。《アスラ》が場に出た時、湊の山札の上のカード三枚が宙に浮いた。三つの顔が光り、それらのカードはそれぞれ、シールド、マナ、手札に移動する。
「《アスラ》が場に出た時、山札の上のカード三枚を見て、シールド、マナ、手札に追加できる。これでとどめだ!」
「おおっと!《デ・バウラ》でブロック。攻撃が通ると思ったかぁっ!これからも攻撃は通さん!」
 進化したクリーチャーで攻撃したが、《デ・バウラ》に阻まれて失敗する。さらに、全は《ロードリエス》と《白騎士の精霊レオニダス》を召喚して防御を固めた。
「《サンダー・ムーン》で《アスラ》を攻撃ぃ!何を出してもこのパワーにはかなうまい!!ぐわっはっはっは!」
「本当に、そう思う?」
 口を大きく開けて豪快に笑う全を見て、湊が静かに呟いた。笑いが止まる。
「小僧、どういう意味だぁ!?」
「そのままの意味さ。僕が一真さんに借りた切り札を使えば、《サンダー・ムーン》のパワーを上回る!このターンでそれを出す!」
「な……何を言ってやがる!《トルネード・ムーン》のような究極進化を出すつもりか!?」
「いや、究極進化じゃない。ただの進化クリーチャーさ。まず、奇兵の超人(タカスギ・ジャイアント)を召喚!」
 下準備として湊は馬に乗ったジャイアント《奇兵の超人》を召喚する。すると、山札から二枚のカードが飛び出してくる。
「《奇兵の超人》を場に出した時、効果で山札から進化クリーチャーを二枚まで入手できるんだ」
 湊は、手にした進化クリーチャー二枚を見せる。湊が言った切り札の存在に怯えていた全だが、それを見て笑いだす。
「傑作だ!二枚とも《アスラ》かよっ!そんなパワーで《サンダー・ムーン》に――」
「《奇兵の超人》に《母なる聖域》を使う」
 淡々とした口調で湊はマナのカードをタップする。場に金色の魔方陣が現れ、《奇兵の超人》はそれに飛びこんでいった。
「馬鹿な!場に進化元のクリーチャーはいないんだぞ!何を……!」
「マナ進化だ!」
 マナから二枚のカードが飛び出し、重なった状態で金色の魔方陣をくぐる。すると、そこから白く長い体の龍が飛び出した。
「な、なんだ。このクリーチャーは!?」
「《超神龍バリアント・バデス》。一真さんが僕に貸してくれた切り札だ。マナ進化だから、進化元にはマナゾーンのクリーチャーを使える。《バリアント・バデス》は三枚まで進化元のクリーチャーを選ぶ。その合計のパワーが《バリアント・バデス》のパワーになる!」
「合計のパワーだと!?だが、お前が選んだ進化元は一枚だっ!ケチったな、馬鹿がぁっ!!」
 《バリアント・バデス》は《サンダー・ムーン》に狙いを定めて動く。その勢いを見て全の顔から表情が消える。
「待て……。このパワーは何だぁっ!くそっ!《レオニダス》でブロック!」
 《バリアント・バデス》の前に《レオニダス》が立ちふさがる。しかし、《バリアント・バデス》はは小さな虫でも踏み潰すように難なくそのブロッカーを砕いていった。
「何故だぁっ!!何故、そんなパワーが……!まさか!」
「そうさ。僕は《ナチュラル・トラップ》でマナに送られた《トルネード・ムーン》を進化元にした。今の《バリアント・バデス》のパワーは22000!《サンダー・ムーン》を大きく上回る!」
 今の全のクリーチャーでは倒せないパワーだった。除去のための 《ナチュラル・トラップ》はもうない。バトルゾーンから《バリアント・バデス》を移動させる方法はないのだ。
「だったら、耐え切るだけよぉっ!《レオニダス》二体を召喚っ!《サンダー・ムーン》でシールドをブレイク!」
 《サンダー・ムーン》の杖から雷が撃たれる。雷に貫かれた湊の二枚のシールドが割られていった。それを見て、湊は微笑む。
「僕は既にシールドに罠を仕掛けた。《アスラ》の効果でシールド・トリガーを仕込んでおいたんだ!」
 青い光と共にシールドが変化していく。波が現れ、全の《ロードリエス》を飲みこんでいった。
「ブロッカーをどかすカードだと!?《アクア・サーファー》かぁっ!」
 《バリアント・バデス》の隣に《アクア・サーファー》が立っていた。これで攻撃できる湊のクリーチャーは全のブロッカーの数と同じになった。
 それを見て深呼吸した湊は全を見た。今まで彼らの犠牲になった人々の怒りや悲しみを視線に込めて全を貫く。
「《西南の超人》を召喚」
「おい、やめろ……」
「《西南の超人》を《大神秘アスラ》に進化」
「やめろよ……」
「《アクア・サーファー》で攻撃!」
「うわあぁぁーっ!やめろぉっ!俺に触れるんじゃねぇぇっ!!」
 《アクア・サーファー》の行く手を《レオニダス》が阻む。その横を《バリアント・バデス》が通り過ぎ、体当たりで《ロードリエス》の体を粉々に砕いていった。
 もう全を守るシールドもブロッカーも存在しない。決着がついた。
「哀しい器よ、眠りなさい。《大神秘アスラ》でとどめだ!」
 全が叫ぶ間もなく、《アスラ》が巨大な拳で彼を殴る。吹っ飛ばされた彼はその場を転がり、結界に当たって止まった。倒れたままの姿で手を伸ばし、何もないところをつかもうとする。
「しょ、小生は……小生はっ……!全能なのよっ……。神に等しい……小生に、何て、ひど……い……」
「あなたが神に等しい存在だったとしても、あなたのような神はいらない。ひどいのはあなた達だ」
 呟く湊の前で全の肉体が黒い灰に変わっていく。その場には、一冊の魔道書だけが残った。湊は近づいてその魔道書を拾う。
「湊君!」
 顔を上げると陸がやって来た。彼も手に魔道書を持っていた。それを見て湊は陸が勝った事を知り、顔をほころばせる。
「陸さんも勝ったんですね!」
「当たり前だよ。僕を誰だと思ってんのさ。トライアンフのエース、遠山陸だよ!さてと……後は、セーイチさんだね」
 二人は征市と永遠の戦いを見た。
「《ボルシャック・NEX》でシールドをW・ブレイク!」
 征市が命令したのを聞き、《ボルシャック・NEX》の爪が炎に包まれる。翼を広げて飛び立った《ボルシャック・NEX》は右手で一枚のシールドを貫き、左手でもう一枚を貫いた。その中にシールド・トリガーがないのを見た征市は静かに息を吐く。
「すごいじゃん、セーイチさん!これで永遠のシールドは全滅だよ!《ボルシャック・NEX》の隣には《インフィニティ・ドラゴン》がいるからドラゴンが死にづらくなってるし、シールドも五枚ある!勝てるよ、セーイチさん!」
「ええ、きっと、これなら……!」
「あはは。おかしいね。勝てるだって!?」
 永遠は抑揚のない口調で言うと陸と湊の二人を見た。凍りつくような視線に射抜かれた二人は何も言えなくなり、息を飲む。まるで蛇に睨まれた蛙のようだった。
「永遠、お前の負けだ。いくらお前でもこれだけ差をつけられたら勝てないだろ」
「征市君はこれで勝ったと思っているの!?笑わせてくれるね。このボクの、魔道書同盟の長の切り札を見せてあげるよ!」
 永遠が頭上を指すと、そこに黒い魔方陣が浮かんでいた。そこから、自爆したはずの《龍神ヘヴィ》が姿を現す。
「シールド・トリガー《インフェルノ・サイン》だよ。効果で《ヘヴィ》を出して場の《メタル》とリンク!これで、《ヘヴィ・メタル》の誕生だ!」
 《ヘヴィ》と《メタル》の背中が融合し、そこに巨大な目が現れる。その目に睨まれた征市は恐怖を感じ、後ろに一歩引いた。
「まだだよ!これで終わりだ。《破壊神デス》召喚!!」
 リンクした《ヘヴィ・メタル》の頭上から第三の神が現れる。《破壊神デス》が巨大な翼を広げると《ヘヴィ》と《メタル》に分かれた二体のゴッドが吸い寄せられるように飛んでいった。三体がぶつかり合う時、黒い光がその場を包む。
「さあ、祝えよ。地獄の業火で、絶望の歌で、君達の命乞いでこの子の誕生を祝え!ボクの切り札《ヘヴィ・デス・メタル》!!」
 《デス》を中心に翼に《ヘヴィ》と《メタル》が融合している。その巨大なクリーチャー《ヘヴィ・デス・メタル》が吠えると、融合した部分にある巨大な目から黒い光線が何発も発射される。それは、征市の場にある二体のドラゴンを貫き、さらに征市のシールドを貫いた。
「陸!湊!伏せろ!」
 征市がそう言うのと同時に、数発の光線が結界を突き破った。結界を破っても勢いを失う事がないその光線は、外にいた陸と湊を狙って飛んでいった。幻と全との戦いから魔力がほとんど残っていない二人は伏せてその攻撃をやり過ごした。
 しばらくして《ヘヴィ・デス・メタル》の攻撃が終わる。圧倒的優位に立っていた征市の場に残っていたのは《インフィニティ・ドラゴン》一体だけだった。
「そんな……。あんなにシールドがあったのに!」
 湊が驚いて声を上げる。陸も残念そうに頭を振った。
「あれ?《ボルシャック・NEX》は死んじゃったんだ?まあ、仕方ないよね。ボクの切り札に狙われたんだからね!」
 永遠の三体の切り札が融合して《ヘヴィ・デス・メタル》となった時、相手のゴッド以外のクリーチャーを全て破壊する能力を持つ。そして、攻撃すれば相手のシールドを全てブレイクするワールド・ブレイカーとなる。さらに呪文やクリーチャーの能力で選んで倒す事ができなくなる。
「生き残っても終わりだよ。《ヘヴィ》がリンクしているから、征市君のクリーチャーは必ずボクの《ヘヴィ・デス・メタル》に攻撃しなくちゃいけない。攻防主体。究極で最強の切り札さ!」
「それが最強かよ」
 いい気分になっていた永遠は、征市の声を聞いて口元を歪めた。自分が馬鹿にしていた者に馬鹿にされた不快さが彼女の心の中に広がっていく。
 それを見た征市は何も言わず、涼しい顔でカードを引いた。その後、指の先で前髪をはらう。
「負け惜しみ?」
「いいや、違う。俺の手札には既にじいちゃんからもらった最強の切り札がある。これがあれば《ヘヴィ・デス・メタル》を倒してとどめを刺せる!」
「いいね。……やってみろよ、相羽征市!!」
「言われるまでもねぇ!」
 永遠の咆哮を受けて、征市はマナゾーンのカード七枚をタップする。そこから出た赤いマナが征市の手札にある一枚のカードに吸い込まれていく。
「行くぜ。進化しろ《インフィニティ・ドラゴン》!!」
 マナを吸ったカードを征市が投げつける。《インフィニティ・ドラゴン》にそれが突き刺さり、その龍の姿を変えていく。
 赤い体に巨大な翼。四本の腕に、それぞれ金色の剣を持つ進化ドラゴン《超竜サンバースト・NEX》が誕生した。
「陸さん!見て下さい。あのドラゴンなら……!」
「いや、駄目だ」
 湊は征市の切り札を見て、歓声をあげるが、陸は首を横に振る。
「それでボクの《ヘヴィ・デス・メタル》に勝つつもりなの?確かに《サンバースト・NEX》は高いパワーのクリーチャーと戦う時にパワーアップする。でも、それでもパワーの合計は22000!ボクの《ヘヴィ・デス・メタル》には1000足りない!」
「そんな事は百も承知だ。見せてやるぜ、『ウソのようなホントウ』って奴を!!」
 征市が右手の指を鳴らす。それと同時に《サンバースト・NEX》は《ヘヴィ・デス・メタル》に突っ込んでいった。《ヘヴィ・デス・メタル》の目の前まで来た《サンバースト・NEX》は右の二本の腕を振り上げる。
「セーイチさん、やけになっちゃダメだ!」
「ほら、征市君?仲間の言う事は聞かなくちゃダメだよ?聞いたところで無駄だけどね!」
「俺はやけになってなんかいない。それに無駄だとは思っていない」
 陸と永遠の言葉を聞きながら、征市は笑っている。それを見た永遠は奥歯を噛みしめて征市を睨む。
「物分かりの悪い馬鹿だな!無駄!無駄なんだよ!死んじゃえ!」
 永遠が叫ぶのと同時に《サンバースト・NEX》の腕が振り下ろされた。すると、《デス》と《メタル》の接合部が《サンバースト・NEX》の剣によって豆腐でも切るようにスムーズに切断されていった。
「……えっ?」
 そこにいる者達は、あまりの出来事に一瞬、遅れて驚く。切断され、分離した《メタル》は赤い炎に包まれて爆発する。次に《サンバースト・NEX》は左の二本の腕を伸ばし、剣の先で《ヘヴィ》を貫く。黒い炎に包まれて《ヘヴィ》が爆発し、《デス》が吹き飛んだ。
「な、何故だ!ボクの《ヘヴィ・デス・メタル》は間違いなく《サンバースト・NEX》のパワーを超えていたはずだ!」
「ああ、超えていたぜ。だから、俺は《サンバースト・NEX》のパワーをさらに増やした。このカードを使ってな」
 そう言うと、征市は一枚のカードを永遠に見せる。それを見た永遠は静かに声を上げた。
「それは、《鼓動する石板》……!」
 《鼓動する石板》はマナを山札の上のカードを一枚マナにする呪文だ。置かれたカードがクリーチャーならば、自分のクリーチャーのパワーが2000増える。
「俺の《サンバースト・NEX》が《ヘヴィ・デス・メタル》に並ぶには1000足りない。そして、一方的に殴り倒すには2000足りない。だから、手札にあったこいつを使ったんだ」
「最後の最後でそんな賭けみたいなカードを……!」
「賭けなんかじゃないぜ。お前、さっき《ヘヴィ・デス・メタル》の効果で俺のクリーチャーを全て破壊しようとしただろ?あの時、俺は《インフィニティ・ドラゴン》の効果で山札をめくった。あの時、山札の中の呪文が全て消えたのを確認した。シールドも全てブレイクされて確認したから間違いない。今、俺の山札の中にはドラゴンとファイアー・バードしか入っていない」
「じゃ、賭けじゃなくて全部計算の上で……!?」
 永遠が驚きで目を見開く。征市は得意そうな顔で笑いながら言う。
「俺は手品師だぜ?客を驚かせるために計算しておくのは基本中の基本だ。そして、仕掛けがばれないように振舞い、最高潮に達する瞬間に客を魅了するのも仕事だ。さて、《ヘヴィ・デス・メタル》がいなくなった今、お前を守るものは何もない」
 征市の表情が真剣なものに変わる。彼は《サンバースト・NEX》とアイコンタクトをかわした。
「《サンバースト・NEX》でとどめだ!」
 《サンバースト・NEX》の背部にある巨大なブースターが火を噴いた。主の命令を受けた巨大なドラゴンは全速力で敵の懐に近づき、金色の剣をその腹に突き刺す。ワンテンポ遅れて永遠は剣が突き刺さった腹部を押さえた。
「そんな……。これで、ボクの負け……」
 《サンバースト・NEX》が剣を引き抜くと永遠はその場で崩れるようにして倒れた。征市達が勝利したのだ。
「やったー!やりましたよ、セーイチさん!」
「征市さん!やったんですよ!」
「ああ、何か実感がないけど、俺、勝ったんだな。じいちゃんと真実を手にかけたこいつに……」
 倒れた永遠をしばらく見ていた征市は自分のカードをデッキケースにしまうと振り返った。
 すると、征市の足元にあった魔方陣が黒く光り出した。同時に征市の体も黒く光る。
「セーイチさん!」
 陸が声をかけると黒い光はすぐに消えた。心配した二人が近づく。
「大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。何ともないよ」
 湊が心配した顔で征市を見つめる。征市は自分の体を見たが、異常は見当たらなかった。ダメージを受けた様子もない。
「そうだね。今は、何ともないかもね」
 少女の声を聞いて三人は凍りつく。
 征市の脳は、自分の体に振り向こうと命令を出すが体がそれを拒絶する。恐怖が行動を邪魔していた。自分の中に残っていた勇気を振り絞って振り返った時、そこには腹を押さえた永遠が立っていた。
「永遠……」
「怯えなくてもいいじゃない。デュエルはボクの負け。ボクは今すぐここで消えるんだから。でもね、ボクが負けてもボクは復讐を成し遂げられるんだよ」
 永遠が口元を歪めて笑う。
「おい!負けたのに復讐ができるってどういう事だよ!負けて頭がおかしくなったのか!?」
「陸、黙っていてくれ」
 征市が低い声で陸を注意する。陸はすぐに黙った。
「征市君は感覚で理解しているんじゃないかな?君の肉体には『永遠の牢獄』の術式が組み込まれている。今まで相羽の名を持つ奴に長い時間をかけて組みこんできたけれど、みんな術式が発する魔力に耐えられずに完成する前に死んじゃった」
「それが、相羽の一族が全員二十歳になる前に死んだ原因か」
「その通りだよ。でも、君は違う。相羽総一郎と変わらない強靭な肉体を持った君は『永遠の牢獄』の術式に耐える事ができた。長い時間をかけてつくられた『永遠の牢獄』の術式は君が暴走した時にほとんど完成していた」
 永遠は腹を押さえていた手を離す。そこから、黒い灰がこぼれ落ちていて、腹には穴が開いているのが見えた。
「あのまま暴走を続けていれば術式が完成して『永遠の牢獄』が発動していたのに。でも、そううまく行くとは思っていなかったよ、あの時はね。だから、もう少しだけ時間をかける事にした。そうすれば絶対に完成すると判っていたからね」
 永遠は手を広げるとその場で駒のように回り始めた。黒い灰をまき散らしながら踊る少女を、三人は黙って見ている。
「今回、もしボクが勝っていたら、この場で『永遠の牢獄』を発動させて全ての人間を閉じ込めるつもりだった。もし、ボクが負けたとしても、魔方陣に込めた力で最後の術式を書き込み、征市君の中で術が熟成されるのを待つ。勝っても負けても『永遠の牢獄』は発動するのさ」
「嘘言うなよ。お前がいないのに、『永遠の牢獄』が発動するはずがない」
 征市が乾いた声で聞く。彼も全力で永遠の言葉を否定できなかった。
「征市君、『永遠の牢獄』はね。ボクの手に余るほどの強力な魔法なんだ。ボクでさえ、一度発動したものはきちんと制御できない。不完全な『永遠の牢獄』でも、長い間ボク達を閉じ込める事くらい簡単にできるほど強力なんだ。本当の『永遠の牢獄』はね。意思を持って自分から産まれてくるんだよ。征市君が大人になるかならないかくらいの時間。三月の終わりが四月に始まりに変わるくらいの時間にね」
「三月の三十一日が四月の一日に変わる時間って事か」
「大正解」
 虚ろな目の永遠が征市を指して言う。彼女は笑いながら回り続けた。黒いスカートを花弁のように広げながら踊り続けた。
「残念だけど、ボクは人類が『永遠の牢獄』に飲みこまれるところを見る事ができない。でも、いいんだよ。『永遠の牢獄』が発動すれば、人間達に復讐できるのが判るんだから。これで全てが終わる。ボクの望んだ終末がやってくる……」
 全てが黒い灰となって永遠は消えた。そこには黒い表紙の魔道書だけが残った。征市は近づいてそれを拾い上げた。
「セーイチさん……」
 陸の声がして振り返る。陸と湊は沈んだ顔をして征市を見ていた。
 征市は無理に笑顔を作ると、二人に近づく。明るい声を出して彼はこう言った。
「何、浮かない顔してんだよ、二人とも。俺達は魔道書同盟に勝ったんだぞ?じいちゃん達だって封印しただけで勝った訳じゃないんだ。俺達はすごい事をしたんだ。世界を救ったんだぜ?だから、もっと胸を張れよ」
 征市は二人の頭を軽く叩くと扉に向かった。両手で扉をつかみ、開ける。そこからは、勝者を祝福するように外界の優しい光が降り注いだ。

 トライアンフと魔道書同盟との戦いから二ヶ月が経った。季節は冬から春に変わろうとしていた。
 今日もトライアンフはほとんどの人々に知られる事なくプライズや悪い魔法使いから人々を守るために戦っている。この二ヶ月で彼らが戦った相手の中には幻が残したプライズや、全が残した怪人を改修したものだった者もいた。しかし、その頻度も少なくなり、魔道書同盟がそこにいた痕跡もなくなりかけていた。
 三月三十一日が終わろうとしているその時、征市達トライアンフのメンバーと彩弓はトライアンフの事務所に集まっていた。
「送迎会ってムードじゃないよな」
 征市は明日、イギリスに旅立つ。祖父が用意してくれた道を進むために動き出すのだ。そのために、どうしてもやらなければならない事がある。
「大丈夫ですって!この戦いが終わったら、送迎会をしてあげますよ!」
「俺は明日の飛行機でイギリスに行くんだぞ!寝かせてくれよ!」
「徹夜すればいいじゃないですか」
「お前なぁ……」
 いつものようなやり取りをした後、征市はそこに集まった仲間を見る。陸とこんなやり取りができるのもこれが最後かもしれない。
「五冊の魔道書を解読した結果、発動した『永遠の牢獄』を止める方法はない事が判りました。しかし、術そのものを消す方法はあります」
 魔道書同盟のメンバーが魔道書になった後、菜央はそれら全てを調べて『永遠の牢獄』から逃れる方法を探した。その結果、彼女が見つけたのは術を消す方法だった。
 それは、『永遠の牢獄』が発動する直前に征市が夢の世界に飛び込み、精神世界で『永遠の牢獄』と対峙して倒すというものだ。征市の手は既にオルゴールのプライズを握っている。
「菜央、もし、今日が終わりそうになっても俺が帰ってこなかったら、下にある特訓施設ごと俺を消してくれ。そうすれば『永遠の牢獄』を止められるかもしれない」
「判りました。聞かなかった事にします。私が知っている相羽さんは、必ず勝って戻ってきますから」
 菜央は笑顔で征市の提案を否定した。
「征市さん、あの……!」
 湊が征市に近づく。征市はその頭を優しくなでた。湊は上目遣いで征市を見る。
「頑張って下さいね」
「判ってる。頑張るよ、俺は」
 最後に征市は彩弓と彩矢を見た。彩矢は笑顔を作って征市に言う。
「早く戻って来て姉さんを幸せにしてあげてね!征市さん!」
「おい、そりゃ、どういう――」
「征市君っ!」
 征市が聞く前に彩弓がそれを遮る。彼女は真剣な眼差しで征市を見ていた。
「何だよ?」
「あ、あのっ!誕生日プレゼントあるからね!今度のは、去年みたいに値札はついてないからねっ!楽しみにしててねっ!」
 彩弓の言葉を聞いた征市は微笑む。
「行ってらっしゃい!」
「行ってくるぜ!」
 そして、手を振って地下にある特訓施設に向かった。
 特訓施設は事務所から階段で降りる。四方を鉄の板で囲んだ無機質な部屋だ。ドアがある壁以外は全て同じで区別がつかない。征市はその場に寝そべってオルゴールのプライズを起動する。すぐに意識が遠のいて行くのが判った。
 気がついた時、特訓施設の中には自分以外に一人の人間がいた。いや、それは人間ではない。真っ青な肌をした無表情で中性的な顔立ち。右が白、左が黒という奇妙なマント。そこから伸びる手も青く、人間のもののようには見えなかった。
『人の子よ、抗うのか?』
 目の前にいる者は口を開けずに話した。言葉がそのまま脳に届いたのだ。男の声と女の声が同時に脳に届く。
「ああ、抵抗する。お前を倒さないと俺は明日に行けない。大人になれないからな」
『我が『永遠の牢獄』だと知って抵抗するのか?無意味だ。『永遠の牢獄』は魔道書同盟の全ての力を合わせた奥義。人の子では止められまい』
「やる前から決めるんじゃねぇ!デッキを出せ!」
 征市は左手でポケットチーフをつかむ。それを左手にかぶせ、右手の指を鳴らすと赤い光と共にポケットチーフが飛んでいく。征市の左手には金属性のデッキケースが乗っていた。それを見た『永遠の牢獄』は右手を伸ばす。すると、空中に黒い穴が開き、そこから黒いデッキケースが落ちてくる。
『ならば、我が力、その身を持って知るがいい』
 『永遠の牢獄』の前に五枚のシールドが並ぶ。それは赤、緑、金、青、黒の色に数秒ごとに変化していった。
 征市も同じように目の前にシールドを並べる。ドアに近い大きさのそれは征市の闘志と同じように赤い色をしていた。
「人間様を舐めるんじゃねぇ。生きるために徹底的に抗ってやる!見せてやるぜ!『ウソのようなホントウ』って奴を!」

 『File Final 終わる『ウソのようなホントウ』の物語』につづく
 
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